JP5779796B2 - 脳機能改善剤及び脳機能改善用飲食品 - Google Patents

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Description

本発明は、ヒトが安全かつ日常的に手軽に摂取することのできる、脳機能改善用の医薬品又は飲食品に関するものである。
高齢化社会の到来にともない、心身ともに健康でありたいという願望は、以前にもましてより高まりつつある。ヒトは歳を重ねるにつれ、学習能力や記憶力が徐々に低下してゆく。この自然の摂理とは別に、アルツハイマー病やパーキンソン病などの痴呆症に罹患したときには、ヒトの尊厳までも脅かされる深刻な事態を招く場合があることから、痴呆症の予防と治療の研究が、近年、精力的に進められている。例えば、アルツハイマー病の治療剤として、ウシホスファチジルコリンやウシホスファチジルセリンを有効成分とする脳機能改善剤(特許文献1)、デフェロキサミンの塩を有効成分とする治療剤(特許文献2)、ドコサヘキサエン酸誘導体のエステル、アミド、トリグリセリド、リン脂質誘導体などを有効成分とする脳機能改善組成物(特許文献3)などを例示できる。
しかしながら、上記薬剤は、その効果は別にして、それら薬剤の有効成分は食品素材として一般に流通しているものではなく、また、食経験が豊富なものでもないことから、ヒトが日常的に(継続的に)手軽に摂取できるものとは言い難い。
斯かる状況下において、ヒトの脳機能を効果的に改善する作用を有し、かつ、ヒトが安全かつ日常的に手軽に摂取することのできる脳機能改善用の医薬品や飲食品が当業界において強く求められていた。
一方、ルチン及びヘスペリジンは植物由来のフラボノイドであり、その生理機能もいくつか明らかにされている。そして、その水溶性を高めた糖転移ルチン及び/又は糖転移ヘスペリジンも開示されているが、これらの投与による作用として、学習能力や記憶力、あるいは、アルツハイマー病やパーキンソン病などの痴呆症との関連性について開示するものは見当たらない。
特開平07−017855号公報 特開昭58−012123号公報 特開平02−049723号公報
本発明は、加齢に伴う記憶・学習能力を効果的に改善するとともに、アルツハイマー病に代表される認知症などの脳神経疾患を効果的に改善する、ヒトが安全かつ日常的に手軽に摂取することのできる脳機能改善用の医薬品及び飲食品を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明者らは、身近な食品素材の中から加齢に伴って生ずる記憶・学習能力を効果的に改善することのできる成分について鋭意研究の結果、有効成分として、中国パセリ水抽出物と、糖転移ルチン及び/又は糖転移ヘスペリジンとを所定の割合で含んでなる脳機能改善剤又は脳機能改善用飲食品が上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)有効成分として、中国パセリ水抽出物を0.1乃至5質量%含有し、糖転移ルチン及び/又は糖転移ヘスペリジンを合計で0.1乃至10質量%含んでなる、液状医薬品である脳機能改善剤。
(2)有効成分として、中国パセリ水抽出物を0.1乃至5質量%含有し、糖転移ルチン及び/又は糖転移ヘスペリジンを合計で0.1乃至10質量%含んでなり、かつ、pHが3乃至5である脳機能改善剤(例えば液状の医薬品)。
(3)少なくとも0.01質量%以上(好ましくは0.01乃至1質量%)のコーヒー抽出物をさらに含むことを特徴とする、(1)又は(2)に記載の脳機能改善剤。
(4)有効成分として、中国パセリ水抽出物を0.1乃至5質量%含有し、糖転移ルチン及び/又は糖転移ヘスペリジンを合計で0.1乃至10質量%含んでなる脳機能改善用飲食品。
(5)有効成分として、中国パセリ水抽出物を0.1乃至5質量%含有し、糖転移ルチン及び/又は糖転移ヘスペリジンを合計で0.1乃至10質量%含んでなり、かつ、pHが3乃至5である脳機能改善用飲食品。
(6)少なくとも0.01質量%以上(好ましくは0.01乃至1質量%)のコーヒー抽出物をさらに含むことを特徴とする、(4)又は(5)に記載の脳機能改善用飲食品。
本発明によれば、本発明品をヒトが日常的に(継続的に)摂取することにより、高齢化に伴って生ずる、記憶・学習能力の低下を効果的に改善することができる。また、本発明品は、アルツハイマー病に代表される認知症などの脳神経疾患を効果的に改善することができる。本発明品の有効成分である、糖転移ルチン及び/又は糖転移ヘスペリジン、或いは、中国パセリ水抽出物、コーヒー抽出物のいずれも、従来より食品素材として長く用いられている成分であることから、これら成分を有効成分とする本発明品は、ヒトが日常的に安全かつ手軽に摂取できる利点を有する。
本発明において脳機能改善とは、高齢化に伴って生ずる記憶・学習能力の低下を改善するとともに、認知症の代表的疾患であるアルツハイマー病などの症状を改善することを意味する。
本発明品の有効成分である中国パセリ(英名:コリアンダー)は、コエンドロ属に属する植物で、欧州においては、その葉部はシラントロと呼称される場合がある。一方、中国パセリは、日本国においては葉部、乾燥子実など部位を問わずコエンドロと呼称される場合がある。本発明で用いる中国パセリ水抽出物は、中国パセリの全草より根を除去したものを水で抽出して得られたものを意味する。すなわち、本発明で用いる中国パセリ水抽出物とは、中国パセリに含まれる成分の内、実質的に水で抽出される成分からなるものを意味する。
具体的な抽出方法としては、例えば、中国パセリの全草より根を除去したものを水洗し、水切りした後、ブレンダーを用いて細断(ミンチ)し、これを遠心分離器を用いてフィルターを通して濾過する。得られた濾液を121℃で10分間加熱処理し、室温まで放冷し、本発明で用いる中国パセリ水抽出物を得ることができる。斯くして得られる中国パセリ水抽出物は、通常、ポリフェノールを500乃至20,000μg/ml程度含有している。なお、中国パセリ水抽出物の固形物濃度は、中国パセリを加熱するときの温度、時間により変動するものの、本発明品に含まれる中国パセリの量は、上記中国パセリ水抽出物中に含まれるポリフェノール含量を基準とする。すなわち、本発明品では多くの場合、ポリフェノールとともに中国パセリ水抽出物中に含まれるポリフェノール以外の他の成分を含むが、本発明品に含まれる中国パセリ水抽出物の量とは、上記中国パセリ水抽出物中に含まれるポリフェノール含量を意味する。
本発明品における中国パセリ水抽出物の好適な含量は、0.1乃至10質量%、好適には、0.1乃至5質量%、より好適には、0.5乃至3質量%である。中国パセリ水抽出物を上記範囲で後述する糖転移ルチン及び/又は糖転移ヘスペリジンと併用したときには、本発明の所期の効果が効果的ないしは相乗的に高まる利点がある。一方、中国パセリ水抽出物の濃度が上記下限又は上限を外れる場合には、糖転移ルチン及び/又は糖転移ヘスペリジンと併用しても、それら併用による十分な効果は得られない。
本発明品の有効成分である糖転移ルチンとは、ルチンにおけるD−グルコースの4位の位置にD−グルコース分子がα−1,4結合で等モル以上(通常、1乃至20個)結合したα−グリコシル ルチン、又はD−グルコースの分子数が異なる各種α−グリコシル ルチンの混合物を意味する。糖転移ルチンは、従来より、食品、化粧品、医薬品等の分野で用いられている安全性の高い物質であり、生体内の酵素の作用を受けて、最終的にルチンとD−グルコースとに加水分解され、ルチン本来の生理学的作用を発揮する。なお、ルチンの生理学的作用としては、毛細血管強化作用、出血予防作用、血圧調節作用等を挙げることができる。
本発明品の有効成分である糖転移ヘスペリジンとは、ヘスペリジンにおけるD−グルコースの4位の位置にD−グルコース分子がα−1,4結合で等モル以上(通常、1乃至20個)結合したα−グリコシル ヘスペリジン、又はD−グルコースの分子数が異なる各種α−グリコシル ヘスペリジンの混合物を意味する。糖転移ヘスペリジンは、従来より、食品、化粧品、医薬品等の分野で用いられている安全性の高い物質であり、生体内の酵素の作用を受けて、最終的にヘスペリジンとD−グルコースとに加水分解され、ヘスペリジン本来の生理学的作用を発揮する。ヘスペリジンの生理学的作用としては、毛細血管強化作用、出血予防作用、血圧調節作用等を挙げることができる。
上記糖転移ルチン及び糖転移ヘスペリジンは、種々の方法で調製することができるが、経済性の観点からは、糖転移酵素を用いる生化学的方法が有利である。当該方法としては、例えば、澱粉部分加水分解物やマルトオリゴ糖などのα−グルコシル糖化合物の存在下で、ルチン又はヘスペリジンに、α−グルコシダーゼ、シクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼ、及びα−アミラーゼを始めとする複数種類の酵素を作用させることにより高収量で得ることができる。斯かる酵素反応については、特開平3−7593号公報、特開平3−27293号公報、特開平3−58790号公報、及び特開平3−115292号公報、特開平10−70994号公報、特願平9−69588号公報などに記載された方法を例示することができる。斯かる方法により調製された市販品としては、糖転移ルチン粉末(商品名『αGルチンP』(固形分重量当りの全ルチン含量40乃至44%)、あるいは、商品名『αGルチンPS』(固形分重量当りの全ルチン含量80乃至84%)、いずれも東洋精糖株式会社)及び糖転移ヘスペリジン粉末(商品名『林原ヘスペリジンS』(固形分重量当りの全ヘスペリジン含量70%以上)、株式会社林原商事)がある。なお、使用方法にもよるが、本発明においては、糖転移ルチン及び糖転移ヘスペリジンは必ずしも、最高純度にまで精製されていなくてもよく、所期の目的を著しく妨げない限り、それらの調製方法に由来する夾雑物を含む形態のものであってもよい。
本発明品に含まれる糖転移ルチン及び/又は糖転移ヘスペリジンの好適な含量は、それらの合計で、0.1乃至10質量%、より好適には、0.5乃至5質量%、更に好適には、0.8乃至5質量%である。また、糖転移ルチン及び/又は糖転移ヘスペリジンの合計量が、上記下限及び/又は上限を逸脱する場合には、本発明が奏する作用効果が著しく低下するか発揮されなくなることから好ましくない。なお、本発明品に含まれる糖転移ルチン及び/又は糖転移ヘスペリジンの量とは、試料中に含まれる全ルチン量及び/又は全ヘスペリジン量を意味する。
本発明品は、有効成分として、中国パセリ水抽出物、糖転移ルチン及び/又は糖転移ヘスペリジンを上記範囲で含むものである限り、その製造方法は限定されない。例示すれば、所定量の水と、有効成分としての中国パセリ水抽出物、糖転移ルチン及び/又は糖転移ヘスペリジンとを均一に混合して、有効成分が上記所定の範囲で含まれるよう調製し、これを公知の精密濾過法、紫外線滅菌法、加熱滅菌法、放射線滅菌法、加圧滅菌法、及び加圧蒸気滅菌法から選ばれる1種又は2種以上の滅菌方法により滅菌した後、適宜の材質、形状、容量の容器に無菌的に充填するか、滅菌前の液体を適宜の容器に充填した後、上記1種又は2種以上の滅菌方法を適宜適用し、滅菌することも随意である。上記容器としては、保存期間中に品質を実質的に変化させることのない、透明ないしは遮光性のガラス製容器、金属製容器、紙製容器、更には、ポリエチレン製容器、ポリエチレンテレフタレート製容器、及びポリプロピレン製容器などのプラスチック容器及びパウチ容器などを例示できる。これら容器の容量に制限はないが、例えば、1ml以上、50ml以上、0.1乃至2L、5乃至25L、或いは100乃至2,000Lなどの容器を適宜選択して用いることができる。更に、本発明品を大量に輸送する場合には、適宜容積のコンテナ、タンクローリー、タンカーなどに充填して輸送することも随意である。
本発明品の形態は、上記のような液状のみならず、ゲル状、ペースト状などのヒトが経口的に摂取可能な形態の医薬品、医薬部外品、飲食品(飲料を含む)全般を意味する。本発明品は、特に液状の場合、酸性側のpH、好適には、pH3乃至5、より好適には、pH3〜4.5、更に好適には、pH3.5〜4の範囲に調整されていることが望ましい。本発明品のpHは、適宜のpH調製剤を用いて、前記範囲となるように調整する。pH調製剤としては、食品添加物として認められているものであればいずれも用いることができる。しかしながら、本発明においては、酢酸、クエン酸などの有機酸、及びそれらの塩類をpH調製剤として用いるときには、本発明の所期の作用効果がより顕著に発揮される利点がある。なお、pHが上記範囲の下限を下回るか、上限を上回る場合には、本発明の所期の作用効果が著しく低減するか、発揮されなくなるとともに、有効成分の保存安定性が低下したり、呈味が著しく低下することから好ましくない。
本発明品の有効成分はいずれも、ヒトが安心して摂取することのできる安全性の高いものであること、また、上記成分のいずれも、工業的に安定して安価に供給されるものであることから、本発明品は、工業的に安価かつ安定して提供される利点を有している。
そして、本発明品に対し、その所期の効果を妨げない範囲で、アルコール、澱粉質、蛋白質、アミノ酸、繊維質、糖質(グルコース、マルトース、トレハロースなど)、糖アルコール(ソルビトール、マルチトールなど)、脂質、必須脂肪酸等をはじめとする脂肪酸、ビタミン類(L−アスコルビン酸、2−O−α−D−グルコシル−L−アスコルビン酸など)、ミネラル類(マグネシウム、カルシウム、亜鉛、カリウム、鉄、ナトリウム及びそれらの塩など)、漢方薬、着香料、着色料、甘味料、調味料(スクラロース、サッカリン、ステビア、アスパルテームなどの高甘味度甘味料を含む)、安定剤、防腐剤などの食品等に通常用いられる原料及び/又は素材の1種又は2種以上を配合することができる。また、添加剤、安定化剤、界面活性剤、防腐剤(抗菌剤)、増粘剤、抗酸化剤、キレート剤、水性媒体、水溶性高分子、pH調整剤、発泡剤などの医薬品・医薬部外品製剤製造における製剤学的に許容される成分の1種又は2種以上を適宜組み合わせて配合した医薬製剤とすることもできる。そして、対象とする食品組成物や製剤の組成やその使用目的を勘案し、原料の段階から製品が完成するまでの工程で有効成分を配合すればよい。
本発明品は、ヒトが日常的に経口摂取することにより、加齢に伴う記憶・学習能力を効果的に改善することができるが、その用量は、通常、成人当たり、5乃至1,000mL/日、望ましくは、25乃至500mL/日、より望ましくは、50乃至500mL/日の量を、1乃至10回/日、望ましくは、3乃至6回/日の頻度で毎日、又は数日間の間隔をおいて1週間以上、好適には、1カ月以上、より好適には、6カ月以上に亘って摂取する。
本発明品の適用対象としては、加齢に伴う記憶・学習能力の低下を抑制ないしは改善したいヒト、又はアルツハイマーが発症ないしはその発症が危惧されるヒトを例示できる。また、本発明の脳機能改善用飲料は、加齢に伴う記憶・学習能力の低下を抑制ないしは改善できるだけでなく、健康の維持・増進にも優れた効果を発揮する。
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。
(脳機能改善用飲料剤等の製造)
本発明品及び比較対照品等を、以下のとおり製造した。
糖転移ヘスペリジン粉末(商品名『林原ヘスペリジンS』(固形分重量当りの全ヘスペリジン含量70%以上)、株式会社林原商事)2質量部と精製水10質量部とを均一に攪拌混合し、酢酸ナトリウムでpH3.8に調整し、精密濾過して飲料剤を得た(参考例1)。
糖転移ルチン粉末(商品名『αGルチンPS』(固形分重量当りの全ルチン含量80乃至84%)、東洋精糖株式会社)0.8質量部と精製水10質量部とを均一に攪拌混合し、酢酸ナトリウムでpH3.8に調整し、精密濾過して飲料剤を得た(参考例2)。
収穫した中国パセリの全草より根を除去し、これを水洗し、水切りした後、ブレンダーを用いて細断(ミンチ)した。細断した中国パセリを遠心濾過分離器(回転数3,000rpm)を用いて150メッシュ・フィルターを用いて濾過した。濾液を回収し、121℃で10分間処理し、25℃まで放冷して、中国パセリ水抽出物を得た(参考例3)。当該抽出物中のポリフェノール含量は約1,000μg/mlであった。
参考例3で得た中国パセリ水抽出物0.3質量部、糖転移ルチン粉末(商品名『αGルチンPS』(固形分重量当りの全ルチン含量80乃至84%)、東洋精糖株式会社)1質量部、及び精製水10質量部を均一に攪拌混合し、酢酸ナトリウムでpH3.8に調整し、精密濾過して、本発明品である飲料剤を得た(試験例1)。
参考例3で得た中国パセリ水抽出物0.3質量部、糖転移ヘスペリジン粉末(商品名『林原ヘスペリジンS』(固形分重量当りの全ヘスペリジン含量70%以上)、株式会社林原商事)1.2質量部、及び精製水10質量部を均一に攪拌混合し、酢酸ナトリウムでpH3.8に調整し、精密濾過して、本発明品である飲料剤を得た(試験例2)。
参考例3で得た中国パセリ水抽出物2質量部、糖転移ルチン粉末(商品名『αGルチンPS』(固形分重量当りの全ルチン含量80乃至84%)、東洋精糖株式会社)2質量部、糖転移ビタミンC粉末(商品名『アスコフレッシュ』、株式会社林原商事)0.2質量部、酢酸ナトリウム0.05質量部、クエン酸2質量部、コーヒー抽出物0.01質量部、及び精製水75質量部を均一に攪拌混合し、酢酸でpH3.7に調整し、精密濾過して、本発明品である飲料剤を得た(試験例3)。
参考例3で得た中国パセリ水抽出物0.5質量部、糖転移ヘスペリジン粉末(商品名『林原ヘスペリジンS』(固形分重量当りの全ヘスペリジン含量70%以上)、株式会社林原商事)1.5質量部、糖転移ビタミンC粉末(商品名『アスコフレッシュ』、株式会社林原商事)0.1質量部、酢酸ナトリウム0.05質量部、クエン酸2質量部、コーヒー抽出物0.01質量部、及び精製水75質量部とを均一に攪拌混合し、酢酸ナトリウムでpH3.5に調整し、精密濾過して、本発明品である飲料剤を得た(試験例4)。
参考例3で得た中国パセリ水抽出物0.3質量部、糖転移ルチン粉末(商品名『αGルチンPS』(固形分重量当りの全ルチン含量80乃至84%)、東洋精糖株式会社)1質量部、糖転移ヘスペリジン粉末(商品名『林原ヘスペリジンS』(固形分重量当りの全ヘスペリジン含量70%以上、株式会社林原商事)1質量部、及び精製水10質量部を均一に攪拌混合し、酢酸ナトリウムでpH3.8に調整し、精密濾過して、本発明品である飲料剤を得た(試験例5)。
試験例1〜5に示した本発明品は、これをヒトが日常的に(継続的に)摂取することにより、高齢化に伴って生ずる、記憶・学習能力の低下を効果的に改善することができる。また、これらの飲料剤は、アルツハイマー病に代表される痴呆症などの脳神経疾患を効果的に改善することができる。
(脳機能改善用飲料剤等の効果確認試験I)
実施例1で得られた飲料剤等について、その脳機能改善効果をラットで比較確認するため以下の試験を実施した。
老齢ラットとしてウィスター系雄ラット(80週齢)20匹を無作為に5匹ずつA乃至D群の4群に分け、これら4群のラットを標準飼料と下記表1に示す飲用水を用いて、同一環境下で飼育した。
Figure 0005779796
A乃至D群のラットを10週間飼育した後、モーリス水迷路(J.Neurosci.Meth.,第11巻、47乃至60頁、1984年)を用いた学習・記憶能力に関する水迷路試験を行った。すなわち、円形のプール(直径180cm、深さ70cm)に、円形プラットホーム(直径20cm、高さ30cm)を置き、プラットホームの面が隠れるようにプラットホームの上2cmまで水を入れた。各ラットを毎回違うスタート位置から遊泳させ、プラットホーム上でラットが5秒間以上、止まるまでの時間(Escape Latency:EL)を測定した。EL測定時間は、動物愛護の観点から最大80秒とした。本試験を3日毎に1日1回、3週間に亘って計7回行った。試験結果として、60秒以内にプラットホームに上がったラットの比率(%)を下記表2に、プラットホーム上でラットが5秒間以上、止まる迄の時間を下記表3に示す。
Figure 0005779796
Figure 0005779796
上記水迷路試験において、各群のラットいずれもが60秒以内にプラットホームに達する割合は、試験を重ねるにつれ上昇した。しかも、ラットがプラットホーム上に5秒間以上、止まる時間は、試験を重ねるにつれ短縮していることから、各試験群のラットのいずれも、プラットホームに上がることにより水から待避できることを学習・記憶したと判断される。60秒以内にプラットホームに達するラットの比率は、A乃至D群のラットの内、D群のラットが最も高く、逆にA群のラットは最も低かった。B群、C群のラットは同等であった。一方、プラットホームにラットが5秒間以上、止まるまでの時間は、A乃至D群のラットの内、D群のラットが最も短かく、逆にA群のラットは最も長かった。B群、C群のマウスは同等であった。
本試験結果から、脳機能改善用飲料剤(D群)は、学習・記憶能力を効果的に改善する作用を有していることが判明した。
(脳機能改善用飲料剤等の効果確認試験II)
実施例1で得られた飲料剤等について、その脳機能改善効果をヒトで比較確認するため以下の試験を実施した。
身体的に健康な60乃至70歳の老人35名(男性15名、女性20名)を被験者とし、試験例2に示す本発明品を毎日朝食後、50mL/日の割合で12週間に亘って飲用させ、飲用を開始してから6週間目と、12週間目の最終飲用後、1週間目にそれぞれ、各被験者の記憶力を評価した。評価方法は、ティー・クルーク(T.Crook)等が考案したMAC法(Neurology、第41巻、644乃至649頁、1991年)を用いた。MAC法は、人の顔と名前とを記憶すること、電話番号を記憶すること、買い物リストを記憶することなど、日常生活における記憶力を調べ、評価する方法である。MAC法を用いて被験者全員の記憶年齢を算出し、平均値を求めたところ、試験開始時は66.5歳であったものが、飲用を開始してから6週間目には、64.2歳となり、12週間目の最終飲用後、1週間目には62.8歳となった。
また、本実験終了後、上記被験者全員につき、本発明の飲料剤を飲用させないで、1カ月間通常の生活を送らせた後、上記MAC法を用いて被験者全員の記憶年齢を算出し、平均値を求めたところ、65.5歳となった。
これらの結果は、本発明品が記憶力の改善作用を有するとともに、その改善作用は、これを継続的に摂取することにより、一層高まることを示すものである。
(脳機能改善用飲料剤等の効果確認試験III)
実施例1で得られた飲料剤等について、その脳機能改善効果を引き続きヒトで比較確認するため以下の試験を実施した。
身体的に健康な50乃至60歳のアルツハイマー型認知症の疑いのある者であって、認知症治療薬剤を投与していない10名(男女各5名)を被験者とし、試験例2に示す脳機能改善用飲料剤を毎日朝食後、100ml/日の割合で24週間に亘って飲用させた。なお、飲用の確認は、被験者以外の者が行った。飲用試験を開始してから25週間目に、各被験者に対し、認知症診断試験を行った。試験は、長谷川式簡易知能評価スケールに従った。長谷川式簡易知能評価スケールとは、年齢や場所を尋ねたり、簡単な言葉を記憶させることなどにより、記憶力・記銘力・見当識障害の症状を判断するために用いられる試験である。長谷川式簡易知能評価スケールにおいては、点数が高いほど、認知症の疑いが低いことを表す。本発明の脳機能改善用飲料の投与試験前後における被験者の点数の平均は、投与試験前においては19点(満点は30点で、20点以下は認知症の疑いあり)であったものが、投与試験後には23点となった。本試験結果から、投与試験前と比べ試験後には、被験者の記憶力・記銘力・見当識障害の症状は明らかに改善されていた。
また、本試験終了後、上記被験者全員につき、本発明品を飲用させないで、1カ月間通常の生活をさせた後、上記長谷川式簡易知能評価スケールを再度行ったところ、被験者の点数の平均は20点となった。
これらの結果は、本発明品が記憶力・記銘力・見当識障害の症状の改善作用を有するとともに、これを継続的に摂取することにより効果的に奏せられることを示すものである。
この結果から、本発明品は、これを日常的に飲用することにより、加齢に伴う記憶・学習能力を効果的に改善するとともに、アルツハイマー病に代表される認知症などの脳神経疾患を効果的に改善し得るものである。
(脳機能改善用飲料剤等の安全性確認試験)
本発明品の飲料剤等について、その安全性をマウスで確認するため以下の試験を実施した。
参考例3の方法で得た中国パセリ水抽出物、糖転移ルチンとして、糖転移ルチン粉末(商品名『αGルチンPS』(固形分重量当りの全ルチン含量80乃至84%)、東洋精糖株式会社)、及び糖転移ヘスペリジンとして、糖転移ヘスペリジン粉末(商品名『林原ヘスペリジンS』(固形分重量当りの全ヘスペリジン含量70%以上)、株式会社林原商事)を常法にしたがってそれぞれ滅菌した。それら滅菌物をそれぞれ、体重20乃至25gのddyマウス(10匹/群)の腹腔内に注射投与するか、胃ゾンデにより経口投与した後、7日間に亙って経過を観察した。その結果、いずれの投与経路においても、『中国パセリ水抽出物』、『林原ヘスペリジンS』又は『αGルチンPS』を、試みた最大投与量である、マウス体重kg当り約10g投与の場合においてすら、死亡例は認められなかった。
本試験結果から、本発明の脳機能改善用飲料が有効成分とする中国パセリ水抽出物、糖転移ルチン、及び糖転移ヘスペリジンのいずれも、ヒトに投与可能な安全な物質である。
実施例2乃至5の結果は、本発明品が、これを日常的に飲用することにより、加齢に伴う記憶・学習能力を効果的に改善するとともに、アルツハイマー病に代表される認知症などの脳神経疾患を効果的に改善し得るものであって、かつ、ヒトに投与可能な安全なものであることを裏付けるものである。
本発明を要約すれば、以下の通りである。
本発明は、加齢に伴う記憶・学習能力を効果的に改善するとともに、アルツハイマー病に代表される認知症などの脳神経疾患を効果的に改善する、ヒトが安全かつ日常的に手軽に摂取することのできる脳機能改善用医薬品及び/又は飲食品の提供を目的とする。
そして、有効成分として、中国パセリ水抽出物を0.1乃至5質量%含有し、糖転移ルチン及び/又は糖転移ヘスペリジンを合計で0.1乃至10質量%含んでなる脳機能改善剤及び/又は飲食品により前記課題を解決する。

Claims (6)

  1. 有効成分として、中国パセリ水抽出物を0.1乃至5質量%含有し、糖転移ルチン及び/又は糖転移ヘスペリジンを合計で0.1乃至10質量%含んでなる脳機能改善剤。
  2. 有効成分として、中国パセリ水抽出物を0.1乃至5質量%含有し、糖転移ルチン及び/又は糖転移ヘスペリジンを合計で0.1乃至10質量%含んでなり、かつ、pHが3乃至5である脳機能改善剤。
  3. コーヒー抽出物をさらに含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の脳機能改善剤。
  4. 有効成分として、中国パセリ水抽出物を0.1乃至5質量%含有し、糖転移ルチン及び/又は糖転移ヘスペリジンを合計で0.1乃至10質量%含んでなる脳機能改善用飲食品。
  5. 有効成分として、中国パセリ水抽出物を0.1乃至5質量%含有し、糖転移ルチン及び/又は糖転移ヘスペリジンを合計で0.1乃至10質量%含んでなり、かつ、pHが3乃至5である脳機能改善用飲食品。
  6. コーヒー抽出物をさらに含むことを特徴とする、請求項4又は5に記載の脳機能改善用飲食品。
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