JP5788697B2 - 油性固形組成物、その製造方法、及び油性固形製品 - Google Patents

油性固形組成物、その製造方法、及び油性固形製品 Download PDF

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Description

本発明はコウジ酸を含む油性固形組成物、その安定的な製造方法、及び油性固形製品に関する。
従来、コウジ酸は、化粧料及び皮膚外用剤の有効成分として利用されている。コウジ酸は水溶性であり、油に溶解しないため、油性固形組成物に均一に配合するのは困難である。非油溶性の成分、例えば無機粉体、を油性固形組成物に配合する場合は、ロールミルなどの機器を用いて、強力なシェアをかけることで均一に分散配合している。しかし、コウジ酸は、微量の金属イオンが存在しても変質するため、金属イオンの混入が避けられないロールミルを使用することはできない。また、強力なシェアをかけることでコウジ酸を固形油に見かけ上均一分散しても、系の中に微細な結晶として存在しているため局所的に不均一になってしまう。
なお、水性媒体中におけるコウジ酸の安定化については、特許文献1及び2に記載がある。また、コウジ酸を油性媒体に配合した例については、特許文献3及び4に記載があり、また特許文献5に開示の固形美白化粧料の美白剤の一例として、コウジ酸が挙げられている。しかし、これらの文献に記載の技術では、コウジ酸を安定に固形油中に均一に配合させるのには不十分である。また、文献6には、酸化媒体中で不安定な親水性有効成分が安定化されてなる組成物が開示され、酸化媒体中で不安定な親水性有効成分としてコウジ酸が例示されているが、当該文献に開示されているのは、水が存在することを前提とする技術であり、実質的に水を含まない油性固形組成物の調製には利用することができない。
特開平2−15017号公報 特開2003−104862号公報 特開2000−16928号公報 特開平10−59847号公報 特開2000−169360号公報 特開2001−163765号公報
本発明は、経時安定性及び充填成形性が良好な、化粧料等して有用な、コウジ酸を含有する油性固形組成物、及びその製造方法、並びにそれを利用した油性固形製品を提供することを課題とする。
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 次の成分(A)〜(D);
(A)コウジ酸
(B)ポリエチレングリコール
(C)IOB値が0.4以上の油剤
(D)固形油
を含有する油性固形組成物。
[2] 成分(C)が水酸基を有する油剤である[1]の油性固形組成物。
[3] 成分(C)が、ポリグリセリン構造を有する油剤である[1]又は[2]の油性固形組成物。
[4] 成分(A)と成分(B)の含有質量比が1:10〜1:40の範囲である[1]〜[3]のいずれかの油性固形組成物。
[5] 成分(A)及び成分(B)の合計含有質量と、成分(C)の含有質量が3:1〜1:9の範囲である[1]〜[4]のいずれかの油性固形組成物。
[6] 成分(B)が分子量20000以下である[1]〜[5]のいずれかの油性固形組成物。
[7] 成分(E)部分架橋型オルガノポリシロキサン重合物もしくは煙霧状シリカから選ばれる油性増粘剤をさらに含有する[1]〜[6]のいずれかの油性固形組成物。
[8] 金属イオンを放出する成分を含有しない[1]〜[7]のいずれかの油性固形組成物。
[9] 水の含有量が1質量%以下である[1]〜[8]のいずれかの油性固形組成物。
[10] 油性固形化粧料である請求項[1]〜[9]のいずれかの油性固形組成物。
[11] [1]〜[10]のいずれかの油性固形組成物と、それを収納する容器とからなり、前記容器の前記油性固形組成物との接触面が、非金属材料又は油性固形組成物への金属イオンの溶出を抑制する表面処理が施された金属材料からなる油性固形製品。
[12] (A)コウジ酸、(B)ポリエチレングリコール及び(C)IOB値が0.4以上の油剤を混合溶解すること、
該溶解混合物を、(D)固形油を含有する組成物と混合すること、
を含む[1]〜[10]のいずれかの油性固形組成物の製造方法。
本発明によれば、経時安定性及び充填成形性が良好な、化粧料等として有用な、コウジ酸を含有する油性固形組成物、及びその製造方法、並びにそれを利用した油性固形製品を提供することができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
1.油性固形組成物
本発明は、次の(A)〜(D)を含有する油性固形組成物に関する。
(A)コウジ酸
(B)ポリエチレングリコール
(C)IOB値が0.4以上の油剤
(D)固形油
本発明の油性固形組成物は、親水性で且つ油不溶性の美容成分であるコウジ酸を、ワックス等の固形油中に安定的に含有することを特徴とする。本発明の油性固形組成物は、強力なシェアをかけることなく調製可能であるので、ロールミル等の使用は不要であり、コウジ酸を変質させる金属イオンの混入を避けることができる。さらに、充填成形時に加熱溶融させても、コウジ酸の沈降等は生じ難く、均一な配合状態を維持可能であり、化粧料用及び皮膚外用剤用の油性固形製品としての価値が非常に高いものである。
以下、各成分について説明する。
(A)コウジ酸
コウジ酸は、化学名5−ヒドロキシ−2−ヒドロキシメチル−4−ピロン、又は5−ヒドロキシ−2−ヒドロキシメチル)−4H−ピラン−4−オンと呼ばれる複素環化合物である。一般的には、微生物の発酵液から抽出・精製して得られるが、有機合成によって製造されたものを使用しても勿論よい。またコウジ酸の塩を用いてもよい。
(B)ポリエチレングリコール
成分(B)のポリエチレングリコールは、通常化粧料又は皮膚外用剤等に用いられるものであれば特に制限なく用いることができるが、平均分子量20000以下のものが好ましい。平均分子量が20000以下のポリエチレングリコールは、コウジ酸の溶解性に優れ、また油に分散させる際にも加温状態で流動性が高く扱いが容易である。また感触もきしみやベタツキが発生しにくい利点がある。成分(B)のポリエチレングリコールは、平均分子量200〜20000のものが好ましく、380〜10000のものがより好ましい。また、互いに異なる重合度のポリエチレングリコールを2種以上用いるのも好ましい。例えば、平均分子量が200〜1000程度のものと、1000を超えて20000程度のものをそれぞれ用いるのも好ましい。本発明に使用可能な成分(B)ポリエチレングリコールは、例えば、International Nomenclature Cosmetic Ingredientに収載されているPEG−4,PEG−6,PEG−8,PEG−12,PEG−15、PEG−20、PEG−30、PEG−32、PEG−40、PEG−80、PEG−120、PEG−400等が挙げられ、これらを一種又は二種以上用いることができる。また、平均分子量は、医薬部外品原料規格2006のポリエチレングリコール4000の平均分子量試験により測定される。
(C)IOB値が0.4以上の油剤
成分(C)は、IOB値が0.4以上である限り、その種類については特に制限はない。IOB値とは無機性(inorganic)と有機性(organic)のバランスを示す指標であり、この値が大きい化合物ほど、より親水性の化合物と言える。IOB値が0.4未満の油剤はコウジ酸の溶解を補助するだけの極性を有しておらず、コウジ酸を油性固形組成物中に均一分散することができない。本発明では、IOB値が0.4以上1.8以下の油剤を用いるのが好ましく、0.4以上1.0以下の油剤を用いるのがより好ましい。この範囲であればコウジ酸の溶解を補助する効果に優れながらも、他の油剤との分散性・相溶性に優れる。
油剤は、一般的に、その分子構造から、エステル油、エーテル油、炭化水素油に分類される。また、使用可能な油剤の例には、多価アルコール中の一部の水酸基がエステル化又はエーテル化されずにそのまま残存する、水酸基を有する油剤も含まれる。本発明では、成分(C)としてエステル油又はエーテル油を用いるのが好ましく、特にC12〜C22の高級脂肪酸のエステル油又はC14〜C22の高級アルコールのエーテル油を用いるのが好ましい。また、水酸基を有する油剤、さらにポリグリセリン構造を有する油剤も好ましい。中でも、ポリグリセリン構造を有するエステル油及びエーテル油であって、ポリグリセリン中の一部の水酸基がエステル化又はエーテル化されずにそのまま残存する、水酸基を有し且つポリグリセリン構造を有するエステル油及びエーテル油が好ましい。
エステル油の中でも、高級脂肪酸とグリセリンとのポリグリセリル系のエステル油が好ましく、イソステアリン酸のポリグリセリルが好ましい。市販品を用いてもよく、成分(C)として使用可能なエステル油としては、日清オイリオグループ株式会社製の「コスモール42V」(ジイソステアリン酸ポリグリセリル−2;IOB値0.41)及び「コスモール41V」(イソステアリン酸ポリグリセリル−2:IOB値0.81);日本エマルジョン株式会社製の「DSG−3」(ジイソステアリン酸ポリグリセリル−3;IOB値0.51)及び「DSG−6」(ジイソステアリン酸ポリグリセリル−6;IOB値0.76)、「TSG−10」(トリソステアリン酸ポリグリセリル−10;IOB値0.75)等が挙げられる。また、エーテル油の中でも、高級アルコールのポリオキシエチレ系エーテル油が好ましく、ポリオキシエチレンベヘニルアルコールが好ましい。市販品を用いてもよく、成分(C)として使用可能なエーテル油としては、日本エマルジョン株式会社製の「EMALEX BHA−10」(ベヘネス−10;IOB値0.95)及び「EMALEX BHA−30」(ベヘネス−30;IOB値1.40)等が挙げられる。
(D)固形油
成分(D)は、室温において固体の油である。融点60℃以上の固形油から選択することができる。通常化粧料又は皮膚外用剤等において用いられているものであれば、何れのものも使用できる。具体的には、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、エチレン・プロピレン共重合体、オゾケライトワックス、セレシンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の炭化水素ワックス;カルナウバワックス、キャンデリラワックス等のエステル類ワックス、パルミチン酸デキストリン等のデキストリン脂肪酸エステル;等が挙げられ、これらを必要に応じて一種又は二種以上用いることができる。中でも、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素ワックスが好ましい。
本発明の油性固形組成物に含まれる成分(A)は、0.01〜1.0質量%(より好ましくは0.1〜0.7質量%)であるのが好ましく;成分(B)は、1.0〜30.0質量%(より好ましくは5.0〜15.0質量%)であるのが好ましく;成分(C)は、0.5〜50.0質量%(より好ましくは5.0〜30.0質量%)であるのが好ましく;成分(D)は、5.0〜20.0質量%(より好ましくは7.0〜13.0質量%)であるのが好ましい。但し、この範囲に制限されるわけではなく、用途や選択される各成分の種類に応じて、適する割合で配合可能である。また、本発明の油性固形組成物では、成分(B)及び(C)の双方を配合することで、成分(A)を安定に配合でき、いずれか一方が配合されず、それを補って他方を多く配合しても、経時安定性及び充填成形性の効果は得られない。
本発明の油性固形組成物に含まれる成分(A)の割合が小さ過ぎると、コウジ酸による効果(例えば美容効果)が不十分になり、一方で大き過ぎると経時安定性や分散性が低下する場合がある。成分(A)と成分(B)の質量比は、1:10〜1:40の範囲であるのが好ましく、1:10〜1:20であるのがさらに好ましい。
また、本発明の油性固形組成物において、成分(A)及び成分(B)の合計含有質量と、成分(C)の含有質量が3:1〜1:9の範囲であるのが好ましく、2:1〜4:1であるのがより好ましい。
本発明の油性固形組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記必須成分(A)〜(D)の他に、通常化粧料又は皮膚外用剤等に配合される成分を含んでいてもよく、例えば、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、薬効成分、清涼剤、色素、香料等を含んでいてもよい。
(E)油性増粘剤
本発明の油性固形組成物は、油性増粘剤を含んでいるのが好ましい。油性増粘剤は、油に溶解及び/又は分散可能な増粘剤である。油性増粘剤は、充填成形時に加熱溶融させた際に、溶融物の粘度を上昇させ、成分(A)コウジ酸等の親水性成分と油性成分とが分離するのを抑制し、充填成形性の改善に寄与する。油性増粘剤は、糖類やアミノ酸系化合物等の有機系材料、シリカ等の無機系材料、及びオルガノポリシロキサン重合物等の有機−無機系材料のいずれからも選択することができる。本発明では、無機系又は有機−無機系材料から選択するのが好ましく、中でも、油系成分の中で効率的に増粘が可能な部分架橋型オルガノポリシロキサン重合物もしくは少量でも油の増粘が可能な煙霧状シリカから選ばれる油性増粘剤を利用するのが好ましい。
部分架橋型オルガノポリシロキサン重合物は、オルガノポリシロキサンを架橋結合させて得られる、一部に三次元架橋構造を有する重合物である。これは、例えば、特公平8−6035号公報、特開平4−272932号公報、特開平5−140320号公報、特開2001−342255号公報、国際公開第2003/024413号パンフレットに記載されている。部分架橋型オルガノポリシロキサン重合物の具体例としては、INCI名(International Nomenclature Cosmetic Ingredient labeling names)で表すと、(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー等の部分架橋型メチルポリシロキサン、(ジメチコン/フェニルジメチコン)クロスポリマー等の部分架橋型メチルフェニルポリシロキサンが挙げられる。また、分子中にポリオキシアルキレン基を含有する重合物としては、例えば、(ジメチコン/(PEG−10/15))クロスポリマー等の部分架橋型ポリエーテル変性シリコーンが挙げられる。また、分子中に長鎖アルキル基を含有する重合物としては、例えば、(ビニルジメチコン/ラウリルジメチコン)クロスポリマー等の部分架橋型アルキル変性シリコーンが挙げられる。分子中にポリオキシアルキレン基及び長鎖アルキル基を含有する重合物としては、例えば、PEG−15ラウリルジメチコンクロスポリマー等の部分架橋型アルキル・ポリエーテル共変性シリコーンが挙げられる。分子中にハロゲン化炭化水素基を含有する重合物としては、例えば、(トリフルオロプロピルジメチコン/トリフルオロプロピルジビニルジメチコン)クロスポリマー等の部分架橋型フッ素変性シリコーンが挙げられる。これらの1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。
部分架橋型オルガノポリシロキサン重合物は、混合物の形態で市販されており、部分架橋型メチルポリシロキサンと環状シリコーンとの混合物としてKSG−15(固形分5質量%)(以下、単に「%」で示す。)、部分架橋型メチルポリシロキサンとジメチルポリシロキサンとの混合物としてKSG−16(固形分20〜30%)、部分架橋型メチルフェニルポリシロキサンとフェニルトリメチコンとの混合物としてKSG−18(固形分10〜20%)、部分架橋型ポリエーテル変性シリコーンとジメチルポリシロキサンとの混合物としてKSG−210(固形分20〜30%)、部分架橋型アルキル変性シリコーンと油剤との混合物としてKSG−41(固形分25〜35%)、KSG−42(固形分20〜30%)、KSG−43(固形分25〜35%)及びKSG−44(固形分25〜35%)、部分架橋型アルキル・ポリエーテル共変性シリコーンと油剤との混合物としてKSG−310(固形分25〜35%)、KSG−320(固形分20〜30%)、KSG−330(固形分15〜25%)、KSG−340(固形分25〜35%)及びKSG−340(固形分25〜35%)(以上、信越化学工業社製)が挙げられる。また、部分架橋型フッ素変性シリコーンは、フルオロアルキル基含有環状オルガノポリシロキサン等の環状フッ素含有シリコーンとの混合物として用いられ、例えばKSG−51(固形分15〜25%:信越化学工業社製)がある。
煙霧状シリカは化粧料又は皮膚外用剤等に一般に用いられる煙霧状シリカであれば特に制限なく用いることができる。また、煙霧状シリカの具体例としては、特に限定されないが、5nm〜20nmの粒径であるものが好ましい。市販品としては、例えばAEROSIL 380S(日本アエロジル社製、平均粒子径:5〜7nm)、AEROSIL 200(日本アエロジル社製、平均粒子径:10〜15nm)、AEROSIL R972(日本アエロジル社製、平均粒子径:16nm)、AEROSIL R976S(日本アエロジル社製、平均粒子径:5〜10nm)等の市販品が挙げられる。
また、本発明の油性固形組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、(D)固形油とともに、化粧料又は皮膚外用剤等に一般に使用される動物油、植物油、合成油等の起源の半固形油、液体油、揮発性油等を含んでいてもよい。具体的には、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン等の炭化水素類、オリーブ油、ヒマシ油、ミンク油、マカデミアンナッツ油等の油脂類、トリオクタン酸グリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、トリベヘン酸グリセリル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ロジン酸ペンタエリトリットエステル、トリグリセライド等のエステル類、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、高重合度メチルフェニルポリシロキサン、架橋型メチルポリシロキサン、ポリオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、架橋型ポリエーテル変性メチルポリシロキサン、メタクリル変性ポリシロキサン、ステアリル変性メチルポリシロキサン、オレイル変性メチルポリシロキサン、ベヘニル変性メチルポリシロキサン、ポリビニルピロリドン変性メチルポリシロキサン、高重合度ジメチルポリシロキサン、ポリオキシアルキレン・アルキルメチルポリシロキサン・メチルポリシロキサン共重合体、アルコキシ変性ポリシロキサン、架橋型オルガノポリシロキサン、フッ素変性ポリシロキサン等のシリコーン類、パーフルオロデカン、パーフルオロオクタン、パーフルオロポリエーテル等のフッ素系油剤類、酢酸ラノリン、ラノリン脂肪酸イソプロピル等のラノリン誘導体等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。
なお、粘土鉱物、セリサイト等の鉱物は、増粘剤や感触調整剤等、種々の目的で化粧料又は皮膚外用剤等に配合される場合がある。但し、これら鉱物は、コウジ酸を変質させる銅、鉄、アルミ等の2価・3価の金属イオンを含む材料であり、したがって、本発明の油性固形組成物は、鉱物を含んでいないのが好ましい。鉱物等、金属イオンの混入の恐れがある材料を積極的に配合しなくても、ロールミルを使用して強いシェアをかけることで混合調製された組成物には、ロールミルに由来する金属イオンが混入しているのが一般的である。本発明の油性固形組成物は、ロールミルを利用せずに調製可能なので、2価・3価の金属イオンの混入を排除することができ、この点でも、ロールミルを利用する従来技術と区別される。
本発明の油性固形組成物は水を実質的に含まず、その点で、水中油型及び油中水型の乳化組成物の形態と区別される。なお、油性とは連続層が油であるものを示す。本発明の油性固形組成物中の水の含有量は1質量%以下であるのが好ましい。
2.油性固形組成物の製造方法
本発明は、コウジ酸を含む油性固形組成物の製造方法にも関する。本発明の方法によれば、ロールミル等、コウジ酸を変質させる原因物質である金属イオンを混入させ得る機器を用いることなく、コウジ酸を含む油性固形組成物を製造できる。具体的には、本発明は、
(i) (A)コウジ酸、(B)ポリエチレングリコール及び(C)IOB値が0.4以上の油剤を混合溶解すること、
(ii) 該溶解混合物を、(D)固形油を含有する組成物と混合すること、
を含む油性固形組成物の製造方法に関する。
(i)工程では、成分(A)〜(C)の混合を促進するために加熱してもよい。加熱温度は、成分(C)等の種類に応じて決定されるが、一般的には、60〜80℃であるのが好ましい。
(ii)工程では、成分(A)〜(C)の混合物を、成分(D)を含む組成物と混合し、成分(D)中に分散させる。前記組成物は、成分(D)固形油とともに、他の油性の成分(例えば、所望により添加される成分(E)油性増粘剤)等を含有していてもよい。成分(D)と他の油性成分とをあらかじめ混合しておくのが好ましく、混合の際は、均一な混合を促進するために、加熱するのが好ましい。加熱温度は、成分(D)等の種類に応じて決定されるが、一般的には、90〜120℃であるのが好ましい。
3.油性固形組成物の用途
本発明の油性固形組成物の用途については特に制限はない。化粧料、並びに医薬品及び医薬部外品等の皮膚外用剤として有用である。コウジ酸を美容成分(例えば美白剤)として含有することによる薬効を利用した基礎化粧料、メイクアップ化粧料、頭髪化粧料等、種々の用途の化粧料として用いることができる。また、シミ治療薬等の皮膚外用剤として用いることができる。常温で固形であることから、その形状としては棒状(スティック状)、ケーキ状、皿流し込み型等の形状が適する。例えば、基礎化粧料としては、美白用スティック、アイスティック、日焼け止め用スティック、及びスティック状の種々のメイクアップ化粧料(口紅等)、及びシミ治療用軟膏等の用途において適する。
本発明の油性固形組成物は、通常、白色の外観を有するものとして調製可能であるが、用途に応じて、又は材料を選択することにより、色素等で種々の色に着色された外観を有するものとして調製することもできる。または、透明〜半透明の外観を有するものとして調製することも可能である。
本発明の油性固形組成物は、容器に格納されて油性固形製品として提供することができる。但し、コウジ酸は金属イオンの混入により変質するので、使用する容器は、少なくとも前記油性固形組成物と接触する面の材質はプラスチック等の非金属材料であるか、又は金属材料である場合は、金属材料と前記油性固形組成物が直接接触せず前記油性固形組成物への金属イオンの溶出が抑制されるような表面処理、例えばフッ素処理等が施された金属材料からなるのが好ましい。容器の全てがプラスチック製であり、金属製の部分を全く含んでいないのがより好ましい。一例は、少なくとも接触面がプラスチック製のスティック状容器に、本発明の油性固形組成物が繰り出し可能に収納されている油性固形製品である。本発明の油性固形製品は、化粧料用及び皮膚外用剤の製品として利用することができる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
[実施例1]
下記表に示した組成の油性固形組成物を下記方法によりそれぞれ調製した。なお、下記表中、成分1が成分(A)、成分2〜4が成分(B)、成分7〜9及び12が成分(C)、成分(18)及び(19)が成分(D)、並びに成分(15)及び(16)が成分(E)にそれぞれ相当する。
A.成分1〜13を混合して70℃に加温し均一に溶解した。
B.成分14〜22を混合し、110℃に加温し均一に分散した。
C.90℃まで冷却したBをAに加え均一に分散した。
D:上記4gを90℃に加温溶融し、アクリロニトリル・スチレン及びアクリロニトリル・ブタジエン・スチレンを混合した樹脂からなるスティック用容器に充填し、油性固形状美白用スティックを得た。
各試料について、以下の評価基準で、分散性、有効成分安定性、及び充填成形性をそれぞれ評価した。
(1)分散性評価
スティック状に成型直後、スティックの各部位(上部、中部、下部、中心部、外周部)のコウジ酸の濃度を測定し、表の組成のコウジ酸の濃度を100%として、各部位のコウジ酸の濃度と比較し下記の評価基準にて評価を行った。
◎:全ての部位のコウジ酸の濃度が98%以上100%以下の範囲である。
○:いずれかの部位のコウジ酸の濃度が96%以上98%未満の範囲である。
△:いずれかの部位のコウジ酸の濃度が90%以上96%未満の範囲である。
×:目視にてコウジ酸の結晶が確認されるものや、いずれかの部位のコウジ酸の濃度が90%未満である。
(2)有効成分安定性
50℃にて1ヶ月静置した際のコウジ酸の濃度を測定し、初期値を100%としてその初期値と比較した。
◎:コウジ酸の濃度が95%以上100%以下の範囲である。
○:コウジ酸の濃度が90%以上95%未満の範囲である。
△:コウジ酸の濃度が85%以上90%未満の範囲である。
×:コウジ酸の濃度が85%未満である。
なお、下記表中、有効成分安定性の評価結果の欄に記載の「−」は、コウジ酸が溶解しなかったので、評価できなかったことを意味する。
(3)充填成形性
各試料を上記方法により調製した際のスティック状成型の可否、及び、「使用時のスティックの折れ」について以下の基準で評価した。
◎:スティック状に成型でき、5〜50℃の範囲で問題なく使用できる。
○:スティック状に成型でき、5〜40℃の範囲で問題なく使用できる。
△:スティック状に成型できるが、室温以上で使用時に容易に折れる。
×:スティック状に成型不可である。
結果を下記表にまとめる。
Figure 0005788697
Figure 0005788697
上記結果から、本発明の実施例の油性固形組成物はいずれも、親水性のコウジ酸の分散性が良好で、安定的に含有されていて、しかも充填成形時に加温溶融させても、コウジ酸の沈降がなく、充填成形性も良好であったことが理解できる。
一方、成分(B)を含有していない比較例1では、コウジ酸の分散性は非常に悪く、成分(B)の代わりに他の多価アルコール化合物(1,3−ブチレングリコール又はグリセリン)を含有した比較例3及び4では、コウジ酸の分散性改善効果は得られたものの、コウジ酸の分析値に大幅なばらつきが確認され、安定には含有できていなかった。これは充填成型時や経時において1,3−ブチレングリコールやグリセリン、もしくはこれらに存在する水分が揮発してしまったものと推測される。
また、成分(C)を含有していない比較例2では、比較例1と同様、コウジ酸の分散性は非常に悪く、また成分(C)の代わりにIOB値が0.4未満の油剤を含有した比較例5及び6も、コウジ酸の分散性の改善効果は得られなかった。比較例7は成分(D)を含有していないため、スティック状にならず、コウジ酸の濃度が非常に不均一であった。
また、特許文献1及び2に開示されているような、水性媒体中におけるコウジ酸の安定化技術を利用しても、油性固形組成物では、コウジ酸の安定化効果を得られず、例えば、比較例8では特許文献1、及び比較例9では特許文献2に開示の技術をそれぞれ利用しているが、いずれも十分な効果は得られなかった。
[実施例12:油性固形状美容クリーム]
(成分) (%)
1.(エチレン/プロピレン)コポリマー(融点:90℃) 7
2.マイクロクリスタリンワックス(融点:80℃) 5
3.ジイソステアリン酸ポリグリセリル−2 10
4.トリイソステアリン酸ポリグリセリル−2 20
5.ポリエチレングリコール20000 10
6.コウジ酸 0.7
7.ミリスチン酸イソプロピル 5
8.スクワラン 1
9.ジメチコン 0.5
10.水添ポリデセン 6
11.イソノナン酸イソトリデシル 残量
12.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
13.フェノキシエタノール 0.1
14.ノバラエキス 0.1
15.香料 0.3
(製造方法)
A:成分3〜6を混合する。
B:成分1〜2、7〜12を均一溶解する。
C:AにBを添加し、混合する。
D:Cに13〜15を添加し、混合する。
E:上記5gをポリプロピレン製ジャー容器に充填し、油性固形状美容クリームを得た。本発明の実施品である実施例12の油性固形状美容クリームは、「分散性評価」、「有効成分安定性」、「充填成形性」の全ての項目に優れた油性固形組成物であった。
[実施例13:油性固形状日焼け止めスティック]
(成分) (%)
1.ポリエチレンワックス(融点:80℃) 5
2.フィッシャートロプシュワックス(融点:80℃) 5
3.セレシン(融点:93℃) 5
4.トリイソステアリン酸ポリグリセリル−2 5
5.ポリエチレングリコール1500 10
6.コウジ酸 1
7.ベヘネス−10 5
8.ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニル
トリアジン 1
9.ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル 3
10.ジメチコン 5
11.メチルフェニルポリシロキサン 1
12.エチルヘキサン酸セチル 残量
13.レシチン 0.1
14.ジブチルヒドロキシトルエン 0.02
15.ポリメチルシルセスキオキサン 2
16.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
17.フェノキシエタノール 0.1
18.アンズ核油 0.1
19.香料 0.3
(製造方法)
A:成分4〜7を混合する。
B:成分1〜3、8〜14を均一溶解する。
C:AにBを添加し、混合する。
D:Cに15〜19を添加し、混合する。
E:上記5gをプラスティック製スティック容器に充填し、油性固形状日焼け止めスティックを得た。本発明の実施品である実施例13の油性固形状日焼け止めスティックは、「分散性評価」、「有効成分安定性」、「充填成形性」の全ての項目に優れた油性固形組成物であった。
[実施例14:油性固形状アイクリーム]
(成分) (%)
1.パラフィンワックス(融点:69℃) 3
2.フィッシャートロプシュワックス(融点:90℃) 5
3.マイクロクリスタリンワックス(融点:68℃) 5
4.キャンデリラロウ(融点:70℃) 1
5.イソステアリン酸ポリグリセリル−2 1
6.ベヘネス−30 4
7.ポリエチレングリコール400 3
8.ポリエチレングリコール20000 3
9.コウジ酸 0.5
10.t−ブチルメトキシジベンゾイルメタン 0.2
11.テトラオクタン酸ペンタエリスリチル 6
12.ジメチコン 1
13.メチルフェニルポリシロキサン 1
14.トリエチルヘキサノイン 残量
15.水添ポリイソブテン 0.1
16.トコフェロール 0.02
17.ポリエチレンテレフタレート粉末 0.5
18.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
19.フェノキシエタノール 0.05
20.ローズヒップ油 0.1
21.香料 0.2
(製造方法)
A:成分5〜9を混合する。
B:成分1〜4、10〜16を均一溶解する。
C:AにBを添加し、混合する。
D:Cに17〜21を添加し、混合する。
E:上記2gをプラスティック製皿状容器に充填し、油性固形状アイクリームを得た。本発明の実施品である実施例14の油性固形状アイクリームは、「分散性評価」、「有効成分安定性」、「充填成形性」の全ての項目に優れた油性固形組成物であった。

Claims (12)

  1. 次の成分(A)〜(D);
    (A)コウジ酸
    (B)ポリエチレングリコール
    (C)IOB値が0.4以上1.8以下の油剤
    (D)固形油
    を含有する油性固形組成物であって、
    成分(C)がエステル油又はエーテル油である、油性固形組成物
  2. 成分(C)が水酸基を有する油剤である請求項1に記載の油性固形組成物。
  3. 成分(B)として、互いに異なる重合度のポリエチレングリコールを2種以上含有する、請求項1又は2に記載の油性固形組成物。
  4. 成分(A)と成分(B)の含有質量比が1:10〜1:40の範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載の油性固形組成物。
  5. 成分(A)及び成分(B)の合計含有質量と、成分(C)の含有質量が3:1〜1:9の範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載の油性固形組成物。
  6. 成分(B)が分子量20000以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の油性固形組成物。
  7. 成分(E)部分架橋型オルガノポリシロキサン重合物もしくは煙霧状シリカから選ばれる油性増粘剤をさらに含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の油性固形組成物。
  8. 金属イオンを放出する成分を含有しない請求項1〜7のいずれか1項に記載の油性固形組成物。
  9. 水の含有量が1質量%以下である請求項1〜8のいずれか1項に記載の油性固形組成物。
  10. 油性固形化粧料である請求項1〜9のいずれか1項に記載の油性固形組成物。
  11. 請求項1〜10のいずれか1項に記載の油性固形組成物と、それを収納する容器とからなり、前記容器の前記油性固形組成物との接触面が、非金属材料又は油性固形組成物への金属イオンの溶出を抑制する表面処理が施された金属材料からなる油性固形製品。
  12. (A)コウジ酸、(B)ポリエチレングリコール及び(C)IOB値が0.4以上1.8以下エステル油又はエーテル油を混合溶解し、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の溶解混合物を得ること、
    該溶解混合物を、(D)固形油を含有する組成物と混合すること、
    を含む請求項1〜10のいずれか1項に記載の油性固形組成物の製造方法。
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