近年、屋内セキュリティ・センサ、見守りセンサ、車載用周辺監視レーダ等のような近距離マイクロ波センサとして、超広帯域インパルス無線(UWB−IR)方式が注目されている。かかるUWB−IR方式のセンサとして、ステップドFMパルス・レーダ方式のセンサが知られている(非特許文献1参照)。この方式では、送信部は500MHz以上の周波数領域にわたり周波数を段階的に変化させた狭帯域サブパルス列を送信し、受信部は各サブパルスの反射波を位相検波した後に、逆離散フーリエ変換(IDFT)によって時間領域での超短パルス化を図り、距離方向の距離分解能を向上させる。
図22は、従来のステップドFMパルス・レーダ方式を用いたUWBパルス・センサの基本構成を表すブロック図である。図22において、UWBパルス・センサ100は、コヒーレント発振器101、局部発振器102、ステップ信号生成器103、周波数混合器104、パルス変調器105、サーキュレータ106、アンテナ107、フロントエンド部108、位相検波器109、及び逆離散フーリエ変換器110を備えている。ここで、図22はヘテロダイン受信による回路構成になっているがコヒーレント発振器101のIF帯を省略したホモダイン受信でも適用できる。
コヒーレント発振器101は、次式(1)で表される中間周波数fCOHOの連続波信号であるIF信号s1(t)を出力する。ここで、tは時間である。
尚、中間周波数とは、送信機や受信機の中間段階で送信信号あるいは受信信号の周波数を変換した周波数である。
一方、局部発振器102は、次式(2)で表される無線周波数fSTALOの連続波信号であるRF信号s2(t)を出力する。
ここで、局部発振器102は電圧制御発振器が使用されており、局部発振器102が発信するRF信号s2(t)の周波数fSTALOは、ステップ信号生成器103が出力する周波数制御電圧によって制御されている。
ステップ信号生成器103は、図23に示したような階段状に時間変化する周波数制御電圧を出力する。ここで、図23に示したように、周波数制御電圧の1ステップ幅をτPRF、全ステップ数をNとすると、周波数制御電圧はNτPRFのフレーム周期で反復変化する。従って、局部発振器102が発振するRF信号s2(t)の周波数fSTALOは次式(3)で表される。ここで、f0は開始周波数、Δfは周波数ステップ幅、floor(x)は床関数(実数xの小数点以下を切り捨てる関数)である。
周波数混合器104は、コヒーレント発振器101が出力するIF信号s1(t)と局部発振器102が出力するRF信号s2(t)が入力され、これらの信号の混合信号である連続探知波s3(t)を生成し出力する。連続探知波s3(t)は、次式(4)で表され、図24(a)に示したような信号となる。
パルス変調器105は、上記連続探知波s3(t)を次式(5)のようにパルス変調し、サーキュレータ106に対しパルス探知波s4(t)を出力する。このパルス探知波s4(t)は、図24(b)のような信号となる。ここで、τP(<τPRF)はパルス幅である。
尚、上式においてrect(x)は矩形関数(rectangular function)を表し、|x|<1/2のときにrect(x)=1,|x|=1/2のときにrect(x)=1/2となり、それ以外の場合はrect(x)=0となる関数として定義されている。
サーキュレータ106に入力されたパルス信号s4(t)は、アンテナ107から探知空間へ放射され、探知空間内の目標物で反射され、その反射波s5(t)がアンテナ107で受信される。反射波s5(t)は、アンテナ107から目標物までの往復旅行時間trにより位相遅れを生じ、また、アンテナ107と目標物との相対速度によりドップラー効果による周波数シフトfdを生じている。ここで点目標の反射物を想定すると反射波s5(t)は次式(6a)のように表され、図24(c)のような信号となる。ここで、dはアンテナ107から目標物までの距離、vは目標物とアンテナ107との相対速度、cは光速、fc=f0+fCOHOは基本周波数である。
アンテナ107で受信された反射波s5(t)は、サーキュレータ106を経てフロントエンド部108へ入力される。
フロントエンド部108は、局部発振器102が出力するRF信号s2(t)と反射波s5(t)とを混合する。信号s2(t)及び反射波s5(t)の実数部をとって掛け合わせると、混合信号s6(t)は次式(7)のようになる。
さらに、フロントエンド部108は、中心周波数fCOHOのバンドパス・フィルタにより混合信号s6(t)の上側波帯成分(式(7)の第2項)を除去し、次式(8)のダウン・コンバート信号s7(t)を位相検波器109に出力する。
位相検波器109は、コヒーレント発振器101が出力するIF信号s1(t)の同相信号s1I(t)及びIF信号s1(t)の位相をπ/2だけ遅らせた信号s1Q(t)と、フロントエンド部108の出力信号s7(t)とを混合し、フィルタにより上側波帯成分を除去することにより、次式(9a),(9b)のような2つのI/Qビデオ信号s8I(t),s8Q(t)を出力する。I/Qビデオ信号s8I(t),s8Q(t)は逆離散フーリエ変換器110に入力される。ここで、Cは定数である。
逆離散フーリエ変換器110は、I/Qビデオ信号s8I(t),s8Q(t)をA/D変換した後、それぞれのパルス毎にs8I(t)−js8Q(t)の高速フーリエ変換を行い、次式(10)のスペクトルS8(f)を算出する。ここで、Aは定数である。
式(10)より、目標物の速度が大きくドプラー効果の影響が大きい場合にはスペクトルの位置からドップラー効果による周波数シフトfdを求めれば、式(6c)より算出される。また、n番目(n=1,2,…,N)の受信パルスの位相検波出力Rn及び位相φnは、式(10)及び式(3)より、次式のように表される。
次に、逆離散フーリエ変換器110は、位相検波出力Rn及び位相φnを次式(12a)のようなIDFT処理により時間領域に変換し、そのレンジ・スペクトルR(φ)を合成する。
式(12a)から、φ=2NΔfd/cにおいてR(φ)の鋭いピークが現れるので、逆離散フーリエ変換器110は、そのR(φ)のピークのφ=φpeakから目標物までの距離dを次式(13)により推定する。
尚、式(13)より、ステップドFMパルス・レーダ方式における距離分解能ΔRは、次式(14)で表される。
ところで、上述のステップドFMパルス・レーダ方式のUWBパルス・センサを実際に使用する場合、同一周波数を使用する次世代携帯電話や放送用FPU(Field Pick Up)等の無線システムが発する電波がアンテナ107に入射されるような環境では、干渉波となり目標物までの距離dの推定値に誤差が生じてしまうという問題があった。
また、ステップドFMパルス・レーダ方式のUWBパルス・センサを車載用のセンサ(周辺監視センサ等)や屋内セキュリティ・センサとして用いる場合、同じ空間内に複数のUWBパルス・センサが混在することになる。この場合、近接するUWBパルス・センサが発射するパルスがノイズとなり目標物までの距離dの推定値に誤差が生じてしまうという問題があった。
そこで、本発明の目的は、他の無線システムからの干渉波の影響を除去することができ、目標物までの距離の検出精度の高いUWBパルス・センサを提供することを目的とする。
また、本発明の他の目的は、同じ空間内に複数のUWBパルス・センサが混在する場合にも、近接するUWBパルス・センサが発射するパルスの影響を除去することができ、目標物までの距離の検出精度の高いUWBパルス・センサを提供することを目的とする。
本発明の超広帯域パルス・センサの第1の構成は、最小周波数fminから最大周波数fmaxまでの使用周波数帯を周波数間隔Δfで等分した複数個の周波数点の集合を全周波数点集合、前記全周波数点集合に属する各周波数点のうち使用しない周波数点の集合を不使用周波数点集合、使用する周波数点の集合を使用周波数点集合とするとき、前記全周波数点集合に属し且つ少なくとも前記使用周波数点集合の全ての周波数点を含む複数の周波数点を所定の出力順序で並べてなる離散周波数点系列に従ってRF信号を生成して出力することで、前記各周波数点の周波数の探知波の生成信号を順次発振する探知波生成部と、
前記探知波の生成信号を、探知波として探知空間へ発射するとともに、前記探知波が前記探知空間内の目標物で反射された反射波を受信するアンテナと、
前記アンテナで受信された前記反射波を、前記RF信号により位相検波することにより互いに直交する2つのI/Qビデオ信号を生成する位相検波器と、を備え、
前記位相検波器は、前記離散周波数点系列の各周波数点に対応する各周波数ステップについて、順次、当該周波数ステップの前記I/Qビデオ信号を所定のレンジゲートで切り出した信号波形をローパス・フィルタで濾波して直流成分を取り出すことにより、前記反射波の当該周波数ステップにおける前記I/Qビデオ信号の直流成分である複素位相データを算出するものであり、
前記位相検波器が算出する複素位相データであって前記使用周波数点集合に属す周波数点に対応する複素位相データを、各複素位相データに対応する周波数点の昇順又は降順で並べ替えて複素位相データ系列を生成し、
前記複素位相データ系列に対し、前記不使用周波数点集合に属す周波数点に対応する複素位相データを補間することで、補間された複素位相データ系列を算出する欠落補償部と、
前記補間された複素位相データ系列を逆離散フーリエ変換することでレンジ・スペクトルを生成し、前記レンジ・スペクトルがピークをとる位相値から前記アンテナから前記目標物までの距離を算出する逆離散フーリエ変換部と、を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、外部からの干渉波の周波数帯域の周波数点(例えば、他の無線システムの使用帯域に属する各周波数点)のすべてを不使用周波数点集合とする(スペクトル・ホールとする)ことによって、干渉波の影響がある周波数点に対する複素位相データが複素位相データ系列から除かれる。これにより、他の無線システムの無線信号による発射パルスへの被干渉の影響をなくすことができる。また、欠落させた周波数点に対応する複素位相データは、欠落補償部によって他の複素位相データから補間し復元されるため、干渉波の影響がないときの従来のステップドFMパルス・レーダ方式と同等の距離分解能を維持することができる。
尚、欠落補償部による補間方法としては、最小自乗法又はスプライン補間法によって補間する方法や、直交する2つのI/Qビデオ信号系列の相互相関係数を計算し相互相関係数の最大点から両信号系列のシフト量を決定し、両信号系列を相互にシフトさせて重ね合わせることにより、スペクトル・ホール部分の複素位相データを相互に補間する方法などを使用することができる。
本発明の超広帯域パルス・センサの第2の構成は、前記第1の構成において、前記探知波生成部は、
前記使用周波数点集合に属する各周波数点の出力順序を表す出力パターン系列を記憶する出力パターン記憶部と、
前記出力パターン記憶部に記憶された前記出力パターン系列に従って、一定の時間ステップ幅τPRFで周波数がステップ状に変化する、前記RF信号を生成する局部発振器と、を備えたことを特徴とする。(実施例1参照)
この構成によれば、探知波生成部は、あらかじめ出力パターン記憶部に記憶された出力パターン系列に従って周波数がステップ状に変化する探知波の生成信号を発振するため、出力される探知波の生成信号の周波数バンドには、不使用周波数点の部分にスペクトル・ホールが作られる。従って、外部からの干渉波の周波数帯域(例えば、他の無線システムの使用帯域)に属する各周波数点が欠落するように出力パターン系列を構成し、出力パターン記憶部に記憶させておくことにより、外部からの干渉波と発射パルスとの与干渉および被干渉をなくすことができる。また、欠落させた周波数帯の周波数点に対応する複素位相データは、欠落補償部によって他の複素位相データから補間し復元されるため、干渉波の影響がないときの従来のステップドFMパルス・レーダ方式と同等の距離分解能を維持することができる。
本発明の超広帯域パルス・センサの第3の構成は、前記第2の構成において、前記アンテナは、前記探知波を探知空間へ発射するとともに、前記探知波が前記探知空間内で反射された反射波及び/又は外部からの干渉波を受信するものであり、
前記位相検波器は、前記アンテナで受信された前記反射波及び/又は前記干渉波を、前記RF信号により位相検波することにより互いに直交する2つのI/Qビデオ信号を生成するものであり、
前記探知波の生成信号を前記アンテナに出力する出力オン状態と、出力しない出力オフ状態との切り替えを行う出力スイッチング部と、
前記出力スイッチング部により前記出力オフ状態とし、前記局部発振器により、前記出力パターン系列に前記不使用周波数点集合に属する周波数点の出力順序を加えた系列により並べてなる離散周波数点系列を1回以上続けるように、前記RF信号を出力させた後、前記出力スイッチング部により前記出力オン状態とし、前記局部発振器により、前記出力パターン系列により並べてなる離散周波数点系列を1回以上続けるように、前記RF信号を出力させる制御を、繰り返し実行する出力停止制御部と、
前記位相検波器が出力する前記I/Qビデオ信号の強度を検出する干渉波検出部と、
前記出力停止制御部により前記出力オフ状態とされた時間帯において、
前記離散周波数点系列の各周波数点に対応する周波数ステップのそれぞれにおいて、当該周波数点に対し前記干渉波検出部により検出される前記I/Qビデオ信号の強度が所定の強度閾値よりも大きい場合は、前記出力パターン系列から当該周波数点を除去し、それ以外の場合は、前記出力パターン系列に当該周波数点が含まれていない場合には、前記出力パターン系列に当該周波数点を追加することにより、前記出力パターン記憶部に記憶された前記出力パターン系列の更新を行うスペクトル・ホール設定部と、を備えたことを特徴とする。(実施例6,8参照)
この構成によれば、まず、出力停止制御部は出力スイッチング部を出力オフ状態とし、局部発振器により、出力パターン系列に前記不使用周波数点集合に属する周波数点を加えた系列により並べてなる離散周波数点系列を1回以上続けるように、RF信号を出力させる。この場合、アンテナからは探知波は発射されないため、アンテナでは外部からの干渉波のみが受信波として受信される。また、出力パターン系列に前記不使用周波数点集合に属する周波数点を加えた系列は、全周波数点集合に属するすべての周波数点を包含する。フロントエンド部及び位相検波器は、各周波数点に対応する周波数ステップにおいて、この受信波を該周波数点のRF信号で位相検波する。これにより、各周波数ステップにおいては、外部干渉波の周波数成分のうち、該周波数ステップに対応する周波数点の周波数成分のみが抽出されてI/Qビデオ信号が生成される。従って、干渉波検出部は、このI/Qビデオ信号の強度を検出することで、各周波数点における外部干渉波の周波数成分の強度を得ることができる。スペクトル・ホール設定部は、このI/Qビデオ信号の強度が所定の強度閾値よりも大きい場合は、出力パターン系列から当該周波数点を除去し、それ以外の場合は、出力パターン系列に当該周波数点が含まれていない場合には、出力パターン系列に当該周波数点を追加することにより、出力パターン記憶部に記憶された出力パターン系列の更新を行う。これにより、出力パターン系列から、外部干渉波の周波数バンドに含まれる周波数点が除かれ、外部干渉波の周波数バンドに含まれない周波数点が補充される。これにより、外部干渉波を検出し当該外部干渉波の周波数帯域において探知波にスペクトル・ホールを適宜設定することが可能となる。
次に、出力停止制御部は出力スイッチング部を出力オン状態とし、内部発振部により、出力パターン系列により並べてなる離散周波数点系列を1回以上続けて、探知波の生成信号を出力させる。この場合には、アンテナからは探知波は発射されるため、目標物までの距離の検出が行われる。出力される探知波の周波数バンドには、不使用周波数点の部分にスペクトル・ホールが作られるため、外部からの干渉波と発射パルスとの与干渉および被干渉をなくすことができ、また、欠落させた周波数帯の周波数点に対応する位相点は欠落補償部によって他の位相点から補間し復元されるため、干渉波の影響がないときの従来のステップドFMパルス・レーダ方式と同等の距離分解能を維持することができる。
本発明の超広帯域パルス・センサの第4の構成は、前記第1の構成において、前記探知波生成部は、
前記全周波数点集合の各周波数点を所定の出力順序で並べてなる前記離散周波数点系列に従って、一定の時間ステップ幅τPRFで周波数がステップ状に変化する、前記RF信号を生成する局部発振器と、
前記離散周波数点系列の各周波数点について、前記使用周波数点集合に属する場合はオン値、前記不使用周波数点集合に属する場合はオフ値をとる使用周波数情報を記憶する使用周波数情報記憶部と、
前記探知波の生成信号を前記アンテナに出力する出力オン状態と、出力しない出力オフ状態との切り替えを行う出力スイッチング部と、
前記局部発振器が生成する前記RF信号の各周波数ステップにおいて、前記使用周波数情報記憶部に記憶された前記使用周波数情報を参照し、当該周波数ステップの周波数点に対するオン・オフ値に従って、前記出力スイッチング部により前記出力オン状態又は前記出力オフ状態の切り替え制御を行う探知波周波数制御部と、
を備えたことを特徴とする。(実施例2,5,6参照)
この構成によれば、局部発振器は、全周波数点集合のすべての周波数点を所定の出力順序で並べてなる前記離散周波数点系列に従って、ステップ状に変化するRF信号を生成するが、探知波周波数制御部は、各周波数ステップのうち、周波数点が不使用周波数点集合に属する場合には出力スイッチング部を出力オフ状態とし、アンテナに出力させないように制御する。これにより、探知波の周波数バンドには、不使用周波数点の部分にスペクトル・ホールが作られるため、外部からの干渉波と発射パルスとの与干渉および被干渉をなくすことができる。また、欠落させた周波数帯の周波数点に対応する位相点は欠落補償部によって他の位相点から補間し復元されるため、干渉波の影響がないときの従来のステップドFMパルス・レーダ方式と同等の距離分解能を維持することができる。
本発明の超広帯域パルス・センサの第5の構成は、前記第1の構成において、前記探知波生成部は、前記全周波数点集合に属する各周波数点を所定の出力順序で並べてなる前記離散周波数点系列に従って一定の時間ステップ幅τPRFでステップ状に周波数が順次切り替わる前記探知波の生成信号を生成するものであり、
前記離散周波数点系列の各周波数点について、前記使用周波数点集合に属する場合はオン値、前記不使用周波数点集合に属する場合はオフ値をとる使用周波数情報を記憶する使用周波数情報記憶部を備え、
前記欠落補償部は、
前記使用周波数情報を参照し、前記位相検波器が算出する複素位相データのうち、対応する周波数点の前記使用周波数情報がオン値の複素位相データのみを抽出し、
抽出された各複素位相データを、対応する周波数点の昇順又は降順で並べ替えて前記複素位相データ系列を生成し、
前記複素位相データ系列に対し、前記不使用周波数点集合に属する周波数点に対応する複素位相データを補間することで、補間された複素位相データ系列を算出するものであることを特徴とする。(実施例4参照)
この構成によれば、局部発振器は、全周波数点集合のすべての周波数点を所定の出力順序で並べてなる前記離散周波数点系列に従って、ステップ状に変化するRF信号を生成し、アンテナからはすべての周波数点の周波数ステップの探知波が発射され、その反射波がアンテナで受信され、位相検波される。しかし、欠落補償部は、位相演算部が算出する複素位相データのうち、対応する周波数点が使用周波数点集合に属する(使用周波数情報がオン値をとる)もののみを抽出し、抽出された各複素位相データを、対応する周波数点の昇順又は降順で並べ替えて複素位相データ系列を生成する。これにより、外部干渉波の周波数帯域に含まれるすべての周波数点がオフ値となるように、使用周波数情報を設定しておくことにより、探知波の周波数バンドには、外部干渉波の周波数帯域にスペクトル・ホールが作られ、外部からの干渉波と発射パルスとの与干渉および被干渉をなくすことができる。また、欠落させた周波数帯の周波数点に対応する複素位相データは、欠落補償部によって他の複素位相データから補間し復元されるため、干渉波の影響がないときの従来のステップドFMパルス・レーダ方式と同等の距離分解能を維持することができる。
本発明の超広帯域パルス・センサの第6の構成は、前記第4又は5の構成において、前記探知波の生成信号が入力され、前記探知波の生成信号の周波数が変化した時点から一定のパルス幅τP(τP<τPRF)だけ出力することにより前記探知波の生成信号をパルス変調するパルス変調部を備え、
前記アンテナからは、前記パルス変調部によりパルス変調された前記探知波の生成信号が前記探知波として発射され、前記アンテナでは前記反射波及び/又は外部からの干渉波が受信されるものであり、
前記位相検波器は、前記アンテナで受信された前記反射波及び/又は前記干渉波を、前記RF信号により位相検波することにより互いに直交する2つのI/Qビデオ信号を生成するものであり、
前記位相検波器が出力する前記I/Qビデオ信号の強度を検出する干渉波検出部と、
前記離散周波数点系列の各周波数点に対応する周波数ステップにおいて、前記レンジゲートの後の時間帯で、前記干渉波検出部により前記I/Qビデオ信号の強度を検出し、
当該I/Qビデオ信号の強度が所定の強度閾値よりも大きい場合は、前記使用周波数情報のうち当該周波数点に対する値をオフ値に変更し、それ以外の場合は、前記使用周波数情報のうち当該周波数点に対する値をオン値に変更することにより、前記使用周波数情報記憶部に記憶された前記使用周波数情報を更新するスペクトル・ホール設定部と、を備えたことを特徴とする。(実施例2,5,6参照)
この構成によれば、パルス変調された探知波の生成信号がアンテナから探知波として発射されるため、各周波数点の周波数ステップにおいて、アンテナで探知波のパルスの反射波及び外部干渉波が受信される時間帯と、外部干渉波のみが受信される時間帯とに時間的に分離される。スペクトル・ホール設定部は、外部干渉波のみが受信される時間帯において、干渉波検出部によりI/Qビデオ信号の強度を検出し、当該I/Qビデオ信号の強度が所定の強度閾値よりも大きい場合は、使用周波数情報の当該周波数点に対する値をオフ値に変更し、それ以外の場合は、使用周波数情報の当該周波数点に対する値をオン値に変更することにより、使用周波数情報を更新する。これにより、外部干渉波を検出し当該外部干渉波の周波数帯域において探知波にスペクトル・ホールを適宜設定することが可能となる。
本発明の超広帯域パルス・センサの第7の構成は、前記第4の構成において、前記アンテナは、前記探知波を探知空間へ発射するとともに、前記探知波が前記探知空間内で反射された反射波及び/又は外部からの干渉波を受信するものであり、
前記位相検波器は、前記アンテナで受信された前記反射波及び/又は前記干渉波を、前記RF信号により位相検波することにより互いに直交する2つのI/Qビデオ信号を生成するものであり、
前記出力スイッチング部により前記出力オフ状態とし、前記局部発振器により、前記離散周波数点系列を1回以上続けるように、前記RF信号を出力させた後、前記出力スイッチング部により前記出力オン状態とし、前記局部発振器により、前記離散周波数点系列を1回以上続けるように、前記RF信号を出力させる制御を、繰り返し実行する出力停止制御部と、
前記出力停止制御部により前記出力オフ状態とされた時間帯において、
前記離散周波数点系列の各周波数点に対応する周波数ステップのそれぞれにおいて、当該周波数点に対し前記干渉波検出部により検出される前記I/Qビデオ信号の強度が所定の強度閾値よりも大きい場合は、前記使用周波数情報のうち当該周波数点に対する値をオフ値に変更し、それ以外の場合は、前記使用周波数情報のうち当該周波数点に対する値をオン値に変更することにより、前記使用周波数情報記憶部に記憶された前記使用周波数情報を更新するスペクトル・ホール設定部と、を備えたことを特徴とする。(実施例7参照)
この構成によれば、出力停止制御部が出力スイッチング部を出力オフ状態とした時間帯において、全周波数点集合に属する各周波数点における外部干渉波の周波数成分の強度を得ることができる。そして、スペクトル・ホール設定部は、得られた外部干渉波の各周波数点成分の強度に応じて、探知波にスペクトル・ホールを適宜設定することが可能となる。
本発明の超広帯域パルス・センサの第8の構成は、前記第1の構成において、前記探知波生成部は、
前記全周波数点集合の各周波数点を所定の出力順序で並べてなる前記離散周波数点系列に従って、一定の時間ステップ幅τPRFで周波数がステップ状に変化する、前記RF信号を生成する局部発振器と、
前記離散周波数点系列の各周波数点のそれぞれについて、前記アンテナに出力する際の出力ゲインを記憶する出力ゲイン記憶部と、
前記出力ゲイン記憶部に記憶された各周波数点に対する前記出力ゲインに従って、前記探知波の生成信号を、周波数ステップごとに前記出力ゲインで増幅し前記アンテナに出力する出力ゲイン制御部と、を備え、
前記探知波の生成信号が入力され、前記探知波の生成信号の周波数が変化した時点から一定のパルス幅τP(τP<τPRF)だけ出力することにより前記探知波の生成信号をパルス変調するパルス変調部を備え、
前記アンテナからは、前記パルス変調部によりパルス変調された前記探知波の生成信号が前記探知波として発射され、前記アンテナでは前記反射波及び/又は外部からの干渉波が受信されるものであり、
前記欠落補償部は、前記複素位相データ系列の各複素位相データのうち、前記不使用周波数点集合に属す周波数点に対応する複素位相データの位相値を、当該周波数点の出力ゲインの逆数倍することにより当該複素位相データの位相値を算出することで、前記補間された複素位相データ系列を算出するものであり、
前記位相検波器が出力する前記I/Qビデオ信号の強度を検出する干渉波検出部と、
前記離散周波数点系列の各周波数点に対応する周波数ステップにおいて、前記レンジゲートの後の時間帯で、前記干渉波検出部により検出される前記I/Qビデオ信号の強度を検出し、
当該I/Qビデオ信号の強度が所定の強度閾値よりも大きい場合は、当該周波数点に対する前記出力ゲインの値を1より小さい所定の値に変更し、それ以外の場合は、当該周波数点に対する前記出力ゲインの値を1に変更することにより、前記出力ゲイン記憶部に記憶された前記出力ゲインを更新するスペクトル・ホール設定部と、を備えたことを特徴とする。(実施例3参照)
この構成によれば、局部発振器は、全周波数点集合のすべての周波数点を所定の出力順序で並べてなる前記離散周波数点系列に従って、ステップ状に変化するRF信号を生成する。このRF信号はパルス変調部によりパルス変調された後、アンテナから探知波として発射される。このとき、出力ゲイン制御部により、各周波数ステップにおいて、出力ゲイン記憶部に記憶された各周波数点に対する前記出力ゲインに従って、探知波の出力ゲインが制御される。パルス変調された探知波がアンテナから発射されるため、各周波数点の周波数ステップにおいて、アンテナで探知波のパルスの反射波及び外部干渉波が受信される時間帯と、外部干渉波のみが受信される時間帯とに時間的に分離される。スペクトル・ホール設定部は、外部干渉波のみが受信される時間帯において、干渉波検出部によりI/Qビデオ信号の強度を検出し、当該I/Qビデオ信号の強度が所定の強度閾値よりも大きい場合は、出力ゲイン記憶部に記憶された当該周波数点に対する出力ゲインの値を1より小さい所定の値に変更し、それ以外の場合は、1に変更する。これにより、外部干渉波の周波数帯域において探知波にスペクトル・ホールが適宜設定されるが、この場合、スペクトル・ホールにおける探知波の出力は完全に0ではない。従って、欠落補償部は、位相点系列の各複素位相データの位相値を、当該周波数点の出力ゲインの逆数倍することにより当該複素位相データの位相値を算出することで、スペクトル・ホールにおける複素位相データを補間し、補間された複素位相データ系列を算出する。これにより、干渉波の影響がないときの従来のステップドFMパルス・レーダ方式と同等の距離分解能を維持することができる。
本発明の超広帯域パルス・センサの第9の構成は、前記第1乃至4,6,7の何れか一の構成において、前記位相演算部に代えて、前記離散周波数点系列の各周波数点に対応する各周波数ステップについて、順次、当該周波数ステップの前記I/Qビデオ信号を所定のレンジゲートで切り出した信号波形から前記反射波の当該周波数ステップの周波数スペクトルである離散スペクトルを算出するスペクトル演算部を備え、
前記欠落補償部は、前記スペクトル演算部が算出する離散スペクトルであって前記使用周波数点集合に属す周波数点に対応する離散スペクトルを、各離散スペクトルに対応する周波数点の昇順又は降順で並べ替えて離散スペクトル系列を生成し、
前記離散スペクトル系列に対し、前記不使用周波数点集合に属す周波数点に対応する離散スペクトルを補間することで、補間された離散スペクトル系列を算出するものであり、
前記逆離散フーリエ変換部は、前記補間された離散スペクトル系列を逆離散フーリエ変換することでレンジ・スペクトルを生成し、前記レンジ・スペクトルがピークをとる位相値から前記アンテナから前記目標物までの距離を算出するものであることを特徴とする。(実施例1参照)
この構成によれば、I/Qビデオ信号から反射波の複素位相データを算出する代わりに周波数点に対応する離散スペクトルを算出し、この離散スペクトルを用いて、複素位相データの場合と同様に補間し、並べ替えた離散スペクトル系列を生成し、これから同様の方法で目標物までの距離を算出することができる。この離散スペクトルを用いる方法をとれば、目標物までの距離に加えて、目標物の速度を検出することも可能である。
以上のように、本発明の超広帯域パルス・センサによれば、受信側において、スペクトル・ホールの周波数バンドのパルス探知波に対応する離散位相データ又は離散スペクトル・データを、欠落補償部によって他の離散位相データ又は離散スペクトル・データから補間し復元することで、干渉波の影響がないときの従来のステップドFMパルス・レーダ方式と同等の距離分解能を維持しつつ、同一周波数帯を使用する既存の無線システムの影響を除去することが可能となり、従来よりも目標物までの距離の検出精度を高め、且つ目標物の誤検出を防止することができる。
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施例1に係る超広帯域パルス・センサの基本構成を表すブロック図である。尚、図1は、ヘテロダイン受信を想定した回路構成になっているが、ホモダイン受信でも適用することができる。本実施例のUWBパルス・センサ1は、コヒーレント発振器2、局部発振器3、任意ステップ・パターン信号生成器4、パターン・メモリ4a、周波数混合器5、パルス変調器6、サーキュレータ7、アンテナ8、受信側フロントエンド部9、位相検波器10、欠落補償部11、及び逆離散フーリエ変換器12を備えている。尚、図1において、表示装置13は、UWBパルス・センサ1の検出結果を表示する装置である。
コヒーレント発振器2は、上述の式(1)で表される中間周波数fCOHOの連続波信号であるIF信号s1(t)を出力する発振器である。局部発振器3は、局部発信周波数fSTALOの連続波信号であるRF信号s2’(t)を出力する電圧制御発振器である。
任意ステップ・パターン信号生成器4は、パターン・メモリ4aに設定された所定のパターン(出力パターン系列)に従って、局部発振器3の発信周波数fSTALOを制御する周波数制御電圧VVCOを出力する。パターン・メモリ4aは、RAM、EPROM、EEPROM等の書き換え自在なメモリによって構成されている。パターン・メモリ4aには、周波数制御電圧VVCOの出力パターン系列がデジタル値として記憶されている。この出力パターン系列の各値は、周波数点に一対一に対応する。出力パターン系列の各値に対応する周波数点の集合が「使用周波数点集合」である。従って、出力パターン系列は、使用周波数点集合に属する各周波数点の出力順序を表す。任意ステップ・パターン信号生成器4は、パターン・メモリ4aに記憶された周波数制御電圧VVCOの出力パターン系列に従って、周波数制御電圧VVCOのデジタル値を順次出力するパターン出力部と、パターン出力部が出力するデジタル値をデジタル・アナログ変換するD/A変換器とから構成されている。各出力パターンに対する局部発信周波数fSTALOは、所定の周波数f0〜f0+(N−1)Δfの帯域(使用周波数帯)を周波数間隔Δfで等分しN個の周波数点に離散化したときの各離散値の何れかの値をとる。このN個の周波数点の集合が「全周波数点集合」である。尚、一連の出力パターン系列内の全周波数点数は最大N個であるが、少数の所定の個数(nlack個)の周波数点について欠落したものであってもよい。ここで、欠落したnlack個の周波数点の集合が「不使用周波数点集合」である。Nは全周波数点集合に属する周波数点の数、nlackは不使用周波数点集合に属する周波数点の数である。
例えば、出力パターン系列が(α1,α2,α3,α4,α5,α6)=(5,8,2,6,1,7)の場合、各周波数点の出力順序は(f5,f8,f2,f6,f1,f7)=(f0+4Δf,f0+7Δf,f0+Δf,f0+5Δf,f0,f0+6Δf)のようになる。この場合、使用周波数点集合は{f1,f2,f5,f6,f7,f8}、不使用周波数点集合は{f3,f4}、全周波数点集合は{f1,f2,f3,f4,f5,f6,f7,f8}、N=8,nlack=2である。
周波数混合器5は、コヒーレント発振器2が出力するIF信号s1(t)と局部発振器3が出力するRF信号s2’(t)が入力され、これらの信号の混合信号である連続探知波s3’(t)(式(4)参照)を生成し出力する混合器(mixer)である。
パルス変調器6は、上記連続探知波s3’(t)を式(5)のようにパルス変調し、サーキュレータ7に対しパルス探知波s4’(t)を出力する。
本実施例では、コヒーレント発振器2、局部発振器3、任意ステップ・パターン信号生成器4、パターン・メモリ4a、及び周波数混合器5により、探知波(連続探知波s3’(t))を発振する探知波生成部15が構成されている。また、パターン・メモリ4aが「出力パターン記憶部」を構成し、コヒーレント発振器2、局部発振器3、任意ステップ・パターン信号生成器4、及び周波数混合器5が「内部発振部」を構成している。
サーキュレータ7は、一般的な4ポートのサーキュレータであり、ポート1にはパルス変調器6、ポート2にはアンテナ8、ポート3には受信側フロントエンド部9がそれぞれ接続されている。ポート1に入力された信号はポート2へ、ポート2に入力された信号はポート3へ出力される。尚、ポート4(図示せず)は無反射終端とされている。尚、本実施例はデュプレクサとしてサーキュレータ方式を示すが、デュプレクサとしては、TR管,ATR管を使用したブランチ型やデュアルTR管を使用したバランス型等の他の方式を用いてもよい。
アンテナ8は、通常のUWBアンテナが用いられる。サーキュレータ7を介してパルス変調器6から出力されるパルス探知波s4’(t)はアンテナ8から探知空間へ発射され、探知空間内の目標物で反射されたパルス探知波s4’(t)の反射波s5’(t)は、アンテナ8で受信され、サーキュレータ7を介して受信側フロントエンド部9に入力される。「探知空間」とは、探知すべき目標物が存在する空間、すなわち、アンテナ8の前方(探知波の発射方向)にある空間をいう。
受信側フロントエンド部9は、局部発振器102が出力するRF信号s2’(t)と反射波s5’(t)とを混合し、ローパス・フィルタ又はバンドパス・フィルタにより上側波帯成分を除去してダウン・コンバート信号s7’(t)を位相検波器10に出力する。
位相検波器10は、コヒーレント発振器2が出力するIF信号s1(t)を同期信号として、ダウン・コンバート信号s7’(t)を位相検波し、I/Qビデオ信号s8I’(t),s8Q’(t)を欠落補償部11へ出力する。ここで、I/Qビデオ信号は複素位相平面上の点(s8I’(t),s8Q’(t))を表しており、この点のことを「位相点」という。
欠落補償部11は、時系列で入力されるI/Qビデオ信号について(N−nlack)個の離散スペクトル・データ(又は複素位相データ)の包絡線から最小二乗法によりnlack個の欠落部の離散スペクトル(又は位相)を内挿(補間)し、N個の離散スペクトル・データ(又は複素位相データ)(R1,R2,…,RN)を出力する。この欠落補償部11が、スペクトル演算部(又は位相演算部)及び欠落補償部を構成している。
逆離散フーリエ変換器12は、N個の補間した離散スペクトル・データ又は複素位相データ(R1,R2,…,RN)を逆離散フーリエ変換により時間領域に変換し、そのレンジ・スペクトルR(φ)を合成し、レンジ・スペクトルR(φ)のピーク位置φpeakから目標物までの距離dの推定値を算出し、表示装置13へ出力する。
表示装置13は、逆離散フーリエ変換器12から入力される目標物までの距離dを表示する。
以上のように構成された本実施例に係るUWBパルス・センサ1について、以下その詳細動作について説明する。
(1)送信側
コヒーレント発振器2は、中間周波数fCOHOのコサイン波のIF信号s1(t)を連続的に出力する。コヒーレント発振器2が出力するIF信号s1(t)は、前記式(1)により表される。
一方、任意ステップ・パターン信号生成器4は、一定の周期τPRFでパターン・メモリ4aに記憶された周波数制御電圧VVCOの出力パターン系列(α1,α2,…,αN−nlack)を順次読み出し、読み出した出力パターンαk(k∈{1,2,…,N−nlack})をD/A変換し、周波数制御電圧VVCOを出力する。局部発振器3は、周波数制御電圧VVCOに従って設定される局部発信周波数fSTALOのコサイン波のRF信号s2’(t)を連続的に出力する。
図2は、周波数制御電圧VVCOの時間変化の一例を示す図である。N個の出力パターン系列A=(α1,α2,…,αN−nlack)は任意の系列であるため、周波数が単調増加する従来のステップドFMパルス・レーダ方式の場合(図23参照)と異なり、周波数制御電圧VVCOのパターンは出力パターン系列Aに従ったステップ・パターンとなる。
ここで、局部発信周波数fSTALOの最小値をf0、最大値をf0+(N−1)Δfとする。局部発信周波数fSTALOは、周波数f0〜f0+(N−1)Δfの区間を等間隔のN点に離散化した全周波数点集合{f0,f0+Δf,f0+2Δf,…,f0+(N−1)Δf}の属する何れかの周波数点の値をとる。従って、(N−nlack)個の各出力パターンαk(k∈{1,2,…,N−nlack})のとり得る値は、N個の離散周波数値{f0,f0+Δf,f0+2Δf,…,f0+(N−1)Δf}に対応する値のうちの何れかである。ここで、nlackは、離散周波数値の欠落個数(すなわち、不使用周波数点の個数)である。
図3は、局部発振器3が出力する局部発信周波数fSTALOがとる離散周波数値及び欠落した離散周波数値を表す図である。局部発信周波数fSTALOがとり得る各離散周波数値の間隔はΔfであり、等間隔である。また、局部発信周波数fSTALOがとる離散周波数値は、干渉波が存在する周波数帯域(干渉波帯域)で欠落するように設定される。この局部発信周波数fSTALOの欠落部分を「スペクトル・ホール」と呼ぶ。尚、干渉波とは、UWBパルス・センサ1が発射する電波及びその反射波以外の妨害電波のことをいい、例えば、携帯電話、FPUなどなどである。このように、干渉波の使用帯域を局部発信周波数fSTALOがとる離散周波数値から除外することにより、干渉波との被干渉や与干渉を防止することが可能となる。
周波数混合器5は、コヒーレント発振器2が出力するIF信号s1(t)と局部発振器3が出力するRF信号s2’(t)とを混合し、連続探知波s3’(t)を出力する。連続探知波s3’(t)は前記式(4)と同様に表され、連続探知波s3’(t)は周波数fSTALO+fCOHO=fαk+fCOHO(k∈{1,2,…,N−nlack})のコサイン波となる。ここで、fαkは出力パターンαkに対応する周波数である。
パルス変調器6は、連続探知波s3’(t)をパルス変調したパルス探知波s4’(t)を、サーキュレータ7に出力する。パルス変調したパルス探知波s4’(t)は、前記式(5)と同様に表される。このパルス探知波s4’(t)は、サーキュレータ7を介してアンテナ8に伝送され、アンテナ8から前方の探知空間に発射される。発射されたパルス探知波s4’(t)は探知空間内の目標物で反射され、この反射波s5’(t)はアンテナ8で受信されて、サーキュレータ7を介して受信側フロントエンド部9に入力される。
発射された各パルス探知波s4’(t)は、パルス内において周波数が一定であり、(N−nlack)個のパルス探知波s4’(t)系列の周波数(fα1,fα2,…,fαN−nlack)は、出力パターン系列(α1,α2,…,αN−nlack)に従って任意のパターンに設定することができる。
図4は、(a)連続探知波s3’(t)の波形の一例、(b)パルス探知波s4’(t)の波形の一例、(c)反射波s5’(t)の波形の一例、及び(d)離散スペクトル・データRαkを表す図である。連続探知波s3’(t)は、局部発信周波数fSTALOの周波数変化に伴って、一定のパルス周期τPRFでステップ状に周波数が変化する。パルス探知波s4’(t)は、連続探知波s3’(t)の周波数が変化する各時刻を起点として、一定のパルス幅τPだけ周波数fSTALO+fCOHOのコサイン波を出力し、それ以外の期間は0となる(図4(b)参照)。パルス探知波s4’(t)がアンテナ8から発射されてから、目標物で反射されその反射波s5’(t)がアンテナ8で受信されるまでの往復旅行時間をtrとすると、tr=2d/cである。ここで、dはアンテナ8から目標物までの距離、cは光速である。反射波s5’(t)のパルスはパルス探知波s4’(t)よりも時間trだけ遅延するため、この時間分だけ位相遅延が生じる(図4(c)参照)。また、目標物がアンテナ8に対して相対的に移動している場合には、その相対速度vにより、反射波s5’(t)にはドップラー効果による周波数シフトfdが生じる。従って、反射波s5’(t)は、前述の式(6a)と同様に表される。
図5は、(a)従来のステップドFMパルス・レーダ方式における発射波(パルス探知波s4(t))のスペクトルの一例、及び(b)実施例1のUWBパルス・センサ1における発射波(パルス探知波s4’(t))のスペクトルの一例である。
ステップドFMパルス・レーダ方式における発射波(パルス探知波s4(t))のスペクトルは、最小周波数fmin(=f0)から最大周波数fmax(=f0+(N−1)Δf)まで階段状に周波数掃引されるため、そのスペクトルは図5(a)のように、周波数fmin〜fmaxまでほぼ平坦なメインローブとなり、その両側のサイドローブが抑圧されたスペクトルとなる。
一方、実施例1のUWBパルス・センサ1における発射波(パルス探知波s4’(t))のスペクトルは、最小周波数fmin(=fc)から最大周波数fmax(=fc+(N−1)Δf)の間でステップ状に所定パターンに従ってランダム掃引されるが、他の無線システムからの干渉波の周波数帯では除外されている。従って、そのスペクトルは図5(b)のように、周波数fmin〜fmaxまでほぼ平坦なメインローブとなるが、干渉波の周波数帯のみはスペクトル・ホールとなっている。
(2)受信側
アンテナ8で受信された反射波s5’(t)は、サーキュレータ7を介して受信側フロントエンド部9に入力される。ここで、反射波s5’(t)は、前述の式(6a)と同様に表される。
受信側フロントエンド部9は、局部発振器3が出力するRF信号s2’(t)と反射波s5’(t)とを混合するとともに、混合波の上側波帯成分をフィルタ除去し、下側波帯成分をダウン・コンバート信号s7’(t)として位相検波器10へ出力する。このダウン・コンバート信号s7’(t)は、前述の式(8)と同様に表される。
位相検波器10は、コヒーレント発振器2が出力するIF信号s1(t)と同相の信号s1I(t)及び位相をπ/2だけ遅らせた信号s1Q(t)と、ダウン・コンバート信号s7’(t)とを混合し、I/Qビデオ信号s8I’(t),s8Q’(t)として欠落補償部11へ出力する。I/Qビデオ信号s8I’(t),s8Q’(t)は、前述の式(9a)及び式(9b)と同様に表される。ここで、s8I’(t)は実部(同相であるI成分)、s8Q’(t)は虚部(直交のQ成分)を表す信号である。
欠落補償部11は、位相検波したI/Qビデオ信号s8I’(t),s8Q’ (t)をA/D変換し、それぞれのステップ毎(レンジゲート毎)に、式(10)により短時間フーリエ変換し、(N−nlack)個の離散スペクトル・データ系列{S8(fα1),S8(fα2),…,S8(fαN−nlack)}を算出する。ここで、S8(fαi)は、局部発信周波数fSTALO=f0+(αi−1)に対する式(10)の離散スペクトルS8(f)の値を表す。以下、これらの離散スペクトル・データS8(fαi)をRαiと記す。その後、欠落補償部11は、(N−nlack)個の離散スペクトル・データ(の実部又は虚部)の包絡線から最小二乗法によりnlack個の欠落部の位相を内挿する(図6参照)。
図6は、離散スペクトル・データ(R1,R2,…,RN)の一例を示す図である。図6に示すように、最小周波数fmin(=fc)から最大周波数fmax(=fc+(N−1)Δf)の間で、周波数間隔Δfで並んでおり、スペクトル・ホール周波数帯fh,min〜fh,maxの離散スペクトル・データが抜けた状態となっている。
そこで、欠落補償部11は、スペクトル・ホール周波数帯fh,min〜fh,max(fh,min=fc+(nhmin−1)Δf,fh,max=fc+(nhmax−1)Δf)の離散スペクトル・データを補間する。離散スペクトル・データの補間方法は、最小二乗法やスプライン補間等の種々の公知の方法を使用することができる。スペクトル・ホールのある離散スペクトル・データを補間したN個の離散スペクトル・データ(R1,R2,…,RN)は逆離散フーリエ変換器12に出力される。
逆離散フーリエ変換器12は、補間した離散スペクトル・データ(R1,R2,…,RN)を上述の式(12)により逆離散フーリエ変換し、レンジ・スペクトルR(φ)を合成し、そのR(φ)のピークのφ=φpeakから目標物までの距離dを上述の式(13)により算出する。
以上のように、本実施例のUWBパルス・センサ1では、他の無線システムからの干渉波の周波数帯をスペクトル・ホールとして発射電波の周波数帯から除外し、反射波の受信後に、その離散スペクトル・データ(R1,R2,…,RN)に基づいてスペクトル・ホール部分の離散スペクトル・データを補間した離散スペクトル・データ(R1,R2,…,RN)を生成し、この離散スペクトル・データ(R1,R2,…,RN)から目標物までの距離dを算出することにより、従来のステップドFMパルス・レーダ方式と同等の距離分解能を維持しつつ、既知の無線システムとの被干渉および与干渉を除去し距離の検出精度を高め、且つ目標物の誤検出を防止することができる。
また、任意ステップ・パターン信号生成器4により、各パルス探知波s4’(t)の周波数系列(fα1,fα2,…,fαN−nlack)は、出力パターン系列(α1,α2,…,αN−nlack)に従って任意のパターンに設定することができるので、同じ空間内に複数のUWBパルス・センサ1が混在する場合には、それぞれのUWBパルス・センサ1で異なる出力パターン系列(α1,α2,…,αN−nlack)を使用すればよい。これにより、近接するUWBパルス・センサ1が発射するパルスの影響を除去することができ、目標物までの距離の検出精度の低下や、目標物の誤検出を防止することができる。
(3)変形例
尚、上述の実施例においては、欠落補償部11は、位相検波したI/Qビデオ信号s8I’(t),s8Q’ (t)を、レンジゲート毎に短時間フーリエ変換して離散スペクトル・データ系列{Rα1,Rα2,…,RαN−nlack}を算出し、これを補間する構成を示したが、短時間フーリエ変換を行う代わりに、ローパス・フィルタを使用する方法を用いることもできる。以下にこの方法を説明する。
この場合、位相検波器10は、I/Qビデオ信号s8I’(t),s8Q’(t)を生成した後に、ローパス・フィルタによりI/Qビデオ信号s8I’(t),s8Q’(t)の交流成分を濾波して直流成分のみをとりだし、それぞれのレンジゲート毎に次式(15a),(15b)で表されるI/Qビデオ信号s8I (DC)(αi),s8Q (DC)(αi)を生成し、これらをA/D変換し出力する。この場合、位相点は各ステップ内で時間変化せず(s8I (DC)(αi),s8Q (DC)(αi))となる。
ここで、fSTALO(αi)(i=1,2,・・・,N−nlack)は、出力パターン系列Aのi番目の出力パターンαiに対する局部発信周波数であり、fSTALO(αi)=f0+(αi−1)Δfである。s8I (DC)(αi),s8Q (DC)(αi)は、出力パターンαiに対するステップのI/Qビデオ信号の直流成分であり、以下、「複素位相データ」と呼ぶ。なお、実際の位相φnはφn=tan−1(s8Q (DC)(αi)/s8I (DC)(αi))で表される。また、出力パターン(α1,α2,…,αN−nlack)に対応して生成される複素位相データの系列を「複素位相データ系列」と呼ぶ。
なお、「レンジゲート」とは、受信されるレーダー・データの半径方向(時間方向)の範囲において、特定の反射時間帯(すなわち目標物までの距離)の反射信号だけを通過させるゲートをいう。図4(c)に示すように、レンジゲートはレーダー・パルスが発信された時点から一定の時間遅延した時点から開き、所定時間だけ継続した後に閉じるように設定されている。
欠落補償部11は、出力パターン系列Aに対する一連の複素位相データ系列{(s8I (DC) (α1),s8Q (DC)(α1)),(s8I (DC)(α2),s8Q (DC)(α2)),…,(s8I (DC)(αN−nlack),s8Q (DC)(αN−nlack))}を得た後、それぞれのレンジゲートの複素位相データ(s8I (DC)(αi),s8Q (DC)(αi))を、周波数fSTALO(αi)の小さい順に並べ替え、その後、(N−nlack)個の複素位相データの包絡線を最小二乗法により求め、nlack個の欠落部の位相を内挿する。スペクトル・ホールのある複素位相データを補間したN個の複素位相データ((s8I (DC)(1),s8Q (DC)(1)),(s8I (DC)(2),s8Q (DC)(2)),…,(s8I (DC)(N−nlack),s8Q (DC)(N−nlack)))は逆離散フーリエ変換器12に出力される。
逆離散フーリエ変換器12は、補間された複素位相データを式(12)と同様に、次式(16a),(16b)により逆離散フーリエ変換し、レンジ・スペクトルR(φ)を合成し、合成されたR(φ)がピークをとるφ=φpeakから目標物までの距離dを式(13)により算出する。
このように、離散スペクトル・データの代わりに、I/Qビデオ信号の直流成分(s8I (DC)(αi),s8Q (DC)(αi))である複素位相データを使用することも可能である。
本実施例以下の各実施例では、干渉検出回避(Detect And Avoid:DAA)機能により干渉波を検出し当該干渉波の周波数帯域においてスペクトル・ホールを適宜設定するように構成したUWBパルス・センサについて説明する。
各国のUWBの法制度では、UWB無線の低域バンド(3.4GHz〜4.8GHz)については、DAA機能付きで−41.3dBmまでの出力が可能であるが、DAA機能がない場合には出力が制限される。また、準ミリ波帯UWBレーダの導入についても22〜29GHzは他の無線システムが運用されており、電波共用のための干渉緩和対策を講じることが強く望まれている。従って、UWBパルス・センサを広く普及させるためには、電波法の観点から電波(周波数帯やその電力)の運用状況に応じて他の無線システムへの干渉(与干渉)を軽減し、また、他の無線システムがUWBパルス・センサの近傍で運用されている場合などではその干渉(被干渉)を大きく軽減する干渉緩和対策技術が必要となる。そこで、本実施例2及び後の実施例3〜8では、実施例1のUWBパルス・センサを改良し、(1)他の無線システムの周波数帯とその信号強度を検出する干渉検出機能、(2)その干渉が比較的小さく他の無線システムと共存できる場合などには与干渉を任意に軽減し、UWBパルス・センサ自信の特性劣化を補償する機能、及び(3)他の無線システムがUWBパルス・センサ近傍で運用され、その干渉が大きい場合などではUWBパルス・センサがその影響を受けないようにする被干渉抑圧機能の何れか又は全てを追加した例を示す。
図7は、本発明の実施例2に係るUWBパルス・センサの構成を表すブロック図である。尚、図7は、ヘテロダイン受信を想定した回路構成になっているが、ホモダイン受信でも適用することができる。図7において、コヒーレント発振器2、局部発振器3、任意ステップ・パターン信号生成器4、パターン・メモリ4a、パルス変調器6、サーキュレータ7、アンテナ8、受信側フロントエンド部9、位相検波器10、逆離散フーリエ変換器12、及び表示装置13については、実施例1と同様であり、同符号を付して説明は省略する。
図7に示した本実施例のUWBパルス・センサ1は、図1の周波数混合器5の代わりに発射側フロントエンド部5’を備え、新たに干渉波検出回路20を備えるとともに、図1の欠落補償部11の代わりに演算処理部21及び使用周波数情報記憶部21aを備えている。
送信側においては、コヒーレント発振器2、局部発振器3、任意ステップ・パターン信号生成器4、及びパルス変調器6の機能は、実施例1と同様である。本実施例の発射側フロントエンド部5’には、コヒーレント発振器2が出力するIF信号s1(t)と局部発振器3が出力するRF信号s2’(t)が入力される。発射側フロントエンド部5’は、これらの信号の混合信号である連続探知波(式(4)参照)を生成しスイッチングした後に、連続探知波s3’(t)としてパルス変調器6へ出力する。従って、この発射側フロントエンド部5’は、周波数混合器の機能に加えて、連続探知波s3’(t)をアンテナ8に出力する「出力オン状態」と、出力しない「出力オフ状態」との切り替えを行う出力スイッチング部としての機能(具体的には、可変アッテネータ又は増幅器としての機能)、及び連続探知波s3’(t)の各周波数ステップにおいて、使用周波数情報記憶部21aに記憶されたオン・オフ値情報を参照し、当該周波数ステップの周波数点に対するオン・オフ値に従って、出力オン状態又は出力オフ状態の切り替え制御を行う探知波周波数制御部としての機能を有する。
尚、本実施例では、出力スイッチング部及び探知波周波数制御部としての機能を発射側フロントエンド部5’が有する構成例を示すが、出力スイッチング部及び探知波周波数制御部としての機能についてはパルス変調器6が有するような構成とすることもできる。
一方、受信側においては、受信側フロントエンド部9、逆離散フーリエ変換器12、及び表示装置13の機能は、実施例1と同様である。本実施例の位相検波器10は、コヒーレント発振器2が出力するIF信号s1(t)と同相の信号s1I(t)及び位相をπ/2だけ遅らせた信号s1Q(t)と、ダウン・コンバート信号s7’(t)とを混合し、I/Qビデオ信号s8I’(t),s8Q’(t)(式(9a),(9b)参照)を生成した後、ローパス・フィルタによりこれらのI/Qビデオ信号s8I’(t),s8Q’(t)の直流成分を取り出し、これをA/D変換して、複素位相データ(s8I (DC)(αi;t),s8Q (DC)(αi;t))(αi=1,2,…,N−nlack)として出力する(式(15a),(15b)参照)。
干渉波検出回路20は、他の無線システム等から出力される干渉波を検出する。この干渉波検出回路20には、位相検波器10が出力するステップ毎の複素位相データ系列{(s8I (DC)(αi;t),s8Q (DC)(αi;t))|i=1,2,…,N}が入力される。干渉波検出回路20は、各ステップの複素位相データ(s8I (DC)(αi;t),s8Q (DC)(αi;t))から、当該ステップの時間帯のうちレンジゲートの後の部分を取り出し、取り出した部分の自乗和の平方根である干渉波の信号強度I(αi)を演算し、干渉波の信号強度データI(αi)として演算処理部21へ出力する。尚、送信をオフとし局部発信器3によりRF信号s2 ‘(t)を発生させ、信号s4”(t)の送信を始める前にアンテナ8で外部からの干渉波信号を観測することによってその信号強度データIを検出することもできる。
演算処理部21には、位相検波器10が出力するステップ毎の複素位相データs8I (DC)(αi;t),s8Q (DC)(αi;t)、及び干渉波検出回路20が出力する干渉波の信号強度データI(αi)が入力される。演算処理部21は、これらの信号に基づき、後述するように、干渉波の強度検出、発射側フロントエンド部5’のオン・オフ値の設定、及び複素位相データの補間演算を行う。すなわち、演算処理部21は、スペクトル・ホール設定部及び欠落補償部としての機能を有している。
以上のように構成された本実施例に係るUWBパルス・センサ1において、以下その動作を説明する。図8は、実施例2に係る超広帯域パルス・センサにおける(a)連続探知波s3”(t)の波形の一例、(b)パルス探知波s4”(t)の波形の一例、(c)反射波s5”(t)の波形の一例、及び(d)位相データs8I (DC) (αi)を表す図である。図9は、複素位相データs8I (DC)(αn),s8Q (DC)(αn)(n=1,2,…)を周波数の小さい順に並べ替えた状態を表す図である。
(1)送信側
実施例1と同様、コヒーレント発振器2は、中間周波数fCOHOのコサイン波のIF信号s1(t)を連続的に出力する。また、任意ステップ・パターン信号生成器4は、一定の周期τPRFでパターン・メモリ4aに記憶された周波数制御電圧VVCOの出力パターン系列(α1,α2,…,αN)を順次読み出し、読み出した出力パターンαk(k∈{1,2,…,N})をD/A変換し、周波数制御電圧VVCOを出力する。局部発振器3は、周波数制御電圧VVCOに従って設定される局部発信周波数fSTALOのコサイン波のRF信号s2’(t)を連続的に出力する。
発射側フロントエンド部5’は、コヒーレント発振器2が出力するIF信号s1(t)と局部発振器3が出力するRF信号s2’(t)とを混合し、連続探知波s3’(t)を生成し、Nステップの出力パターン系列(α1,α2,…,αN)の各ステップαi毎に設定されたオン・オフ値βi(βi=1 or 0;i=1,2,…,N)で「出力オン状態」又は「出力オフ状態」に設定した後に、「出力オン状態」の場合は連続探知波s3”(t)としてパルス変調器6へ出力する。
連続探知波s3”(t)は次式で表される(図8(a)参照)。
ここで、局部発信周波数fSTALO(t)は時間とともに図2と同様に変化し(但し、本実施例ではパターン系列の周期はNτPRFとなる)、局部発信周波数fSTALO(t)の切り替わりに同期して、オン・オフ値β(t)も切り替わる。すなわち、局部発信周波数がfSTALO(t)=f0+(αi−1)Δf(=fαi;i=1,2,…,N)のとき、オン・オフ値はβ(t)=βiに設定される。ここで、各オン・オフ値βi(i=1,2,…,N)は1又は0の2値のうちの何れかの値をとる。各ステップαi(i=1,2,…,N)に対するオン・オフ値βiの情報は、使用周波数情報記憶部21aに記憶されており、発射側フロントエンド部5’はこの使用周波数情報記憶部21aを参照してオン・オフ値βiの設定を行う。
図8(a)に、連続探知波s3”(t)の波形の一例を示す。連続探知波s3”(t)の周波数は、出力パターン系列(α1,α2,…,αN)で定まる周波数系列(fα1+fCOHO,fα2+fCOHO,…,fαN+fCOHO)に従って、パルス繰り返し周期τPRFで周波数が切り替わる。また、βi=0のステップではs3”(t)=0となり、そのステップの周波数fαi+fCOHOがスペクトル・ホールとなる。
パルス変調器6は、連続探知波s3”(t)をパルス変調したパルス探知波s4”(t)を、サーキュレータ7に出力する。このパルス探知波s4”(t)は、サーキュレータ7を介してアンテナ8に伝送され、アンテナ8から前方または周囲の探知空間に発射される。発射されたパルス探知波s4”(t)は目標物で反射され、この反射波s5”(t)はアンテナ8で受信されて、サーキュレータ7を介して受信側フロントエンド部9に入力される。
(2)受信側
受信側フロントエンド部9に入力される反射波s5”(t)は次式(18)により表される(図8(c)参照)。
ここで、s
5 (spurious)は、外部の無線システムから混入する干渉波成分である(なお、式(6a)では干渉波成分を省略している)。
受信側フロントエンド部9は、局部発振器3が出力するRF信号s2’(t)と反射波s5’(t)とを混合するとともに、混合波の上側波帯成分をフィルタ除去し、下側波帯成分をダウン・コンバート信号s7”(t)として位相検波器10へ出力する。
位相検波器10は、コヒーレント発振器2が出力するIF信号s1(t)と同相の信号s1I(t)及び位相をπ/2だけ遅らせた信号s1Q(t)と、ダウン・コンバート信号s7”(t)とを混合し、I/Qビデオ信号s8I”(t),s8Q”(t)を生成する。そして、位相検波器10は、I/Qビデオ信号s8I”(t),s8Q”(t)を生成した後に、ローパス・フィルタによりI/Qビデオ信号s8I”(t),s8Q”(t)の交流成分を濾波して直流成分のみをとりだし、各ステップ毎に次式で表される複素位相データs8I (DC)(αi;t),s8Q (DC)(αi;t)を生成し、これらをA/D変換し出力する。
ここで、s
8I (spurious)(α
i),s
8Q (spurious)(α
i)は、外部から混入する干渉波信号の周波数(f
αi+f
COHO)成分による付加項である。
干渉波検出回路20は、位相検波器10が出力する複素位相データs8I (DC)(αi;t),s8Q (DC)(αi;t)から、レンジゲートの部分をマスクして、当該ステップの時間帯TZαiのうちレンジゲートの後の部分を取り出す。そして、干渉波検出回路20は、取り出した部分の自乗和の平方根(すなわち、強度)である干渉波の信号強度I(αi)を次式により演算し、干渉波の信号強度データI(αi)として演算処理部21へ出力する。
ここで、TZ
RGBはレンジゲートの後の時間帯を表す。
尚、「レンジゲート」とは、受信されるレーダー・データの半径方向(時間方向)の範囲において、特定の反射時間帯(すなわち目標物までの距離)の反射信号だけを通過させるゲートをいう(図4(c)参照)。「特定の反射時間帯」は、干渉波信号が混入しない状態において反射波s5”(t)のS/N比を十分に大きくとることが可能な時間帯に適宜設定され、これはパルス探知波s4”(t)の強度やアンテナ8の性能との関係でその範囲が決まってくる。複素位相データs8I (DC)(αi;t),s8Q (DC)(αi;t)のレンジゲートの後の時間帯TZRGBでは、反射波があったとしても遠方からのものであり十分に減衰されていて無視できるので、式(19a),(19b)より、複素位相データs8I (DC)(αi;t),s8Q (DC)(αi;t)としては、ほぼ干渉波信号による付加項s8I (spurious)(fSTALO),s8Q (spurious)(fSTALO)のみが検出されると考えてよい。従って、干渉波の信号強度データI(αi)は次式のように表される。
また、干渉波の信号強度の検出感度を向上させるために、干渉波検出回路20は、次式のように、レンジゲートの後の時間帯において、複素位相データs8I (DC)(αi;t),s8Q (DC)(αi;t)の強度をフレーム毎にコヒーレント積分するようにしてもよい。
ここで、左辺第1式の積分は、ステップα
iの時間帯(TZ
αi)のうちのレンジゲート(RG)の後の時間帯TZ
RGBで積分することを意味する。また、τ
RGBはレンジゲートの後の時間帯TZ
RGBの時間幅、E[ ]は時間平均を表す。
これにより、干渉波検出回路20は、干渉波信号強度を検出することができる。
演算処理部21は、使用周波数情報記憶部21aに記憶されているオン・オフ値βiを参照し、βi=1である(N−nlack)個の複素位相データの系列{(s8I (DC)(αi),s8Q (DC)(αi))|βi=1}を得た後(図8(d)参照)、それぞれのステップの複素位相データ(s8I (DC)(αi),s8Q (DC)(αi))を、周波数fSTALO(αi)の小さい順に並べ替え(図9参照)、その後、(N−nlack)個の複素位相データの包絡線から最小二乗法によりnlack個の欠落部の位相を内挿する。スペクトル・ホールのある複素位相データを補間したN個の複素位相データ((s8I (DC)(1),s8Q (DC)(1)),(s8I (DC)(2),s8Q (DC)(2)),…,(s8I (DC)(N),s8Q (DC)(N)))は逆離散フーリエ変換器12に出力される。
逆離散フーリエ変換器12は、補間された複素位相データを上述の式(16b)と同様に逆離散フーリエ変換し、レンジ・スペクトルR(φ)を合成し、そのR(φ)のピークのφ=φpeakから目標物までの距離dを上述の式(13)により算出する。
さらに、演算処理部21は、N個のステップαi(i=1,2,…,N)のそれぞれに対して、干渉波の信号強度データI(αi)と所定の閾値Ithを比較して、I(αi)が閾値Ithより大きい場合には、そのステップαiに対するオン・オフ値βiを0に設定し、I(αi)が閾値Ith以下の場合には、そのステップαiに対するオン・オフ値βiを1に設定する。設定されたオン・オフ値βiは使用周波数情報記憶部21aに記憶され、次回の発射側フロントエンド部5’でのスイッチング処理に用いられる。これにより、干渉波信号の成分が大きく検出された周波数(fαi+fCOHO)に対しては、スペクトル・ホールが適宜設定され、干渉検出回避(Detect And Avoid:DAA)を適応的に行うことができる。
図10は、特定の帯域において狭帯域干渉波が存在する場合の(a)干渉波の信号強度データI(i)及び(b)干渉波のスペクトルを示す図である。図10のように、ある特定の帯域において狭帯域干渉波が存在する場合には、そのステップ周波数の位置iと干渉波の信号強度データI(i)の出力レベルから、干渉波の存在とその帯域の大きさを正確に推定することができる。しかも、干渉波検出回路20及び演算処理部21をマイコンやPLD(プログラマブル論理デバイス)により構成すれば、ソフトウェアの演算処理のみで干渉波の信号強度データI(i)を求め、ゲインβiを再設定することが可能であるため、付加的なハードウェア回路を必要としない。
尚、演算処理部21がスペクトル・ホールのある複素位相データを補間する方法としては、上述した補間方法以外に、同相位相データ系列{s8I (DC)(αi)|βi=1}と直交位相データ系列{s8Q (DC)(αi)|βi=1}との相互相関係数を計算してシフト量を決定し、両系列を相互にシフトさせて重ね合わせることにより、スペクトル・ホール部分の複素位相データを相互に補間する方法を用いることも可能である。具体的には次のようにして行う。
図11は、相互相関を利用した演算処理部21によるスペクトル・ホール部分の複素位相データの補間処理を示すフローチャートである。
ステップS1において、演算処理部21は、周波数の小さい順に整列された(N−nlack)個の同相位相データ系列{(fi,s8I (DC)(i))|βi=1}と、同じく周波数の小さい順に整列された(N−nlack)個の直交位相データ系列{(fi,s8Q (DC)(i))|βi=1}とに対し、周波数fiについての相互相関係数R(Δf)を計算する。
ステップS2において、演算処理部21は、算出された相互相関係数R(Δf)が最大となるシフト量Δfを検出する。ここで、fiは各ステップの局部発信周波数である。
ステップS3において、同相位相データ系列{(fi,s8I (DC)(i))|βi=1}又は{(fi,s8Q (DC)(i))|βi=1}を前記シフト量Δfだけシフトして、両系列の位相を揃える。
ステップS4において、複素位相データ系列{(fi,s8I (DC)(i))|βi=1}及び{(fi,s8Q (DC)(i))|βi=1}のそれぞれの系列について、複素位相データが欠落した周波数部分の複素位相データを他方の系列から取得して相互に補間する。これにより、スペクトル・ホールのある複素位相データを補間したN個の複素位相データ((s8I (DC)(1),s8Q (DC)(1)),(s8I (DC)(2),s8Q (DC)(2)),…,(s8I (DC)(N−nlack),s8Q (DC)(N−nlack)))が得られる。
尚、この処理において、複素位相データ系列{(fi,s8I (DC)(i))|βi=1}及び{(fi,s8Q (DC)(i))|βi=1}の両方の位相データが欠落した周波数部分については、上述の方法だけでは補間することができないため、その場合には、複素位相データの包絡線から最小二乗法により欠落部の位相を内挿する方法によって補間する。
また、本実施例では、演算処理部21がスペクトル・ホールのある複素位相データを補間する例について説明したが、実施例1の場合と同様に、「複素位相データ」の代わりに「離散スペクトル・データ」を使用することも勿論可能である。
上述の実施例2では、干渉波検出回路20により干渉波を検知した場合には、当該周波数帯のステップのパルス信号を発射しない(0とする)構成としたが、本実施例では当該周波数帯のステップのパルス信号の信号強度を完全に0とはせずに減衰させて送信することにより与干渉を軽減するように構成したUWBパルス・センサの実施例を示す。
図12は、本発明の実施例3に係るUWBパルス・センサ1の基本構成を表すブロック図である。図12において、実施例1の図1又は実施例2の図7と同様の部分については、同符号を付して説明は省略する。本実施例のUWBパルス・センサ1は、実施例2の図7の図7と比較すると、発射側フロントエンド部5’に、周波数混合器5、TTL制御回路22、出力ゲイン記憶部22a及びアッテネータ(ATT)23を備えた点で相違している。
干渉波検出回路20は、実施例2と同様に、レンジゲートの後の時間帯TZRGBを利用して干渉波の信号強度データI(αi)を検出する。そして、この干渉波の信号強度データI(αi)は、デジタル値としてTTL制御回路22へ出力される。
TTL制御回路22は、電子スイッチやPINダイオードを用いて構成されており、入力される干渉波の信号強度データI(αi)の値に応じてATT23の減衰率(以下「出力ゲイン」という。)を制御する。この出力ゲインは、出力ゲイン記憶部22aに記憶される。すなわち、本実施例では、このTTL制御回路22が、出力ゲイン制御部及びスペクトル・ホール設定部として機能する。
ATT23には、デジタル制御ATT,電圧制御ATTなどの、減衰率が可変の可変アッテネータを使用することができる。尚、図12の例では、ATT23を周波数混合器5とパルス変調器6との間に接続しているが、ATT23の代わりに可変アッテネータ機能が付いたパルス変調器を使用することもできる。
本実施例のUWBパルス・センサ1は、基本的には実施例2で説明したものと同様であるが、本実施例では、発射側フロントエンド部5’には干渉波検出回路20から干渉波の信号強度データI(αi)が入力され、発射側フロントエンド部5’は干渉波の信号強度データI(αi)の大きさに応じてTTL制御回路22によりATT23の出力ゲインを制御する点が相違する。TTL制御回路22は、干渉波の信号強度データI(αi)が所定の閾値Ith以下の場合には、外部からの干渉波信号がないと判定してATT23の出力ゲインaiを最大(0dB)に設定する。また、干渉波の信号強度データI(αi)が所定の閾値Ithより大きい場合は、外部からの干渉波信号が存在すると判定される。この場合、例えば、TTL制御回路22は、パルス探知波s4’(t)の強度が−80〜−41.3dB/MHzとなるように、ATT23の出力ゲインaiを設定する。設定された出力ゲインaiは、出力ゲイン記憶部22aに記憶される。これにより、他の無線システムの周波数帯と干渉する場合には、アンテナ8から発射されるパルス探知波s4’(t)の強度が抑えられ、他の無線システムへの与干渉を軽減することができる。
一方、演算処理部21は、出力ゲイン記憶部22aから読み出される出力ゲインaiの逆数1/aiに比例して複素位相データs8I (DC)(αi),s8Q (DC)(αi)の増幅率βαiを設定する。そして、位相検波器10から入力される各ステップαiの複素位相データs8I (DC)(αi),s8Q (DC)(αi)に増幅率βαiを乗算してレベル調整を行う。演算処理部21は、N個の複素位相データの系列{(βαis8I (DC)(αi),βαis8Q (DC)(αi))|i=1,2,…,N}を得た後、それぞれのステップの複素位相データ(βαis8I (DC)(αi),βαis8Q (DC)(αi))を、周波数fSTALO(αi)の小さい順に並べ替え、レベル調整されたN個の複素位相データ((β1s8I (DC)(1),β1s8Q (DC)(1)),(β2s8I (DC)(2),β2s8Q (DC)(2)),…,(βNs8I (DC)(N),βNs8Q (DC)(N)))を逆離散フーリエ変換器12に出力する。
逆離散フーリエ変換器12は、レベル調整されたN個の複素位相データを上述の式(16b)と同様に逆離散フーリエ変換し、レンジ・スペクトルR(φ)を合成し、そのR(φ)のピークのφ=φpeakから目標物までの距離dを上述の式(13)により算出する。
このように、本実施例のUWBパルス・センサ1では、外部の無線システムによる干渉波が存在するi番目のステップの周波数帯においては、アンテナ8から発射されるパルス探知波s4’(t)の強度が減衰させられるため、その無線システムへの与干渉を軽減することができる。一方、それに伴い、当該ステップiの受信信号強度が変化するため、逆離散フーリエ変換器12が出力するレンジ・スペクトルR(φ)が歪められる。そこで、このステップiに対応する複素位相データ(s8I (DC)(i),s8Q (DC)(i))を、パルス探知波s4’(t)の強度の出力ゲインaiの逆数1/aiに比例する増幅率βiで増幅することにより、複素位相データのレベルは補正され、与干渉抑圧に伴うUWBパルス・センサ1の特性劣化を補償することができる。
図13は、実施例2及び実施例3のUWBパルス・センサ1により得られるレンジ・スペクトルR(φ)を比較した図である。図13の例は、距離d=2[m]に目標物がある場合を示している。図13から分かるように、実施例3のUWBパルス・センサ1により得られるレンジ・スペクトルR(φ)は、実施例2のものに比べてサイドローブが抑圧されており、より感度が向上していることが分かる。
尚、本実施例では、演算処理部21がスペクトル・ホールのある複素位相データを補間する例について説明したが、実施例1の場合と同様に、「複素位相データ」の代わりに「離散スペクトル・データ」を使用することも勿論可能である。
他の無線システム(例えば、携帯電話や無線LAN等)がUWBパルス・センサの近傍において使用されている場合、実施例2に示したUWBパルス・センサでは、検出される干渉波の強度(干渉波の信号強度データI(αi))が大きくなる。被干渉が大きくなると、図8(c)に示したように、レンジゲート内の複素位相データs8I (DC)(αi),s8Q (DC)(αi)にも干渉波信号が重畳するため、これがノイズとなりレンジ・スペクトルR(φ)の歪みが大きくなる。そこで、本実施例では、かかる場合、大きな干渉波信号が重畳する周波数ステップにおいては、複素位相データs8I (DC)(αi),s8Q (DC)(αi)を強制的に0に設定し、こうして得られるN個の複素位相データ((s8I (DC)(1),s8Q (DC)(1)),(s8I (DC)(2),s8Q (DC)(2)),…,(s8I (DC)(N),s8Q (DC)(N)))を逆離散フーリエ変換器12に入力し、レンジ・スペクトルR(φ)を算出する。
図14は、本発明の実施例4に係る超広帯域パルス・センサの基本構成を表すブロック図である。図14において、図12と同様の構成部分については同符号を付して説明は省略する。
本実施例では、干渉波検出回路20により検出される干渉波の信号強度データI(αi)の大きさが所定の閾値Ithmaxを超えた場合、演算処理部21は、複素位相データs8I (DC)(αi),s8Q (DC)(αi)に掛ける重み係数wαiを0(オフ値)に設定し、それ以外の場合には1(オン値)に設定する。尚、各ステップの重み係数{wαi|i=1,2,…,N}は、使用周波数情報記憶部21aに記憶される。これらの重み係数wαiが「使用周波数情報」となる。
閾値Ithmaxの値は、用途に応じて適宜決定されるが、例えば、「干渉波がノイズとして重畳した場合の複素位相データs8I (DC)(αi),s8Q (DC)(αi)のS/N比が最低必要S/N比X[dB]となるときの干渉波の信号強度の大きさ」のように決定すればよい(最低必要S/N比Xは、装置に要求される必要性能(スペック)に応じて適宜決定される)。
演算処理部21は、位相検波器10から入力される各ステップαiの複素位相データs8I (DC)(αi),s8Q (DC)(αi)に重み係数wαiを乗算し、N個の複素位相データの系列{(wαis8I (DC)(αi),wαis8Q (DC)(αi))|i=1,2,…,N}を得た後、それぞれのステップの複素位相データ(wαis8I (DC)(αi),wαis8Q (DC)(αi))を、周波数fSTALO(αi)の小さい順に並べ替え、その後、(wαis8I (DC)(αi),wαis8Q (DC)(αi))=(0,0)のもの(即ち、重み係数wαiが0(オフ値)のもの)を除外した(N−nlack)個の複素位相データの包絡線から最小二乗法によりnlack個の欠落部の位相を内挿する。そして、スペクトル・ホールのある複素位相データを補間したN個の複素位相データ((s8I (DC)(1),s8Q (DC)(1)),(s8I (DC)(2),s8Q (DC)(2)),…,(s8I (DC)(N),s8Q (DC)(N)))を逆離散フーリエ変換器12に出力する。
逆離散フーリエ変換器12は、レベル調整されたN個の複素位相データを上述の式(16b)と同様に逆離散フーリエ変換し、レンジ・スペクトルR(φ)を合成し、そのR(φ)のピークのφ=φpeakから目標物までの距離dを上述の式(13)により算出する。
図15に、演算処理部21による複素位相データの補償前と補償後の様子を示す。図15の例では、全ステップ数N=30とし、6ステップ目の周波数において干渉波があるとしてこのステップをキャリア・ホール(w6=0)とした。アンテナ8から発射されるパルス探知波s4’(t)がアンテナの正面の或る距離の1点で反射されるような理想的な場合、複素位相データ系列(s8I (DC)(1),s8I (DC)(2),…,s8I (DC)(N)),(w1s8Q (DC)(1),w2s8Q (DC)(2),…,wNs8Q (DC)(N))の包絡線は図15のようなシヌソイドとなるが、通常は、アンテナパターンの広がりやパルス探知波s4’(t)が複数の目標物で反射される影響により、包絡線は多数のシヌソイドの重ね合わせ波形となる。
6ステップ目の周波数において干渉波があるので、w6=0(オフ値)であり、この部分がスペクトル・ホールとなる(図6の実線)。従って、演算処理部21は、N−1(=29)個の同相位相データ(s8I (DC)(1),s8I (DC)(2),…,s8I (DC)(5),s8I (DC)(7),…,s8I (DC)(30))及び直交位相データ(s8Q (DC)(1),s8Q (DC)(2),…,s8Q (DC)(5),s8Q (DC)(7),…,s8Q (DC)(30))の包絡線を最小二乗法によりそれぞれ求め、欠落した複素位相データ(s8I (DC)(6),s8Q (DC)(6))を補間する(図6の点線)。これにより、レンジ・スペクトルR(φ)の歪みが補正され、逆離散フーリエ変換器12による距離検出の精度が向上する。
尚、本実施例では、演算処理部21がスペクトル・ホールのある複素位相データを補間する例について説明したが、実施例1の場合と同様に、「複素位相データ」の代わりに「離散スペクトル・データ」を使用することも勿論可能である。
図16は、本発明の実施例5に係る超広帯域パルス・センサの基本構成を表すブロック図である。図16において、図12と同様の構成部分については同符号を付して説明は省略する。本実施例の超広帯域パルス・センサ1は、実施例3及び実施例4の超広帯域パルス・センサの構成を組み合わせたものである。すなわち、干渉波検出回路20は、実施例2と同様に、レンジゲートの後の時間帯TZRGBを利用して干渉波の信号強度データI(αi)を検出する。尚、送信をオフとし局部発信器3によりRF信号s2 ‘(t)を発生させ、アンテナ8で外部からの干渉波信号を観測することによってその信号強度データIを検出することもできる。そして、この干渉波の信号強度データI(αi)は、デジタル値としてTTL制御回路22及び演算処理部21へ出力される。TTL制御回路22は、入力される干渉波の信号強度データI(αi)の値が所定の閾値Ith以下の場合にはATT23の出力ゲインaiを最小(0dB)に設定し、所定の閾値Ithより大きい場合には干渉波の信号強度データI(αi)の値に応じてATT23の出力ゲインaiを制御し、他の無線システムの周波数帯と干渉する場合はパルス探知波s4’(t)の強度が抑えられる。このATT23の出力ゲインaiの設定データは、出力ゲイン記憶部22aに記憶され、出力ゲイン記憶部22aから演算処理部21へも出力される。
演算処理部21は、出力ゲインaiの逆数1/aiに比例して複素位相データs8I (DC)(αi),s8Q (DC)(αi)の増幅率βαiを設定する。また、演算処理部21は、干渉波の信号強度データI(αi)を所定の閾値Ithmax(>Ith)と比較し、I(αi)>Ithmaxの場合には重み係数wαiを0(オフ値)に設定し、それ以外の場合には1(オン値)に設定する。設定された重み係数wαiは使用周波数情報記憶部21aに記憶される。演算処理部21は、位相検波器10から入力される各ステップαiの複素位相データs8I (DC)(αi),s8Q (DC)(αi)に増幅率βαi及び重み係数wαiを乗算し、N個の複素位相データの系列{(wαiβαis8I (DC)(αi),wαiβαis8Q (DC)(αi))|i=1,2,…,N}を得た後、それぞれのステップの複素位相データ(wαiβαis8I (DC)(αi),wαiβαis8Q (DC)(αi))を、周波数fSTALO(αi)の小さい順に並べ替え、その後、(wαiβαis8I (DC)(αi),wαiβαis8Q (DC)(αi))=(0,0)のものを除外した(N−nlack)個の複素位相データの包絡線から最小二乗法によりnlack個の欠落部の位相を内挿する。そして、スペクトル・ホールのある複素位相データを補間したN個の複素位相データ((β1s8I (DC)(1),β1s8Q (DC)(1)),(β2s8I (DC)(2),β2s8Q (DC)(2)),…,(βNs8I (DC)(N),βNs8Q (DC)(N)))を逆離散フーリエ変換器12に出力する。
逆離散フーリエ変換器12は、レベル調整されたN個の複素位相データを上述の式(16b)と同様に逆離散フーリエ変換し、レンジ・スペクトルR(φ)を合成し、そのR(φ)のピークのφ=φpeakから目標物までの距離dを上述の式(13)により算出する。
これにより、干渉する他の無線システムからの干渉波の強度が比較的弱い(I(αi)が閾値Ithより大きく閾値Ithmaxより小さい)場合には、パルス探知波s4’(t)の強度が減衰させられるため、その無線システムへの与干渉を軽減することができる。また、干渉波の強度が強い(I(αi)が閾値Ithmaxより大きい)場合には、重み係数wαiによって複素位相データwαis8I (DC)(αi),wαis8Q (DC)(αi)が強制的に0に設定されるため、強い被干渉を回避してレンジ・スペクトルR(φ)の歪みを抑制し、逆離散フーリエ変換器12による距離検出の精度を向上させることができる。
尚、本実施例では、演算処理部21がスペクトル・ホールのある複素位相データを補間する例について説明したが、実施例1の場合と同様に、「複素位相データ」の代わりに「離散スペクトル・データ」を使用することも勿論可能である。
図17は、本発明の実施例6に係る超広帯域パルス・センサの基本構成を表すブロック図である。本実施例では、超広帯域パルス・センサをホモダイン方式(ダイレクト・コンバージョン方式)で構成した例を示す。
図17において、局部発振器3、任意ステップ・パターン信号生成器4、パターン・メモリ4a、パルス変調器6、サーキュレータ7、アンテナ8、位相検波器10、逆離散フーリエ変換器12、表示装置13、干渉波検出回路20、演算処理部21、及び使用周波数情報記憶部21aについては、図7と同様である。図7と比較すると、本実施例の超広帯域パルス・センサ1では、コヒーレント発振器とパルス変調器が省略されており、局部発振器3が出力する局部発信周波数fSTALOのRF信号s2(t)をそのままアンテナ8から発信する。また、アンテナ8で受信された反射波は、位相検波器10に入力される。位相検波器10は、局部発振器3が出力するRF信号s2(t)と同相の信号s2I(t)及び位相をπ/2だけ遅らせた信号s2Q(t)と、反射波s5(t)とを混合してI/Qビデオ信号s8I”(t),s8Q”(t)を生成し、ローパス・フィルタによりI/Qビデオ信号s8I”(t),s8Q”(t)の交流成分を濾波して直流成分のみをとりだし、複素位相データs8I (DC)(αi;t),s8Q (DC)(αi;t)を生成し、これらをA/D変換し演算処理部21及び干渉波検出回路20へ出力する。以下は、実施例2と同様の処理が行われる。
尚、本実施例の発射側フロントエンド部5’は、TTL制御回路22、及び可変アッテネータ(ATT)23を備えている。TTL制御回路22は、ATT23の減衰量を制御することによりRF信号s2(t)を実施例2と同様にスイッチング制御する。
また、演算処理部21には、干渉波検出回路20が出力する干渉波の信号強度データI(αi)が入力される。演算処理部21は、各ステップαi(i=1,2,…,N)のそれぞれに対して、干渉波の信号強度データI(αi)と所定の閾値Ithを比較して、I(αi)が閾値Ithより大きい場合には、そのステップαiに対するオン・オフ値βiを0(オフ値)に設定し、I(αi)が閾値Ith以下の場合には、そのステップαiに対するオン・オフ値βiを1(オン値)に設定する。TTL制御回路22は、オン・オフ値βiが0のステップαiでは、ATT23によりRF信号s2(t)を遮断し、これによりスペクトル・ホールが適宜設定される。
このように、超広帯域パルス・センサをホモダイン方式により構成すると、回路の部品点数が少なく、安価で簡易な回路構成とすることができる。
本実施例では、演算処理部21がスペクトル・ホールのある複素位相データを補間する方法について説明したが、実施例1の場合と同様に、「複素位相データ」の代わりに「離散スペクトル・データ」を使用することも勿論可能である。
図18は、本発明の実施例7に係る超広帯域パルス・センサの基本構成を表すブロック図である。図19は、実施例7に係る超広帯域パルス・センサにおける(a)連続探知波s3”(t)の波形の一例、(b)反射波s5”(t)の波形の一例、及び(c)レンジゲートを表す図である。本実施例では、送信側のパルス変調器を廃止しステップ状に周波数変化する連続波を送信する一方、受信側で位相検波した後の連続波受信信号にパルス状のレンジゲート処理をするように構成した例を示す。
図18において、コヒーレント発振器2、局部発振器3、任意ステップ・パターン信号生成器4、パターン・メモリ4a、発射側フロントエンド部5’、サーキュレータ7、アンテナ8、フロントエンド部9、位相検波器10、逆離散フーリエ変換器12、表示装置13、干渉波検出回路20、演算処理部21、及び使用周波数情報記憶部21aについては、図7と同様である。
図7と比較すると、本実施例の超広帯域パルス・センサ1では、パルス変調器6が省略され、出力停止制御部24が追加されている。従って、発射側フロントエンド部5’からは、図8(a)に示したような連続探知波s3”(t)が出力され、この連続探知波s3”(t)はパルス変調されることなくアンテナ8から放射される。従って、アンテナ8から放射される信号は、図19(a)のように、周波数が時間ステップ幅τPRFでステップ状に変化する信号となる。
発射側フロントエンド部5’は、実施例2と同様、コヒーレント発振器2が出力するIF信号s1(t)と局部発振器3が出力するRF信号s2’(t)とを混合し、連続探知波s3’(t)を生成し、Nステップの出力パターン系列(α1,α2,…,αN)の各ステップαi毎に設定されたオン・オフ値βi(βi=1 or 0;i=1,2,…,N)でスイッチングした後に、連続探知波s3”(t)としてサーキュレータ7へ出力する。各オン・オフ値βiは、使用周波数情報記憶部21aに設定される。図19(a)の例では、DAAにより干渉波が検出され、4番目のステップのオン・オフ値β4が0(オフ値)に設定されている。従って、この4番目のステップの時間帯TZα4においては、アンテナ8から電波は放射されないため、周波数fCOHO+f0+(α4−1)Δfがスペクトル・ホールとなる。
出力停止制御部24は、局部発振器3から発射側フロントエンド部5’からの連続探知波s3”(t)の出力をオン/オフ制御する。具体的には、出力停止制御部24は、発射側フロントエンド部5’を出力オフ状態(連続探知波s3”(t)の出力をオフとした状態)とし、局部発振器3によりNステップの出力パターン系列(α1,α2,…,αN)を1回以上続けてRF信号s2’(t)を出力させた後、発射側フロントエンド部5’を出力オン状態(連続探知波s3”(t)の出力をオンとした状態)とし、局部発振器3により出力パターン系列(α1,α2,…,αN)を1回以上続けてRF信号s2’(t)を出力させる制御を、繰り返し実行する制御を行う。
アンテナ8から放射された信号は、目標物で反射され再びアンテナ8で受信され、サーキュレータ7を介して位相検波器10に入力される。この位相検波器10に入力される反射波s5”(t)の波形は図19(b)のようになる。反射波s5”(t)は、放射波s3”(t)に比べて、往復旅行時間trだけ遅延し、また、外部からの干渉波が重畳する。
受信側フロントエンド部9は、局部発振器3が出力するRF信号s2’(t)と反射波s5”(t)とを混合するとともに、混合波の上側波帯成分をフィルタ除去し、下側波帯成分をダウン・コンバート信号s7”(t)として位相検波器10へ出力する。位相検波器10は、コヒーレント発振器2が出力するIF信号s1(t)と同相の信号s1I(t)及び位相をπ/2だけ遅らせた信号s1Q(t)と、ダウン・コンバート信号s7”(t)とを混合し、これらをローパス・フィルタに通して直流成分のみを取り出すことにより、I/Qビデオ信号s8I (DC)(t),s8Q (DC)(t)を生成し、演算処理部21へ出力する。この受信側フロントエンド部9,位相検波器10の処理は、実施例1,2で説明したものと同様である。
本実施例では、受信される反射波s5”(t)は、パルス状ではなく、図19(b)のようにステップ状に周波数が変化する連続波である。そこで、本実施例では演算処理部21は、図19(c)に示したような時間ステップ幅τPRFと同じ周期の一定時間幅のレンジゲートを設定し、このレンジゲート時間帯TZRG内のI/Qビデオ信号s8I (DC)(t),s8Q (DC)(t)のみを積分する。こうして、演算処理部21はβi=1(オン値)である(N−nlack)個の複素位相データの系列{(s8I (DC)(αi),s8Q (DC)(αi))|βi=1}を得る。次いで、演算処理部21は、それぞれのステップの複素位相データ(s8I (DC)(αi),s8Q (DC)(αi))を、周波数fSTALO(αi)の小さい順に並べ替え(図9参照)、その後、(N−nlack)個の複素位相データの包絡線から最小二乗法によりnlack個の欠落部の位相を内挿する。スペクトル・ホールのある複素位相データを補間したN個の複素位相データ((s8I (DC)(1),s8Q (DC)(1)),(s8I (DC)(2),s8Q (DC)(2)),…,(s8I (DC)(N),s8Q (DC)(N)))は逆離散フーリエ変換器12に出力される。
逆離散フーリエ変換器12は、補間された複素位相データを上述の式(16b)と同様に逆離散フーリエ変換し、レンジ・スペクトルR(φ)を合成し、そのR(φ)のピークのφ=φpeakから目標物までの距離dを上述の式(13)により算出する。
尚、本実施例の超広帯域パルス・センサ1では、アンテナ8から発射する信号は、スペクトル・ホールが設定された時間帯を除いて、連続波(連続探知波s3”(t))であるため、実施例2の場合と異なり、外部からの干渉波を同時には検出できない。従って、目標物の検出を行う時間帯と、外部からの干渉波の検出を行う時間帯とを交互に繰り返すことによって、外部からの干渉波の周波数帯にスペクトル・ホールを適宜設定する。
図20は、実施例7の超広帯域パルス・センサの全体動作を表すフローチャートである。
(ステップS11)
超広帯域パルス・センサ1は、まず、ステップS11で、スペクトル・ホール設定処理を行う。
このスペクトル・ホール設定処理では、出力停止制御部24が発射側フロントエンド部5’の出力をオフとして、局部発振器3により周波数系列(fα1,fα2,…,fαN)(fαi=f0+(αi−1)Δf;i=1,2,…,N)に従って周波数が時間ステップ幅τPRFでステップ状に変化するRF信号s2’(t)を発生させる。この場合、アンテナ8からは探知波は発射されないため、アンテナ8で外部からの干渉波のみが受信される。
受信された干渉波s5 (spurious)(t)は、受信側フロントエンド部9に入力される。受信側フロントエンド部9は、局部発振器3が出力する周波数fαi(i=1,…,N)のRF信号s2’(t)と反射波干渉波s5 (spurious)(t)とを混合するとともに、混合波の上側波帯成分をフィルタ除去し、下側波帯成分をダウン・コンバート信号s7 (spurious)(t)として位相検波器10へ出力する。位相検波器10は、コヒーレント発振器2が出力する周波数fCOHOのIF信号s1(t)と同相の信号s1I(t)及び位相をπ/2だけ遅らせた信号s1Q(t)と、ダウン・コンバート信号s7 (spurious)(t)とを混合し、これらをローパス・フィルタに通して直流成分のみを取り出すことにより、I/Qビデオ信号s8I (spurious)(αi;t),s8Q (spurious)(αi;t)を生成する。
干渉波検出回路20は、I/Qビデオ信号s8I (spurious)(αi;t),s8Q (spurious)(αi;t)の、各ステップの時間帯TZαiのうちレンジゲート(図19(c))の部分を取り出す。そして、干渉波検出回路20は、取り出した部分の自乗和の平方根(すなわち、強度)の積分である干渉波の信号強度I(αi)を式(22)と同様に演算し、干渉波の信号強度データI(αi)として演算処理部21へ出力する。
演算処理部21は、N個のステップαi(i=1,2,…,N)のそれぞれに対して、干渉波の信号強度データI(αi)と所定の閾値Ithを比較して、I(αi)が閾値Ithより大きい場合には、そのステップαiに対するオン・オフ値βiを0(オフ値)に設定し、I(αi)が閾値Ith以下の場合には、そのステップαiに対するオン・オフ値βiを1(オン値)に設定する。設定されたオン・オフ値βiは使用周波数情報記憶部21aに記憶され、次の目標物検出処理で用いられる。これにより、干渉波信号の成分が検出された周波数(fαi+fCOHO)に対しては、スペクトル・ホールが適宜設定され、干渉検出回避(DAA)を適応的に行うことができる。
(ステップS12〜S14)
ステップS12〜S14では、出力停止制御部24が発射側フロントエンド部5’の出力をオンとして、目標物検出処理をNr回繰り返し実行することにより、目標物までの距離の検出を行う。この距離検出の動作については上述した通りであり省略する。
以上のように、本実施例に係る超広帯域パルス・センサ1では、パルス変調器6を省略し、代わりに演算処理部21において受信信号のレンジゲート処理を行うことにより、実施例2の場合に比べ、さらに機器構成を簡単にすることができる。
尚、本実施例では、演算処理部21がスペクトル・ホールのある複素位相データを補間する例について説明したが、実施例1の場合と同様に、「複素位相データ」の代わりに「離散スペクトル・データ」を使用することも勿論可能である。
図21は、本発明の実施例8に係る超広帯域パルス・センサの基本構成を表すブロック図である。図21において、コヒーレント発振器2、局部発振器3、任意ステップ・パターン信号生成器4、パターン・メモリ4a、周波数混合器5、パルス変調器6、サーキュレータ7、アンテナ8、受信側フロントエンド部9、位相検波器10、逆離散フーリエ変換器12、及び表示装置13については、実施例1と同様であり、同符号を付して説明は省略する。また、干渉波検出回路20及び出力停止制御部24は、実施例7のものと同様である。
図21の演算処理部21は、基本的には実施例7と略同様の機能を有するが、本実施例では、演算処理部21は、実施例7におけるオン・オフ値の設定に代えて、パターン・メモリ4aの出力パターン系列の組み替えを行う点で機能的に相違している。
また、本実施例では、パルス変調器6は、内部にスイッチング回路を備え、パルス探知波s4’(t)をアンテナ8に出力する出力オン状態と、出力しない出力オフ状態との切り替えを行う出力スイッチング部としての機能を有している。
出力停止制御部24は、パルス変調器6を出力オフ状態(パルス探知波s4’(t)の出力をオフとした状態)とし、局部発振器3によりNステップの出力パターン系列(α1 (0),α2 (0),…,αN (0))を1回以上続けてRF信号s2’(t)を出力させた後、パルス変調器6を出力オン状態(パルス探知波s4’(t)の出力をオンとした状態)とし、局部発振器3により(N−nlack)ステップの出力パターン系列(α1,α2,…,αN−nlack)を1回以上続けてRF信号s2’(t)を出力させる制御を、繰り返し実行する制御を行う。ここで、Nステップの出力パターン系列(α1 (0),α2 (0),…,αN (0))は、予め設定されパターン・メモリ4aに記憶されている。また、(N−nlack)ステップの出力パターン系列(α1,α2,…,αN−nlack)は、出力パターン系列(α1 (0),α2 (0),…,αN (0))からnlack個の不使用周波数点集合に属する出力パターンを除いた系列である。
以上のように構成された本実施例の超広帯域パルス・センサ1について、以下その動作を説明する。
まず、全体的な動作は、実施例7において図20のフローチャートで説明した流れと同様である。ここで、ステップS13における目標物検出処理は、実施例1で説明した処理と同様であるため説明は省略する。この場合、演算処理部21は、実施例1の欠落補償部11と同様の動作を行う。また、本実施例では位相検波器が出力する複素位相データを用いて補間処理を行っている。
一方、ステップS11におけるスペクトル・ホール設定処理は、次のようにして行われる。
まず、出力停止制御部24がパルス変調器6の出力をオフとして、局部発振器3により周波数系列(fα1(0),fα2(0),…,fαN(0))(fαi(0)=f0+(αi (0)−1)Δf;i=1,2,…,N)に従って周波数が時間ステップ幅τPRFでステップ状に変化するRF信号s2’(t)を発生させる。この場合、アンテナ8からはパルス探知波s4’(t)は発射されないため、アンテナ8では外部からの干渉波のみが受信される。
受信された干渉波s5 (spurious)(t)は、受信側フロントエンド部9に入力される。受信側フロントエンド部9は、局部発振器3が出力する周波数fαi(0)(i=1,…,N)のRF信号s2’(t)と反射波干渉波s5 (spurious)(t)とを混合するとともに、混合波の上側波帯成分をフィルタ除去し、下側波帯成分をダウン・コンバート信号s7 (spurious)(t)として位相検波器10へ出力する。位相検波器10は、コヒーレント発振器2が出力する周波数fCOHOのIF信号s1(t)と同相の信号s1I(t)及び位相をπ/2だけ遅らせた信号s1Q(t)と、ダウン・コンバート信号s7 (spurious)(t)とを混合し、これらをローパス・フィルタに通して直流成分のみを取り出すことにより、I/Qビデオ信号s8I (spurious)(αi (0);t),s8Q (spurious)(αi (0);t)を生成する。
干渉波検出回路20は、I/Qビデオ信号s8I (spurious)(αi (0);t),s8Q (spurious)(αi (0);t)の、各ステップの時間帯TZαiのうちレンジゲート(図19(c))の部分を取り出す。そして、干渉波検出回路20は、取り出した部分の自乗和の平方根(すなわち、強度)の積分である干渉波の信号強度I(αi (0))を式(22)と同様に演算し、干渉波の信号強度データI(αi (0))として演算処理部21へ出力する。
演算処理部21は、N個のステップαi (0)(i=1,2,…,N)のそれぞれに対して、干渉波の信号強度データI(αi (0))と所定の閾値Ithを比較して、I(αi (0))が閾値Ithより大きい場合には、そのステップαi (0)を残し、I(αi (0))が閾値Ith以下の場合には、そのステップαi (0)を除去することにより、(N−nlack)ステップの出力パターン系列(α1,α2,…,αN−nlack)を生成する。ここで、nlackは除去されたステップの数(不使用周波数点集合の周波数点数)である。生成された出力パターン系列(α1,α2,…,αN−nlack)は、パターン・メモリ4aに記憶され、次の目標物検出処理で用いられる。これにより、干渉波信号の成分が検出された周波数(fαi (0)+fCOHO)に対しては、スペクトル・ホールが適宜設定され、干渉検出回避(DAA)を適応的に行うことができる。
尚、図21は、ヘテロダイン受信を想定した回路構成になっているが、ホモダイン受信でも適用することができる。また、本実施例では、演算処理部21がスペクトル・ホールのある複素位相データを補間する例について説明したが、実施例1の場合と同様に、「複素位相データ」の代わりに「離散スペクトル・データ」を使用することも勿論可能である。