以下、本発明に係る実施の形態につき図面を参照して説明する。図1に示す如く、電動式パワーステアリング装置200は、コラム式の電動式パワーステアリング装置であって、ステアリングシャフト211及びシャフトケース220及びトルクセンサ収容部300及び信号端子300a及びギヤボックス250から成る本体部200と、当該本体部に固定されるモータユニット100とから構成される。以下、ステアリングシャフト211の軸心を軸方向とし、当該軸方向のギヤボックス250が配される側をリア側DRと称し、当該リア側DRの反対側をフロント側DFと称することとする。尚、フロント側DFには、伝達シャフトCSHを介してピニオンギヤボックスPGWが接続され、リア側DRには、ハンドル装置HDMが接続される。
ハンドル装置HDM(図示なし)は、操縦者によって操作されるハンドルを具備し、当該ハンドルが操作されることにより電動式パワーステアリング装置のステアリングシャフト211を回動させる。ハンドル装置HMDには、衝突事故の際に操縦者を保護するエアバッグ装置、又は、アシストトルク発生させるアシスト装置等を具備するものも有る。
ステアリングシャフト211は、円柱状の棒体を成し、シャフトケース220に収容されている。当該ステアリングシャフト周辺の機構は、内部にトーションバーを具備しないため、非常に簡素なものとされる。ステアリングシャフト211は、フロント側DFに雄ネジ211a及びスプライン211bが形成され、リア側DRにもスプライン212が形成されている。かかるステアリングシャフト211は、リア側DRにはハンドル装置HDMが接続され、フロント側DFにはピニオンギヤボックスPGWが接続され、ハンドル操作によって生じる操作トルクを車輪の操舵機構(図示なし)へ伝達する。
トルクセンサ収容部300は、ステアリングシャフト211を挿通させ、当該ステアリングシャフト211の周辺にトルクセンサ(図示なし)が配置される。トルクセンサ(特許請求の範囲におけるパワーステアリング用トルクセンサ)は、ワイヤ線が引き出され、信号端子300aへ適宜に配線されている。この信号端子300aは、ハーネス(図示なし)を介してモータユニット100の制御回路150へ接続されている。そして、トルクセンサは、ステアリングシャフト211が回動すると、操作トルクを示すトルク信号及び操作方向を示す方向信号をモータユニット100に対して出力する。尚、図示されないトルクセンサについては、追って詳述することとする。
ギヤボックス250は、図示の如く、ギヤ側ブラケット252が一体的に形成され、ボルトナットB/Nを用いてモータユニット100を固定させている。図2を参照し、ギヤボックス250の内部構造について説明する。同図には、図1中のA−A断面を矢線方向に観察した断面図が示されている。かかるギヤボックス250は、ウォーム収容部251と平歯車収容部255とが一体的に形成されている。
ウォーム収容部251は、モータユニット100の動作に連動して回動する入力シャフト253を備えている。当該入力シャフト253は、ウォームギヤ253gが形成され、ベアリング254a,254bによって回動自在に軸支される。
平歯車252gは、ウォームギヤ253gと同一モジュールの歯が形成され、当該ウォームギヤ253gに歯合される。平歯車収容部252は、中心部にステアリングシャフト211が軸着され、当該ステアリングシャフト211は、平歯車252gの動作に連動して回動する。即ち、ギヤボックス250に内蔵されるこれらの部品によって、電動式パワーステアリング装置用の減速ギヤ機構が構成される。
図1に戻り説明を続ける。モータユニット100は、制御モータが内蔵されたモータ収容部160と、モータ駆動用トランジスタ(パワートランジスタ)等のドライブ回路を内蔵させた電力変換部130と、モータ駆動用トランジスタの駆動信号を生成させる制御回路部150とから構成される。制御回路部150は、トルクセンサからトルク信号を受信すると、アシストトルクを発生させるのに必要なPWM信号を生成出力させる。このとき、ドライブ回路では、PWM信号に応じて各パワートランジスタが適宜に駆動され、端子部140から印加された電力を適宜の波形に変換させる。これにより、制御モータは、ドライブ回路によって適宜に制御され、トルク信号及び方向信号に対応した出力トルクを発生させる。
かかる構成を具備する電動式パワーステアリング装置は、操縦者がハンドル装置HDMを操作すると、そのハンドル操作に応じてステアリングシャフト211に操作トルクが伝えられる。これを受けて、トルクセンサでは、ハンドル操作に応じたトルク信号及び方向信号を出力させ、モータユニット100に対してアシストトルクを要求する。制御回路部150では、トルクセンサの信号を受けて、必要とされるアシストトルクのトルク量とアシスト方向とを算出し、モータユニット100は、ウォ−ムギヤ253g及び平歯車252gを介して、ステアリングシャフト211へアシストトルクを与える。即ち、電動式パワーステアリング装置は、トルクセンサからの信号に基づいてアシストトルクを発生させ、操縦者のハンドル操作に必要な力を軽減させる。
図3は、トルクセンサ収容部300へ内蔵されるトルクセンサTSの構成が示されている。トルクセンサTSは、回転子312と固定子311と信号発生回路313(図5及び図6で信号発生回路が示されている)とから構成される。固定子311及び回転子312は、積層された珪素鋼板から成る。このうち、固定子311には、内部にスロット形成部SLが設けられ、当該スロット形成部SLにコイルが巻回される。このコイルは、信号発生回路313を構成するものであって、スロット形成部SLの各々に設けられることとなる。一方、本実施の形態に係る回転子312は、図示の如く珪素鋼板が適宜に積層され、同期式発電機の場合、永久磁石が円周上に設けられ、籠型の誘導発電機の場合、誘導電流を発生させる籠状の導電枠体が設けられる。また、巻線型の誘導発電機の場合、回転子312に複数のコイルが巻回され、スリップリングを介して当該コイルが信号ラインへ接続される。
図4は、トルクセンサ収容部300及びトルクセンサTSの断面構造が示されている。図示の如く、トルクセンサ収容部300は、ハウジング301を具備し、当該ハウジング301の内周側にトルクセンサTSを収容させている。
ハウジング301は、固定子311の外周面が嵌入され、ギヤボックス250及びシャフトケース220のフランジ部によって適宜な位置に配置される。そして、ギヤボックス250及びシャフトケース220及びハウジング301は、複数個所に設けられたボルトナットB/Nによって一体的に固定される。また、ハウジング側のフランジには径方向に貫通孔が形成され、信号ラインL1又はこの他の電源ライン(図示なし)が挿通されている。
ステアリングシャフト211は、図示されないベアリング等によって回動自在に軸支され、固定子311の中心軸に対して略同軸的に配置される。このような状態で回転子312が固定子311に組合されると、回転子312は、ステアリングシャフト211に固定されているので、操縦者のハンドル操作に応じて固定子312の内部を回動することとなる。
ハンドル操作が行われると、ステアリングシャフト211と共に回転子312が回動し、コイルの内側で磁束の変化が生じることとなる。このとき、信号発生回路313は、コイルを貫通する磁束変化に基づいて回転子の回転動作を検出し、当該コイルで誘導起電力を発生させ、信号発生回路313へ接続された信号ラインに駆動信号を出力させる。
かかる信号発生回路313は、固定子側に配置されると、信号ラインの配線が容易となる。このため、トルクセンサTSとして同期式発電機又は籠型誘導発電機を採用すると、固定子側へ信号発生回路313が配置されるため、其の信号ラインの配線が容易となる。但し、巻線型の誘導発電機を用いても、スリップリング等の機構を用いることで回転子側のコイルの誘導電流を検出し、回転子自身のトルク又は回転方向等の回転動作を検出することは可能である。
尚、本実施の形態では、トルクセンTSが発電機であるとして説明しているが、これに限らず、所定の電力が定常的に加えられているモータ(電動機)を採用させても良い。この場合、当該モータで発生する滑りに基づいて、回転子の回動方向及び回転トルクが検出されることとなる。また、当該モータは、同期モータであっても良く、誘導モータであっても良い。
上述の如く、本実施の形態に係るトルクセンサTSによると、トーションバー及びこれを固定させる複雑な機構を排除できるので、部品点数の減少、装置の小型化、コストの低減を図ることができる。
また、同トルクセンサTSでは、操舵動作のみによってハンドル操作の状態(操作方向、操作トルク)を検出できるので、ハンドル側の操作機構とタイヤ側の操舵機構とを機械的に独立させた電動式パワーステアリング装置に用いることができる。このため、本実施の形態に係る電動式パワーステアリングによると、操縦者が操作を行なう機構とタイヤ側の操舵機構とを機械に独立させたステアリングシャフトを用いれば、ステアバイワイヤー化された装置構成が可能となる。
以下、発電機タイプのトルクセンサについて説明する。図5は、同期発電機を採用させたトルクセンサTSと信号処理回路400とが示されている。尚、同図のトルクセンサTSは、図4に示されるa−a断面から観察した状態が示されている。
図示の如く、固定子311には、スロット形成部SLa〜SLcが120°毎に形成され、ワイヤ線が巻回されたコイルLa〜Lcは、スロット形成部に対応して設けられる。各々のコイルの末端は、回転子312に対向する用にレイアウトされ、永久磁石が通過するとコイルの内部を通過する磁束が変動する。本実施の形態では、各々のコイルは、S極が接近すると正電圧を発生させ、N極が接近すると負電圧を発生させるように、コイルのワイヤ線が巻回されている。
また、各々のコイルには、各コイルに対応する抵抗が並列接続されている。尚、同図では、a点−a点間の配線,b点−b点間の配線,c点−c点間の配線が図示省略されているが、実際にはこれらの区間にもワイヤ線が配線されている。
図6には、コイル、抵抗、ワイヤ線によって形成される信号発生回路が示されている。本実施の形態に係る信号発生回路313は、Δ結線が採用される。具体的に説明すると、コイルLa〜LcがΔ状に配線され、同様に、抵抗Ra〜RcもΔ状に配線される。更に、コイル側の接点X1〜X3と抵抗側の接点Y1〜Y3とは、ワイヤ線によって互いに接続されている。信号発生回路313は、コイルLa及び抵抗Raから成る第1の並列回路と、コイルLb及び抵抗Rbから成る第2の並列回路と、コイルLc及び抵抗Rcから成る第3の並列回路とから構成される。尚、本実施の形態では信号発生回路がΔ結線とされているが、これに限らず、Y結線とした信号発生回路を用いることも可能である。
かかる信号発生回路313は、例えば、回転子のS極又はN極(以下、総称して磁極と呼ぶ場合がある)がスロット形成部SLaを通過する際、コイルLaで誘起電圧Vaを発生させる。同様に、回転子のS極又はN極がスロット形成部SLcを通過する際、コイルLcで誘起電圧Vcを発生させる。ここで、各コイルで発生する誘起電圧は、並列回路を成す抵抗によって調整されるものであって、ハンドル操作に応じて発生する動作信号を指すものである。即ち。信号発生回路313では、ハンドル操作に伴って回転子312が回動すると、コイルを貫通する磁束が変化され、これにより、ハンドル操作を示す動作信号が生成される。尚、かかる動作信号は、回転子312及び固定子311から成る発電機の発電作用によって発生するので、当該信号生成に係る電力は不要である。
図示の如く、信号発生回路313には、信号ラインL1及びL2が設けられている。このうち、信号ラインL1は、接点X1〜接点Y1間のワイヤ線に接続され、信号ラインL2は、接点X2〜Y2間のワイヤ線に接続される。また、接点X3〜接点Y3は、自動車のシャーシに接触される等して、自動車の基準電位に一致することとなる。
このように、信号発生回路313に接続された信号伝達手段を用いることで、トルクセンサTSで発生した動作信号を取り出すことが可能となる。尚、信号伝達手段(本実施の形態では信号ライン)は、必ずしもワイヤ線に接続されることを必要としない。例えば、信号発生回路のワイヤ線にコイル式センサ等が設けられるのであれば、信号伝達手段は、其のセンサ装置に接続されることとなる。
本実施の形態に係るトルクセンサTSは、3箇所にコイルが配列され、異なる接点X1,X2に信号ラインが各々接続されている。ここで、ハンドルが「Lc→Lb→La(右回転方向)」へ操作されると、先ず、コイルLcを磁極が通過し、接点X1の電位が変動する。このとき、信号ラインL1からは、接点X1での電位の変動に応じて動作信号Sg1が出力される。また、回転子312は右方向へ回転されるので、コイルLbを磁極が通過し、接点X2での電位が変動する。このとき、信号ラインSg2からは、接点X2での電位の変動に応じて動作信号Sg2が出力される。
一方、ハンドルが「La→Lb→Lc(左回転方向)」へ操作されると、先ず、コイルLaを磁極が通過し、接点X2の電位が変動する。このとき、信号ラインL2からは、接点X2での電位の変動に応じて動作信号Sg2が出力される。また、回転子312は左方向へ回転されるので、コイルLbを磁極が通過し、接点X1での電位が変動する。このとき、信号ラインSg1からは、接点X1での電位の変動に応じて動作信号Sg1が出力される。
即ち、本実施の形態では、信号ラインL1,L2が異なる位置に接続されることにより、回転子の回転動作に応じて発生する動作信号の発生タイミング(動作信号における位相の相異)が検出され、これにより、操作方向の検出が可能となる。
このような方法で回転方向を検出する場合、仮に2個のコイルから成る固定子を用いると、回転子312は、回動方向に関わらず「第1のコイル→第2のコイル→第1のコイル→・・・」の順で各コイルを励起させることとなり、動作信号に操作方向の情報を付加できなくなる。このため、固定子には、3相以上のコイルを形成させるのが好ましい。また、異なる相のコイルを3個以上組合せることで、信号ラインを2箇所以上に設け且つ基準電位へのグランドラインを確保することが可能となる。
再び図5に戻り説明を続ける。図示の如く、トルクセンサTSには、更に信号処理回路400が設けられている。当該信号処理回路400は、入力部へ信号ラインL1及びL2が接続され、信号ラインL1を介して駆動信号Sg1が入力され、信号ラインL2を介して駆動信号Sg2が入力される。そして、本実施の形態に係る信号処理回路400では、かかる駆動信号Sg1,Sg2に基づいて信号処理を行い、トルク信号Stと方向信号Srとを出力させる。尚、トルク信号Stとは、ハンドル操作時の操作トルクを示す信号を言い、方向信号とは、ハンドル操作時の操作方向(右回転方向/左回転方向)を示す信号を言う。
図7は、信号処理回路の機能ブロック図が示されている。かかる信号処理回路400は、トルク信号生成回路410と方向信号生成回路420とから構成される。このうち、トルク信号生成回路410は、フィルタ回路411と増幅回路412と整流回路413と平滑回路411とから構成される。
フィルタ回路411は、信号ラインL1に接続され、ハンドル操作によって発生した動作信号Sg1が入力される。フィルタ回路411は、内部にローパスフィルタを構成させ、動作信号Sg1に重畳される高周波ノイズ成分を除去させる。この動作信号Sg1は、コイルLbを磁極が左回転方向に通過する時、及び、コイルLcを磁極が右回転方向へ通過する時に発生する。そして、動作信号の波形は、図8(a)に示す如く略サインカーブを呈し、S極がコイル先端に接近するときに正電位を示し、N極が接近するときに負電位を示す。
本実施の形態に係る発電機にあっては、ハンドルの操作(操作トルク)に応じて、回転子312の角速度が変動する。このため、固定子311に設けられたコイルの内部では、操作トルクが変動すると、単位時間dtあたりの磁束Φの変化量(dΦ/dt)が増減する。従って、ハンドルを穏やかに操作すると(低角速度時)、動作信号Sg1は、コイル内部でのサイン波形の振幅を小さくする傾向を示す。一方、急激なハンドル操作を与えると(高角速度時)、動作信号Sg1は、サイン波形の振幅を大きくする傾向を示す。例えば、自動車が高速走行している場面では、ハンドルは緩やかに操作されるので、サイン波形の振幅が小さく現われる。これに対し、市街地の交差点で右左折するような場面では、ハンドルは急速度で回されるので、サイン波形の振幅が大きく現われる。
増幅回路412は、フィルタ回路411の後段に接続され、内部のオペアンプICには正負両極の電源が与えられている。このオペアンプICへ投入される電源電圧の絶対値は、動作信号における電圧値の絶対値よりも高く設定されている。このため、増幅回路412では、図8(b)に示す如く、入力された動作信号Sg1の振幅を正負方向へ増幅させることとなる。
整流回路413は、入力波形を全波整流させ、具体的に説明すると、図8(c)に示される状態の波形が成形させる。
平滑回路414は、平滑用に設けられたコンデンサから成るものであって、整流回路413の出力ラインに接続される。このコンデンサは、入力される電流Iを出力電圧Vt(トルク信号St)へ変換する役割を担うため、出力電圧Vtが信号値として所定の範囲に収まるよう、電気容量が適宜に選択される。平滑回路414として用いられるコンデンサでは、全波整流波によって発生した電流Iが電荷となって蓄積され、この電荷は、コンデンサの極板に帯電し出力電圧Vtを生成させる。かかる出力電圧Vtは、全波整流波が平滑され、当該全波整流波のピーク値近傍の電圧値に制御される。以上のことから、平滑回路414へ入力される全波整流波は、操作トルクTqに応じてピーク値が変動するため、出力電圧Vt(トルク信号St)は、操作トルクTqに応じて電圧値の大きさが変動することとなる。
トルク信号Stは、モータユニット100の制御回路部150に格納された演算回路へ入力される。当該演算回路は、CPU,AD変換回路,メモリ回路等を具備し、マイコンのような演算機能を発揮させるものである。特に、メモリ回路には、出力電圧Vtとモータ駆動用トランジスタの動作(デューティー比)との関係を記録した駆動信号用マップと、モータを駆動させるための制御プログラムとが格納されている。この駆動信号用マップの作成にあたっては、ステアリングシャフト211へ数種類の操作トルクTqを加える実験を行ない、操縦者の操作トルクTqに対して適切なアシストトルクを予め規定しておく。このうち、操作トルクTqは、トルク信号Stの電圧値に置換えることができる。また、アシストトルクは、モータ駆動用トランジスタのデューティー比に置換えることができる。このことから、アシストトルクを発生させるに必要な情報は、出力電圧Vtの電圧とモータ駆動用トランジスタのデューティー比ということができる。このため、本実施の形態に係る駆動信号用マップには、出力電圧Vtが電圧値毎に記録され、併せて、各出力電圧に対応するデューティー比が記録される。
かかる構成とされた演算回路は、トルク信号Stが入力されると、其の電圧値を認識し、トルク信号の電圧値に対応するデューティー比をメモリ回路から選択する。即ち、モータユニット100の演算回路では、トルク信号Stから操作トルクTqを推定し、この操作トルクTqに相応しいアシストトルクを発生するよう、モータ駆動用トランジスタのデューティー比を設定させる。
図7へ戻り、方向信号生成回路420について説明する。図示の如く、方向信号生成回路420は、増幅回路415及び422とフィルタ回路421とフリップフロップ回路423とから構成される。
増幅回路415は、上述したフィルタ回路411に接続され、動作信号Sg1が入力される(図10a参照)。また、内部のオペアンプICには正両極の電源が与えられ、基準電圧が0Vとされている。更に、オペアンプICの周囲の抵抗は、増幅率を十分高く設定させ動作信号Sg1の値を正極電源に収束させる。このため、増幅回路415から出力された出力信号は、入力されたサイン波形の負成分をキャンセルさせると供に、サイン波形の正極成分を矩形波Sp1へ変換させる(図10c参照)。
一方、フィルタ回路421は、動作信号Sg2のノイズ成分を除去させ、当該動作信号Sg2を増幅回路422へ入力させる(図10b参照)。かかる増幅回路422にあっても、内部のオペアンプICには正両極の電源が与えられ、基準電圧が0Vとされ、矩形波Sp2を形成させる機能を担う(図10d参照)。
フリップフロップ回路423は、時間要素を取入れた論理回路であって、本実施の形態にあってはD型のフリップフロップ素子D−FFが用いられる。本実施の形態に係るフリップフロップ素子D−FFは、信号入力端子Dとクロック入力端子CLKと信号出力端子Qとを具備している。このうち、信号入力端子Dは、増幅回路415の出力部が接続され、動作信号Sg1に基づいて生成された矩形波Sp1が入力される。一方、クロック入力端子CLKは、増幅回路422の出力部が接続され、動作信号Sg2に基づいて生成された矩形波Sp2が入力される。
フリップフロップ素子D−FFの機能は、クロック入力端子CLKへパルス(常時:Low/パルス発生時:High)が入力されると、パルスが入力された瞬間における信号入力端子Dの信号状態が出力される。具体的に説明すると、信号入力端子Dへの信号(本実施の形態の場合、動作信号Sg1)がLow状態のときに、クロック入力端子CLKのパルス(動作信号Sg2)が入力されると、出力端子Qからは、Low状態の信号が出力される。これに対し、信号入力端子Dへの信号(本実施の形態の場合、動作信号Sg1)がHigh状態のときに、クロック入力端子CLKのパルス(動作信号Sg2)が入力されると、出力端子Qからは、High状態の信号が出力される。尚、フリップフロップ素子D−FFから出力される信号は、操作方向信号Srに相当する。
ここで、ハンドルが右方向へ操作される場合の操作信号について説明する。図9にはハンドルが右方向へ操作される際の回転子の動作が示されている。先ず、図9(a)に示す如く、回転子312の磁極がコイルLcを通過すると、図6で示すように接点X1での電位が変動し、信号ラインL1から動作信号Sg1を出力させる。この動作信号Sg1は、図10(a)に示す如く正弦波として現われ、ロータ312の回転周期に対応して現われる。かかる動作信号Sg1は、増幅回路415によって矩形波Sp1へと変換される(図10c参照)。
回転子312の磁極は、コイルLcを通過すると、今度はコイルLbを通過する。かかる場面では、図6で示すように接点X2での電位が変動するため、信号ラインL2から動作信号Sg2が出力される(図10b参照)。そして、この動作信号Sg2は、動作信号1と同様、増幅回路422によって矩形波Sp2へと変換される(図10d参照)。
ここで、ハンドルが右方向へ操作される場合、回転子312の磁極は「コイルLc→コイルLb」の順序で移動するため、動作信号Sg1が先に現われ、その後、動作信号Sg2が現われる。このため、フリップフロップ素子D−FFでは、矩形波Sp1が先に信号入力端子Dへ入力され、その後、矩形波Sp2がクロック入力端子CLKへ入力される。このため、フリップフロップ素子D−FFから出力される方向信号Srは、矩形波Sp2が入力された時点の矩形波Sg1の状態を示し、High状態の信号を出力することとなる(図10e参照)。
これとは反対に、図11にはハンドルが左方向へ操作される際のロータの動作が示されている。先ず、図11(a)に示す如く、回転子312の磁極がコイルLaを通過すると、図6で示すように接点X2での電位が変動し(図12b参照)、この場合には、信号ラインL2から動作信号Sg2が先に出力されることとなる。この動作信号Sg2は、増幅回路422によって矩形波Sp2へと変換される(図12d参照)。
回転子312の磁極は、コイルLaを通過すると、今度はコイルLbを通過する。かかる場面では、図6で示すように接点X1での電位が変動するため、信号ラインL1から動作信号Sg1が出力される(図12a参照)。そして、この動作信号Sg1は、動作信号Sg2と同様、増幅回路415によって矩形波Sp1へと変換される(図12c参照)。
ここで、ハンドルが左方向へ操作される場合、回転子312の磁極は「コイルLa→コイルLb」の順序で移動するため、先とは逆に、動作信号Sg2が先に現われ、その後、動作信号Sg1が現われる。このため、フリップフロップ素子D−FFでは、矩形波Sp2がクロック入力端子CLKへ入力された後、矩形波Sp1が信号入力端子Dへ入力される。このため、フリップフロップ素子D−FFから出力される方向信号Trは、矩形波Sp2が入力された時点の矩形波Sg1の状態を示すところ、Low状態の信号を出力することとなる(図12e参照)。
即ち、本実施の形態に係る方向信号Trは、High状態とされる場合に右操作を示し、Low状態とされる場合に左操作を示すこととなる。
方向信号Trは、トルク信号Stと同様に、モータユニット100の演算回路に入力される。当該演算回路では、方向信号TrがHigh状態であるかLow状態であるかに基づいて、操作方向を認識する。そして、演算回路は、トルク信号Stから設定されたデューティー比に操作方向の情報を付与し、之をモータ駆動用トランジスタの駆動信号として出力する。
上述の如く、本実施の形態に係るトルクセンサTSによると、発電作用によってハンドル操作を示す動作信号Sg1,Sg2が生成されるので、トルクセンサTSを構成する発電機での消費電力は一切不要となる(所謂無効信号が不要となる)。このため、電動式パワーステアリング装置では、トルクセンサTSから出力される信号をセンシングするための電力が格段に低減される。
また、かかるトルクセンサTSによると、ハンドル操作を行っていない場面では固定子内部のコイルに電流が発生しないので、電動式パワーステアリングへ組込む発電機を一個としても、当該トルクセンサTSに起因する不要なトルクが発生せず、自動車の直進走行時の操作性能が向上する。そして、電動式パワーステアリング装置では、かかる如くトルクセンサTSが一個とされるので、装置構成の簡素化が図られ、また、これによるコストの低廉化も図られる。
以下、モータタイプ(電動機タイプ)のトルクセンサについて説明する。図13に示す如く、トルクセンサTSは、固定子311と回転子312と信号発生回路313とから構成される。また、トルクセンサTSへは、信号処理回路400とインバータ回路500とが配線されている。
インバータ回路500は、電源ラインLu及び電源ラインLv及び電源ラインLwを介して、固定子311に形成された所定のコイルに接続される。また、インバータ回路500は、トルクセンサTSで電気角を発生させるための3相交流電流(Iu,Iv,Iw)を出力させる。
信号処理回路400は、信号ラインL1を介して駆動信号Sgを検出し、これに基づいて、ドライブシャフト211に加えられたトルクの向きを示す操舵信号Srと、トルクの大きさを示すトルク信号Stとを生成出力する。
回転子312は、積層鋼板から成る略円筒体と、導電材から成る籠状体とから構成される。積層鋼板から成る円筒体は籠状体の内部に組み込まれており、ドライブシャフトの動作に応じて、双方一体的に回転する。このとき、積層鋼板の周面では、籠状体の柱部の各方向に電流が発生し、これに応じて、所定の磁束が形成される。
信号発生回路313は、ワイヤ線から成る回路であって、u相用コイルとv相用コイルとw相用コイルとを形成させている。当該コイルの各々は、電源ラインLu〜Lwに接続されている。信号発生回路313は、3相交流電流(Iu,Iv,Iw)が入力されると、トルクセンサにおいて反時計回りFyに回転磁界を形成させる。この3相交流電流は、PWM制御により生成されるものとされるが、回転磁界によって生じる回転子のトルク(以下、定常トルクと呼ぶ)を低減させるよう、其の電流の状態が調整されている。
固定子311では、上述の如く、3相交流電流の入力に応じて、反時計回りFyに回転磁界が形成される。このため、回転子312が反時計回りFyに回転すると、回転磁界に対する回転子の滑りSは、S<1の関係を満たすこととなる(図14参照)。これに対し、回転子312が時計回りFxに回転すると、回転磁界に対する回転子の滑りSは、S>1の関係を満たすこととなる。また、回転子が回転していない静止状態のとき、其の滑りSは、S=1の関係を満たすこととなる。以下、反時計回りFyの回転方向を、左回転と呼び換え、時計回りFxの回転方向を、右回転と呼び換える。
図14の電流特性を参照すると、「S=1」の状態からハンドルを左回転(S<1)へ操作すると、検出信号Sgの電流値が低下していくことが認められる。また、そのハンドル操作時に加えたトルクΔT1は、当該電流値(Sg)の減少量から算出できることが解る。一方、「S=1」の状態からハンドルを右回転(S>1)へ操作すると、検出信号Sgの電流値が増加していくことが認められる。また、そのハンドル操作時に加えたトルクΔT2は、当該電流値(Sg)の増加量から算出できることが解る。
即ち、信号処理回路400は、検出信号Sgの増減を検出してハンドルの操舵方向を検出し、此れを処理して、操舵信号Srを出力させる。また、かかる信号処理回路400は、検出信号Sgの変動量を演算処理し、トルク信号Trを出力させる。
かかるモータ式のトルクセンサでは、回転磁界を定常的に発生させるため電力消費が生じるという不具合、当該回転磁界に起因してドライブシャフト側へ定常トルクが生じてしまうとの不具合、の2点の不具合が懸念される。しかし、相電流の制御を適宜に行うことで、定常トルクの発生を最小限に抑えることが可能である。また、このような定常トルクをキャンセルさせる装置を追加構成させても良い。
上述の如く、本実施例に係るトルクセンサにあっても、実施の形態で説明した同等の効果が奏される。