以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
図1は、本実施の形態であるくつ下1Aを示している。このくつ下1Aは、手指が不自由になり通常のくつ下では自分で履くのが困難となった使用者が、介護者に頼ることなく一人で履くことを想定したものであり、その左足用のみを示したものであるが、実際にはこれと対称形の右足用と組み合わせて一足となる。
このくつ下1Aは、甲部20と足底部30からなる本体から延設され足を挿入する開口端を有してくるぶしから上を覆う筒状体10Aの左側面に、使用者が指を掛ける指掛け部11Aを備えており、この指掛け部11Aは、使用者が指を挿入して引掛けることが可能な長さ及び深さで横方向に形成されたスリット110を備えている。
そのスリット110は、筒状体10Aにおけるスリット110の下側を構成する部分とその上端側を延長するように接続された延長部材120からなる下側のスリット構成部材の上端側所定範囲に、筒状体10Aにおけるスリット110の上側部分を構成する上側のスリット構成部材の下端側が、外側から重なったことにより形成されている。
具体的には、筒状体10Aの側面所定位置を所定幅で横向きにカットして前記スリット110を形成し、このスリット110よりも僅かに幅広の長方形の布材からなる延長部材120を、その下部側でスリット110を内側から覆うように配置して、その下辺と2つの側辺の部分を縫い糸120aで筒状体10A側に縫い合わせてポケット状に固定してなるものである。また、この上下のスリット構成部材による重なり部分123上端側の両部材は縫い合わされておらず、下から挿入した指先がその上端側で突き当たらずに上方向に抜けるようになっている。
このように、2枚のスリット構成部材の所定範囲同士を重ねることで横向きのスリット110が形成されているが、その両端側で両部材が縦方向に縫い合わされて互い接続されていることにより、指掛け部11Aの強度が増して変形しにくくなるため、引き上げ動作を容易に行いやすいものとしている。また、挿入した指先が突き当たらずに上に抜けるようにしたことで、指の引掛け状態が安定して指先に力が入りやすいものとなる。
尚、斯かるスリット110は、少なくとも1本の指を下から挿入できる幅を有しているが、人差し指と中指、または中指と薬指の2本を挿入可能な4〜5cmの幅を有していることが好ましい。また、スリット110は筒状体10Aの左右側面のいずれか一方だけではなく、左右両側又は前後側に対で形成してあることが好ましく、この場合は、両手を使って引き上げることが可能になるとともに、くつ下の左右の別が不要なものとなる。
図2(B)の断面図を参照して、本実施の形態においては、筒状体10Aの上下のスリット構成部材による重なり部分123よりも上の部分は、部材が開口端まで重ならない単層構造とされていることから、その開口端を広げて爪先を挿入しやすいものとなっている。また、延長部材120は、通常は上側のスリット構成部材に密着してスリット110を閉じているが、指を挿入することでその上端側が開口するようになっている。
図3(A)は、くつ下1Aを履く際に、指掛け部11Aに下から人差し指を挿入して引掛けた状態を示している。この状態から指を上に引き上げることで、指先は重なり部分123を構成している延長部材120の上端側を通過して深く挿入されるため、しっかりと引掛った状態となる。また、その状態から指を握ることで、図(B)に示すようにスリット110の上側を構成する部分を総て纏めて把持できるため、さらに力が入りやすくなって、くつ下1Aの引き上げ作業が一層容易に行えるようになる。
図4(A)は、指掛け部11Aに対し筒状体10Aの内周側から親指を挿入して引掛けた状態を示している。前述のように、スリット110を構成している下側のスリット構成部材と上側のスリット構成部材による重なり部分123の上端側は、接続されずに開口可能とされており、その上方から指を挿入して引掛けられるようになっている。また、図(B)に示すように、人差し指を内側から挿入して同様に引掛けることもでき、手指の機能に応じて最も作業のしやすい挿入方法を選択できる。尚、上述の説明において、人差し指の代わりに中指や薬指を使用しても良く、これらを組み合わせて2〜3本使用しても良いことは言うまでもない。
図5は、本発明における第2の実施の形態のくつ下1Bを示している。このくつ下1Bにおいては、上下の部材の重なりでスリット112を形成させるために、指掛け部11B及びくつ下1Bの全体を、複数のパーツを組み合わせることにより作成して、前述と同様の重なり部分122を左右両側に設けた点を特徴としている。
即ち、このくつ下1Bは、甲部22及び筒状体10Bの前方部分を構成する第1布材220、足底部32を構成する第2布材320、かかと部分から上の筒状体10B後方部分を構成する第3布材230、筒状体10Bの右側部分から足底部32に至る図示しない第4布材、この第4布材の上端側所定範囲に下端側を被せて重ねて上側のスリット構成部材を構成する図示しない第5布材、筒状体10Bの左側部分から足底部32に至るとともに下側のスリット構成部材を構成する第6布材240、この第6布材240の上端側所定範囲に下端側を被せて重ねて上側のスリット構成部材を構成する第7布材250、の7つのパーツを縫い合わせることで作成されている。
このように、複数のパーツを組み合わせて作成したことにより、基本的にはニット製品であるくつ下において、重なり部分122によるスリット112を、比較的容易且つ綺麗に設けることができる。そして、図6(A)に示すように、スリット112の上方に形成される重なり部分122は、第6布材240の上端側にそのまま形成されたものとなっており、図示しない筒状体10B右側面の重なり部分も同様である。
そのため、斜め上向きに曲げた指先で下側のスリット構成部材である第6布材240の表面をなぞるようにスリット112の下方から上向きに指を動かすことで、図6(B)に示すように指先がスリット112にそのまま挿入されて指の引掛け動作が完了することから、視力が低下したり指先の触覚が低下したりした使用者であっても指の引掛け動作が容易に完了するため、比較的容易に履くことを可能としている。尚、斯かる指掛け部は、筒状体10Bの左右両側に設けることのほか、前後両側に設けても良い。また、図7(A)に示すように、上下のスリット構成部材の重なり部分を構成する部分に各々補強材245,255を内装した第6布材240b、第7布材250bを用いれば、図7(B)の指を引掛けた状態における強度が格段に増すため、一層履きやすいものとなる。
図8は、本発明における第3の実施の形態のくつ下1Cを示している。本実施の形態においては、その筒状体10Cが、本体側から続く短尺の筒状体10cの外周面上端側の所定範囲を外側から覆うように、これとは別体の筒状部材40の内周面下端側の所定範囲を被せ、両者を縫い合わせて接続・一体化したことにより、被せた筒状部材40下端側の周方向所定範囲にスリット111が形成されている点を特徴としている。
即ち、短尺の筒状体10c上端側に、これよりもやや大径の筒状部材40の下端側を被せることで重なり部分121を形成させ、その下端側にスリット111を形成させて指掛け部11Cとしたものであり、これを内側から見た図9(A)に示すように、スリット111の両端側で縫い糸121a,121bにより両部材が縫い合わされて一体化し、図(B)の断面図に示すように重なり部分121の上端側は接続されずに開口可能となっている。
このような構成を採用したことにより、スリット111の上方に重なり部分121を有した指掛け部11Cを極めて容易な手順で設けられるものとなった。また、2つの筒状の部材を重ねて組み合わせてなる指掛け部11Cは、その強度において極めて優れているため、強い引き上げ動作でも変形しにくいとともに、長期間に亘る使用にも塑性変形を生じにくいものとなっている。さらに、前述したくつ下1Bと同様に、曲げた指先をスリット111の下方から上向きになぞるだけで指掛け作業が完了し、且つ、筒状体10Cの開口端側は部材が重なっておらず爪先を挿入する作業も容易である。尚、図9(C)に示すように、前述の重なり部分121を構成する部分だけ、他の部分よりも薄く編成することにより、この部分が突出しないすっきりとした外観にすることもできる。この場合、その薄い部分は他の部分よりも強度の高い編成方法で形成することが好ましい。また、本実施の形態においても、その指掛け部を筒状体10Cの左右両側又は前後両側に設けても良いことは言うまでもなく、2つの部材が重なっている構成により指掛け部を設ける位置・個数を問わないものとしている。
図10は、図7のくつ下1Cの重なり部分121を形成しているスリット構成部材を補強する場合を示している。本実施の形態では、その筒状体10Cが短尺の筒状体10cの上端側に筒状部材40を縫い合わせることで連結した構成となっているが、その連結前の段階で、両者の重なり部分121を形成する部分に補強手段を設けるものとしている。
図10(A)を参照して、短尺の筒状体10cの外周面上端側に、前述した重なり部分121の形状とほぼ同様で左右幅が僅かに大きなシート状の補強材101を貼付又は縫い付けて設け、これに対応する位置にて筒状部材40の内周面に同様の補強材401を同様に設けたものとして、短尺の筒状体10cと筒状部材40を連結しながら、重ねた補強材101,401の左右両端側で部材とともに縫い合わせたものであり、図(B)は、補強材101,401の代わりに補強縫い部102,402を設けた場合を示している。
このように、スリットの全長に亘って補強手段で帯状に補強するとともに、この帯状の補強部分を互いに重なる位置に形成したことにより、この部分が他の部分と比べて形態維持能が格段に強化されたものとなる。そのため、指を引掛けて引き上げる動作に抗して指掛け部の変形を最小限に抑えながら、より履きやすさに優れたものとなっている。
図11(A)は、図10の補強手段とは異なる補強手段の一例を示しており、補強材や補強縫い部を設ける代わりに、比較的薄い補強布材103,403を重ねる部材の端部側に縫い付けて設けた点を特徴としている。本実施の形態の場合は、表面が滑らかな補強布材103,403の中間位置が各スリット構成部材の端縁位置で折り返されて各部材を挟み込むように設けられている。
そのため、薄い補強布材103,403であっても補強機能に優れているとともに、その部分の表面が滑らかになるため、指の挿入動作もスムースなものとなる。また、補強布材403の表面側に露出する部分に、ワンポイントマークのようなデザインを施すことで、意匠的な効果を発揮することも期待される。
図11(B)は、図(A)の補強手段の変形例を示すものであり、図9(C)の場合と同様にスリット構成部材の補強布材104,404を設ける部分を薄く編成したことにより、スリット構成部材の端部側が厚くなりすぎないものとした点を特徴としており、これにより指の挿入動作が一層スムースなものとなる。
図11(C)は、図10(A),(B)及び図11(A),(B)の補強手段を設けた指掛け部の機能的な特徴を説明するために横断面図で模式的に示したものである。このように、スリットの幅方向に沿って帯状の補強手段が重なるように配置されその両端側が互いに縫い合わされたことにより、指を挿入した状態で補強手段が全体として筒状をなすことから、優れた強度・耐久性を発揮することを可能としており、長期間に亘って履きやすさを確保できることが分かる。
尚、図10,図11の各補強手段は、上述した総ての実施の形態に適用することができ、同様の機能を発揮することができる。また、上述したくつ下1A,1B,1Cは、少なくとも指掛け部を構成するために複数の部材を縫い合わせて作成したものであるが、コンピュータ制御の編成機を使用することにより、これらとほぼ同様のものを一体的に編み上げることも可能であり、これらも本発明に含まれるものである。
図12は、本発明における第4の実施の形態のくつ下1Dを示している。このくつ下1Dは、その指掛け部11Fを構成している上側のスリット構成部材が、横長長方形の布材406を筒状体10D側面に外側から縫い付けてなるものであり、その上部長辺側が筒状体10D側面を貫通して横向きに形成した切り込み114の上側部分に縫い糸406cで縫い付けられているとともに、その左右短辺側が切り込み114の左右両端側の位置で縫い糸406a,406bにより縦向きに各々縫い付けられており、その下部長辺側にスリット113を形成している点を特徴としている。
これにより、その指掛け部11Fは、重なり部分124に指を挿入した状態で切り込み114及びスリット113による上下両端側が開口した筒状構造をなすものとされ、上側のスリット構成部材になる布材406を比較的容易に設けながら耐久性と形態維持能に優れたものとしている。また、本実施の形態では、その下側のスリット構成部材は、補強手段としての帯状の布材405が切り込み114の下側部分でその長手方向に沿って縫い付けられている点も特徴となっている。
そのため、上側のスリット構成部材になる布材406が補強手段である布材405に重ねられた状態で、切り込み114の左右両端位置にて布材405を含む下側のスリット構成部材と縫い合わされて互いに接続されたものとなり、下側のスリット構成部材が布材405で補強されながら上側のスリット構成部材になる布材406と堅固に一体化しているため、さらに耐久性と形態維持能に優れた指掛け部となっている。尚、布材405を設ける代わりに、その同じ部分に図10(B)で示したような補強縫い部を設けても同様の効果が期待できる。
図13は、本実施の形態による指掛け部11Fの作成手順を示している。図(A)に示すように、先ず、筒状体10D側面に所定長さの切り込み114を内外貫通状態にて横向きに形成するものであるが、その方法として、筒状体10Dを作成してから切り込んでまつり縫いをすることのほか、コンピュータ制御の編成機により編みながらそのまま作成することも可能である。また、切り込み114を後からカットして設ける場合には、筒状体10Dの編成時にその部分に切り込み位置を示すポイント(目印)を編み込んでおけば、正確な切り込み作業を行いやすいものとなる。
次に、図(B)に示すように、薄くても強度の高い帯状の布材405を、縫い糸405aで切り込み114の下側部分に補強手段及び変形防止手段として縫い付け、最後に、図(C)に示すように、この布材405及び切り込み114を総て外側から覆うサイズの長方形の布材406を外側から配置して重なり部分124を形成しながら、その上部長辺側を切り込み114の上側部分に縫い糸406cで縫い付けるとともに、切り込み114の左右両端側の位置で布材405の両端側とともに縫い糸406a,406bで縦向きに縫い付けて、布材406の下部長辺側にスリット113を形成させる。
このようにして、本実施の形態の指掛け部11Fが作成されるものであるが、その断面形状は、図14(A)のようになる。図のように、上側のスリット構成部材である布材406の下端が下側のスリット構成部材に設けた布材405の下端よりも下まで延長されていることで、スリット113の下側から指を持ち上げる動作において、指先がスリット113に挿入されやすいものとしている。尚、この指掛け部11Fにおいて外側に露出する布材406を、くつ下1Dにおけるデザイン上の特徴を付与する部分として使用することも可能であり、例えば布材406表面にブランドマークやイラスト等をワンポイント的に表示することが想定される。
図14(B)は、図5に示したようなくつ下をコンピュータ制御された編成機でそのまま一体的に編成した場合の指掛け部の縦断面図を示しているが、その下側のスリット構成部材の上端部分と上側のスリット構成部材の下端部分は、使用により丸まって変形しやすいという難点がある。そこで、図(C)に示すように、その端縁から所定範囲の部分に重ねるように、布材407,408を各々縫い糸407a,408aで縫い付けて補強することにより、その形態維持能を格段に改善することも可能である。尚、図示は省略するが、切り込みを一体成形で設けずに後から切り込んで設ける場合には、布材407は内側面に限らず外側面(重なり部分側)に設ける構成としてもよい。
図15は、本発明における第5の実施の形態であるレッグウオーマー1Hを示している。上述したように、レッグウオーマーもくつ下と同様に手指の不自由な人や爪先に手が届きにくくなった人にとっては、その着脱が困難である点が共通している。そのため、下肢の足首から上の部分を覆うレッグウオーマーについても、その上部側に上述した本発明によるくつ下の指掛け部と同様の指掛け部を設けることにより、上述と同様の機能を発揮することができ、その着脱が容易なものとなる。
本実施の形態では、図12に示した指掛け部11Fと同様の構成からなる指掛け部11Hを、レッグウオーマー1Hを構成している筒状体10Hの側面に設けたものであり、予め設けた切り込み117の下側部分に布材410を縫い付け、これと切り込み117の総てを覆うように布材409を縫い付けて、その下部長辺側にスリット116を形成している。尚、本発明においては、レッグウオーマーには足首部分から膝下部分まで覆うものに限定されず、足首部分のみを覆う足首ウオーマーも含むものであり、このレッグウオーマー1Hは足首ウオーマーとしての使用を想定したものである。
以上、述べたように、手指の不自由な人や爪先に手が届きにくくなった人が履く靴下やレッグウオーマー等の下肢用装着物について、本発明により一人でも容易に履けるようになった。