以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施の形態における制御装置を備えた自動二輪車の側面図である。図2は、エンジンからエンジンの出力軸に至るトルク伝達経路に設けられた機構の概略図である。図3は、自動二輪車の機能的な構成を説明するためのブロック図である。
図1に示すように、自動二輪車1は、主に、前輪2と、後輪3と、エンジンユニット11と、を有する。前輪2は、フロントフォーク4の下端で支持される。フロントフォーク4の上部には、車体フレーム(不図示)の最前部に回転可能に支持されたステアリングシャフト5が連結される。ステアリングシャフト5の上方にはステアリング6が設けられる。当該ステアリング6と、フロントフォーク4と、前輪2は、ステアリングシャフト5を中心にして一体的に左右に回転可能に構成されている。
また、ステアリング6の後方にはライダーが跨って座ることのできるシート7が配置される。エンジンユニット11の後方には、後輪3が配置される。変速機30(図2参照)から出力されるトルクは、チェーンやベルト、ドライブシャフトなどのトルク伝達部材(不図示)を介して、後輪3に伝達される。
図2に示すように、自動二輪車1は、所謂ツインクラッチ式の車両である。つまり、エンジンユニット11は、エンジン20と、変速機30と、第1クラッチ40Aと、第2クラッチ40Bと、を有する。
エンジン20は、クランクシャフト21を有し、当該クランクシャフト21は、2つのプライマリギア21aを有する。エンジン20のトルク(クランクシャフト21の回転に相当する)は、それぞれ第1クラッチ40A及び第2クラッチ40Bに入力される。
第1クラッチ40A及び第2クラッチ40Bは、例えば、単板又は多板の摩擦クラッチであって、それぞれ駆動部材41と、従動部材42と、プライマリギア41aと、を有する。また、当該プライマリギア41aは、上記プライマリギア21aと噛み合い、駆動部材41は、クランクシャフト21の回転に連動する。当該駆動部材41と従動部材42が、互いに軸方向で押し付けられることにより、それらの間でトルクの伝達がなされる。なお、駆動部材41は、例えば、フリクションディスクであり、従動部材42は、例えば、クラッチディスクである。
クラッチアクチュエータ49A、49Bは、例えば、電動モータを含み、当該電動モータの動力を、クラッチ40A、40Bの駆動部材41又は従動部材42のいずれか一方に伝える。これにより、クラッチアクチュエータ49A、49Bは、駆動部材41と従動部材42とを互いに押し付け、或いは、互いに離す。
変速機30は、第1変速機構30Aと第2変速機構30Bとを有する。第1変速機構30Aと第2変速機構30Bは、第1クラッチ40Aと第2クラッチ40Bの下流にそれぞれ配置される。すなわち、第1変速機構30Aと第2変速機構30Bのそれぞれに、入力軸31が設けられる。第1変速機構30Aの入力軸31は、第1クラッチ40Aの従動部材42に連結され、第1変速機構30Aには、第1クラッチ40Aを介してトルクが入力される。第2変速機構30Bの入力軸31は、第2クラッチ40Bの従動部材42に連結され、第2変速機構30Bには、第2クラッチ40Bを介して、トルクが入力される。また、2つの変速機構30A、30Bは、共通の出力軸32を有する。
上記のように、自動二輪車1は、エンジン20のクランクシャフト21から変速機30の出力軸32に至るトルク伝達経路として2つの経路を有する。すなわち、第1の経路は、第1変速機構30Aと第1クラッチ40Aとによって構成され、第2の経路は、第2変速機構30Bと第2クラッチ40Bとによって構成される。変速機30の出力軸32は、チェーンやベルト、シャフトなどで構成されたトルク伝達部材を介して、後輪3の車軸に連結される。
第1変速機構30Aと第2変速機構30Bは、複数のギア1i〜6i及び1h〜6hを含む。ギア1i〜6iは、入力軸31に設けられ、ギア1h〜6hは、出力軸32に設けられる。ギア1iとギア1hは、互いに噛み合い、それらの減速比は、1速に対応する。同様に、ギア2i乃至6iは、ギア2h乃至6hとそれぞれ噛み合い、それらの減速比は、2速乃至6速にそれぞれ対応する。つまり、第1変速機構30Aは、奇数変速段に対応するギア1i、3i、5i、1h、3h、5hによって構成され、第2変速機構30Bは、偶数変速段に対応するギア2i、4i、6i、2h、4h、6hによって構成される。
変速機構30A、30Bは、いわゆる選択摺動式の変速機構である。つまり、各変速段に対応したギア対(例えば、ギア1iとギア1h)のうち一方は、当該一方のギアが設けられた軸に対して相対回転自在に構成される。これに対して、他方のギアは、当該他方のギアが設けられた軸とスプラインで噛み合い、当該軸と一体的に回転する。
具体的には、ギア1h、5i、3h、4h、6i、2hが、それらのギアが設けられた軸に対して相対回転自在に構成される。一方、ギア1i、5h、3i、4i、6h、2iは、それらが設けられた軸と噛み合い、当該軸と常に一体的に回転する。そのため、中立状態(いずれの変速段にも設定されていない状態)においては、ギア対(5i、5h)及び(6i、6h)は、出力軸32に連動し、ギア対(1i、1h)、(3i、3h)、(4i、4h)及び(2i、2h)は、入力軸31に連動する。
また、入力軸31に連動するギアと出力軸32に連動するギアは、軸方向で互いに隣り合うように配置され、且つ、軸方向に相対移動可能に構成される(すなわち、接近及び離間が可能となっている)。
複数のギア1i〜6i、1h〜6hは、ドッグクラッチ(dog clutch)が形成されたギアを含む。当該ドッグクラッチのドグ部(ドグ)が係合することにより、入力軸31に常に連動するギアと出力軸32に常に連動するギアは、係合可能に構成される。これらの2つのギアの係合によって、第1変速機構30Aの入力軸31又は第2変速機構30Bの入力軸31の回転(トルク)が、出力軸32に伝達される。図2においては、ギア5h、3i、4i、6hが軸方向に移動可能に構成される。なお、下記においては、当該軸方向に移動可能なギアを可動ギアと称し、軸方向に移動しないギアを固定ギアと称する。
図2に示すように、変速機30には、軸方向に移動可能なギア5h、3i、4i、6h(可動ギア)を軸方向に移動させるシフトアクチュエータ39が設けられている。シフトアクチュエータ39は、シフトフォーク39a、シフトカム39b、電動モータ39cを含む。電動モータ39cは、シフトカム39bを回転させる動力を発生する。シフトカム39bは、外周に溝(外周溝)が形成され、当該外周溝にシフトフォーク39aの一端が接続される。そして、当該シフトカム39bが回転することにより、シフトフォーク39aが選択的に移動し、上記可動ギアを選択的に移動させる。これにより、変速段を切り換える。なお、当該シフトアクチュエータ39の構成及び動作の詳細については後述する。
次に、自動二輪車1の機能的な構成について説明する。図3に示すように、自動二輪車1は、エンジン20、エンジン回転速度センサ19aと、ギア位置センサ19bと、クラッチセンサ19c、19dと、出力側回転センサ19eと、シフトスイッチ19fと、アクセルセンサ19g、シフトアクチュエータ39、クラッチアクチュエータ49A、49Bと、これらに接続された制御装置10を有する。
エンジン20は、燃料噴射装置22と、スロットルアクチュエータ23と、点火プラグ24とを有する。燃料噴射装置22は、エンジン20の燃焼室で燃焼させる燃料をエンジン20に供給する。スロットルアクチュエータ23は、エンジン20の吸気路を流れる空気量を調整するスロットルバルブ(不図示)の開度を制御する。点火プラグ24は、エンジン20の燃焼室に流れ込む空気と燃料の混合気に点火する。燃料噴射装置22の燃料噴射量、点火プラグ24の点火タイミング、及び、スロットルバルブの開度(以下、スロットル開度)は、制御装置10によって制御される。
エンジン回転速度センサ19aは、例えば、エンジン回転速度に応じた周波数のパルス信号を出力する回転センサによって構成される。制御装置10は、エンジン回転速度センサ19aの出力信号に基づいて、エンジン回転速度(クランクシャフト21の回転速度)を算出する。
ギア位置センサ19bは、例えば、シフトカム39bの回転角に応じた電圧信号を出力するポテンショメータによって構成される。制御装置10は、ギア位置センサ19bの出力信号に基づいて、可動ギア5h、3i、4i、6hの位置や、現在の変速段などを検知する。
出力側回転センサ19eは、後輪3の車軸や、出力軸32に設けられる。出力側回転センサ19eは、例えば、後輪3の回転速度や、出力軸32の回転速度に応じた周波数のパルス信号を出力する回転センサである。制御装置10は、出力側回転センサ19eの出力信号に基づいて、車速や出力軸32の回転速度を算出する。
シフトスイッチ19fは、ライダーによって操作されるスイッチであり、ライダーの変速指令(変速段を上げるシフトアップ指令を示す信号、変速段を下げるシフトダウン指令を示す信号)を制御装置10へ出力する。なお、シフトスイッチ19fは、例えば、シフトアップ用のスイッチとシフトダウン用のスイッチを含む。
アクセルセンサ19gは、ステアリング6に設けられたアクセルグリップ(不図示)の操作量(回転角)に応じた信号を出力する。アクセルセンサ19gは、例えば、ポテンショメータによって構成される。制御装置10は、アクセルセンサ19gの出力信号に基づいてアクセルグリップの操作量(アクセル操作量)を検知する。
クラッチセンサ19cは、第1クラッチ40Aの伝達トルク容量(現在の第1クラッチ40Aの状態(現在の係合度合い)で伝達可能な最大トルク)を検出するためのセンサである。また、クラッチセンサ19dは、第2クラッチ40Bの伝達トルク容量(現在の第2クラッチ40Bの状態(現在の係合度合い)で伝達可能な最大値トルク)を検出するためのセンサである。クラッチ40A、40Bが係合状態にある時に、伝達トルク容量は最大(以下、最大トルク容量とする)となり、クラッチ40A、40Bが解放状態にある時に、伝達トルク容量は最小(例えば、0Nm)となる。
伝達トルク容量は、クラッチ40A、40Bの位置(クラッチのストローク量)に対応する。クラッチセンサ19c、19dは、例えば、クラッチ40A、40Bの位置に応じた信号(クラッチアクチュエータ49A、49Bの動作量に応じた信号)を出力するポテンショメータである。制御装置10は、クラッチセンサ19c、19dの出力信号に基づいて検知されるクラッチ位置から、伝達トルク容量を検知する。例えば、制御装置10は、クラッチ位置と伝達トルク容量とを対応付けるマップや演算式を用いて、検知したクラッチ位置から伝達トルク容量を算出する。
具体的には、例えば、クラッチアクチュエータ49A、49Bが、油圧によってクラッチ40A、40Bを動かす場合、伝達トルク容量はクラッチ40A、40Bに作用する油圧(以下、クラッチ圧)に対応する。この場合、クラッチセンサ19c、19dは、クラッチ圧に応じた信号を出力する油圧センサに相当する。また、この場合、制御装置10は、クラッチセンサ19c、19dによって検知したクラッチ圧に基づいて伝達トルク容量を検知する。そして、例えば、制御装置10は、クラッチ圧と伝達トルク容量とを対応付けるマップや演算式を用いて、検知したクラッチ圧から伝達トルク容量を算出する。
また、クラッチセンサ19c、19dとしては、当該クラッチ40A、40Bから力を受ける部分の歪みの大きさに応じた信号を出力する歪みセンサを用いてもよい。伝達トルク容量は、クラッチアクチュエータ49A、49Bからクラッチ40A、40Bに作用する力(駆動部材41と従動部材42の間に作用する押し付け力)に対応する。そして、クラッチアクチュエータ49A、49Bからクラッチ40A、40Bに作用する力によって、その力を受けている部分(例えば、クラッチ40A、40Bのケースなど)が歪む。よって、制御装置10が、クラッチセンサ19c、19dによって検知した歪みに基づいて伝達トルク容量を検知するように構成してもよい。この場合、例えば、制御装置10は、クラッチの歪みと伝達トルク容量とを対応付けるマップや演算式を用いて、検知した歪みから伝達トルク容量を算出する。
制御装置10は、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などのメモリと、アクチュエータ39、49A、49B、23、燃料噴射装置22、及び点火プラグ24を駆動するための駆動回路とを有する。そして、制御装置10は、当該メモリに格納されたプログラムをCPUにおいて実行し、エンジン20、変速機30、及び、クラッチ40A、40B等を制御する。なお、特許請求の範囲に記載のクラッチ制御手段、シフトアクチュエータ制御手段は、例えば、当該制御装置10により実現される。また、当該プログラムは、例えば、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体によりメモリに提供されてもよい。
具体的には、制御装置10は、エンジン20の出力トルクについての目標値(目標エンジントルク)を設定する。そして、実際の出力トルクが、目標エンジントルクになるように、制御装置10は、予めメモリに格納されたマップや演算式を利用して、スロットルアクチュエータ23や燃料噴射装置22、点火プラグ24を駆動する。また、制御装置10は、第1クラッチ40Aの伝達トルク容量と第2クラッチ40Bの伝達トルク容量とについて目標値(目標トルク容量)を設定する。そして、制御装置10は、実際の伝達トルク容量が目標トルク容量になるように、クラッチアクチュエータ49A、49Bを動かす(すなわち、クラッチアクチュエータ49A、49Bにその駆動電力を供給する)。
制御装置10は、第1変速機構30A及び第2変速機構30Bで設定される変速段が変速指令に応じたものとなるように、シフトアクチュエータ39を動かす(すなわち、シフトアクチュエータ39にその駆動電力を供給する)。具体的には、制御装置10は、シフトアクチュエータのポジションについての目標値(目標シフトアクチュエータポジション)を設定する。なお、当該目標シフトアクチュエータポジションは、例えば、モータ39cの回転角度に基づく後述するシフト機構500の回転角度、より具体的には例えば第1伝達部材507の回転角度等に相当する。そして、実際のシフトアクチュエータのポジション(回転角度)が目標シフトアクチュエータポジションになるように、制御装置10は、シフトアクチュエータ39を動かす。
制御装置10は、変速制御に関する複数の制御モードを備える。制御装置10は、変速指令がシフトアップ指令であり、且つ、アクセル操作量が所定の閾値以上である場合に(アクセルグリップが開かれている場合に)、パワーオンシフトアップ制御を実行する。また、制御装置10は、変速指令がシフトアップ指令であり、且つ、アクセル操作量が所定の閾値より小さい場合に(アクセルグリップが閉じられている場合に)、パワーオフシフトアップ制御を実行する。さらに、制御装置10は、変速指令がシフトダウン指令であり、且つ、アクセル操作量が所定の閾値以上の場合に、パワーオンシフトダウン制御を実行する。また、制御装置10は、変速指令がシフトダウン指令であり、且つ、アクセル操作量が所定の閾値より小さい場合に、パワーオフシフトダウン制御を実行する。
次に、変速制御の概要について説明する。通常走行(変速制御がなされていない状態での走行)においては、クランクシャフト21から出力軸32に至る2つの経路のうち一方の経路を介してのみ、エンジン20のトルクが出力軸32に伝達される。具体的には、通常走行においては、第1クラッチ40Aと第2クラッチ40Bの双方が係合状態に設定される。また、第1変速機構30Aと第2変速機構30Bのうちいずれか一方の変速機構は中立状態とされ、他方の変速機構は現在の変速段に対応するギア対がドッグクラッチによって係合する。よって、当該他方の変速機構を含む経路を介してのみエンジン20のトルクが伝達される。
なお、以下の説明においては、変速前にトルクを伝達している経路(前経路)のクラッチを前クラッチと称する。また、変速前にはトルクを伝達していない経路(すなわち、変速後にトルク伝達を行う経路、以下において次経路)のクラッチを次クラッチと称する。また、前経路上の変速機構を前変速機構と称し、次経路上の変速機構を次変速機構と称する。
図4は、変速制御の概要を説明するための図である。なお、図4においては、説明の簡略化のため、図2に示した変速機構30A、30B、クラッチ40A、40Bをさらに簡略化して示す。図4において、クラッチCpが前クラッチであり、クラッチCnが次クラッチである。変速機構Tpが前変速機構であり、変速機構Tnが次変速機構である。前変速機構TpのギアGp1は、前の変速段でトルクを伝達している可動ギア(5h、3i、4i、又は、6h)を示し、ギアGp2は前の変速段でトルクを伝達している固定ギア(1h、5i、3h、4h、6i、又は2h)を示す。さらに、次変速機構TnのギアGn1は、次の変速段でトルクを伝達する可動ギアを示し、ギアGn2は次の変速段でトルクを伝達する固定ギアを示す。また、図4においては、上述のように説明の簡略化のため、1つの可動ギアGp1、Gn1と1つの固定ギアGp2、Gn2を示す。また、固定ギアGp2、Gn2は出力軸32に固定され(すなわち出力軸32とスプラインで噛み合い)、出力軸32と一体的に回転する。可動ギアGp1、Gn1は、出力軸32に対して自由に相対回転する。また、可動ギアGp1、Gn1は、入力軸31に固定されたギアGp3、Gn3とそれぞれ噛み合い、ギアGp3、Gn3や入力軸31の回転に連動する。
図4Aに示すように、通常走行においては、2つのクラッチCp、Cnは係合状態(伝達トルク容量が最大の状態)に設定される。前変速機構Tpにおいては、前の変速段に対応する可動ギアGp1と固定ギアGp2とがドッグクラッチによって係合する。また、次変速機構Tnにおいては、全ての可動ギアが中立位置(いずれの固定ギアとも係合しない位置)に配置される。よって、エンジン20のトルクは、2つのトルク伝達経路のうち一方の経路(前クラッチCp及び前変速機構Tp)を介して、後輪3に向けて伝達される。他方の経路においては、次変速機構Tnにおいてトルク伝達が遮断される。
変速指令が生じると、制御装置10は、トルクを伝達する経路を一方から他方に切り換える。具体的には、制御装置10は、次変速機構Tnの可動ギアGn1と固定ギアGn2とを係合させ、前変速機構Tpの可動ギアGp1を中立位置にする。より具体的には、変速機構Tp、TnとクラッチCp、Cnは、変速制御において次のように動かされる。まず、制御装置10は、図4BのS1に示すように次クラッチCnの係合を解除し、S2に示すように、次変速機構Tnの可動ギアGn1を移動し、隣の固定ギアGn2に係合させる(所謂ドグ係合フェーズ)。その後、制御装置10は、図4CのS3に示すように、次クラッチCnを解放状態から係合状態に戻すとともに、前クラッチCpを解放状態にする(所謂トルクフェーズ)。最後に、制御装置10は、図4DのS4に示されるように前変速機構Tpの可動ギアGp1を中立位置まで移動させた後に、前クラッチCpを係合状態にする(所謂ドグ解放フェーズ)。
なお、上記のような変速制御を実行する際、変速中の後輪3の駆動力の増減(変速ショック)を抑えるために、前クラッチCp又は次クラッチCnの駆動部材41の回転速度と従動部材42の回転速度とを一致させるための回転制御(所謂イナーシャフェーズ)が、トルクフェーズ(図4CのS3を参照)の前または後に行われる。つまり、制御装置10の変速制御の複数の制御モードは、トルクフェーズがイナーシャフェーズの前に行われるか、または、イナーシャフェーズがトルクフェーズの前に行われる。
次に、図5乃至図11を用いて、本実施の形態におけるシフトアクチュエータ39の主な構成及びその動作について説明する。なお、当該シフトアクチュエータ39の構成は、例えば、特開2010−156408号公報に記載されているように周知であるので、下記において、その詳細については説明を省略する。図5は、本実施の形態におけるシフトアクチュエータの構成の一例について説明するための図である。具体的には、図5は、当該シフトアクチュエータの分解斜視図を示す。図6は、シフトアクチュエータの断面図を示す。具体的には、図6は、図5に分解斜視図として示したシフトアクチュエータ39のX方向の断面図を示す。
図5及び図6に示すように、シフトアクチュエータ39は、シフト機構500、シフトカム39b、シフトフォーク39a、を含む。なお、下記においては、モータ39cの回転に基づく回転力を蓄力する蓄力機構を含むシフト機構500を例として説明するが、本実施の形態は、これに限定されず、蓄力機構を含まないシフト機構500を用いてもよいことはいうまでもない。
シフト機構500は、第1回転部材501、位置決めシャフト502、第2回転部材503、規制部材504、第3回転部材505、収容部材506、第1伝達部材507、トーションバネ508、および、第2伝達部材509を含む。
シフトカム39bは、円柱形状であって、上記シフト機構500に接続される。また、シフトカム39bは、外周に外周溝を有する。シフトフォーク39aの一端は、当該外周溝に接続されるとともに、他端は、対応する可動ギアに接続される。よって、シフトカム39bが回転して、シフトフォーク39aが移動すると、これに伴い、可動ギアが移動し、対応する可動ギア及び固定ギアのドッグクラッチが係合または解放される。
具体的には、モータ39cが所定の回転角、回転すると、当該回転に基づいて、第1伝達部材507を介して、第3回転部材505が回転するとともに、トーションバネ508に当該回転に基づくトルクが蓄積される。当該トーションバネ508に蓄積されたトルクは第2伝達部材509を介して、第2回転部材503に伝達される。そして、当該トルクが所定のトルク以上となると、第2回転部材503が回転し、当該回転が第1回転部材501に伝達され、これにより、シフトカム39bが回転し、結果として当該シフトカム39bに接続されたシフトフォーク39aが移動する。このとき、第1回転部材501の回転は、バネ601及びバネ602により所定の回転角度に維持するための付勢力が付与されているので、シフトカム39bは、所定の回転角毎に間欠回転する。以下、シフトアクチュエータ39のより具体的な構成及び動作について説明する。
図5に示すように、モータ39cの回転軸には揺れ腕571が接続され、モータ39cの回転軸が回転することにより揺れ腕571が回動し、伝達機構572が略Y軸方向に移動する。これにより、第1伝達部材507が伝達機構572を介して、回転する。
第1伝達部材507が、図5の反時計回りに回転することにより、トーションバネ508の第2係止部582が第1伝達部材507の係止部573によって反時計回りの方向に押される。よって、トーションバネ508の第1係止部581において反時計回りの方向のトルクが発生する。
トーションバネ508に発生したトルクは、第1係止部581を介して第2伝達部材509の係止部591に与えられる。よって、第2伝達部材509に反時計回りの方向のトルクが与えられる。ここで、第2伝達部材509には、第2回転部材503のシャフト部531が固定されている。よって、第2伝達部材509に与えられたトルクは、第2回転部材503に与えられる。
図7Aに示すように、変速制御が開始されていない状態である基準状態においては、爪板536の先端面は、規制部材504のトリガ面701に近接した状態で対向している。この場合、トーションバネ508から与えられるトルクによって第2回転部材503が回転しようとしても、その回転動作の開始直後に爪板536の先端面がトリガ面701に当接する。よって、爪板536の移動は阻止され、第2回転部材503の回転を阻止する。
したがって、モータ39cの回転動作の開始直後は、第2回転部材503が停止した状態で第1伝達部材507を介して、第3回転部材505のみが回転する。これにより、トーションバネ508に反時計回りのトルクが蓄積される。なお、図7乃至図11のA図は、X方向に第2回転部材503、規制部材504、第3回転部材505等を見た様子を示し、図7乃至図11のB図は、それらを逆側から見た様子を示す。
第3回転部材505が、更に、回転すると、図8Aに示すように、第3回転部材505のトリガの凸部により爪板536が回転軸方向に押される。なお、この場合、図8Bに示すように、その他の部分には変化がなく、つまり、図7Bと同一の状態である。そして、9Aに示すように、第3回転部材505が基準状態から所定角度(例えば、約32.5°)回転すると、第3回転部材の傾斜面702によって、爪板536はトリガ面701上から完全に押し出される。これにより、トーションバネ508に蓄積されたトルクが開放される。その結果、図10A及び図10Bに示すように、第2回転部材503は、反時計回りに回転する。
そして、第2回転部材503が反時計回りに回転することによって、第1回転部材501が反時計回りに回転する。また、当該第1回転部材501の回転によって、シフトカム39bが回転する。よって、シフトフォーク39aが移動する。なお、図9Aに示した状態においても、図9Bに示すように、その他の部分には変化がなく、つまり、図7Bと同一の状態である。
なお、図11A及び図11Bに示すように、爪板534は、第2回転部材503が反時計回りに約30°回転したときに規制部材504の係止面704に当接する。これにより、第2回転部材503の回転角度が約30°に制限される。また、爪板536は、第3回転部材505が反時計回りに約45°回転したときに係止面705に当接する。これにより、第3回転部材505の回転角度が約45°に制限される。
このように、本実施の形態においては、第3回転部材505の回転可能角度が第2回転部材503の回転可能角度よりも大きく設定されている。この場合、第3回転部材505の回転角度が約30°以上になるようにモータ39cの回転軸を回転させることができるので、制御装置によるモータ39cの制御が容易になる。それにより、第3回転部材505の回転量が不足することを確実に防止することができる。その結果、第2回転部材503を確実に回転させることができ、シフトカム39bを確実に回転させることができる。
その後、制御装置10によりモータ39cが再び制御され、モータ39cの回転軸が時計回りに所定角度回転する。言い換えれば、回転軸が元の位置に復帰する。これにより、第1伝達部材507と第3回転部材505が時計回りに約45°回転する。その結果、第3回転部材505が元の位置(基準状態と同じ位置)に戻る。
なお、第2回転部材503が基準状態に戻る際には、第1回転部材501は外周面の凹部514においてボール603が移動部材604を介してバネ602により第1回転部材501側に付勢されていることによって回転を拘束されている。このときボール603によって第1回転部材501の回転を拘束するトルクは、第2回転部材503と第1回転部材501との相対回転を規制しようとするトルクより大きく設定されている。これにより、第1回転部材501およびシフトカム39bを停止させた状態で、第2回転部材503のみを回転させることができる。上記のようにして、モータ39cを所定の回転角度回転させる毎に、シフトカム39bを所定の回転角毎に間欠回転させることができる。なお、上記のように当該シフトアクチュエータの基本的な構成及び動作は、例えば、特開2010−156408号公報に記載されているように周知であるので、その詳細については説明を省略した。なお、上記蓄力機構や蓄力機構を含むシフトアクチュエータ39の構成や動作は一例であって、上記に限定されるものではない。
図12は、本実施の形態における変速制御についてのタイムチャートを示す。図12において、実線Sが目標シフトアクチュエータポジションを示し、破線Sが実際のシフトアクチュエータポジションを示す。また、図中、中立位置よりも上方向がモータの正回転に相当し、下方向が逆回転に相当する。よって、中立位置から上方または下方に離れるほど、回転角度が大きいことを意味する。また、実線Tcpがリリース側の目標トルクを示し、実線Tcpがエンゲージ側の目標トルクを示し、また、破線Tcpが実際のリリース側のトルクを示す。また、実線Gは、変速機30におけるギアのポジションを示し、実線Seはエンジン回転数(エンジン回転速度に対応する)を示す。
図12に示すように、通常走行時には、制御装置10は、シフトアクチュエータ39の目標シフトアクチュエータポジションが中立位置となるような目標位置信号を出力し、これにより実際のシフトアクチュエータ39のポジションも中立位置に維持される。また、制御装置10は、2つのクラッチCp、Cnが係合状態となるように伝達トルク容量が最大の状態となる目標トルク信号を出力し、実際のトルク容量も最大の状態に維持される。
次に、変速指令が生じると、制御装置10は、ドグ係合フェーズを開始する(t1)。当該ドグ係合フェーズにおいては、制御装置10は、次クラッチCnを係合状態から解放状態に変化させる。なお、係合状態とは、伝達トルク容量が最大となる状態であり、解放状態とは伝達トルク容量が最小(例えば、0Nm)となる状態である。また、制御装置10は、前クラッチCpを係合状態から半係合状態に変化させる。また、制御装置10は、シフトアクチュエータ39のポジションが変速位置となるように目標位置信号を出力する。これに伴い、上述のように蓄力機構にモータ39cの回転力が蓄力される。そして、上述のように蓄力された力が所定の値に達すると、蓄力が開放され、シフトカム39bが回転し、係合させる側のドッグクラッチを係合させるように対応する可動ギアを移動させる。具体的には、上述のように、例えば、次変速機構Tnの可動ギアGn1を固定ギアGn2に向けて移動させる。
次に、制御装置10は、トルクフェーズ(トルク相)を開始する(t2)。当該トルクフェーズにおいては、制御装置10は、次クラッチCnを解放状態から半係合状態に変化させる。前クラッチCpについては半係合状態に維持される。また、可動ギアGn1を固定ギアGn2は係合状態に維持される。
次に、制御装置10は、イナーシャフェーズ(イナーシャ相)を開始して、エンジン回転数Seを低下させる(t3)。具体的には、制御装置10は、前クラッチCpの伝達トルク容量を開放状態に変化させる。そして、制御装置10は、エンジントルクTeを次クラッチCnの伝達トルク容量Tcnより相対的に下げることで、エンジン回転数Seを低下させる。また、可動ギアGn1を固定ギアGn2は係合状態に維持される。
なお、当該ドグ開放フェーズ開始前に、制御装置10は、変速位置に移動したシフトアクチュエータ39のポジションを順に逆転位置、中立位置となるように目標位置信号を出力する。その後、ドグ開放フェーズ前に、解放する側のドッグクラッチを開放するために、シフトアクチュエータ39を変速位置に移動し、蓄力機構に蓄力する。なお、逆転位置とするのは、シフトアクチュエータ39のポジションを中立位置に確実に戻すために行うものである。
次に、制御装置10は、ドグ解放フェーズを開始する(t4)。ドグ開放フェーズにおいては、制御装置10は、前クラッチCpが係合状態となるように目標トルクを設定する。また、蓄力機構は、上記蓄力された力を開放し、これにより、変速機構Tpの可動ギアGp1を中立位置に向けて移動する。
具体的には、ドグ開放フェーズにおいて、解放される側の可動ギアGp1と固定ギアGp2のドグ部の係合が解除されるが、その後も制御装置10はシフトアクチュエータポジションを変速位置に保持する。よって、可動ギアGp1が変速位置から移動しようとした際には、シフトアクチュエータ39がシフトアクチュエータポジションを変速位置に保持する力に加え、シフトカム39bを所定の回転角に維持する付勢力(例えば、上記バネ601及び602等で構成される付勢部による付勢力)が当該シフトカム39bを介して当該可動ギアGp1に加わる。これにより、当該可動ギアGp1と固定ギアGp2の再係合を効果的に防止することができる。
その後、制御装置10は、前クラッチCpと次クラッチCnを係合状態に戻す。つまり、当該解放される側の可動ギアGp1及び固定ギアGp2に動力を伝達する側のクラッチCpをつなぐ。そして、該可動ギアGp1と固定ギアGp2との間に回転数差が生じた後に、シフトアクチュエータ39を逆回転位置にし、その後、中立位置に戻す。この際には、既に当該可動ギアGp1と固定ギアGp2との間に回転数差が生じていることから、シフトアクチュエータ39を中立位置に戻したとしても(付勢部の付勢力のみでも)、容易に当該可動ギアGp1と変速ギアGp2が係合することはない。
次に、図13乃至図16を用いて、本実施の形態の形態における制御装置10及び当該制御装置10を備えた車両のより詳細な動作フローについて説明する。図13に示すように、まず、制御装置10は、変速中か否か判断する(S101)。具体的には、例えば、後述するS201からS228のいずれかの処理が行われている場合には変速中と判断する。変速中でないと判断した場合には、S108のリターンに進み、スタートからの処理が再度開始される。一方、S101で、変速中であると判断した場合には、変速中であると判断してから所定時間が経過したか否か判断する(S102)。所定時間が経過していないと判断した場合には、後述する変速制御処理を行う(S107)。一方、S102において、所定時間経過したと判断された場合には、解放される側のドグが係合しているか否か判定する(S103)。
解放される側のドグが正常に解放されている、つまり、解放される側のドグが係合していないと判断した場合には、エンゲージ側のクラッチ(上記前クラッチCpに相当)及び、リリース側のクラッチ(上記次クラッチCnに相当)を完全に係合する(S104)。そして、S106へ進む。一方、解放される側のドグが係合していると判断した場合には、変速制御において、解放される側のドグが正常に解放されなかったと判断し、制御装置10は、エンゲージ側のクラッチを完全に係合するように指令するとともに、リリース側のクラッチを所定値、例えば、0Nmのトルク容量になるように指令する(S105)。そして、S106へ進む。次に、後述する変速制御処理を強制的に終了する(S106)。そして、S108のリターンに進む。
上記のように、変速中に解放される側のドグが正常に解放されたか否かにかかわらず、変速制御を終了する。これにより、変速動作の遅延が生じないことから、変速制御において、ライダーが当該遅延に基づく違和感を感じにくくすることができる。また、ドグの状態を精度よく検出する必要がなくなるので、分解能の良いセンサを使用したり、複雑な制御ロジックを制御装置10に組み込んだりする必要がなく、制御装置10及び当該制御装置10を備えた車両を簡易な構成にすることができる。さらに、この場合、所謂バックトルクリミッターと組み合わせ、リリース側のクラッチを一時的に低いクラッチ容量、例えば、0Nm、に制御することにより、ライダーに異常なショックや駆動力低下を感じさせずに異常状態(ドグの係合が維持される状態)を維持することができる。なお、当該違和感は短い変速時間が要求される場合に起こるので、一般的に短い変速時間で変速を行うマニュアルシフト時のみ、上記制御を行うように構成してもよい。また、この場合、変速中は、オーバーレブによるフューエルカット回転数を一時的に上げてもよい。これにより、変速開始と同時にエンジントルクが復帰し、それに応じてクラッチの制御が適切に行うことが出来るので、変速ショックを低減することができるとともに、加速力も変速開始と同時に復帰することができ、変速ショックと加速力を両立することができる。
次に、図14乃至図16を用いて、図13に示したS107の変速制御処理の詳細について説明する。まず、図14に示すように、制御装置10で処理されている制御が、パワーオンシフトアップまたはパワーオフシフトアップ制御か否かを判断する(S201)。パワーオンシフトアップまたはパワーオフシフトアップ制御でないと判断した場合にはS108のリターンに進む。
一方、パワーオンシフトアップまたはパワーオフシフトアップ制御であると判断された場合には、エンゲージ側クラッチとリリース側クラッチに所定の目標トルク容量を付与するトルク指令を与える(S202)。具体的には、エンゲージ側クラッチを、十分クラッチを切った状態(例えば、トルク容量を0Nmに制御)に制御する。一方、リリース側クラッチについては、トルク容量をアクセル開度から決まる目標エンジントルクに1次減速比を乗じた値に所定値を加算した値に制御する。ここで、所定値は、予め設定された定数(例えば、20Nm)としてもよいし、エンジントルクの所定倍(例えば1次減速比×1.2倍)としてもよいし、それらの組み合わせ等により決定してもよい。なお、S202が図12のタイミングt1に相当する。
エンゲージ側クラッチとリリース側クラッチが上記目標トルク通り制御されているか判断する(S203)。そして、エンゲージ側クラッチとリリース側クラッチが上記目標トルク通り制御されていると判断した場合には、S204に進み、エンゲージ側クラッチとリリース側クラッチが上記目標トルク通り制御されていないと判断した場合には、S202に戻る。
なお、当該判断は、例えば、制御装置10がクラッチアクチュエータ49A、49Bの位置を計測する計測部を備える場合には、クラッチアクチュエータ49A、49Bの位置とトルク容量の関係を予め計測しておき、実測した位置と目標トルク容量を実現する位置の偏差が所定範囲内であるか否かに基づいて判断してもよい。また、例えば、クラッチアクチュエータ49A、49Bが油圧を使ったクラッチアクチュエータ49A、49Bであって、かつ、制御装置10がその油圧を計測する計測部を備える場合には、当該油圧とトルク容量の関係を予め計測しておき、実測した油圧と目標トルク容量を実現する油圧の偏差が所定範囲内であるか否かに基づいて判断してもよい。あるいは、制御装置10が、クラッチアクチュエータ49A、49Bが動作した時に発生するケース(アクチュエータの反力を取る部分)の歪みを計測する計測部を備える場合には、当該歪みとトルク容量の関係を予め計測しておき、実測した歪みと目標トルク容量を実現する歪みの偏差が所定範囲内であるか否かに基づいて判断してもよい。なお、実測した位置等とトルクの関係は、静的なものであってもよいし、動的なものであってもよい。
S203でエンゲージ側クラッチとリリース側クラッチが上記目標トルク通り制御されていると判断した場合には、係合する側のドグ(次クラッチCnの下流に配置されたドグ)が係合しているか否か判断する(S204)。具体的には、制御装置10がシフトアクチュエータ39のシフト位置を検出する検出部を備える場合は、当該シフト位置が所定値範囲内を所定時間連続して検出された場合に、ドグが係合していると判断してもよい。または、制御装置10が、エンジン回転数とメイン軸回転数を検出する検出部を備える場合は、エンジン回転数÷1次減速とエンゲージ側のメイン軸回転数の差が所定範囲内にある状態が所定時間連続して検出された場合、ドグが係合していると判断してもよい。そして、ドグが係合していないと判断した場合はS205に進み、一方、ドグが係合していると判断した場合は、S210に進む。
S204でドグが係合していないと判断した場合には、制御装置10は、シフトアクチュエータ39を正回転する指令をシフトアクチュエータ39に出す(S205)。なお、当該正回転する指令は、シフトアクチュエータポジションを変速位置にまで回転させる目標位置信号に相当する。次に、ドグが係合したか、または、シフトアクチュエータ39の現在値が指令値になって所定時間の範囲内にあるか判断する(S206)。なお、ドグが係合したか否かは、ステップ204と同様に、例えば、シフトアクチュエータ39の現在値と指令値の偏差が所定値以下である状態が所定時間成立したか否か等により判断すればよい。次に、シフトアクチュエータ39を、逆回転する指令をシフトアクチュエータ39に出す(S207)。なお、当該逆回転する指令は、シフトアクチュエータポジションを逆転位置にまで回転させる目標位置信号に相当する。次に、シフトアクチュエータ39の現在値が指令値になって所定時間の範囲内にあるか判断する(S208)。そして、シフトアクチュエータ39を中立位置にする指令をシフトアクチュエータ39に出す(S209)。
エンゲージ側クラッチとリリース側クラッチに所定の目標トルク容量のトルク指令を与える(S210)。具体的には、エンゲージ側クラッチにアクセル開度から決まる目標エンジントルク×1次減速比で求められるトルク容量の指令を与える。一方リリース側クラッチに、S202と同様に、アクセル開度から決まる目標エンジントルク×1次減速比+所定値で求められるトルク容量の指令を与える。なお、S210が、図12のタイミングt2に相当する。次に、エンゲージ側クラッチのトルク容量の指令値がエンゲージ側クラッチの現在の値と等しい状態が所定時間成立しているか判断する(S211)。成立していないと判断した場合には、S210に戻る。一方、成立していると判断した場合にはS212に進む。
次に、変速時に発生するイナーシャトルクを算出する(S212)。具体的には、例えば、イナーシャトルク=ドライブ軸回転数×(変速前ギア比−変速後ギア比)×1次減速比/イナーシャ相発生時間×クランク周りイナーシャ、で表される式によりイナーシャトルクを求める。また、この時のイナーシャ相発生時間は、例えばアクセル開度と変速段に対するマップ値であり、下記表に基づいて算出する。
エンゲージ側クラッチ、リリース側クラッチ及びエンジンに所定のトルク容量の指令を与える(S213)。具体的には、エンゲージ側クラッチを、アクセル開度から決まる目標エンジントルク×1次減速比で求められるトルク容量に制御する。一方、リリース側クラッチについては、十分クラッチを切った状態に制御(例えば、トルク容量0Nmに制御)する。エンジントルクについては、アクセル開度から決まるエンジントルク−イナーシャトルクで求め荒れるトルクに制御する。なお、当該S213が、図12のタイミングt3に相当する。次に、リリース側クラッチのトルク容量の指令値とリリース側クラッチの現在値が等しい状態が所定時間成立しているか判断する(S214)。成立していると判断した場合には、S215に進み、成立していないと判断した場合には、S216に進む。
シフトアクチュエータ39を正回転する指令をシフトアクチュエータ39に出す(S215)。次に、イナーシャ相(イナーシャフェーズ)が完了したか判定する(S216)。具体的には、例えば、ドライブ軸回転数×変速後ギア比×1次減速比−エンジン回転数<適合値で表される状態が成立した場合に、イナーシャ相が完了したと判定するようにしてもよい。または、(ドライブ軸回転数×変速前ギア比×1次減速比−エンジン回転数)/(ドライブ軸回転数×(変速前ギア比−変速後ギア比)×1次減速比)>適合値のように回転数の比として表される状態が成立した場合にイナーシャ相が完了したと判定するようにしてもよい。または、上記2つの式で表されるいずれかの状態が成立した場合にイナーシャ相が完了したと判定するようにしてもよい。そして、イナーシャ相が完了したと判定した場合には、S217に進み、イナーシャ相が完了していないと判定した場合には、S212に戻る。
次に、S216でイナーシャ相が完了したと判定した場合には、エンジントルク指令値を元(つまり、アクセル開度から決まるエンジントルク)に戻す(S217)。なお、S217が図12のタイミングt4に相当する。次に、エンゲージ側クラッチとリリース側クラッチに所定のトルク容量を表す指令を出す(S218)。具体的には、例えば、エンゲージ側クラッチに完全係合容量を表す指令を、エンゲージ側クラッチに、例えば、0Nmを表す指令を出す。
リリース側クラッチのトルク容量の指令値とリリース側クラッチの現在のトルク容量の値が等しい状態が所定時間成立しているか否か判断する(S219)。成立していないと判定した場合には、S221に進む。一方、成立していると判定した場合には、S220に進み、S215のシフトアクチュエータ39の正転指令を継続させる(S220)。
ドグが所定時間開放されているか否か判定する(S221)。具体的には、シフト位置を検出する手段を備えた制御装置10を用いる場合は、シフト位置が所定値範囲内にある状態所定時間連続して検出された場合、ドグが係合していると判断する。エンジン回転数とメイン軸回転数を検出する手段を備えた制御器の場合は、エンジン回転数÷1次減速とエンゲージ側のメイン軸回転数の差が所定範囲内にある状態が所定時間連続して検出された場合、ドグが係合していると判断する。ドグが開放されていないと判断した場合には、S219に戻る。一方、S221でドグが所定時間解放されていると判断した場合には、両クラッチを完全係合容量に制御する(S222)。なお、リリース側クラッチについては、S218において完全係合容量に制御されている場合には、当該状態を維持する。
S215のシフトアクチュエータ39の正転指令を継続する(S223)。ステップ214と同様に、リリース側クラッチトルク容量の指令値と現在値が等しい状態が所定時間成立しているか判断する(S224)。成立していない場合には、S223に戻り、再度正転指令を行う。一方、成立している場合には、シフトアクチュエータ39を逆回転する指令をシフトアクチュエータ39に出す(S225)。S208と同様に、シフトアクチュエータ39の現在値が指令値になって所定時間の範囲内にあるか判断する(S226)。所定の時間を経過していないと判断した場合には、S225に戻る。一方、所定の時間を経過したと判断した場合には、S227に進み、シフトアクチュエータ39を中立位置にする指令をシフトアクチュエータ39に出す(S227)。そして、シフトアクチュエータが所定の時間中立位置にあるか否か判断する(S228)。中立位置にないと判断した場合には、S227に戻り、中立位置にあると判断した場合には、S108のリターンに進む。
本実施の形態によれば、上記のようにドグ開放フェーズにおいて、解放される側の可動ギアGp1と固定ギアGp2のドグ部の係合が解除されるが、その後も制御装置10はシフトアクチュエータポジションを変速位置に保持する。よって、可動ギアGp1が変速位置から移動しようとした際には、シフトアクチュエータ39がシフトアクチュエータポジションを変速位置に保持する力に加え、シフトカム39bを所定の回転角に維持する付勢力(例えば、上記バネ601及び602等で構成される付勢部による付勢力)が当該シフトカム39bを介して当該可動ギアGp1に加わる。これにより、当該可動ギアGp1と固定ギアGp2の再係合を効果的に防止することができる。
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態で示した構成やフローと実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成で置き換えることができる。例えば、上記フローにおいては、トルクフェーズが開始される(S210)前に、シフトアクチュエータ39に逆転指令乃至中立位置指令を行う処理(S207〜S209)をする場合にについて説明したが、図12に示したタイミングチャートに示すように、ドグ開放フェーズが開始される前に当該逆転指令乃至中立位置指令を行う処理(S207〜S209)をするように構成してもよい。また、上記においてはS101乃至S106の処理を行う場合について説明したが、当該S101乃至S106の処理を行わないように、つまり変速制御(S107)のみを行うように構成してもよい。更に、上記においては、パワーオンシフトアップ制御、パワーオフシフトアップ制御の場合について説明したが、パワーオンシフトダウン制御やパワーオフシフトダウン制御の場合に適用してもよい。また、上記実施の形態においては、シフト機構500が蓄力機構を有する場合について説明したが、蓄力機構を含まないシフト機構を適用してもよい。更に、上記においては自動二輪車1を例として説明したが、その他4輪バギーやスノーモービル等その他の車両について適用してもよい。