JP5732274B2 - 糟糠類を用いて得られる生成物およびその製造方法 - Google Patents

糟糠類を用いて得られる生成物およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、糟糠類を用いて得られるヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生が増強された生成物およびその製造方法、糟糠類を用いるヘミセルラーゼ製剤および/またはセルラーゼ製剤の製造方法、並びに糟糠類を用いるヘミセルロースに由来する可溶化物および/またはセルロースに由来する可溶化物の製造方法に関する。
小麦、大麦、米、トウモロコシなどの穀類を精白して小麦粉、大麦粉、白米、トウモロコシ粉などを製造する際の副産物である、小麦フスマ、大麦フスマ(大麦糠)、ライ麦フスマ(ライ麦糠)、米ヌカ、ドウモロコシ糠(コーンブラン)などの糟糠類は、従来、その殆どが家畜用飼料、肥料などとして用いられてきたが、糟糠類には食物繊維などの人体にとって有用な成分が多く含まれることから、糟糠類の健康食品や機能性製品への有効利用が図られるようになっている。
糟糠類の細胞壁組織は、アラビノキシランから主としてなるヘミセルロースを多く含んでおり、アラビノキシランの構成単位であるアラビノースおよびキシロース、またはそれらのオリゴ糖は血糖値抑制作用を有するとされている。
かかる点から、糟糠類の細胞壁組織を形成しているアラビノキシランなどのヘミセルロースを、アラビノースやキシロースなどの単糖やそれらのオリゴ糖にまで容易に分解することができれば、糟糠類を有効活用が可能になる。
しかし、ヘミセルロースを分解できる市販の酵素剤(ヘミセルラーゼ)は種類が少なく、ヘミセルラーゼは植物の種類によってその作用が異なることから、市販のヘミセルラーゼが糟糠類の細胞壁組織を形成しているヘミセルロースの分解に必ずしも有効に働くとは限らず、かかる点から、糟糠類の細胞壁組織を形成しているヘミセルロースに対して優れた分解作用を示すヘミセルラーゼの開発が求められている。
また、糟糠類を健康食品や機能製品として用いるにあたっては、そのままでは摂取しにくかったり、消化吸収性などに劣ったり、機能を十分に発揮しにくいことから、糟糠類に所定の処理・加工を施すことが従来から行われており、そのような従来技術として、麹菌を用いて糟糠類を処理する方法が知られている。
麹菌を用いて糟糠類を処理する従来技術としては、具体的には、(1)フスマに水分含量が25〜50重量%になるように加水し、次いでこれに麹菌を接種して培養することによってフスマの脱臭を行う方法(特許文献1)、(2)穀類及び豆類外皮由来の食物繊維原料に麹菌を接触、繁殖させて発酵処理を行った後、回収率が40〜90重量%となるように部分加水分解を行って食物繊維を製造する方法(特許文献2)、(3)バガスなどのヘミセルロース含有植物資源を蒸煮爆砕処理し、それに小麦フスマなどの発酵基質を混合し、混合物の水分含量を調整した後、麹菌により製麹し、得られた麹に水を加えて麹分散液を調製し、当該麹分散液に前記した蒸煮爆砕処理物を混合し、水分を調整して発酵させて蒸煮爆砕処理食物繊維を製造する方法(特許文献3)、(4)小麦フスマや米ぬかなどのヘミセルロース含有材料を、ヘミセルロース分解活性を有する酵素、またはβ−グルコシダーゼまたはオキシラーゼ高生産麹菌を用いて処理して、チロキシナーゼ活性阻害剤を製造する方法(特許文献4)などが知られている。
上記(1)の方法はフスマの脱臭効果があり、上記(2)の方法は食物繊維の摂取性の向上効果があり、また上記(3)ではキシロビオースやトキシロトリオースに富んだキシロオリゴ糖、抗酸化活性物質および食物繊維を含有する素材が得られるとしているが、いずれも、糟糠類の細胞壁組織を形成しているヘミセルロースの分解に有用なヘミセルラーゼを提供するものではない。しかも、上記(3)の方法は、その処理工程が極めて複雑で、蒸煮爆砕処理食物繊維の製造に手間および時間を要する。
また、上記(4)は、チロキシンという特定のアミノ酸の酸化酵素であるチロキシナーゼの活性を阻害するためのチロキシナーゼ阻害剤の製造方法であり、糟糠類の細胞壁を形成しているヘミセルロースを分解するためのヘミセルラーゼの製造技術とは大きく異なっている。
特公昭62−51093号公報 特開平6−7099号公報 WO2006/123474号公報 特開2002−273598号公報
「食品廃棄物を分解する麹菌遺伝子群の解析3」平成20年度工学設計IIIプロジェクトレポート 鈴木晃 「食品廃棄物を分解する麹菌遺伝子群の解析4」平成20年度工学設計IIIプロジェクトレポート 舟津尚志 「酵素剤による小麦フスマの可溶化の研究」平成21年度工学設計IIIプロジェクトレポート 古田詠子
本発明の目的は、糟糠類の細胞壁組織を形成しているヘミセルロースおよびセルロースの分解に有用なヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生が増強された生成物並びに当該生成物の製造方法を提供することである。
そして、本発明の目的は、糟糠類の細胞壁組織を形成しているヘミセルロースおよびセルロースの分解に有用なヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生増強方法、ヘミセルラーゼ製剤、セルラーゼ製剤の製造方法を提供することである。
更に、本発明の目的は、糟糠類を用いて、ヘミセルロースおよびセルロースに由来するキシロース、アラビノース、それらのオリゴ糖、グルコース、そのオリゴ糖、可溶性食物繊維などの可溶化物を多く含む生成物を製造するのに有効な方法を提供することである。
本発明者らは上記の目的を達成すべく検討を重ねてきた。そして、糟糠類に麹菌を接種して培養するに当たって、糟糠類中に含まれている澱粉を予め除去しておき、澱粉を除去した当該糟糠類に麹菌を接種して培養すると、ヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生が増強された生成物が得られることを見出した。
そして、本発明者らは、澱粉を予め除去した糟糠類に麹菌を接種して培養するという前記した方法が、ヘミセルラーゼ製剤およびセルラーゼ製剤の製造方法として、またヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生増強方法として有用であることを見出した。
更に、本発明者らは、澱粉を予め除去した糟糠類を、ヘミセルラーゼ、セルラーゼおよび上記で得られたヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生が増強された生成物で処理すると、糟糠類の細胞壁組織を形成しているヘミセルロースおよびセルロースに由来する、キシロース、アラビノース、それらのオリゴ糖、グルコース、そのオリゴ糖、可溶性食物繊維などの可溶化物が円滑に多く生成することを見出した。
そして、本発明者らは、糟糠類からの澱粉の除去処理を、クエン酸などの有機酸を用いて高温、高圧下で加熱処理することによって行うと、糟糠類の細胞壁組織を形成しているヘミセルロースおよびセルロースの望ましくない損傷を回避しながら澱粉が円滑に除去されて、それを次の麹菌の培養に用いたときに、ヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生増強が促進すること、またヘミセルロース、セルラーゼまたはそれらの酵素を含む剤で処理したときに、糟糠類の細胞壁組織を形成しているヘミセルロースおよびセルロースに由来するキシロース、アラビノース、それらのオリゴ糖、グルコース、そのオリゴ糖、可溶性食物繊維などの可溶化物の生成がより円滑に行われることを見出し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1) 澱粉の除去処理を行った糟糠類に、麹菌を接種して培養して得られる生成物である。
そして、本発明は、
(2) ヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生が増強されている前記(1)の生成物;および、
(3) 澱粉の除去処理を行った糟糠類が、有機酸水溶液を用いて糟糠類を高温および高圧下で加熱処理して澱粉を除去した糟糠類である前記(1)または(2)の生成物;
である。
そして、本発明は、
(4) 澱粉の除去処理を行った糟糠類に麹菌を接種して培養することを特徴とする、ヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生が増強された生成物の製造方法;
(5) 澱粉の除去処理を行った糟糠類に麹菌を接種して培養することを特徴とする、ヘミセルラーゼおよび/またはセルラーゼの産生増強方法;
(6) 澱粉の除去処理を行った糟糠類に、麹菌を接種して培養することを特徴とする、ヘミセルラーゼ製剤および/またはセルラーゼ製剤の製造方法;
である。
さらに、本発明は、
(7) 澱粉の除去処理を行った糟糠類を、ヘミセルラーゼおよびセルラーゼの一方または両方を含有する酵素製剤または物質を用いて処理することを特徴とする、糟糠類の細胞壁組織を形成しているヘミセルロースおよび/またはセルロースに由来する可溶化物の製造方法;および、
(8) ヘミセルロースおよび/またはセルロースに由来する可溶化物が、アラビノース、キシロース、それらのオリゴ糖、グルコース、そのオリゴ糖および可溶性食物繊維のうちの1種または2種以上である前記(7)の製造方法;
である。
そして、本発明は、
(9) 澱粉の除去処理を行った糟糠類が、有機酸水溶液を用いて糟糠類を高温および高圧下で加熱処理して澱粉を除去した糟糠類である前記(4)〜(8)のいずれかの方法である。
澱粉の除去処理を行っていない糟糠類に麹菌を接種して培養している従来技術による場合はヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生が低いのに対して、本発明による場合は澱粉の除去処理を行った糟糠類に麹菌を接種して培養していることにより、ヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生が増強された生成物を円滑に得ることができる。
そのため、本発明は、糟糠類の細胞壁組織を形成するヘミセルロースおよびセルロースを分解させるためのヘミセルラーゼ製剤、セルラーゼ製剤の製造方法として有効であり、更には糟糠類以外の植物の細胞壁組織を形成するヘミセルロースおよびセルロースを分解するためのヘミセルラーゼ製剤およびセルラーゼ製剤の製造方法として有用である。
澱粉の除去処理を行った糟糠類をヘミセルラーゼおよびセルラーゼの一方または両方を含有する酵素製剤または物質を用いて処理する本発明の方法による場合は、澱粉の除去処理を行っていない糟糠類をヘミセルラーゼやセルラーゼなどを用いて処理する場合に比べて、ヘミセルロースおよびセルロースに由来する可溶化物、例えば、アラビノース、キシロース、それらのオリゴ糖、グルコース、そのオリゴ糖および可溶性食物繊維などの可溶化生成物を増加した量で円滑に得ることができる。
特に、本発明において、澱粉の除去処理を行った糟糠類として、有機酸水溶液を用いて高温、高圧下で加熱処理した糟糠類を用いた場合には、糟糠類の細胞壁組織を形成しているセルロースやヘミセルロースの望ましくない損傷を防ぎながら、糟糠類における澱粉の除去がより完全に行われているため、ヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生の増強、ヘミセルロースおよびセルロースに由来するアラビノース、キシロース、それらのオリゴ糖、グルコース、そのオリゴ糖および可溶性食物繊維などの可溶化物の製造により高い効果が得られる。
澱粉の除去処理を行った小麦フスマに麹菌を接種し培養して得られた生成物の抽出液を2次元電気泳動した写真 澱粉の除去処理を行っていない小麦フスマに麹菌を接種し培養して得られた生成物の抽出液を2次元電気泳動した写真
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明で用いる糟糠類は、小麦、大麦、ライ麦、ハトムギなどの麦類、米、トウモロコシ、ヒエ、アワ、モロコシなどのような穀類を精白する際に生ずる、果皮、種皮、胚芽などからなる副産物であり、通常、粉末状をなしている。
本発明で用い得る糟糠類の具体例としては、小麦フスマ、小麦末粉、大麦フスマ(大麦糠、麦糠)、ライ麦フスマ(ライ麦糠)、ハトムギフスマ(ハトムギ糠)、米糠、トウモロコシ糠(コーンブラン)、ヒエ糠、アワ糠、モロコシ糠などを挙げることができる。
本発明では、前記で挙げた糟糠類のうちの1種を単独で使用してもよいし、または2種以上を併用してもよい。
そのうちでも、本発明では、糟糠類として、入手の容易性、ヘミセルラーゼやセルラーゼの産生増強性、キシロースやアラビノースおよびそれらからなるオリゴ糖、グルコース、そのオリゴ糖、可溶性食物繊維の生成性などの点から、小麦フスマ、小麦末粉、大麦フスマ、ライ麦フスマ、ハトムギフスマ、米糠およびトウモロコシ糠のうちの1種または2種以上が好ましく用いられ、小麦フスマ、小麦末粉、ライ麦フスマ、米糠およびトウモロコシ糠の1種又は2種以上がより好ましく用いられ、小麦フスマ、小麦末粉、米糠およびトウモロコシ糠の1種または2種以上が更に好ましく用いられる。
特に、小麦フスマは、ヘミセルロースの含有量が約32質量%であって、食物繊維全体の含有量が約47質量%であり、またトウモロコシ糠(コーンブラン)は、ヘミセルロースの含有量が約44質量%であって、食物繊維全体の含有量が約60質量%あり、いずれも、食物繊維およびヘミセルロースの含有量が多いので、小麦フスマおよび/またはトウモロコシ糠(コーンブラン)を用いて本発明を行った場合には、ヘミセルラーゼやセルラーゼの産生増強作用が大きく、またキシロースやアラビノース、それらからなるオリゴ糖、グルコース、そのオリゴ糖、可溶性食物繊維をより多く含む生成物を得ることができる。
穀類を精白する際の副産物である糟糠類は、一般に澱粉を含有しており、例えば、小麦フスマにおける澱粉の含有量は通常約5〜15質量%であり、米糠における澱粉の含有量は通常約20〜30質量%であり、トウモロコシ糠(コーンブラン)における澱粉の含有量は通常約15〜30質量%である。
本発明において、糟糠類に麹菌を接種して培養するに当たっては、澱粉の除去処理を行って澱粉を予め除去した糟糠類を用いることが必要である。
また、本発明において、糟糠類をヘミセルロース、セルラーゼまたはそれらの酵素を含む物質で処理して、ヘミセルロースおよび/またはセルロースに由来する可溶化物(キシロース、アラビノース、それらのオリゴ糖、グルコース、そのオリゴ糖、可溶性食物繊維など)を製造する場合にも、澱粉の除去処理を行って澱粉を予め除去した糟糠類を用いることが必要である。
澱粉の除去処理を行ってない糟糠類に麹菌を接種して培養した場合には、ヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生の増強が行われない。
また、澱粉の除去処理を行ってない糟糠類をヘミセルラーゼ、セルラーゼまたはそれらの酵素を含む物質で処理した場合には、ヘミセルロースおよび/またはセルロースに由来する可溶化物(キシロース、アラビノース、それらのオリゴ糖、グルコース、そのオリゴ糖、可溶性食物繊維など)の生成量が少なくなる。
糟糠類からの澱粉の除去に当たっては、糟糠類の細胞壁組織を形成しているヘミセルロースおよびセルロースを過度に損傷することなく糟糠類に含まれる澱粉を十分に且つ円滑に除去できる方法を採用することが好ましい。
本発明で好ましく採用される方法としては、クエン酸、酢酸、乳酸などの有機酸および/または塩酸、硫酸などの無機酸を含む酸性水溶液を用いて澱粉の除去を行う方法を挙げることができる。
その際に、酸性水溶液のpHは、1〜5であることが好ましく、1〜4であることがより好ましく、1〜3であることが更に好ましい。
また、酸性水溶液における酸の濃度の観点からは、有機酸の水溶液を用いる場合は、有機酸の濃度が好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.4〜15質量%、更に好ましくは0.5〜12質量%である有機酸水溶液を用いるのがよく、無機酸の水溶液を用いる場合は、無機酸の濃度が好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.1〜20質量%、更に好ましくは0.5〜10質量%である無機酸水溶液を用いるのがよい。
そのうちでも、糟糠類から澱粉の除去は、クエン酸の水溶液を用いて行うことが、糟糠類の細胞壁を形成しているヘミセルロースおよびセルロースの過度の損傷を良好に防ぎながら、糟糠類に含まれる澱粉をより円滑に除去できることから望ましい。
その際のクエン酸水溶液としては、クエン酸濃度が0.1〜20質量%、更には0.4〜14質量%、特に0.6〜10質量%であるクエン酸水溶液が好ましく用いられる。
糟糠類から澱粉を除去する際の温度は、使用する除去処理剤の種類、除去処理剤における酸の濃度などによって異なり得るが、一般的には、20〜200℃であることが好ましく、80〜160℃であることがより好ましく、95〜140℃であることが更に好ましい。前記した温度範囲を採用した場合には、糟糠類に含まれている澱粉の加水分解がより促進されて、澱粉を十分に除去することができる。
かかる点から、有機酸水溶液を用いて糟糠類からの澱粉の除去処理を行う場合は、温度90〜150℃、圧力0.01〜0.3MPa、特に温度105〜125℃、圧力0.1〜0.25MPaの高温、高圧下で処理を行うことが望ましい。
澱粉の除去時の温度が低すぎると、澱粉の加水分解が行われにくくなって澱粉の除去が十分に行われなくなるか、澱粉の加水分解に長い時間がかかって澱粉の除去処理に長い時間を要するようになる。一方、澱粉の除去時の温度が高すぎると、糟糠類の細胞壁組織を形成しているヘミセルロースおよびセルロースに過度の損傷が生じて、麹菌を接種して培養したときに、ヘミセルラーゼ、セルラーゼなどのヘミセルロースまたはセルロースの分解酵素の産生が増強された生成物が得られにくくなり、また澱粉除去後の糟糠類をヘミセルラーゼおよび/またはセルラーゼを含む物質で処理したときに、キシロース、アラビノース、それらのオリゴ糖、グルコース、そのオリゴ糖、可溶性食物繊維などの有用成分を多く含む生成物が得られにくくなる。
糟糠類から澱粉を除去する際の処理時間は、使用する除去処理剤の種類、処理温度、処理圧力、糟糠類の量などによって異なり得るが、一般的には、1〜120分程度、更には3〜80分程度、特に6〜40分程度の処理時間が好ましく採用される。
酸水溶液などの澱粉の除去処理剤を用いて澱粉の除去を行った糟糠類は、麹菌を接種する次の工程、またはヘミセルラーゼやセルラーゼで処理する次の工程にそのまま直接用いてもよいが、酸水溶液などの澱粉の除去処理剤を用いて澱粉の除去を行った後に、十分に水洗を行って、糟糠類に残留している澱粉をより十分に(完全に)除去してから、前記した次の工程に用いることが好ましい。さらに、特に麹菌を接種する次の工程の前に滅菌処理を施しておくことが望ましい。
澱粉の除去がより十分に行われた糟糠類を用いることによって、澱粉を除去した後の糟糠類に麹菌を接種して培養したときに、ヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生がより増強され、また糟糠類をヘミセルラーゼおよび/またはセルラーゼで処理したときに糟糠類の細胞壁組織を形成しているヘミセルロースおよびセルロースに由来する可溶化物をより多く含む生成物を得ることができる。
本発明では、澱粉の除去処理を行った糟糠類に麹菌を接種するか、または澱粉の除去処理を行った糟糠類をヘミセルラーゼおよび/またはセルラーゼ或いはそれらの一方を含む物質で処理するが、麹菌の接種前に、またはヘミセルラーゼおよび/またはセルラーゼ或いはそれらの一方を含む物質で処理する前に、澱粉の除去処理を行った糟糠類に必要に応じて更に高周波誘電加熱処理を施してもよい。
澱粉の除去処理を行った糟糠類に更に高周波誘電加熱処理を施すことによって、麹菌を接種して培養して得られる生成物中におけるヘミセルラーゼおよび/またはセルラーゼの産生量がより増強することがあり、また糟糠類をヘミセルラーゼおよび/またはセルラーゼ或いはそれらの一方を含む物質で処理したときにヘミセルロース由来の可溶化物(キシロース、アラビノースなど)やセルロース由来の可溶化物の量が増加することがある。
高周波誘電加熱処理を行う場合の処理条件は、処理に供する澱粉除去後の糟糠類の量、当該糟糠類の水分含量などによって異なり得るが、例えば、500Wの電子レンジを用いた場合は、澱粉除去後の糟糠類1g当たり、約0.1〜1.8分間、特に約0.5〜1.5分間の加熱を行うことが好ましい。高周波誘電加熱時間(例えば電子レンジでの加熱時間)が長くなり過ぎると、熱によって構造が破壊されたり、その後の利用を行いにくい構造になることがある。
澱粉の除去処理を行った糟糠類または澱粉の除去処理を行い更に高周波誘電加熱処理を行った糟糠類(以下これらを総称して「澱粉除去後の糟糠類」ということがある)は、麹菌を接種する前に、またはヘミセルラーゼおよび/またはセルラーゼ或いはそれらの一方を含む物質で処理する前に、滅菌処理を施しておくことが望ましい。
澱粉の除去処理を行った糟糠類に接種する麹菌としては、ヒトや動物に対する病原性や毒性を持たず、安全性の高い麹菌であればいずれでもよく、Aspergillus属 oryzae種に属する麹菌、Aspergillus属 sojae種に属する麹菌、Aspergillus属 awamori種に属する麹菌、Aspergillus属 kawachii種などを挙げることができる。そのうちでも、Aspergillus属 oryzae種に属する麹菌が、産生物の風味や機能性の点から好ましく用いられる。
本発明で好適に用いられる麹菌の具体例としては、Aspergillus oryzae RIB40(独立行政法人 酒類総合研究所)、キシラナーゼ高生産麹菌(非特許文献1参照)、キシラナーゼ高生産麹菌(非特許文献2参照)などを挙げることができる。
澱粉の除去処理を行った糟糠類への麹菌胞子の接種量は、糟糠類1g当たりにつき、1×109〜1×1014個であることが好ましく、1×1010〜1×1013個あることがより好ましく、1×1011〜1×1012個であることが更に好ましい。
澱粉の除去処理を行った糟糠類に麹菌を接種して培養するに当たっては、澱粉除去後の糟糠類をそのまま用いてもよいが、これに栄養成分(例えば無機塩類、ビタミン類など)や基質(例えばキシラン、セルロースなど)を加えて培地を形成し、当該培地で麹菌を培養することが、麹菌の増殖が円滑に行われるため、好ましい。
麹菌の培養条件は、麹菌の種類、培地の形態などによって異なり得るが、一般的には、培地のpHを好ましくは3〜6.5、より好ましくは3.5〜6、更に好ましくは4〜6.5にして、温度を好ましくは20〜37℃、より好ましくは25〜35℃、更に好ましくは28〜30℃の範囲にして、好ましくは3〜15日間、より好ましくは5〜12日間、更に好ましくは7〜10日間培養を行う。
麹菌の培養を行った後は、抽出操作を行って麹菌と麹菌が生産するタンパク質を抽出する。
上記の工程を行うことによって、澱粉の除去処理を行わない糟糠類に麹菌を接種して培養した場合に比べて、ヘミセルロースの分解酵素であるヘミセルラーゼおよびセルロースの分解酵素であるセルラーゼの産生が増強される。
麹菌の培養により得られる生成物中には、エンド−グルカナーゼ、β−グルコシダーゼ、グリコシルヒドロラーゼのα−グルコシダーゼファミリー、グルコシダーゼIなどのセルラーゼが産生されている。
また、麹菌の培養により得られる生成物中には、β−1,4−キシラナーゼ、β−キシロシダーゼなどのヘミセルラーゼが産生されている。
麹菌の培養生成物中に産生されている前記したセルラーゼは、例えば、沈殿法、硫安分画法、分子分画法の方法などを採用することによって培養生成物から分離・回収することができる。
また、培養生成物中に産生されている前記したヘミセルラーゼは、例えば、沈殿法、硫安分画法、分子分画法の方法などを採用することによって培養生成物から分離・回収することができる。
麹菌の培養生成物から回収したセルラーゼおよびヘミセルラーゼは、それぞれセルラーゼ製剤、ヘミセルラーゼ製剤として用いることができる。
また、セルラーゼとヘミセルラーゼを互いに分離せずに、例えば、沈殿法、硫安分画法などを採用して、セルラーゼとヘミセルラーゼの混合物の形態で培養生成物から回収してもよく、その場合には、セルラーゼ・ヘミセルラーゼ製剤が得られる。
これにより得られるセルラーゼおよびヘミセルラーゼの一方または両方を含む製剤または物質(生成物)は、セルロースを含む物質、ヘミセルロースを含む物質、セルロースとヘミセルロースを含む物質(例えば、木材、パルプ、綿、糟糠類、大豆粕、アラビノキシランなど)から、グルコースまたはそのオリゴ糖、キシロース、アラビノース、そのオリゴ糖、セルロースに由来する可溶性食物繊維、ヘミセルロースに由来する可溶性食物繊維、セルロースとヘミセルロースに由来する可溶性食物繊維などを製造するための酵素剤または物質として有効に利用することができる。
澱粉の除去処理を行った糟糠類に麹菌を接種して培養することによって、ヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生が増強される理由は、以下のように推測される。
すなわち、麹菌は、澱粉をブドウ糖に分解する性質が強く、通常は、澱粉の分解により生じたブドウ糖を栄養分として生存、増殖するが、本発明では、澱粉の除去処理を行った糟糠類(澱粉を含まない糟糠類)に麹菌を接種して培養したことによって、澱粉をブドウ糖に分解するアミラーゼの産生が抑制され、その一方で、麹菌が生存してゆくためには栄養分としての糖が必要であることから、糟糠類の細胞壁を形成しているセルロースやヘミセルロースを分解して糖にするための酵素であるセルラーゼおよびヘミセルラーゼの産生が麹菌によって増強され、産生増強されたセルラーゼおよびヘミセルラーゼによって糟糠類の細胞壁を形成しているセルロースおよびヘミセルロースが糖に分解され、その糖を栄養分にして麹菌の生存および増殖が行われるために、麹菌の培養によって得られる生成物中で、セルラーゼおよびヘミセルラーゼの産生が増強されると推測される。
また、澱粉の除去処理を行った糟糠類を、ヘミセルラーゼおよびセルラーゼの一方または両方を含む酵素剤または物質で処理して、糟糠類の細胞壁組織を形成しているヘミセルロースおよびセルロースに由来する可溶化物、例えば、キシロース、アラビノース、これらのオリゴ糖、グルコース(ブドウ糖)、そのオリゴ糖、可溶性食物繊維などを製造するに当たっては、使用するヘミセルラーゼおよびセルラーゼの一方または両方を含む酵素剤または物質の種類は特に制限されず、糟糠類の細胞壁組織を分解し得るヘミセルラーゼおよびセルラーゼの一方または両方を含む酵素剤または物質であればいずれでもよい。製造しようとする可溶化物質の種類などに応じて、ヘミセルラーゼおよびセルラーゼのうちの一方を単独で使用してもよいし、ヘミセルラーゼとセルラーゼの両方を併用してもよい。
また、ヘミセルラーゼおよびセルラーゼの単独使用および併用のいずれの場合にも、これらの酵素を用いる分解処理は、1段階で行ってもよいし、2段階以上の多段階で行ってもよい。
澱粉の除去処理を行った糟糠類の細胞壁組織を形成しているヘミセルロースおよび/またはセルロースを分解するために用い得る酵素としては、例えば、β−1,4−キシラナーゼ、β−キシロシダーゼなどのヘミセルラーゼ、エンド−グルカナーゼ、β−グルコシダーゼ、グリコシルヒドロラーゼのα−グルコシダーゼファミリー、グルコシダーゼIなどのセルラーゼを挙げることができる。
また、前記した酵素を含む酵素製剤や物質としては、例えば、Optimase CX72L[キシラナーゼ製剤;非特許文献3を参照](GENENCOR社製)、スミチームARS(アラビナーゼ製剤)(新日本化学社製)、キシラナーゼ高生産麹菌からの酵素抽出液、澱粉の除去処理を行った糟糠類に麹菌を接種し培養して得られるヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生が増強された本発明の生成物などを挙げることができる。但し、これらに限定されるものではない。
澱粉の除去処理を行った糟糠類をヘミセルラーゼおよびセルラーゼの一方または両方を含む酵素製剤または物質で処理する際の処理温度、pH、処理時間などの条件は、使用する酵素に適した温度、pH、時間を採用すればよい。
また、使用する前記した酵素または酵素含有物質の量も特に制限されず、各々の状況に適した量で使用することができる。
澱粉の除去処理を行った糟糠類をヘミセルラーゼおよびセルラーゼの一方または両方を含む酵素製剤や物質で処理して得られる可溶化物、例えば、アラビノース、キシロース、これらのオリゴ糖、グルコース、そのオリゴ糖、水溶性食物繊維は、一般に、水に可溶性であるために、水溶液の形態にして糟糠類の処理生成物から分離して回収することができる。
前記した可溶化物のうち、キシロース、アラビノースは甘味を有する一方で人体に吸収されず、またキシロース、アラビノース、それらのオリゴ糖、可溶性食物繊維は、血圧上昇抑制作用などの成人病予防作用を有することが報告されていることから、成人病の予防や治療用などに有効に用いることができる。
澱粉の除去処理を行った糟糠類をヘミセルラーゼおよびセルラーゼの一方または両方を含む酵素製剤や物質で処理することによって、澱粉の除去処理を行ってない糟糠類をヘミセルラーゼおよびセルラーゼの一方または両方を含む酵素製剤や物質で処理する場合に比べて、ヘミセルロースおよび/またはセルロースに由来する可溶化物の生成量が多くなる理由は、以下のように推測される。
すなわち、糟糠類中に澱粉が含まれていないことによって、ヘミセルラーゼおよびセルラーゼの一方または両方を含有する酵素剤や物質中に通常少量含まれるアミラーゼ(澱粉分解酵素)の作用が停止するかまたは抑制され、そのような状況下でヘミセルラーゼおよび/またはセルラーゼがアミラーゼなどによる阻害を生ずることなく、十分に働くことにより、糟糠類の細胞壁組織を形成しているセルロースおよび/またはヘミセルロースが良好に分解されて、可溶化物になるためであると推測される。
以下に、実施例などによって本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例などにより何ら限定されるものではない。
《実施例1》
(1)小麦フスマからの澱粉の除去処理:
(i) 100mL容の容器に、小麦フスマ4gと50mM クエン酸水溶液40mLを入れて混合した後、オートクレーブで、121℃で20分間加熱した。
(ii) 上記(i)で処理した小麦フスマを、温度95℃の熱湯200mLを用いて反応容器から目の細かいネット上に取り出して回収し、回収した小麦フスマをネットごと温度95℃の熱湯200mL中に1分間浸け、次いで、ネット上の小麦フスマを温度95℃の熱湯600mLで洗浄した後、30分間放置して水分をある程度除去し、オートクレーブにて121℃で20分間加熱滅菌処理して、澱粉除去後の小麦フスマ(A1)を回収した。
(2)澱粉除去後の小麦フスマ(A1)への麹菌の接種および培養:
(i) 上記(1)の(ii)で回収した澱粉除去後の小麦フスマ(A1)2gに、麹菌(Aspergillus oryzae RIB40:酒類総合研究所製)の胞子7×1011個を接種し、30℃で7日間培養を行った。培養後の小麦フスマ(A1)に0.5%NaClの入った10mM 酢酸緩衝液(pH5.0)400mLを入れ、室温で3時間放置して麹菌が生産した酵素タンパク質などを抽出した。その後No.5Aのろ紙でろ過し、さらに0.45μmのメンブレンでろ過して使用した。
(ii) 上記(i)で得られた抽出液について、そのα−アミラーゼ活性を下記の方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(iii) 上記(i)で得られた抽出液について、そのキシラナーゼ活性を下記の方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(iv) 上記(i)で得られた抽出液について、そのキシロシダーゼ活性を下記の方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(3)α−アミラーゼ活性の測定方法
小麦フスマ(A1)の培養抽出液におけるα−アミラーゼ活性を以下の方法で測定して、澱粉の除去の程度の指標とした。
《1》 「基質溶液」、「酵素溶液」および「反応停止液」からなるKikkoman Corp.製の「α−アミラーゼ測定キット」を使用し、当該α−アミラーゼ測定キットの基質溶液25μLおよび酵素溶液25μLを試験官に入れて混合して、37℃で5分間予備加熱した後、前記試験官に、上記(2)の(i)で回収した抽出液50μLを入れて、37℃で10分間加熱し、次いでα−アミラーゼ測定キットの反応停止液1mLを入れて反応を停止させ、反応停止後の液の吸光度(EA)を測定した(測定波長:波長400nm)。
《2》 また、上記(i)で使用したのと同じKikkoman Corp.製の「α−アミラーゼ測定キット」の基質溶液25μLおよび酵素溶液25μLを試験官に入れて混合して、37℃で15分間加熱した後、α−アミラーゼ測定キットの反応停止液1mLを入れて反応を停止させ、当該反応の停止後に上記(1)の(ii)で回収した澱粉除去後の小麦フスマ(A1)の50μLを入れて、ブランク用液を調製し、当該ブランク用液の吸光度(EB)を測定した(測定波長:波長400nm)。
《3》 次いで、下記の数式(I)に従って、澱粉除去後の小麦フスマ(A1)のα−アミラーゼ活性を求めて、小麦フスマ(A1)における澱粉の除去の程度の指標とした。
α−アミラーゼ活性の値が小さいほど、澱粉の除去の程度が高いことを示す。

α−アミラーゼ活性(mU/μg)=(((EA−EB)×0.179×Df)/タンパク質量)×1000 (I)

上記式中、Dfは抽出液の希釈倍率(10倍)を示す。また、タンパク質量は単位μg/mLで用いた。
(4)キシラナーゼ活性の測定方法
Megazyme社製の「XYLANZYME AX TABLETS」を使用して、下記の方法でキシラナーゼ活性を測定した。
《1》 XYLANZYME AX TABLET(以下「AX錠」という)を乳鉢に入れて粉砕し、粉砕したAX錠の0.01gを1.5mL容のチューブに入れたものを、1つの試料につき2つ用意した。
《2》 上記《1》で用意した、AX錠の粉砕物入りの一方のチューブには反応停止液である0.5M Tris−HCl(pH9.0)800μLを入れてブランク用とし、AX錠の粉砕物入りのもう一方のチューブは試料用とした。
《3》 上記《2》で準備した2つのチューブを、40℃で5分間予備加熱し、両方のチューブのそれぞれに試料[上記(i)で得られた10倍抽出液]200μLを入れ、40℃で10分間加熱し、ついで試料量のチューブには、反応停止液である0.5M Tris−HCl(pH9.0)800μLを入れて十分に混合した。
《4》 次に、2つのチューブを10000rpmで10分間遠心分離した後、上清液を回収し、15000rpmで再度遠心分離した後、上清液の吸光度を測定した(測定波長590nm)。
《5》 キシラナーゼの活性値が既知のものを用いて吸光度を横軸としキシラナーゼ活性を縦軸とする検量線を予め作製しておき、得られた吸光度の値を当該検量線に当てはめて、キシラナーゼ活性値を求めた。なお、活性(mU/μg)はタンパク質量(μg/mL)で換算した。
(5)キシロシダーゼ活性の測定方法
《1》 試験官に、0.1M 酢酸緩衝液(pH5.0)の125μLと1mMの基質[4−ニトロフェニル−β−D−キシロピラニサイド(SIGMA社製)]の125μLを入れ、37℃の恒温槽で5分間予備加熱した後、1分毎に試料250μLを10回投入し(試料の合計投入量2500μL)、10分後に0.25M 炭酸ナトリウムを加えて反応を停止させた。
《2》 上記《1》で反応を停止させた液の波長405nm(生成物であるp−ニトロフェノール由来)での吸光度(AT)を測定した。
《3》 別途、試薬のp−ニトロフェノールを用いて検量線を作成し傾きを求めた。
《4》 以下の数式(II)から、キシロキシダーゼ活性値を求めた。
キシロシダーゼ活性(mU/μg)=(((AT−AB)/X)×1/0.25×1/10)/タンパク質量)×1000 (II)

式中、ABはブランク(緩衝液)の吸光度、Xは検量線の傾きを示す。また、タンパク質量は単位μg/mLで用いた。
《実施例2》
(1)小麦フスマからの澱粉の除去処理:
(i) 実施例1の(1)の(i)と同じように、100mL容の容器に、小麦フスマ4gと50mM クエン酸水溶液40mLを入れて混合した後、オートクレーブで、121℃で20分間加熱した。
(ii) 実施例1の(1)の(ii)と同じように、上記(i)で処理した小麦フスマを、温度95℃の熱湯200mLを用いて反応容器から目の細かいネット上に取り出して回収し、回収した小麦フスマをネットごと温度95℃の熱湯200mL中に1分間浸け、次いで、ネット上の小麦フスマを温度95℃の熱湯600mLで洗浄した後、30分間放置して水分をある程度除去した。
(iii) 上記(ii)で回収した澱粉を除去した小麦フスマを100mL容の容器に入れ、その20倍量の蒸留水を加えて3分間混合撹拌した後蒸留水を捨て、この操作を5回繰り返して澱粉を蒸留水に溶解して除去し、それを30分間放置して水分をある程度除いた後、オートクレーブにて121℃で20分間加熱滅菌処理して、澱粉除去後の小麦フスマ(A2)を回収した。
(2)澱粉除去後の小麦フスマ(A2)への麹菌の接種および培養:
(i) 上記(1)の(iii)で回収した澱粉除去後の小麦フスマ(A2)2gに、麹菌(Aspergillus oryzae RIB40:酒類総合研究所製)の胞子7×1011個を接種し、30℃で7日間培養を行った。培養後の小麦フスマ(A2)に0.5%NaClの入った10mM 酢酸緩衝液(pH5.0)400mLを入れ、室温で3時間放置して麹菌が生産した酵素タンパク質などを抽出した。その後No.5Aのろ紙でろ過し、さらに0.45μmのメンブレンでろ過して使用した。
(ii) 上記(i)で得られた抽出液について、実施例1の(3)と同様にして、α−アミラーゼ活性を測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(iii) 上記(i)で得られた抽出液について、実施例1の(4)と同様にして、キシラナーゼ活性を測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(iv) 上記(i)で得られた抽出液について、実施例1の(5)と同様にして、キシロシダーゼ活性を測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
《比較例1》
(1)(i) 澱粉除去処理を行っていない小麦フスマ2gに水を2mL加えて湿潤状態にした後、麹菌(Aspergillus oryzae RIB40)の胞子7×1011個を接種し、30℃で7日間培養した。培養後の小麦フスマ(A2)に0.5%NaClの入った10mM 酢酸緩衝液(pH5.0)400mLを入れ、室温で3時間放置して麹菌が生産した酵素タンパク質などを抽出した。その後No.5Aのろ紙でろ過し、さらに0.45μmのメンブレンでろ過して使用した。
(ii) 上記(i)で得られた抽出液について、実施例1の(3)と同様にして、α−アミラーゼ活性を測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(iii) 上記(i)で得られた抽出液について、実施例1の(4)と同様にして、キシラナーゼ活性を測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(iv) 上記(i)で得られた抽出液について、実施例1の(5)と同様にして、キシロシダーゼ活性を測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
上記の表1にみるように、実施例1および2では、澱粉の除去処理を行った小麦フスマに麹菌を接種して培養したことにより、麹菌を培養して得られた生成物中におけるヘミセルラーゼ(キシラナーゼおよびキシロキシダーゼ)の活性が、澱粉の除去処理を行っていない小麦フスマに麹菌を接種して培養して得られた比較例1の生成物に比べて、大幅に大きくなっていることがわかる。
《実施例3》
(1)(i) 実施例2の(2)の(i)で得られた抽出液[実施例2の(1)の(iii)で得られた澱粉除去処理後の小麦フスマ(A2)に麹菌を接種し培養した後、酢酸緩衝液にて10倍量抽出を行った液]について、2次元電気泳動用ゲル(ATTO社製「e−PAGEL E−D12.5L)を用いて2次元電気泳動を行って、当該抽出液中に含まれるタンパク質の同定を行った。
その際に、抽出液中のタンパク質量が300μgになるよう調整して2次元電気泳動を行った。
(ii) その結果を図1に示す。なお、図1は、上記(i)の2次元電気泳動を行ったものをプロテオーム解析したものである。
(2)(i) 比較例1の(1)の(i)で得られた10倍量抽出液[澱粉除去処理を行っていない小麦フスマに麹菌を接種し培養した後、酢酸緩衝液にて10倍量抽出を行った液]について、2次元電気泳動用ゲル(ATTO社製「e−PAGEL E−D12.5L)を用いて2次元電気泳動を行って、当該抽出液中に含まれるタンパク質の同定を行った。
その際に、抽出液中のタンパク質量が300μgになるよう調整して2次元電気泳動を行った。
(ii) その結果を図2に示す。なお、図2は、上記(i)の2次元電気泳動を行ったものを、プロテオーム解析したものである。
(3)(i) 図1、図2において、丸で囲んだスポットはα−アミラーゼを示し、三角で囲んだスポットはβ−1,4−キシナラーゼを示し、四角で囲んだスポットは図1にのみ見られ、図2に見られないスポットを示す。
(ii) 図1における各スポット番号とタンパク質との対応関係は、下記の表2に示すとおりである。
図1、図2および表2にみるように、澱粉の除去処理を行った小麦フスマ(A2)に麹菌を接種して培養した生成物の10倍量抽出液について2次元電気泳動を行った図1では、α−アミラーゼのスポットは現れず、一方ヘミセルラーゼ系の酵素であるβ−1,4−キシラーゼのスポットが多く現れており、さらにセルラーゼ系の酵素(β−グルコシダーゼ、エンド−1,3−β−グルカナーゼ、β−ガラクトシダーゼなど)のスポットも多く現れている。
かかる結果は、麹菌が生育するには糖が必要であるが、澱粉の除去処理を行った小麦フスマ(A2)では澱粉が含まれないために、当該小麦フスマ(A2)に麹菌を接種して培養した上記(1)の場合には、図1にみるように、麹菌の培養時に澱粉を分解する酵素であるα−アミラーゼの生成がなく、その一方でセルロースを分解して糖を生成する酵素であるセルラーゼが多く生成し、それと併せてヘミセルロースを分解する酵素であるヘミセルラーゼの生成も多くなったことを示している。
《実施例4》
(1) 実施例2の(1)の(i)〜(iii)と同じ操作を行って、澱粉を除去した小麦フスマ(A2)を調製し、澱粉除去後の小麦フスマ(A2)4gに、麹菌(Aspergillus oryzae RIB40)の胞子7×1011個を接種し、30℃で7日間培養した後、当該7日間培養後の麹菌からTotal RNAを抽出し、当該麹菌の全ゲノム(約3800万塩基対)に含まれるほぼ全遺伝子12168個を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブ(鎖長:60mer)を固相化したマイクロアレイである麹菌オリゴアレイ(ファームラボ社製)を用いて、DNAマイクロアレイを行い、DOGANを用いて解析を行った。
(2) 比較として、澱粉の除去処理を行っていない小麦フスマ4gに、麹菌(Aspergillus oryzae RIB40)の胞子7×1011個を接種し、30℃で7日間培養した後、当該7日間培養後の麹菌からTotal RNAを抽出し、上記(1)と同じように、当該麹菌の全ゲノム(約3800万塩基対)に含まれるほぼ全遺伝子12168個を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブ(鎖長:60mer)を固相化したマイクロアレイである麹菌オリゴアレイ(ファームラボ社製)を用いて、DNAマイクロアレイを行い、DOGANを用いて解析を行った。
た。
(3) 上記(2)で得られた、澱粉の除去処理を行っていない小麦フスマを用いて培養した麹菌におけるヘミセルラーゼおよびセルラーゼに係る各遺伝子の発現量に対する、上記(1)で得られた澱粉の除去処理を行った小麦フスマ(A2)を用いて培養した麹菌におけるヘミセルラーゼおよびセルラーゼに係る各遺伝子の発現量を比較したところ、下記の表3に示すとおりであった。
上記の表3に見るように、澱粉の除去処理を行った小麦フスマに麹菌を接種して培養した生成物では、澱粉の除去処理行っていない小麦フスマに麹菌を接種して培養した生成部に比べて、ヘミセルロースの分解酵素であるヘミセルラーゼに係る遺伝子およびセルロースの分解酵素であるセルラーゼに係る遺伝子の発現量が大幅に増している。
《実施例5》
(1) 実施例2の(1)の(i)〜(iii)と同じ操作を行って、澱粉を除去した小麦フスマ(A2)を調製した。
(2) 上記(1)で調製した小麦フスマ(A2)の1g(乾物換算)を50mL容のチューブに入れ、そこに緩衝液(50mM tris−HCl,pH9.0)10mLを入れた後、酵素剤Optimase CX72L(GENENCOR社製;活性=541U/mL)を10μL入れて混合し、恒温槽で60℃、80rpmの条件下で一晩振とうした。
(3) 次いで、恒温槽から取り出して塩酸を用いてpHを4.5に調整し、これにスミチームARS(新日本化学社製;活性=146U/mL)およびキシラナーゼF3(活性=14.1U/mL)の10μLと1mLを加えて混合し、恒温槽で55℃、80rpmの条件下に一晩振とうした後、濾紙を用いて濾過して残渣と濾液に分別し、残渣は100℃で20時間乾燥し、濾液は70℃に加熱して酵素を失活させた。
(4) 上記(3)で得られた濾液について、下記の条件下で、HPLC分析を行って、キシロース量とアラビノース量を測定したところ、下記の表4に示すとおりであった。
[HPLC分析条件]
・測定器 :Alliance溶出試験システム2695(Waters社製)
・検出器 :RI検出器2414(Waters社製)
・Column :Shodex SPO 810
・移動相 :H2
・流速 :400μm/min
・温度 :65℃
・分析時間:35分
《比較例2》
(1) 澱粉の除去処理を行っていない小麦フスマの1g(乾物換算)を50mL容のチューブに入れ、そこに緩衝液(50mM tris−HCl,pH9.0)10mLを入れた後、酵素剤Optimase CX72L(GENENCOR社製;活性=541U/mL)を10μL入れて混合し、恒温槽で60℃、80rpmの条件下で一晩振とうした。
(2) 次いで、恒温槽から取り出して塩酸を用いてpHを4.5に調整し、これに酵素剤スミチームARS(新日本化学社製;活性=146U/mL)およびキシラナーゼF3(活性=14.1U/mL)の10μLと1mLを加えて混合し、恒温槽で55℃、80rpmの条件下に一晩振とうした後、濾紙を用いて濾過して残渣と濾液に分別し、残渣は100℃で20時間乾燥し、濾液は70℃に加熱して酵素を失活させた。
(3) 上記(3)で得られた濾液について、実施例5と同じ条件下で、HPLC分析を行って、キシロース量とアラビノース量を測定したところ、下記の表4に示すとおりであった。
上記の表4にみるように、実施例5では、澱粉の除去処理を行った小麦フスマを、ヘミセルラーゼを含む酵素製剤を用いて処理したことによって、澱粉の除去処理を行っていない小麦フスマを、ヘミセルラーゼを含む酵素製剤を用いて同様に処理した比較例2に比べて、ヘミセルロースであるアラビノキシランに由来するキシロースの生成量が大幅に増加している。
澱粉の除去処理を行った糟糠類に麹菌を接種して培養する本発明により、ヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生が増強された生成物を円滑に得ることができ、ヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生が増強された生成物は、セルロースおよび/またはヘミセルロースを分解して可溶化物を製造するための酵素剤として有効に使用することができ、また澱粉の除去処理を行った糟糠類にヘミセルラーゼおよびセルラーゼの一方または両方を含む酵素製剤または物質を用いて処理する本発明による場合は、例えば、アラビノース、キシロース、それらのオリゴ糖、グルコース、そのオリゴ糖および可溶性食物繊維などのセルロースおよび/またはヘミセルロースに由来する可溶化生成物を増加した量で円滑に製造することができるので、産業上有用である。

Claims (7)

  1. 澱粉の除去処理を行った糟糠類に、麹菌を接種して培養して得られる生成物。
  2. ヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生が増強されている請求項1に記載の生成物。
  3. 澱粉の除去処理を行った糟糠類が、有機酸水溶液を用いて糟糠類を高温および高圧下で加熱処理して澱粉を除去した糟糠類である請求項1または2に記載の生成物。
  4. 澱粉の除去処理を行った糟糠類に麹菌を接種して培養することを特徴とする、ヘミセルラーゼおよびセルラーゼの産生が増強された生成物の製造方法。
  5. 澱粉の除去処理を行った糟糠類に麹菌を接種して培養することを特徴とする、ヘミセルラーゼおよび/またはセルラーゼの産生増強方法。
  6. 澱粉の除去処理を行った糟糠類に、麹菌を接種して培養することを特徴とする、ヘミセルラーゼ製剤および/またはセルラーゼ製剤の製造方法。
  7. 澱粉の除去処理を行った糟糠類が、有機酸水溶液を用いて糟糠類を高温および高圧下で加熱処理して澱粉を除去した糟糠類である請求項4〜6のいずれか1項に記載の方法。
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