ところで、位置最適化処理の実行頻度は、処理負荷の面から言っても、また、位置最適化処理にある程度の絶対位置のサンプル数を要する点から言っても、GPS等の測位システムを利用して得られる絶対位置の取得頻度と較べて少ない。位置最適化処理の実行間隔が大きければ、処理負荷の面において有益である反面、その間に誤差が蓄積される関係上、車両位置の特定精度は低下する。
ここで、上記CACC等を含む、車両位置に関する情報を必要する各種走行支援制御において、車両位置に関する情報が必要とされる時期に規則性はなく、多くの場合、当該時期は不定期に且つ離散的に訪れる。各種走行支援制御を有益たらしめるためには、当該時期における車両位置の精度が重要となるが、従来、位置最適化処理の実行時期と、各種走行支援制御との間に有意な関係性は定義されていない。例えば、上記特許文献1に開示される装置においては、位置最適化処理に相当する処理が所定時間間隔で実行される。このため、例えば前回の位置最適化処理の実行時期から相応の時間が経過し、特定される車両位置に関し蓄積された誤差が相応に大きくなっている状況において、走行支援制御が正確な車両位置を要求することが十分に起こり得る。
この場合、誤差の大きさによっては、例えば、電波系捕捉手段により捕捉された先行車両が複数の周辺車両のうちいずれであるかを特定することが難しくなる。必然的に、先行車両の誤認識が生じる可能性が高くなる。このように、従来の技術には、位置最適化処理により得られる車両の高精度な位置が、走行支援制御に必ずしも有効に利用されないという技術的問題点がある。
本発明は、係る技術的問題点に鑑みてなされたものであり、先行車両の特定精度が高い車両特定装置を提供することを課題とする。
上述した課題を解決するため、本発明に係る車両特定装置は、情報源との通信を介して自車両の絶対位置に関連する情報を取得する取得手段と、周辺車両との間で絶対位置を含む車両情報を送受信する車両間通信手段と、先行車両を捕捉可能な捕捉手段とを備えた車両において前記捕捉された先行車両を特定する車両特定装置であって、前記取得された絶対位置に関連する情報から自車両の絶対位置を推定する絶対位置推定手段と、所定の実行時期に前記推定された絶対位置に対し誤差範囲を縮小するための位置最適化処理を実行する最適化手段と、前記受信した車両情報と前記推定された絶対位置とに基づいて前記捕捉された先行車両を特定する先行車両特定手段と、前記捕捉手段が新規に先行車両を捕捉した場合又は前記捕捉手段が新規に先行車両を捕捉すると予想される場合に前記位置最適化処理が実行されるように前記実行時期を決定する決定手段とを具備することを特徴とする(請求項1)。
取得手段は、情報源との通信を介して自車両の絶対位置(即ち、緯度及び経度又は緯度、経度及び高度により規定される位置)に関連する情報を取得する手段である。情報源とは、好適にはGPSを構築する複数のGPS衛星、VICS(Vehicle Information and Communication System:登録商標)やITS(Intelligent Transport Systems)等の各種インフラシステムに準拠した電波ビーコンや光ビーコン、或いはGPS衛星と同等の機能を有する地上設備としての擬似衛星等を指す。取得手段は、好適には、これら情報源の構成に適した受信設備と、受信信号から必要な情報を分離取得する信号処理系等から構成される。
例えば、取得手段は、GPS受信機及びGPS受信機が受信したGPS信号から各種情報を取り出す信号処理系を含んで構成され得る。この場合、絶対位置に関連する情報とは、複数のGPS衛星各々の位置に関する情報(例えば、衛星軌道情報)、当該各々と車両との距離に関する情報(例えば、擬似距離情報)、当該各々に対する車両の相対速度に関する情報(例えば、ドップラー周波数情報)等を含んでいてもよい。
車両間通信手段は、好適には、予め策定された通信規格及び運用規則に基づいて周辺車両との間で車両情報の相互通信を行う手段である。例えば、車両間通信手段は、予め与えられた周波数帯域及び通信プロトコルに準拠した形態で、車両情報として、例えば自車両に関する車両ID、絶対位置及び方位等の情報を、或いは更に速度及び加速度等の情報(これらは、絶対位置の時間推移等から推定されてもよい)を周辺車両に送信し、一方で周辺車両から周辺車両に関する当該車両情報を受信してもよい。尚、本発明において、「周辺車両」とは、自車両の周辺に位置する車両を意味し、「先行車両」とは、この周辺車両の一部であって、同一車線に限らず自車両よりも先行して走行する車両を意味する。周辺車両に係る「周辺」とは、明確な距離概念ではなく、また発明を定義する上で明確な距離概念である必要もない。
捕捉手段は、好適には車載型電波レーダ装置や自律型センサであり、車両前方に展開される捕捉可能範囲内の物体を捕捉可能に構成される。ここで、「捕捉」とは、単に存在の有無を検出するのみならず、検出した物体と自車両との距離及び相対速度を特定可能であることを意味する。尚、相対速度は、検出された距離を時間微分処理することによって得られてもよい。
本発明に係る車両特定装置によれば、絶対位置推定手段が、受信した絶対位置に関連する情報から絶対位置を推定する。絶対位置を推定する手法は各種公知の手法を適用可能である。例えば、上記特許文献に記載されるように、GPS衛星から取得した情報に基づいて得られる車両の速度ベクトルを積算し、形状及び方位の精度の高い車両軌跡を取得すると共に、当該車両軌跡上の点として仮の絶対位置を決定する等の手法が適用されてもよい。
移動体である走行車両について推定される絶対位置には少なからず誤差が含まれる。そこで、本発明に係る車両特定装置では、最適化手段により位置最適化処理が実行され、この推定された絶対位置の推定精度が維持される。この位置最適化処理は、例えば、公知のバンドルアジャストメント等の方法論に基づいた各種手法を適用可能である。例えば、位置最適化処理では、上述した速度ベクトルの積算結果として得られた軌跡上の点と情報源との距離と、情報源から受信した情報に含まれる車両と情報源との距離との差が最小となるように、当該軌跡を平行移動させる等の措置が講じられてもよい。
本発明に係る車両特定装置において、先行車両特定手段は、捕捉手段が先行車両を捕捉した場合に、周辺車両から受信した車両情報と推定された絶対位置とに基づいて、この捕捉した先行車両を特定する構成となっている。
一方、絶対位置推定手段により推定される絶対位置が有する誤差範囲は、位置最適化処理が実行されてからの経過時間に応じて拡大する。これは、絶対位置の推定の方法によらず、絶対位置を更新する毎に不確定要因としての誤差が積算されるためである。
然るに、捕捉手段が先行車両を捕捉するタイミングには規則性がない。従って、位置最適化処理の実行時期が固定されている場合には、先行車両の特定に利用される自車両の絶対位置の精度は毎回安定しない。具体的には、位置最適化処理実行直後の絶対位置は誤差範囲が小さく正確であり先行車両の特定精度も高くなるが、位置最適化処理実行直前、或いは、前回位置最適化処理が実行されてから相応の時間が経過している場合の絶対位置は誤差範囲が大きく先行車両の特定精度もそれに比例して低くなる。
そこで、本発明に係る車両特定装置は、決定手段により位置最適化処理の実行時期が決定される構成となっている。決定手段は、捕捉手段が新規に先行車両を捕捉した場合又は捕捉手段が新規に先行車両を捕捉すると予想される場合に位置最適化処理が実行されるように当該実行時期を決定する構成となっている。
捕捉手段が新規に先行車両を捕捉した場合とは、即ち、車両情報が明確でない車両が捕捉され、先行車両特定手段による先行車両特定の必要性が生じた場合を意味する。例えば、先行車両が存在しない状況において新たに先行車両の存在が検出された場合や、各種走行支援制御による先行車両との協調走行中に新たに他の車両が先行車両に切り替わった場合等を指す。また、捕捉手段が新規に先行車両を捕捉すると予想される場合とは、例えば、上述した新規に先行車両を捕捉する旨の事象が引き起こされ得る自車両又は周辺車両の挙動が検出された場合等を指す。
このように、本発明に係る車両特定装置によれば、先行車両を特定する必要が生じたタイミング又は生じると予想されるタイミングで絶対位置が最適化され、推定精度が上昇する。従って、先行車両の誤認識が防止され、常に先行車両を正確に特定することが可能となる。技術思想の面から言えば、本発明は、本来相互に独立して実行される、先行車両の特定を必要とする各種走行支援アプリケーションプログラムと、車両の絶対位置推定プログラムとの相互協調及び同期を図るものであり、この種の協調及び同期がなされない如何なる技術思想に対しても実践上得られる利益が大である。
本発明に係る車両特定装置の一の態様では、前記先行車両特定手段は、前記車両情報から自車両における前記周辺車両との相対位置及び相対速度を推定し、前記捕捉手段の出力から自車両における前記捕捉された先行車両との相対位置及び相対速度を推定し、前記車両情報から推定された相対位置及び相対速度と、前記捕捉手段の出力から推定された相対位置及び相対速度とを比較することにより前記捕捉された先行車両を特定する(請求項2)。
この態様によれば、車両間通信手段を介して得られる車両情報から(例えば、車両情報に含まれる周辺車両の絶対位置から、或いはこの絶対位置から二次的に得られる各種情報から)自車両と周辺車両との相対位置及び相対速度が得られ、捕捉手段の出力から同じく相対位置及び相対速度が得られる。
これらを比較すれば、捕捉手段により捕捉された先行車両が周辺車両のいずれに該当するのか、或いは該当する周辺車両が存在しないかを、正確に特定することが出来る。この際、前者の相対位置は、周辺車両の絶対位置と自車両の絶対位置との偏差であるから、自車両の絶対位置の推定精度は先行車両の特定精度に大きく影響する。
従って、このような構成においては、本発明に係る位置最適化処理の実行時期決定に係る実践上の利益が大である。
本発明に係る車両特定装置の他の態様では、前記捕捉手段が新規に先行車両を捕捉した場合又は前記捕捉手段が新規に先行車両を捕捉すると予想される場合に前記周辺車両に対し前記車両間通信手段を介して前記位置最適化処理の実行を要求する要求手段を更に具備する(請求項3)。
先行車両の特定には車両間通信により得られる車両情報が利用されるため、自車両において絶対位置の推定精度を向上させるべきタイミングにおいては、周辺車両についても同様に絶対位置の推定精度を向上させるのが望ましい。
この態様によれば、先行車両捕捉可能性に基づいて位置最適化処理が実行される場合には、要求手段により周辺車両に対し位置最適化処理の実行が要求される。従って、周辺車両が位置最適化処理に類する絶対位置の誤差範囲縮小機能を有している場合には、より高い先行車両の特定精度が担保される。
本発明に係る車両特定装置の他の態様では、前記周辺車両は、上記要求手段を具備する車両特定装置を備え、前記最適化手段は、前記周辺車両から前記通信手段を介して前記位置最適化処理の実行が要求された場合に前記位置最適化処理を実行する(請求項4)。
周辺車両が、上記要求手段を含む本発明に係る車両特定装置を備える場合には、周辺車両からも同様のタイミングで位置最適化処理の実行要求が送信されてくることが考えられる。このような場合には、最適化手段が迅速に位置最適化処理を実行することにより、自車両と周辺車両との間で好適な協調を実現し得る。
本発明に係る車両特定装置の他の態様では、前記捕捉手段が先行車両を捕捉すると予想される場合とは、自車両又は前記周辺車両において、自車両と先行車両との関係の変化を伴う車線変更が発生する場合である(請求項5)。
この態様によれば、自車両又は周辺車両において自車両と先行車両との関係の変化を伴う車線変更が発生する場合に、位置最適化処理が実行される。或いは、位置最適化処理が要求される。従って、新規に先行車両が捕捉される以前に自車両或いは更に他車両の絶対位置の推定精度を高めることができ、実際に新規に先行車両が捕捉された場合において、速やかに先行車両の特定を行うことが出来る。
尚、このような車線変更の実践的態様は多義的である。例えば、このような車線変更は、自車両又は他車両或いはその双方における、車線変更、車線割り込み、車線合流或いは交差点における右左折等を好適に含み得る。このような車線変更は、例えば、方向指示器の操作状態や、ステアリングホイルの操作状態(例えば、操舵角)、操舵輪の操舵状態(例えば、実舵角)又は横方向若しくは前後方向加速度の変化等に基づいて判定することが出来る。或いは、車両に車載カメラ等の撮像手段が備わる場合には、車両前方の撮像結果に基づいた画像認識処理等により判定することが出来る。
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。
<発明の実施形態>
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照して説明する。
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の一実施形態に係る車両10の構成について説明する。ここに、図1は、車両10のブロック図である。
図1において、車両10は、ECU(Electronic Control Unit)100、GPS処理系200、車両間通信装置300、車載レーダ400、方向指示器500及び車速センサ600を備える。また、図示は省略するが、車両10は、エンジン(内燃機関)やモータ等の動力源と、操舵状態を制御する操舵制御装置と、制動装置等を備える。操舵制御装置とは、例えば、EPS(Electronic Power Steering:電子制御パワーステアリング装置)、VGRS(Variable Gear Ratio Steering:操舵伝達比可変装置)或いはSBW(Steer By Wire:電子制御式舵角可変装置)等であってもよい。
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)110、ROM(Read Only Memory)120及びRAM(Random Access Memory)130を備え、制御バスであるCANを介して車両10の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「車両特定装置」の一例である。CPU110は、ROM120に格納された制御プログラムに従って、後述する先行車両特定処理、位置推定処理及び更新時期決定処理の各処理を実行可能に構成される。
GPS処理系200は、本発明に係る「情報源」の一例たるGPS衛星から供給されるGPS信号を受信し、受信したGPS信号から必要な情報を取得可能に構成された、本発明に係る「取得手段」の一例である。GPS処理系200は、複数のGPS衛星の各々から、不図示のGPSアンテナを含む不図示のGPS受信機を介してGPS信号を受信し、本発明に係る「絶対位置に関連する情報」の一例として、GPS衛星の衛星軌道に関する衛星軌道情報、GPS衛星と車両10との距離に関する擬似距離情報、各GPS衛星と車両10との相対速度に関するドップラー周波数情報を取得する。尚、これ以降、GPS処理系200を介して得られる情報を適宜「GPS情報」と包括表現する。GPS処理系200は、ECU100と電気的に接続されており、取得されたGPS情報は、ECU100により後述する各種処理に利用される構成となっている。
車両間通信装置300は、所定の通信規格に基づいた無線通信を行うための公知の通信装置である。車両間通信装置300は、所定の周波数帯域を伝送帯域として使用し、車両10の周辺車両に対し、路上インフラ中継設備を介して、或いは当該中継設備を介することなく直接的に車両情報の送受信を行うことが可能である。車両間通信装置300は、ECU100と電気的に接続されており、車両間通信装置300を介して周辺車両とやり取りされる車両情報は、ECU100により常時把握されている。
尚、車両間通信装置300を介して授受される車両情報には、少なくとも車両ID、絶対位置及び方位等が含まれる。或いは更に車速や加速度等の情報が含まれ得る。車両IDとは、車両間通信装置300を利用した各種ITSサービスを享受する利用者がシステム側に事前に登録することによって付与される車両の識別コードである。
車載レーダ400は、車両10のフロントバンパに埋設された電波捕捉装置であり、例えば公知の76GHz帯車載ミリ波レーダ装置である。車載レーダ400は、直線方向の探索距離が約100m程度あり、その探索範囲は略扇状をなす。尚、車載レーダ400は、車両10の前方で補足された先行車両の、自車両に対する相対位置及び相対速度を検出可能に構成されている。車載レーダ400は、制御バスとしてのCANによりECU100と電気的に接続されており、車載レーダ400による車両10前方の物体捕捉結果は、ECU100により常時把握されている。
方向指示器500は、車両10の左右進行方向を車両外に告知するためのインジケータと、その点灯動作を促す操作レバーとを含む装置である。
車速センサ600は、車両10の速度たる車速を検出可能に構成されたセンサである。車速センサ800は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速は、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
<実施形態の動作>
以下、本実施形態の動作について説明する。
<先行車両特定処理の詳細>
始めに、図2を参照し、ECU100により実行される先行車両特定処理の詳細について説明する。ここに、図2は、先行車両特定処理のフローチャートである。尚、先行車両特定処理を含め本実施形態に係る各処理は、厳密にはECU100に備わるCPU110により実行されるが、ECU100が一体の電子制御ユニットである点に鑑み、特別の断りが無い限り、各処理の実行主体をECU100とする。
尚、先行車両特定処理は、上位の制御において先行車両を特定する必要が生じた場合に実行されるサブルーチンであり、上位の制御において実行条件が満たされる場合には周期的に実行される。上位の制御とは、例えば、CACC等の車間距離制御である。この種の走行支援制御の詳細は、本発明の本旨から外れるのでここではその説明を割愛する。
図2において、ECU100は、車両間通信装置300を利用して、周期的に周辺車両から車両情報を受信する(ステップS110)。尚、車両情報の受信と同期して車両10(自車両)の車両情報がこれら周辺車両に送信される。尚、上述したように、この車両情報には、車両ID、絶対位置及び方位等の情報が含まれる。
次に、ECU100は、車両情報の送受信を行った周辺車両の各々について、車両10との相対位置Xr及び相対速度Vrを算出する(ステップS120)。算出された相対位置Xr及び相対速度Vrは、RAM130に周辺車両の車両IDに対応付けられて格納される。
相対位置Xrは、ECU100がRAM130に保持する車両10の絶対位置と、車両間通信により得られた車両情報に含まれる絶対位置との差分として算出される。また、相対速度Vrは、相対位置Xrを時間微分処理することによって得られる。尚、相対速度Vrは、車両間通信により得られた車両情報に車速の情報が含まれる場合には、車速センサ600により検出される車速と、この車両間通信により得られた車両情報に含まれる車速との差分として算出されてもよい。
次に、ECU100は、車載レーダ400により先行車両が新規に捕捉されたか否かを判定する(ステップS130)。先行車両が新規に捕捉されていない場合(ステップS130:NO)、即ち、既に先行車両が特定されている場合、先行車両特定処理は終了する。
一方、先行車両が新規に捕捉された場合(ステップS130:YES)、ECU100は、捕捉された先行車両と周辺車両とを照合する(ステップS140)。ここでは、車載レーダ400により捕捉された先行車両の相対位置及び相対速度(これらは、既に述べたように車載レーダ400により捕捉結果として出力される)と、ステップS120で得られた相対位置Xr及び相対速度Vrとが比較される。
ECU100は、これらの照合の結果に基づいて、周辺車両の中から先行車両の候補を選択する(ステップS150)。先行車両の候補が選択されると、更に、先行車両の候補が存在するか否かが判定される(ステップS160)。先行車両の候補が存在しない場合(ステップS160:NO)、先行車両が特定されない旨を記憶して、先行車両特定処理は終了する。
一方、先行車両候補が存在する場合(ステップS160:YES)、ECU100は、相対位置及び相対速度の一致度の最も高い候補を先行車両として特定する(ステップS170)。特定された先行車両は、車両間通信により得られた車両情報と共にRAM130に記憶され、上述したようにCACC等の走行支援制御に適宜利用される。先行車両特定処理は以上のように実行される。
<位置推定処理の詳細>
図2に例示された本実施形態に係る先行車両特定処理において相対位置の比較に使用される車両10の絶対位置は、ECU100が先行車両特定処理と並行して実行する位置推定処理において特定され、RAM130に格納される構成となっている。ここで、図3を参照し、位置推定処理の詳細について説明する。ここに、図3は、位置推定処理のフローチャートである。尚、位置推定処理も、先行車両特定処理と同様に、上位の制御において実行条件が満たされる毎に実行されるサブルーチンである。
図3において、ECU100はGPS処理系200からGPS情報を取得する(ステップS210)。既に述べたように、GPS情報には、衛星軌道情報、擬似距離情報及びドップラー周波数情報が含まれる。
GPS情報が取得されると、ECU100は、この取得されたGPS情報に基づいて車両10の軌跡を演算する(ステップS220)。
本実施形態では、車両10の絶対位置が、過去のGPS情報に基づいて演算される車両軌跡上の位置として推定される。車両軌跡の演算手法については、公知の各種手法を適用可能であり、また本発明の本旨から外れるため、その詳細については触れないが、大略的一例としては以下の通りである。
即ち、ECU100は、取得されたGPS情報のうちドップラー周波数情報から各GPS衛星に対する車両10の相対速度を算出する。また、取得されたGPS情報のうち衛星軌道情報から導かれる衛星位置座標の時系列データに基づいて各GPS衛星の速度ベクトルを算出する。また、取得されたGPS情報のうちGPS擬似距離情報に基づいて車両10の位置を算出する。また、算出された車両10の位置と衛星位置座標とに基づいてGPS衛星の方向を算出する。
更にECU100は、算出された相対速度、GPS衛星の速度ベクトル及びGPS衛星の方向に基づいて、各GPS衛星方向の車両10の速度を算出し、この算出された複数のGPS衛星方向の車両10の速度に基づいて車両10の速度ベクトルを算出する。車両軌跡は、この速度ベクトルの積算値(時間積分値)として演算される。
尚、ECU100は、車両軌跡を推定するにあたって、理想的には4以上のGPS衛星から取得したGPS情報を使用する。ここで、4以上としたのは、xyzの三座標により規定される絶対位置の推定には三個の独立したGPS情報が必要であり、更に、GPS衛星相互間の時間誤差を修正するために一つの独立したGPS情報が必要となるからである。但し、車両10の上部空間が天空に向かって十分に開けていない状況等においては、各種補正演算又は補完演算により車両軌跡の推定が行われてもよい。このような補正演算及び補完演算も、GPSによる位置推定の分野において周知である。
車両軌跡を演算すると、ECU100は、更新要求フラグFgreqが「1」であるか否かを判定する(ステップS230)。更新要求フラグFgreqは、後述する位置最適化処理の更新要求の有無を規定するフラグであり、「1」である場合に位置最適化処理の更新が要求されていることを、「0」である場合に位置最適化処理の更新が要求されていないことを夫々示す。更新要求フラグFgreqは、後述する更新時期決定処理により「1」又は「0」に設定される。
更新要求フラグFgreqが「0」である場合(ステップS230:NO)、ECU100は、未更新時間が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS240)。未更新時間とは、位置最適化処理の前回の更新時期からの経過時間であり、位置最適化処理の更新がなされていない時間である。未更新時間は、ECU100が内蔵タイマによりカウントしている。未更新時間が閾値以内である場合(ステップS240:NO)、ECU100は、位置最適化処理の必要が無いものとして位置推定処理を終了する。一方、未更新時間が閾値以上であるか(ステップS240:YES)、又は実行要求フラグFgreqが「1」である場合(ステップS230:YES)、処理はステップS250に移行され、位置最適化処理が更新される(ステップS250)。
ステップS220において演算される車両軌跡は、その形状と方位において精度が高いが、位置に関しては演算毎に誤差が蓄積し、徐々にその誤差範囲が拡大する。そこで、ステップS250における位置最適化処理により、係る誤差範囲が縮小され、絶対位置の推定精度が向上する。
位置最適化処理は、例えば公知のバンドルアジャストメント等の方法論を適用した各種の方法を適用可能である。本発明は、後述するように位置最適化処理の更新タイミングを的確に制御する点に本質があり、位置最適化処理の詳細については本旨から外れるため、ここではその詳細を省略する。位置最適化処理は、大略的には以下のように実行される。
即ち、ECU100は、ステップS220で得られた車両軌跡を規定するx座標、y座標及びz座標を所定のステップ幅ずつ変化させ、車両軌跡を元の軌跡に対して平行移動させる。この平行移動された車両軌跡上で選択された複数の暫定位置におけるGPS衛星との距離と、擬似距離情報により得られる擬似距離との差が最小となるように、所定の評価値に基づいて平行移動量が決定される。平行移動量が決定されると、この決定された平行移動量だけ車両軌跡が平行移動され、車両軌跡が更新される。位置最適化処理の更新とは、この車両軌跡の更新を意味する。位置最適化処理が更新されると、絶対位置の誤差範囲が位置最適化処理の実行前と較べて縮小する。
位置最適化処理が更新されると、未更新時間はクリアされ(ステップS260)、位置最適化処理が更新されたか否かを表す更新フラグFgoptが、位置最適化処理が更新されたことを意味する「1」に設定される(ステップS270)。続いて、更新要求フラグFgreqが「0」であるか否かが判定され(ステップS280)。更新要求フラグFgreqが「1」である間は(ステップS280:NO)、処理は待機状態に維持され、更新要求フラグFgreqが「0」になると(ステップS280:YES)、更新フラグFgoptは、位置最適化処理が更新されていないことを意味する「0」に設定され(ステップS290)、位置推定処理は終了する。
ここで、先行車両特定処理における問題点について、図4を参照して説明する。ここに、図4は、先行車両特定処理の一実行時期における車両10の走行状況を例示する図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図4において、センターラインCLの右側にレーンLN1、LN2及びLN3の三車線が構築された、片側三車線の走行路が表されている。車両10(自車両)はレーンLN2を走行中であり、車両10の前方には、周辺車両X1が走行している。また、レーンLN3では車両10の右前方を周辺車両X2が走行中であり、レーンLN1では車両10の左前方を周辺車両X3が走行中である。周辺車両X1、X2及びX3は夫々車両10と車両間通信装置300を介して通信可能な通信対象車両であるとする。
一方、車両10が走行する過程において、車載レーダ400の物体捕捉範囲(ハッチング領域)に周辺車両X1が入ったとする。この場合、車載レーダ400により先行車両として周辺車両X1が捕捉される。この段階では、車両10の前方に先行車両が存在することしか分からないが、車載レーダ400により捕捉された先行車両は新規先行車両であるから、図2のステップS130が「YES」側に分岐し、周辺車両と捕捉された先行車両との照合が開始される。
ここで、位置推定処理における車両10の絶対位置の推定精度は、未更新時間の増加と共に低下していく。上述した車両軌跡の演算タイミング毎に位置の誤差が蓄積するためである。この推定精度の低下により、車両10において推定される絶対位置の採り得る範囲が図示破線枠A_10に、周辺車両X1、X2及びX3の各々において推定される絶対位置の採り得る範囲が夫々図示破線枠A_X1、A_X2及びA_X3まで拡大したとする。
この場合、ECU100は、周辺車両X1、X2及びX3の全てを先行車両候補として認識する。例えば、周辺車両X2から送信される周辺車両X2の絶対位置が図示破線枠A_X2の中心よりも左側にずれており、車両10において推定される車両10の絶対位置が、図示破線枠A_10の中心よりも右側にずれている場合、ECU100は、車両10の先行車両が周辺車両X1であるのか、周辺車両X2であるのかを判定することが難しい。或いは、例えば、周辺車両X3から送信される周辺車両X3の絶対位置が図示破線枠A_X3の中心よりも右側にずれており、車両10において推定される車両10の絶対位置が、図示破線枠A_10の中心よりも左側にずれている場合、ECU100は、車両10の先行車両が周辺車両X1であるのか、周辺車両X3であるのかを判定することが難しい。
或いは、例えば、周辺車両X2から送信される周辺車両X2の絶対位置が図示破線枠A_X2の中心よりも左側にずれており、周辺車両X3から送信される周辺車両X3の絶対位置が図示破線枠A_X3の中心よりも右側にずれており、更に、周辺車両X1から送信される周辺車両X1の絶対位置が図示破線枠A_X1の中心よりも上側にずれている場合、ECU100は、車両10の先行車両が周辺車両X2であるのか、周辺車両X3であるのかを判定することが難しい。またこの場合、実際の先行車両が周辺車両X1であることからして、いずれにせよ先行車両の誤判定が免れ難い。
このように、何らの対策も講じられることがなければ、先行車両が誤って特定される可能性や、先行車両が特定されない可能性が高くなる。その結果、制御上先行車両の特定を必要とする走行支援制御の実践的運用が難しくなる。尚、図3を参照すれば、未更新時間に係る閾値を十分に小さくする対策が想定され得るが、位置最適化処理はECU100に掛かる負荷が大きく、更新頻度を増加させるには限界がある。また、閾値による一律な時期設定では、更新間隔が一律に変化するだけであって、例えば不必要な更新が生じる可能性を排除することが難しくなる。
そこで、本実施形態では、更新時期決定処理により上述した更新要求フラグFgreqが的確に設定される構成となっている。更新要求フラグFgreqを的確に定めることにより、必要な場合に限って位置最適化処理を更新することが出来る。
ここで、図5を参照し、更新時期決定処理の詳細について説明する。ここに、図5は、更新時期決定処理のフローチャートである。尚、更新時期決定処理も、上記他の処理と同様に、上位の制御において実行条件が満たされる毎に実行されるサブルーチンである。
図5において、ECU100は、新規に先行車両が捕捉されたか否かを判定する(ステップS310)。新規に先行車両が捕捉された場合(ステップS310:YES)、ECU100は、更新要求フラグFgreqを「1」に設定し、位置最適化処理の更新を要求する(ステップS340)。
一方、新規に先行車両が捕捉されていない場合(ステップS310:NO)、ECU100は、新規に先行車両を捕捉する可能性が有るか否かを判定する(ステップS320)。
ここで、新規に先行車両を捕捉する可能性が有るか否かは、方向指示器500の動作状態及び車両挙動から判定される。先行車両は、車両10の直前を走行する車両と定義されるから、車両10の走行レーンが変化すれば自ずと変化する。従って、車両10の走行レーンの変化が生じると予測され得る方向指示器500の動作時(操作レバーの操作時を含む)には、新規に先行車両が捕捉されるとの判定がなされる。尚、このような走行レーンの変化とは、図4に例示する通常走行時に限らず、合流車線からの合流時や、交差点での右左折時等も含まれる。
また、先行車両は、車両10と周辺車両との相対的位置関係により変化するから、周辺車両の車線変更によっても新規に先行車両が捕捉される可能性がある。尚、この場合も、周辺車両の通常の車線変更のみならず、合流、割り込み等が含まれる。このような周辺車両の走行状態の変化の検出は、例えば、車両10に車載カメラ等の撮像手段が備わる場合に好適になされ得るが、撮像手段が備わらない構成においても、車両間通信装置300を介して授受される車両情報にこの種の情報を含ませることによって実現可能である。例えば、上述した方向指示器500を例に採れば、周辺車両における方向指示器の動作状態が車両情報と共に車両10に送信された場合に、新規に先行車両が捕捉されるとの判定を下し得る。
また、方向指示器500ではなく、車両挙動からこの種の可能性を判定する場合、車両10の横方向又はヨー方向の加速度や、操舵輪の操舵状態(操舵角や実舵角)等が利用されてもよい。また、周辺車両が車両10の直前に割り込む場合に限れば、制動装置の操作状態(ブレーキペダルの踏下速度等)が参照されてもよい。
新規に先行車両が捕捉される可能性がある場合(ステップS320:YES)、ECU100は、更新要求フラグFgreqを「1」に設定して、位置最適化処理の更新を要求する(ステップS340)。新規に先行車両が捕捉される可能性がない場合(ステップS320:NO)、ECU100は更に、周辺車両から位置最適化処理の実行が要求されているか否かを判定する(ステップS330)。周辺車両から位置最適化処理の実行が要求されていない場合(ステップS330:NO)、ECU100は、更新時期決定処理を終了する。周辺車両から位置最適化処理の実行が要求されている場合(ステップS330:YES)、ECU100は、更新要求フラグFgreqを「1」に設定して、位置最適化処理の更新を要求する(ステップS340)。尚、周辺車両からの位置最適化処理の実行要求については後述する。
更新要求フラグFgreqを「1」に設定すると(ステップS340)、ECU100は、その時点で通信可能な周辺車両に対して、位置最適化処理の実行を要求する(ステップS350)。位置最適化処理の実行要求は、車両間通信300を介して授受される車両情報に含めて送信される。ステップS330における「周辺車両からの位置最適化処理の実行要求」とは、周辺車両において、ステップS350が実行された結果、車両間通信装置300を介して受信された実行要求である。
周辺車両に位置最適化処理の実行を要求すると、ECU100は、先述した更新フラグFgoptが「1」であるか否かを判定する(ステップS360)。位置推定処理において、更新要求フラグFgreqに応じて位置最適化処理が実行され、ステップS270において更新フラグFgoptが「1」に設定されるまでは(ステップS360:NO)、処理は待機状態に維持される。
一方、位置推定処理において、更新要求フラグFgreqに応じて位置最適化処理が実行され、ステップS270において更新フラグFgoptが「1」に設定されると(ステップS360:YES)、ECU100は、更新要求フラグFgreqを「0」に戻し(ステップS370)、更新時期決定処理を終了する。尚、ステップS370において更新要求フラグFgreqが「0」に戻されるのに伴い、先の位置推定処理におけるステップS280が「YES」側に分岐して、更新フラグFgoptもまた「0」に戻される。更新時期決定処理は以上の如くに実行される。
ここで、図6及び図7を参照し、更新時期決定処理の効果について説明する。ここに、図6及び図7は、夫々先行車両特定処理の一実行時期における車両10の走行状況を例示する図である。尚、これら各図において、図4と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
図6には、車両10において先行車両X1(制御上はX1であるか不明)が新規に捕捉された場合に、更新時期決定処理のステップS310が「YES」側に分岐することにより更新要求フラグFgreqが「1」に設定され、それに伴い位置推定処理のステップS230が「YES」側に分岐して位置最適化処理が速やかに更新された場合が示されている。
即ち、位置最適化処理によって、車両10において推定される絶対位置の採り得る範囲が図示破線枠A_10から図示実線枠A_10optに縮小する。その結果、新規に捕捉された先行車両が周辺車両X1であると特定される可能性は高くなる。即ち、先行車両の誤認識が防止される。
また、図7には、図6の状況に加え、更新時期決定処理のステップS350により周辺車両に対して位置最適化処理の実行が要求された結果、周辺車両X1、X2及びX3において車両10と同期して位置最適化処理が実行された場合が示されている。
即ち、この場合、位置最適化処理によって、車両10において推定される絶対位置の採り得る範囲が図示破線枠A_10から図示実線枠A_10optに縮小すると共に、周辺車両X1、X2及びX3において推定される絶対位置の採り得る範囲が、夫々図示破線枠A_X1、A_X2及びA_X3から図示実線枠A_X1opt、A_X2opt及びA_X3optに縮小する。
その結果、新規に捕捉された先行車両が周辺車両X1であると特定される可能性は更に高くなる。即ち、先行車両の誤認識がより好適に防止される。
ここでは、新規に先行車両が捕捉された場合について例示したが、新規に先行車両が捕捉される可能性がある場合や、周辺車両から位置最適化処理の実行要求があった場合も同様である。
このように、本実施形態に係る更新時期決定処理によれば、新規に先行車両が捕捉された場合、捕捉される可能性がある場合、及び周辺車両から実行要求があった場合には、未更新時間が閾値以内であっても、推定される絶対位置の精度を向上させるべく速やかに位置最適化処理が実行される。従って、制御上絶対位置に高い精度が要求される場合に効率的に高精度な絶対位置を提供することができ、ECU100の処理負荷を増大させることなく、先行車両の特定精度を効率的且つ効果的に向上させることが出来る。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両特定装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。