図1は、本実施例に係る分光装置の構成を例示した概略図である。図2は、図1に例示される分光装置1に含まれる透過型VPH回折格子の波長透過率特性を例示した図である。図2は、横軸が1次回折光の波長(nm)を示し、縦軸が1次回折光の透過率(%)を示している。なお、図1のXYZ座標系は、方向参照の便宜のために設けた右手直交座標系である。
本実施例では、青色(例えば、450nm)から赤色(例えば、650nm)までの波長域を検出対象とする場合について説明する。
図1に例示される分光装置1は、格子定数の等しい複数の透過型VPH回折格子2(透過型VPH回折格子2a、透過型VPH回折格子2b、透過型VPH回折格子2c)と、透過型VPH回折格子2で生じる1次回折光L1を集光する集光レンズ3と、集光レンズ3で集光された1次回折光L1を検出する検出器であるラインセンサ4と、を含んでいる。
ラインセンサ4は、複数の受光素子を含むマルチチャネル検出器であり、集光レンズ3の焦点位置近傍に配置されている。なお、受光素子が直線状に並べられたラインセンサ4の代わりに、受光素子が平面状に並べられたイメージセンサを用いてもよい。
複数の透過型VPH回折格子2は、入射光IL(X方向)に沿って並べられていて、それぞれ異なる傾きで配置されている。なお、本明細書では、VPH回折格子の傾きは、基準線とVPH回折格子の入射面の法線とのなす角度で定義され、本実施例では、入射光ILを基準線としている。このため、透過型VPH回折格子2a、透過型VPH回折格子2b、透過型VPH回折格子2cの傾きは、それぞれ、入射光ILと透過型VPH回折格子2の法線Nのなす角度である入射角θa、入射角θb、入射角θcである。
各透過型VPH回折格子2はXY平面上で波長分散を生じさせる特性を有している。なお、本明細書では、波長分散が生じる方向で定義される平面を波長分散面と記す。従って、本実施例に係る分光装置1では、複数の透過型VPH回折格子2の波長分散面は、いずれもXY平面であり、互いに平行である。
図1に例示されるように、複数の透過型VPH回折格子2を入射光ILに沿って並べることで、分光装置1では、入射光ILが1次回折光L1に変換される割合を高めることができる。
より具体的には、透過型VPH回折格子2a(第1のVPH回折格子)で1次回折光L1として射出されず、透過型VPH回折格子2aを透過し直進した0次回折光L0は、透過型VPH回折格子2b(第2のVPH回折格子)に入射する。透過型VPH回折格子2bに入射した0次回折光L0の一部は、透過型VPH回折格子2bで1次回折光L1に変換される。透過型VPH回折格子2bで1次回折光L1として射出されず、透過型VPH回折格子2bを透過し直進した0次回折光L0は、透過型VPH回折格子2cに入射する。透過型VPH回折格子2cに入射した0次回折光L0の一部は透過型VPH回折格子2cで1次回折光L1に変換される。
このように、透過型VPH回折格子2(例えば、透過型VPH回折格子2a)で生じた0次回折光を異なる透過型VPH回折格子2(例えば、透過型VPH回折格子2b)に入射させて回折させることで、入射光ILが1次回折光L1に変換される割合が高くなる。それによって、分光装置1の光の利用効率を向上させることができる。
また、図1に例示されるように、複数の透過型VPH回折格子2を入射光ILに対して異なる傾きで配置することで、より広い波長域で光の利用効率を向上させることができる。
透過型VPH回折格子2などのVPH回折格子は、ブレーズ回折格子などの表面リレーフ回折格子と異なり、入射角により異なる1次回折効率の波長特性を有する。このため、複数の透過型VPH回折格子2の傾きを検出波長域に応じて異ならせて、それによって入射角を異ならせることで、複数の透過型VPH回折格子2から射出される波長分布の異なる1次回折光を検出することができる。その結果、より広い波長域で光の利用効率を向上させることができる。
また、透過型VPH回折格子2などのVPH回折格子の波長特性は、波長分散面(XY平面)上への投影において回折格子の法線に対して入射角と等しい角度で射出される光の波長で最大の1次回折効率を示す。複数の透過型VPH回折格子2の傾きは、このような波長特性を考慮して、検出波長域に応じて設定される。
より具体的には、図1及び図2に例示されるように、透過型VPH回折格子2a、透過型VPH回折格子2b、及び、透過型VPH回折格子2cは、それぞれ、青色の波長(例えば、450nm)、緑色の波長(例えば、550nm)、赤色の波長(例えば、650nm)で最大の1次回折効率を示す傾きに配置される。
つまり、透過型VPH回折格子2aは、青色の波長がブラッグ波長となるような入射角θaに配置され、透過型VPH回折格子2bは、緑色の波長がブラッグ波長となるような入射角θbに配置され、透過型VPH回折格子2cは、赤色の波長がブラッグ波長となるような入射角θcに配置される。
従って、ラインセンサ4では、青色の1次回折効率が最も高い透過型VPH回折格子2aからの1次回折光L1と、緑色の1次回折効率が最も高い透過型VPH回折格子2bからの1次回折光L1と、赤色の1次回折効率が最も高い透過型VPH回折格子2cからの1次回折光L1とが検出されることになる。このため、分光装置1は、検出対象である青色から赤色までの広い波長域で、高い光の利用効率を実現することができる。
また、分光装置1では、複数の透過型VPH回折格子2のブラッグ波長は、検出波長域内で100nm毎に均等に分布している。このような構成は、広い波長域で光の利用効率を高効率に平準化することができる点で望ましい。
次に、図1及び図2を参照しながら、入射光ILの入射からラインセンサ4での回折光の検出までの分光装置1の作用について具体的に説明する。なお、図1では、説明を簡略化するため、1次回折光のうち、赤色、緑色、青色の1次回折光(以降、それぞれ、1次回折光R、1次回折光G、1次回折光Bと記す。)のみが、それぞれ破線、一点鎖線、二点鎖線で図示されている。また、最大の効率で射出された回折光は、太線で図示されている。
まず、入射光ILは、透過型VPH回折格子2aに入射角θaで入射して回折される。透過型VPH回折格子2aから射出される1次回折光L1は、波長毎に波長分散面(XY平面)上で分散されて、それぞれ異なる方向に射出される。透過型VPH回折格子2aでは、青色の波長がブラッグ波長であるため、青色の1次回折光Bが最も高い回折効率で射出される。
その後、透過型VPH回折格子2aから射出された各1次回折光(1次回折光R、1次回折光G、1次回折光B)は、集光レンズ3に入射する。集光レンズ3は、各1次回折光をラインセンサ4に含まれる異なる受光素子に入射させる。これにより、分光装置1は、ラインセンサ4の各受光素子を異なるチャネルとして設定することで、透過型VPH回折格子2aから射出された1次回折光R、1次回折光G、及び1次回折光Bを、波長毎に検出することができる。
透過型VPH回折格子2aから射出される0次回折光L0は、透過型VPH回折格子2aを透過して直進する。つまり、0次回折光L0の射出方向は、入射光ILの方向と一致していて、平行である。より厳密には、波長分散面上で一致または平行である。そして、0次回折光L0は、透過型VPH回折格子2bに入射角θbで入射して回折される。透過型VPH回折格子2bから射出される1次回折光L1も、透過型VPH回折格子2aから射出された1次回折光L1と同様に、波長毎に波長分散面(XY平面)上で分散されて、それぞれ異なる方向に射出される。透過型VPH回折格子2bでは、緑色の波長がブラッグ波長であるため、緑色の1次回折光Gが最も高い回折効率で射出される。
その後、透過型VPH回折格子2bから射出された各1次回折光(1次回折光R、1次回折光G、1次回折光B)は、集光レンズ3に入射する。集光レンズ3は、各1次回折光をラインセンサ4に含まれる異なる受光素子に入射させる。これにより、分光装置1は、透過型VPH回折格子2bで生じた1次回折光R、1次回折光G、及び1次回折光Bを、波長毎に検出することができる。
透過型VPH回折格子2bから射出される0次回折光L0は、透過型VPH回折格子2bを透過して直進する。つまり、透過型VPH回折格子2bで生じる0次回折光L0の射出方向は、透過型VPH回折格子2aで生じる0次回折光の方向と一致していて、平行である。より厳密には、波長分散面上で一致または平行である。そして、透過型VPH回折格子2cに入射角θcで入射して回折される。透過型VPH回折格子2cから射出される1次回折光L1も、透過型VPH回折格子2a及び透過型VPH回折格子2bから射出された1次回折光L1と同様に、波長毎に波長分散面(XY平面)上で分散されて、それぞれ異なる方向に射出される。透過型VPH回折格子2cでは、赤色の波長がブラッグ波長であるため、赤色の1次回折光Rが最も高い回折効率で射出される。
その後、透過型VPH回折格子2cから射出された各1次回折光(1次回折光R、1次回折光G、1次回折光B)は、集光レンズ3に入射する。集光レンズ3は、各1次回折光をラインセンサ4に含まれる異なる受光素子に入射させる。これにより、分光装置1は、透過型VPH回折格子2cで生じた1次回折光R、1次回折光G、及び1次回折光Bを、波長毎に検出することができる。
なお、複数の透過型VPH回折格子2で生じる1次回折光の射出角は、0次回折光と1次回折光のなす角で定義されるが、入射角にほとんど依存せずに波長毎の略一定であり、特定の波長では等しい。また、分光装置1では、複数の透過型VPH回折格子2から射出される0次回折光の方向は、いずれもX方向であり、一致している。このため、透過型VPH回折格子2a、透過型VPH回折格子2b、及び、透過型VPH回折格子2cから射出される1次回折光L1の射出方向は、波長毎に略平行である。
従って、複数の透過型VPH回折格子2から射出される青色の1次回折光Bは、略平行に集光レンズ3に入射し、集光レンズ3によりラインセンサ4上の略同じ位置(つまり、同じ受光素子)に集光される。その結果、複数の透過型VPH回折格子2から射出される青色の1次回折光Bを、同一のチャネルで検出することができる。また、緑色の1次回折光G及び赤色の1次回折光Rも同様に、それぞれ略同じ位置(つまり、同じ受光素子)に集光される。その結果、複数の透過型VPH回折格子2から射出される緑色の1次回折光G及び赤色の1次回折光Rを、それぞれ同一のチャネルで検出することができる。
以上、本実施例に係る分光装置1によれば、傾きの異なる複数の透過型VPH回折格子2を入射光ILに沿って並べて配置することで、広い波長域で高い光の利用効率を実現することができる。
また、分光装置1では、複数の透過型VPH回折格子2から射出される1次回折光の射出方向は波長毎に略平行であるので、1つの集光レンズ3で1次回折光を波長毎に略同じ位置に集光させることができる。
また、図1では、透過型VPH回折格子2を3つ用いる例を示したが特にこれに限られない。透過型VPH回折格子2は、複数用いられればよい。また、図1では、複数の透過型VPH回折格子2を、それぞれ、青色、緑色、赤色の波長がブラッグ波長となる傾きに配置したが、特にこれに限られない。
また、分光装置1では、ラインセンサ4に含まれる受光素子がそれぞれ異なるチャネルに設定される例を示したが、特にこれに限られない。必要とされる波長分解能に応じて、隣接する複数個の受光素子を同一のチャネルに設定しても良い。
また、分光装置1では、複数の透過型VPH回折格子2の格子定数が同一である例を示したが、特にこれに限られない。複数の透過型VPH回折格子2から射出される1次回折光の集光位置を、波長毎にさらに精度よく一致させるために、複数の透過型VPH回折格子2の格子定数が異なってもよい。
図3は、図1に例示される分光装置に含まれる透過型VPH回折格子における、入射光の入射角と1次回折光の射出角の関係を説明するための図である。図4A及び図4Bは、図1に例示される分光装置に含まれる透過型VPH回折格子の傾きと1次回折光の射出角の関係を例示した図である。図4Aは、透過型VPH回折格子の格子定数が小さい場合、具体的には、格子定数が6×105/mの場合の関係を例示している。また、図4Bは、透過型VPH回折格子の格子定数が大きい場合、具体的には、格子定数が1.8×106/mの場合の関係を例示している。図4A及び図4Bの横軸は1次回折光の波長を示し、縦軸は1次回折光の射出角を示している。図4A及び図4Bに例示される、線Cb、線Cg、及び線Crは、それぞれ、青色の波長(450nm)、緑色の波長(550nm)、及び赤色の波長(650nm)、に対してブラッグ条件を満すように配置された透過型VPH回折格子2における関係を例示している。
格子定数をN、入射光ILに含まれる任意の波長をλ、ブラッグ条件を満たす波長(ブラッグ波長)をλ0、透過型VPH回折格子2の傾き(入射光ILの入射角)をθ、1次回折光の回折角をβとすると、透過型VPH回折格子2は、以下の式を満たす。
式(1)は、一般的な回折の式である。また、式(2)は、ブラッグ条件を示す式である。1次回折光の射出角は、θ+βで表される。式(1)及び式(2)をθ+βについて解くと、以下の式が導出される。
入射角θ及び1次回折光の回折角βが小さい場合には、式(3)は、式(4)のように近似することができる。
このため、入射角θ及び1次回折光の回折角βが小さい場合には、1次回折光の射出角(θ+β)は、格子定数が等しい複数の透過型VPH回折格子2では、波長λにのみ依存するとみなすことができる。
図4Aは、格子定数が小さな場合(つまり、回折角が小さい場合)の、透過型VPH回折格子の傾きと1次回折光の射出角の関係を例示した図であるが、式(4)と同様の傾向を示している。図4Aでは、線Cb、線Cg、及び線Crがほぼ一致している。つまり、図4Aは、ブラッグ波長(つまり、透過型VPH回折格子2の傾き)によらず波長毎の射出角は等しいとみなすことができることを示している。
従って、入射角θ及び1次回折光の回折角βが小さい場合には、1次回折光の射出方向は波長毎に略平行とみなすことができる。
一方、入射角θ及び1次回折光の回折角βが大きい場合には、式(3)は、式(4)のように近似することはできない。このため、1次回折光の射出角(θ+β)は、格子定数が等しい複数の透過型VPH回折格子2では、波長λとブラッグ波長λ0に依存する。
図4Bは、格子定数が大きい場合(つまり、回折角が大きい場合)の、透過型VPH回折格子の傾きと1次回折光の射出角の関係を例示した図であるが、式(3)と同様の傾向を示している。図4Bでは、線Cb、線Cg、及び線Crは、短波長側と長波長側で互いにずれている。つまり、図4Bは、波長毎の射出角は、ブラッグ波長(つまり、透過型VPH回折格子2の傾き)に依存することを示している。
従って、入射角θ及び1次回折光の回折角βが大きい場合には、1次回折光の射出方向は波長毎に略平行とみなすことができず、異なる傾きの透過型VPH回折格子2から射出される同一波長の1次回折光の集光位置が精度良く一致しない。このような場合には、同一波長の1次回折光の集光位置が精度よく一致するように、各透過型VPH回折格子2の格子定数を異ならせてもよい。
図5は、本実施例に係る分光装置の変形例の構成を例示した概略図である。図5に例示される分光装置11は、透過型VPH回折格子2毎に設けられた焦点距離の等しい複数の集光レンズ3(集光レンズ3a、集光レンズ3b、集光レンズ3c)を含む点が、図1に例示される分光装置1と異なっている。その他の構成は、分光装置1と同様である。
分光装置11に含まれる集光レンズ3a(第1の集光レンズ)は、透過型VPH回折格子2a(第1のVPH回折格子)からの1次回折光が入射する集光レンズであり、集光レンズ3aの光軸と透過型VPH回折格子2aの法線が平行になるように配置されている。同様に、集光レンズ3b(第2の集光レンズ)は、透過型VPH回折格子2b(第2のVPH回折格子)からの1次回折光が入射する集光レンズであり、集光レンズ3bの光軸と透過型VPH回折格子2bの法線が平行になるように配置され、集光レンズ3c(第3の集光レンズ)は、透過型VPH回折格子2c(第3のVPH回折格子)からの1次回折光が入射する集光レンズであり、集光レンズ3cの光軸と透過型VPH回折格子2cの法線が平行になるように配置されている。
図5に例示される分光装置11では、複数の透過型VPH回折格子2から生じる1次回折光のラインセンサ4上での波長分散量は等しい。このため、分光装置11は、複数の透過型VPH回折格子2の格子定数が等しい場合であっても、図1に例示される分光装置1に比べて、同一波長の1次回折光の集光位置を精度よく一致させることができる。
図6は、図5で例示される分光装置11で生じる1次回折光のラインセンサ4上での波長分散量を説明するための図である。図6を参照しながら、複数の透過型VPH回折格子2からの1次回折光の波長分散量がラインセンサ4上で等しくなることについて説明する。
格子定数をN、入射光ILに含まれる任意の波長をλ、透過型VPH回折格子2の傾き(入射光ILの入射角)をθ、1次回折光の回折角をβ、集光レンズ3の偏心量をd、1次回折光のラインセンサ4(図示しない)上での像高をh、集光レンズ3の焦点距離をfとすると、分光装置11は、以下の式を満たす。
また、上述した式(1)を変形すると、以下の式が導出される。
さらに、式(5)及び式(6)から、以下の式が導出される。
式(7)は、ラインセンサ4上での像高hの波長依存成分(第1項)、すなわち、波長分散量が、透過型VPH回折格子2の傾きや集光レンズ3の偏心量に依存しないことを示している。また、式(7)は、波長分散量が、集光レンズ3の焦点距離fと透過型VPH回折格子2の格子定数Nにのみ依存することを示している。
本変形例に係る分光装置11では、複数の透過型VPH回折格子2の格子定数Nは等しく、複数の集光レンズ3の焦点距離fも等しいため、複数の透過型VPH回折格子2からの1次回折光のラインセンサ4上での波長分散量は等しくなる。
従って、分光装置11は、1次回折光全体の集光位置を透過型VPH回折格子2毎に調整することで、複数の透過型VPH回折格子2から射出される1次回折光の集光位置を波長毎に精度よく一致させることができる。
以上、本変形例に係る分光装置11によれば、実施例1に係る分光装置1と同様に、傾きの異なる複数の透過型VPH回折格子2を入射光ILに沿って並べて配置することで、広い波長域で高い光の利用効率を実現することができる。さらに、透過型VPH回折格子2毎に集光レンズ3を設けることで、透過型VPH回折格子2から射出される同一波長の1次回折光の集光位置を、実施例1に係る分光装置1よりも高精度に一致させることができる。
なお、透過型VPH回折格子2毎の集光位置の調整は、集光レンズ3の偏心量を変更することにより行われてもよい。また、集光レンズ3とラインセンサ4の間に集光位置を調整するためのミラー等を設けることによって行われてもよい。
また、分光装置11では、格子定数の等しい複数の透過型VPH回折格子2と、焦点距離の等しい複数の集光レンズ3を用いたが特にこれに限られない。透過型VPH回折格子2の格子定数と対応する集光レンズ3の焦点距離の積が一定であれば、格子定数や焦点距離が異なってもよい。
図7Aは、本実施例に係る分光装置の構成を例示した上面概略図である。図7Bは、本実施例に係る分光装置の構成を例示した側面概略図である。なお、図7A、図7BのXYZ座標系は、方向参照の便宜のために設けた右手直交座標系である。また、本実施例の検出対象とする波長域は、実施例1の波長域と同様である。
図7A及び図7Bに例示される分光装置21は、格子定数の等しい複数の反射型VPH回折格子22(反射型VPH回折格子22a、反射型VPH回折格子22b、反射型VPH回折格子22c)と、反射型VPH回折格子22で生じる1次回折光を集光する集光レンズ3と、集光レンズ3で集光された1次回折光を検出する検出器であるラインセンサ4と、反射型VPH回折格子22で生じる0次回折光L0を反射して異なる反射型VPH回折格子22に入射させる複数の反射部材(ミラー23a、ミラー23b、ミラー24a、ミラー24b)を含んでいる。なお、集光レンズ3及びラインセンサ4は、図1に例示される分光装置1に含まれる集光レンズ3及びラインセンサ4と同様である。
ミラー23aは、反射型VPH回折格子22a(第1のVPH回折格子)から射出される0次回折光は入射するが1次回折光は入射しない位置に配置されている。ミラー23bは、ミラー23aを反射した0次回折光が入射する位置に配置されている。
ミラー24aは、反射型VPH回折格子22b(第2のVPH回折格子)から射出される0次回折光は入射するが1次回折光は入射しない位置に配置されている。ミラー24bは、ミラー24aを反射した0次回折光が入射する位置に配置されている。
各反射型VPH回折格子22はXZ平面上で波長分散を生じさせる特性を有している。従って、本実施例に係る分光装置21では、XZ平面が波長分散面である。
また、複数の反射型VPH回折格子22は、図7A及び図7Bに例示されるように、Y方向に沿って並べられている。反射型VPH回折格子22で生じる0次回折光L0は、反射部材を介して異なる反射型VPH回折格子22に入射する。このため、分光装置21では、分光装置1と同様に、入射光ILが1次回折光に変換される割合を高めることができる。それによって、分光装置21の光の利用効率を向上させることができる。
また、反射型VPH回折格子22a、反射型VPH回折格子22b、反射型VPH回折格子22cは、それぞれ青色の波長、緑色の波長、赤色の波長がブラッグ波長となるような、異なる傾きで配置されている。このため、分光装置21は、分光装置1と同様に、広い波長域で高い光の利用効率を実現することができる。なお、本実施例では、X軸を基準線としているため、反射型VPH回折格子22の傾きは、X軸と反射型VPH回折格子22の法線のなす角により定義される。
また、複数の反射型VPH回折格子22は、1次回折光が波長毎に略平行に集光レンズ3に入射するように配置されている。このため、1次回折光は、集光レンズ3により波長毎にラインセンサ4上の略同じ位置(つまり、同じ受光素子)に集光する。従って、分光装置21は、分光装置1と同様に、各受光素子を異なるチャネルとして設定することで、複数の反射型VPH回折格子22からの1次回折光を波長毎に検出することができる。
なお、図7Bでは、複数の反射型VPH回折格子22からの0次回折光及び1次回折光が、波長分散面(XZ平面)上で波長毎に一致している例が図示されている。
図8Aは、図7Aに例示される分光装置に含まれる反射型VPH回折格子の構成を例示した概略図である。図8Aを参照しながら、反射型VPH回折格子22の構成について更に詳細について説明する。
反射型VPH回折格子22は、図8Aに例示されるように、入射光ILを回折させる透過型の体積ホログラム層25と、体積ホログラム層25からの回折光を反射する反射部材であるミラー26と、体積ホログラム層25を保護する保護部材である保護ガラス27と、を含んでいる。体積ホログラム層25は、透過型VPH回折格子2の体積ホログラム層と同様のものであり、その厚さは、透過型VPH回折格子2の体積ホログラム層の厚さの半分程度である。
反射型VPH回折格子22は、体積ホログラム層25で回折された光をミラー26で反射して射出する。このため、反射型VPH回折格子22は、体積ホログラム層25の波長分散特性によって定まる回折光の射出方向とは反射面を基準として対称な方向に、回折光を射出する。
なお、反射型VPH回折格子22では、ブラッグ波長は、入射光及び回折光を波長分散面(XZ平面)上に投影したときに入射光ILと方向が同じで反対向きに射出される1次回折光の波長である。このため、図8Aに例示される反射型VPH回折格子22の場合には、緑色の1次回折光G、赤色の1次回折光R、青色の1次回折光Bの順に1次回折効率が高い。
図8Bは、図7Aに例示される分光装置の含まれる反射型VPH回折格子の変形例の構成を例示した概略図である。分光装置21は、反射型VPH回折格子22の代わりに、図8Bに例示される反射型VPH回折格子28を含んで構成されてもよい。反射型VPH回折格子28は、反射部材としてミラー26の代わりに全反射プリズム29を含んでいる点、及び、保護ガラス27を含まない点が、図8Aに例示される反射型VPH回折格子22と異なっている。
次に、図7A及び図7Bを参照しながら、入射光ILの入射からラインセンサ4での回折光の検出までの分光装置21の作用について具体的に説明する。なお、図7A及び図7Bでは、説明を簡略化するため、1次回折光のうち、赤色、緑色、青色の1次回折光(以降、それぞれ、1次回折光R、1次回折光G、1次回折光Bと記す。)のみが、それぞれ破線、一点鎖線、二点鎖線で図示されている。また、最大の効率で射出された回折光は、太線で図示されている。
まず、入射光ILは、波長分散面(XZ平面)上に投影したときに青色の波長がブラッグ波長となる角度で反射型VPH回折格子22aに入射して回折される。
反射型VPH回折格子22aから射出される1次回折光は、波長毎に波長分散面(XZ平面)上で分散されて、それぞれ異なる方向に射出される。その後、反射型VPH回折格子22aから射出された各1次回折光(1次回折光R、1次回折光G、1次回折光B)は、集光レンズ3に入射する。集光レンズ3は、各1次回折光をラインセンサ4に含まれる異なる受光素子に入射させる。これにより、分光装置21は、反射型VPH回折格子22aから射出された各1次回折光を、ラインセンサ4で波長毎に検出することができる。
反射型VPH回折格子22aから射出される0次回折光L0は、ミラー23aに向けて射出される。ミラー23aに入射した0次回折光L0は、ミラー23aで反射されて、ミラー23bに入射する。ミラー23bで反射された0次回折光は、波長分散面(XZ平面)上に投影したときに緑色の波長がブラッグ波長となる角度で反射型VPH回折格子22bに入射して回折される。
反射型VPH回折格子22bから射出される1次回折光も、反射型VPH回折格子22aから射出された1次回折光と同様に、波長毎に波長分散面上で分散されて、それぞれ異なる方向に射出される。その後、反射型VPH回折格子22bから射出された各1次回折光(1次回折光G及び1次回折光Rのみ図示している)は、集光レンズ3に入射する。集光レンズ3は、各1次回折光をラインセンサ4に含まれる異なる受光素子に入射させる。これにより、分光装置21は、反射型VPH回折格子22bで生じた各1次回折光を、波長毎にラインセンサ4で検出することができる。
反射型VPH回折格子22bから射出される0次回折光L0は、ミラー24aに向けて射出される。ミラー24aに入射した0次回折光L0は、ミラー24aで反射されて、ミラー24bに入射する。ミラー24bで反射された0次回折光は、波長分散面(XZ平面)上に投影したときに赤色の波長がブラッグ波長となる角度で反射型VPH回折格子22cに入射して回折される。
反射型VPH回折格子22cから射出される1次回折光も、反射型VPH回折格子22a及び反射型VPH回折格子22bから射出された1次回折光と同様に、波長毎に波長分散面上で分散されて、それぞれ異なる方向に射出される。その後、反射型VPH回折格子22cから射出された各1次回折光(1次回折光Rのみ図示している)は、集光レンズ3に入射する。集光レンズ3は、各1次回折光をラインセンサ4に含まれる異なる受光素子に入射させる。これにより、分光装置21は、反射型VPH回折格子22cで生じた各1次回折光を、波長毎にラインセンサ4で検出することができる。
なお、反射型VPH回折格子22a、反射型VPH回折格子22b、及び、反射型VPH回折格子22cから射出される0次回折光の射出方向は、図7Bに例示されるように、波長分散面に投影すると平行である。また、すでに上述したように、複数の反射型VPH回折格子22から射出される0次回折光と1次回折光のなす角は、波長毎に略等しく、特定の波長では等しい。従って、各反射型VPH回折格子22から射出される1次回折光の射出方向は、図7A及び図7Bに例示されるように、波長毎に略平行である。
このため、反射型VPH回折格子22から射出される1次回折光は、波長毎に略平行に集光レンズ3に入射し、集光レンズ3によりラインセンサ4上のおよそ同じ位置(つまり、同じ受光素子)に集光される。その結果、複数の反射型VPH回折格子22から射出される1次回折光を、波長毎に同一のチャネルで検出することができる。
次に、図9を参照しながら、各反射型VPH回折格子22の傾きの決定方向について、具体的に説明する。図9は、図7A及び図7Bに例示される分光装置に含まれる反射型VPH回折格子の傾きの決定方向について説明するための図である。なお、図9のXYZ座標系は、図7A及び図7BのXYZ座標系と一致している。
格子定数をN、入射光ILに含まれる任意の波長をλ、ブラッグ波長をλ0、反射型VPH回折格子22の傾きをθ、入射光ILの入射角をα、1次回折光の回折角をβ、1次回折光の基準面BPからの角度をγとすると、反射型VPH回折格子22は、以下の式を満たす。なお、入射角α、1次回折光の回折角β、1次回折光の基準面BPからの角度γは、厳密には、それぞれ入射光IL及び1次回折光を波長分散面(XZ平面)上に投影したときの角度である。
式(8)及び式(9)を用いると、1次回折光の基準面BPからの角度γは、以下の式で表される。
ところで、複数の反射型VPH回折格子22から射出される1次回折光を波長毎に略平行に集光レンズ3に入射させるためには、複数の反射型VPH回折格子22からの同一波長の1次回折光の方向を波長分散面上でほぼ一致させる必要がある。なお、0次回折光と1次回折光とのなす角である1次回折光の射出角度(α+β)は、反射型VPH回折格子22の傾きにほとんど依存しないため、0次回折光の方向がほぼ一致すれば、1次回折光の方向もほぼ一致する。
そこで、基準面BPの方向に射出される1次回折光の波長(以降、基準波長λbpと記す。)が、反射型VPH回折格子22の傾きによらず、常に一定であるとすると、基準波長λbpの1次回折光の基準面BPからの角度γは0であるから、式(10)から式(11)が導かれる。
格子定数Nと基準波長λbpが予め決定されているとすると、式(11)を用いて、反射型VPH回折格子22の傾きθをブラッグ波長λ0により一意に決定することができる。従って、式(11)のブラッグ波長λ0に青色の波長、緑色の波長、赤色の波長を代入することで、反射型VPH回折格子22a、反射型VPH回折格子22b、反射型VPH回折格子22cの傾きを求めることができる。
入射光の方向も反射型VPH回折格子22毎に定める必要がある。入射光の基準面BPからの角度は、基準波長λbpとブラッグ波長λ0に基づいて、式(12)で表される。
反射型VPH回折格子22の傾きθや入射光ILの入射角をαが小さい場合には、式(12)は、式(13)のように近似することができる。
また、0次回折光の基準面BPからの角度も、基準波長λbpとブラッグ波長λ0に基づいて、式(14)で表される。
反射型VPH回折格子22の傾きθや入射光ILの入射角をαが小さい場合には、式(14)は、式(15)のように近似することができる。
式(15)から0次回折光の射出方向が略一定となっていることが確認できる。
以上、本実施例に係る分光装置21によれば、傾きの異なる複数の反射型VPH回折格子22を用いることで、実施例1に係る分光装置1と同様に、広い波長域で高い光の利用効率を実現することができる。
また、分光装置21でも、複数の反射型VPH回折格子22から射出される1次回折光の射出方向は波長毎に略平行であるので、1つの集光レンズ3で1次回折光を波長毎に略同じ位置に集光させることができる。
また、実施例1に係る分光装置1と同様に、1次回折光の集光位置を波長毎にさらに精度よく一致させるために、複数の反射型VPH回折格子22の格子定数を異ならせてもよい。また、実施例1の変形例に係る分光装置11と同様に、1次回折光の集光位置を波長毎にさらに精度よく一致させるために、反射型VPH回折格子22毎に集光レンズ3を設けてもよい。
図10Aは、本実施例に係る分光装置の構成を例示した側面概略図である。図10Bは、本実施例に係る分光装置の構成を例示した上面概略図である。なお、図10A、図10BのXYZ座標系は、方向参照の便宜のために設けた右手直交座標系である。また、本実施例の検出対象とする波長域は、実施例1の波長域と同様である。
図10A及び図10Bに例示される分光装置31は、入射光ILを回折する1つの透過型VPH回折格子32と、反射面がY軸と平行に配置された複数の反射部材(ミラー33a、ミラー33b、ミラー34a、ミラー34d、ミラー35)と、透過型VPH回折格子32で生じる1次回折光を集光する集光レンズ3と、集光レンズ3で集光された1次回折光を検出する検出器であるラインセンサ4と、三角プリズム36と、を含んでいる。なお、透過型VPH回折格子32はXZ平面上で波長分散を生じさせる特性を有している。従って、本実施例に係る分光装置31では、透過型VPH回折格子32の波長分散面は、XZ平面である。
集光レンズ3は、透過型VPH回折格子32と実質的に平行に配置されている点を除き、図1に例示される分光装置1に含まれる集光レンズ3と同様である。また、ラインセンサ4も、図1に例示される分光装置1に含まれるラインセンサ4と同様である。
ミラー33a、ミラー33b、ミラー34a、及び、ミラー34bは、透過型VPH回折格子32で生じる0次回折光L0を反射して透過型VPH回折格子32の異なる位置に入射させる反射部材である。
また、透過型VPH回折格子32に入射する入射光IL及び0次回折光L0は、ミラー33a、ミラー33b、ミラー34a、及び、ミラー34bにより、図10Bに例示されるように、波長分散面と直交する平面(XY平面)上で平行に透過型VPH回折格子32に入射する。このため、透過型VPH回折格子32から射出される1次回折光の方向も、XY平面上では入射光IL及び0次回折光L0と平行となる。
なお、ミラー33a及びミラー33bは、ミラー33bを反射した0次回折光の緑色の波長がブラッグ波長となるように配置されている。同様に、ミラー34a及びミラー34bは、ミラー34bを反射した0次回折光の赤色の波長がブラッグ波長となるように配置されている。なお、入射光ILは、入射光ILの青色の波長がブラッグ波長となるような入射角で、透過型VPH回折格子32に入射する。
すなわち、ミラー33bを反射して透過型VPH回折格子32に入射する0次回折光の入射角と、ミラー34bを反射して透過型VPH回折格子32に入射する0次回折光の入射角は、それぞれ、透過型VPH回折格子32に入射する入射光ILの入射角と異なっている。このため、波長分散面(XZ平面)上で、各0次回折光の入射により生じる1次回折光は波長ごと平行ではない。従って、ミラー35や三角プリズム36を用いて、各波長の1次回折光の集光位置を調整する。
ミラー35は、集光レンズ3から逸れた1次回折光を集光レンズ3に入射させるための反射部材である。図10A及び図10Bでは、ミラー35が緑色の波長の1次回折光Gを反射する例が示されている。三角プリズム36は、1次回折光の集光位置を補正する部材である。図10A及び図10Bでは、三角プリズム36が赤色の波長の1次回折光Rの集光位置を補正する例が示されている。
以上、本実施例に係る分光装置31によれば、単一の透過型VPH回折格子32を用いて、実施例1に係る分光装置1と同様に、広い波長域で高い光の利用効率を実現することができる。
図11は、本実施例に係る分光装置の変形例の構成を例示した概略図である。また、本変形例の検出対象とする波長域は、実施例1の波長域と同様である。
図11に例示される分光装置41は、入射光ILを回折する1つの反射型VPH回折格子42と、反射部材であるミラー43と、反射型VPH回折格子42で生じる1次回折光を集光する複数の集光レンズ(集光レンズ44a、集光レンズ44b、集光レンズ44c)と、集光レンズで集光された1次回折光を検出する検出器であるラインセンサ4と、を含んでいる。
集光レンズ44a、集光レンズ44b、集光レンズ44cは、それぞれの光軸が平行になるように配置されている。また、複数の集光レンズの光軸は、反射型VPH回折格子42の入射面の法線とも平行である。
ミラー43は、反射型VPH回折格子42から射出される0次回折光L0を反射型VPH回折格子42の異なる位置に入射させる反射部材であり、反射型VPH回折格子42に対して傾いて配置されている。
入射光ILは、青色の波長がブラッグ波長となる角度で反射型VPH回折格子42に入射し、回折される。入射光ILの入射により生じる1次回折光は、波長毎に異なる角度で集光レンズ44aに入射し、ラインセンサ4の異なる位置に集光する。入射光ILの入射により生じる0次回折光L0は、ミラー43を反射し、緑色の波長がブラッグ波長となる角度で反射型VPH回折格子42に入射し、回折される。このとき生じる1次回折光は、波長毎に異なる角度で集光レンズ44bに入射し、ラインセンサ4の異なる位置に集光する。一方、0次回折光L0は、再びミラー43を反射し、赤色の波長がブラッグ波長となる角度で反射型VPH回折格子42に入射し、回折される。このとき生じる1次回折光は、波長毎に異なる角度で集光レンズ44cに入射し、ラインセンサ4の異なる位置に集光する。
図11で例示されるように、各1次回折光は、ラインセンサ4の異なる位置に入射し、それぞれ異なる受光素子で検出される。ラインセンサ4では、同一波長の1次回折光が入射する異なる受光素子は、同一のチャネルとして設定されている。このため、分光装置41は、同一のチャネルに設定された複数の受光素子からの信号を加算することで、波長毎の信号を検出することができる。
以上、本実施例に係る分光装置41によれば、単一の反射型VPH回折格子42を用いて、実施例1に係る分光装置1と同様に、広い波長域で高い光の利用効率を実現することができる。
なお、図11では、同一波長の1次回折光を異なる受光素子に入射させる例を示したが、特にこれに限られない。分光装置41では、各集光レンズの位置を調整することで、1次回折光を波長毎に同一の受光素子に入射させてもよい。
図12は、本実施例に係るレーザ走査型顕微鏡の構成を例示した概略図である。
図12に例示されるレーザ走査型顕微鏡50は、複数の透過型VPH回折格子を含む分光装置51と、レーザ61と、ダイクロイックミラー62と、瞳レンズ63と、ガルバノスキャナ64と、結像レンズ65と、ミラー66と、対物レンズ67と、共焦点ピンホールを有する共焦点絞り68と、コリメートレンズ69と、を含んでいる。
レーザ61から射出されたレーザ光は、蛍光を透過しレーザ光を反射するダイクロイックミラー62に入射して反射される。ダイクロイックミラー62を反射したレーザ光は、瞳レンズ63、及び、対物レンズ67の瞳位置と共役な位置近傍に配置されたガルバノスキャナ64、結像レンズ65、ミラー66を介して、対物レンズ67に入射して、標本面SP上の1点に集光して照射される。標本面SPから生じた蛍光は、レーザ光と同じ光路を反対向きに進行し、ダイクロイックミラー62に入射する。さらに、蛍光は、ダイクロイックミラー62を透過して共焦点絞り68に入射する。共焦点絞り68に設けられた共焦点ピンホールは、対物レンズ67の焦点位置と共役な位置に配置されているため、焦点位置からの蛍光のみが共焦点絞り68を通過する。共焦点絞り68を通過した蛍光は、コリメートレンズ69により平行光に変換されて分光装置51へ入射する。ガルバノスキャナ64により標本面SP上に集光されるレーザ光の位置を2次元に走査して、標本面SPの位置毎における分光データを取得する。
分光装置51は、図1に例示される分光装置1に、複数の反射部材(ミラー52a、ミラー52b、ミラー52c、ミラー52d)と、高分解能検出用の集光レンズ53と、遮蔽板54と、を追加したものである。分光装置1と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。ただし、透過型VPH回折格子2aは、傾きを任意に変更することができる点が、分光装置1の透過型VPH回折格子2aと異なっている。
ミラー52a及びミラー52bは、透過型VPH回折格子2aから生じる1次回折光の光路に対して挿脱可能に配置されていて、1次回折光の光路を切換える光路切換え手段として機能する。ミラー52cは、その傾きを任意に変更することができる。集光レンズ53は、集光レンズ3に比べて焦点距離が長く開口数の小さな集光レンズである。遮蔽板54は、透過型VPH回折格子2aから生じる0次回折光の光路に対して挿脱可能に配置されている。
分光装置51は、ミラー52a、ミラー52b、及び、遮蔽板54が光路から取り除かれている場合には、図1に例示される分光装置1と同様に作用する。このため、ミラー52a、ミラー52b、及び、遮蔽板54を光路から取り除くことで、分光装置51は、分光装置1と同様に、ラインセンサ4で、広い波長域(例えば、青色から赤色)の1次回折光を高い光の利用効率で検出することができる。
一方、分光装置51は、ミラー52a、ミラー52b、及び、遮蔽板54を光路に挿入することで、分光装置1に比べて高い分解能で1次回折光を検出することができる。
ミラー52a、ミラー52b、及び、遮蔽板54を光路に挿入されている場合、透過型VPH回折格子2aで生じた1次回折光は、ミラー52aで反射されて、高分解能検出用の集光レンズ53へ入射する。そして、集光レンズ53で集光された1次回折光は、ミラー52c、ミラー52d、ミラー52bを介して、ラインセンサ4に波長毎に集光する。このとき、集光レンズ53の焦点距離が集光レンズ3の焦点距離よりも長いため、集光レンズ53を介してラインセンサ4に入射する1次回折光の波長分散量は、集光レンズ3を介してラインセンサ4に入射する1次回折光の波長分散量に比べて大きい。このため、より高い波長分解能で1次回折光を検出することができる。なお、遮蔽板54は、透過型VPH回折格子2aから生じた0次回折光によりラインセンサ4上でフレアが生じることを防止するために用いられる。
また、ミラー52cの傾きを変更することで、ラインセンサ4上での中心波長が変化する。このため、ラインセンサ4で検出される検出波長域は、ミラー52cの傾きを変更することにより、任意に変更することができる。検出波長域を変更する場合には、透過型VPH回折格子2aの傾きも変更することが望ましい。これにより、検出波長域に対して回折効率を最適化することができるため、高い光の利用効率を実現することができる。
また、集光レンズ53は、波長分散量の線形性を向上させるために、透過型VPH回折格子2aに対して光学的に平行に配置されることが望ましい。
以上、本実施例に係るレーザ走査型顕微鏡50によれば、広い波長域で高い光の利用効率を実現することができる。また、光路切換え手段であるミラー52a及びミラー52bにより1次回折光の光路を切り換えることによって、ラインセンサ4上での波長分散量を変化させることができる。これにより、レーザ走査型顕微鏡50では、広い波長域の1次回折光の検出と、高い分解能での1次回折光の検出とを、必要に応じて容易に切り換えることもできる。