JP5745364B2 - 缶胴用アルミニウム合金板及びその製造方法、ならびに、缶胴用樹脂被覆アルミニウム合金板及びその製造方法 - Google Patents
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本発明に係る第1発明の缶胴用アルミニウム合金板は、所定の合金組成、引張強さ、導電率、金属間化合物の面積占有率及び耳率を有する。以下に、アルミニウム合金板について詳述する。
Al合金は、Si:0.5mass%を超え1.5mass%以下、Mg:0.4mass%以上0.8mass%以下、Fe:0.8mass%を超え1.2mass%以下、Cu:0.01mass%以上0.4mass%以下及びMn:0.01mass%以上0.1mass%未満を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなる。以下において、「mass%」を単に「%」と記す。各成分の限定理由について説明する。
引張強さは、アルミニウム合金板を缶胴材に使用する際、DI成形時の成形性及び塗装焼付処理後の缶胴材の耐圧強度に影響する。引張強さが280MPa未満では、耐圧強度が不足する。一方、引張強さが380MPaを越えると、DI成形時の成形性が低下する。従って、本発明に係る缶胴用アルミニウム合金板では、引張強さを280MPa以上380MPa以下と規定する。
導電率は、アルミニウム合金板の強度、すなわち缶体の強度及び成形性に影響する。導電率は、合金元素のAlマトリックス中への固溶量あるいは析出量に関係し、固溶量が多いほど導電率は低くなる。本発明においては、後述する溶体化処理によりMg、Si及びCuをAlマトリックス中に固溶させるが、これらの固溶量が多ければ缶体としての強度が確保され、さらに塗装焼付処理時の加熱により前記元素の化合物が析出物として析出し、塗装焼付処理後の強度が向上する。すなわち高い時効硬化性を得ることができる。導電率が50.0%IACSを超えると、前記元素の固溶量が少ないために缶体としての強度が確保できず、また、塗装焼付処理後の強度上昇が少なく時効硬化性が劣る。さらに、前記元素の化合物からなる析出物量が多いためにDI成形時の成形性の低下を招く。一方、導電率が44.0%IACS未満では、前記元素の固溶量が多くなるため、強度が高過ぎるとともに、加工硬化性が強くなり過ぎて成形性が低下する。従って、本発明に係る缶胴用アルミニウム合金板では、導電率を44.0%IACS以上50.0%IACS以下と規定する。
金属間化合物の分布は、耳率及び成形性に影響する。金属間化合物の周囲はAlマトリックス中に比べて、圧延加工中にひずみが蓄積し易いため、その金属間化合物の周囲を核として比較的ランダムな方位の再結晶集合組織が発生する。すなわち、金属間化合物が多数存在すると、相対的に再結晶集合組織に占める0−90°耳成分である立方体方位の割合が低下する。通常のAl−Mg−Si系のアルミニウム合金板では金属間化合物が少ないため、従来のAl−Mn−Mg系のアルミニウム合金板に比べて、再結晶集合組織における0−90°耳成分である立方体方位が強くなってしまう。また、熱間圧延工程中は再結晶が繰返し進行する過程であり、金属間化合物は前述のようにその周囲に圧延加工中にひずみが蓄積し易くなるため、再結晶核の発生サイトとなる。すなわち、再結晶を促進する効果がある。この金属間化合物が少な過ぎると、コイル状のアルミニウム合金板の巾方向において、熱間圧延工程中の再結晶の進行が不均一となり、結果的にその後の再結晶集合組織が巾方向で不均一となる問題も生じる。これは、このまま最終板の巾方向における耳率のバラツキにも繋がるため、工業製品として好ましくない。また、金属間化合物はアルミニウム合金板中に均一に分布することで、DI成形時の固体潤滑作用による成形性及び缶体表面性状の向上にも寄与する。
耳の発生は、その後の成形加工時における成形性に影響する。前述の通り、耳率が高いと、DI成形後のトリミングしろが増すだけではなく、カッピング及びDI成形時に耳部がピンチングを起こし、そのときに生じるアルミニウム片がDI成形時に工具と素材の間に巻込まれ、破胴を引き起こす不具合が生じる。また、耳率を低く抑えるためには、熱間圧延終了後または中間焼鈍後のアルミニウム合金板再結晶組織において0−90°耳成分である立方体方位を適度に発達させ、その後の冷間圧延で発達する45°耳成分である圧延集合組織との良好なバランスを得る必要がある。耳率が−3%以上+3%以下の範囲外では、上記不具合が生じる。従って、本発明に係る缶胴用アルミニウム合金板では、耳率を−3%以上+3%以下と規定する。
次に、本発明に係る缶胴用アルミニウム合金板の製造方法について詳述する。まず、上述の合金組成を有するアルミニウム合金溶湯は、常法に従ってDC鋳造(半連続鋳造)される。
DC鋳造により得られた鋳塊は、均質化処理が施される。均質化処理は、鋳塊の偏析を均質化する目的で行なわれる。本発明における均質化処理工程では、Mg、Si、Cuの固溶を促進させ、後工程の溶体化処理工程における溶体化を容易にする。均質化処理温度が500℃未満では、前述のMg、Si、Cuの固溶が不十分となるとともに、Mg−Si系の粗大化合物が析出する。その結果、固溶しきれないこれら元素や粗大化合物により、後工程の溶体化処理工程において十分な溶体化効果が得られないため強度が不足する。一方、均質化処理温度が580℃を超えると、鋳塊内部に局部的な共晶溶融が生じるので好ましくない。均質化処理工程での保持時間については、1時間未満では鋳塊偏析を均質化することができず、48時間を超えると生産性やコストの観点から好ましくない。したがって、均質化処理条件は、500℃以上580℃以下の温度範囲で1時間以上48時間以内の保持時間と規定する。好ましくは3時間以上6時間以内の保持時間である。
均質化処理工程の後に引き続いて、鋳塊に熱間圧延が施される。熱間圧延工程は、リバース式の圧延機により粗圧延を行う工程と、その後に、シングルリバース式又はタンデム式の圧延機により、コイル状に巻き取るまでの仕上げ圧延を行う工程とからなる。本発明では、熱間仕上げ圧延の終了温度を規定する。熱間仕上げ圧延の終了温度が280℃以上では、熱間仕上げ圧延終了後の余熱により、Mg−Si系化合物の析出が進行し、後工程の溶体化処理工程において固溶しきれずに十分な溶体化効果が得られないため強度が不足する。また、熱間仕上げ圧延の終了温度が200℃未満では、極端に遅い圧延速度に設定する必要があり、生産性の点で好ましくない。したがって、熱間仕上げ圧延工程の終了温度は、200℃以上280℃未満の温度範囲と規定する。なお、このような温度範囲は、潤滑油の使用量、クーラントと各圧下率の配分、圧延速度等を調整することによって達成される。また、熱間圧延上がりの板厚は、巻取性を考慮すると10mm以下とするのが好ましい。
熱間圧延されたアルミニウム合金板は、後述する冷間圧延工程にかけられる。ここで、冷間圧延工程の途中の段階、或いは、冷間圧延工程の前段階において溶体化処理が施される。溶体化処理は合金中へのMg、Si及びCuの固溶促進のため、到達温度を500℃以上580℃以下の温度範囲とした。500℃未満ではMg、Si及びCuの固溶が十分に行われず強度が不足するとともに、塗装焼付処理時の時効硬化性が低下する。一方、580℃を超える温度ではバーニングによるMgの局部的な溶融が起こる。到達温度に到達した後の保持時間は、到達後直ちに冷却を開始してもよく、但し上限は2分間以内と規定する。2分間を超える保持を行っても、溶体化処理の効果が飽和してしまうため不経済となる。また、過度に長い時間の保持を行うと結晶粒の粗大化によって最終板の外観劣化、或いは、成形性が低下する等の不具合が発生する場合がある。
上述のように、冷間圧延工程としては、その前段階において溶体化処理が施される態様(以下、「第1の態様」と記す)と、その途中の段階において溶体化処理が施される態様(以下、「第2の態様」と記す)が採用される。第2の態様では、溶体化処理工程の前の冷間圧延工程を第1の冷間圧延工程とし、溶体化処理工程の後の冷間圧延工程を第2の冷間圧延工程とする。第1の態様及び第2の態様ともに、最終板厚までの最終圧延率が高過ぎると強度が高くなり過ぎて成形性が低下するとともに、45°耳成分である圧延集合組織が発達し過ぎて耳率が高くなる。一方、最終板厚までの最終圧延率が低過ぎると、十分な加工硬化が得られず強度が確保できないとともに、45°耳成分である圧延集合組織が十分に発達せず耳率が高くなる。
本発明に係る第2発明は、第1発明の缶胴用アルミニウム合金板と、その少なくとも一方の表面に被覆された樹脂フィルムを備える缶胴用樹脂被覆アルミニウム合金板である。樹脂フィルムは、缶胴用アルミニウム合金板をDI成形する前に、上記第1の態様では冷間圧延工程後に、上記第2の態様では第2の冷間圧延工程後に、アルミニウム合金板の少なくとも一方の表面に被覆される。樹脂フィルムは、ビスフェノールAなどの有害な環境ホルモンの放出の少ないポリエステル系樹脂が望ましい。ポリエステル系樹脂フィルムは、優れた加工性を有しているため、缶胴成形前のアルミニウム合金板に予め施すことが可能であり、DI成形性の向上も図られる。また、缶胴成形後に防食性の保護塗装を施す場合に比して、塗装工程の能率化及び簡略化が可能となり、生産性の向上の点からも望ましい。なお、ポリエステル系樹脂以外の樹脂フィルムとしては、ポリオレフィン系樹脂及びポリアミド系樹脂の1種又は2種以上を含んでいてもよい。
飲料缶等では、DI成形後に150℃以上250℃以下で3〜10分間程度加熱する塗装焼付処理を行うのが通常である。前記溶体化処理によりMg、Si及びCuが十分に固溶されているため、塗装焼付処理によってMg−Si系化合物やAl−Cu−Mg系化合物の微細析出が起こり、時効硬化による強度の向上が図られる。
表1に示す組成のアルミニウム合金をDC鋳造法により厚さ500mmの鋳塊とした。上記合金鋳塊に対して、均質化処理を施し、次いで熱間圧延を行った。熱間圧延後においては、第1の態様として、溶体化処理を施した後に冷間圧延を行う工程を製造工程aとした。一方、第2の態様として、第1の冷間圧延を行った後に溶体化処理を施し、次いで第2の冷間圧延を行う工程を製造工程bとした。製造工程a、製造工程bともに、最終板厚0.28mmのアルミニウム合金板とした。表2に上記製造プロセスの条件を示す。
JIS5号試験片を使用して、圧延方向と平行方向で引張試験を実施し、引張強さを測定した。引張強さが280MPa以上380MPa以下を合格(○)とし、280MPa未満或いは380MPaを超えるものを不合格(×)とした。
渦電流導電率測定装置を用いて、銅を基準試料として測定した。導電率が44.0%IACS以上50.0%IACS以下を合格(○)とし、44.0%IACS未満或いは50.0%IACSを越えるものを不合格(×)とした。
アルミニウム板表面を鏡面まで研磨した後、光学顕微鏡によって400倍の倍率で10視野を写真撮影し、測定面積が0.5mm2の領域から、画像解析により1μm以上の大きさの金属間化合物の面積占有率を測定した。この際、金属間化合物としては、Al−Fe−Si系、Al−Fe−Mn−Si系、Mg−Si系の晶出物が観察されるが、これらの合計を採用した。アルミニウム板表面における金属間化合物の面積占有率が2.0%以上4.5%以下を合格(○)とし、2.0%未満或いは4.5%を越えるものを不合格(×)とした。
直径57mmのブランクを33mmのパンチで絞って絞りカップを成形した後、圧延方向に対してカップ高さを測定し、次式より耳率を算出した。
耳率(%)=[{(0°−180°耳の平均値)−(45°耳の平均値)}/(0°−180°耳及び45°耳の平均値の最小値)]×100
ここで、0°−180°耳とは、0°位置、90°位置、180°位置及び270°位置の耳高さを意味し、45°耳とは、45°位置、135°位置、225°位置及び315°位置の耳高さを意味する。また、上記計算式では、0−180°耳の場合はプラス(+)、45°耳の場合はマイナス(−)で表記した。耳率が−3.0%以上+3.0%以下を合格(○)とし、−3.0%未満或いは+3.0%を超えるものを不合格(×)とした。
樹脂被覆したアルミニウム合金板試料について、しごき成形性を評価した。第一しごき及び第二しごきのダイス内径を変化させることで、第三しごきのしごき率を変化させていき、成形できる最大のしごき率を限界しごき率とした。具体的には、しごき率(%)={1−(第三しごき後の缶胴側壁厚さ)/(第二しごき後の缶胴側壁厚さ)}×100を求め、このしごき率の最大値を限界しごき率とした。限界しごき率が46.5%以上を合格(○)とし、46.5%未満を不合格(×)とした。
樹脂被覆したアルミニウム合金板試料をDI成形した缶に対し、200℃で10分間の塗装焼付処理相当の熱処理を施した。次いで、エアー式の耐圧試験機にてドーム成形したボトムがバックリングする圧力を測定して耐圧強度とした。耐圧強度が6.3kgf/cm2以上のものを合格(○)とし、6.3kgf/cm2未満のものを不合格(×)とした。
Claims (6)
- Si:0.5mass%を超え1.5mass%以下、Mg:0.4mass%以上0.8mass%以下、Fe:0.8mass%を超え1.2mass%以下、Cu:0.01mass%以上0.4mass%以下及びMn:0.01mass%以上0.1mass%未満を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金から構成され、280MPa以上380MPa以下の引張強さ、44.0%IACS以上50.0%IACS以下の導電率、2.0%以上4.5%以下の表面における金属間化合物の面積占有率及び−3%以上+3%以下の耳率を有することを特徴とする缶胴用アルミニウム合金板。
- 請求項1に記載の缶胴用アルミニウム合金板の製造方法であって、アルミニウム合金の鋳塊に500℃以上580℃以下で1時間以上48時間以内の均質化処理を施す工程と、当該均質化処理工程後に前記鋳塊に熱間圧延を施す熱間圧延工程であって、熱間仕上げ圧延の終了温度を200℃以上280℃未満とする熱間圧延工程と、当該熱間圧延工程後に圧延材に溶体化処理を施す溶体化処理工程であって、連続焼鈍炉を用いて500℃以上580℃以下で2分間以内の保持後に1℃/秒以上の冷却速度で100℃以下まで冷却する溶体化処理工程と、当該溶体化処理工程後に圧延材に冷間圧延を施す冷間圧延工程であって、80%以上90%以下の冷間圧延率にて最終板厚とする冷間圧延工程とを含むことを特徴とする缶胴用アルミニウム合金板の製造方法。
- 請求項1に記載の缶胴用アルミニウム合金板の製造方法であって、アルミニウム合金の鋳塊に500℃以上580℃以下で1時間以上48時間以内の均質化処理を施す工程と、当該均質化処理工程後に前記鋳塊に熱間圧延を施す熱間圧延工程であって、熱間仕上げ圧延の終了温度を200℃以上280℃未満とする熱間圧延工程と、当該熱間圧延工程後に圧延材に第1の冷間圧延を施す第1の冷間圧延工程と、当該第1の冷間圧延工程後に圧延材に溶体化処理を施す溶体化処理工程であって、連続焼鈍炉を用いて500℃以上580℃以下で2分間以内の保持後に1℃/秒以上の冷却速度で100℃以下まで冷却する溶体化処理工程と、当該溶体化処理工程後に圧延材に第2の冷間圧延を施す第2の冷間圧延工程であって、30%以上70%以下の冷間圧延率にて最終板厚とする第2の冷間圧延工程とを含むことを特徴とする缶胴用アルミニウム合金板の製造方法。
- 請求項1に記載の缶胴用アルミニウム合金板と、その少なくとも一方の表面に被覆された樹脂フィルムを備えることを特徴とする缶胴用樹脂被覆アルミニウム合金板。
- 請求項2に記載の缶胴用アルミニウム合金板の製造方法において、前記冷間圧延工程後に、缶胴用アルミニウム合金板の少なくとも一方の表面に樹脂フィルムを被覆する工程を更に含むことを特徴とする缶胴用樹脂被覆アルミニウム合金板の製造方法。
- 請求項3に記載の缶胴用アルミニウム合金板の製造方法において、前記第2の冷間圧延工程後に、缶胴用アルミニウム合金板の少なくとも一方の表面に樹脂フィルムを被覆する工程を更に含むことを特徴とする缶胴用樹脂被覆アルミニウム合金板の製造方法。
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