JP5679150B2 - ピルビン酸およびそのエステル類の製造方法 - Google Patents

ピルビン酸およびそのエステル類の製造方法 Download PDF

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本発明は乳酸またはそのエステル(以下、まとめて乳酸類ともいう)からピルビン酸またはそのエステル(以下、まとめてピルビン酸類ともいう)を製造する方法に関する。
近年、再生可能な資源であるバイオマスからの化学品製造技術として、バイオリファイナリー技術が注目を集めている。バイオリファイナリーとは、各種バイオマスのガス化、糖化および抽出などにより、合成ガス、グルコースなどの糖類及びリグニンなどの芳香族化合物などを製造し、それらを多様に変換することでエネルギー及び化学品を製造しようというものである。したがって、バイオリファイナリー技術は、従来のオイルリファイナリー(石油精製)依存の大量生産、大量消費の社会から持続可能な社会へのパラダイムシフトを実現するための、非常に重要な技術として位置づけられている。
ポリマー材料においても、植物由来原料から製造されるバイオベースプラスチックのようなカーボンニュートラルな材料は、今後需要が益々拡大する事が見込まれている。中でも、ポリ乳酸はバイオベースプラスチックとして産業界での利用が進みつつある有望な材料である。ポリ乳酸は乳酸を原料として、ラクチド法などにより製造されている。原料である乳酸は、主にデンプンやセルロースの糖化によって得られるグルコースの発酵法により製造されるが、アセトアルデヒドに青酸を作用させて生じたシアンヒドリンの加水分解、1,2−プロパンジオールにおける末端アルコール基のカルボキシル基への酸化などの化学合成法によっても得る事ができる。
現在乳酸はポリ乳酸原料としての利用が中心であるが、将来的にポリ乳酸市場がさらに拡大すれば、それに伴って乳酸の生産量も増大することから、価格が下がることが予想され、ポリ乳酸用途以外に種々の化学品製造用の安価な出発原料になることが期待できる。
一方、ピルビン酸類は、香料、食品添加物、電子材料等の多くの化学品を製造する際の中間体として用いられている。また、ピルビン酸は生体内物質代謝経路における中間体であることから各種の生理活性物質の原料や医薬品等の製造原料としても注目されている。更に、ピルビン酸類は、半導体製造時等に溶媒等としての用途が開けており、その需要が今後ますます増大すると予想される。
ピルビン酸類の主な製造法として、例えば、特許文献1には、バナジウム、モリブデン及びリンを酸化物の形で含有する固体触媒に乳酸エステル及び酸素を含むガスを200〜400℃で接触させる気相接触酸化によってピルビン酸エステルを製造する方法が記載されている。
特許文献2には、有機溶媒中で光照射下に乳酸エステルを塩素により酸化するピルビン酸エステルの製造方法が記載されている。
特許文献3には高温高圧水(350℃以上、20MPa以上)を反応溶媒として、乳酸からアクリル酸および/またはピルビン酸を合成することを特徴とするアクリル酸および/またはピルビン酸の製造方法が記載されている。
非特許文献1ではパラジウム/鉛/カーボン触媒を用いて、pH調整溶媒(pH8付近)中において乳酸からピルビン酸を製造する方法が記載されている。
特開昭52−39624号公報 特開平11−228502号公報 特開2004−115480号公報
Journal of Molecular Catalysis、71(1992) 25−35
上記先行技術文献に記載の方法によれば、いずれも乳酸類からピルビン酸類を製造する事が可能ではあるが、それぞれ次のような問題を抱えていた。
特許文献1に記載の方法は200℃以上の雰囲気下、気相で反応する必要があることから、プロセス中のエネルギーコストが大きい。特許文献2に記載の方法は液相反応ではあるものの、1当量以上の塩素ガスを連続的にバブリングしながら水銀灯などの光源を点灯しその放射光を照射し続けなければならないことから、原子効率、プロセス全体のエネルギー効率が低い。特許文献3に記載の方法では反応場を高温高圧の超臨界状態にする必要があることから、この手法もエネルギーコストが非常に大きい。非特許文献4に記載の方法は高価な貴金属触媒を使用することから、高コストな方法である。
以上のことから、安価な触媒を使用し、温和な条件下で乳酸類からピルビン酸類を製造する方法が望まれていた。
本発明は、乳酸またはそのエステルからピルビン酸またはそのエステルを製造する方法において、少なくともオキシ三塩化バナジウム元素を含む触媒および酸化剤の存在下、乳酸またはそのエステルを液相で反応させる際に、前記反応を流路幅が100μm以上10mm以下の流路を持つ微小反応器で行うことを特徴とするピルビン酸およびそのエステル類の製造方法である。
本発明によれば、乳酸類からピルビン酸類を温和な条件下、安価なバナジウム触媒および酸化剤を用いることで製造することができる。
本発明を実施するための反応装置の一例
本発明の乳酸類からピルビン酸類を製造する方法では、少なくともバナジウムを含む触媒および酸化剤の存在下、乳酸またはそのエステルを液相で反応させる。
その際に酸化剤として分子状酸素または過酸化物を用いることが好ましい。
本発明において使用する乳酸類は式(1)で表される構造を持つ。
また、本発明において製造されるピルビン酸類は式(2)で表される構造を持つ。
上記(1)および(2)式において、Rは水素原子、無置換または置換アルキル、無置換または置換アリール基である。アルキル基およびアリール基は不飽和結合を有していてもよい。Rとしては、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、3−メチルプロピル基、n−ペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、4−メチルブチル基、2,2−ジメチルペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、シクロヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−ウンデカニル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、フェニル基、ベンジル基などが挙げられる。
本発明では、原料として式(1)で表される乳酸(Rは水素原子)を使用した場合は式(2)で表されるピルビン酸(Rは水素原子)を製造でき、原料として式(1)で表される乳酸エステルを使用した場合は式(2)で表されるピルビン酸エステル(Rは式(1)と同じもの)を製造することができる。
酸化剤としては、反応条件下において乳酸類を酸化する物質であればいずれも利用でき、例えば分子状酸素または過酸化物が挙げられる。過酸化物としては、例えばm−クロロ過安息香酸、tert−ブチルヒドロペルオキシド(以下、TBHPともいう)、過酢酸などが挙げられる。また酸化剤は異なる2種以上を同時もしくは別々に使用してもよい。
酸化剤として過酸化物を用いる場合、その量は特に制限はないが、原子効率と反応率の向上を考慮すると乳酸類に対して0.01〜100当量が好ましく、0.1〜50当量がより好ましい。
反応圧力は特に制限はないが、常圧下または加圧下のいずれかで行うことが好ましい。分子状酸素を酸化剤として用いる場合には、加圧下がより好ましい。
反応に用いる触媒は、少なくともバナジウム元素を含む。つまり、触媒は必須触媒成分としてバナジウム元素を含む化合物またはバナジウム金属を含む。バナジウム元素を含む化合物は特に限定されないが、例えば、五酸化バナジウム、オキシ二塩化バナジウム、オキシ三塩化バナジウム、ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム、トリエトキシオキソバナジウム、ジエトキシモノクロロオキソバナジウム、ビス(1,1,1−トリフルオロアセチルアセトナト)オキソバナジウム、ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)オキソバナジウム、ビス(6,6,7,7,8,8,8−ヘプタフルオロ2,2−ジメチル−3,5−オクタジオナト)バナジウムなどが挙げられる。中でも、オキシ三塩化バナジウムおよびビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム、ジエトキシモノクロロオキソバナジウムが好ましい。またバナジウム元素を含まない物質を任意触媒成分として併用してもよい。触媒成分はそのまま用いても、担体に担持してもよいが、反応器がバッチ式反応器や連続釜の場合は担持触媒が好ましい。マイクロ〜ミリオーダーの流路幅を持つ反応器の場合は、均一系触媒、または前記流路の内壁面の一部もしくは全面が触媒成分である不均一系触媒が好ましい。担体に担持する場合の担体としてはシリカ、アルミナ等の無機担体や、ベンジルアルコール骨格を持つポリスチレン系ポリマー等の高分子担体などが挙げられる。中でもヒドロキシル基を有する担体が好ましい。
反応の原料が乳酸の場合の触媒量は特に制限されないが、バッチ式反応の場合には、乳酸に対して0.1mol%以上50mol%以下が好ましい。50mol%を超えると乳酸が分解してピルビン酸の収率が低下することがある。一方、反応の原料が乳酸エステルの場合の触媒量も特に制限されないが、バッチ式反応の場合には、乳酸エステルに対して0.1mol%以上100mol%以下が好ましい。
反応は無溶媒で行ってもよいし、溶媒を用いてもよい。溶媒を使用する場合、溶媒の種類は特に限定されないが、基質や触媒を溶解できる溶媒を用いることが好ましい。反応に過酸化物などの酸化剤を使用する場合には、さらに酸化剤を溶解できる溶媒が好ましい。また、反応系に多量の水が存在すると反応活性が低下することがあるので、そのような場合は水分の少ない溶媒を使用か脱水処理したものを使用するのが好ましい。脱水処理の方法としては、例えば、還流処理、モレキュラーシーブス等による処理などが挙げられる。反応溶媒としては、例えば、メタノール、エタノールに代表されるアルコール類、酢酸に代表されるカルボン酸類、ベンゼン、トルエンに代表される芳香族溶媒およびそのほかアセトン、アセトニトリル等一般的に用いられる種々の有機溶媒を用いることができる。
反応温度は特に制限はないが、取り扱いやすさから0〜100℃が好ましく、5〜75℃がより好ましい。反応温度は、所望の生成物の選択性、生産性を得るために適宜選定することができる。
反応に使用する反応器の形式は特に限定されないが、例えば攪拌混合式反応器、流通接触式反応器などを挙げることができる。また反応形式も特に限定されず、バッチ式、セミバッチ式、連続式などを用いることができるが、生産性を考慮すると連続式が有利である。また反応器としては流路幅がマイクロ〜ミリオーダーのもの、特に100μm以上10mm以下の流路幅を持つ微小反応器を利用すると、物質の拡散、反応熱の制御および反応時間の精密な制御に有利になる。このような微小反応器は、マイクロリアクターやマイクロチャンネルリアクターと呼ばれることもある。上記リアクターの材質は特に限定されるものではないが、加工や取り扱いのしやすさを考慮すると例えばアルミニウム、シリコン、ステンレス鋼、炭素鋼、合金鋼、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、ポリカーボネート、PTFE等が挙げられる。
微小反応器において、酸化剤が分子状酸素のように気体である場合の流動形式は、反応液中の酸化剤濃度は高い方が有利であることから、生産性を考慮して気液界面が大きい気泡流、スラグ流、チャーン流および環状流のいずれかの流動形式をとっていることが好ましい。
このような流路形式を達成するためには上記マイクロリアクターもしくはマイクロチャンネルリアクターの場合、流速が0.01m/min〜100m/minとなるような流量が好ましい。この微少反応器の流路長は所望の反応率を得るために必要な滞留時間を考慮して決定する事が出来る。通常このような場合の流路長は0.1m〜100の範囲である。
上記微少反応器において、2系列以上の流路を混合する場合は、混合の観点から混合を促進するジョイントを用いることもできる。混合を促進するジョイントとしては例えば、ユニオンティー、フォーカス、キャタピラ、衝突型に代表されるマイクロミキサーが挙げられる。
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(原料、および生成物の分析)
原料および生成物の分析には、FID検出器を備えたガスクロマトグラフィー(GC)およびUV検出器を備えた液クロマトグラフィー(LC)を用いた。
仕込みの原料をA(モル)、反応後の溶液から検出された生成物をB(モル)とした場合、生成物の収率Y(%)は以下のように表される。
Y(%)=100×B/A
参考例1]
反応には攪拌子を入れた50mL三角フラスコを用いた。触媒であるビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム(VO(acac),シグマ−アルドリッチジャパン社製)を26.52mg(乳酸エチルに対して5mol%)と、脱水剤であるMS−3A(和光純薬工業株式会社製、1/16ペレット乾燥品)1gを三角フラスコに入れ、さらに反応溶媒であるアセトニトリル(和光純薬工業株式会社製)を10mL加えた。次いで原料である乳酸エチル(和光純薬工業株式会社製)を236.3mgと、酸化剤であるTBHP(シグマ−アルドリッチジャパン社製、5.5M−in Decane)を1mL添加した。次いで、三角フラスコに蓋を被せ、ホットスターラー上で攪拌子を450rpmで回転させながら、反応液が65℃になるように制御して反応を行った。15分後、三角フラスコを氷浴中に移し、反応液を5℃以下にするとともに、含水アセトニトリル(含水率50体積%)を添加し反応を停止した。反応液は、GCにより分析した。評価結果は表1に示した。
参考例2]
触媒をオキシ三塩化バナジウム(VOCl,和光純薬工業株式会社製)44.98mgに変更し、TBHPは用いず、三角フラスコに蓋をせず空気を酸化剤として用い、室温(25℃)で34分間反応を行い、反応を停止するための含水アセトニトリルを純水1mLに変更したこと以外は参考例1と同様に反応および評価を行った。評価結果は表1に示した
参考例3]
反応には攪拌子を入れた50mL三角フラスコを用いた。反応溶媒であるアセトニトリルを12mL、触媒であるオキシ三塩化バナジウムを44.98mg(乳酸に対して13mol%)、脱水剤であるMS−3Aを1gを加えた。次いで原料である乳酸(和光純薬工業株式会社製)を180.16mg添加した後、三角フラスコに蓋をし、内部を純酸素で置換した。この三角フラスコをスターラー上で攪拌子を500rpmで回転させながら室温(25℃)で反応を行った。10分後、三角フラスコを氷浴中に移し、反応液を5℃以下にするとともに、純水1mLを添加し反応を停止した。反応液はLCにより分析した。評価結果は表2に示した。
参考例4]
触媒をオキシ三塩化バナジウム22.49mgに変更したこと以外は参考例3と同様に反応および評価を行った。評価結果は表2に示した。
[実施例5]
反応は図1の装置を用いて次の方法で行った。反応溶媒であるアセトニトリル100mLに乳酸エチルを2.36g加えA液とした。A液とは別に反応溶媒であるアセトニトリル100mLにオキシ三塩化バナジウムを0.17g(A液中の乳酸エステルに対して5mol%)加えB液とした。1/16インチのユニオンティー1に、A液を内径1mm、外径1.54mmのETFE製のチューブ(A液供給ライン2)を通じて1mL/minの流量で供給し、B液を内径1mm、外径1.54mmのETFE製のチューブ(B液供給ライン2)を通じて1mL/minの流量で供給し、合流させた。合流後は、混合のために内径0.5mmのチューブ4で縮流し、さらにユニオンティー5に供給した。ユニオンティー5では純酸素供給ライン6から2mL/minで供給される純酸素と合流させた。合流後、恒温槽7の中で30℃に保持された内径1mm、外径1.54mm、流路長40mのETFE製のチューブリアクター8(反応場)で反応を行った。反応場の滞留時間は8分10秒であった。反応場を出た反応液は1mLの純水が入ったサンプル瓶(図示せず)で捕集し、GC分析により定量を行った。評価結果は表1に示した。
[実施例6]
流路長を30m(滞留時間は6分3秒)とし、反応場の温度を35℃に変更したこと以外は実施例5と同様に反応および評価を行った。評価結果は表1に示した。
[比較例1]
酸化剤であるTBHPを用いず、三角フラスコに蓋を被せる前に三角フラスコ内を窒素置換し、室温(25℃)で60分間反応し、反応を停止するための含水アセトニトリルを純水1mLに変更したこと以外は参考例1と同様に反応および評価を行った。評価結果は表1に示した。
[比較例2]
酸化剤であるTBHPを用いず、三角フラスコに蓋を被せる前に三角フラスコ内を窒素置換し、60分間反応し、反応を停止するための含水アセトニトリルを純水1mLに変更したこと以外は参考例1と同様に反応および評価を行った。評価結果は表1に示した。
[比較例3]
触媒の使用量を328.7mgに変更し、溶媒、触媒、原料を仕込んだ後に、三角フラスコ内を窒素置換し、25分間反応し、反応を停止するための含水アセトニトリルを純水1mLに変更したこと以外は参考例3と同様にして反応および評価を行った。評価結果は表2に示した。
1.ユニオンティー
2.A液供給ライン
3.B液供給ライン
4.チューブ
5.ユニオンティー
6.純酸素供給ライン
7.恒温槽
8.チューブリアクター

Claims (2)

  1. 乳酸またはそのエステルからピルビン酸またはそのエステルを製造する方法において、少なくともオキシ三塩化バナジウムを含む触媒および酸化剤の存在下、乳酸またはそのエステルを液相で反応させる際に、前記反応を流路幅が100μm以上10mm以下の流路を持つ微小反応器で行うことを特徴とするピルビン酸またはそのエステルの製造方法。
  2. 前記酸化剤が分子状酸素または過酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
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