本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態におけるステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。
図1を参照して、ステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2と、ステアリングシャフト3と、第1自在継手4と、中間軸5と、第2自在継手6と、ピニオン軸7と、ラック軸8と、ハウジング9とを主に含んでいる。ステアリングシャフト3は、操舵部材2に連結されている。ステアリングシャフト3と中間軸5とは、第1自在継手4を介して連結されている。中間軸5とピニオン軸7とは、第2自在継手6を介して連結されている。
ピニオン軸7の端部近傍には、ピニオン7Aが設けられている。ラック軸8は、車幅方向(図1における左右方向であり、「軸方向X」ともいうことがある)に延びる円柱状である。ラック軸8の外周面の周上1箇所において、軸方向Xにおける途中の領域には、ラック8Aが設けられている。ピニオン軸7は、軸方向Xに延びるラック軸8と交差方向(図1では上下方向)に配置されていて、ピニオン軸7のピニオン7Aとラック軸8のラック8Aとが噛み合っている。このようなピニオン軸7およびラック軸8によってラックアンドピニオン機構10が構成されている。そのため、このステアリング装置1は、ラックアンドピニオン式のステアリング装置である。
ハウジング9は、たとえばアルミニウム等の金属で形成されてラック軸8(軸方向X)に沿って長手の中空円筒状であり、車体(図示せず)に固定されている。ラック軸8は、ハウジング9内に収容されており、この状態で、軸方向Xに沿って直線往復移動可能である。ピニオン軸7(ピニオン7A)は、ハウジング9において、軸方向Xにおける両端部の間(図1では右側へ偏った位置)に収容されている。ハウジング9の当該両端部のうち、第1端部91(図1における左端部)は、ピニオン軸7から相対的に遠く、第2端部92(図1における右端部)は、ピニオン軸7に相対的に近い。つまり、第2端部92は、ピニオン軸7側の端部である。第1端部91には、第1ブッシュ11が配置されており、第2端部92には、第2ブッシュ12が配置されている。
第1ブッシュ11および第2ブッシュ12は、ステアリング装置1の一部であり、ハウジング9内において、軸方向Xからピニオン軸7を挟むように配置されている。ラック軸8は、第1ブッシュ11および第2ブッシュ12によって支持されており、これらのブッシュに対して軸方向Xへ摺動可能である。第1ブッシュ11および第2ブッシュ12については、以降で詳説する。
ハウジング9に収容されたラック軸8の(軸方向Xにおける)両端部は、ハウジング9の両外側へ突出し、各端部には、継手13を介してタイロッド14が結合されている。各タイロッド14は、対応するナックルアーム(図示せず)を介して車輪15に連結されている。
操舵部材2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、この回転がピニオン7Aおよびラック8Aによって、軸方向Xに沿ってのラック軸8の直線運動(スライド)に変換される。これにより、各車輪15の転舵が達成される。
図2は、ステアリング装置1からラックアンドピニオン機構10およびその周辺を抜き出して示した模式図である。図3(a)は、図2における第1ブッシュ11周辺の拡大図であり、図3(b)は、図2における第2ブッシュ12周辺の拡大図である。図4(a)は、図3(a)においてラック軸8に高負荷がかかった状態を示しており、図4(b)は、図3(b)においてラック軸8に高負荷がかかった状態を示している。
図2では、前述したハウジング9、ラックアンドピニオン機構10(ピニオン軸7およびラック軸8)、第1ブッシュ11および第2ブッシュ12が示されている。以下では、これらのそれぞれについて説明する。
ハウジング9は、前述したように中空円筒状であり、その中空部分20は、軸方向Xに沿って延びる中心軸を有する円筒状をなしている。中空部分20の軸方向Xにおける一端は、第1端部91において、第1開口21として外側(図2では左外側)へ露出され、中空部分20の軸方向Xにおける他端は、第2端部92において、第2開口22として外側(図2では右外側)へ露出されている。第1開口21および第2開口22は、いずれも、ラック軸8より大径の丸穴である。
ハウジング9において中空部分20を区画する内周面23は、軸方向Xに延びる中心軸を有する円筒状であり、第1端部91では、第1開口21に近い側から順に、外側内周面24と、環状凸部25と、環状溝26と、内側内周面27と、段付き28とを含んでいる。外側内周面24は、第1開口21と同じ内径を有する円周面であり、第1開口21から連続して、第2端部92側(図2における右側)へ延びている。環状凸部25は、外側内周面24の一端(第2端部92側の端)から全周に亘って径方向内側へ鍔状に突出した部分であり、全体として環状をなしている。環状溝26は、環状凸部25の一端(第2端部92側の端)から全周に亘って径方向外側へ窪んだ部分であり、全体として環状をなしている。内側内周面27は、環状溝26を一端(第2端部92側の端)側から区画しつつ、たとえば環状凸部25と同じ内径で第2端部92側へ延びている。段付き28は、内側内周面27の一端(第2端部92側の端)から全周に亘って径方向内側へ突出した環状部分である。
内周面23は、第2端部92では、第2開口22に近い側から順に、外側内周面34と、環状凸部35と、環状溝36と、内側内周面37と、段付き38とを含んでいる。外側内周面34は、第2開口22と同じ内径を有する円周面であり、第2開口22から連続して、第1端部91側(図2における左側)へ延びている。環状凸部35は、外側内周面34の一端(第1端部91側の端)から全周に亘って径方向内側へ鍔状に突出した部分であり、全体として環状をなしている。環状溝36は、環状凸部35の一端(第1端部91側の端)から全周に亘って径方向外側へ窪んだ部分であり、全体として環状をなしている。内側内周面37は、環状溝36を一端(第1端部91側の端)側から区画しつつ、たとえば環状凸部35と同じ内径で第1端部91側へ延びている。段付き38は、内側内周面37の一端(第1端部91側の端)から全周に亘って径方向内側へ突出した環状部分である。
また、内周面23において第1端部91側の段付き28と第2端部92側の段付き38とに挟まれた部分は、ほぼ一定の内径を有する円周面39になっている。円周面39において段付き38側に偏った位置には、ハウジング9の径方向外側(図2では上側)へ向けて窪む窪み40が形成されている。窪み40は、ハウジング9の中空部分20の一部をなしている。ハウジング9の周壁において窪み40と一致する部分は、窪み40に応じて径方向外側へ膨出している。
ラックアンドピニオン機構10において、ピニオン軸7のピニオン7Aは、円筒状または円柱状であり、ピニオン軸7に対して同軸状となるように連結されている。ピニオン7Aの外周面には、複数のギヤ歯41が周方向に並んで形成されている。ピニオン7Aは、前述した窪み40に収容されている。
ラック軸8は、前述したように軸方向Xに延びる円柱状である。ラック軸8は、軸方向Xにおいてハウジング9よりも長手である。そのため、ラック軸8の一端部(図2における左端部)は、第1開口21からハウジング9の外側(図2では左外側)へはみ出ていて、ラック軸8の他端部(図2における右端部)は、第2開口22からハウジング9の外側(図2では右外側)へはみ出ている。そして、前述したラック8Aは、ラック軸8の外周面8Bの周上1箇所において、軸方向Xで第2開口22側へ偏った領域に設けられている。ラック8Aは、軸方向Xに並ぶ複数のギヤ歯42によって構成されている。ピニオン7Aのギヤ歯41と、ラック8Aのギヤ歯42とが噛み合っている。図2では、車輪15(図1参照)が転舵していない中立状態におけるラック軸8を示しており、このとき、ピニオン7Aは、ラック8Aの軸方向Xにおける中央部分と噛み合っている。なお、図3および図4の内容については、以降で説明する。
次に、第1ブッシュ11について説明する。図5は、第1ブッシュ11の斜視図である。図6は、第1ブッシュ11の分解斜視図である。
図5および図6を参照して、第1ブッシュ11は、ブッシュ本体45と、複数本(ここでは2本)のOリング46とを含んでいる。
ブッシュ本体45は、樹脂製の中空円筒状であり、その中空部分は、軸方向における両側において開放されている。なお、第1ブッシュ11がステアリング装置1内に組み込まれた状態(図1および図2参照)では、ブッシュ本体45の軸方向は、前述した軸方向Xと一致している。そして、ブッシュ本体45の内径は、ラック軸8の外径よりも僅かに大きく、ブッシュ本体45の外径は、ハウジング9の第1端部91における内側内周面27の内径よりもある程度小さい(図2参照)。
ブッシュ本体45の外周面45Aには、周方向に延びる嵌込溝47が、軸方向に間隔を隔てて2本形成されている。各嵌込溝47は、ブッシュ本体45の外周面45Aの周方向全域に亘って形成されており、環状をなしている。ブッシュ本体45の周方向に直交する平面で切断したときの各嵌込溝47の断面は、矩形の凹状になっている。嵌込溝47の数とOリング46の数とは一致しており、ここでは2本である。
ブッシュ本体45の軸方向における一端(図5および図6における左端)には、ブッシュ本体45の径方向外側へ向かって鍔状に張り出したフランジ部48が一体的に設けられている。フランジ部48全体は、ブッシュ本体45と同軸状をなす環状に形成されている。フランジ部48の外径は、ハウジング9の内周面23において環状凸部25における内径よりも大きく、内周面23において環状溝26における内径よりも小さい(図2参照)。
ブッシュ本体45には、ブッシュ本体45の軸方向に延びてフランジ部48側からフランジ部48およびブッシュ本体45を切り込む複数の切欠き49が形成されている。切欠き49は、ブッシュ本体45の周方向において所定の間隔を隔てて並んでいる。各切欠き49は、フランジ部48を径方向において切断するとともに、2本の嵌込溝47を横切りつつブッシュ本体45の周壁の一部を径方向において切断して、ブッシュ本体45の外周面45Aおよび内周面45Bの両側から露出されている。各切欠き49においてフランジ部48側とは反対側(図5および図6における右側)の端部は、当該反対側におけるブッシュ本体45の端縁まで達していない。
Oリング46は、ゴム等の弾性材料で形成された環状である。Oリング46の周方向に直交する平面で切断したときのOリング46の断面は、円形状をなしている。2本のOリング46は、ブッシュ本体45に対して外嵌されており、この状態で、各嵌込溝47に対して、いずれか1本のOリング46が嵌め込まれている。このとき、各Oリング46には、ある程度のテンションがかかっている。
このように完成された状態にある第1ブッシュ11では、図5に示すように、各Oリング46の一部(径方向外側部分)が嵌込溝47(ブッシュ本体45の外周面45A)から径方向外側へはみ出ている。そして、第1ブッシュ11は、各切欠き49の幅(周方向における幅)を狭めることによって、弾性的に縮径することができる。そのため、第1ブッシュ11を摘んで指に力を入れると第1ブッシュ11全体が縮径し、その力を緩めると第1ブッシュ11は元の大きさまで拡径する。
次に、第2ブッシュ12について説明する。図7は、第2ブッシュ12の斜視図である。図8は、第2ブッシュ12の分解斜視図である。図9(a)は、図8とは別の方向から見たブッシュ本体55の斜視図であり、図9(b)は、径方向外側から見たブッシュ本体55の側面図であり、図9(c)は、軸方向外側から見たブッシュ本体55の側面図であり、図9(d)は、図9(b)のA−A線における断面図である。
図7および図8を参照して、第2ブッシュ12は、ブッシュ本体55と、Oリング56(弾性部材)とを含んでいる。なお、図7〜図9では、第2ブッシュ12がステアリング装置1に組み込まれていない新品状態にある場合における第2ブッシュ12(詳しくは、ブッシュ本体55およびOリング56の少なくともいずれか)を示している(後述する図10〜図12においても同様)。
ブッシュ本体55は、樹脂製であり、第2ブッシュ12の外郭をなしている。ブッシュ本体55は、図8において2点鎖線で示した基準線Yを曲率中心(軸中心)とするC型の円弧をなしている。基準線Yが延びる方向がブッシュ本体55の軸方向であり、当該軸方向から見たときを「側面視」とした場合、ブッシュ本体55は側面視C型である。ブッシュ本体55は、当該軸方向において所定の幅を有している。また、別の言い方をすると、ブッシュ本体55は、当該軸方向に延びる中心軸を有する円筒において周上1箇所を切断したものと同じ形状をなしている。このようなブッシュ本体55を含む第2ブッシュ12全体も、側面視C型をなしている。なお、第2ブッシュ12がステアリング装置1内に組み込まれた状態(図1および図2参照)では、基準線Yがハウジング9(内周面23)の円中心と一致して、ブッシュ本体55の軸方向は、前述した軸方向Xと一致している。そのため、第2ブッシュ12がステアリング装置1内に組み込まれた状態では、第2ブッシュ12およびハウジング9(内周面23)のそれぞれの軸中心が一致し、かつ、それぞれの径方向が一致している(図1および図2参照)。
ブッシュ本体55において、基準線Yを中心とする径方向における外側面を、外周面55Aといい、当該径方向における内側面を、内周面55Bということにする。外周面55Aおよび内周面55Bは、いずれも側面視C型である。また、ブッシュ本体55において、C型の周方向において途切れた部分を開放部分55Cとすると、ブッシュ本体55の内周面55B側は、軸方向における両側と、開放部分55C側(軸方向に直交する側)とにおいて、開放されている。
ブッシュ本体55の(内周面55Bにおける)内径は、ラック軸8の外径よりも僅かに大きく、ブッシュ本体55の(外周面55Aにおける)外径は、ハウジング9の第2端部92における内側内周面37の内径よりもある程度小さい(図2参照)。
ブッシュ本体55の外周面55Aには、周方向に延びる嵌込溝57が、軸方向に間隔を隔てて2本形成されている。2本の嵌込溝57は、周方向に沿って平行に延びている。各嵌込溝57は、ブッシュ本体55の外周面55Aの周方向全域に亘って形成されており、ブッシュ本体55と同様に側面視C型をなしている。ブッシュ本体55の周方向に直交する平面で切断したときの各嵌込溝57の断面は、矩形の凹状になっている。
外周面55Aでは、各嵌込溝57を凹部とみなすと、当該凹部以外の部分が凸部58になっている(図9(b)参照)。凸部58は、周方向に延びる筋状であり、軸方向において2本の嵌込溝57と交互に並ぶように3本設けられている。各凸部58は、外周面55Aの周方向におけるほぼ全域に亘って延びている。3本の凸部58のうち、軸方向において真ん中に位置する凸部58の周方向両端部のそれぞれは、係止部59をなしている。図8では、1対の係止部59のうち、図8では見えない位置にある係止部59を仮想線(点線)で示している。1対の係止部59は、各嵌込溝57の周方向における両端側に位置している。各係止部59は、径方向外側から見て、ブッシュ本体55の開放部分55C側へ向けて円弧状に膨出したブロック状である。
ここで、各凸部58の外周部分(径方向における外側部分)には、突起70が一体的に設けられている。突起70は、当該径方向における外側へ向かって尖った錐体状であり、各凸部58の外周部分において、外周面55Aの周方向に沿って複数設けられている。各突起70は、凸部58の一部であって、凸部58の径方向外側端部(先端部分)になっており、各突起70の表面は、凸部58の外周面の一部であり、ブッシュ本体55の外周面55Aの一部でもある。ここで、前述した基準線Y(第2ブッシュ12の軸中心)からの径方向における(凸部58の)突起70の最大寸法(基準線Yを中心とする径方向寸法)は、ハウジング9の内周面23(詳しくは、内側内周面37であり、図2参照)の内径よりも大きい。
図7〜図9に示した突起70は、四角錐(ピラミッド状)であるが、円錐であってもよいし、三角錐であってもよい。いずれにせよ、外周面55Aの周方向に直交する平面で切断したときの突起70の断面が、外周面55A(凸部58)の径方向外側へ向かって尖った三角形状であればよい。
なお、突起70は、各凸部58において、凸部58の周方向における全域に亘ってびっしりと設けられていてもよく、または、途切れ途切れに設けられていても構わない。ただし、突起70が途切れ途切れに設けられる場合、突起70は、当該周方向においてある程度等間隔となるように分散して配置されていることが好ましい。
ブッシュ本体55の軸方向における一端(図8および図9(b)における右手前側の端)には、ブッシュ本体55の径方向外側へ向かって鍔状に張り出したフランジ部60(位置決め部)が一体的に設けられている。フランジ部60全体は、ブッシュ本体55と同軸状をなす側面視C型に形成されている。径方向において、フランジ部60は、ブッシュ本体55の外周面55A(各凸部58の先端部分である突起70も含む)よりも外側へ突出している(図9(b)参照)。そのため、径方向において、突起70の外側端(最先端70Aということにする)は、フランジ部60の外周面よりも内側にある(図9(b)参照)。フランジ部60の外径は、ハウジング9の内周面23において環状凸部35における内径よりも大きく、内周面23において環状溝36における内径よりも小さい(図2参照)。また、フランジ部60の外周面において、周方向における略中央には、径方向外側へ側面視で円弧状に膨出する突起62が一体的に設けられている。
ブッシュ本体55には、ブッシュ本体55の軸方向に延びてフランジ部60側からフランジ部60およびブッシュ本体55を切り込む複数(ここでは、4つ)の切欠き61が形成されている。これらの切欠き61は、ブッシュ本体55の周方向において所定の間隔を隔てて並んでいる。各切欠き61は、フランジ部60を径方向において切断するとともに、2本の嵌込溝57を横切りつつブッシュ本体55の周壁の一部を径方向において切断して、ブッシュ本体55の外周面55Aおよび内周面55Bの両側から露出されている。各切欠き61においてフランジ部60側とは反対側(図8および図9(b)における左側)の端部は、当該反対側におけるブッシュ本体55の端縁まで達しておらず、詳しくは、当該反対側の凸部58の直前まで延びている(図9(b)参照)。切欠き61が形成されていることによって、当該反対側の凸部58以外の2本の凸部58は、周方向において途切れている。
Oリング56は、ゴム等の弾性材料で形成された環状である。Oリング56の周方向に直交する平面で切断したときのOリング56の断面は、円形状をなしている。第2ブッシュ12において、Oリング56は、1本だけ設けられている。1本のOリング56は、図8に示すようにブッシュ本体55の軸方向において扁平となるように撓んだ状態(当初から撓んだ形状であってもよい)で、ブッシュ本体55の1対の係止部59に係止されている(図7および図9(d)参照)。また、Oリング56において、係止部59よりもフランジ部60側で周方向に延びている部分は、フランジ部60側の嵌込溝57に嵌め込まれ、残りの部分(係止部59よりもフランジ部60側とは反対側で周方向に延びている部分)は、残りの(当該反対側)の嵌込溝57に嵌め込まれている(図7および図9(b)参照)。つまり、1本のOリング56は、嵌込溝57の周方向における両端側において係止部59に係止されつつ、両方の嵌込溝57に嵌め込まれている。このとき、Oリング56には、ある程度のテンションがかかっている。
なお、Oリング56において1対の係止部59に係止される部分は、係止部59に対して確実に係止されるように、円形状の断面でなく、係止部59の周面に面接触できる薄膜状の断面を有していてもよい。また、各係止部59は、Oリング56を確実に係止できるような形状(たとえば、フック形状)であることが好ましい。
このように完成された状態にある第2ブッシュ12では、図7に示すように、Oリング56の一部(径方向外側部分)が各嵌込溝57(ブッシュ本体55の外周面55A)から径方向外側へ突出している(図9(b)および図9(d)も参照)。ただし、第2ブッシュ12がステアリング装置1に組み込まれていない新品状態にある場合、当該径方向において、Oリング56の外周面(基準線Yを中心とする径方向外側面)は、各凸部58の突起70の最先端70Aよりも内側に位置している(図9(b)および図9(d)参照)。そして、第2ブッシュ12は、各切欠き61の幅(周方向における幅)を狭めることによって、第1ブッシュ11と同様に、弾性的に縮径することができる。そのため、第2ブッシュ12を摘んで指に力を入れると第2ブッシュ12全体が縮径し、その力を緩めると第2ブッシュ12は元の大きさまで拡径する。
図10は、変形例に係る第2ブッシュ12の斜視図である。図11は、変形例に係る第2ブッシュ12の分解斜視図である。図12(a)は、変形例に係る第2ブッシュ12に関し、図11とは別の方向から見たブッシュ本体55の斜視図であり、図12(b)は、径方向外側から見たブッシュ本体55の側面図であり、図12(c)は、軸方向外側から見たブッシュ本体55の側面図であり、図12(d)は、図12(b)のB−B線における断面図である。
前述した凸部58の突起70は、錐体状であったが(図7〜図9参照)、外周面55Aの周方向に直交する平面で切断したときの突起70の断面が前述した三角形状であれば、突起70は、図10〜図12に示すように、当該周方向に延びつつ外周面55Aの径方向外側へ向かって尖った三角柱状であってもよい。
次に、ハウジング9に対するラックアンドピニオン機構10、第1ブッシュ11および第2ブッシュ12の組み付けについて説明する。
図13(a)は、ハウジング9の断面図であって、第1ブッシュ11が組み付けられた直後の状態を示しており、図13(b)は、図13(a)のハウジング9に対して第2ブッシュ12を組み付ける様子を示す斜視図である。図14(a)は、図13(a)においてハウジング9に対して第2ブッシュ12が組み付けられた直後の状態を示しており、図14(b)は、図14(a)の要部拡大図であり、図14(c)は、図14(a)のC−C線における断面図である。図15(a)は、図14(a)においてハウジング9に対してラック軸8が組み付けられた直後の状態を示しており、図15(b)は、図15(a)の要部拡大図である。図16(a)は、図15(a)においてラック軸8を径方向へずらした状態を示しており、図16(b)は、図16(a)の要部拡大図である。
まず、図13(a)を参照して、ハウジング9に対して第1ブッシュ11を組み付ける。具体的には、縮径前の状態にある第1ブッシュ11を、軸方向Xに沿ってハウジング9の第1開口21に対して挿入する。このとき、第1ブッシュ11では、ブッシュ本体45においてフランジ部48を除く部分がフランジ部48よりも先に第1開口21を通過するようにする。その後、第1ブッシュ11のブッシュ本体45においてフランジ部48を除く部分は、環状凸部25に囲まれた部分、および、環状溝26に囲まれた部分を、この順に通過して、内側内周面27の内側に挿通される。この際、第1ブッシュ11では、Oリング46が、内側内周面27に対して径方向内側から全周に亘って接触し、内側内周面27とブッシュ本体45との間である程度圧縮されるものの、内側内周面27とブッシュ本体45の外周面45Aとの間には、全周に亘って、ある程度の隙間(径方向の隙間)が確保されている。
そして、ブッシュ本体45においてフランジ部48を除く部分を内側内周面27の内側に引き続き挿通すると、フランジ部48が環状凸部25に対して第1開口21側から当接し、これ以上第1ブッシュ11が進めなくなる。そこで、前述したように第1ブッシュ11(特にフランジ部48)を摘んで縮径させると、フランジ部48の外径が、ハウジング9の内周面23において環状凸部25における内径よりも小さくなるので、フランジ部48(つまり、第1ブッシュ11全体)は、環状凸部25に囲まれた部分を通過できる。フランジ部48が環状凸部25に囲まれた部分を通過してから、第1ブッシュ11を元の大きさまで拡径させると、フランジ部48が全周に亘って環状溝26に対して径方向内側から嵌まり込む。
これにより、図13(a)に示すように、第1ブッシュ11がフランジ部48において軸方向Xに位置決めされ、ハウジング9に対する第1ブッシュ11の組み付けが完了する。この状態では、第1ブッシュ11とハウジング9の内周面23とが同軸状をなしていて、ブッシュ本体45の外周面45Aが、内側内周面27に対して径方向内側から対向している。そして、2本のOリング46のそれぞれが、内側内周面27とブッシュ本体45との間である程度圧縮されるものの、内側内周面27とブッシュ本体45の外周面45Aとの間には、全周に亘って、ある程度の隙間が確保されている。このように、第1ブッシュ11は、ハウジング9内において第1開口21のすぐ近くの端部(第1端部91)にセットされるので、ハウジング9に対して組み付けやすい。
なお、フランジ部48が環状溝26に嵌まり込んでいる以外に、ブッシュ本体45の先にハウジング9の段付き28が位置しているので、第1ブッシュ11がハウジング9の中空部分20において段付き28を超えて第2端部92側へずれることはない。
次いで、図13(b)に示すように、ハウジング9に対して第2ブッシュ12を組み付ける。具体的には、縮径前の状態にある第2ブッシュ12を、軸方向Xに沿ってハウジング9の第2開口22に対して挿入する(図13(b)の太線矢印参照)。このとき、第2ブッシュ12では、ブッシュ本体55においてフランジ部60を除く部分がフランジ部60よりも先に第2開口22を通過するようにする。その後、第2ブッシュ12のブッシュ本体55においてフランジ部60を除く部分は、環状凸部35に囲まれた部分、および、環状溝36(図10(b)で黒く塗り潰した部分)に囲まれた部分を、この順に通過して、内側内周面37の内側に挿通される。
この際、第2ブッシュ12では、各凸部58の突起70が、内側内周面37に対して径方向内側から接触する。ただし、第2ブッシュ12は、前述したように側面視C型であることから、ハウジング9における円筒状の中空部分20内において、ハウジング9(中空部分20)の径方向へある程度自由に動ける。よって、ブッシュ本体55を内側内周面37の内側に挿通する際において、突起70が内側内周面37に接触しても、その接触がブッシュ本体55の挿通に対する抵抗となることは、ほとんどない。
つまり、側面視C型のブッシュ本体55を有する第2ブッシュ12では、ブッシュ本体55が筒状(側面視O型であり、第1ブッシュ11を参照)である場合に比べて、ハウジング9に第2ブッシュ12を組み付けるときに第2ブッシュ12において抵抗になる部分が少なくなる。当該部分とは、突起70である。また、この実施形態では、第2ブッシュ12が新品状態にある場合、径方向において、Oリング56の外周面は、突起70の最先端70Aよりも内側に位置している(図9(b)および図9(d)参照)。これに代えて、Oリング56の外周面が径方向において最先端70Aよりも外側に位置している場合には、当該部分(抵抗となる部分)は、Oリング56において第2ブッシュ12のブッシュ本体55とハウジング9の内周面23(内側内周面37)との間で圧縮される部分となる。いずれにせよ、側面視C型のブッシュ本体55を有する第2ブッシュ12であれば、ハウジング9に対して容易かつ円滑に組み付けることができる。その結果、第2ブッシュ12の組み付け性の向上を図ることができる。
そして、ブッシュ本体55においてフランジ部60を除く部分を内側内周面37の内側に引き続き挿通すると、フランジ部60が環状凸部35に対して第2開口22側から当接し、これ以上第2ブッシュ12が進めなくなる。そこで、前述したように第2ブッシュ12(特にフランジ部60)を摘んで縮径させると、フランジ部60の外径が、ハウジング9の内周面23において環状凸部35における内径よりも小さくなるので、フランジ部60(つまり、第2ブッシュ12全体)は、環状凸部35に囲まれた部分を通過できる。フランジ部60が環状凸部35に囲まれた部分を通過してから、第2ブッシュ12を元の大きさまで拡径させると、図14(a)に示すように、フランジ部60が全周に亘って環状溝36に対して径方向内側から嵌まり込み、これによって、ハウジング9に係合する。
そして、フランジ部60がハウジング9に係合することにより、第2ブッシュ12が、フランジ部60においてハウジング9に対して(軸方向Xにおいて)位置決めされ、ハウジング9に対する第2ブッシュ12の組み付けが完了する。
前述したように側面視C型のブッシュ本体55を有する第2ブッシュ12では、ブッシュ本体55が筒状である場合(第1ブッシュ11の場合)に比べて、ハウジング9に第2ブッシュ12を組み付ける際に、第2ブッシュ12の姿勢をハウジング9内で比較的自由に変えることができる。これによって、ブッシュ本体55に設けられたフランジ部60をハウジング9の環状溝36にうまく係合させることができる。これにより、第2ブッシュ12を位置決めするための部材を第2ブッシュ12とは別に設け、第2ブッシュ12をハウジング9内にセットしてから当該部材で第2ブッシュ12を位置決めしなくても、第2ブッシュ12をハウジング9において位置決めすることができるので、部品点数の低減を図ることができる。また、このように、第2ブッシュ12は、ハウジング9内において第2開口22のすぐ近くの端部(第2端部92)にセットされるので、ハウジング9に対して組み付けやすい。
なお、フランジ部60が環状溝36に嵌まり込んでいる以外に、ブッシュ本体55の先にハウジング9の段付き38が位置しているので、第2ブッシュ12がハウジング9の中空部分20において段付き38を超えて第1端部91側へずれることはない。
このようにハウジング9に対する第2ブッシュ12の組み付けが完了した状態では、第2ブッシュ12とハウジング9の内周面23とがほぼ同軸状をなしていて、図14(b)に示すように、ブッシュ本体55の外周面55Aが、内側内周面37に対して径方向内側から対向している。また、この状態では、ブッシュ本体55の各凸部58の全ての突起70が、内側内周面37に対して径方向内側から接触している。各突起70は、最先端70Aにおいて、内側内周面37に対して点接触している。これにより、ブッシュ本体55の外周面55A(各突起70の外表面を除く)は、内側内周面37から径方向内側へ浮いた状態になっており、外周面55Aと内側内周面37との間には、全周に亘って、ある程度の隙間が確保されている。この状態において、Oリング56は、内側内周面37とブッシュ本体55との間でほとんど(または、全く)圧縮されていない。そして、この状態において、第2ブッシュ12は、ハウジング9内(中空部分20)において径方向へある程度自由に動ける。
ここで、図14(c)に示すように、ハウジング9の環状溝36において、フランジ部60の外周面の突起62と一致する部分には、環状溝36から連続して環状溝36よりも深く窪む係止溝36Aが形成されている。フランジ部60の突起62は、この係止溝36Aに対して径方向内側から嵌まり込んでいる。これにより、第2ブッシュ12全体が周方向において位置決めされ、回転しなくなっている。なお、突起62を係止溝36A(ハウジング9の内周面23)に設けて、係止溝36Aをフランジ部60の外周面に設けても、第2ブッシュ12を周方向において位置決めできる。
このように周方向において位置決めされた第2ブッシュ12は、図14(c)に示すように軸方向Xから見て、ブッシュ本体55において開放部分55Cがハウジング9の窪み40(図14(a)参照)側を向くように、ハウジング9の内周面23において窪み40から周方向に180°ずれた位置(窪み40から最も離れた位置)に沿って配置されている。そのため、軸方向Xから見て、ブッシュ本体55では、外周面55Aでなく、内周面55Bが窪み40側に位置している。
なお、図14(c)では、説明の便宜上、Oリング56(図14(a)参照)の図示を省略する一方で、ラック軸8を点線で示している。
次いで、図15(a)を参照して、ラック軸8を第1開口21または第2開口22からハウジング9内(中空部分20)に挿通する。ラック軸8を第1開口21からハウジング9内に挿通する場合には、ラック軸8は、軸方向Xに沿って、(ハウジング9内の)第1ブッシュ11のブッシュ本体45の中空部分、ハウジング9の円周面39、および、(ハウジング9内の)第2ブッシュ12のブッシュ本体55の内周面55B側に対して、この順番で挿通される。
逆に、ラック軸8を第2開口22からハウジング9内に挿通する場合には、ラック軸8は、軸方向Xに沿って、(ハウジング9内の)第2ブッシュ12のブッシュ本体55の内周面55B側、ハウジング9の円周面39、および、(ハウジング9内の)第1ブッシュ11のブッシュ本体45の中空部分に対して、この順番で挿通される。
いずれにせよ、ラック軸8が第1ブッシュ11のブッシュ本体45の中空部分に挿通されると、第1ブッシュ11は、第1端部91においてラック軸8に対して径方向外側から嵌められるとともに、ラック軸8とハウジング9の内周面23との間に配置された状態になる。そして、ラック軸8が第2ブッシュ12のブッシュ本体55の内周面55B側に対して挿通されると、第2ブッシュ12は、第2端部92(ハウジング9の一端)においてラック軸8に対して径方向外側から嵌められるとともに、ラック軸8とハウジング9の内周面23との間に配置された状態になる。
なお、第1ブッシュ11のブッシュ本体45の内周面45B、および、第2ブッシュ12のブッシュ本体55の内周面55Bのそれぞれにおいて、軸方向Xにおける両端縁には、面取り部分63が設けられている(図5および図7参照)。そのため、ラック軸8を、第1ブッシュ11のブッシュ本体45の中空部分、および、第2ブッシュ12のブッシュ本体55の内周面55B側のいずれに対しても、引っ掛かることなく円滑に挿通できる。
ここで、図15(b)を参照して、第2ブッシュ12は、ラック軸8が挿通される前の状態ではハウジング9内で径方向へある程度自由に動けていたのだが(図14参照)、ラック軸8が挿通された状態では、ラック軸8によって内側内周面37側へ押し付けられており、ハウジング9内において単独で径方向へ自由に動くことはできない。このときの第2ブッシュ12は、ラック軸8によって、軸方向Xから見て窪み40から離れる方向(図15における下向き)へ押し付けられている。そして、このように第2ブッシュ12がラック軸8によって内側内周面37側へ押し付けられることによって、第2ブッシュ12では、各凸部58の突起70が、内側内周面37に対して当接することで、最先端70A側において潰れるように塑性変形している。そのため、ブッシュ本体55の周方向に直交する平面で切断したときの各突起70の断面は、径方向外側へ向けて細くなる等脚台形状になっており、突起70の最先端70Aは、軸方向Xに沿って平坦になっている。この状態では、径方向において、突起70がOリング56よりも外側にあれば、Oリング56は、引き続きブッシュ本体55と内側内周面37(ハウジング9)とに挟まれていない。しかし、この状態で、径方向において、突起70がOリング56よりも内側に至る程度に塑性変形していれば、Oリング56は、ブッシュ本体55と内側内周面37(ハウジング9)とに挟まれて圧縮されている。ただし、ブッシュ本体55の外周面55A(各突起70の外表面を除く)と内側内周面37との間には、全周に亘って、ある程度の隙間が確保されている。
そして、図15(a)に示すように、ラック軸8において第1開口21および第2開口22の一方に対して最初に挿通された端部が、第1開口21および第2開口22の他方から出てくると、ハウジング9内へのラック軸8の挿通(ハウジング9に対するラック軸8の組み付け)が完了する。組み付けが完了したラック軸8は、いずれの部分においてもハウジング9に接触していない。
ここで、図16(a)を参照して、ラック軸8の外周面8Bにおいてハウジング9の窪み40側(図16(a)における上側)領域の軸方向Xにおける1箇所(図16(a)では、ラック8Aに対して第1端部91側から隣接する位置)には、ラック軸8の軸中心側へ窪む窪み部100(他の図では図示を省略)が形成されている。ハウジング9に対するラック軸8の組み付けが途中の場合(ラック軸8が挿通途中の場合)において、軸方向Xで窪み部100と窪み40とが一致する状態で、ラック軸8の挿通を一時停止する。このとき、窪み部100と窪み40とが合わさって、比較的大きなスペースが形成されるので、このスペース(ラック軸8とハウジング9の内周面23との間)にピニオン軸7のピニオン7A(図2参照)を挿入し、その後、ラック軸8の挿通を再開する。すると、軸方向Xにおいて窪み部100が窪み40から離れるので、これに応じて、窪み40内のピニオン7Aが窪み部100から外れ、図2に示すように、ピニオン7Aのギヤ歯41とラック軸8のラック8Aのギヤ歯42とが噛み合うようになる。
ギヤ歯41とギヤ歯42とが噛み合い始める直前では、ピニオン7Aが一瞬ラック8A(窪み部100側の端部)に乗り上げることで、ラック軸8が、窪み40から離れる方向(第2ブッシュ12側であり、図16(a)の太線矢印参照)へ若干撓む(図16において実線で示したラック軸8を参照)。このとき、ラック軸8は、第2ブッシュ12のOリング56がブッシュ本体55とハウジング9の内周面23(内側内周面37)との間で圧縮されるように、径方向へ若干ずれたことになる。その後、ギヤ歯41とギヤ歯42とが正しく噛み合うようになると、ラック軸8は、撓む前の状態(径方向へずれる前の位置)に速やかに戻る(図16において点線で示したラック軸8を参照)。換言すれば、ラック軸8が撓む(ずれる)前の位置まで戻ることによって、ギヤ歯41とギヤ歯42とが正しく噛み合うようになる。そして、ハウジング9内へのラック軸8の挿通が完了すると(図15および図16も参照)、ハウジング9に対するラック軸8の組み付けが完了するとともに、ラックアンドピニオン機構10が完成し、さらに、ハウジング9に対するラックアンドピニオン機構10の組み付けも完了する。なお、ここでのラック軸8の挿通方向は、窪み部100の位置の都合上、第2開口22から第1開口21へ向かう方向(左向きの方向)になる(図15および図16参照)。
このようにピニオン7Aの組み付けの際にラック軸8が撓むと、第2ブッシュ12がラック軸8によって内側内周面37側(窪み40から離れる方向)へさらに押し付けられる。これに伴い、図16(b)を参照して、各凸部58の突起70は、内側内周面37に対してより強く当接することで、最先端70A側において、先程よりも大きく塑性変形している(潰れている)。詳しくは、ブッシュ本体55の周方向に直交する平面で切断したときの各突起70の断面は、径方向外側へ向けて細くなる等脚台形状であるが、ラック軸8が撓む前よりも径方向において扁平になっている。そして、このときには、各突起70が径方向においてOリング56よりも内側に至る程度に塑性変形しているので、Oリング56がブッシュ本体55と内側内周面37(ハウジング9)との間で圧縮される(図16(b)参照)。
ここで、ラック軸8が撓む前の状態に戻っても、各凸部58の突起70は、塑性変形したままの状態にあり、最先端70Aにおいて潰れている。そのため、ラック軸8が撓む前の状態に戻った後の突起70の断面は、図3(b)に示すように、径方向外側へ向けて細くなる等脚台形状であり、径方向において扁平である。そして、当該径方向において、Oリング56の外側部分は、各突起70の最先端70Aよりも外側に位置している。また、このとき、第2ブッシュ12とハウジング9の内周面23とは、完全な同軸状をなしている。なお、このようにラック軸8が撓むときに突起70が塑性変形すればよいので、その前の段階(ラック軸8を第2ブッシュ12に挿通する段階)で突起70が塑性変形しなくてもよい。
次に、ステアリング装置1における第1ブッシュ11および第2ブッシュ12の役割について説明する。
図2および図3を参照して、前述したように、第1ブッシュ11および第2ブッシュ12は、いずれも、ラック軸8に対して径方向外側から嵌められた状態になっている。そのため、第1ブッシュ11では、ブッシュ本体45の内周面45Bが、ラック軸8の外周面8Bに対して面接触しており、第2ブッシュ12では、ブッシュ本体55の内周面55Bが、ラック軸8の外周面8Bに対して面接触している。これにより、第1ブッシュ11および第2ブッシュ12は、ラック軸8を、軸方向Xにおいて摺動可能に支持している。ここで、第1ブッシュ11は、フランジ部48においてハウジング9に位置決めされ、第2ブッシュ12は、フランジ部60においてハウジング9に位置決めされているので、操舵部材2の操作に伴ってラック軸8が軸方向Xにスライドしても、これらのブッシュの軸方向Xにおける位置がずれることはない。
そして、第1ブッシュ11では、ブッシュ本体45に取り付けられた2本のOリング46が、ブッシュ本体45とハウジング9の内側内周面27とに圧縮されており、第2ブッシュ12では、ブッシュ本体55に取り付けられた1本のOリング56が、ブッシュ本体55とハウジング9の内側内周面37とに圧縮されている。これにより、第1ブッシュ11および第2ブッシュ12は、ラック軸8を径方向において弾性的に支持している。また、各Oリング46およびOリング56において径方向内側へ作用する弾性収縮力によって、切欠き49を有する第1ブッシュ11(図5参照)と、切欠き61を有する第2ブッシュ12(図7参照)とが若干縮径されている。これにより、第1ブッシュ11のブッシュ本体45の内周面45Bと第2ブッシュ12のブッシュ本体55の内周面55Bとが、ラック軸8の外周面8Bに対して隙間無く面接触している。
ここで、車両の走行中において、ラック軸8から第1ブッシュ11および第2ブッシュ12に負荷される径方向の荷重(ラジアル荷重)が小さいとき(操舵部材2を操作してない低負荷時)には、第1ブッシュ11のブッシュ本体45の外周面45Aから各Oリング46の径方向外側部分がはみ出てハウジング9の内側内周面27に接触している。また、第2ブッシュ12のブッシュ本体55の外周面55A(各突起70の外表面も含む)からOリング56の径方向外側部分がはみ出てハウジング9の内側内周面37に接触している。これにより、各Oリング46および56によって、前述した低負荷が吸収され、第1ブッシュ11のブッシュ本体45の外周面45Aとハウジング9の内側内周面27との間に、径方向における隙間Sが周方向全域に亘って確保されている(図3(a)参照)。また、第2ブッシュ12のブッシュ本体55の外周面55A(厳密には、各突起70の最先端70Aにおける外表面)とハウジング9の内側内周面37との間にも、径方向における隙間Sが周方向全域に亘って確保されている(図3(b)参照)。
したがって、前記ラジアル荷重が小さいときには、第1ブッシュ11のブッシュ本体45は、径方向においてハウジング9の内側内周面27から内側へ浮いた状態になるように、2本のOリング46によって弾性支持されている。また、このとき、第2ブッシュ12のブッシュ本体55は、径方向においてハウジング9の内側内周面37から内側へ浮いた状態になるように、1本のOリング56によって弾性支持されている。これにより、第1ブッシュ11および第2ブッシュ12に支持されたラック軸8も弾性支持されているので、ラック軸8のがたつきを防止できる。
一方、走行中に操舵部材2を操作したり、車輪15(図1参照)が縁石にぶつかったりする等によって、ラック軸8から第1ブッシュ11に対するラジアル荷重が大きくなることがある。このような高負荷時には、第1ブッシュ11では、図4(a)に示すように、ブッシュ本体45が2本のOリング46を圧縮しながら径方向の外側(図4(a)では下側)へ変位する。そして、最終的には、各Oリング46が嵌込溝47内に完全に収まってしまって、第1ブッシュ11のブッシュ本体45の外周面45Aがハウジング9の内側内周面27に接触し、前述した隙間S(図3(a)参照)が周上1箇所においてなくなってしまう。
また、ラック軸8から第2ブッシュ12へのラジアル荷重が大きくなると、第2ブッシュ12では、図4(b)に示すように、ブッシュ本体55が1本のOリング56を圧縮しながら径方向の外側(図4(b)では下側)へ変位する。そして、最終的には、Oリング56が各嵌込溝57内(厳密には、各突起70の最先端70Aよりも径方向内側)に完全に収まってしまって、ブッシュ本体55の外周面55Aにおける各突起70がハウジング9の内側内周面37に接触し、前述した隙間S(図3(b)参照)が周方向全域に亘ってなくなってしまう。
つまり、高負荷時には、第1ブッシュ11のブッシュ本体45や第2ブッシュ12のブッシュ本体55といった樹脂部分がハウジング9の内周面23(内側内周面27や内側内周面37)に直接接触することによって、高負荷を吸収する。これにより、第1ブッシュ11や第2ブッシュ12が径方向の外側へこれ以上変位できなくなることから、ラック軸8の径方向への撓みが防止されるので、高負荷時におけるラック軸8の支持剛性を維持できる。
なお、このように第1ブッシュ11や第2ブッシュ12が径方向の外側へ変位できなくなったときには、Oリング46やOリング56は、目一杯圧縮されていて、各Oリングの断面は、当初の真円形状(図3(a)および図3(b)参照)から、楕円形状(図4(a)および図4(b)参照)へと弾性変形している。ここで、ハウジング9にラックアンドピニオン機構10の組み付けるためにラック軸8を撓ませる際、ラック軸8が第2ブッシュ12を押さえ付けることで各突起70を内側内周面37に当接させる荷重は、前述した高負荷以下になるように設定されている(図16参照)。
そして、図2を参照して、第2ブッシュ12は、以上のようにラック軸8を支持する機能の他に、ラック8Aおよびピニオン7Aの噛み合い部(ギヤ歯41および42)のバックラッシを除去する機能も有している。具体的に、第2ブッシュ12は、前述したように側面視C型であり、ハウジング9の内周面23において窪み40のピニオン軸7から最も離れた位置に配置されている。そして、第2ブッシュ12では、ブッシュ本体55の外周面55A(ブッシュ本体55においてピニオン軸7から最も離れた側面)にOリング56が取り付けられ、ブッシュ本体55とハウジング9の内周面23とに挟まれて圧縮されている。これにより、このOリング56が、自身の弾性力によって、ブッシュ本体55を介してラック軸8をピニオン軸7に向けて弾性的に付勢している。
この場合、第2ブッシュ12は、軸方向Xにおいて、ラック軸8とピニオン軸7との噛み合い部分から第2端部92側へ離れた位置にある。そのため、第2ブッシュ12は、自身を力点とし、別のブッシュ(第1ブッシュ11)を支点として、ラック軸8とピニオン軸7との噛み合い部分を、力点と支点との間の作用点とした「てこの原理」によって、ラック軸8をピニオン軸7に向けて必要十分に付勢することができる。なお、ラック軸8をピニオン軸7に向けて力強く付勢するために、このように、第2ブッシュ12を、ラック軸8とピニオン軸7との噛み合い部分から軸方向Xにおいて極力離して、力点と作用点との距離を長くすることが望ましい。
また、第2ブッシュ12では、1本のOリング56を2本の嵌込溝57に嵌め込んでいる(図7、図8、図10および図11参照)。これによって、Oリング56が1本しかないのに、実質的にOリング56が2本あるときの付勢力で、ラック軸8をピニオン軸7に向けて必要十分に付勢することができるので、部品点数の低減を図ることができる。
一方、このような側面視C型のブッシュ本体55を有する第2ブッシュ12でなく、側面視O型(筒状)のブッシュ本体45を有する第1ブッシュ11によってラック軸8をピニオン軸7に向けて付勢することも考えられる。ただし、その場合には、第1ブッシュ11がラック軸8を周上1箇所から押圧するように、第1ブッシュ11をラック軸8に対して偏心配置したり、内側内周面27の形状を変更したりしなければならず、そのための構成が複雑になる。しかし、第2ブッシュ12では、ブッシュ本体55を側面視C型にし、ブッシュ本体55の外周面55AにOリング56といった弾性部材を取り付けるといった簡素かつ安価な構成だけで、ラック軸8をピニオン軸7に向けて付勢することができる。
ここで、第2ブッシュ12では、新品状態での径方向寸法がハウジング9の内側内周面37の内径よりも大きい突起70を、ブッシュ本体55の外周面55Aの各凸部58に設けている(図7および図10参照)。そして、第2ブッシュ12をハウジング9にセットしてから第2ブッシュ12にラック軸8を挿通して径方向へずらし、これによって、突起70を最先端70Aにおいて塑性変形させている(図16参照)。ステアリング装置1における各部品の寸法(ラック軸8の外径やハウジング9の内周面23の内径や第2ブッシュ12の外径等)には、誤差(寸法公差も含む)が生じ得る。しかし、このような誤差があり、さらに当該誤差にばらつきがあったとしても、ラック軸8を、ずらす前の位置まで戻したときに(図2参照)、塑性変形後の各突起70と内側内周面37との隙間Sの径方向における寸法Q(図3(b)参照)を、必ず一定の値となるように調整できる。当該一定の値とは、設計目標として要求される理想の値である。
ここで、各部品の寸法誤差を積み重ねた(合計した)ものが、ピニオン軸7とラック軸8との初期のバックラッシになる。初期のバックラッシがある程度の大きさ(たとえば、0.02mm〜0.5mmの大きさ)であると、ピニオン軸7のギヤ歯41およびラック軸8のギヤ歯42のそれぞれにおいて摩耗が大きくなり、これらのギヤ歯の噛み合いが騒音を発生させるとともに、各ギヤ歯の耐久性を低下させる虞が生じる。
しかし、本発明では、このように各突起70を塑性変形させること(図16参照)によって各部品の寸法誤差を突起70の変形量で吸収しているので、寸法公差のばらつきにかかわらず、ブッシュ本体55の外周面55Aと内側内周面37との隙間を、前述した隙間S(初期目標クリアランスであり、図3(b)参照)まで小さくして、前述した初期のバックラッシを低減することができる。これにより、初期のバックラッシが、所定の小さい値で安定することから、ピニオン軸7のギヤ歯41およびラック軸8のギヤ歯42の摩耗を抑制するとともに、前述した騒音を防止してラックアンドピニオン機構10の初期性能を向上できる。そして、各ギヤ歯の耐久性の向上を図ることもできる。そして、このような効果を奏することができる突起70は、ブッシュ本体55の一部として、ブッシュ本体55とともに樹脂で一体成形されるので、低コストによって、第2ブッシュ12に突起70を備えることができる。
なお、第2ブッシュ12に挿通したラック軸8を径方向へずらしたときに突起70を大きく塑性変形させるために、新品状態での第2ブッシュ12(図7および図10参照)の突起70の径方向寸法が、ハウジング9の内側内周面37の内径よりも大きいことが望ましい。ただし、突起70の塑性変形量の目標値によっては、新品状態での第2ブッシュ12の突起70の径方向寸法が、ハウジング9の内側内周面37の内径と同じであっても構わないし、内側内周面37の内径より小さくても構わない。
そして、突起70の塑性変形量が目標値となるように、突起70の材質(突起70を構成する樹脂の種類)や、突起70の当初の大きさや、各凸部58に配置される突起70の数などは、適時設定される。突起70を大きく変形させたいのであれば、たとえば、突起70に剛性の低い樹脂を用いるとともに突起70を大きくしたり、突起70の数を減らしたりすることができる。突起70が少ないほど、ラック軸8を撓ませたときに(図16参照)各突起70にかかる力が大きくなるので、各突起70は大きく変形する。逆に、突起70をあまり変形させたくないのであれば、突起70に剛性の高い樹脂を用いるとともに突起70を小さくしたり、突起70の数を多くしたりすることができる。
この発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、第1ブッシュ11も、第2ブッシュ12と同じ構成(側面視C型であるとともに、突起70を備える構成)を有していて、第1ブッシュ11および第2ブッシュ12の両方がラック軸8をピニオン7A側へ付勢していてもよい。また、第2ブッシュ12には、Oリング56を撓ませて取り付けたが、Oリング以外の形状(たとえばブロック状)の弾性体をブッシュ本体55の外周面55Aに取り付けても、第2ブッシュ12は、ラック軸8をピニオン軸7に向けて付勢できる。
また、ピニオン軸7から遠い位置に配置されるラックブッシュ(ここでは、第1ブッシュ11)には、一般的なラックブッシュ(例えば、円筒型でOリング46なしのラックブッシュ)が用いられてもよい。