ところで、上記特許文献1に示された従来の車両のサスペンション装置においては、例えば、車両が路面に存在する段差を乗り越えて通過する際に、上方に向かうにつれて車両の後方側へ向かうように傾斜されている、すなわち、車両後方に向けて後傾しているサスペンションダンパ(ショックアブソーバ)の作動に伴って意図しない反力がトレーリングアームに伝達され、その結果、トレーリングアームの変位によって弾性ブッシュ(トレーリングアームブッシュ)が撓んで弾性エネルギーを過大に蓄える場合がある。この場合、弾性ブッシュ(トレーリングアームブッシュ)に蓄えられた弾性エネルギーが車両前後方向(すなわち、トレーリングアーム方向)におけるバネ下共振の発生と成長に大きな影響を与えて、乗り心地を悪化させる可能性がある。
このため、近年では、サスペンションダンパ(ショックアブソーバ)を、上方に向かうにつれて車両の前方側へ向かうように傾斜させて、すなわち、車両前方に向けて前傾させて配置しておき、段差を乗り越えて通過する際にサスペンションダンパ(ショックアブソーバ)が作動して反力を発生させても、この反力によるトレーリングアームの変位方向が弾性ブッシュ(トレーリングアームブッシュ)を撓ませる方向と逆方向となるように対策される場合がある。このように、サスペンションダンパ(ショックアブソーバ)を前傾させて配置することにより、弾性ブッシュ(トレーリングアームブッシュ)が蓄える弾性エネルギー量を低減させることができ、バネ下共振の発生と成長を抑制することができる。
このようにサスペンションダンパ(ショックアブソーバ)を前傾させて配置するためには、各車輪の周囲にサスペンションダンパ(ショックアブソーバ)を配置(搭載)するためのスペースを確保する必要がある。しかしながら、特に、インホイールモータ方式の車両では、各車輪位置にインホイールモータを設ける関係上、前傾させたサスペンションダンパ(ショックアブソーバ)を、例えば、インホイールモータとの干渉を回避させるように、搭載スペースを確保することは困難である。従って、インホイールモータ方式の車両では、サスペンションダンパ(ショックアブソーバ)を後傾させてトレーリングに接続した場合であっても、弾性ブッシュ(トレーリングアームブッシュ)が蓄える弾性エネルギーを適切に低減させて車両前後方向におけるバネ下共振の発生と成長を抑制することが望まれている。
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的の一つは、ショックアブソーバが後傾して配置されたトレーリングアーム式のサスペンション機構を有する車両に適用され、車輪で発生させる駆動力又は制動力を制御して車両前後方向におけるバネ下共振を抑制する車両の制駆動力制御装置を提供することにある。
係る目的を達成するための本発明による車両の制駆動力制御装置は、制駆動力発生機構と、トレーリングアーム式のサスペンション機構とを備えた車両に適用されるものである。前記制駆動力発生機構は、車両の車輪に独立して駆動力又は制動力を発生させるものであり、例えば、インホイールモータ等の電動機を採用することができる。前記トレーリングアーム式のサスペンション機構は、車両のバネ下に配置された前記車輪及び前記制駆動力発生機構を支持するトレーリングアーム、同トレーリングアームの車両前方側端部をバネ上に配置された車体に接続するトレーリングアームブッシュ、車両上方に向かうにつれて車両後方に傾斜して設けられて前記トレーリングアームの車両後方側端部を前記車体に接続するショックアブソーバを有する。
このような車両に適用される本発明による車両の制駆動力制御装置は、制御手段と、バネ下運動状態検出手段とを備える。前記制御手段は、前記制駆動力発生機構によって前記車輪に発生させる駆動力又は制動力を制御する。前記バネ下運動状態検出手段は、前記トレーリングアーム式のサスペンション機構を含んで構成される車両のバネ下の運動状態を検出する。
そして、本発明による車両の制駆動力制御装置の特徴の一つは、前記制御手段が、前記バネ下運動状態検出手段から取得した前記運動状態に応じて、前記ショックアブソーバの作動に伴って発生して伝達される力によって前記トレーリングアームが前記トレーリングアームブッシュの撓みを助長する方向に変位することを抑制するように、車両前後方向のバネ下の共振周波数における前記トレーリングアームブッシュの撓み状態を基準に前記制駆動力発生機構によって前記車輪に発生させる駆動力又は制動力を制御することにある。
この場合、より具体的に、前記バネ下運動状態検出手段は、例えば、車両のバネ下の運動状態として、前記バネ下における車両上下方向の加速度を検出することができる。そして、この場合には、前記制御手段は、例えば、前記バネ下運動状態検出手段から取得した前記バネ下における車両上下方向の加速度の向きに応じて、前記ショックアブソーバの作動に伴って発生して伝達される力によって前記トレーリングアームが前記トレーリングアームブッシュの撓みを助長する方向に変位することを抑制するように、前記制駆動力発生機構によって前記車輪に発生させる駆動力又は制動力を制御することができる。
更に、これらの場合においては、具体的に、前記バネ下運動状態検出手段は、例えば、車両のバネ下の運動状態として、前記ショックアブソーバの伸縮状態を検出することができる。そして、この場合には、前記制御手段は、例えば、前記バネ下運動状態検出手段から取得した前記ショックアブソーバの伸縮状態に応じて、前記ショックアブソーバの作動に伴って発生して伝達される力によって前記トレーリングアームが前記トレーリングアームブッシュの撓みを助長する方向に変位することを抑制するように、前記制駆動力発生機構によって前記車輪に発生させる駆動力又は制動力を制御することができる。
この場合、より具体的に、前記制御手段は、例えば、前記トレーリングアームブッシュが車両前後方向のバネ下の共振周波数における縮み及び伸びのうちの一方の撓み状態にある時点を基準とすることができる。そして、前記制御手段は、この基準とした撓み状態から1/2周期だけ経過した時点で前記制駆動力発生機構によって前記車輪に発生させる駆動力又は制動力を制御することができる。
これらの場合、更には、前記制御手段は、例えば、前記トレーリングアームブッシュが車両前後方向のバネ下の共振周波数における縮み及び伸びのうちの一方の撓み状態にある時点を基準とすることができ、この基準とした撓み状態から1/4周期だけ経過した時点で前記制駆動力発生機構によって前記車輪に発生させる駆動力又は制動力を制御することができる。
そして、これらの場合においては、前記制御手段は、例えば、前記ショックアブソーバの作動に伴って発生する力が伝達されて前記トレーリングアームが変位することによって撓む前記トレーリングアームブッシュの撓み変形量が予め設定された所定の変形量よりも大きくなった撓み状態を前記基準として決定することができる。
これらによれば、例えば、路面に存在する段差通過時等の外部入力によって、車両の車輪、制駆動力発生機構及びトレーリングアーム式のサスペンション機構を含む車両のバネ下が運動する状況で、制御手段が、バネ下の運動状態(例えば、上下方向の加速度やショックアブソーバの伸縮状態等)に応じて、制駆動力発生機構によって車輪に発生させる駆動力又は制動力を制御することにより、後傾させて配置されたショックアブソーバの作動に伴って発生して伝達される力によってトレーリングアームがトレーリングアームブッシュの撓みを助長する方向に変位することを抑制することができる。これにより、トレーリングアームがショックアブソーバから伝達される力によってトレーリングアームブッシュを過度に撓ませるように変位することを抑制することができて、トレーリングアームブッシュが過大な弾性エネルギーを蓄えることを効果的に抑制することができる。このため、例えば、車両前後方向におけるバネ下共振が発生する状況であっても、トレーリングアームブッシュが蓄える弾性エネルギー量を少なく抑えることができ、その結果、トレーリングアームブッシュの撓みに起因するバネ下共振の成長を効果的に抑制することができる。従って、極めて良好な乗り心地を確保することができる。
又、制御手段が制駆動力発生機構によって車輪に発生させる駆動力又は制動力を制御する際には、例えば、バネ下共振を発生又は成長させることが可能な程度、言い換えれば、バネ下共振を発生又は成長させる程度の弾性エネルギーを蓄えるまで伸びた状態又は縮んだ状態となったトレーリングアームブッシュの撓み状態を基準として車輪に発生させる駆動力又は制動力を制御することができる。これにより、実際にバネ下共振を発生させる又は成長させるように、或いは、更に弾性エネルギーを蓄えるようにトレーリングアームブッシュが縮んだり伸びたりする時点に合わせて、制御手段は制駆動力発生機構によって車輪に発生させる駆動力又は制動力を制御することができる。従って、トレーリングアームがショックアブソーバから伝達される力によってトレーリングアームブッシュを過度に撓ませるように変位することを適切なタイミングにより抑制することができて、より効果的にトレーリングアームブッシュの撓みに起因するバネ下共振の成長を効果的に抑制することができる。
更に、本発明による車両の制駆動力制御装置の他の特徴の一つは、前記制御手段が、前記ショックアブソーバの作動に伴って発生する力のうち、前記トレーリングアームの軸方向に伝達される分力を打ち消すための制駆動力を前記制駆動力発生機構によって前記車輪に発生させることにもある。
この場合、前記制御手段は、例えば、所定の周期関数に従い、前記分力を打ち消すための制駆動力を前記制駆動力発生機構によって前記車輪に発生させることができる。そして、より具体的には、前記制御手段は、例えば、前記所定の周期関数の1周期に渡り前記分力を打ち消すための制駆動力を前記制駆動力発生機構によって前記車輪に発生させることができる。
これらによれば、制御手段は、トレーリングアームの変位を抑制するため、より具体的には、ショックアブソーバの作動に伴ってトレーリングアームの軸方向に伝達される分力を打ち消すために制駆動力をトレーリングアームによって支持される車輪に発生させることができる。これにより、ショックアブソーバが後傾となるように配置される状況であっても、車輪に適宜制駆動力を発生させることによって確実にショックアブソーバからトレーリングアームの軸方向に伝達される分力を打ち消すことができる。従って、トレーリングアームがショックアブソーバから伝達される力によってトレーリングアームブッシュを過度に撓ませるように変位することを確実に抑制することができて、効果的にトレーリングアームブッシュの撓みに起因するバネ下共振の成長を効果的に抑制することができる。
更に、この場合、制御手段は、所定の周期関数に従って車輪に発生させる制駆動力を変動させることができる。このように、周期関数に従って、より詳しくは、周期関数の1周期に渡って、ショックアブソーバからトレーリングアームに伝達される分力を打ち消すための制駆動力を発生させる、言い換えれば、ショックアブソーバからトレーリングアームに伝達される分力を打ち消すための運動エネルギーを発生させることにより、車両に付与する制駆動力(運動エネルギー)の収支を「0」にすることができる。これにより、ショックアブソーバからトレーリングアームに伝達される分力を打ち消すための制駆動力を発生させる場合であっても、例えば、走行中の車両の車速に与える影響を最小限にとどめることができる。
以下、本発明の車両の制駆動力制御装置の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る車両の制駆動力制御装置が搭載される車両Veの構成を概略的に示している。
車両Veは、バネ下部材LAを構成する左右前輪10FL,10FR及び左右後輪10RL,10RRを備えている。尚、左右前輪10FL,10FR及び左右後輪10RL,10RRは、その構成が同一であるため、以下の説明においては単に車輪10とも称呼する。そして、左右前輪10FL,10FRは、それぞれ独立してサスペンション機構11FL,11FRを介して車両Veのバネ上部材HAを構成する車体Boに支持されている。ここで、左右前輪10FL,10FR側に配置されるサスペンション機構11FL,11FRは、例えば、ストラット型サスペンションや、ウィッシュボーン型サスペンション等の公知のサスペンション機構を採用することができる。このため、サスペンション機構11FL,11FRの構造に関しては、その説明を省略する。
左右後輪10RL,10RRは、それぞれ独立してサスペンション機構11RL,11RRを介して車両Veのバネ上部材HAを構成する車体Boに支持されている。サスペンション機構11RL,11RRは、トレーリングアーム式のサスペンション機構である。尚、左右後輪10RL,10RR側に配置されるサスペンション機構11RL,11RRは、ともに同一のトレーリングアーム式のサスペンション機構が採用されるため、以下の説明においては単にサスペンション機構11Rとも称呼し、又、トレーリングアーム式のサスペンション機構の構造自体は周知であって本発明に直接関係しないため、以下に簡単に説明する。
サスペンション11Rは、図2に示すように、バネ下部材LAを構成し、車輪10を回転可能に支持するトレーリングアーム12を備えている。トレーリングアーム12は、車両Veの前後方向に延伸していて、その一端側、より詳しくは、車両Veの前方側端は、トレーリングアームブッシュ13(以下、単に、ブッシュ13とも称呼する。)を介してバネ上部材HAを構成する車体Boに組み付けられている。これにより、トレーリングアーム12は、ブッシュ13を中心として、車両Veの上下方向に揺動することが可能であるとともに、ブッシュ13の弾性変形量に応じて車両Veの前後方向に変位することが可能となっている。
又、トレーリングアーム12の他端側、より詳しくは、車両Veの後方側端は、図2に示すように、サスペンションスプリング14及びショックアブソーバ15を介して、バネ上部材HAを構成する車体Boに組み付けられている。サスペンションスプリング14及びショックアブソーバ15は、これらの一端(上端)が車体Boに接続され、他端(下端)はトレーリングアーム12を介してバネ下部材LAを構成する車輪10に接続されている。サスペンションスプリング14は、路面から車輪10及びトレーリングアーム12(すなわち、バネ下部材LA)を介して車体Boを含むバネ上部材HAに伝達される振動を吸収するものであり、例えば、金属製のコイルスプリングや空気スプリング等が採用される。
ショックアブソーバ15は、路面からの前記振動を減衰するものである。このため、ショックアブソーバ15は、詳細な図示を省略するが、シリンダ、ピストン及びピストンロッドを備え、車体Bo(バネ上部材HA)に連結されたシリンダ内部に封入された粘性流体(例えば、オイル等)内をピストンロッドを介してトレーリングアーム12(バネ下部材LA)に連結されたピストンが移動するときに発生する粘性抵抗を減衰力として発生し、振動を減衰する。ここで、ショックアブソーバ15は、図2に示すように、車両Veの上下方向(鉛直方向)に対して車両Veの後方に向けて傾倒(後傾)した状態で、トレーリングアーム12と車体Bo(バネ上部材HA)との間に組み付けられている。これは、後述するように、各車輪10には電動機(インホイールモータ)が組み付けられるようになっており、この電動機(インホイールモータ)を搭載するためのスペースを確保するためである。
各車輪10のホイール内部には、図1に示すように、車両Veのバネ下部材LAを構成する制駆動力発生機構としてのインホイールモータ16FL,16FR,16RL,16RRが組み込まれており、それぞれ左右前輪10FL,10FR及び左右後輪10RL,10RRに動力伝達可能に連結されている。尚、インホイールモータ16FL,16FR,16RL,16RRは、その構成が同一であるため、以下の説明においては単にインホイールモータ16とも称呼する。そして、各インホイールモータ16FL,16FR,16RL,16RRの回転をそれぞれ独立して制御することにより、左右前輪10FL,10FR及び左右後輪10RL,10RRに発生させる駆動力及び制動力(以下、まとめて制駆動力とも称呼する。)をそれぞれ独立して制御することができるようになっている。
これらの各インホイールモータ16は、例えば、交流同期モータにより構成されている。そして、各インホイールモータ16には、図1に示すように、インバータ17を介して、バッテリやキャパシタ等の蓄電装置18の直流電力が交流電力に変換され、その交流電力が供給されるようになっている。これにより、各インホイールモータ16は、駆動制御(所謂、力行制御)されて、左右前輪10FL,10FR及び左右後輪10RL,10RRに対して駆動力を付与する。
又、各インホイールモータ16は、左右前輪10FL,10FR及び左右後輪10RL,10RRの回転エネルギーを利用して回生制御することができる。これにより、各インホイールモータ16の回生・発電時には、左右前輪10FL,10FR及び左右後輪10RL,10RRの回転(運動)エネルギーが各インホイールモータ16によって電気エネルギーに変換され、その際に生じる電力(回生電力)がインバータ17を介して蓄電装置18に蓄電される。このとき、各インホイールモータ16は、左右前輪10FL,10FR及び左右後輪10RL,10RRに対して回生発電に基づく制動力を付与する。尚、本実施形態においては、左右前輪10FL,10FRにインホイールモータ16FL,16FRを設けて実施するが、左右前輪10FL,10FR側についてはインホイールモータ16FL,16FRを省略して実施することも可能である。
更に、各車輪10と、これらに対応する各インホイールモータ16との間には、それぞれ、ブレーキ機構19FL,19FR,19RL,19RRが設けられている。尚、ブレーキ機構19FL,19FR,19RL,19RRは、例えば、ディスクブレーキやドラムブレーキ等の公知の同一の構成を採用することができるため、以下の説明においてはブレーキ機構19とも称呼する。ブレーキ機構19は、例えば、図示を省略するマスタシリンダから圧送される油圧により、各車輪10に制動力を生じさせるブレーキキャリパのピストンやブレーキシュー(ともに図示省略)等を動作させるブレーキアクチュエータ20に接続されている。
インバータ17及びブレーキアクチュエータ20は、各インホイールモータ16の回転状態及び各ブレーキ機構19の動作状態を制御する電子制御ユニット21にそれぞれ接続されている。電子制御ユニット21は、CPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするものであり、後述するプログラムを含む各種プログラムを実行して、各インホイールモータ16及び各ブレーキ機構19の作動を制御するものである。このため、電子制御ユニット21には、運転者による車両Veを走行させるための操作状態を検出する操作状態検出センサ22と、走行している車両Veの車体Bo(バネ上部材HA)に発生した運動状態を検出するバネ上運動状態検出センサ23と、走行している車両Veのバネ下部材LAに発生した運動状態を検出するバネ下運動状態検出手段としてのバネ下運動状態検出センサ24とを含む各種センサからの各信号及びインバータ17からの信号が入力されるようになっている。
ここで、操作状態検出センサ22は、例えば、図示を省略する操舵ハンドルに対する運転者の操作量(操舵角)を検出する操舵角センサや、図示を省略するアクセルペダルに対する運転者による操作量(踏み込み量や、角度、圧力等)を検出するアクセルセンサ、図示を省略するブレーキペダルに対する運転者による操作量(踏み込み量や、角度、圧力等)を検出するブレーキセンサ、車両Veの車速を検出する車速センサ等から構成される。又、バネ上運動状態検出センサ23は、例えば、車体Bo(バネ上部材HA)の上下方向における上下加速度を検出するバネ上上下加速度センサや、車体Boの左右方向における横加速度を検出する横加速度センサ、或いは、車体Boに発生したピッチレートを検出するピッチレートセンサ、車体Boに発生したロールレートを検出するロールレートセンサ、車両Veに発生したヨーレートを検出するヨーレートセンサ等から構成される。更に、バネ下運動状態検出センサ24は、例えば、サスペンション機構11FL,11FR,11RL,11RRを構成するショックアブソーバ15の各ストローク量を検出するストロークセンサや、各車輪10、インホイールモータ16及びサスペンション機構11FL,11FR,11RL,11RRを含む車両Veのバネ下部材LAの上下方向における上下加速度を検出するバネ下上下加速度センサ等から構成される。
このように、電子制御ユニット21に対して上記各センサ22〜24及びインバータ17が接続されて各信号が入力されることにより、電子制御ユニット21は車両Veの走行状態を制御することができる。
具体的に、電子制御ユニット21は、操作状態検出センサ22から入力される信号に基づいて、例えば、運転者がアクセルペダルを操作しているときには、この操作に伴うアクセル操作量に応じた目標前後駆動力、すなわち、車両Veを加速させるために各インホイールモータ16によって各車輪10が発生すべき目標制駆動力(駆動力)を演算することができる。又、電子制御ユニット21は、操作状態検出センサ22から入力される信号に基づいて、例えば、運転者がブレーキペダルを操作しているときには、この操作に伴うブレーキ操作量に応じた目標前後駆動力、すなわち、車両Veを減速させるために各インホイールモータ16及び各ブレーキ機構19が協調して各車輪10が発生すべき目標制駆動力(制動力)を演算することができる。
そして、電子制御ユニット21は、インバータ17から入力される信号、具体的には、力行制御時に各インホイールモータ16に供給される電力量や電流値を表す信号や、回生制御時に各インホイールモータ16から回生される電力量や電流値を表す信号に基づいて、目標制駆動力に対応する出力トルク(モータトルク)を各インホイールモータ16に発生させる。これにより、電子制御ユニット21は、インバータ17を介して各インホイールモータ16の回転をそれぞれ力行制御又は回生制御する信号や、ブレーキアクチュエータ20を介して各ブレーキ機構19の動作をそれぞれ制御する信号を出力することができる。従って、電子制御ユニット21は、少なくとも、操作状態検出センサ22から入力される信号に基づいて車両Veに要求される目標前後駆動力を求め、その目標前後駆動力を発生させるように各インホイールモータ16の力行・回生状態、及び、ブレーキアクチュエータ20すなわちブレーキ機構19の動作をそれぞれ制御する信号を出力することにより、車両Veの走行状態を制御することができる。
又、電子制御ユニット21は、操作状態検出センサ22、バネ上運動状態検出センサ23及びバネ下運動状態検出センサ24から入力される信号に基づいて、車体Bo(バネ上部材HA)の挙動を制御することもできる。
具体的に、電子制御ユニット21は、車体Bo(バネ上部材HA)の挙動を制御するときには、各インホイールモータ16によって各車輪10のそれぞれが発生する制駆動力を独立的に制御する。これにより、電子制御ユニット21は、各車輪10における制駆動力に起因してサスペンション機構11FL,11FR,11RL,11RRの反力として発生して車体Bo(バネ上部材HA)に作用する上下力を用いて、車体Bo(バネ上部材HA)に発生した挙動としてのピッチ挙動、ヒーブ挙動(上下挙動)及びロール挙動を制御することができる。すなわち、電子制御ユニット21は、操作状態検出センサ22、バネ上運動状態検出センサ23及びバネ下運動状態検出センサ24から入力したそれぞれの信号を用いて、目標前後駆動力、目標ピッチモーメント、目標ヒーブ力、目標ロールモーメントを演算する。尚、バネ上運動状態検出センサ23から入力する信号としては、例えば、車両Veのヨーレート、車体Boのピッチレート、ロールレート、バネ上上下加速度等であり、バネ下運動状態検出センサ24から入力する信号としては、例えば、段差通過に伴うサスペンション機構11FL,11FR,11RL,11RRのストローク量やバネ下部材LAのバネ下上下加速度等である。
そして、電子制御ユニット21は、演算した目標前後駆動力を発生させるために各車輪10に発生させる各目標制駆動力を演算するとともに、目標ピッチモーメント、目標ヒーブ力、目標ロールモーメントを、例えば、車両Veの重心位置にて発生させるために各車輪10に発生させる各目標制駆動力を演算する。具体的には、電子制御ユニット21は、車両Veに要求される駆動力又は制動力を配分して、インホイールモータ16が各車輪10に発生させる各制駆動力を演算する。これにより、電子制御ユニット21は、車両Veを適切に走行させるとともに、各車輪10にそれぞれ発生させる制駆動力に起因して車体Bo(バネ上部材HA)に作用する(入力する)上下力を用いて、車体Bo(バネ上部材HA)に発生したピッチ挙動、ヒーブ挙動及びロール挙動を制御することができる。
ところで、上述したようにの左右後輪10RL,10RR側にトレーリングアーム式のサスペンション機構11Rを備える車両Veが路面に存在する段差等の凸部を通過する場合には、左右後輪10RL,10RR側のバネ下部材LAに共振現象(以下、単にバネ下共振と称呼する。)が発生し、乗り心地を悪化させる(乗員が段差通過に伴ってゴツゴツ感を知覚する)場合がある。以下、このことを具体的に説明する。
上述した図2に示したように、車両Veの左右後輪10RL,10RR側に設けられるサスペンション機構11RL,11RRは、一端部(車両Veの前方側端部)がトレーリングアームブッシュ13を介して車体Bo(バネ上部材HA)に連結されるとともに他端部(車両Veの後方側端部)がサスペンションスプリング14及び後傾したショックアブソーバ15を介して車体Bo(バネ上部材HA)に連結されて、車輪10RL,10RR及びインホイールモータ16を支持するトレーリングアーム12を備えている。このようなトレーリングアーム12を備えたトレーリングアーム式のサスペンション機構11Rにおいては、ショックアブソーバ15におけるシリンダとピストンとの間の摩擦成分が影響することによって、路面からの外部入力に起因してトレーリングアームブッシュ13が優先的に撓み、ショックアブソーバ15に対する微小ストロークがトレーリングアームブッシュ13の撓みに吸収されてしまう。これにより、ショックアブソーバ15が、上記微小ストロークに対する減衰力を発生し難くなり、その結果、サスペンション機構11Rにおいては車両Veの前後方向すなわちトレーリングアーム12方向のバネ下共振を誘発し易くなる。
又、例えば、図3(a)に概略的に示すように、車両Veが路面に存在する凸部(段差)を通過する場合、車両Veのバネ下部材LAを構成す車輪10が凸部の頂上に到達するまでは、トレーリングアームブッシュ13が伸びていて、トレーリングアーム12は車輪10とともに相対的に車両Ve(車体Bo)に対して後方に移動している。この状態において、車輪10が凸部の裾から頂上に到達すると、路面の凸部(段差)による車輪10への走行抵抗が変化する(小さくなる)ことによって、図3(b)に示すように、車輪10に車両Veの進行方向(凸部通過方向)の速度が発生し、トレーリングアームブッシュ13が伸びた状態から縮む状態に移行する。すなわち、車輪10が路面の凸部(段差)を通過することによって、トレーリングアームブッシュ13は、伸びた状態から縮む状態に移行して弾性エネルギーを蓄えるようになる。
一方、トレーリングアーム12の後端側を支持するショックアブソーバ15は、車輪10を構成するタイヤの弾性変形や自身の応答遅れ等に起因して、トレーリングアームブッシュ13が伸び状態から縮み状態に移行するタイミングで、図3(b)に示すように、伸びた状態から縮む状態(以下、この状態変化を圧工程と称呼する。)に移行する。この場合、上述したように、サスペンション機構11Rにおけるショックアブソーバ15は、車両Veの上下方向(鉛直方向)に対して車両Veの後方に向けて傾倒(後傾)した状態で組み付けられているため、圧工程に移行することに伴って、すなわち、ショックアブソーバ15が縮むようにシリンダに対してピストンが相対的に変位することに伴って、図3(b)に示すように、粘性抵抗(減衰力)の反力が、トレーリングアーム12を介して、トレーリングアームブッシュ13の縮みを助長する方向の力として作用するようになる。このため、トレーリングアームブッシュ13は、ショックアブソーバ15による反力によって更に縮められる、言い換えれば、更に弾性エネルギーを蓄えるようになる。
このように、弾性エネルギーを蓄えたトレーリングアームブッシュ13においては、弾性エネルギーを放出する。すなわち、トレーリングアームブッシュ13は、弾性エネルギーを蓄えるほど、弾性エネルギーを放出するために縮んだ状態から延びた状態に移行し易くなり、その結果、サスペンション機構11Rにおいては前後方向のバネ下共振を誘発し易くなる。そして、車両Veにおいて、バネ下部材LAに前後バネ下共振が発生すると、左右後輪10RL,10RRが前後方向の速度を有しているために、車両Veに乗車している乗員は、路面段差の通過に伴うゴツゴツ感を知覚し易くなり、不快感を覚えるようになる。
このため、トレーリングアームブッシュ13の伸び状態から縮み状態への移行、すなわち、トレーリングアーム12の車両Ve前方への移動を抑制することを目的に、例えば、図4(a),(b)に概略的に示すように、トレーリングアーム式のサスペンション機構におけるショックアブソーバを車両の上下方向(鉛直方向)に対して車両の前方に向けて傾倒(前傾)した状態で組み付ける場合がある。このように、トレーリングアーム式のサスペンション機構におけるショックアブソーバを前傾させて組み付けることによって、トレーリングアームブッシュの伸び状態から縮み状態への移行に伴ってトレーリングアーム12が車両Ve前方への移動することを効果的に抑制することができる。
具体的に説明すると、この場合においても、車輪が路面の凸部の裾から頂上に到達すると、凸部(段差)による車輪への走行抵抗が小さくなることによって、図4(b)に示すように、車輪に凸部通過方向の速度が発生し、トレーリングアームブッシュを縮める方向の力が発生する。ところが、ショックアブソーバが前傾となるようにトレーリングアームに組み付けられることにより、ショックアブソーバは、トレーリングアームブッシュが伸び状態から縮み状態に移行するタイミングで圧工程に移行すると、図4(b)に示すように、粘性抵抗(減衰力)の反力を、トレーリングアームを介して、トレーリングアームブッシュを伸ばす方向の力として作用させることができる。このため、上述したようなトレーリングアームブッシュを縮める方向の力が発生しても、ショックアブソーバによる粘性抵抗(減衰力)の反力が付与されることによって、トレーリングアームブッシュが伸びた状態から縮む状態に移行する、言い換えれば、弾性エネルギーを蓄える状態に移行することを効果的に抑制することができる。その結果、トレーリングアーム式のサスペンション機構において、バネ下共振が誘発され難くなり、乗り心地を向上させることができる。
しかしながら、左右後輪10RL,10RRにインホイールモータ16RL,16RRを組み込む車両Veにおいては、ショックアブソーバ15を前傾させてトレーリングアーム12と車体Bo(バネ上部材HA)との間に配置するには、インホイールモータ16との干渉を回避する必要がある。そもそも、インホイールモータ16が設けられて車輪10の周囲にスペースの確保が難しい車両Veにおいて、ショックアブソーバ15を干渉しないように別途搭載スペースを確保して配置することは、現実的ではない。
そこで、本実施形態においては、図5に概略的に示すように、トレーリングアーム式のサスペンション機構11Rのショックアブソーバ15を後傾させたままトレーリングアーム12と車体Bo(バネ上部材HA)との間に配置しておき、トレーリングアームブッシュ13が伸びた状態から縮む状態に移行するタイミングにインホイールモータ16を駆動制御してトレーリングアーム12が車両Veの前方に移動することを抑制する、すなわち、トレーリングアーム12がトレーリングアームブッシュ13の縮みを助長する方向に変位することを抑制する力を車輪10に発生させるようにする。これにより、トレーリングアームブッシュ13を縮める方向の力が発生しても、インホイールモータ16を駆動制御することによって車輪10に減速させる力(制動力に相当)を発生させることによって、トレーリングアームブッシュ13が伸びた状態から過度に縮む状態となる、言い換えれば、弾性エネルギーを過度に蓄える状態になることを効果的に抑制することができる。その結果、トレーリングアーム式のサスペンション機構11Rにおいて、前後方向のバネ下共振が誘発され難くなり、乗り心地を向上させることができる。以下、このインホイールモータ16の駆動制御を詳細に説明する。
一般に、車両Veにおける前後方向のバネ下共振が発生する周波数(以下、バネ下共振周波数と称呼する。)は、車両Veの車種ごとに決まっている。そして、車両Veにおけるバネ下共振の発生については、バネ下共振周波数に関わらず、トレーリングアームブッシュ13に蓄えられる弾性エネルギー量に依存し、蓄えられた弾性エネルギー量が所定量以上となるまで蓄えられたときにバネ下共振が発生し成長する。ここで、弾性エネルギー量は、上述したように、トレーリングアームブッシュ13の変形量の大きさ、言い換えれば、トレーリングアーム12の前後方向への変位量の大きさに依存して決まるものであり、トレーリングアーム12の前後方向への変位量の大きさはショックアブソーバ15における粘性抵抗(減衰力)の反力、より詳しくは、トレーリングアーム12の軸方向に作用する分力にの大きさに依存する。
このため、本実施形態においては、トレーリングアーム12において、バネ下共振周波数の1/4周期以上のバネ下上下加速度をサンプリングし続け(トレンドデータを取得し続け)、トレーリングアームブッシュ13を縮める側に対応するピーク値を測定する。そして、その縮める側に対応するピーク値を迎える前の1/4周期分のサンプリングしたバネ下上下加速度(トレンドデータ)について、例えば、前後1/8波長(周期)すなわちトータル1/4波長(周期)における単純移動平均を繰り返し演算し、この演算値が所定値を超えた場合、或いは、サンプリングしたバネ下上下加速度(トレンドデータ)を2階積分した演算値が所定値を超えた場合、すなわち、上記演算値によって表されるトレーリングアーム12の変位量でありトレーリングアームブッシュ13の変形量が所定量を超えた場合に、弾性エネルギー量が所定量以上となって、バネ下共振が発生し易い状況であると判断する。
そして、このようにバネ下共振が発生し易い状況において、図6に概略的に示すように、トレーリングアームブッシュ13の変形量(トレーリングアーム12の変位量)が縮み方向で最大となる状況(縮み方向に速度が「0」)から、サンプリングしたバネ下上下加速度(トレンドデータ)が0点を横切った後(言い換えれば、バネ下上下加速度(トレンドデータ)の符号が反転した後)から1/4波長分(周期分)の時間経過後、すなわち、トレーリングアームブッシュ13の変形量(トレーリングアーム12の変位量)が伸び方向で最大となる状況(伸び方向に速度が「0」)となるタイミングで、インホイールモータ16を駆動制御する。つまり、トレーリングアームブッシュ13が伸びて、すなわち、車輪10がトレーリングアーム12とともに車両Veの後方に移動していて、かつ、ショックアブソーバ15が伸びの状態からまさに縮み始めようとする、すなわち、ショックアブソーバ15がまさに圧工程に移行するタイミングで、インホイールモータ16を駆動制御して左右後輪10RL,10RRに制動力を発生させる。これにより、ショックアブソーバ15の粘性抵抗(減衰力)の反力に起因してトレーリングアーム12の軸方向に作用する分力を効果的にキャンセルすることができて、トレーリングアームブッシュ13の縮みを助長する方向への変位を抑制することができる。
このため、本実施形態における車両の制駆動力制御装置においては、電子制御ユニット21が図7に示す制駆動力制御プログラムを実行する。具体的に説明すと、電子制御ユニット21は、制駆動力制御プログラムの実行をステップS10にて開始し、続くステップS11にて、バネ下運動状態検出センサ24から、左右後輪10RL,10RR、インホイールモータ16RL,16RR及びサスペンション機構11RL,11RRを含むバネ下部材LAのバネ下上下加速度Gを表す信号を取得する。このとき、電子制御ユニット21は、バネ下上下加速度Gの共振周波数の1/4周期ごとのトレンドデータを取得する。ここで、バネ下運動状態検出センサ24によって検出されるバネ下上下加速度Gについては、周知のフィルタ処理が実施されることは言うまでもない。尚、この場合、電子制御ユニット21が、バネ下運動状態検出センサ24からバネ下上下加速度Gを表す信号を取得することに代えて、例えば、バネ上運動状態検出センサ23によって検出される車体Bo(バネ上部材HA)のバネ上上下加速度を取得し、このバネ上上下加速度に基づいてバネ下上下加速度Gを推定して実施することも可能である。このように、共振周波数の1/4周期ごとにバネ下上下加速度Gのトレンドデータを取得すると、電子制御ユニット21はステップS12に進む。
ステップS12においては、電子制御ユニット21は、操作状態検出センサ22から車両Veの車速Vを表す信号を取得し、車両Veが後進しているか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット21は、操作状態検出センサ22から取得した信号によって表される車両Veの車速Vが「0」未満の負の値であれば、車両Veが後進しているため、「Yes」と判定してステップS11に戻る。この場合には、車両Veが後進しており、例えば、図5からも明らかなように、ショックアブソーバ15からの分力がトレーリングアームブッシュ13の縮み方向に作用することなくバネ下共振を成長させない。一方、操作状態検出センサ22から取得した信号によって表される車両Veの車速Vが「0」以上であれば車両Veが前進しているため、電子制御ユニット21は「Yes」と判定してステップS13に進む。
ステップS13においては、電子制御ユニット21は、後述するようにインホイールモータ16RL,16RRを駆動制御して左右後輪10RL,10RRに発生させる制駆動力(駆動力)を調整しているか否かを表す調整フラグFchgの値が、調整中であることを示す「1」に設定しているか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット21は、調整フラグFchgの値を「1」に設定していれば、現在、インホイールモータ16RL,16RRを介して左右後輪10RL,10RRの制駆動力を調整しているために、「Yes」と判定してステップS11に戻る。一方、調整フラグFchgの値を、調整中ではない(調整が終了した)ことを示す「0」に設定していれば、現在、インホイールモータ16RL,16RRを介して左右後輪10RL,10RRの制駆動力を調整していないために、電子制御ユニット21は「No」と判定してステップS14に進む。
ステップS14においては、電子制御ユニット21は、サスペンション機構11Rを構成するショックアブソーバ15が、現在、伸びた状態にあるすなわち伸び工程にあるか否かを判定する。具体的に、電子制御ユニット21は、バネ下運動状態検出センサ24からサスペンション機構11Rを構成するショックアブソーバ15のストローク量hを表す信号を取得し、ショックアブソーバ15が伸び工程にあるか否かを判定する。この判定により、ショックアブソーバ15が伸び工程にあれば、電子制御ユニット21は「Yes」と判定してステップS11に戻る。この場合においては、ショックアブソーバ15は、伸び工程にあることによって発生する粘性抵抗(減衰力)の反力としてトレーリングアーム12を車両Veの後方に向けて変位させる分力、すなわち、トレーリングアームブッシュ13を伸ばす分力を発生することになる。一方、電子制御ユニット21は、取得した信号によって表されるストローク量hに基づき、ショックアブソーバ15が圧工程にあれば、「No」と判定してステップS15に進む。
尚、この判定においては、電子制御ユニット21が、バネ下運動状態検出センサ24からサスペンション機構11Rを構成するショックアブソーバ15のストローク量hを表す信号を取得を取得することに代えて、例えば、バネ下運動状態検出センサ24からバネ下部材LAのバネ下上下加速度を表す信号を取得するとともに、バネ上運動状態検出センサ23から車体Bo(バネ上部材HA)のバネ上上下加速度を表す信号を取得し、これら取得した信号によって表されるバネ下上下加速度とバネ上上下加速度の差分値に基づいて、ショックアブソーバ15が伸び工程にあるか否かを判定するように実施することも可能である。又、この判定においては、ショックアブソーバ15のストローク量hを用いることに代えて、例えば、ショックアブソーバ15を形成するシリンダ内に封入されている流体の圧力変化を検出し、この検出した圧力変化に基づいて、ショックアブソーバ15が伸び工程にあるか否かを判定するように実施することも可能である。
ステップS15においては、電子制御ユニット21は、前記ステップS11にて共振周波数の1/4周期ごとに取得したバネ下上下加速度Gのトレンドデータについて、上述したように、2階積分又は単純移動平均化してバネ下共振判定用入力値Ffを演算し、この演算したバネ下共振判定用入力値Ffが、バネ下共振の発生を判定するために予め実験により設定された所定値TH1以下であるか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット21は、バネ下共振判定用入力値Ffが所定値TH1以下であれば、未だ、縮み方向に変形したトレーリングアームブッシュ13に蓄えられた弾性エネルギーが小さくバネ下共振が発生し難い状況であるため、「Yes」と判定してステップS11に戻る。一方、バネ下共振判定用入力値Ffが所定値TH1よりも大きければ、縮み方向に変形したトレーリングアームブッシュ13に蓄えられた弾性エネルギーが大きくなってバネ下共振が発生し易い状況であるため、電子制御ユニット21は「No」と判定してステップS16に進む。
ステップS16においては、電子制御ユニット21は、前記ステップS11にて共振周波数の1/4周期ごとに取得したバネ下上下加速度Gのトレンドデータに基づき、バネ下上下加速度Gの値が0点を通過したか、言い換えれば、バネ下上下加速度Gの符号が反転したか否かを判定する。具体的に図6を用いて説明すると、電子制御ユニット21は、前記ステップS15における判定により、トレーリングアームブッシュ13が縮み方向で最大変形量となった時点、言い換えれば、トレーリングアームブッシュ13の縮み側のピークを判定し、この縮み側のピークに対応するバネ下上下加速度Gが時間の経過に伴って0点を通過する、すなわち、図6において下向きのバネ下上下加速度G(負の値)が上向きのバネ下上下加速度G(正の値)となって符号が反転してトレーリングアームブッシュ13が縮み状態から伸び状態に移行したか否かを判定する。従って、電子制御ユニット21は、バネ下上下加速度Gの符号が反転していなければ、すなわち、未だ、トレーリングアームブッシュ13が縮み状態にあれば、バネ下共振が発生しないために「No」と判定してステップS11に戻る。一方、バネ下上下加速度Gの符号が反転していれば、すなわち、トレーリングアームブッシュ13が縮み状態から伸び状態に移行していれば、バネ下共振が発生し易い状況となるために「Yes」と判定してステップS17に進む。
ステップS17においては、電子制御ユニット21は、バネ下上下加速度Gの符号が反転した時点(言い換えれば、バネ下上下加速度Gの値が0点を通過した時点)からの時間カウントを開始する。すなわち、電子制御ユニット21は、トレーリングアームブッシュ13の縮み側のピークから共振周波数の1/4周期に相当する時間が経過して、バネ下上下加速度Gの符号が反転した時点からの時間カウントを開始する。このように、時間カウントを開始すると、電子制御ユニット21はステップS18に進む。
ステップS18においては、電子制御ユニット21は、前記ステップS17にて時間カウントを開始してから共振周波数の1/4周期に相当する時間が経過したか否かを判定する。具体的にこの判定処理を図6を用いて説明すると、上述したように、ショックアブソーバ15から付与されて、トレーリングアーム12をトレーリングアームブッシュ13の縮みを助長する方向に変位させてバネ下共振を成長させる分力は、トレーリングアームブッシュ13が伸びた状態から縮み状態に移行するタイミングで発生する。
すなわち、図6においては、トレーリングアームブッシュ13の縮み側のピークから1/4周期経過してバネ下上下加速度Gの値が0点を通過する時点から更に1/4周期経過した時点(言い換えれば、トレーリングアームブッシュ13の縮み側のピークから1/2周期経過した時点)が、トレーリングアームブッシュ13が伸びた状態から縮み状態に移行するタイミングである。そして、上述したように、このタイミングで車輪10を減速させる力(制動力)を発生させることにより、ショックアブソーバ15の粘性抵抗(減衰力)の反力に起因してトレーリングアーム12の軸方向に作用する分力を効果的にキャンセルすることができて、トレーリングアームブッシュ13の縮みを助長する変位を抑制することができる。このため、電子制御ユニット21は、前記タイミングを特定するために、前記ステップS17に時間カウントを開始し、1/4周期が経過するまでは「No」と判定して繰り返しステップS18を実行し、1/4周期が経過した時点「Yes」と判定してステップS19に進む。
ステップS19においては、電子制御ユニット21は、左右後輪10RL,10RRが発生すべき目標制駆動力に対してバネ下共振の発生(成長)を抑制するための調整力、具体的には、制動力を所定の周期関数に従って1周期に渡って重畳して付加し、目標制駆動力を補正する。ここで、電子制御ユニット21は、走行している車両Veに車速変化が生じないように、調整力である制動力を所定の周期関数に従って1周期に渡って重畳して付加したときにトータルで「0」となるように、言い換えれば、付加する調整力(運動エネルギー)の収支が「0」となるように、目標制駆動力を補正する。具体的に、本実施形態においては、電子制御ユニット21は、付加する調整力(運動エネルギー)の収支を「0」とするとともにバネ下共振の発生を抑制するために、図8に示すような、バネ下共振周波数付近の周波数を有し、1周期分の調整力(トルク)の変動波形(正弦波)を有する三角関数に従う。これにより、調整力である制動力を三角関数の正弦波に従って1周期分に渡って変動させて目標制駆動力に付加した場合には、付加した運動エネルギーの収支を「0」とすることができて、走行している車両Veににおける車速変化が生じにくくすることができる。
ここで、車両Veが上述したように路面に存在する凸部(段差)に乗り上げて通過するときには、この凸部(段差)から衝撃を受けて、一時的に左右後輪10RL,10RRの接地荷重が高くなる。この場合、調整力である制動力を付加すると、左右後輪10RL,10RRの接地面に制動力の分力が車両Veの上方に作用するようになり、この分力によって左右後輪10RL,10RRが押し上げられる。これにより、左右後輪10RL,10RRは路面に存在する凸部(段差)に追従しながら通過することができると言う効果も奏する。
尚、本実施形態においては、電子制御ユニット21は、目標前後駆動力を補正するにあたって、周期関数(三角関数)に従って調整力である制動力を付加するように実施するが、例えば、図9に示すような、運転者によるアクセル開度と目標制駆動力との関係に従って目標制駆動力を補正するように実施することも可能である。この場合には、アクセル開度が小さいときには、目標制駆動力が「0」に維持されることによって左右後輪10RL,10RRに相対的に制動力を発生させることができる。これにより、バネ下共振の発生(成長)を抑制するための調整力である制動力を適切に付加することができる。
このように、三角関数の正弦波に従って変動する調整力(制動力)を目標制駆動力に付加して補正すると、電子制御ユニット21は、ステップS20に進む。そして、電子制御ユニット21は、ステップS20にて、三角関数の正弦波の1周期分だけ調整力(制動力)を重畳して付加したか、言い換えれば、付加する運動エネルギーの収支が「0」となるように正弦波の1周期が経過したか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット21は、正弦波の1周期が経過するまでステップS20にて「No」と判定し続け、正弦波の1周期が経過すると「Yes」と判定してステップS21に進む。
ステップS21においては、電子制御ユニット21は、前記ステップS20における判定処理に従い、目標制駆動力の調整が終了しているため、調整フラグFchgの値を「0」に設定する。そして、電子制御ユニット21は、ステップS22に進む。
ステップS22においては、電子制御ユニット21は、運転者によって、車両Veの図示を省略するイグニッションスイッチがOFFにされたか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット21は、運転者によってイグニッションスイッチがOFFにされていない、言い換えれば、イグニッションスイッチがONに維持されて車両Veが走行可能な状態にあるときには、「No」と判定して前記ステップS11に戻る。そして、電子制御ユニット21は、上述したように、前記ステップS11以降の各ステップ処理を実行する。一方、運転者によってイグニッションスイッチがOFFにされていれば、電子制御ユニット21は「No」と判定してステップS23に進み、制駆動力制御プログラムの実行を終了する。
以上の説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、路面に存在する凸部(段差)を通過する際の外部入力によって、車両Veの左右後輪10RL,10RR、インホイールモータ16RL,16RR及びサスペンション機構11RL,11RRを含む車両Veのバネ下部材LAが運動する状況で、電子制御ユニット21が、バネ下部材LAの運動状態としてバネ下上下加速度Gやショックアブソーバ15のストローク量hに応じて、インホイールモータ16RL,16RRによって左右後輪10RL,10RRに発生させる調整力(制動力)を制御することにより、後傾させて配置されたショックアブソーバ15の作動に伴って発生して伝達される分力によってトレーリングアーム12がトレーリングアームブッシュ13の縮みを助長する方向に変位することを抑制することができる。これにより、トレーリングアーム12がショックアブソーバ15から伝達される分力によってトレーリングアームブッシュ13を過度に撓ませるように変位することを抑制することができて、トレーリングアームブッシュ13が過大な弾性エネルギーを蓄えることを効果的に抑制することができる。このため、例えば、車両Veの前後方向におけるバネ下共振が発生する状況であっても、トレーリングアームブッシュ13が蓄える弾性エネルギー量を少なく抑えることができ、その結果、トレーリングアームブッシュ13の撓みに起因するバネ下共振の成長を効果的に抑制することができる。従って、極めて良好な乗り心地を確保することができる。
又、電子制御ユニット21は、バネ下共振判定用入力値Ffが所定値TH1よりも大きければ、縮み方向に変形したトレーリングアームブッシュ13に蓄えられた弾性エネルギーが大きくなってバネ下共振が発生し易い状況であるため、トレーリングアームブッシュ13の縮み側のピークを基準として1/2周期が経過した時点で左右後輪10RL,10RRに発生させる調整力(制動力)を制御することができる。これにより、実際にバネ下共振を発生させる又は成長させるように、或いは、更に弾性エネルギーを蓄えるようにトレーリングアームブッシュ13が縮み始める時点に合わせて、電子制御ユニット21はインホイールモータ16RL,16RRによって左右後輪10RL,10RRに発生させる調整力(制動力)を制御することができる。従って、トレーリングアーム12がショックアブソーバ15から伝達される分力によってトレーリングアームブッシュ13を過度に撓ませるように変位することを適切なタイミングにより抑制することができて、より効果的にトレーリングアームブッシュ13の撓みに起因するバネ下共振の成長を効果的に抑制することができる。
更に、電子制御ユニット21は、所定の周期関数である三角関数に従って左右後輪10RL,10RRに発生させる調整力(制動力)を変動させることができる。このように、三角関数に従って、より詳しくは、三角関数の1周期に渡って、ショックアブソーバ15からトレーリングアーム12に伝達される分力を打ち消すための調整力(制動力)を発生させる、言い換えれば、ショックアブソーバ15からトレーリングアーム12に伝達される分力を打ち消すための運動エネルギーを発生させることにより、車両Veに付与する調整力(運動エネルギー)の収支を「0」にすることができる。これにより、ショックアブソーバ15からトレーリングアーム12に伝達される分力を打ち消すための調整力(制動力)を発生させる場合であっても、例えば、走行中の車両Veの車速Vに与える影響を最小限にとどめることができる。
上記実施形態においては、電子制御ユニット21が図7に示した制駆動力制御プログラムを実行し、後傾させて配置されたショックアブソーバ15からトレーリングアーム12の軸方向に付与される分力によって、トレーリングアーム12がトレーリングアームブッシュ13の縮みを助長する方向に変位するタイミングに左右後輪10RL,10RRに調整力としての制動力を発生させるように実施した。ここで、上記実施形態においては、電子制御ユニット21は、制駆動力制御プログラムにおけるステップS16を実行することにより、トレーリングアームブッシュ13が縮み方向で最大変形している、すなわち、縮み側のピークとなった時点からバネ下共振周波数の1/2周期が経過した時点で目標制駆動力を補正するように実施した。
この場合、より確実に目標制駆動力を補正することができるように、例えば、図7に示した制駆動力制御プログラムにおける前記ステップS16のステップ処理を省略するように変形して実施することも可能である。このように、制駆動力制御プログラムにおける前記ステップS16のステップ処理を省略した場合には、電子制御ユニット21は、前記ステップS15にてトレーリングアームブッシュ13の縮み側のピークを判定すると、前記ステップS17に進む。そして、電子制御ユニット21は、前記ステップS17及び前記ステップS18の各ステップ処理を実行する。
これにより、電子制御ユニット21は、前記ステップS15にて判定したトレーリングアームブッシュ13の縮み側のピークを基準として、バネ下共振周波数の1/4周期が経過した時点、より具体的に図6に基づけばバネ下上下加速度Gが0点を通過する時点(バネ下上下加速度Gの符号が反転する時点)で、ステップS19以降の各ステップ処理を実行する。すなわち、このように前記ステップS16を省略した場合には、上記実施形態の場合に比して、バネ下共振周波数の1/4周期だけ早期に、目標制駆動力を補正してインホイールモータ16RL,16RRを介して左右後輪10RL,10RRに調整力(制動力)を発生させることができる。これにより、ショックアブソーバ15からの分力が作用してトレーリングアーム12が変位する前、言い換えれば、トレーリングアームブッシュ13が縮み方向に変形して弾性エネルギーを蓄える前に、確実に左右後輪10RL,10RRに調整力(制動力)を発生させて、トレーリングアーム12の変位を抑制することができる。従って、より確実に、バネ下共振の発生及び成長を抑制することができる。
又、上記実施形態においては、バネ下共振を発生させて成長させる要因として、後傾して配置されたショックアブソーバ15が圧工程に移行することに伴ってトレーリングアーム12に付与される分力により、トレーリングアーム12が車両Veの前方に向けて変位し、このトレーリングアーム12の前方への変位がトレーリングアームブッシュ13の縮みを助長して弾性エネルギーを過度に蓄えることを挙げた。このため、電子制御ユニット21は、トレーリングアームブッシュ13が縮み方向に撓むことによって弾性エネルギーが蓄えられることを抑制するために図7に示した制駆動力制御プログラムを実行し、ショックアブソーバ15がまさに圧工程に移行するタイミングで左右後輪10RL,10RRに制動力を発生させてトレーリングアーム12の前方への変位を効果的に抑制するように実施した。
ところで、バネ下共振の発生させて成長させる要因として、トレーリングアームブッシュ13の撓みが関係する場合には、トレーリングアームブッシュ13が伸び方向に撓んで弾性エネルギーを蓄えることも挙げることができる。この場合には、上記実施形態の場合と全く逆となり、例えば、路面に存在する凸部(段差)を通過した後に、後傾して配置されたショックアブソーバ15が縮んだ状態から伸び状態に移行するとき、すなわち、ショックアブソーバ15が伸び工程に移行することに伴い、粘性抵抗(減衰力)の反力としてトレーリングアーム12を車両Veの後方に変位させるような分力が付与される。ここで、後傾して配置されたショックアブソーバ15が伸び工程に移行するタイミングは、トレーリングアームブッシュ13が縮んだ状態から伸びる状態に移行するタイミングと一致する。従って、トレーリングアーム12が前記分力によって車両Veの後方に向けて変位し、このトレーリングアーム12の後方への変位がトレーリングアームブッシュ13の伸びを助長することによって弾性エネルギーを過度に蓄える。そして、トレーリングアームブッシュ13が過度に蓄えた弾性エネルギーがバネ下共振を発生させて成長させる。
従って、この場合においても、電子制御ユニット21は、上記実施形態と同様に図7に示した制駆動力制御プログラムを実行し、ショックアブソーバ15からの分力によるトレーリングアーム12の変位を抑制する。ただし、この場合、上記実施形態の場合に比して、ショックアブソーバ15がトレーリングアーム12に付与する分力の向きが全く逆となるため、制駆動力制御プログラムが若干変更されて変形される。
すなわち、この場合における制駆動力制御プログラムにおいては、ステップS14にて、ショックアブソーバ15が伸び工程にあるときには電子制御ユニット21は「Yes」と判定してステップS15に進み、ショックアブソーバ15が圧工程にあるときには電子制御ユニット21は「No」と判定してステップS11に戻る。そして、ステップS15においては、バネ下共振判定用入力値Ffが所定値TH1以下であれば、未だ、伸び方向に変形したトレーリングアームブッシュ13に蓄えられた弾性エネルギーが小さくバネ下共振が発生し難い状況であるため、「Yes」と判定してステップS11に戻る。一方、バネ下共振判定用入力値Ffが所定値TH1よりも大きければ、伸び方向に変形したトレーリングアームブッシュ13に蓄えられた弾性エネルギーが大きくなってバネ下共振が発生し易い状況であるため、電子制御ユニット21は「No」と判定してステップS16に進む。
ステップS16においては、電子制御ユニット21は、前記ステップS15における判定により、トレーリングアームブッシュ13が伸び方向で最大変形量となった時点、言い換えれば、トレーリングアームブッシュ13の伸び側のピークを判定し、この伸び側のピークに対応するバネ下上下加速度Gが時間の経過に伴って0点を通過する、すなわち、図6において上向きのバネ下上下加速度G(正の値)が下向きのバネ下上下加速度G(負の値)となって符号が反転してトレーリングアームブッシュ13が伸び状態から縮み状態に移行したか否かを判定する。従って、電子制御ユニット21は、バネ下上下加速度Gの符号が反転していなければ、すなわち、未だ、トレーリングアームブッシュ13が伸び状態にあれば、バネ下共振が発生しないために「No」と判定してステップS11に戻る。一方、バネ下上下加速度Gの符号が反転していれば、すなわち、トレーリングアームブッシュ13が伸び状態から縮み状態に移行していれば、バネ下共振が発生し易い状況となるために「Yes」と判定してステップS17以降に進む。
そして、この場合には、車両Veの後方に向けたトレーリングアーム12の変位を抑制するために、電子制御ユニット21は、ステップS19にて、調整力として駆動力を目標制駆動力に付加して補正する。すなわち、この場合には、左右後輪10RL,10RRを加速させるような制駆動力を発生させる。尚、この調整力(駆動力)も、走行している車両Veに車速変化が生じないように、電子制御ユニット21は、付加する調整力(運動エネルギー)の収支を「0」とするとともにバネ下共振の発生を抑制するために、図8に示すような、バネ下共振周波数付近の周波数を有し、1周期分の調整力(トルク)の変動を有する三角関数の正弦波を用いる。これにより、調整力である駆動力を正弦波に従って1周期分に渡って目標制駆動力に付加した場合には、付加した運動エネルギーの収支を「0」とすることができて、走行している車両Veににおける車速変化が生じにくくすることができる。
従って、このように、後傾して配置されたショックアブソーバ15からの分力によってトレーリングアーム12が車両Veの後方に向けて変位し、トレーリングアームブッシュ13が伸び方向に変形して弾性エネルギーを蓄える場合であっても、インホイールモータ16RL,16RRを駆動制御して左右後輪10RL,10RRに駆動力を付加して補正した目標制駆動力を発生させることにより、トレーリングアーム12の変位を良好に抑制することができる。これにより、トレーリングアームブッシュ13が過度に弾性エネルギーを蓄えることを防止することができ、その結果、発生したバネ下共振の成長を効果的に抑制することができて良好な乗り心地を確保することができる。
本発明の実施にあたっては、上記実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態においては、トレーリングアームブッシュ13が縮み方向に撓むことによって蓄えた弾性エネルギーがバネ下共振の発生と成長に大きな影響を与えるとして、トレーリングアーム12のブッシュ13に接近する方向への変位(ブッシュ13の縮みを助長する方向への変位)を抑制するためにインホイールモータ16RL,16RRを介して左右後輪10RL,10RRを減速させる力を発生させるように実施した。一方、上記変形例においては、トレーリングアームブッシュ13が伸び方向に撓むことによって蓄えた弾性エネルギーがバネ下共振の発生と成長に大きな影響を与えるとして、トレーリングアーム12のブッシュ13から離間する方向への変位(ブッシュ13の伸びを助長する方向への変位)を抑制するためにインホイールモータ16RL,16RRを介して左右後輪10RL,10RRを加速させる力を発生させるように実施した。
これらの場合、ともに、トレーリングアームブッシュ13が撓むことによって蓄えた弾性エネルギーがバネ下共振の発生と成長の要因となるため、それぞれを独立的に実施することに代えて、同時に実施することも可能である。尚、この場合には、図7に示した制駆動力制御プログラムにおける前記ステップS14を省略するとよい。これにより、車両Veが路面に存在する凸部(段差)を通過する際に発生し易い前後方向のバネ下共振の成長をより良好に抑制することができ、極めて良好な乗り心地を提供することが可能となる。
又、上記実施形態及び変形例においては、各車輪10のホイール内部にそれぞれ制駆動力発生機構であるインホイールモータ16を設けるように実施した。この場合、各車輪10に対して独立的に制駆動力を発生させることが可能であれば、それぞれの車輪10に制駆動力発生機構を組み込むことに限定することなく如何なる構成を採用してもよい。具体的には、制駆動力発生機構が、例えば、左右前輪10FL,10FRと左右後輪10RL,10RRとをそれぞれ回転可能に支持する車軸(バネ下部材LA)に対して、所定の回転力を独立的に付与することにより、各車輪10に制駆動力を発生させる構成を採用することが可能である。