以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
図1Aは、半導体基板100の断面を示す。図1Bは、半導体基板100の上面を示す。半導体基板100は、不純物半導体110および空乏化半導体120を備える。空乏化半導体120は、例えばエピタキシャル成長により不純物半導体110上に積層される。空乏化半導体120は、不純物半導体110の一部の領域を空乏化することにより形成されてもよい。空乏化半導体120は、パルスレーザー光などの光の照射を受けてキャリアが励起されると、電磁波を出力する。
不純物半導体110は、p型半導体またはn型半導体を含む。例えば、不純物半導体110は、不純物がドープされることにより、ドナー濃度とアクセプター濃度との差に相当する有効不純物濃度が1×1017cm−3以上となっている。不純物半導体110の有効不純物濃度は、5×1017cm−3以上であることが好ましく、3×1018cm−3以上であることがさらに好ましい。
空乏化半導体120は、不純物半導体110に接する空乏化した複数の空乏領域122および空乏領域124を有する。空乏領域122および空乏領域124は、隣接して設けられてよく、離れて設けられてもよい。半導体基板100は、空乏領域122および空乏領域124の間に、絶縁体を有してもよい。空乏領域122は、不純物半導体110との界面172と、界面172と対向する表面162とを有する。空乏領域124は、不純物半導体110との界面174と、界面174と対向する表面164とを有する。
空乏領域122および空乏領域124のそれぞれは、界面172および界面174に垂直な方向における、界面172および界面174と表面162および表面164との平均距離、ならびに組成の少なくとも一つが異なる。例えば、界面172と表面162との平均距離d1と、界面174と表面164との平均距離d2とが異なる。ここで、「平均距離」とは、領域内における界面上の任意の位置における点から界面に垂直な方向の表面までの距離を平均した値である。空乏化半導体120が不純物半導体110上でエピタキシャル成長して形成されている場合には、空乏化半導体120の空乏領域122および空乏領域124における膜厚が、それぞれ空乏領域122および空乏領域124における平均距離に等しい。
空乏化半導体120は、不純物半導体110よりも有効不純物濃度が低い。例えば、空乏化半導体120は、不純物が導入されていない真性半導体である。空乏化半導体120がi−GaAs(i型GaAs)である場合には、空乏化半導体120は、GaAsの禁制帯幅に対応して熱励起により存在する真性キャリア密度以上の自由電子または自由正孔を有しない。
具体的には、空乏化半導体120の有効不純物濃度は、例えば1×1017cm−3未満である。空乏化半導体120の有効不純物濃度は、より好ましくは1×1016cm−3以下であり、さらに好ましくは1×1015cm−3以下である。空乏化半導体120の有効不純物濃度が1×1017cm−3よりも大きいと、空乏化半導体120の膜厚が約100nmに制限される。膜厚が小さいと、光の照射を受けて励起するキャリアの発生量が少ないので、十分な強度の電磁波が出力されない場合があるからである。
また、空乏化半導体120の膜厚は例えば100nm以上2000nm以下であり、より好ましくは、200nm以上1200nm以下である。空乏化半導体120の膜厚が200nmよりも小さい場合には、光の照射を受けて励起するキャリアの発生量が少ないので、十分な強度の電磁波が出力されない場合がある。従って、空乏化半導体120の膜厚は、200nm以上であることが好ましい。また、空乏化半導体120の膜厚が1200nmより大きい場合には発生する電磁波の強度が小さくなるので、膜厚が1200nm以下であることが好ましい。
不純物半導体110は、単結晶基板上に結晶成長することができるとともに、n型半導体またはp型半導体を構成することができる半導体であれば、任意の組成の半導体でよい。例えば、不純物半導体110は、InP、InAs、InSb、GaAs、GaP、GaN、AlGaAs、InGaAs、AlGaN、InGaN、InGaP、およびInGaAsPなどの3−5族化合物半導体である。不純物半導体110は、直接遷移型3−5族化合物半導体であることが好ましい。不純物半導体110は、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdTe、ZnOなどの2−6族化合物半導体、CuInGaSe、CuInGaSなどのカルコパイライト化合物半導体、またはSi、Ge、C(ダイヤモンド)、SiGe、SiCなどの4族半導体であってもよい。
空乏化半導体120は、不純物半導体110に格子整合または擬格子整合することができるとともに、i型半導体を構成することができる半導体であれば、任意の組成の半導体でよい。空乏化半導体120は、例えば直接遷移型半導体である。具体的には、空乏化半導体120は、InP、InAs、InSb、GaAs、GaN、AlGaAs、InGaAs、AlGaN、InGaN、InGaP、およびInGaAsPなどの3−5族化合物半導体であってよく、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdTe、ZnOなどの2−6族化合物半導体、またはCuInGaSe、CuInGaSなどのカルコパイライト化合物半導体などであってもよい。
空乏化半導体120は、空乏領域122または空乏領域124に照射されるパルスレーザー光の波長に対する吸収係数が十分高く、吸収長が空乏領域122または空乏領域124内に入っていれば、GaPなどの3−5族化合物半導体、またはSi、Ge、C(ダイヤモンド)、SiGe、SiCなどの4族半導体であってもよい。ここで、「擬格子整合」とは、完全な格子整合ではないが、互いに接する2つの半導体の格子定数の差が小さく、格子不整合による欠陥の発生が顕著でない範囲で、互いに接する2つの半導体を積層できる状態をいう。
空乏領域122および空乏領域124には、異なる強度の電界が生じる。例えば、空乏領域122および空乏領域124の膜厚または組成が異なることにより、空乏領域122および空乏領域124の電界強度に差が生じる。
空乏領域122および空乏領域124が、それぞれ異なる電界強度を有する場合には、空乏領域122および空乏領域124が光の照射を受けることで励起されるキャリアのドリフト速度がそれぞれ異なり、電界強度の変化速度もそれぞれ異なる。その結果、空乏領域122および空乏領域124は、照射された光を受けて、それぞれ周波数が異なる電磁波を出力する。例えば、空乏領域122および空乏領域124の表面に、数十フェムト秒程度の幅のパルスレーザー光10を照射すると、空乏領域122および空乏領域124は、それぞれ異なる周波数のテラヘルツ電磁波を放射する。
以上の説明においては、空乏領域122および空乏領域124が単一の不純物半導体110上に設けられている場合について説明した。しかし、半導体基板100は、半導体の結晶成長のベースとなるベース基板をさらに備え、第1の不純物半導体110が、当該ベース基板上に複数に分離して設けられていてもよい。分離して設けられた第1の不純物半導体110のそれぞれに、空乏領域122または空乏領域124が設けられていてもよい。
図1Cは、他の実施形態に係る不純物半導体110の断面を示す。同図における不純物半導体110は、ベース基板111、不純物半導体110(110−1、110−2)、不純物半導体116、および空乏化半導体120を備える。不純物半導体110、不純物半導体116、および空乏化半導体120は、ベース基板111上でエピタキシャル成長することにより形成されている。不純物半導体110は、例えばN型の不純物半導体である。不純物半導体116は、例えば不純物半導体110と逆極性の導電型を有するP型の不純物半導体である。
ベース基板111は、例えば、GaAs単結晶基板である。また、ベース基板111は、InP単結晶基板、Si単結晶基板、GaN単結晶基板、SiC単結晶基板、およびサファイア基板などであってもよい。
空乏化半導体120が不純物半導体110に接する界面は、図1Aに示す不純物半導体110の長手方向の界面172および界面174に限定されない。図1Cに示すように、不純物半導体110、不純物半導体116、および空乏化半導体120を、単結晶のベース基板111上にエピタキシャル成長させることにより、不純物半導体110の短手方向の界面において、不純物半導体110および空乏化半導体120を接続することができる。
空乏化半導体120は、不純物半導体110−1および不純物半導体116に接する空乏領域122、ならびに、不純物半導体110−2および不純物半導体116に接する空乏領域124を有する。空乏化半導体120は、不純物半導体110の短手方向の界面で接する場合においても、不純物半導体110との界面に垂直な方向における界面と表面との平均距離が異なる空乏領域122および空乏領域124を有することにより、パルスレーザー光の照射を受けて、それぞれ異なる周波数の電磁波を出力することができる。
不純物半導体110、不純物半導体116、および空乏化半導体120は、1回のエピタキシャル成長工程でベース基板111上に結晶成長させることができる。ベース基板111上にエピタキシャル成長させたi型半導体に不純物イオンを注入することにより、不純物半導体110および不純物半導体116を形成してもよい。不純物イオンが注入されていない空乏領域122および空乏領域124には、両端に接する不純物半導体110および不純物半導体116との間でPIN接合が形成されるので、強い横方向電界が発生する。
図1Cにおいては、空乏領域122が不純物半導体110−1と接する界面と、空乏領域122が不純物半導体116と接する界面との距離(「空乏領域122の幅」と称する)は、空乏領域124が不純物半導体110−2と接する界面と、空乏領域124が不純物半導体116と接する界面との距離(「空乏領域124の幅」と称する)よりも小さい。空乏領域122の幅が空乏領域124の幅よりも小さいので、空乏領域124よりも強い横方向電界が生じる。従って、空乏領域122および空乏領域124に光が照射されると、それぞれの内部におけるドリフト電流速度に差が生じる。その結果、空乏領域122においては、空乏領域124におけるよりも高い周波数のテラヘルツ電磁波を発生することができる。
図2Aは、不純物半導体110がn型半導体である場合の半導体基板100のエネルギーバンドを示す。図2Aは、不純物半導体110がn型半導体である場合の、空乏領域122が設けられている領域におけるエネルギーバンドを示している。以下、図2Aを参照して、空乏領域122が光の照射を受けて電磁波を発生する原理を説明する。
空乏領域122の表面のフェルミ準位は、空乏領域122の半導体材料の種類、組成、および表面処理方法によって定まる表面準位にピニングされる。これに対して、不純物半導体110は空乏領域122よりも有効不純物濃度が高いので、キャリア濃度が高い。従って、不純物半導体110のフェルミ準位は、伝導帯と禁制帯とのエネルギー境界付近または価電子帯と禁制帯とのエネルギー境界付近のいずれかに位置する。具体的には、不純物半導体110がn型半導体である場合には、不純物半導体110のフェルミ準位は伝導帯に近い。不純物半導体110がp型半導体である場合には、不純物半導体110のフェルミ準位は価電子帯に近い。
空乏領域122の表面における伝導帯および価電子帯のポテンシャルと、不純物半導体110の伝導帯および価電子帯のポテンシャルとの間に差があるので、空乏領域122には電界が生じる。空乏領域122においてはキャリア濃度が低く、自由に移動する電子または正孔の数が少ない。定常状態における空乏領域122の内部に生じる積層方向の電界強度は、空乏領域122内に含まれるイオン化ドナー不純物の密度およびイオン化アクセプター不純物の密度で決まる固定空間電荷密度分布で決まる。従って、ドナー不純物分布およびアクセプター不純物分布が一様である場合、空乏領域122内部の電界強度は、略一定である。
空乏領域122に、空乏領域122のバンドギャップ以上に相当するエネルギーの光が照射されると、空乏領域122内部に注入されたフォトンのエネルギーにより光励起キャリアが生成される。光励起キャリアは、空乏領域122内部に対生成する電子と正孔である。図2Aにおける白丸が光励起キャリアの正孔を示し、黒丸が電子を示す。
ここで、空乏領域122の内部には、上記のように一定強度の電界が生じているので、伝導帯および価電子帯のポテンシャルが、空乏領域122の表面から空乏領域122と不純物半導体110との界面に向かって、略直線状に低下する。空乏領域122の内部で伝導帯および価電子帯のポテンシャルに勾配があるので、光の照射によって励起された電子は、不純物半導体110に向かってドリフト運動をする。また、光の照射によって励起された正孔は、空乏領域122の表面に向かってドリフト運動をする。このように電子および正孔が各々異なる方向にドリフト運動をすることによって、空乏領域122内の空間電荷分布は、急激に変動し、電界強度も過渡的に変動する。
過渡的な電界強度変動によって、電磁波が発生する。発生した電磁波は、空乏領域122の表面から半導体基板100の外部に放射される。空乏領域122の自由キャリア濃度が低いので、発生した電磁波は、自由キャリアによる吸収および散乱によって減衰することなく半導体基板100から外部に放射される。
ドリフト電流によって発生する電磁波の電界強度は、ドリフト電流の時間微分値に比例する。具体的には、
により示される。ここで、Jは電荷密度、zは表面からの距離、αは吸収係数、E
dは表面電界の空間分布、wは空乏化半導体の積層方向の膜厚を示す。μは光励起キャリアの移動度に対応する応答関数、I
op(t)は照射される光パルスの波形、τ
0は光励起キャリアの緩和時間、t'は光パルスが照射された時刻を示す。t、t''は時間を示す。
図2Bは、不純物半導体110がp型半導体である場合の半導体基板100のエネルギーバンドを示す。不純物半導体110がp型半導体である場合には、不純物半導体110のフェルミ準位は価電子帯の近傍にある。その結果、空乏領域122における伝導帯および価電子帯のポテンシャルは、不純物半導体110との界面から空乏領域122の表面に向かって、略直線状に低下する。
その結果、光の照射によって空乏領域122内で励起された電子は、空乏領域122の表面に向かってドリフト運動をする。同様に、空乏領域122内で励起された正孔は、不純物半導体110との界面に向かってドリフト運動をする。当該ドリフト運動によって過渡的な電界強度変動が発生するので、不純物半導体110がp型半導体である場合にも、半導体基板100は電磁波を発生する。
電子および正孔のドリフト運動によって生じる電流の過渡応答速度は、電子および正孔のドリフト速度に応じて変化する。電子および正孔のドリフト速度が大きければ大きいほど、電流の過渡応答速度が速くなるので、発生する電磁波の周波数が高くなる。逆に、電子および正孔のドリフト速度が小さければ小さいほど、発生する電磁波の周波数が低くなる。従って、空乏領域122内部の電子および正孔のドリフト速度を変化させることによって、空乏領域122において発生する電磁波の周波数を変化させることができる。
空乏領域122内部の電子および正孔のドリフト速度は、空乏領域122内部における伝導帯および価電子帯のポテンシャルの勾配に応じて変化する。空乏領域122のポテンシャルの勾配は、例えば、空乏領域122の膜厚または組成を変化させることによって変化する。その結果、空乏領域122が発生する電磁波の周波数が変化する。
従って、空乏化半導体120が、それぞれ膜厚および組成の少なくとも一つが異なる空乏領域122および空乏領域124を有する場合には、空乏化半導体120は、それぞれの領域から異なる周波数の電磁波を出力する。
なお、半導体基板100に光を照射した場合には、光の照射に起因するコヒーレントLOフォノンの固有振動数に対応した電磁波も発生する。具体的には、半導体基板100の表面においては結晶の原子配列が並進対称になっていないので、照射された光のエネルギーによって分極した原子がコヒーレントに振動することによって電磁波が発生する。コヒーレントLOフォノンに起因して発生する電磁波の周波数は、光の照射を受ける半導体に固有の周波数である。
図3Aは、膜厚が異なる複数の領域を有する空乏化半導体120を有する半導体基板100の断面を示す。同図において、半導体基板100は、異なる膜厚を有する複数の領域として、空乏領域122および空乏領域126を有する。空乏領域122の膜厚はd1であり、空乏領域126の膜厚は、d2(d2>d1)である。
図3Bは、図3Aに示した半導体基板100のエネルギーバンドを示す。点線は空乏領域122の伝導帯および価電子帯のポテンシャルを示し、実線は空乏領域126の伝導帯および価電子帯のポテンシャルを示す。空乏領域122の表面162および空乏領域126の表面166における伝導帯のポテンシャルは、共にEsにピニングされる。
ここで、空乏領域122と不純物半導体110との界面172および空乏領域126と不純物半導体110との界面176のポテンシャルをEbとすると、空乏領域122内部におけるポテンシャルの勾配はD1=(Es−Eb)/d1で表される。空乏領域126内部におけるポテンシャルの勾配はD2=(Es−Eb)/d2で表される。d2>d1なので、D1>D2である。従って、空乏領域126における電子および正孔のドリフト速度は、空乏領域122における電子および正孔のドリフト速度よりも小さくなる。その結果、光の照射を受けて空乏領域126が発生する電磁波の周波数は、光の照射を受けて空乏領域122が発生する電磁波の周波数よりも低い。
なお、不純物半導体110における空乏領域122および空乏領域126に近接する領域には空乏層が生じる。界面172および界面176は、例えば、空乏領域126と不純物半導体110に生じた空乏層とが接する面である。不純物半導体110に生じた空乏層が、不純物半導体110の空乏層以外の領域と接する面を界面172および界面176としてもよい。
図3Cは、膜厚が異なる複数の領域を有する空乏化半導体120を有する他の実施形態の半導体基板100の断面を示す。同図における空乏領域126の表面166は、空乏領域122の表面162と同一平面上にある。また、不純物半導体110は、空乏領域122に接する領域および空乏領域126に接する領域のそれぞれにおいて、異なる膜厚を有する。
例えば、図3Cに示す半導体基板100は、i型半導体の複数の領域のそれぞれが、異なる深さ方向の分布を有するように不純物イオンを注入することによって製造される。具体的には、不純物半導体110をn型半導体にする場合には、空乏領域126において、空乏領域122よりも深くまで補償アクセプターイオンを注入する。注入イオン密度を調整することにより、注入領域における有効不純物濃度を下げ、実質的にi型半導体を形成することができる。また、注入エネルギーを調整することにより、空乏領域の深さを制御することもできる。その結果、空乏領域126における空乏化半導体120の膜厚を空乏領域122における空乏化半導体120の膜厚よりも大きくすることができる。
以上のように、半導体基板100が膜厚の異なる空乏領域122および空乏領域126を有する空乏化半導体120を備えることにより、照射された光を受けて、空乏領域122および空乏領域126がそれぞれ異なる周波数の電磁波を出力する。以上の説明においては、空乏化半導体120は、膜厚が異なる2つの領域を有していたが、空乏化半導体120は、膜厚が異なる3以上の領域を有してもよい。
図4は、他の実施形態における半導体基板100の断面を示す。同図において、半導体基板100は、図1Aに示した半導体基板100に対して、不純物半導体116をさらに備える。不純物半導体116は、不純物半導体110と逆極性の導電型を有するp型半導体またはn型半導体である。不純物半導体110がp型半導体である場合には、不純物半導体116はn型半導体である。不純物半導体110がn型半導体である場合には、不純物半導体116はp型半導体である。
不純物半導体116は、不純物半導体110が空乏領域122と接する界面172と異なる界面182において、空乏領域122と接する。また、不純物半導体116は、不純物半導体110が空乏領域124と接する界面174と異なる界面184において、空乏領域124と接する。
不純物半導体116は、不純物半導体110よりも面積が小さいことが好ましい。不純物半導体116が、空乏領域122の表面162および空乏領域124の表面164のそれぞれの少なくとも一部を露出させることにより、空乏化半導体120は空乏領域122および空乏領域124のそれぞれにおいて光の照射を直接受けることができる。
不純物半導体116の積層方向の膜厚が、照射された光を透過する程度に小さい場合、不純物半導体116が間接遷移型半導体である場合、または、不純物半導体116が、照射される光の光子エネルギーよりも大きな禁制帯幅を持ち、照射される光に対する吸収係数が小さく実質的に透明である場合には、不純物半導体116が空乏化半導体120の空乏領域122および空乏領域124の全面を覆ってもよい。不純物半導体116が空乏領域122および空乏領域124の全面を覆った場合には、照射される光により空乏化半導体120から生じる電磁波の再吸収を極力小さくするように、不純物半導体116の膜厚が十分に薄いこと、不純物半導体116中の自由キャリア濃度が十分に低いこと、または不純物半導体116自体が空乏化していることが好ましい。
不純物半導体110が空乏化半導体120と接する界面172および界面174の近傍には、空乏層が生じる。また、不純物半導体116が空乏化半導体120と接する界面182および界面184の近傍にも、空乏層が生じる。空乏領域122および空乏領域124は、これらの領域を含んでもよい。
図5は、空乏化半導体120に代えて、空乏化半導体128を有する半導体基板100の断面を示す。空乏化半導体128は、水平面上の中央近傍の領域の膜厚が、空乏化半導体128の外周近傍の領域の膜厚よりも小さい。空乏化半導体128は、水平方向において変化する膜厚を有する。
空乏化半導体128は、膜厚が水平方向において連続的に変化するので、内部のポテンシャルの勾配も水平方向において連続的に変化する。従って、空乏化半導体128は、空乏化半導体128に照射される光の水平方向の照射位置に応じて、異なる周波数の電磁波を発生する。具体的には、図6に示す例においては、空乏化半導体128の外周近傍の領域に光が照射された場合に発生する電磁波の周波数は、空乏化半導体128の中央近傍の領域に光が照射された場合に発生する電磁波の周波数よりも低い。
図6は、空乏化半導体120が、組成がそれぞれ異なる複数の領域を有する場合の半導体基板100の断面を示す。半導体基板100は、図1Aに示した空乏領域124に代えて、空乏領域122と組成が異なる空乏領域130を備える。
例えば、空乏領域130の組成は、AlxGa1−xAs(0<x<1)またはInyGa1−yAs(0<y≦1)である。空乏領域130は、空乏領域122と組成が異なるので、空乏領域122と異なる禁制帯幅を有する。例えば、空乏領域122がGaAsである場合には、空乏領域122の禁制帯幅は約1.42eVである。これに対して、AlxGa1−xAs(0<x<1)の場合、直接遷移型であるAl組成x=0〜0.43の範囲においては、xに応じて禁制帯幅は1.42eV〜1.97eVであり、InyGa1−yAs(0<y≦1)の禁制帯幅はIn組成y=0〜1の範囲において約1.42eV〜0.36eVである。
不純物半導体110がn型半導体であって、かつ、空乏領域130がAlxGa1−xAs(0<x<0.43)である場合には、空乏領域130の表面における伝導帯および価電子帯のポテンシャルが、GaAsの空乏領域122の表面における伝導帯および価電子帯のポテンシャルよりも大きい。従って、空乏領域130は、空乏領域122よりも、伝導帯および価電子帯のポテンシャルの勾配が大きい。その結果、空乏領域130は、空乏領域122よりも高い周波数の電磁波を出力する。
空乏領域130がInyGa1−yAs(0<y≦1)である場合には、表面における伝導帯および価電子帯のポテンシャルが、GaAsの空乏領域122の表面における伝導帯および価電子帯のポテンシャルよりも小さい。従って、空乏領域130は、空乏領域122よりも、伝導帯および価電子帯のポテンシャルの勾配が小さい。その結果、空乏領域130は、空乏領域122よりも低い周波数の電磁波を出力する。
AlxGa1−xAs(0<x<0.43)およびInyGa1−yAs(0<y≦1)のバンドギャップは、xおよびyの値に応じて変化する。具体的には、xが大きくなるとAlxGa1−xAsのバンドギャップが大きくなり、yが大きくなるとInyGa1−yAs(0<y≦1)のバンドギャップは小さくなる。従って、空乏領域130がより多くのAlを含む場合には、空乏領域130はより高い周波数の電磁波を出力する。また、空乏領域130がより多くのInを含む場合には、空乏領域130はより低い周波数の電磁波を出力する。
なお、空乏領域130の組成がAlxGa1−xAs(0<x<0.43)またはInyGa1−yAs(0<y≦1)である場合には、LOフォノンに起因して発生する電磁波の周波数も、GaAsである空乏領域122が出力する周波数と異なる。具体的には、Alの組成比が大きいと、LOフォノンに起因して発生する電磁波の周波数が高くなり、Inの組成比が大きいと、LOフォノンに起因して発生する電磁波の周波数が低くなる。従って、空乏化半導体120は、組成がそれぞれ異なる複数の領域を有する場合には、異なる周波数のキャリアのドリフト運動に起因する電磁波、および、LOフォノンに起因する電磁波を出力することができる。
空乏領域122および空乏領域130は、それぞれ異なる量の有効不純物を有してもよい。有効不純物濃度が異なると、伝導帯のポテンシャルの勾配が異なるので、空乏領域122および空乏領域130が、それぞれ異なる周波数の電磁波を出力することができる。
図7は、不純物半導体110の代わりに、水平方向に隣接する不純物半導体112および不純物半導体114を有する半導体基板100の断面を示す。不純物半導体112および不純物半導体114は、それぞれ異なるキャリア濃度を有するn型半導体またはp型半導体である。例えば、空乏領域122は不純物半導体112上に設けられ、空乏領域124は不純物半導体114上に設けられる。
図8は、図7に示した半導体基板100のエネルギーバンドを示す。本実施形態においては、不純物半導体112および不純物半導体114は、n型半導体である。また、不純物半導体112のキャリア濃度は、不純物半導体114よりも大きい。点線は、不純物半導体112および空乏領域122が積層された領域における伝導帯および価電子帯のポテンシャルを示す。実線は、不純物半導体114および空乏領域124が積層された領域における伝導帯および価電子帯のポテンシャルを示す。
それぞれの領域における伝導帯のポテンシャルを比較すると、不純物半導体112のキャリア濃度が不純物半導体114のキャリア濃度よりも大きいので、不純物半導体112の伝導帯のポテンシャルは不純物半導体114の伝導帯のポテンシャルよりもフェルミ準位に近い。つまり、不純物半導体112と空乏領域122との界面における伝導帯のポテンシャルEb1は、不純物半導体114と空乏領域124との界面における伝導帯のポテンシャルEb2よりも小さい。
従って、空乏領域122の表面における伝導帯のポテンシャルEsと、不純物半導体112および空乏領域122の界面における伝導帯のポテンシャルEb1との差は、空乏領域124の表面における伝導帯のポテンシャルEsと、不純物半導体114および空乏領域124の界面における伝導帯のポテンシャルEb2との差よりも大きい。つまり、空乏領域122内部における伝導帯のポテンシャルの勾配は、空乏領域124内部における伝導帯のポテンシャルの勾配よりも大きい。
その結果、空乏領域122に光が照射された場合に発生する電磁波の周波数は、空乏領域124に光が照射された場合に発生する電磁波の周波数よりも高い。以上のように、空乏化半導体120が積層される不純物半導体110が異なるキャリア濃度を有する複数の領域を有する場合にも、半導体基板100は照射された光を受けて、複数の異なる周波数の電磁波を発生することができる。
図9は、印加電圧を変化させることができる半導体基板100の断面を示す。同図において、半導体基板100は、図1Aに示した半導体基板100に対して、電圧印加部142、および電圧印加部146をさらに備える。電圧印加部142は、空乏領域122に接続される。電圧印加部146は、不純物半導体110に接続される。
電圧印加部142および電圧印加部146は、空乏化半導体120に電圧を印加する。その結果、空乏領域122の電界強度は電圧印加部142および電圧印加部146との間に印加される電圧により変化する。
電圧印加部142、および電圧印加部146は、外部から電圧を受ける導電性の電極を有してもよい。当該電極は、例えばショットキー電極またはオーミック電極を用いることができる。電圧印加部142は、例えば、空乏領域122の光照射部以外の場所に電極を形成してよい。また空乏領域122の光照射部を含む全面を覆う、薄い透明電極を有してもよい。電圧印加部142は、空乏領域122の全面を覆う櫛型形状をした櫛型電極を有し、励起光は、前記櫛形電極の隙間から空乏領域122に照射されてもよい。電圧印加部142、電圧印加部146は、例えば、空乏化半導体120を結晶成長させた後で、スパッタリング法あるいは蒸着法で電極材料を形成し、必要に応じて熱処理等を加えることで設けることができる。
図10は、不純物半導体110がn型半導体である場合における、図9に示した半導体基板100のエネルギーバンドを示す。点線は空乏領域122の伝導帯および価電子帯のポテンシャルを示す。半導体基板100は、不純物半導体110側に電圧印加部146として形成されたオーミック電極、および電圧印加部142として形成されたショットキー電極を有し、逆方向電圧が空乏領域122に印加される。実線は、逆方向電圧を印加したときの空乏領域124の伝導帯および価電子帯のポテンシャルを示す。ここで、「逆方向電圧を印加する」とは、不純物半導体110がn型半導体である場合に、不純物半導体110の電圧印加部146に印加される電圧よりも低い電圧を空乏領域122の電圧印加部142に印加することである。
図10において、逆方向電圧を印加された空乏領域122の表面における伝導帯のポテンシャルEs'は、逆方向電圧を印加されていない空乏領域122の表面における伝導帯のポテンシャルEsよりも大きい。その結果、逆方向電圧を印加された空乏領域122内部における伝導帯のポテンシャルの勾配は、逆方向電圧を印加されていない場合の空乏領域122内部における伝導帯のポテンシャルの勾配よりも大きい。
上記の勾配の差により、空乏領域122内部で励起された電子のドリフト速度に差が生じる。具体的には、逆方向電圧を印加された空乏領域122内部の電子のドリフト速度は、逆方向電圧を印加されていない空乏領域122内部の電子のドリフト速度よりも大きい。従って、逆方向電圧を印加された空乏領域122は、逆方向電圧を印加されていない122が出力する電磁波よりも高い周波数の電磁波を出力する。
電圧印加部142および電圧印加部146への印加電圧を変化させることによって、空乏領域122の電界強度を変化させることができるので、半導体基板100は、空乏領域122が出力する電磁波の周波数を変化させることができる。なお、電圧印加部142が空乏領域122表面に部分的に形成された場合には、電圧印加部142に電圧が印加されると、露出されている空乏領域122の水平方向の距離に応じて、空乏領域122内部の電界強度は変化する。従って、電圧印加部142を設ける位置、あるいは電圧印加部に対する光照射部の位置に応じて、半導体基板100は異なる周波数の電磁波を出力することができる。
図11は、印加電圧を変化させることができる半導体基板100の他の実施形態に係る断面を示す。同図において、半導体基板100は、図1Aに示した半導体基板100に対して、不純物半導体116、電圧印加部142、および電圧印加部146をさらに備える。不純物半導体116は、不純物半導体110と逆極性の導電型を有するp型半導体またはn型半導体である。
電圧印加部142および電圧印加部146は、外部から電圧を受けて、不純物半導体110と不純物半導体116との間に電圧を発生させる。電圧印加部142および電圧印加部146は、導電性の電極を有する。当該電極は、例えばオーミック電極である。
不純物半導体116は、積層方向の膜厚が不純物半導体110よりも小さいことが好ましい。不純物半導体116の膜厚が小さいと、照射される光をより多く空乏領域122および空乏領域124に透過する。その結果、空乏領域122および空乏領域124において励起されるキャリアの量が多くなり、また不純物半導体116内に存在する自由キャリアによる、空乏領域122および124から発生する電磁波の吸収も小さくできるので、空乏領域122および空乏領域124から出力される電磁波の強度が大きくなる。
不純物半導体116は、例えば間接遷移型半導体である。不純物半導体116は、照射される光の光子エネルギーよりも大きな禁制帯幅を持ち、照射される光に対する吸収係数が小さく、実質的に透明である材料を用いてもよい。なお、照射される光の吸収を極力抑制するべく、また、照射される光により空乏化半導体120から生じる電磁波の再吸収を極力小さくするべく、電圧印加部142以外の不純物半導体116は、膜厚が十分薄いか、自由キャリア濃度が十分に低いか、または空乏化していることが好ましい。
図12は、不純物半導体110がn型半導体であり、かつ不純物半導体116がp型半導体である場合における、図11に示した半導体基板100のエネルギーバンドを示す。点線は、電圧印加部142および電圧印加部146が、不純物半導体116と不純物半導体110との間に電圧を印加しない場合における、伝導帯および価電子帯のポテンシャルを示す。実線は、電圧印加部142および電圧印加部146が、不純物半導体116と不純物半導体110との間に逆方向電圧を印加した場合における、伝導帯および価電子帯のポテンシャルを示す。
不純物半導体116と不純物半導体110との間に逆方向電圧が印加されると、空乏領域122における伝導帯および価電子帯のポテンシャルの勾配が大きくなる。その結果、空乏領域122が出力する電磁波の周波数が大きくなる。同様に、空乏領域124における伝導帯および価電子帯のポテンシャルの勾配も大きくなるので、空乏領域124が出力する電磁波の周波数も大きくなる。
電圧印加部146が出力する電圧に対して電圧印加部142が出力する電圧を高くすることによって、不純物半導体116と不純物半導体110との間に順方向電圧が印加されると、空乏領域122内部のポテンシャルの勾配が小さくなる。従って、空乏領域122が出力する電磁波の周波数が小さくなる。以上のように、電圧印加部142および電圧印加部146が出力する電圧の極性および大きさを変化させることにより、空乏領域122が出力する電磁波の周波数を変化させることができる。
なお、電圧印加部142が不純物半導体116の一部に形成され、電圧印加部142以外の不純物半導体116が除去されているか、もしくは十分薄く、空乏化している場合には、電圧印加部142からの水平方向の距離に応じて、空乏領域122内部の電界強度が変化する。従って、電圧印加部142を設ける位置または電圧印加部142に対する光照射位置に応じて、半導体基板100は異なる周波数の電磁波を出力することができる。
以上説明した半導体基板100は、不純物半導体を準備した上で、当該不純物半導体上に、異なる電界強度が生じる複数の領域を有する空乏化半導体を結晶成長させることによって製造することができる。例えば、空乏化半導体を結晶成長させる段階において、膜厚が異なる複数の領域を有する空乏化半導体を成長させることにより、半導体基板100を製造することができる。また、空乏化半導体を結晶成長させる段階において、組成が異なる複数の領域を有する空乏化半導体を成長させることによっても、半導体基板100を製造することができる。異なる電界強度を有する空乏化半導体を有する複数の半導体基板100を並列に並べて使用することもできる。
図13は、図3Aに示した半導体基板100の製造方法のフローを示す。図14は、半導体基板100の製造段階における半導体基板100の断面の一例を示す。空乏領域126における空乏化半導体120は、空乏領域126−1において空乏化半導体120の前駆体を結晶成長させた後に、空乏領域126−2において空乏化半導体120の前駆体を結晶成長させることにより形成される。以下、図13に沿って、図3Aに示した半導体基板100の製造方法を説明する。
まず、p型半導体またはn型半導体を含む不純物半導体110を準備する(S102)。続いて、不純物半導体110上に、空乏化半導体120の前駆体の結晶成長を阻害する阻害層152を設ける(S104)。阻害層152は、例えば、酸化シリコン層、酸化アルミニウム層、窒化シリコン層、酸窒化シリコン層、窒化タンタル層もしくは窒化チタン層、またはこれらを積層した層である。阻害層152の膜厚は、例えば0.05〜5μmである。阻害層152は、例えば、CVD法またはスパッタ法により形成できる。阻害層152は、不純物半導体110を熱酸化することにより生成してもよい。
次に、不純物半導体110の表面の一部に空乏化半導体120の前駆体を結晶成長させ、空乏領域126−1を形成する(S106)。例えば、MOCVD法を用いて空乏化半導体120の前駆体をエピタキシャル成長させることにより、不純物半導体110の面上の阻害層152が設けられていない領域に空乏化半導体120の前駆体が結晶成長する。続いて、エッチング等の方法を用いて、阻害層152を削除する(S108)。
最後に、空乏領域126−1上の空乏領域126−2において空乏化半導体120の前駆体を結晶成長させる。また、不純物半導体110上の阻害層152が除去された空乏領域122においても空乏化半導体120の前駆体を結晶成長させる(S110)。以上の手順により、空乏領域122および空乏領域126においてそれぞれ異なる膜厚を有する空乏化半導体120を備える半導体基板100を製造することができる。
図15は、図5に示した半導体基板100の製造方法のフローを示す。図16Aは、半導体基板100の製造段階における半導体基板100の断面の一例を示す。図16Bは、図15に示した半導体基板100の上面の一例を示す。
まず、p型半導体またはn型半導体を含む第1の不純物半導体としての不純物半導体110を準備する(S202)。続いて、不純物半導体110上に、空乏化半導体128の結晶成長を阻害する阻害層154を設ける(S204)。阻害層154は、図13において説明した阻害層152と同等の材料および製法により形成することができる。
次に、不純物半導体110の表面が露出するまで阻害層154を貫通する開口156を阻害層152に形成する(S206)。開口156は、例えば、エッチング等のフォトリソグラフィ法により形成される。開口156は、例えば、10μm以上100μm以下の辺を有する四辺形である。開口156は、四辺形以外の円および楕円などの任意の形状であってもよい。
続いて、開口156の内部に空乏化半導体128を結晶成長させる(S208)。空乏化半導体128を結晶成長させる段階においては、例えば、MOCVD法を用いて空乏化半導体128の前駆体を開口156の内部でエピタキシャル成長させる。開口156近傍の阻害層154上に供給された前駆体は、開口156の周辺部に導入されて結晶成長する。従って、開口156の周辺部における膜厚が開口156の中央付近における膜厚よりも大きい空乏化半導体128を結晶成長させることができる。
阻害層154の面積と開口156の面積との比率に応じて、開口156内部で結晶成長する空乏化半導体128の膜厚を制御してもよい。阻害層154上に供給された空乏化半導体128の前駆体の一部は、開口156に導入される。従って、阻害層154の面積が開口156の面積に対して大きいと、より多くの前駆体が開口156の内部で結晶成長する。
膜厚が異なる複数の領域を有する空乏化半導体120または空乏化半導体128を備える半導体基板100を製造する方法は、上記の方法に限定されない。例えば、S206において、阻害層154に、大きさまたは形状が異なる複数の開口156を形成することにより、膜厚が異なる複数の空乏化半導体128を設けてもよい。複数の開口156を設けることによって、半導体基板100が発生する電磁波の周波数の範囲を大きくすることができる。
また、不純物半導体110上に空乏化半導体120をモノリシックにエピタキシャル成長させた後に、空乏化半導体120の一部の領域をエッチングにより除去することによっても、膜厚が異なる複数の領域を有する半導体基板100を製造することができる。例えば、ドライエッチングの場合には、エッチャントの分布を制御することにより、エッチング量を異ならせることで、異なる膜厚を有する領域を形成することができる。膜厚を大きくしたい領域にレジスト等を塗布した上でエッチングすることにより、異なる膜厚を有する領域を形成してもよい。また、ウェットエッチングの場合には、半導体基板100の領域ごとにエッチャントに浸漬する時間を変化させることにより、異なる膜厚を有する領域を形成してもよい。
なお、空乏化半導体120または空乏化半導体128の前駆体を結晶成長させた後に、空乏化半導体120または空乏化半導体128上に、不純物半導体110と逆極性の導電型を有するp型半導体またはn型半導体をエピタキシャル成長させてもよい。例えば、不純物半導体110がn型半導体である場合には、空乏化半導体120または空乏化半導体128上にp型半導体を結晶成長させる。
図17は、電磁波発生装置1500の構成を示す。励起光源1000は、光照射部1010および選択部1020を備える。光照射部1010は、p型半導体またはn型半導体を含む不純物半導体と、不純物半導体に接する複数の空乏領域を有する空乏化半導体とを有する半導体基板100における複数の空乏領域にパルスレーザー光を照射する。光照射部1010は、例えばレーザー光源を有する。
半導体基板100は、不純物半導体として、p型半導体またはn型半導体を含む第1の不純物半導体および第2の不純物半導体を有し、空乏化半導体として、第1の不純物半導体に接する空乏領域を有する第1の空乏化半導体と、第2の不純物半導体に接する空乏領域を有する第2の空乏化半導体とを有していてもよい。つまり、電磁波発生装置1500は、p型半導体またはn型半導体を含む不純物半導体と、当該不純物半導体に接する空乏領域を有する空乏化半導体とを有する半導体基板を複数備えていてもよい。光照射部1010は、それぞれの半導体基板上の空乏領域にパルスレーザー光を照射する。
選択部1020は、複数の空乏領域のいずれの領域にパルスレーザー光を照射するかを選択する。例えば、選択部1020は、発生すべき電磁波の周波数を示す周波数情報を取得し、取得した周波数情報に応じて、複数の空乏領域のうち、いずれかの領域を選択する。光照射部1010は、選択部1020が選択した結果に応じて、レーザー光源と光を照射する対象となる半導体基板100との相対位置を変化させることによって、選択部1020が選択した領域に光を照射する。
励起光源1000は、光を照射すべき半導体基板100を内蔵してもよい。この場合には、励起光源1000は、選択部1020が選択した領域に応じて、光を照射すべき半導体基板の位置を変化させてもよい。
半導体基板100において、複数の空乏領域のそれぞれは、例えば、空乏化半導体が前記不純物半導体に接する界面に垂直な方向における界面と空乏化半導体の表面との平均距離および組成の少なくとも一つが異なる。選択部1020は、光照射部1010がパルスレーザー光を照射する領域として、発生すべき電磁波の周波数に応じた領域を複数の空乏領域から選択する。
例えば、半導体基板100が、膜厚が異なる複数の領域を有する場合には、選択部1020は、発生すべき周波数に応じて光を照射する領域を選択する。具体的には、選択部1020は、より高い周波数の電磁波を発生すべき場合に、膜厚がより小さい領域を複数の領域から選択する。より具体的には、光照射部1010が、図3Aに示した半導体基板100に光を照射する場合において、電磁波発生装置1500が、より高い周波数の電磁波を発生すべき場合には、選択部1020は空乏領域122を選択する。電磁波発生装置1500が、より低い周波数の電磁波を発生すべき場合には、選択部1020は空乏領域126を選択する。
半導体基板100が、組成がそれぞれ異なる複数の領域を有する場合には、選択部1020は、発生すべき周波数に応じて領域を選択する。例えば、半導体基板100が、組成比が異なるAlxGa1−xAs(0≦x<0.43)またはInyGa1−yAszP1−z(0≦y≦1、0≦z≦1)を有する複数の領域を有する場合には、選択部1020はAlまたはIn、またはAs,Pの組成比に応じて領域を選択する。具体的には、選択部1020は、より高い周波数の電磁波を発生すべき場合に、Alの組成比がより大きいAlxGa1−xAs(0≦x<0.43)を含む領域、またはInもしくはAsの組成比がより小さいInyGa1−yAszP1−z(0≦y≦1、0≦z≦1)を含む領域複数の領域から選択する。
図18は、他の実施形態に係る電磁波発生装置1500の構成を示す。同図における励起光源1000は、電圧発生部1030をさらに備える。電圧発生部1030は、空乏化半導体に印加する電圧を発生する。選択部1020は、より高い周波数の電磁波を発生すべき場合に、空乏化半導体の表面と、空乏化半導体および不純物半導体の界面との間の電圧差をより大きくする電圧を、電圧発生部1030に発生させる。
具体的には、励起光源1000が、図9に示した半導体基板100または図11に示した半導体基板100に光を照射することによって電磁波を発生させる場合に、電圧発生部1030は発生すべき周波数に応じて異なる電圧を半導体基板100または半導体基板100に印加する。より具体的には、不純物半導体110がn型半導体であり不純物半導体116がp型半導体である場合には、電圧発生部1030は、電圧印加部146に印加する電圧に対して電圧印加部142に印加する電圧をより小さくして逆方向電圧を大きくすることにより、半導体基板100が発生する電磁波の周波数をより高くすることができる。
逆に、電圧発生部1030は、逆方向電圧を小さくすることにより、半導体基板100が発生する電磁波の周波数を低くすることができる。電圧発生部1030は、電圧印加部142に印加する電圧を電圧印加部146に印加する電圧よりも大きくして順方向電圧を印加することによっても、半導体基板100が発生する電磁波の周波数を低くすることができる。
選択部1020は、電圧発生部1030を制御するとともに、光照射部1010を制御してもよい。例えば、選択部1020は、発生すべき電磁波の周波数範囲に応じて光照射部1010が光を照射する領域を選択した上で、電圧発生部1030が出力する電圧を制御することによって、当該周波数範囲内で周波数を選択することができる。
(実施例1)
n型GaAs上にi−GaAsを積層した半導体基板100に光を照射することによって、半導体表面における瞬間的過渡電流およびコヒーレントLOフォノンに起因するテラヘルツ周波数帯の電磁波を発生させた。励起光源1000として、フェムト秒パルスモード同期方式のチタンサファイアレーザ(パルス幅:70fs、中心波長790nm)を用いた。
図19に、実験に用いた測定システム2000の構成の概要を示す。測定システム2000は、ハーフミラー2010、ミラー2020、ミラー2030、ミラー2040、パラボラミラー2050、パラボラミラー2060、測定部2070、ミラー2080、ミラー2090、およびミラー2100を備える。
測定部2070は、分子線エピタキシー(MBE)法により結晶成長させた低温GaAsエピタキシャル層上に形成したダイポールアンテナ(光伝導アンテナ)を有する。測定部2070は、励起光源1000が出力するパルスレーザー光に応じて半導体基板100が出力する電磁波をダイポールアンテナで受信する。測定部2070は、受信した電磁波の振動に応じて流れる電流を増幅して、電流波形を記録する。
励起光源1000が出力するパルスレーザー光は、ハーフミラー2010、ミラー2020、ミラー2030、およびミラー2040を経由して、半導体基板100に印加される。半導体基板100が発生した電磁波は、パラボラミラー2050およびパラボラミラー2060を経由して、測定部2070に入力される。
励起光源1000が出力したパルスレーザー光の一部は、ハーフミラー2010によって反射されて、ミラー2080、ミラー2090、およびミラー2100を経由して、ゲート信号として測定部2070に入力される。測定部2070は、ゲート信号が入力されたタイミングで、受信した電磁波に応じて流れる電流値を測定する。
測定システム2000は、ミラー2080およびミラー2090を順次移動させることによってゲート信号の遅延時間を変化する。測定システム2000は、ゲート信号の遅延時間を順次変化させることにより、遅延時間に応じて変化する電流値を測定する。ゲート信号を用いて測定期間を規定する光ゲーティング法を用いることにより、励起光のタイミングに応じて定められた期間だけ電磁波を検出することができるので、測定結果から暗ノイズが除去された高精度の測定が可能になる。
GaAs(100)面基板上にn−GaAs(キャリア濃度3×1018cm−3、膜厚3μm)、i−GaAs(膜厚200nm)をこの順に成長し、i−GaAsの表面にフェムト秒パルスレーザーを照射した。図20Aは、当該i−GaAs、および、不純物がドープされていないGaAsのバルク結晶のそれぞれにパルスレーザー光を照射した場合に発生する電磁波の波形を示す。横軸は、パルスレーザー光を照射してからの遅延時間を示す。縦軸は、測定部2070において受信した電磁波に応じて計測された電流を示す。
パルスレーザー光が照射されてから約2psの経過後に、不純物半導体110に向かう電流が流れている(図20A内のaに示すパルス)。つまり、パルスレーザー光により励起された電子が空乏化半導体120の表面に向かって移動している。この現象は、パルスレーザー光によって励起された正孔が拡散する前に、励起された電子が空乏化半導体120の表面に拡散したことにより生じたと考えられる。
その後、空乏化半導体120の伝導帯のポテンシャルの勾配により、電子が不純物半導体110の向きにドリフト運動をすることにより、空乏化半導体120の表面に向かう電流が流れている(図20A内のbに示すパルス)。この急峻な電流の変化により、テラヘルツ電磁波が発生したと考えられる。また、その後のcに示す期間に観測される微細振動電流は、コヒーレントLOフォノンに起因して発生していると考えられる。
図20Bは、図20Aに示す電流をフーリエ変換して得られたスペクトルを示す。空乏化半導体120の膜厚が200nmである場合には、バルク結晶に比べて約100倍の強度のテラヘルツ電磁波が出力された。空乏化半導体120の膜厚が200nmである場合には表面電界が生じているので、LOフォノンの分極が強まり、バルク結晶に比べて強度が大きい電磁波が発生したと考えられる。
図20Bにおける4THz周辺の広帯域の電磁波は、空乏化半導体120内部におけるキャリアのドリフト運動に起因して発生していると考えられる。キャリアのドリフト速度は、キャリアによってばらつきがあるので、発生する電磁波の周波数が広い範囲に分布していると考えられる。また、約8.7THzの電磁波は、GaAs結晶のLOフォノン振動数と一致することから、コヒーレントLOフォノンに起因して発生していると考えられる。
(実施例2)
空乏化半導体120の膜厚を変化させて、それぞれの膜厚において発生する電磁波に応じた電流波形および周波数スペクトルを測定した。図21Aは、200nmの膜厚のi−GaAsにパルスレーザー光が照射された場合に発生する電流を示す。図21Bは、図21Aに示した電流をフーリエ変換して得られたスペクトルを示す。キャリアのドリフト運動に起因して、4THz付近に広帯域の電磁波が発生していることがわかる。
i−GaAs内部のポテンシャルの勾配と相関を有するi−GaAs表面電界を算出するために、i−GaAsの光変調反射(PR)スペクトルを測定した。その結果、膜厚が200nmのi−GaAsにおける表面電界強度は、28.4kV/cmであった。
図22Aは、500nmの膜厚のi−GaAsにパルスレーザー光が照射された場合に発生する電磁波を示す。図22Bは、図22Aに示した電流をフーリエ変換して得られたスペクトルを示す。キャリアのドリフト運動に起因して、3.5THz付近に広帯域の電磁波が発生していることがわかる。膜厚が500nmのi−GaAsにおける表面電界強度は、12.2kV/cmであった。
図23Aは、800nmの膜厚のi−GaAsにパルスレーザー光が照射された場合に発生する電磁波を示す。図23Bは、図23Aに示した電流をフーリエ変換して得られたスペクトルを示す。キャリアのドリフト運動に起因して、2.5THz付近に広帯域の電磁波が発生していることがわかる。膜厚が800nmのi−GaAsにおける表面電界強度は、7.0kV/cmであった。
図24Aは、1200nmの膜厚のi−GaAsにパルスレーザー光が照射された場合に発生する電磁波を示す。図24Bは、図24Aに示した電流をフーリエ変換して得られたスペクトルを示す。キャリアのドリフト運動に起因して、2.0THz付近に広帯域の電磁波が発生していることがわかる。膜厚が1200nmのi−GaAsにおける表面電界強度は、5.2kV/cmであった。
図25Aは、2000nmの膜厚のi−GaAsにパルスレーザー光が照射された場合に発生する電磁波を示す。図25Bは、図25Aに示した電流をフーリエ変換して得られたスペクトルを示す。キャリアのドリフト運動に起因して、1.5THz付近に広帯域の電磁波が発生していることがわかる。膜厚が2000nmのi−GaAsにおける表面電界強度は、5.3kV/cmであった。
以上の実験から、i−GaAsの膜厚を変化させることによって、半導体基板が出力するテラヘルツ電磁波の周波数が変化することを確認できた。また、膜厚と表面電界強度との間に相関があることも確認できた。
なお、膜厚に応じて、発生する電磁波の強度も変化している。200nm、500nm、800nm、1200nm、2000nmの中では、膜厚が800nmの場合に、キャリア運動により発生した電磁波の強度が最も大きいことが判明した。膜厚が200nmまたは500nmの場合の表面電界強度の方が、膜厚が800nmの場合の表面電界強度よりも大きいにもかかわらず、膜厚が800nmの場合に最も強い電磁波が発生する理由は、膜厚が小さい場合に励起されるキャリアの量が、膜厚が大きい場合に励起されるキャリアの量に比べて少ないためであると考えられる。
(実施例3)
InP上にn−In0.53Ga0.47Asを積層した半導体基板100に光を照射することによって、テラヘルツ周波数帯の電磁波を発生させた。励起光源1000として、フェムト秒パルスモード同期方式のチタンサファイアレーザ(パルス幅:60fs、中心波長795nm、励起強度60mW)を用いた。n−In0.53Ga0.47Asのドーピング濃度を変化させて、それぞれのドーピング濃度において照射される電磁波の強度及び周波数を光ゲーティング法により測定した。光ゲーティング法においては、低温成長GaAs上に作製されたダイポールアンテナを使用した。
図26は、ドーピング濃度が異なる複数の半導体基板100にパルスレーザー光が照射された場合に発生する電流を示す。図27は、ドーピング濃度が異なる複数の半導体基板100にパルスレーザー光が照射された場合に発生する電磁波のフーリエ変換スペクトルを示す。n−In0.53Ga0.47Asのドーピング濃度は、4.9×1016cm−3、1.4×1017cm−3、2.5×1017cm−3の3種類とした。
図27に示されるように、レーザーパルス光の照射を受けた半導体基板100からは、3種類のテラヘルツ周波数帯の電磁波が発生している。図27における最も低い周波数の電磁波(領域A)は、n−In0.53Ga0.47Asに接する空乏領域において生じる瞬間的過渡電流に起因する電磁波である。
図27における中間の周波数の電磁波(領域B)は、LOフォノン−プラズモン結合モードによる電磁波である。LOフォノン−プラズモン結合モードによる電磁波は、ドーピング濃度が高くなるにつれて、周波数が高くなっている。この現象は、図8を用いて説明したように、n−In0.53Ga0.47Asのドーピング濃度が高いほど空乏領域内部におけるポテンシャルの勾配が大きくなることに起因すると考えられる。
図27における最も高い周波数の電磁波(領域C)は、LOフォノンによる電磁波である。n−In0.53Ga0.47Asのドーピング濃度が大きいほどLOフォノンによる電磁波は大きい。この現象は、n−In0.53Ga0.47Asのドーピング濃度が高くなるにしたがって空乏領域の電場強度が強くなり、LOフォノン分極が大きくなっていることを反映していると考えられる。
以上のとおり、n−In0.53Ga0.47Asのドーピング濃度を変化させることによって、発生する電磁波の周波数及び強度が変化することを確認できた。当該挙動は、i−GaAs/n−GaAs構造において、i−GaAsの層厚を変化させることによって、発生する電磁波の周波数及び強度が変化するという実施例2で説明した挙動と類似する。
実施例2及び実施例3から、不純物半導体のドーピング濃度及び空乏領域の層厚に応じて、発生する電磁波の周波数及び強度が変化することが判明した。したがって、不純物半導体におけるドーピング濃度と空乏領域の層厚とを変化させることによって、発生するテラヘルツ電磁波の周波数及び強度が異なるさまざまな半導体基板を製造できることが明らかになった。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。