図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
図1は内燃機関50を示す図である。内燃機関50は図示しない車両に搭載されている。内燃機関50は多気筒(ここでは4気筒)の筒内燃料直接噴射式の内燃機関であり、具体的には圧縮着火式の内燃機関(例えばディーゼルエンジン)となっている。内燃機関50はEGRが行われる内燃機関となっている。また、各気筒において1燃焼サイクルの間に複数回の燃料噴射を行う多段噴射を行う内燃機関となっている。EGRや多段噴射は例えば機関運転状態に応じて適宜行われるようになっている。内燃機関50は燃料噴射装置1とECU10とをさらに備える構成となっている。ECU10については後述する。
燃料噴射装置1は上流部2とサプライポンプ3とコモンレール4とレール圧センサ5と接続配管6と燃料噴射弁7とオリフィス8と燃圧センサ9とを備えている。この点、内燃機関50は燃料噴射弁7など一部の構成を共有するかたちで燃料噴射装置1をさらに備える構成となっている。
上流部2は燃料タンク2aとフィルタ2bとフィードポンプ2cと調圧弁2dとを備えている。燃料タンク2aは燃料を貯留する。フィルタ2bは燃料に含まれる異物を除去する。フィードポンプ2cは低圧ポンプであり、フィルタ2bを介して燃料タンク2aからサプライポンプ3に燃料を供給する。フィードポンプ2cは電動ポンプとなっている。調圧弁2dはフィードポンプ2cが供給する燃料の圧力が所定の圧力を超えた場合に開弁する。そしてこれにより、燃料の一部を燃料タンク2aに戻すことで、フィードポンプ2cが供給する燃料の圧力を調整する。
サプライポンプ3は高圧ポンプであり、コモンレール4に燃料を圧送する。サプライポンプ3は内燃機関50の動力で駆動する一方、内蔵する電磁弁で吐出量を制御できるようになっている。そしてこれにより、コモンレール4内の燃料の圧力を変更できるようになっている。サプライポンプ3は燃料を圧送する燃料圧送部であり、燃料圧送部はさらにフィードポンプ2cを含む構成として把握することもできる。
コモンレール4は蓄圧部であり、サプライポンプ3から圧送された燃料の圧力を蓄圧する。コモンレール4にはレール圧センサ5が設けられている。レール圧センサ5はコモンレール4内の燃料の圧力であるレール圧を検知する。接続配管6は高圧配管であり、コモンレール4と燃料噴射弁7とを接続する。この点、接続配管6は内燃機関50が気筒毎に備える複数の燃料噴射弁7それぞれを気筒毎にコモンレール4に接続しており、コモンレール4からは各燃料噴射弁7に燃料が供給される。各燃料噴射弁7は対応する気筒において内燃機関50の筒内に燃料を噴射する。各燃料噴射弁7はサプライポンプ3からコモンレール4を介して燃料が供給されるように設けられることで、噴射する燃料の圧力である噴射圧Pcrが変更可能となっている。
接続配管6にはオリフィス8と燃圧センサ9とが設けられている。オリフィス8と燃圧センサ9とはともに接続配管6毎に設けられている。各オリフィス8は対応する接続配管6において接続配管6側からコモンレール4に燃料の脈動が伝播することを抑制する。各燃圧センサ9は対応する接続配管6において接続配管6を介してコモンレール4から燃料噴射弁7に供給される燃料の圧力を検知する。各燃圧センサ9は具体的には対応する接続配管6においてオリフィス8よりも下流側の部分に設けられている。レール圧センサ5と各燃圧センサ9とはともに燃料噴射弁7の燃料噴射に応じて低下する燃料の圧力を検知することができる。
図2は燃料噴射弁7の概略構成図である。燃料噴射弁7はボディ71とニードル72とスプリング73と制御弁74とを備えている。ボディ71には収容部71aとシート部71bとサック部71cと噴孔71dと燃料供給通路71eと連通路71fと燃料リターン通路71gと絞り部71hとが設けられている。ボディ71は複数の部材によって構成されていてよい。収容部71aは円柱状の内部空間を形成している。収容部71aにはニードル72が軸方向に沿って摺動自在に収容されている。ニードル72の背後には制御室Rが形成されている。シート部71bは先端側から収容部71aに隣接して設けられている。シート部71bは円錐内面状の壁面を形成する壁部で構成されており、シート部71bにはニードル72が着座する。
サック部71cは先端側からシート部71bに隣接して設けられている。サック部71cはニードル72がシート部71bから離間した状態で、燃料供給通路71eや連通路71fと連通する内部空間を形成している。噴孔71dはサック部71cに設けられており、サック部71cの内外を連通している。噴孔71dはサック部71cに1ないし複数設けることができ、ここでは複数(例えば8個から10個)設けられている。
燃料供給通路71eはコモンレール4から供給される燃料を流通させる。連通路71fは制御弁74非通電時に制御室Rと連通する。燃料供給通路71eと連通路71fとは収容部71aとニードル72との間に形成される燃料通路を介して互いに連通しており、当該燃料通路とともに開弁時に噴孔71dに通じる燃料通路となっている。燃料リターン通路71gは制御弁74通電時に制御室Rと連通する。この点、制御室Rは制御弁74によって連通路71fまたは燃料リターン通路71gと連通するようになっている。絞り部71hは燃料リタ−ン通路71gに設けられ、燃料リターン通路71gを流通する燃料の流量を制限する。燃料リターン通路71gは燃料タンク2aに接続される。
ニードル72はシート部71bを対象とする離間、着座に応じて、噴孔71dを開閉する。具体的にはニードル72はシート部71bに着座した状態で噴孔71dを閉じるとともに、シート部71bから離間した状態で噴孔71dを開く。スプリング73は制御室Rに設けられており、ニードル72を閉弁方向に付勢する。制御弁74は電磁弁であり、非通電時に連通路71fと制御室Rとを連通するとともに、燃料リターン通路71gと制御室Rとの連通を遮断する。また、通電時に連通路71fと制御室Rとの連通を遮断するとともに、燃料リターン通路71gと制御室Rとを連通する。
図3は燃料噴射弁7の動作説明図である。図3(a)は燃料噴射弁7の第1の状態、図3(b)は燃料噴射弁7の第2の状態、図3(c)は燃料噴射弁7の第3の状態を示す。第1の状態は燃料噴射弁7閉弁時、且つ制御弁74非通電時の状態となっている。第2の状態は第1の状態に続く状態であり、燃料噴射弁7開弁時、且つ制御弁74通電時の状態となっている。第3の状態は第2の状態に続く状態であり、燃料噴射弁7開弁時、且つ制御弁74非通電時の状態となっている。
図3(a)に示すように、第1の状態において制御弁74は連通路71fと制御室Rとを連通するとともに、燃料リターン通路71gと制御室Rとの連通を遮断している。このため、第1の状態において燃料は燃料供給通路71eと連通路71fと制御室Rとに供給され、これらの間で燃料の圧力は同じとなる。結果、閉弁方向および開弁方向に作用する燃料の圧力のバランスと閉弁方向に作用するスプリング73の付勢力との関係上、開弁方向よりも開弁方向に作用する力が上回ることで、ニードル72はシート部71bに着座する。結果、噴孔71dが閉じられることで、燃料噴射弁7が閉弁する。
図3(b)に示すように、第2の状態において制御弁74は連通路71fと制御室Rとの連通を遮断するとともに、燃料リターン通路71gと制御室Rとを連通する。このため、制御室Rでは燃料が燃料リターン通路71gに流出することで、燃料の圧力が低下する。結果、閉弁方向および開弁方向に作用する燃料の圧力のバランスと閉弁方向に作用するスプリング73の付勢力との関係上、閉弁方向よりも開弁方向に作用する力が上回ることで、ニードル72はシート部71bから離間(上昇)する。結果、噴孔71dが開かれることで、燃料噴射弁7が開弁し燃料供給通路71eと連通路71fとが噴孔71dと連通する。そしてこれにより燃料が噴射される。
図3(c)に示すように、第3の状態において制御弁74は連通路71fと制御室Rとを連通するとともに、燃料リターン通路71gと制御室Rとの連通を遮断する。このため、制御室Rには燃料が連通路71fから燃料が流入することで、燃料の圧力が上昇する。結果、閉弁方向および開弁方向に作用する燃料の圧力のバランスと閉弁方向に作用するスプリング73の付勢力との関係上、開弁方向よりも閉弁方向に作用する力が上回ることで、ニードル72はシート部71bに接近(下降)する。そしてその後、ニードル72がシート部71bに着座することで第1の状態に戻り、燃料噴射弁7が閉弁する。
図1に戻り、ECU10は電子制御装置であり、ECU10にはレール圧センサ5や各燃圧センサ9や内燃機関50の運転状態を検出可能なセンサ群55がセンサ・スイッチ類として電気的に接続されている。また、フィードポンプ2cやサプライポンプ3や各燃料噴射弁7が制御対象として電気的に接続されている。
各燃料噴射弁7は具体的には制御弁74がECU10に通電可能に接続されることで制御対象として接続されている。センサ群55は内燃機関50の回転数NEを検出可能なクランクセンサや、内燃機関50の吸入空気量を計測可能なエアフロメータや、内燃機関50に対して加速要求を行うアクセルペダルの踏み込み量を検知するアクセル開度センサや、内燃機関50の始動を行うイグニッションスイッチを含む。センサ群55の出力やセンサ群55の出力に基づく各種の情報は例えば他のECUを介して取得されてもよい。
ECU10ではCPUがROMに格納されたプログラムに基づき、必要に応じてRAMの一時記憶領域を利用しつつ処理を実行することで、各種の機能部が実現される。この点、ECU10では例えば以下に示す推定部や燃圧設定部が機能的に実現される。
推定部は燃料噴射弁7の噴孔71d出口部の開口サイズを推定する。推定部は各燃料噴射弁7のうちいずれかを対象として、噴孔71d出口部の開口サイズを推定する。複数の噴孔71dを備える燃料噴射弁7に対し、噴孔71d出口部の開口サイズは例えば複数の噴孔71d出口部の開口サイズそれぞれの総和とすることができる。或いは、当該総和の平均値とすることができる。
推定部は具体的には噴孔71dの出口径doutによって噴孔71d出口部の開口サイズを推定する。この点、出口径doutは噴孔71d出口部の開口面積に応じて特定可能な仮想的な径であり、噴孔71d出口部の開口サイズを複数の噴孔71d出口部の開口サイズそれぞれの総和とした場合にも用いることができる。
推定部は具体的には次に示すようにして噴孔71d出口部の開口サイズを推定する。すなわち、まず燃料噴射に応じた内燃機関50の回転変動に基づき実噴射量Qvを推定する。燃料噴射は具体的にはフューエルカット実行中に行われる微量の燃料噴射であり、実噴射量Qvは具体的にはこのときの燃料噴射で噴射される燃料の実噴射量となっている。
図4はニードル72のリフト量の変化を示す図である。図5は噴射指令の長さに応じた実噴射量Qの変化を示す図である。図4、図5においてケースE1は出口径doutが正常な初期の状態にある場合、ケースE2は出口径doutがデポジットの堆積で縮小した場合、ケースE3は出口径doutが腐食で拡大した場合を示す。図4ではニードル72のリフト量とともに、パルス信号の噴射指令のON、OFF状態を示す。図5に示す噴射指令Fは実噴射量Qvの燃料噴射に対応するパルス信号の噴射指令を示す。
図4に示すように、ニードル72は噴射指令に応じて一定の遅れを有してリフトする。そして、燃料の微小噴射領域では出口径doutが縮小した場合に噴射される燃料の流速が高まる。また、出口径doutが拡大した場合に噴射される燃料の流速が低下する。結果、ケースE2では傾きで示される開弁初期速度が高まることで、ケースE1よりもリフト量が大きくなるとともに、開弁期間が長くなる。また、ケースE3では開弁初期速度が低下することで、ケースE1よりもリフト量が小さくなるとともに、開弁期間が短くなる。このため、図5に示すようにケースE2では噴射指令Fに応じた実噴射量Q(すなわち、実噴射量Qv)はケースE1よりも多くなる。また、ケースE3では噴射指令Fに応じた実噴射量QはケースE1よりも少なくなる。
このため、推定部はさらに推定した実噴射量Qvと補正値QQRとの差分ΔQを算出する。また、算出した差分ΔQに基づき出口径doutの変化量Δdoutを推定する。そしてこれにより、出口径doutが所定値αよりも大きくなったか否かを判定できるようにすることで、噴孔71d出口部が腐食により拡大しているか否かを判定できるようにする。補正値QQRは実噴射量Qの要求特性(図5に示すケースE1によって示される特性)のうち、噴射指令Fに対応する値であり、噴孔71d出口部が正常な初期の状態にある場合の実噴射量Qvに相当する。変化量Δdoutは噴孔71d出口部の開口サイズの変化量に相当する。
なお、差分ΔQを算出するとともに、算出した差分ΔQに基づき変化量Δdoutを推定することも、本発明における噴孔出口部の開口サイズを推定することに含まれる。これは、このように変化量Δdoutを推定することは、実噴射量Qvに基づき出口径doutを推定するとともに、補正値QQRに基づき対応する出口径を算出し、さらにこれらの差分によって変化量Δdoutを推定することと同じであることによる。このため、このような場合についても噴孔71d出口部の開口サイズを出口径doutによって推定することを実質的に含むものとして、本発明における噴孔出口部の開口サイズを推定することに含まれる。
推定部は実噴射量Qvに応じて噴孔71d出口部の開口サイズを推定する代わりに、例えば燃料噴射率に応じて噴孔71d出口部の開口サイズを推定してもよい。燃料噴射率は例えば燃料噴射弁7の燃料噴射に応じて変化する燃料噴射率dQとすることができる。この点、燃料噴射率dQは燃料噴射弁7の燃料噴射に応じて低下する燃料の圧力に応じて変化する。このため、この場合には燃料噴射弁7の燃料噴射の際に燃圧センサ9(或いはレール圧センサ5)が検知する圧力、または当該圧力に基づき算出される燃料噴射率dQに基づき噴孔71d出口部の開口サイズを推定できる。燃料噴射率は例えば通電期間が互いに異なる各燃料噴射間における実噴射量Qをもとに通電期間の変化に対する実噴射量Qの変化量の大きさを算出することで算出可能な(すなわち、巨視的な手法で算出可能な)燃料噴射率であってもよい。
燃圧設定部は推定部が推定する出口径doutが所定値αよりも大きい場合(具体的にはここでは所定値α以上である場合)に、燃料噴射弁7が噴射する燃料中に生成されるキャビテーションCの崩壊位置が燃料噴射弁7の噴孔71d出口部にならないように噴射圧Pcrを設定する。
図6は噴射圧Pcrに応じたキャビテーションCの崩壊位置の説明図である。図6(a)から図6(c)のうち、図6(a)は噴射圧Pcrが相対的に最も低圧である場合、図6(b)は噴射圧Pcrが図6(a)に示す場合よりも高圧で、且つ図6(c)に示す場合よりも低圧である場合(中圧である場合)、図6(c)は噴射圧Pcrが相対的に最も高圧である場合をそれぞれ示す。
図6(a)に示すように噴射圧Pcrが低圧である場合には燃料の流速が低い結果、噴孔71d出口部手前でキャビテーションCが崩壊する。また、図6(b)に示すように噴射圧Pcrが中圧である場合には噴孔71d出口部でキャビテーションCが崩壊する。そして、図6(c)に示すように噴射圧Pcrが高圧である場合には燃料の流速が高い結果、噴孔71d外でキャビテーションCが崩壊する。
この点、キャビテーションCが噴孔71dの入口で生成されてから崩壊するまでの時間はほぼ一定であると考えられ、キャビテーションCの崩壊位置はこのように噴射する燃料の流速の影響を大きく受けることになる。一方、噴射する燃料の流速は噴射圧Pcrに応じて変化するところ、噴射圧Pcrは具体的にはレール圧としてレール圧を規定するパラメータ(ここでは内燃機関50の回転数NEおよび負荷)に応じて設定しておくことができる。このため、燃圧設定部が噴射圧Pcrを設定するにあたって、ECU10は具体的には当該パラメータに応じて噴射圧Pcrを設定した第1のマップデータM1および第2のマップデータM2とを備えている。
図7はマップデータM1、M2を模式的に示す図である。図7(a)は第1のマップデータM1を、図7(b)は第2のマップデータM2を示す。図7(a)に示すように、第1のマップデータM1では回転数NEが高い場合ほど、また負荷が大きい場合ほど噴射圧Pcrが高くなるように設定されている。この点、噴射圧Pcrは複数の領域毎に段階的に高くなるように設定することができる。そして、第1のマップデータM1では複数の領域(ここでは領域D1からD4)毎に領域D1、D2、D3、D4の順に噴射圧Pcrが段階的に高くなるように設定されている。
一方、図7(b)に示すように第2のマップデータM2では複数の領域D1、D2およびD4´が設定されている。領域D4´は領域D4を領域D3まで拡大した領域となっており、噴射圧Pcrとしては領域D4と同じ噴射圧Pcrが適用されている。このため、第2のマップデータM2では領域D3に対応する噴射圧Pcrが設定されていない。この点、領域D3には次に示すような特定の噴射圧が噴射圧Pcrとして設定されている。
図8は出口径doutに応じた燃料流速とキャビテーションC崩壊位置との関係を示す図である。ケースP1、P2のうち、ケースP1は噴射圧Pcrが相対的に高い場合(例えば200MPaの場合)を、ケースP2は噴射圧Pcrが相対的に低い場合(例えば100MPaの場合)をそれぞれ示す。燃料流速は出口径doutに応じて変化する噴孔71d内の燃料流速を示し、燃料流速が遅い場合ほど出口径doutが大きいことを示す。この点、ケースG1は出口径doutが正常な初期の状態にある結果、燃料流速がケースG1からG3の間で中程度の場合、ケースG2は出口径doutが縮小している結果、燃料流速がこれらの間で相対的に最も速い場合、ケースG3は出口径doutが拡大している結果、燃料流速がこれらの間で相対的に最も遅い場合を示す。破線Lは噴孔71d出口部の位置を示す。
図8に示すように、ケースP1の場合は噴射圧Pcrが相対的に高い結果、ケースG1、G2、G3のいずれの場合においてもケースP2の場合よりも噴孔71d入口からのキャビテーションCの崩壊位置が遠くなっている。また、ケースP1の場合にはケースG1、G2、G3のいずれの場合においてもキャビテーションCの崩壊位置が噴孔71d外になっている。
一方、ケースP2の場合には、ケースG1の場合にキャビテーションCの崩壊位置が噴孔71d出口部となり、ケースG3の場合にキャビテーションCの崩壊位置が噴孔71d外となる。そして、ケースP2の場合よりもさらに噴射圧Pcrが低下することで、ケースG3の場合にキャビテーションCの崩壊位置が噴孔71d出口部となる。このため、領域D3に設定されている噴射圧Pcrである特定の噴射圧は出口径doutが正常な初期の状態にある場合にキャビテーションCの崩壊位置を噴孔71d出口部とすることが可能な圧力を上限とする所定の圧力範囲内に含まれる圧力となっている。
これらを踏まえ、燃圧設定部は具体的には推定部が推定する出口径doutが所定値αよりも小さい場合に、噴射圧Pcrを決定するにあたって使用するマップデータとして第1のマップデータM1を指定する。また、推定部が推定する出口径doutが所定値αよりも大きい場合(ここでは所定値α以上である場合)に、噴射圧Pcrを決定するにあたって使用するマップデータとして第2のマップデータM2を指定する。そしてこれにより、前述したように噴射圧Pcrを設定する。燃圧設定部は複数の噴孔71dを備える燃料噴射弁7に対し、噴孔71d出口部を複数の噴孔71dの出口部それぞれとして噴射圧Pcrを設定することができる。所定値αは排気の悪化度合いが許容可能な所定の度合いとなる値に設定できる。
次にECU10の制御動作を図9に示すフローチャートを用いて説明する。なお、本フローチャートは例えばフューエルカット実行中に噴射指令Fを行った場合に開始することができる。ECU10は実噴射量Qvを推定するとともに(ステップS1)、推定した実噴射量Qvと補正値QQRとの差分ΔQvを算出する(ステップS2)。続いてECU10は差分ΔQvに基づき出口径doutの変化量Δdoutを推定する(ステップS3)。変化量Δdoutは具体的には所定のモデル式である差分ΔQvの関数f(ΔQv)を用いることで推定できる。
続いてECU10は排気の悪化度合いが許容可能な所定の度合い以上であるか否かを判定する(ステップS4)。この点、ステップS4でECU10は具体的には推定した変化量Δdoutが所定値Δdref以上であるか否かを判定する。所定値Δdrefは変化量Δdoutに基づく判定を行う場合の所定値αに対応する値であり、ステップS4では変化量Δdoutが所定値Δdref以上であるか否かを判定することで、出口径doutが所定値α以上であるか否かが判定される。
ステップS4で肯定判定であれば、ECU10は噴射圧Pcrを決定するにあたって使用するマップデータとして第2のマップデータM2を指定する(ステップS5)。一方、ステップS4で否定判定であれば、ECU10は噴射圧Pcrを決定するにあたって使用するマップデータとして第1のマップデータM1を指定する(ステップS6)。ステップS5、S6の後にはステップS1に戻る。なお、第2のマップデータM2を使用するにあたっては、同時に例えば内燃機関50のトルクに段差が発生することによるドライバビリティの低下を抑制するための適合などが適宜行われていてよい。
次に内燃機関50の作用効果について説明する。内燃機関50は燃料噴射弁7とECU10とを備える構成で、上述したように出口径doutを推定するとともに噴射圧Pcrを設定する。このため、内燃機関50は腐食による噴孔71d出口部の拡大が認められる場合に噴孔71d出口部の拡大が助長されることを抑制できる。そしてこれにより、具体的には噴孔71d出口部の更なる拡大に伴う排気や燃費の悪化を抑制できる。
この点、腐食発生時の噴孔71d出口部の拡大は例えば噴射圧Pcrが高い場合ほど噴射される燃料のエネルギーが高くなる分、助長され易くなるとも考えられる。ところが、噴射圧Pcrが高い結果、キャビテーションCの崩壊位置が噴孔71d外になると、噴孔71d出口部の損壊はキャビテーションCの崩壊による損壊が生じない分、進行し難くなる。
これに対し、内燃機関50は腐食による噴孔71d出口部の拡大が認められる場合には、噴射圧PcrとしてキャビテーションCの崩壊位置を燃料噴射弁7の噴孔71d出口部にする特定の噴射圧を用いることを回避することで、噴孔71d出口部の拡大が助長されることを好適に抑制することができる。この点、内燃機関50は具体的には例えば噴射圧Pcrとして特定の噴射圧の代わりに出口径doutが正常な初期の状態にある場合にキャビテーションCの崩壊位置を噴孔71d出口部とすることが可能な圧力よりも高い圧力を用いることで、噴孔71d出口部の拡大が助長されることを抑制することができる。
同時に内燃機関50は燃料噴射弁7が筒内に燃料を噴射する構成であることで、噴孔71dの拡大による噴射異常が燃料噴射量のみならず、噴霧形状に影響を及ぼす結果、排気や燃費がさらに悪化することを抑制できる点でも好適である。
内燃機関50ではEGR実行時に炭化水素の燃焼で発生する水分が排気とともに内燃機関50の筒内に還流され、同時に筒内温度も低下することから、噴孔71d出口部への水分の付着が発生し易くなる。そして、内燃機関50では噴孔71d出口部への水分の付着が発生し易い分、噴孔71d出口部に付着した水分にSOxやNOxが溶け込むことで強酸を形成し、噴孔71d出口部を腐食する事態が発生し易くなる。
このため、噴孔71d出口部の腐食による拡大が発生し易い分、噴孔71d出口部の更なる拡大に伴う排気や燃費の悪化を抑制する必要性も高くなることに鑑み、内燃機関50は例えばEGRが行われる内燃機関である場合に好適である。また、噴孔71d出口部が上述したように腐食によって拡大することに照らし、燃料性状および燃焼方式の観点から内燃機関50は具体的には例えばディーゼルエンジン等の圧縮着火式の内燃機関とすることができる。なお、EGRは筒内を介することなく排気系から吸気系に排気を還流する外部EGRに限られず、例えば筒内を介して排気系から吸気系に排気を還流する内部EGRであってもよい。
内燃機関50では多段噴射を行うところ、噴孔71d出口部の拡大は多段噴射において単発の燃料噴射よりも少量の燃料を噴射する場合の噴射精度に大きな影響を及ぼすことになる。このため、内燃機関50は例えば多段噴射を行う内燃機関である場合に噴孔71d出口部の更なる拡大に伴う排気や燃費の悪化を好適に抑制できる。
内燃機関50は例えば噴孔71dのデポジット剥離制御を行うことで、仮にデポジットの堆積による噴孔71d出口部の縮小と腐食による噴孔71d出口部の拡大とが同時発生している結果、出口径doutが所定値αよりも小さいと判定してしまう状態も解消できる。そしてこれにより、さらに噴射圧Pcrを適切に設定できるようにすることもできる。
デポジット剥離制御は例えばサプライポンプ3を制御することで、出口径doutが正常な初期の状態にある場合にキャビテーションCの崩壊位置を噴孔71d出口部とすることが可能な圧力に噴射圧Pcrを設定する剥離制御実行部をECU10で実現することで行うことができる。この場合、剥離制御実行部は例えばデポジット剥離制御が所定期間を超えて行われていない場合にデポジット剥離制御を行うようにすることができる。
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。