[第1実施形態]
図1は、本発明の自動変速機の第1実施形態を示している。この第1実施形態の自動変速機は、変速機ケース1内に回転自在に軸支した、図外の内燃機関(エンジン)等の駆動源ENGが出力する駆動力がロックアップクラッチLC及びダンパDAを有するトルクコンバータTCを介して伝達される入力軸2と、入力軸2と同心に配置された出力ギヤからなる出力部材3とを備えている。出力部材3の回転は、図外のデファレンシャルギヤやプロペラシャフトを介して車両の左右の駆動輪に伝達される。尚、トルクコンバータTCに代えて、摩擦係合自在に構成される単板型又は多板型の発進クラッチを設けてもよい。
又、変速機ケース1内には、第1〜第4の4つの遊星歯車機構PGS1〜4が入力軸2と同心に配置されている。
第1遊星歯車機構PGS1は、サンギヤSaと、リングギヤRaと、サンギヤSaとリングギヤRaとに噛合するピニオンPaを自転及び公転自在に軸支するキャリアCaとから成る所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構(キャリアを固定した場合、サンギヤとリングギヤが互いに異なる方向に回転するため、マイナス遊星歯車機構又はネガティブ遊星歯車機構ともいう。因みに、リングギヤを固定した場合には、サンギヤとキャリアとが同一方向に回転する。)で構成されている。
又、第2遊星歯車機構PGS2も、サンギヤSbと、リングギヤRbと、サンギヤSb及びリングギヤRbに噛合するピニオンPbを自転及び公転自在に軸支するキャリアCbとから成る所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成される。
第1遊星歯車機構PGS1及び第2遊星歯車機構PGS2は、第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤ、リングギヤ及びキャリアからなる3つの要素のうちの何れか2つを、第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤ、リングギヤ及びキャリアからなる3つの要素のうちの何れか2つに夫々連結することにより、4つの回転要素を構成する。図2の上段に示す第1遊星歯車機構PGS1及び第2遊星歯車機構PGS2の共線図(4つの回転要素の相対回転速度の比を直線(共線)で表すことができる図)を参照して、各回転要素を左から順に、第1回転要素Y1、第2回転要素Y2、第3回転要素Y3、第4回転要素Y4とすると、第1回転要素Y1は第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSa、第2回転要素Y2は第2遊星歯車機構PGS2のリングギヤRb、第3回転要素Y3は第1遊星歯車機構PGS1のキャリアCaと第2遊星歯車機構PGS2のキャリアCbとを連結したもの、第4回転要素Y4は第1遊星歯車機構PGS1のリングギヤRaと第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSbとを連結したものとなる。
尚、第1遊星歯車機構PGS1及び第2遊星歯車機構PGS2の共線図において、下方の横線は回転速度が「0」であることを示し、上方の横線(4速、5速の共線と重なる線)は回転速度が入力軸の回転を「1」としてこれと同一である「1」であることを示している。
第1遊星歯車機構PGS1のギヤ比(リングギヤの歯数/サンギヤの歯数)をh、第2遊星歯車機構PGS2のギヤ比をiとすると、第1〜第4の各回転要素間の間隔は、hi−1:1:iの割り合いとなっている。
第3遊星歯車機構PGS3も、サンギヤScと、リングギヤRcと、サンギヤSc及びリングギヤRcに噛合するピニオンPcを自転及び公転自在に軸支するキャリアCcとから成る所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成される。
図2の中段に示す第3遊星歯車機構PGS3の共線図(3つの要素の相対回転速度の比を直線(共線)で表すことができる図)を参照して、第3遊星歯車機構PGS3の3つの要素Sc,Cc,Rcを、共線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に左側から夫々第1要素、第2要素及び第3要素とすると、第1要素はリングギヤRc、第2要素はキャリアCc、第3要素はサンギヤScになる。サンギヤScとキャリアCc間の間隔とキャリアCcとリングギヤRc間の間隔との比は、第3遊星歯車機構PGS3のギヤ比をjとして、j:1に設定される。
第4遊星歯車機構PGS4も、サンギヤSdと、リングギヤRdと、サンギヤSd及びリングギヤRdに噛合するピニオンPdを自転及び公転自在に軸支するキャリアCdとから成る所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成される。
図2の下段に示す第4遊星歯車機構PGS4の共線図を参照して、第4遊星歯車機構PGS4の3つの要素Sd,Cd,Rdを、共線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に左側から夫々第4要素、第5要素及び第6要素とすると、第4要素はリングギヤRd、第5要素はキャリアCd、第6要素はサンギヤSdになる。サンギヤSdとキャリアCd間の間隔とキャリアCdとリングギヤRd間の間隔との比は、第4遊星歯車機構PGS4のギヤ比をkとして、k:1に設定される。
第1回転要素Y1は、入力軸2に連結されている。又、第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第4要素)は、出力ギヤたる出力部材3に連結されている。
又、第4回転要素Y4と第3遊星歯車機構PGS3のキャリアCc(第2要素)とが連結されて、第1連結体Y4−Ccが構成されている。又、第3遊星歯車機構PGS3のリングギヤRc(第1要素)と第4遊星歯車機構PGS4のサンギヤSd(第6要素)とが連結されて、第2連結体Rc−Sdが構成されている。
又、第1実施形態の自動変速機は、係合機構として、第1から第3の3つのクラッチC1〜C3と、第1から第4の4つのブレーキB1〜B4とを備える。
第1クラッチC1は、湿式多板クラッチであり、第1回転要素Y1と第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第5要素)とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。
第2クラッチC2は、湿式多板クラッチであり、第2回転要素Y2と第2連結体Rc−Sdとを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。
第3クラッチC3は、ドグクラッチ又は同期機能を有するシンクロメッシュ機構からなる噛合機構であり、第3回転要素Y3と第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第5要素)とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。尚、第3クラッチC3を湿式多板クラッチ又は2ウェイクラッチで構成してもよい。
第1ブレーキB1は、湿式多板ブレーキであり、第1連結体Y4−Ccを変速機ケース1に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。
第2ブレーキB2は、摩擦係合型クラッチからなる湿式多板ブレーキであり、第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第3要素)を変速機ケース1に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。
又、第1実施形態の自動変速機では、第2ブレーキB2と並んで配置され、第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第3要素)の正転を許容し逆転を阻止する逆転阻止状態Rと、第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第3要素)の正転を阻止し逆転を許容する正転阻止状態Fとに切換自在な2ウェイクラッチT1が設けられている。
第3ブレーキB3は、ドグクラッチ又は同期機能を有するシンクロメッシュ機構からなる噛合機構であり、第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第5要素)を変速機ケース1に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。
第4ブレーキB4は、湿式多板ブレーキであり、第3回転要素Y3(Ca−Cb)を変速機ケース1に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。
各クラッチC1〜C3、各ブレーキB1〜B4及び2ウェイクラッチT1は、図外のトランスミッション・コントロール・ユニット(TCU)により、車両の走行速度等の車両情報に基づいて、状態が切り換えられる。
第4遊星歯車機構PGS4は、第3遊星歯車機構PGS3の径方向外方に配置されている。そして、第3遊星歯車機構PGS3のリングギヤRcと第4遊星歯車機構PGS4のサンギヤSdとを一体に構成している。このように、第4遊星歯車機構PGS4を第3遊星歯車機構PGS3の径方向外方に配置することにより、第3遊星歯車機構PGS3と第4遊星歯車機構PGS4とが径方向で重なり合うため、自動変速機の軸長の短縮化を図ることができる。
尚、第3遊星歯車機構PGS3と第4遊星歯車機構PGS4とは、径方向で少なくとも一部が重なり合っていればよく、これによって軸長の短縮化を図ることができるが、両者が完全に径方向で重なり合っていれば、最も軸長を短くすることができる。
出力ギヤからなる出力部材3は、第2クラッチC2と第3遊星歯車機構PGS3との間に配置されている。変速機ケース1には、出力部材3と第2クラッチC2との間に位置させて、径方向内方に延びる側壁1aが設けられている。この側壁1aには、出力部材3の径方向内方に向かって延びる筒状部1bが設けられている。出力部材3は、この筒状部1bにベアリングを介して軸支されている。このように構成することにより、変速機ケース1に連なる機械的強度の高い筒状部1bで出力部材3をしっかりと軸支させることができる。
尚、上記の如く出力部材3を筒状部1bで軸支するように構成した場合、筒状部1bの径方向内方に第2クラッチC2を配置してもよい。これによれば、図1に示すように出力部材3と第2クラッチC2とを軸方向に並べて配置した場合に比し、筒状部1bの径方向内方のスペースを有効活用して、自動変速機の軸長の短縮化を図ることができる。
次に、図2及び図3を参照して、第1実施形態の自動変速機の各変速段を確立させる場合を説明する。
1速段を確立させる場合には、第3クラッチC3を連結状態とし、第3ブレーキB3を固定状態とし、2ウェイクラッチT1を逆転阻止状態Rとする。第3ブレーキB3を固定状態とすることで、第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第5要素)の回転速度が「0」になる。又、第3クラッチC3を連結状態とすることで、第3回転要素Y3と第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第5要素)とが連結され、第3回転要素Y3の回転速度も「0」になる。又、逆転阻止状態Rとされた2ウェイクラッチT1の働きで、第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第3要素)の回転速度が「0」になる。そして、出力部材3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第4要素)の回転速度が図2に示す「1st」となり、1速段が確立される。
尚、1速段では、第2ブレーキB2が開放状態であるため、係合機構の開放数は「5」となるが、2ウェイクラッチT1の働きで第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第3要素)の回転速度が「0」となるため、第2ブレーキB2ではフリクションロスが発生しない。従って、2速段における実質的な開放数は「4」となる。
又、1速段において、第2ブレーキB2も固定状態とすれば、エンジンブレーキを効かせることもできる。
2速段を確立させる場合には、第3クラッチC3を連結状態とし、第1ブレーキB1を固定状態とし、2ウェイクラッチT1を逆転阻止状態Rとする。第3クラッチC3を連結状態とすることで、第3回転要素Y3と第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第5要素)とが同一速度で回転する。又、第1ブレーキB1を固定状態とすることで、第1連結体Y4−Ccの回転速度が「0」になる。又、逆転阻止状態Rとされた2ウェイクラッチT1の働きで第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第3要素)の回転速度が「0」になる。
従って、第3遊星歯車機構PGS3の3つの要素Sc,Cc,Rcのうち、サンギヤSc(第3要素)とキャリアCc(第2要素)の2つの要素の回転速度が同一速度である「0」となるため、第3遊星歯車機構PGS3の各要素Sc,Cc,Rcは、相対回転不能なロック状態となり、第2連結体Rc−Sdの回転速度も「0」になる。そして、出力部材3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第4要素)の回転速度が図2に示す「2nd」となり、2速段が確立される。
尚、2速段では、第2ブレーキB2が開放状態であるため、係合機構の開放数は「5」となるが、2ウェイクラッチT1の働きで第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第3要素)の回転速度が「0」となるため、第2ブレーキB2ではフリクションロスが発生しない。又、第3ブレーキB3は噛合機構で構成されるため、湿式多板ブレーキで構成した場合に比し、開放状態であってもフリクションロスが抑制される。従って、2速段における実質的な開放数は「3」となる。
又、2速段において、第2ブレーキB2も固定状態とすれば、エンジンブレーキを効かせることもできる。
3速段を確立させる場合には、第2クラッチC2及び第3クラッチC3を連結状態とし、2ウェイクラッチT1を逆転阻止状態Rとする。第2クラッチC2を連結状態とすることで、第2回転要素Y2と第2連結体Rc−Sdとが同一速度で回転する。又、第3クラッチC3を連結状態とすることで、第3回転要素Y3と第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第5要素)とが同一速度で回転する。又、逆転阻止状態Rとされた2ウェイクラッチT1の働きで第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第3要素)の回転速度が「0」になる。そして、出力部材3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第4要素)の回転速度が図2に示す「3rd」となり、3速段が確立される。
尚、3速段では、第2ブレーキB2が開放状態であるため、係合機構の開放数は「5」となるが、2ウェイクラッチT1の働きで第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第3要素)の回転速度が「0」となるため、第2ブレーキB2ではフリクションロスが発生しない。又、第3ブレーキB3は噛合機構で構成されるため、湿式多板ブレーキで構成した場合に比し、開放状態であってもフリクションロスが抑制される。従って、3速段における実質的な開放数は「3」となる。
又、3速段において、第2ブレーキB2を固定状態とすれば、エンジンブレーキを効かせることもできる。
4速段を確立させる場合には、第1クラッチC1及び第3クラッチC3を連結状態とし、2ウェイクラッチT1を逆転阻止状態Rとする。第1クラッチC1及び第3クラッチC3を連結状態とすることで、第1回転要素Y1、第3回転要素Y3及び第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第5要素)が同一速度の「1」で回転する。
又、第1回転要素Y1と第3回転要素Y3とが同一速度の「1」で回転するため、第1から第4の4つの回転要素Y1〜Y4が相対回転不能なロック状態となり、第4回転要素Y4、即ち、第1連結体Y4−Ccの回転速度が「1」となる。
又、逆転阻止状態Rとされた2ウェイクラッチT1の働きで第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第3要素)の回転速度が「0」になる。そして、出力部材3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第4要素)の回転速度が図2に示す「4th」となり、4速段が確立される。
尚、4速段では、第2ブレーキB2が開放状態であるため、係合機構の開放数は「5」となるが、2ウェイクラッチT1の働きで第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第3要素)の回転速度が「0」となるため、第2ブレーキB2ではフリクションロスが発生しない。又、第3ブレーキB3は噛合機構で構成されるため、湿式多板ブレーキで構成した場合に比し、開放状態であってもフリクションロスが抑制される。従って、4速段における実質的な開放数は「3」となる。
又、4速段において、第2ブレーキB2を固定状態とすれば、エンジンブレーキを効かせることもできる。
5速段を確立させる場合には、第1から第3の3つのクラッチC1〜C3を連結状態とし、2ウェイクラッチT1を逆転阻止状態Rとする。第1クラッチC1及び第3クラッチC3を連結状態とすることで、第1回転要素Y1、第3回転要素Y3及び第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第5要素)が同一速度の「1」で回転する。
又、第1回転要素Y1と第3回転要素Y3とが同一速度の「1」で回転するため、第1から第4の4つの回転要素Y1〜Y4が相対回転不能なロック状態となり、第2回転要素Y2の回転速度が「1」となる。
又、第2クラッチC2を連結状態とすることで、第2連結体Rc−Sdが、第2回転要素Y2と同一速度の「1」で回転する。このため、第4遊星歯車機構PGS4のサンギヤSd(第6要素)とキャリアCd(第5要素)とが同一速度の「1」で回転して、第4遊星歯車機構PGS4の各要素Sd,Cd,Rd、が相対回転不能なロック状態となり、出力部材3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第4要素)の回転速度も「1」となって、5速段が確立される。
尚、5速段においては、2ウェイクラッチT1を逆転阻止状態Rとしているため、第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第3要素)の正転が許容される。
また、5速段では、係合機構の開放数は「4」となるが、第3ブレーキB3は噛合機構で構成されるため、湿式多板ブレーキで構成した場合に比し、開放状態であってもフリクションロスが抑制される。従って、5速段における実質的な開放数は「3」となる。
6速段を確立させる場合には、第1クラッチC1と第2クラッチC2とを連結状態とし、第2ブレーキB2を固定状態とする。第1クラッチC1を連結状態とすることで、第1回転要素Y1と第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第5要素)とが同一速度の「1」で回転する。又、第2クラッチC2を連結状態とすることで、第2回転要素Y2と第2連結体Rc−Sdとが同一速度で回転する。又、第2ブレーキB2を固定状態とすることで、第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第3要素)の回転速度が「0」になる。そして、出力部材3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第4要素)の回転速度が図2に示す「6th」となり、6速段が確立される。
尚、6速段においては、第2ブレーキB2を固定状態とするため、2ウェイクラッチT1は逆転阻止状態Rと正転阻止状態Fのどちらの状態でもよい。しかしながら、図外のトランスミッション・コントロール・ユニットは、スムーズに変速を行えるように、走行速度等の車両情報に基づき6速段から5速段へのダウンシフトが予測される場合には、2ウェイクラッチT1を逆転阻止状態Rとし、車両情報に基づき6速段から7速段へのアップシフトが予測される場合には、2ウェイクラッチT1を正転阻止状態Fに切り換える。
また、6速段では、係合機構の開放数は「4」となるが、第3クラッチC3、第3ブレーキB3は噛合機構で構成されるため、湿式多板のクラッチやブレーキで構成した場合に比し、開放状態であってもフリクションロスが抑制される。従って、6速段における実質的な開放数は「2」となる。
7速段を確立させる場合には、第1クラッチC1及び第2クラッチC2を連結状態とし、第1ブレーキB1を固定状態とし、2ウェイクラッチT1を正転阻止状態Fとする。第1クラッチC1を連結状態とすることで、第1回転要素Y1と第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第5要素)とが同一速度の「1」で回転する。又、第2クラッチC2を連結状態とすることで、第2回転要素Y2と第2連結体Rc−Sdとが同一速度で回転する。
又、第1ブレーキB1を固定状態とすることで、第1連結体Y4−Ccの回転速度が「0」になる。そして、出力部材3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第4要素)の回転速度が図2に示す「7th」となり、7速段が確立される。
尚、7速段においては、2ウェイクラッチT1を正転阻止状態Fとするため、第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第3要素)の逆転が許容される。
また、7速段では、係合機構の開放数は「4」となるが、第3クラッチC3、第3ブレーキB3は噛合機構で構成されるため、湿式多板のクラッチやブレーキで構成した場合に比し、開放状態であってもフリクションロスが抑制される。従って、7速段における実質的な開放数は「2」となる。
8速段を確立させる場合には、第1クラッチC1を連結状態とし、第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2を固定状態とし、2ウェイクラッチT1を正転阻止状態Fとする。第1クラッチC1を連結状態とすることで、第1回転要素Y1と第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第5要素)とが同一速度の「1」で回転する。又、第1ブレーキB1を固定状態とすることで、第1連結体Y4−Ccの回転速度が「0」になる。
又、第2ブレーキB2を固定状態とすることで、第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第3要素)の回転速度が「0」になる。そして、出力部材3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第4要素)の回転速度が図2に示す「8th」となり、8速段が確立される。
尚、8速段では、第2ブレーキB2を固定状態とするため、2ウェイクラッチT1を逆転阻止状態Rとしても、8速段を確立できる。しかしながら、7速段へのダウンシフトをスムーズに行えるように、本実施形態では、8速段で2ウェイクラッチT1を正転阻止状態Fとしている。
また、8速段では、係合機構の開放数は「4」となるが、第3クラッチC3、第3ブレーキB3は噛合機構で構成されるため、湿式多板のクラッチやブレーキで構成した場合に比し、開放状態であってもフリクションロスが抑制される。従って、8速段における実質的な開放数は「2」となる。
9速段を確立させる場合には、第1クラッチC1を連結状態とし、第2ブレーキB2及び第4ブレーキB4を固定状態とし、2ウェイクラッチT1を正転阻止状態Fとする。第1クラッチC1を連結状態とすることで、第1回転要素Y1と第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第5要素)とが同一速度の「1」で回転する。
又、第2ブレーキB2を固定状態とすることで、第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第3要素)の回転速度が「0」になる。また、第4ブレーキB4を固定状態とすることで、第3回転要素Y3の回転速度が「0」になる。そして、出力部材3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第4要素)の回転速度が図2に示す「9th」となり、9速段が確立される。
尚、9速段では、第2ブレーキB2を固定状態とするため、2ウェイクラッチT1を逆転阻止状態Rとしても、9速段を確立できる。しかしながら、8速段では、7速段へのダウンシフトをスムーズに行えるように正転阻止状態Fとしている。このため、本実施形態では、9速段でも2ウェイクラッチT1を正転阻止状態Fとしている。
また、9速段では、係合機構の開放数は「4」となるが、第3クラッチC3、第3ブレーキB3は噛合機構で構成されるため、湿式多板のクラッチやブレーキで構成した場合に比し、開放状態であってもフリクションロスが抑制される。従って、9速段における実質的な開放数は「2」となる。
後進段を確立させる場合には、第2クラッチC2を連結状態とし、第3ブレーキB3を固定状態とし、2ウェイクラッチT1を正転阻止状態Fとする。第2クラッチC2を連結状態とすることで、第2回転要素Y2と第2連結体Rc−Sdとが同一速度で回転する。又、第3ブレーキB3を固定状態とすることで、第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第5要素)の回転速度が「0」になる。又、正転阻止状態Fとされた2ウェイクラッチT1の働きで第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第3要素)の回転速度が「0」になる。そして、出力部材3が連結された第4遊星歯車機構PGS4のリングギヤRd(第4要素)の回転速度が図2に示す逆転(車両が後進する方向の回転)の「Rvs」となり、後進段が確立される。尚、後進段において、第2ブレーキB2も固定状態とすれば、エンジンブレーキを効かせることができる。
尚、図2中の点線で示す共線は、4つの遊星歯車機構PGS1〜PGS4のうち動力伝達する遊星歯車機構に追従して他の遊星歯車機構の各要素が回転(空回り)することを表している。
図3(a)は、上述した各変速段におけるクラッチC1〜C3、ブレーキB1〜B4、2ウェイクラッチT1の状態を纏めて表示した図であり、クラッチC1〜C3及びブレーキB1〜B4の列の「○」は連結状態又は固定状態を示し、空欄は開放状態を示している。又、2ウェイクラッチT1の列の「R」は逆転阻止状態、「F」は正転阻止状態を示し、アンダーラインを付しているものは、2ウェイクラッチT1の働きで第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤSc(第3要素)の回転速度が「0」となる状態を示している。
又、図3(b)には、図3(d)に示すように、第1遊星歯車機構PGS1のギヤ比hを3.771、第2遊星歯車機構PGS2のギヤ比iを3.800、第3遊星歯車機構PGS3のギヤ比jを2.376、第4遊星歯車機構PGS4のギヤ比kを1.826とした場合における各変速段のギヤレシオ(入力軸2の回転速度/出力部材3の回転速度)を示している。これによれば、図3(c)に示すように、公比(各変速段間のギヤレシオの比)が適切になると共に、図3(d)に示したレシオレンジ(1速段のギヤレシオ/9速段のギヤレシオ)も適切になる。
第1実施形態の自動変速機によれば、前進9段の変速を行うことができる。又、各変速段において、湿式多板クラッチ及び湿式多板ブレーキの開放数が4つ以下となり、フリクションロスを抑制して、駆動力の伝達効率を向上させることができる。
又、5速段を所定の中速段、1速段から所定の中速段たる5速段までを低速段域、所定の中速段たる5速段を超える6速段から9速段までを高速段域と定義して、所定の中速段たる5速段を超える6速段から9速段までの高速段域においては、湿式多板クラッチと比較してフリクションロスが少ない噛合機構で構成される第3クラッチC3が開放状態となる。
又、1速段と後進段を除く全ての変速段で開放状態となる第3ブレーキB3も噛合機構で構成されている。従って、高速段域においては、湿式多板クラッチ及び湿式多板ブレーキの開放数が2となり、車両の高速走行時におけるフリクションロスを低減させて燃費を向上させることができる。
又、噛合機構からなる第3クラッチC3は、所定の中速段たる5速段と6速段との間で連結状態と開放状態とに切り換えられるのみである。5速段(所定の中速段)における第3クラッチC3での伝達トルク(伝達駆動力)は比較的小さいため、第3クラッチC3を噛合機構としてのドグクラッチで構成しても、5速段と6速段の間の変速時に連結状態と開放状態との切り換えをスムーズに行うことができる。
又、全ての遊星歯車機構PGS1〜PGS4が所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成されているため、サンギヤと、リングギヤと、互いに噛合すると共に一方がサンギヤに噛合し他方がリングギヤに噛合する一対のピニオンを自転及び公転自在に軸支するキャリアとからなる所謂ダブルピニオン型の遊星歯車機構(キャリアを固定した場合、サンギヤとリングギヤが同一方向に回転するため、プラス遊星歯車機構又はポジティブ遊星歯車機構ともいう。因みに、リングギヤを固定した場合、サンギヤとキャリアが互いに異なる方向に回転する。)で構成されるものに比し、駆動力の伝達経路上におけるギヤの噛合回数を減少させることができ、伝達効率を向上させることができる。
又、2ウェイクラッチT1を第2ブレーキB2に併設させているため、4速段と5速段との間での変速時に第2ブレーキB2の状態を切り換える必要がなく、変速制御性が向上される。
尚、第1実施形態においては、第3クラッチC3及び第3ブレーキB3を噛合機構で構成したものを説明したが、両者を湿式多板クラッチ及び湿式多板ブレーキで構成しても、各変速段における湿式多板クラッチ及び湿式多板ブレーキの開放数を4つ以下に抑え、フリクションロスを抑制することができるという本発明の効果を得ることができる。
又、2ウェイクラッチT1は省略してもよい。この場合、1速段から4速段を確立する際には、第2ブレーキB2を固定状態とすればよい。
又、後述する第2実施形態と同様に、第2遊星歯車機構PGS2を第1遊星歯車機構PGS1の径方向外方に配置し、第4回転要素Y4を構成する第1遊星歯車機構PGS1のリングギヤRaと第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSbとを一体に連結して構成してもよい。これによれば、更なる軸長の短縮化を図ることができる。
又、第3ブレーキB3を、第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第5要素)を変速機ケース1に固定する固定状態と、第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第5要素)の正転を許容し逆転を阻止する逆転阻止状態とに切換自在な2ウェイクラッチで構成してもよい。この2ウェイクラッチの一例を図5に示して具体的に説明する。
図5の第3ブレーキB3としての2ウェイクラッチTWは、第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第5要素)に連結されるインナーリングTW1と、インナーリングTW1の径方向外方に間隔を存して配置されると共に変速機ケース1に連結されるアウターリングTW2と、インナーリングTW1とアウターリングTW2との間に配置される保持リングTW3とを備える。
インナーリングTW1には、外周面に複数のカム面TW1aが形成されている。保持リングTW3には、カム面TW1aに対応させて複数の切欠孔TW3aが設けられている。この切欠孔TW3aには、ローラTW4が収容されている。又、2ウェイクラッチTWは、図示省略した第1と第2の2つの電磁クラッチを備える。第1電磁クラッチは、通電されることによりアウターリングTW2と保持リングTW3とを連結するように構成されている。第1電磁クラッチが通電されていない場合には、保持リングTW3は、インナーリングTW1及びアウターリングTW2に対して相対回転自在となるように構成されている。
又、ローラTW4の径は、図5(a)に示すように、ローラTW4がカム面TW1aの中央部に存するときは隙間Aが開き、図5(b)及び(c)に示すように、ローラTW4がカム面TW1aの端部に存するときにはインナーリングTW1及びアウターリングTW2に接触するように、設定されている。
第1電磁クラッチが通電されていない場合には、保持リングTW3が自由に回転することができるため、図5(a)に示すように、ローラTW4はカム面TW1aの中央部に位置し続けることができる。従って、2ウェイクラッチTWは、インナーリングTW1が自由に回転することが可能な状態となる。
第1電磁クラッチが通電されている場合には、保持リングTW3は、アウターリングTW2を介して変速機ケース1に固定されることとなる。この場合、インナーリングTW1が正転及び逆転のどちらに回転しようとしても、図5(b)及び(c)に示すように、保持リングTW3が固定されているため、ローラTW4がカム面TW1aの端部に位置することとなる。
このとき、ローラTW4がカム面TW1aとアウターリングTW2の内周面とに挟まれて、インナーリングTW1の回転が阻止される。即ち、2ウェイクラッチTWは固定状態となる。
第2電磁クラッチは、図5(b)に示すように切欠孔TW3aがカム面TW1aの一方の端部に位置する状態で保持リングTW3をインナーリングTW1に連結させる第1の状態と、図5(c)に示すように切欠孔TW3aがカム面TW1aの他方の端部に位置する状態で保持リングTW3をインナーリングTW1に連結させる第2の状態と、保持リングTW3とインナーリングTW1との連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。
図5における時計回り方向を逆転方向とすると、この2ウェイクラッチTWは、第1電磁クラッチを通電されていない状態(通電オフ状態)としてアウターリングTW2と保持リングTW3との連結を断つと共に、第2電磁クラッチを第1の状態とすることにより、逆転阻止状態となる。
このような2ウェイクラッチTWで第3ブレーキB3を構成した場合には、2ウェイクラッチTWを、1速段から9速段までの前進段では逆転阻止状態とし、後進段では固定状態とすることにより、各変速段を確立できる。そして、4速段から5速段へアップシフトする場合における2ウェイクラッチT1の効果と同様に、1速段から2速段にアップシフトする際に、第3ブレーキB3たる2ウェイクラッチTWの状態を切り換える必要がないため、自動変速機の変速制御性が向上される。尚、1速段でエンジンブレーキを効かせる場合には、第3ブレーキB3たる2ウェイクラッチTWを固定状態とすればよい。
又、上述した2ウェイクラッチで第3ブレーキB3を構成すれば、摩擦係合型のブレーキで第3ブレーキB3を構成する場合とは異なり、第3ブレーキB3でのフリクションロスは発生しない。従って、第3ブレーキB3を噛合機構で構成した場合と同様に、自動変速機全体として、フリクションロスを抑制させることができる。
尚、上記の如く構成された2ウェイクラッチTWによれば、上述の固定状態と逆転阻止状態とに加えて、第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第5要素)の変速機ケース1への固定を解除する開放状態と、第4遊星歯車機構PGS4のキャリアCd(第5要素)の正転を阻止し逆転を許容する正転阻止状態とにも切換自在に構成することができる。
具体的には、第1電磁クラッチを通電オフ状態とし、第2電磁クラッチを開放状態とすることにより、2ウェイクラッチTWは、図5(a)に示すように、ローラTW4がカム面TW1aの中央部に位置し続ける状態となって、インナーリングTW1がアウターリングTW2に対して自由に回転することができる状態、即ち、開放状態となる。
又、第1電磁クラッチを通電オフ状態とし、第2電磁クラッチを、図5(c)に示すように切欠孔TW3aがカム面TW1aの他方の端部に位置する状態で保持リングTW3をインナーリングTW1に連結させる第2の状態とすることにより、インナーリングTW1の正転が阻止され逆転が許容される状態、即ち、正転阻止状態となる。
従って、上述した2ウェイクラッチTWの第2電磁クラッチを省略して、第1電磁クラッチの切り換えにより、第3ブレーキB3たる2ウェイクラッチTWを固定状態と開放状態とにのみ切換自在に構成することもできる。この場合、1速段及び後進段で固定状態とし、2速段から9速段で開放状態に切り換えることにより、各変速段を確立することができる。
又、第1実施形態においては、前進9段の変速を行うものを説明したが、例えば、2速段と7速段を省略して前進7速段とすることもできる。
[第2実施形態]
図4を参照して、本発明の第2実施形態の自動変速機を説明する。第2実施形態の自動変速機においては、トルクコンバータに代えてダンパDA及び摩擦係合により動力を伝達自在な単板型又は多板型の発進クラッチC0を設け、第4遊星歯車機構PGS4を、第3遊星歯車機構PGS3の径方向外方に配置せずに、第1遊星歯車機構PGS1と第3クラッチC3との間に配置し、第2遊星歯車機構PGS2を第1遊星歯車機構PGS1の径方向外方に配置して、第4回転要素Y4を構成する第1遊星歯車機構PGS1のリングギヤRaと第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSbとを一体に連結し、出力ギヤからなる出力部材3を第1遊星歯車機構PGS1と第4遊星歯車機構PGS4との間に配置した点を除き、第1実施形態のものと同一に構成され、各変速段も同一に確立することができる。
第2実施形態の自動変速機によっても、第1実施形態と同一の作用効果を得ることができる。尚、第2実施形態においても、第1実施形態のように、発進クラッチC0に代えてトルクコンバータを用いてもよい。