JP5717323B2 - クリアインク、インクジェット記録方法、インクセット、及びインクカートリッジ - Google Patents
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Description
なお、本発明における「記録デューティ」とは、記録媒体へのインクの付与量が15.64g/m2である場合の記録デューティを100%と定義する。例えば、単位面積(縦解像度600dpi×横解像度600dpi)に、1滴の質量が3.5ng(ナノグラム)であるインク滴を8ドット付与する場合を、記録デューティが100%であるとするものである。
以下、本発明のクリアインクを構成する各成分について説明する。本発明のクリアインクは、無色、乳白色、ないしは白色であることが好ましい。特には、純水で50倍(質量倍)に希釈したクリアインクの吸光スペクトルが、400nm乃至800nmの範囲においてピークを有さず、かつ400nm乃至800nmの範囲におけるabs値が1.0以下であることが好ましい。また、本発明のクリアインクは、記録媒体に該クリアインクが付与された際に無色透明の膜を形成することができることが好ましい。このようなクリアインクは、色材を含有しないことが好ましい。
本発明のクリアインクに使用するポリマー微粒子は、後述する特定の合成方法により得られるコアシェル構造を有するものである。そして、ポリマー微粒子の、少なくともコアポリマーを構成するユニットが、α,β−エチレン性不飽和疎水性モノマー(b)として、芳香族含有不飽和モノマーを含み、前記ポリマー微粒子に対して、前記芳香族含有不飽和モノマーに由来するユニットが占める割合が、10.0質量%以上70.0質量%以下であるものである。
本発明のクリアインクに使用するポリマー微粒子は、α,β−エチレン性不飽和疎水性モノマー(a)とα,β−エチレン性不飽和酸モノマー及びその塩から選ばれるモノマーを少なくとも共重合して得られるシェルポリマーの存在下で、α,β−エチレン性不飽和疎水性モノマー(b)として芳香族含有不飽和モノマーを重合させて得られたものである。本発明においては、前記α,β−エチレン性不飽和疎水性モノマー(a)及びα,β−エチレン性不飽和疎水性モノマー(b)の両方に、芳香族含有不飽和モノマーが含まれることが特に好ましい。なお、α,β−エチレン性不飽和疎水性モノマーやα,β−エチレン性不飽和酸モノマーとして、オリゴマーやマクロモノマーなども用いることができる。以下、本発明においては、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルのことを示す。
本発明のクリアインクに使用するポリマー微粒子は、本発明の効果を損なわない限り、上記で挙げたようなα,β−エチレン性不飽和モノマー以外にも、一般的なモノマーを使用することができる。その他に使用可能なモノマーとしては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル類、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどのアルキレンオキサイド基を有するモノマー、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類、アルキルビニルエーテル、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、ジビニルベンゼンなどのビニル化合物、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの重合可能な二重結合を2つ以上有する架橋性不飽和モノマーなどが挙げられる。勿論、本発明はこれらに限られるものではない。
本発明のクリアインクに使用するポリマー微粒子は、酸価が40mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であることが好ましく、さらには60mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であることが好ましい。ポリマー微粒子の酸価が40mgKOH/g未満であると、ポリマー微粒子の疎水性が高くなるため分散安定性が十分に得られず、インクジェット用のクリアインクとして必要となる吐出安定性が十分に得られない場合がある。一方、ポリマー微粒子の酸価が200mgKOH/gを超えると、画像の光沢性が十分に得られない場合がある。これは、酸価が高いため水性媒体中のポリマー微粒子の分散状態が安定化される。このため、このようなポリマー微粒子を含有するクリアインクを記録媒体に付与すると、ポリマー微粒子が記録媒体の内部に浸透する割合が増えることになり、逆に記録媒体の表面上に残存するポリマー微粒子の割合が減る。このような理由から、クリアインクの記録デューティが低い場合(例えば、記録デューティが20%以下である場合)に、画像の光沢性を十分に向上させることができない場合がある。
本発明のクリアインクに使用するポリマー微粒子は、シェルポリマーの酸価が60mgKOH/g以上400mgKOH/g以下、さらには60mgKOH/g以上160mgKOH/g以下であることが好ましい。シェルポリマーの酸価が60mgKOH/g未満であると、水性媒体中でのポリマー微粒子の分散安定性が低下する。そのため、本発明で規定する構造を有するポリマー微粒子を合成することが困難になる場合があり、合成されたポリマー微粒子は不安定なものとなるため、保存安定性が十分に得られない場合や、それに伴い吐出安定性が十分に得られない場合がある。一方、シェルポリマーの酸価が400mgKOH/gを超えると、シェルポリマーの水溶性が高くなりすぎるため、やはり本発明で規定する構造を有するポリマー微粒子を合成することが困難になる場合がある。さらに、合成されたポリマー微粒子の水溶性も高くなるため、クリアインクの記録デューティが低い場合(例えば、記録デューティが20%以下である場合)に、画像の光沢性を十分に向上させることができない場合がある。
本発明のクリアインクに使用するポリマー微粒子は、コアポリマーとシェルポリマーとの比率が、質量基準で、コア/シェル=0.33以上1.5以下であることが好ましい。この範囲を外れると、コアとシェルとがそれぞれ有する機能を両立できない場合がある。具体的には、コア/シェルの比率が0.33未満であると、クリアインクの記録デューティが低い場合(例えば、記録デューティが20%以下である場合)に、画像の光沢性を十分に向上させることができない場合がある。一方、コア/シェルの比率が1.5を超えると、インクジェット用のクリアインクとして必要となる吐出安定性が十分に得られない場合がある。
本発明のクリアインクに使用するポリマー微粒子は、シェルポリマーの重量平均分子量が3,000以上50,000以下であることが好ましい。シェルポリマーの重量平均分子量が3,000未満であると、重量平均分子量が小さいことにより立体反発層が形成しにくいため、本発明で規定する構造を有するポリマー微粒子を合成することが困難になる場合がある。さらに、合成されたポリマー微粒子は不安定なものとなるため、保存安定性が十分に得られない場合や、クリアインクの記録デューティが低い場合(例えば、記録デューティが20%以下である場合)に、画像の光沢性を十分に向上させることができない場合がある。一方、シェルポリマーの重量平均分子量が50,000を超えると、インクジェット用のクリアインクとして必要となる吐出安定性が十分に得られない場合がある。これは、ポリマー微粒子の外殻であるシェルポリマーの重量平均分子量が大きくなると、ポリマー微粒子を含有するクリアインクの粘度が大幅に高くなる傾向があるためである。
本発明のクリアインクに使用するポリマー微粒子は、最低造膜温度(℃)が25℃以下であることが好ましい。最低造膜温度が25℃を超えると、このようなポリマー微粒子を含有するクリアインクを記録媒体に付与した際に一般的な室温の環境において造膜することができず、画像の光沢性を十分に向上させることができない場合がある。また、ポリマー微粒子の最低造膜温度(℃)は、−50℃以上であることが好ましい。なお、ポリマー微粒子の最低造膜温度は、使用するモノマーの種類やその組成比、ポリマー微粒子の重量平均分子量などを変更することで調整することができる。また、ポリマー微粒子の最低造膜温度は、ISO2115の試験法に準拠して測定することができる。
本発明のクリアインクに使用するポリマー微粒子を構成するユニットとして使用する芳香族含有不飽和モノマーは、コアシェル構造のコアポリマーにのみに存在することが好ましい。このように構成されたポリマー微粒子を使用することで、コア部分とシェル部分とで明確に機能分離され、コアポリマーに、耐水性、耐擦過性、耐磨耗性などの堅牢性や高屈折率の特性を付与するなどの機能を持たせることができる。さらに、コアポリマー及びシェルポリマーの両方に芳香族含有不飽和モノマーが存在する場合と比較して、コアポリマーのみに芳香族含有不飽和モノマーが存在する場合には、上記の機能分離がより効果的に発揮され、画像の光沢性をより向上させることができる。
本発明のクリアインクに使用するポリマー微粒子を構成するユニットとして使用できる、上記で挙げたようなカルボン酸基含有不飽和モノマー又はその塩に由来するユニットは、コアシェル構造のシェルポリマーにのみ存在することが好ましい。このように構成されたポリマー微粒子を使用することで、コア部分とシェル部分とで明確に機能分離され、成膜性、基材密着性、分散安定性、吐出安定性などの機能を持たせることができる。
本発明のクリアインクに使用するポリマー微粒子は、体積平均粒子径が30nm以上200nm以下、さらには40nm以上170nm以下であることが好ましい。体積平均粒子径が30nm未満であると、このようなポリマー微粒子を含有するクリアインクを記録媒体に付与すると、ポリマー微粒子が記録媒体の内部に浸透する割合が増えることになり、逆に記録媒体の表面上に残存するポリマー微粒子の割合が減る。このような理由から、クリアインクの記録デューティが低い場合(例えば、記録デューティが20%以下である場合)に、画像の光沢性を十分に向上させることができない場合がある。一方、体積平均粒子径が200nmを超えると、記録ヘッドの吐出口やインク流路にポリマー微粒子が目詰まりしやすくなったり、付着しやすくなったりするなど、インクジェット用のクリアインクとして必要となる吐出安定性が十分に得られない場合がある。
クリアインク中のポリマー微粒子の含有量(質量%)は、クリアインク全質量を基準として、0.3質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。含有量が0.3質量%未満であると、クリアインクの記録デューティが低い場合(例えば、記録デューティが20%以下である場合)に、十分な量のポリマー微粒子が記録媒体の表面上に残存することができず、光沢性を十分に向上させることができない場合がある。一方、含有量が5.0質量%を超えると、固形分の含有量が高くなりすぎ、クリアインクを記録媒体に付与した際に記録媒体の表面上に形成されるドットが高くなる。そのため、クリアインクを付与した領域の表面の平滑性が低下することにより画像の光沢性が十分に得られない場合がある。また、クリアインクとして必要となる吐出安定性が十分に得られない場合がある。
本発明のクリアインクに含有させるコアシェル構造を有するポリマー微粒子は、シェルポリマーの存在下でコアポリマーを重合することにより得られたものである。本発明において、このような合成方法により得られたコアシェル構造を有するポリマー微粒子を使用するのは、以下のような理由による。上記の合成方法においては、水溶性が相対的に高いシェルポリマーの内部に、水溶性が相対的に低いコアポリマーが選択的に取り込まれながら重合が進む。このため、コア成分の仕込みモノマーに由来するユニットが内側に、また、シェル成分の仕込みモノマーに由来するユニットが外側に配置され、コアポリマーがシェルポリマーに被覆された、コアシェル構造を有するポリマーを合成することができる。さらに、このような方法を用いることで、所望のコア/シェルの比率を有するポリマー微粒子を容易に合成することもできる。この場合、シェルポリマーとコアポリマーとの水溶性の差が大きいと、より的確にコントロールされたコアシェル比を有するポリマー微粒子を合成することができるため、特に好適である。
本発明のクリアインクには、上記で説明したコアシェル構造を有するポリマー微粒子の他にも、ポリマーを添加することができる。このようなポリマーは、水性媒体中にポリマー微粒子をさらに安定して分散させるための分散剤として用いても、又は画像の耐擦過性を向上させるなどの他の目的でクリアインクに添加してもよい。
クリアインクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。クリアインク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、クリアインク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤は、水溶性であれば特に制限はなく、当該技術分野でインクジェット用インク用として知られている水溶性有機溶剤がいずれも使用できる。
クリアインクには、上記成分の他に、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの常温で固体の水溶性有機化合物を含有してもよい。クリアインク中のこれらのような水溶性有機化合物の含有量(質量%)は、クリアインク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下、さらには1.0質量%以上15.0質量%以下であることが好ましい。また、必要に応じて所望の物性値を有するクリアインクとするために、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤などの種々の添加剤を含有してもよい。
本発明のクリアインクは、顔料インクと組み合わせてクリアインクとのインクセットとしても用いることができる。以下、本発明のクリアインクと共に使用可能な顔料インクを構成する各成分について説明する。
顔料インクに用いる色材は、当該技術分野で公知のカーボンブラックなどの無機顔料や有機顔料が挙げられる。顔料の分散方式としては、顔料粒子の表面に親水性基やポリマーを結合させた自己分散型顔料、樹脂分散型顔料、マイクロカプセル型顔料などの公知の分散方式を使用することができる。顔料インク中の顔料の含有量(質量%)は、顔料インク全質量を基準として、1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
顔料インクには、上記で説明した樹脂分散型顔料とする場合に分散剤として使用するポリマーの他に、さらに別のポリマーを添加することができ、また、自己分散型顔料やマイクロカプセル型顔料とする場合にもさらにポリマーを添加することができる。このようなポリマーは、水性媒体中に顔料をさらに安定して分散させるためとして用いても、又は画像の耐擦過性や記録媒体への顔料の定着性を向上させるなどの他の目的でインクに添加してもよい。
顔料インクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。顔料インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、顔料インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、クリアインクに使用可能なものとして挙げた水溶性有機溶剤と同様のものを使用することができる。水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。顔料インク中の水の含有量(質量%)は、顔料インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、顔料インクには、上記のクリアインクに使用可能なものとして挙げたその他の成分と同様のものを使用することができる。
本発明のクリアインクを付与する記録媒体はどのようなものであってもよいが、顔料インク中の顔料やクリアインク中のポリマー微粒子を記録媒体の表面上に存在させることができるような記録媒体を用いることが好ましい。このような記録媒体としては、例えば、膨潤型や吸収型の記録媒体が挙げられる。本発明においては、インク受容層が光沢を有する記録媒体を用いることが好ましく、さらにはインク受容層が光沢を有する層を含むような記録媒体であることがより好ましい。具体的には、記録媒体表面の20°グロスの値が10以上であるような記録媒体を用いることが好ましい。なお、20°グロスの値は、例えば、マイクロヘイズメーター(BYKガートナー製)を用いて測定することができる。
本発明のクリアインクは、クリアインクをインクジェット方式で吐出して記録媒体に付与する本発明のインクジェット記録方法に用いる。特に、本発明においては、熱エネルギーを利用するインクジェット記録方法を好ましく用いることができる。以下、この方式を中心に説明する。
本発明のクリアインクは、少なくとも1種の顔料インクと組み合わせたインクジェット用のインクセットとして用いることができる。顔料インクの色相は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、レッド、グリーン、及びブルーなどの各インクから1種又は2種以上を選択することができる。また、インクセットを構成する顔料インクとして、上記のインクと互いに同じ色相を有し、顔料の含有量がそれぞれ異なる複数のインクを用いてもよい。このような複数のインクの組み合わせとしては、ブラック、淡ブラック、グレー、及び淡グレーなどのブラックの色相を有するインクが挙げられる。また、濃シアン、中シアン、及び淡シアンなどのシアンの色相を有するインク、さらには、濃マゼンタ、中マゼンタ、及び淡マゼンタなどのマゼンタの色相を有するインクが挙げられる。勿論、本発明はこれらの色相のインクに限られるものではなく、また、濃、中、淡などのインクの名称もこれらに限られるものではない。
本発明のクリアインクを用いて記録を行うのに好適なインクカートリッジとしては、かかるクリアインクを収容する収容部を備えた本発明のインクカートリッジが挙げられる。
本発明のクリアインクを用いて記録を行うのに好適な記録ユニットとしては、かかるクリアインクを収容する収容部と、クリアインクを吐出するための記録ヘッドとを備えた本発明の記録ユニットが挙げられる。特に、前記記録ヘッドが、記録信号に対応した熱エネルギーをクリアインクに作用することによりクリアインクを吐出する記録ユニットを好ましく用いることができる。
本発明のクリアインクを用いて記録を行うのに好適なインクジェット記録装置としては、かかるクリアインクを収容する収容部と、クリアインクを吐出するための記録ヘッドとを備えた本発明のインクジェット記録装置が挙げられる。特に、前記クリアインクを収容する収容部を有する記録ヘッドの内部のクリアインクに、記録信号に対応した熱エネルギーを作用することによりクリアインクを吐出するインクジェット記録装置が挙げられる。なお、以下の記載においてインクと記載するものは、本発明のクリアインクにも、また該クリアインクと共に使用する顔料インクのどちらにも適用することができる。
ヘッドカートリッジH1000の構成について説明する。図5は、ヘッドカートリッジH1000の構成を示した図であり、また、ヘッドカートリッジH1000に、インクカートリッジH1900を装着する様子を示した図である。ヘッドカートリッジH1000は、記録ヘッドH1001と、インクカートリッジH1900を搭載する手段、及びインクカートリッジH1900から記録ヘッドにインクを供給する手段を有しており、キャリッジM4000に対して着脱可能に搭載される。
(シェルポリマーの合成)
以下の手順にしたがって、S1〜S21の各シェルポリマーを合成した。撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、100.0部のエチレングリコールモノブチルエーテルを添加した後、反応系に窒素ガスを導入し、撹拌下で表1に示す反応温度に昇温させた。このフラスコに、下記表1に示す種類及び質量部の各モノマーの混合物と、下記表1に示す質量部のt−ブチルパーオキサイド(重合開始剤)のエチレングリコールモノブチルエーテル溶液を3時間かけて滴下した。その後、エージングを2時間行い、さらにエチレングリコールモノブチルエーテルを減圧下で除去して、固形のポリマーを得た。このようにして得られたポリマーを、その酸価と当量の水酸化カリウム及び適量のイオン交換水を加えて80℃で中和溶解して、固形分(シェルポリマー)の含有量が30%であるシェルポリマーの水溶液を得た。このようにして得られたシェルポリマーS1〜S21の酸価及び重量平均分子量の値を表1に示した。
以下の手順にしたがって、P1〜P35の各コアシェル構造を有するポリマー微粒子を合成した。撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、上記で得られた各シェルポリマーの水溶液を、ポリマーの固形分が表2に示す質量部となるように添加した後、反応系に窒素ガスを導入し、撹拌下で表2に示す反応温度に昇温させた。このフラスコに、下記表2に示す種類及び質量部の各モノマーの混合物と、下記表2に示す質量部の過硫酸カリウム(重合開始剤)を水16.7部に溶解した液体を3時間かけて滴下した。そして、エージングを2時間行った後、適量のイオン交換水で固形分を調整し、固形分(コアシェル構造を有するポリマー微粒子)の含有量が25%であるコアシェル構造を有するポリマー微粒子の水分散液を得た。このようにして得られた各コアシェル構造を有するポリマー微粒子は、コアポリマーがシェルポリマーに被覆された構造であった。
上記で得られたP1〜P35の各コアシェル構造を有するポリマー微粒子の主特性を下記表3に示した。なお、表3中のモノマーの略記号は表1及び表2と同様である。
以下の手順にしたがって、単層のポリマー微粒子P36〜P38を合成した。このポリマー微粒子P36〜P38は単層のポリマー微粒子であり、それぞれ、比較例のクリアインクに使用したものである。撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、133.3部の水を添加した後、反応系に窒素ガスを導入し、撹拌下で表4に示す反応温度に昇温させた。このフラスコに、下記表4に示す種類及び質量部の各モノマーの混合物と下記表4に示す質量部の過硫酸カリウム(重合開始剤)を水16.7部に溶解した液体を3時間かけて滴下した。そして、エージングを2時間行った後、適量のイオン交換水で固形分を調整し、固形分(単層のポリマー微粒子)の含有量が25%である単層のポリマー微粒子の水分散液を得た。このようにして得られた単層のポリマー微粒子P36〜P38の主特性を表4に示した。
ポリマー微粒子P39としては、単層のポリマー微粒子として、アクリルポリマーエマルションであるボンコート4001(固形分の含有量50.0%、最低造膜温度5℃;DIC製)を、適量のイオン交換水で固形分を調整し、固形分の含有量を25%としたものを使用した。また、ポリマー微粒子P40としては、コアシェル構造ではない単層のポリマー微粒子として常法により合成したスチレン−アクリル酸共重合体(固形分の含有量33.3%)を適量のイオン交換水で固形分を調整し、固形分の含有量を25%としたものを使用した。
以下の手順にしたがって、コアシェル構造を有するポリマー微粒子P41を合成した。このポリマー微粒子P41は、本発明で規定するポリマー微粒子の合成方法とは異なる方法で合成したものであり、比較例のクリアインクに使用したものである。撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、133.3部の水、及び2.0部のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(ノニオン性界面活性剤)を添加した後、反応系に窒素ガスを導入し、撹拌下で反応温度80℃に昇温させた。このフラスコに、10%過硫酸アンモニウム水溶液10.0部(重合開始剤)、アクリル酸−2−エチルヘキシル24.0部、メタクリル酸メチル18.0部、アクリル酸18.0部の混合物を撹拌下で30分かけて滴下した。その後、t−ブチルパーオキサイド0.2部(重合開始剤)、及びロンガリット0.1部(スーパーライトSFS;三菱ガス化学製)を順次添加して、1時間反応させ、コアポリマーを合成した。その後、このフラスコにさらに、スチレン32.0部、及びアクリル酸−2−エチルヘキシル8.0部の混合物を3時間かけて滴下した。これと同時にt−ブチルパーオキサイド0.8部(重合開始剤)、及びロンガリット0.4部(同上)を順次添加した。そして、エージングを2時間行った後、適量のイオン交換水で固形分を調整し、固形分(コアシェル構造を有するポリマー微粒子)の含有量が25%であるコアシェル構造を有するポリマー微粒子P41の水分散液を得た。このようにして得られたコアシェル構造を有するポリマー微粒子P41の主特性を表5に示した。
また、以下の手順にしたがって、コアシェル構造を有するポリマー微粒子P42を合成した。このポリマー微粒子P42は、本発明で規定する合成方法とは異なる方法で合成したものであり、比較例のクリアインクに使用したものである。撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、260部の0.1%水酸化ナトリウム水溶液を添加した。このフラスコに、スチレン30.0部、アクリル酸−2−エチルヘキシル8.0部、純度81%のジビニルベンゼン2.5部(商品名:DVB−810;新日鐵化学製)の混合液、及びアゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)0.8部の混合物を撹拌下で室温にて添加した。その後さらに、上記のシェルポリマーAの合成において、未中和の状態のポリマーをメチルエチルケトンに溶解させ、固形分(シェルポリマー)の含有量を35%に調整したシェルポリマーAの溶液171.4部を添加した。このようにして得られた混合物を、超音波ホモジナイザー(US−300T;日本精機製作所製)を用いて1時間超音波により分散することで乳化させた後、反応系を75℃に昇温し、3時間撹拌して重合させ、コア部が架橋されたポリマー微粒子を合成した。次いで、合成物から有機溶媒を除去し、適量のイオン交換水で固形分を調整し、固形分(コアシェル構造を有するポリマー微粒子)の含有量が25%であるコアシェル構造を有するポリマー微粒子P42の水分散液を得た。このようにして得られたポリマー微粒子P42の主特性を表5に示した。
下記表6に示す各成分を混合した後、ポアサイズが1.2μmであるメンブレンフィルター(HDCIIフィルター;ポール製)にて加圧ろ過することで、実施例、参考例及び比較例の各クリアインクを調製した。このようにして得られた実施例及び参考例の各クリアインクは無色、乳白色、ないしは白色であり、色材を含有しないものである。また、実施例及び参考例の各クリアインクは、純水で50倍(質量倍)に希釈したクリアインクの吸光度を測定した際に、400nm乃至800nmの範囲においてピークを有さず、かつ400nm乃至800nmの範囲におけるabs値が1.0以下であった。
先ず、顔料20部、ポリマー水溶液(固形分の含有量:20.0%)60部、及び水20部を、0.3mm径のジルコニアビーズの充填率を80%としたビーズミル(LMZ2;アシザワファインテック製)に入れ、回転数1,800rpmで5時間分散した。なお、顔料としては、C.I.ピグメントレッド122(商品名:トナーマゼンタE02;クラリアント製)を、また、ポリマー水溶液としては、ジョンクリル678(ジョンソンポリマー製)を、酸価と当量の水酸化カリウムで中和したものを用いた。その後、回転数5,000rpmで30分間遠心分離を行うことにより凝集成分を除去し、さらにイオン交換水で希釈することで、顔料の含有量が15.0%である顔料分散液を得た。
・ポリマー微粒子P1の水分散液(固形分の含有量25.0%) 4.0%
・グリセリン 7.0%
・ポリエチレングリコール(平均分子量:1,000) 5.0%
・トリメチロールプロパン 5.0%
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル 3.0%
・アセチレノールE100(界面活性剤:川研ファインケミカル製)0.5%
・イオン交換水 48.8%
・グリセリン 7.0%
・ポリエチレングリコール(平均分子量:1,000) 5.0%
・トリメチロールプロパン 5.0%
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル 3.0%
・アセチレノールE100(界面活性剤:川研ファインケミカル製)0.5%
・イオン交換水 52.8%
上記で得られた各クリアインク及び各顔料インクをそれぞれ充填したインクカートリッジを、熱エネルギーの作用により吐出を行うインクジェット記録装置(商品名:PIXUS Pro9500;キヤノン製)に搭載した。このインクジェット記録装置は、縦解像度600dpi×横解像度600dpiの領域に、1滴当たりの質量が3.5ng(ナノグラム)であるインク滴を8ドット付与する場合を、記録デューティ100%とするものである。なお、実施例及び参考例の各クリアインクを記録媒体に付与した結果、これらのクリアインクはいずれも無色透明の膜を形成できるものであった。また、以下の評価においては、クリアインクにより形成された無色透明の膜を観察しやすくするため、記録媒体としてOHPフィルムを用いたが、本発明のクリアインクを適用可能な記録媒体はこれに限られるものではない。
各クリアインクを用いて、上記のインクジェット記録装置により、記録媒体(OHPフィルム CG3410;住友スリーエム製)に、記録デューティが50%であるA4サイズのベタ画像を連続して20枚分記録した。そして、目視で確認した1枚目と20枚目の画像における記録ヨレの状態から、吐出安定性の評価を行った。吐出安定性の評価基準は以下の通りである。評価結果を表8に示す。本発明においては下記の評価基準でB以上が許容できる吐出安定性のレベルとした。
AA:20枚分の記録が可能であり、20枚目の画像に記録ヨレがなかった。
A:20枚分の記録が可能であり、20枚目の画像にわずかな記録ヨレがあった。
B:20枚分の記録が可能であったが、1枚目の画像と比べて20枚目の画像に記録ヨレが目立った。
C:20枚分の記録ができなかった。
顔料インクと各クリアインクとを下記表8に示すように組み合わせてインクセットとした。そして、上記のインクジェット記録装置により、記録媒体(OHPフィルム CG3410;住友スリーエム製)に、以下の(1)〜(6)のそれぞれ2cm×2cmのベタ画像を含むパターンを記録した。この際、顔料インク及びクリアインクは、カートリッジホルダーのマゼンタインク及びグリーンインクのポジションにそれぞれセットし、顔料インクを付与した後にクリアインクを重なるように付与して、8パス片方向で記録を行った。
(1)顔料インクの記録デューティ:0%+クリアインクの記録デューティ:0%(どちらのインクも記録しない)
(2)顔料インクの記録デューティ:0%+クリアインクの記録デューティ:7.5%
(3)顔料インクの記録デューティ:0%+クリアインクの記録デューティ:15%
(4)顔料インクの記録デューティ:10%+クリアインクの記録デューティ:0%
(5)顔料インクの記録デューティ:10%+クリアインクの記録デューティ:7.5%
(6)顔料インクの記録デューティ:10%+クリアインクの記録デューティ:15%
102:本発明のクリアインクを、顔料インクの記録デューティが10%である領域に重ねて付与した場合の20°グロスの値
103:比較例のクリアインクを、顔料インクの記録デューティが0%である領域に重ねて付与した場合の20°グロスの値
104:比較例のクリアインクを、顔料インクの記録デューティが10%である領域に重ねて付与した場合の20°グロスの値
Claims (17)
- 少なくともポリマー微粒子(但し、架橋ポリマー微粒子を除く)を含有するインクジェット用のクリアインクであって、
前記ポリマー微粒子が、α,β−エチレン性不飽和疎水性モノマー(a)に由来するユニットと、α,β−エチレン性不飽和酸モノマー及びその塩から選ばれるモノマーに由来するユニットと、を少なくとも有する共重合体であるシェルポリマーの存在下で、さらにα,β−エチレン性不飽和疎水性モノマー(b)をコアポリマーとして重合することにより得られるコアシェル構造を有し、
前記α,β−エチレン性不飽和疎水性モノマー(b)が、芳香族含有不飽和モノマーを少なくとも含むとともに、前記コアシェル構造の前記コアポリマーのみが、芳香族含有不飽和モノマーに由来するユニットを有し、
さらに、前記ポリマー微粒子に対して、前記芳香族含有不飽和モノマーに由来するユニットが占める割合が、10.0質量%以上70.0質量%以下であることを特徴とするクリアインク。 - 前記ポリマー微粒子の酸価が、40mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である請求項1に記載のクリアインク。
- 前記シェルポリマーの酸価が、60mgKOH/g以上400mgKOH/g以下である請求項1又は2に記載のクリアインク。
- 前記ポリマー微粒子におけるコアポリマーとシェルポリマーの比率が、質量基準で、コア/シェル=0.33以上1.5以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のクリアインク。
- 前記シェルポリマーの重量平均分子量が、3,000以上50,000以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のクリアインク。
- 前記ポリマー微粒子の最低造膜温度(℃)が、25℃以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のクリアインク。
- 前記芳香族含有不飽和モノマーが、スチレン、α−メチルスチレン及び(メタ)アクリル酸ベンジルから選ばれる少なくとも1種である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のクリアインク。
- 前記α,β−エチレン性不飽和酸モノマー及びその塩から選ばれるモノマーが、カルボン酸基含有不飽和モノマー又はその塩を少なくとも含む請求項1乃至7のいずれか1項に記載のクリアインク。
- 前記シェルポリマーのみが、カルボン酸基含有不飽和モノマー又はその塩に由来するユニットを有する請求項1乃至8のいずれか1項に記載のクリアインク。
- 前記ポリマー微粒子の体積平均粒子径が、30nm以上200nm以下である請求項1乃至9のいずれか1項に記載のクリアインク。
- 前記クリアインク中の前記ポリマー微粒子の含有量(質量%)が、クリアインク全質量を基準として、0.3質量%以上5.0質量%以下である請求項1乃至10のいずれか1項に記載のクリアインク。
- 前記クリアインクが、色材を含有しない請求項1乃至11のいずれか1項に記載のクリアインク。
- クリアインクをインクジェット方式で吐出して記録媒体に付与するインクジェット記録方法であって、
前記クリアインクが、請求項1乃至12のいずれか1項に記載のクリアインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。 - クリアインクと少なくとも1種の顔料インクとを用いるインクジェット記録方法であって、
顔料インクを用いて記録媒体に記録を行う工程(I)、及びクリアインクをインクジェット方式で吐出して記録媒体に付与する工程(II)、を有し、
前記クリアインクが、請求項1乃至12のいずれか1項に記載のクリアインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。 - 記録媒体の少なくとも一部の領域において、前記工程(I)を行った後に、前記工程(II)を行う請求項14に記載のインクジェット記録方法。
- クリアインクと顔料インクとを有するインクジェット用のインクセットであって、
前記クリアインクが、請求項1乃至12のいずれか1項に記載のクリアインクであることを特徴とするインクセット。 - クリアインクを収容するための収容部を備えたインクカートリッジであって、
前記クリアインクが、請求項1乃至12のいずれか1項に記載のクリアインクであることを特徴とするインクカートリッジ。
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