本発明の実施例1に係る車両の制御装置200について説明する。まず制御装置200が適用される車両5の全体構成について説明し、次いで制御装置200の詳細について説明する。図1は、実施例1に係る制御装置200が適用される車両5を示す模式図である。車両5は、内燃機関10と、変速機20と、補助出力装置30と、アクセル100と、各種センサと、制御装置200とを備えている。
本実施例に係る内燃機関10はガソリンエンジンである。但し、内燃機関10の種類はこれに限定されるものではなく、ディーゼルエンジンその他のエンジンであってもよい。内燃機関10は、シリンダブロック11と、シリンダヘッド12と、ピストン13と、コンロッド14と、クランクシャフト15と、クランクプーリ16とを備えている。
シリンダブロック11には気筒が形成されている。本実施例において、気筒の数は一つである。但し気筒の数は、これに限定されるものではなく、複数であってもよい。シリンダヘッド12は、シリンダブロック11の上方に配置されている。なお、本実施例において上方および下方は、必ずしも重力方向における上方および下方と一致している必要はない。例えば、本実施例における上方および下方は水平方向であってもよい。ピストン13は、気筒に配置されている。シリンダブロック11とシリンダヘッド12とピストン13とによって囲まれた領域に、燃焼室17が形成されている。燃焼室17は、混合気(空気と内燃機関10が有する燃料噴射弁から噴射された燃料とが混合した気体)が燃焼するための空間である。
コンロッド14は、クランクシャフト15とピストン13とを連結する連結部材である。ピストン13の気筒内における上下方向の運動はコンロッド14を介してクランクシャフト15に伝達され、クランクシャフト15は回転する。クランクプーリ16は、クランクシャフト15に接続されている。クランクシャフト15が回転した場合、クランクプーリ16はクランクシャフト15と同期して回転する。
シリンダブロック11の気筒の周囲には、冷媒が通過するための内部通路であるウォータジャケット18aが形成されている。また、シリンダヘッド12にも冷媒が通過するための内部通路であるウォータジャケット18bが形成されている。本実施例に係るウォータジャケット18a,18bは、冷媒がウォータジャケット18aを通過後にウォータジャケット18bを通過するように、互いに接続されている。但しウォータジャケット18a,18bの接続態様はこれに限定されるものではない。冷媒がウォータジャケット18aおよびウォータジャケット18bを流動することで、内燃機関10は冷媒によって冷却される。冷媒としては、水、不凍液等、内燃機関10を冷却可能な液体を用いることができる。本実施例においては、冷媒の一例として水を用いる。
変速機20は、内燃機関10のクランクシャフト15に接続されている。変速機20は、内燃機関10の回転速度を所定の回転速度に変更して、車両5が有する車軸(車輪を回転させるための軸)に伝達する装置である。変速機20として、制御装置200によって変速比を制御可能な変速機を用いることができる。本実施例においては変速機20の一例として、ベルト、チェーン等とプーリーとの組み合わせによって入力軸からの変速比を無段階的に連続変化させて伝達する可能なCVT(Continuously Variable Transmission;無段変速機)を用いる。但し、変速機20の構成はこれに限定されるものではなく、CVTに代えて、例えばトルクコンバータと遊星歯車との組み合わせによって変速比を変更可能なAT(Automatic Transmission;オートマチックトランスミッション)を用いてもよい。
補助出力装置30は、内燃機関10の廃熱を利用して駆動することで内燃機関10の出力を補助する装置である。このような機能を有する装置であれば、補助出力装置30の具体的構成は特に限定されるものではないが、本実施例においては一例として、ランキンサイクルを形成しつつ内燃機関10の出力を補助する補助出力装置を用いる。具体的には本実施例に係る補助出力装置30は、過熱器35と、タービン40と、電磁クラッチ50と、タービンプーリ60と、タービンプーリ60とクランクプーリ16とに巻き掛けられたベルト65と、凝縮器70と、ポンプ75と、冷媒が通過する通路である流体通路80およびバイパス通路85と、三方弁90とを備えている。
流体通路80は、過熱器35とタービン40と凝縮器70とポンプ75とを連通している。また流体通路80の過熱器35よりも冷媒の流動方向上流側はシリンダヘッド12のウォータジャケット18bに接続し、流体通路80のポンプ75よりも冷媒の流動方向下流側はシリンダブロック11のウォータジャケット18aに接続している。その結果、車両5において、ウォータジャケット18b、流体通路80およびウォータジャケット18aは、冷媒が通過するループ状の流体循環通路を構成している。
バイパス通路85は、過熱器35を経由後の冷媒をタービン40をバイパスさせて凝縮器70へ導く通路である。本実施例においては、流体通路80の過熱器35とタービン40との間の部分に三方弁90が配置されており、バイパス通路85は三方弁90と流体通路80のタービン40と凝縮器70との間の部分とを接続している。三方弁90は、過熱器35を経由した冷媒の導入先をタービン40とバイパス通路85との間で切り替える切替弁としての機能を有している。
過熱器35は、流体通路80を通過して過熱器35に導入された冷媒を内燃機関10の廃熱によって加熱することで蒸気にする装置である。本実施例に係る過熱器35は、内燃機関10の廃熱の一例として、内燃機関10の排気の熱を用いている。この場合、過熱器35には内燃機関10の排気の少なくとも一部が導入されている。過熱器35は排気の熱と冷媒の熱との間で熱交換することで、冷媒を加熱して蒸気にしている。
タービン40には、過熱器35を経由後の冷媒が流体通路80を介して導入される。タービン40は、タービン40に導入された冷媒の蒸気のエネルギを受けて駆動する装置である。タービン40を経由することで蒸気は膨張する。すなわちタービン40は、内燃機関10の廃熱によって生成された蒸気が導入されることで駆動する膨張機としての機能を有している。なお、内燃機関10の廃熱によって生成された蒸気が導入されることで駆動可能な装置であれば、補助出力装置30は、膨張機としてタービン40以外の装置を備えていてもよい。
図2は、タービン40、電磁クラッチ50およびタービンプーリ60の構成を説明するための模式図である。タービン40は、タービンケース41と、タービンホイール42と、タービンホイール42に一端が接続した出力軸43とを備えている。タービンホイール42には、導入口44および導出口45が形成されている。導入口44および導出口45には、図1に示す流体通路80が接続されている。過熱器35を経由後の冷媒の蒸気は、流体通路80を通過して導入口44からタービンケース41の内部に流入し、タービンホイール42に導入される。タービンホイール42は、冷媒の蒸気を受けて回転する部材である。タービンホイール42が回転すると、タービンホイール42に接続した出力軸43も回転する。タービンホイール42を経由後の冷媒の蒸気は、導出口45から排出されて流体通路80を経由して凝縮器70に導入される。
電磁クラッチ50は、コイル51およびロータ52を備えている。タービンプーリ60は、ロータ52に結合している。コイル51への通電および通電の停止は制御装置200が制御する。コイル51が通電した場合、出力軸43とロータ52との間に封入された電磁粒子が結合し、その結果、出力軸43とロータ52とは係合する。それにより、出力軸43の回転をロータ52を介してタービンプーリ60に伝達することができる。図1に示すようにベルト65は、タービンプーリ60とクランクプーリ16とに巻き掛けられており、その結果、タービンプーリ60は、ベルト65を介してクランクプーリ16と連結されている。したがって、制御装置200がコイル51を通電させた場合、タービン40の出力軸43と内燃機関10のクランクシャフト15とは、ロータ52、タービンプーリ60、ベルト65およびクランクプーリ16を介して連結されることになる。その結果、タービンホイール42の回転は、内燃機関10のクランクシャフト15に伝達される。
このように本実施例に係る電磁クラッチ50、タービンプーリ60、ベルト65およびクランクプーリ16は、タービン40の出力をクランクシャフト15に伝達する出力伝達装置としての機能を有している。タービン40の出力がクランクシャフト15に伝達されることで、クランクシャフト15の回転をアシストすることができる。その結果、内燃機関10の出力が補助される。
図1に示すように、凝縮器70は、凝縮器70に導入された冷媒の蒸気成分を凝縮させることで液化させる装置である。本実施例に係る凝縮器70は、冷媒の蒸気成分を大気と熱交換させることで冷却して液相の冷媒に変化させている。凝縮器70の具体的な種類は特に限定されるものではないが、一例としてラジエータを用いることができる。ポンプ75は、制御装置200に制御されることで駆動して、流体通路80の冷媒をウォータジャケット18aに圧送する装置である。内燃機関10の冷媒が過熱器35で蒸気化された後に、タービン40を駆動し、次いで凝縮器70において液化された後にポンプ75によって圧送されて内燃機関10に戻ることで、補助出力装置30の過熱器35、タービン40、凝縮器70およびポンプ75はランキンサイクルを形成している。
アクセル100は、車両5の運転者によって操作されるペダルである。各種センサは、制御装置200の動作に必要な情報を検出するセンサである。図1においては各種センサの一例として、クランクポジションセンサ110、アクセルポジションセンサ111、トルクセンサ113および温度センサ112が図示されている。クランクポジションセンサ110は、内燃機関10のクランクシャフト15の位置を検出し、検出結果を制御装置200に伝える。制御装置200は、クランクポジションセンサ110の検出結果に基づいて内燃機関10のクランク角を取得する。また制御装置200は、クランクポジションセンサ110の検出結果に基づいて内燃機関10の回転数、トルク、出力等を取得する。
アクセルポジションセンサ111は、アクセル100の位置を検出し、検出結果を制御装置200に伝える。制御装置200は、アクセルポジションセンサ111の検出結果に基づいて、アクセル開度を取得するとともに内燃機関10に要求される出力である要求出力を取得する。すなわち、本実施例に係るアクセルポジションセンサ111は、内燃機関10に要求される要求出力を検出する要求出力検出手段としての機能を有している。但し、内燃機関10に要求される要求出力を検出できるものであれば、要求出力検出手段は、アクセルポジションセンサ111に限定されるものではない。例えば要求出力検出手段として、内燃機関10に吸入される吸気の流量を検出するエアフロメータ等を用いることもできる。
温度センサ112は、冷媒の温度を検出し、検出結果を制御装置200に伝える。制御装置200は温度センサ112の検出結果に基づいて、冷媒の温度を取得することができる。なお本実施例に係る温度センサ112は、ウォータジャケット18aにおける冷媒の温度を検出しているが、温度センサ112の温度検出箇所は、これに限定されるものではない。例えば温度センサ112は、ウォータジャケット18bにおける冷媒の温度を検出してもよく、流体通路80の冷媒の温度を検出してもよい。
トルクセンサ113は、タービン40が発生するトルク(具体的には出力軸43のトルク)を検出し、検出結果を制御装置200に伝える。制御装置200はトルクセンサ113の検出結果に基づいて、タービン40が発生するトルクを取得するとともに、タービン40が発生する出力も取得する。すなわち、本実施例に係るトルクセンサ113は、補助出力装置30の出力を検出する補助出力検出手段としての機能を有している。但し、補助出力装置30の出力を検出できるものであれば、補助出力検出手段は、トルクセンサ113に限定されるものではない。
制御装置200は、車両5を制御する制御部と、制御部の動作に必要な情報を記憶する記憶部とを備えている。制御装置200として、電子制御装置(Electronic Control Unit)を用いることができる。本実施例においては、制御装置200の一例として、CPU(Central Processing Unit)201、ROM(Read Only Memory)201およびRAM(Random Access Memory)203を備える電子制御装置を用いる。制御部の機能は、CPU201によって実現される。記憶部の機能は、ROM202およびRAM203によって実現される。
続いて制御装置200の詳細について説明する。本実施例に係る制御装置200の制御部は、車両5のうち内燃機関10、補助出力装置30および変速機20を制御する。まず、制御部による内燃機関10の制御について説明する。制御部は、内燃機関10の出力を制御している。制御部による内燃機関10の出力の具体的な制御手法は、特に限定されるものではない。例えば制御部は、内燃機関10の燃料噴射量を制御することで内燃機関10の出力を制御することができる。燃料噴射量の制御は、例えば内燃機関10の燃料噴射弁に燃料を供給する燃料ポンプの出力を制御することによって実行することができる。また制御部は内燃機関10の吸気流量を制御することによっても内燃機関10の出力を制御することができる。吸気流量の制御は、例えば内燃機関10の吸気通路に配置されたスロットル弁の開度を制御することによって実行することができる。これ以降の説明において、制御部は、一例として、内燃機関10の出力を増加させる場合には内燃機関10の燃料噴射量を増加させ、内燃機関10の出力を減少させる場合には内燃機関10の燃料噴射量を減少させているものとする。
続いて制御部による補助出力装置30の制御について説明する。まず制御部は、ポンプ75を回転させる。それにより、冷媒の循環が開始する。制御部は、所定の補助出力装置運転開始条件が満たされた場合、過熱器35とタービン40とが流体通路80によって連通し且つバイパス通路85が閉になるように三方弁90を制御するとともに、タービン40の出力がクランクシャフト15へ伝導するように電磁クラッチ50を制御する(具体的にはコイル51への通電を開始する)。それにより、補助出力装置30による内燃機関10の出力補助が開始される。補助出力装置30による内燃機関10の出力補助が行われることにより、補助出力装置30による内燃機関10の出力補助が行われない場合に比較して、内燃機関10の燃費は向上する。
補助出力装置運転開始条件は、特に限定されるものではないが、一例として、過熱器35によって生成された蒸気のエネルギがタービン40を駆動するのに十分な値となったとの条件を用いることができる。この一例として、本実施例に係る制御部は、過熱器35によって生成された蒸気の量が所定の閾値(以下、これを第1閾値と称する)以上の場合に補助出力装置開始運転条件が満たされたと判定する。過熱器35によって生成された蒸気の量が第1閾値以上の場合、この蒸気によってタービン40を駆動することができ、第1閾値より小さい場合、蒸気によってタービン40を駆動することは困難になる。第1閾値は、予め適切な値を求めておき、記憶部に記憶させておく。
なお、本実施例に係る制御部は、過熱器35によって生成された蒸気の量を内燃機関10の出力に基づいて推定することで取得する。この場合、記憶部は蒸気の量と内燃機関10の出力とを関連付けたマップを記憶しておき、制御部はクランクポジションセンサ110の検出結果に基づいて取得した内燃機関10の出力に対応する蒸気の量をマップから抽出することで、蒸気の量を取得する。但し制御部による蒸気の量の取得手法は、これに限定されるものではない。例えば車両5が過熱器35によって生成された蒸気の量を検出するセンサを備えている場合、制御部はこのセンサの検出結果に基づいて蒸気の量を取得してもよい。
補助出力装置運転開始条件が満たされない場合、制御部は、タービン40の出力軸43の出力がクランクシャフト15へ伝導しないように電磁クラッチ50を制御する(具体的にはコイル51への通電を停止する)。この結果、補助出力装置30による内燃機関10の出力補助は停止される。
また、制御部は、所定のバイパス条件が満たされた場合、過熱器35を経由後の冷媒がバイパス通路85に流入し且つタービン40に流入しないように三方弁90を制御する。なお、この場合にも、過熱器35を経由後の冷媒はタービン40をバイパスして凝縮器70に流入することから、補助出力装置30による内燃機関10の出力補助は停止される。バイパス条件は、特に限定されるものではないが、本実施例においては一例として、過熱器35によって生成された蒸気の量が上述した第1閾値より小さい場合との条件を用いる。この条件を用いることにより、過熱器35によって生成された蒸気の量が第1閾値より小さくてタービン40を駆動するのに不十分にもかかわらず、タービン40に導入されることを抑制できる。このようなエネルギの低い蒸気がタービン40に導入された場合、この蒸気がタービン40内で凝縮するおそれがあり、その結果、出力軸43の回転の妨げとなるおそれがあるところ、この構成によれば、このような不具合の発生を抑制することができる。
なお、バイパス条件の他の例として、過熱器35によって生成された蒸気の量が第1閾値より大きい閾値(以下、これを第2閾値と称する)以上であるとの条件を用いてもよい。第2閾値として、過熱器35によって生成された蒸気の量が第2閾値以上の場合に、タービン40に損傷が生じると考えられる値を用いることができる。この構成によれば、タービン40の損傷を抑制することができる。この場合、補助出力装置運転開始条件として、過熱器35によって生成された蒸気の量が第1閾値以上第2閾値より小さいとの条件を用いればよい。
続いて制御部による変速機20の制御について説明する。まず、制御部は、内燃機関10に要求される要求出力の上昇速度が基準値以上となる時である過渡時、および過渡時以外の時である定常時において、内燃機関10の出力に合った変速比になるように変速機20を制御する。
ここで、内燃機関10の出力特性には燃費が最良となる条件が存在する。図3は、内燃機関10の燃費と内燃機関10の出力との関係を示す模式図である。図3の縦軸は内燃機関のトルク(N・m)を示し、横軸は内燃機関10の回転数(rpm)を示している。図3において同一の出力を示す線が等出力線300(点線)によって図示されており、同一の燃費を示す線が等燃費線301(細実線)によって図示されており、燃費が最良となる出力を示す線が最適燃費線302(太実線)によって図示されている。最適燃費線302に対応する出力になるように内燃機関10の出力を制御することで、内燃機関10の燃費が最良の状態で内燃機関10を運転させることができる。
そこで制御装置200の制御部は、変速機20の制御を行うにあたり、内燃機関10の燃費が最良となるように変速機20の変速比を制御する。この変速機20の制御の一例として、本実施例に係る制御装置200は、以下の手法を用いている。まず制御装置200の記憶部は、内燃機関10の燃費が最良となる内燃機関10の出力に対応する変速機20の回転数を規定したマップを予め記憶しておく。このマップの一例として、記憶部は表1に示すマップを記憶しておく。
表1において、内燃機関10の出力が大きくなるほど、変速機20の回転数も大きくなっている。なお表1の数値は、内燃機関10の出力および変速機20の回転数のイメージ値であり、実際にこれらの数値を用いなければならないわけではない。制御部は、クランクポジションセンサ110の検出結果に基づいて内燃機関10の出力を取得し、取得された内燃機関10の出力に対応する変速機20の回転数を記憶部に記憶された表1のマップから抽出し、抽出された回転数になるように変速機20の変速比を制御する。このようにして本実施例に係る制御装置200は、内燃機関10の出力に合った変速比になるように変速機20の変速比を表1のマップに基づいて制御し、以って内燃機関10の燃費を最良にしている。
また本実施例に係る制御装置200は、過渡時においては、さらに以下の制御処理を行う。具体的には制御部は、過渡時において補助出力装置30の出力(以下、補助出力と称する場合がある)を取得するとともに、取得した補助出力に基づいて、補助出力を取得した時点(以下、取得時点と称する場合がある)よりも所定時間後の時点における補助出力の推定値を算出し、要求出力から推定値を減じた出力である出力不足量を内燃機関10の出力の増加によって補うように内燃機関10を制御するとともに、出力が増加した後の内燃機関10の出力に合った変速比になるように変速機20を制御する。
この過渡時に行われる制御の詳細をフローチャートを用いて説明する。図4は、制御装置200が過渡時において行う制御のフローチャートの一例を示す図である。制御装置200は、図4のフローチャートを所定時間毎に繰り返し実行する。まず制御装置200の制御部は、内燃機関10が過渡時であるか否かを判定する(ステップS10)。具体的には制御部は、要求出力の上昇速度が基準値以上となったか否かを判定することで、過渡時であるか否かを判定する。要求出力の上昇速度が基準値以上となったか否かの具体的な判定手法は特に限定されるものではないが、本実施例では以下の手法を用いる。
まず制御部は、要求出力の上昇速度として、アクセルポジションセンサ111の検出結果に基づいて取得したアクセル開度の単位時間あたりの上昇量を用いる。また記憶部は、ステップS10の判定基準となる基準値を記憶しておく。制御部は、アクセルポジションセンサ111の検出結果に基づいてアクセル開度の単位時間あたりの上昇量を取得し、取得された単位時間あたりの上昇量が記憶部に記憶された基準値以上となったか否かを判定する。アクセル開度の単位時間あたりの上昇量が基準値以上となったと判定された場合、制御部は過渡時であると判定する。一方、アクセル開度の単位時間あたりの上昇量が基準値以上となったと判定されなかった場合、制御部は過渡時でないと判定する。
ステップS10において過渡時であると判定されなかった場合(この場合は定常時に相当する)、制御部はフローチャートの実行を終了する。ステップS10において過渡時であると判定された場合、制御部は補助出力装置30の出力補助があるか否かを判定する(ステップS20)。具体的にはステップS20において制御部は、前述した補助出力装置運転開始条件(過熱器35によって生成された蒸気の量が第1閾値以上であるとの条件)が満たされたか否かを判定する。ステップS20において、補助出力装置運転開始条件が満たされていないと判定されることで補助出力装置30の補助があると判定されなかった場合、制御部はフローチャートの実行を終了する。
ステップS20において、補助出力装置運転開始条件が満たされたと判定されることで補助出力装置30の補助があると判定された場合、制御部は内燃機関10に要求される要求出力を取得する(ステップS30)。本実施例に係る制御部は、ステップS30において、マップを用いて要求出力を取得する。表2は、ステップS30で用いられるマップの一例を示す表である。表2において、要求出力(kW)がアクセル開度(%)に関連付けて規定されている。またアクセル開度が増加すると要求出力は増加している。なお表2の数値は、アクセル開度および要求出力のイメージ値であり、実際にこれらの数値を用いなければならないわけではない。
制御装置200の記憶部は、表2に示すマップを予め記憶しておく。ステップS30において制御部は、アクセルポジションセンサ111の検出結果に基づいてアクセル開度を取得するとともに、取得したアクセル開度に対応する要求出力を記憶部のマップから抽出することで、要求出力を算出する。制御部は、この算出の結果得られた要求出力を記憶部に一時的に記憶しておくことで、要求出力を取得する。
次いで制御部は、安定後補助出力を取得する(ステップS40)。安定後補助出力とは、補助出力装置30の出力が過渡時を経過後に安定した場合における補助出力装置30の出力をいい、より具体的には定常時における補助出力をいう。安定後補助出力として、所定の値(定数)を用いることも可能であるが、本実施例に係る制御部は、安定後補助出力を以下のマップを用いて算出する。
表3は、安定後補助出力の算出の際に用いられる第1のマップの一例である。表3の補助出力(kW)は、定常時において且つ内燃機関10の暖機が終了した後における補助出力装置30の出力を内燃機関10に要求される要求出力(kW)に関連付けて規定している。要求出力が大きくなるほど、補助出力も大きくなっている。なお表3の数値は、要求出力および補助出力のイメージ値であり、実際にこれらの数値を用いなければならないわけではない。
表4は、安定後補助出力の算出の際に用いられる第2のマップの一例である。表4の温度補正係数は、温度センサ112の検出結果に基づいて取得された冷媒の温度(℃)に関連付けて規定されている。冷媒温度が高くなるほど、温度補正係数も大きくなっている。なお表4の数値は、冷媒温度および温度補正係数のイメージ値であり、実際にこれらの数値を用いなければならないわけではない。
制御装置200の記憶部は、予め表3および表4のマップを記憶しておく。制御部は、ステップS30で取得した要求出力に対応する補助出力を表3のマップから抽出し、温度センサ112の検出結果に基づいて取得した冷媒温度に対応する温度補正係数を表4のマップから抽出し、表3から抽出された補助出力に表4から抽出された温度補正係数を乗じた(掛けた)値を、安定後補助出力として取得する。
ここで、内燃機関10の暖機過程においては、冷媒温度および排気温度が低いため過熱器35によって生成された冷媒蒸気の温度も低くなる傾向がある。そのため、暖機過程における補助出力は、暖機終了後における補助出力に比較して低くなる傾向がある。そこで、本実施例に係る制御部は、表3に示すマップから抽出した補助出力に表4に示すマップから抽出した温度補正係数を乗じた値を安定後補助出力として取得することで、暖機過程における補助出力低下を考慮して安定後補助出力を高精度で取得している。
次いで制御部は、トルクセンサ113の検出結果に基づいて補助出力を取得するとともに、取得した補助出力に基づいて、補助出力を取得した時点である取得時点よりも所定時間後の時点における補助出力(所定時間後の補助出力)の推定値を取得する(ステップS50)。なお本実施例においては所定時間として、ステップS50が繰り返し実行されるときの繰り返し実行時間、すなわち前回、ステップS50が実行されてから今回実行されるまでの時間を用いる。
ここで本実施例に係る制御部は、取得時点よりも所定時間後の時点における補助出力の推定値を、所定時間内に取得時点の補助出力と安定後補助出力との差を何%縮めるかとの観点で算出する。具体的には制御部は、補助出力の推定値を算出するにあたり、取得時点における補助出力を用いるとともに、さらに補助出力の目標値と、取得時点における補助出力が所定時間後の時点において目標値にどの程度近づくかを示す指標(以下、ディレー係数と称する)とを用いて、補助出力の推定値を算出する。また、制御部は補助出力の目標値として、前述した安定後補助出力を用いる。
より具体的には制御部は、下記式(1)に示す推定値算出式を用いて補助出力の推定値を算出する。
WJ(ti+1)=WJ(ti)+(WC(ti)−WJ(ti))×(1−αC(ti))・・・(1)
式(1)において、WJ(ti+1)は、取得時点よりも所定時間後の時点における補助出力の推定値である。WJ(ti)は取得時点の補助出力であり、トルクセンサ113の検出結果に基づいて取得した補助出力が用いられる。WC(ti)は、安定後補助出力であり、ステップS40で取得した値が用いられる。αC(ti)は、ディレー係数である。すなわち式(1)は、1から指標(ディレー係数αC(ti))を減じた値を、補助出力装置30の出力の目標値(安定後補助出力WC(ti))から取得時点における補助出力(WJ(ti))を減じた値に乗じることで得られた値に、取得時点における補助出力(WJ(ti))を加算することで得られた値を推定値とすることを規定した推定値算出式となっている。
式(1)は記憶部が記憶しておく。また記憶部は、ディレー係数も予め記憶しておく。具体的には記憶部は、ディレー係数をマップの形式で予め記憶しておく。表5は、本実施例で用いられるディレー係数のマップの一例である。表5のディレー係数は、要求出力に関連付けて規定されている。要求出力が大きくなるほど、ディレー係数も大きくなっている。またディレー係数は1より小さい値となっている。なお表5の数値は、要求出力およびディレー係数のイメージ値であり、実際にこれらの数値を用いなければならないわけではない。
ステップS50において制御部は、ステップS30で取得した要求出力に対応するディレー係数αC(ti)を表5のマップから抽出することで取得し、トルクセンサ113の検出結果に基づいて取得時点における補助出力WJ(ti)を取得し、ステップS40で取得した安定後補助出力WC(ti)を用いて式(1)に基づいて、補助出力の推定値WJ(ti+1)を推定する。推定された補助出力の推定値WJ(ti+1)は、記憶部が一時的に記憶しておく。
次いで制御部は、車両5を制御する(ステップS60)。具体的には制御部は、ステップS30で取得した要求出力からステップS50で得られた補助出力の推定値を減じた出力である出力不足量を算出し、算出された出力不足量を内燃機関10の出力の増加によって補うように内燃機関10を制御するとともに、出力増加後の内燃機関10の出力に合った変速比になるように変速機20を制御する。なお制御部は、出力増加後の内燃機関10の出力に合った変速比になるように変速機20を制御するにあたり、出力増加後の内燃機関10の出力に対応した変速機20の回転数を記憶部のマップ(表1)から取得し、取得された変速機20の回転数になるように変速機20の変速比を制御する。ステップS60の後、制御部はフローチャートの実行を終了する。
以上説明した過渡時に行われる制御を、タイミングチャートを用いて概念的に説明する。図5は、制御装置200が過渡時において行う制御のタイミングチャートの一例を示す図である。図5において、上側から順に、アクセル開度、要求出力、補助出力装置30の出力(補助出力)、内燃機関10の出力、内燃機関10の目標回転数および変速機20の変速比の時間変化が例示されている。また、補助出力、内燃機関10の出力、内燃機関10の目標回転数および変速機20の変速比のタイミングチャートにおいて、実線は過渡時におけるタイミングチャートを示し、点線は定常時におけるタイミングチャートを示している。
まず、アクセル開度は時間Aにおいて急激に上昇した後、時間Bになるまで所定の値を示し、時間Bにおいて、時間Aになる前の値よりは高く且つ時間Aの後から時間Bになるまでの間の値よりは低い値になっている。要求出力のタイミングチャートはアクセル開度のタイミングチャートと同形状のチャートとなっている。図4のステップS10の処理によれば、制御部は、時間Aにおいて過渡時であると判定する。
図5の補助出力のタイミングチャートにおいて、点線で示された定常時における補助出力が、安定後補助出力に対応している。過渡時における補助出力は、要求出力に比較して比較して遅れて上昇を開始している。補助出力は、時間Bにおいてピークとなった後に減少して定常時における補助出力(安定後補助出力)に収束している。
ここで、図4のステップS50に係る制御処理を図5を用いて概念的に説明すると以下のようになる。図5に示す補助出力のタイミングチャートにおいて、点a、点b、点c、点dが図示されている。図4のフローチャートが最初に実行された場合、ステップS50に係る制御処理において、点aにおける補助出力を基にして点bの補助出力が推定される。次に図4のフローチャートが実行された場合、ステップS50に係る制御処理において、点bの補助出力を基にして点cの補助出力が推定される。次に図4のフローチャートが実行された場合、点cにおける補助出力を基にして点dの補助出力が推定される。このような制御処理が、算出された推定値が安定後補助出力になるまで繰り返される。
このようにステップS50において式(1)を用いて補助出力の推定値を算出することによって、推定値の算出の演算が発散することを防止しつつ補助出力を推定することができる。なお、本実施例において、所定時間は、図4のフローチャートが繰り返し実行される時間であるが、これに限定されるものではない。但し所定時間が短いほど、補助出力の推定値の所定時間後における実際の補助出力との誤差を小さくできる点で好ましい。
ステップS60に係る制御処理を図5を用いて概念的に説明すると、以下のようになる。時間Aにおいて要求出力が上昇した場合、補助出力の上昇は遅れて上昇を開始しているが、算出された出力不足量を補うように内燃機関10の出力および目標回転数は時間Aにおいて急増し、内燃機関10の出力に合った変速比になるように変速機20も制御されている。このようにして、過渡時において、内燃機関10の燃費を最適化しつつ出力不足量が補われている。
以上説明したように、本実施例に係る制御装置200によれば、過度時において内燃機関10に要求される要求出力から補助出力の推定値を減じた出力である出力不足量を内燃機関10の出力増加で補うとともに、出力が増加した後の内燃機関10の出力に合った変速比にすることができる。よって本実施例に係る制御装置200によれば、過渡時において内燃機関10の燃費を良好にしつつ要求出力の増加に対処することができる。
特に本実施例に係る制御装置200によれば、制御装置200の記憶部は内燃機関10の燃費が最良となる内燃機関10の出力に対応する変速機20の回転数を規定したマップ(表1)を予め記憶しておき、制御部は、出力増加後の内燃機関10の出力に合った変速比になるように変速機20を制御するにあたり、出力増加後の内燃機関10の出力に対応した変速機20の回転数を記憶部のマップ(表1)から取得し、取得された変速機20の回転数になるように変速機20の変速比を制御している。それにより、制御装置200によれば、過渡時において内燃機関10の燃費を最良にしつつ要求出力の増加に対処することができる。
また制御装置200によれば、式(1)に基づいて補助出力の推定値を算出していることから、推定値の算出の演算が発散することを防止しつつ補助出力を推定することができる。
続いて実施例2に係る車両の制御装置(以下、制御装置200aと称する)について説明する。制御装置200aが適用される車両5および内燃機関10の構成は、それぞれ実施例1に係る車両5および内燃機関10と同じであるため、詳細な説明を省略する。制御装置200aは、過渡時において、実施例1に係る制御処理の他に、補助出力装置30の出力の推定値を補正する補正処理と、補助出力装置30の異常を判定する異常判定処理と、を実行する点において、実施例1に係る制御装置200と異なっている。補正処理および異常判定処理は、以下に説明する図6および図7のフローチャートの説明の中で詳細に説明する。
図6は、本実施例に係る制御装置200aが過渡時において行う制御のフローチャートの一例を示す図である。制御装置200aは、図6のフローチャートを所定期間毎に繰り返し実行する。図6に係るフローチャートは、ステップS40に代えてステップS40aを備えている点と、ステップS70およびステップS80をさらに備えている点とにおいて図4のフローチャートと異なっている。図6のその他のステップは、図4と同様であるため、説明は省略する。
ステップS40aにおいて制御装置200aの制御部は、前回の図6のフローチャートの実行で取得した安定後補助出力の値にさらに補正係数を乗じた値を、新たな安定後補助出力として取得する。ステップS40aの詳細は、図7の説明の後おいて説明する。
ステップS70において制御部は、取得時点よりも所定時間前の時点における補助出力に基づいて、所定時間前の時点において補助出力が補助出力の目標値にどの程度近づいたかを示す指標(以下、実ディレー係数と称する)を算出し、これを取得する。本実施例においては、一例として、下記式(2)に示す指標算出式を用いて実ディレー係数αJ(ti−1)を取得する。
αJ(ti−1)=1−((WJ(ti)−WJ(ti−1))/(WC(ti−1)−WJ(ti−1))・・・(2)
式(2)において、WJ(ti―1)は、取得時点よりも所定時間前の時点における補助出力であり、前回の図6のフローチャートの実行の際にトルクセンサ113の検出結果に基づいて取得した補助出力が用いられる。WJ(ti)は取得時点における補助出力であり、今回の図6のフローチャートの実行の際にトルクセンサ113の検出結果に基づいて取得した補助出力が用いられる。WC(ti−1)は、取得時点よりも所定時間前の時点における安定後補助出力であり、前回の図6のフローチャートの実行の際においてステップS40で取得した値が用いられる。式(2)は記憶部が記憶しておき、制御部は記憶部に記憶された式(2)に基づいて、実ディレー係数を算出し、算出された実ディレー係数を記憶部に一時的に記憶しておく。
なお、式(2)に係る指標算出式は、取得時点における補助出力(WJ(ti))から取得時点よりも所定時間前の時点における補助出力(WJ(ti−1))を減じた値を、補助出力の目標値(安定後補助出力WC(ti−1))から所定時間前の時点における補助出力(WJ(ti−1))を減じた値で除することで得られた値を、1から減じることで得られた値を、実ディレー係数(αJ(ti−1))とすることを規定している。また、これはステップS40aの説明において後述するが、本実施例に係る制御部は安定後補助出力を実施例1に係る図4のステップS40と同じ手法で取得するため(すなわちマップを用いた算出によって取得する)、式(2)における補助出力の目標値として、所定時間前の時点における安定後補助出力(WC(ti−1))、すなわち前回の図6のフローチャートを実行したときに取得した安定後補助出力が採用されている。仮に制御部が安定後補助出力として所定の定数を用いる場合には、式(2)のWC(ti−1)に代えて、この所定の定数を用いればよい。
ステップS80において制御部は、補正係数の取得および異常判定を行う。次いで制御部は、フローチャートの実行を終了する。ステップS80の具体的内容は、図7に示すフローチャートを用いて説明する。図7は、制御装置200aが補正係数を取得する場合および異常判定を行う場合のフローチャートの一例を示す図である。制御装置200aは、図7のフローチャートを所定時間毎に繰り返し実行する。
制御装置200aの制御部は、ステップS70で取得した実ディレー係数と記憶部から抽出したディレー係数との差の絶対値が第1基準値より大きいか否かを判定する(ステップS81)。なおステップS81におけるディレー係数は、制御部が図6のステップS30で取得した要求出力に対応するディレー係数を記憶部の表5のマップから抽出することで取得されたものである。第1基準値の値は特に限定されるものではなく、記憶部が予め記憶しておく。
ステップS81において実ディレー係数とディレー係数との差の絶対値が第1基準値より大きいと判定されなかった場合、制御部はフローチャートの実行を終了する。一方、ステップS81において実ディレー係数とディレー係数との差の絶対値が第1基準値より大きいと判定された場合、制御部は実ディレー係数がディレー係数よりも大きいか否かを判定する(ステップS82)。
ステップS82において実ディレー係数がディレー係数よりも大きいと判定された場合、制御部は補正係数の値を小さな値に変更する(ステップS83)。一方、ステップS82において実ディレー係数がディレー係数よりも大きいと判定されなかった場合、制御部は補正係数の値を大きな値に変更する(ステップS84)。
ステップS83およびステップS84の具体的な手法は特に限定されるものではないが、本実施例に係る制御部は、一例としてステップS83の実行前の補正係数から所定値(以下、補正用所定値とする)を減じた値を新たな補正係数とすることで、補正係数の値を小さな値に変更する。また制御部は、ステップS84において、ステップS84の実行前の補正係数に補正用所定値を加算した値を新たな補正係数とすることで、補正係数の値を大きな値に変更する。このように、ステップS83およびステップS84は、補正係数を新たな補正係数に更新する処理となっている。
さらに本実施例において、補正係数はタービン40に導入される蒸気の量に応じて異なる値をとるように設定されている。この構成の一例として、本実施例に係る補正用所定値は、タービン40に導入される蒸気の量に応じて異なる値をとるように設定されている。具体的には補正用所定値は、タービン40に導入される蒸気の量が多くなるほど大きな値をとるように、タービン40に導入される蒸気の量に関連付けて複数設定されている。具体例を挙げてこれを説明すると、補正用所定値として、例えば第1補正用所定値、第2補正用所定値(>第1補正用所定値)、第3補正用所定値(>第2補正用所定値)の3種類を予め記憶部が記憶しておく。第1補正用所定値よりも第2補正用所定値の方がタービン40に導入される蒸気の量は大きく、第2補正用所定値よりも第3補正用所定値の方がタービン40に導入される蒸気の量は大きく設定されている。
この場合、ステップS83において制御部は、タービン40に導入される蒸気量を取得するとともに、取得されたタービン40に導入される蒸気量に対応した補正用所定値を記憶部から抽出し、ステップS83の実行前の補正係数から抽出された補正用所定値を減じた値を新たな補正係数とする。またステップS84において制御部は、タービン40に導入される蒸気量を取得するとともに、タービン40に導入される蒸気量に対応した補正用所定値を記憶部から抽出し、ステップS83の実行前の補正係数に抽出された補正用所定値を加算した値を新たな補正係数とする。ステップS83またはステップS84の後、制御部はステップS83またはステップS84で得られた補正係数を、タービン40に導入される蒸気量に関連付けて記憶部に記憶させておく(ステップS85)。以上のようにして制御部は蒸気量に関連付けた状態で補正係数を分類して記憶する。
なおステップS82の実行前の補正係数は、図7のフローチャートが最初に実行される前においては1.0に設定されている(つまり、補正係数の初期値は1.0である)。ステップS83およびステップS84の制御処理により、補正係数は、実ディレー係数がディレー係数よりも大きいほど小さな値に変更されることになり(ステップS83)、逆に実ディレー係数がディレー係数よりも小さいほど大きな値に変更されることになる(ステップS84)。
ここで実ディレー係数が大きくなるということは、過渡時における補助出力装置30の出力の上昇速度が遅いことを意味し、これは安定後補助出力が低下する可能性を示している。逆に実ディレー係数が小さくなるということは、過渡時における補助出力装置30の出力の上昇速度が早いことを意味し、これは安定後補助出力が上昇する可能性を示している。本実施例に係る補正係数は安定後補助出力に乗じることで使用されるため、実ディレー係数が大きい場合(この場合、補正係数は小さくなる)、次回の図6のフローチャートの実行時において使用される安定後補助出力の値は小さくなる。その結果、算出される実ディレー係数の値も小さくなるため、実ディレー係数は、徐々に記憶部のディレー係数(表5のマップ値)に接近していき、実ディレー係数と記憶部のディレー係数との差分の絶対値が第1基準値(ステップS81)になるまで、これが繰り返されることになる。
一方、実ディレー係数が記憶部のディレー係数より小さい場合(この場合、補正係数は大きくなる)、次回の図6のフローチャートの実行時において使用される安定後補助出力の値は大きくなる。その結果、算出される実ディレー係数の値も大きくなるため、実ディレー係数は、徐々に記憶部のディレー係数(表5のマップ値)に接近していき、実ディレー係数と記憶部のディレー係数との差分の絶対値が第1基準値(ステップS81)になるまで、これが繰り返されることになる。
ステップS85の後、制御部はステップS85で記憶部に記憶された補正係数が第2基準値より小さいか否かを判定する(ステップS86)。本実施例においては、ステップS85において記憶部に記憶された補正係数はタービン40に導入される蒸気の量に応じて複数存在するため、ステップS86において制御部は記憶部の全補正係数のうち最小の補正係数が第2基準値より小さいか否かを判定する。
ステップS86において補正係数が第2基準値より小さいと判定された場合、制御部は補助出力装置30に異常が存在すると判断する(ステップS87)。一方、ステップS86において補正係数が第2基準値より小さいと判定されなかった場合、制御部はフローチャートの実行を終了する。
第2基準値の具体的な値は特に限定されるものではなく、予め記憶部が記憶しておく。なお、ステップS86およびステップS87の意義を概念的に説明すると、まずステップS86において補正係数が第2基準値より小さいと判定された場合とは、過渡時における補助出力装置30の出力の上昇速度が大幅に遅くなったことを意味している。この場合、何らかの異常が補助出力装置30に発生していることが考えられるため、制御部はステップS87において補助出力装置30に異常が存在すると判定している。以上のようにして本実施例に係る異常判定処理は行われる。
なお、本実施例に係る車両5は、車両5のユーザに異常を報知する報知装置を備えていることが好ましい。車両5が報知装置を備えている場合、制御部は、ステップS87において、さらにユーザに異常を報知するように報知装置を制御する。報知装置としては、光の点灯または点滅等によってユーザに異常を報知するランプ、音声によってユーザに異常を報知するスピーカ等を用いることができる。
続いて、制御部による図6のステップS40a〜ステップS50の詳細について説明する。まず、ステップS40aにおいて制御部は、タービン40に導入される蒸気量を取得するとともに、取得された蒸気量に対応する補正係数(これは図7のステップS85において記憶部に記憶されている)を記憶部から抽出する。そして制御部は、実施例1に係る図4のステップS40と同じ手法で安定後補助出力を取得するとともに、この取得された安定後補助出力に、抽出された補正係数を掛けたものを新たな安定後補助出力として記憶部に記憶する。以上の処理がステップS40aで行われる。
制御部は、ステップS50において、ステップS40aによって得られた補正後の安定後補助出力を用いて補助出力の推定値を取得する。その結果、補助出力の推定値は、タービン40に導入される蒸気の量に基づいて補正される。このようにして本実施例に係る補正処理は行われる。
すなわち本実施例に係る制御部は、過渡時において、実ディレー係数とディレー係数との差の絶対値が第1基準値より大きい場合において(図7のステップS81)、補助出力の推定値の算出に用いられる補助出力の目標値(本実施例においては安定後補助出力を用いている)に所定の補正係数を乗ずることで補助出力の推定値を補正している(図6のステップS40a、ステップS50)。さらに、この補正係数は、タービン40に導入される蒸気の量に応じて異なる値をとるように設定されている(図7のステップS83、ステップS84、ステップS85)。その結果、制御部は、タービン40に導入される蒸気量を取得するとともに取得された蒸気量に対応する補正係数を記憶部から抽出し、抽出された補正係数を目標値(安定後補助出力)に乗じたものを新たな目標値(安定後補助出力)として記憶部に記憶し(図6のステップS40a)、この新たな目標値を用いて補助出力の推定値を算出することで、タービン40に導入される蒸気の量に基づいて補助出力の推定値を補正している(図6のステップS50)。そして制御部は、補正後の補助出力の推定値を用いて、内燃機関10および変速機20の制御を行っている(図6のステップS60)。
続いて制御装置200aの作用効果について説明する。まず、補助出力装置30に経年変化が生じた場合、補助出力装置30の出力特性が変化すると考えられる。例えば、経年変化が生じた場合、補助出力装置30の出力の上昇速度が初期値に比較して低下または上昇することが考えられる。その結果、取得時点よりも所定時間前の時点における補助出力に基づいて算出された実ディレー係数と予め記憶部に記憶されたディレー係数との差の絶対値が大きくなると考えられる。仮にこのような場合において、補助出力の推定値を補正しない場合、補助出力装置30の経年変化を考慮した適切な変速機20の制御がされないことになる結果、燃費が悪化するおそれがある。
これに対して制御装置200aによれば、算出された実ディレー係数と記憶部に予め記憶されたディレー係数との差の絶対値が所定値より大きい場合に補助出力の推定値を補正していることから、補助出力装置30に経年変化が生じた場合であっても、経年変化が生じた結果、算出された実ディレー係数と記憶部のディレー係数との差の絶対値が所定値より大きくなった場合には、補助出力の推定値を補正することができる。それにより、補助出力装置30の経年変化を考慮して変速機20を適切に制御することができる。その結果、補助出力装置30の経年変化に伴う燃費の悪化を抑制することができる。
またタービン40に導入される蒸気の量に応じて補助出力は変化すると考えられるが、制御装置200aによれば、制御部はタービン40に導入される蒸気の量に基づいて補助出力の推定値を補正していることから、補助出力の推定値を高精度で補正することができる。また制御装置200aによれば、制御部は、図7のステップS86およびステップS87において、補正係数と第2基準値との比較結果に基づいて補助出力装置30に異常が存在するか否かを判定している。それにより、補助出力装置30の異常の有無を判断することができる。
なお、本実施例に係る制御装置200aにおいても、図6のステップS60が実行されることから、実施例1と同様の効果が得られる。すなわち、過渡時において内燃機関10の燃費を良好にしつつ要求出力の増加に対処することができる。さらに制御装置200aによれば、補助出力装置30の経年変化を考慮して変速機20を適切に制御することができることから、内燃機関10の燃費をより適切に向上させることができる。
なお、本実施例に係る制御部は、安定後補助出力の値を補正することで補助出力の推定値を補正し、以って補助出力装置30の経年変化を考慮した変速機20の制御を行っているが、補助出力装置30の経年変化を考慮した変速機20の制御を行えるのであれば、補正は、安定後補助出力の値の補正に限定されるものではない。補正は、図6のステップS30〜ステップS60までのいずれかの処理の段階で行われればよい。