JP5825627B2 - シェブレル相化合物の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物の製造方法である。
組成式MxMo6Ch8(充填元素Mは、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Rb、Sr、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hg、Tl、Pb、Bi、Th、U、Np、Pu、Amの中から選ばれる少なくとも1種類。xは0<x≦6の範囲。Chは、S、Se、Teから選ばれる少なくとも1種類)で表される化合物はシェブレル相化合物として1970年代より知られている(非特許文献1〜3、特許文献1〜3参照)。
このシェブレル相化合物は、熱電変換材料、超電導材料、二次電池用電極材料としての応用が期待されている。
シェブレル相化合物の充填元素Mが遷移金属である場合は、遷移金属、Mo、Sもしくはそれらの硫化物を出発原料として、それらを固相反応させることで遷移金属を充填元素とするシェブレル相化合物は準備されている。しかしこの固相反応では最低でも1000℃の高温で固相反応を行う必要がある(非特許文献3参照)。
しかし、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物は、上記のような固相反応では製造できない。アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、その化学的な性質から大気中での取り扱い作業には大きな危険性が伴う。そのため、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物の固相反応による製造は行われてこなかった。
一方で、遷移金属を充填元素とするシェブレル相化合物の固相反応は、シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8と遷移金属を出発原料として400℃以上の温度で反応させることにより、遷移金属を充填元素とするシェブレル相化合物の製造が可能であることが知られている(非特許文献3参照)。しかしこの方法で製造可能なのは、遷移金属を充填元素とするシェブレル相化合物のみであり、シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8を用いた400℃以上の温度の固相反応で、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物の製造に成功した前例はない。なぜならば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属自身はその化学的な性質から大気中での取り扱い作業には大きな危険性が伴うため、アルカリ金属及びアルカリ土類金属単体を用いることはできないためである。
また、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物の他の公知の製造方法として、遷移金属を充填元素とするシェブレル相化合物とアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む塩化物を石英封管内で反応させるイオン交換法が知られている(非特許文献3参照)。しかしながら、このイオン交換法は塩化物の融点以上の反応温度、すなわち700℃以上の高い反応温度が必要である。しかもこの方法では、不可避的に副生成物として遷移金属塩化物が多量に含有されており、熱電変換材料、超電導材料、二次電池用電極材料に使用できる高純度なアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物を製造することができない。
アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物については、電気化学的な手法を用いることで製造が可能であることが知られている。しかし、電気化学的な手法で使用される電極の形成には、原料粉だけでなくテフロン(登録商標)などのバインダーも必要であるため、製造されるシェブレル相化合物には不可避的に樹脂バインダーが含まれており、熱電変換材料、超電導材料、二次電池用電極材料に使用できる高純度なものは製造できない。
以上のように、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物の製造には、アルカリ金属及びアルカリ土類金属自身の化学的な性質から大気中での取り扱い作業には大きな危険が発生するため、アルカリ金属及びアルカリ土類金属単体を用いることはできない。イオン交換法を用いれば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物を製造できるが、最低でも700℃以上の高い反応温度が必要である。しかも、イオン交換法や電気化学的を用いて製造したアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物は、多量の不純物を含んでおり、熱電変換材料、超電導材料、二次電池用電極材料に使用できない。
特開平05-062680号公報 特開平06-223818号公報 特開平06-349492号公報
JOURNAL OF SOLID STATE CHEMISTRY、1971年、第3巻、p.515-519 Applied Physics、1978年、第16巻、p.1-28 丸善株式会社 日本化学会編 第4版実験化学講座16 無機化合物、p.543-550
これまでのアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物の製造方法では、取り扱いが大変困難なアルカリ金属及びアルカリ土類金属単体を使用して、さらに最低でも700℃以上の高い反応温度が必要で、その上、純度が悪く熱電変換材料、超電導材料、二次電池用電極材料に使用できないものしか提供できないことが課題であった。
そこで本発明では上記課題を解決するために、シェブレル相骨格構造化合物とアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類の元素の炭酸塩とを固相反応させることで、アルカリ金属及びアルカリ土類金属単体を扱わず、しかも反応の下限温度を200℃と大幅に下げることができ、さらに熱電変換材料、超電導材料、二次電池用電極材料に使用できる高純度なアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物の製造方法を提供することにある。さらに、この製造方法により製造されるシェブレル相化合物から成る熱電変換材料、超電導材料、二次電池用電極材料を提供する。
本発明者らは、シェブレル相化合物の製造、利用に関する多くの試験研究の過程に加え、熱力学データの解析をして鋭意検討を行ったところ、シェブレル相骨格構造化合物Mo6S8と炭酸塩とを加熱して反応させることにより、該塩の金属を充填元素とするシェブレル相化合物が高純度で製造できることを見出した。出発原料に炭酸塩を用いることで、取り扱いが大変困難なアルカリ金属及びアルカリ土類金属単体を使用しないため、アルカリ金属及びアルカリ土類金属自身の化学的な性質から大気中での取り扱い作業で発生する大きな危険を回避できることは言うまでもない。反応温度は、これまでに知られている方法よりも遥に低い温度(200℃)で反応させることができることを見出した。また、熱力学の観点から考察するにCやOを含有する不純物が生成されないという結論に至り、実験的にも、それらの副生成化合物などの不純物は少ないことを見出した。
さらに検討した結果、シェブレル相骨格構造化合物Mo6S8のSはSのみに留まらず、このSがChで示されるシェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8でも、ChがS、Se、Teから選ばれる少なくとも1種類のシェブレル相化合物において、その熱電性能指数、超電導転移温度、二次電池用電極としての充放電サイクル特性、融点、酸化挙動などの物理的性質や化学的性質が類似していることから、反応を支配する熱力学的データも類似するため、同様の効果が得られるという結論に至った。
また、シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8と反応させる炭酸塩は、炭酸リチウムLi2CO3、炭酸ナトリウムNa2CO3、炭酸カリウムK2CO3、炭酸ルビジウムRb2CO3、炭酸セシウムCs2CO3、炭酸マグネシウムMgCO3、炭酸カルシウムCaCO3、炭酸ストロンチウムSrCO3、炭酸バリウムBaCO3から選ばれる少なくとも1種類であれば良い。これらの炭酸塩は、200℃以上で分解してその分解温度付近においてアルカリ金属やアルカリ土類金属とシェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8との反応が加速するため、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物をこれまでに知られている方法よりも遥に低い下限温度(200℃)で製造することができることを見出した。
200℃未満の温度では、熱力学的な観点から、上記炭酸塩は分解しないため、シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8と上記炭酸塩との混合物は安定であり、固相反応が進行しない。ゆえに、シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8と上記炭酸塩との混合物の反応温度は、固相反応が進行する200℃以上であることを見出した。反応温度を高くすると、固相反応が進行するため、反応時間を短くすることができることから、300℃以上の反応温度が望ましいことを見出した。
一般に熱電変換材料は、不純物が少ないほどその熱電特性が改善されることから、本発明の製造方法によって製造されるシェブレル相化合物は熱電変換材料に適用できることを見出した。
さらに、一般に優れた熱電特性を持つ熱電変換材料と優れた超電導転移温度を持つ超電導材料は、その電子構造に共通した特徴を有していることから、本発明の製造方法によって製造されるシェブレル相化合物も優れた熱電特性ならびに優れた超電導転移特性を持ち、超電導材料に適用することができるという結論に至った。
また、シェブレル相化合物は元素を充填できる空隙のある特徴的な結晶構造を持ち、アルカリ金属やアルカリ土類金属の拡散係数が大きく、本発明の製造方法によって製造されるシェブレル相化合物は不純物の含有が少ないことから、優れた充放電サイクル特性を持つため、二次電池用電極材料に適用することができるという結論に至った。
本発明は、以上のような知見に基づくものであり、次のような特徴を有するものである。
(1)シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8(式中Chは、S、Se、Teから選ばれる少なくとも1種類)と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類の元素の炭酸塩とを加熱して反応させることを特徴とする、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物の製造方法。
(2)前記アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類の元素の炭酸塩は、炭酸リチウムLi2CO3、炭酸ナトリウムNa2CO3、炭酸カリウムK2CO3、炭酸ルビジウムRb2CO3、炭酸セシウムCs2CO3、炭酸マグネシウムMgCO3、炭酸カルシウムCaCO3、炭酸ストロンチウムSrCO3、炭酸バリウムBaCO3から選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とするアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物の製造方法。
(3)反応温度が200℃以上であるアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物の製造方法。
(4)反応温度が300℃以上であるアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物の製造方法。
(5)上記シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8と上記炭酸塩との反応が、真空排気環境又は通気・排気環境下でなされるアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物の製造方法。
本発明のシェブレル相化合物の製造方法によれば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属単体を扱わず、しかも反応の下限温度を200℃と大幅に下げることができ、さらに熱電変換材料、超電導材料、二次電池用電極材料に使用できる高純度なアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物を製造することができる。さらに、この製造方法により製造されるシェブレル相化合物から成る熱電変換材料、超電導材料、二次電池用電極材料を提供することができる。
従来の電気化学的な製造方法を示す図面。 本発明の固相法による製造方法を示す図面。
本発明のシェブレル相化合物の製造方法では、シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8(式中ChはS、Se、Teから選ばれる少なくとも1種類)と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類の元素の炭酸塩とを加熱して反応させることで、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物を製造することができる。
シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8は、充填元素Mを含まないシェブレル相化合物であり、例えば、非特許文献3に記載された方法により準備することができる。具体的には、遷移金属を充填元素とするシェブレル相化合物を6mol/Lなどの濃度の塩酸に数日間ほど浸し置きすることで、遷移金属を充填元素とするシェブレル相化合物からその充填元素を分離させることができ、シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8を得ることができる。
シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8と反応させる炭酸塩は、炭酸リチウムLi2CO3、炭酸ナトリウムNa2CO3、炭酸カリウムK2CO3、炭酸ルビジウムRb2CO3、炭酸セシウムCs2CO3、炭酸マグネシウムMgCO3、炭酸カルシウムCaCO3、炭酸ストロンチウムSrCO3、炭酸バリウムBaCO3から選ばれる少なくとも1種類であれば良い。これらの炭酸塩は、200℃以上で分解してその分解温度付近においてアルカリ金属やアルカリ土類金属とシェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8との反応を加速するため、アルカリ金属やアルカリ土類金属を充填したシェブレル相化合物をこれまでに知られている方法よりも遥に低い下限温度(200℃)で製造することができる。
シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8と、上記炭酸塩とは、反応時の相互拡散を通じた反応時間を短縮化するため、粉末状であることが好ましい。粉末の平均粒径(例えば、レーザ回折式粒度分布装置により、積算重量が50%となる粒径)は、限定するものではないが、1mm以下とすることができる。
シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8と上記炭酸塩とは、該化合物と炭酸塩の金属元素が1:0.1〜1:6(好ましくは、1:0.3〜1:5、より好ましくは、1:0.5〜1:4)のモル比となるように秤量、混合される。混合方法は特定しないが、例えば、メノウ乳鉢、メノウ乳棒を使用し混合することができる。
シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8と上記炭酸塩の混合物は、チッ化ホウ素製等の適宜材質のルツボに入れ、電気炉等の適宜の加熱炉内で反応される。使用するルツボは、後述の反応温度範囲以下で使用原料と反応しない材質であれば、チッ化ホウ素以外の他の材質のルツボでも構わない。電気炉内のルツボは、発生するCO2等の不純物への影響を低減するため、排気環境下に置くことが望ましい。
200℃未満の温度では、熱力学的な観点から、上記炭酸塩は分解しないため、シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8と上記炭酸塩との混合物は安定であり、固相反応が進行しない。ゆえに、シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8と上記炭酸塩との混合物の反応温度は、固相反応が進行する200℃以上とすることができる。反応温度を高くすると、固相反応が速く進行するため、反応時間を短くすることができることから、300℃以上の反応温度が望ましい。
また、上記炭酸塩の融点よりも高い温度では、上記炭酸塩が液相となることで、シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8と上記炭酸塩との混合物の固液分離が起きるために、製造されるシェブレル相化合物の偏析が生じる。ゆえに、シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8と上記炭酸塩との混合物の反応温度は、上記炭酸塩の融点以下が望ましい。また、反応温度を650℃以下、好ましくは600℃以下とすることで、反応に使用する加熱炉の消費電力を抑えることができ、経済的に製造することができる。
また、反応時間は、熱力学的に反応が飽和したとみなせる時間以上とすることができる。
該排気環境としては、アルゴン等の希ガスや窒素ガスなどの不活性ガスを供給しながら排気を行う通気・排気環境とすることもできる。真空排気環境としては、10-1Pa以下の真空度であれば良い。真空排気設備としては、油回転ポンプ、油拡散ポンプ等、適宜のポンプを使用又は併用できる。上記通気・排気環境とする際の供給ガスは、副生成酸化金属を低減するため、不活性ガス以外に少量(例えば、5%程度以下)のH2等の還元性ガスを含むこともできる。
製造されるシェブレル相化合物は、MxMo6Ch8(式中、充填元素Mは、Li、Na、Mg、K、Ca、Sr、Cs、Baの中から選ばれる少なくとも1種類、xは0<x≦6(好ましくは、0.3≦x≦5、より好ましくは、0.5≦x≦4)の範囲、ChはS、Se、Teから選ばれる少なくとも1種類)で表され、副生成物等の不純物の含有が少ない高純度(95%以上)のものである。特に、加熱における雰囲気を高真空排気環境とすることや、原料として不純物の少ないものを使用すること等により、より高純度なもの(98%以上、より好ましくは99%以上)のものを得ることができる。
また、製造されたシェブレル相化合物は、従来よりも遥に低い温度で反応した製造粉として製造されるため、粉末状態で得られ、ほとんど凝集していないので、そのままか、又は、簡単な解砕で容易に焼結体形成用の原料粉とすることができる。
さらに、従来の電気化学的な製造方法では、不可避的にバインダーが不純物として含まれるが、そのような不純物を除く工程が不要となり、製造工程数を少なくすることができる。
充填元素がアルカリ金属やアルカリ土類金属であっても、炭酸塩を用いることによって、アルカリ金属やアルカリ土類金属そのものを扱わないために、それによる危険を回避すると同時に、意図しない生成物の形成などを防ぐことができ、不活性ガスを満たしたグローブボックス等の設備を省略することで製造準備作業を簡易化することができる。
以下、本発明の具体例を実施例として示し、さらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
シェブレル相骨格構造化合物Mo6S8を上記非特許文献3に示されている方法に従い予め準備した。この骨格構造化合物Mo6S8の粉末と炭酸ナトリウムNa2CO3の粉末を1:0.5のモル比で秤量し、メノウ乳鉢、メノウ乳棒を使用して混合し、混合した原料粉末を、チッ化ホウ素製のルツボに入れた。混合粉末の入ったルツボを電気炉内に設けた真空排気環境に置き、7×10-3Paの真空排気下、380℃、10時間の条件で反応させた。反応後、電気炉からルツボを取り出したところ、粉末状の製造物(製造粉末)が製造されていた。このようにして製造した製造粉末について、X線回折装置を用いて結晶相の同定をしたところ、出発原料のMo6S8、Na2CO3は残っておらず、全て反応していた。また、副生成不純物としてMoO2を含有していたが、その含有割合はX線回折の最強線同士を比較した際、2%程度に留まっており、目標材料のNaMo6S8は、約98%程度と高純度なものであった。以上のように、Naを充填したシェブレル相硫化物NaMo6S8を高純度で製造することができた。
上記方法で得られたNaを充填したシェブレル相硫化物NaMo6S8をグラファイト製の冶具を用いて、1000℃、40MPa、1時間、7×10-3Paの真空排気下の条件で加圧焼結することで、NaMo6S8の焼結体を製造することができた。
Naを充填したシェブレル相硫化物NaMo6S8の焼結体について、熱電変換材料としての評価項目であるゼーベック係数、電気抵抗率、熱伝導率を測定したところ、既存材料の特性ほどではないものの、熱電変換材料として有用な特性値であった。
(実施例2)
シェブレル相骨格構造化合物Mo6S8を上記非特許文献3に示されている方法に従い予め準備した。この骨格構造化合物Mo6S8の粉末と炭酸ナトリウムNa2CO3の粉末を1:1及び1:2のモル比で秤量し、メノウ乳鉢、メノウ乳棒を使用して混合し、混合した原料粉末を、チッ化ホウ素製のルツボに入れた。混合粉末の入ったルツボを電気炉内に設けた真空排気環境に置き、7×10-3Paの真空排気下、420℃、10時間の条件で反応させた。反応後、電気炉からルツボを取り出したところ、粉末状の製造物(製造粉末)が製造されていた。このようにして製造した製造粉末について、X線回折装置を用いて結晶相の同定をしたところ、前記実施例1で示した純度ほどではないものの、Naを充填したシェブレル相硫化物Na2Mo6S8及びNa4Mo6S8が製造可能であることを確認した。
(実施例3)
シェブレル相骨格構造化合物Mo6S8を上記非特許文献3に示されている方法に従い予め準備した。この骨格構造化合物Mo6S8の粉末と炭酸リチウムLi2CO3の粉末を1:0.5のモル比で秤量し、メノウ乳鉢、メノウ乳棒を使用して混合し、混合した原料粉末を、チッ化ホウ素製のルツボに入れた。混合粉末の入ったルツボを電気炉内に設けた真空排気環境に置き、7×10-3Paの真空排気下、420℃、10時間の条件で反応させた。反応後、電気炉からルツボを取り出したところ、粉末状の製造物(製造粉末)が製造されていた。このようにして製造した製造粉末について、X線回折装置を用いて結晶相の同定をしたところ、未反応のシェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8が一部残っていたため、前記実施例1で示した純度ほどではないものの、Liを充填したシェブレル相硫化物LiMo6S8が製造可能であることを確認した。
(実施例4)
シェブレル相骨格構造化合物Mo6S8を上記非特許文献3に示されている方法に従い予め準備した。この骨格構造化合物Mo6S8の粉末と炭酸カリウムK2CO3の粉末を1:0.5のモル比で秤量し、メノウ乳鉢、メノウ乳棒を使用して混合し、混合した原料粉末を、チッ化ホウ素製のルツボに入れた。混合粉末の入ったルツボを電気炉内に設けた真空排気環境に置き、7×10-3Paの真空排気下、500℃、10時間の条件で反応させた。反応後、電気炉からルツボを取り出したところ、粉末状の製造物(製造粉末)が製造されていた。このようにして製造した製造粉末について、X線回折装置を用いて結晶相の同定をしたところ、未反応のシェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8が一部残っていたため、前記実施例1で示した純度ほどではないものの、Kを充填したシェブレル相硫化物KMo6S8が製造可能であることを確認した。
検討した結果、実施例ではChがSの場合のみのシェブレル相化合物の製造方法と熱電変換材料としての有用性を示したが、ChがS、Se、Teから選ばれる少なくとも1種類のシェブレル相化合物MxMo6Ch8においても、その超電導転移温度や熱電性能指数、二次電池用電極としての充放電サイクル特性、融点、酸化挙動などの物理的性質や化学的性質が類似していることから、反応を支配する熱力学的データも類似するという結論に至り、シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8のChは、S、Se、Teから選ばれる少なくとも1種類とすることができる。
前記では、アルカリ金属であるLi、Na、Kのそれぞれの炭酸塩を用いた実施例を示したが、検討した結果、Li、Na、K以外のアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類の元素の炭酸塩であっても、200℃以上で分解してその分解温度付近においてアルカリ金属やアルカリ土類金属とシェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8との反応を加速してアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物を低温生成させ、同様の効果が得られるという結論に至った。
さらに検討した結果、一般に優れた熱電特性を持つ熱電変換材料と優れた超電導転移温度を持つ超電導材料は、その電子構造に共通した特徴を有していることから、本発明の製造方法によって製造されるアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物も優れた熱電特性ならびに優れた超電導転移特性を持ち、超電導材料に適用することができるという結論に至った。
シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8は元素を充填できる空隙を持ち、その空隙に元素を充填することで優れた熱電特性を示す特徴的な結晶構造を有している。本発明の製造方法によって製造されるアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物においても、この空隙の大きさに比べてアルカリ金属やアルカリ土類金属のイオン半径は小さいため、アルカリ金属やアルカリ土類金属の拡散係数が大きく、優れた充放電サイクル特性を持つことから、二次電池用電極材料に適用することができるという結論に至った。
本発明の固相反応の製造方法で製造されたシェブレル相化合物は、従来よりも遥に低温で反応した製造粉として製造されるため、粉末状でほとんど凝集していないので、そのまま、又は、簡単な解砕によって焼結用等の原料粉末とすることができる。産業上で利用する際には、このようにして製造された粉末を、焼結などをすることで、任意の形状を有した材料にすることができる。
本発明の固相反応の製造方法で製造されたシェブレル相化合物は、高純度とすることが可能なので、一般的な焼結法を用いて必要な形状にさせることによって、高機能の熱電変換材料や超電導材料等の高機能材料として使用することができる。
また、適切な加工方法を適用させることで、二次電池用電極材料として機能させることもできる。

Claims (5)

  1. シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8(式中Chは、S、Se、Teから選ばれる少なくとも1種類)と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類の元素の炭酸塩とを加熱して反応させることを特徴とする、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物の製造方法。
  2. 前記アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される元素の炭酸塩は、炭酸リチウムLi2CO3、炭酸ナトリウムNa2CO3、炭酸カリウムK2CO3、炭酸ルビジウムRb2CO3、炭酸セシウムCs2CO3、炭酸マグネシウムMgCO3、炭酸カルシウムCaCO3、炭酸ストロンチウムSrCO3、炭酸バリウムBaCO3から選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物の製造方法。
  3. 反応温度が200℃以上である請求項1又は2に記載のアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物の製造方法。
  4. 反応温度が300℃以上である請求項1又は2に記載のアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物の製造方法。
  5. 上記シェブレル相骨格構造化合物Mo6Ch8と上記炭酸塩との反応が、真空排気環境又は通気・排気環境下でなされる請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類を充填元素とするシェブレル相化合物の製造方法。
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