以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
まず、斜視図である図1、及びII−II方向から見た断面図である図2を参照して、実施の形態に係る密度測定システムに用いられるマイクロチップ8について説明する。マイクロチップ8は、キャビティ66が設けられた基板60、及び基板60上にキャビティ66を覆うように配置された絶縁膜65を備える。基板60の厚みは、例えば0.5mmである。また、基板60の縦横の寸法は、例えばそれぞれ1.5mm程度である。絶縁膜65のキャビティ66を覆う部分は、断熱性のダイアフラムをなしている。さらにマイクロチップ8は、絶縁膜65のダイアフラムの部分に設けられた発熱素子61と、発熱素子61を挟むように絶縁膜65のダイアフラムの部分に設けられた第1の測温素子62及び第2の測温素子63と、基板60上に設けられた保温素子64と、を備える。
ダイアフラムには、複数の孔が設けられている。ダイアフラムに複数の孔を設けることにより、キャビティ66内のガスの置換が速くなる。あるいは、絶縁膜65は、図3、及びIV−IV方向から見た断面図である図4に示すように、キャビティ66をブリッジ状に覆うように、基板60上に配置されてもよい。これによっても、キャビティ66内が露出し、キャビティ66内のガスの置換が速くなる。
発熱素子61は、キャビティ66を覆う絶縁膜65のダイアフラムの部分の中心に配置されている。発熱素子61は、例えば抵抗器であり、電力を与えられて発熱し、発熱素子61に接する雰囲気ガスを加熱する。第1の測温素子62及び第2の測温素子63は、例えば抵抗器等の受動素子等の電子素子であり、雰囲気ガスのガス温度に依存した電気信号を出力する。以下においては、第1の測温素子62の出力信号を利用する例を説明するが、これに限定されず、例えば第1の測温素子62の出力信号及び第2の測温素子63の出力信号の平均値を、測温素子の出力信号として利用してもよい。
保温素子64は、例えば抵抗器であり、電力を与えられて発熱し、基板60の温度を一定に保つ。基板60の材料としては、シリコン(Si)等が使用可能である。絶縁膜65の材料としては、酸化ケイ素(SiO2)等が使用可能である。キャビティ66は、異方性エッチング等により形成される。また発熱素子61、第1の測温素子62、第2の測温素子63、及び保温素子64のそれぞれの材料には白金(Pt)等が使用可能であり、リソグラフィ法等により形成可能である。また、発熱素子61、第1の測温素子62、及び第2の測温素子63は、同一の部材からなっていてもよい。
マイクロチップ8は、マイクロチップ8の底面に配置された断熱部材18を介して、雰囲気ガスが充填されるチャンバ等の容器に固定される。断熱部材18を介してマイクロチップ8を容器に固定することにより、マイクロチップ8の温度が、容器の内壁の温度変動の影響を受けにくくなる。ガラス等からなる断熱部材18の熱伝導率は、例えば1.0W/(m・K)以下である。
図5に示すように、発熱素子61の一端には、例えば、オペアンプ170の+入力端子が電気的に接続され、他端は接地される。また、オペアンプ170の+入力端子及び出力端子と並列に、抵抗素子161が接続される。オペアンプ170の−入力端子は、直列に接続された抵抗素子162と抵抗素子163との間、直列に接続された抵抗素子163と抵抗素子164との間、直列に接続された抵抗素子164と抵抗素子165との間、又は抵抗素子165の接地端子に電気的に接続される。各抵抗素子162−165の抵抗値を適当に定めることにより、例えば電圧Vinを抵抗素子162の一端に印加すると、抵抗素子165と抵抗素子164との間の部分には第1の電圧VL1が生じ、抵抗素子164と抵抗素子163との間の部分には第1の電圧VL1より高い第2の電圧VL2が生じ、抵抗素子163と抵抗素子162との間の部分には第2の電圧VL2より高い第3の電圧VL3が生じる。
抵抗素子162及び抵抗素子163の間と、オペアンプの−入力端子との間には、スイッチSW1が設けられており、抵抗素子163及び抵抗素子164の間と、オペアンプの−入力端子との間には、スイッチSW2が設けられている。また、抵抗素子164及び抵抗素子165の間と、オペアンプの−入力端子との間には、スイッチSW3が設けられており、抵抗素子165の接地端子と、オペアンプの−入力端子との間には、スイッチSW4が設けられている。
オペアンプ170の−入力端子に第3の電圧VL3を印加する場合、スイッチSW1のみが通電され、スイッチSW2,SW3,SW4は切断される。オペアンプ170の−入力端子に第2の電圧VL2を印加する場合、スイッチSW2のみが通電され、スイッチSW1,SW3,SW4は切断される。オペアンプ170の−入力端子に第1の電圧VL1を印加する場合、スイッチSW3のみが通電され、スイッチSW1,SW2,SW4は切断される。オペアンプ170の−入力端子に0Vの電圧VL0を印加する場合、スイッチSW4のみが通電され、スイッチSW1,SW2,SW3は切断される。したがって、スイッチSW1,SW2,SW3,SW4の開閉によって、オペアンプ170の−入力端子に0V又は3段階の電圧のいずれかを印加可能である。そのため、スイッチSW1,SW2,SW3,SW4の開閉によって、発熱素子61の発熱温度を定める印加電圧を3段階に設定可能である。
ここで、オペアンプ170の−入力端子に第1の電圧VL1を印加した場合の発熱素子61の温度をTH1とする。また、オペアンプ170の−入力端子に第2の電圧VL2を印加した場合の発熱素子61の温度をTH2、オペアンプ170の−入力端子に第3の電圧VL3を印加した場合の発熱素子61の温度をTH3とする。
図6に示すように、第1の測温素子62の一端には、例えば、オペアンプ270の−入力端子が電気的に接続され、他端は接地される。また、オペアンプ270の−入力端子及び出力端子と並列に、抵抗素子261が接続される。オペアンプ270の+入力端子は、直列に接続された抵抗素子264と抵抗素子265との間に電気的に接続される。これにより、第1の測温素子62には、0.3V程度の弱い電圧が加えられる。
図1及び図2に示す発熱素子61の抵抗値は、発熱素子61の温度によって変化する。発熱素子61の温度THと、発熱素子61の抵抗値RHと、の関係は、下記(1)式で与えられる。
RH = RH_STD×[1+αH (TH-TH_STD) + βH (TH-TH_STD)2] ・・・(1)
ここで、TH_STDは発熱素子61の標準温度を表し、例えば20℃である。RH_STDは標準温度TH_STDにおける予め測定された発熱素子61の抵抗値を表す。αHは1次の抵抗温度係数を表す。βHは2次の抵抗温度係数を表す。
発熱素子61の抵抗値RHは、発熱素子61の駆動電力PHと、発熱素子61の通電電流IHから、下記(2)式で与えられる。
RH = PH / IH 2 ・・・(2)
あるいは発熱素子61の抵抗値RHは、発熱素子61にかかる電圧VHと、発熱素子61の通電電流IHから、下記(3)式で与えられる。
RH = VH / IH ・・・(3)
ここで、発熱素子61の温度THは、発熱素子61と雰囲気ガスの間が熱的に平衡になったときに安定する。なお、熱的に平衡な状態とは、発熱素子61の発熱と、発熱素子61から雰囲気ガスへの放熱と、が釣り合っている状態をいう。下記(4)式に示すように、平衡状態における発熱素子61の駆動電力PHを、発熱素子61の温度THと雰囲気ガスの温度TIとの差ΔTHで割ることにより、雰囲気ガスの放熱係数MIが得られる。なお、放熱係数MIの単位は、例えばW/℃である。
MI = PH / (TH - TI)
= PH /ΔTH = (VH 2 / RH) /ΔTH ・・・(4)
上記(1)式より、発熱素子61の温度THは下記(5)式で与えられる。
TH = (1 / 2βH)×[-αH+ [αH 2 - 4βH (1 - RH / RH_STD)]1/2] + TH_STD ・・・(5)
したがって、発熱素子61の温度THと雰囲気ガスの温度TIとの差ΔTHは、下記(6)式で与えられる。
ΔTH = (1 / 2βH)×[-αH+ [αH 2 - 4βH (1 - RH / RH_STD)]1/2] + TH_STD - TI ・・・(6)
雰囲気ガスの温度TIは、自己発熱しない程度の電力を与えられる第1の測温素子62の温度TIに近似する。第1の測温素子62の温度TIと、第1の測温素子62の抵抗値RIと、の関係は、下記(7)式で与えられる。
RI = RI_STD×[1+αI (TI-TI_STD) + βI (TI-TI_STD)2] ・・・(7)
TI_STDは第1の測温素子62の標準温度を表し、例えば20℃である。RI_STDは標準温度TI_STDにおける予め測定された第1の測温素子62の抵抗値を表す。αIは1次の抵抗温度係数を表す。βIは2次の抵抗温度係数を表す。上記(7)式より、第1の測温素子62の温度TIは下記(8)式で与えられる。
TI = (1 / 2βI)×[-αI+ [αI 2 - 4βI (1 - RI / RI_STD)]1/2] + TI_STD ・・・(8)
よって、雰囲気ガスの放熱係数MIは、下記(9)式で与えられる。
MI = PH /ΔTH
=PH/[(1/2βH)[-αH+[αH 2-4βH (1-RH/RH_STD)]1/2]+TH_STD-(1/2βI)[-αI+[αI 2-4βI (1-RI/RI_STD)]1/2]-TI_STD] ・・・(9)
発熱素子61の通電電流IHと、駆動電力PH又は電圧VHは測定可能であるため、上記(2)式又は(3)式から発熱素子61の抵抗値RHを算出可能である。同様に、第1の測温素子62の抵抗値RIも算出可能である。よって、マイクロチップ8を用いて、上記(9)式から雰囲気ガスの放熱係数MIが算出可能である。
なお、保温素子64で基板60の温度を一定に保つことにより、発熱素子61が発熱する前のマイクロチップ8の近傍の雰囲気ガスの温度が、基板60の一定の温度と近似する。そのため、発熱素子61が発熱する前の雰囲気ガスの温度の変動が抑制される。温度変動が一度抑制された雰囲気ガスを発熱素子61でさらに加熱することにより、より高い精度で放熱係数MIを算出することが可能となる。
ここで、雰囲気ガスが混合ガスであり、混合ガスが、ガスA、ガスB、ガスC、及びガスDの4種類のガス成分からなっているとする。ガスAの体積率VA、ガスBの体積率VB、ガスCの体積率VC、及びガスDの体積率VDの総和は、下記(10)式で与えられるように、1である。
VA+VB+VC+VD=1 ・・・(10)
また、ガスAの単位体積当たりの発熱量をKA、ガスBの単位体積当たりの発熱量をKB、ガスCの単位体積当たりの発熱量をKC、ガスDの単位体積当たりの発熱量をKDとすると、混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qは、各ガス成分の体積率に、各ガス成分の単位体積当たりの発熱量を乗じたものの総和で与えられる。したがって、混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qは、下記(11)式で与えられる。なお、単位体積当たりの発熱量の単位は、例えばMJ/m3である。
Q = KA×VA+ KB×VB+ KC×VC+KD×VD ・・・(11)
さらに、ガスAの単位体積当たりの熱伝導率をCA、ガスBの単位体積当たりの熱伝導率をCB、ガスCの単位体積当たりの熱伝導率をCC、ガスDの単位体積当たりの熱伝導率をCDとすると、混合ガスの単位体積当たりの熱伝導率CIは、各ガス成分の体積率に、各ガス成分の単位体積当たりの熱伝導率を乗じたものの総和で与えられる。したがって、混合ガスの単位体積当たりの熱伝導率CIは、下記(12)式で与えられる。なお、単位体積当たりの熱伝導率の単位は、例えばW/(mK)である。
CI = CA×VA+ CB×VB+ CC×VC+CD×VD ・・・(12)
図7は、発熱素子61に第1の電圧V1、第1の電圧V1より大きい第2の電圧V2、及び第2の電圧V2より大きい第3の電圧V3を加えた場合の、熱伝導率と、放熱係数と、の関係を示すグラフである。図7に示すように、熱伝導率と、放熱係数と、は、一般に、比例関係にある。したがって、ガスAの放熱係数をMA、ガスBの放熱係数をMB、ガスCの放熱係数をMC、ガスDの放熱係数をMDとすると、混合ガスの放熱係数MIは、各ガス成分の体積率に、各ガス成分の放熱係数を乗じたものの総和で与えられる。よって、混合ガスの放熱係数MIは、下記(13)式で与えられる。
MI = MA×VA+ MB×VB+ MC×VC+MD×VD ・・・(13)
さらに、ガスの放熱係数は発熱素子61の温度THに依存するので、混合ガスの放熱係数MIは、発熱素子61の温度THの関数として、下記(14)式で与えられる。
MI (TH)= MA(TH)×VA+ MB(TH)×VB+ MC(TH)×VC+MD(TH)×VD ・・・(14)
したがって、発熱素子61の温度がTH1のときの混合ガスの放熱係数MI1(TH1)は下記(15)式で与えられる。また、発熱素子61の温度がTH2のときの混合ガスの放熱係数MI2(TH2)は下記(16)式で与えられ、発熱素子61の温度がTH3のときの混合ガスの放熱係数MI3(TH3)は下記(17)式で与えられる。
MI1 (TH1)= MA(TH1)×VA+ MB(TH1)×VB+ MC(TH1)×VC+MD(TH1)×VD ・・・(15)
MI2 (TH2)= MA(TH2)×VA+ MB(TH2)×VB+ MC(TH2)×VC+MD(TH2)×VD ・・・(16)
MI3 (TH3)= MA(TH3)×VA+ MB(TH3)×VB+ MC(TH3)×VC+MD(TH3)×VD ・・・(17)
ここで、発熱素子61の温度THに対して各ガス成分の放熱係数MA(TH),MB(TH),MC(TH),MD(TH)が非線形性を有する場合、上記(15)乃至(17)式は、線形独立な関係を有する。また、発熱素子61の温度THに対して各ガス成分の放熱係数MA(TH),MB(TH),MC(TH),MD(TH)が線形性を有する場合でも、発熱素子61の温度THに対する各ガス成分の放熱係数MA(TH),MB(TH),MC(TH),MD(TH)の変化率が異なる場合は、上記(15)乃至(17)式は、線形独立な関係を有する。さらに、(15)乃至(17)式が線形独立な関係を有する場合、(10)及び(15)乃至(17)式は線形独立な関係を有する。
図8は、天然ガスに含まれるメタン(CH4)、プロパン(C3H8)、窒素(N2)、及び二酸化炭素(CO2)の放熱係数と、発熱抵抗体である発熱素子61の温度との関係を示すグラフである。発熱素子61の温度に対して、メタン(CH4)、プロパン(C3H8)、窒素(N2)、及び二酸化炭素(CO2)のそれぞれのガス成分の放熱係数は線形性を有する。しかし、発熱素子61の温度に対する放熱係数の変化率は、メタン(CH4)、プロパン(C3H8)、窒素(N2)、及び二酸化炭素(CO2)のそれぞれで異なる。したがって、混合ガスを構成するガス成分がメタン(CH4)、プロパン(C3H8)、窒素(N2)、及び二酸化炭素(CO2)であるである場合、上記(15)乃至(17)式は、線形独立な関係を有する。
(15)乃至(17)式中の各ガス成分の放熱係数MA(TH1),MB(TH1),MC(TH1),MD(TH1),MA(TH2),MB(TH2),MC(TH2),MD(TH2),MA(TH3),MB(TH3),MC(TH3),MD(TH3)の値は、測定等により予め得ることが可能である。したがって、(10)及び(15)乃至(17)式の連立方程式を解くと、ガスAの体積率VA、ガスBの体積率VB、ガスCの体積率VC、及びガスDの体積率VDのそれぞれが、下記(18)乃至(21)式に示すように、混合ガスの放熱係数MI1(TH1),MI2(TH2),MI3(TH3)の関数として与えられる。なお、下記(18)乃至(21)式において、nを自然数として、fnは関数を表す記号である。
VA=f1[MI1 (TH1), MI2 (TH2), MI3 (TH3)] ・・・(18)
VB=f2[MI1 (TH1), MI2 (TH2), MI3 (TH3)] ・・・(19)
VC=f3[MI1 (TH1), MI2 (TH2), MI3 (TH3)] ・・・(20)
VD=f4[MI1 (TH1), MI2 (TH2), MI3 (TH3)] ・・・(21)
ここで、上記(11)式に(18)乃至(21)式を代入することにより、下記(22)式が得られる。
Q = KA×VA + KB×VB + KC×VC + KD×VD
= KA×f1[MI1 (TH1), MI2 (TH2), MI3 (TH3)]
+ KB×f2[MI1 (TH1), MI2 (TH2), MI3 (TH3)]
+ KC×f3[MI1 (TH1), MI2 (TH2), MI3 (TH3)]
+ KD×f4[MI1 (TH1), MI2 (TH2), MI3 (TH3)] ・・・(22)
上記(22)式に示すように、混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qは、発熱素子61の温度がTH1,TH2,TH3である場合の混合ガスの放熱係数MI1(TH1),MI2(TH2),MI3(TH3)を変数とする方程式で与えられる。したがって、混合ガスの発熱量Qは、g1を関数を表す記号として、下記(23)式で与えられる。
Q = g1[MI1 (TH1), MI2 (TH2), MI3 (TH3)] ・・・(23)
また、気体の発熱量、放熱係数、及び熱伝導率等の熱特性は、気体の圧力に依存する。したがって、上記(23)式で与えられる発熱量Qの方程式に、下記(24)式に示すように、測定対象混合ガスの圧力Psの独立変数を加えることにより、発熱量Qの算出精度が高まる。
Q = g1[MI1 (TH1), MI2 (TH2), MI3 (TH3), Ps] ・・・(24)
よって、ガスA、ガスB、ガスC、及びガスDからなる混合ガスについて、予め上記(24)式を得れば、ガスAの体積率VA、ガスBの体積率VB、ガスCの体積率VC、及びガスDの体積率VDが未知の測定対象混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qを容易に算出可能であることを、発明者は見出した。具体的には、測定対象混合ガスの圧力と、上記(9)式を用いて発熱素子61の発熱温度がTH1,TH2,TH3である場合の測定対象混合ガスの放熱係数MI1(TH1),MI2(TH2),MI3(TH3)と、を測定し、(24)式に代入することにより、測定対象混合ガスの発熱量Qを一意に求めることが可能となる。
以上説明した方法では、マイクロチップ8の発熱素子61と、第1の測温素子62と、を用いて、測定対象混合ガスの放熱係数MI1(TH1),MI2(TH2),MI3(TH3)を測定し、さらに圧力センサを用いて測定対象ガスの圧力を測定して、発熱量Qを求める。これに対し、以下の方法によれば、混合ガスの温度が変動する場合であっても、マイクロチップ8の第1の測温素子62を用いることなく、発熱素子61と圧力センサのみを用いて、混合ガスの発熱量Qを求めることが可能となる。
上記(4)式に示すように、ガスの放熱係数MIは、発熱素子61の抵抗RHの逆数(1/RH)に比例する。また、上述したように、放熱係数と、熱伝導率と、は比例関係にある。そのため、発熱素子61の抵抗RHの逆数(1/RH)と、熱伝導率と、は比例関係にある。図9は、発熱素子61に第1の電圧V1、第2の電圧V2、及び第3の電圧V3を加えた場合の、熱伝導率と、発熱素子61の抵抗RHの逆数(1/RH)と、の関係を示すグラフである。図9及び図10に示すように、熱伝導率と、発熱素子61の抵抗RHの逆数(1/RH)と、は、発熱素子61への印加電圧が一定であれば、比例関係にある。また、図11及び図12に示すように、熱伝導率と、発熱素子61の抵抗RHと、は、発熱素子61への印加電圧が一定であれば、相関する。さらに、図13及び図14に示すように、熱伝導率と、発熱素子61の駆動電力と、は、発熱素子61への印加電圧が一定であれば、相関する。
したがって、ガスAに接する場合の発熱素子61の抵抗RHの逆数を1/RHA、ガスBに接する場合の発熱素子61の抵抗RHの逆数を1/RHB、ガスCに接する場合の発熱素子61の抵抗RHの逆数を1/RHC、ガスDに接する場合の発熱素子61の抵抗RHの逆数を1/RHDとすると、上記(12)式を変形して、混合ガスに接する発熱素子61の抵抗RHの逆数(1/RHI)は、各ガス成分の体積率に、各ガス成分に接する場合の発熱素子61の抵抗RHの逆数を乗じたものの総和で与えられる。よって、一定の電圧が印可され、混合ガスに接する発熱素子61の抵抗RHの逆数(1/RHI)は、下記(25)式で与えられる。
1/RHI = 1/RHA×VA+ 1/RHB×VB+ 1/RHC×VC+1/RHD×VD ・・・(25)
また、発熱素子61の抵抗RHは、発熱素子61の温度THに依存するので、混合ガスに接する場合の発熱素子61の抵抗RHの逆数(1/RHI)は、発熱素子61の温度THの関数として、下記(26)式で与えられる。
1/RHI (TH) = 1/RHA(TH) × VA+ 1/RHB(TH) × VB+ 1/RHC(TH) × VC+1/RHD(TH) × VD ・・・(26)
したがって、発熱素子61の温度がTH1のときの混合ガスに接する発熱素子61の抵抗RHの逆数(1/RHI1)は下記(27)式で与えられる。また、発熱素子61の温度がTH2のときの混合ガスに接する発熱素子61の抵抗RHの逆数(1/RHI2)は下記(28)式で与えられ、発熱素子61の温度がTH3のときの混合ガスに接する発熱素子61の抵抗RHの逆数(1/RHI3)は下記(29)式で与えられる。
1/RHI1 (TH1) = 1/RHA(TH1) × VA+ 1/RHB(TH1) × VB+ 1/RHC(TH1) × VC+1/RHD(TH1) × VD ・・・(27)
1/RHI2 (TH2) = 1/RHA(TH2) × VA+ 1/RHB(TH2) × VB+ 1/RHC(TH2) × VC+1/RHD(TH2) × VD ・・・(28)
1/RHI3 (TH3) = 1/RHA(TH3) × VA+ 1/RHB(TH3) × VB+ 1/RHC(TH3) × VC+1/RHD(TH3) × VD ・・・(29)
(27)式乃至(29)式中の各ガス成分に接する場合の発熱素子61の抵抗RHA(TH1)、RHB(TH1)、RHC(TH1)、RHD(TH1)、RHA(TH2)、RHB(TH2)、RHC(TH2)、RHD(TH2)、RHA(TH3)、RHB(TH3)、RHC(TH3)、RHD(TH3)の値は、測定等により予め得ることが可能である。したがって、(10)及び(27)乃至(29)式の連立方程式を解くと、ガスAの体積率VA、ガスBの体積率VB、ガスCの体積率VC、及びガスDの体積率VDのそれぞれが、下記(30)乃至(33)式に示すように、混合ガスに接する発熱素子61の抵抗RHI1(TH1)、RHI2(TH2)、RHI3(TH3)の関数として与えられる。なお、下記(30)乃至(33)式において、nを自然数として、fnは関数を表す記号である。
VA=f5[1/RHI1 (TH1), 1/RHI2 (TH2), 1/RHI3 (TH3)] ・・・(30)
VB=f6[1/RHI1 (TH1), 1/RHI2 (TH2), 1/RHI3 (TH3)] ・・・(31)
VC=f7[1/RHI1 (TH1), 1/RHI2 (TH2), 1/RHI3 (TH3)] ・・・(32)
VD=f8[1/RHI1 (TH1), 1/RHI2 (TH2), 1/RHI3 (TH3)] ・・・(33)
ここで、上記(11)式に(30)乃至(33)式を代入することにより、下記(34)式が得られる。
Q = KA×VA+ KB×VB+ KC×VC+KD×VD
= KA×f5[1/RHI1 (TH1), 1/RHI2 (TH2), 1/RHI3 (TH3)]
+ KB×f6[1/RHI1 (TH1), 1/RHI2 (TH2), 1/RHI3 (TH3)]
+ KC×f7[1/RHI1 (TH1), 1/RHI2 (TH2), 1/RHI3 (TH3)]
+ KD×f8[1/RHI1 (TH1), 1/RHI2 (TH2), 1/RHI3 (TH3)] ・・ ・(34)
上記(34)式に示すように、混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qは、発熱素子61の温度がTH1,TH2,TH3である場合の発熱素子61の抵抗RHI1(TH1)、RHI2(TH2)、RHI3(TH3)を変数とする方程式で与えられる。したがって、混合ガスの発熱量Qは、g2、g3を関数を表す記号として、下記(35)式で与えられる。
Q = g2[1/RHI1 (TH1), 1/RHI2 (TH2), 1/RHI3 (TH3)]
= g3[RHI1 (TH1), RHI2 (TH2), RHI3 (TH3)] ・・・(35)
また、下記(36)式に示すように、測定対象混合ガスの圧力Psの独立変数を加えることにより、発熱量Qの算出精度が高まる。
Q = g3[ RHI1 (TH1), RHI2 (TH2), RHI3 (TH3), Ps] ・・・(36)
よって、ガスA、ガスB、ガスC、及びガスDからなる混合ガスについて、予め上記(36)式を得れば、ガスAの体積率VA、ガスBの体積率VB、ガスCの体積率VC、及びガスDの体積率VDが未知の測定対象混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qを容易に算出可能であることを、発明者は見出した。具体的には、発熱温度がTH1,TH2,TH3である場合の発熱素子61の抵抗値RHI1(TH1)、RHI2(TH2)、RHI3(TH3)と、測定対象混合ガスの圧力と、を測定し、(36)式に代入することにより、測定対象混合ガスの発熱量Qを一意に求めることが可能となる。また、この場合、マイクロチップ8の第1の測温素子62を用いることなく、発熱素子61と圧力センサのみを用いて、混合ガスの発熱量Qを求めることが可能となる。
さらに、抵抗Rと、電流Iと、は相関するから、混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qは、g4を関数を表す記号として、発熱素子61の温度がTH1,TH2,TH3である場合の発熱素子61の通電電流IH1(TH1),IH2(TH2),IH3(TH3)と、圧力Psと、を変数とする下記(37)式で与えられる。
Q = g4[IH1 (TH1), IH2 (TH2), IH3 (TH3) , Ps ] ・・・(37)
また、発熱素子61の抵抗Rと、発熱素子61に接続されたアナログ−デジタル変換回路(以下において「A/D変換回路」という。)の出力信号ADと、は相関するから、混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qは、g5を関数を表す記号として、発熱素子61の温度がTH1,TH2,TH3である場合のA/D変換回路の出力信号ADH1(TH1),ADH2(TH2),ADH3(TH3)と、圧力Psと、を変数とする下記(38)式で与えられる。
Q = g5[ADH1 (TH1), ADH2 (TH2), ADH3 (TH3) , Ps ] ・・・(38)
よって、混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qは、下記(39)式に示すように、g6を関数を表す記号として、発熱素子61の発熱温度がTH1,TH2,TH3である場合の発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)と、圧力Psと、を変数とする方程式で与えられる。
Q = g6[SH1 (TH1), SH2 (TH2), SH3 (TH3) , Ps ] ・・・(39)
混合ガスの圧力Psは、圧力センサを用いて測定される。圧力センサは、例えば電気抵抗素子からなる歪みゲージを含む。歪みゲージは、圧力によって変形し、電気抵抗が変化する。したがって、圧力センサの出力電圧、あるいは圧力センサに接続されたA/D変換回路の出力信号等は、混合ガスの圧力Psに相関する。よって、混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qは、下記(40)式に示すように、g7を関数を表す記号として、発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)と、圧力センサからの電気信号SPと、を変数とする方程式でも与えられる。
Q = g7[SH1 (TH1), SH2 (TH2), SH3 (TH3), SP ] ・・・(40)
混合ガスのガス成分は、4種類に限定されることはない。例えば、混合ガスがn種類のガス成分からなる場合、まず、下記(41)式で与えられる、少なくともn−1種類の発熱温度TH1,TH2,TH3,・・・,THn-1における発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3),・・・,SHn-1(THn-1)と、圧力センサからの電気信号SPと、を変数とする方程式を予め取得する。そして、n−1種類の発熱温度TH1,TH2,TH3,・・・,THn-1における、n種類のガス成分のそれぞれの体積率が未知の測定対象混合ガスに接する発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3),・・・,SHn-1(THn-1)の値と、測定対象混合ガスに接する圧力センサからの電気信号SPの値と、を測定し、(41)式に代入することにより、測定対象混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qを一意に求めることが可能となる。
Q = g[SH1 (TH1), SH2 (TH2), SH3 (TH3), ・・・, SHn-1 (THn-1), SP ] ・・・(41)
ただし、混合ガスが、ガス成分としてメタン(CH4)、プロパン(C3H8)に加えて、jを自然数として、メタン(CH4)とプロパン(C3H8)以外のアルカン(CjH2j+2)を含む場合、メタン(CH4)とプロパン(C3H8)以外のアルカン(CjH2j+2)を、メタン(CH4)とプロパン(C3H8)の混合物とみなしても、(41)式の算出には影響しない。例えば、エタン(C2H6)、ブタン(C4H10)、ペンタン(C5H12)、ヘキサン(C6H14)を、下記(42)乃至(45)式に示すように、それぞれ所定の係数を掛けられたメタン(CH4)とプロパン(C3H8)の混合物とみなして(41)式を算出してもかまわない。
C2H6 = 0.5 CH4 + 0.5 C3H8 ・・・(42)
C4H10 = -0.5 CH4 + 1.5 C3H8 ・・・(43)
C5H12 = -1.0 CH4 + 2.0 C3H8 ・・・(44)
C6H14 = -1.5 CH4 + 2.5 C3H8 ・・・(45)
したがって、zを自然数として、n種類のガス成分からなる混合ガスが、ガス成分としてメタン(CH4)、プロパン(C3H8)に加えて、メタン(CH4)とプロパン(C3H8)以外のz種類のアルカン(CjH2j+2)を含む場合、少なくともn−z−1種類の発熱温度における発熱素子61からの電気信号SHと、圧力センサからの電気信号SPと、を変数とする方程式を求めてもよい。
なお、(41)式の算出に用いられた混合ガスのガス成分の種類と、単位体積当たりの発熱量Qが未知の測定対象混合ガスのガス成分の種類が同じ場合に、測定対象混合ガスの発熱量Qの算出に(41)式を利用可能であることはもちろんである。さらに、測定対象混合ガスがn種類より少ない種類のガス成分からなり、かつ、n種類より少ない種類のガス成分が、(41)式の算出に用いられた混合ガスに含まれている場合も、(41)式を利用可能である。例えば、(41)式の算出に用いられた混合ガスが、メタン(CH4)、プロパン(C3H8)、窒素(N2)、及び二酸化炭素(CO2)の4種類のガス成分を含む場合、測定対象混合ガスが、窒素(N2)を含まず、メタン(CH4)、プロパン(C3H8)、及び二酸化炭素(CO2)の3種類のガス成分のみを含む場合も、測定対象混合ガスの発熱量Qの算出に(41)式を利用可能である。
さらに、(41)式の算出に用いられた混合ガスが、ガス成分としてメタン(CH4)とプロパン(C3H8)を含む場合、測定対象混合ガスが、(41)式の算出に用いられた混合ガスに含まれていないアルカン(CjH2j+2)を含んでいても、(41)式を利用可能である。これは、上述したように、メタン(CH4)とプロパン(C3H8)以外のアルカン(CjH2j+2)を、メタン(CH4)とプロパン(C3H8)の混合物とみなしても、(41)式を用いた単位体積当たりの発熱量Qの算出に影響しないためである。
また、ガスの密度Dは、ガスの発熱量Qに比例する。ガスの発熱量Qは、上記(41)式で与えられる。したがって、混合ガスの密度Dは、hを関数を表す記号として、下記(46)式に示すように、発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3),・・・,SHn-1(THn-1)と、圧力センサからの電気信号SPと、を変数とする方程式で与えられる。
D = h[SH1 (TH1), SH2 (TH2), SH3 (TH3), ・・・, SHn-1 (THn-1), SP ] ・・・(46)
ここで、図15に示す実施の形態に係る密度測定システム20は、複数のサンプル混合ガスのそれぞれが注入される容器であるチャンバ101と、チャンバ101に配置され、図1に示す複数の発熱温度THで発熱する発熱素子61を含むマイクロチップ8と、図15に示す圧力センサ201と、を備える。以下においては、密度測定システム20が図1に示したマイクロチップ8を備えている例を説明するが、密度測定システム20が図3に示したマイクロチップ8を備えていても、図15に示す密度測定システム20の動作は同様である。
マイクロチップ8は、断熱部材18を介してチャンバ101内に配置されている。チャンバ101内部の気体の圧力を測定する圧力センサ201としては、例えばゲージ圧センサ及び絶対圧センサが使用可能である。圧力センサ201は、感圧素子を備える。感圧素子としては、例えば半導体ダイアフラム型、静電容量型、弾性体ダイアフラム型、圧電型、及び振動型等が使用可能である。チャンバ101には、サンプル混合ガスをチャンバ101に送るための流路102と、サンプル混合ガスをチャンバ101から外部に排出するための流路103と、が接続されている。
図15に示す密度測定システム20は、複数のサンプル混合ガスのそれぞれに接し、複数の発熱温度THのそれぞれで発熱する発熱素子61からの電気信号SHの値と、圧力センサ201からの電気信号SPの値と、を測定する測定部301をさらに備える。またさらに、密度測定システム20は、密度算出式作成部302と、発熱量算出式作成部352と、を備える。密度算出式作成部302は、複数の混合ガスの既知の密度Dの値、複数の発熱温度における発熱素子61からの電気信号SHの値、及び圧力センサ201からの電気信号SPの値に基づいて、複数の発熱温度THにおける発熱素子61からの電気信号SH、及び圧力センサ201からの電気信号SPを独立変数とし、気体の密度Dを従属変数とする密度算出式を作成する。
発熱量算出式作成部352は、複数の混合ガスの既知の発熱量Qの値、複数の発熱温度における発熱素子61からの電気信号SHの値、及び圧力センサ201からの電気信号SPの値に基づいて、複数の発熱温度THにおける発熱素子61からの電気信号SH、及び圧力センサ201からの電気信号SPを独立変数とし、気体の発熱量Qを従属変数とする発熱量算出式を作成する発熱量算出式作成部352を備える。なお、サンプル混合ガスは、複数種類のガス成分を含む。
それぞれ密度D及び発熱量Qが異なる4種類のサンプル混合ガスが使用される場合、図16に示すように、第1のサンプル混合ガスを貯蔵する第1のガスボンベ50A、第2のサンプル混合ガスを貯蔵する第2のガスボンベ50B、第3のサンプル混合ガスを貯蔵する第3のガスボンベ50C、及び第4のサンプル混合ガスを貯蔵する第4のガスボンベ50Dが用意される。第1のガスボンベ50Aには、流路91Aを介して、第1のサンプル混合ガスの気圧を調節する第1のガス圧調節器31Aが接続されている。また、第1のガス圧調節器31Aには、流路92Aを介して、第1の流量制御装置32Aが接続されている。第1の流量制御装置32Aは、流路92A及び流路102を介して密度測定システム20に送られる第1のサンプル混合ガスの流量を制御する。
第2のガスボンベ50Bには、流路91Bを介して、第2のガス圧調節器31Bが接続されている。また、第2のガス圧調節器31Bには、流路92Bを介して、第2の流量制御装置32Bが接続されている。第2の流量制御装置32Bは、流路92B,93,102を介して密度測定システム20に送られる第2のサンプル混合ガスの流量を制御する。
第3のガスボンベ50Cには、流路91Cを介して、第3のガス圧調節器31Cが接続されている。また、第3のガス圧調節器31Cには、流路92Cを介して、第3の流量制御装置32Cが接続されている。第3の流量制御装置32Cは、流路92C,93,102を介して密度測定システム20に送られる第3のサンプル混合ガスの流量を制御する。
第4のガスボンベ50Dには、流路91Dを介して、第4のガス圧調節器31Dが接続されている。また、第4のガス圧調節器31Dには、流路92Dを介して、第4の流量制御装置32Dが接続されている。第4の流量制御装置32Dは、流路92D,93,102を介して密度測定システム20に送られる第4のサンプル混合ガスの流量を制御する。
第1乃至第4のサンプル混合ガスのそれぞれは、例えば発熱量が異なる天然ガスである。第1乃至第4のサンプル混合ガスのそれぞれは、例えばメタン(CH4)、プロパン(C3H8)、窒素(N2)、及び二酸化炭素(CO2)の4種類のガス成分を異なる比で含む。
図15に示すチャンバ101に第1のサンプル混合ガスが充填された後、圧力センサ201は、第1のサンプル混合ガスの圧力に依存する電気信号SPを出力する。図1及び図2に示すマイクロチップ8の発熱素子61は、図15に示す駆動回路303から駆動電力PH1,PH2,PH3を順次与えられる。駆動電力PH1,PH2,PH3を与えられた場合、第1のサンプル混合ガスに接する発熱素子61は、例えば、100℃の温度TH1、150℃の温度TH2、及び200℃の温度TH3で発熱し、発熱温度TH1における電気信号SH1(TH1)、発熱温度TH2における電気信号SH2(TH2)、及び発熱温度TH3における電気信号SH3(TH3)を出力する。
チャンバ101から第1のサンプル混合ガスが除去された後、第2乃至第4のサンプル混合ガスがチャンバ101に順次充填される。第2のサンプル混合ガスがチャンバ101に充填された後、圧力センサ201は、第2のサンプル混合ガスの圧力に依存する電気信号SPを出力する。第2のサンプル混合ガスに接する図1及び図2に示すマイクロチップ8の発熱素子61は、発熱温度TH1における電気信号SH1(TH1)、発熱温度TH2における電気信号SH2(TH2)、及び発熱温度TH3における電気信号SH3(TH3)を出力する。
第3のサンプル混合ガスが図15に示すチャンバ101に充填されると、圧力センサ201は、第3のサンプル混合ガスの圧力に依存する電気信号SPを出力する。第3のサンプル混合ガスに接する図1及び図2に示す発熱素子61は、発熱温度TH1における電気信号SH1(TH1)、発熱温度TH2における電気信号SH2(TH2)、及び発熱温度TH3における電気信号SH3(TH3)を出力する。
第4のサンプル混合ガスが図15に示すチャンバ101に充填されると、圧力センサ201は、第4のサンプル混合ガスの圧力に依存する電気信号SPを出力する。第4のサンプル混合ガスに接する図1及び図2に示す発熱素子61は、発熱温度TH1における電気信号SH1(TH1)、発熱温度TH2における電気信号SH2(TH2)、及び発熱温度TH3における電気信号SH3(TH3)を出力する。
なお、それぞれのサンプル混合ガスがn種類のガス成分を含む場合、マイクロチップ8の図1及び図2に示す発熱素子61は、少なくともn−1種類の異なる温度で発熱させられる。ただし、上述したように、メタン(CH4)及びプロパン(C3H8)以外のアルカン(CjH2j+2)は、メタン(CH4)及びプロパン(C3H8)の混合物とみなしうる。したがって、zを自然数として、n種類のガス成分からなるサンプル混合ガスが、ガス成分としてメタン(CH4)及びプロパン(C3H8)に加えてz種類のアルカン(CjH2j+2)を含む場合は、発熱素子61は、少なくともn−z−1種類の異なる温度で発熱させられる。
図15に示すように、マイクロチップ8及び圧力センサ201は、A/D変換回路304を介して測定部301を含む中央演算処理装置(CPU)300に接続されている。CPU300には、電気信号記憶装置401が接続されている。測定部301は、発熱素子61からの発熱温度TH1における電気信号SH1(TH1)、発熱温度TH2における電気信号SH2(TH2)、及び発熱温度TH3における電気信号SH3(TH3)の値と、圧力センサ201からの電気信号SPの値と、を測定し、測定値を電気信号記憶装置401に保存する。
ここで、発熱素子61からの電気信号SHとは、発熱素子61の抵抗値RH、発熱素子61の通電電流IH、及び発熱素子61に接続されたA/D変換回路304の出力信号ADHのいずれであってもよい。また、圧力センサ201からの電気信号SPとは、例えば圧力センサ201が備える歪みゲージの抵抗値、歪みゲージの通電電流、歪みゲージにかかる電圧、及び歪みゲージに接続されたA/D変換回路304の出力信号のいずれであってもよい。
CPU300に含まれる密度算出式作成部302は、例えば第1乃至第4のサンプル混合ガスのそれぞれの既知の密度Dの値と、発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)の複数の測定値と、圧力センサ201からの電気信号SPの複数の測定値と、を収集する。さらに密度算出式作成部302は、収集した密度D、電気信号SH、及び電気信号SPの値に基づいて、多変量解析により、発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)、及び圧力センサ201からの電気信号SPを独立変数とし、気体の密度Dを従属変数とする密度算出式を算出する。
CPU300に含まれる発熱量算出式作成部352は、例えば第1乃至第4のサンプル混合ガスのそれぞれの既知の発熱量Qの値と、発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)の複数の測定値と、圧力センサ201からの電気信号SPの複数の測定値と、を収集する。さらに発熱量算出式作成部352は、収集した発熱量Q、電気信号SH、及び電気信号SPの値に基づいて、多変量解析により、発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)、及び圧力センサ201からの電気信号SPを独立変数とし、気体の発熱量Qを従属変数とする発熱量算出式を算出する。
なお、「多変量解析」とは、A. J Smola及びB. Scholkopf著の「A Tutorial on Support Vector Regression」(NeuroCOLT Technical Report (NC−TR−98−030)、1998年)に開示されているサポートベクトル回帰、重回帰分析、及び特開平5−141999号公報に開示されているファジィ数量化理論II類等を含む。
密度測定システム20は、CPU300に接続された式記憶装置402をさらに備える。式記憶装置402は、密度算出式作成部302が作成した密度算出式と、発熱量算出式作成部352が作成した発熱量算出式と、を保存する。さらにCPU300には、入力装置312及び出力装置313が接続される。入力装置312としては、例えばキーボード、及びマウス等のポインティングデバイス等が使用可能である。出力装置313には液晶ディスプレイ、モニタ等の画像表示装置、及びプリンタ等が使用可能である。
次に、図17に示すフローチャートを用いて、実施の形態に係る密度測定システム20を用いた、密度算出式及び発熱量算出式の作成方法について説明する。なお、以下においては、チャンバ101内部の気圧を、大気圧、5kPa、20kPa、及び30kPaに設定して、密度算出式及び発熱量算出式を作成する例を説明する。
(a)ステップS100で、図16に示す第2乃至第4の流量制御装置32B−32Dの弁を閉じたまま、第1の流量制御装置32Aの弁を開き、図15に示すチャンバ101内に第1のサンプル混合ガスを導入する。ステップS101で、チャンバ101内部の気圧を大気圧と同じにする。測定部301は、圧力センサ201からの気圧を表す電気信号SPの値を測定し、電気信号記憶装置401に保存する。次に、駆動回路303は、図1及び図2に示す発熱素子61に駆動電力PH1を与え、発熱素子61を100℃で発熱させる。図15に示す測定部301は、100℃で発熱する発熱素子61からの電気信号SH1(TH1)の値を、電気信号記憶装置401に保存する。
(b)ステップS102で、測定部301は、チャンバ101内部の気圧の切り替えが完了したか否か判定する。5kPa、20kPa、及び30kPaへの切り替えが完了していない場合には、ステップS101に戻り、チャンバ101内部の気圧を5kPaに設定する。さらに測定部301は、5kPaにおける圧力センサ201からの電気信号SPの値、及び100℃で発熱する発熱素子61からの電気信号SH1(TH1)の値を、電気信号記憶装置401に保存する。
(c)再びステップS102で、測定部301は、チャンバ101内部の気圧の切り替えが完了したか否か判定する。20kPa及び30kPaへの切り替えが完了していない場合には、ステップS101に戻り、チャンバ101内部の気圧を20kPaに設定する。さらに測定部301は、20kPaにおける圧力センサ201からの電気信号SPの値、及び100℃で発熱する発熱素子61からの電気信号SH1(TH1)の値を、電気信号記憶装置401に保存する。
(d)再びステップS102で、測定部301は、チャンバ101内部の気圧の切り替えが完了したか否か判定する。30kPaへの切り替えが完了していない場合には、ステップS101に戻り、チャンバ101内部の気圧を30kPaに設定する。さらに測定部301は、30kPaにおける圧力センサ201からの電気信号SPの値、及び100℃で発熱する発熱素子61からの電気信号SH1(TH1)の値を、電気信号記憶装置401に保存する。
(e)チャンバ101内部の気圧の切り替えが完了した場合には、ステップS102からステップS103に進む。ステップS103で、駆動回路303は、図1及び図2に示す発熱素子61の温度の切り替えが完了したか否か判定する。温度150℃及び温度200℃への切り替えが完了していない場合には、ステップS101に戻り、図15に示す駆動回路303は、図1及び図2に示す発熱素子61を150℃で発熱させる。その後、ステップS101及びステップS102のループを繰り返し、図15に示す測定部301は、大気圧、5kPa、20kPa、及び30kPaのそれぞれにおける圧力センサ201からの電気信号SPの値、及び150℃で発熱する発熱素子61からの電気信号SH2(TH2)の値を、電気信号記憶装置401に保存する。
(f)再びステップS103で、駆動回路303は、図1及び図2に示す発熱素子61の温度の切り替えが完了したか否か判定する。温度200℃への切り替えが完了していない場合には、ステップS101に戻り、図15に示す駆動回路303は、図1及び図2に示す発熱素子61を200℃で発熱させる。その後、ステップS101及びステップS102のループを繰り返し、図15に示す測定部301は、大気圧、5kPa、20kPa、及び30kPaのそれぞれにおける圧力センサ201からの電気信号SPの値、及び200℃で発熱する発熱素子61からの電気信号SH3(TH3)の値を、電気信号記憶装置401に保存する。
(g)発熱素子61の温度の切り替えが完了した場合には、ステップS103からステップS104に進む。ステップS104で、サンプル混合ガスの切り替えが完了したか否かを判定する。第2乃至第4のサンプル混合ガスへの切り替えが完了していない場合には、ステップS100に戻る。ステップS100で、図16に示す第1の流量制御装置32Aを閉じ、第3乃至第4の流量制御装置32C−32Dの弁を閉じたまま第2の流量制御装置32Bの弁を開き、図15に示すチャンバ101内に第2のサンプル混合ガスを導入する。
(h)第1のサンプル混合ガスと同様に、ステップS101乃至ステップS103のループが繰り返される。測定部301は、大気圧、5kPa、20kPa、及び30kPaのそれぞれにおける第2のサンプル混合ガスに接する圧力センサ201からの電気信号SPの値、並びに100℃、150℃、及び200℃で発熱する発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)の値を、電気信号記憶装置401に保存する。
(i)その後、ステップS100乃至ステップS104のループが繰り返される。これにより、測定部301は、大気圧、5kPa、20kPa、及び30kPaのそれぞれにおける第3のサンプル混合ガスに接する圧力センサ201からの電気信号SPの値、並びに100℃、150℃、及び200℃で発熱する発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)の値を、電気信号記憶装置401に保存する。また、測定部301は、大気圧、5kPa、20kPa、及び30kPaのそれぞれにおける第4のサンプル混合ガスに接する圧力センサ201からの電気信号SPの値、並びに100℃、150℃、及び200℃で発熱する発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)の値を、電気信号記憶装置401に保存する。
(j)ステップS105で、入力装置312から密度算出式作成部302に、第1のサンプル混合ガスの既知の密度Dの値、第2のサンプル混合ガスの既知の密度Dの値、第3のサンプル混合ガスの既知の密度Dの値、及び第4のサンプル混合ガスの既知の密度Dの値を入力する。また、入力装置312から発熱量算出式作成部352に、第1のサンプル混合ガスの既知の発熱量Qの値、第2のサンプル混合ガスの既知の発熱量Qの値、第3のサンプル混合ガスの既知の発熱量Qの値、及び第4のサンプル混合ガスの既知の発熱量Qの値を入力する。さらに、密度算出式作成部302及び発熱量算出式作成部352のそれぞれは、電気信号記憶装置401から、発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)の複数の測定値と、圧力センサ201からの電気信号SPの複数の測定値と、を読み出す。
(k)ステップS106で、密度算出式作成部302は、第1乃至第4のサンプル混合ガスの密度Dの値と、発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)の複数の測定値と、圧力センサ201からの電気信号SPの複数の測定値と、に基づいて、重回帰分析を行う。重回帰分析により、密度算出式作成部302は、発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)、及び圧力センサ201からの電気信号SPを独立変数とし、気体の密度Dを従属変数とする密度算出式を算出する。また、発熱量算出式作成部352は、第1乃至第4のサンプル混合ガスの発熱量Qの値と、発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)の複数の測定値と、圧力センサ201からの電気信号SPの複数の測定値と、に基づいて、重回帰分析を行う。重回帰分析により、発熱量算出式作成部352は、発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)、及び圧力センサ201からの電気信号SPを独立変数とし、気体の発熱量Qを従属変数とする発熱量算出式を算出する。その後、ステップS107で、密度算出式作成部302は作成した密度算出式を式記憶装置402に保存し、発熱量算出式作成部352は作成した発熱量算出式を式記憶装置402に保存して、実施の形態に係る発熱量算出式の作成方法が終了する。
以上示したように、実施の形態に係る密度測定システム20を用いた密度算出式及び発熱量算出式の作成方法によれば、気体の密度Dの値を一意に算出可能な密度算出式と、気体の発熱量Qの値を一意に算出可能な発熱量算出式と、を作成することが可能となる。
次に、密度D及び発熱量Qが未知の測定対象混合ガスの密度D及び発熱量Qの値を測定する際の、実施の形態に係る図15に示す密度測定システム20の機能を説明する。例えば未知の体積率でメタン(CH4)、プロパン(C3H8)、窒素(N2)、及び二酸化炭素(CO2)等を含む、密度D及び発熱量Qが未知の天然ガス等の測定対象混合ガスが、チャンバ101に導入される。圧力センサ201は、測定対象混合ガスの気圧に依存する電気信号SPを出力する。図1及び図2に示すマイクロチップ8の発熱素子61は、図15に示す駆動回路303から駆動電力PH1,PH2,PH3を与えられる。駆動電力PH1,PH2,PH3を与えられた場合、測定対象混合ガスに接する発熱素子61は、例えば、100℃の温度TH1、150℃の温度TH2、及び200℃の温度TH3で発熱し、発熱温度TH1における電気信号SH1(TH1)、発熱温度TH2における電気信号SH2(TH2)、及び発熱温度TH3における電気信号SH3(TH3)を出力する。
図15に示す測定部301は、測定対象混合ガスに接し、測定対象混合ガスの気圧に依存する圧力センサ201からの電気信号SPの値と、測定対象混合ガスに接する発熱素子61からの発熱温度TH1における電気信号SH1(TH1)、発熱温度TH2における電気信号SH2(TH2)、及び発熱温度TH3における電気信号SH3(TH3)の値と、を測定し、測定値を電気信号記憶装置401に保存する。
上述したように、式記憶装置402は、発熱温度TH1が100℃の発熱素子61からの電気信号SH1(TH1)と、発熱温度TH2が150℃の発熱素子61からの電気信号SH2(TH2)と、発熱温度TH3が200℃の発熱素子61からの電気信号SH3(TH3)と、圧力センサ201からの電気信号SPと、を独立変数とし、気体の密度Dを従属変数とする密度算出式を保存している。また、式記憶装置402は、発熱温度TH1が100℃の発熱素子61からの電気信号SH1(TH1)と、発熱温度TH2が150℃の発熱素子61からの電気信号SH2(TH2)と、発熱温度TH3が200℃の発熱素子61からの電気信号SH3(TH3)と、圧力センサ201からの電気信号SPと、を独立変数とし、気体の発熱量Qを従属変数とする発熱量算出式を保存している。
実施の形態に係る密度測定システム20は、さらに、密度算出部305及び発熱量算出部355を備える。密度算出部305は、密度算出式の発熱素子61からの電気信号SHの独立変数、及び圧力センサ201からの電気信号SPの独立変数に、発熱素子61からの電気信号SHの測定値、及び圧力センサ201からの電気信号SPの測定値をそれぞれ代入し、チャンバ101に注入された測定対象混合ガスの密度Dの測定値を算出する。
発熱量算出部355は、発熱量算出式の発熱素子61からの電気信号SHの独立変数、及び圧力センサ201からの電気信号SPの独立変数に、発熱素子61からの電気信号SHの測定値、及び圧力センサ201からの電気信号SPの測定値をそれぞれ代入し、チャンバ101に注入された測定対象混合ガスの発熱量Qの測定値を算出する。
CPU300には、算出値記憶装置403がさらに接続されている。算出値記憶装置403は、密度算出部305が算出した測定対象混合ガスの密度Dの値と、発熱量算出部355が算出した測定対象混合ガスの発熱量Qの値と、を保存する。
次に、図18に示すフローチャートを用いて、実施の形態に係る密度測定システム20を用いた、密度及び発熱量の測定方法について説明する。
(a)ステップS200で、図15に示すチャンバ101内に測定対象混合ガスを導入する。ステップS201で、測定部301は、測定対象混合ガスに接する圧力センサ201からの電気信号SPの値を測定し、電気信号記憶装置401に保存する。次に、駆動回路303は、図1及び図2に示す発熱素子61に駆動電力PH1を与え、発熱素子61を100℃で発熱させる。図15に示す測定部301は、測定対象混合ガスに接し、100℃で発熱する発熱素子61からの電気信号SH1(TH1)の値を、電気信号記憶装置401に保存する。
(b)ステップS202で、図15に示す駆動回路303は、図1及び図2に示す発熱素子61の温度の切り替えが完了したか否か判定する。温度150℃及び温度200℃への切り替えが完了していない場合には、ステップS201に戻り、駆動回路303は、図1及び図2に示す発熱素子61に駆動電力PH2を与え、発熱素子61を150℃で発熱させる。図15に示す測定部301は、測定対象混合ガスに接し、150℃で発熱する発熱素子61からの電気信号SH2(TH2)の値を、電気信号記憶装置401に保存する。
(c)再びステップS202で、図1及び図2に示す発熱素子61の温度の切り替えが完了したか否か判定する。温度200℃への切り替えが完了していない場合には、ステップS201に戻り、駆動回路303は、図1及び図2に示す発熱素子61に駆動電力PH3を与え、発熱素子61を200℃で発熱させる。図15に示す測定部301は、測定対象混合ガスに接し、200℃で発熱する発熱素子61からの電気信号SH3(TH3)の値を、電気信号記憶装置401に保存する。
(d)発熱素子61の温度の切り替えが完了した場合には、ステップS202からステップS203に進む。ステップS203で、図15に示す密度算出部305は、式記憶装置402から、発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)、及び圧力センサ201からの電気信号SPを独立変数とし、気体の密度Dを従属変数とする密度算出式を読み出す。また、発熱量算出部355は、式記憶装置402から、発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)、及び圧力センサ201からの電気信号SPを独立変数とし、気体の発熱量Qを従属変数とする発熱量算出式を読み出す。さらに、密度算出部305及び発熱量算出部355のそれぞれは、電気信号記憶装置401から、測定対象混合ガスに接する発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)の測定値、及び圧力センサ201からの電気信号SPの測定値を読み出す。
(e)ステップS204で、密度算出部305は、密度算出式の電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)、及び電気信号SPの独立変数に、それぞれ測定値を代入し、測定対象混合ガスの密度Dの値を算出する。また、発熱量算出部355は、発熱量算出式の電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)、及び電気信号SPの独立変数に、それぞれ測定値を代入し、測定対象混合ガスの発熱量Qの値を算出する。その後、密度算出部305は、算出した密度Dの値を算出値記憶装置403に保存し、発熱量算出部355は、算出した発熱量Qの値を算出値記憶装置403に保存して、実施の形態に係る密度及び発熱量の測定方法を終了する。
以上説明した実施の形態に係る密度及び発熱量の測定方法によれば、測定対象混合ガスに接する発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)の値と、測定対象混合ガスに接する圧力センサ201からの電気信号SPの値と、から、測定対象混合ガスの密度Dの値と、発熱量Qの値と、を測定することが可能となる。
天然ガスは、産出ガス田によって炭化水素の成分比率が異なる。また、天然ガスには、炭化水素の他に、窒素(N2)や炭酸ガス(CO2)等が含まれる。そのため、産出ガス田によって、天然ガスに含まれるガス成分の体積率は異なり、ガス成分の種類が既知であっても、天然ガスの密度D及び発熱量Qは未知であることが多い。また、同一のガス田由来の天然ガスであっても、密度D及び発熱量Qが常に一定であるとは限らず、採取時期によって変化することもある。
従来、天然ガスの使用料金を徴収する際には、天然ガスの使用発熱量Qでなく、使用体積に応じて課金する方法がとられている。しかし、天然ガスは由来する産出ガス田によって発熱量Qが異なるため、使用体積に課金するのは公平でない。これに対し、実施の形態に係る発熱量算出方法を用いれば、ガス成分の種類が既知であるが、ガス成分の体積率が未知であるために密度D及び発熱量Qが未知の天然ガス等の混合ガスの密度D及び発熱量Qを、簡易に算出することが可能となる。そのため、公平な使用料金を徴収することが可能となる。
また、密度D及び発熱量Qを測定したガスを大気に捨てることは、環境上、好ましくない。したがって、ガスパイプ中のガスの密度D及び発熱量Qを測定する際には、ガスパイプそのものに密度測定システムを設けるか、ガスパイプのバイパス経路に密度測定システムを設け、密度D及び発熱量Qを測定したガスをガスパイプに戻すことが好ましい。この際、ガスパイプ中の気圧は、顕著に変動しうる。これに対し、実施の形態に係る密度測定システムによれば、密度算出式及び発熱量算出式に圧力の独立変数を含めたことにより、気圧の変動による密度D及び発熱量の算出誤差を抑制することが可能となる。なお、密度算出式又は発熱量算出式の作成と、密度又は発熱量の測定と、の両方に同じ圧力センサ201を用いる場合は、圧力センサ201は補正回路を有していなくともよい。これは、必ずしも、正確な圧力の値を測定しなくとも、圧力に応じて圧力センサ201が出力する電気信号さえ測定できれば、気圧の変動による発熱量の算出誤差を抑制することが可能なためである。
(実施例1)
まず、発熱量Qの値が既知の40種類のサンプル混合ガスを用意した。40種類のサンプル混合ガスのそれぞれは、ガス成分としてメタン(CH4)、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8)、ブタン(C4H10)、窒素(N2)、及び二酸化炭素(CO2)のいずれか又は全部を含んでいた。例えば、あるサンプル混合ガスは、90vol%のメタン、3vol%のエタン、1vol%のプロパン、1vol%のブタン、4vol%の窒素、及び1vol%の二酸化炭素を含んでいた。また、あるサンプル混合ガスは、85vol%のメタン、10vol%のエタン、3vol%のプロパン、及び2vol%のブタンを含み、窒素及び二酸化炭素を含んでいなかった。また、あるサンプル混合ガスは、85vol%のメタン、8vol%のエタン、2vol%のプロパン、1vol%のブタン、2vol%の窒素、及び2vol%の二酸化炭素を含んでいた。
次に、40種類のサンプル混合ガスのそれぞれを用いて、発熱素子からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)の複数の測定値を取得した。その後、40種類のサンプル混合ガスの既知の発熱量Qの値と、発熱素子からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)の複数の測定値と、に基づいて、サポートベクトル回帰により、発熱素子からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)を独立変数とし、発熱量Qを従属変数とする、発熱量Qを算出するための1次方程式、2次方程式、及び3次方程式を作成した。
発熱量Qを算出するための1次方程式を作成する際には、キャリブレーション・ポイントは、3乃至5個を目安に、適宜決定できる。発熱量Qを算出するための2次方程式を作成する際には、キャリブレーション・ポイントは、8乃至9個を目安に、適宜決定できる。発熱量Qを算出するための3次方程式を作成する際には、キャリブレーション・ポイントは、10乃至14個を目安に、適宜決定できる。
作成した発熱量算出式を用いて40種類のサンプル混合ガスのそれぞれの発熱量Qを算出し、真の発熱量Qと比較したところ、図19に示すように、誤差はプラスマイナス1.3%以内であった。また、発熱素子の抵抗を、意図的に0.03%、0.07%、及び0.10%減少させたが、誤差は増えなかった。このことは、発熱素子の経年劣化等に伴うドリフトが生じても、発熱量の算出に影響を及ぼさないことを示していた。
(比較例1)
混合ガスの放熱係数MIは、上記(9)式に示すように、発熱素子の抵抗値RHと、測温素子の抵抗値RIと、に依存する。そこで、混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qは、上記(23)式を変形して、下記(47)式に示すように、発熱素子の温度がTH1,TH2,TH3である場合の発熱素子の抵抗値RH1(TH1),RH2(TH2),RH3(TH3)と、混合ガスに接する測温素子の抵抗値RIと、を変数とする方程式でも与えられる。
Q = g[RH1 (TH1), RH2 (TH2), RH3 (TH3), RI] ・・・(47)
また、混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qは、下記(48)式に示すように、発熱素子の温度がTH1,TH2,TH3である場合の発熱素子の通電電流IH1(TH1),IH2(TH2),IH3(TH3)と、混合ガスに接する測温素子の通電電流IIと、を変数とする方程式でも与えられる。
Q = g[IH1 (TH1), IH2 (TH2), IH3 (TH3), II] ・・・(48)
あるいは混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qは、下記(49)式に示すように、発熱素子の温度がTH1,TH2,TH3である場合の発熱素子にかかる電圧VH1(TH1),VH2(TH2),VH3(TH3)と、混合ガスに接する測温素子にかかる電圧VIと、を変数とする方程式でも与えられる。
Q = g[VH1 (TH1), VH2 (TH2), VH3 (TH3), VI] ・・・(49)
またあるいは混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qは、下記(50)式に示すように、発熱素子の温度がTH1,TH2,TH3である場合の発熱素子に接続されたアナログ−デジタル変換回路(以下において「A/D変換回路」という。)の出力信号ADH1(TH1),ADH2(TH2),ADH3(TH3)と、混合ガスに接する測温素子に接続されたA/D変換回路の出力信号ADIと、を変数とする方程式でも与えられる。
Q = g[ADH1 (TH1), ADH2 (TH2), ADH3 (TH3), ADI] ・・・(50)
よって、混合ガスの単位体積当たりの発熱量Qは、下記(51)式に示すように、発熱素子の発熱温度がTH1,TH2,TH3である場合の発熱素子からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)と、混合ガスに接する測温素子からの電気信号SIと、を変数とする方程式で与えられる。
Q = g[SH1 (TH1), SH2 (TH2), SH3 (TH3), SI] ・・・(51)
そこで、実施例1と同じ40種類のサンプル混合ガスのそれぞれを用いて、測温素子からの電気信号SIの複数の測定値と、発熱素子からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)の複数の測定値と、を取得した。その後、40種類のサンプル混合ガスの既知の発熱量Qの値と、測温素子からの電気信号SIの複数の測定値と、発熱素子からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)の複数の測定値と、に基づいて、サポートベクトル回帰により、測温素子からの電気信号SI及び発熱素子からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3)を独立変数とし、発熱量Qを従属変数とする、発熱量Qを算出するための1次方程式、2次方程式、及び3次方程式を作成した。
作成した発熱量算出式を用いて40種類のサンプル混合ガスのそれぞれの発熱量Qを算出し、真の発熱量Qと比較したところ、図20に示すように、誤差はプラスマイナス1.3%以内であった。しかし、測温素子の抵抗を変化させないまま、発熱素子の抵抗を、意図的に0.03%、0.07%、及び0.10%減少させると、誤差は増えた。このことは、発熱素子の経年劣化等に伴うドリフトが生じると、発熱量の算出に影響を及ぼすことを示していた。
上述したように、測温素子には、測温素子が自己発熱しない程度の電流が流されるため、測温素子の経年劣化は、発熱素子の経年劣化に比べると少ない。測温素子からの電気信号SIを含む発熱量算出式を用いて発熱量を算出すると、発熱素子が経年劣化しないうちは正確な発熱量の算出が可能であるが、発熱素子が経年劣化すると、測温素子の経年劣化との違いが、発熱量の算出誤差として表れることが示された。
(実施例2)
実施例1で作成した測温素子からの電気信号SIを独立変数として含まない発熱量算出式を用いて、メタンガスの発熱量を経時的に算出した。結果として、図21に示すように、実施例1で作成した発熱量算出式を用いると、算出されるメタンガスの発熱量はほぼ一定であった。
(比較例2)
比較例1で作成した測温素子からの電気信号SIを独立変数として含む発熱量算出式を用いて、メタンガスの発熱量を経時的に算出した。結果として、図21に示すように、比較例1で作成した発熱量算出式を用いると、算出されるメタンガスの発熱量は、時間の経過と共に、低下していった。
(実施例3)
まず、発熱量Qの値が既知の12種類のサンプル混合ガスを用意した。12種類のサンプル混合ガスのそれぞれは、ガス成分としてメタン(CH4)、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8)、ブタン(C4H10)、窒素(N2)、及び二酸化炭素(CO2)のいずれか又は全部を含んでいた。例えば、あるサンプル混合ガスは、90vol%のメタン、3vol%のエタン、1vol%のプロパン、1vol%のブタン、4vol%の窒素、及び1vol%の二酸化炭素を含んでいた。また、あるサンプル混合ガスは、85vol%のメタン、10vol%のエタン、3vol%のプロパン、及び2vol%のブタンを含み、窒素及び二酸化炭素を含んでいなかった。また、あるサンプル混合ガスは、85vol%のメタン、8vol%のエタン、2vol%のプロパン、1vol%のブタン、2vol%の窒素、及び2vol%の二酸化炭素を含んでいた。
次に、12種類のサンプル混合ガスのそれぞれを用いて、圧力センサからの電気信号SPの複数の測定値と、4つの異なる電圧を加えられた発熱素子からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3),SH4(TH4)の複数の測定値と、を取得した。その後、12種類のサンプル混合ガスの既知の発熱量Qの値と、圧力センサからの電気信号SPの複数の測定値と、発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3),SH4(TH4)の複数の測定値と、に基づいて、サポートベクトル回帰により、圧力センサからの電気信号SP、及び発熱素子からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3),SH4(TH4)を独立変数とし、発熱量Qを従属変数とする、発熱量Qを算出するための方程式を作成した。
作成された方程式を用いて、12種類のサンプル混合ガスのそれぞれの発熱量Qを算出し、真の発熱量Qと比較したところ、図22に示すように、誤差は±1%以内であった。
(比較例3)
実施例3と同じ12種類のサンプル混合ガスを用いて、圧力センサからの電気信号SPの独立変数を含まず、発熱素子からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3),SH4(TH4)を独立変数とし、発熱量Qを従属変数とする、発熱量Qを算出するための方程式を作成した。作成された圧力センサからの電気信号SPの独立変数を含まない方程式を用いて、12種類のサンプル混合ガスのそれぞれの発熱量Qを算出し、真の発熱量Qと比較したところ、図23に示すように、誤差は±2%以内であった。
(実施例4)
まず、密度Dの値が既知の12種類のサンプル混合ガスを用意した。12種類のサンプル混合ガスのそれぞれは、ガス成分としてメタン(CH4)、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8)、ブタン(C4H10)、窒素(N2)、及び二酸化炭素(CO2)のいずれか又は全部を含んでいた。例えば、あるサンプル混合ガスは、90vol%のメタン、3vol%のエタン、1vol%のプロパン、1vol%のブタン、4vol%の窒素、及び1vol%の二酸化炭素を含んでいた。また、あるサンプル混合ガスは、85vol%のメタン、10vol%のエタン、3vol%のプロパン、及び2vol%のブタンを含み、窒素及び二酸化炭素を含んでいなかった。また、あるサンプル混合ガスは、85vol%のメタン、8vol%のエタン、2vol%のプロパン、1vol%のブタン、2vol%の窒素、及び2vol%の二酸化炭素を含んでいた。
次に、12種類のサンプル混合ガスのそれぞれを用いて、圧力センサからの電気信号SPの複数の測定値と、4つの異なる電圧を加えられた発熱素子からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3),SH4(TH4)の複数の測定値と、を取得した。その後、12種類のサンプル混合ガスの既知の密度Dの値と、圧力センサからの電気信号SPの複数の測定値と、発熱素子61からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3),SH4(TH4)の複数の測定値と、に基づいて、サポートベクトル回帰により、圧力センサからの電気信号SP、及び発熱素子からの電気信号SH1(TH1),SH2(TH2),SH3(TH3),SH4(TH4)を独立変数とし、密度Dを従属変数とする、密度Dを算出するための方程式を作成した。
作成した密度Dを算出するための方程式を用いて、12種類のサンプル混合ガスのそれぞれの密度Dを算出し、真の密度Dと比較したところ、図24に示すように、誤差は±0.65%以内であった。
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす記述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施の形態及び運用技術が明らかになるはずである。本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を包含するということを理解すべきである。