本発明は,荷電粒子を試料に照射して画像を取得する荷電粒子顕微鏡装置に係り,特に従来の撮像方法では鮮明な撮像が困難であった局所領域の視認性を向上するための画像撮像方法および荷電粒子顕微鏡装置を提供することにある。以下,本発明に係る実施の形態例について図面を用いて説明する。
[図1説明]図1は,ゲイン値を変えて複数枚の荷電粒子画像を取得して画像を合成するシーケンスの一実施例図である。まず,ステップ101で,第一のゲイン値を計算し,ステップ102で第一のゲイン値を用いて第一の画像を取得する。次に,ステップ103で,第一のゲイン値とは異なる第二のゲイン値を計算し,ステップ104で第二のゲイン値を用いて第二の画像を取得する。次に,ステップ105で,第一のゲイン値と第二のゲイン値を用いて,取得した第一の画像と第二の画像のそれぞれについて重みを計算する。最後にステップ106で,計算した重みを用いて,第一の画像と第二の画像を合成する。
[図1効果]これにより,検出後に重畳される熱ノイズや量子化ノイズの影響が少ない画像を撮像できる。これらのノイズは明度値に対して一定の大きさで重畳されるため,同一の信号量であればゲイン値が大きいほどこれらのノイズの影響は少ない。一方,検出器等が扱うことのできる明度値には上限があるため,ゲイン値が大きすぎると明度値が飽和する。例えば,第一のゲイン値は従来の画像撮像方法と同様のゲイン値に設定し,第二のゲイン値は第一のゲイン値より大きな値に設定する。この結果,第一の画像からは暗部以外の領域において明度値が飽和しない範囲内で十分大きな明度値を得ることができ,第二の画像からは暗部においてノイズの少ない情報を得ることができるため,両画像を合成することにより,全領域において良好な画質を得ることが可能となる。
[図1補足]ステップ102とステップ104の画像取得では,複数の検出器を用いて,複数枚の画像を取得しても良い。複数枚の画像は,例えば,二次電子を検出するための二次電子検出器,後方散乱電子を検出するための後方散乱電子検出器,試料から放出されるX線を検出するX線検出器,または試料を透過した粒子を検出する透過粒子検出器などにより取得することができる。この場合,第一のゲインおよび第二のゲインは,複数枚の画像に対して同一の値を用いても良いし,検出器の種類や検出器の配置などにより検出できる信号量が異なることを考慮し,異なる値を用いても良い。
第一の画像または第二の画像を取得する際,同じ領域に対して荷電粒子ビームを複数回走査して,それぞれの走査で得た信号について同じ走査位置の信号に対する和または平均を計算することにより,画像を取得しても良い。第一のゲイン値または第二のゲイン値は,試料の撮像対象領域に関する設計データ情報を用いて設定することもできる。また,第二のゲイン値は,第一の画像に基づいて設定することもできる。なお,図1では,第一の画像と第二の画像を取得して合成する方法について説明したが,同様に,図10で後述するように,第三のゲイン値を用いて第三の画像を取得しても良いし,第四の画像以降を取得しても良い。ステップ105またはステップ106を実施する前に,各々の画像に対してノイズを抑制したり,エッジを強調したり,画像のぼやけを低減するための画像処理を施しても良い。
[図2説明]図2は,本発明の一実施形態である荷電粒子顕微鏡の基本構成である。荷電粒子顕微鏡は,例えば,荷電粒子画像取得装置201,入出力部221,制御部222,処理部223,記憶部224,ゲイン制御部225,画像合成部226,および走査位置制御部227等を適議用いて構成される。荷電粒子画像取得装置201では,荷電粒子銃202から荷電粒子ビーム203を発生し,前記荷電粒子ビーム203をコンデンサレンズ204や対物レンズ205に通すことにより試料206の表面に集束する。次に,試料206から発生する粒子を検出器208で検出することにより,画像を取得する。画像は,記憶部224に保存される。検出器208は複数個備わっていても良く,さらに,電子を検出する検出器と電磁波を検出する検出器のように異なる粒子を検出する検出器であったり,例えばSEMの場合,二次電子検出器と後方散乱電子検出器のように異なる性質の粒子を検出する検出器であっても良い。検出器が複数個備わっている場合には,通常1回の撮像で,画像を複数枚取得することができる。試料206はステージ207に接しており,ステージ207を移動することにより,試料の任意の位置における画像の取得が可能である。また,ビーム偏向器209で荷電粒子ビーム203の向きを2次元的に変えることにより,荷電粒子ビームを試料上に走査することができる。本実施例により,検出器のゲインを異なるゲイン値に設定してそれぞれ画像を取得し,画像取得時のゲイン値を用いて取得した画像を合成することができる。また,信号量が少ない領域に対して再度走査を行って画像を取得し,取得した画像を合成することができる。
入出力部221では,画像撮像位置や撮像条件の入力,合成後の画像の出力などを行う。制御部222では,撮像装置の制御として,荷電粒子銃202等に印加する電圧や,コンデンサレンズ204および対物レンズ205の焦点位置の調整,ステージ207の移動等を制御する。また,制御部222は,入出力部221,処理部223,記憶部224,ゲイン制御部225,画像合成部226の制御も行う。処理部223では,各種の処理,例えば,荷電粒子ビーム203の焦点を試料206の表面に合わせるために必要な自動焦点合わせに関する処理などを行う。記憶部224では,第一の画像,第二の画像,合成後の画像,設計データ情報,各種の処理パラメータ等を保存する。ゲイン制御部225では,第一のゲイン値および第二のゲイン値を計算する。画像合成部226では,第一の画像および第二の画像を合成し,合成後の画像を出力する。走査位置制御部227では,荷電粒子ビーム203を走査する試料206上の位置を制御する。
[図3説明]図3は,本発明により,暗部を含む全領域において良好な画質を得ることができることを示した図である。図3で示した301,302,303は,それぞれ,第一の画像,第二の画像,合成後の画像を表す。この例では,第一のゲイン値は暗部以外の領域において適切な明度値となるように設定されており,第二のゲイン値は暗部において多くの信号量が得られるように,第一のゲイン値よりも大きな値に設定されている。撮像対象の試料は,多層のパターンを含んでおり,下層領域は信号が得られにくい暗部である。点311は暗部内の一点であり,点312は暗部以外の領域内の一点である。暗部では,第一の画像301では下層領域が非常に認識しにくいが,第二の画像302では下層領域が明瞭に映っており,下層パターンが見えやすい。暗部以外の領域では,第二の画像302ではゲイン値が大きいために明度値が飽和しているが第一の画像301では適切な明度値が得られている。グラフ304は,ドーズ量と,試料から得られる信号量の関係を表している。信号量はドーズ量に対して概ね比例の関係にあるが,同じドーズ量では暗部以外の領域内の点312から得られる信号量と比べると暗部内の点311から得られる信号量のほうが少ないため,明瞭に表示するためには第二の画像のようにゲイン値を上げて画像を取得する必要がある。第一の画像と第二の画像を合成することにより,合成画像303のように,画像の全領域で明度値の飽和を抑制した上で,下層領域が明瞭に表示された画像を得ることができる。
[図4説明]図4は,ゲイン値の設定方法に関する一実施例図である。グラフ401は,画像301,302における,画像の種類(第一の画像および第二の画像)とゲイン値の関係を示したものである。グラフ402は,点311および点312における明度値を,それぞれ411および412で示したものである。第一の画像では411のように暗部の明度値は非常に小さく,検出後に重畳される熱ノイズや量子化ノイズの影響を受けやすい。第二の画像では412のように暗部以外の領域では明度値が飽和する箇所もある。先述のように,画像を合成することにより,暗部以外の領域における明度値の飽和抑制と暗部の明瞭表示を両立することができる。なお,グラフ403のように,第二のゲイン値は第一のゲイン値より小さくても良く,さらに,第三のゲイン値,第四のゲイン値を用いて,第三の画像および第四の画像を取得しても良い。
[図5説明]図5は,第二のゲインを計算するステップ103の具体的な処理を示す一実施例図である。まず,ステップ501で,第一の画像における暗部を抽出する。暗部の抽出では,領域抽出のための手法として知られている各種のセグメンテーション手法を用いることができる。例えば画像の明度値があるしきい値を下回る領域として抽出することもできるし,抽出した領域に対して拡大および縮小等の後処理を施すことにより抽出することもできる。暗部を抽出するためのしきい値は画像の局所領域毎に変えても良い。次に,ステップ502で,暗部の平均明度を計算する。最後に,ステップ503で,計算した暗部の平均明度に基づいて,第二のゲイン値を計算する。暗部の平均明度と第二のゲイン値との関係は,グラフ511のような単調減少の関係になる。すなわち,第一の画像における暗部の平均明度が小さいほど,第二の画像では平均明度が大きくなるように第二のゲイン値を上げる。
[図5効果]これにより,第一の画像を用いて暗部の明度値を計算し,その結果に基づいて第二のゲイン値を調整することで,第二の画像における暗部の明度値を適切な値に設定でき,暗部がより明瞭に表示された第二の画像を取得することができる。
[図5補足]図5では,暗部の平均明度に基づいて第二のゲイン値を計算したが,平均明度以外の値を用いることもできる。例えば,平均明度がノイズに対して揺らぎやすいような画像の場合では代わりに暗部の明度値のメディアンを用いても良い。別の例として,暗部にパターンが含まれることが予想される場合には,(例えば相対的に明るい領域をパターンとする処理により)暗部からパターンとそれ以外の領域を識別して,それぞれの領域の平均明度の差を用いても良い。グラフ511に示す暗部の平均明度とゲインの関係は,例えば反比例のような関係が考えられるが,これに限らない。
[図6説明]図6は,第二のゲインを計算するステップ103の具体的な処理を示す,図5とは別の一実施例図である。まず,ステップ601で,第一の画像における暗部を抽出する。次に,ステップ602で,設計データと第一の画像を比較する。最後に,ステップ603で,比較結果に基づいて第二のゲイン値を計算する。ここで,設計データとは,製造する半導体パターンの形状情報を示すデータのことを表し,多くの場合,半導体パターンの輪郭に関する情報あるいはリソシミュレーション等による予想形状,レイヤ特性等が記述されている。また,設計データには,試料特性(材質特性・電気特性等)に関する情報が含まれていても良い。
フロー610に,設計データと第一の画像を比較する処理のデータフローを示す。ステップ601では,第一の画像623における暗部を抽出する。このとき,設計データ621の情報を用いても良い。設計データ621は第一の画像と同じ領域を表すように切り出しておく。次に,ステップ611で設計データに含まれる暗部のエッジを抽出する。エッジ抽出結果を画像622に示す。設計データ621の例では,下層領域のエッジを示す縦ラインが抽出される。次に,ステップ613で第一の画像に含まれている暗部でのエッジ量を計算する。この計算では,例えば,画像622で抽出したエッジ位置の近傍の領域で,第一の画像におけるエッジ量を求める。第一の画像におけるエッジ量は,例えばソーベルフィルタやラプラシアンフィルタなどの微分フィルタを用いても良いし,より高度なフィルタを用いても良い。ステップ613の出力である,暗部でのエッジ量624を,ステップ603にて第二のゲイン値を計算するときに利用する。暗部でのエッジ量624が少ないほど,第二のゲイン値が大きくなるように計算する。
[図6効果]このように,設計データを活用することにより,暗部に含まれるエッジの位置やレイヤ特性に関する情報など,第一の画像からでは得られにくい暗部に関する情報をより多く得ることができる。このため,ステップ601の第一の画像における暗部を抽出する処理では,暗部を高精度に抽出することができる。また,ステップ602の設計データと第一の画像を比較する処理では,設計データから暗部にパターンが含まれるか否か,どこにパターンが含まれるか等の情報が得られるため,これらの情報を活用して第二の画像のゲイン値を適切に設定することができる。
[図6補足]フロー610では,設計データと第一の画像を比較する方法について説明したが,同様の方法により,第三の画像を取得する場合に,設計データと第二の画像を比較しても良いし,設計データと第一の画像および第二の画像の2枚の画像とを比較しても良い。
[図10説明]図10は,ゲイン値をK値(K≧3)に変えて,第1〜第Kの画像を取得し,K枚の画像を合成する処理を表す一実施例図である。まずステップ1001で,kに1を代入する。次に,ステップ1002で第kのゲイン値を計算し,ステップ1003で第kのゲイン値を用いて第kの画像を取得する。次にステップ1004でkがKに等しいか否かを調べ,等しくないならばステップ1005でkに1を加えて,ステップ1002〜1004を繰り返す。ステップ1004でkがKに等しいならば,ステップ1006で第1〜第Kのゲイン値を用いて第1〜第Kの各々の画像の重みを計算し,ステップ1007で前記画像の重みを用いて第1〜第Kの画像を合成する。なお,Kが2の場合には,図1の実施例図と同じ処理となる。
[図10効果]Kを3以上に設定することにより,画像内において明度値が非常に幅のあるような場合に,より良好な画質を得ることができる。例えば,非常に信号量が得られにくい暗部と,同じ暗部ではあるがある程度の信号量が得られるような暗部と,暗部以外の領域の,大きく3種類の領域が撮像対象内にあった場合,図1のようにゲイン値を2種類と設定するよりも,図10のようにゲイン値を3種類と設定したほうが,どの領域でも適切なゲイン値を設定することができる。
[図7説明]図7A〜図7Cは,図1におけるステップ105の処理である,第一のゲイン値と第二のゲイン値を用いて第一の画像の重みと第二の画像の重みを計算する処理の一実施例図である。図7Aは,第kのゲイン値gk(k=1,2,…)に対し,第kの画像の重みwkをwk=c/gkのように計算する例である(cは定数)。画像の明度値がゲイン値と信号量に比例する場合には,ゲイン値に反比例した重みを明度値に対して乗じることにより,ゲインに依存せずに信号量に比例した大きさの明度値を得ることができる。明度値の大きさはゲイン値に依存しなくなるものの,ゲイン値が大きい方が明度値に含まれる熱ノイズや量子化ノイズが少ないため,暗部において明瞭な画像を得ることができる。必要に応じて,例えば重みの総和が1になるように重みの正規化を行う。図7Bは,第kの画像の重みwkをwk=ck/(gk+pk)qkのように計算する例である(ck,pk,qkは定数)。ステップ701の計算方法に比べて,より自由度の高い重みの設定が可能となる。また,図7Cは,さらに自由度の高い重みの設定を行う例として,第kの画像の重みwkをwk(x,y)=fk(dk(x,y),g1,g2,…,a1(x,y),a2(x,y),…)のように計算する例である。ここで,(x,y)は画像上の位置座標(x,y座標),dk(x,y)は第kの画像の位置(x,y)における暗部度合い,aj(x,y)は第jの画像の位置(x,y)における明度値である。fkは関数である。暗部度合いdk(x,y)は,暗部らしさを表す度合いであり,明度値ak(x,y)を用いてステップ703により求められる値である。例えば,シグモイド関数を用いてdk(x,y)=1/(1+exp(s(ak(x,y)-a0))のように求められる(s,a0は定数)。この例では,画像の明度値を用いて重みを計算しており,画像上の位置毎に重みを計算している。また,暗部度合いも考慮している。さらに,第kの重みwkを計算する際に,第kの画像以外の明度値も用いている。重みの和は,例えば1になるように正規化しておく。
[図7効果]このように,ゲイン値を用いて重みを計算することにより,合成後の画像の明度値を適切な値に保つことができる。逆にゲイン値を用いて重みを計算しないと,合成後の画像において暗部が明る過ぎたり,暗過ぎたりすることがあり,画質を損ねる可能性がある。
[図7補足]なお,ステップ701では,明度値の大きさがゲイン値に依存しないように,ゲイン値に反比例するような重みを設定した。このように設定すると,暗部と暗部以外の領域の明るさの比率を,一定のゲイン値を用いて画像を撮像する従来の撮像方法を用いた場合と同一に保つことができる。ただし,このような明るさの比率を同一に保つ処理は必ずしも重要ではなく,例えば暗部を明瞭に見せるため,暗部がより明るい画像や暗部のコントラストが高い画像を生成したい場合もある。このような場合には,ステップ702やステップ703に示したような重みの計算方法を用いることができる。また,画像を撮像した後で,別途画像処理により暗部を強調するような処理を施すこともできる。後で画像処理を施す場合でも,本発明により暗部においてノイズの影響を少なくできるため,より良好な画像を得ることができる。
[図8説明]図8A〜図8Cは,図1におけるステップ106の処理である,ステップ105で計算した重みを用いて第一の画像と第二の画像を合成する処理の一実施例図である。図8Aでは,ステップ801で数式1のような重み付き合成処理を行い,合成後の画像の明度値b(x,y)を求める。
図8Bは,明度値が飽和した場合に合成の対象外とする処理を加えた例である。ステップ811で全ての明度値a
k(x,y)に対し,飽和しているか否かを判定し,飽和しているならば数式2のように明度値を置き換える
kが小さいほうから順に,数式2による置き換えを行っていく。飽和しているか否かは,例えば,明度値が一定値以上であれば飽和しているとみなせば良い。次に,ステップ812で数式1で示す重み付き合成処理を行い,合成後の画像の明度値b(x,y)を求める。数式2のように置き換えることによって,w
ka
k(x,y)=w
k-1a
k-1(x,y)の関係を満たすようにa
k(x,y)を置き換えることができ,実質的にa
k(x,y)を合成の対象外とすることができる。なお,図8B以外の処理でも,明度値が飽和した場合に合成の対象外とする処理を考えることができる。例えば,飽和しているならば対応する重みw
kを0にするようにしても良い(この際,位置(x,y)毎に重みの正規化を改めて行う)。合成の対象外とするか否かの判定は局所領域毎に行う。この局所領域は,各画素でも良いし,近傍にある数画素であっても良いし,画像に対して類似した領域に分割する処理(セグメンテーション処理)を行った結果であっても良い。
図8Cは,図8A,図8Bとは別の実施例である。ステップ821で,あるしきい値Tjより小さい範囲内で値が最大となるような明度値aj(x,y)に対応するjをkとして,b(x,y)=wkak(x,y)のように合成後の画像の明度値b(x,y)を求める。しきい値Tjは,飽和しているか否かを表す値である。どのjに対しても明度値aj(x,y)がTjより大きい場合は,最もゲイン値の小さいkを選ぶ。これにより,どの位置(x,y)でも飽和を抑制した上で十分大きな明度値ak(x,y)を用いて画像を合成することができる。
[図8効果]図8A〜図8Cの実施例により,暗部以外の領域において明度値が飽和した場合でも適切な合成を行うことができ,全領域において良好な画質を得ることができる。全領域において飽和しないようなゲイン値が少なくとも一つあれば,他のゲイン値は暗部以外の領域において飽和するような大きな値に設定しても,合成時に全領域で飽和しない画像を生成することができる。このため,ゲイン値を大きな値に設定することが可能となり,暗部においてノイズの少ない情報を得ることができる。
[図8補足]なお,図8において,合成後の画像の明度値b(x,y)は重みwkと明度値ak(x,y)の積として計算したが,これに限らない。また,b(x,y)を計算する際に,別の位置の重みや明度値(例えばwk(x-1,y)やak(x-1,y))を用いても良い。
[図9説明]図9は,重みを用いて画像を合成する際,合成後の画像の明度値が不自然に不連続となることを防ぐための処理を表す一実施例図である。画像901の断面ABにおける重みの値をグラフ902に示す。グラフ902中に示している黒印910は,暗部を表している。グラフ902では,暗部と暗部以外の領域で,重みが急激に変化している。このような重みを用いて図8のように合成を行った場合は,合成後の画像において暗部と暗部以外の領域で明度値に不自然な不連続さが発生してしまい,画質の低下を招く。一方,グラフ903のように,重みを緩やかに変化させることによって,明度値が不自然に不連続となることを避けることができる。903のような重みを設定するためには,例えば,図7により計算した重みに対して,平滑化処理を行えば良い。
[図11説明]図11は,第一の画像を取得したときの撮像条件とは異なる撮像条件で第二の画像を取得する処理を表す一実施例図である。ここで,撮像条件とは,プローブ電流,ビーム照射時間,試料帯電度の何れかを表す。図1と同一の処理には,図1と同じ番号で示し、同様の処理については適宜省略して説明する。以下,同一の処理やデータ等を表す場合には,同一の番号を振って示すものとする。ステップ101,102は図1と同様である。次に,ステップ1101で撮像条件を第二の条件に変更する。続いて,ステップ103,104で第二のゲイン値を計算してそのゲイン値を用いて第二の画像を取得する。ステップ1102で第一のゲイン値と第二のゲイン値および第一の撮像条件と第二の撮像条件を用いて,第一の画像の重みと第二の画像の重みを計算する。最後に,ステップ106で前記画像の重みを用いて第一の画像と第二の画像を合成する。ここで,プローブ電流とは,単位時間に照射する荷電粒子ビームの量を表す値である。また,試料帯電度とは,試料が帯電している度合いを表す量である。荷電粒子ビームを試料に照射すると,試料は荷電粒子を吸収・放出するため,照射位置の周辺において正または負の電気特性を持つ。画像を取得する際に荷電粒子ビームを照射するため試料は帯電することになるが,ここでは,プリチャージなどの処理によって意図的に試料を帯電させることを,試料帯電度を変えると呼ぶ。
[図11効果]これにより,暗部から得られる信号量を増やすことが可能となる。プローブ電流やビーム照射時間を増やすことにより,ドーズ量を増やすことができる。また,試料帯電度を適切な値に調整することにより,試料から放出される荷電粒子をより多く検出することができる。例えば,第一の画像を取得するときは,これらの値を通常用いられる値に設定し,第二の画像を取得するときに,暗部から得られる信号量が多くなるような条件に設定する。第二の画像の取得では,暗部以外の領域においては適切な情報が得られなくても良いため,暗部からの信号量ができるだけ多く得られるような条件を用いることができる。
[図11補足]ビーム照射時間を変える際には,ビームを走査する速度を変えても良いし,同じ領域にビームを走査する回数を変えても良い。なお,ステップ106で第一の画像と第二の画像を合成する前に,各々の画像に対して,ノイズを抑制したり,エッジを強調したり,画像のぼやけを低減するための画像処理を施しても良い。このとき,各々の画像に対して,撮像条件の情報を用いて画像処理を施しても良い。例えば,画像のぼやけ度合いはプローブ電流によって異なるが,各々の撮像条件を用いて画像処理により画像のぼやけを低減した後に画像を合成することにより,全領域で適切にぼやけが低減された画像を得ることができる。
[図12説明]図12は,第一の画像を取得したときの撮像条件とは異なる撮像条件で第二の画像を取得するシーケンスの一実施例図であり,特に試料帯電度を変えて第二の画像を取得するシーケンスの一実施例図である。ステップ101,102により第一の画像を取得した後,ステップ1201でプリチャージと呼ばれる荷電粒子ビームを試料に照射する処理によって試料帯電度を変更する。次に,ステップ103,104により第二の画像を取得し,ステップ1202で第一のゲイン値と第二のゲイン値,第一の試料帯電度と第二の試料帯電度を用いて,第一の画像の重みと第二の画像の重みを計算する。最後にステップ106で前記画像の重みを用いて第一の画像と第二の画像を合成する。
[図12効果]これにより,試料から放出される粒子が出やすいような状態に試料を帯電させて,暗部から得られる信号量を増やすような処理が可能である。
[図12補足]試料帯電度は,試料の帯電度合いを直接表す量でも良いし,試料の帯電度合いと関連のある値であっても良い。例えば,ステップ1201で照射した荷電粒子ビームの照射量を試料帯電度とすることができる。ステップ1201で試料を帯電させる際には,通常,試料の撮像対象領域よりも大きい領域に荷電粒子ビームを照射する。本実施例では,荷電粒子ビームを試料に照射することで試料帯電度を変更する方法を示したが,試料帯電度を変更するための他の方法を用いても良い。例えば,試料にX線を照射しても試料帯電度を変更することができる。
[図13説明]図13は,ゲイン値と撮像条件を用いて重みを計算する処理の一実施例図である。第kの画像を取得する際の撮像条件として,プローブ電流がIk,ビーム照射時間がTk,試料帯電度がSkであったとき,重みwkは例えば数式3のように計算できる
ここで,c
kは定数,F
kは関数である。関数F
kは,例えばI
k,T
k,S
kに比例するように選べば良いし,別の関係式であっても良い。
[図13効果]このように,撮像条件に応じて重みを設定することにより,信号量が多く得られた画像ほど重みを大きくできるため,良好な画質の画像を合成することができる。
[図14説明]図14は,ゲイン値を変えて撮像するか否かを判定する処理を含む撮像のシーケンスの一実施例図である。まず,ステップ101,102により第一の画像を取得した後,ステップ1401でゲイン値を変えて撮像するか否かを判定する。ゲイン値を変えて撮像すると判断した場合は,ステップ103〜106により第二の画像を取得して,第一の画像と第二の画像を合成する。一方,ステップ1401でゲイン値を変えて撮像しないと判断した場合は,ステップ103〜106は行わない。このシーケンスの例では,第一のゲイン値は暗部以外の領域が飽和しないような値に設定し,第二のゲイン値は,暗部を強調できるような大きな値に設定する。
[図14効果]これにより,撮像対象領域の暗部強調が必要な場合にのみ,第二の画像の取得および合成を行うような撮像を行える。暗部強調が必要な場合には,画像を合成する方法により暗部でも良好な画質が得られるような画像を撮像することができ,一方,暗部強調が不要な場合(例えば撮像対象領域に暗部が存在しない場合)には,第二の画像を取得することなく良好な画質の画像を高速に撮像することができる。
[図14補足]ステップ1401のゲイン値を変えて撮像するか否かを判定する処理では,設計データ,または,第一の画像の少なくとも一つを用いることができる。または,予めユーザにより手動で調整したり,例えば撮像時間に関する要求値を用いて判定を行っても良い。ステップ103〜106は,第一の画像を取得した直後に行う必要はなく,十分に時間が経った後や,他の処理を行った後で本ステップを行っても良い。また,第一の画像と第二の画像のみでなく,第三の画像を取得する場合には,第二の画像および第三の画像について,共に撮像するかまたは共に撮像しないかを判定するステップや,第二の画像のみ,または第三の画像のみについて,撮像するか否かを判定するステップがあっても良い。
[図15説明]図15は,図14のステップ1401のゲイン値を変えて撮像するか否かを判定するシーケンスの一実施例図である。まず,ステップ1501で第一の画像に対して暗部の候補となる領域を抽出する。暗部の候補となる領域は,例えば,明度値がしきい値以下となる領域として求めることができる。次に,ステップ1502で抽出した領域の面積や形状に基づいて暗部強調の要否を判定する。例えば暗部の候補となる領域が,一定以上の面積を占めていたら暗部強調が必要と判定する。設計データのみを用いて判定を行っても良いし,設計データと第一の画像の両方を用いて判定を行っても良い。最後に,ステップ1503で暗部強調の要否の判定結果に基づいてゲイン値を変えて撮像するか否かを判定する。通常は,暗部強調が必要な場合にはゲイン値を変えて撮像し,そうでなければ撮像しないように判定すれば良いが,これに限らない。例えば,暗部強調は必要だが,ゲイン値を変えて撮像しても大きな効果が期待できないことが撮像前から明らかな場合や,別の制約条件(撮像時間等)により暗部が強調できるような撮像を行えない場合などは,ゲイン値を変えて撮像しないと判定しても良い。
[図16説明]図16は,画像撮像時に出力するログの一実施例図である。画像を撮像すると,撮像条件に関する情報がログ1601として通常電子データの形式で出力される。ログ1601には,撮像した日時や,撮像条件である加速電圧,プローブ電流等の情報が記載される。また,本発明により画像を合成する際に用いた情報もログに出力する。例えば,1602のように,第一のゲイン値および第二のゲイン値を出力する。また,1603のように,第一の重みおよび第二の重みを出力する。図11のシーケンスのように撮像条件を変えて第二の画像を取得した場合には,1604のように第二の撮像条件(プローブ電流等)を出力する。さらに,詳細な情報として,1605のように,例えば,第二の画像のうち明度値が飽和していた領域の面積や,703の暗部度合いの計算により得られた結果の一覧などを出力しても良い。1610は,図10のシーケンスにおいて取得した第一の画像から第Kの画像の組である。後で詳細な解析を行ったり,重みを変えて合成することができるように,取得した画像の全てまたは一部をログとして保存する。
[図16効果]このように,画像を合成した際に用いたパラメータをログに出力することで,合成した画像に対して物体認識・検出・計測などの各種処理を行う際に利用することができる。また,画像とログを併用することにより,試料の特に暗部に関する詳細な解析が可能となる。
[図17説明]図17は,目標信号量に基づいて,一度画像を取得した後で,局所領域に対して荷電粒子ビームを再度走査して画像を取得するシーケンスの一実施例図である。まず,ステップ1701で目標信号量を算出する。次に,ステップ1702で画像を取得する。続いて,ステップ1703で信号量が相対的に少ない領域における信号量と目標信号量を比較し,この比較結果に基づいてステップ1704で画像取得を継続するか否かを判定する。画像取得を継続すると判定した場合には,ステップ1705で局所領域に対して荷電粒子ビームを走査して画像を取得する。ステップ1706で,これまでに取得した画像とステップ1705で新たに取得した画像を合成する。以下,ステップ1704で画像取得を継続しないと判定するまで,ステップ1703〜1706を繰り返す。
[図17効果]これにより,暗部から得られる信号量の度合いに応じて撮像時間を制御することができ,暗部の高画質化と高速撮像の両立を実現することができる。また,新たな画像を取得する際,画像の全領域に対応する試料領域に対して荷電粒子ビームを照射する代わりに,暗部を含むより小さな試料領域のみに対して荷電粒子ビームを照射することができ,撮像時間を短縮することができる。さらに,荷電粒子ビームを試料に照射する際に発生する,試料にダメージを与えたり試料が帯電するなどのデメリットを低減することができる。
[図17補足]明度値は信号量にゲイン値を乗じた値(またはさらにバイアスが加算された値)であるため,明度値とゲイン値を用いて信号量を算出することができる。ステップ1703で,信号量の少ない領域における信号量と目標信号量を比較する際には,明度値とゲイン値を用いて得られた信号量を求めた後で目標信号量と比較すれば良い。信号量を比較する際には,画素毎で比較をしても良いし,複数の画素を含む局所領域毎で比較をしても良い。または,信号量が相対的に少ない領域の全領域における信号量の平均と目標信号量を比較しても良い。
ステップ1704で,画像取得を継続するか否かを判定する際には,撮像時間の上限および下限に基づいて判定しても良い。これにより,目標信号量を満たす画像を得るためには非常に長い撮像時間がかかったり,逆に撮像時間は非常に短いがまだ良好な画質が得られる余地が十分にあるような画像を撮像するようなことを抑制することができる。複数枚の画像を連続して撮像する際には,個々の撮像時間に上限および下限を設けても良いし,平均撮像時間に対して上限および下限を設けても良い。
また,ステップ1706の画像の合成では,ステップ1702およびステップ1705で照射した荷電粒子ビームのドーズ量に基づいて適切に計算した重みを用いて加重平均処理を行えばよい。ステップ1705で取得した画像は,荷電粒子ビームを照射しなかった位置からは意味のある情報は得られないため,画像の合成では新たに取得した画像の対応する位置では重みをゼロとする。
[図18説明]図18は,画像取得前に信号量の要求値の入力を促すためのインターフェイスの一実施例図である。1801に,信号量の要求値,撮像時間の下限,撮像時間の上限などの,設定が必要な項目が列挙されている。各項目について,スクロールバー1802や直接入力欄1803を通して,値を設定できる。1804のように,デフォルト値に戻せるボタンが付いていても良い。また,領域1810のように,画像を用いて,信号量と画像との関係の例を示しても良い。例えば,何枚かのサンプル画像セットを準備しておき,画像1812と,1814で示した画像内のある領域における信号量1811を同時表示するような画面を備える。ボタン1813で表示する画像を切り替えられる。領域1814の位置は自由に変更することができる。領域1814の形状を変更するインターフェイスを備えていても良い。また,1815のように表示する画像を信号量でソートする機能があったり,画像の暗部における信号量が現在の信号量要求値に最も近いような画像を表示するようなボタン1816があっても良い。平均撮像時間の推定値を出力する機能1823があっても良い。
[図18効果]これにより,ユーザの要求するS/Nや信号量を考慮して目標信号量を算出することができ,画質に関してユーザが満足する画像をできるだけ短い時間で撮像することができる。
[図18補足]図18では信号量の要求値の入力を促すインターフェイスについて述べたが,同様にS/Nの要求値の入力を促すインターフェイスであっても良いし,ユーザがどちらの要求値を入力するかを選択できるような機能を備えていても良い。信号量1811は,画像のログ等を用いて正確な値を表示しても良いし,画像から推定した値であっても良い。また,検出器を複数備えている場合には,画像1812として複数枚の画像を表示しても良い。信号量は,その大きさがユーザにとって理解できるような値である必要は必ずしもなく,ユーザは画像例を基に相対比較を行うことにより信号量の要求値を設定することができる。
[図19説明]図19は,目標信号量に基づいて,一度画像を取得した後で,局所領域に対して荷電粒子ビームを走査して画像を取得するシーケンスにおいて,ゲイン値を変更した上で画像を取得するシーケンスの一実施例図である。ステップ1701〜1704は図17と同じである。ステップ1704で画像取得を継続すると判定した場合,ステップ1901でゲイン値を設定し,続いてステップ1902で設定したゲイン値で局所領域に対して荷電粒子ビームを走査して画像を取得する。ステップ1903でこれまでに取得した画像と,ステップ1902で新たに取得した画像を合成する。画像の合成では,図7に示した重みを計算する処理や,図8に示した重みを用いて画像を合成する処理を適用することができる。ただし,図17の説明で述べたとおり,荷電粒子ビームを照射していない位置では重みをゼロとする。
[図19効果]このシーケンスにより,ゲイン値を上げて暗部における画像を取得することができ,暗部から得られる信号量を増やすと共に,熱ノイズや量子化ノイズの少ない画像を得ることができるようになる。
[図20説明]図20A,図20Bは,ステップ1705およびステップ1902において局所領域に対して荷電粒子ビームを走査して画像を取得する際,荷電粒子ビームを走査する局所領域を設定する一実施例図である。図20Aでは,試料の撮像対象領域を表す画像の上に,荷電粒子ビームを走査する領域を斜線のハッチで示している。また,荷電粒子ビームの走査方向を画像上の矢印で示している。荷電粒子ビームを走査する領域は,設計データを用いて求めても良いし,既に取得した画像を用いて求めても良い。画像2001は,下層領域に対してビームを走査する例である。暗部は,例えば画像の明度値があるしきい値を下回る領域として抽出することもできるし,しきい値を下回った領域に対して拡大および縮小等の後処理を施すことによって抽出することもできる。画像2002は,下層領域をある程度拡大して得られる,画像2001よりもやや広い領域に対して荷電粒子ビームを走査する例である。荷電粒子ビームを試料に照射すると試料が変形したり,荷電粒子ビームの走査位置の精度などを考慮すると,情報を取得したい領域よりも少し大きな領域を走査することが望ましい場合が多い。画像2003は,下層領域に挟まれた幅の狭い上層パターンの領域に対しても荷電粒子ビームを走査する例である。特定の局所領域に荷電粒子ビームを照射すると,試料が局所的に帯電するため例えば画像がぼやけやすい等の副作用が起こりうる。上層パターンの領域を走査しても撮像時間が十分短いならば,この例のように上層パターンであっても走査したほうが良い場合も多い。画像2004は,縦方向に細長い領域2011と横方向に細長い領域2012に対して荷電粒子ビームを走査する例である。縦方向に細長い領域2011では縦方向に走査し,一方で横方向に細長い領域2012では横方向に走査するといったように,荷電粒子ビームを走査する方向を変えても良い。画像2005は,荷電粒子ビームを走査する領域が,斜め方向に細長い領域2013を含む例である。この場合には,荷電粒子ビームを斜め方向に走査しても良い。
図20Bは,ステップ1702での画像取得を1回,ステップ1705またはステップ1902での画像取得を2回,計3回の画像取得を行う例である。試料の撮像対象領域を表す画像の上に,2回目の画像取得において荷電粒子ビームを走査する領域を波線のハッチで示している。また,2回目と3回目の画像取得において荷電粒子ビームを走査する領域を斜線のハッチで示している。画像2006は,ホールパターン2014と下層領域を含む例であり,ホールパターンは暗部ではあるが,下層領域と比べると多くの信号量が得られるような例である。ホールパターンでは2回目の画像取得のみ,ホールパターンとその近傍の領域に対して荷電粒子ビームを走査し,一方,下層領域は2回目と3回目の画像取得の対象とする。このように,領域毎に,荷電粒子ビームを走査する回数を変更することもできる。
[図21説明]図21は,ステップ1705およびステップ1902で荷電粒子ビームを走査する局所領域を求めるシーケンスの一実施例図である。まず,ステップ2101で暗部を抽出する。次に,ステップ2102で抽出した領域を膨張する。本ステップにより,例えば画像2002や画像2003のように暗部よりも広い領域を荷電粒子ビームを走査する領域と設定することができる。次に,ステップ2103で膨張した領域を整形する。荷電粒子ビームを高速に走査するためには,走査する領域はある程度単純な形状であったほうが良いため,本ステップにて単純な形状に整形する。続いて,ステップ2104で領域の形状に基づいて走査方向を決定する。最後に,ステップ2105で走査回数を決定する。ステップ2105の走査回数の決定は,予め荷電粒子ビームを何回走査すれば良いかがある程度精度良く求まる場合には求めておき,例えばステップ1704で画像取得を継続するか否かを判定する際などの参考情報として用いても良い。一方,予め荷電粒子ビームを何回走査すれば良いかを求めることが困難な場合には,画像を取得する毎に,荷電粒子ビームを走査する局所領域を求めても良く,その場合にはステップ2105は行わなくても良い。
[図22説明]図22Aは異なる領域に対してゲイン値を変えて取得した複数枚の画像を合成するシーケンスの一実施例図である。ステップ1001〜1007は図10と同じである。ステップ1002またはステップ1003の前に,ステップ2211により第kの撮像箇所に移動する。これにより,試料上の同じ領域ではなく異なる領域に対して第1〜第Kの画像を取得する。ただし,試料上の異なる領域ではあるが,類似のパターンがある領域について走査を行う。撮像対象が半導体パターンの場合,類似の領域を走査することは容易に行うことができる。この例を図22Bを用いて説明する。通常1枚のウェハ内2201には複数のチップが存在し(斜線のハッチで示した正方形が一つのチップを表す),各チップは同一のパターンから構成されている。そこで,異なるチップの同一箇所(例えば2202,2203,2204)を走査すれば,類似の画像を得ることができる。または,メモリ等では同一のチップであっても繰り返しパターンが多く含まれる(例えば2205,2206)。設計データを用いれば,これらの類似領域を探すことは容易であるし,別の方法として,広視野の画像を撮像して,その画像を用いて類似領域を探しても良い。光顕微鏡など,別の装置で撮像した画像を用いて探しても良い。
[図22効果]試料上の同じ領域を撮像すると,試料の材質によっては試料にダメージを与えたり,試料を変形させるなどの副作用もある。そこで,このように異なる領域ではあるが類似の画像が得られる領域に対して画像を取得することによって,試料の同一箇所に与えるダメージ等を抑えた上での画像撮像が可能となる。
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。本発明によれば,荷電粒子顕微鏡画像に対して,検出器のゲインを異なるゲイン値に設定してそれぞれ画像を取得し,画像取得時のゲイン値を用いて取得した画像を合成することによって,暗部を含む全領域において良好な画質を得ることができる。また,暗部から十分な信号量が得られるまで,暗部を含む局所領域に対して荷電粒子ビームを照射することによって,暗部から十分な信号量を得ることができ,高画質な画像を撮像することができる。