JP5802910B2 - Dnaを素子としたバイオセンサー - Google Patents

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Description

本発明は、分析物に特異的に結合するセンサータンパク質と、該センサータンパク質によって特異的に認識される核酸とを利用して、被検試料中の分析物を検出及び/又は定量する方法等に関する。
現在、鉛やカドミウム、ヒ素などの有害金属化合物による土壌や地下水、表層水などの汚染が報告されており、世界各地で大きな問題となっている。環境中有害金属汚染の分析に用いられる手法としては、フレーム原子吸光分光法(AAS)、フレームレス原子吸光分光法(FLAA)、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)などが知られている。しかし、これらの機器分析法は、分析を行うために試料の前処理が必要であり、現場での迅速な分析に対応できない上に、ランニングコストが高いといった短所がある。
このような機器分析法の短所を補う、有害金属の簡易検出法の開発が急がれている。検出対象物質を識別する生物由来の酵素、抗体、受容体などの被験分子をセンサー素子として用いるバイオセンサーもそのような簡易検出法の1つとして注目される。バイオセンサーにおいては検出反応が生化学的な反応や結合の特異性に基づくため、高感度測定が可能、測定・検出が迅速かつ簡便、ランニングコストが低い、センサー自体が小型で可搬性に優れるといった長所が挙げられる。また酵素反応、抗原抗体反応、リガンドのレセプターへの結合といった生化学的反応を利用することにより、特定物質との特異性が高い分析ができるという特徴を有するため、試料が少量で済み、センシングシステムの微小化も可能となる。
様々なバイオセンサーが研究されている中で、微生物細胞を利用したバイオセンサーは培養が容易で遺伝子操作が容易であるため、検出対象物質やレポーター遺伝子の幅広い選択が可能となり、用途の広がりが期待されている。組換え微生物バイオセンサーは宿主細胞、特定の物質に応答して下流遺伝子への転写を促進する誘導性プロモーター、そしてプロモーターの下流のレポーター遺伝子の三要素からなり、場合によってレポーターの発するシグナルを検出する装置を組み合わせたシステムを利用するものである。このシステムの場合、レポーターとしてよく利用されているのが細菌やホタル由来のルシフェラーゼ(非特許文献1〜3参照)、オワンクラゲ由来のGFP(非特許文献2及び4参照)、大腸菌由来のLacZ(非特許文献2及び5参照)などである。
本発明者らは、カロテノイド合成系酵素CrtAをレポーターとし、海洋性光合成細菌ロドブラム・サルフィドフィラム(Rhodovulum sulfidophilum)を宿主としたヒ素応答バイオセンサーを既に開発している(非特許文献6)。ロドブラム・サルフィドフィラムはカロテノイド合成系の一種、スフェロイデン経路を有しており、本来はその最終産物であるスフェロイデノンを蓄積し、赤色を呈する細菌である。そしてこのセンサーはスフェロイデン経路の最終段階を触媒するスフェロイデンモノオキシゲナーゼ(CrtA)をコードするcrtAを破壊して得られたcrtA欠損株を用いているため、スフェロイデノンの前駆体のスフェロイデンを蓄積して黄色を呈している。そのためcrtAをレポーター遺伝子とし、その上流にヒ素誘導性のプロモーターを組み込んだプラスミドをロドブラム・サルフィドフィラムの菌体内に導入することで、ヒ素存在下においてCrtA活性が復活し、黄色から赤色への色調変化が起こる。このような色調の変化を指標としてヒ素の存在を判定することができる。
さらに本発明者らは、嫌気条件下で培養できる淡水性紅色細菌であるロドシュードモナス・パルストリスと、ロドシュードモナス・パルストリスが有するスピリロキサンチン経路におけるフィトエンからリコペンへのフィトエン不飽和化酵素(CrtI)による不飽和化反応に注目し、大腸菌由来のヒ素誘導性オペレーター/プロモーター領域の下流にレポーター遺伝子crtIを組み込んだプラスミドを、ロドシュードモナス・パルストリスの菌体内に導入し、ヒ素存在下においてCrtI活性を復活させることで、振盪培養器を必要としないヒ素応答バイオセンサーを開発している(特許文献1)。
特願2007−340804
Wilson T, Hastings JW (1998) Bioluminescence Annu Rev Cell Dev Biol 14: 197-230 Stocker J, Balluch D, Gsell M, Harms H, Feliciano J, DaunertS,Malik KA, van der Meer JR (2003) Environ Sci Technol37: 4743-4750 Trang PT, Berg M,Viet PH, van MuiN, van derMeer JR (2005) Environ SciTechnol 39: 7625-7630 Tsien RY (1998) Ann Rev Biochem 67: 509-544 Silhavy TJ, Beckwith JR (1985) Microbiol Rev 49: 398-418 Fujimoto et al., (2006) Appl Microbiol Biotechnol 73(2): 332-338
上述のような微生物を用いたバイオセンサーは、培養のための器具や時間が必要になる上に、細胞によるばらつきが大きい等の問題があり、これらの問題を解決するためには無細胞系バイオセンサーの開発が必要である。本発明の課題は、分析物に特異的に結合するセンサータンパク質と、前記センサータンパク質によって特異的に認識される核酸とを利用して、被検試料中の分析物を検出及び/又は定量することのできる、コスト、操作性、迅速性の面で優れた方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明者らは、まず蛍光共鳴エネルギー移動を利用した方法、すなわち、DNAとタンパク質の相互作用を介した複合体分子の高次構造の変化を検出する蛍光共鳴エネルギー移動 (Fluorescence Resonance Energy Transfer; FRET) を利用した系の開発を試みた。FRETとは、ドナーとなるエネルギー供与体からアクセプターとなるエネルギー受容体へ励起エネルギーが移動する現象である。ここで重要なのがドナーとなる蛍光分子の発光エネルギーレベルとアクセプターとなる蛍光分子の吸収エネルギーレベルが重なるような2つの異なる蛍光分子を選択しておくことである(図24)。励起状態にあるドナーの近くにアクセプターが存在すると、ドナーからの発光が起こらないうちにその励起エネルギーがアクセプターを励起させ、その発光を検出することができる。距離が近いほどFRETは起きやすいため、分子間の相互作用や分子の構造変化を検出する手段として用いられている。
そこで、鉛及びカドミウムセンサータンパク質ZntRを利用したバイオセンサーについて検討することにした。大腸菌(E.coli)には重金属を細胞外に排出する働きをする酵素をコードする遺伝子zntAが存在している。このzntAの転写開始地点から上流の−10塩基と−35塩基の領域にはプロモーター領域DNA(以降、プロモーターDNA)の塩基配列が存在し、鉛及びカドミウムセンサータンパク質ZntRはこのプロモーターDNAに結合して、ZntRタンパク質−プロモーターDNAの複合体を形成する。鉛やカドミウム化合物といった重金属の非存在下では、プロモーターDNAは高次構造として折れ曲がった状態にある。一方、重金属存在下では重金属がZntRタンパク質に結合して高次構造が変化し、それに伴いプロモーターDNAは直鎖状になる。この重金属の有無によるZntRタンパク質−プロモーターDNA複合体の高次構造の変化を利用して重金属バイオセンサーの開発が可能ではないかと考えられた。
この重金属有無による高次構造変化を、FRETを用いて外部提示するために考案された原理を図25に示す。まず、プロモーターDNAの両末端に異なる2つの蛍光物質であるフルオレセインイソチオシアネート(Fluorescein isothiocyanate;FITC)とテトラメチルローダミン(Tetramethylrodamine;TAMRA)を結合させる。このとき、FRETによりTAMRAがFITCの発する蛍光を吸収して励起し、蛍光を発する。重金属非存在下では、プロモーターDNAの高次構造は折れ曲がった状態にあり、FITCとTAMRAが接近しているので、FITCの励起光を照射すると、発せられたFITCの蛍光でTAMRAが励起し、主としてTAMRAの蛍光が検出されると考えられる。しかし、重金属存在下では、プロモーターDNAの高次構造が直鎖状に変化するため、FITCとTAMRA間の距離が長くなりTAMRAはFITCの蛍光を吸収しにくくなる。そのためTAMRAは励起しにくくなり、主としてFITCの蛍光が検出されると考えられた。この重金属の有無による蛍光波長の変化を蛍光光度計で測定することで鉛やカドミウム化合物を検出あるいは定量することができると考えた。
同様に、ヒ素センサータンパク質ArsRを利用したバイオセンサーについて検討することにした。大腸菌には細胞にヒ素耐性を与えるヒ素耐性オペロンが存在する。ヒ素耐性オペロンの発現は遺伝子arsRがコードするヒ素センサータンパク質ArsRによって制御される。ArsRタンパク質はヒ素化合物の非存在下ではプロモーターDNAと結合し、ArsRタンパク質−プロモーターDNA複合体を形成する。そのためRNAポリメラーゼはプロモーターDNAに結合することができず、ヒ素耐性オペロンの転写が抑制される。しかし、ヒ素化合物の存在下ではArsRタンパク質とヒ素化合物が結合しその高次構造が変化してArsRタンパク質はプロモーターDNAから解離するため、RNAポリメラーゼがプロモーターDNAに結合してヒ素耐性オペロンの転写が開始される。こうしたヒ素化合物の有無によるArsRタンパク質とプロモーターDNAの結合と解離の変化を外部提示することでヒ素化合物を検出するバイオセンサーの開発が可能であると考えられた。
また、ZntRタンパク質を用いる場合と同様にタンパク質とDNAの結合・解離の変化をFRETにより外部提示する系が考えられた(図26)。まず、プロモーターDNAの一方の末端にTAMRAを結合させる。また、ArsRタンパク質を蛍光修飾するためにArsRタンパク質に緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein;GFP)を融合させたArsR−GFP融合タンパク質を用いた。このとき、FRETによりTAMRAはGFPの発する蛍光を吸収して励起し蛍光を発すると考えられた。ヒ素化合物の非存在下では、プロモーターDNAとArsR−GFP融合タンパク質は結合した状態であり、TAMRAとGFPが近接しているので、GFPの励起光を照射すると発せられたGFPの蛍光でTAMRAが励起し、主としてTAMRAの蛍光が検出される。しかし、ヒ素化合物の存在下では、プロモーターDNA鎖とArsR−GFP融合タンパク質は解離した状態となるため、TAMRAとGFP間の平均距離が長くなりTAMRAはGFPの蛍光を吸収しにくくなる。そのためTAMRAは励起しにくくなり、主としてGFPの蛍光が検出される。このヒ素化合物の有無による蛍光波長の変化を蛍光光度計で測定することでヒ素化合物を検出あるいは定量することができると考えられた。
しかし、後述する比較例から明らかなように、FRET法では本発明の課題を解決することはできなかった。そこで、本発明者らは、異なるアプローチの開発に迫られ、ヒ素と結合するセンサータンパク質であるArsRタンパク質と、カドミウム及び鉛と結合するセンサータンパク質であるCadCタンパク質とに注目し、それぞれのタンパク質をグリーン蛍光タンパク質(GFP)と融合させたArsR−GFP、CadC−GFPを作製した。これらの融合タンパク質が各々の特異的認識配列DNAと結合すること、さらに、金属イオンによりそれらの結合が阻害されることを確認した。次に、ArsRタンパク質の認識配列DNA(Pars−DNA)を固相化したプレートを作製し、ArsR−GFPのPars−DNA固相化プレートへのArsR−GFPの結合量が、亜ヒ酸の濃度依存的に低下することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下のとおりである。
(1)以下の(A)及び(B)の工程を含むことを特徴とする、被検試料中のヒ素(As)化合物、カドミウム(Cd)化合物及び鉛(Pb)化合物から選択される重金属化合物を水系で検出又は定量する方法
(A)前記の重金属化合物に特異的に結合する、GFPで標識されている、ArsRタンパク質又はCadCタンパク質であるセンサータンパク質と、該センサータンパク質によって特異的に認識される配列を含む、支持体に固相化された核酸とを、被検試料の存在下、前記センサータンパク質がArsRタンパク質のときは50mM以上のリン酸緩衝液(pH7.4)中で、前記センサータンパク質がCadCタンパク質のときは40mM以上の塩化ナトリウム溶液中でそれぞれ反応させる工程;
(B)固相化された核酸に結合した前記センサータンパク質を検出又は測定する工程;
(2)センサータンパク質が、検出可能なマーカータンパク質との融合タンパク質であることを特徴とする上記(1)記載の方法
また本発明は、以下のとおりである。
)センサータンパク質と核酸との結合が、重金属化合物により阻害されることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の方法
)あらかじめ5価のヒ素(As(V))化合物を還元処理して3価のヒ素(As(III))化合物に変換することを特徴とする上記(1)〜()のいずれか記載の方法
さらに本発明は、以下のとおりである。
)ヒ素(As)化合物、カドミウム(Cd)化合物及び鉛(Pb)化合物から選択される重金属化合物に特異的に結合する、GFPで標識されている、ArsRタンパク質又はCadCタンパク質であるセンサータンパク質と、該センサータンパク質によって特異的に認識される配列を含む、支持体に固相化された核酸と、前記センサータンパク質がArsRタンパク質のときは50mM以上のリン酸緩衝液(pH7.4)、前記センサータンパク質がCadCタンパク質のときは40mM以上の塩化ナトリウム溶液とを備えたことを特徴とする、被検試料中の重金属化合物の検出又は定量用キット
また本発明の実施の態様には、センサータンパク質と核酸との結合が、分析物により阻害されることを特徴とする上記のいずれか記載のキットや、センサータンパク質が、金属応答オペロンによりコードされるタンパク質であることを特徴とする上記のいずれか記載のキットや、金属応答オペロンによりコードされるタンパク質が、ArsRタンパク質又はCadCタンパク質であることを特徴とする上記キットや、分析物が、ヒ素(As)、カドミウム(Cd)、鉛(Pb)等の重金属の化合物であることを特徴とする上記のいずれか記載のキットが含まれる。
細菌の有害金属耐性オペロンの転写制御機構を示す図である。有害金属イオンが環境に存在しないときにはセンサータンパク質遺伝子とその下流遺伝子の発現がセンサータンパク質のプロモーターDNAへの結合により抑えられる。 DNAを素子とした有害金属バイオセンサーの原理を示す図である。 DNAを素子としたヒ素化合物バイオセンサーの構成要素を示す図である。 組換えArsR−GFP産生のために、E.coliBL21(DE3)(pLysS)に導入されたプラスミド(pETarsRgfp)の作製手順を示す図である。 ネーティブ−PAGEによるPars−DNAとArsR−GFPタンパク質の複合体形成ならびに亜ヒ酸添加による複合体の解離を示す図である。 ars−DNA固定化ウェルに添加後のタンパク質を、電気泳動より解析した結果を示す図である。レーン1、タンパク質粗抽出液をウェルに添加し反応後に抽出液を除去しウェル洗浄を行った後、結合したタンパク質を回収した画分;レーン2、タンパク質粗抽出液をウェルに添加し反応後に抽出液を除去しウェル洗浄を行った後、タンパク質を回収した画分;レーン3、タンパク質租抽出液;レーン4、分子量マーカー。 添加するタンパク質租抽出液量の変化に伴う、Pars−DNA固定化プレートへのArsR−GFPタンパク質結合量の変化を示す図である。 ars−DNAを素子としたバイオセンサーによる亜ヒ酸の検出結果を示す図である。*はP<0.05、**はP<0.005の有意差をそれぞれ示す。 洗浄条件(緩衝液)によるPars−ArsR−GFP複合体量の変化を示す図である。各測定値は各回の洗浄終了後に測定した蛍光強度を表す。 5価のヒ素As(V)の3価のヒ素As(III)への還元処理の流れを示す図である。 ArsR−GFPの形態別ヒ素に対する応答性の違いを示す図である。グラフはn=3の平均値±標準偏差を表す。 チオ硫酸ナトリウム還元処理によるAs(V)の検出結果を示す図である。ヒ素濃度は共に100μg/Lとした。グラフはn=3の平均値±標準偏差を表す。 緩衝液とpHの違いがヒ素検出へ及ぼす影響を示す図である。調製時の緩衝液pHが示されている。グラフはn=3の平均値±標準偏差を示す。 As(III)検出におけるArsR−GFPの標準曲線を示す図である。プロットはn=3の平均値±標準偏差を示す。R=0.95。 ヒ素センサーの交差応答性の検討結果を示す図である。グラフは金属非添加(-)の試料の蛍光強度を1として評価し、n=3の平均値±標準偏差を示す。 組換えCadC−GFPタンパク質産生のためにE.coliBL21(DE3)(pLysS)に導入されたプラスミド(pETcadCgfp)の作製手順を示す図である。 ネーティブ−PAGEによるPcad−DNAとCadC−GFPタンパク質の複合体形成ならびに2価鉛添加による複合体の解離を示す図である。 マイクロプレートにおけるPcadとCadC−GFPの複合体形成の確認を示す概略図である。E1、E2はPcad34を固定化したウェル、E3は固定化していないウェルを示す。 Pcad34固定化ウェルに残存するタンパク質の解析結果を示す図である。レーン1、3、4の試料は図18を参照。レーン2はCadC−GFPを含むタンパク質粗抽出液、レーン5は分子量マーカー(Presteined Protein Marker、 Broad Range(6−175kDa)、New England Biolabs社) Pcad34のウェルへの添加濃度に応じたCadC−GFP結合量の変化を示す図である。 CadC−GFPを含むタンパク質粗抽出液の添加量の検討結果を示す図である。上図はPcad34固定化ウェルへ添加後に測定した。下図はウェルを2回洗浄後に測定した。プロットはn=3の平均値±標準偏差を示す。 インキュベーション前のNaCl添加が鉛の検出試験に及ぼす影響を示す図である。グラフはn=3の平均値±標準偏差を示す。 Pb(II)及びCd(II)検出におけるCadC−GFPの標準曲線を示す図である。プロットはn=3の平均値±標準偏差を示す。*と**は0μg/Lとの間にそれぞれ5%水準と1%水準の有意差があることを示す。 FRETが起こるときのドナーとアクセプター蛍光分子のスペクトルの重なりを示す図である。 バイオセンサーにおけるFRETを介した鉛及びカドミウム化合物の検出原理を示す図である。 バイオセンサーにおけるFRETを介したヒ素化合物の検出原理を示す図である。 Hisタグ非修飾のZntRタンパク質発現用大腸菌株の育種の概要を示す図である。 組み換えZntRタンパク質発現の確認結果を示す図である。 ヘパリンカラムによるZntRタンパク質精製におけるクロマトグラムの結果を示す図である。 ヘパリンカラムによる精製画分におけるZntRタンパク質の確認結果を示す図である。 タンパク質の部分精製品に含まれるZntRタンパク質の確認結果を示す図である。 FITC(左)あるいはTAMRA(右)で標識したプローブDNAを用いたEMSAの結果を示す図である。 FITCとTAMRAで2重標識したプローブDNAを用いたEMSAの結果を示す図である。 2重標識したプローブDNAとZntRタンパク質部分精製液を混合した反応液における、Pb添加の有無における各蛍光スペクトルを示す図である。 組み換えArsRタンパク質発現用大腸菌株の育種の概要を示す図である。 組み換えArsR−GFP融合タンパク質発現用大腸菌株の育種の概要を示す図である。 組み換えArsR−GFP融合タンパク質の発現確認結果を示す図である。 ヘパリンカラム精製におけるA280とGFPの蛍光強度を指標としたクロマトグラム結果を示す図である。 ヘパリンカラム精製フラクション中のArsR−GFP融合タンパク質の確認結果を示す図である。 イオン交換カラム精製におけるA280とGFPの蛍光強度を指標としたクロマトグラム結果を示す図である。 イオン交換カラム精製フラクション中のArsR−GFP融合タンパク質の確認結果を示す図である。 ParsR-350プローブDNAとArsR−GFP融合タンパク質を使用したAsの検出試験の結果を示す図である。 ParsR-50プローブDNAとArsR−GFP融合タンパク質を使用したAsの検出試験の結果を示す図である。 R773-50プローブDNAとArsR−GFP融合タンパク質を使用したAsの検出試験の結果を示す図である。
本発明の被検試料中の分析物を検出又は定量する方法としては、[1]被検試料中の分析物に特異的に結合するセンサータンパク質と、該センサータンパク質によって特異的に認識される配列を含む、支持体に固相化された核酸とを、被検試料の存在下で反応させ、固相化された核酸に結合したセンサータンパク質を水系(水の存在下)で検出及び/又は測定する方法や、[2]支持体に固相化された、該分析物に特異的に結合するセンサータンパク質と、該センサータンパク質によって特異的に認識される配列を含む核酸とを、被検試料の存在下で反応させ、固相化されたセンサータンパク質に結合した核酸を水系で検出及び/又は測定する方法であれば特に制限されるものではなく、上記[1]の方法においては、検出可能なマーカーで標識されたセンサータンパク質や、検出可能なマーカータンパク質と融合させたセンサータンパク質を用い、固相化された核酸に結合しなかったセンサータンパク質を系外に排出することにより、固相化された核酸に結合したセンサータンパク質を水系で検出及び/又は測定することができ、また、上記[2]の方法においては、検出可能なマーカーで標識された核酸を用い、固相化されたセンサータンパク質に結合しなかった核酸を系外に排出することにより、固相化されたセンサータンパク質に結合した核酸を水系で検出及び/又は測定することができる。また、被検試料としては、特に制限されないが、重金属を含む河川水、汚水、井戸水、工場排水、汚染土壌等を好適に挙げることができ、汚染土壌等の固形物の場合、その水縣濁液や水抽出液を用いることができる。
また、本発明の被検試料中の分析物の検出又は定量用キットとしては、[3]分析物に特異的に結合するセンサータンパク質と、該センサータンパク質によって特異的に認識される配列を含む、支持体に固相化された核酸とを備えたことを特徴とする、被検試料中の分析物の検出又は定量用キットや、[4]分析物に特異的に結合し、支持体に固相化されたセンサータンパク質と、該センサータンパク質によって特異的に認識される配列を含む核酸とを備えたことを特徴とする、被検試料中の分析物の検出又は定量用キットであれば特に制限されるものではなく、上記[3]のキットにおいては、検出可能なマーカーで標識されたセンサータンパク質や、検出可能なマーカータンパク質と融合させたセンサータンパク質を用いることにより固相化された核酸に結合したセンサータンパク質を検出/測定することができ、また、上記[4]のキットにおいては、検出可能なマーカーで標識された核酸を用いることにより固相化されたセンサータンパク質に結合した核酸を検出/測定することができる。
本発明の被検試料中の分析物を検出及び/又は定量する方法に用いるセンサータンパク質としては、所定の配列を含む核酸と特異的に結合しうるタンパク質であって、かつ、所定の分析物によって上記核酸との結合が阻害されるタンパク質であれば特に制限されるものではないが、金属応答オペロンによってコードされるセンサータンパク質を好例として挙げることができる。上記金属応答オペロンとしては、特に制限されるものではないが、具体的には、ArsRタンパクをコードするarsや、CzcRをコードするczcや、CadCをコードするcadや、ChrBをコードするchrや、MerR1及びMrer2をコードするmerや、pbrRをコードするpbr等を例として挙げることができ、なかでもarsやcadを好適に示すことができる。上記金属応答オペロンによりコードされるセンサータンパク質は、それぞれ特定の金属応答オペロン領域DNA配列を認識するが、特定の金属イオンの存在下では、これらのセンサータンパク質は金属イオンと結合して高次構造が変化することにより、DNAに結合することができなくなる。例えば、上記ArsRタンパク質はars領域DNAと結合するが、その結合はヒ素により阻害される。また、上記CadCタンパク質はcad領域DNAと結合するが、その結合はカドミウムや鉛により阻害される。
上記[1]の本発明の被検試料中の分析物を検出及び/又は定量する方法においては、センサータンパク質は検出可能なマーカーで標識されていることが好ましく、上記検出可能なマーカーとしては、従来知られているペプチド標識用のマーカーであれば特に制限されるものではなく、例えば、32P、H、14C、125I等の放射性同位体や、FITC、TAMRA、サイバーグリーン、ダンシルクロライド、テトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質や、ビオチン、ジゴキシゲニンのような生物学的に関連する結合構造や、生物発光化合物や、化学発光化合物等を具体的に挙げることができる。また、上記センサータンパク質は、検出可能なマーカータンパク質と融合された融合タンパクであってもよく、上記マーカータンパク質としては、例えば、アルカリフォスファターゼ、HRP等の酵素、抗体のFc領域、GFP等の蛍光物質などのマーカータンパク質や、MBP、レクチン、アビジン等の結合能を有する結合性タンパク質や、HA、FLAG、Myc等のエピトープタグタンパク質などを具体的に例示することができる。なかでも、ArsRタンパク質とGFPとの融合タンパク質ArsR−GFPは、ArsRタンパク質の認識配列であるPars−DNAとの結合能を有するとともに、その結合は亜ヒ酸により濃度依存的に阻害されることから、優れた亜ヒ酸バイオセンサータンパクとして、本発明の亜ヒ酸を検出及び/又は定量する方法に利用できる。
また、上記[2]の本発明の被検試料中の分析物を検出及び/又は定量する方法においては、センサータンパク質によって特異的に認識される配列を含む核酸は検出可能なマーカーで標識されていることが好ましく、上記検出可能なマーカーとしては、従来知られている核酸標識用のマーカーであれば特に制限されるものではなく、例えば、32P、H、14C、125I等の放射性同位体や、FITC、TAMRA、サイバーグリーン、ダンシルクロライド、テトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質や、ビオチン、ジゴキシゲニンのような生物学的に関連する結合構造や、生物発光化合物や、化学発光化合物等を具体的に挙げることができる。
本発明の被検試料中の分析物(アナライト)を検出及び/又は定量する方法において、センサータンパク質又は核酸を固相化させる支持体としては、公知の支持体であれば特に制限されるものではなく、具体的には、プラスティック(ポリスチレン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、アガロース、セルロース、親水性ポリビニールアルコール、アクリレート系ポリマー、ポリアクリルアミドガラス、金属などを例示することができる。また、これらの支持体にセンサータンパク質又は核酸を固相化させる方法としては、公知の方法であれば特に制限されるものではなく、例えば、物理的吸着法や、ジアゾ法、ペプチド法(酸アミド誘導体法、カルボキシクロリド樹脂法、カルボジイミド樹脂法、無水マレイン酸誘導体法、イソシアナート誘導体法、臭化シアン活性化多糖体法、セルロースカルボナート誘導体法、縮合試薬を使用する方法)、アルキル化法等の架橋試薬による担体結合法などの共有結合法を採用することができ、なかでも物理的吸着法が好ましい。また、支持体にセンサータンパク質又は核酸を固相化させる場合には、他の物質を介して間接的に固相化させてもよい。具体的には、下記の実施例に示すように、核酸をビオチン標識し、ビオチンと支持体(プラスティックプレート)とを物理的吸着により結合させることにより、核酸を支持体に固相化することができる。
以上のように、本発明においては、細菌のプロモーター領域DNAとセンサータンパク質を素子としたヒ素、鉛・カドミウム検出用バイオセンサーにより重金属検出が可能であることが原理的に示されている。このセンサーは、細菌の転写スイッチで起きる変化を直接的に捉える無細胞型センサーであり、転写スイッチを構成するセンサータンパク質とプロモーター領域DNAの間で起こる結合と解離という二状態間の変化を緑色蛍光タンパク質(GFP)等の蛍光を利用して捉えることを特徴とする。以下、より具体的に説明する。
本発明の検出・定量方法においては、センサー部を交換・脱着可能なモジュールとするために、96ウェルのマイクロプレートのウェル内にセンサー素子が固定化されている。固定化する素子は、プロモーター領域DNAとセンサータンパク質の二通りが考えられる。プロモーター領域DNAを固定化する場合、ストレプトアビジンが固定化された96ウェルマイクロプレートに、3’末端にビオチンを標識したプロモーター領域DNAを反応させることによりDNAの固定化を行うことができる。プロモーター領域DNAを固定化したマイクロプレートのウェル内において、センサータンパク質−GFP溶液を反応させた後に洗浄操作を行い、ウェル内でプロモーター領域DNAと結合状態を保つセンサータンパク質−GFPの蛍光強度を蛍光マイクロプレートリーダーで測定するシステムである。
本発明方法においては、例えば、センサータンパク質であるArsR−GFPとCadC−GFPをそれぞれ生産する大腸菌株を育種して、これらの組み換えタンパク質がプロモーター領域DNAそして重金属に結合することを確認し、さらに、ArsR−GFPを用いたバイオセンサー開発においては、As(III)を含む試料とArsR−GFPを混合することで蛍光強度が減少することが明らかにされた。次に、プロモーター領域DNAとセンサータンパク質−GFPとの結合を安定化させる条件、あるいは複合体への結合と複合体の解離の状態変化を顕著化させる条件の検討を行った。さらに、CadC−GFPを用いたバイオセンサー開発において、Pb(II)やCd(II)を含む試料とCadC−GFPを混合することで蛍光強度が減少することを明らかにした。
その結果、まず、検出試験の手順においては、センサータンパク質−GFPを含むタンパク質粗抽出液と試料、サケ精子DNA、緩衝液とを混合し、室温もしくは氷上で30分間のインキュベートを行うことが重要であることが示された。センサータンパク質−GFPをウェルに添加し先にDNA−センサータンパク質−GFP複合体を形成させた後に試料を添加し、タンパク質の解離の度合いを測定する方法も考えられたが、こちらの手順は有効に機能しなかった。また、30分間のインキュベート時に40mM以上のNaClが存在することが、後の測定時に蛍光強度の変量を顕著化する上で重要であることが示された。
ヒ素の検出においては、チオ硫酸ナトリウムによる還元処理を施すことでAs(III)と同等にAs(V)を検出することが可能であった。この場合はまず、塩酸を加え酸性条件にした後にチオ硫酸ナトリウムを加え、最終的に水酸化ナトリウムで中和を行う。この過程を経て試料中にNaClを添加したときと同様に一定濃度のイオンが存在することになる。また、緩衝液の至適pHの検討により、pH7.4付近でセンサー素子の機能が最も発揮されることが確認された。そして、pHだけが重要なのではなく使用する緩衝液の種類によっても効果が変わることが判明し、ArsR−GFPではリン酸緩衝液が、CadC−GFPではトリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液が適することが確認された。検出下限はヒ素では5μg/L、鉛では10μg/L、カドミウムでは1μg/Lであり、世界保健機構が定める飲料水基準値以下での検出が可能であることが示された。今後の研究次第でさらなる高感度化が達成される可能性もある。検出に要する時間は、試料とタンパク質抽出液を混合して最初に行う15分間のインキュベーションも含めて40分間以内に完了することが見込まれる。ArsR−GFPとCadC−GFP共に、100μMの他の金属に対して交差応答性を示さず、目的金属に選択的に応答することが認められた。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
[バイオセンサーの原理]
蛍光標識センサータンパク質とDNAの相互作用を利用した有害金属バイオセンサーの開発を試みた。図1に示すように、ArsRタンパク質やCadCタンパク質などのセンサータンパク質は、大腸菌(E.coli)や黄色ブドウ球菌(S.aureus)における有害金属耐性オペロンの転写活性を制御する働きを担っている。これらのタンパク質は、有害金属イオンの非存在下ではプロモーターDNAと結合し、センサータンパク質−プロモーターDNA複合体を形成する。以上のようなセンサータンパク質の性質を利用して、ヒ素、鉛及びカドミウム化合物検出のためのバイオセンサーを開発した。図2にバイオセンサーの原理を示す。
基材表面へのDNAの固定化は、低分子ビタミンであるビオチンと塩基性糖タンパク質であるストレプトアビジンの二物質に着目した。これらの物質間で形成される結合は、1015−1以上という極めて高い結合定数を有し、不可逆に近い結合とされる。この結合に着目した理由として、ビオチンでDNA鎖の修飾が可能である点と、ストレプトアビジンの96穴マイクロプレート基材への固定化が可能である点、酵素結合免疫吸着法で汎用されている点、結合がDNAの鎖に直接的に影響を与えない点で有利であると考えたからである。さらに96穴マイクロプレートを利用することで多試料を一括して処理が可能になるため、ハイスループットスクリーニングの検出系の構築が期待できる。基材にはストレプトアビジンが修飾された96穴マイクロプレート(Reacti-Bind Streptavidin High Binding Capacity Coated 96-Well Plates : PIERCE社)を採用した。蛍光強度の測定はコロナ蛍光マイクロプレートリーダーMTP-601Lab(日立ハイテクノロジーズ社)を使用した。測定条件は励起フィルターに490nm、蛍光測定フィルターに530nmのものを使用し、検出感度は「AUTO」とした。
[バイオセンサーの構成要素]
ヒ素化合物のバイオセンサーの構成要素を図3に示す。大腸菌においてヒ素の細胞外排出ポンプをコードするarsB及びarsC遺伝子と、ArsRセンサータンパク質をコードするarsR遺伝子はarsR−arsB−arsCの順でオペロンを形成し、その転写活性はArsRタンパク質により制御される。ヒ素化合物バイオセンサーには、ArsR−GFP融合タンパク質と、arsR遺伝子上流のArsRタンパク質結合サイト(オペレーター配列)を中心とした50塩基対からなるプロモーター領域DNA(Pars−DNA)を選択した。プロモーター領域DNAについては、表1に示すParsR−50−S−3−B(配列番号1にParsR−50−Sの配列を示す)とParsR−50−A(配列番号2)を等量混合し、プロモーター配列下流の3’末端にビオチンが標識された二本鎖DNA(Pars−ビオチンと表記)を形成させた。次に、Pars−ビオチンを濃度が25pmol/100μLとなるよう調製し固定化に用いた。
一方、黄色ブドウ球菌において鉛やカドミウムの細胞外排出ポンプをコードするcadA遺伝子と、CadCセンサータンパク質をコードするcadC遺伝子はcadC−cadAの順でオペロンを形成し、その転写はCadCタンパク質により制御される。鉛及びカドミウム化合物のバイオセンサーには、CadC−GFP融合タンパク質と、CadC遺伝子上流のCadCタンパク質結合サイト(オペレーター配列)を中心とした34塩基対からなるプロモーター領域DNA(Pcad−DNA)を選択した。プロモーター領域DNAについては、表2に示すPcadC34−S−3−B(配列番号3にPcadC34−Sの配列を示す)とPcadC34−A(配列番号4)を等量混合し、プロモーター配列下流の3’末端にビオチンが標識された二本鎖オリゴヌクレオチド(Pcad34−ビオチンと表記)を形成させた。次に、Pcad34−ビオチンを濃度が20pmol/100μLとなるよう調製し固定化した。
[実験材料と方法]
(1)菌株(大腸菌株)
遺伝子クローニングにはJM109、DH5α(TaKaRa社製)を用いた。また、組換えタンパク質生産には、pAcGFP1プラスミドDNAのAcgfp1遺伝子の上流に大腸菌K12のarsR遺伝子をAcgfp1遺伝子と同じ読み枠で挿入した、BL21(DE3)pLysS(Novagen社)をそれぞれ用いた。また、形質転換株の培養はLB培地を用い、必要に応じてアンピシリン(Amp)、クロラムフェニコール(Cm)をそれぞれ終濃度50μg/mL、34μg/mLとなるように加えた。
(2)PCRによるarsR、cadC及びAcgfp1塩基配列の増幅
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)には、Pfx50 DNA Polymerase(Invitrogen社製)を用いた。大腸菌K12のarsR、黄色ブドウ球菌NCTC50581の内在性プラスミドDNAであるpI258にコードされるcadC、pAcGFP1プラスミドDNA(Clontech社製)にコードされるAcgfp1をそれぞれ増幅した。
(3)試薬
亜ヒ酸はsodium metaarsenite 98%(As(III))(Sigma社製)を、2価鉛は酢酸鉛(II)三水和物特級(和光純薬社製)をそれぞれ用いた。
(4)プラスミドDNA
PCRで増幅したDNA断片のクローニングの際にはpGEM−TベクタープラスミドDNA(Promega社製)を、組み換えタンパク質生産のための発現ユニットの作製の際にはpET−3aプラスミドDNA(Novagen社製)をそれぞれ用いた。
(5)組換えタンパク質の生産条件と調製法
組換えタンパク質の発現用BL21(DE3)pLysS形質転換株を、AmpとCmを添加した培地(AmpCmLB)5mLで、37℃、一晩培養し、得られた一晩培養液を0.5mLのAmpCmLBに植菌した。これを37℃で約12時間、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加せずに培養した。培養後、集菌し50mMのトリス−塩酸緩衝液(Tris−HCl、pH7.4)で2回の洗菌を行った後に、4mLの細胞破砕用緩衝液(15%グリセロールを含むTris−HCl)に再懸濁し−80℃で1回の凍結融解を行った。超音波破砕を行った後、15000rpmで15分間、遠心分離し、得られた上清を組み換えタンパク質粗抽出液とした。このタンパク質粗抽出液は−80℃で凍結保存し、試験時に融解し使用した。マイクロプレートを利用した亜ヒ酸(As(III))の検出時には上述のTris−HClの代わりに10mMのリン酸緩衝液(PBS、pH6.0)を用いた。また、超音波破砕時には2mLの細胞破砕用緩衝液(15%グリセロールを含むPBS)に細胞を懸濁させた。
(6)ゲルシフト法(Electrophoresis Mobility Shift Assay;EMSA)
プロモーターDNAと組み換えタンパク質と金属イオンを表3に示す組成で混合し、氷上で3時間(ArsR−GFPを用いた試験)あるいは1時間(CadC−GFPを用いた試験)のインキュベートを行った。反応液に表4のネーティブ−PAGE用サンプル緩衝液5μLを加えて計25μLとした。その後、ネーティブ−PAGEにより反応液中のDNAとタンパク質を展開したゲルに暗条件下LED光源ビジレイズ(AE−6935B、ATTO社製)により青色光を照射しGFP融合タンパク質を可視化した。
(7)マイクロプレートを利用した亜ヒ酸(As(III))の検出試験
110μLのDNA固定化用緩衝液(0.05%Tween20を含むトリス緩衝液−生理食塩水(TBS))に30pmolのPars−DNAを溶解させた溶液をマイクロプレート(Reacti-Bind Streptavidin Coated High Binding Capacity (HBC) Black 96-Well Plates、Pierce社製)に添加し、2時間室温でインキュベートすることにより、ウェル表面にPars−DNAを固定化した。200μLのDNA固定化用緩衝液で2回洗浄を行った後、200μLのTBSで1回洗浄を行った。タンパク質粗抽出液と亜ヒ酸溶液を表5に示す組成で混合し、氷上で2時間インキュベートを行った。その後、混合液をプレートに添加し室温で1時間インキュベートを行った。上清を除き、200μLの洗浄用緩衝液(0.05%Tween20を含む10mMPBS、pH6.0)で3回の洗浄を行い、最終的に150μLの50mMTris−HCL(pH7.9)を添加し、10分後にFluorescent Microplate Reader MTP-601Lab(コロナ−日立ハイテクノロジーズ社製)にて蛍光強度を測定した。この際のバンドパスフィルターとして励起光側は492nm、検出器側は530nmのものを用いた。
[結果及び考察:亜ヒ酸バイオセンサー]
(1)ArsR−GFP融合タンパク質の作製
まず、pAcGFP1プラスミドDNAのAcgfp1遺伝子の上流に大腸菌K12のarsR遺伝子をAcgfp1遺伝子と同じ読み枠で挿入した、pAcGFParsRを鋳型にしてPCRを行い、arsRとAcgfp1を含むDNAフラグメント、arsRgfpを増幅した。この際に用いたプライマーはarsR遺伝子の5’末端とAcgfp1遺伝子の3’末端に相補的な20塩基からなり、更にその5’側にはそれぞれNdeIサイトを付加した。arsRgfpをpGEM−TベクタープラスミドDNAに挿入しクローニングすることでpGEMarsRgfpを得た(図4)。pGEMarsRgfpをNdeI消化することでプラスミドDNAより切り出されたarsRgfpをアガロースゲル電気泳動で分離し回収した。pET−3aをNde1消化し、回収したarsRgfpとつなぎ合わせることでpETarsRgfpを得た。pETarsRgfpで大腸菌BL21(DE3)pLysSを形質転換することによりArsR−GFP融合タンパク質生産株を育種した。
(2)ArsR−GFP融合タンパク質の機能評価
このようにして得られた組換えタンパク質がArsRタンパク質としての機能性を有するか否かをゲルシフト法により確認した。ゲルシフト法ではタンパク質と核酸が特異的な結合を介して複合体を形成すると核酸単体あるいはタンパク質単体の場合と比較し電気泳動時の各分子の移動距離に差が生じ、ゲル上のバンドの位置に差異が生じる。これによりタンパク質と核酸の特異的な結合の有無を判別することが可能となる。ArsR−GFPタンパク質を含むタンパク質粗抽出液とPars−DNAを混合した結果、図5に示すように、Pars−ArsR−GFP複合体と推察されるバンドが確認された。また、Pars−DNAを添加せずタンパク質粗抽出液の反応液を泳動した場合には、このバンドが確認されないことから、このバンドがPars−ArsR−GFP複合体のものであることが裏付けられる。また、亜ヒ酸を反応液に添加した場合には、添加した亜ヒ酸の濃度が増加するにつれてPars−ArsR−GFP複合体のバンドが薄くなることが確認された。以上の結果から、ArsR−GFPタンパク質はPars−DNAと特異的に結合して複合体を形成すること、亜ヒ酸の存在によりPars−DNAとの結合が阻害されることが確認された。さらに、これらの結果は、GFP蛍光修飾によりArsRタンパク質の機能が損なわれないことを意味している。
(3)マイクロプレートを利用した亜ヒ酸検出系の開発
ars−DNAを固定化したウェルにArsR−GFPタンパク質を含むタンパク質粗抽出液を添加し、ウェル表面上でPars−ArsR−GFP複合体を形成させた。その後、タンパク質粗抽出液を除去し洗浄を行わずにウェル上のタンパク質をSDS−PAGE用のサンプル緩衝液で変性させ回収した。電気泳動による解析の結果、ArsR−GFPタンパク質の推定分子量41.8kDaの位置に濃いバンドが検出されたが、これ以外にも複数のバンドが確認された(図6レーン2)。同様の解析を、ウェル表面上でPars−ArsR−GFP複合体を形成させ洗浄を行った後に回収したサンプルで行った場合、ArsR−GFPの位置にほぼ完全に精製されたタンパク質が確認された(図6レーン1)。いずれのレーンのサンプルにおいても、タンパク質粗抽出液をそのまま展開した場合(図6レーン3)と比較し、飛躍的に目的タンパク質の精製が進んだことを示している。以上の結果から、ウェル表面にPars−DNAを固定化し、タンパク質粗抽出液を添加しインキュベートするだけで、Pars−DNAとArsR−GFPが高い特異性を維持しつつウェル表面でも結合し得ることが示された。この結果は、さらに、タンパク質精製のための煩雑なカラム操作が不要であることを示しており、バイオセンサーの作製にかかるコストを低減化することが可能である。
(4)ArsR−GFP含有タンパク質粗抽出液の添加量
次に、ウェル表面にPars−DNAを固定化した後に、添加するタンパク質粗抽出液量の変化により、ウェル洗浄後に残存する蛍光強度がどのように変化するかを調べた。図7の横軸はウェル中の100mL液量当りのタンパク質粗抽出液の液量、縦軸はウェル上においてPars−DNAと複合体を形成しているArsR−GFPの蛍光強度を示す。蛍光強度は粗抽出液の液量が増加するとそれに伴い増加したが、40mLでプラトーに到達した。このことは、ウェル表面で固定化されたほぼ全てのPars−DNAに対してArsR−GFPとの複合体を形成させるためには100mL液量当り40mLのタンパク質粗抽出液の液量で十分であることを示している。これ以上の量の抽出液を添加した場合には、遊離ArsR−GFPタンパク質が反応系に過剰量存在することになり、亜ヒ酸を検出する際に過剰に存在する遊離ArsR−GFPがPars−DNAに結合することで検出感度の低下を招くことも予測される。従って、暫定的に40mLのタンパク質粗抽出液に相当するArsR−GFPの量を適用して亜ヒ酸の検出を行った。
亜ヒ酸の検出を行うにあたり、上述のタンパク質粗抽出液40mLに相当する量を5mLにまで濃縮した粗抽出液を調製した。そしてタンパク質粗抽出液と亜ヒ酸を5:95の割合で混合し、実施例2の[実験材料と方法]に記載の手順に従い3時間後に蛍光強度の測定を行った。その結果、亜ヒ酸添加により蛍光強度の有意な減少が観察され、減少幅は50μg/Lよりも100μg/Lの方が大きくなる傾向が認められた。マイクロプレートを利用したDNAを素子とする亜ヒ酸検出用バイオセンサーが原理的に50μg/Lの亜ヒ酸を検出可能であることが示された(図8)。
(5)洗浄条件の検討
前記のように、センサー素子となるParsとArsR−GFPからなる複合体を96穴マイクロプレート上で構築することが可能であると判断した。また、余剰のArsR−GFPタンパク質溶液をPars固定化ウェルから除去し、表6に示す10mM PB−Tによる洗浄を行ったところ、洗浄回数を重ねる毎にウェル内GFP由来の蛍光強度の減少が認められた。この減少はArsR−GFPが洗浄操作でParsから解離したことによると考えられたため、基材上でセンサー素子複合体が維持され、かつ余剰のArsR−GFPや夾雑タンパク質の系内からの排除が可能な洗浄条件が必要であると考えた。そこでArsR−GFPを利用して、下記のpHが異なる二つの緩衝液(表6)で洗浄操作を行い、蛍光強度の減少度を調べた。
一回の洗浄操作において200μLの緩衝液をウェルへ添加し、96穴マイクロプレートを手に持ち、5秒間、軽く振盪させ緩衝液を振り落とした。再度、200μLの緩衝液をウェルへ添加して蛍光測定を行った。この操作を4回繰り返し、最後は100μLのTBS−T(表6)を全ウェルへ添加し、pHを7.4として蛍光強度の測定を行った(図9)。
GFP等の蛍光タンパク質はpHに依存して蛍光強度が変化する性質が知られており、GFPの場合、中性付近においてpHが高くなるに連れて蛍光強度が高くなることが知られている。PB−Tでの洗浄1〜3回目の蛍光強度は、pH6.0の弱酸性下での測定であったためTBS−Tでの洗浄でpH7.4の弱塩基性下での測定で得られた蛍光強度よりも低いことが考えられる。二つの緩衝液ともに洗浄回数を重ねる毎に蛍光強度の減少が見られたが、4回目の洗浄操作終了後にpH7.4のTBS−Tを加えることによりpHを7.4にして蛍光強度を測定すると、PB−Tでの洗浄ではTBS−Tの1回目の洗浄終了時の蛍光強度とほぼ同じ値であった。洗浄操作による複合体の減少率はTBS−TよりもPB−Tの方が小さかったため、PB−Tの方が洗浄用緩衝液に適すると判断した。以降の試験ではPB−T(pH6.0)を洗浄用緩衝液に採用し、洗浄時における回数や時間などを適宜変えて使用することにした。
(6)ヒ素の還元処理法の検討
センサータンパク質であるArsRは無機ヒ素である3価のヒ素As(III)と5価のヒ素As(V)に対して、それぞれ親和性が異なり、As(III)に対して親和性が高いことが知られている。しかし、飲料水基準値で示されるヒ素は亜ヒ酸とヒ酸の区別をしておらず、ArsR−GFPを素子とするセンサーでAs(III)とAs(V)のヒ素を同等の感度で検出することが好ましい。そこでAs(V)をAs(III)へと還元することでAs(V)をAs(III)と同等に検出可能であるか否かを検討した。試験では、As(V)としてヒ酸ナトリウムを、As(III)として亜ヒ酸ナトリウム、還元剤としてチオ硫酸ナトリウムをそれぞれ用いた。
試料の還元処理は図10に示す手順で行った。試料の450μLに2N塩酸溶液の20.0μLを添加し、pHを1付近にした。次に、用事調製した250mMチオ硫酸ナトリウム水溶液の1.0μLを添加後、室温で10分間のインキュベーションを行った。10分後に2.5N水酸化ナトリウム溶液の16.0μLを添加し中和した。なお、pHの確認はpH試験紙により行った。
Asを既定濃度に調製し還元処理を行わない試料もしくは還元処理を行った試料の92μLとArsR−GFPを含むタンパク質粗抽出液の7.5μL、10mg/mLサケ精子DNAの0.5μLを混合し、氷上で30分間のインキュベーションを行った。その後、混合液をPars固定化ウェルに添加し、室温で2時間の振盪を行った。2時間後にウェル内の混合液を除去し、200μLのPB−T(表6)により5秒間の洗浄を1回行った。洗浄後、ウェルに150μLの蛍光測定用緩衝液(50mM Tris−HCl pH7.9、1M NaCl、0.1%(w/v)Tween-20)を添加し、蛍光測定を行った。
還元処理を行わない既定濃度のAsを含む試料では、As(III)で濃度と相関して蛍光強度の減少幅が増加したが、As(V)では100μg/Lにおいてもほとんど蛍光強度の減少が見られなかった(図11)。しかし、還元処理を行うことによりAs(V)においてもAs(III)と同等の蛍光強度の減少が認められた(図12)。また、超純水を試料とした時の蛍光強度を還元処理ありとなしで比較すると有意な差が認められないことから、還元処理そのものは検出に影響を及ぼさないことが判る。
開発したヒ素センサーArsR−GFPでは100μg/LのAs(V)にさえも蛍光強度の変化を示さなかったことから、ArsR−GFPはAs(V)に対して極めて応答性が低いことが確認された。しかし、チオ硫酸ナトリウムによる還元処理を施すことでAs(III)と同等の蛍光強度の変化を示したことから、As(V)からAs(III)への還元を介してセンサーがAs(V)もAs(III)と同等に検出できることが示された。なお、データでは示していないが、還元処理においてpHを強酸性域にした上でチオ硫酸ナトリウム処理を行わない限り、As(V)を検出できないことが明らかとなった。そのため、還元処理において塩酸などの酸を加えることは必要不可欠であると考えられる。
(7)還元処理後に試料に添加する緩衝液とそのpHの最適化
開発したヒ素センサー素子はタンパク質であるため、極端なpH条件下では素子自身が変性を起こし、センサーとして機能しなくなる可能性がある。そのため、どのようなpHの試料に対しても、センサーとしての機能が発揮される至適pHに近づける必要があると考えられる。そこで、ヒ素検出試験時のpHの影響を確認した。検出試験に際しては、亜ヒ酸を含まない試料と100μg/LのAs(III)を含む試料の各445μLに2N塩酸の20.0μL、500mM エチレンジアミン四酢酸(pH8.0)の5.0μL、250mM チオ硫酸ナトリウムの1.0μL、2.5N 水酸化ナトリウムの16.0μLを順次加えることで還元処理を行った。その後、表7に示す緩衝液の25.0μLを添加し試料のpH条件の影響を検討することとした。緩衝液の緩衝能を高めるために濃度を1M(終濃度50mM)とした。
各緩衝液を加えた後の試料とArsR−GFPを含むタンパク質粗抽出液、サケ精子DNAを混合し、氷上で30分間のインキュベーションを行った。その後、混合液をPars固定化ウェルに添加し、室温で2時間の振盪を行った。ウェル中の余剰のArsR−GFPタンパク質溶液を除去し、200μLのPB−T(表6)により5秒間、1回の洗浄を行った。洗浄後にウェルに150μLの蛍光測定用緩衝液を添加し蛍光強度の測定を行った(図13)。
リン酸緩衝液の3条件を比較するとpHが高くなるにつれて亜ヒ酸を添加しない条件でPars−ArsR−GFP複合体の形成量が増加し、さらにAs(III)100μg/L含有試料との蛍光強度の減少幅も増加した。しかしながら、pHが7.4の二条件を比較するとトリス緩衝液では、減少幅が減少したことからセンサーの信号が弱められることが明らかとなった。この結果は、pHを一定にしてヒ素検出試験を実施しなければ、ヒ素濃度が同じでも、異なる結果となり得ることを示唆している。緩衝液などの利用により試料のpHを調整することは不可欠であると考える。図13と図9の結果より、試料のpHを一定にする際には1M程度の緩衝能の高いリン酸緩衝液により、pHを7.4付近に、リン酸緩衝液終濃度を50mM以上に調整してヒ素検出試験を実施するのが適当であると判断される。
(8)ヒ素検出における標準曲線
これまでの試験で得られた洗浄そして蛍光強度の測定条件にて亜ヒ酸の検出試験を行った。「(7)還元処理後に試料に添加する緩衝液とそのpHの最適化」で行った方法による試料の還元処理後にpH7.4の1Mリン酸緩衝液の25μLを加えた。こうして得られた処理後の試料の95μLと4.5μLのArsR−GFP溶液、0.5μLの10mg/mLサケ精子DNAを混合し氷上で30分間のインキュベーションを行った。その混合液を30分後にPars固定化ウェルに添加し、室温で10分間の振盪を行った。10分後に余剰の混合液を除去し、200μLのPB−T(表6)により5秒間の洗浄を1回行った。洗浄後、ウェルに50mMトリスヒドロキシメチルアミノメタン−HCl、pH7.9の150μLを添加し蛍光測定を行った。As(III)検出におけるArsR−GFPの標準曲線を図14に示す。
試験ではAs(III)の濃度と蛍光強度に負の相関が認められた。また、蛍光強度はAs(III)濃度0μg/Lと比較した場合、As(III)濃度5μg/Lにおいて有意な減少を示し、50μg/Lにおいての50%の減少を示した。今回の結果から、測定条件を検討することにより、開発したヒ素センサーは世界保健機構の定める飲料水の基準値である10μg/LのAs(III)を検出することが可能であることを示すことができた。
(9)ヒ素センサーの交差応答性
ヒ素センサーは3価ヒ素のμg/Lオーダーの検出が可能であることが確認された。しかしながら、センサーの重要な要素である選択応答性を持つことは示されていない。そこで、ヒ素センサーのヒ素以外の金属に対する応答性について調べることにした。試料としては、1.0μM、10μM、100μMの塩化カルシウム、塩化カドミウム、硫酸銅(II)、硫酸鉄(II)、塩化鉄(III)、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、酢酸鉛(II)、硫酸亜鉛を試験した。As(III)とAs(V)の同時検出においては、チオ硫酸ナトリウムによる試料の還元処理が必要であるため、本試験においても「(7)還元処理後に試料に添加する緩衝液とそのpHの最適化」で行った方法で試料の還元処理後にpH7.4の1Mリン酸緩衝液の25μLを加えた。その後、前項と同様にArsR−GFP溶液とサケ精子DNAを混合し、氷上で30分間のインキュベーションを行った。混合液をPars固定化ウェルに添加し、室温で2時間の振盪を行った後に、ウェル内の余剰の混合液を除去し、200μLのPB−T(表6)により5秒間、1回の洗浄を行った。洗浄後、ウェルに150μLの蛍光測定用緩衝液を添加し蛍光測定を行った(図15)。
図14のヒ素検出標準曲線から、ヒ素センサーは1μM(=75μg/L)のAs(III)に対して0μg/Lの値から50%以上の減少幅を示すことが予測される。一方、本試験結果ではその100倍濃度の各金属に対しても交差応答を示さなかった。このことから、ヒ素センサーは高い選択性を持って、ヒ素に応答していることが確認された。この結果は、本来ArsRタンパク質がヒ素に対して持つ特異性の他に、試料の還元処理の際に加えたエチレンジアミン四酢酸の金属キレート作用も効果的に作用していることが推察される。
[結果及び考察:鉛及びカドミウムバイオセンサー]
(1)CadC−GFP融合タンパク質生産大腸菌株の育種
実施例3に記載の、ArsR−GFP融合タンパク質作製と同様の方法で、CadC−GFP融合タンパク質を作製した。pGEMarsRgfpをSphIとBamHIで消化し、切り出されたフラグメントを除去することでpGEMgfpを得た(図16)。pI258プラスミドDNAを鋳型にしてPCRを行い、cadCを含むDNAフラグメントを増幅した。この際にプライマーは、cadC遺伝子の5’末端に相補的な20塩基にSphIとNdeIサイトを、3’末端に相補的な20塩基にBamHIサイトを付加したものを用いた。cadCをSphIとBamHIで消化しpGEMgfpとつなぎ合わせることでpGEMcadCgfpを得た。pGEMcadCgfpをNdeIで消化することでプラスミドDNAより切り出されたcadCgfpをアガロースゲル電気泳動で分離し回収した。pET−3aをNdeI消化し、回収したcadCgfpとつなぎ合わせることでpETcadCgfpを得た。pETcadCgfpで大腸菌BL21(DE3)pLysSを形質転換することによりCadC−GFP融合タンパク質生産株を育種した。
(2)CadC−GFP融合タンパク質の機能評価
実施例3と同様に、CadC−GFP融合タンパク質がCadCタンパク質の機能を有するか否かをゲルシフト法により確認した。CadC−GFPタンパク質を含むタンパク質粗抽出液とPcad−DNAを混合すると、Pcad−CadC−GFP複合体と推察されるバンドが確認された(図17上)。Pcad−DNAを添加せずタンパク質粗抽出液の反応液を泳動した場合にはこのバンドが確認されないことから、このバンドがPcad−CadC−GFP複合体のものであることが裏付けられる。また、2価陽イオンである鉛、カルシウム、又はマグネシウムイオンをそれぞれ反応系に添加すると、いずれの場合においても、Pcad−CadC−GFP複合体のバンドが薄くなることが確認された(図17下)。しかしながら、2価鉛を添加したときにはカルシウムあるいはマグネシウムを添加したときよりも、より顕著にバンドが薄くなったことからCadC−GFP融合タンパク質は一定の選択性を持って2価鉛と結合しPcad−DNAとの結合定数あるいは解離定数を変化させることが推察される。
(3)マイクロプレートを利用した鉛とカドミウム検出系の開発
CadC−GFP融合タンパク質を含むタンパク質粗抽出液とPcad−DNAを固定化したマイクロプレートを用いて、亜ヒ酸検出系と同様の原理で鉛化合物とカドミウム化合物を検出するバイオセンサーを構築した。
CadC結合配列を持つPcad34−ビオチンを図18に示すE1とE2のウェルに固定化した。E3のウェルにはDNA鎖を固定化しなかった。E1からE3のウェルへ100μLのCadC−GFPを含むタンパク質粗抽出液を添加し、室温で2時間の振盪を行った。2時間後に余剰のタンパク質粗抽出液を除去した。E1のウェルに100μLのタンパク質可溶化緩衝液(表8)を添加し、室温で30分間の振盪を行った後に緩衝液を回収し電気泳動(SDS−PAGE)のレーン3にロードした。これとは別にE2とE3のウェルに、200μLのPB−T(表6)を加えては取り除く操作を繰り返し2回の洗浄を行った。その後に100μLのタンパク質可溶化緩衝液を添加し、室温で30分間の振盪を行いウェル内に残存するタンパク質を可溶化し、電気泳動のレーン4とレーン1にそれぞれロードした。回収されたタンパク質可溶化緩衝液は、ロードする前に98℃で5分間のインキュベーションにより処理された。電気泳動は250V、定電流20mA、室温の条件により行われた。
電気泳動の結果、図19のレーン2のCadC−GFPを含むタンパク質粗抽出液と比較し、Pcad34を固定化したウェルにタンパク質粗抽出液を接触させることで残存したタンパク質においてCadC−GFPが濃縮・精製されたことが判る(レーン3)。このことは、CadC−GFPの計算から求められる分子量の位置に、タンパク質が主要バンドとして認められたことから判断される。また、ウェルの洗浄を行うことで、さらに夾雑タンパク質のバンドが減少しCadC−GFPが濃縮・精製されたことが判る(レーン4)。一方、ウェルにPcad34を固定化しない場合には、洗浄によりCadC−GFPは洗い流されたことが判る(レーン1)。この結果より、Pcad34を固定化した96穴マイクロプレート上に、タンパク質粗抽出液からCadC−GFPを特異的に結合させることが可能であることが確認できた。よって、鉛・カドミウムセンサー素子としてPcad DNAとCadC−GFPセンサータンパク質との複合体を96穴マイクロプレート上で形成させる系を検討することとした。
(4)鉛・カドミウムセンサーにおけるPcad固定化量の検討
Pcadの3’末端にビオチンが標識されたPcad34−ビオチンのウェルへの結合量を確認し、センサーを構築する上での参考にした。Pcad34−ビオチンの濃度が0〜50pmol/100μLとなるよう調製し、ウェルへの固定化に使用した。CadC−GFPを含むタンパク質粗抽出液は、図16に示すように育種されたE.coli BL21(DE3)pLysS(pETcadCgfp)の培養液の50mL中の細胞を4mLのTG(50mMトリスヒドロキシメチルアミノメタン−HCl pH7.4、15%(v/v)グリセロール)に懸濁し氷上にて、UD−201(トミー精工社)を利用して超音波破砕(発振出力3、インターバル50%、5分間を4回)を行うことにより調製した。99μLのタンパク質粗抽出液と1.0 μLの10mg/mLサケ精子DNAを混合しPcad34固定化ウェルに添加し、室温で2時間の振盪を行った。2時間後に余剰のタンパク質粗抽出液を除去し、200μLのPB−T(表6)により5秒間、2回の洗浄を行った。洗浄後、ウェルに50mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン−HCl(pH7.9)の150μLを添加し蛍光測定を行った。その結果、20pmol/100μLまではPcad34の固定化量の増加に応じて、CadC−GFP結合量の増加が見られた(図20)。Parsの固定化の結果と同様に、蛍光強度は固定化量20pmol/100μLで飽和に達した。今回の試験で使用したタンパク質粗抽出液中のCadC−GFP量は十分であったと考えられるため、Pcad34のウェル上の固定化量が10−20 pmol/100μLで飽和に達したと考えられる。結論として、鉛・カドミウムセンサーを構築する上でPcad34を固定化に使用する濃度は20pmol/100μLを上限とすることにした。
(5)鉛・カドミウムセンサーにおけるCadC−GFP添加量の検討
ウェル当たり20pmolのPcad34使用量に対し、CadC−GFPを含むタンパク質粗抽出液の最適添加量の検討を行った。Pcad34−ビオチンを20pmol/100μLとなるよう調製し、ウェルに添加することで固定化した。CadC−GFPを含むタンパク質粗抽出液の99μLと10mg/mLサケ精子DNAの1.0μLの混合液を調製した。次に、この混合液をTG(50mMトリスヒドロキシメチルアミノメタン−HCl pH7.4、15%(v/v)グリセロール)によって混合液の全量に対する容量比が0−100μL/100μLとなるよう希釈した。そして、この希釈試料をPcad34固定化ウェルに添加し蛍光測定を行った(図21上図)。その後に室温で1時間の振盪を行った後に、余剰の希釈試料を除去し、200μLのPB−T(表6)により5秒間の洗浄を2回行った。洗浄後にウェルに50mM Tris−HCl、pH7.9の150μLを添加し蛍光測定を行った(図21下図)。
その結果、ウェルに添加した溶液の容量比が80〜90μL/100μL程度でCadC−GFPのPcad34への結合量が飽和に達した。使用したタンパク質粗抽出液に関しては、容量比が80−90μL/100μL以上では20pmolの固定化Pcad34に対してCadC−GFPが過剰になると考えられる。つまり検出試験において、タンパク質粗抽出液が今回の容量比80〜90μL/100μLの濃度よりも高くなると鉛やカドミウムに対する検出感度の低下が予想されるということである。今回の試験で使用したタンパク質粗抽出液中のCadC−GFP濃度を目安に鉛・カドミウムセンサーの構築を行うことにした。しかしながらArsR−GFPの場合と同様に、CadC−GFPを含むタンパク質粗抽出液も夾雑タンパク質が含まれたE.coli細胞破砕液であるため、正確にCadC−GFP濃度を算出するのが困難である。そこでpH7.4におけるタンパク質粗抽出液の蛍光強度を基に簡易的にCadC−GFPの濃度を決めることにした。
CadC−GFPとArsR−GFPを比較する上での大きな違いは、各タンパク質溶液が持つ蛍光強度を仮にセンサータンパク質−GFPの濃度と考えた場合に、一定量のプロモーター領域DNA鎖に対する結合を飽和させるのに必要な量が異なる点が挙げられる。CadC−GFPでは、蛍光強度と液量の積がより多くなるようにタンパク質粗抽出液を添加する必要がある。これは、各センサータンパク質−GFPとプロモーター領域DNA鎖との結合定数が異なるということや、使用しているPcad34の塩基数が不十分であるなどの原因が考えられる。そこで、複合体を形成させる上でのPcadの塩基数の影響と、塩濃度による影響の検討を行うことにした。
(6)鉛・カドミウムセンサー構築におけるPcad塩基数及び塩濃度の検討
Pcadの塩基数の違いによる影響を調べるために、新たに二本鎖DNAを設計した。これはS. aureusが持つpI258上のcadCの転写開始地点から上流のプロモーター共通配列の−10塩基付近のCadC結合配列を含むPcad34の塩基配列に、さらに−35付近のCadC結合配列を加えたものである。新たに作成した二本鎖DNAを調製するために、表9に示すPcad50−S−3−B(配列番号5にPcad50−Sの配列を示す)とPcad50−A(配列番号6)を等量混合し、プロモーター配列の3’末端にビオチンが標識された二本鎖オリゴヌクレオチド、Pcad50−ビオチンを形成させた。次に、Pcad34−ビオチンとPcad50−ビオチンを20pmol/100μLとなるよう調製し固定化に用いた。
CadC−GFPを含むタンパク質粗抽出液は、300mLの培養液中の細胞を4mLのTG2(200mMトリスヒドロキシメチルアミノメタン−HCl pH7.4、15%(v/v)グリセロール)に懸濁し氷上にて、UD−201(トミー精工社)を利用して超音波破砕(発振出力3、インターバル50%、5分間を4回)を行うことで調製した。7.5μLのタンパク質粗抽出液と0.5μLの10mg/mLサケ精子DNA、92μLの超純水を混合し100μLとした時の蛍光強度は65.3±0.6であった。この混合液をPcad34及びPcad50固定化ウェルに添加し、室温で2時間の振盪を行った。2時間後にウェル中の混合液を除去し、200μLのPB−T(表6)により5秒間、1回の洗浄を行った。洗浄後、ウェルに150μLの蛍光測定用緩衝液を添加し蛍光測定を行った。その結果、蛍光強度はPcad34固定化ウェルでは2.10、Pcad50固定化ウェルでは2.06の値を示した。もう一箇所のCadC結合配列を増やしたPcad50を固定化してもCadC−GFPの結合量に変化は認められなかった。
次に、複合体を形成させる上での塩濃度による影響についての検討を行った。複合体を形成させる反応時に塩化ナトリウムを添加し、塩濃度の調整を行った。マイクロプレートのウェルには、Pcad50−ビオチンを20pmol/100μLとなるよう調製し固定化した。鉛検出試験においては、Pcad−CadC−GFP複合体形成における塩濃度による影響を調べるため、まず試料とタンパク質粗抽出液の混合液を表10に示す組成で調製した。この場合に塩化ナトリウム添加条件では、酢酸鉛(II)溶液:4M塩化ナトリウムが99:1(v/v)となる。その後、これまでの検出試験と同様に一連の操作を行い、蛍光強度の測定を行った。
塩化ナトリウム非添加、及び塩化ナトリウム添加のいずれの条件においてもPb(II)濃度の増加に伴い蛍光強度の減少が認められた(図22)。しかしながら、塩化ナトリウム添加条件ではPb(II)濃度0μg/Lにおける蛍光強度が大幅に増加した。さらに、鉛を添加した場合との蛍光強度の差も顕著に増加し、Pb(II)濃度100μg/Lにおいては、0μg/Lと比較し蛍光強度が約30%にまで減少した。この結果から、CadC−GFPとPcadの結合には塩濃度が大きく影響していることが明らかとなったため、鉛とカドミウム検出試験では塩濃度を40mMに調整して行うことが効果的であると判断される。
(7)鉛及びカドミウム検出における標準曲線
これまでの試験で得られたインキュベーション条件にて鉛及びカドミウムの検出試験を行った。マイクロプレートのウェルには、Pcad50−ビオチンを20pmol/100μLとなるよう調製し固定化した。試料として0から100μg/Lの既知濃度のPb(II)あるいはCd(II)溶液の376μLと4MのNaClの4.0μLを混合した。さらに、試料のpHを一定にするために1Mのトリスヒドロキシメチルアミノメタン−HCl(pH7.4)の20.0μLを緩衝液として加え、試料の全量を400μLとした。この前処理後の試料の92μLとCadC−GFPを含むタンパク質粗抽出液の7.5μL、10mg/mLサケ精子DNAの0.5μLを混合し、これまでの検出試験と同様に一連の操作を行い、蛍光強度の測定を行った。
その結果、Pb(II)、Cd(II)の濃度増加に相関した蛍光強度の減少が認められた(図23)。0μg/Lと比較し、Pb(II)では10μg/L、Cd(II)では5μg/Lの濃度で蛍光強度に有意差が認められた。Cd(II)の検出下限について、さらに詳細な試験を行った結果、1μg/Lであることが判明した。一方、いずれの重金属においても75μg/L以上で蛍光強度の減少が見られなくなることが明らかとなった。
世界保健機構が勧告する飲料水の基準値は、Pb(II)が10μg/L、Cd(II)が3μg/Lである。したがって、開発した鉛・カドミウムセンサーは、基準値にある鉛、そして基準値以下のカドミウムをそれぞれ検出可能であることが示された。また、データには示さないが、センサーは1、10、100μMのCa(II)、Mg(II)、Fe(II)、Mn(II)、Fe(III)、As(III)に対する交差応答性をほとんど示さないことが明らかとなった。
[比較例;FRET法]
DNAとタンパク質の相互作用を介した複合体分子の高次構造の変化を検出するために、蛍光共鳴エネルギー移動 (Fluorescence Resonance Energy Transfer; FRET)を利用した系の開発を試みた。FRETとは、ドナーとなるエネルギー供与体からアクセプターとなるエネルギー受容体へ励起エネルギーが移動する現象である。励起状態にあるドナーの近くにアクセプターが存在すると、ドナーからの発光が起こらないうちにその励起エネルギーがアクセプターを励起させ、その発光を検出することができる。距離が近いほどFRETは起きやすいため、分子間の相互作用や分子の構造変化を検出する手段として用いられている。
(1)組み換えタンパク質の発現とその抽出ならびに発現の確認
ZntRタンパク質の発現用大腸菌形質転換株をAmpとCmを添加した培地5mLで37℃、一晩培養し、その後AmpとCmを添加した培地250mLに植菌し37℃で振とう培養した。OD600が0.6−0.8に達したときにイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside;IPTG)を終濃度0.5mMになるように無菌的に加え37℃で3時間、培養した。この培養液を8000rpmで5分間遠心分離して集菌し上清を捨てた後、凍結融解(−80℃で30分間凍結させ室温で30分間融解する)を3回行い、適量のトリスバッファーA(50mM Tris−Cl、pH8.0、2mM EDTA、5mM ジチオスレイトール)に再懸濁して室温で10分間インキュベートした。4℃、12000rpm、10分間遠心してZntRタンパク質粗抽出液を得た後、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって展開してZntRタンパク質の発現確認を行った。
ArsRタンパク質の発現用大腸菌形質転換株をAmpとCmを添加した培地5mLで37℃、一晩培養し、その後Ampを添加したLB培地250mLに植菌した。これを37℃でOD600が0.8になるまで振とう培養した。その後、IPTGを終濃度1mMになるように無菌的に加え、37℃で3時間、培養した。この培養液を8000rpmで15分間遠心して集菌し上清を捨てた後、30mLのトリスバッファーAに再懸濁し、超音波破砕を行うことでArsRタンパク質粗抽出液を得た。このArsRタンパク質粗抽出液をSDS−PAGEによって展開することでArsRタンパク質の発現の確認を行った。タンパク質とDNAを分離するために、DNaseI処理を行った。DNaseI処理はRNaseフリーDNaseI(TaKaRa社) を用い、方法は製品のプロトコールに従って行った。
ArsR−GFP融合タンパク質の発現はArsRタンパク質の発現と同様にして行った。ただし、培地にはAmpのみを添加した。
SDS-PAGEのゲル、電気泳動バッファー、サンプルバッファーの組成を表11、表12、表13にそれぞれ示す。タンパク質溶液とサンプルバッファーを20μLずつ混合して40μLとし、沸騰水中で5分間ボイルしたものをゲルに添加し電気泳動を行った。分子量マーカーはPrestained Protein Marker, Broad Range (Bio Labs社) を使用した。泳動後のゲルは、40%(v/v)メタノール−10%(v/v)酢酸水溶液に0.2%(w/v)のクーマシーブリリアントブルーR−250を溶かした染色液に浸漬させて、30分間ゆるやかに振とうさせて染色した。脱色は20%(v/v)メタノール−5%(v/v)酢酸水溶液(脱色液)に浸してゆるやかに振とうさせた。ゲルが脱色されタンパク質のバンドが鮮明になるまで新しい脱色液に取り替えての脱色を繰り返した。
(2)ZntRとArsR−GFP融合タンパク質の精製
全ての精製のステップは低温室(6〜8℃)にて行った。ZntRあるいはArsR−GFP融合タンパク質の粗抽出液に対し硫酸アンモニウム沈殿を行い、その後、脱塩のためのゲルろ過を行った。硫酸アンモニウムは乳棒と乳鉢で細かくすりつぶした。その後、スターラーで撹拌しながら、0%→10%→20%→30%→40%→45%となるよう粗抽出液に添加しそれぞれのステップにおいて完全に溶解させた。45%濃度に到達した後、一晩、スターラーで撹拌した。その後、4℃、12000rpmで30分間遠心し上清を捨て、粗抽出液の1/10量のトリスバッファーAを沈殿に加え完全に溶解させた。ゲルろ過はPD−10 Desalting column(GE Healthcare社)を用い、方法は付属のプロトコールに従い行った。この時、カラム平衡化に使用したバッファーと溶出バッファーにはトリスバッファーAを用いた。
その後、ZntRタンパク質の精製においてはアフィニティークロマトグラフィーを、ArsR−GFP融合タンパク質の精製においてはアフィニティークロマトグラフィーとイオン交換クロマトグラフィーを行った。アフィニティークロマトグラフィーではHi Prep 16/10 Heparin FF(GE Healthcare社)、イオン交換クロマトグラフィーではHi Trap SP HP(GE Healthcare社)を用いた。方法はそれぞれのプロトコールに従い行った。それぞれの精製条件については表14、表15に示す。
精製後のZntRタンパク質の定量は、Bradford法(クーマシーブリリアントブルー染色後に595nmの吸光度(A595)を測定)により行った。吸光度測定にはSmart SpecTMPlusSpectrophotometer(Bio Rad社製)を用いた。精製後のArsR−GFP融合タンパク質の定量は、A280を測定することにより行った。同時にGFPの蛍光測定(518nm)も行った。蛍光測定にはF−2500形分光蛍光光度計(日立社製)を用いた。
(3)ゲルシフト法 (Electrophoresis Mobility Shift Assay; EMSA)
EMSAに用いた蛍光標識オリゴヌクレオチド鎖を表16に示した(配列番号7にzntA-Pr-Sの配列を、配列番号8にzntA-Pr-Aの配列を示す)。なお、蛍光非標識のオリゴヌクレオチドは蛍光標識オリゴヌクレオチドと同じ塩基配列のもの作製した。また、プロモーターDNAとZntRタンパク質の結合反応組成を表17に示す。2本鎖DNAとする際は、相補的な2本の1本鎖DNA(100μM)を等量ずつPCRチューブにて混合し、95℃で1分間の熱処理を行った。熱処理の後は室温で1時間以上放置して2本鎖(50μM)の形成を促した。プロモーターDNAとZntRタンパク質との結合を促すために反応液を調製後、37℃で30分間のインキュベートを行った。反応液は表18に示すNative-PAGE用サンプルバッファーを加えて40μLとした。その後、表19に示した組成で作製したアクリルアミドゲルと表20に示すTBEバッファーを使用しNative-PAGEを行った。
EMSAにおける蛍光標識DNAの検出は暗条件下においてLED光源ビジレイズ(ATTO社、AE−6935B(青色光源)、AE−6935GL(緑色光源))を照射したゲルをデジタルカメラにより撮影することで行った。
(4)鉛化合物の検出試験
用いたプロモーターDNAはEMSAで用いたものと同様に両末端にFITCとTAMRAを標識した2本鎖DNAである。プロモーターDNAはあらかじめFITCとTAMRAで標識した1本鎖DNAプローブを混合しEMSAにおいて用いた方法により処理することで2本鎖DNAを形成させた。重金属は、酢酸鉛(II);Pb(CHCOOH)(以降Pbと表記)と硫酸亜鉛;ZnSO(以降Znと表記)をそれぞれ10nMの濃度で調製した。比較対象として塩化ナトリウム;NaCl(以降Naと表記)、カルシウムイオン;CaCl・2HO(以降Caと表記)をそれぞれ10nM濃度で調製した。試料は1nM Pb、1nM Zn、1nM Na、1nM Ca、そしてEDTAを加えないトリスバッファーA(50mM Tris−Cl pH8.0、5mMジチオスレイトール)を加えたものの5条件を検討した。表21に示す組成で反応液を調製し暗条件下、37℃で30分間のインキュベートを行った。その後、反応溶液にEDTAを加えないトリスバッファーAを1mL加えて混合した後に表22に示す条件にて蛍光測定を行った。
(5)ヒ素化合物の検出試験
ArsRタンパク質を融合させた、pAcGFP1プラスミド由来のGFPは励起波長475nm、蛍光波長505nmの緑色蛍光を発する蛍光タンパク質である。3つの異なる蛍光標識DNAプローブを、それぞれArsR−GFP融合タンパク質、亜ヒ酸ナトリウム;NaAsO(以降、Asと表記)と混合することで反応溶液を調製した。用いた3つの蛍光標識DNAプローブを表23に示した。350nm、360nm、370nm、380nm、390nm、400nm、410nm、420nmの励起光を検討した結果、As非添加時とAs添加時にTAMRAとGFPの蛍光強度のピークに変化が生じた350nmと360nmの波長を用いた。励起波長と蛍光開始波長、蛍光終了波長を除く蛍光測定条件は表22に示す条件にて行った。全てのインキュベートは遮光条件下にて行った。表23に示すプライマー「ParsR-S3-5-TAMRA」と「Ec arsR prm ext prm」を組み合わせたPCRによりArsRタンパク質が結合する、ゲノムDNA上のプロモーター領域を中心とした350bpのDNA断片を増幅した(以下、ParsR-350プローブDNAと表記する)(配列番号9にParsR-S3の配列を、配列番号10にEc arsR prm ext prmの配列を、配列番号11にR773-50-Sの配列を、配列番号12にR773-50-Aの配列を示す)。
表23に示すプライマー、ParsR-S3-5-TAMRAとEc arsR prm ext prmを組み合わせたPCRによりArsRタンパク質が結合する、ゲノムDNA上のプロモーター領域を中心とした350bpのDNA断片が増幅される(以降、ParsR-350プローブDNAと表記)。ParsR-350プローブDNAを用いた検出試験における反応組成を表24に示した。検出は表24に示す手順で行った後、反応溶液1mLの蛍光スペクトルを測定した。蛍光の検出は400−650nmについて、2回ずつ行った。
表23に示す、ParsR-50-S-5-TAMRAとParsR-50-Aにより形成される2本鎖DNAはArsRタンパク質が結合する、ゲノムDNA上のプロモーターDNAの50bpの塩基配列からなる(以下、ParsR−50プローブDNAと表記)。
また、表23に示す、R773-50-S-5-TAMRAとR773-50-Aにより形成される2本鎖DNAはArsRタンパク質が結合する、R−773プラスミドDNA上のプロモーターDNAの50bpの塩基配列からなる(以下、R773−50プローブDNAと表記)。これら2つ蛍光標識DNAプローブは、80℃でインキュベートした後、室温でインキュベートし2本鎖DNAを形成させた。
ParsR−50プローブDNAあるいはR773−50プローブDNAを用いた検出試験における反応組成と検出手順を表25に示した。蛍光の検出は480〜650nmについて、3回ずつ行った。
(6)ZntRタンパク質発現用大腸菌株の育種の結果
ZntRタンパク質発現用大腸菌株の育種にはpET3aベクターを用いた。以前報告した組み換えZntRタンパク質にはN末端にHisタグが付いていたため、Hisタグを介した重金属との結合の可能性が否定できなかったため、Hisタグの付いていないZntRタンパク質を発現する大腸菌株を再度、育種した。まず、図27に示すpET16zntRを保持するJM109株を、Ampを加えたLB培地100mLに植菌し、37℃で一晩振とう培養した。翌日、菌体を回収した後にプラスミド抽出を行った。得られたプラスミド溶液を制限酵素NdeIとBamHIを用いて一晩、反応を行った。制限酵素反応液をアガロースゲル電気泳動により展開し、目的とするzntR遺伝子断片のバンドを切り出し精製した。これをインサートDNAとしpET3aベクターと16℃で一晩のインキュベートを行うことによりライゲーションを行った。ライゲーション反応液を用いて大腸菌JM109株の形質転換を行った。形質転換の後に選んだ5つコロニーをa、b、c、d、eとし、それぞれAmpを加えたLB培地5mLに植菌し、37℃で一晩振とう培養した。次に、それぞれの培養液を用いてプラスミド抽出を行った後にNdeI、BamHIを用いて37℃で1時間の制限酵素反応を行った。アガロースゲル電気泳動を行い、インサートの有無を確認した結果、bとcから抽出したプラスミドにてインサートが認められた。シーケンスの結果、cのサンプルが目的のpET3zntRであることが確認できたため、本プラスミドによりBL21(DE3)pLysSを形質転換した。これらの過程を経て、ZntRタンパク質発現用大腸菌株を育種した(図27)。
(7)ZntRタンパク質の発現と精製の結果
ZntRタンパク質発現用大腸菌をAmpとCmを加えたLB培地5mLで37℃にて一晩振とう培養し、種菌とした。AmpとCmを加えたLB培地5mLを新たに2つ用意し、それぞれに種菌を植菌し培養の途中で1つにIPTGを添加した。得られた培養液から10,000rpm、4℃の条件で5分間の遠心分離を行い、菌体を回収した。得られた菌体をトリスバッファーAに懸濁させ、超音波破砕機により菌体を破砕した。その後、12,000rpm、4℃の条件で10分間の遠心分離を行い、上清を回収した。これを、ZntRタンパク質粗抽出液として、SDS−PAGEによりZntRタンパク質の発現を確認した。この結果、IPTGを添加した方にのみ、ZntRタンパク質と見られるバンドが確認出来たため(図28の矢印の位置)、ZntRタンパク質の精製のために培地を250mLにスケールアップして培養を行うこととした。5mLの培養スケールの時と同様にして回収した菌体にトリスバッファーAを加えて溶解し超音波により破砕した。その後、遠心チューブに移し、12,000rpm、4℃の条件で10分間遠心分離を行い、デカンテーションによって上清を回収した。これをZntRタンパク質粗抽出液とする。
精製の初発過程として硫酸アンモニウム沈殿を行った。その後、脱塩のためにゲルろ過を行い続けてヘパリンカラムによるアフィニティークロマトグラフィーを行った。その際、約5mLずつ40フラクションを回収した。各フラクションの280nmにおける吸光値をそれぞれ測定した結果、いくつかの吸光値のピークが得られた。しかしながら、これらのピークを形成するフラクションについてSDS−PAGEを行った結果、図28の矢印で示される位置にバンドが確認されなかった。ZntRタンパク質は芳香族アミノ酸を含有しておらず、そのため280nmの光吸収を示さないことが推察された。そのため、40フラクションについてBradford法によりタンパク質染色を行い、595nmにおける吸光値をそれぞれ測定した(図29)。フラクション5までに認められたピークは非吸着画分と考えられたためフラクション5以降で認められたピークを形成するフラクション9〜15をSDS−PAGEにより展開した。
フラクション10−13において、矢印の箇所にZntRタンパク質と考えられるバンドを確認することができた(図30、矢印の位置)。そこで、フラクション10−13をまとめて限外ろ過により濃縮し、Bradford法にてタンパク質定量を行った後、脱塩のためにゲルろ過を行った。さらに、SDS−PAGEによりZntRタンパク質の確認を行った(図31)。その結果、矢印の箇所にZntRタンパク質と見られるバンドが確認出来たため、このZntRタンパク質部分精製液を用いて以後の実験を行った。
(8)ZntRタンパク質部分精製液を用いたEMSAの結果
部分精製したZntRタンパク質の定量を行った結果、0.53mg/mLであった。ZntRタンパク質と各蛍光色素を標識したDNAからなるプローブDNAを用いてEMSAを行った。電気泳動用ゲルにロードした各試料の一覧を表26に示す。FITC標識したプローブDNAを用いた場合には、FITC標識の場合には青色励起光を照射しSCF515フィルター(ATTO社製)を通して、TAMRA標識の場合には緑色励起光を照射しR−60フィルター(ATTO社製)を通してそれぞれ撮影を行った(図32)。レーン1で認められるバンドは1本鎖DNA、レーン2と6で認められるバンドは2本鎖DNAのバンドと考えられる。ZntRタンパク質部分精製液を添加した試料ではさらに上にZntRタンパク質とプローブDNAの複合体のバンドと考えられるバンドのシフトが認められ、加えたタンパク質の液量の増加に伴いシフトしたバンドの量的増加が認められた。また、FITCあるいはTAMRAで標識したプローブDNAは緑色あるいは赤色の蛍光として検出可能であった。これらの結果から、調製した組み換えZntRタンパク質と用いたプローブDNAは特異的に結合し複合体を形成することが明らかとなった。
FITCとTAMRAを標識したプローブDNAを用いたEMSAにおいて、電気泳動用ゲルにロードした各試料の一覧を表27、実験結果を図33にそれぞれ示す。ゲルはFITCを励起する青色励起光を照射しオレンジ色のフィルムを介して撮影された。1種類の蛍光で標識されたプローブDNAを用いたEMSAの結果と同様にZntRタンパク質部分精製液を添加した試料ではZntRタンパク質とプローブDNAの複合体と考えられる、上方にシフトしたバンドが認められた。レーン1においてFITCで標識した一本鎖DNAのバンドにおいて緑色の蛍光が認められるが一方、レーン2のTAMRAで標識した一本鎖DNAでは赤色蛍光がほとんど確認できなかった。しかしながら、FITCとTAMRAの両方を標識したプローブDNA由来のバンドにおいては、FITCの緑色とTAMRA赤色の中間色のピンク色の蛍光が認められた。この結果より、FITCの発する緑色蛍光によりTAMRAが励起され赤色蛍光を発していること、すなわちプローブDNA上のFITCからTAMRAへとFRETが生じていることが確認された。
(9)ZntRタンパク質部分精製液と蛍光標識プローブDNAを用いた鉛化合物の検出結果
FITCとTAMRAで2重標識したプローブDNAとZntRタンパク質部分精製液を混合した反応液の蛍光スペクトルを測定した結果、PbあるいはZnの添加によりバッファーを添加したコントロールと比較し全体的に蛍光スペクトルが上方にシフトしただけであった。金属イオンであるNa、CaにおいてもPbとZnのときと同様の結果となった(図34)。
予想された蛍光スペクトルの変化は、PbあるいはZnが存在する場合にはFITCの518nmのピークが増加しTAMRAの580nmのピークが減少するというものであった。また、Na、Ca、コントロールにおいては、FITCの518nmのピークとTAMRAの580nmのピークにおける比率に変化がないことが期待された。しかし、FITCの蛍光ピーク(518nm)とTAMRAの蛍光ピーク(580nm)の比率において、バッファーを加えたコントロールとPbあるいはZnを加えたものを比較した場合に変化が生じなかった。
本試験において、FITCの蛍光ピークとTAMRAの蛍光ピークの比率に変化が生じなかった原因としては、FRETを起こす際、ZntR−プロモーターDNA複合体の高次構造変化に伴う蛍光物質間の距離の変化が小さい点が推察される。また、試験を行う際に試料中に加えた蛍光標識プローブDNAやZntRタンパク質の量がFRETを生じさせるための添加量として適切でなかった可能性も考えられる。
(10)ArsRタンパク質発現用大腸菌株の育種結果
FRETを介したAs検出系を構築するためにヒ素に対するセンサータンパク質であるArsRタンパク質を組み換えタンパク質として調製することとした。組み換えArsRタンパク質を調製することができれば図26に示す原理で、かつArsRをGFPとの融合タンパク質という形でなくとも直接的に蛍光物質で標識可能であると考えられる。表28に示すarsR遺伝子断片増幅用プライマーE.coliArsR−S及びE.coilArsR−Aを大腸菌K12株のDNAシークエンスデータを基にして設計した(配列番号13に大腸菌ArsR−Sの配列を、配列番号14に大腸菌ArsR−Aの配列を示す)。大腸菌K12株のゲノムDNAを鋳型にプライマー大腸菌 ArsR−S及び大腸菌 ArsR-Aを用いてarsR遺伝子を、Pfx50TMDNA Polymeraseによるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅した。電気泳動にて増幅を確認した後、PCR反応液にTaKaRa LA TaqTM with GC Bufferを加えて3’末端へのdATPの付加反応を行った。この反応液を精製し、TAクローニングベクター、pGEM−T ベクターとライゲーションし、大腸菌JM109株を形質転換した(図35)。形質転換株よりpGEMarsRを抽出しXhoIとNdeIで消化して電気泳動によって挿入断片の確認を行った。pGEMarsRとpET16bをそれぞれXhoIとNdeIで処理し、pGEMarsRに関しては電気泳動後に目的とするarsR遺伝子断片(約360bp)のバンドを切り出して精製した。また、pET16bは反応液をそのまま精製してarsR遺伝子断片とライゲーションした。ライゲーション反応液を用いて大腸菌JM109株を形質転換した。arsR遺伝子のpET16bへの挿入の確認は形質転換株よりプラスミドを抽出し、XhoIとNdeIで処理した後電気泳動にてarsR遺伝子断片のバンドを確認することで行った。pET16arsR上のarsR遺伝子のシークエンスを行いGen Bankデータベースの大腸菌 K12株DNAシークエンスデータと比較することで、クローニングしたarsR遺伝子に変異がないことを確認した。しかし、pET16arsRから発現するArsRタンパク質にはHisタグが付いており、Hisタグを介して重金属と結合してしまう可能性が考えられたため、Hisタグを持たないpET3aベクターにarsR遺伝子断片を連結し直すことにした。pET16arsRとpET3aベクターをそれぞれBamHIとNdeIで処理し、pET16arsRに関しては電気泳動後に目的とするarsR遺伝子断片のバンドを切り出して精製した。arsR遺伝子断片をpET3aベクターと連結させ、pET3arsRを作製した。上記と同様にしてシークエンスを行い、Gen Bankの大腸菌 K12株DNAシークエンスデータと比較することでpET3arsR上のarsR遺伝子に、変異がないことを確認した。次にpET3arsRのプラスミド溶液を用いてタンパク質発現用株大腸菌BL21(DE3)pLysSを形質転換し、ArsRタンパク質発現用大腸菌株を育種した(図35)。
(11)組み換えArsRタンパク質の発現と確認
ArsRタンパク質発現用大腸菌株を培養後に超音波破砕することでArsRタンパク質粗抽出液を得た。このArsRタンパク質粗抽出液をSDS−PAGEによって展開することでArsRタンパク質の発現の確認を行った。しかし、IPTGの添加の有無に関わらずArsRタンパク質のバンドが予測された位置(約13kDa)にバンドが確認できなかった。IPTG添加時のタンパク質粗抽出液ではゲルの上部にバンドが密集しているため、ArsRタンパク質とDNAが結合している可能性が考えられた。そこでタンパク質と結合したDNAを除去する目的でタンパク質粗抽出液をDNaseI処理し、その後、再度SDS−PAGEによってArsRタンパク質のバンドの確認を行った。しかしながら、IPTGの添加の有無により予測される位置のバンドに差異は見られなかった。原因を特定していないが、組み換えArsRタンパク質を調製するには至らなかった。そこで、ArsRをGFPとの融合タンパク質という形で調製することにより蛍光標識することにした。
(12)ArsR−GFP融合タンパク質発現用大腸菌株の育種の結果
arsR遺伝子断片のクローニングのために表29に示す、arsR遺伝子増幅用プライマーEc-arsR-pAcGFP-S(配列番号15)及びEc-arsR-pAcGFP-A(配列番号16)を大腸菌K12株のDNAシークエンスデータを基にして設計した。また、それぞれのプライマーにはクローニングの際に必要となる制限酵素サイトを付けた。まず、大腸菌K12株のゲノムDNAを鋳型にプライマーEc-arsR-pAcGFP-S及びEc-arsR-pAcGFP-Aを用いてarsR遺伝子断片をPCRで増幅した(図36)。電気泳動にて増幅を確認した後のarsR遺伝子断片とpAcGFP1ベクターをそれぞれHindIIIとPstIで処理し、pAcGFP1に関しては電気泳動後に目的とするベクター部位(約3.3kb)のバンドを切り出して精製した。また、arsR遺伝子断片は反応液をそのまま精製した。両DNA断片をライゲーションし、得られたpAcGFParsRで大腸菌JM109株を形質転換した。arsR遺伝子の挿入の確認は形質転換株よりpAcGFParsRを抽出し、HindIIIとPstIで消化した後、アガロースゲル電気泳動にてarsR遺伝子断片(約360bp)のバンドを確認することで行った。pAcGFParsR上のシークエンスを行い、Gen Bankの大腸菌K12株のarsRのDNAシークエンスデータとの比較によりpAcGFParsR上のarsR遺伝子に変異がないことを確認した。
(13)ArsR−GFP融合タンパク質の発現と確認
ArsR−GFP融合タンパク質発現用大腸菌株を培養し菌体を破砕することでArsR−GFP融合タンパク質粗抽出液を得た。このArsR−GFP融合タンパク質粗抽出液をSDS−PAGEによって展開することでArsR−GFP融合タンパク質の発現の確認を行った。その結果、ArsR−GFP融合タンパク質の予測される位置(約47kDa)にバンドが確認された(図37の矢印の位置)。しかしながら、発現量が低いため目的タンパク質をアフィニティークロマトグラフィーにて部分精製し、夾雑タンパク質に対する比率を高めることとした。
(14)ArsR−GFP融合タンパク質の精製結果
ArsR−GFP融合タンパク質粗抽出液に対して硫酸アンモニウム沈殿を行いバッファーに再溶解後、ゲルろ過による脱塩を行った。その後、アフィニティークロマトグラフィーによる精製を行い回収した40本のフラクションのA280とGFPの蛍光(520nm)を測定した。その結果、フラクション19と20を中心にA280と蛍光値のピークが認められ(図38)、ArsR−GFP融合タンパク質は主としてこれらのフラクションに存在することが明らかとなった。フラクション19と20についてSDS−PAGEによりタンパク質を確認したところ、ArsR−GFP融合タンパク質と考えられるバンドが確認できた(図39、矢印の位置)。
しかしながら、目的タンパク質以外にも夾雑タンパク質が依然として認められたため更に精製度を高めるために、これらのフラクションを用いてイオン交換クロマトグラフィーを行った。その後、回収した40本のフラクションのA280と蛍光強度(420nm)を測定した。その結果、フラクション19〜21を中心にA280のピークが認められ、蛍光値は主としてフラクション20と21が高い値を示した(図40)。ArsR−GFP融合タンパク質は主としてフラクション20と21に存在することが明らかとなった。フラクション20と21についてSDS−PAGEにてタンパク質を分離したところArsR−GFP融合タンパク質と考えられるバンドが確認できた(図41、矢印の位置)。イオン交換クロマトグラフィーによる精製を行うことによって、ArsR−GFP融合タンパク質以外の夾雑タンパク質を大幅に除くことができた。
(15)ArsR−GFP融合タンパク質と蛍光標識プローブDNAを用いたAsの検出試験
図26に示す原理により、ヒ素化合物(As)の存在がFRETを介して蛍光スペクトルに変化をもたらすか否かの検討を行った。ArsR−GFP融合タンパク質の部分精製液とTAMRAで標識したParsR−350を混合しAs存在下そして非存在下において励起光350nmと360nmにて蛍光スペクトルを測定した結果を図42に示す。いずれの励起光においても、580nm近辺のTAMRAの蛍光ピークにおいてわずかながらAs非添加時よりも添加時に蛍光強度の減少が認められた。また、510nm近辺のGFPの蛍光ピークにおいては、わずかながらAs非添加時よりも添加時にピークの増加が認められた。この傾向は、図26で示す検出原理から予測される蛍光スペクトルの変化と一致する。つまり、As非添加時にはタンパク質とDNAの複合体形成によりTAMRAとGFPの距離が短くなりGFPの蛍光がTAMRAの励起光として吸収され易くなった結果TAMRAの蛍光が増加し、逆にAs添加時にはタンパク質とDNAの解離によりTAMRAとGFPの距離が離れTAMRAにより吸収されるGFPの蛍光の割合が減少した結果GFPの蛍光が増加したと考えられる。しかしながら、TAMRAとGFPの蛍光強度の比率においてAs添加による顕著な変化が認められなかったため、DNA鎖の長さを350bpから50bpへと短くした、ParsR−50あるいはR773−50プローブDNAを用いてAsの検出試験を行った。その結果、いずれの励起光そしてプローブDNAにおいても、As添加によりParsR−350プローブDNAを使用した場合と同様のスペクトル変化が認められた(図43、図44)。また、580nm近辺のTAMRAの蛍光においてはAs添加によりParsR−350プローブDNAを使用した場合より減少が見られた。しかしながら、いずれのプローブDNAにおいてもGFPの蛍光強度においてはAs添加により増加傾向は認められなかった。ParsR−50とR773−50プローブDNA間の比較においては、TAMRAの蛍光においてはAs添加によりParsR−50プローブDNAを使用した場合が、より減少幅が大きかった。
3つの異なるプローブDNAを用いたヒ素検出試験の結果、プローブDNA鎖長を50bpに設定し、かつゲノム上のヒ素応答型プロモーターの塩基配列を選択することで、As添加においてTAMRAの蛍光強度の微弱な変化を生じさせることが明らかとなった。プローブDNAの鎖長や塩基配列を変化させたが期待したFRETを介した蛍光スペクトルの変化をもたらすことはできなかった。
(16)まとめ
調製した2つの組み換えタンパク質、ZntRあるいはArsR−GFPを用いたPbあるいはAsの検出試験の結果をそれぞれ以下に要約した。
プロモーターDNAをFITCとTAMRAで2重標識した、プローブDNAとZntRタンパク質を用いた試験においてはPbの添加によりFITCとTAMRAの蛍光強度の比率において変化は認められなかった。ゲルシフト法による解析結果から、調製したZntRタンパク質とプローブDNAはZntR−プロモーターDNA複合体を形成することが確認された。したがって、形成された複合体の、Pb添加による高次構造変化がFRETにおけるエネルギー移動の変化を引き起こすには小さ過ぎた可能性が考えられる。ZntR−プロモーターDNA複合体の高次構造の変化を、FRETを介して外部提示するのは困難であった。
一方、As検出のために野生型のArsRタンパク質を大腸菌株にて発現させることは困難であった。このため、ArsR−GFP融合タンパク質として発現させたところ、ArsRタンパク質をGFPにより蛍光修飾することが可能となった。プロモーターDNAにTAMRAによる蛍光修飾を入れることで、As添加により引き起こされるタンパク質−DNA複合体からのDNA分子の解離を、FRETにより蛍光スペクトルの変化として外部提示できるか否かを確認した。その結果、As添加によりGFPとTAMRAの蛍光強度の比率において、わずかながら変化が認められた。また、3つの異なるプローブDNAを用いた試験結果から、プローブDNAの鎖長や塩基配列の違いによりAsの添加による蛍光強度の変動幅がわずかながら変化することが明らかとなった。TAMRAの蛍光強度が最も大きく変化した試験で用いたプローブDNAは株ゲノムDNA上のヒ素応答型プロモーターDNA50bpにTAMRAを修飾した、ParsR−50であった。
Asの検出試験において蛍光強度の変化が微弱であった原因として、相互作用するタンパク質とDNAの両分子が試験時にいずれも溶液状態であった点が挙げられる。分子が溶液中を自由に運動するために分子の結合・解離の状態の如何に関係なく、バックグラウンドのFRETが少なからず生じていた可能性が考えられる。したがって、蛍光強度の変化をより顕著にするために、プローブDNAを基材表面に修飾する形で固定化するといった方策が挙げられる。プローブDNAを固定化することでヒ素添加によるFRETが著しく減少すれば、マイクロプレートを用いたアッセイ系等への応用も可能となり将来的なハイスループットAs検出系への発展も期待される。しかし、プローブDNAを固定化しない本法では結局、実用レベルのFRETの変化すなわち蛍光スペクトルの変化は生じなかった。
本発明によれば、微生物由来のセンサータンパク質を用い、簡便かつ迅速に被検試料中の分析物を検出及び測定することが可能となる。

Claims (5)

  1. 以下の(A)及び(B)の工程を含むことを特徴とする、被検試料中のヒ素(As)化合物、カドミウム(Cd)化合物及び鉛(Pb)化合物から選択される重金属化合物を水系で検出又は定量する方法。
    (A)前記の重金属化合物に特異的に結合する、GFPで標識されている、ArsRタンパク質又はCadCタンパク質であるセンサータンパク質と、該センサータンパク質によって特異的に認識される配列を含む、支持体に固相化された核酸とを、被検試料の存在下、前記センサータンパク質がArsRタンパク質のときは50mM以上のリン酸緩衝液(pH7.4)中で、前記センサータンパク質がCadCタンパク質のときは40mM以上の塩化ナトリウム溶液中でそれぞれ反応させる工程
    (B)固相化された核酸に結合した前記センサータンパク質を検出又は測定する工程
  2. センサータンパク質が、検出可能なマーカータンパク質との融合タンパク質であることを特徴とする請求項1記載の方法。
  3. センサータンパク質と核酸との結合が、重金属化合物により阻害されることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
  4. あらかじめ5価のヒ素(As(V))化合物を還元処理して3価のヒ素(As(III))
    化合物に変換することを特徴とする請求項1〜のいずれか記載の方法。
  5. ヒ素(As)化合物、カドミウム(Cd)化合物及び鉛(Pb)化合物から選択される重金属化合物に特異的に結合する、GFPで標識されている、ArsRタンパク質又はCadCタンパク質であるセンサータンパク質と、該センサータンパク質によって特異的に認識される配列を含む、支持体に固相化された核酸と、前記センサータンパク質がArsRタンパク質のときは50mM以上のリン酸緩衝液(pH7.4)、前記センサータンパク質がCadCタンパク質のときは40mM以上の塩化ナトリウム溶液とを備えたことを特徴とする、被検試料中の重金属化合物の検出又は定量用キット。
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