JP5706299B2 - 発光装置の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、発光装置の製造方法に関する。
照明市場において、用途や使用環境の多様化、デザイン性の要求、環境配慮の面から、新しい光源としてLEDへの期待が高まっている。現在、無機蛍光体を蛍光層に用いるLEDの発光効率は飛躍的に向上しており、いずれ蛍光灯の発光効率を凌駕すると言われている。しかしLEDを照明装置に用いる場合、用途によっては発光効率のみならず演色性にも優れた特性が望まれる。
現在白色LEDの方式は、青色発光部(LED)と黄色発光蛍光体との組み合わせが主流となっている。しかし、このような組み合わせでは、赤色成分の発光が弱いために赤色の演色性を高くすることが困難である。
また、上記の問題を解決するために、赤色蛍光体を添加する方法が考えられるが、現状では、無機赤色蛍光体の特性は必ずしも十分であるとは言えないために、無機赤色蛍光体を加えた無機蛍光体のみからなる白色発光LEDでは、十分な発光強度を得ることができない。
一方、LED用の赤色蛍光体に有機蛍光体を用いるという提案がなされている(特許文献1参照)。この有機蛍光体からは高発光強度の赤色光を得ることができる。このような有機蛍光体を赤色蛍光体として用い、白色LED素子を作製しようとした場合、現状、有機蛍光体では赤色以外の発光は十分な特性は得られていないため、無機蛍光体との併用で白色を実現する必要がある。
例えば、無機蛍光体からなる層と希土類イオン錯体(有機蛍光体)を含む蛍光体の層がそれぞれ分離された積層体を、無機蛍光体からなる層が半導体発光素子に近い方に位置するように配置する発光装置が提案されている(特許文献2参照)。この発光装置によれば、半導体発光素子の発光により発生する熱が、希土類イオン錯体を含む蛍光層を局所的に加熱することにより希土類錯体の劣化を促進してしまう問題を防止することが可能とされている。しかしながら、このような積層型の蛍光層を備えた発光装置では、複数の蛍光層間における密着性の悪さやこれらの間の熱膨張率の違い等により剥離の危険性がある。また、複数の蛍光層間の屈折率の違いや界面状態のばらつき等により光取り出し効率が低下する恐れもある。
また、当然のことながら、蛍光体として有機蛍光体(希土類イオン錯体等)のみを有する蛍光層を用いる場合には、半導体発光素子の発光により発生する熱が当該蛍光層を局所的に加熱することにより、有機蛍光体の劣化を促進してしまうという問題がある。
特開2005−15564公報 特開2004−356358公報
以上述べたように、無機蛍光層と有機蛍光層とを積層して半導体発光素子に設けた発光装置では、複数の蛍光層間における密着性の悪さやこれらの間の熱膨張率の違い等による剥離の危険性があり、また、複数の蛍光層間の屈折率の違いや界面状態のばらつき等により光取り出し効率が低下する恐れもあるので、信頼性に劣るという問題がある。
また、蛍光体として有機蛍光体のみを有する蛍光層を用いる場合には、半導体発光素子の発光により発生する熱が当該蛍光層を局所的に加熱することにより、有機蛍光体の劣化を促進してしまうという問題がある。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、高信頼性、高効率、高演色性の発光装置の製造方法を提供することを目的とするものである。
上述した課題を解決するために、支持体と、この支持体上に設けられた発光部と、この
発光部上に設けられた、有機蛍光体及び無機蛍光体を含有する蛍光層とを備えた発光装置
の製造方法であって、前記無機蛍光体を有する樹脂原料を前記発光部上に供給し、前記樹
脂原料を放置し、加熱により前記樹脂原料を重合させて前記無機蛍光体を含有する樹脂層
を形成し、前記有機蛍光体を有する溶液を前記樹脂層上から供給して前記溶液を前記樹脂
層中に浸透させて、上部から下部に向かうに従って前記有機蛍光体の濃度が減少する前記
蛍光層を形成する、発光装置の製造方法を提供する。


本発明によれば、高信頼性、高効率、高演色性の発光装置の製造方法を提供することが可能である。
本発明の第1の実施形態に係る発光装置の構成を示す断面図。 本発明の第1の実施形態に係る発光装置を製造する方法を示す工程断面図。 本発明の第1の実施形態に係る発光装置における蛍光層中の蛍光体の濃度分布を示す特性図。 本発明の第2の実施形態に係る発光装置の構成を示す断面図。 本発明の第2の実施形態に係る発光装置の発光スペクトルを示す特性図。 本発明の第3の実施形態に係る発光装置の構成を示す断面図。 本発明の第5の実施形態に係るセキュリティー媒体の構成を示す断面図。
以下、本発明の実施形態について図面を用いつつ詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る発光装置の構成を示す断面図である。図1に示す発光装置は、発光部としてのLEDと蛍光層とを有する。即ち、図1に示すように、LEDフレーム1の凹部内に、発光部2としてLEDチップが載置されている。このLEDチップ2は、例えばGaN系半導体材料から構成され、UV光源の発光波長は、例えば395nmである。発光部2としては、LEDチップに限らず、例えばレーザーダイオード等の紫外線発光装置を用いることができる。なお、LEDチップ2には図示しない一対の電極が設けられており、これらの電極はワイヤー3a、3bによりそれぞれ外部接続端子と電気的に接続されている。
LEDフレーム1の凹部内には、LEDチップ2上に蛍光層4が設けられており、LEDフレーム1の凹部を占める形で形成されている。この蛍光層4は、マトリクスポリマー4cとこの中に分散して含有される無機蛍光体4a及び有機蛍光体4bとから構成されている。マトリクスポリマー4c中の無機蛍光体4aは、蛍光層4の膜厚方向に沿って下から上に向かうに従って、存在比率が減少するように調整されて分散している。また、マトリクスポリマー4c中の有機蛍光体4bは、蛍光層4の膜厚方向に沿って上から下に向かうに従って、存在比率が減少するように調整されて分散している。また、蛍光層4の上部には防湿層5が設けられており、これにより耐湿性を向上することができる。防湿層5の材料としては、例えば、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVdF(ポリフッ化ビニリデン)などのフッ素樹脂や、セラミックナノ粒子蒸着フィルム(セラミックナノ粒子を樹脂等のフィルムに蒸着したもの)等を用いることができる。
マトリクスポリマー4cとしては、例えばシリコーン樹脂等を用いることができる。シリコーン樹脂が望ましいが、その他、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等のゴム、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリウレタン等のエラストマー、アクリルアミドゲル、メタクリレート系ゲル、ポリビニルピロリドン等のゲル等の材料からも選択することができる。実用的には可視波長領域において透明であることが望ましい。
また、無機蛍光体4aとしては、例えばYAG:Ce、(Sr,Ba)SiO:Eu等の黄色発光の無機蛍光体、InGaN、LaPO:Ce,Tb、BaMgAl10O17:Eu,Mn等の緑色発光の無機蛍光体、InGaN、BaMgAl10O17:Eu、ZnSe等の青色発光の無機蛍光体等を用いることができる。さらに、有機蛍光体4bとしては、例えば下記の一般式(1)に示した構造の希土類錯体等を用いることができる。
Figure 0005706299
(上記一般式(1)中、Lnは希土類原子である。RおよびRは、直鎖または枝分かれ構造のアルキル基またはアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、およびこれらの置換体からなる群から選ばれ、同一または異なるものである。Rは、ハロゲン原子、重水素原子、炭素数が1〜22の直鎖または分枝構造を有する脂肪族基である。)
ここで、好ましい希土類錯体4bは、下記の一般式(2)に示される。
Figure 0005706299
(上記一般式(2)中、Lnは希土類原子、X及びYは、O、S、及びSeからなる群から選ばれた同一または異なる原子である。R〜Rは、炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基またはアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体からなる群から選ばれ、同一または異なるものである。R〜Rの組合せと、R〜Rの組合せは同一又は異なるが、異なる方が発光強度が大きくなる点で好ましい。RおよびRは、直鎖または枝分かれ構造のアルキル基またはアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、およびこれらの置換体からなる群から選ばれた同一または異なるものである。Rは、ハロゲン原子、重水素原子、炭素数が1〜22の直鎖または分枝構造を有する脂肪族基である。)
希土類原子Lnは、ユーロピウム、テルビウム、イリジウムおよびエルビウムから選択することができる。現在のLED用蛍光体において、高輝度が実現できていない赤色発光を高効率に実現できることから、希土類原子としてはユーロピウムが特に好ましい。すなわち、下記の一般式(3)で表わされる錯体である。かかる構造のユーロピウム錯体は、非対称な構造を有する場合に高効率な発光が得られる。
Figure 0005706299
(上記一般式(3)中、X,Y、およびR〜Rは、上述と同様である。)
本実施形態によれば、高信頼性、高輝度、高演色性の発光装置を実現することが可能である。具体的には、有機蛍光体と無機蛍光体とを同一の蛍光層中に共存させることができるため、複数の蛍光層を積層させるタイプの発光装置の問題点、即ち複数の蛍光層間における密着性の悪さやこれらの間の熱膨張率の違い等による剥離の危険性や、蛍光層間の屈折率の違いや界面状態のばらつき等による光取り出し効率の低下という問題点を解決することが可能である。また、赤色発光の有機蛍光体を有効に用いることが可能であり、無機蛍光体だけでは実現が困難であった高演色性の白色LEDを実現することが可能である。
また、同一の蛍光層内において、有機蛍光体が高濃度に分布する領域では無機蛍光体の濃度は低く抑えられ、また無機蛍光体が高濃度に分布する領域では有機蛍光体の濃度が低くなっている。希土類錯体のような有機蛍光体は、無機蛍光体に対して接触等すると、分解等の変化をしてしまうことがあり、可能な限り無機蛍光体から離して分布させることが望ましい。本実施形態の発光装置によれば、上述したように有機蛍光体が高濃度に分布する領域では無機蛍光体の濃度は低く抑えられているので、有機蛍光体の分解等を抑制することができ、蛍光体を長寿命化することが可能である。
また、無機蛍光体が励起光源(発光部)近傍に集積していることにより、無機蛍光体からの発光輝度を高めることができる。一方、有機蛍光体は励起光源から遠い位置に存在しているが、有機蛍光体自体は光散乱を起こさないため、その発光輝度の低下を招くことがなく、色度変化も大きくないために色調整が容易であり、かつ有効なUV漏れ防止の効果も期待できる。むしろ有機蛍光体と励起光源との間に無機蛍光体が存在することにより、熱などのエネルギーを遮蔽することができ、相対的に耐久性が低い有機蛍光体の熱による劣化を抑制することが可能である。
次に、本実施形態の発光装置を製造する方法の一例について説明する。図2はその製造方法を示す工程断面図である。まず、図2(a)に示すように、LEDフレーム1の凹部内に近紫外発光のLEDチップ2(発光波長395nm)を設置し、LEDチップ2の一対の電極にワイヤー3a、3bを設けて、それぞれの電極を外部接続端子と電気的に接続する。
次に、図2(b)に示すように、黄色発光の無機蛍光体(Sr2SiO4:Eu,平均粒径約20μm,発光波長540〜560nm)と青色発光の無機蛍光体(ZnSe,平均粒径約20μm,発光波長450nm)をシリコーン樹脂原料に分散させ、LEDフレーム1の凹部に全量滴下する。その後、所定時間、例えば1時間〜24時間の間だけ放置した後に、例えば100〜150℃の熱処理を行って加熱硬化させ、無機蛍光体4a(黄色発光の無機蛍光体、青色発光の無機蛍光体)がシリコーン樹脂層(マトリクスポリマー)4c中に分散した膜厚500μmの蛍光層4を形成する。この蛍光層4の形成過程において、無機蛍光体4aの比重がシリコーン樹脂原料の比重よりも大きいので、無機蛍光体4aがシリコーン樹脂原料中で沈降し、その結果、蛍光層4内における無機蛍光体4aの分散濃度を、蛍光層4の下部から上部に向かうに従って減少させることが可能である。なお、黄色発光の無機蛍光体の代わりに、上述した緑色発光の無機蛍光体(例えばBaMgAl10O17:Eu,Mn、発光波長520nm)を用いることも可能である。
次に、図2(c)に示すように、シリコーン樹脂層4cの上面に、有機蛍光体としての希土類錯体を含有するインクをキャストして、このインクをシリコーン樹脂層4c中に浸透させる。ここでは、希土類錯体としては、例えば下記の式(4)に示した構造のユーロピウム希土類錯体(発光波長615nm付近)を用い、この希土類錯体をアルコール、アセトン、ヘキサン等の溶媒に溶解してインクを作製する。
Figure 0005706299
この工程により、希土類錯体を含有するインクがシリコーン樹脂層4cの上面から当該樹脂層4c中に浸透していき、その結果、蛍光層4内における希土類錯体(有機蛍光体)4bの分散濃度を、蛍光層4の上部から下部に向かうに従って減少させることが可能である。ここで、有機蛍光体を含有するインクを浸透させる際の好ましい材料として、シリコーン樹脂の他、上述したゴム、エラストマー、ゲル等のポリマー等が使用可能である。
これらのポリマーは、微視的に見ると、ポリマー鎖が網目構造を有している。そのため、溶媒中に浸漬すると、溶媒を吸収して膨潤するという特徴を持っている。材料の組み合わせにもよるが、希土類錯体(有機蛍光体)のような低分子量の分子を溶媒中に溶解させた溶液を上記ポリマーに塗布するか、若しくは当該溶液に上記ポリマーを浸漬することにより、溶解している有機蛍光体をポリマー中に浸透させることができるので、当該有機蛍光体をポリマー中に取り込ませることが可能である。なお、ポリマーは、LEDから発せられる光に対して透明性が高いことが望ましい。
有機蛍光体をポリマー中に浸透させる工程を数回繰り返した後、蛍光層4の表面をアルコール、アセトン、ヘキサン等の溶剤で洗浄することにより当該表面に残存した希土類錯体の溶液を除去し、さらに溶剤の乾燥除去を行う。最後に、PCTFE、PTFE、PVdFなどのフッ素樹脂や、セラミックナノ粒子蒸着フィルム等からなる防湿層5を蛍光層4上に設ける。
以上の工程により作製した蛍光層4について、その深さ方向における無機蛍光体4aと有機蛍光体4bの濃度分布を図3に示す。有機蛍光体4bとして上記式(4)に示したユーロピウム希土類錯体の濃度分布を、無機蛍光体4aとして黄色発光の無機蛍光体(Sr2SiO4:Eu)の濃度分布を示している。縦軸の規格化濃度は、蛍光層4の上面における有機蛍光体4bの濃度(例えば5重量%)、及び下面における無機蛍光体4aの濃度(例えば80重量%)を1として規格化している。また、横軸の深さ座標は蛍光層4の全膜厚(500μm)を1として規格化している。なお、青色発光の無機蛍光体(ZnSe)の濃度分布は上記黄色発光の無機蛍光体の濃度分布と同様であったので、その図示は省略している。
図3に示すように、無機蛍光体4aは、蛍光層4の膜厚方向に沿って下から上に向かうに従って存在比率が減少しており、その逆に有機蛍光体4bは、蛍光層4の膜厚方向に沿って上から下に向かうに従って存在比率が減少していることがわかる。このように作製した発光装置の発光を計測したところ、十分な励起光の吸収及びそれによる発光を示し、波長450nm、波長540〜560nm、波長615nmそれぞれにおける発光強度は十分高いものとなった。以上のことから、シリコーン樹脂4c中に含有される無機蛍光体4aの量はもちろんのこと、シリコーン樹脂4c中に浸透により含有された有機蛍光体量4bの量も十分であることが分かる。
また、本実施形態の発光装置の耐久性を評価したところ、一定時間後の輝度保持率は90%となり、無機蛍光体4aと有機蛍光体4bを均質に混ぜて作製した蛍光層の場合の75%と比べて耐久性が高いことが分かる。この理由は、上述したように有機蛍光体が高濃度に分布する領域では無機蛍光体の濃度は低く抑えられているので、有機蛍光体の分解等を抑制することができ、蛍光体を長寿命化することができるためである。また、希土類錯体(有機蛍光体量4b)とシリコーン樹脂4cとの間の相互作用が小さく、錯体の配位状態への影響が小さいことも理由の一つと考えられる。
本実施形態の製造方法によれば、以下の効果を得ることが可能である。まず第一に、既存の製造方法と親和性が高く、無機蛍光体を用いた白色LEDを作製する工程をそのまま活かすことができ、追加される有機蛍光体の塗布若しくは浸漬工程は非常に簡便であり、新たに大掛かりな装置導入の必要性が少ない。
さらに、LED製造工程には半田付けリフロー工程が含まれる場合もあるが、半田付けを行う時の加熱が有機蛍光体に悪影響を及ぼす可能性があるが、リフロー工程は短時間であるので有機蛍光体の劣化は最小限に抑えることができる。また有機蛍光体の樹脂中への浸透工程を半田付け処理後に行うことで、まったく高温に晒されない作製方法も可能である。
また、従来の発光装置の製造方法では、蛍光層の形成方法として重合法が用いられている。この方法の場合、樹脂中に蛍光体を分散させた後に加熱重合という工程を行う必要がある。しかし、仮に有機蛍光体をシリコーンモノマー等の樹脂原料中に分散させた後に重合したとすると、重合反応の際に生成するシリコーンラジカル等の活性種による攻撃を受け、有機蛍光体が失活したり、重合反応そのものが阻害されてしまうために、蛍光層を歩留まり良く形成することができない。これに対して、本実施形態の製造方法によれば、ポリマーを重合させた後に、塗布若しくは浸漬等の工程により有機蛍光体を樹脂中に浸透させるので、有機蛍光体の失活や重合反応の阻害は生じない。
(第2の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態における構成要件である無機蛍光体を含まない蛍光層を備えた発光装置について説明する。図4はその構成を示す断面図であり、図1と同一部分には同一符号を付す。
図4に示すように、本実施形態の蛍光層44は有機蛍光体4b(上記式(4)に示したもの)を含むが、図1に示した無機蛍光体4aは含まない構成となっている。マトリクスポリマー4c中の有機蛍光体4bは、蛍光層4の膜厚方向に沿って上から下に向かうに従って、存在比率が減少するように調整されて分散している。また、蛍光層4の上部には防湿層5が設けられており、これにより耐湿性を向上することができる。かかる本実施形態の発光装置は、第1の実施形態と同様にして作製することが可能である。
本実施形態の発光装置は有機蛍光体4bのみは含むものではあるが、本実施形態のように分散した有機蛍光体4bによりその発光波長において十分な発光強度を得ることができる。本実施形態の発光装置の発光を計測したところ、十分な励起光の吸収及びそれによる発光を示し、発光スペクトルは図5に示すようになり、波長615nmにおける発光強度は十分なものとなった。以上のことから、シリコーン樹脂4c中に浸透により含有された有機蛍光体量4bの量は十分であることが分かる。
また、本実施形態の発光装置の耐久性を評価したところ、一定時間後の輝度保持率は95%となり、セフラルを蛍光層に用いた場合の80%と比べて耐久性が高いことが分かる。この理由は、希土類錯体(有機蛍光体量4b)とシリコーン樹脂4cとの間の相互作用が小さく、錯体の配位状態への影響が小さいことによるものと考えられる。
その他、本実施形態の発光装置によれば、第1の実施形態と同様に発光輝度の低下を招くことがなく、色度変化も大きくないために色調整が容易であり、かつ有効なUV漏れ防止の効果も期待できる。また、有機蛍光体が励起光源から遠い位置に多く分布しているので、熱などのエネルギーの影響を軽減することができ、相対的に耐久性が低い有機蛍光体の熱による劣化を抑制することが可能である。
また、第1の実施形態と同様に有機蛍光体の樹脂中への浸透工程を半田付け処理後に行うことも可能であり、半田付けを行う時の加熱により有機蛍光体やマトリクスポリマーが悪影響を受けることを防止することができる。さらにまた、マトリクスポリマーを重合させた後に、塗布若しくは浸漬等の工程により有機蛍光体を樹脂中に浸透させるので、有機蛍光体の失活や重合反応の阻害は生じない。
なお、上記式(4)に示した希土類錯体において、3価のユーロピウム(Eu(III))の代わりに3価のテルビウム(Tb(III))を用いた場合も、上記の実施形態と同様な効果を得ることができ、波長約545nmにおける発光強度を十分高いものとすることができる。この場合、希土類錯体をアルコール、アセトン、ヘキサン等の溶媒に溶解してインクを作製すれば良い。また、3価のユーロピウム(Eu(III))の代わりに3価のイリジウム(Ir(III))を用いた場合も、上記の実施形態と同様な効果を得ることができ、発光強度を十分高いものとすることができる。
(第3の実施形態)
本実施形態の発光装置は、第1の実施形態における蛍光層の頂部をレンズ形状としたものである。図6はその構造を示す断面図であり、図1と同一部分には同一符号を付す。図6に示すように本実施形態の発光装置の蛍光層64は、そのマトリクスポリマー64cの頂部が凸状になっておりレンズ形状となっている。マトリクスポリマー64cの材料は第1の実施形態と同様である。
マトリクスポリマー64c中の無機蛍光体4aは、蛍光層64の膜厚方向に沿って下から上に向かうに従って、存在比率が減少するように調整されて分散している。また、マトリクスポリマー64c中の有機蛍光体4bは、蛍光層64の膜厚方向に沿って上から下に向かうに従って、存在比率が減少するように調整されて分散しており、凸状のレンズ形状部分の頂面近傍においてその濃度が最大となっている。また、蛍光層64の上部には防湿層65が設けられており、これにより耐湿性を向上することができる。防湿層5の材料は第1の実施形態と同様である。
本実施形態の発光装置の製造方法は以下の通りである。即ち、第1の実施形態と同様に無機蛍光体4aを分散させたシリコーン樹脂原料をLEDフレーム1の凹部に全量滴下してシリコーン樹脂層(マトリクスポリマー)64cを形成する。この際に、フレーム1の内部に収まる量よりも多く樹脂原料を滴下し、シリコーン樹脂層64cをドーム状に形成する。その他の工程は第1の実施形態と同様である。
かかる工程により、フレーム1からはみ出したシリコーン樹脂層64cの凸状レンズ形状部分を透明にすることができる。これは、無機蛍光体4aがシリコーン樹脂原料中で沈降し、シリコーン樹脂層64cの凸状レンズ形状部分において無機蛍光体4aの濃度を著しく減少させることができ、無機蛍光体4aによる光の散乱を抑制することができるからである。したがって、シリコーン樹脂層64cの頂部をレンズとして十分に機能させることができるので、LEDチップから発せられる光の集光性や指向性を向上させることが可能となる。また、本実施形態では、この透明な凸状レンズ形状部分に有機蛍光体4bを塗布若しくは浸漬により浸透させることにより、第一の実施形態と同様の効果を得ることができる他、凸状レンズ形状部分に有機蛍光体4bを上記濃度分布にて分布させることができ、レンズとしての効果を高めることも可能である。
(第4の実施形態)
本実施形態は、有機蛍光体の塗布方法の他の例を示すものである。有機蛍光体の塗布は、上記実施形態における樹脂原料の滴下に限らず、他の方法を用いて行うことが可能である。例えば、上記各実施形態において、有機蛍光体を溶解した溶液をインクジェット方式による印刷を用いてシリコーン樹脂等の樹脂の表面に塗布したり、湿式電子写真方式による印刷法を用いて樹脂表面に塗布することも可能である。有機蛍光体を溶解した溶液は扱いが容易であり、このような印刷法をそのまま適用することが可能である。塗布以外の工程は上記実施形態と同様である。これらの方法によっても、上記実施形態に示す有機蛍光体の濃度分布を得ることができ、同様の効果を得ることができる。さらに、印刷により有機蛍光体を樹脂表面の任意の面内位置に選択的に塗布することが可能であり、所望の面内パターンで有機蛍光体を分散させることができるので、様々な態様の演色効果を得ることができる。
(第5の実施形態)
本実施形態は、セキュリティー媒体に対する応用についてのものである。第4の実施形態で述べたように、有機蛍光体を溶解した溶液をインクジェット方式や湿式電子写真方式による印刷法を用いて樹脂表面の任意の面内位置に選択的に塗布することが可能であり、これにより所望の面内パターンで有機蛍光体を樹脂に分散させることができる。この方法を用いて、有機蛍光体のパターンを所望のセキュリティー情報に対応させて記録を行うセキュリティー媒体を作製することが可能である。
図7は、本実施形態に係るセキュリティー媒体の構成を示す断面図である。図7に示すように、基板71上には蛍光層74が形成されており、この蛍光層74上に防湿層75が設けられている。この防湿層75は蛍光層74の耐湿性の向上を目的とするものであり、その材料は第1の実施形態と同様である。蛍光層74は、第1の実施形態の無機蛍光体4a及び有機蛍光体4bが分散したマトリクスポリマー74cから構成されており、無機蛍光体4aは、蛍光層74の膜厚方向に沿って下から上に向かうに従って、存在比率が減少するように調整されて分散している。この無機蛍光体4aは、必要に応じて設ければよく、セキュリティー媒体に必ず必要というものではない。また、マトリクスポリマー74c中の有機蛍光体4bは、蛍光層74の膜厚方向に沿って上から下に向かうに従って、存在比率が減少するように調整されて分散している。マトリクスポリマー74cの材料は第1の実施形態と同様である。マトリクスポリマー74c中の有機蛍光体4bは、図7の点線で挟まれた面内領域a,b,c,dに選択的に分布しており、これらの領域が所望のセキュリティー情報に対応している。一方、無機蛍光体4aは面内に均一に分布している。
かかるセキュリティー媒体の製造方法は、第1の実施形態と同様であり、有機蛍光体の塗布には第4の実施形態で示したインクジェット方式や湿式電子写真方式による印刷法を用いる。この印刷法によりマトリクスポリマー74cの面内領域a,b,c,dに相当する領域に有機蛍光体を選択的に塗布することができ、第1の実施形態と同様な工程により有機蛍光体4bを面内領域a,b,c,dに選択的に分布させることができる。
本実施形態のセキュリティー媒体に記録された情報を読み取るには以下の方法を用いる。まず、セキュリティー媒体は、無機蛍光体4aを含む場合は当該無機蛍光体による発色が媒体全面に認められることがあるが、無機蛍光体4aを含まない場合は可視光に対しては実質的に透明である。いずれにしても、このままではセキュリティー媒体に記録された情報を読み取ることはできない。そこで、セキュリティー媒体に対して波長が250nm〜410nmの紫外線を照射することにより、領域a,b,c,dに分布している有機蛍光体4b(例えば、上記式(4)で示されるもの)から発せられる蛍光を読み取る。読み取りは目視で行っても良いし、必要に応じて蛍光を読み取る機器、例えばフォトダイオードを用いて行っても良い。これにより、セキュリティー媒体に記録された情報を読み取ることができる。
本実施形態によれば、蛍光層について第1の実施形態と同様の効果を得ることができ、信頼性の高いセキュリティー媒体を提供することが可能である。その他、印刷技術や転写技術等と組み合わせることにより、セキュリティー情報を追記することが可能である、という効果を得ることができる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されることは無い。例えば、上記実施形態では、近紫外の光を発する発光チップを用いたが、これに限らず紫外線から近紫外、紫色、青紫色、青色にかけての波長範囲に属する発光波長を有する発光チップを用いることも可能である。例えば、第1の実施形態のLEDチップの代わりに青色発光のLEDチップ(発光波長450〜470nm)を用いることができ、この場合は青色発光の無機蛍光体を省略可能である。かかる場合でも近紫外よりは強度が落ちるものの第1の実施形態の無機蛍光体4a及び有機蛍光体4bを発光させることができ、所望の効果を得ることができる。
また、有機蛍光体としては、上記実施形態に挙げたものの他、下記の式(5)に示した構造の錯体を用いることもできる。この式(5)に示した錯体において、一つの希土類原子に対して非対称構造のリン化合物が配位したものは、配位子場がより非対称となり、分子吸光係数の向上に基づき、発光強度が顕著に増加する。この傾向は、上記各実施形態における希土類錯体でも同様である。
Figure 0005706299
(式中、Lnは希土類原子(ユーロピウム、テルビウム、イリジウムおよびエルビウムから選択することができる。)、X´及びY´は、O、S、及びSeからなる群から選ばれた同一又は異なる原子(特にO。)であり、R´〜R´は、炭素数が20以下の直鎖または分枝構造を有するアルキル基又はアルコキシ基(例えば、フェニル基やn−C基、t−C基、n−Oc(オクチル)基等のアルキル基等。)、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、及びこれらの置換体からなる群から選ばれ、R´〜R´は同一又は異なるが、すべて同一でない(構造が非対称である)方が発光強度が大きくなる点で好ましい。nは2以上、20以下の整数(例えば、3。)であり、m及びpは1以上、5以下の整数であり、Z及びWは水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、及びアルキル基からなる群から選ばれた同一又は異なるものである。RおよびRは、直鎖または枝分かれ構造のアルキル基またはアルコキシ基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ヘテロ環基、およびこれらの置換体からなる群から選ばれた同一または異なるものである。Rは、ハロゲン原子、重水素原子、炭素数が1〜22の直鎖または分枝構造を有する脂肪族基である。)
さらにまた、複数種類の希土類錯体を用いることもでき、例えば上記実施形態で挙げた有機蛍光体を組み合わせて用いることにより、さらに演色性を高めることも可能である。
さらにまた、上記実施形態で述べた形状の蛍光層に限らず、様々な形状の蛍光層に対して本発明を適用可能である。例えば、任意の形状の型の中に励起源の発光チップを配置し、当該型の中にシリコーン樹脂等の樹脂原料を流し込んで加熱硬化させた後に、有機蛍光体の塗布や浸漬を行うことができる。樹脂原料には無機蛍光体を含ませても良いし含ませなくても良い。これにより任意形状の造形物の内部に発光チップを埋設することができ、様々な形状を有しかつ演色性の高い発光性造形物を作製することができる。また、造形物の中に発光チップを埋設せずにその外部に発光チップを設け、外部から当該造形物を照射して発光させても良い。このような発光性造形物は装飾性やデザイン性に富んでおり、インテリア、アウトドア等の様々な用途を有するものである。
また、セキュリティー媒体以外に、広告、ポスターなどの意匠表示媒体等の蛍光パターン形成物に対しても本発明を適用することができ、その適用範囲は広範にわたるものである。
その他、本発明は上記実施形態や実施例そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態や実施例に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態や実施例に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態や実施例にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
1…LEDフレーム
2…発光部
3a、3b…ワイヤー
4…蛍光層
4a…無機蛍光体
4b…有機蛍光体
4c…マトリクスポリマー
5…防湿層

Claims (5)

  1. 支持体と、この支持体上に設けられた発光部と、この発光部上に設けられた、有機蛍光体及び無機蛍光体を含有する蛍光層とを備えた発光装置の製造方法であって、 前記無機蛍光体を有する樹脂原料を前記発光部上に供給し、前記樹脂原料を放置し、加熱により前記樹脂原料を重合させて前記無機蛍光体を含有する樹脂層を形成し、前記有機蛍光体を有する溶液を前記樹脂層上から供給して前記溶液を前記樹脂層中に浸透させて、上部から下部に向かうに従って前記有機蛍光体の濃度が減少する前記蛍光層を形成する、発光装置の製造方法。
  2. 前記溶液を前記樹脂層中に浸透させた後に残る当該溶液の溶媒を除去する請求項1に記載の発光装置の製造方法。
  3. 前記樹脂原料はシリコーンモノマーを含み、前記樹脂層はシリコーン樹脂を含む請求項1又は2に記載の発光装置の製造方法。
  4. 前記有機蛍光体として希土類金属元素の錯体を用いる請求項1乃至3のいずれかに記載の発光装置の製造方法。
  5. インクジェット法、転写法、スピンコート法により、前記有機蛍光体を有する溶液を塗布する請求項1乃至4のいずれかに記載の発光装置の製造方法。
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