以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本実施形態に係るさび止め油組成物は、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種の基油もしくは溶剤と、パーフルオロアルキル基を有する化合物と、さび止め添加剤とを含有する。ここで、基油とは40℃における動粘度が5.0mm2/s以上のものと定義する。
鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を1種または2種以上を適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱油又はナフテン系鉱油が挙げられる。
合成油としては、具体的には、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレンとプロピレンとのコオリゴマー、エチレンと1−オクテンとのコオリゴマー、エチレンと1−デセンとのコオリゴマー等のポリα−オレフィン又はそれらの水素化物;イソパラフィン;モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、ポリアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン;モノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン;ジオクチルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジトリデシルグルタレート等の二塩基酸エステル;トリメリット酸等の三塩基酸エステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリールモノエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコールモノエーテル、ポリエチレングリコールジエーテル、ポリプロピレングリコールジエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコールジエーテル等のポリグリコール;モノアルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、モノアルキルトリフェニルエーテル、ジアルキルトリフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル等のフェニルエーテル;シリコーン油;パーフルオロエーテル等のフルオロエーテル、等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
基油の配合量は、さび止め油組成物全量基準で、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50%以上が最も好ましい。また、基油の配合量は、さび止め油組成物全量基準で、98質量%以下が好ましく、95質量%以下が最も好ましい。基油の配合量が30質量%未満の場合は十分なさび止め性が得られず、基油の配合量が95質量%を超える場合は油剤塗布量が減少することで、十分なさび止め性が得られなくなる。
本実施形態に用いられるパーフルオロアルキル基を有する化合物において、パーフルオロアルキル基は、直鎖でも分岐でもよいが直鎖が好ましく、飽和でも不飽和でもよく、炭素数1以上18以下、好ましくは1以上12以下、より好ましくは1以上6以下、もっとも好ましくは1以上4以下である。炭素数が19以上であると分解性に劣るため外部に放出された際に環境負荷となり得るため好ましくない。
パーフルオロアルキル基を有する化合物としては、パーフルオロアルキルスルホンアミド、パーフルオロアルキルのアルキレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルアミン、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸、およびこれらの塩や誘導体が挙げられる。
パーフルオロアルキルスルホンアミドとしては、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物が好ましい。
[式(1)中、R
1は炭素数1〜12のアルキル基または炭素数2〜12のアルケニル基を示し、Aは炭素数1〜18のパーフルオロアルキル基を示し、Bは水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数1〜18のアルカノール基、炭素数6〜18のアリール基、または一般式(2):
(式(2)中、R
2は水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基または炭素数6〜18のアリール基を示し、R
3は炭素数1〜12のアルキレン基または炭素数2〜12のアルケニレン基を示す。)
で示される基を示す。]
Aは直鎖でも分岐でもよいが直鎖が好ましい。また、Aは飽和でも不飽和でもよいが飽和が好ましい。Aの炭素数は、1以上18以下、好ましくは1以上12以下、より好ましくは1以上6以下、もっとも好ましくは1以上4以下である。炭素数が19以上であると分解性に劣るため外部に放出された際に環境負荷となり得るため好ましくない。Bの炭素数は好ましくは2〜12、より好ましくは3〜8、もっとも好ましくは4〜6である。Bは直鎖でも分岐でも良く、飽和でも不飽和でも良い。R1は炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、より好ましくは1〜6、もっとも好ましくは1〜4であり、直鎖でも分岐でも良く、飽和でも不飽和でも良い。R2は、油剤組成物として用いる場合は、炭素数6〜18のアルキル基、アルケニル基が好ましく、8〜18のアルキル基、アルケニル基がより好ましく、12〜18のアルキル基、アルケニル基がもっとも好ましい。アルキル基、アルケニル基は直鎖でも分岐でも良いが、分岐が好ましい。加工液組成物として用いる場合は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基が好ましく、1〜4のアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基がより好ましく、2〜3のアルケニル基がもっとも好ましい。アルキル基、アルケニル基は直鎖でも分岐でも良く、飽和でも不飽和でも良い。R3は炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルケニレン基が好ましく、炭素数1〜4のアルキレン基が好ましい。
パーフルオロアルキルスルホンアミドは、1級アミド、2級アミド、3級アミドのいずれでもよいが、3級アミドが好ましい。
パーフルオロアルキルのアルキレンオキサイド付加物としては、下記一般式(3)で表される化合物が好適である。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどが挙げられ、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドが好ましい。アルキレンオキサイドの付加モル数は1以上20以下、好ましくは1以上12以下、より好ましくは1以上8以下、もっとも好ましくは1以上6以下である。単一のアルキレンオキサイドの付加物でも良く、複数のアルキレンオキサイドが混ざった付加物でも良い。この場合、アルキレンオキサイド重合部分はブロック重合体でもランダム重合体でも良いが、ランダム重合体が好ましい。
R4−O−(R5O)a−A (3)
[式(3)中、Aは炭素数1〜18のパーフルオロアルキルを示し、R4は水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数1〜12のアシル基を示し、R5は炭素数2〜4のアルキレン基を示し、aは1〜20の整数を示す。]
パーフルオロアルキルアミンとしては、下記一般式(4)で表される化合物が好適である。窒素に結合したパーフルオロアルキル基の数は1〜3個のいずれでも良いが、好ましくは1個である。また、窒素に結合した3−b個のR6は水素原子を含んでも含まなくてもよいが、1個が水素原子であることが好ましい。さらに、当該化合物が有し得る水素原子以外のR6としては、アルキル基、アルカノール基が好ましい。なお、R6で示されるアルキル基及びアルカノール基は、それぞれ直鎖でも分岐でもよく、飽和でも不飽和でも良い。
(R6)(3−b)−N−Ab (4)
[式(4)中、Aは炭素数1〜18のパーフルオロアルキル基を示し、R6は水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のアルカノール基又は炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアルキルアリール基、炭素数6〜12のシクロアルキル基又は炭素数7〜12のアルキルシクロアルキル基を示し、bは1〜3の整数を示す。]
パーフルオロアルキルスルホン酸は、炭素数1〜18のパーフルオロアルキル基を有するスルホン酸である。また、その塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩などが挙げられる。アルカリ金属としてはナトリウム、カリウム、アルカリ土類としてはマグネシウム、カルシウム、バリウムが用いられる。なかでもナトリウム、カリウムが好ましい。アミンとしてはモノアミン、ポリアミン、アルカノールアミン等が挙げられる。
モノアミンとしては、炭素数1〜22のアルキル基を1〜3個有するアルキルアミン、炭素数2〜23のアルケニル基を有するアルケニルアミン、メチル基を2個と炭素数2〜23のアルケニル基1個を有するモノアミン、芳香族置換アルキルアミン、炭素数5〜16のシクロアルキル基を有するシクロアルキルアミン、メチル基2個とシクロアルキル基を有するモノアミン、メチル基及び/又はエチル基が置換したシクロアルキル基を有するアルキルシクロアルキルアミンが挙げられる。ここでいうモノアミンには、油脂から誘導される牛脂アミン等のモノアミンも含まれる。
ポリアミンとしては、炭素数2〜4のアルキレン基を1〜5個有するアルキレンポリアミン、炭素数1〜23のアルキル基を有するN−アルキルエチレンジアミン、炭素数2〜23のアルケニル基を有するN−アルケニルエチレンジアミン、N−アルキル又はN−アルケニルアルキレンポリアミンが挙げられる。ここでいうポリアミンには油脂から誘導されるポリアミン(牛脂ポリアミン等)も含まれる。
アルカノールアミンとしては、炭素数1〜16のアルコールのモノ、ジ、トリアルカノールアミンが挙げられる。
スルホン酸塩を構成するスルホン酸は、常法によって製造された公知のものを使用することができる。具体的には、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生するいわゆるマホガニー酸等の石油スルホン酸、あるいは洗剤等の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生するポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分岐鎖状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したものやジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したもの等の合成スルホン酸等、が挙げられる。
パーフルオロアルキルカルボン酸は、炭素数1〜18のパーフルオロアルキル基にカルボキシル基が結合した化合物である。また、その塩の具体例としては、パーフルオロスルホン酸の塩の場合と同様の塩が挙げられる。
上記のパーフルオロアルキル基を有する化合物の含有量は、さび止め油組成物全量基準で下限値が0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.08質量%以上、もっとも好ましくは0.10質量%以上、また、さび止め油組成物全量基準で上限値が5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、もっとも好ましくは1質量%以下である。5質量%を超えても添加量に見合った効果が得られない。0.01質量%よりも少ないと効果が得られにくい。
さび止め添加剤としては、(B1)スルホン酸塩、(B2)エステル、(B3)ザルコシン型化合物、(B4)ノニオン系界面活性剤、(B5)アミン、(B6)カルボン酸、(B7)脂肪酸アミン塩、(B8)カルボン酸塩、(B9)パラフィンワックス、(B10)酸化ワックス塩、(B11)ホウ素化合物及び(B12)アルキル又はアルケニルコハク酸誘導体、等が挙げられ、特に(B1)スルホン酸塩及び(B2)エステルからなる群より選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
本発明に用いられる(B1)スルホン酸塩の好ましい例としては、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩またはスルホン酸アミン塩が挙げられる。スルホン酸塩はいずれも人体や生態系に対して十分に高い安全性を有するものであり、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはアミンとスルホン酸とを反応させることにより得ることができる。
(B1)スルホン酸塩を構成するアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられる。中でも、アルカリ金属およびアルカリ土類金属としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム及びバリウムが好ましく、カルシウムが特に好ましい。
(B1)スルホン酸塩がアミン塩である場合、アミンとしては、モノアミン、ポリアミン、アルカノールアミン等が挙げられる。
モノアミンとしては、炭素数1〜22のアルキル基を1〜3個有するアルキルアミン、炭素数2〜23のアルケニル基を有するアルケニルアミン、メチル基を2個と炭素数2〜23のアルケニル基1個を有するモノアミン、芳香族置換アルキルアミン、炭素数5〜16のシクロアルキル基を有するシクロアルキルアミン、メチル基2個とシクロアルキル基を有するモノアミン、メチル基及び/又はエチル基が置換したシクロアルキル基を有するアルキルシクロアルキルアミンが挙げられる。ここでいうモノアミンには、油脂から誘導される牛脂アミン等のモノアミンも含まれる。
ポリアミンとしては、炭素数2〜4のアルキレン基を1〜5個有するアルキレンポリアミン、炭素数1〜23のアルキル基を有するN−アルキルエチレンジアミン、炭素数2〜23のアルケニル基を有するN−アルケニルエチレンジアミン、N−アルキルまたはN−アルケニルアルキレンポリアミンが挙げられる。ここでいうポリアミンには油脂から誘導されるポリアミン(牛脂ポリアミン等)も含まれる。
アルカノールアミンとしては、炭素数1〜16のアルコールのモノ、ジ、トリアルカノールアミンが挙げられる。
(B1)スルホン酸塩を構成するスルホン酸は、常法によって製造された公知のものを使用することができる。具体的には、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生するいわゆるマホガニー酸等の石油スルホン酸、あるいは洗剤等の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生するポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分岐鎖状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したものやジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したもの等の合成スルホン酸等、が挙げられる。
上記原料を用いて得られるスルホン酸塩としては、例えば以下のものが挙げられる。アルカリ金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ金属の塩基;アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ土類金属の塩基またはアンモニア、アルキルアミンやアルカノールアミン等のアミンとスルホン酸とを反応させることにより得られる中性(正塩)スルホネート;上記中性(正塩)スルホネートと、過剰のアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基またはアミンを水の存在下で加熱することにより得られる塩基性スルホネート;炭酸ガスの存在下で上記中性(正塩)スルホネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基またはアミンと反応させることにより得られる炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルホネート;上記中性(正塩)スルホネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基またはアミンならびにホウ酸または無水ホウ酸等のホウ酸化合物との反応、あるいは上記炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルホネートとホウ酸または無水ホウ酸等のホウ酸化合物との反応によって得られるホウ酸塩過塩基性(超塩基性)スルホネート、またはこれらの混合物等が挙げられる。
本実施形態においては、上記のうち、中性、塩基性、過塩基性のアルカリ金属スルホネートおよびアルカリ土類金属スルホネートから選ばれる1種または2種以上を用いることがより好ましく;塩基価が0〜50mgKOH/g、好ましくは10〜30mgKOH/gの中性または中性に近いアルカリ金属スルホネート若しくはアルカリ土類金属スルホネートおよび/または塩基価が50〜500mgKOH/g、好ましくは200〜400mgKOH/gの(過)塩基性のアルカリ金属スルホネート若しくはアルカリ土類金属スルホネートを用いることが特に好ましい。また、上記の塩基価が0〜50mgKOH/gのアルカリ金属スルホネートまたはアルカリ土類金属スルホネートと塩基価が50〜500mgKOH/gのアルカリ金属スルホネートまたはアルカリ土類金属スルホネートとの質量比(塩基価が0〜50mgKOH/gのアルカリ金属スルホネートまたはアルカリ土類金属スルホネート/塩基価が50〜500mgKOH/gのアルカリ金属スルホネートまたはアルカリ土類金属スルホネート)は、さび止め油組成物全量を基準として、好ましくは0.1〜30、より好ましくは1〜20、特に好ましくは1.5〜15である。
ここで、塩基価とは、通常潤滑油基油等の希釈剤を30〜70質量%含む状態で、JIS K 2501「石油製品および潤滑油−中和価試験法」の6.に準拠した塩酸法により測定される塩基価を意味する。
(B1)スルホン酸塩としては、アミンスルホネート、カルシウムスルホネート、バリウムスルホネート、ナトリウムスルホネートが好ましく、アルキレンジアミンスルホネート及びカルシウムスルホネートが特に好ましい。
本実施形態に係るさび止め油組成物における(B1)スルホン酸塩の配合量は特に制限されないが、さび止め油組成物全量基準で0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましく、2.0質量%以上がもっとも好ましい。また、さび止め油組成物全量基準で35質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下がもっとも好ましい。
(B2)エステルの好ましい例としては、(B2−1)多価アルコールの部分エステル、(B2−2)エステル化酸化ワックス、(B2−3)エステル化ラノリン脂肪酸、(B2−4)アルキルまたはアルケニルコハク酸エステル等が挙げられる。これらの化合物は、さび止め性をより向上させ得るものである。
(B2−1)多価アルコールの部分エステルとは、多価アルコール中の水酸基の少なくとも1個以上がエステル化されておらず水酸基のままで残っているエステルであり、その原料である多価アルコールとしては任意のものが使用可能であるが、分子中の水酸基の数は好ましくは2〜10、より好ましくは3〜6であり、且つ炭素数が2〜20、より好ましくは3〜10である多価アルコールが好適に使用される。これらの多価アルコールの中でも、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールおよびソルビタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の多価アルコールを用いることが好ましく、ペンタエリスリトールを用いることがより好ましい。
他方、部分エステルを構成するカルボン酸としては、任意のものが用いられるが、カルボン酸の炭素数は、好ましくは2〜30、より好ましくは6〜24、更に好ましくは10〜22である。また、当該カルボン酸は、飽和カルボン酸であっても不飽和カルボン酸であってもよく、また直鎖状カルボン酸であっても分岐鎖状カルボン酸であってもよい。
部分エステルを構成するカルボン酸として、ヒドロキシカルボン酸を用いてもよい。ヒドロキシカルボン酸は、飽和カルボン酸であっても不飽和カルボン酸であってもよいが、安定性の点から飽和カルボン酸が好ましい。また、ヒドロキシカルボン酸は、直鎖カルボン酸または分岐カルボン酸であってもよいが、直鎖カルボン酸、あるいは炭素数1または2、より好ましくは炭素数1の分岐鎖すなわちメチル基を1〜3個、より好ましくは1〜2個、特に好ましくは1個有する分岐カルボン酸が好ましい。
ヒドロキシカルボン酸の炭素数は、さび止め性と貯蔵安定性との両立の点から、2〜40が好ましく、6〜30がより好ましく、8〜24がさらに好ましい。ヒドロキシカルボン酸が有するカルボン酸基の個数は特に制限されず、当該ヒドロキシカルボン酸一塩基酸または多塩基酸のいずれでもよいが、一塩基酸が好ましい。ヒドロキシカルボン酸が有する水酸基の個数は特に制限されないが、安定性の点から、1〜4が好ましく、1〜3がより好ましく、1〜2が更に好ましく、1が特に好ましい。
ヒドロキシカルボン酸における水酸基の結合位置は任意であるが、カルボン酸基の結合炭素原子に水酸基が結合したカルボン酸(α−ヒドロキシ酸)、またはカルボン酸基の結合炭素原子から見て主鎖の他端の炭素原子に水酸基が結合したカルボン酸(ω−ヒドロキシ酸)であることが好ましい。
このようなヒドロキシカルボン酸を含む原料として、羊の毛に付着するろう状物質を、加水分解等により精製して得られるラノリン脂肪酸を好ましく使用することができる。部分エステルの構成カルボン酸としてヒドロキシカルボン酸を用いる場合、水酸基を有さないカルボン酸を併用してもよい。
水酸基を有さないカルボン酸としては、飽和カルボン酸であっても不飽和カルボン酸であってもよい。水酸基を有さないカルボン酸のうち、飽和カルボン酸は直鎖カルボン酸または分岐カルボン酸のいずれでもよいが、直鎖カルボン酸、あるいは炭素数1または2、より好ましくは炭素数1の分岐鎖すなわちメチル基を1〜3、より好ましくは1〜2、更に好ましくは1の分岐カルボン酸が好ましい。
水酸基を有さない不飽和カルボン酸におけるカルボン酸基の個数は特に制限されず、一塩基酸または多塩基酸のいずれでもよいが、一塩基酸が好ましい。水酸基を有さない不飽和カルボン酸が有する不飽和結合の個数は特に制限されないが、安定性の点から、1〜4が好ましく、1〜3がより好ましく、1〜2が更に好ましく、1が特に好ましい。水酸基を有さない不飽和カルボン酸の中でも、さび止め性および基油に対する溶解性の点からはオレイン酸等の炭素数18〜22の直鎖不飽和カルボン酸が好ましく、また、酸化安定性、基油に対する溶解性および耐ステイン性の点からは、イソステアリン酸等の炭素数18〜22の分岐不飽和カルボン酸が好ましく、特にオレイン酸が好ましい。
多価アルコールとカルボン酸との部分エステルにおいて、構成カルボン酸に占める不飽和カルボン酸の割合は5〜95質量%が好ましい。不飽和カルボン酸の割合を5質量%以上とすることで、さび止め性および貯蔵安定性を更に向上させることができる。同様の理由から、当該不飽和カルボン酸の割合は、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましく、30質量%以上が一層好ましく、35質量%以上が特に好ましい。他方、当該不飽和カルボン酸の割合が95質量%を超えると、大気暴露性および基油に対する溶解性が不十分となる傾向にある。同様の理由から、当該不飽和カルボン酸の割合は、80質量%以下がより好ましく、60質量%以下が更に好ましく、50質量%以下が特に好ましい。
上記部分エステルが、構成カルボン酸に占める不飽和カルボン酸の割合が5〜95質量%である部分エステルである場合、当該部分エステルのヨウ素価は、5〜75が好ましく、10〜60がより好ましく、20〜45が更に好ましい。部分エステルのヨウ素価が5未満であると、さび止め性および貯蔵安定性が低下する傾向にある。また、部分エステルのヨウ素価が75を超えると、大気暴露性および基油に対する溶解性が低下する傾向にある。本発明でいう「ヨウ素価」とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、ヨウ素価、水酸基価および不ケン化物価」の指示薬滴定法により測定したヨウ素価を意味する。
(B2−2)エステル化酸化ワックスとは、酸化ワックスとアルコール類とを反応させ、酸化ワックスが有する酸性基の一部または全部をエステル化させたものをいう。エステル化酸化ワックスの原料として使用される酸化ワックスとしては、例えば酸化ワックス;アルコール類としては、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状の飽和1価アルコール、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状の不飽和1価アルコール、上記エステルの説明において例示された多価アルコール、ラノリンの加水分解により得られるアルコール等、がそれぞれ挙げられる。
(B2−3)エステル化ラノリン脂肪酸とは、羊の毛に付着するろう状物質を、加水分解等の精製によって得られたラノリン脂肪酸とアルコールとを反応させて得られたものを指す。エステル化ラノリン脂肪酸の原料として使用されるアルコールとしては、上記エステル化酸化ワックスの説明において例示されたアルコールが挙げられ、中でも多価アルコールが好ましく、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、グリセリンがより好ましい。前記アルキルまたはアルケニルコハク酸エステルとしては、前記アルキルまたはアルケニルコハク酸と1価アルコールまたは2価以上の多価アルコールとのエステルが挙げられる。これらの中でも1価アルコールまたは2価アルコールのエステルが好ましい。
1価アルコールは、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、また、飽和アルコールでも不飽和アルコールでもよい。また、1価アルコールの炭素数は特に制限されないが、炭素数8〜18の脂肪族アルコールが好ましい。2価アルコールとしては、アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールが好ましく用いられる。
(B2−4)アルキルまたはアルケニルコハク酸エステルとしては、アルキルまたはアルケニルコハク酸の2個のカルボキシル基の双方がエステル化されたジエステル(完全エステル)であってもよく、あるいはカルボキシル基の一方のみがエステル化されたモノエステル(部分エステル)であってもよいが、よりさび止め性に優れる点から、モノエステルが好ましい。ここでいう、アルケニル基の炭素数については任意であるが、通常炭素数8〜18のものが使用される。
また、エステルを構成するアルコールとしては、1価のアルコールであっても、2価以上の多価アルコールであっても良いが、1価アルコール及び2価アルコールが好ましい。1価アルコールとしては、通常炭素数8〜18の脂肪族アルコールが用いられる。また、直鎖状のものであっても分岐状のものであっても良く、飽和のものであっても不飽和のものであっても良い。また、2価アルコールとしては、通常アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールが用いられる。なお、ポリオキシアルキレングリコールにおいて、構造の異なったアルキレンオキシドが共重合している場合、オキシアルキレン基の重合形式に特に制限はなく、ランダム共重合していても、ブロック共重合していても良い。重合度については特に制限はないが、2〜10のものが好ましく、2〜8のものがより好ましく、2〜6のものがさらにより好ましく用いられる。
これらのエステルの中では、よりすぐれたさび止め性を発揮する点から、(B1)多価アルコールの部分エステルの使用が特に好ましく、具体的には、ラノリンのペンタエリスリトールエステル、ソルビタンモノオレート、ソルビタンイソステアレート等が挙げられる。
本実施形態に係るさび止め油組成物における(B2)エステルの配合量は特に制限されないが、さび止め油組成物全量基準で0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、0.7質量%以上がさらに好ましく、1.0質量%以上がもっとも好ましい。また、さび止め油組成物全量基準で30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下がもっとも好ましい。
(B3)ザルコシン型化合物は、下記一般式(5)、(6)又は(7)で表される構造を有する。
R7−CO−NR8−(CH2)c−COOX (5)
(式中、R7は炭素数6〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアルケニル基、R8は炭素数1〜4のアルキル基、Xは水素原子、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数1〜30のアルケニル基、cは1〜4の整数を示す。)
[R9−CO−NR10−(CH2)d−COO]eY (6)
(式中、R9は炭素数6〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアルケニル基、R10は炭素数1〜4のアルキル基、Yはアルカリ金属又はアルカリ土類金属、cは1〜4の整数、dはYがアルカリ金属の場合は1、アルカリ土類金属の場合は2を示す。)
[R11−CO−NR12−(CH2)f−COO]g−Z−(OH)h (7)
(式中、R11は炭素数6〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアルケニル基、R12は炭素数1〜4のアルキル基、Zは2価以上の多価アルコールの水酸基を除いた残基、fは1〜4の整数、gは1以上の整数、hは0以上の整数、g+hはZの価数を示す。)
一般式(5)〜(7)中、R7、R9及びR11はそれぞれ炭素数6〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアルケニル基を表す。基油への溶解性などの点から、炭素数6以上のアルキル基又はアルケニル基であることが必要であり、炭素数7以上であることが好ましく、炭素数8以上であることがより好ましい。また、貯蔵安定性などの点から、炭素数30以下のアルキル基又はアルケニル基であることが必要であり、炭素数24以下であることが好ましく、炭素数20以下であることがより好ましい。これらアルキル基又はアルケニル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また、アルケニル基の二重結合の位置は任意である。
一般式(5)〜(7)中、R8、R10及びR12はそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基を表す。貯蔵安定性などの点から、炭素数4以下のアルキル基であることが必要であり、炭素数3以下であることが好ましく、炭素数2以下であることがより好ましい。一般式(5)〜(7)中、c、d及びfは1〜4の整数を表す。貯蔵安定性などの点から、4以下の整数であることが必要であり、3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。
一般式(5)中、Xは水素原子、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数1〜30のアルケニル基を表す。Xで表されるアルキル基又はアルケニル基としては、貯蔵安定性などの点から炭素数30以下であることが必要であり、炭素数20以下であることが好ましく、炭素数10以下であることがより好ましい。これらアルキル基又はアルケニル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また、アルケニル基の二重結合の位置は任意である。
また、よりさび止め性に優れるなどの点から、アルキル基であることが好ましい。Xとしては、よりさび止め性に優れるなどの点から、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルケニル基であることが好ましく、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基であることがより好ましく、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基であることがさらにより好ましい。
一般式(6)中、Yはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を表し、具体的には例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられる。これらの中でも、よりさび止め性に優れる点から、アルカリ土類金属が好ましい。なお、バリウムの場合、人体や生態系に対する安全性が不十分となるおそれがある。一般式(6)中、eはYがアルカリ金属の場合は1を示し、Yがアルカリ土類金属の場合は2を示す。
一般式(7)中、Zは2価以上の多価アルコールの水酸基を除いた残基を表す。このような多価アルコールとしては、2価〜6価のアルコールが挙げられる。
一般式(7)中、mは1以上の整数、m’は0以上の整数であり、かつm+m’はZの価数と同じである。つまり、Zの多価アルコールの水酸基のうち、全てが置換されていても良く、その一部のみが置換されていても良い。
上記一般式(5)〜(7)で表されるザルコシンの中でも、よりさび止め性に優れる点から、一般式(5)および(6)の中から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。また、一般式(5)〜(7)の中から選ばれる1種の化合物のみを単独で使用しても良く、2種以上の化合物の混合物を使用しても良い。
本実施形態に係るさび止め油組成物における一般式(5)〜(7)で表されるザルコシンの含有量は、特に制限されないが、さび止め油組成物全量を基準として、好ましくは0.05〜10質量%、より好ましくは0.1〜7質量%、更に好ましくは0.3〜5質量%である。当該ザルコシンの含有量が前記下限値未満の場合、さび止め性及びその長期維持性が不十分となる傾向にある。また、当該ザルコシンの含有量が前記上限値を超えても、含有量に見合うさび止め性及びその長期維持性の向上効果が得られない傾向にある。
(B4)ノニオン系界面活性剤としては、具体的には例えば、アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアリールエーテル、多価アルコールのポリオキシアルキレン付加物の脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。これらの中でも、本願のさび止め油組成物のさび止め性により優れることから、本発明に用いられるノニオン系界面活性剤としては、アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアリールエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミンが好ましく、特に、ポリオキシアルキレンアルキルアミンが好ましい。
なお、上記のノニオン系界面活性剤は1種を単独で用いても良いし、2種以上を用いても良い。本発明のさび止め油組成物において、ノニオン系界面活性剤を含有しなくてもよいが、ノニオン系界面活性剤を含有量する場合は、さび止め油組成物全量基準で、0.01〜10質量%であることが好ましい。含有量の上限値は、さび止め性の点から、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが最も好ましい。
(B5)アミンとしては、前記スルホン酸塩の説明において例示されたアミンが挙げられる。上記アミンの中でも、モノアミンは耐ステイン性が良好であるという点で好ましく、モノアミンの中でもアルキルアミン、アルキル基およびアルケニル基を有するモノアミン、アルキル基およびシクロアルキル基を有するモノアミン、シクロアルキルアミンならびにアルキルシクロアルキルアミンがより好ましい。また、耐ステイン性が良好であるという点から、アミン分子中の合計炭素数3以上のアミンが好ましく、合計炭素数5以上のアミンがより好ましい。
(B6)カルボン酸としては、任意のものを使用できるが、好ましくは、脂肪酸、ジカルボン酸、ヒドロキシ脂肪酸、ナフテン酸、樹脂酸、酸化ワックス、ラノリン脂肪酸等が挙げられる。前記脂肪酸の炭素数は特に制限されないが、好ましくは6〜24、より好ましくは10〜22である。また、該脂肪酸は、飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でもよく、また直鎖状脂肪酸でも分岐鎖状脂肪酸でもよい。このような脂肪酸としては、炭素数6〜34の飽和及び不飽和脂肪酸が挙げられる。
ジカルボン酸としては、好ましくは炭素数2〜40のジカルボン酸、より好ましくは炭素数5〜36のジカルボン酸が用いられる。これらの中でも、炭素数6〜18の不飽和脂肪酸をダイマー化したダイマー酸、アルキルまたはアルケニルコハク酸が好ましく用いられる。ダイマー酸としては、例えば、オレイン酸のダイマー酸が挙げられる。また、アルキルまたはアルケニルコハク酸の中でも、アルケニルコハク酸が好ましく、炭素数8〜18のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸がより好ましい。
ヒドロキシ脂肪酸としては、好ましくは炭素数6〜24のヒドロキシ脂肪酸が用いられる。また、ヒドロキシ脂肪酸が有するヒドロキシ基の個数は1個でも複数個でもよいが、1〜3個のヒドロキシ基を有するものが好ましく用いられる。このようなヒドロキシ脂肪酸としては、例えば、リシノール酸が挙げられる。
ナフテン酸とは、石油中のカルボン酸類であって、ナフテン環に−COOH基が結合したものをいう。樹脂酸とは、天然樹脂中に遊離した状態またはエステルとして存在する有機酸をいう。酸化ワックスとは、ワックスを酸化して得られるものである。原料として用いられるワックスは特に制限されないが、具体的には、石油留分の精製の際に得られるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトラタムや合成により得られるポリオレフィンワックス等が挙げられる。
ラノリン脂肪酸とは、羊の毛に付着するろう状物質を、加水分解等の精製をして得られるカルボン酸である。
これらのカルボン酸の中でも、さび止め性、脱脂性および貯蔵安定性の点から、ジカルボン酸が好ましく、ダイマー酸がより好ましく、オレイン酸のダイマー酸がより好ましい。
(B7)脂肪酸アミン塩としては、前記のカルボン酸の説明において例示された脂肪酸と、前記アミンの説明において例示されたアミンとの塩をいう。
(B8)カルボン酸塩としては、前記カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩等が挙げられる。カルボン酸塩を構成するアルカリ金属としてはナトリウム、カリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属としてはバリウム、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。中でも、カルシウム塩が好ましく用いられる。また、アミンとしてはアミンの説明において例示したアミンが挙げられる。なお、バリウム塩は人体や生態系に対する安全性が不十分となるおそれがある。
(B9)パラフィンワックスとしては、例えば、石油留分の精製の際に得られるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムや合成により得られるポリオレフィンワックス等が挙げられる。
(B10)酸化ワックス塩の原料として使用される酸化ワックスとしては特に制限されないが、例えば、前記に記載したパラフィンワックス等のワックスを酸化することによって製造される酸化パラフィンワックス等が挙げられる。
(B10)酸化ワックス塩がアルカリ金属塩である場合、原料として使用されるアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。酸化ワックス塩がアルカリ土類金属塩である場合、原料として使用されるアルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられる。酸化ワックス塩が重金属塩である場合、原料として使用される重金属としては、亜鉛、鉛等が挙げられる。中でもカルシウム塩が好ましい。なお、人体や生体系に対する安全性の点から、酸化ワックス塩はバリウム塩および重金属塩でないことが好ましい。
(B11)ホウ素化合物としては、ホウ酸カリウム、ホウ酸カルシウム等が挙げられる。
(B12)アルキル又はアルケニルコハク酸誘導体としては、エステルの説明において例示した(B4)アルキル又はアルケニルコハク酸とアルコールとのエステル以外の、アルキル又はアルケニルコハク酸とアミノアルカノールとの反応生成物、アルキル又はアルケニルコハク酸無水物とザルコシンとの反応生成物、アルキル又はアルケニルコハク酸無水物とダイマー酸との反応生成物等が挙げられる。
指紋除去性などの洗浄性を付与する場合、本実施形態に係るさび止め油組成物は水を更に含有することが好ましい。水としては、工業用水、水道水、イオン交換水、蒸留水、活性炭または一般家庭用浄水器で処理した水、及び大気中の水分を吸収した水等任意のものが使用可能である。
水の含有量は、さび止め油組成物全量基準で下限値0.1質量%、上限値10質量%の範囲で含有する。水の含有量の下限値は、さび発生の抑制性の点から、0.1質量%以上であり、0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上が最も好ましい。また、含有量の上限値は、さび発生の抑制性の点及び水の耐分離安定性を示す点から、10質量%以下であり、9質量%以下がより好ましい。
水の配合方法は特に限定しないが、例えば(1)界面活性剤と水を予め混合し、その混合液を基油に配合する方法。(2)ホモジナイザーなどの攪拌装置を用いて、水を強制的に配合・分散させる方法。(3)スチームを基油中に吹き込み、水を強制的に配合・分散させる方法、及び(4)本発明のさび止め油組成物を金属製部材に塗布する前、もしくは後に大気中の水分を自然に吸収させる方法などが、例示できる。
本実施形態に係るさび止め油組成物においては、必要に応じて他の添加剤を含有させてもよい。具体的には例えば、潤滑性向上効果がある硫化油脂、硫化エステル、長鎖アルキル亜鉛ジチオホスフェート、トリクレジルフォスフェート等のリン酸エステル、動物油,植物油等の油脂、およびそれらの誘導体、脂肪酸、高級アルコール、炭酸カルシウム、ホウ酸カリウム;酸化防止性能を向上させるためのフェノール系またはアミン系酸化防止剤;ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、チアジアゾール、ベンゾチアゾール等の金属の腐食防止性能を向上させるための腐食防止剤;メチルシリコーン、フルオロシリコーン、ポリアクリレート等の消泡剤、界面活性剤、またはこれらの混合物が挙げられる。これらの中では、特に酸化防止性能を向上させるためのフェノール系酸化防止剤、腐食防止剤としてのベンゾトリアゾールまたはその誘導体を用いることが好ましい。
なお、上記他の添加剤の含有量は任意であるが、これらの添加剤の含有量の総和は本発明のさび止め油組成物全量基準で10質量%以下が好ましい。
また、本実施形態に係るさび止め油組成物は基油以外の鉱油および/または合成油からなる溶剤を含有しても良い。ここでは、溶剤とは40℃における動粘度が5.0mm2/s未満のものと定義する。なお、本実施形態に係るさび止め油組成物は、基油を含まず溶剤のみを含有するものであってもよく、あるいは、基油及び溶剤の双方を含有するものであってもよい。
溶剤としての鉱油及び/または合成油は、例えば、パラフィン系又はナフテン系の原油の蒸留により得られる灯油留分;灯油留分からの抽出操作等により得られるノルマルパラフィン;及びパラフィン系又はナフテン系の原油の蒸留により得られる潤滑油留分、あるいは潤滑油脱ろう工程により得られる、スラックワックス等のワックス及び/又はガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる、フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等の合成ワックスを原料とし、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、水素化異性化、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を1つ又は2つ以上適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、ノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油等が挙げられる。
本発明のさび止め油組成物の用途は特に制限されず、鋼板、軸受、鋼球、ガイドレールなどの様々な金属部品の製造工程において、金属加工後の金属部品の防錆に好適に用いることができる。
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1〜17、比較例1〜4]
実施例1〜17及び比較例1〜4においては、それぞれ以下に示す基油及び添加剤を用いて、表1〜3に示す組成を有するさび止め油組成物を調製した。なお、添加剤が基油又は溶剤に溶解し難い場合はホモジナイザーで均一化した後に評価に供した。
(基油)
基油1:鉱油(40℃における動粘度:7.1mm
2/s)
基油2:鉱油(40℃における動粘度:103mm
2/s)
基油3:ポリα−オレフィン(40℃における動粘度:30mm
2/s)
(溶剤)
溶剤1:鉱油系溶剤(40℃における動粘度2.4mm
2/s)
(A)パーフルオロアルキル基を有する化合物
A1:パーフルオロブチルエチレンオキサイド付加物(平均付加数5)
A2:パーフルオロアルキルアミン(C
3F
7−NH
2)
A3:パーフルオロブチルスルホン酸ナトリウム塩(C
4F
9−SO
3Na)
A4:パーフルオロブチルカルボン酸カリウム塩(C
4F
9−COOK)
A5:パーフルオロブチルスルホンアミド (C
4F
9−SO
2NH
2 )
A6:下記式で示されるパーフルオロアルキルスルホンアミド
(B)さび止め添加剤
B1−1:カルシウムスルホネート(塩基価21mgKOH/gのものと塩基価233mgKOH/gのものとの等量混合物)
B1−2:エチレンジアミンスルホネート
B2−1:ソルビタンモノオレート
B2−3:ラノリン脂肪酸のペンタエリスリトールエステル
B3:オレオイルサルコシン(N−Methyloleamidoacetic acid)
B5:シクロヘキシルアミンのエチレンオキサイド付加物(シクロヘキシルジエタノールアミン)
B7:オクタン酸のアルキルアミン
(C)その他の添加剤
C1:酸化防止剤としてのジ−t−ブチル−p−クレゾール
C2:腐食防止剤としてのベンゾトリアゾール
<浸透性評価試験>
実施例1〜17及び比較例1〜4の各さび止め油組成物を試料油として、以下の浸透性評価試験を実施した。
n−ヘキサン、沸騰メタノールの順で洗浄した鋳物の切削粉(平均粒径0.9mm)3gをろ紙に山形に載せ、頂部にスポイトにて試料油3gを滴下する。5分後に切削粉をろ紙上で平らにならし、そのまま50℃、95%湿度の恒温槽内で静置する。1344時間後に取り出しろ紙に転写したさびを観察した。ろ紙の総面積に対するさびによる変色部分の面積の百分率で評価し、変色がないものをS、1%未満のものをA、1%以上5%未満のものをB、5%以上をCとして評価した。得られた結果を表1〜3に示す。