本発明の潤滑油組成物においては、100℃における動粘度が1〜5mm2/sである潤滑油基油(以下、「本発明に係る潤滑油基油」という。)が用いられる。
本発明に係る潤滑油基油は、100℃における動粘度が上記条件を満たしていれば特に制限されない。具体的には、原油を常圧蒸留および/または減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理のうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、あるいはノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油などのうち、100℃における動粘度が上記条件を満たす基油が使用できる。
本発明に係る潤滑油基油の好ましい例としては、以下に示す基油(1)〜(8)を原料とし、この原料油および/またはこの原料油から回収された潤滑油留分を、所定の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる基油を挙げることができる。
(1)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留による留出油
(2)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留による留出油(WVGO)
(3)潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等)および/またはガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等)
(4)基油(1)〜(3)から選ばれる1種または2種以上の混合油および/または当該混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油
(5)基油(1)〜(4)から選ばれる2種以上の混合油
(6)基油(1)、(2)、(3)、(4)または(5)の脱れき油(DAO)
(7)基油(6)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)
(8)基油(1)〜(7)から選ばれる2種以上の混合油。
なお、上記所定の精製方法としては、水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製;フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製;溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう;酸性白土や活性白土などによる白土精製;硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸またはアルカリ)洗浄などが好ましい。本発明では、これらの精製方法のうちの1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。また、2種以上の精製方法を組み合わせる場合、その順序は特に制限されず、適宜選定することができる。
更に、本発明に係る潤滑油基油としては、上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分について所定の処理を行うことにより得られる下記基油(9)または(10)が特に好ましい。
(9)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解鉱油
(10)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化異性化し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または、当該脱ろう処理をしたあとに蒸留することによって得られる水素化異性化鉱油。
また、上記(9)または(10)の潤滑油基油を得るに際して、好都合なステップで、必要に応じて溶剤精製処理および/または水素化仕上げ処理工程を更に設けてもよい。
また、上記水素化分解・水素化異性化に使用される触媒は特に制限されないが、分解活性を有する複合酸化物(例えば、シリカアルミナ、アルミナボリア、シリカジルコニアなど)または当該複合酸化物の1種類以上を組み合わせてバインダーで結着させたものを担体とし、水素化能を有する金属(例えば周期律表第VIa族の金属や第VIII族の金属などの1種類以上)を担持させた水素化分解触媒、あるいはゼオライト(例えばZSM−5、ゼオライトベータ、SAPO−11など)を含む担体に第VIII族の金属のうち少なくとも1種類以上を含む水素化能を有する金属を担持させた水素化異性化触媒が好ましく使用される。水素化分解触媒および水素化異性化触媒は、積層または混合などにより組み合わせて用いてもよい。
水素化分解・水素化異性化の際の反応条件は特に制限されないが、水素分圧0.1〜20MPa、平均反応温度150〜450℃、LHSV0.1〜3.0hr−1、水素/油比50〜20000scf/bとすることが好ましい。
本発明に係る潤滑油基油の100℃動粘度は、5mm2/s以下であることが必要であり、好ましくは4.9mm2/s以下、より好ましくは4.8mm2/s以下、さらに好ましくは4.7mm2/s以下、特に好ましくは4.6mm2/s以下、最も好ましくは4.5mm2/s以下である。一方、当該100℃動粘度は、1mm2/s以上であることが必要であり、1.5mm2/s以上であることが好ましく、より好ましくは2mm2/s以上、さらに好ましくは2.5mm2/s以上、特に好ましくは3mm2/s以上である。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。潤滑油基油成分の100℃動粘度が20mm2/sを超える場合には、低温粘度特性が悪化し、また十分な省燃費性が得られないおそれがあり、1mm2/s未満の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがある。
本発明においては、100℃における動粘度が下記の範囲にある潤滑油基油を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。
(I)100℃における動粘度が1.5mm2/s以上3.5mm2/s未満、より好ましくは2.0〜3.0mm2/sの潤滑油基油
(II)100℃における動粘度が3.5mm2/s以上4.5mm2/s未満、より好ましくは3.5〜4.1mm2/sの潤滑油基油
(III)100℃における動粘度が4.5〜10mm2/s、より好ましくは4.8〜9mm2/s、特に好ましくは5.5〜8.0mm2/sの潤滑油基油。
また、本発明に係る潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは80mm2/s以下、より好ましくは50mm2/s以下、さらに好ましくは20mm2/s以下、特に好ましくは18mm2/s以下、最も好ましくは16mm2/s以下である。一方、当該40℃動粘度は、好ましくは6.0mm2/s以上、より好ましくは8.0mm2/s以上、さらに好ましくは12mm2/s以上、特に好ましくは14mm2/s以上、最も好ましくは15mm2/s以上である。潤滑油基油成分の40℃動粘度が80mm2/sを超える場合には、低温粘度特性が悪化し、また十分な省燃費性が得られないおそれがあり、6.0mm2/s以下の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがある。また、本発明においては、40℃における動粘度が下記の範囲にある潤滑油留分を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。
(IV)40℃における動粘度が6.0mm2/s以上12mm2/s未満、より好ましくは8.0〜12mm2/sの潤滑油基油
(V)40℃における動粘度が12mm2/s以上28mm2/s未満、より好ましくは13〜19mm2/sの潤滑油基油
(VI)40℃における動粘度が28〜50mm2/s、より好ましくは29〜45mm2/s、特に好ましくは30〜40mm2/sの潤滑油基油。
本発明に係る潤滑油基油の粘度指数は、120以上であることが好ましい。また、上記潤滑油基油(I)および(IV)の粘度指数は、好ましくは120〜135、より好ましくは120〜130である。また、上記潤滑油基油(II)および(V)の粘度指数は、好ましくは120〜160、より好ましくは125〜150、更に好ましくは135〜145である。また、上記潤滑油基油(III)および(VI)の粘度指数は、好ましくは120〜180、より好ましくは125〜160である。粘度指数が前記下限値未満であると、粘度−温度特性および熱・酸化安定性、揮発防止性が悪化するだけでなく、摩擦係数が上昇する傾向にあり、また、摩耗防止性が低下する傾向にある。また、粘度指数が前記上限値を超えると、低温粘度特性が低下する傾向にある。
なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
また、本発明に係る潤滑油基油の15℃における密度(ρ15)は、潤滑油基油成分の粘度グレードによるが、下記式(B)で表されるρの値以下であること、すなわちρ15≦ρであることが好ましい。
ρ=0.0025×kv100+0.816 (B)
[式中、kv100は潤滑油基油成分の100℃における動粘度(mm2/s)を示す。]
なお、ρ15>ρとなる場合、粘度−温度特性および熱・酸化安定性、更には揮発防止性および低温粘度特性が低下する傾向にあり、省燃費性を悪化させるおそれがある。また、潤滑油基油成分に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下するおそれがある。
具体的には、本発明に係る潤滑油基油の15℃における密度(ρ15)は、好ましくは0.860以下、より好ましくは0.850以下、さらに好ましくは0.840以下、特に好ましくは0.822以下である。
なお、本発明でいう15℃における密度とは、JIS K 2249−1995に準拠して15℃において測定された密度を意味する。
また、本発明に係る潤滑油基油の流動点は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、例えば、上記潤滑油基油(I)および(IV)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下である。また、上記潤滑油基油(II)および(V)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−15℃以下、更に好ましくは−17.5℃以下である。また、上記潤滑油基油(III)および(VI)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下である。流動点が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう流動点とは、JIS K 2269−1987に準拠して測定された流動点を意味する。
また、本発明の潤滑油基油のアニリン点(AP(℃))は、潤滑油基油の粘度グレードによるが、下記式(C)で表されるAの値以上であること、すなわちAP≧Aであることが好ましい。
A=4.3×kv100+100 (C)
[式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm2/s)を示す。]
なお、AP<Aとなる場合、粘度−温度特性および熱・酸化安定性、更には揮発防止性および低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
例えば、上記潤滑油基油(I)および(IV)のAPは、好ましくは108℃以上、より好ましくは110℃以上である。また、上記潤滑油基油(II)および(V)のAPは、好ましくは113℃以上、より好ましくは119℃以上である。また、上記潤滑油基油(III)および(VI)のAPは、好ましくは125℃以上、より好ましくは128℃以上である。なお、本発明でいうアニリン点とは、JIS K 2256−1985に準拠して測定されたアニリン点を意味する。
本発明に係る潤滑油基油のヨウ素価は、好ましくは3以下であり、より好ましくは2以下であり、さらに好ましくは1以下、特に好ましくは0.9以下であり、最も好ましくは0.8以下である。また、0.01未満であってもよいが、それに見合うだけの効果が小さい点および経済性との関係から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.03以上、特に好ましくは0.05以上である。潤滑油基油成分のヨウ素価を3以下とすることで、熱・酸化安定性を飛躍的に向上させることができる。なお、本発明でいうヨウ素価とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、ヨウ素価、水酸基価および不ケン化価」の指示薬滴定法により測定したヨウ素価を意味する。
また、本発明に係る潤滑油基油における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない潤滑油基油を得ることができる。また、潤滑油基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる潤滑油基油中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。本発明に係る潤滑油基油においては、熱・酸化安定性の更なる向上および低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、10質量ppm以下であることが更に好ましく、5質量ppm以下であることが特に好ましい。
また、本発明に係る潤滑油基油における窒素分の含有量は、特に制限されないが、好ましくは7質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下、更に好ましくは3質量ppm以下である。窒素分の含有量が5質量ppmを超えると、熱・酸化安定性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう窒素分とは、JIS K 2609−1990に準拠して測定される窒素分を意味する。
また、本発明に係る潤滑油基油におけるNOACK蒸発量は特に制限はないが、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは9質量%以下、最も好ましくは8質量%以下である。NOACK蒸発量が上記上限値以下であると、低蒸発性とすることが可能であると共に、清浄性を向上することが可能となる。また、NOACK蒸発量は1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。NOACK蒸発量が上記下限値以下であると、必要とする省燃費性が得られないばかりでなく、低温粘度特性が悪化するおそれがある。なお、本発明でいうNOACK蒸発量とは、ASTMD 5800−95に準拠して測定された蒸発損失量(測定条件:250℃、1時間)を意味する。
また、本発明に係る潤滑油基油の%Cpは、70以上であることが好ましく、より好ましくは80〜99、さらに好ましくは85〜95、特に好ましくは87〜94、最も好ましくは90〜94である。潤滑油基油の%Cpが上記下限値未満の場合、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、潤滑油基油の%Cpが上記上限値を超えると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
また、本発明に係る潤滑油基油の%CAは、2以下であることが好ましく、より好ましくは1以下、さらに好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.5以下である。潤滑油基油の%CAが上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および省燃費性が低下する傾向にある。
また、本発明に係る潤滑油基油の%CNは、好ましくは30以下、より好ましくは4〜25、更に好ましくは5〜13、特に好ましくは5〜8である。潤滑油基油の%CNが上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性が低下する傾向にある。また、%CNが上記下限値未満であると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
なお、本発明でいう%CP、%CNおよび%CAとは、それぞれASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、および芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%CP、%CNおよび%CAの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものであり、例えばナフテン分を含まない潤滑油基油であっても、上記方法により求められる%CNが0を超える値を示すことがある。
また、本発明に係る潤滑油基油における飽和分の含有量は、100℃における動粘度ならびに%Cpおよび%CAが上記条件を満たしていれば特に制限されないが、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上であり、また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは40質量%以下であり、好ましくは35質量%以下であり、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、更に好ましくは21質量%以下である。また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。飽和分の含有量および当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性および熱・酸化安定性を向上することができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、本発明によれば、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。
なお、本発明でいう飽和分とは、前記ASTM D 2007−93に記載された方法により測定される。
また、飽和分の分離方法、あるいは環状飽和分、非環状飽和分等の組成分析の際には、同様の結果が得られる類似の方法を使用することができる。例えば、上記の他、ASTM D 2425−93に記載の方法、ASTM D 2549−91に記載の方法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法、あるいはこれらの方法を改良した方法等を挙げることができる。
また、本発明に係る潤滑油基油における芳香族分は、100℃における動粘度、%Cpおよび%CAが上記条件を満たしていれば特に制限されないが、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下であり、また、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、特に好ましくは1.5質量%以上である。芳香族分の含有量が上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性、更には揮発防止性および低温粘度特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、本発明に係る潤滑油基油は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量を上記下限値以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
なお、本発明でいう芳香族分とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレンおよびこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮合した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
また、本発明に係る潤滑油基油における尿素アダクト値は、粘度−温度特性を損なわずに低温粘度特性を改善し、かつ高い熱伝導性を得る観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2.5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。また、尿素アダクト値は、0質量%でも良いが、十分な低温粘度特性と、より粘度指数の高い潤滑油基油を得ることができ、また脱ろう条件を緩和して経済性にも優れる点で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは0.8質量%以上である。
ここで、尿素アダクト値とは、以下の方法により測定される値を意味する。
秤量した試料油100gを丸底フラスコに入れ、尿素200mg、トルエン360ml及びメタノール40mlを加えて室温で6時間攪拌する。これにより、反応液中に尿素アダクト物として白色の粒状結晶が生成する。反応液を1ミクロンフィルターでろ過することにより、生成した白色粒状結晶を採取し、得られた結晶をトルエン50mlで6回洗浄する。回収した白色結晶をフラスコに入れ、純水300ml及びトルエン300mlを加えて80℃で1時間攪拌する。分液ロートで水相を分離除去し、トルエン相を純水300mlで3回洗浄する。トルエン相に乾燥剤(硫酸ナトリウム)を加えて脱水処理を行った後、トルエンを留去する。このようにして得られた尿素アダクト物の試料油に対する割合(質量百分率)を尿素アダクト値と定義する。
尿素アダクト値の測定においては、尿素アダクト物として、イソパラフィンのうち低温粘度特性に悪影響を及ぼす成分、あるいは熱伝導性を悪化させる成分、さらには潤滑油基油中にノルマルパラフィンが残存している場合の当該ノルマルパラフィンを、精度よく且つ確実に捕集することができるため、潤滑油基油の低温粘度特性および熱伝導性の評価指標として優れている。なお、本発明者らは、GC及びNMRを用いた分析により、尿素アダクト物の主成分が、ノルマルパラフィン及び主鎖の末端から分岐位置までの炭素数が6以上であるイソパラフィンの尿素アダクト物であることを確認している。
本発明の潤滑油組成物においては、上記本発明に係る潤滑油基油を単独で用いてもよく、また、本発明に係る潤滑油基油を他の基油の1種または2種以上と併用してもよい。なお、本発明に係る潤滑油基油と他の基油とを併用する場合、それらの混合基油中に占める本発明に係る潤滑油基油の割合は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
本発明に係る潤滑油基油と併用される他の基油としては、特に制限されないが、例えば100℃における動粘度が5〜500mm2/sであって、%Cpおよび%CAが上記条件を満たしていない、溶剤精製鉱油、水素化分解鉱油、水素化精製鉱油、溶剤脱ろう基油等の鉱油系基油、あるいは合成系基油などが挙げられる。本発明に係る潤滑油基油に、他の基油を配合することにより、潤滑油組成物の高温清浄性が向上する。
本発明の潤滑油組成物において他の基油として鉱油系基油を用いる場合、100℃における動粘度は5〜500mm2/sであることが好ましく、好ましくは5.3mm2/s以上、より好ましくは5.5mm2/s以上、更に好ましくは5.7mm2/s以上、最も好ましくは5.9mm2/s以上である。また、上限値としてより好ましくは100mm2/s以下、さらに好ましくは50mm2/s以下、特に好ましくは30mm2/s以下、最も好ましくは20mm2/s以下、さらに最も好ましくは10mm2/s以下である。他の基油の100℃における動粘度が5mm2/s未満である場合には、高温清浄性が低下するおそれがあり、100℃における動粘度が500mm2/sを超える場合には粘度温度特性が悪化し、必要とする省燃費性が得られないばかりでなく、低温粘度特性が悪化するおそれがある。
他の基油の粘度指数は特に制限はないが、好ましくは80以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは120以上、特に好ましくは130以上、最も好ましくは135以上である。また好ましくは180以下、より好ましくは170以下、更に好ましくは160以下、特に好ましくは150以下である。粘度指数が前記下限値未満であると、省燃費性や低温粘度特性が悪化するだけでなく熱・酸化安定性、揮発防止性が悪化する傾向にある。また、粘度指数が前記上限値を超えると、低温粘度特性が大幅に悪化する傾向にある。
他の基油のNOACK蒸発量は特に制限はないが、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは8質量%以下、最も好ましくは7質量%以下である。NOACK蒸発量が上記上限値以下であると、低蒸発性とすることが可能であると共に、清浄性を向上することが可能となる。また、NOACK蒸発量は1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。NOACK蒸発量が上記下限値以下であると、必要とする省燃費性が得られないばかりでなく、低温粘度特性が悪化するおそれがある。
合成系基油としては、例えば、ポリ−α−オレフィンまたはその水素化物、イソブテンオリゴマーまたはその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテルが挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー、例えば、1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマーおよびそれらの水素化物が挙げられる。
ポリ−α−オレフィンの製法は特に制限されないが、例えば、三塩化アルミニウムまたは三フッ化ホウ素と、水、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、カルボン酸またはエステルとの錯体を含むフリーデル・クラフツ触媒のような重合触媒の存在下、α−オレフィンを重合する方法が挙げられる。
本発明において用いることのできる粘度指数向上剤は、核磁気共鳴分析(13C−NMR)により得られるスペクトルにおいて、全ピークの合計面積に対する化学シフト51−52.5ppmの間のピークの合計面積M1と化学シフト64−66ppmの間のピークの合計面積M2の比M1/M2が0.50以上となるものである。
M1/M2は好ましくは1.0以上であり、さらに好ましくは2.0以上であり、特に好ましくは3.0以上であり、最も好ましくは4.0以上である。また、M1/M2は好ましくは10以下であり、さらに好ましくは9.0以下であり、特に好ましくは8.0以下であり、最も好ましくは7.0以下である。M1/M2が0.50未満の場合は、必要とする省燃費性が得られないばかりでなく、低温粘度特性が悪化するおそれがある。また、M1/M2が10を超える場合は、必要とする省燃費性が得られないばかりでなく、溶解性や貯蔵安定性が悪化する恐れがある。
なお、核磁気共鳴分析(13C−NMR)スペクトルは、粘度指数向上剤に希釈油が含まれる場合は、希釈油をゴム膜透析等により分離したポリマーについて得られるものである。
全ピークの合計面積に対する化学シフト51−52.5ppmの間のピークの合計面積(M1)は、13C−NMRにより測定される、全炭素の積分強度の合計に対するポリメタアクリレート側鎖の特定のメチル構造に由来する積分強度の割合を意味し、全ピークの合計面積に対する化学シフト64−66ppmの間のピークの合計面積(M2)は、13C−NMRにより測定される、全炭素の積分強度の合計に対するポリメタアクリレート側鎖の特定の直鎖構造に由来する積分強度の割合を意味する。
M1/M2はポリメタクリレート側鎖の特定のメチル構造と特定の直鎖構造の割合を意味するが、同等の結果が得られるのであればその他の方法を用いてもよい。なお、13C−NMR測定にあたっては、サンプルとして試料0.5gに3gの重クロロホルムを加えて希釈したものを使用し、測定温度は室温、共鳴周波数は125MHzとし、測定法はゲート付デカップリング法を使用した。
上記分析により、
(a)化学シフト約10−70ppmの積分強度の合計(炭化水素の全炭素に起因する積分強度の合計)、及び
(b)化学シフト51−52.5ppmの積分強度の合計(特定のメチル構造に起因する積分強度の合計)、及び
(c)化学シフト64−66ppmの積分強度の合計(特定の直鎖構造に起因する積分強度の合計)
をそれぞれ測定し、(a)100%とした時の(b)の割合(%)を算出しM1とした。
また、(a)100%とした時の(c)の割合(%)を算出しM2とした。
本発明において用いられる粘度指数向上剤は、ポリ(メタ)アクリレートであることが好ましく、かつ、下記式(1)で表される構造単位の割合が0.5〜70モル%の重合体であることが好ましい。粘度指数向上剤は、非分散型あるいは分散型のいずれであっても良い。
[式(1)中、R
1は水素またはメチル基を示し、R
2は炭素数16以上の直鎖または分枝状の炭化水素基、あるいは、酸素および/または窒素を含有する炭素数16以上の直鎖または分枝状の有機基を示す。]
式(1)中のR2は、炭素数16以上の直鎖状または分枝状の炭化水素基であることが好ましく、より好ましくは炭素数18以上の直鎖状または分枝状の炭化水素であり、さらに好ましくは炭素数20以上の直鎖状または分枝状の炭化水素であり、特に好ましくは炭素数20以上の分枝状炭化水素基である。また、R2で表される炭化水素基の上限は特に制限されないが、炭素数100以下の直鎖状または分枝状の炭化水素基であることが好ましい。より好ましくは50以下の直鎖状または分枝状の炭化水素であり、さらに好ましくは30以下の直鎖状または分枝状の炭化水素であり、特に好ましくは30以下の分枝状の炭化水素であり、最も好ましくは25以下の分枝状の炭化水素である。
また、上記粘度指数向上剤において、ポリマー中の一般式(1)で表される(メタ)アクリレート構造単位の割合は、上述の通り0.5〜70モル%であることが好ましく、好ましくは60モル%以下であり、より好ましくは50モル%以下であり、さらに好ましくは40モル%以下であり、特に好ましくは30モル%以下である。また、好ましくは1モル%以上であり、より好ましくは3モル%以上であり、さらに好ましくは5モル%以上であり、特に好ましくは10モル%以上である。70モル%を超える場合は粘度温度特性の向上効果や低温粘度特性に劣るおそれがあり、0.5モル%を下回る場合は粘度温度特性の向上効果に劣るおそれがある。
上記粘度指数向上剤は、一般式(1)で表される(メタ)アクリレート構造単位以外に任意の(メタ)アクリレート構造単位もしくは任意のオレフィン等に由来する構造単位を含むことができる。
上記粘度指数向上剤の製造法は任意であるが、例えば、ベンゾイルパーオキシド等の重合開始剤の存在下で、モノマー(M−1)とモノマー(M−2)〜(M−4)の混合物をラジカル溶液重合させることにより容易に得ることができる。
上記粘度指数向上剤のPSSI(パーマネントシアスタビリティインデックス)は50以下であることが好ましく、より好ましくは40以下であり、さらに好ましくは35以下であり、特に好ましくは30以下である。また、5以上であることが好ましく、より好ましくは10以上であり、さらに好ましくは15以上であり、特に好ましくは20以上である。PSSIが5未満の場合には粘度指数向上効果が小さくコストが上昇するおそれがあり、PSSIが50を超える場合にはせん断安定性や貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
上記粘度指数向上剤の重量平均分子量(MW)は100,000以上であることが好ましく、より好ましくは200,000以上であり、さらに好ましくは250,000以上であり、特に好ましくは300,000以上である。また、好ましくは1,000,000以下であり、より好ましくは700,000以下であり、さらに好ましくは600,000以下であり、特に好ましくは500,000以下である。重量平均分子量が100,000未満の場合には粘度温度特性の向上効果や粘度指数向上効果が小さくコストが上昇するおそれがあり、重量平均分子量が1,000,000を超える場合にはせん断安定性や基油への溶解性、貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
上記粘度指数向上剤の数平均分子量(MN)は50,000以上であることが好ましく、より好ましくは800,000以上であり、さらに好ましくは100,000以上であり、特に好ましくは120,000以上である。また、好ましくは500,000以下であり、より好ましくは300,000以下であり、さらに好ましくは250,000以下であり、特に好ましくは200,000以下である。数平均分子量が50,000未満の場合には粘度温度特性の向上効果や粘度指数向上効果が小さくコストが上昇するおそれがあり、重量平均分子量が500,000を超える場合にはせん断安定性や基油への溶解性、貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
上記粘度指数向上剤の重量平均分子量とPSSIの比(MW/PSSI)は、0.8×104以上であることが好ましく、好ましくは1.0×104以上、より好ましくは1.5×104以上、さらに好ましくは1.8×104以上、特に好ましくは2.0×104以上である。MW/PSSIが0.8×104未満の場合には、粘度温度特性が悪化すなわち省燃費性が悪化するおそれがある。
上記粘度指数向上剤の重量平均分子量と数平均分子量の比(MW/MN)は、0.5以上であることが好ましく、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上、特に好ましくは2.1以上である。また、MW/MNは6.0以下であることが好ましく、より好ましくは4.0以下、さらに好ましくは3.5以下、特に好ましくは3.0以下である。MW/MNが0.5未満や6.0を超える場合には、基油への溶解性、貯蔵安定性が悪くなるだけでなく、粘度温度特性が悪化すなわち省燃費性が悪化するおそれがある。
上記粘度指数向上剤の40℃と100℃における動粘度の増粘比ΔKV40/ΔKV100は、4.0以下であることが好ましく、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.5以下、もっとも好ましくは2.3以下である。また、ΔKV40/ΔKV100は、0.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.0以上であり、さらに好ましくは1.5以上であり、特に好ましくは2.0以上である。ΔKV40/ΔKV100が0.5未満の場合には、粘度の増加効果や溶解性が小さくコストが上昇するおそれがあり、4.0を超える場合には、粘度温度特性の向上効果や低温粘度特性に劣るおそれがある。なお、ΔKV40はSK社製YUBASE4に粘度指数向上剤を3.0%添加したときの、40℃における動粘度の増加分を意味し、ΔKV100はSK社製YUBASE4に粘度指数向上剤を3.0%添加したときの、100℃における動粘度の増加分を意味する。
上記粘度指数向上剤の100℃と150℃におけるHTHS粘度の増粘比ΔHTHS100/ΔHTHS150は、2.0以下であることが好ましく、より好ましくは1.7以下、さらに好ましくは1.6以下、特に好ましくは1.55以下である。また、ΔHTHS100/ΔHTHS150は、0.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.0以上であり、さらに好ましくは1.2以上であり、特に好ましくは1.4以上である。0.5未満の場合には、粘度の増加効果や溶解性が小さくコストが上昇するおそれがあり、2.0を超える場合には、粘度温度特性の向上効果や低温粘度特性に劣るおそれがある。なお、ΔHTHS100はSK社製YUBASE4に粘度指数向上剤を3.0%添加したときの、100℃におけるHTHS粘度の増加分を意味し、ΔHTHS150はSK社製YUBASE4に粘度指数向上剤を3.0%添加したときの、150℃におけるHTHS粘度の増加分を意味する。また、ΔHTHS100/ΔHTHS150は100℃におけるHTHS粘度の増加分と150℃におけるHTHS粘度の増加分の比を意味する。ここでいう100℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される100℃での高温高せん断粘度を示す。また、150℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を示す。
本発明の潤滑油組成物における上記の粘度指数向上剤の含有量は、組成物全量基準で、0.01〜50質量%であることが必要であり、好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、特に好ましくは2質量%以上、最も好ましくは5質量%以上である。また、好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。上記粘度指数向上剤の含有量が0.1質量%より少なくなると、粘度指数向上効果や製品粘度の低減効果が小さくなることから、省燃費性の向上が図れなくなるおそれがある。また、50質量%よりも多くなると、製品コストが大幅に上昇すると共に、基油粘度を低下させる必要が出てくることから、厳しい潤滑条件(高温高せん断条件)における潤滑性能を低下させ、摩耗や焼き付き、疲労破壊等の不具合が発生原因となることが懸念される。
本発明の潤滑油組成物は、粘度指数向上剤としては、前記した粘度指数向上剤に加えて、通常の一般的な非分散型または分散型ポリ(メタ)アクリレート、非分散型または分散型エチレン−α−オレフィン共重合体またはその水素化物、ポリイソブチレンまたはその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体を、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体およびポリアルキルスチレン等を更に含有することができる。
本発明の潤滑油組成物においては、省燃費性能を更に高めるために、有機モリブデン化合物および無灰摩擦調整剤から選ばれる摩擦調整剤を含有させることができる。
有機モリブデン化合物としては、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメート等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物が挙げられる。
これら以外の硫黄を含有する有機モリブデン化合物としては、モリブデン化合物と、硫黄含有有機化合物あるいはその他の有機化合物との錯体等、あるいは、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等を挙げることができる。
モリブデン化合物としては、例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン;オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩またはアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデンが挙げられる。
硫黄含有有機化合物としては、例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステルが挙げられる。
有機モリブデン化合物としては、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物も用いることができる。
硫黄を含まない有機モリブデン化合物としては、例えば、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられ、中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩およびアルコールのモリブデン塩が好ましい。
本発明の潤滑油組成物において、有機モリブデン化合物を用いる場合、その含有量は特に制限されないが、組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上であり、また、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以下、特に好ましくは0.03質量%以下である。その含有量が0.001質量%未満の場合、潤滑油組成物の熱・酸化安定性が不十分となり、特に、長期間に渡って優れた清浄性を維持させることができなくなる傾向にある。一方、含有量が0.2質量%を超える場合、含有量に見合う効果が得られず、また、潤滑油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。
前記無灰摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、炭素数6〜50のアルキル基またはアルケニル基、特に炭素数6〜50の直鎖アルキル基または直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、アミド化合物、イミド化合物、エステル化合物が挙げられる。更には脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、ウレア系摩擦調整剤等の無灰摩擦調整剤が挙げられる。
本発明の潤滑油組成物において無灰摩擦調整剤を用いる場合、無灰摩擦調整剤の含有量は、組成物全量を基準として、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、また、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。無灰摩擦調整剤の含有量が0.01質量%未満であると、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、また3質量%を超えると、耐摩耗性添加剤などの効果が阻害されやすく、あるいは添加剤の溶解性が悪化する傾向にある。
本発明においては、有機モリブデン化合物または無灰摩擦調整剤のいずれか一方のみを用いてもよく、両者を併用してもよいが、より長期間にわたって摩擦低減効果を維持できることから無灰摩擦調整剤を用いることがより好ましい。
本発明の潤滑油組成物には、さらにその性能を向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤(または極圧剤)、腐食防止剤、防錆剤、流動点降下剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の添加剤を挙げることができる。
金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ金属スルホネートまたはアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネートまたはアルカリ土類金属フェネート、アルカリ金属サリシレートまたはアルカリ土類金属サリシレート等の正塩、塩基正塩または過塩基性塩が挙げられる。本発明では、これらからなる群より選ばれる1種または2種以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属系清浄剤、特にアルカリ土類金属系清浄剤を好ましく使用することができる。特にマグネシウム塩および/またはカルシウム塩が好ましく、カルシウム塩がより好ましく用いられる。
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤が使用でき、例えば、炭素数40〜400の直鎖もしくは分枝状のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するモノまたはビスコハク酸イミド、炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいは炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはこれらのホウ素化合物、カルボン酸、リン酸等による変成品が挙げられる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。具体的には、フェノール系無灰酸化防止剤としては、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)が、アミン系無灰酸化防止剤としては、例えば、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミンが挙げられる。
摩耗防止剤(または極圧剤)としては、潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤・極圧剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤が使用できる。具体的には、例えば、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類が挙げられる。これらの中では硫黄系極圧剤の添加が好ましく、特に硫化油脂が好ましい。
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、またはイミダゾール系化合物が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、または多価アルコールエステルが挙げられる。
流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマーが使用できる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、またはポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤が挙げられる。
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、またはβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリルが挙げられる。
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が0.1〜100mm2/s未満のシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコールが挙げられる。
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、それぞれその含有量は組成物全量基準で、好ましくは0.01〜10質量%である。
本発明の潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度と100℃におけるHTHS粘度の比が下記式(A)で表される条件を満たすことが必要である。当該比が0.50未満であると、必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
HTHS(100℃)/HTHS(150℃)≧0.50 (A)
[式中、HTHS(100℃)は100℃におけるHTHS粘度を示し、HTHS(150℃)は150℃におけるHTHS粘度を示す。]
また、同様の理由から、HTHS(100℃)/HTHS(150℃)は、より好ましくは0.51以上、さらに好ましくは0.52以上、特に好ましくは0.53以上、最も好ましくは0.54以上である。
本発明の潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は特に制限はないが、好ましくは3.5mPa・s以下、より好ましくは3.0mPa・s以下、さらに好ましくは2.8mPa・s以下、特に好ましくは2.7mPa・s以下である。また、好ましくは2.0mPa・s以上、より好ましくは2.1mPa・s以上、さらに好ましくは2.2mPa・s以上、特に好ましくは2.3mPa・s以上、最も好ましくは2.4mPa・s以上である。150℃におけるHTHS粘度が2.0mPa・s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、3.5mPa・sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
本発明の潤滑油組成物の100℃におけるHTHS粘度は特に制限はないが、好ましくは5.3mPa・s以下、より好ましくは5.2mPa・s以下、さらに好ましくは5.1mPa・s以下、特に好ましくは5.0mPa・s以下である。また、好ましくは3.5mPa・s以上、更に好ましくは3.8mPa・s以上、特に好ましくは4.0mPa・s以上、最も好ましくは4.2mPa・s以上である。100℃におけるHTHS粘度が3.5mPa・s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、5.3mPa・sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、3〜15mm2/sであることが好ましく、より好ましくは12mm2/s以下、さらに好ましくは10mm2/s以下、特に好ましくは9mm2/s以下、最も好ましくは8mm2/s以下である。また、本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、より好ましくは4mm2/s以上、さらに好ましくは5mm2/s以上、特に好ましくは6mm2/s以上、最も好ましくは7mm2/s以上である。100℃における動粘度が3mm2/s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、15mm2/sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
本発明の潤滑油組成物の40℃における動粘度は特に制限はないが、通常4〜80mm2/s、好ましくは50mm2/s以下、より好ましくは45mm2/s以下、更に好ましくは40mm2/s以下、特に好ましくは35mm2/s以下、最も好ましくは33mm2/s以下である。また、好ましくは10mm2/s以上、より好ましくは20mm2/s以上、さらに好ましくは25mm2/s以上、特に好ましくは27mm2/s以上である。40℃における動粘度が4mm2/s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、80mm2/sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
本発明の潤滑油組成物の粘度指数は特に制限はないが、140〜400の範囲であることが好ましく、より好ましくは180以上、さらに好ましくは190以上、一層好ましくは200以上、特に好ましくは210以上である。該粘度指数が140未満の場合には、HTHS粘度を維持しながら、省燃費性を向上させることが困難となるおそれがあり、さらに−35℃における低温粘度を低減させることが困難となるおそれがある。また、該粘度指数が400を超える場合には、低温流動性が悪化し、更に添加剤の溶解性やシール材料との適合性が不足することによる不具合が発生するおそれがある。
本発明の潤滑油組成物は、省燃費性、潤滑性および高温清浄性に優れ、ポリ−α−オレフィン系基油やエステル系基油等の合成油や低粘度鉱油系基油を用いない場合であっても、HTHS粘度を一定レベルに維持しながら、燃費向上にとって効果的である、潤滑油の40℃および100℃における動粘度および100℃のHTHS粘度を著しく低減させたものである。このような優れた特性を有する本発明の潤滑油組成物は、省燃費ガソリンエンジン油、省燃費ディーゼルエンジン油等の省燃費エンジン油として好適に使用することができる。
以下、実施例および比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1〜6、比較例1〜3]
実施例1〜6および比較例1〜3においては、以下に示す基油および添加剤を用いて表2に示す組成を有する潤滑油組成物を調製し、以下に示す評価を行った。基油1〜3の性状を表1に示す。
(基油)
基油1:n−パラフィン含有油を水素化分解/水素化異性化した基油
基油2:水素化分解基油
基油3:水素化分解基油
(添加剤)
A−1:非分散型ポリメタアクリレート(M1=5.8、M2=0.95、M1/M2=6.1、ΔKV40/ΔKV100=2.2、ΔHTHS100/ΔHTHS150=1.51、MW=400,000、PSSI=20、Mw/Mn=2.2、Mw/PSSI=20000)
A−2:非分散型ポリメタクリレート(M1=0.19、M2=3.69、M1/M2=0.05、ΔKV40/ΔKV100=4.4、ΔHTHS100/ΔHTHS150=2.15、MW=80,000、Mw/Mn=2.7、PSSI=5、Mw/PSSI=16000)
A−3:分散型ポリメタクリレート(M1=1.5、M2=3.52、M1/M2=0.43、ΔKV40/ΔKV100=3.3、ΔHTHS100/ΔHTHS150=1.79、MW=300,000、PSSI=40、Mw/Mn=4.0、Mw/PSSI=7500)
B−1(摩擦調整剤1):グリセリンモノオレエート
B−2(摩擦調整剤2):オレイルウレア
B−3(摩擦調整剤3):モリブデンジチオカーバメート
C−1(その他添加剤):金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、リン系摩耗防止剤、流動点降下剤、消泡剤等含有
<潤滑油組成物の評価>
実施例1〜6および比較例1〜3の各潤滑油組成物について、40℃および100℃における動粘度、粘度指数、100℃および150℃におけるHTHS粘度、−35℃におけるCCS粘度ならびにパネルコーキング試験におけるデポジット量を測定した。各測定は以下の評価方法により行った。結果を表2に示す。
(1)動粘度:ASTM D−445
(2)粘度指数:JIS K 2283−1993
(3)HTHS粘度:ASTM D4683
(4)CCS粘度:ASTM D5293
(5)高温清浄性試験:パネルコーキング試験機を用い、油温100℃、パネル温度280℃、はねかけ時間3時間、ON/OFFサイクル=15s/45s、の条件にて試験した後の、パネルに付着したデポジット量(mg)を測定した。
表2より、所定の粘度指数向上剤を添加した実施例1〜6の組成物は、粘度温度特性、低温粘度特性に優れている。さらに100℃動粘度5〜500mm2/sの高粘度基油を配合した実施例1〜3の組成物はデポジット量も少なく、高温清浄性にも優れている。それに対し所定以外の粘度指数向上剤を添加した比較例1〜3の組成物は動粘度(40℃)やHTHS粘度(100℃)が高く、粘度温度特性に劣る。