JP5780413B2 - 堆積量推定方法、堆積量推定図、及び堆積量推定プログラム - Google Patents

堆積量推定方法、堆積量推定図、及び堆積量推定プログラム Download PDF

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Description

本願発明は、火山灰、雪、土石といった地表面に堆積する「堆積物」に関するものであり、より具体的には、数値標高モデル(又は高さを把握できる目盛を具備する標尺)と斜め写真等に基づいて堆積物が堆積した量(以下、「堆積量」という。)を推定する方法、そしてその推定量を表現した推定図、及び堆積量を推定するプログラムに関するものである。
平成23年1月、霧島山新燃岳が噴火した。この噴火による降灰は、現地から30km以上離れた宮崎市内でも報告されるなど広い範囲に及び、各地で多くの火山灰が堆積して一般交通にまで甚大な影響を与えた。さらに、噴石も広く飛散し、火口から10km以上の地域でも噴石が記録されている。
降灰によって山の斜面等に堆積した火山灰は、その後の降雨によって土石流にように流下するおそれがあり、堆積量によっては、山の直下にある集落、道路、河川、砂防施設に対して深刻な被害を与えることも考えられる。あるいは、大量の火山灰が流下すると、植林や樹木を倒し、森林資源を滅失させるとともに自然環境に対して影響を与えることもある。つまり、火山灰による被害の大きさを左右するのはその堆積量であり、その堆積量を把握することは災害に対する対策を講じる上で極めて重要となる。
地表面上に堆積する堆積物は、火山灰に限らず、雪や土石なども挙げられる。豪雪地方では、常に雪崩による被害に備えなければならないとともに、積雪は貴重な水資源である。雪崩による被害の規模や危険度や資源としての水の量は、その積雪量によって決まるため、火山灰と同様、積雪量を把握することは極めて有益である。
また、地震、あるいは豪雨や長雨によって、地すべりや斜面崩壊を引き起し、その結果、大量の土砂や岩といった土石が堆積することがある。この土石が河川Lに堆積すると、図6(a)に示すように、いわゆる天然ダムDが構築されて河道閉塞が生じる。この天然ダムDは土石を緩く盛った状態であって、容易に決壊するものであり、ひとたび決壊すると洪水や土石の流出によって流域に甚大な被害を与える結果となる。図6(b)に示すように、背後に抱える湛水量は土石の堆積量(堆積高さ)によって決まるため、言い換えれば土石の堆積量が被害規模を左右することから、この場合も、土石の堆積量を把握することは極めて有益である。
このように、火山灰、雪、土石といった堆積物の堆積量を把握することは有益であるが、一方で、いずれの場合も災害の危険性があるため、限られた条件でかつ迅速に把握しなければならないという制約がある。例えば、火山の噴火の場合、火山の活動中であれば噴石等のおそれもあって、火口周辺(一般的には半径2〜4はkm)は制限区域となり(図7)、計測用の航空機Pであっても立ち入ることはできない。しかしながら、堆積した火山灰がいつ流下するかは分からないので、火山活動が終わるまで計測を待つことはできない。
災害時において限られた条件でかつ迅速に、堆積物の堆積量を計測するという点では、従来から確立された技術が存在せず、関係者からは待望されていた。そこで特許文献1では、災害によって生じた斜面崩壊地を抽出する技術について提案している。
特開2007−188177
ここで示した特許文献1は、レーザー測距装置で取得したファーストパルスとラストパルスから、樹木や地物等の表面モデルであるDSM(DigitalSurfaceModel)と樹木や地物等を排除した地表面モデルであるDTM(DigitalTerrainModel)を作成し、これらに基づいて裸地を求め、裸地としたメッシュ勾配から傾斜地を抽出し、さらに地上開度から崩壊地を推定するものである。
上記のとおり特許文献1は、現在の崩壊地を推定するものであって、堆積物の堆積前と堆積後のように2時期の変化を把握する技術ではない。また、特許文献1では、崩壊後の計測データを必要とするが、次に説明するように、一旦災害が発生した後に現地を計測することは容易ではない。
火山が噴火した場合、前記したように、火口周辺は制限区域となって上空を飛行することができない。しかし、火山灰が堆積しやすいのは当然ながら火口周辺であり、つまり火山灰が最も堆積している箇所をレーザー測距装置で計測することはできない。なお、斜め方向に照射するレーザー測距装置もあるが、この場合の照射距離は限られており、通常2〜4kmとされる制限区域の外からでは計測困難である。また図7に示すように、衛星Sから計測することも考えられるが、この場合は計測精度の点で問題がある。
地震が発生した場合で考えると、レーザー測距装置による計測は、迅速性において問題を指摘できる。すなわち本震が発生した後も余震は続くため、例えば地震によって生じた天然ダムDの形状や堆積量は刻々と変化することが予想される。そのたびに航空機Pを飛行させ、レーザー測距装置で計測することは現実的ではない。
火山灰、積雪、土石などの堆積量を推定する場合、堆積前と堆積後の2時期の計測結果があれば容易に推定することができるが、上記のとおり、堆積後(つまり噴火や地震が発生した後)に、レーザー測距装置によって計測することは容易ではない。
本願発明の課題は前記問題を解決するものであり、堆積物の堆積後(噴火や地震が発生した後)に、迅速かつ容易に堆積量を推定する方法と、その推定量を表現した推定図、及びその推定プログラムを提供することにある。
本願発明の堆積量推定方法は、地表面上に堆積した堆積物の堆積量を、推定する方法であって、前記堆積物が堆積した状態を含む画像又は映像を撮像し、堆積物が堆積する前の数値標高モデルのうち前記画像又映像の範囲内から、周囲との比高差が判別可能な特徴地形又は特徴地物を抽出し、前記数値標高モデルに基づいて、前記特徴地形又は特徴地物の周囲との比高差を算出し、前記画像又は映像内に表示された前記特徴地形又は特徴地物における堆積物の堆積状態と、前記算出された前記特徴地形又は特徴地物の比高差と、に基づいて堆積物の堆積高さを推定し、さらにこの堆積高さに基づいて堆積量を推定する方法である。
この場合、特徴地形が周辺地形よりも低地である凹部であり、数値標高モデルに基づいて、前記凹部の周囲との比高差を算出し、前記画像又は映像内で前記凹部が堆積物で埋設された状態を確認することによって、当該堆積物の堆積高さを、前記算出された凹部の比高差と推定して、堆積物の堆積量を推定することもできる。
本願発明の堆積量推定方法は、堆積物が堆積する前に、高さを把握できる目盛を具備する標尺を設置するとともに、この標尺の設置位置を取得し、前記堆積物が堆積した状態を含む画像又は映像を撮像し、設置された前記標尺のうち、前記画像又は映像の範囲内に設置された標尺を抽出し、前記画像又は映像内に表示された前記標尺における堆積物の堆積状態と、標尺が具備する前記目盛及び標尺の設置位置と、に基づいて堆積物の堆積高さを推定し、さらにこの堆積高さに基づいて堆積量を推定する方法とすることもできる。
この場合、あらかじめ画像又は映像を撮像する場所を設定するとともに、この撮像場所から標尺を確認しやすい位置を推定し、前記推定された位置に標尺を設置する方法とすることもできる。
また、2箇所以上で堆積物の堆積高さを推定し、これら2以上の堆積高さに基づいて、周辺の堆積物の堆積量を推定する方法とすることもできる。
本願発明の堆積量推定図は、地表面上に堆積した堆積物の堆積量を、描画した堆積量推定図であって、本願発明の堆積量推定方法によって、堆積物の堆積量を推定し、前記推定された堆積物の堆積量を、堆積物が堆積する前の数値標高モデルから作成される地形図に、表現したものである。
本願発明の堆積量推定プログラムは、地表面上に堆積した堆積物の堆積量を、推定するプログラムであって、堆積物が堆積する前の数値標高モデルを、読み込む機能と、前記数値標高モデルを、表示する機能と、前記堆積物が堆積した状態を含む画像又は映像内であって、周囲との比高差が判別可能な、特徴地形又は特徴地物を、前記数値標高モデル内で指定する機能と、前記数値標高モデルに基づいて、前記特徴地形又は特徴地物の周囲との比高差を、算出する機能と、前記画像又は映像内に表示された前記特徴地形又は特徴地物における堆積物の堆積状態と、前記算出された前記特徴地形又は特徴地物の比高差と、に基づいて堆積物の堆積高さを推定し、且つこの堆積高さに基づいて堆積量を推定する機能と、をコンピュータに実行させるものである。
本願発明の堆積量推定プログラムは、高さを把握できる目盛を具備する標尺が設置された位置情報と目盛情報を、読み込む機能と、前記堆積物が堆積した状態を含む画像又は映像内の標尺を、指定する機能と、前記画像又は映像内に表示された前記標尺における堆積物の堆積状態と、標尺が具備する前記目盛及び標尺の設置位置と、に基づいて堆積物の堆積高さを推定し、且つこの堆積高さに基づいて堆積量を推定する機能と、をコンピュータに実行させるものとすることもできる。
本願発明の堆積量推定方法、堆積量推定図、及び堆積量推定プログラムには、次のような効果がある。
(1)災害発生後の状況を把握できる情報を取得すれば、任意のタイミングで、しかも迅速に堆積量を推定することができる。そのため、早期の段階で災害規模を予測することができて、的確な対策を講ずることができる。
(2)計測のために火口周辺や天然ダムに接近する必要がないので、極めて安全に堆積量の推定を行うことができる。
(3)あらゆる写真や映像が利用可能であり、つまり写真等を手軽に入手できるので、本願発明も容易・迅速に実施できる。特に災害後は、報道写真など多くの現地写真や映像が手に入るので、この場合は、本願発明を実施するための写真撮影が必要ない。
(4)多点で堆積量を推定すれば、等値線図(コンター図)を描くことができるので、推定していない箇所も含め網羅的に堆積厚さ(高さ)を把握することができる。
(5)多点で推定する際、複数の人員で分担して処理することができるので、いわゆる人海戦術が可能となり、この場合さらに迅速に堆積量を推定することができる。
(6)特別な計測装置や複雑な演算処理を必要としないので、容易に結果を取得することができ、また経済的にも優れる。
(7)事前に標尺を設置すれば、その目盛から容易に堆積物の堆積高さを把握することができるので、より的確に堆積量を推定することができる。
(8)あらかじめ設定した撮像場所から確認しやすい位置に標尺を設置すれば、さらに容易に堆積物の堆積高さを把握することができるので、迅速かつ容易に堆積量を推定することができる。
堆積物が堆積する前の火口付近の数値標高モデルを平面表示したモデル図。 噴火した火山に火山灰が堆積している状況を撮影した写真を示す説明図。 特徴地物とその周辺の堆積状況を説明するためのモデル図。 (a)は複雑な沢地形を形成する火山の数値標高モデルを平面表示したモデル図、(b)は(a)のうちA−Aで示した箇所の断面図。 等しい堆積高さとなる箇所を等値線で表した等値線図。 (a)は天然ダムの構築によって河道閉塞が生じた状況を説明する平面図、(b)は天然ダムの背後に湛水した状態を説明する断面図。 火山活動中における、火口付近の制限区域を示す説明図。 (a)は標尺の例を示すモデル図、(b)は標尺における火山灰の堆積状況を示すモデル図。 堆積物が堆積する前の火口付近に標尺を設置した状態を示すモデル図。 標尺を設置した火口付近に火山灰が堆積した状態を示すモデル図。
本願発明の堆積量推定方法、堆積量推定図、及び堆積量推定プログラムの実施形態の例を図に基づいて説明する。
(概 要)
本願発明は、火山の噴火によって堆積した火山灰、降雪によって積もった雪、地震等の影響で地山が崩壊して堆積した土石、といったものが堆積した際の量を推定する技術に関するものである。なお、ここでは便宜上、火山灰や積雪や土石を「堆積物」(便宜上、積雪も堆積物として扱う。)とし、これらが堆積した厚さ(高さ)を「堆積高さ」、堆積した量を「堆積量」とする。また、堆積物が堆積する前を「堆積前」、堆積した後を「堆積後」と呼ぶこととする。
堆積物の堆積量を推定するに当たっては、堆積前の数値標高モデル(後で詳述)と、堆積後の状況が確認できる写真(画像)や映像を利用する。以下、その手順について簡単に説明する。まず、堆積後に取得した画像や映像(以下、「画像等」という。)から、堆積物が堆積している範囲(以下、「堆積範囲」という。)を確認する。つぎに堆積前の数値標高モデルのうち、画像等から得た堆積範囲に該当する範囲を選定し、そのうち特徴地形又は特徴地物を抽出する。この「特徴地形」とは、例えば沢部やシャープな尾根部など周囲に比べると高低差が明確である地形のことであり、同様に「特徴地物」とは、鉄塔や家屋あるいは樹木など周囲に比べると高低差が明確である地物のことである。そのほか図8(a)に示すように、高さを把握できる目盛を具備した標尺7を「特徴地物」として採用することもできる。なおこの図に示す標尺7は、一定単位(例えば20cm)の目盛が設けられたポールであるが、高さを把握できる目盛を具備したものであれば、鉄塔や家屋などの構造物に目盛を記入したもの、リボンテープ(一定間隔で紅白に色分けしたテープ)やリボンロッド(一定間隔で紅白に色分けしたロッド)を鉛直方向に設置したもの、など様々なものを標尺7とすることができる。数値標高モデルにおける特徴地形や特徴地物は、数値標高モデルであるがゆえに容易に周囲との高低差(比高差)を把握することができる。すなわち、画像等から得た堆積範囲に、特徴地形や特徴地物が存在することが分かれば、特徴地形や特徴地物の比高差から堆積物の堆積高さを推定し、堆積量を推定することができるわけである。
堆積物の堆積量を推定する場合、堆積前の数値標高モデルに代えて高さを把握できる目盛を具備する標尺7を利用することもできる。以下、その手順について簡単に説明する。まず、堆積後に取得した画像等から堆積物の堆積範囲を確認し、つぎに設置された標尺7の中からこの堆積範囲内にある標尺7を抽出する。標尺7には、高さを把握できる目盛が設けられているので、堆積物がどの程度まで堆積したか(堆積高さ)を容易に把握することができる。すなわち、画像等と、これから得た堆積範囲にある標尺7と、を把握することができれば、堆積物の堆積高さを推定し、堆積量を推定することができるわけである。
このように本願発明は、堆積前の数値標高モデルと画像等を利用する場合と、標尺7と画像等を利用する場合と、に大別され、以下それぞれの場合について詳細に説明する。
(数値標高モデルを利用する場合)
まず、堆積前の数値標高モデルと画像等を利用する場合について説明する。
1.数値標高モデル
本願発明では、堆積前の地形を表す数値標高モデルを用いる。この数値標高モデルとは、一般的に3次元の点群データにより構成されたモデルであり、代表的なものとしてはDEM(Digital Elevation Model)やDSM(Digital Surface Model)が挙げられる。もちろん、本願発明ではこれらに限らず従来から用いられる種々の数値標高モデルを利用することができる。なおDEMとは、樹木頂部や建物など地表面ではないデータを取り除くいわゆるフィルタリング処理を施すことによって純粋に地表面をモデル化したものを意味し、DSMとは、フィルタリング処理を施さず樹木頂部や建物などの表面をモデル化したものを意味している。
ここで、代表的な数値標高モデルであるDEMについて簡単に説明する。DEMとは、地表面の形状である地形を数値モデル化したもので一般的には格子モデルである。DEMは、地表面の平面座標(X,Y)と標高値(Z)を有する点の集合である3次元の点群データに基づいて形成され、これら点群データが密であるほど正確に原地形を再現することができる。この点群データは、航空レーザー計測によって取得することが一般的である。もちろん、航空レーザー計測によるほか、ステレオの航空写真や衛星画像を基に三次元の空間情報をもつ点群データを生成してもよいし、直接現地を測量して三次元の空間情報をもつ点群データを取得してもよい。
航空レーザー計測によって取得される点群データは、ランダムに計測されたレーザー計測点の集合にすぎないので、DEMを作成するためには以下の手順を実施する。すなわち、レーザー計測点が配点された上に、所定間隔(例えば2m)に配置された複数のグリッド(例えば正方格子)を被せる。この正方格子で区切られることにより格子点が生成され、多数の四角形(メッシュ)が形成される。メッシュには一つの代表点が設けられるが、その代表点の位置はメッシュの中心としたり、メッシュのうち右上隅の格子点としたり、状況に応じて適宜設定される。
レーザー計測点の三次元座標(X,Y,Z)を基に、メッシュ代表点の平面座標(X,Y)と標高値(Z)を算出し、DEMを完成させる。この算出方法は、レーザー計測点から不整三角網より高さを求めるTIN(Triangulated Irregular Network)による補間法のほか、最も近いレーザー計測点を採用する最近隣法(Nearest Neibor)や、逆距離加重法(IWD)、Kriging法、平均法など種々の方法が採用される。
現在、国をはじめ各地方自治体では、所管地域における数値標高モデルの整備が推し進められている。また民間事業者の中にはライブラリ形式で数値標高モデルを保有しているところもあり、このように近年では数値標高モデルが身近で利用しやすいものとなっている。本願発明は、上記のように我が国全体で数値標高モデルが蓄積されてきたことを背景になされたものである。もちろん、数値標高モデルが未整備であっても、噴火や地震が想定される地域であらかじめ数値標高モデルを整備すれば、本願発明を実施することは可能である。
図1は、火口1付近の数値標高モデルを平面表示したモデル図である。この図に示すように、数値標高モデルを用いれば微妙に変化している地形(微地形)を表現することが可能であり、例えばこの図では、火口1付近の斜面に沢部2が形成されており、しかも、沢部2の上流側が、支流2a、支流2b、支流2cに枝分かれしていることも把握できる。なお、このように微地形を把握するためには、前記のとおり、点群データを密に取得(生成)することが望ましく、DEMを例にとれば、5mメッシュ、2mメッシュ、あるいは1mメッシュといった細かいメッシュで形成されたいわゆる細密DEMを利用することが望ましい。
2.画像等
本願発明では、堆積後の現地状況を示す画像等(画像又は映像)を利用する。図2は、噴火した火山に火山灰が堆積している状況を撮影した写真を示す説明図である。この図(つまり撮影された画像)から、火口1周辺に火山灰3が堆積していることが分かる。そして、その堆積範囲は沢部2の一部にまで広がり、支流2cは火山灰3が堆積していないが、支流2a、支流2bは既に火山灰3が堆積して埋没していることが分かる。
このように本願発明を実施する上では、現地状況、つまり堆積物の堆積状況を把握する画像が必要である。しかしながら、現地の堆積状況さえ把握することができれば、カメラで撮影した画像に限らずビデオによる映像を利用してもよいし、撮像手段はデジタルカメラでもアナログカメラでも構わない。また、必ずしも本願発明を実施するために撮像する必要はなく(もちろん撮像してもよいが)、報道用や私用で撮影された画像など他の目的で取得された画像等を利用することができる。
また、取得した画像等から、その画像に該当する範囲を数値標高モデル上で特定する必要があるので、その画像等に基づいてその撮影場所を把握する必要がある。この場合、例えば画像内に収められた現地の目印(火口1や、構造物など)から判断することができる。災害直後は、堆積量の精度よりも迅速性が要求されることが多く、画像から目視判断することで(厳密な堆積範囲は推定し得ないものの)極めて迅速に堆積範囲を推定することができる。もちろん、撮影時にカメラの位置をGPS等で計測し、かつIMU等でカメラの撮影姿勢を計測し、カメラの諸元(画角、画面距離など)に基づいて、正確に撮影範囲を特定することもできる。
3.堆積量の推定
本願発明は、堆積後の画像等から、特徴地形や特徴地物の埋設状況(あるいは、これら周辺の堆積状況)を確認し、これによって堆積物の堆積量を推定するものである。図3は、特徴地物とその周辺の堆積状況を説明するためのモデル図である。この図に示すように、登山者用の休憩施設や倉庫といった建物4、及び樹木5が火山灰3によって埋設されており、これらの周辺も火山灰3が堆積している。このように、火山灰3は略一様の厚さで(言い換えれば毛布状に)堆積するので、建物4や樹木5などの特徴地物の高さが分かれば、当該周辺の堆積高さを推定することができる。なお、ここでいう「特徴地物の高さ」について詳しく説明すれば、建物4や樹木5がない地表面と、これらの建物4や樹木5の頂部との、高低差(比高差)のことを意味する。
特徴地形における比高差について、図4(a)(b)を用いて説明する。図4(a)は、複雑な沢地形を形成する火山の数値標高モデルを、平面表示したモデル図である。また図4(b)は、図4(a)のうちA−Aで示した箇所の断面図である。図4(a)から分かるように、当該個所は起伏の激しい凹凸が連続した区間であり、この場合は沢部(凹地)が特徴地形となり、尾根部(凸地の頂部)に対して求められる沢部(凹地)との高低差が比高差となる。
現地を撮影した画像等と数値標高モデルとを対比するためには、あるいは図4(b)のような断面図を作成するためには、数値標高モデルを立体的に表現する必要がある。この立体的表現には、従来から種々の手法が用いられており、本願発明でもこれら従来手法を採用することができる。一例としては、数値標高モデルのメッシュごとに地形量を求め、その地形量を基に数値標高モデルを立体的に表現する手法が挙げられる。この地形量とは、メッシュの平面要素(平面座標など)とメッシュ代表点の高さ要素から求められるもので、傾斜の程度を表す傾斜量を例示できる。傾斜量を求めるには、当該メッシュ及び周囲メッシュ(例えば8メッシュ)の平面要素と高さ要素を用いることができる。あるいは、メッシュ格子点の3次元座標を用いてメッシュの1辺の3次元方向ベクトルを算出し、これを利用してメッシュ傾斜量を求めることもできる。
以下、図1と図2を参照し、堆積量を推定する手順について具体的に説明する。まず、図2の画像から、火口1周辺のうちどの場所を撮影したものか確認する。ここで確認した場所を含む範囲を、数値標高モデルから抽出する。この場合、数値標高モデルから各メッシュの傾斜量を算出し、これに基づいて作成した平面図や立体図(鳥瞰図など)を目視することで抽出する。当該範囲を示す座標等が分かる場合には、座標を基に演算処理することで直接抽出することもできる。次に、当該範囲から特徴地形や特徴地物を抽出する。ここでは特徴地形として沢部2を抽出することができる。
数値標高モデルを基に、図2の画像に該当する範囲を平面図(立体図でもよい)で表示すると、図1(範囲R)に示すように、沢部2の上流側が、支流2a、支流2b、支流2cに枝分かれしていることが把握できる。一方、図2(範囲R)を見ると、支流2cは確認できるものの、支流2aと支流2bは火山灰で確認できない。このことから、火山灰の堆積範囲が、支流2cと支流2a(支流2b)の間、詳しくは支流2aと支流2bの合流点付近を境界としていることが分かる。
数値標高モデルに基づいて、断面図を作成する。この断面図は、主要な1断面のみ作成してもよいし、複数の断面を作成してもよい。この断面図には支流2aと支流2b(特徴地形)の断面も含まれており、これら支流2aと支流2bの比高差を確認することができる。そして、支流2aと支流2bは火山灰3で埋設されていることから、支流2aと支流2bの空間部(ポケット)内には火山灰3が堆積されていることとなり、この結果、支流2aと支流2bの比高差から火山灰3の堆積高さを推定することができる。
このように作成した断面図から、火山灰3の断面積、つまり単位延長あたりの堆積量を推定することができ、さらに所定の延長を乗じることで、所定範囲の堆積量を推定することができる。複数の断面積を作成した場合は、いわゆる平均断面法によって当該範囲内に堆積した堆積量を求めることもできる。
4.堆積量推定図
堆積物が広範囲にわたって堆積している場合、上記で説明した堆積量の推定を複数箇所で繰り返し行うことで、堆積量推定図を作成することができる。図5は、等しい堆積高さとなる箇所を等値線6aで表した等値線図6である。数値標高モデルと1又2以上の画像から、堆積範囲内に多数の特徴地形や特徴地物が存在することが分かると、それぞれの特徴地形や特徴地物において堆積高さを推定し、同じ堆積高さとなる地点を等値線6aで結ぶと、図5に示す等値線図6が得られる。
等値線図6は、図3に示すように空から降下した堆積物が毛布状に堆積することを利用したもので、この図によれば、特徴地形や特徴地物が存在しないことから堆積高さを推定し難い箇所についても、堆積高さを推定することができる。
5.堆積量推定プログラム
堆積量を推定するに当たっては、堆積量推定プログラムを利用することもできる。この堆積量推定プログラムが具備する主な機能について説明する。モデル読み込み機能は、数値標高モデルを記憶する記憶装置から、数値標高モデルを読み込む機能である。なお数値標高モデルは、通常、データベースとして記憶装置に記憶される。表示機能は、数値標高モデルを基に平面図や立体図(鳥瞰図など)を作成し、表示装置(モニタなど)に表示させる機能である。この表示機能は、前記した断面図や等値線図6を表示させる機能を持たせることもできるし、堆積量推定機能で推定した堆積量を表示させる機能を持たせることもできる。
範囲指定機能は、数値標高モデルの範囲から、画像等で表示される範囲であって堆積範囲に該当する領域内にある、特徴地形又は特徴地物の周辺を指定する機能である。例えば、表示装置で表示された平面図に、所定範囲をマウス等で指定するなど、従来から行われている手法を採用することができる。堆積量推定機能は、特徴地形又は特徴地物の比高差から堆積物の堆積高さを求め、さらに平均断面法などによって堆積量を算出する機能である。
そのほか、算出された堆積量やこれに使った条件値を保存する機能や、断面図や等値線図6を出力する機能、等値線図6を作成する機能、なども堆積量推定プログラムに具備させることができる。
(標尺を利用する場合)
次に、標尺7と画像等を利用する場合について説明する。なお、前記した「2.画像等」及び「4.堆積量推定図」に関しては、ここで説明する場合であっても同様の内容となるのでその説明は省略する。
1.堆積量の推定
この場合、堆積後の画像等から、標尺7における堆積物3の堆積状況(あるいは、標尺7周辺の堆積状況)を確認し、これによって堆積物の堆積量を推定するものである。なおここで参照する図8(a)は標尺7の例を示すモデル図であり、図8(b)は標尺7における火山灰3の堆積状況を示すモデル図である。また、図9は火山灰堆積前の火口付近に標尺7を設置した状態を示すモデル図であり、図10は標尺7を設置した火口付近に火山灰が堆積した状態を示すモデル図である。
図8(b)や図10に示すように、標尺7の付近や周辺には火山灰3が堆積している。前記したように、火山灰3は略一様の厚さで(言い換えれば毛布状に)堆積するので、標尺7のどの高さまで火山灰3が堆積したかを把握できれば、当該周辺の堆積高さを推定することができる。なお、標尺7のどの高さまで堆積したかについては、図8(a)(b)に示すように、この標尺7に設けられた目盛7aのうちどこまで画像等で確認できるかによって判断することができる。これを図9と図10に示す全ての標尺7で繰り返し行うことで、当該範囲の堆積量を把握することができる。
このため、標尺7の高さ(目盛7aの数と目盛の値)は事前に把握しておく必要がある。また、複数の標尺7から所定範囲内の堆積量を把握するためには、標尺7の位置(座標や地図上の位置)も事前に把握しておく必要がある。なお、標尺7の設置数は一つとすることもできるが、広範囲にわたって堆積物の堆積量を推定するためには、図9や図10に示すように、標尺7を多数とすることもできる。
本願発明を実施するため、標尺7として新たにポール等を設置することもできるし、既設の構造物等に目盛7aを設けることで標尺7とすることもできる。この標尺7は、画像等の中に撮像される必要があるので、あらかじめ撮像する場所(ポイントやコース)を想定し、その撮像場所から確認しやすい(見やすい)位置に標尺7を設置することが望ましい。この場合、想定した撮像場所から確認しやすい位置を、事前に推定することもできる。この推定を行うに当たっては、地図上で推定することもできるし、DEMやDSMといった数値標高モデルを用いたシミュレーションを行うこともできるし、実際に現地で実験することもできる。
以下、図9と図10を参照し、堆積量を推定する手順について具体的に説明する。まず、図10を撮像した画像から、火口1周辺のうちどの場所を撮影したものか確認する。ここで確認する方法は、前記した「数値標高モデルを利用する場合」と同様に行うことができる。ここで確認した場所内に設置された標尺7を、標尺7の設置位置(座標等)に基づいて抽出する。
図10を撮像した画像をみると、それぞれの標尺7の一部が火山灰3に隠されており、この隠された目盛7aによって火山灰3の堆積高さを推定することができる。当該範囲内に配置されたすべての標尺7に関して、その火山灰3の堆積高さ(隠された目盛7a)を把握すれば、これら堆積高さと、標尺7の設置位置の情報(座標等)に基づいて、該範囲内に堆積した堆積量を求めることができる。
2.堆積量推定プログラム
この場合も、堆積量を推定するに当たって、堆積量推定プログラムを利用することもできる。この堆積量推定プログラムが具備する主な機能について説明する。標尺情報読み込み機能は、標尺7が設置された位置情報や目盛情報を記憶する記憶装置から、標尺7の設置位置情報や目盛情報を読み込む機能である。表示機能は、標尺7の設置位置情報を基に平面的な配置図を作成し、表示装置(モニタなど)に表示させる機能である。この表示機能は、前記した断面図や等値線図6を表示させる機能を持たせることもできるし、堆積量推定機能で推定した堆積量を表示させる機能を持たせることもできる。
範囲指定機能は、画像等で表示される範囲であって堆積範囲に該当する領域内にある、1又は2以上の標尺7を指定する機能である。例えば、表示装置で表示された平面図に所定範囲をマウス等で囲み、その範囲内にある標尺7を指定するなど、従来から行われている手法を採用することができる。堆積量推定機能は、標尺7ごとに堆積高さ(隠された目盛7a)を取得し(入力し)、さらに標尺情報読み込み機能で取得した標尺7の設置位置情報や目盛情報に基づいて、堆積物の堆積量を算出する機能である。
そのほか、算出された堆積量やこれに使った条件値を保存する機能や、断面図や等値線図6を出力する機能、等値線図6を作成する機能、なども堆積量推定プログラムに具備させることができる。
(他の実施例)
上記では、堆積物を火山灰3とした場合について説明したが、積雪の場合も同様に実施することができる。また、局所的に堆積する堆積物、例えば土石のような堆積物でも同様に堆積量を推定することができる。土石は、地震や豪雨などによって地すべりや斜面崩壊を生じ、これに伴い地山の一部が崩れることで発生する。
図6(a)に示すように、河川の一部に土石が堆積すると、いわゆる天然ダム(図6(b))が構築され、河道閉塞を引き起こす。この場合も、天然ダムDが構築された状態の画像等と、天然ダム構築前の数値標高モデルがあれば、前記したように土石(堆積物)の堆積高さ及び堆積量を推定することができる。これによって、図6(b)に示すように、天然ダムが背後に抱えるであろう湛水量や湛水範囲を、予測することが可能となり、ひいては適確な対策を計画・実施することができる。
本願発明の堆積量推定方法、堆積量推定図、及び堆積量推定プログラムは、火山灰、雪、土石といった堆積物に限らず、洪水時における平地の浸水状況を推定する場合などにも応用することができる。本願発明は、災害に対して迅速な対策を可能にするものであり、集落や道路などの機能を速やかに回復させ、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明である。
1 火口
2 沢部
2a (沢部の)支流
2b (沢部の)支流
2c (沢部の)支流
3 火山灰
4 建物
5 樹木
6 等値線図
6a (等値線図の)等値線
7 標尺
7a (標尺の)目盛
D 天然ダム
L 河川
P 航空機
S 衛星

Claims (7)

  1. 地表面上に堆積した堆積物の堆積量を、推定する方法であって、
    前記堆積物が堆積した状態を含む画像又は映像を撮像し、
    前記画像又は映像を目視することで、数値標高モデルのうち前記画像又は映像の範囲を人が抽出し、
    堆積物が堆積する前の数値標高モデルのうち前記画像又は映像の範囲内から、周囲との比高差が判別可能な特徴地形又は特徴地物を、人が抽出し、
    前記数値標高モデルに基づいて、前記特徴地形又は特徴地物の周囲との比高差を、人がコンピュータを操作して算出し、
    前記画像又は映像内に表示された前記特徴地形又は特徴地物における堆積物の堆積状態と、前記算出された前記特徴地形又は特徴地物の比高差と、に基づいて堆積物の堆積高さを人が推定し、さらにこの堆積高さに基づいて堆積量を人が推定する、ことを特徴とする堆積量推定方法。
  2. 請求項1記載の堆積量推定方法において、
    特徴地形が周辺地形よりも低地である凹部である、ことを特徴とする堆積量推定方法。
  3. 地表面上に堆積した堆積物の堆積量を、推定する方法であって、
    前記堆積物が堆積する前に、高さを把握できる目盛を具備する標尺を設置するとともに、この標尺の設置位置を取得し、
    前記堆積物が堆積した状態を含む画像又は映像を撮像し、
    前記画像又は映像を目視することで、数値標高モデルのうち前記画像又は映像の範囲を人が抽出し、
    設置された前記標尺のうち、前記画像又は映像の範囲内に設置された標尺を人が指定し
    前記画像又は映像内に表示された前記標尺における堆積物の堆積状態と、標尺が具備する前記目盛及び標尺の設置位置と、に基づいて堆積物の堆積高さを人が推定し、さらにこの堆積高さに基づいて堆積量を人が推定する、ことを特徴とする堆積量推定方法。
  4. 請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の堆積量推定方法において、
    前記画像又は映像と、数値標高モデルに基づいて作成した平面図又は立体図と、を目視することで、数値標高モデルのうち前記画像又は映像の範囲を人が抽出する、ことを特徴とする堆積量推定方法。
  5. 請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の堆積量推定方法において、
    2箇所以上で堆積物の堆積高さを人が推定し、これら2以上の堆積高さに基づいて、周辺の堆積物の堆積量を人が推定する、ことを特徴とする堆積量推定方法。
  6. 地表面上に堆積した堆積物の堆積量を、推定するプログラムであって、
    堆積物が堆積する前の数値標高モデルを、読み込む機能と、
    前記数値標高モデルを、表示する機能と、
    前記堆積物が堆積した状態を含む画像又は映像の範囲を指定するとともに、該範囲内であって、周囲との比高差が判別可能な、特徴地形又は特徴地物を、前記数値標高モデル内で指定する機能と、
    前記数値標高モデルに基づいて、前記特徴地形又は特徴地物の周囲との比高差を、算出する機能と、
    前記画像又は映像内に表示された前記特徴地形又は特徴地物における堆積物の堆積状態と、前記算出された前記特徴地形又は特徴地物の比高差と、に基づいて堆積物の堆積高さを推定し、且つこの堆積高さに基づいて堆積量を推定する機能と、をコンピュータに実行させることを特徴とする堆積量推定プログラム。
  7. 地表面上に堆積した堆積物の堆積量を、推定するプログラムであって、
    高さを把握できる目盛を具備する標尺が設置された位置情報と目盛情報を、読み込む機能と、
    前記堆積物が堆積した状態を含む画像又は映像の範囲を指定するとともに、該範囲内の標尺を、指定する機能と、
    前記画像又は映像内に表示された前記標尺における堆積物の堆積状態と、標尺が具備する前記目盛及び標尺の設置位置と、に基づいて堆積物の堆積高さを推定し、且つこの堆積高さに基づいて堆積量を推定する機能と、をコンピュータに実行させることを特徴とする堆積量推定プログラム。
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