本発明の実施例1である電池システム(蓄電システムに相当する)について、図1を用いて説明する。図1は、電池システムの構成を示す図である。本実施例の電池システムは、車両に搭載されている。
車両としては、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。ハイブリッド自動車は、車両を走行させる動力源として、後述する組電池に加えて、エンジン又は燃料電池を備えている。電気自動車は、車両を走行させる動力源として、後述する組電池だけを備えている。
組電池10の正極端子と接続された正極ラインPLには、システムメインリレーSMR−Bが設けられている。システムメインリレーSMR−Bは、コントローラ40からの制御信号を受けることにより、オンおよびオフの間で切り替わる。組電池10の負極端子と接続された負極ラインNLには、システムメインリレーSMR−Gが設けられている。システムメインリレーSMR−Gは、コントローラ40からの制御信号を受けることにより、オンおよびオフの間で切り替わる。
システムメインリレーSMR−Gには、システムメインリレーSMR−Pおよび電流制限抵抗Rが並列に接続されている。システムメインリレーSMR−Pおよび電流制限抵抗Rは、直列に接続されている。システムメインリレーSMR−Pは、コントローラ40からの制御信号を受けることにより、オンおよびオフの間で切り替わる。電流制限抵抗Rは、組電池10を負荷(具体的には、後述する昇圧回路32)と接続するときに、突入電流が流れるのを抑制するために用いられる。
組電池10を負荷と接続するとき、コントローラ40は、システムメインリレーSMR−B,SMR−Pをオフからオンに切り替える。これにより、電流制限抵抗Rに電流を流すことができ、突入電流が流れるのを抑制することができる。
次に、コントローラ40は、システムメインリレーSMR−Gをオフからオンに切り替えた後に、システムメインリレーSMR−Pをオンからオフに切り替える。これにより、組電池10および負荷の接続が完了し、図1に示す電池システムは、起動状態(Ready-On)となる。一方、組電池10および負荷の接続を遮断するとき、コントローラ40は、システムメインリレーSMR−B,SMR−Gをオンからオフに切り替える。これにより、図1に示す電池システムの動作は停止する。
昇圧回路32は、組電池10の出力電圧を昇圧し、昇圧後の電力をインバータ33に出力する。また、昇圧回路32は、インバータ33の出力電圧を降圧し、降圧後の電力を組電池10に出力することができる。昇圧回路32は、コントローラ40からの制御信号を受けて動作する。本実施例の電池システムでは、昇圧回路32を用いているが、昇圧回路32を省略することもできる。
インバータ33は、昇圧回路32から出力された直流電力を交流電力に変換し、交流電力をモータ・ジェネレータ34に出力する。また、インバータ33は、モータ・ジェネレータ34が生成した交流電力を直流電力に変換し、直流電力を昇圧回路32に出力する。モータ・ジェネレータ34としては、例えば、三相交流モータを用いることができる。
モータ・ジェネレータ34は、インバータ33からの交流電力を受けて、車両を走行させるための運動エネルギを生成する。組電池10の出力電力を用いて車両を走行させるとき、モータ・ジェネレータ34によって生成された運動エネルギは、車輪に伝達される。
車両を減速させたり、停止させたりするとき、モータ・ジェネレータ34は、車両の制動時に発生する運動エネルギを電気エネルギ(交流電力)に変換する。インバータ33は、モータ・ジェネレータ34が生成した交流電力を直流電力に変換し、直流電力を昇圧回路32に出力する。昇圧回路32は、インバータ33からの電力を組電池10に出力する。これにより、回生電力を組電池10に蓄えることができる。
図2は、組電池10の構成を示す。組電池10は、直列に接続された複数の電池ブロック(蓄電ブロックに相当する)11を有する。複数の電池ブロック11を直列に接続することにより、組電池10の出力電圧を確保することができる。ここで、電池ブロック11の数は、組電池10に対して要求される電圧を考慮して、適宜設定することができる。
各電池ブロック11は、並列に接続された複数の単電池(蓄電素子に相当する)12を有する。複数の単電池12を並列に接続することにより、電池ブロック11(組電池10)の満充電容量を増やすことができ、組電池10の出力を用いて車両を走行させるときの距離を延ばすことができる。各電池ブロック11を構成する単電池12の数は、組電池10に要求される満充電容量を考慮して、適宜設定することができる。
複数の電池ブロック11は、直列に接続されているため、各電池ブロック11には、等しい電流が流れる。各電池ブロック11では、複数の単電池12が並列に接続されているため、各単電池12に流れる電流値は、電池ブロック11に流れる電流値を、電池ブロック11を構成する単電池12の数(総数)で除算した電流値となる。具体的には、電池ブロック11を構成する単電池12の総数がN個であり、電池ブロック11に流れる電流値がIsであるとき、各単電池12に流れる電流値は、Is/Nとなる。ここでは、電池ブロック11を構成する複数の単電池12において、内部抵抗のバラツキが発生していないものとしている。
単電池12としては、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池といった二次電池を用いることができる。また、二次電池の代わりに、電気二重層キャパシタ(コンデンサ)を用いることができる。例えば、単電池12としては、18650型の電池を用いることができる。18650型の電池は、いわゆる円筒型の電池であり、直径が18[mm]であり、長さが65.0[mm]である。円筒型の電池とは、電池ケースが円筒状に形成されており、電池ケースの内部には、充放電を行う発電要素が収容されている。発電要素の構成については、後述する。
単電池12は、図3に示すように、発電要素12aおよび電流遮断器12bを有する。発電要素12aおよび電流遮断器12bは、単電池12の外装を構成する電池ケースに収容されている。発電要素12aは、充放電を行う要素であり、正極板と、負極板と、正極板および負極板の間に配置されるセパレータとを有する。正極板は、集電板と、集電板の表面に形成された正極活物質層とを有する。負極板は、集電板と、集電板の表面に形成された負極活物質層とを有する。正極活物質層は、正極活物質や導電剤などを含んでおり、負極活物質層は、負極活物質や導電剤などを含んでいる。
単電池12の放電時において、負極の活物質の界面上では、イオンおよび電子を放出する化学反応が行われる。一方、正極の活物質の界面上では、イオンおよび電子を吸収する化学反応が行われる。単電池12の充電時には、上述した反応と逆の反応が行われる。セパレータを介して、正極および負極の間でイオンの授受が行われることにより、単電池12の充放電が行われる。
単電池12としてリチウムイオン二次電池を用いるときには、例えば、正極板の集電板をアルミニウムで形成し、負極板の集電板を銅で形成することができる。また、正極活物質としては、例えば、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2を用い、負極活物質としては、例えば、カーボンを用いることができる。セパレータ、正極活物質層および負極活物質層には、電解液がしみ込んでいる。電解液を用いる代わりに、正極板および負極板の間に、固体電解質層を配置することもできる。
電流遮断器12bは、単電池12の内部における電流経路を遮断するために用いられる。すなわち、電流遮断器12bが作動することにより、単電池12の内部における電流経路が遮断される。電流遮断器12bとしては、例えば、ヒューズ、PTC(Positive Temperature Coefficient)素子又は、電流遮断弁を用いることができる。これらの電流遮断器12bは、個別に用いることもできるし、併用することもできる。
電流遮断器12bとしてのヒューズは、ヒューズに流れる電流に応じて溶断する。ヒューズを溶断させることにより、単電池12の内部における電流経路を機械的に遮断することができる。これにより、発電要素12aに過大な電流が流れるのを防止して、単電池12(発電要素12a)を保護することができる。電流遮断器12bとしてのヒューズは、電池ケースに収容されていてもよいし、電池ケースの外部に配置されていてもよい。電池ケースの外部にヒューズを配置する場合であっても、ヒューズは、各単電池12に対して設けられ、各単電池12と直列に接続される。
電流遮断器12bとしてのPTC素子は、単電池12の電流経路に配置されており、PTC素子の温度上昇に応じて抵抗を増加させる。PTC素子に流れる電流が増加すると、ジュール熱によってPTC素子の温度が上昇する。PTC素子の温度上昇に応じて、PTC素子の抵抗が増加することにより、PTC素子において、電流を遮断することができる。これにより、発電要素12aに過大な電流が流れるのを防止して、単電池12(発電要素12a)を保護することができる。
電流遮断器12bとしての電流遮断弁は、単電池12の内圧上昇に応じて変形し、発電要素12aとの機械的な接続を断つことにより、単電池12の内部における電流経路を遮断することができる。単電池12の内部は、密閉状態となっており、過充電などによって発電要素12aからガスが発生すると、単電池12の内圧が上昇する。発電要素12aからガスが発生しているときには、単電池12(発電要素12a)は異常状態となる。単電池12の内圧が上昇することに応じて、電流遮断弁を変形させることにより、発電要素12aとの機械的な接続を断つことができる。これにより、異常状態にある発電要素12aに充放電電流が流れるのを阻止し、単電池12(発電要素12a)を保護することができる。
図1に示す監視ユニット20は、各電池ブロック11の電圧を検出し、検出結果をコントローラ40に出力する。電流センサ31は、組電池10に流れる電流値を検出し、検出結果をコントローラ40に出力する。組電池10では、複数の電池ブロック11が直列に接続されているため、電流センサ31を用いることにより、各電池ブロック11に流れる電流値を検出することができる。
例えば、組電池10(各電池ブロック11)を放電しているときには、電流センサ31によって検出された電流値として、正の値を用いることができる。また、組電池10(各電池ブロック11)を充電しているときには、電流センサ31によって検出された電流値として、負の値を用いることができる。電流センサ31は、組電池10(各電池ブロック11)に流れる電流値を検出できればよく、正極ラインPLではなく、負極ラインNLに設けることもできる。また、複数の電流センサ31を用いることもできる。なお、コストや体格などを考慮すると、本実施例のように、1つの組電池10に対して1つの電流センサ31を設けることが望ましい。
コントローラ40は、メモリ41を内蔵しており、メモリ41は、コントローラ40を動作させるためのプログラムや、特定の情報を記憶している。メモリ41は、コントローラ40の外部に設けることもできる。
各単電池12の電圧Vは、下記式(1)によって表される。ここで、各電池ブロック11では、複数の単電池12が並列に接続されているため、単電池12の電圧は、電池ブロック11の電圧に相当する。
式(1)において、OCVは、単電池12の開放電圧、Rは、単電池12の内部抵抗、Iは、単電池12に流れる電流である。内部抵抗Rには、負極および正極において電子の移動に対する純電気的な抵抗と、活物質界面での反応電流発生時に等価的に電気抵抗として作用する電荷移動抵抗とが含まれる。
θ1は、正極活物質の表面における局所的SOC(State Of Charge)であり、θ2は、負極活物質の表面における局所的SOCである。内部抵抗Rは、θ1、θ2および電池温度の変化に応じて変化する。言い換えれば、内部抵抗Rは、θ1、θ2および電池温度の関数として表すことができる。
局所的SOCθ1,θ2は、下記式(2)によって表される。
式(2)において、Cse,iは、活物質(正極又は負極)の界面におけるイオン濃度(平均値)であり、Cs,i,maxは、活物質(正極又は負極)における限界イオン濃度である。限界イオン濃度とは、正極や負極におけるイオン濃度の上限値である。
単電池12の開放電圧OCVは、図4に示すように、正極開放電位U1および負極開放電位U2の電位差として表される。正極開放電位U1は、正極活物質の表面における局所的SOCθ1に応じて変化する特性を有し、負極開放電位U2は、負極活物質の表面における局所的SOCθ2に応じて変化する特性を有する。
単電池12が初期状態にあるときに、局所的SOCθ1および正極開放電位U1の関係を測定しておけば、局所的SOCθ1および正極開放電位U1の関係を示す特性(図4に示すU1の曲線)を得ることができる。初期状態とは、単電池12の劣化が発生していない状態をいい、例えば、単電池12を製造した直後の状態をいう。
単電池12が初期状態にあるときに、局所的SOCθ2および負極開放電位U2の関係を測定しておけば、局所的SOCθ2および負極開放電位U2の関係を示す特性(図4に示すU2の曲線)を得ることができる。これらの特性(U1,U2)を示すデータは、マップとしてメモリ41に予め格納しておくことができる。
単電池12の開放電圧OCVは、放電が進むにつれて低下する特性を有している。また、劣化後の単電池12においては、初期状態の単電池12に比べて、同じ放電時間に対する電圧低下量が大きくなる。このことは、単電池12の劣化によって、満充電容量の低下と、開放電圧特性の変化とが生じていることを示している。本実施例では、単電池12の劣化に伴う開放電圧特性の変化を、劣化状態の単電池12の内部で起きると考えられる2つの現象としてモデル化している。
本実施例において、単電池12の劣化とは、通電や放置等によって正極および負極の性能(イオンの受け入れ能力)が低下することである。単電池12の劣化としては、例えば、正極や負極の活物質が摩耗することが挙げられる。一方、上述した2つの現象は、正極および負極での単極容量の減少と、正極および負極の間における組成の対応ずれである。
単極容量の減少とは、正極および負極のそれぞれにおけるイオンの受け入れ能力の減少を示している。イオンの受け入れ能力が減少していることは、充放電に有効に機能する活物質等が減少していることを意味している。
図5には、単極容量の減少による単極開放電位の変化を模式的に示している。図5において、正極容量の軸におけるQ_L1は、単電池12の初期状態において、図4の局所的SOCθL1に対応する容量である。Q_H11は、単電池12の初期状態において、図4の局所的SOCθH1に対応する容量である。また、負極容量の軸におけるQ_L2は、単電池12の初期状態において、図4の局所的SOCθL2に対応する容量であり、Q_H21は、単電池12の初期状態において、図4の局所的SOCθH2に対応する容量である。
正極において、イオンの受け入れ能力が低下すると、局所的SOCθ1に対応する容量は、Q_H11からQ_H12に変化する。また、負極において、イオンの受け入れ能力が低下すると、局所的SOCθ2に対応する容量は、Q_H21からQ_H22に変化する。
ここで、単電池12が劣化しても、局所的SOCθ1および正極開放電位U1の関係(図4に示す関係)は変化しない。このため、局所的SOCθ1および正極開放電位U1の関係を、正極容量および正極開放電位の関係に変換すると、図5に示すように、正極容量および正極開放電位の関係を示す曲線は、単電池12が劣化した分だけ、初期状態の曲線に対して縮んだ状態となる。
また、局所的SOCθ2および負極開放電位U2の関係を、負極容量および負極開放電位の関係に変換すると、図5に示すように、負極容量および負極開放電位の関係を示す曲線は、単電池12が劣化した分だけ、初期状態の曲線に対して縮んだ状態となる。
図6には、正極および負極の間における組成対応のずれを模式的に示している。組成対応のずれとは、正極および負極の組を用いて充放電を行うときに、正極の組成(θ1)および負極の組成(θ2)の組み合わせが、単電池12の初期状態に対して、相対的にずれていることを示すものである。図6では、正極組成の軸に対して、負極組成の軸がずれた状態を模式的に示している。
単極の組成θ1,θ2および開放電位U1,U2の関係を示す曲線は、図4に示した曲線と同様である。ここで、単電池12が劣化すると、負極組成θ2の軸は、正極組成θ1が小さくなる方向にΔθ2だけシフトする。これにより、負極組成θ2および負極開放電位U2の関係を示す曲線は、初期状態の曲線に対して、Δθ2の分だけ、正極組成θ1が小さくなる方向にシフトする。
正極の組成θ1fixに対応する負極の組成は、単電池12が初期状態にあるときには「θ2fix_ini」となるが、単電池12が劣化した後には「θ2fix」となる。なお、図6では、図4に示す負極組成θL2を0としているが、これは、負極のイオンがすべて抜けた状態を示している。また、図6では、正極組成θ1の軸を固定し、負極組成θ2の軸をシフトさせているが、これに限るものではない。具体的には、負極組成θ2の軸を固定し、正極組成θ1の軸をシフトさせることもできる。
本実施例では、3つの劣化パラメータを電池モデルに導入することにより、上述した2つの劣化現象をモデル化している。3つの劣化パラメータとしては、正極容量維持率、負極容量維持率および正負極組成対応ずれ量を用いている。2つの劣化現象をモデル化する方法について、以下に説明する。
正極容量維持率とは、初期状態の正極容量に対する劣化状態の正極容量の割合をいう。ここで、正極容量は、単電池12が劣化状態となった後において、初期状態の容量から任意の量だけ減少したとする。このとき、正極容量維持率k1は、下記式(3)によって表される。
式(3)において、Q1_iniは、単電池12が初期状態にあるときの正極容量(図5に示すQ_H11)を示し、ΔQ1は、単電池12が劣化したときの正極容量の減少量を示している。正極容量Q1_iniは、活物質の理論容量や仕込み量などから予め求めておくことができる。
負極容量維持率とは、初期状態の負極容量に対する劣化状態の負極容量の割合をいう。ここで、負極容量は、単電池12が劣化状態となった後において、初期状態の容量から任意の量だけ減少したとする。このとき、負極容量維持率k2は、下記式(4)によって表される。
式(4)において、Q2_iniは、単電池12が初期状態にあるときの負極容量(図5のQ_H21)を示し、ΔQ2は、単電池12が劣化したときの負極容量の減少量を示している。負極容量Q2_iniは、活物質の理論容量や仕込み量によって予め求めておくことができる。
図7は、正極および負極の間における組成対応のずれを説明する模式図である。
単電池12が劣化状態となったときには、負極組成θ2が1であるときの容量は、(Q2_ini−ΔQ2)となる。また、正極および負極の間における組成対応ずれ容量ΔQsは、正極組成軸に対する負極組成軸のずれ量Δθ2に対応する容量である。これにより、下記式(5)の関係が成り立つ。
式(4)及び式(5)から下記式(6)が求められる。
単電池12が初期状態にあるとき、正極組成θ1fix_iniは、負極組成θ2fix_iniに対応している。単電池12が劣化状態にあるとき、正極組成θ1fixは、負極組成θ2fixに対応している。また、組成対応のずれは、初期状態における正極組成θ1fixを基準とする。すなわち、正極組成θ1fixおよび正極組成θ1fix_iniは、同じ値とする。
単電池12の劣化により、正極および負極の間における組成対応のずれが生じた場合において、単電池12の劣化後における正極組成θ1fixおよび負極組成θ2fixは、下記式(7),(8)の関係を有している。
式(8)の意味について説明する。単電池12の劣化によって、正極組成θ1が1からθ1fixまで変化(減少)したときに、正極から放出されるイオンの量Aは、下記式(9)によって表される。
式(9)において、(1−θ1fix)の値は、単電池12の劣化による正極組成の変化分を示し、(k1×Q1_ini)の値は、単電池12の劣化後における正極容量を示している。
正極から放出されたイオンが負極にすべて取り込まれるとすると、負極組成θ2fixは、下記式(10)となる。
式(10)において、(k2×Q2_ini)の値は、単電池12の劣化後における負極容量を示している。
一方、正極および負極の間における組成対応のずれ(Δθ2)が存在するときには、負極組成θ2fixは、下記式(11)で表される。
組成対応のずれ量Δθ2は、式(6)により、組成対応のずれ容量ΔQsを用いて表すことができる。これにより、負極組成θ2fixは、上記式(8)で表される。上記式(7),(8)は、正極組成軸に対して負極組成軸がずれたときの式であるが、負極組成軸に対して正極組成軸がずれるときには、上記式(7),(8)と同様の考え方に基づいて、下記式(12),(13)が成り立つ。
図7に示すように、単電池12が劣化状態にあるときの開放電圧OCVは、劣化状態における正極開放電位U11および負極開放電位U22の電位差として表される。すなわち、3つの劣化パラメータk1,k2,ΔQsを推定すれば、単電池12が劣化状態にあるときの負極開放電位U22を特定でき、負極開放電位U22および正極開放電位U11の電位差として、開放電圧OCVを算出することができる。
単電池12が劣化していないときの開放電圧OCVは、初期状態の単電池12における開放電圧OCVと一致することになる。すなわち、正極容量維持率k1および負極容量維持率k2のそれぞれが1であり、組成対応のずれ容量ΔQsが初期値であるときに、上述した説明によって算出(推定)された開放電圧OCVは、初期状態(新品)である単電池12の開放電圧OCVを測定したときの値(実測値)と一致することになる。
ここで、単電池12の初期状態としては、単電池12を作製し、単電池12にエージング処理(良好な皮膜(SEI膜)を形成する処理)などを行った後の状態としている。エージング処理などを行うと、正極および負極の間において組成対応のずれが発生し、ずれ容量ΔQsは、0とは異なる値に変化する。また、エージング処理などを行った後において、正極容量維持率k1および負極容量維持率k2のそれぞれは、「1」からずれることもある。
エージング処理などを行った後のずれ容量ΔQsの値が、上述した初期値となる。なお、ずれ容量ΔQsの初期値としては、エージング処理などを行った後の値を、特定の値(例えば、0)に正規化することもできる。例えば、エージング処理などを行った後のずれ容量ΔQsの値を減算した値(ここでは、0となる)を、ずれ容量ΔQsの初期値として用いることもできる。同様に、エージング処理などを行った後における正極容量維持率k1および負極容量維持率k2のそれぞれを、特定の値(例えば、1)に正規化することもできる。
図8には、初期状態にある単電池12の容量(SOC)および開放電圧OCVの関係(開放電圧特性に相当する。以下、開放電圧曲線という)を示している。図8の点線は、開放電圧曲線(実測値)であり、実線は、開放電圧曲線(推定値)である。開放電圧曲線(推定値)は、開放電圧曲線(実測値)と重なっている。図8において、縦軸は、開放電圧OCVを示し、横軸は、単電池12の容量を示している。なお、開放電圧曲線(実測値)は、測定誤差の分だけ、開放電圧曲線(推定値)に対してずれることもある。
図8に示す開放電圧曲線(推定値)を決定する劣化パラメータ(一例)としては、正極容量維持率k1が「1」、負極容量維持率k2が「1」、組成対応のずれ容量ΔQsが「7.0」となっている。図8に示す例では、上述したエージング処理などによって、初期値としてのずれ容量ΔQsが0よりも大きい値となっている。
ここで、ずれ容量ΔQsは、負極組成軸に対する正極組成軸のずれ量に対応する容量としており、単電池12の劣化が進行するほど、ずれ容量ΔQsは、初期値に対して増加するようになっている。なお、ずれ容量ΔQsを、正極組成軸に対する負極組成軸のずれ量に対応する容量としたときには、単電池12の劣化が進行するほど、ずれ容量ΔQsは、初期値に対して減少することになる。正極組成軸および負極組成軸のいずれをずらすかに応じて、ずれ容量ΔQsは、正の値を示したり、負の値を示したりする。ずれ容量ΔQsが正の値を示すとき、単電池12の劣化が進行するほど、ずれ容量ΔQsは、初期値に対して増加方向(正の方向)に変化する。一方、ずれ容量ΔQsが負の値を示すとき、単電池12の劣化が進行するほど、ずれ容量ΔQsは、初期値に対して減少方向(負の方向)に変化する。
一方、単電池12が劣化すると、開放電圧(実測値)OCVは変化することになる。図9(図8に対応する図)の点線は、単電池12が劣化したときの開放電圧曲線(実測値)を示している。
3つの劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)を推定すると、開放電圧曲線(推定値)を、図9に示す開放電圧曲線(実測値)に略一致させることができる。言い換えれば、開放電圧曲線(推定値)が開放電圧曲線(実測値)に略一致するように、3つの劣化パラメータを探索することができる。
図9には、開放電圧(実測値)OCVおよび開放電圧(推定値)OCVが略一致している状態を示している。ここで、開放電圧(実測値)OCVの測定誤差によって、開放電圧(実測値)OCVが開放電圧(実測値)OCVからずれることもある。図9に示す開放電圧曲線(推定値)を決定する劣化パラメータ(一例)としては、正極容量維持率k1が「0.95」、負極容量維持率k2が「0.99」、組成対応のずれ容量ΔQsが「9.2」となっている。
劣化状態にある単電池12では、3つの劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)のすべてについて、新品(初期状態)の単電池12に対してずれていることが分かる。具体的には、単電池12の劣化が進行すると、単極容量維持率k1,k2が低下しやすくなるとともに、ずれ容量ΔQsが初期値に対して一方向に変化しやすくなる。
単電池12の容量(充電率)を変化させながら、単電池12の開放電圧OCVを測定することができる。これにより、図8および図9に示すように、単電池12の容量の変化に対する開放電圧(実測値)OCVの変化を示すデータ(開放電圧曲線)を取得することができる。開放電圧(実測値)OCVを取得できれば、開放電圧(推定値)OCVが開放電圧(実測値)OCVと一致するように劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)を探索することができる。
一方、電流遮断器12bが作動したときには、作動状態にある電流遮断器12bを含む単電池12には、電流が流れないことになる。作動状態にある電流遮断器12bを含む単電池12に電流が流れなくなると、この単電池12の容量の分だけ、電池ブロック11の容量は低下する。電池ブロック11の容量が低下すれば、電池ブロック11の単極容量維持率k1,k2も低下する。
電池ブロック11を1つの単電池(単電池12に相当する)と見なしたとき、電池ブロック11の単極容量維持率k1,k2は、作動状態にある電流遮断器12bを含む単電池12の数に応じて変化する。具体的には、作動状態にある電流遮断器12bを含む単電池12の数が増えるにつれて、単極容量維持率k1,k2は低下する。
ここで、電流遮断器12bが作動したときには、作動状態にある電流遮断器12bを含む単電池12に電流が流れないだけであるため、単極容量維持率k1,k2の変化率は互いに等しくなる。すなわち、電池ブロック11が劣化せずに、電池ブロック11の容量が低下するだけであるため、単極容量維持率k1,k2の両者は、電池ブロック11の容量が低下した分だけ、変化することになる。したがって、下記式(14)の関係が成り立つ。
k1/k1’=k2/k2’ ・・・(14)
式(14)において、k1’は、電流遮断器12bが作動する前における電池ブロック11の正極容量維持率であり、k1は、電流遮断器12bが作動した後における電池ブロック11の正極容量維持率である。k2’は、電流遮断器12bが作動する前における電池ブロック11の負極容量維持率であり、k2は、電流遮断器12bが作動した後における電池ブロック11の負極容量維持率である。
電池ブロック11が劣化するときには、正極容量維持率k1,k1’が互いに異なるとともに、負極容量維持率k2,k2’が互いに異なる。そして、式(14)に示す関係は、通常、成り立ち難い。
一方、電流遮断器12bが作動したときには、作動状態にある電流遮断器12bを含む単電池12に電流が流れないだけであるため、ずれ量Δθ2は、変化しない。ここで、電流遮断器12bが作動する前における電池ブロック11のずれ容量ΔQS’と、電流遮断器12bが作動した後における電池ブロック11のずれ容量ΔQSとは、下記式(15)の関係が成り立つ。
ΔQS=ΔQS’×k2/k2’ ・・・(15)
式(15)は、ずれ量Δθ2が変化しない条件において、上記式(6)に基づいて算出することができる。式(14)より、式(15)は、下記式(16)と表すこともできる。
ΔQS=ΔQS’×k1/k1’ ・・・(16)
式(15)又は式(16)において、ずれ容量の変化率(ΔQS/ΔQS’)は、負極容量維持率の変化率(k2/k2’)又は、正極容量維持率の変化率(k1/k1’)と等しくなる。
図10には、電流遮断器12bが作動している状態において、開放電圧(実測値)OCVおよび開放電圧(推定値)OCVが略一致している状態を示している。ここで、開放電圧(実測値)OCVの測定誤差によって、開放電圧(実測値)OCVが開放電圧(実測値)OCVからずれることもある。図10に示す開放電圧曲線(推定値)を決定する劣化パラメータ(一例)としては、正極容量維持率k1が「0.9」、負極容量維持率k2が「0.9」、組成対応のずれ容量ΔQsが「6.3」となっている。
図10に示すように、電流遮断器12bが作動したときには、単極容量維持率k1,k2が初期状態の値(1)よりも低下し、ずれ容量ΔQsは初期値(7.0)よりも低下する。図8および図10を比較すると、正極容量維持率k1の変化率(=0.9/1)と、負極容量維持率k2の変化率(=0.9/1)とは互いに等しくなっている。ここで、単電池12が劣化している状態において、電流遮断器12bが作動しても、正極容量維持率k1の変化率と、負極容量維持率k2の変化率とは、互いに等しくなる。また、ずれ容量ΔQsは、式(15)又は式(16)の関係を満たす。式(15)又は式(16)において、電流遮断器12bの作動によって、単極容量維持率k1,k2は、単極容量維持率k1’,k2’よりも低下するため、ずれ容量ΔQsの絶対値は、ずれ容量ΔQS’の絶対値よりも低下する。
電池ブロック11が劣化するときには、図8および図9を用いて説明したように、ずれ容量ΔQSが上昇する。そして、互いに異なるタイミングにおいて、ずれ容量ΔQSを取得したときに、これらのずれ容量ΔQSは、互いに異なることになる。
上述したように、電池ブロック11が劣化したときと、電流遮断器12bが作動したときとでは、3つの劣化パラメータ(k1,k2,ΔQS)の挙動が互いに異なることになる。したがって、3つの劣化パラメータ(k1,k2,ΔQS)の挙動を確認することにより、電池ブロック11が劣化しているのか、電流遮断器12bが作動しているのかを判別することができる。具体的には、電流遮断器12bが作動したとき、正極容量維持率k1の変化率(式(14)に示すk1/k1’)と、負極容量維持率k2の変化率(式14に示すk2/k2’)とが互いに等しくなる。
しかも、電流遮断器12bが作動したときのずれ容量ΔQSは、初期値としてのずれ容量ΔQSに対して、電池ブロック11が劣化したときのずれ容量ΔQSの変化方向とは逆の方向に変化する。
具体的には、ずれ容量ΔQSを正の値とし、電池ブロック11の劣化によって、ずれ容量ΔQSが初期値に対して増加する条件では、電流遮断器12bの作動によって、ずれ容量ΔQSが減少する。式(15)又は式(16)に示す関係から分かるように、電流遮断器12bが作動したときには、単極容量維持率の変化率(k1/k1’又はk2/k2’)は1よりも小さい値となる。したがって、ずれ容量ΔQSが正の値であれば、ずれ容量ΔQSは、ずれ容量ΔQS’よりも小さくなり、電流遮断器12bの作動によって、ずれ容量ΔQSは減少する。
一方、ずれ容量ΔQSを負の値とし、電池ブロック11の劣化によって、ずれ容量ΔQSが初期値に対して減少する条件では、電流遮断器12bの作動によって、ずれ容量ΔQSが増加する。式(15)又は式(16)に示す関係から分かるように、電流遮断器12bが作動したときには、単極容量維持率の変化率(k1/k1’又はk2/k2’)は1よりも小さい値となる。したがって、ずれ容量ΔQSが負の値であれば、ずれ容量ΔQSは、ずれ容量ΔQS’よりも大きくなり、電流遮断器12bの作動によって、ずれ容量ΔQSは増加する。
上述したように、単極容量維持率k1,k2の変化率の関係と、ずれ容量ΔQSの変化方向(減少方向又は増加方向)とを確認することにより、電流遮断器12bが作動していることを判別することができる。
一方、電流遮断器12bが作動すると、作動状態にある電流遮断器12bの数に応じて、電池ブロック11の満充電容量が低下する。ここで、各電池ブロック11を構成する単電池12の総数をNとし、作動状態にある電流遮断器12bを含む単電池12の数(遮断数という)をmとする。遮断数mは、0〜Nの間の値である。
電流遮断器12bが作動する前の電池ブロック11の満充電容量をSaとし、電流遮断器12bが作動した後の電池ブロック11の満充電容量をSbとすると、満充電容量Sa,Sbは、下記式(17)に示す関係を有する。
Sb=Sa×(N−m)/N ・・・(17)
電池ブロック11の満充電容量は、電池ブロック11の単極容量維持率k1,k2に依存する。このため、下記式(18)および下記式(19)に示すように、電流遮断器12bが作動した後の電池ブロック11の単極容量維持率k1,k2は、電流遮断器12bが作動する前の電池ブロック11の単極容量維持率k1’,k2’に対して、(N−m)/N倍となる。
k1/k1’=(N−m)/N ・・・(18)
k2/k2’=(N−m)/N ・・・(19)
「(N−m)/N」の値は、1よりも小さい値であり、単極容量維持率k1,k2は、単極容量維持率k1’,k2’よりも小さくなる。式(18)および式(19)に示すNの値は、既知であるため、式(18)又は式(19)を用いれば、単極容量維持率k1,k2,k1’,k2’の変化率から遮断数mを算出することができる。
ここで、単極容量維持率に誤差が含まれているときには、誤差を許容する範囲(許容値α)を予め定めておき、許容値αを考慮して、遮断数mを算出することができる。具体的には、数mを変更しながら、「(N−m)/N」の値を算出する。そして、許容範囲内に、変化率(k1/k1’又はk2/k2’)が含まれているか否かを判別する。ここで、算出値「(N−m)/N」に許容値αを加算した値を、許容範囲の上限値とし、算出値「(N−m)/N」から許容値αを減算した値を、許容範囲の下限値とすることができる。
変化率(k1/k1’又はk2/k2’)が許容範囲に含まれているときには、このときの数mを、作動状態にある電流遮断器12bの総数(遮断数m)とすることができる。許容値αは、数Nに応じて変更することができる。すなわち、数Nが多くなるほど、許容値αを小さくすることができる。また、数Nが少なくなるほど、許容値αを大きくすることができる。
数Nが少なくなるほど、電池ブロック11の満充電容量に対して、電池ブロック11を構成する各単電池12の満充電容量が占める割合が高くなる。言い換えれば、数Nが少なくなるほど、電池ブロック11の単極容量に対して、電池ブロック11を構成する各単電池12の単極容量が占める割合が高くなる。したがって、数Nが少なくなるほど、単極容量維持率k1,k2の誤差が広がりやすくなるため、数Nが少なくなるほど、許容値αを大きくすることができる。数Nは、組電池10を構成するときに予め設定されるため、数Nに基づいて、許容値αを予め決めておけばよい。
次に、本実施例の電池システムにおいて、電流遮断器12bの作動状態を判別する処理を説明する。図11は、電流遮断器12bの作動状態を判別する処理を示すフローチャートである。図11に示す処理は、所定の周期で行うことができ、コントローラ40によって実行される。電流遮断器12bの作動は、短時間で発生するため、電流遮断器12bの作動状態を判別する処理は、短時間で行うことが好ましい。電流遮断器12bの作動状態を判別する処理に時間がかかりすぎると、電池ブロック11の摩耗劣化などによって、判別結果に影響を与えてしまうおそれがある。
ステップS101において、コントローラ40は、監視ユニット20の出力に基づいて、電池ブロック11の開放電圧(実測値)OCVを測定するとともに、電流センサ31の出力に基づいて、電流積算量を測定する。具体的には、組電池10を充電又は放電するときに、開放電圧(実測値)OCVおよび電流積算量を測定することにより、電池容量に対する開放電圧(実測値)OCVを示す曲線(実測値としての開放電圧曲線)を取得することができる。
組電池10を充電するときには、外部電源の電力を組電池10に供給することができる。外部電源とは、図1に示す電池システムが搭載された車両の外部に設けられた電源であり、外部電源としては、例えば、商用電源を用いることができる。外部電源(商用電源)の電力を組電池10に供給するときには、充電器を用いることができる。充電器は、外部電源(商用電源)からの交流電力を直流電力に変換し、直流電力を組電池10に供給することができる。また、充電器は、外部電源の電力を組電池10に供給するとき、外部電源の電圧を変換することができる。充電器は、車両に搭載することもできるし、車両の外部において設置することもできる。
ステップS102において、コントローラ40は、開放電圧(推定値)OCVを特定するための劣化パラメータ(単極容量維持率k1,k2および、ずれ容量ΔQs)の候補を設定(選択)する。劣化パラメータの設定は、様々な方法によって行うことができるが、劣化パラメータを設定するための演算処理を効率良く行うための方法を採用することが好ましい。すなわち、開放電圧(推定値)OCVが開放電圧(実測値)OCVと一致するように、劣化パラメータを探索(最適化)することができる。
ステップS103において、コントローラ40は、ステップS102で設定された劣化パラメータから特定される開放電圧曲線(推定値)と、ステップS101で得られた開放電圧曲線(実測値)との誤差を算出する。この誤差には、電圧誤差および容量誤差が含まれる。
電圧誤差ΔV(図12参照)は、具体的には、開放電圧曲線(推定値)および開放電圧曲線(実測値)を比較することにより、算出することができる。電圧誤差ΔVは、特定の電池容量における電圧誤差であってもよいし、2つの開放電圧曲線の間における電圧誤差の平均値とすることもできる。
また、容量誤差ΔQは、例えば、以下に説明する方法によって求めることができる。まず、開放電圧曲線(推定値)を用いて、充電前の開放電圧および充電後の開放電圧の間における容量Q1を算出する。また、組電池10の充電を開始してから終了するまでの間、充電電流を検出して、電流積算値を測定することにより、電流積算値から充電容量Q2を算出できる。上述した容量Q1および容量Q2の差を求めることにより、容量誤差ΔQの絶対値(|Q1−Q2|)を得ることができる。
電池ブロック11(単電池12)が緩和状態にあるときには、開放電圧曲線(実測値)上に位置する開放電圧を幾つか測定することができる。ここで、単電池12に電流が流れているときや、単電池12の充放電を停止した直後においては、活物質内にイオンの濃度差が存在しているため、正確な開放電圧を測定することができない。
一方、単電池12の通電を遮断してから、時間が経過していれば、単電池12が緩和状態となり、イオンの濃度差が存在しない状態で正確な開放電圧を測定することができる。単電池12が緩和状態にある場合として、例えば、車両を停止させているとき、言い換えれば、組電池10の充放電を行っていないときが挙げられる。これにより、単電池12が特定の容量にあるときの開放電圧(実測値)OCVを得ることができる。
特定の容量における特定の開放電圧を測定できれば、図13に示すように、開放電圧(実測値)と開放電圧曲線(推定値)とを比較することにより、電圧誤差ΔVを求めることができる。また、複数の開放電圧(実測値)を測定しておけば、上述したように容量誤差ΔQを求めることができる。具体的には、開放電圧曲線(推定値)を用いて、2点の開放電圧(実測値)の間における容量Q1を算出する。また、2点の開放電圧(実測値)を得るときの電流積算値を測定しておけば、この電流積算値から容量Q2を算出できる。そして、容量Q1および容量Q2の差(|Q1−Q2|)を求めれば、容量誤差ΔQの絶対値を得ることができる。
ステップS104において、コントローラ40は、ステップS103で得られた電圧誤差ΔVおよび容量誤差ΔQに対する評価関数f(ΔV,ΔQ)を算出する。評価関数f(ΔV,ΔQ)としては、例えば、電圧誤差ΔVおよび容量誤差ΔQに対して重み付け加算した値を用いることができる。
また、コントローラ40は、今回設定された劣化パラメータから算出される評価関数f(ΔV,ΔQ)が、前回設定された劣化パラメータから算出される評価関数f(ΔV,ΔQ)よりも小さいか否かを判別する。ここで、今回の評価関数f(ΔV,ΔQ)が前回の評価関数f(ΔV,ΔQ)よりも小さければ、今回の評価関数f(ΔV,ΔQ)をメモリ41に記憶する。なお、今回の評価関数f(ΔV,ΔQ)が前回の評価関数f(ΔV,ΔQ)よりも大きければ、前回の評価関数f(ΔV,ΔQ)がメモリ41に記憶されたままとなる。
ステップS105において、コントローラ40は、劣化パラメータをすべての探索範囲で変化させたか否かを判別し、すべての探索範囲で劣化パラメータを変化させていれば、ステップS106に進む。一方、すべての探索範囲で変化させていなければ、ステップS102の処理に戻る。
このように劣化パラメータを探索範囲の全体で変化させるまでは、ステップS102〜ステップS105の処理が繰り返して行われる。そして、最小値となる評価関数f(ΔV,ΔQ)が特定され、この評価関数(最小値)が得られた開放電圧曲線を特定できるとともに、開放電圧曲線(推定値)を規定する劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)を特定することができる。評価関数が最小値を示す劣化パラメータを特定することにより、劣化パラメータの推定精度を向上させることができる。
劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)の探索は、所定の周期で行われ、過去から現在までの劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)を取得することができる。過去から現在までの劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)に関する情報は、メモリ41に記憶することができる。
ステップS106において、コントローラ40は、現在取得した劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)と、過去に取得した劣化パラメータ(k1’,k2’,ΔQs’)とを用いて、電流遮断器12bが作動状態にあるか否かを判別する。過去に取得した劣化パラメータとしては、直近で取得した劣化パラメータであってもよいし、所定期間だけ前に取得した劣化パラメータであってもよい。ここで、直近で取得した劣化パラメータを用いれば、直近における劣化パラメータの挙動を確認でき、電流遮断器12bが作動状態であるか否かを判別しやすくなる。
コントローラ40は、現在の単極容量維持率(k1,k2)および過去の単極容量維持率(k1’,k2’)が式(14)の条件を満たしているか否かを判別する。また、コントローラ40は、現在のずれ容量ΔQsおよび過去のずれ容量ΔQs’が、式(15)又は式(16)の条件を満たしているか否かを判別する。単極容量維持率(k1,k2,k1’,k2’)が式(14)の条件を満たしているとともに、ずれ容量(ΔQs,ΔQs’)が式(15)又は式(16)の条件を満たしているときには、電流遮断器12bが作動状態にあると判別して、ステップS107の処理に進む。
なお、単極容量維持率(k1,k2,k1’,k2’)が式(14)の条件を満たしているとともに、上述したように、ずれ容量ΔQsが初期値に対して、劣化に伴うずれ容量ΔQsの変化方向とは逆の方向に変化しているときには、電流遮断器12bが作動状態にあると判別することもできる。ここで、劣化状態の電池ブロック11において、電流遮断器12bが作動したときには、ずれ容量ΔQsは、電池ブロック11が劣化状態にあるときのずれ容量ΔQsに対して、劣化に伴うずれ容量ΔQsの変化方向とは逆の方向に変化することになる。
一方、単極容量維持率(k1,k2,k1’,k2’)が式(14)の条件を満たしていないか、ずれ容量(ΔQs,ΔQs’)が式(15)又は式(16)の条件を満たしていないときには、電流遮断器12bが作動していないと判別して、図11に示す処理を終了する。ステップS107の処理に進まないときには、電池ブロック11(単電池12)に劣化が発生していると判別することができる。
ステップS107において、コントローラ40は、各電池ブロック11において、作動状態にある電流遮断器12bの数(遮断数)を特定する。具体的には、コントローラ40は、式(18)又は式(19)を用いて、遮断数mを算出することができる。
本実施例では、過去および現在で取得した劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)に基づいて、電流遮断器12bの作動状態を判別したり、遮断数mを算出したりしているが、これに限るものではない。
例えば、電池ブロック11の劣化が進行したときの劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)の経時変化を示す情報と、図11のステップS102からステップS105の探索処理によって特定された劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)とを用いて、電流遮断器12bの作動状態を判別したり、遮断数mを算出したりすることができる。劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)の経時変化を示す情報は、実験などによって予め取得しておくことができる。
劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)の経時変化を示す情報は、マップとして用意しておくことができる。マップでは、経過時間と、劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)との関係が特定されており、経過時間を特定すれば、劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)を特定することができる。マップに関する情報は、メモリ41に記憶することができる。
ここで、式(14)に示す単極容量維持率k1’,k2’として、マップから特定される現在の劣化パラメータ(単極容量維持率)を用いることができる。また、式(14)に示す単極容量維持率k1,k2として、図11のステップS102からステップS105の探索処理によって特定される劣化パラメータ(単極容量維持率)を用いることができる。そして、式(14)の条件を満たすか否かを判別することができる。また、マップから特定される現在の劣化パラメータ(ずれ容量ΔQs)と、図11のステップS102からステップS105の探索処理によって特定される劣化パラメータ(ずれ容量ΔQs)とが、式(15)又は式(16)の条件を満たしているか否かを判別することができる。
式(14)の条件を満たすとともに、式(15)又は式(16)の条件を満たしているときには、電流遮断器12bが作動状態にあることを判別することができる。ここで、式(15)又は式(16)の条件を満たしているか否かを判別する代わりに、ずれ容量ΔQsを正の値としたときに、探索処理によって特定されるずれ容量ΔQsが、マップから特定されるずれ容量ΔQsに対して減少していれば、電流遮断器12bが作動状態にあることを判別することができる。一方、ずれ容量ΔQsを負の値としたときに、探索処理によって特定されるずれ容量ΔQsが、マップから特定されるずれ容量ΔQsに対して増加していれば、電流遮断器12bが作動状態にあることを判別することができる。さらに、式(18)又は式(19)を用いて、遮断数mを算出することができる。
一方、複数の電池ブロック11における劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)を互いに比較することにより、電流遮断器12bの作動状態を判別したり、遮断数mを算出したりすることもできる。この点について、具体的に説明する。
すべての電池ブロック11において、同一の時期に電流遮断器12bが作動することは、ほとんど無く、組電池10には、作動状態にある電流遮断器12bを含む電池ブロック11と、すべての電流遮断器12bが作動していない電池ブロック11とが混在する。したがって、任意の2つの電池ブロック11における劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)を比較することにより、電流遮断器12bの作動状態を判別したり、遮断数mを算出したりすることができる。ここで、組電池10を構成する複数の電池ブロック11では、劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)の挙動が等しいものとしている。各電池ブロック11の劣化パラメータ(k1,k2,ΔQs)は、本実施例で説明した方法(図11参照)によって取得することができる。
式(14)に示す単極容量維持率k1,k2として、一方の電池ブロック11における単極容量維持率を用いることができる。一方の電池ブロック11は、作動状態にある電流遮断器12bを含む電池ブロック11であると想定する。また、式(14)に示す単極容量維持率k1’,k2’として、他方の電池ブロック11における単極容量維持率を用いることができる。他方の電池ブロック11は、すべての電流遮断器12bが作動していない電池ブロック11であると想定する。
そして、式(14)の条件を満たすか否かを判別することができる。また、一方の電池ブロック11におけるずれ容量ΔQsと、他方の電池ブロック11におけるずれ容量ΔQsとが、式(15)又は式(16)の条件を満たすか否かを判別することができる。
式(14)の条件を満たすとともに、式(15)又は式(16)の条件を満たしているときには、電流遮断器12bが作動状態にあることを判別することができる。ここで、式(15)又は式(16)の条件を満たしているか否かを判別する代わりに、ずれ容量ΔQsを正の値としたときに、一方の電池ブロック11におけるずれ容量ΔQsが、他方の電池ブロック11におけるずれ容量ΔQsに対して減少していれば、電流遮断器12bが作動状態にあることを判別することができる。一方、ずれ容量ΔQsを負の値としたときに、一方の電池ブロック11におけるずれ容量ΔQsが、他方の電池ブロック11におけるずれ容量ΔQsに対して増加していれば、電流遮断器12bが作動状態にあることを判別することができる。また、式(18)又は式(19)を用いて、遮断数mを算出することができる。
遮断数mを特定した後において、コントローラ40は、遮断数mに基づいて、組電池10の充放電を制御することができる。
電池ブロック11において、電流遮断器12bが作動すると、作動状態にある電流遮断器12bを有する単電池12には、電流が流れないことになる。また、作動状態にある電流遮断器12bを有する単電池12と並列に接続された他の単電池12には、作動状態にある電流遮断器12bを有する単電池12に流れる予定である電流が流れてしまう。ここで、組電池10(電池ブロック11)に流れる電流値Isを制限しないときには、他の単電池12に流れる電流値は、Is/(N−m)となる。「N−m」の値は、「N」の値よりも小さいため、他の単電池12に流れる電流値は上昇してしまう。
単電池12に流れる電流値が上昇すると、言い換えれば、単電池12に対する電流負荷が増加すると、ハイレート劣化が発生してしまうおそれがある。ハイレート劣化とは、ハイレートで充電又は放電が行われることにより、単電池12の電解液中におけるイオン濃度が一方(正極側又は負極側)に偏ってしまうことによる劣化である。イオン濃度が一方に偏ってしまうと、正極および負極の間において、イオンの移動が抑制されるため、単電池12の入出力性能が低下してしまい、単電池12の劣化となる。また、単電池12に流れる電流値が上昇すると、電流遮断器12bが作動しやすくなってしまう。
コントローラ40は、遮断数mを特定したとき、この遮断数mに基づいて、組電池10の充放電を制御する電流指令値を決定することができる。具体的には、コントローラ40は、電流指令値として、遮断数mが増加することに応じて、組電池10の充放電電流を低下させることができる。コントローラ40は、下記式(20)に基づいて、電流指令値を設定することができる。
Is(2)=Is(1)×(N−m)/N ・・・(20)
式(20)において、Is(1)は、電流遮断器12bが作動する前の電流指令値であり、Is(2)は、電流遮断器12bが作動した後の電流指令値である。式(20)から分かるように、「(N−m)/N」の値は、1よりも小さい値であるため、電流指令値Is(2)は、電流指令値Is(1)よりも小さくなる。
コントローラ40は、電流指令値Is(2)に基づいて、組電池10の充放電を制御することができる。具体的には、コントローラ40は、電流指令値Is(2)に基づいて、組電池10の充電を許容する上限電力を低下させたり、組電池10の放電を許容する上限電力を低下させたりする。上限電力を低下させるときには、低下させる前の上限電力に対して、「(N−m)/N」の値を乗算することができる。組電池10の充放電を許容する上限電力を低下させることにより、組電池10(単電池12)に流れる電流値を制限することができる。
遮断数mが「N」であるときには、電池ブロック11を構成する、すべての単電池12において、電流遮断器12bが作動していることになり、組電池10に電流を流すことができなくなる。このため、遮断数mが「N」であるとき、コントローラ40は、組電池10の充放電を行わせないようにすることができる。具体的には、コントローラ40は、組電池10の充放電を許容する上限電力を0[kW]に設定することができる。また、コントローラ40は、システムメインリレーSMR−B,SMR−G,SMR−Pをオフにすることができる。なお、遮断数mが「N」ではなくても、遮断数mが「N」に近づいたときに、コントローラ40は、組電池10の充放電を行わせないようにすることができる。組電池10の充放電を行わせない条件は、電池ブロック11を構成する単電池12の総数Nと、遮断数mとの関係に基づいて、適宜設定することができる。
組電池10の充放電制御は、図1に示す電池システムが起動しているときだけでなく、外部電源の電力を組電池10に供給しているときや、組電池10の電力を外部機器に供給しているときにも行うことができる。外部機器とは、車両の外部に配置された電子機器であって、組電池10からの電力を受けて動作する電子機器である。外部機器としては、例えば、家電製品を用いることができる。
外部電源の電力を組電池10に供給するとき、コントローラ40は、充電器の動作を制御することにより、組電池10の電流値(充電電流)を低下させることができる。
組電池10の電力を外部機器に供給するときには、給電装置を用いることができる。給電装置は、組電池10からの直流電力を交流電力に変換し、交流電力を外部機器に供給することができる。また、組電池10の電圧および外部機器の動作電圧を考慮して、給電装置は、電圧値を変換することができる。コントローラ40は、給電装置の動作を制御することにより、組電池10の電流値(放電電流)を低下させることができる。
遮断数mに応じて、組電池10に流れる電流値を制限することにより、単電池12に対する電流負荷が上昇してしまうのを抑制することができる。また、作動していない電流遮断器12bに流れる電流値も制限することができ、電流遮断器12bが作動しやすくなってしまうのを抑制することができる。
本実施例では、遮断数mに応じて、組電池10の充放電を制御することができるため、組電池10の充放電制御を効率良く行うことができる。電流遮断器12bの作動状態を検出するだけでは、組電池10の充放電が過度に制限されてしまうことがある。これに対して、遮断数mを把握することにより、遮断数mに応じて、組電池10の充放電を制限することができ、組電池10の充放電が過度に制限されてしまうのを抑制することができる。