JP5691838B2 - タッピング加工方法 - Google Patents

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Description

本発明は、タッピング加工方法、すなわちタップを用いためねじ部の加工方法に関する。
例えば内燃機関(エンジン)のシリンダヘッドに装着されるスパークプラグ(以下、単にプラグと言う。)は、周知のようにその主体金具側のおねじ部をプラグ穴側のめねじ部に対してねじ込む(螺合)ことでその先端部側が燃焼室に臨むようにガスケットを介して固定される。その場合に、気筒間燃焼ばらつきの解消、着火性の改善および燃費の向上等の観点から、燃焼室に臨んで中心電極と対をなす外側電極(接地電極)の向き(回転方向位置)を特定の向きに合わせたいとの要請がある。
その対策として、例えば特許文献1〜3に記載のような種々の技術が提案されており、特に特許文献1,2には、プラグの主体金具に対するねじ転造加工の開始位置を任意に設定して、正確に位置決めすることができる技術が開示されている。
特開平11−13613号公報 特開2001−284015号公報 特開2003−323963号公報
シリンダヘッド側のプラグ穴に対してプラグを所定トルクで締め付けた時の外側電極(接地電極)の向き(回転方向位置)は、プラグ側のおねじ部の開始位置だけでなくガスケットの撓み量やシリンダヘッド側のプラグ穴におけるめねじ部の開始位置(めねじ部のねじ切り開始位置の回転方向位相)にも当然に依存することになる。そして、上記のような外側電極の向きをより厳格に管理しようとすると、プラグ側のおねじ部の開始位置を管理するだけでは不十分で、多くの場合にタッピングにて加工されうシリンダヘッド側のプラグ穴についても、同様にそのめねじ部の開始位置が一定となるように管理されていなければ所期の目的を達成することができなくなる。
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、工作機械によるタッピング加工、すなわちタップを用いためねじ部の加工に際して、めねじ部の開始位置であるところのそのねじ切り開始位置の回転方向位相を常に特定の位置として加工することが可能なタッピング加工方法を提供するものである。
本発明は、例えばマシニングセンタに代表されるNC型の工作機械等の主軸にタップを装着してワークに対しタッピングを施す方法である。その際に、タッピングのためのピッチ送り開始位置において、タップねじ部のすくい面を基準にタップの回転方向の位置決め(割り出し)を行うとともに、タップねじ部のうち完全山部の特定の山、例えば1山目あるいは2山目のフランク(山の頂と谷底とを連絡する傾斜面)を基準にタップとワークとのなす距離を規定寸法にセットするものとする。そして、その状態でタッピングのためのピッチ送りを与えて、タッピングを開始するものとする。
かかる技術的事項を機外プリセットによるプリセットタッピングツールを用いたタッピング加工に一段と関連付けるならば、ツールホルダにタップを支持させてなるプリセットタッピングツールを工作機械の主軸に装着し、そのプリセットタッピングツールをねじ下穴(ねじ立て前の穴)が形成されているワークに対してタッピングのためのピッチ送り開始位置までアプローチ動作させるとともに、回転方向の割り出しを行った上でタッピングのためのピッチ送りを与えてタッピングを行うことが前提となる。
その際に、上記タッピングに先立って、プリセットタッピングツール単体の状態でタップねじ部のすくい面を基準にツールホルダに対するタップの回転方向の位置決めを行うとともに、タップねじ部のうち完全山部の特定の山のフランク、例えば1山目あるいは2山目のフランクを基準にツール長をプリセットするツールプリセット工程を含んでいるものとする。
本発明によれば、めねじ部の開始位置であるところのその開始位置の回転方向位相を常に特定の位置として加工することが可能となる。そのため、例えばエンジンのシリンダヘッドにおけるプラグ穴とそれに螺合されるスパークプラグとの関係に着目した場合、スパークプラグにおける主体金具側のおねじ部の開始位置(ねじ切り開始位置の回転方向位相)と外側電極(接地電極)との相対位置関係が特定の位置関係となるように管理されているとするならば、めねじ部が形成されているプラグ穴に対して所定のトルクにてスパークプラグを締め込むだけで上記外側電極は常に特定の向き(回転方向位置)に合わせることが可能となる。
本発明を実施するためのより具体的な形態としてシリンダヘッドの概略構造を示す断面説明図。 図1のプラグ穴におけるa部の拡大図。 図2のプラグ穴にスパークプラグを装着した状態を示す断面説明図。 図2の着座面の加工形態を示す説明図。 プリセットタッピングツールを用いて図2のめねじ部のタッピング加工を行う際の説明図。 (A)は図5に示したタップの要部拡大概略図、(B)はその詳細説明図。 図5に示したプリセットタッピングツールのプリセット時の手順を示す図で、(A)は座面専用マスターゲージを用いたツールプリセッタの校正時の説明図、(B)はツールプリセッタにマスタータップゲージを装着した状態を示す説明図。 図5に示したプリセットタッピングツールにおけるツールホルダの底面説明図。 図5に示したプリセットタッピングツールのプリセット時の手順を示す図で、(A)はマスタータップゲージとロケータとを併用した基準づくりの際の説明図、(B)はツールプリセッタからマスタータップゲージを取り外した状態を示す説明図。 図9の(A)に示したマスタータップゲージとロケータ側の接触子との関係を示す拡大平面説明図。 図5に示したプリセットタッピングツールのプリセット時の手順を示す図で、(A)はツールプリセッタに図5のプリセットタッピングツールを装着して回転方向の位置決めうする際の説明図、(B)はツールプリセッタによりプリセットタッピングツールのツール長をセッティングする際の説明図。 図11の(B)に示したツール長プリセット時の要部拡大説明図。
図1以下の図面は本発明を実施するためのより具体的な形態を示し、ここではエンジンのシリンダヘッドにおけるプラグ穴へのめねじ部の加工、すなわちスパークプラグが螺合されることになるプラグ穴でのめねじ部の加工について例示している。特に図1はシリンダヘッドの断面図を、図2は図1のa部の拡大図を、図3はスパークプラグの装着状態をそれぞれ示している。
図1〜3に示すように、シリンダヘッド1には燃焼室Qに開口する段付き穴状のプラグ穴(プラグホール)2が各気筒ごとに形成されていて、このプラグ穴2にスパークプラグ(以下、単にプラグと言う。)3が螺合方式にて装着される。プラグ3の主体金具4には大径の胴部5と六角部6が形成されているとともに、その胴部5に隣接しておねじ部7が形成されている。さらに、胴部5の首下側にはガスケット8が予め装着されている。その一方、シリンダヘッド1側のプラグ穴2は燃焼室Qに近い小径部2aとそれに連続する大径部2bとからなり、両者の中間部に着座面9が形成されているとともに、小径部2aにめねじ部10が形成されている。そして、所定トルクによるプラグ3の締め込みによって、おねじ部7とめねじ部10との螺合のよる螺進作用のためにプラグ3がシリンダヘッド1に締め付け固定されて、プラグ3側の胴部5がガスケット8を介して着座面9に着座することになる。その結果、プラグ3の中心電極32およびそれと対をなす外側電極(接地電極)33が燃焼室に臨むことになる。
ここで、プラグ3については、おねじ部7のねじ切り開始位置の回転方向位相(回転方向位置)と、規定トルクでプラグ穴2側のめねじ部10に対して締め付けた時の外側電極33の向き(外側電極33が指向する方向)とをそれぞれ製造段階で管理することにより、両者の相対位置関係が予め特定されていて、例えばおねじ部7のねじ切り開始位置の回転方向位相と規定トルクでの締め付け時の外側電極33の向きとを予め一致させてある。
上記シリンダヘッド1を製造する過程での機械加工はその大部分がマシニングセンタに代表されるNC型の工作機械にて行われるが、特に小径部2aおよび大径部2bを含むプラグ穴2の加工手順に着目した場合、前加工として小径部2aおよび大径部2bのそれぞれの切削加工を行った後に、着座面9の切削加工とめねじ部10のねじ切り加工とが行われる。めねじ部10のねじ切りはねじ立て、すなわちタッピングによって行われる。これらの着座面9の切削加工とめねじ部10のタッピング加工は共にNC型の工作機械である共通のマシニングセンタを用いて行うものとし、前加工として着座面9の切削加工を座ぐりとして行い、それに続いてめねじ部10のタッピング加工を行うものとする。
着座面9の加工は、図4に示すような座ぐりカッタ11をマシニングセンタの主軸に装着して行うものとする。この座ぐりカッタ11は汎用のHSKタイプのツールホルダ12に座ぐりカッタ13を脱着可能に支持させたものであり、座ぐりカッタ13はそのボデイ先端に例えば二枚のスローアウェイ方式の面取り用のチップ13aを装着してある。そして、座ぐりカッタ11を所定速度で回転させながらその座ぐりカッタ11に軸心方向の切削送りを与えて一部の面取りとともに座ぐりを施し、着座面9を所定精度に仕上げるものとする。
なお、座ぐりカッタ11は、マシニングセンタの主軸に装着した時のツール長が、後述する公知のツールプリセッタを用いていわゆる機外プリセット方式にて予め規定寸法にプリセットされている。
他方、めねじ部10のタッピング加工は、図5に示すようなプリセットタッピングツール14をマシニングセンタの主軸に装着して行うものとする。このプリセットタッピングツール14は上記と同様に汎用のHSKタイプのツールホルダ15にタップ16を脱着可能に支持させたものであり、タップ16そのものとしては例えば図6に示すように直みぞタップタイプで且つロングシャンクタップタイプのものが使用される。そして、マシニングセンタのタッピング加工モードを使い、プリセットタッピングツール14にタッピングのためのピッチ送りを与えて、いわゆる1パス方式にて小径部2aをねじ下穴としてめねじ部10を加工するものとする。なお、図6の(A)はタップ16のねじ部17の概略を、同図(B)はそのねじ部17の詳細をそれぞれ示している。また、同図(B)ではT1が完全(ねじ)山部で、T2が食い付き部となっている。
この場合、先に切切削加工が施された着座面9から所定距離L(既知の値)だけ離れた位置をタッピングのためのピッチ送り開始位置Mとするならば、着座面9に開口しているねじ下穴としての小径部2aに向けてこのピッチ送り開始位置Mまでプリセットタッピングツール14をアプローチさせるとともに、当該ピッチ送り開始位置Mにてプリセットタッピングツール14の回転方向の位置決めを行った上で、タッピングのためのピッチ送りを開始するものとする。
なお、タッピング加工のためのツールがプリセットタッピングツール14たる所以は、タップ16を支持しているツールホルダ15はその回転方向位置が特定の位置に割り出されて初めてマシニングセンタの主軸に正しく装着されることから、後述ずるようにめねじ部10のねじ切り開始位置の位相を管理する上で、そのツールホルダ15に対するタップ16の回転方向位置がいわゆる機外プリセット方式にて特定の位置に割り出されてプリセットされていることに基づいている。同時に、プリセットタッピングツール14をマシニングセンタの主軸に装着した時のツール長が、後述するように公知のツールプリセッタを用いていわゆる機外プリセット方式にて予め規定寸法にプリセットされていることに基づいている。
これらの着座面9の座ぐり加工およびねねじ部10タッピング加工は、共に共通のNC型の工作機械であるマシニングセンタを用いて行うものとし、しかも加工対象ワークであるところのシリンダヘッド1をマシニングセンタのワークテーブルに一旦クランプしたならば、座ぐり加工とそれに続くタッピング加工とをいわゆる1クランプ(1チャック)方式にて一気に行うものとする。つまり、座ぐり加工を終えた後もシリンダヘッド1はワークテーブルからアンクランプすることなく、そのまま座ぐり加工に続くタッピング加工に供するものとする。同時に、着座面9の座ぐり加工をマシニングセンタの例えばZ軸を使って行ったならば、それに続くタッピング加工も同じZ軸を使って加工を行うものとする。
このように、同一のマシニングセンタの同一の加工軸を使って、いわゆる1クランプ方式にてシリンダヘッド1のプラグ穴2に対し座ぐり加工とタッピング加工とを行うのは、着座面9の位置精度がめねじ部10のねじ切り開始位置の位相(回転方向での位置)の精度と大きな相関があるためで、めねじ部10のねじ切り開始位置の位相精度の向上を図る上では上記のようにプラグ穴2に対する座ぐり加工とタッピング加工とを同一の加工基準で加工することが重要であるからである。
ここで、公知のツールプリセッタ(例えば、日本アイディーシステム株式会社製のTP−400)を使ってのプリセットタッピングツール14のいわゆる機外プリセットは次の手順で行う。
最初に、図7(A)に示すように、予め用意してある着座面9の加工のための座面専用マスターゲージ18を使ってツールプリセッタの校正を行う。この座面専用マスターゲージ18は、図4に示した座ぐりカッタ11と同じ径、同じ長さのマスターバーであり、図4の座ぐりカッタ11のツール長をプリセットするために使用されるものである。
この座面専用マスターゲージ18をツールプリセッタのスピンドルにセットし、ツールプリセッタの投影機による拡大投影機能(CCDカメラによる撮像拡大表示機能であっても良い。)を使って座面専用マスターゲージ18の先端部の形状を映し出し、その画面上の指標である基準線、すなわち互いに直交する十字状の二本の基準線19a,19bを座面専用マスターゲージ18のゲージ先端面および円筒面にそれぞれ合致させて校正を行う。なお、上記投影機の画面には、直交する二本の基準線19a,19bとは別に、後述するようにタップ16のねじ山部における完全(ねじ)山部に相当する二本の基準線20a,20bを山形状にを予め表示しておくものとする。
この校正は、先にも述べたように、プラグ穴2における着座面9の位置精度がめねじ部10のねじ切り開始位置の位相(回転方向での位置)の精度と大きな相関があり、めねじ部10のねじ切り開始位置の位相精度の向上、すなわち角度誤差をなくすために行われる。つまり、着座面9を加工するための座ぐりカッタ11と、めねじ部10のタッピング加工のためのプリセットタッピングツール14とを、同じ基準でプリセットすることが重要となるからである。ただし、この校正作業はツールプリセッタ単独での校正が十分にできている場合には、省略することができる。
校正を終えたならば、座面専用マスターゲージ18をツールプリセッタのスピンドルから取り外し、代わって図7の(B)に示すようにマスタータップゲージ21をツールプリセッタのスピンドルにセットする。このマスタータップゲージ21は図5に示した実際の加工用のプリセットタッピングツール14(ツールホルダ15を含む)と同様のものであり、あくまでマスターゲージとして保管して実際の加工には使用しないものである。そして、ツールプリセッタのスピンドルにセットされたマスタータップゲージ21の姿勢として、図5のようにプリセットタッピングツール14をマシニングセンタの主軸に装着した場合と同等の姿勢を再現する。
より詳しくは、図8に示すように、プリセットタッピングツール14をマシニングセンタの主軸に装着した場合には、ツールホルダ15の溝部22にキーブロック23が嵌合することで回転方向の位置決めが行われ、同時にツールホルダ15に付帯しているIDチップ24と主軸側のIDチップセンサ25との間でそのIDチップ24の情報の読み取りと書き込みが行われる。そこで、マスタータップゲージ21についても同様に、図7の(B)に示すように、ツールプリセッタ側に予め用意されているスライド可能なキーブロック26をツールホルダ15の溝部22に嵌合させて、マシニングセンタ側の主軸装着時と同様に回転方向の位置決めを行う。同時に、ツールプリセッタ側に予め用意されている図8と同様のIDチップセンサとIDチップ24との間で必要な情報の授受を行う。これにより、ツールプリセッタ上において、キーブロック26を基準としたマスタータップゲージ21の回転方向の位置決めがマシニングセンタ側の主軸装着時と同様の条件で行われたことになる。
こうして、ツールプリセッタのスピンドルにセットしたマスタータップゲージ21の回転方向の位置決めが行われたならば、図9の(A)および図10に示すように、マスタータップゲージ21におけるタップ27のねじ部のすくい面27aにロケータ28の接触子29を軽く当てて、マスタータップゲージ21のうちタップ27の先端部での回転方向の基準をつくる。ロケータ28はマグネットスタンド30の上端から平板状の接触子29を片持ち支持状態にて付設したものであり、すくい面27aへの接触子29の当接により基準づくりができたならば、マグネットスタンド30の磁力により当該マグネットスタンド30をツールプリセッタの非可動部分に吸着固定する。
続いて、ロケータ28の位置が変動しないように注意しながら、図9の(B)に示すように、マスタータップゲージ21をツールプリセッタのスピンドルから取り外す。代わって、図11の(A)に示すように、実際のタッピング加工に供するためのプリセット前のプリセットタッピングツール14をツールプリセッタのスピンドルにセットする。そして、先のマスタータップゲージ21の場合と同様に、ツールプリセッタ側に予め用意されているスライド可能なキーブロック26をツールホルダ15の溝部22(図8参照)に嵌合させて、マシニングセンタ側の主軸装着時と同様に回転方向の位置決めを行う。同時に、ツールプリセッタ側に予め用意されているIDチップセンサ25とIDチップ24(いずれも、図8参照)との間で必要な情報の授受を行う。これにより、キーブロック26を基準としたプリセットタッピングツール14の回転方向の位置決めがマシニングセンタ側の主軸装着時と同様の条件で行われたことになる。
ここで、上記プリセットタッピングツール14の回転方向の位置決めは、正確にはツールプリセッタに付帯するキーブロック26を基準にツールホルダ15の回転方向の位置決めがなされているにすぎず、プリセットタッピングツール14として最も機能上重要なタップ6の回転方向およびツール長のセッティングはなおも不完全なままである。
そこで、プリセットタッピングツール14のツールホルダ15に対してタップ16をアンチャッキング状態としたままで、タップ16の回転方向の位置決めを行うべく、タップ16を適宜回転させて、図10に示した場合と同様に、そのタップ16のねじ部のすくい面16aをロケータ28の接触子29に軽く当てて、先のマスタータップゲージ21におけるタップ27のねじ部のすくい面27aにロケータ28の接触子29を軽く当てた状態を再現する。これにより、プリセットタッピングツール14における少なくともタップ16の回転方向の位置決め、すなわちタップ16の回転方向位相の割り出しが行われたことになる。なお、タップ16のシャンク後端の四角部についてはその回り止め機能が発揮されないようにする。
続いて、プリセットタッピングツール14におけるタップ16のツール長のセッティングを行う。このタップ16のツール長のセッティングに際して、タップ16の先端面を基準としたのでは、そのタップ16の機能よりして先端面の加工精度が高くないために、先に述べたようにタップ16によって加工されるめねじ部10のねじ切り開始位置の回転方向位相を管理する上では不十分である。
そこで、本実施の形態では、プリセットタッピングツール14におけるタップ16のツール長のセッティング(プリセット)に際して、大きく発想を変えて、タップ16のうちでも加工精度の高いねじ部17のうち完全(ねじ)山部T1(図6参照)の特定の山のフランク(ねじ部の山の頂と谷底とを連絡する傾斜面)を基準に行うものとする。
より具体的には、図11の(B)に示すように、ツールプリセッタの投影機による拡大投影機能(CCDカメラによる撮像拡大表示機能であっても良い。)を使って、プリセットタッピングツール14のタップ16の先端部の形状を映し出し、その画面上の指標である基準線20a,20bをタップ16の先端部に重ね合わせる。なお、投影機の画面には互いに直交する十字状の二本の基準線19a,19bとは別に、山形状をなす二本の基準線20a,20bを予め表示しておくことは先に述べた。この山形状をなす二本の基準線20a,20bのなす角度は後述するようにタップ16の完全(ねじ)山部T1においてその両側のフランクのなす角度αに一致させてある。
先に図6で説明したように、タップ16のねじ部17は、先端部側の食い付き部T2とそれに続く完全(ねじ)山部T1とからなり、食い付き部T2は不完全(ねじ)山部である。図6の(B)をさらに拡大したものが図12であり、図12の例ではタップ16の先端側から3山目の山17aが完全山部T1の1山目であり、以降が順に完全山部T1の2山目の山17b、完全山部T1の3山目の山17c…となっている。なお、不完全ねじ部である食い付き部T2の寸法(T2そのもの)はばらつきが大きく、タップ16のツール長の基準には不向きであることは先に述べたとおりである。そして、先に述べた投影機の画面側の山形状をなす二本の基準線20a,20bの表示は、タップ16のねじ部17における完全山部T1における各山17a,17b…の両側のフランク(ねじ山部の山の頂と谷底とを連絡する傾斜面)31,31同士のなす角度αに予め一致させてある。
タップ16の先端部の投影形状に投影機の画面上の指標である基準線20a,20b重ね合わせるにあたって、図12に示すように完全山部T1の1山目の山17aのフランク31に山形状をなす一対の基準線20a,20bを重ね合わせるように合致させて、ツール長が規定寸法となるようにセッティング、すなわちプリセットを行い、その状態でツールホルダ15に内蔵されている図示外のチャックにて堅固にチャッキングを行う。これは、完全山部T1の特定の山17aの双方のフランク31,31同士のなす角度αを二分する線が水平方向の基準線19aであることから、完全(ねじ)山部T1の1山目の山17aのフランク31に山形状をなす一対の基準線20a,20bを合致させることは、その山17aの頂部が鋭角であると仮定した場合にその鋭角な頂部を基準にセッティングを行ったことにほかならない。以上によりプリセットタッピングツール14のプリセット作業が完了する。なお、完全山部T1の1山目の山17aに代えて2山目の山17b、3山目の山17cを用いることも可能である。
この場合、チャッキングの際にタップ16をツールホルダ15側にわずかに引き込んでしまうようなチャックでは所期の目的が達成できないので、チャッキングによる締め付け力が作用してもタップを引き込むことがない例えばミーリングチャック等を採用するものとする。また、タップ16のツール長のセッティングに際して、十字状の基準線19a,19bの交点を直接タップ16の山17a,17b…の頂部に合致させないのは、タップ16の山17a,17b…の頂部は図12に示すように微視的に見ると円筒面となっていることから、投影機を使ってのセッティングでもその円筒面に十字状の基準線19a,19bの交点を正確に一致させることが困難であるからである。
以上の説明から明らかなように、プリセットタッピングツール14のプリセットに際しては、座ぐりカッタ11のツール長をプリセットするための座面専用マスターゲージ18を使って先ずツールプリセッタの校正を行い、次いで、その校正されたツールプリセッタを使ってプリセットタッピングツール14の回転方向の位置決めとツール長のプリセットを行っている。このことはプラグ穴2における着座面9の加工のための座ぐりカッタ11と、同じくプラグ穴2におけるめねじ部10の加工のためのプリセットタッピングツール14とは、同一マシニングセンタの同一加工軸(Z軸)での加工に供されることを前提に、同じ基準でプリセットされていることにほかならないことになる。
そして、着座面9の座ぐり加工は、座面専用マスターゲージ18を基準にプリセットされた座ぐりカッタ11を用いて図4の形態で行われ、その着座面9の位置寸法(着座面9の深さ)はマシニングセンタそのもの寸法管理機能によって管理される。
他方、着座面9の座ぐり加工に続くめねじ部10のタッピング加工は、先に述べた手順でプリセットされたプリセットタッピングツール14を用いて図5の形態で行われる。この場合、先に座ぐり加工が施された着座面9から所定距離Lだけ離れた位置をピッチ送り開始位置Mとし、着座面9に開口しているねじ下穴2aに向けてこのピッチ送り開始位置Mまでプリセットタッピングツール14をアプローチさせ、当該ピッチ送り開始位置Mにてプリセットタッピングツール14の回転方向の位置決めを行った上で、タッピングのためのピッチ送りを開始することは先に述べたとおりである。なお、所定距離Lに関してプリセットタッピングツール14側の基準位置は、先に述べたタップ16の完全山部T1における1山目の山17aである。
そして、プリセットタッピングツール14をピッチ送り開始位置Mまでアプローチさせ、当該ピッチ送り開始位置Mにて回転方向の位置決めを行った状態では、所定距離Lが規定の寸法となっていて、且つタップ16の回転方向位相が特定の位相角位置に割り出されていることになる。したがって、そのピッチ送り開始位置Mからタッピングのためのピッチ送りを開始すると、タップ16はねじの螺進作用をもってねじ下穴2aに進入し、ピッチ送り開始位置Mからn回転目であって且つそのn回転目の特定の位相角位置からねめじ部10のねじ切りを開始し、最終的には通り穴タイプのめねじ部10に仕上げることになる。このことは、ピッチ送り開始位置Mからn回転目であって且つそのn回転目の特定の位相角位置から始まるねめじ部10のねじ切りは、タッピングを何回繰り返しても同様に再現されることを意味する。
言い換えるならば、着座面9の座ぐり加工とめねじ部10のタッピング加工とを同一マシニングセンタの同一加工軸(Z軸)を使って行うこと、および座ぐり加工とタッピング加工との間でシリンダヘッド1の脱着を行わないことを前提に、シリンダヘッド1のn気筒分のプラグ穴2のめねじ部10を共通のプリセットタッピングツール14にて加工したと仮定した場合には、各気筒ごとの着座面9上におけるそれぞれのめねじ部10の開始位置は全て同じ特定の位相角位置となる。このことは、シリンダヘッド1の量産加工ラインにおいて次々と同様の加工を行っても何ら変わることはない。
このようにして加工されたシリンダヘッド1の各気筒のプラグ穴2に図3のようにプラグ3を装着する場合、先に述べたようにプラグ3における主体金具4側のおねじ部7の開始位置(おねじ部のねじ切り開始位置の回転方向位相)と外側電極33との相対位置関係が特定の位置関係となるように管理されているとするならば、すなわちおねじ部7のねじ切り開始位置の回転方向位相とプラグ3を規定トルクで締め付けた時の外側電極33の向きとを予め一致させてあるとするならば、プラグ穴2のめねじ部10に対して所定のトルクにてプラグ3を締め込むだけで、どの気筒でも外側電極33を常に特定の向き(回転方向位置)に合わせることが可能となる。本発明者等が試作を行った結果では、外側電極33の目標とする特定の向きに対して±10°程度に管理できることが確認できた。
ここで、本実施の形態では、プラグ3が装着されるシリンダヘッド1側のプラグ穴2のねめじ部10を加工する場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の目的からして、めねじ部のねじ切り開始位置の管理が必要とされるあらゆるねめじ部のタッピングに適用することが可能であることはもちろんである。
1…シリンダヘッド(ワーク)
2…プラグ穴
2a…ねじ下穴
3…スパークプラグ
9…着座面
10…めねじ部
14…プリセットタッピングツール
15…ツールホルダ
16…タップ
16a…すくい面
17…ねじ部
17a…1山目の山
31…フランク
T1…完全山部

Claims (6)

  1. 工作機械の主軸にタップを装着してワークに対しタッピングを施す方法であって、
    タッピングのためのピッチ送り開始位置において、タップねじ部のすくい面を基準にタップの回転方向の位置決めを行うとともに、タップねじ部のうち完全山部の特定の山のフランクを基準にタップとワークとのなす距離を規定寸法にセットし、
    その状態でタッピングのためのピッチ送りを開始することを特徴とするタッピング加工方法。
  2. 上記タップねじ部のうち完全山部の1山目のフランクを基準にタップとワークとのなす距離を規定寸法にセットすることを特徴とする請求項1に記載のタッピング加工方法。
  3. ツールホルダにタップを支持させてなるプリセットタッピングツールを工作機械の主軸に装着し、そのプリセットタッピングツールをねじ下穴が形成されているワークに対してタッピングのためのピッチ送り開始位置までアプローチ動作させるとともに、回転方向の割り出しを行った上でタッピングのためのピッチ送りを与えてタッピングを行う方法であって、
    上記タッピングに先立って、プリセットタッピングツール単体の状態でタップねじ部のすくい面を基準にツールホルダに対するタップの回転方向の位置決めを行うとともに、タップねじ部のうち完全山部の特定の山のフランクを基準にツール長をプリセットするツールプリセット工程を含んでいることを特徴とするタッピング加工方法。
  4. 上記タップねじ部のうち完全山部の1山目のフランクを基準にツール長をプリセットすることを特徴とする請求項3に記載のタッピング加工方法。
  5. 上記タッピング加工の前工程としてワークのうちねじ下穴におけるタッピング開始側の開口周縁部に座面の加工を行う工程を含んでいて、
    この座面加工とそれに続くタッピング加工は共に共通の工作機械にて行うとともに、
    上記座面加工に際してクランプしたワークは座面加工後もアンクランプすることなくそのままタッピング加工に供することを特徴とする請求項3または4に記載のタッピング加工方法。
  6. 上記ワークはエンジンのシリンダヘッドであって、
    このシリンダヘッドにプラグ穴の下穴としてねじ下穴が形成されているとともに、
    上記座面は、タッピング加工が施されたプラグ穴に螺合されるスパークプラグが着座することになる着座面であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一つに記載のタッピング加工方法。
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