JP5721094B2 - 酵素活性を向上させるための組成物およびその利用 - Google Patents

酵素活性を向上させるための組成物およびその利用 Download PDF

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Description

本発明は、酵素活性を向上させるための組成物およびその利用に関する。具体的には、例えばα−グルコシダーゼといった加水分解酵素等の各種酵素活性を向上させることができる化合物を含む組成物およびその利用に関する。
一般に、酵素反応は、反応プロセスの過程で反応速度が頭打ちになる。酵素活性を向上させることができれば、例えば酵素反応の反応速度が向上し、酵素反応産物の生産効率が向上する等の工業的メリットが生じるため重要な課題である。
酵素活性を向上させる方法としては、一般的に酵素タンパク質を構成するアミノ酸を変異させて酵素タンパク質の構造を変化させる方法(部位特異的変異法)、アルコールまたは高分子(例えば、ポリエチレングリコール等)等を酵素反応溶液に添加する方法が知られている。
例えば、非特許文献1から3には、上記部位特異的変異法により酵素活性を向上させる方法が開示されている。
また、非特許文献4には、アルコールを酵素反応溶液に添加することにより酵素活性を向上させる方法が開示されている。さらに、非特許文献5には、ポリエチレングリコールを酵素反応溶液に添加することにより酵素活性を向上させる方法が開示されている。
また、非特許文献6には、高NaCl濃度条件下では酵素活性が阻害されるが、グリシンベタインを添加することにより、高NaCl濃度条件下での酵素活性の阻害が軽減され、酵素の安定性が向上することが記載されている。
また、非特許文献7には、グリシン添加により酵素の至適pHが上昇すること、および酵素活性が向上することが記載されている。一方、グリシンの代わりにメチルグリシンエステルまたはエチルグリシンエステルを添加したとしても酵素活性向上効果が見られないことが記載されている。
M. Hashida, B. F. Henrik, Trends Glycosci. Glycotech., 12, 389 (2000). T. A. Kunkel, J. D. Roberts, R. A. Zakour, Methods in Enzymology, 154, 367 (1987). 松沢洋著、タンパク質工学の基礎(応用生命科学シリーズ)東京化学同人 S. N. Timasheff, Adv. Protein Chem., 51, 355 (1998). K. Hayashi, M. Nakazwa, Y. Ishizaki, N. Hiraoka, A. Obayashi, Nucleic Acids Res., 14, 7817 (1986). A. Pollard and R. G. Wyn Jones, Planta, 144, 291 (1979). V. Vathipadiekal, A. Verma, M. Rao, Biol. Chem., 388, 61 (2007).
しかしながら、上記従来の酵素タンパク質を構成するアミノ酸を変異させて酵素タンパク質の構造を変化させる方法では、たとえ酵素タンパク質の立体構造が決定されていたとしても、どのように立体構造を改変すれば酵素活性が向上するかについて予測することは難しいため、酵素活性を効果的に改良することは困難であることは当業者に広く知られている。また、かかる方法は、目的の酵素タンパク質毎にアミノ酸変異を検討する必要があり、非常に手間がかかるという問題を有する。
また、酵素反応溶液にアルコールまたは高分子(例えば、ポリエチレングリコール等)等を酵素反応溶液に添加する方法では、これらの物質の添加により酵素タンパク質の安定性が向上する結果として、酵素活性が向上すると考えられている。かかる方法は、アミノ酸を変異させる方法と比べて簡便且つ汎用性があるが、酵素活性を向上させる効果は低いという問題を有する。従って、さらに酵素活性向上効果に優れた物質が求められている。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡便、且つ効果的に酵素活性を向上させる組成物、および当該組成物の利用を提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、特定の構造を有するベタインを酵素反応溶液に添加することにより、酵素活性が顕著に向上することを本発明者らが発見し、本発明を完成させるに至った。ベタインのような比較的低分子の物質を添加して酵素活性を顕著に向上させるという報告はこれまでに無く、またベタインに酵素活性を向上させる効果があるということも一切知られていない。特定の構造を有するベタインに酵素活性を顕著に向上させる効果があるということは、本発明者らが初めて見出し、ここに開示するものである。すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
本発明にかかる組成物は、酵素活性を向上させるために用いられる組成物であって、
当該組成物が、以下の一般式(1)で表される化合物、またはそれらの塩もしくは誘導体を含むことを特徴としている:
ここで、R、R、およびRは、水素を除く、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、およびアリール基からなる群より独立して選択され、同一であっても異なっていてもよく、当該アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、またはアリール基は官能基を含んでいてもよい基であり、かつ
はアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、またはアリーレン基であり、当該アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、またはアリーレン基は官能基を含んでいてもよい基であり、かつ
は長周期型周期表における5B族元素、かつ
は−COO、−SO、−NO、または−HPOを表し、かつ
下記の(I)または(II)の1つ以上を満たす:
(I)R、R、およびRのいずれか1つ以上が炭素数2以上の基である、
(II)Rが炭素数1以上の基である。
また、本発明にかかる組成物は、酵素活性を向上させるために用いられる組成物であって、
当該組成物が、以下の一般式(1’)で表される化合物、またはそれらの塩もしくは誘導体を含むことを特徴としている:
ここで、R、R、およびRは、水素を除く、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、およびアリール基からなる群より独立して選択され、同一であっても異なっていてもよく、当該アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、またはアリール基は官能基を含んでいてもよい基であり、かつ
はアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、またはアリーレン基であり、当該アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、またはアリーレン基は官能基を含んでいてもよい基であり、かつ
下記の(I)または(II)の1つ以上を満たす:
(I)R、R、およびRのいずれか1つ以上が炭素数2以上の基である、
(II)Rが炭素数1以上の基である。
また、本発明にかかる組成物は、上記R、R、およびRは、末端に極性官能基を含まない基であることが好ましい。
また、本発明にかかる組成物は、上記酵素は、加水分解酵素であることが好ましい。
本発明にかかる酵素反応キットは、本発明にかかる組成物と対象酵素とを含むことを特徴としている。
本発明にかかる方法は、酵素活性を向上させる方法であって、本発明にかかる組成物を酵素反応系に加える工程を含むことを特徴としている。
なお、上記非特許文献6は、高NaCl濃度条件下における酵素の安定性の向上に、グリシンベタインが寄与することを示すに過ぎない。また、非特許文献7はそもそもグリシンに関する文献であり、グリシンベタインをはじめとするベタインに酵素活性を向上させる効果があることを示す文献ではない。また非特許文献7にはグリシンの代わりにメチルグリシンエステルまたはエチルグリシンエステルを添加した場合に酵素活性向上効果が見られないことが記載されているため、当業者であれば、グリシンに類似した物質であっても、僅かな構造の変化により酵素活性向上効果が失われるということを理解する。よって、本発明にかかる組成物は、非特許文献6や非特許文献7の記載に基づいて容易に想到し得るものではない。
上記本発明にかかる組成物は、従来用いられるポリエチレングリコール等の添加剤と比較して、非常に優れた酵素活性向上効果を奏するものである。よって、本発明にかかる組成物を用いることによって、簡便、且つ効果的に酵素活性を向上させることができる。
各種ベタイン(化合物1〜8)の構造を示す図である。 各種ベタインの添加によるα−グルコシダーゼの活性比を表すグラフである。 各種ベタインについて、添加濃度とα−グルコシダーゼ活性に及ぼす効果を表すグラフである。 高濃度の化合物6存在下におけるα−グルコシダーゼタンパク質の沈殿の有無を示すグラフである。 分子内に1組の双性イオンを持つベタインの製造スキームを示す図である。 化合物6を用い、Saccharomyces由来のα−グルコシダーゼを用いた場合の、反応時間(分)に対して産生されたp−ニトロフェノールの濃度を表すグラフである。 化合物6を用い、Bacillus Stearothermophilus由来のα−グルコシダーゼを用いた場合の、反応時間(分)に対して産生されたp−ニトロフェノールの濃度を表すグラフである。 化合物6を用い、Bakers Yeast由来のα−グルコシダーゼを用いた場合の、反応時間(分)に対して産生されたp−ニトロフェノールの濃度を表すグラフである。 化合物4を用い、Bacillus Stearothermophilus由来のα−グルコシダーゼを用いた場合の、反応時間(分)に対して産生されたp−ニトロフェノールの濃度を表すグラフである。 化合物5を用い、Bacillus Stearothermophilus由来のα−グルコシダーゼを用いた場合の、反応時間(分)に対して産生されたp−ニトロフェノールの濃度を表すグラフである。 化合物4〜6のいずれかを用い、Almond由来のβ−グルコシダーゼを用いた場合の、反応時間(分)に対して産生されたp−ニトロフェノールの濃度を表すグラフである。 化合物4〜6のいずれかを用い、Calf intestine由来のアルカリホスファターゼを用いた場合の、反応時間(分)に対して産生されたp−ニトロフェノールの濃度を表すグラフである。 化合物4〜6のいずれかを用い、Chicken heart由来の乳酸脱水素酵素を用いた場合の、反応時間(分)に対して、基質であるピルビン酸の消費と共に減少したNADHの濃度を表すグラフである。
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りである。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
<1.本発明にかかる組成物>
本発明にかかる組成物は、酵素活性を向上させるために用いられる組成物に関する。ここで「酵素活性を向上させる」対象となる「酵素」としては、特に限定されるものではなく、例えば、加水分解酵素(例えば、グルコシダーゼ、プロテアーゼ、エステラーゼ、ペプチダーゼ、リパーゼ、ヌクレアーゼ、フォスファターゼ等)、核酸合成酵素(例えば、ポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素等)、酸化還元酵素(デヒドロゲナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ等)、トランスフェラーゼ、リガーゼ等を挙げることができる。後述する実施例では、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリホスファターゼ、および乳酸脱水素酵素について、本発明にかかる組成物の効果(酵素活性を向上させる効果)を示した。実施例の結果から、本発明にかかる組成物による効果は、特定の酵素に対するものに限定されないことが分かる。
また、「酵素活性を向上させる」とは、例えば、本発明にかかる組成物存在下における酵素の反応速度に対する本発明にかかる組成物非存在下における酵素の反応速度の比(以下、「活性比」と称する)が、1より大きくなることを意味する。なお、上記「活性比」は、下記の式(1)を用いて求めることができる。
活性比
=(組成物存在下の酵素の反応速度)/(組成物非存在下の酵素の反応速度)・・・(1)
なお、上記「酵素の反応速度」とは、基質大過剰の条件下における反応初期速度を示す。
例えば、加水分解酵素であるα−グルコシダーゼの反応速度は、紫外可視分光測定から加水分解をモニターできるα−p−ニトロフェニル−D−グルコピラノシドを基質として用い、反応時間(分)に対する390nmの波長における吸光度変化のグラフの初期の傾きから算出し、加水分解産物であるp−ニトロフェノールのモル吸光係数(pH7.0、37℃)である7660M−1cm−1を用いて加水分解速度を算出することができる。
本発明にかかる組成物は、既述の一般式(1)で表される化合物、またはそれらの塩もしくは誘導体を含む組成物である。一般式(1)で表される化合物は、その構造から双性イオン化合物であることがわかる。特に記述の一般式(1’)で表される化合物は、ベタインに属することがわかる。なお、一般に「グリシンベタイン=トリメチルグリシン」のことを単に「ベタイン」と称する場合があるが、本発明の説明においては「グリシンベタイン=トリメチルグリシン」を「ベタイン」の下位概念であるとして、それぞれを区別する。
酵素反応系が水溶液系の場合、本発明にかかる組成物を構成する双性イオン化合物は、酵素反応溶液中で優先的に水和を起こす。その結果、基質、酵素、補酵素類は溶解体積が減少する、いわゆる排除体積効果が生じ、この排除体積効果によって基質、酵素、補酵素類の分子間での会合が促進し、酵素活性が向上するものと考えられる。また後述する実施例に示したように、本発明にかかる組成物を構成するベタインによれば、酵素の基質特異性を高めることができる。このように酵素の基質特異性を向上させることが、酵素活性の向上につながる一つの要因であると考えられる。
一般式(1)において、R、R、Rは、水素を除く、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、およびアリール基からなる群より独立して選択される基である。R、R、Rは全て同一であっても、異なっていてもよい。また上記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、またはアリール基には、エーテル、エステル、カルボニル、アミド、アミノ、ハロ、ニトロ、ニトリル、スルホン、スルフィド等の官能基が含まれていてもよい。ただし、上記R、R、Rの末端には、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基、アミド基、エポキシ基をはじめとする極性官能基が含まれないことが好ましい。
炭化水素のような疎水性官能基は、水分子と水素結合をするための正に帯電した水素や、非共有電子対を有していない。このような疎水性官能基の周囲に存在する水は、氷殻と呼ばれるネットワーク性の強い水分子のクラスターを形成する(クラスター化する)ことが知られている。
酵素反応系が水溶液系の場合、本発明にかかる組成物を構成する双性イオン化合物は、酵素反応溶液中で優先的に水和を起こす。双性イオン化合物の分子内に疎水性官能基が含まれる場合、双性イオン化合物と水和した水分子が双性イオン化合物の周囲でクラスター化する。このクラスター化した水分子は、溶質が溶解することができる水分子、いわゆるバルク水(自由水)とは異なり、溶質である酵素や基質が溶解することができない。この結果、上述したような「排除体積効果」が生じるものと考えられる。
一方、双性イオン化合物の分子内に水酸基のような極性官能基が含まれる場合、疎水性官能基の周囲に存在する水分子同士の結びつきが変化し、双性イオン化合物の周囲でクラスター化する水分子の数が減少する。この結果、双性イオン化合物の分子内に極性官能基が含まれない場合と比較して、「排除体積効果」が低減されるものと考えられる。従って、上記R、R、Rの末端には、極性官能基が含まれないことが好ましい。
また一般式(1)において、Rはアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、またはアリーレン基である。そして上記アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、またはアリーレン基には、エーテル、エステル、カルボニル、アミド、アミノ、ハロ、ニトロ、ニトリル、スルホン、スルフィド等の官能基が含まれていてもよい。
また一般式(1)においてAは、窒素(N)、リン(P)をはじめとする長周期型周期表における5B族元素を表す。
また一般式(1)において、Zは−COO、−SO、−NO、または−HPOを表す。
さらに一般式(1)において下記の(I)または(II)の1つ以上が満たされる。
(I)R、R、およびRのいずれか1つ以上が炭素数2以上の基である、
(II)Rが炭素数1以上の基である。
なお、R、R、RおよびRの炭素数は、一般式(1)で表される化合物、またはそれらの塩もしくは誘導体(以下「化合物等」という)が酵素−基質反応を行う反応溶液中に溶解する程度の条件であれば、炭素数の上限は特に限定されるものではない。
本発明にかかる組成物は、上記一般式(1)で表される化合物からなる群から選択される1つ以上の化合物が含まれていればよい。また本発明にかかる組成物には上記一般式(1)で表される化合物の塩、またはそれらの誘導体であってもよい。また2つ以上の化合物等が組成物に含まれる場合の配合比率は特に限定されるものではなく、酵素−基質反応に適した配合比率を適宜検討のうえ、採用すればよい。
なお本発明にかかる組成物に含まれる一般式(1)で表される化合物は、分子内に少なくとも1組以上のカチオンとアニオンとの双性イオンを有する双性イオン化合物(例えばベタイン)であって、(a)カチオンとアニオンと間のスペーサー長が少なくともC以上である、および/または(b)アンモニウム基の置換基がC以上である双性イオン化合物(例えばベタイン)であるとも表現できる。
また本発明にかかる組成物は、既述の一般式(1)で表される化合物、またはそれらの塩もしくは誘導体を主成分として含む(50質量%以上、好ましくは70質量%以上、最も好ましくは90質量%以上)ものであればよいが、上記の他、酵素−基質反応の際に好適に使用されている緩衝剤、塩類、補酵素、界面活性剤、タンパク質等が含まれていてもよい。また本発明にかかる組成物は、既述の一般式(1)(または(1’))で表される化合物、またはそれらの塩もしくは誘導体そのものであってもよい。
上記、緩衝剤としては特に限定されるものではないが、トリス(TR1S)、トリジン(TRlC1NE)、ビスートリシン(BlS-TR1C1NE)、へペス(HEPES)、モプス(MOPS)、テス(TES)、タプス(TAPS)、ピペス(P1PES)、キャプス(CAPS)、リン酸、酢酸、ホウ酸、炭酸等が挙げられる。
また上記塩としては特に限定されるものではないが、例えば塩化カリウム、酢酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マンガン、酢酸マンガン、硫酸マンガン、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化リチウム、酢酸リチウム、塩化鉄、硫酸鉄、塩化亜鉛、硫酸銅、塩化銅、塩化カルシウム等が挙げられる。
また上記補酵素としては特に限定されるものではないが、例えば、ピロロキノリンキノン(PQQ)、トパキノン(TPQ)、リシンチロシルキノン(LTQ)等のキノン補酵素、チアミン二リン酸(TPP)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)、ビオチン、葉酸などのビタミン補酵素、アデノシン三リン酸(ATP)、ウリジン二リン酸グルコース(UDPG)等が挙げられる。
また上記界面活性剤としては特に限定されるものではないが、例えば、TWEEN、TritonX、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)等が挙げられる。
また上記タンパク質としては特に限定されるものではないが、例えば、牛血清アルブミン(BSA)、シャペロンタンパク質などが挙げられる。
さらに本発明にかかる組成物には、酵素活性を向上させることが公知である、PEG、エタノール、グリセロール、アミノ酸等が、補助成分として含まれていてもよい。
また本発明にかかる組成物の状態は、特に限定されるものではなく、液体であっても、固体の状態であってもよい。
<2.酵素反応キット>
上記本発明にかかる組成物を用いて酵素反応キットを構成することができる。本発明にかかる酵素反応キットは、本発明にかかる組成物と対象酵素とを含んでいればよく、これらは別々の容器に充填されていてもよいし、同じ容器に充填されていてもよい。上記酵素反応キットは、本発明にかかる組成物を含んでいるため、上記対象酵素の酵素活性を向上させることができる。
なお、上記「対象酵素」とは、酵素活性を向上させる対象となる酵素を指す。上記「対象酵素」としては、特に限定されるものではなく、例えば、加水分解酵素(例えば、グルコシダーゼ等)、核酸合成酵素(例えば、ポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素等)等を挙げることができる。
本発明にかかる酵素反応キットには、さらに、既述の緩衝剤、塩類、補酵素、界面活性剤、タンパク質等が含まれていてもよい。
また上記酵素反応キットを構成する成分を格納するための1つ以上の容器(例えば、バイアル、管、アンプル、ビンなど)が含まれていてもよい。
なお、本発明に係る酵素反応キットを構成する「本発明にかかる組成物」は、既述の一般式(1)(または(1’))で表される化合物、またはそれらの塩もしくは誘導体そのものであってもよい。
<3.酵素活性を向上させる方法>
本発明にかかる酵素活性を向上させる方法は、本発明にかかる組成物を酵素反応系に加える工程を含む。なお、上記「酵素反応系」とは、酵素活性を向上させる対象となる酵素(以下、「対象酵素」という)を少なくとも含む系を意味する。なお酵素反応系には、上記対象酵素以外に、例えば、既述の緩衝剤、塩類、補酵素、界面活性剤、タンパク質等の酵素反応に必要なものがさらに含まれていてもよい。上記「酵素反応系」の一例として溶液系である酵素反応溶液を挙げることができるが、本発明はこれに限定されない。なお、上記酵素反応系には、上記対象酵素の基質がさらに含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。上記酵素反応系に対象酵素の基質が含まれていない場合は、上記酵素反応系に対象酵素の基質を加える工程が、本発明にかかる酵素活性を向上させる方法に含まれていてもよい。
例えば、α−グルコシダーゼによる加水分解反応において、α−グルコシダーゼの活性を向上させる場合には、α−グルコシダーゼおよびα−グルコシダーゼの基質を含む酵素反応系に、本発明にかかる組成物を加えればよい。酵素反応の反応条件は、用いられる酵素に応じて適宜設定すればよい。
上記「対象酵素」としては、特に限定されるものではなく、例えば、加水分解酵素(例えば、グルコシダーゼ、プロテアーゼ、エステラーゼ、ペプチダーゼ、リパーゼ、ヌクレアーゼ、フォスファターゼ等)、核酸合成酵素(例えば、ポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素等)、酸化還元酵素(デヒドロゲナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ等)、トランスフェラーゼ、リガーゼ等を挙げることができる。
上記酵素反応系に含まれていることが好ましい双性イオン化合物(例えばベタイン)またはそれらの塩もしくは誘導体の濃度は、反応に用いられる酵素の種類や濃度、基質の濃度、添加されるベタインの構造によって異なるために特に限定されるものではなく、適宜検討のうえ、採用すればよい。
なお、本発明にかかる酵素活性を向上させる方法において用いられる「本発明にかかる組成物」は、既述の一般式(1)(または(1’))で表される化合物、またはそれらの塩もしくは誘導体そのものであってもよい。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
<実施例で用いたベタイン>
本発明の実施例において用いたベタイン(化合物1〜8)について、化合物1としては、市販のグリシンベタイン(スペーサー長:C)(型番023-10862、和光純薬製)を用いた。化合物2〜8は、以下のようにして合成したものを用いた。
〔1.前駆体の合成〕
既述の一般式(1)におけるR、R、Rがエチル基で、Rがメチレン基である分子内に1組の双性イオンを持つベタインの前駆体(2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)−酢酸エチルエステル臭化物塩)を、図5に示すスキームに従って合成した。
まず、トリエチルアミン100mlを酢酸エチル100mlに溶解させた。この溶液に対してブロモ酢酸エチル(37.5g)をゆっくりと滴下した。滴下後、この溶液を室温で一晩攪拌した。その後、生成した沈殿を濾別した。得られた沈殿を真空乾燥して、前駆体1(2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)−酢酸エチルエステル臭化物塩)を得た(収量50.2g、収率86%)。
上記で得られた化合物の同定は、IR、およびH NMRによって行われた。表1にIR解析の結果を、表2にH NMR解析の結果を示す。
IR、およびH NMRの結果、目的物である2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)−酢酸エチルエステル臭化物塩(すなわち、図1における化合物4の前駆体)が合成されたことが確認できた。
図1における化合物2の前駆体を合成した結果を、表3(IR)および表4(H NMR)に示す。表3および4によれば目的とする化合物が合成されたことを確認することができた。
図1における化合物3の前駆体を合成した結果を、表5(IR)および表6(H NMR)に示す。表5および6によれば目的とする化合物が合成されたことを確認することができた。
図1における化合物5の前駆体を合成した結果を、表7(IR)および表8(H NMR)に示す。表7および8によれば目的とする化合物が合成されたことを確認することができた。
図1における化合物6の前駆体を合成した結果を、表9(IR)および表10(H NMR)に示す。表9および10によれば目的とする化合物が合成されたことを確認することができた。
図1における化合物7の前駆体を合成した結果を、表11(IR)および表12(H NMR)に示す。表11および12によれば目的とする化合物が合成されたことを確認することができた。
図1における化合物8の前駆体を合成した結果を、表13(IR)および表14(H NMR)に示す。表13および14によれば目的とする化合物が合成されたことを確認することができた。
〔2.ベタインの合成〕
得られた前駆体(2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)−酢酸エチルエステル臭化物塩)1.0gを蒸留水10mlに溶解した。この溶液を陰イオン交換カラム(アンバーライト:登録商標IR−402、ローム アンド ハース社製)を充填したカラムに通した。溶離液をエバポレーターで減圧濃縮し、五酸化二リンの共存下、減圧乾燥し、ベタイン(2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)−アセテート)を得た(収量0.59g、収率100%)。
上記で得られた化合物の同定は、IRおよびH NMRによるエステルピークの消失確認と、C、H、N元素分析による塩の混入の有無を確認することで行った。表15にIR解析の結果を、表16にH NMR解析の結果を、表17に元素分析の結果を示す。
表15〜17の結果、目的物である2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)−アセテート(すなわち、図1における化合物4)が得られたことが確認された。
図1における化合物2を合成した結果を、表18(IR)、表19(H NMR)、および表20(元素分析)に示す。表18〜20によれば目的とする化合物が合成されたことを確認することができた。
図1における化合物3を合成した結果を、表21(IR)、表22(1H NMR)、および表23(元素分析)に示す。表21〜23によれば目的とする化合物が合成されたことを確認することができた。
図1における化合物5を合成した結果を、表24(IR)、表25(1H NMR)、および表26(元素分析)に示す。表24〜26によれば目的とする化合物が合成されたことを確認することができた。
図1における化合物6を合成した結果を、表27(IR)、表28(1H NMR)、および表29(元素分析)に示す。表27〜29によれば目的とする化合物が合成されたことを確認することができた。
図1における化合物7を合成した結果を、表30(IR)、表31(1H NMR)、および表32(元素分析)に示す。表30〜32によれば目的とする化合物が合成されたことが確認できた。
図1における化合物8を合成した結果を、表33(IR)、表34(1H NMR)、および表35(元素分析)に示す。表33〜35によれば目的とする化合物が合成されたことが確認できた。
〔実施例1〕
<α−グルコシダーゼの加水分解速度に及ぼすベタイン添加の効果>
得られた各種ベタイン(化合物1〜8)の添加による酵素活性向上効果を評価、検討するため、ベタイン存在下でのα−グルコシダーゼの加水分解速度を測定した。α−グルコシダーゼ(Saccharomyces由来)(型番076-02841、和光純薬製)の基質としては、紫外可視分光測定から加水分解をモニターできるα−p−ニトロフェニル−D−グルコピラノシド(型番325-34671、和光純薬製)を用いた。
基質であるα−p−ニトロフェニル−D−グルコピラノシドは350nmに極大吸収波長を持つが、α−グルコシダーゼによってグルコースとp−ニトロフェノールに加水分解されると、pH7.0においてはp−ニトロフェノールは水酸基のプロトンが解離してp−ニトロフェノラートとなる。結果として、極大吸収波長は長波へシフトし、400nm近傍の吸光度が上昇する。405nmのp−ニトロフェノラートのモル吸光係数(pH7.0、37℃)である7660M−1cm−1を利用すれば、加水分解によって生成するp−ニトロフェノールの濃度を見積もることができ、反応速度を算出することができる。ここで405nmを使用したのはマイクロプレートリーダーのフィルターの関係である。
加水分解速度の測定は、酵素反応溶液(100mM リン酸緩衝溶液(pH7.0),2mM α−p−ニトロフェニル−D−グルコピラノシド,2.5×10−5mg/mL α−グルコシダーゼ)を用いて、37℃で行った。ベタインは、最終濃度50mMとなるように上記酵素反応溶液に添加した。
α−グルコシダーゼの反応速度は反応時間に対する405nmの吸光度変化のグラフの初期の傾きから算出し、加水分解産物であるp−ニトロフェノールのモル吸光係数(pH7.0、37℃)7660M−1cm−1を用いて加水分解速度を算出した。
また、酵素活性の誤差を最小限とするため、ベタイン添加による効果は活性比で表した。当該「活性比」とは、〔発明を実施するための形態〕の<1.本発明にかかる組成物>で上述したように、本発明にかかる組成物存在下における酵素の反応速度に対する本発明にかかる組成物非存在下における酵素の反応速度の比を指す。
結果を図2に示す。図2は、各種ベタインを最終濃度50mMとなるように酵素反応溶液に添加した場合の活性比を表すグラフである。化合物1〜8のいずれのベタインを添加した場合も、活性比は1を上回った。これは、ベタインを添加しなかった場合のα−グルコシダーゼ活性と比較して、ベタインを添加した場合のα−グルコシダーゼ活性が上昇したことを表している。特に、化合物6では活性比は8.7、化合物8では活性比は7.9と、ベタイン添加の効果が顕著であった。
一方、後述する比較例1に示すように、酵素活性を向上することが報告されているエタノール(非特許文献4を参照)では活性比は1.0、グリセロール(非特許文献4を参照)では活性比は0.9、ポリエチレングリコール(非特許文献5を参照)では活性比は0.1と、これらの物質を添加することによる酵素活性向上効果はほとんど確認できなかった。
〔比較例1〕
酵素活性を向上させるために一般的に用いられるエタノール、グリセロール、またはポリエチレングリコール(PEG、平均分子量6,000)をベタインの代わりに最終濃度50mMとなるように酵素反応溶液に添加した以外は、実施例1と同様の方法によりα−グルコシダーゼ活性を測定し、活性比を求めた。
〔試験例1〕
<ベタインの濃度の与える効果>
添加するベタインの最適濃度を調べるために、ベタインの濃度を変化させたときの活性比を測定した。一例として、化合物1、化合物2、および化合物6の結果を図3に示す。
図3には化合物1、化合物2、および化合物6の濃度変化による活性比の変化が示されている。
化合物2を最終濃度50mMで添加した場合の活性比は3.3であったが、添加する化合物2の濃度が上昇すると加水分解速度は濃度依存的に上昇し、最終濃度1.0Mで添加した場合の活性比は9.5であった。
また、化合物6は最終濃度50mMで添加すると顕著な効果を示したが、最終濃度0.5M以上の濃度では活性比が低下した。
化合物6に関し、活性の低下は酵素(α−グルコシダーゼ)の沈殿によるものと推察されたため、基質非存在下で酵素溶液の濁度測定を行った。
一方、化合物1は最終濃度50mMの添加で活性比の上昇が飽和挙動を示し、活性比2以上となるような酵素活性向上効果はもたらさないことが明らかとなった。これにより、化合物2〜8のベタインは、天然のベタインである化合物1と比較しても明らかな効果があることが確認された。
また、図4は、高濃度の化合物6存在下におけるα−グルコシダーゼタンパク質の沈殿の有無を示すグラフである。α−グルコシダーゼタンパク質の沈殿の有無は、沈殿の生成によって生じた粒子の起こす光散乱を検出する方法(濁度測定)により評価した。
具体的に説明すると、本発明にかかる組成物には500nmに吸収帯を持つ分子は含まれておらず、沈殿を生じない溶液では光はすべて透過するため、吸光度はゼロとなる。一方、沈殿が生じた場合は光の散乱が生じ、吸光度はゼロよりも大きな値を示す。したがって、沈殿生成による光の散乱に伴う500nmの吸光度変化を測定すれば、α−グルコシダーゼタンパク質の沈殿の有無を評価することができる。ただし、散乱強度は粒子の大きさ等にも依存するため、500nmの吸光度の強度と沈殿量とには相関はない。
化合物6を最終濃度が0.5M以上添加すると活性比が低下したが、これは、図4に示すように酵素を沈殿させることが原因であることが判明した。化合物6に関しては、低濃度領域(1mM〜0.3M)において高い活性向上効果が確認されており、この結果は本発明を制限するものではない。
試験例1の結果に従って、実施例1で用いた各種ベタインの使用濃度範囲と最大効果を表36に示した。
化合物1、化合物2、および化合物3は、ベタインのカチオンとアニオンとの距離をスペーサーによって変化させたものであるが、スペーサー長が長くなれば酵素活性向上効果は高いことが明らかになった。
化合物4、化合物5、および化合物6は、アルキル鎖長を長くすることによって、カチオンであるアンモニウム基の嵩高さを変えたものであるが、アンモニウム基が嵩高くなるほど酵素活性向上効果は高いことが明らかになった。また、ベタインの添加量が低濃度であっても酵素活性向上効果があらわれることが明らかになった。しかし、化合物5、化合物6に関しては高濃度での使用は酵素を沈殿させるため、使用に際しては濃度範囲の調節が必要となることが明らかになった。
化合物7、化合物8は、アンモニウム基の嵩高さは同じであるが、アンモニウム基に導入される官能基を疎水性から親水性に変えたものである。アンモニウム基に導入される官能基が疎水性である化合物8の方が、親水性官能基が導入された化合物7よりもその酵素活性向上効果が高いことが明らかになった。
〔試験例2〕
<各種α−グルコシダーゼに与えるベタインの効果>
種々のα−グルコシダーゼに与えるベタインの添加効果を比較した。α−グルコシダーゼとしては、市販の3種類のα−グルコシダーゼ(Saccharomyces由来(型番076-02841、和光純薬製)、Bacillus Stearothermophilus由来(型番G3651-250un、シグマアルドリッチ製)、またはBakers Yeast由来(型番G5003-100un、シグマアルドリッチ製)を用いて評価し、ベタインとしては化合物4、5、および6を用いた。化合物4は、最終濃度が750mMになるように添加し、化合物5は、最終濃度が200mMになるように添加した。化合物6は、沈殿を生じないよう最終濃度が50mMになるように添加した。
測定条件は実施例1に記載の条件に従って行い、反応時間(分)に対して産生されたp−ニトロフェノールの濃度を測定した結果を図6〜10に示す。図6は、Saccharomyces由来のα−グルコシダーゼを用い、ベタインとして化合物6を用いた結果を表す。図7は、Bacillus Stearothermophilus由来のα−グルコシダーゼを用い、ベタインとして化合物6を用いた結果を表す。図8は、Bakers Yeast由来のα−グルコシダーゼを用い、ベタインとして化合物6を用いた結果を表す。図9は、Bacillus Stearothermophilus由来のα−グルコシダーゼを用い、ベタインとして化合物4を用いた結果を表す。図10は、Bacillus Stearothermophilus由来のα−グルコシダーゼを用い、ベタインとして化合物5を用いた結果を表す。
図6〜8に示す結果から、由来の異なる3種類のα−グルコシダーゼのすべてにおいて、化合物6の添加によって化合物6非存在下と比較して反応速度の上昇が確認された。また、図9および10に示す結果から、化合物4または5の添加によっても、これらの化合物非存在下と比較して反応速度の上昇が確認された。
すなわち、これらの結果は、本発明にかかる組成物を構成するベタインを添加することによって酵素タンパク質の沈殿を生じない場合であれば、添加しない場合と比較して、酵素活性が少なくとも1倍より大きくなることを示している。
〔試験例3〕
<α−グルコシダーゼの基質選択性に与える効果>
α−グルコシダーゼの基質選択性に与えるベタインの添加効果を比較した。α−グルコシダーゼとしては、市販のα−グルコシダーゼ(Bacillus Stearothermophilus由来(型番G351-250un)、シグマアルドリッチ製)を用いた。ベタインとしては化合物6を用いた。基質としては、α−p−ニトロフェニル−D−グルコピラノシド(型番325-34671、和光純薬製)、β−p−ニトロフェニル−D−グルコピラノシド(型番N0235、東京化成製)、α−p−ニトロフェニル−D−ガラクトピラノシド(型番N0492、東京化成製)、およびα−p−ニトロフェニル−D−マンノピラノシド(型番N503995、TRC製)を用いた。
試験例3では、各基質に対するα−グルコシダーゼの反応速度は、反応時間に対する405nmの吸光度変化のグラフの初期の傾きから算出し、加水分解物であるp−ニトロフェノールのモル吸光係数(pH7.0,37℃)7660M−1cm−1を用いて算出した。
試験例3では、加水分解速度の測定は、実施例1に記載の酵素反応溶液に、記載のα−p−ニトロフェニル−D−グルコピラノシドの代わりに、上記の4種類の基質のいずれかを、最終濃度が2mMになるように上記酵素反応溶液に添加した。また、化合物6を、最終濃度が50mMになるように上記酵素反応溶液に添加した。上述した以外は実施例1に記載の条件に従って行った。化合物6存在下、または非存在下において、反応時間(分)に対して産生されたp−ニトロフェノールの濃度から算出した反応速度を表37に示す。
α−グルコシダーゼの基質であるα−p−ニトロフェニル−D−グルコピラノシドに対するα−グルコシダーゼの反応速度は、化合物6を添加することによって2.5倍に上昇したが、α−グルコシダーゼの基質の類似化合物であるβ−p−ニトロフェニル−D−グルコピラノシド、α−p−ニトロフェニル−D−ガラクトピラノシド、およびα−p−ニトロフェニル−D−マンノピラノシドに対するα−グルコシダーゼの反応速度は、化合物6を添加することで低下した。
すなわち、この結果は、本発明にかかる組成物を構成するベタインは、α−グルコシダーゼの基質に対する反応速度のみを上昇させることを示している。つまり、本発明にかかる組成物を構成するベタインを添加することによって酵素タンパク質の基質選択性(基質特異性)を向上させることができることを示している。
〔試験例4〕
<β−グルコシダーゼに与えるベタインの効果>
α−グルコシダーゼと異なる糖加水分解酵素であるβ−グルコシダーゼに与えるベタインの添加効果を比較した。β−グルコシダーゼとしては、市販のβ−グルコシダーゼ(Almond由来(型番306-50981)、和光純薬製)を用いた。ベタインとしては化合物4、5および6を用いた。基質としてはβ−p−ニトロフェニル−D−グルコピラノシド(型番N0235、東京化成製)を用いた。
β−グルコシダーゼの反応速度は、反応時間に対する405nmの吸光度変化のグラフの初期の傾きから算出し、加水分解物であるp−ニトロフェノールのモル吸光係数(pH7.0,37℃)7660M−1cm−1を用いて加水分解速度を算出した。
試験例4では、測定条件は、酵素反応溶液II(100mM リン酸緩衝溶液(pH7.0),2mM β−p−ニトロフェニル−D−グルコピラノシド,1.3×10−3mg/mL β−グルコシダーゼ)を用いて、37℃で行った。化合物4〜6のいずれかを、最終濃度50mMとなるように上記酵素反応溶液IIに添加し、反応時間(分)に対して産生されたp−ニトロフェノールの濃度を測定した。結果を図11に示す。
図11は、化合物4〜6のいずれかを用い、Almond由来のβ−グルコシダーゼを用いた場合の、反応時間(分)に対して産生されたp−ニトロフェノールの濃度を表すグラフである。図11に示す結果から、α−グルコシダーゼとは異なる基質を認識して加水分解するβ−グルコシダーゼを用いた場合であっても、本発明にかかる組成物を構成するベタインの添加によって、ベタイン非存在下の場合と比較して反応速度が上昇することが確認された。また、化合物4〜6のいずれのベタインを用いても、反応速度の上昇効果が認められた。
すなわち、この結果は、本発明にかかる組成物を構成するベタインを添加することによって、α−グルコシダーゼとは異なる糖加水分解酵素についても、その活性を向上させることができることを示している。
〔試験例5〕
<アルカリホスファターゼに与えるベタインの効果>
糖加水分解酵素以外の加水分解酵素に与えるベタインの添加効果を調べるために、リン酸エスエル加水分解酵素であるアルカリホスファターゼを用いて実験を行った。アルカリホスファターゼとしては、市販のアルカリホスファターゼ(Calf intestine由来(型番308-51041)、和光純薬製)を用いた。ベタインとしては化合物4、5および6を用いた。基質としては、p−ニトロフェニルホスフェート(型番N22002-5G、アルドリッチ製)を用いた。
アルカリホスファターゼの反応速度は、反応時間に対する405nmの吸光度変化のグラフの初期の傾きから算出し、加水分解物であるp−ニトロフェノールのモル吸光係数(pH7.0, 37℃)7660M−1cm−1を用いて加水分解速度を算出した。
試験例5では、測定条件は、酵素反応溶液III(100mM Tris−HCl緩衝溶液(pH7.5),2mM p−ニトロフェニルホスフェート,1.0×10−3mg/mL アルカリホスファターゼ)を用いて、37℃で行った。化合物4〜6のいずれかを、最終濃度50mMとなるように上記酵素反応溶液IIIに添加し、反応時間(分)に対して産生されたp−ニトロフェノールの濃度を測定した。結果を図12に示す。
図12は、化合物4〜6のいずれかを用い、Calf intestine由来のアルカリホスファターゼを用いた場合の、反応時間(分)に対して産生されたp−ニトロフェノールの濃度を表すグラフである。図12に示す結果から、リン酸エステルを加水分解するアルカリホスファターゼを用いた場合であっても、ベタインの添加によって、ベタイン非存在下と比較して反応速度が上昇することが確認された。また、化合物4〜6のいずれのベタインを用いても、反応速度の上昇効果が認められた。
すなわち、この結果は、本発明にかかる組成物を構成するベタインを添加することによって、糖加水分解酵素以外の加水分解酵素の活性についても、その活性を向上させることができることを示している。
〔試験例6〕
<乳酸脱水素酵素に与えるベタインの効果>
糖加水分解酵素、リン酸エスエル加水分解酵素等の加水分解酵素以外の酵素に与えるベタインの添加効果を調べるため、酸化還元酵素の1つである乳酸脱水素酵素を用いて実験を行った。乳酸脱水素酵素としては、市販の乳酸脱水素酵素(Chicken heart由来(型番305-51431)、和光純薬製)を用いた。ベタインとしては化合物4、5および6を用いた。基質としては、ピルビン酸(型番162-05553、和光純薬製)を用い、補酵素としてNADH(型番305-50451、和光純薬製)を用いた。
乳酸脱水素酵素による基質の酸化還元反応速度は、反応時間(分)に対する340nmの吸光度変化のグラフの初期の傾きから算出し、補酵素であるNADHのモル吸光係数(pH7.5,37℃)2970M−1cm−1を用いて算出した。
基質であるピルビン酸が酸化還元される際に、補酵素であるNADHも等モル消費され、減少する。その結果、NADH極大吸収波長である340nmの吸光度が低下する。このため、NADHのモル吸光係数(pH7.5,37℃)2970M−1cm−1を利用すれば、酸化還元によって消費されたNADHの濃度を見積もることができ、反応速度を算出することができる。
試験例6では、測定条件は、酵素反応溶液IV(80mM Tris−HCl衝溶液(pH7.5),2mM ピルビン酸,1.5mM NADH,10mM KCl,5.0×10−5mg/mL 乳酸脱水素酵素)を用いて、37℃で行った。化合物4〜6のいずれかを、最終濃度50mMとなるように上記酵素反応溶液IVに添加し、反応時間(分)に対して、基質であるピルビン酸の消費と共に減少したNADHの濃度を測定した。結果を図13に示す。
図13は、化合物4〜6のいずれかを用い、Chicken heart由来の乳酸脱水素酵素を用いた場合の、反応時間(分)に対して、基質であるピルビン酸の消費と共に減少したNADHの濃度を表すグラフである。図13に示す結果から、酸化還元酵素である乳酸脱水素酵素を用いた場合であっても、ベタインの添加によって、ベタイン非存在下と比較して反応速度が上昇することが確認された。また、化合物4〜6のいずれのベタインを用いても、反応速度の上昇効果が認められた。
すなわち、この結果は、本発明にかかる組成物を構成するベタインを添加することによって加水分解酵素以外の酵素の活性についても、その活性を向上させることができることを示している。
上述したように、本発明にかかる組成物を添加するだけで、様々な酵素の酵素活性を向上させることができるという効果を享受できる。
酵素反応は、生化学、分子生物学等の学術分野のみならず、生産工程において酵素を利用する全ての産業(医薬品産業、食品産業等)において利用可能である。

Claims (6)

  1. 酵素活性を向上させるために用いられる組成物であって、
    当該組成物が、以下の一般式(1’)で表される化合物、またはそれらの塩を含むことを特徴とする組成物:
    式(1’)中、R1、R2、およびR3は、同一又は異なって炭素数1〜4のアルキル基である;R1およびR2が結合して炭素数5の環状アルキレン基を形成し、R3はメチル基である;或いはR1およびR2が結合してN原子と共にモルホリノ基を形成し、 3はメチル基であり、
    6は炭素数1〜5のアルキレン基である。
  2. 一般式(1’)で表される化合物が、下記化合物1〜8のいずれか少なくとも1つである、請求項1に記載の組成物。
  3. 上記酵素は、加水分解酵素であることを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
  4. 上記酵素が、αグルコシダーゼ又はアルカリフォスファターゼである、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
  5. 請求項1から4のいずれか1項に記載の組成物と対象酵素とを含むことを特徴とする酵素反応キット。
  6. 酵素活性を向上させる方法であって、
    請求項1から4のいずれか1項に記載の組成物を、酵素反応系に加える工程を含むことを特徴とする当該方法(但し、ヒトの治療方法を除く)
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