以下、本発明の好適実施形態を添付図面に基づき説明する。
図1は、本実施形態の構成を示す概略図である。図示されるように、内燃機関たるエンジン1は、シリンダブロック2に形成された燃焼室3の内部で燃料および空気の混合気を燃焼させ、燃焼室3内でピストン4を往復移動させることにより動力を発生する。本実施形態のエンジン1は自動車用多気筒エンジン(1気筒のみ図示)であり、火花点火式内燃機関、より具体的にはガソリンエンジンである。
エンジン1のシリンダヘッドには、吸気ポートを開閉する吸気弁Viと、排気ポートを開閉する排気弁Veとが気筒ごとに配設されている。各吸気弁Viおよび各排気弁Veは図示しないカムシャフトによって開閉させられる。また、シリンダヘッドの頂部には、燃焼室3内の混合気に点火するための点火プラグ7が気筒ごとに取り付けられている。
各気筒の吸気ポートは吸気マニホールドを介して吸気集合室であるサージタンク8に接続されている。サージタンク8の上流側には吸気集合通路をなす吸気管13が接続されており、吸気管13の上流端にはエアクリーナ9が設けられている。そして吸気管13には、上流側から順に、エンジンに流入する単位時間当たりの空気量すなわち吸入空気量Ga(g/s)を検出するためのエアフローメータ5と、電子制御式スロットルバルブ10とが設けられている。なお吸気ポート、吸気マニホールド、サージタンク8及び吸気管13により吸気通路が形成される。
吸気通路、特に吸気ポート内に燃料を噴射するインジェクタすなわち燃料噴射弁12が気筒ごとに配設される。インジェクタ12から噴射された燃料は吸入空気と混合されて混合気をなし、この混合気が吸気弁Viの開弁時に燃焼室3に吸入され、ピストン4で圧縮され、点火プラグ7で点火燃焼させられる。
一方、各気筒の排気ポートは、排気マニホールドを介して排気集合通路をなす排気管6に接続されている。これら排気ポート、排気マニホールド及び排気管6により排気通路が形成される。排気管6には、その上流側と下流側に、酸素吸蔵能を有する三元触媒からなる触媒、即ち上流触媒11及び下流触媒19が直列に設けられている。例えば、上流触媒11は排気マニホールドの直後に配置され、下流触媒19は車両の床下などに配置される。
上流触媒11の上流側及び下流側に、それぞれ、酸素濃度に基づいて排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサ、即ち触媒前センサ17及び触媒後センサ18が設けられている。図5に示すように、触媒前センサ17は広域空燃比センサからなり、比較的広範囲に亘る空燃比を連続的に検出可能で、その空燃比に比例した値の信号を出力する。他方、触媒後センサ18は酸素センサ(O2センサ)からなり、理論空燃比を境に出力値が急変する特性(Z特性)を持つ。
上述の点火プラグ7、スロットルバルブ10及びインジェクタ12等は、制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)20に電気的に接続されている。ECU20は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECU20には、図示されるように、前述のエアフローメータ5、触媒前センサ17、触媒後センサ18のほか、エンジン1のクランク角を検出するクランク角センサ14、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ15、その他の各種センサが図示されないA/D変換器等を介して電気的に接続されている。ECU20は、各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ7、インジェクタ12、スロットルバルブ10等を制御し、点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等を制御する。
上流触媒11及び下流触媒19は、これに流入する排気ガスの空燃比A/Fが理論空燃比(ストイキ、例えばA/Fs=14.6)のときにNOx ,HCおよびCOを同時に高効率で浄化する。よってこの特性に合わせて、ECU20は、エンジンの通常運転時、上流触媒11の上流側の排気ガスの空燃比がストイキに一致するよう、燃焼室3に供給される混合気の空燃比(具体的にはインジェクタ12からの燃料噴射量)を触媒前センサ17の出力に基づきフィードバック制御する。
ここで、異常診断の対象となる上流触媒11についてより詳細に説明する。なお下流触媒19も上流触媒11と同様に構成されている。図2に示すように、触媒11においては、図示しない担体基材の表面上にコート材31が被覆され、このコート材31に微粒子状の触媒成分32が多数分散配置された状態で担持され、触媒11内部で露出されている。触媒成分32は主にPt,Pd等の貴金属からなり、NOx ,HCおよびCOといった排ガス成分を反応させる際の活性点となる。他方、コート材31は、排気ガスと触媒成分32との界面における反応を促進させる助触媒の役割を担うと共に、雰囲気ガスの空燃比に応じて酸素を吸放出可能な酸素吸蔵成分を含む。酸素吸蔵成分は例えば二酸化セリウムCeO2やジルコニアからなる。なお、「吸蔵」と同義で「吸収」または「吸着」を用いることもある。
例えば、触媒内の雰囲気ガスが理論空燃比よりリーンであると、触媒成分32の周囲に存在する酸素吸蔵成分が雰囲気ガスから酸素を吸収し、この結果NOxが還元され、浄化される。他方、触媒内の雰囲気ガスが理論空燃比よりリッチであると、酸素吸蔵成分に吸蔵されていた酸素が放出され、この放出された酸素によりHCおよびCOが酸化され、浄化される。
この酸素吸放出作用により、通常のストイキ空燃比制御に際して実際の空燃比がストイキに対して多少ばらついたとしても、このばらつきを吸収することができる。
ところで、新品状態の触媒11では前述したように多数の触媒成分32が均等に分散配置されており、排気ガスと触媒成分32との接触確率が高い状態に維持されている。しかしながら、触媒11が劣化してくると、一部の触媒成分32に消失が見られるほか、触媒成分32同士が排気熱で焼き固まって焼結状態になるものがある(図の破線参照)。こうなると排気ガスと触媒成分32との接触確率が低下し、浄化率を落としめる原因となる。そしてこのほかに、触媒成分32の周囲に存在するコート材31の量、即ち酸素吸蔵成分の量が減少し、酸素吸蔵能自体が低下する。
このように、触媒11の劣化度と触媒11の酸素吸蔵能低下度との間には相関関係がある。そこで本実施形態では、特にエミッションへの影響が大きい上流触媒11の酸素吸蔵能を検出することにより、上流触媒11の劣化度を検出し、上流触媒11の異常を診断することとしている。ここで触媒11の酸素吸蔵能は、現状の触媒11が吸蔵または放出し得る酸素量である酸素吸蔵容量(OSC;O2 Storage Capacity、単位はg)の大きさによって表される。
[異常診断の基本方法]
本実施形態の異常診断は、前述のCmax法に基づき、以下の方法を基本とする。異常診断に際しては、ECU20によりアクティブ空燃比制御が実行される。すなわちECU20は、触媒上流側の空燃比、具体的には燃焼室3内の混合気の空燃比を、中心空燃比であるストイキA/Fsを境に、リッチおよびリーンに交互に制御する。これにより、触媒11に供給される排気ガスの空燃比も、リッチおよびリーンに交互に制御されることとなる。
また、アクティブ空燃比制御および診断は、所定の前提条件が満たされているときに限って実行される。この前提条件については後述する。
以下、図3及び図4を用いて、上流触媒11の酸素吸蔵容量の計測方法を説明する。
図3(A)において、破線は目標空燃比A/Ft、実線は触媒前センサ17の出力(但し触媒前空燃比A/Ffへの換算値)を示す。また図3(B)において、実線は触媒後センサ18の出力(但しその出力電圧Vr)を示す。
図示するように、時刻t1より前では、空燃比をリーンに切り替えるリーン制御が実行されている。このとき、目標空燃比A/Ftは所定のリーン空燃比A/Fl(例えば15.1)とされ、触媒11には、目標空燃比A/Ftと等しい空燃比のリーンガスが供給されている。このとき触媒11は酸素を吸蔵し続けているが、飽和状態即ち満杯まで酸素を吸蔵した時点でそれ以上酸素を吸蔵できなくなる。この結果、リーンガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後センサ18の出力がリーン側に変化し、出力電圧Vrが所定のリーン判定値VL(例えば0.2V)に達した時点t1で、目標空燃比A/Ftが所定のリッチ空燃比A/Fr(例えば14.1)に切り替えられる。これにより空燃比制御はリーン制御からリッチ制御に切り替えられ、目標空燃比A/Ftと等しい空燃比のリッチガスが供給されるようになる。
リッチガスが供給されると、触媒11は吸蔵酸素を放出し続ける。やがて触媒11から吸蔵酸素が放出され尽くすとその時点で触媒11は酸素を放出できなくなり、リッチガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後センサ18の出力がリッチ側に変化し、出力電圧Vrが所定のリッチ判定値VR(例えば0.6V)に達した時点t2で、目標空燃比A/Ftがリーン空燃比A/Flに切り替えられる。これにより空燃比制御はリッチ制御からリーン制御に切り替えられ、目標空燃比A/Ftと等しい空燃比のリーンガスが供給されるようになる。
再び、触媒11が満杯まで酸素を吸蔵し、触媒後センサ18の出力電圧Vrがリーン判定値VLに達すると、その時点t3で、目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Frに切り替えられ、リッチ制御が開始される。
こうして、触媒後センサ18の出力が反転する毎に、リーン制御とリッチ制御とが交互に繰り返し実行される。隣り合うリーン制御とリッチ制御の組をアクティブ空燃比制御の1周期とする。アクティブ空燃比制御は所定のN周期(Nは2以上の整数)実行される。
ここでリーン判定値VLは、リーン制御からリッチ制御への切替タイミングを規定する。このリーン判定値VLは、図5にも示すように、触媒後センサ出力のストイキ相当値Vstよりも小さい(リーン側の)値に予め定められている。
同様に、リッチ判定値VRは、リッチ制御からリーン制御への切替タイミングを規定する。このリッチ判定値VRは、図5にも示すように、触媒後センサ出力のストイキ相当値Vstよりも大きい(リッチ側の)値に予め定められている。
このアクティブ空燃比制御の実行中、次の方法で触媒11の酸素吸蔵容量OSCが計測される。
触媒11の有する酸素吸蔵容量が大きいほど、酸素を吸蔵或いは放出し続けることのできる時間が長くなる。つまり、触媒が劣化していない場合は触媒後センサ出力Vrの反転周期(例えばt1からt2までの時間)が長くなり、触媒の劣化が進むほどその反転周期は短くなる。
そこで、このことを利用して酸素吸蔵容量OSCが次のように計測される。図4に示すように、時刻t1で目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Frに切り替えられた直後、僅かに遅れて実際値としての触媒前空燃比A/Ffがリッチ空燃比A/Frに切り替わる。そして触媒前空燃比A/FfがストイキA/Fsに達した時点t11から、次に触媒後センサ出力Vrが反転する時点t2まで、次式(1)により、所定の演算周期毎の酸素吸蔵容量dOSCが逐次的に算出され、且つこの酸素吸蔵容量dOSCが時刻t11から時刻t2まで逐次的に積算される。こうして、リッチ制御時における最終積算値としての酸素吸蔵容量OSC、すなわち図4にOSCbで示す放出酸素量が計測される。
Qは燃料噴射量であり、空燃比差ΔA/Fに燃料噴射量Qを乗じるとストイキに対し不足又は過剰分の空気量を算出できる。σは空気に含まれる酸素割合(約0.23)を表す定数である。
リーン制御時にも同様に酸素吸蔵容量、すなわち図4にOSCaで示す吸蔵酸素量が計測される。そしてリッチ制御とリーン制御が交互に行われる度に、放出酸素量と吸蔵酸素量が交互に計測される。
こうして複数ずつの放出酸素量と吸蔵酸素量との計測値が得られたならば、次の方法により触媒の正異常判定が行われる。
まずECU20は、これら放出酸素量と吸蔵酸素量との計測値の平均値OSCavを算出する。そしてこの平均値OSCavを所定の異常判定値αと比較する。ECU20は、平均値OSCavが異常判定値αより大きいときには触媒11を正常と判定し、平均値OSCavが異常判定値α以下のときには触媒11を異常と判定する。なお触媒を異常と判定した場合、その事実をユーザに知らせるため、チェックランプ等の警告装置(図示せず)を起動させるのが好ましい。
[本実施形態の異常診断方法]
次に、本実施形態の異常診断方法を説明する。なお「酸素吸蔵容量OSC」および「酸素量」とは、「吸蔵酸素量OSCa」と「放出酸素量OSCb」を包括する用語である。
前述したように、酸素吸蔵容量OSCの計測に際しては、実際には吸放出されていない酸素量が併せて計測されてしまうという計測誤差の問題がある。特に、従来のCmax法だと、異常触媒の場合に、正常触媒の場合に比べ、触媒後センサ出力反転直前における誤差割合が大きくなり、計測値が真の値より大きくなる傾向が強まる。こうなると、実際には異常な触媒を正常と誤診断する可能性がある。
この点を図6および図7を用いて詳しく説明する。図6は正常触媒の場合、図7は異常触媒の場合である。両図は、リーン制御からリッチ制御に切り替えたときの試験結果を示している。但し、触媒後センサ出力Vrが反転しても(すなわちリッチ判定値VRに達しても)リーン制御への切り替えは行っていない。
両図において、(A)には目標空燃比A/Ftと、触媒前センサ17によって検出された触媒前空燃比A/Ff(線a)と、触媒後空燃比A/Fr(線b)とを示す。ここでは触媒前センサ17と同様の空燃比センサを触媒下流側に試験用に設置し、この試験用空燃比センサにより検出された空燃比を触媒後空燃比A/Frとしている。
(B)には触媒後センサ出力Vrを示し、(C)には放出酸素量OSCbの積算値を示す。触媒後センサ出力Vrは0〜1(V)の範囲内で変化し得る。触媒後センサ出力Vrのリッチ判定値VRは0.6(V)である。
まず図6の正常触媒の場合を説明する。触媒前空燃比A/Ffが低下してストイキ(=14.6)に到達した時点t1から、触媒後センサ出力Vrがリッチ側に移動してリッチ判定値VRに到達する時点t3まで、放出酸素量OSCbが積算される。この放出酸素量OSCbの時刻t3での最終積算値は、(A)に示す領域cの面積で表すことができる。この領域cは、時刻t1から時刻t3までの、ストイキ(14.6)と触媒前空燃比A/Ffとで挟まれた領域である。
一方、この期間t1〜t3内において、触媒後空燃比A/Frはストイキより若干リッチとなっている。ストイキと触媒後空燃比A/Frとで挟まれた領域dの面積が、触媒で実際に処理しきれなかったリッチガスの部分、言い換えれば触媒から放出できなかった酸素の量(便宜上OSCeとする)を表す。この領域dの面積が、時刻t3における全放出酸素量OSCbのうちの誤差分に相当する。
領域cの面積(OSCb)から、領域dの面積(OSCe)を差し引いて得られた値が、実際に触媒から放出された酸素量を表すことになる。このように、計測された放出酸素量OSCbには、実際には放出されていない酸素量OSCeが含まれている。
なお図1に示した本実施形態の装置構成では、触媒後空燃比A/Frの絶対値まで検出できる空燃比センサがないので、誤差分自体を単独で計測することができない。便宜上、ストイキと触媒前空燃比A/Ffとで挟まれた領域cを放出酸素量OSCbとして計測しているのである。
ところで、触媒後空燃比A/Frと触媒後センサ出力Vrに着目すると、時刻t1と時刻t3の間の時刻t2において、触媒後空燃比A/Frがリッチ側に低下し始め、触媒後センサ出力Vrのリッチ側への上昇速度ないし変化率が増大し始めている。これは、時刻t2で触媒の酸素放出が実質的に終了し、その後は触媒に残存している酸素が比較的ゆっくりと放出されていることを意味すると考えられる。或いは、時刻t2で触媒のメインの酸素放出が終了し、その後は副次的な残存酸素の放出が行われていることを意味すると考えられる。
もっとも、時刻t2から時刻t3までの期間でも、触媒後空燃比A/Frと触媒前空燃比A/Ffとの間には差があり、実際に酸素が放出され、リッチガスが処理されている。よってこの期間t2〜t3で計測された放出酸素量OSCbのうち、誤差分が占める割合は比較的少ないものと考えられる。そして正常触媒の場合、全期間t1〜t3で計測される全放出酸素量の値が大きいことから、この全放出酸素量のうち、期間t2〜t3内の誤差分が占める割合は比較的少ないと考えられる。
(C)に、誤差分に相当する酸素量OSCeを概略的に示す。時刻t3における全放出酸素量OSCbのうち、誤差分に相当する酸素量OSCeの割合は比較的少ない。
これとは対照的に、図7に示す異常触媒の場合だと、時刻t2から時刻t3までの間の期間において、触媒後空燃比A/Frと触媒前空燃比A/Ffとの間には差が殆ど無い。これは、触媒が実質的に酸素を放出していないことを意味する。しかしながら、この期間t2〜t3でも、ストイキと触媒前空燃比A/Ffとの差が積算され、あたかも触媒が酸素を放出しているかのように放出酸素量OSCbが計測されている。
よってこの期間t2〜t3で計測された放出酸素量OSCbのうち、誤差分が占める割合は非常に多いと考えられる。そして異常触媒の場合、全期間t1〜t3で計測される全放出酸素量の値が比較的小さいことから、この全放出酸素量のうち、期間t2〜t3内の誤差分が占める割合も多いものと考えられる。
(C)に、誤差分に相当する酸素量OSCeを概略的に示す。時刻t3における全放出酸素量OSCbのうち、誤差分に相当する酸素量OSCeの割合は多い。
このように、基本方法だと、異常触媒の場合に、正常触媒の場合に比べ、触媒後センサ出力反転直前における誤差割合が大きくなり、計測値の真の値に対する増加割合も大きくなる。こうなると、実際には異常な触媒を正常と誤診断する可能性がある。
また、正常触媒と異常触媒の間での酸素量計測値の差を拡大することができず、特にこれらの差が元々小さい触媒の場合では、十分な診断精度を確保できない虞がある。近年では、触媒の貴金属量を低減する傾向にあり、こうした触媒では、正異常触媒間での吸放出可能な酸素量の差が元々小さい。よって誤差割合が大きいと、正異常触媒間での微妙な酸素量の差を見分けることができず、十分な診断精度を確保できない虞がある。
当然ながら、正常と異常の境目(クライテリア)に対してやや正常側にある劣化の進んだ正常触媒と、やや異常側にある異常触媒との間でも、吸放出可能な酸素量の差が小さい。よって誤差割合が大きいとこれらの微妙な酸素量の差を見分けることができず、十分な診断精度を確保できない虞がある。
ところで、この問題の原因の一つに、触媒後センサ18の応答性が比較的良くないことが挙げられる。
図8に示すように、触媒後センサ18は、排気管6内に配置されるコップ形の検出素子31を有し、この検出素子31が孔付カバー32で覆われる構造となっている。検出素子31の図示しない内表面あるいは内側電極は大気(空気)に露呈され、検出素子31の外表面あるいは外側電極はカバー32内に露呈されている。カバー32外の排気ガスは、カバー32の孔33を通じてカバー32内に浸入する。検出素子31の内外表面間の酸素分圧の差、言い換えれば、検出素子31の内表面の雰囲気ガスである大気と、検出素子31の外表面の雰囲気ガスである排気ガスとの酸素分圧の差に応じて、起電力が発生する。この起電力に基づいて排気ガスの空燃比が検出される。排気ガスの酸素濃度が少ないほど、すなわち排気ガスの空燃比がリッチであるほど、起電力が大きくなる。
このように触媒後センサ18は、検出素子31の外側雰囲気ガスの空燃比に応じて起電力を発生し、どちらかといえば受動的に雰囲気ガスの空燃比に対応した出力を発生するものである。よって仮にカバー32の外側雰囲気ガスがリッチガスに変化したとしても、このリッチガスがカバー32内に浸入し、カバー32内の既存ガスと交換され、触媒後センサ18がカバー内リッチガスに対応した起電力を発生するまでに時間的な遅れが存在する。この遅れが応答遅れであり、この応答遅れは、広域空燃比センサからなる触媒前センサ17の応答遅れよりも大きい。触媒前センサ17が所定電圧を印加されてむしろ積極的に雰囲気ガスの空燃比に対応した出力を発生し得るからである。
また、上記問題の原因の一つに、触媒後センサ18がヒステリシス特性を有することも挙げられる。
図5に示すように、触媒後センサ18は、定性的には実線で示すような単一特性を有するが、実際上あるいは動的には一点鎖線で示すようなヒステリシス特性を有し、出力がリーン側に変化するときとリッチ側に変化するときとでストイキ付近の過渡特性が異なる。例えばリーン側に変化するときには、実線で示す単一特性よりも遅れてリーン側に変化し、逆も同様である。このヒステリシス特性によっても触媒後センサ出力Vrの応答遅れが発生し、これに起因して計測誤差が生じる。
図6および図7の例において、触媒後センサ出力Vrの線図が触媒後空燃比A/Frの線図(線b)と一致しないのも、これらの理由による。
図7の例において、仮にリッチガスが触媒から顕著に漏れ出した時刻t2で、瞬時に触媒後センサ出力Vrがリッチ判定値VRに達すれば、応答遅れによる計測誤差は大幅に抑制される。しかしながら実際にはそうならないために応答遅れによる計測誤差が顕著となる。
なお図6および図7の例はリッチ制御の場合であるが、リーン制御の場合にも同様の問題がある。
一方、上述の基本方法には、触媒を通過するガスの流量が多いほど、正異常触媒間の計測酸素量の差が縮小し、その差を見分けることが困難になるという問題もある。
図9は、リッチ制御からリーン制御に切り替えたときの試験結果を示し、(A)には触媒前センサ17によって検出された触媒前空燃比A/Ff、(B)には触媒後センサ出力Vr、(C)には吸蔵酸素量OSCaの積算値を示す。切り替えは時刻t1で行われている。
(B)および(C)における4本の線図は、それぞれ、触媒を通過するガス流量、すなわちその代用値である吸入空気量Gaを変化させた場合の各吸入空気量に対応したデータを示す。1から4に向かうにつれ吸入空気量Gaは多くなる。また、図9に対応して、吸入空気量Gaと触媒後センサ18の応答時間との関係を図10に示し、吸入空気量Gaと吸蔵酸素量OSCaの最終積算値との関係を図11に示す。
これら図から理解されるように、吸入空気量Gaが多くなるにつれ触媒後センサ18の応答時間は短くなり、その応答性は良くなる。よってより早いタイミングで触媒後センサ出力Vrがリーン判定値VLに達し、リーンに反転する。
すると吸蔵酸素量OSCaの積算時間が短くなるのでその最終積算値は減少するとも考えられるが、実際にはそうならない。なぜなら、上記(1)式において、燃料噴射量Qが吸入空気量Gaに比例するので、吸入空気量Gaが多くなると燃料噴射量Qも多くなり、演算周期毎の酸素吸蔵容量dOSCが増大するからである。よって積算時間短縮と演算周期毎の酸素吸蔵容量dOSCの増大とのバランスにおいて、後者が前者を上回り、その結果、吸入空気量Gaが多くなると吸蔵酸素量OSCaの最終積算値は増加する。
このように吸蔵酸素量OSCaの最終積算値が増加すると、その最終積算値における応答遅れ誤差分も増加する。応答遅れが生じている間にも比較的大きな演算周期毎の酸素吸蔵容量dOSC(吸蔵酸素量OSCa)が時々刻々と積算されてしまうからである。この結果、吸入空気量Gaが多くなるほど正異常触媒間の計測酸素量の差が縮小する。
図12には、吸入空気量Gaと、酸素吸蔵容量OSCの計測値との関係を表す試験結果を示す。図中、計測値とは、触媒後センサ18を用い上述の基本方法に従って計測された酸素吸蔵容量OSCの値を意味する。また実際値とは、酸素センサからなる触媒後センサ18の代わりに試験用空燃比センサを用い、上述の基本方法に従って計測された酸素吸蔵容量OSCの値を意味する。
試験用空燃比センサの方が触媒後センサ18よりも応答性が良く、試験用空燃比センサを用いて計測された値はほぼ正確な酸素吸蔵容量OSCの値を示すと考えられる。よって実際値は真値にほぼ近い値であると言える。もっとも、吸入空気量Gaの変化に応じて温度条件等の他の条件が変化するので、図示される実際値は吸入空気量Gaの変化に応じて一定とならず若干変化している。
正常触媒および異常触媒ともに、計測値は実際値を上回り、吸入空気量Gaの増加につれ増加する傾向にある。しかし、異常触媒の方が正常触媒よりも、吸入空気量Gaの増加に対する計測値の増加傾向が強く(つまり傾き大)、吸入空気量Gaが多いほど計測値が実際値から離れる傾向にある。すなわち、既に酸素吸蔵容量が減少した異常触媒では、触媒後センサ18の低応答性に起因する計測誤差の割合が、吸入空気量Gaが多くなるにつれ増大する傾向にある。
このため、正異常触媒間の計測値の差aが、吸入空気量Gaが多くなるほど縮小し、吸入空気量Gaが多い高空気量領域では両者の差を見分けるのが困難になっている。
そこで以上の問題に鑑み、本実施形態では、触媒後センサ18の応答性に起因する誤差割合を縮小するため、次のようにアクティブ空燃比制御の制御方法を変更する。まず概略的に述べると、空燃比(具体的には目標空燃比A/Ft)をリーン空燃比およびリッチ空燃比の一方から他方に切り替えるとき、その途中で空燃比をストイキに一時的に切り替える。そしてストイキに切り替えている最中に触媒後センサ出力Vrがストイキを示すような所定値に達した時、空燃比を他方に切り替える。
このように中間にストイキ制御を介在させることによって、触媒後センサ18の検出素子31の外側雰囲気ガスをリーンガスまたはリッチガスからストイキガスに交換し、触媒後センサ出力Vrをストイキガスに対応する出力に一旦変化させることができる。そしてこの出力変化を終えた時点、すなわち触媒後センサ出力Vrがストイキを示すような所定値に達した時点で、空燃比を他方に切り替えることにより、触媒後センサ出力Vrを、他方のリッチガスまたはリーンガスに対応した出力に即座に変化させることができる。
よって触媒後センサ18の応答遅れの影響を格段に少なくし、その応答性に起因する誤差割合を縮小し、酸素吸蔵容量計測値を真値により近づけることができる。結果的に、計測誤差を縮小して診断精度を向上し、誤診断を抑制することができる。そして高空気量領域において正異常触媒間の計測値の差を拡大し、元々の両者の差が微妙であってもその差を正確に見分けることが可能となる。
仮に基本方法のように、ストイキを介在させること無く空燃比を一方から他方に一気に切り替えてしまうと、前述したように、特に低貴金属触媒やクライテリア付近の触媒のように酸素吸蔵容量が少ない場合には、酸素吸放出が早期に終了しても触媒後センサ出力Vrの反転が大きく遅れてしまい、誤差割合が大きくなってしまう。
しかし、本実施形態の方法では、ストイキを介在させることにより触媒後センサ出力Vrを2ステップで変化させ、一旦ストイキを示すような所定値まで変化させた上で、そこからリーンまたはリッチ判定値まで変化させる。故に触媒後センサ18の応答遅れの影響を格段に少なくすることが可能である。
以下、本実施形態のアクティブ空燃比制御方法を図13を参照して詳細に説明する。
図中、(A)には酸素吸蔵容量OSC(吸蔵酸素量OSCaまたは放出酸素量OSCb)の積算値を示し、(B)には触媒前センサ17によって検出された触媒前空燃比A/Ffと目標空燃比A/Ftとを示す。(C)には試験用空燃比センサによって検出された触媒後空燃比A/Frを便宜上示し、(D)には触媒後センサ出力Vrを示す。
例えば、時刻t4において触媒後センサ出力Vrがリーン判定値VLに達したため、これと同時に、目標空燃比A/Ftが、リーン空燃比からストイキに切り替えられる。これは基本方法において、目標空燃比A/Ftをリーン空燃比からリッチ空燃比に一気に切り替えるのとは対照的である。
目標空燃比A/Ftがストイキに切り替えられ、ストイキ制御が実行されている最中、触媒後センサ出力Vrは始めにリーン側(値の小さい方)に変化し、その後リッチ側(値の大きい方)に変化する。このリッチ側への変化中、触媒後センサ出力Vrが所定のリーンストイキ判定値VBに達した時刻t5で、目標空燃比A/Ftがストイキからリッチ空燃比に切り替えられ、空燃比制御がストイキ制御からリッチ制御に切り替えられる。
リーンストイキ判定値VBは、ストイキを示すような触媒後センサ出力Vrの値であり、リーン判定値VL付近の値である。特に本実施形態において、リーンストイキ判定値VBは、リーン判定値VLよりも僅かにリーン側の値に設定されている(例えば0.18V)。なおリーン判定値VLは、リーン制御中に触媒後空燃比がストイキよりも完全にリーンになったことを示す値である。
図5に示すように、触媒後センサ出力Vrは、ストイキに対しリーン側からリッチ側に変化するとき、実線で示す単一特性線を横切って一点鎖線で示すヒステリシス特性線bに沿って移動する。このとき、リーンストイキ判定値VBは好ましくは、ヒステリシス特性線b上におけるストイキに対応する値となる。
但し、リーン判定値VLとリーンストイキ判定値VBは、試験結果やセンサ特性等を考慮して予め設定される適合値である。触媒後センサ18の出力特性およびヒステリシス特性はセンサに応じて異なり、図5に示した例のようにならない場合もある。よって状況に応じて、代替的に、リーンストイキ判定値VBは、リーン判定値VLに等しい値としてもよいし、リーン判定値VLよりリッチ側で且つ単一特性線(実線)上におけるストイキ相当値Vstよりリーン側の値としてもよい。
触媒後センサ出力Vrがリーンストイキ判定値VBに達したということは、触媒後センサ18のカバー32の外側にあるストイキガスがカバー32内に浸入し、カバー32内の既存ガスと交換され、カバー内ストイキガスに対応した起電力を触媒後センサ18が発生したことを意味する。本実施形態では、一旦この状態を確保した上で次のステップであるリッチへの切り替えを行う。
なお図13に示すように、触媒後空燃比A/Frは時刻t5においてストイキに達している。このことからも、触媒後センサ出力Vrがリーンストイキ判定値VBに達したタイミングが、触媒後センサ18がストイキを示すような出力を発生するタイミングであることが分かる。
次に、リッチ空燃比に切り替えられた時刻t5の後には、基本方法と同様の方法で、酸素吸蔵容量OSC(この場合は放出酸素量OSCb)が積算計測される。そして、触媒後センサ出力Vrがリッチ側に変化してリッチ判定値VRに達した時刻t6に、酸素吸蔵容量OSCの積算が終了され、目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比からストイキに切り替えられる。これによりアクティブ空燃比制御の一方の半周期(t4〜t6)、すなわち、リーン空燃比からストイキを経てリッチ空燃比に切り替え、酸素吸蔵容量を計測するという一連のプロセスが終了する。
アクティブ空燃比制御の他方の半周期、すなわち、リッチ空燃比からストイキを経てリーン空燃比に切り替え、酸素吸蔵容量を計測するという一連のプロセスも、同様の方法で行われる。これは図中のt2〜t4の期間に該当する。これについて以下に説明する。
時刻t2において触媒後センサ出力Vrがリッチ判定値VRに達したと同時に、目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比からストイキに切り替えられ、ストイキ制御が実行される。
この間、触媒後センサ出力Vrは始めにリッチ側に変化し、その後リーン側に変化する。リーン側への変化中、触媒後センサ出力Vrが所定のリッチストイキ判定値VAに達した時刻t3で、目標空燃比A/Ftがストイキからリーン空燃比に切り替えられ、空燃比制御がストイキ制御からリーン制御に切り替えられる。
リッチストイキ判定値VAは、ストイキを示すような触媒後センサ出力Vrの値であり、リッチ判定値VR付近の値である。特に本実施形態において、リッチストイキ判定値VAは、リッチ判定値VRよりも僅かにリッチ側の値に設定されている(例えば0.66V)。なおリッチ判定値VRは、リッチ制御中に触媒後空燃比がストイキよりも完全にリッチになったことを示す値である。
図5に示すように、触媒後センサ出力Vrは、ストイキに対しリッチ側からリーン側に変化するとき、実線で示す単一特性線を横切って一点鎖線で示すヒステリシス特性線aに沿って移動する。このとき、リッチストイキ判定値VAは好ましくは、ヒステリシス特性線a上におけるストイキに対応する値となる。
但し、リッチ判定値VRとリッチストイキ判定値VAは、試験結果やセンサ特性等を考慮して予め設定される適合値である。触媒後センサ18の出力特性およびヒステリシス特性はセンサに応じて異なり、図5に示した例のようにならない場合もある。よって状況に応じて、代替的に、リッチストイキ判定値VAは、リッチ判定値VRに等しい値としてもよいし、リッチ判定値VRよりリーン側で且つ単一特性線(実線)上におけるストイキ相当値Vstよりリッチ側の値としてもよい。
触媒後センサ出力Vrがリッチストイキ判定値VAに達したということは、触媒後センサ18のカバー32の外側にあるストイキガスがカバー32内に浸入し、カバー32内の既存ガスと交換され、カバー内ストイキガスに対応した起電力を触媒後センサ18が発生したことを意味する。本実施形態では、一旦この状態を確保した上で次のステップであるリーンへの切り替えを行う。
なお図13に示すように、触媒後空燃比A/Frは時刻t3において実質的にストイキに達したと考えることができる。このことからも、触媒後センサ出力Vrがリッチストイキ判定値VAに達したタイミングが、触媒後センサ18がストイキを示すような出力を発生するタイミングであることが分かる。
次に、リーン空燃比に切り替えられた時刻t3の後には、基本方法と同様の方法で、酸素吸蔵容量OSC(この場合は吸蔵酸素量OSCa)が積算計測される。そして、触媒後センサ出力Vrがリーン側に変化してリーン判定値VLに達した時刻t4に、酸素吸蔵容量OSCの積算が終了され、目標空燃比A/Ftがリーン空燃比からストイキに切り替えられる。この後は前述した通りである。
図14および図15は、それぞれ、基本方法と本実施形態の場合の同一触媒に対する計測値と実際値を示す。
図14に示す基本方法の場合、リーン制御期間t1〜t4のうち、触媒前空燃比A/Ffがストイキよりリーンとなっている期間t2〜t4=Δt1が酸素吸蔵容量OSCの積算期間である。この期間Δt1が酸素吸蔵容量の計測値を表す。
もっとも、時刻t3から、触媒後空燃比A/Frがストイキよりリーンとなっており、触媒からリーンガスが漏れ出している。従ってt2〜t3の期間Δt2が酸素吸蔵容量の実際値を表し、その後の期間は、触媒後センサ18の応答遅れに起因する計測誤差分を表していると考えられる。
図から分かるように、酸素吸蔵容量の計測値に対する実際値の割合は少なく、計測値に対する計測誤差分の割合は多い。
同様のことがリッチ制御期間t4〜t7についても言える。酸素吸蔵容量OSCの積算期間は、触媒前空燃比A/Ffがストイキよりリッチとなっているt5〜t7の期間Δt3であり、この期間Δt3は酸素吸蔵容量の計測値を表す。
一方、時刻t6から、触媒後空燃比A/Frがストイキよりリッチとなっており、触媒からリッチガスが漏れ出している。従ってt5〜t6の期間Δt4が酸素吸蔵容量の実際値を表し、その後の期間は、触媒後センサ18の応答遅れに起因する計測誤差分を表していると考えられる。
図から分かるように、酸素吸蔵容量の計測値に対する実際値の割合は少なく、計測値に対する計測誤差分の割合は多い。
これに対し、図15に示す本実施形態の場合だと、時刻t1で触媒後センサ出力Vrがリッチ判定値VRに達しても、その後、触媒後センサ出力Vrがリーン側に変化してリッチストイキ判定値VAに達する時刻t2までの間、ストイキ制御が実行され、触媒後センサ出力Vrがストイキを示すような値に変化あるいは復帰するまでの待ち時間が設定される。そしてその上で、時刻t2においてリーン制御が開始される。
リーン制御の開始から触媒前空燃比A/Ffがストイキよりリーンとなっているため、リーン制御期間t2〜t4=Δt1は酸素吸蔵容量OSCの積算期間を表し、且つ酸素吸蔵容量の計測値を表す。
一方、時刻t3から、触媒からのリーンガスの漏れ出しが開始していると考えられる。従ってt2〜t3の期間Δt2が酸素吸蔵容量の実際値を表し、その後の期間は、触媒後センサ18の応答遅れに起因する計測誤差分を表していると考えられる。
もっとも、リーン制御の開始時点t2において、触媒後センサ出力Vrは既にストイキを示すようなリッチストイキ判定値VAとなっている。このため、次の反転タイミングを定めるリーン判定値VLまで早く変化することができ、これにより計測誤差分を減少することができる。
結果的に、酸素吸蔵容量の計測値に対する実際値の割合を多くし、計測値に対する計測誤差分の割合を少なくすることができる。
同様に、時刻t4で触媒後センサ出力Vrがリーン判定値VLに達しても、その後、触媒後センサ出力Vrがリッチ側に変化してリーンストイキ判定値VBに達する時刻t5までの間、ストイキ制御が実行され、触媒後センサ出力Vrがストイキを示すような値に変化あるいは復帰するまでの待ち時間が設定される。そしてその上で、時刻t5においてリッチ制御が開始される。
リッチ制御の開始から触媒前空燃比A/Ffがストイキよりリッチとなっているため、リッチ制御期間t5〜t7=Δt3は酸素吸蔵容量OSCの積算期間を表し、且つ酸素吸蔵容量の計測値を表す。
一方、時刻t6から、触媒からのリッチガスの漏れ出しが開始していると考えられる。従ってt5〜t6の期間Δt4が酸素吸蔵容量の実際値を表し、その後の期間は、触媒後センサ18の応答遅れに起因する計測誤差分を表していると考えられる。
もっとも、リッチ制御の開始時点t5において、触媒後センサ出力Vrは既にストイキを示すようなリーンストイキ判定値VBとなっている。このため、次の反転タイミングを定めるリッチ判定値VRまで早く変化することができ、これにより計測誤差分を減少することができる。
結果的に、酸素吸蔵容量の計測値に対する実際値の割合を多くし、計測値に対する計測誤差分の割合を少なくすることができる。
[本実施形態の異常診断処理]
次に、ECU20が実行する本実施形態の異常診断処理を図16を参照して説明する。
ステップS101では、診断許可フラグがオンであるか否かが判断される。診断許可フラグとは、診断実行の前提条件が成立した場合にオンとなるフラグである。前提条件は次の各条件が成立したときに成立する。
(1)上流触媒11が活性化している。
(2)触媒前センサ17および触媒後センサ18が活性化している。
(3)エンジンが定常運転中である。
(4)現トリップ中で診断が未完了である。
条件(1)は、上流触媒11の触媒温度Tcが所定の活性温度域に入っている場合に成立する。触媒温度Tcは、エンジン運転状態に基づきECU20により推定されるが、温度センサで直接検出してもよい。
条件(2)は、ECU20によって推定される触媒前センサ17および触媒後センサ18の検出素子の温度が所定の活性温度域に入っている場合に成立する。
条件(3)は、クランク角センサ14の出力に基づいて計算されるエンジン回転数と、エアフローメータ5により検出される吸入空気量Gaの所定時間中の変動幅が所定値以内に収まっている場合に成立する。
条件(4)について、トリップとは、エンジンの1回の始動から停止までの期間をいう。本実施形態では1トリップ当たりに1回、診断を実行するようにしており、現トリップ中で未だ診断が1回も完了していない場合に(4)が成立する。
診断許可フラグがオンでない場合(オフの場合)、待機状態となる。他方、診断許可フラグがオンの場合には、ステップS102において、アクティブ空燃比制御の初回目標空燃比(A/Ft)の設定履歴が有るか否かが判断される。
設定履歴がない場合には、ステップS103〜S105を経てステップS106に進み、設定履歴がある場合には直接ステップS106に進む。
ステップS103では、触媒後センサ出力Vrがストイキ相当値Vst以上であるか否かが判断される。ここでストイキ相当値Vstとは、図5に示すように、実線で示す単一特性におけるストイキ相当の触媒後センサ出力Vrの値をいい、先のリッチストイキ判定値VAおよびリーンストイキ判定値VBとは異なる値である。
触媒後センサ出力Vrがストイキ相当値Vst以上である場合、すなわち現時点の触媒後センサ出力Vrが単一特性においてストイキからリッチ側の空燃比を示す場合、ステップS104において、初回の目標空燃比A/Ftがリーン空燃比に設定され、リーン制御が実行される。すなわち、現時点の触媒後センサ出力Vrに対し逆側の空燃比からアクティブ空燃比制御が開始される。
他方、触媒後センサ出力Vrがストイキ相当値Vst以上でない場合、すなわち現時点の触媒後センサ出力Vrが単一特性においてストイキよりリーン側の空燃比を示す場合、ステップS105において、初回の目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比に設定され、リッチ制御が実行される。
このようにステップS104またはS105で初回の目標空燃比A/Ftが設定されたら、以降、ステップS102において初回目標空燃比設定履歴有りとなるので、ステップS103〜S105はスキップされることとなる。
ステップS106では、現時点の目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比か否か、すなわちリッチ制御実行中であるか否かが判断される。目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比の場合、ステップS122に進み、目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比でない場合(リーン空燃比の場合)、ステップS107に進む。
ステップS107では、触媒後センサ出力Vrがリーン判定値VL以下になったか否か、すなわち触媒後センサ出力Vrがリーン側に反転したか否かが判断される。触媒後センサ出力Vrがリーン判定値VL以下になっていなければ待機状態となり、触媒後センサ出力Vrがリーン判定値VL以下になったならば、ステップS108で目標空燃比A/Ftがストイキに設定され、ストイキ制御が開始される。
この初回のストイキ制御開始前には、単にステップS104からのリーン制御が実行されているだけであり、酸素吸蔵容量OSCの計測は実行されない。所謂捨て山である。こうした空のリーン制御を実行し、触媒に完全に酸素を吸蔵させてからストイキ制御を開始することで、初期条件を一定とし、計測精度の向上が図れる。
ステップS108の後、ステップS109において、リーンストイキ判定値VBが図17に示すような所定のマップに従い、触媒後センサ18の検出素子温度Trに基づいて算出される。検出素子温度TrはECU20によって推定された値である。
すなわち、ここではリーンストイキ判定値VBを一定値とせず、触媒後センサ18の検出素子温度Trに応じて変更するようにしている。排気空燃比が一定であっても、触媒後センサ18の検出素子温度Trに応じて触媒後センサ出力Vrが若干変化するので、これに合わせて、リーンストイキ判定値VBも検出素子温度Trに応じて変更している。
触媒後センサ出力Vrは、検出素子温度Trが高いほど低下する傾向にある。よってこの特性に合わせてリーンストイキ判定値VBも、図17に示すように、検出素子温度Trが高いほど低下させるようにしている。こうした変更を行うことにより、検出素子温度Trの変化を考慮した最適なリーンストイキ判定値VBを設定することが可能である。
但し、この場合もリーンストイキ判定値VBはリーン判定値VLに常に近い値である。そしてリーンストイキ判定値VBが常にリーン判定値VLより僅かに小さい値となるよう、リーンストイキ判定値VBを設定することが可能である。
次に、ステップS110において、リッチ側に変化中の触媒後センサ出力Vrがリーンストイキ判定値VB以上に達したか否かが判断される。達してない場合にはステップS108に戻り、達した場合にはステップS111に進んで目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比に設定され、リッチ制御が開始される。
リッチ制御開始後、ステップS112において、触媒前センサ17によって検出される触媒前空燃比A/Ffがストイキ未満となっているか否かが判断される。なっていなければステップS111に戻って待機状態となり、なっていればステップS113に進んで酸素吸蔵容量OSC、ここでは放出酸素量OSCbが積算計測される。
次いで、ステップS114において、リッチ側に変化中の触媒後センサ出力Vrがリッチ判定値VR以上に達したか否かが判断される。達してない場合にはステップS111に戻り、達した場合にはステップS115に進んで放出酸素量OSCbの積算が終了される。
そして、ステップS116において、吸蔵酸素量OSCaと放出酸素量OSCbの両方が計測済みであるか否かが判断される。計測済みでなければステップS122に進み、計測済みであればステップS117に進む。
計測済みでない場合、ステップS122〜S131において、ステップS107〜S116とはリッチとリーンが逆の処理が行われる。
すなわち、ステップS122では、触媒後センサ出力Vrがリッチ判定値VR以上になったか否か、すなわち触媒後センサ出力Vrがリッチ側に反転したか否かが判断される。なっていなければ待機状態となり、なっていればステップS123で目標空燃比A/Ftがストイキに設定され、ストイキ制御が開始される。
この後ステップS124において、リッチストイキ判定値VAが図18に示すような所定のマップに従い、触媒後センサ18の検出素子温度Trに基づいて算出される。
すなわち、リッチストイキ判定値VAも一定値ではなく、触媒後センサ18の検出素子温度Trに応じて変更される。検出素子温度Trが高いほど触媒後センサ出力Vrが低下するという特性に合わせて、リッチストイキ判定値VAも、図18に示すように、検出素子温度Trが高いほど低下させられる。こうした変更を行うことにより、検出素子温度Trの変化を考慮した最適なリッチストイキ判定値VAを設定することが可能である。
リッチストイキ判定値VAはリッチ判定値VRに常に近い値である。そしてリッチストイキ判定値VAが常にリッチ判定値VRより僅かに大きい値となるよう、リッチストイキ判定値VAを設定することが可能である。
次に、ステップS125において、リーン側に変化中の触媒後センサ出力Vrがリッチストイキ判定値VA以下に達したか否かが判断される。達してない場合にはステップS123に戻り、達した場合にはステップS126に進んで目標空燃比A/Ftがリーン空燃比に設定され、リーン制御が開始される。
リーン制御開始後、ステップS127において、触媒前センサ17によって検出される触媒前空燃比A/Ffがストイキより大きくなっているか否かが判断される。なっていなければステップS126に戻って待機状態となり、なっていればステップS128に進んで酸素吸蔵容量OSC、ここでは吸蔵酸素量OSCaが積算計測される。
次いで、ステップS129において、リーン側に変化中の触媒後センサ出力Vrがリーン判定値VL以下に達したか否かが判断される。達してない場合にはステップS126に戻り、達した場合にはステップS130に進んで吸蔵酸素量OSCaの積算が終了される。
そして、ステップS131において、吸蔵酸素量OSCaと放出酸素量OSCbの両方が計測済みであるか否かが判断される。計測済みでなければステップS108に進み、計測済みであればステップS117に進む。
ステップS117では、計測済みの吸蔵酸素量OSCaと放出酸素量OSCbに基づき酸素吸蔵容量OSCの値が算出される。すなわち、吸蔵酸素量OSCaと放出酸素量OSCbの和を2で割って単純平均化し、酸素吸蔵容量OSCの値が算出される(OSC=(OSCaと+OSCb)/2)。
次いでステップS118では、算出された酸素吸蔵容量OSCの値が所定の異常判定値αと比較される。OSC>αならステップS120において上流触媒11は正常と判定され、ステップS121に進む。OSC≦αならステップS119において上流触媒11は異常と判定され、ステップS121に進む。
ステップS121では診断許可フラグがオフされ、これにより診断処理が終了される。
この診断処理を図13の例に当て嵌めて説明する。前提条件が成立して診断許可フラグがオンになった時点で、触媒後センサ出力Vrがストイキ相当値Vst未満となっていたので、目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比に設定され(ステップS105)、リッチ制御が実行される。図13の時刻t1はこのリッチ制御の途中段階を示している。この初回の制御がリッチ制御なので、図16においてはステップS106からステップS122に移行する。
やがて時刻t2にて触媒後センサ出力Vrがリッチ判定値VRに達すると、目標空燃比A/Ftがストイキに設定され(ステップS123)、ストイキ制御が実行される。
その後、時刻t3にて触媒後センサ出力Vrがリーン側に変化してリッチストイキ判定値VAに達すると、目標空燃比A/Ftがリーン空燃比に設定され(ステップS126)、リーン制御が実行される。このリーン制御中、触媒前空燃比A/Ffがストイキより大きくなっている期間において、吸蔵酸素量OSCaが積算計測される(ステップS128)。
やがて時刻t4にて触媒後センサ出力Vrがリーン判定値VLに達すると、吸蔵酸素量OSCaの積算が終了される(ステップS130)。この時点では未だ吸蔵酸素量OSCaの計測しか終了していないので、目標空燃比A/Ftがストイキに設定され(ステップS108)、ストイキ制御が実行される。
その後、時刻t5にて触媒後センサ出力Vrがリッチ側に変化してリーンストイキ判定値VBに達すると、目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比に設定され(ステップS111)、リッチ制御が実行される。このリッチ制御中、触媒前空燃比A/Ffがストイキより小さくなっている期間において、放出酸素量OSCbが積算計測される(ステップS113)。
やがて時刻t6にて触媒後センサ出力Vrがリッチ判定値VRに達すると、放出酸素量OSCbの積算が終了される(ステップS115)。この時点では、吸蔵酸素量OSCaと放出酸素量OSCbの両方が計測済みなので、これら両者の値が平均化され、酸素吸蔵容量OSCの値が算出される(ステップS117)。
そして酸素吸蔵容量OSCの値が異常判定値αと比較され(ステップS118)、この比較結果に応じて上流触媒11の正常または異常が判定される(ステップS119,S120)。
以上、本発明の実施形態について詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。例えば内燃機関の用途や形式等は任意であり、自動車用以外であってもよいし、直噴式等であってもよい。上記の説明ではリーン側とリッチ側若しくは吸蔵側と放出側の一方のみしか説明していない箇所があるが、この一方に対する説明によって他方も理解されることが当業者にとって明らかであろう。
図16に示した診断処理の例では、簡単化のため、吸蔵酸素量OSCaと放出酸素量OSCbを1回ずつ計測して診断を行った。しかしながら当然に、精度向上のため、リーン制御とリッチ制御を繰り返し実行し、吸蔵酸素量OSCaと放出酸素量OSCbを複数回ずつ計測してその平均値を算出し、当該平均値に基づいて診断を行ってもよい。この場合、各リーン制御と各リッチ制御の間にストイキ制御が介在されることとなる。
本発明には、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。