JP5744063B2 - うつ病の疾患重症度を層別化するためおよび処置をモニタリングするための複数のバイオマーカーパネル - Google Patents

うつ病の疾患重症度を層別化するためおよび処置をモニタリングするための複数のバイオマーカーパネル Download PDF

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Description

関連出願の相互参照
本出願は、2010年1月26日に出願された米国特許仮出願第61/298,443号からの優先権の恩典を主張する。
1.技術分野
本明細書は、うつ病の個体における疾患重症度を層別化するため、および処置の有効性をモニタリングするための材料および方法に関連する。
2.背景情報
神経精神医学的状態は、「障害生存年数」(YLD)が全世界で最も長く、全YLDのほぼ30%を占める。単極性大うつ病性障害(MDD)は単独で全世界のYLDの11%を占める。不正確な診断、処置の早期の中断、および不適当な抗うつ薬の投与を含むいくつかの要素が、持続的障害および最適に達しない処置結果に寄与している可能性がある。例えば、抗うつ薬処方を受ける病院外来患者のほぼ半数が、最初の1か月の間に処置を中断する。処置の最初の3か月以内の中断率は、研究される集団および使用される治療剤にもよるが、68%に達し得る。MDDおよび他の神経精神医学的状態を有する患者に最適な処置を提供する努力は、診断および処置の効力のモニタリングに関して症候の臨床的評価および患者の自己報告へ伝統的に依存していることにより、しばしば妨害される。そのような方法は主観的であり、信頼できないことが多い。
概要
うつ病の診断および処置計画の確立に関して臨床的評価および患者面接へ伝統的に依存していることは、多くの患者での最適に達しない結果に関連し得る。個体ベースで疾患状況を判定できることが、対象の個々の疾患状態の正確な評価を可能にすると考えられる。しかしながら、臨床状態を診断しかつ対象の疾患状況または処置への応答を評価する、信頼できる方法が必要である。従って、うつ病を診断し、疾患重症度を正確に層別化し、かつ患者の処置への応答をモニタリングするために、臨床的評価および患者面接を補うかまたは取って代わる生理学的測定に基づいた定量的診断パラメータを使用することは、臨床医および他の精神的健康の専門家にとって有利であると考えられる。本明細書は、そのような定量的診断パラメータの同定、ならびに、うつ病性障害を診断するため、疾患重症度を層別化するため、および対象の処置への応答をモニタリングするための方法の開発に、部分的に基づく。
本明細書に記載されるように、本明細書は、アルゴリズムの開発、複数のパラメータの評定、および定量的診断スコアのセットを決定するための該アルゴリズムの使用により、うつ病のベースラインの診断を確立するための材料および方法を提供する。明細書に記載されるアプローチは、より伝統的なアプローチのいくつか、すなわち単一マーカーまたはマーカー群を分析することに対するアルゴリズムの構築におけるバイオマーカーの使用とは異なる。本明細書において提供されるように、特定の疾患状態、予後、または処置への応答を反映する単一の値を導くために、アルゴリズムが使用され得る。複数のパラメータを同時に測定するために、高度に多様なマイクロアレイベースの免疫学的手段が使用され得る。この様式で、すべての結果が、同一の試料から、および同一の条件の下で同時に導かれ得る。階層的クラスター化、自己組織化マップ、および管理された分類アルゴリズム(例えば、サポートベクターマシン、k-最近接、および神経回路網)などの広範に利用可能である手段を用いて、高レベルのパターン認識技術が適用され得る。後者の群の分析アプローチが、本明細書において提供される材料および方法の臨床的使用のために実質的な価値を有する可能性が高い。
一つの局面において、本明細書は、以下の工程を含む、対象の疾患重症度を層別化するための方法(例えば、インビトロの方法)を特徴とする:(a)軽度、中等度、および重度の状態のうつ病に関連する多数の分析物各々について数値を提供する工程であって、各数値が、該対象由来の生物学的試料における分析物のレベルに相当する、工程;(b)各分析物に特異的な様式で各数値を個々に加重して、各分析物について加重値を得る工程;(c)各加重値を含む方程式に基づいて、結果値を決定する工程;(d)該結果値を、正常対象について、ならびに軽度、中等度、および重度の状態のうつ病を有する対象について得られた対照結果値と比較する工程であって、該対照結果値が、該結果値と同等の様式で決定された、工程;ならびに(e)該結果値が、非うつ病、軽症うつ病、中等度うつ病、または重症うつ病についての対照値の所定の範囲内である場合、非うつ病、軽症うつ病、中等度うつ病、または重症うつ病を有する対象をそれぞれ分類する工程。
うつ病は、MDDに関連し得る。軽度、中等度、および重度の状態のMDDの分類を補助するために使用され得るMDD診断スコアを算出するために、アルゴリズムが使用され得る。多数の分析物は、一つもしくは複数の炎症バイオマーカー、一つもしくは複数の神経栄養バイオマーカー、一つもしくは複数の代謝バイオマーカー、および/または一つもしくは複数の視床下部-下垂体-副腎軸バイオマーカーを含み得る。多数の分析物は、アシル化刺激タンパク質、アディポネクチン、副腎皮質刺激ホルモン、アルテミン(artemin)、α1アンチトリプシン(A1AT)、α-2-マクログロビン、アポリポタンパク質C3(ApoC3)、アルギニンバソプレシン、脳由来神経栄養因子(BDNF)、コルチコトロピン放出ホルモン、C反応性タンパク質、CD40リガンド、コルチゾール、上皮成長因子(EGF)、顆粒球コロニー刺激因子、インターロイキン-1、インターロイキン-1受容体アゴニスト、インターロイキン-6、インターロイキン-10、インターロイキン-13、インターロイキン-18、レプチン、マクロファージ炎症性タンパク質1-α、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)、ニューロトロフィン3、膵臓ポリペプチド、プラスミノーゲン活性化因子インヒビター-1、プロラクチン、RANTES、レジスチン(resistin)、リーリン(reelin)、S100B、可溶性腫瘍壊死因子α、可溶性腫瘍壊死因子α受容体II(sTNFR2)、甲状腺刺激ホルモン、腫瘍壊死因子α、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される二つまたはそれ以上の分析物を含み得る。例えば、多数の分析物は、コルチゾール、プロラクチン、EGF、MPO、BDNF、レジスチン、sTNFR2、ApoC3、およびA1ATを含み得る。生物学的試料は、全血、血清、血漿、尿、または脳脊髄液であり得る。対象は、ヒトであり得る。加えて、方法は、生物学的試料についての多数の分析物のうち一つまたは複数の測定レベルを得る工程をさらに含み得、結果値は該測定レベルに少なくとも部分的に基づき得る。
別の局面において、本明細書は、以下の工程を含む、うつ病性障害を有すると診断された対象の処置をモニタリングするための方法(例えば、インビトロの方法)を特徴とする:(a)うつ病に関連する多数の分析物各々の第1の数値を提供する工程であって、各第1の数値が、該対象由来の第1の生物学的試料における分析物のレベルに相当する、工程;(b)各分析物に特異的な様式で各第1の数値を個々に加重して、各分析物について第1の加重値を得る工程;(c)各第1の加重値を含む方程式に基づいて、第1のMDDスコアを決定する工程;(d)該多数の分析物各々の第2の数値を提供する工程であって、各第2の数値が、該対象由来の第2の生物学的試料における分析物のレベルに相当し、第2の生物学的試料が、該うつ病性障害に対する処置後に得られた、工程;(e)工程(b)の加重と同等の様式で行うという条件で、各分析物に特異的な様式で各第2の数値を個々に加重して、各分析物について第2の加重値を得る工程;(f)該方程式を使用して、該うつ病性障害に対する該対象の処置後の第2のMDDスコアを決定する工程;ならびに(g)第1のMDDスコアを、第2のMDDスコアと、および一人または複数の正常対象より決定された対照MDDスコアまたはMDDスコア範囲と比較して、第2のMDDスコアが対照MDDスコアに対して第1のMDDスコアよりも近い場合に該処置を有効と分類するか、または、第2のMDDスコアが対照MDDスコアに対して第1のMDDスコアよりも近くない場合に該処置を有効でないと分類する工程。
生物学的試料は、全血、血清、血漿、尿、または脳脊髄液であり得る。第2のMDDスコアは、うつ病に対する処置の数日後、数週間後、または数か月後に決定され得る。多数の分析物は、以下からなる群より選択され得る:(a)RANTES、PRL、BDNF、S100B、RES、TNFR、A1A、コルチゾール、およびEGF;(b)RANTES、PRL、BDNF、S100B、RES、TNFR、A1A、およびEGF;(c)RANTES、PRL、BDNF、S100B、RES、TNFR、およびA1A;(d)S100B、PRL、BDNF、RES、TNFR、およびA1A;(e)コルチゾール、PRL、BDNF、RES、TNFR、およびA1A;ならびに(f)BDNF、レジスチン、TNFRII、およびA1A。対象は、ヒトであり得る。いくつかの場合には、方法は、第1または第2の生物学的試料についての多数の分析物のうち一つまたは複数の測定レベルを得る工程をさらに含み得、かつ対応する第1または第2のMDDスコアは、測定レベルに少なくとも部分的に基づき得る。
別の局面において、本明細書は、以下の工程を含む、うつ病性障害を有すると診断された対象の処置をモニタリングするための方法(例えば、インビトロの方法)を特徴とする:(a)うつ病に関連する多数の分析物各々の第1の数値を提供する工程であって、各第1の数値が、該対象由来の第1の生物学的試料における分析物のレベルに相当する、工程;(b)該多数の分析物各々の第2の数値を提供する工程であって、各第2の数値が、該対象由来の第2の生物学的試料における分析物のレベルに相当し、第2の生物学的試料が、該うつ病性障害に対する処置後に得られた、工程;(c)各分析物に特異的な様式で第1および第2の数値を個々に加重して、各分析物について加重値を得る工程;(d)加重された数値を含む方程式に基づいて、モニタリングスコアを決定する工程;ならびに(e)該モニタリングスコアを対照モニタリングスコアと比較して、該モニタリングスコアが該対照モニタリングスコアよりも大きいかもしくは同等である場合に該処置を有効と分類するか、または、該モニタリングスコアが該対照モニタリングスコアよりも小さい場合に該処置を有効でないと分類する工程。
生物学的試料は、全血、血清、血漿、尿、または脳脊髄液であり得る。第1の生物学的試料は、処置開始前に対象から得られ得、かつ第2の生物学的試料は、処置開始の1〜25日後に対象から得られ得る。方法は、以下の工程をさらに含み得る:多数の分析物各々の第3の数値を提供する工程であって、各第3の数値が、対象由来の第3の生物学的試料における分析物のレベルに相当する、工程;各分析物に特異的な様式で第3の数値を個々に加重して、各分析物について加重値を得る工程;ならびに、各分析物について、第1、第2、および第3の加重された数値を含む方程式に基づいて、モニタリングスコアを決定する工程。多数の分析物は、以下からなる群より選択され得る:(a)PRL、BDNF、RES、TNFRII、およびA1A;ならびに(b)RANTES、PRL、BDNF、S100B、RES、TNFR、A1A、およびEGF。
他の方法で定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野において当業者により一般的に理解されるのと同一の意味を有する。明細書に記載されるものと同様または等価の方法および材料が、本発明の実施または試験において使用され得るが、適当な方法および材料が下記に説明される。本明細書において言及されるすべての刊行物、特許出願、特許、および他の参照文献は、全体として参照により組み入れられる。加えて、材料、方法、および実施例は、例証となるのみであり、限定するようには意図されない。
[本発明1001]
以下の工程を含む、対象の疾患重症度を層別化するインビトロの方法:
(a)軽度、中等度、および重度の状態のうつ病に関連する多数の分析物各々について数値を提供する工程であって、各数値が、該対象由来の生物学的試料における分析物のレベルに相当する、工程;
(b)各分析物に特異的な様式で各数値を個々に加重して、各分析物について加重値を得る工程;
(c)各加重値を含む方程式に基づいて、結果値を決定する工程;
(d)該結果値を、正常対象について、ならびに軽度、中等度、および重度の状態のうつ病を有する対象について得られた対照結果値と比較する工程であって、該対照結果値が、該結果値と同等の様式で決定された、工程;ならびに
(e)該結果値が、非うつ病、軽症うつ病、中等度うつ病、または重症うつ病についての対照値の所定の範囲内である場合、非うつ病、軽症うつ病、中等度うつ病、または重症うつ病を有する対象をそれぞれ分類する工程。
[本発明1002]
うつ病が、大うつ病性障害(MDD)に関連している、本発明1001の方法。
[本発明1003]
軽度、中等度、および重度の状態のMDDの分類を補助するために使用され得るMDD診断スコアを算出するために、アルゴリズムが使用される、本発明1002の方法。
[本発明1004]
多数の分析物が、一つまたは複数の炎症バイオマーカーを含む、本発明1001の方法。
[本発明1005]
多数の分析物が、一つまたは複数の神経栄養バイオマーカーを含む、本発明1001の方法。
[本発明1006]
多数の分析物が、一つまたは複数の代謝バイオマーカーを含む、本発明1001の方法。
[本発明1007]
多数の分析物が、一つまたは複数の視床下部-下垂体-副腎軸バイオマーカーを含む、本発明1001の方法。
[本発明1008]
多数の分析物が、アシル化刺激タンパク質、アディポネクチン、副腎皮質刺激ホルモン、アルテミン(artemin)、α1アンチトリプシン(A1AT)、α-2-マクログロビン、アポリポタンパク質C3(ApoC3)、アルギニンバソプレシン、脳由来神経栄養因子(BDNF)、コルチコトロピン放出ホルモン、C反応性タンパク質、CD40リガンド、コルチゾール、上皮成長因子(EGF)、顆粒球コロニー刺激因子、インターロイキン-1、インターロイキン-1受容体アゴニスト、インターロイキン-6、インターロイキン-10、インターロイキン-13、インターロイキン-18、レプチン、マクロファージ炎症性タンパク質1-α、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)、ニューロトロフィン3、膵臓ポリペプチド、プラスミノーゲン活性化因子インヒビター-1、プロラクチン、RANTES、レジスチン(resistin)、リーリン(reelin)、S100B、可溶性腫瘍壊死因子α、可溶性腫瘍壊死因子α受容体II(sTNFR2)、甲状腺刺激ホルモン、腫瘍壊死因子α、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される二つまたはそれ以上の分析物を含む、本発明1001の方法。
[本発明1009]
多数の分析物が、コルチゾール、プロラクチン、EGF、MPO、BDNF、レジスチン、sTNFR2、ApoC3、およびA1ATを含む、本発明1001の方法。
[本発明1010]
生物学的試料が、全血、血清、血漿、尿、または脳脊髄液である、本発明1001の方法。
[本発明1011]
対象がヒトである、本発明1001の方法。
[本発明1012]
生物学的試料についての多数の分析物のうち一つまたは複数の測定レベルを得る工程をさらに含み、結果値が該測定レベルに少なくとも部分的に基づく、本発明1001の方法。
[本発明1013]
以下の工程を含む、うつ病性障害を有すると診断された対象の処置をモニタリングするためのインビトロの方法:
(a)うつ病に関連する多数の分析物各々の第1の数値を提供する工程であって、各第1の数値が、該対象由来の第1の生物学的試料における分析物のレベルに相当する、工程;
(b)各分析物に特異的な様式で各第1の数値を個々に加重して、各分析物について第1の加重値を得る工程;
(c)各第1の加重値を含む方程式に基づいて、第1のMDDスコアを決定する工程;
(d)該多数の分析物各々の第2の数値を提供する工程であって、各第2の数値が、該対象由来の第2の生物学的試料における分析物のレベルに相当し、第2の生物学的試料が、該うつ病性障害に対する処置後に得られた、工程;
(e)工程(b)の加重と同等の様式で行うという条件で、各分析物に特異的な様式で各第2の数値を個々に加重して、各分析物について第2の加重値を得る工程;
(f)該方程式を使用して、該うつ病性障害に対する該対象の処置後の第2のMDDスコアを決定する工程;ならびに
(g)第1のMDDスコアを、第2のMDDスコアと、および一人または複数の正常対象より決定された対照MDDスコアまたはMDDスコア範囲と比較して、第2のMDDスコアが対照MDDスコアに対して第1のMDDスコアよりも近い場合に該処置を有効と分類し、または、第2のMDDスコアが対照MDDスコアに対して第1のMDDスコアよりも近くない場合に該処置を有効でないと分類する工程。
[本発明1014]
生物学的試料が、全血、血清、血漿、尿、または脳脊髄液である、本発明1013の方法。
[本発明1015]
第2のMDDスコアが、うつ病に対する処置の数日後、数週間後、または数か月後に決定される、本発明1013の方法。
[本発明1016]
多数の分析物が、以下からなる群より選択される、本発明1013の方法:
(a)RANTES、PRL、BDNF、S100B、RES、TNFR、A1A、コルチゾール、およびEGF;
(b)RANTES、PRL、BDNF、S100B、RES、TNFR、A1A、およびEGF;
(c)RANTES、PRL、BDNF、S100B、RES、TNFR、およびA1A;
(d)S100B、PRL、BDNF、RES、TNFR、およびA1A;
(e)コルチゾール、PRL、BDNF、RES、TNFR、およびA1A;ならびに
(f)BDNF、レジスチン、TNFRII、およびA1A。
[本発明1017]
対象がヒトである、本発明1013の方法。
[本発明1018]
以下の工程をさらに含む、本発明1013の方法:
第1または第2の生物学的試料についての多数の分析物のうち一つまたは複数の測定レベルを得る工程であって、対応する第1または第2のMDDスコアが、該測定レベルに少なくとも部分的に基づく、工程。
[本発明1019]
以下の工程を含む、うつ病性障害を有すると診断された対象の処置をモニタリングするためのインビトロの方法:
(a)うつ病に関連する多数の分析物各々の第1の数値を提供する工程であって、各第1の数値が、該対象由来の第1の生物学的試料における分析物のレベルに相当する、工程;
(b)該多数の分析物各々の第2の数値を提供する工程であって、各第2の数値が、該対象由来の第2の生物学的試料における分析物のレベルに相当し、第2の生物学的試料が、該うつ病性障害に対する処置後に得られた、工程;
(c)各分析物に特異的な様式で第1および第2の数値を個々に加重して、各分析物について加重値を得る工程;
(d)加重された数値を含む方程式に基づいて、モニタリングスコアを決定する工程;ならびに
(e)該モニタリングスコアを対照モニタリングスコアと比較して、該モニタリングスコアが該対照モニタリングスコアよりも大きいかもしくは同等である場合に該処置を有効と分類し、または、該モニタリングスコアが該対照モニタリングスコアよりも小さい場合に該処置を有効でないと分類する工程。
[本発明1020]
生物学的試料が、全血、血清、血漿、尿、または脳脊髄液である、本発明1019の方法。
[本発明1021]
第1の生物学的試料が、処置開始前に対象から得られる、本発明1019の方法。
[本発明1022]
第2の生物学的試料が、処置開始の1〜25日後に対象から得られる、本発明1019の方法。
[本発明1023]
以下の工程をさらに含む、本発明1019の方法:
多数の分析物各々の第3の数値を提供する工程であって、各第3の数値が、対象由来の第3の生物学的試料における分析物のレベルに相当する、工程;
各分析物に特異的な様式で第3の数値を個々に加重して、各分析物について加重値を得る工程;ならびに
各分析物について、第1、第2、および第3の加重された数値を含む方程式に基づいて、モニタリングスコアを決定する工程。
[本発明1024]
多数の分析物が、以下からなる群より選択される、本発明1019の方法:
(a)PRL、BDNF、RES、TNFRII、およびA1A;ならびに
(b)RANTES、PRL、BDNF、S100B、RES、TNFR、A1A、およびEGF。
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から、および添付の特許請求の範囲から明らかであろう。
疾患の重症度を評価するためまたは診断もしくは予後判定のための疾患特異的バイオマーカーパネルを開発する目的で採用され得る工程を示す流れ図である。 疾患特異的バイオマーカーパネルを用いて診断用または予後判定用アルゴリズムを開発する目的で採用され得る工程を示す流れ図である。 基本的な診断スコアを決定するための例示的方法における工程を示す流れ図である。 個体を診断するため、処置選択肢を選択するため、ならびに処置をモニタリングおよび最適化するための診断スコアの使用に関する例示的工程を示す流れ図である。 抗うつ治療の前および後の患者の血液におけるマーカーXのレベルの仮想的箱髭図である。 正常対象の群(黒丸)およびMDD患者の群(白丸)について、うつ病診断スコア(MDDSCORE(商標))とハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Depression Rating Scale)(HDRSまたはHAM-D)スコアとの間の相関をプロットするグラフである。 抗うつ薬Lexaproによる処置の2週間後および8週間後両方の、患者のHAM-Dスコアをプロットするグラフである。HAM-Dスコアの低下が、改善を示す。 ベースラインにおける、およびLexaproによる処置の2週間後における、MDD患者のサブセット中のうつ病診断スコア(MDDSCORE(商標))の変化をプロットするグラフである。 処置の2週間後にMDDSCORE(商標)を決定することにより8週間時点での処置の効力を予測するための、本明細書において開示される方法の可能性をプロットしたグラフである。 MDD患者において処置の結果をモニタリングするためにアルゴリズムを用いる場合の例示的工程を示す流れ図である。 処置の8週間後の結果を予測するために処置の最初の2週間の間に得られたバイオマーカー測定値を使用してモニタリングスコアを算出した、処置予測原型の結果をプロットするグラフである。
詳細な説明
本明細書は、アルゴリズムを開発する工程、複数のパラメータを評定する工程(例えば、測定する工程)、および定量的診断スコアのセットを決定するために該アルゴリズムを使用する工程により、うつ病性障害状態の診断または予後判定を確立するための方法の認定に、部分的に基づく。血清または血漿などの生物学的試料由来の複数のバイオマーカーの適用のためのアルゴリズムが、疾患重症度の層別化および疾患特異的薬力学マーカーの同定のために開発され得る。いくつかの態様において、例えば、細胞、血清、または血漿などの生物学的試料由来の複数のバイオマーカーの適用のためのアルゴリズムが、患者層別化、薬力学マーカーの同定、および処置の結果のモニタリングのために開発され得る。本明細書において使用される際、「バイオマーカー」とは、正常な生物学的作用もしくは病原性作用または治療的介入に対する薬理学的応答の指標として、客観的に測定されかつ評定され得る特性である。本明細書において使用される際、「分析物」とは、免疫アッセイまたは質量分析法などの分析手順において客観的に測定されかつ決定され得る物質または化学的構成要素である。
アルゴリズム
本明細書は、複数の測定されたパラメータを組み入れ、かつ定量的診断スコアを決定する目的で使用され得るアルゴリズムを開発するための材料および方法を提供する。個体の疾患状況または処置への応答を判定するためのアルゴリズムは、例えば、任意の臨床状態について決定され得る。本明細書において提供されるアルゴリズムは、例えば、医療装置、臨床的評価スコア、または生物学的試料の生物学的、化学的、もしくは物理学的検定を用いて定量化され得る複数のパラメータを含有する数学的関数であり得る。各々の数学的関数は、選択された臨床状態に関連するように決定されたパラメータのレベルの、加重調整された式であり得る。一変量および多変量分析が、従来の統計手段(例えば、T検定、PCA、LDA、または二元ロジスティック回帰であるが、それらに限定されない)を用いて各マーカーについて収集されたデータに対して行われ得る。診断スコアのセットを生成するように、アルゴリズムが適用され得る。アルゴリズムは一般に、式1の形式で表され得る:
診断スコア=f(x1, x2, x3, x4, x5...xn) (1)
診断スコアは、診断または予後判定の結果となる値であり、「f」は任意の数学的関数であり、「n」は任意の整数(例えば、1〜10,000の整数)であり、x1、x2、x3、x4、x5...xnは、例えば、医療装置により決定された測定値、臨床的評価スコア、および/または生物学的試料(例えば、血液、血清、血漿、尿、または脳脊髄液などのヒト生物学的試料)についての検定結果である、「n」個のパラメータである。
アルゴリズムのパラメータは、個々に加重され得る。そのようなアルゴリズムの例は、式2に表わされる:
診断スコア=a1x1+a2x2−a3x3+a4x4−a5x5 (2)
式中、x1、x2、x3、x4、およびx5は、医療装置により決定された測定値、臨床的評価スコア、および/または生物学的試料(例えば、ヒト生物学的試料)についての検定結果であり得、a1、a2、a3、a4、およびa5は、それぞれx1、x2、x3、x4、およびx5についての加重調整係数である。
診断スコアは、医学的状態もしくは疾患、または医学的処置の効果を定量的に定義するために使用され得る。例えば、うつ病などの障害について診断スコアを決定するために、アルゴリズムが使用され得る。そのような態様において、うつ病の程度は、式1に基づいて、以下の一般式で定義され得る:
うつ病診断スコア=f(x1, x2, x3, x4, x5...xn)
うつ病診断スコアは、個体においてうつ病の状況または重症度を測定するために使用され得る定量的数字であり、「f」は任意の数学的関数であり、「n」は任意の整数(例えば、1〜10,000の整数)であり得、x1、x2、x3、x4、x5...xnは、例えば、医療装置を用いて決定された測定値、臨床的評価スコア、および/または生物学的試料(例えば、ヒト生物学的試料)についての検定結果である、「n」個のパラメータである。
より一般的な形態において、式3に示されるように、バイオマーカー測定値の特定の組分けに複数の式を適用することにより、複数の診断スコアSmが生成され得る:
診断スコアSm=Fm(x1,...xn) (3)
複数のスコアは、例えば、うつ病性障害および/または関連する障害の特定のタイプおよびサブタイプの同定において有用であり得る。いくつかの場合には、うつ病性障害はMDDである。複数のスコアはまた、患者の処置の経過または選択された処置の効力を示すパラメータであり得る。うつ病性障害のサブタイプについての診断スコアは、抗うつ薬および他の調合薬の選択または最適化を補助することができる。
バイオマーカーライブラリーの構築
診断アルゴリズムに含まれるのに何のパラメータが有用であるかを判定するために、分析物のバイオマーカーライブラリーを開発することができ、該ライブラリー由来の個々の分析物を、特定の臨床状態についてのアルゴリズムに含めるかを評定することができる。出発点として、ライブラリーは、炎症、細胞接着、免疫応答、または組織リモデリングを一般に示す分析物を含み得る。いくつかの態様において(例えば、最初のライブラリー開発中に)、ライブラリーは、1ダースもしくはそれ以上のマーカー、100個のマーカー、または数百個のマーカーを含み得る。例えば、バイオマーカーライブラリーは、二、三百個のタンパク質分析物を含み得る。バイオマーカーライブラリーを構築する際に、新たなマーカー(例えば、個々の疾患状態に特異的なマーカー、および/または成長因子などのより一般化されているマーカー)を追加することができる。いくつかの場合には、バイオマーカーライブラリーは、発見研究(例えば、同位体コード親和性タグ(ICAT)または質量分析法などのディファレンシャルディスプレイ技術を用いた)から得られた疾患関連タンパク質の追加により改良することができる。この様式で、ライブラリーは特定の疾患状態にますます特異的になり得る。
バイオマーカーライブラリーへの新たなタンパク質分析物の追加は、精製された分子または組み換え分子、ならびに新たな分析物を捕捉および検出するための適切な抗体(または複数の抗体)を必要とし得る。バイオマーカーライブラリーへの新たな核酸ベースの分析物の追加は、特異的mRNAの同定、ならびにその特異的RNAの発現を定量化するためのプローブおよび検出システムを必要とし得る。個々の「新たなまたは新規の」バイオマーカーの発見は有用なアルゴリズムを開発するために必須ではないが、そのようなマーカーを含めることができる。明細書に記載されるような複数の分析物の検出法に適するプラットフォーム技術は、典型的に、新たな分析物の追加に柔軟でありかつ開放性である。例えば、Luminexマルチプレックスアッセイシステム(xMAP;ワールドワイドウェブ上のluminexcorp.com)は柔軟であり、かつ、新たな疾患特異的分析物を組み入れるように容易に設定され得る。
本明細書は、多重化検出システムが、臨床状態の診断、層別化、およびモニタリングに関連して分析物の堅牢かつ信頼できる測定値を提供できることを示すが、これは、パネル由来の個々の分析物の濃度を測定することができるアッセイ(例えば、一連の単一分析物のELISA)の使用を排除するものではない。バイオマーカーパネルを、伝統的なタンパク質アレイ、多重化ビーズプラットフォーム、または無標識のアレイへ拡大および移行することができ、かつ、臨床医および臨床研究を補助するためにアルゴリズムを開発することができる。
約25〜50個の抗原について、カスタム抗体アレイを設計し、開発し、分析により確認することができる。最初に、例えば、罹患していない対象と罹患した対象とを区別できる能力、または疾患重症度に従って定義された試料セットから患者を層別化できる能力に基づいて、約5〜10個(例えば、5、6、7、8、9、または10個)の分析物のパネルを選択することができる。しかしながら、通常は10個超の有意な分析物が測定される、充実化データベースは、検定アルゴリズムの感度および特異性を上昇させることができる。さらに疾患状態を定義するため、または患者を下位分類するために、炎症および免疫応答を反映するパネルに加えて他のパネルを実行することができる。例として、神経栄養因子の測定から得られるデータにより、神経可塑性の変化を有する患者を識別することができる。同様に、代謝因子の測定から得られるデータは、変化したかまたは異常な代謝機能を有する患者を識別することができ、かつ視床下部-下垂体-副腎(HPAまたはHTPA)軸の因子の測定から得られるデータは、神経内分泌系の変化を有する患者を識別することができる。そのようなアプローチはまた、非限定的にDNAおよびRNAを含む他の生体分子を含むか、またはそれらに適用され得ることに留意されたい。
個々のバイオマーカーの選択
ライブラリーまたはパネルの構築において、マーカーおよびパラメータは、様々な方法のいずれかにより選択することができる。疾患特異的ライブラリーまたはパネルを構築するための主要な考慮すべき事項は、疾患に対するパラメータの関連性を理解することであり得る。他のパラメータ/マーカーを含む目的で同定するために、文献調査または実験を用いることもできる。多数の転写因子、成長因子、ホルモン、および他の生体分子が、神経精神医学的障害に関連している。MDDについて分析物を選択するため、またはバイオマーカーを定義するために使用されるパラメータは、例えば、炎症バイオマーカー、HPA軸の因子、代謝バイオマーカー、ならびに、ニューロトロフィン、グリア細胞株由来神経栄養因子ファミリーリガンド(GFL)、および神経新生サイトカインを含む神経栄養因子の機能的組分けより選択され得る。いくつかの場合には、MDDについてのバイオマーカーは、アシル化刺激タンパク質(ASP)、アディポネクチン(ACRP30)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、アルテミン(ARTN)、α1アンチトリプシン(A1AT)、α-2-マクログロビン(A2M)、アポリポタンパク質C3(apoC3)、アルギニンバソプレシン(AVP)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)、C反応性タンパク質(CRP)、CD40リガンド、コルチゾール、上皮成長因子(EGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、インターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-1受容体アゴニスト(IL-1RA)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-10(IL-10)、インターロイキン-13(IL-13)、インターロイキン-18(IL-18)、レプチン、マクロファージ炎症性タンパク質1-α(MIP-1α)、ミエロペルオキシダーゼ、ニューロトロフィン3(NT-3)、膵臓ポリペプチド、プラスミノーゲン活性化因子インヒビター-1、プロラクチン、RANTES、レジスチン、リーリン(RELN)、S100B、可溶性腫瘍壊死因子α(TNF-α)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、または任意のそれらの組み合わせの一つまたは複数を含む分析物のパネルであり得る。
いくつかの場合には、バイオマーカーは、炎症反応に関与する因子であり得る。多種多様なタンパク質が炎症に関与し、かつ、そのうちのいずれかは、該タンパク質の正常な発現および機能を弱めるかまたは他の方法で破壊する遺伝子変異を受けやすい。炎症はまた、高い全身レベルの急性期タンパク質を誘導する。これらのタンパク質は、C反応性タンパク質、血清アミロイドA、血清アミロイドP、バソプレシン、およびグルココルチコイドを含み、様々な全身性作用を引き起こす。炎症はまた、炎症誘発性サイトカインおよびケモカインの放出を含む。炎症反応系の機能異常が、免疫系のフィードバック制御を破壊し、それにより神経精神医学的および免疫学的な障害の発症に寄与することを、研究が実証している。実際に、慢性炎症反応を特徴とするいくつかの内科的疾病(例えば、関節リウマチ)は、うつ病を伴うことが報告されている。さらに、最近の証拠により、炎症性サイトカインレベルの上昇とうつ病および悪液質の両方が関連づけられており、かつ実験により、ヒトおよび齧歯動物の両方においてサイトカインの導入がうつ病および悪液質の症候を誘導することが示されている。これらは、分子レベルで共通の病因が存在する可能性があることを示唆している。例えば、(例えば癌またはC型肝炎の治療における)炎症誘発性サイトカインの投与は、動物において「疾病行動」を誘導し得、これは、ヒトにおけるうつ病の行動症候に非常に類似している行動変化のパターンである。腫瘍壊死因子-αなどの特定のサイトカイン分子を標的とする治療剤が、現在、うつ病および悪液質の両方を同時に薬理学的に処置する可能性について評定されている。要約すると、「Inflammatory Response System (IRS) model of depression」(Maes, Adv. Exp. Med. Biol. 461:25-46 (1999))において、神経調節物質として作用する炎症誘発性サイトカインは、うつ病性障害の行動的、神経内分泌的、および神経化学的な特徴の仲介における重要因子であることが提唱されている。
いくつかの場合には、バイオマーカーは、神経栄養因子であり得る。神経栄養因子は、発生中のニューロンの成長および生存、ならびに成熟ニューロンの維持を担うタンパク質のファミリーである。大抵の神経栄養因子は、以下の3種類のファミリーの一つに属する:(1)ニューロトロフィン、(2)グリア細胞株由来神経栄養因子ファミリーリガンド(GFL)、および(3)神経新生サイトカイン。各ファミリーは、それ自体の別個のシグナル伝達ファミリーを有するが、誘発される細胞応答はしばしば重複する。脳由来神経栄養因子(BDNF)およびその受容体であるTrkBなどの神経栄養因子は、発生中のニューロンの成長および生存、ならびに成熟ニューロンの維持を担うタンパク質である。神経栄養因子は、CNSおよびPNSにおけるニューロンの初期の成長および発生、ならびに、インビトロおよびインビボでの損傷を受けたニューロンの再成長を促進し得る。加えて、これらの因子はしばしば、発生中の軸索の成長を導くために標的組織により放出される。神経栄養因子合成の欠損は、うつ病で述べられる認知障害に関連する海馬および前頭葉前部皮質におけるアポトーシス増加の原因である可能性があることが、研究により示唆されている。
いくつかの場合には、バイオマーカーは、HPA軸の因子であり得る。辺縁系-視床下部-下垂体-副腎軸(LHPA軸)としても公知であるHPA軸は、視床下部(脳の中空かつ漏斗形の部分)、下垂体(視床下部の下に位置する豆形の構造)、および副腎(または腎上体)(腎臓の上部の小さな円錐形の器官)の間の複雑な一連の直接的影響およびフィードバック相互作用である。これらの器官の間の相互作用により、身体のストレス応答を制御しかつ多くの生体作用、例えば消化、免疫系、気分および感情、性行動、ならびにエネルギーの貯蔵および消費を制御する神経内分泌系の主要な部分である、HPA軸が構成される。HPA軸バイオマーカーの例は、ACTHおよびコルチゾールを含む。コルチゾールは、コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)の分泌を阻害し、ACTH分泌のフィードバック阻害を結果としてもたらす。この正常なフィードバックループは、ヒトが慢性的なストレスにさらされたときに崩壊する可能性があり、かつ、うつ病の根元的原因である可能性がある。
いくつかの場合には、バイオマーカーは、代謝因子であり得る。代謝バイオマーカーは、健康および疾患状態において代謝過程への洞察を提供するバイオマーカーの群である。ヒトの疾患は、複数の生化学的経路に影響を及ぼす、複雑な下流効果となって現れる。例えば、うつ病および他の神経精神医学的障害は、しばしば、糖尿病などの代謝障害に付随する。結果として、種々の代謝物ならびに代謝過程を調節するタンパク質およびホルモンが、MDDなどのうつ病性障害を診断するため、疾患重症度を層別化するため、および対象のうつ病性障害に対する処置への応答をモニタリングするために使用され得る。
図1の流れ図に示されるように、バイオマーカーの疾患特異的パネルを開発する過程は、以下の二つの統計的アプローチを含み得る:1)一変量分析により疾患との関連について分析物の分布を検定すること;および2)多変量分析を用いて分析物を群へクラスター化すること。いくつかの場合には、一変量分析は、MDDとの関連についてバイオマーカーの分布を検定するために行うことができ、線形判別分析(LDA)および二元ロジスティック回帰は、診断スコアを生成するようにアルゴリズムを構築するために行うことができる。一変量分析は、各変数をデータセットにおいて別々に探索し、かつ値の範囲および中心傾向を同定する。多変量分析は、変数を非重複の一次元クラスターに分割する。さらなる分析のためにバイオマーカーまたは分析物パネルを設計する目的で、各クラスターから二つまたはそれ以上の分析物を選択することができる。選択は、典型的に、マーカーの統計的強度、および疾患の現在の生物学的理解に基づく。例えば、統計的有意性に従って選択した分析物を多変量分析に供して、正常集団からうつ病などの臨床状態を有する対象を区別し得るマーカーを同定することができる。統計的有意性を判定するための方法は、例えば、t統計、カイ二乗統計、およびF統計を含む、当技術分野において日常的に使用されるものであり得る。
いくつかの場合には、多変量分析は線形判別分析(LDA)であり得、これは、二つまたはそれ以上のクラスの対象物または事象を最も良好に分離する線形結合の特徴を見出すために使用される統計法である。いくつかの場合には、多変量分析は主成分分析(PCA)であり得、これは、データの任意の投影による最も大きな分散が第1の座標(第1主成分と呼ばれる)に位置し、2番目に大きな分散が第2の座標に位置するような、新たな座標系にデータを変換する統計法である。PCAは、その分散に最も寄与するデータセット特性を維持すること、低次の主成分を保持して高次の成分を無視することにより、データセットにおける次元縮小のために使用され得る。そのような低次の成分は、しばしば、データの「最も重要な」局面を含有する。いくつかの場合には、多変量分析は部分最小二乗判別分析(PLS-DA)であり得、これは、クラスター間の最大の分離が得られるようにPCA成分を回転することにより変数の群間の分離を最大化するため、ならびに、どの変数がクラスターを区別および分離するかを同定するために使用される統計法である。
第1の過程が効率的であり、マーカーの実験および統計に基づいた選択を提供できるが、図2の流れ図に示されるように、関連するバイオマーカーの選択は、図1に記述される選択過程に依存する必要はない。逆に、この過程を、仮説および現在利用可能なデータに基づいて全体的に選択されたバイオマーカーの群により、開始することができる。関連する患者集団および(例えば、年齢、性別、人種、および/またはBMIについて)適切に一致した正常対象集団の選択が、典型的に、この過程に関与する。
分析物の測定
本明細書において提供される、疾患重症度を層別化し、うつ病に対する処置への対象の応答をモニタリングする方法は、対象から収集された生物学的試料におけるバイオマーカー群のレベルを決定する工程を含み得る。例示的な対象はヒトであるが、対象は、ヒト疾患のモデルとして使用される動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、および非ヒト霊長類)もまた含み得る。バイオマーカーの群は、特定の疾患に特異的であり得る。例えば、多数の分析物が、MDDに特異的なパネルを形成し得る。
いくつかの適当な方法が、診断/予後判定アルゴリズムに含まれるパラメータを定量化するために使用され得る。例えば、分析物の測定値は、対象の状態を評価するための一つまたは複数の医療装置または臨床的評価スコアを用いて得られ得る。図3の流れ図に示されるように、診断スコアを確立するために本明細書において提供される方法は、生物学的試料の検定を使用して特定の分析物のレベルを決定する工程を含み得る。本明細書において使用される際、「生物学的試料」とは、細胞または細胞物質を含有する試料であり、そこから核酸、ポリペプチド、または他の分析物が得られ得る。行われる分析のタイプに応じて、生物学的試料は、標準的技術により単離される血清、血漿、または血液細胞であり得る。血清および血漿が例示的な生物学的試料であるが、他の生物学的試料を使用することができる。例えば、尿中の特定のモノアミンを測定できる。加えて、ある群のうつ病患者は、健常な対照対象よりも多量のカテコールアミン(CA)および代謝物を尿中に排出することが見出されている。他の適当な生物学的試料の例は、非限定的に、脳脊髄液、胸膜液、気管支洗浄液、痰、腹水、膀胱洗浄液、分泌物(例えば、乳房分泌物)、口腔洗浄液、スワブ(例えば、口腔スワブ)、単離された細胞、組織試料、タッチプレップ(touch prep)、および細針吸引物を含む。いくつかの場合には、生物学的試料を直ちに検定する予定であれば試料を室温で維持することができ;さもなければ、アッセイの前に試料を冷蔵または凍結(例えば、-80℃で)することができる。
測定値は、個々のパラメータについて別々に得られ得るか、または、多数のパラメータについて同時に得られ得る。任意の適当なプラットフォームが、パラメータ測定値を得るために使用され得る。いくつかの場合には、生物学的試料におけるバイオマーカー発現レベルは、多重同位体画像化質量分析(MIMS)機器、または、例えば、ELISAもしくはPCRなどの単一のアッセイを含む任意の他の適当な技術を用いて測定され得る。複数のパラメータを同時に定量化するために有用なプラットフォームは、例えば、米国仮特許出願第60/910,217号および第60/824,471号、米国特許出願第11/850,550号、ならびにPCT公開公報第WO2007/067819号に記述されているものを含み、それらのすべては、全体として参照により本明細書に組み入れられる。有用なプラットフォームの例は、Precision Human Biolaboratories, Inc.(現在Ridge Diagnostics, Inc., Research Triangle Park, NC)により開発されたMIMS無標識アッセイ技術を利用する。簡潔に述べると、薄膜の境界での局所的干渉が、光学的検出技術の原理であり得る。生体分子相互作用の分析のために、SiO2の干渉層を有するガラスチップが、センサーとして使用され得る。この層の表面で結合する分子が干渉薄膜の光学的厚さを増加させ、これを、例えば上記に列挙された出願において示されたように決定することができる。
多重化するために有用なプラットフォームの例は、FDAに認可されている、フローベースのLuminexアッセイシステム(xMAP)である。この多重化技術は、フローサイトメトリーを使用して、抗体/ペプチド/オリゴヌクレオチドまたは受容体でタグ付加および標識したミクロスフェアを検出する。加えて、Luminex技術は、単一の試料内で最大100種類の独自のアッセイの多重化を可能にする。このシステムは構成が公開されているため、Luminexを、特定の疾患パネルのホストとなるように容易に設定することができる。
診断スコアを使用するための方法
図4の流れ図に示されるように、診断スコアは、診断の決定、患者の層別化、処置の選択、および処置のモニタリングを補助するのに使用され得る。一つまたはそれ以上の複数の診断スコアが、バイオマーカーセットの発現レベルから生成され得る。本実施例において、複数のバイオマーカーを対象の血液試料から測定することができ、これらはアルゴリズムにより3個の診断スコアを生成する。いくつかの場合には、単一の診断スコアが、診断の実施および処置の選択を十分に補助し得る。
本明細書において提供される方法により生成される診断スコアは、例えば、疾患重症度を層別化するために使用され得る。従って、いくつかの場合には、個々の分析物のレベルおよび/または本明細書において提供されるアルゴリズムにより決定される診断スコアは、軽度、中等度、または重度のうつ病を有すると対象を診断するのに使用するために臨床医に提供され得る。例えば、本明細書において提供されるアルゴリズムを用いて生成される診断スコアは、診断スコアを決定する研究技術者または他の専門家により、臨床医、療法士、または他の医療専門家に連絡され得、対象は、特定のスコアに基づいてまたはある期間にわたる診断スコアの上昇もしくは低下に基づいて、特定の疾患重症度を有するとして分類される。これらの分類に基づいて、臨床医、療法士、または他の医療専門家は、患者の看護を最適化する目的で、適切な処置選択肢、教育プログラム、および/または他の治療を評定し、かつ推奨することができる。診断は、例えば、最先端の方法論を用いてなされ得、または、患者集団との関連分野の経験を有する医師一人または医師群によりなされ得る。
本明細書に記載されるように、方法は、軽度、中等度、および重度の状態のうつ病に関連する多数の分析物各々について数値を提供する工程であって、各数値が、対象由来の生物学的試料における分析物のレベルに相当する、工程、各分析物に特異的な様式で各数値を個々に加重して、各分析物について加重値を得る工程、ならびに、各加重値を含む方程式に基づいて、結果値を決定する工程を含み得る。結果値はその後、対照結果値(例えば、正常対象由来、ならびに軽度、中等度、および重度のうつ病を有する対象由来の生物学的試料を用いて得られた値)が結果値と同等の様式で決定されたとの条件で、対照結果値と比較され得る。対象はその後、対照値と比較して結果値が位置する部分に基づき、うつ病を有さないとして、または、軽度のうつ病、中等度のうつ病、もしくは重度のうつ病を有するとして分類され得る。方法は、分類を補助するのに使用され得るMDD診断スコアを算出するためのアルゴリズムの使用を含み得る。多数の分析物とは、本明細書において表1に列挙されるものの任意の二つまたはそれ以上を含み得る。いくつかの場合には、該多数には、例えば、コルチゾール、プロラクチン、EGF、MPO、BDNF、レジスチン、sTNFR2、ApoC3、およびA1ATが含まれ得る。加えて、方法は、該生物学的試料について該多数の分析物のうち一つまたは複数の測定レベルを得る工程を含み得、ここで、結果値は少なくとも一部が測定レベルに基づく。
診断スコアはまた、処置モニタリングのために使用され得る。例えば、診断スコアおよび/または個々の分析物のレベルは、対象について処置のコースを確立または変更するのに使用するために臨床医に提供され得る。処置を選択して開始すると、2回またはそれ以上の間隔で生物学的試料が収集され、所定の時間間隔に対応する診断スコアを生成するためにバイオマーカーレベルが測定され、かつ経時的に診断スコアが比較されることによって、対象を周期的にモニタリングすることができる。これらのスコアに基づいて、かつ診断スコアの上昇、低下、または安定化に関して観察される任意の傾向に基づいて、臨床医、療法士、または他の医療専門家は、処置を現状のまま継続すること、処置を中断すること、または経時的に改善させる目的で処置計画を調整することを選択してもよい。例えば、診断スコアの変化により判定された疾患重症度の低下は、処置に対する患者の正の応答に相当し得る。診断スコアの変化により判定された疾患重症度の上昇は、処置に対する正の応答がなかったことおよび/または現在の処置計画を再評定する必要性を示し得る。静的な診断スコアは、疾患重症度に関して静止状態に相当し得る。いくつかの場合には、疾患層(すなわち、軽度、中等度、および重度のうつ病)間の移動は、疾患重症度の増減を示し得る。いくつかの場合には、疾患層間の移動は、特定の対象または対象群のために選択された処置計画の効果に相当し得る。
いくつかの場合には、方法は以下の工程を含み得る:(a)うつ病に関連する多数の分析物各々について第1の数値を提供する工程であって、各第1の数値が、対象由来の第1の生物学的試料における分析物のレベルに相当する、工程、各分析物に特異的な様式で各第1の数値を個々に加重して、各分析物について第1の加重値を得る工程、および、各第1の加重値を含む方程式に基づいて、第1のMDDスコアを決定する工程;ならびに(b)該多数の分析物各々の第2の数値を提供する工程であって、各第2の数値が、該対象由来の第2の生物学的試料における分析物のレベルに相当し、第2の生物学的試料が、該うつ病性障害に対する処置(例えば、数日、数週間、数か月、またはより長くにわたる処置)後に得られる、工程、工程(a)の加重と同等の様式で行うという条件で各分析物に特異的な様式で各第2の数値を個々に加重して、各分析物について第2の加重値を得る工程、および、該方程式を使用して、該うつ病性障害に対する該対象の処置後の第2のMDDスコアを決定する工程。第1のMDDスコアを、第2のMDDスコアと、および一人または複数の正常対象より決定された対照MDDスコアまたはMDDスコア範囲と比較して、第2のMDDスコアが対照MDDスコアに対して第1のMDDスコアよりも近い場合に該処置を有効と分類し、または、第2のMDDスコアが対照MDDスコアに対して第1のMDDスコアよりも近くない場合に該処置を有効でないと分類することができる。
いくつかの態様において、最初の血液試料は、処置開始前に対象から採取される。任意で、細胞から血清を分離するために試料を遠心沈殿することができ、かつPS1(患者pから採った1番)として保存することができる。対象をその後、ある期間(例えば、一つまたは複数の抗うつ薬で)処置することができ、かつ処置経過の間(例えば、処置開始の数日後、数週間後、または数か月後)に血液試料を収集することができる。試料は任意で、最初の試料と調和するように遠心沈殿、標識、および保存することができ、処置の持続時間および試料収集の頻度に応じて、複数の試料‐PS1、PS2、PS3などが存在し得る。
対象についての試料(PS1、PS2、PS3、など)をアッセイして、選択されたバイオマーカーのレベル(Mn1、Mn2、およびMn3=バイオマーカーn1、n2、およびn3;例えば、図10を参照されたい)を測定することができる。マーカーパネルは、4種類の主要な生体系/経路(明細書に記載されるような、炎症、HPA軸、代謝バイオマーカー、および神経栄養因子)より選択されるバイオマーカーを含み得る。例えば、各経路におけるバイオマーカーは、表1に示される一覧表からのバイオマーカーの選択を含む(例えば、RANTES、PRL、BDNF、S100B、RES、TNFR、A1A、コルチゾール、およびEGF;RANTES、PRL、BDNF、S100B、RES、TNFR、A1A、およびEGF;RANTES、PRL、BDNF、S100B、RES、TNFR、およびA1A;S100B、PRL、BDNF、RES、TNFR、およびA1A;コルチゾール、PRL、BDNF、RES、TNFR、およびA1A;またはBDNF、レジスチン、TNFRII、およびA1A)。
抗うつ薬処置期間の終わりに、数学的アルゴリズムをバイオマーカー測定値に適用して、最終的な結果(例えば、HAMDスコアの変化)に相関するスコアを算出することができる。数学的アルゴリズムは、特定のバイオマーカー変化およびそれらの変化の速度を使用して、スコアを算出することができる。例えば、Mn1、Mn2(n=1、2、...マーカーの数)を使用して、スコアを算出することができる。あるいは、二つの試料のみを使用する場合、 (Mn1-Mn2)/(Mn1+Mn2)の変化を使用して、スコアを算出することができる。別の例において、Mn1、Mn2、Mn3(n=1、2、3、...マーカーの数)を使用して、スコアを算出することができ、かつ三つの試料を収集する場合、(Mn1-Mn2)/(Mn1+Mn2)、(Mn2-Mn3)/(Mn2+Mn3)の変化を使用して、スコアを算出することができる。
処置の終わりに、各患者についての結果(すなわち、処置が成功であるか否か)がわかる。この結果をインプットとして使用し、バイオマーカー測定値(Mn1、Mn2、Mn3、など)を使用して患者の処置結果を予測する工程を含む算出を最適化することができる。臨床結果をバイオマーカー測定値と比較することにより、(例えば、抗うつ薬で)うつ病について処置された患者の処置結果と最大限に相関するスコアの生成を最適化することができる。そのような方法を用いて対照モニタリングスコアを決定することができ、かつ、対照スコアをその後、うつ病に対する対象の処置が有効であるか否かを確かめるための標準として使用することができる。
他の態様において、方法は、うつ病に関連する多数の分析物各々について少なくとも2個の(例えば、2、3、4、5個、または5個より多くの)数値を含み得、各数値は、対象由来の生物学的試料における分析物のレベルに相当する。例えば、第1の数値は、対象から得られた第1の生物学的試料における分析物について得ることができ、第2の数値は、対象由来の第2の生物学的試料における分析物について得ることができ、以降も同様である。第1の生物学的試料は、うつ病性障害に対する処置の前に得ることができ、第2および任意のその後の生物学的試料は、処置開始後(例えば、処置開始の12時間後、または、処置開始の1、2、3、4、5、6、7、14、21日後、またはそれ以上の日数後)に得ることができる。各分析物に特異的な様式で数値を個々に加重することにより各分析物について加重値を生じることができ、かつ、加重された数値を含む方程式に基づいて、「モニタリングスコア」を決定することができる。モニタリングスコアを対照スコアと比較することができ、算出されたモニタリングスコアが対照スコアよりも大きいか否かに基づいて、処置の成功を判断することができる。例えば、該モニタリングスコアが該対照モニタリングスコアよりも大きいかもしくは同等である場合、処置を有効と分類することができ、または、該モニタリングスコアが該対照モニタリングスコアよりも小さい場合、有効でないと分類することができる。多数の分析物は、本明細書において表1に列挙されるもののいずれか二つまたはそれ以上を含み得る。例えば、多数の分析物は、PRL、BDNF、RES、TNFRII、およびA1A;またはRANTES、PRL、BDNF、S100B、RES、TNFR、A1A、およびEGFを含み得る。試験データを使用して、処置結果(例えば、処置成功)と相関するモニタリングスコアを決定するために、対照値を臨床処置モニタリング研究から決定することができる。そのモニタリングスコアを、対照として確立することができる。
患者の診断スコアが報告された後、医療専門家は、患者の看護に影響を及ぼし得る一つまたは複数の行動をとることができる。例えば、医療専門家は、患者の医療記録に診断スコアまたはモニタリングスコアを記録することができる。いくつかの場合には、医療専門家は、MDDの診断を記録することができ、または、患者の医学的状態を反映するように、別の方法で患者の医療記録を変換することができる。いくつかの場合には、医療専門家は、患者の医療記録を再検討および評定することができ、かつ、患者の状態の臨床的介入のために複数の処置戦略を評価することができる。
医療専門家は、患者の診断スコアに関する情報を受領した後に、MDD症候に対する処置を開始または改変することができる。いくつかの場合には、診断スコアおよび/または個々の分析物のレベルの以前の報告を、最近連絡された診断スコアおよび/または疾患状態と比較することができる。そのような比較に基づいて、医療専門家は、治療における変更を推奨してもよい。いくつかの場合には、医療専門家は、MDD症候の新規の治療的介入のために患者を臨床試験に登録することができる。いくつかの場合には、医療専門家は、患者の症候が臨床的介入を必要とするまで治療を始めるのを待つことを選択できる。
医療専門家は、診断スコアおよび/または個々の分析物のレベルを、患者または患者の家族に連絡することができる。いくつかの場合には、医療専門家は、処置選択肢、予後、ならびに専門医、例えば、神経科医および/またはカウンセラーへの照会を含めて、MDDに関する情報を患者および/または患者の家族に提供することができる。いくつかの場合には、医療専門家は、診断スコアおよび/または疾患状態を専門医に連絡するために、患者の医療記録の複写を提供することができる。
研究専門家は、MDDの研究を進歩させるために、対象の診断スコアおよび/または疾患状態に関する情報を適用することができる。例えば、研究者は、有効な処置を同定するために、MDD診断スコアのデータを、MDD症候の処置についての薬物の効力に関する情報と共に集計することができる。いくつかの場合には、研究専門家は、調査研究または臨床試験において対象の登録または継続的参加を評定するために、対象の診断スコアおよび/または個々の分析物のレベルを得ることができる。研究専門家は、対象の現在または以前の診断スコアに基づいて、対象の状態の重症度を分類することができる。いくつかの場合には、研究専門家は、対象の診断スコアおよび/もしくは個々の分析物のレベルを医療専門家に連絡することができ、かつ/または、MDDの臨床的評価およびMDD症候の処置に関して対象を医療専門家に委ねることができる。
情報を別の人(例えば、専門家)に連絡するために任意の適切な方法が使用され得、かつ、情報は直接的または間接的に連絡され得る。例えば、検査技師は、診断スコアおよび/または個々の分析物のレベルをコンピュータベースの記録中に入力することができる。いくつかの場合には、医療記録または研究記録に物理的変更を加えることにより、情報が連絡され得る。例えば、医学専門家は、記録を再検討する他の医療専門家に診断を連絡するために、医療記録に恒久的な表記またはフラグを作成することができる。任意のタイプの連絡法(例えば、郵便、電子メール、電話、および対面の対話)が使用され得る。情報はまた、その情報を専門家が電子的に利用可能にすることにより、専門家に連絡され得る。例えば、医療専門家が情報にアクセスできるように、コンピュータのデータベース上に情報が配置され得る。加えて、情報は、専門家の代行者となる病院、診療所、または研究施設に連絡され得る。
本発明は、添付の特許請求の範囲において説明される本発明の範囲を限定しない以下の実施例中で、さらに説明されるであろう。
実施例1−うつ病の診断マーカー
明細書に記載されるような方法を使用して、例えば、MDDの診断、疾患重症度の層別化、および/または患者の抗うつ病治療への応答の評定に有用であるうつ病スコアを決定するためのアルゴリズムを開発した。この体系的で、高度に並行の、組み合わせアプローチは、明細書に記載されるようなアルゴリズムを用いて「疾患特異的特徴」をアセンブルするために提唱された。以下の二つの統計的アプローチを、バイオマーカーの評価およびアルゴリズムの開発のために使用した:(1)個々の分析物のレベルの一変量分析、および(2)アルゴリズム構築のための線形判別分析および二元ロジスティック回帰。
個々の分析物のレベルの一変量分析:一変量分析は、データセットにおいて各変数を別々に探索する。この分析は、値の範囲、および値の中心傾向に注目し、変数への応答のパターンを記述し、かつ各変数を独自に記述する。例として、図5は、処置の前後の、仮想的なシリーズの6人のMDD患者におけるマーカーXの血液レベルの分布を示す。このグラフから得られる第1の点は、マーカーXの濃度が、対照対象とは異なり、未処置のMDD患者においてより高かったということである。第2に、処置後、MDD患者におけるマーカーXのレベルは、対照のものに類似していた。二つのセットのデータを比較するため、および、それらの平均における差が有意であるという仮説を検定するために、スチューデントのt検定を次に使用した。スチューデントのt検定を使用して、Luminexマルチプレックス技術(xMAP)を用いて検定した分析物各々の血清レベルを、うつ病対象対正常対象の比較のために分析した。統計的有意性は、p<0.05と定義された。同じ数の点が存在するデータへスチューデントのt検定を適用すると、対照対象とMDDを有する患者との間のマーカーXの発現における差は、統計的に有意であり(p=0.002)、かつ処置前と処置後の差もまた、統計的に有意である(p=0.013)ことが示された。対照群と処置後のMDD患者との間には統計的に有意な差がなかった(p=0.35)。
線形判別分析に基づくアルゴリズム:クラス間の差別(例えば、うつ病対象対正常対象)に最も寄与する分析物を同定するために、Microsoft WINDOWS(登録商標)オペレーティングシステム用のSPSS Statistics v. 11.0ソフトウェア(SPSS, Inc.)由来の線形判別分析(LDA)の段階的方法を、以下の設定で使用した:ウィルクス(Wilks)のラムダ(Λ)法を使用して、クラスター分離を最大化する分析物を選択し、かつモデル中への分析物の参入をそのF値により制御した。大きなF値は、特定の分析物のレベルが二つの群間で異なることを示し、かつ小さなF値(F<1)は、差がないことを示す。本方法において、帰無仮説がΛの小さな値について却下される。従って、目標はΛを最小化することであった。
分析物予測因子の一覧表を構築するために、分析物各々についてF値を算出した。最も大きなF値を有する分析物(すなわち、二つの群間で最も異なっていた分析物)から開始して、Λの値を決定した。次に大きなF値を有する分析物をその後、一覧表に追加し、Λを再算出した。第2の分析物の追加がΛの値を低下させた場合、分析物予測因子の一覧表に保持した。Λの低下がもはや起きなくなるまで、一度に一つ分析物を追加する過程を繰り返した。
予測モデルの堅牢性を検定するための方法であるクロス確認を、その後行った。予測モデルをクロス確認するために、一つの試料を除去して無視した。残った試料を使用して、あらかじめ選択した分析物予測因子に基づいて予測モデルを構築した。新たなモデルが、新たなモデルを構築するのに使用されない一つの試料を正確に予測することができるか否かの判定を行った。この過程を、一度に一つずつすべての試料について繰り返して、累積的なクロス確認の比率を算出した。一変量分析およびクロス確認から得られた情報を用いて、クロス確認の比率を最大化するために分析物を手動で入れたり除去したりすることにより、分析物予測因子の最終的な一覧表を決定した。最終的な分析物分類子をその後、最も高いクロス確認の比率を与える分析物予測因子のセットとして定義した。
大うつ病性障害に対する複数のバイオマーカーの選択:およそ100個の分析物の血清レベルを、Luminexマルチプレックス技術を用いて検定した。スチューデントのt検定を使用して、うつ病個体対正常対象についてデータを比較した。統計的有意性は、α≦0.05と定義された。最初の研究後に、さらなる研究のために統計的に有意の分析物を選択した。表1は、バイオマーカーの選択された群を列挙し、かつ各々が、単極性うつ病を有する対象において変化していることが観察されている経路にいかに関連しているかを示す。これらの分析物を多変量分析(PCA、PLS-DA、およびLDA)に供して、正常集団からMDD患者を区別するために使用され得るバイオマーカーを同定した。
Figure 0005744063
表1に列挙されるマーカーのうち9個を用いて、以下のアルゴリズムに基づき、各対象について診断スコアを確立した:
うつ病診断スコア(MDDSCORE(商標))=f(a1コルチゾール+a2プロラクチン+a3EGF+a4MPO+a5BDNF+a6レジスチン+a7sTNFR2+a8ApoC3+a9A1AT)
図6は、うつ病診断スコアとHAM-Dスコアとの間の相関を示す。HAM-Dは、臨床医が患者の大うつ病の重症度を鑑定するために使用できる21個の質問の多項選択式質問表である。より高いうつ病評価尺度スコアが結果において差を予測するという見解の根拠は、45個の抗うつ薬の臨床試験の米国食品医薬品局のデータベースの再検討から得た。この研究により、治験抗うつ薬[通常、選択的セロトニン再取込みインヒビターまたはセロトニン特異的再取込みインヒビター(SSRI)]および実比較対照薬(active comparator)[通常、三環式抗うつ薬(TCA)]の両方について、より高い平均ベースラインHAM-Dスコアを有する試験が、より低い平均ベースラインHAM-Dを有する試験よりも、4〜8週間試験の終わりにより大幅なHAM-Dスコアの低下を伴うことが見出された。
実施例2−薬物治療後のうつ病診断スコアの変化
診断スコアを確立するために明細書に記載されるアルゴリズムを用いて、患者集団を上記25のHAM-Dスコアに従って層別化した。図7は、患者のHAM-Dスコアが抗うつ薬Lexapro(SSRI)による処置の2週間後および8週間後の両方に改善した(すなわち低下した)ことを示す。図8は、ベースラインおよび処置の2週間後の、それらの患者のサブセットにおけるMDDSCORE(商標)の変化を示す。図9は、処置の2週間後にMDDSCORE(商標)を決定することにより、8週間時点での処置の効力を予測する可能性を示す。これらのデータは、処置の効力を示し、かつ、患者の層別化および処置のモニタリングの両方についてMDD診断スコアの有用性を実証する。
実施例3−複数のバイオマーカー測定値での抗うつ薬処置のモニタリング
バイオマーカー測定値のパネルを用いて抗うつ薬処置をモニタリングするためのアルゴリズムを開発する目的で、抗うつ薬処置について患者候補者の群を選択し、かつ最初の血液試料を各患者から採取した。細胞から血清を分離するために試料を遠心沈殿し、かつPS1(患者pから採った1番)として保存した。各患者を抗うつ薬(Lexapro(登録商標))で8週間処置し、処置のコース中に血液試料を収集した。試料を、遠心沈殿し、標識し、かつ保存した。
各患者についての試料(PS1、PS2、PS3、など)をアッセイして、5個のバイオマーカーのレベル‐プロラクチン、BDNF、レジスチン、TNFRII、およびA1Aを測定した(Mn1、Mn2、およびMn3=バイオマーカーn1、n2、およびn3;図10)。抗うつ薬処置期間の終わりに、数学的アルゴリズムをバイオマーカー測定値に適用して、最終的な結果(HAMDスコアの変化)に相関するモニタリングスコアを算出した。数学的アルゴリズムは、特定のバイオマーカー変化およびそれらの変化の速度を使用して、スコアを算出した。とりわけ、二つの試料(最初の試料および処置中2週間で得られた試料)由来のバイオマーカー測定値における差を測定し、かつ、最終的な処置結果(最初のHAMDスコアと処置の8週間後に算出されたHAMDスコアとの間のHAMDスコアの変化により示される)を予測するために、数学的アルゴリズムを使用して、目的のモニタリングスコアを算出した。図11を参照されたい。
処置の終わりに、各患者についての結果(すなわち、処置が成功であるか否か)がわかった。この結果をインプットとして使用して、患者の処置の結果を予測するためにバイオマーカー測定値(Mn1、Mn2、Mn3、など)を使用する算出を最適化した。臨床結果をバイオマーカー測定値と比較することにより、抗うつ薬で処置された患者の処置結果に最大限に相関するモニタリングスコアの生成を最適化した。
マーカーパネルは、4種類の主要な生体系/経路(明細書に記載されるような、炎症、HPA軸、代謝バイオマーカー、および神経栄養因子)より選択されるバイオマーカーを含んだ。本明細書中で説明される方法において使用される他の例示的なバイオマーカーパネルは、以下を含む:
−コルチゾール、PRL、BDNF、RES、TNFR、およびA1Aを含むバイオマーカーパネル;
−S100B、PRL、BDNF、RES、TNFR、およびA1Aを含むバイオマーカーパネル;
−RANTES、PRL、BDNF、S100B、RES、TNFR、およびA1Aを含むバイオマーカーパネル;
−RANTES、PRL、BDNF、S100B、RES、TNFR、A1A、およびEGFを含むバイオマーカーパネル;ならびに
−RANTES、PRL、BDNF、S100B、RES、TNFR、A1A、コルチゾール、およびEGFを含むバイオマーカーパネル。
他の態様
本発明が、その詳細な説明と共に記述されてきたが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明を例証し、かつその範囲を限定しないように意図されることが理解されるべきである。他の局面、利点、および改変が、添付の特許請求の範囲内である。

Claims (16)

  1. 以下の工程を含む、対象のうつ病の疾患重症度を層別化するインビトロの方法:
    (a)軽度、中等度、および重度の状態のうつ病に関連する多数の分析物各々について数値を提供する工程であって、各数値が、該対象由来の生物学的試料における分析物のレベルに相当し、該多数の分析物が、α1アンチトリプシン(A1AT)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、レジスチン(resistin)、および可溶性腫瘍壊死因子α受容体II(sTNFR2)を含む、工程;
    (b)数値を個々に加重して、各分析物について加重値を得る工程;
    (c)各加重値を含む方程式に基づいて、結果値を決定する工程;
    (d)該結果値を、正常対象について、ならびに軽度、中等度、および重度の状態のうつ病を有する対象について得られた対照結果値と比較する工程であって、該対照結果値が、該結果値と同等の様式で決定された、工程;ならびに
    (e)該結果値が、非うつ病、軽症うつ病、中等度うつ病、または重症うつ病についての対照値の所定の範囲内である場合、非うつ病、軽症うつ病、中等度うつ病、または重症うつ病を有する対象をそれぞれ分類する工程。
  2. うつ病が、大うつ病性障害(MDD)に関連しており、かつ、軽度、中等度、および重度の状態のMDDの分類を補助するために使用され得るMDD診断スコアを算出するために、アルゴリズムが使用される、請求項1記載の方法。
  3. 多数の分析物が、A1AT、BDNF、プロラクチン、レジスチン、およびsTNFR2を含む、請求項1記載の方法。
  4. 多数の分析物が、A1AT、BDNF、コルチゾール、プロラクチン、レジスチン、およびsTNFR2を含む、請求項1記載の方法。
  5. 多数の分析物が、コルチゾール、プロラクチン、上皮成長因子(EGF)、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)、BDNF、レジスチン、sTNFR2、アポリポタンパク質C3(ApoC3)、およびA1ATを含む、請求項1記載の方法。
  6. 生物学的試料についての多数の分析物のうち一つまたは複数の測定レベルを得る工程をさらに含み、結果値が該測定レベルに少なくとも部分的に基づく、請求項1記載の方法。
  7. 以下の工程を含む、うつ病性障害を有すると診断された対象の処置をモニタリングするためのインビトロの方法:
    (a)うつ病に関連する多数の分析物各々の第1の数値を提供する工程であって、各第1の数値が、該対象由来の第1の生物学的試料における分析物のレベルに相当し、該多数の分析物が、A1AT、BDNF、レジスチン、およびsTNFR2を含む、工程;
    (b)第1の数値を個々に加重して、各分析物について第1の加重値を得る工程;
    (c)各第1の加重値を含む方程式に基づいて、第1のMDDスコアを決定する工程;
    (d)該多数の分析物各々の第2の数値を提供する工程であって、各第2の数値が、該対象由来の第2の生物学的試料における分析物のレベルに相当し、第2の生物学的試料が、該うつ病性障害に対する処置後に得られた、工程;
    (e)工程(b)の加重と同等の様式で行うという条件で、第2の数値を個々に加重して、各分析物について第2の加重値を得る工程;
    (f)該方程式を使用して、該うつ病性障害に対する該対象の処置後の第2のMDDスコアを決定する工程;ならびに
    (g)第1のMDDスコアを、第2のMDDスコアと、および一人または複数の正常対象より決定された対照MDDスコアまたはMDDスコア範囲と比較して、第2のMDDスコアが対照MDDスコアに対して第1のMDDスコアよりも近い場合に該処置を有効と分類し、または、第2のMDDスコアが対照MDDスコアに対して第1のMDDスコアよりも近くない場合に該処置を有効でないと分類する工程。
  8. 多数の分析物が、A1AT、BDNF、プロラクチン、レジスチン、およびsTNFR2を含む、請求項7記載の方法。
  9. 多数の分析物が、コルチゾール、プロラクチン、BDNF、レジスチン、sTNFR2、およびA1ATを含む、請求項7記載の方法。
  10. 多数の分析物が、コルチゾール、プロラクチン、EGF、MPO、BDNF、レジスチン、sTNFR2、ApoC3、およびA1ATを含む、請求項7記載の方法。
  11. 以下の工程を含む、うつ病性障害を有すると診断された対象の処置をモニタリングするためのインビトロの方法:
    (a)うつ病に関連する多数の分析物各々の第1の数値を提供する工程であって、各第1の数値が、該対象由来の第1の生物学的試料における分析物のレベルに相当し、該多数の分析物が、A1AT、BDNF、レジスチン、およびsTNFR2を含む、工程;
    (b)該多数の分析物各々の第2の数値を提供する工程であって、各第2の数値が、該対象由来の第2の生物学的試料における分析物のレベルに相当し、第2の生物学的試料が、該うつ病性障害に対する処置後に得られた、工程;
    (c)1および第2の数値を個々に加重して、各分析物について加重値を得る工程;
    (d)加重された数値を含む方程式に基づいて、モニタリングスコアを決定する工程;ならびに
    (e)該モニタリングスコアを対照モニタリングスコアと比較して、該モニタリングスコアが該対照モニタリングスコアよりも大きいかもしくは同等である場合に該処置を有効と分類し、または、該モニタリングスコアが該対照モニタリングスコアよりも小さい場合に該処置を有効でないと分類する工程。
  12. 第1の生物学的試料が、処置開始前に対象から得られ、かつ第2の生物学的試料が、該処置開始の1〜25日後に該対象から得られる、請求項11記載の方法。
  13. 以下の工程をさらに含む、請求項11記載の方法:
    多数の分析物各々の第3の数値を提供する工程であって、各第3の数値が、対象由来の第3の生物学的試料における分析物のレベルに相当する、工程;
    3の数値を個々に加重して、各分析物について加重値を得る工程;ならびに
    各分析物について、第1、第2、および第3の加重された数値を含む方程式に基づいて、モニタリングスコアを決定する工程。
  14. 多数の分析物が、プロラクチン、BDNF、レジスチン、sTNFR2、およびA1ATを含む、請求項11記載の方法。
  15. 多数の分析物が、コルチゾール、プロラクチン、BDNF、レジスチン、sTNFR2、およびA1ATを含む、請求項11記載の方法。
  16. 多数の分析物が、コルチゾール、プロラクチン、EGF、MPO、BDNF、レジスチン、sTNFR2、ApoC3、およびA1ATを含む、請求項11記載の方法。
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