JP5672712B2 - 積層塗膜形成方法 - Google Patents

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Description

本発明は、積層塗膜形成方法に関する。
自動車の車体塗装では、従来より、下塗り塗装(電着塗装)、中塗り塗装、上塗り塗装(ベース塗装及びクリヤ塗装)の順で行なわれ、その中塗り塗装及びベース塗装には溶剤型塗料が採用されてきた。ベース塗装及びクリヤ塗装はウェットオンウエットで行なわれているが、電着、中塗り及び上塗りの各工程毎に塗膜の焼付け硬化を行なう必要がある。これに対して、特許文献1には、中塗り塗装、ベース塗装及びクリヤ塗装を順次ウェットオンウエットで行なうこと、つまり、中塗り後の焼付けを省略することにより、省エネを図ることが記載されている。
また、上記ベース塗装に関しては、近年、環境への負荷軽減(有機溶剤の使用量削減)の観点から、溶剤型ベース塗料から水性ベース塗料への転換も行なわれている。例えば、特許文献2には、ベース塗装に水性塗料を採用すること、また、その水性ベース塗装を第1層及び第2層の二層とし、第1層の紫外線透過率を下げることにより、中塗り塗装を省略することが記載されている。しかし、水性ベース塗料の場合、ウェットオンウェットでのクリヤ塗装のために、ベース塗装後に水分を除去する予備乾燥工程や、ベース塗膜の乾燥状態を制御する空調設備が必要になる。そのため、中塗りを省略したとしても、省エネの観点からはそれほど効果的ではない。
また、特許文献3には、自動車の上塗り塗装(ベース及びクリヤのウェットオンウェット塗装)に関し、クリヤ塗料に低分子量のポリオールを使用すると、ベース塗膜層とクリヤ塗膜層の混層により、仕上がり外観が不十分になること、その解決のために、特定の水酸基価及び数平均分子量のポリオールとポリイソシアネートとを含有するクリヤ塗料を用いることが記載されている。
特開2007−75791号公報 特表2008−529766号公報 特開2009−149825号公報
上述の積層塗膜の形成において、省エネの観点からは、中塗り塗装を省略できるようにすること、そして、ベース塗料を溶剤型として上記予備乾燥工程や空調設備を不要にすることが有効である。しかし、中塗り塗膜は外力に対する衝撃緩和の役割を有し、これを省くと、耐チッピング性(飛び石に対する塗膜の耐剥離性)が低下する。
その対策として、本発明では、クリヤ塗装に衝撃吸収性が高い2液ウレタンクリヤ塗料を採用するようにした。その場合に問題になったのが、ウェットオンウェットで塗装されたクリヤ塗膜からベース塗膜へのイソシアネート(硬化剤)の移行である。すなわち、クリヤ塗膜からイソシアネートの一部がベース塗膜に移行してきた場合、加熱焼付け時に、ベース塗膜の硬化速度にバラツキを生じてしまう。つまり、ベース塗膜では、クリヤ塗膜から移行してくるイソシアネートによりベース塗膜表面側が内部よりも先に低い温度から硬化し始める。続いて内部の硬化が始まり、ポリオールと硬化剤(メラミン樹脂及びブロックイソシアネート樹脂の少なくとも一方)との反応で生じるアルコール及びブロック剤の少なくとも一方の脱離によってベース塗膜が収縮するため、ベース塗膜表面に微小な凹凸が生じて仕上がり性(特に塗膜表面の艶)が低下するという問題である。
そこで、本発明は、良好な塗膜仕上がり性を得ながら、ベース塗料の溶剤使用量の増大を抑えつつ、省エネを図ることを課題とする。
本発明者の研究によれば、上記クリヤ塗膜のイソシアネートのベース塗膜への移行は、クリヤ塗料の有機溶剤がベース塗膜のポリオール樹脂を部分的に溶かすことによって進行していく現象であることがわかった。そして、2液ウレタンクリヤ塗料塗布時のベース塗膜の弾性率に応じてイソシアネートの上記移行の程度が異なることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の好ましい態様は、電着塗膜が形成された被塗物の該電着塗膜の上に、ポリオール樹脂及び該ポリオール樹脂の水酸基と反応する硬化剤を含有する溶剤型ベース塗料を塗布し、その上にポリオール樹脂及びイソシアネートを含有する2液ウレタンクリヤ塗料をウェットオンウェットで塗布することによりベース塗膜及びクリヤ塗膜を形成し、該ベース塗膜及びクリヤ塗膜を同時に焼付け硬化させる複層塗膜形成方法であって、上記2液ウレタンクリヤ塗料塗布時の上記ベース塗膜の弾性率を1000Pa以上とすることを特徴とする。
この方法によれば、2液ウレタンクリヤ塗料塗布時のベース塗膜の弾性率が1000Pa以上であるから、つまり、ベース塗膜は弾性率が高く硬いから、クリヤ塗料の硬化剤であるイソシアネートのベース塗膜への移行が抑えられる。従って、ベース塗膜の硬化速度(タイミング)にバラツキを生ずることに起因する仕上がり性の低下が避けられる。また、2液ウレタンクリヤ塗料の採用により、中塗り塗装を省略することが可能になり(中塗りのための溶剤も不要になり)、さらに、ベース塗料を溶剤型としたから、水性ベース塗料とは違って、予備乾燥工程や空調設備は不要であり、省エネの点から有利になる。
上記溶剤型ベース塗料は複数ステージで上記電着塗膜の上に塗布することもできるが、1ステージにて電着塗膜の上に塗布することが好ましい。これにより、ベース塗膜を塗膜全体にわたって均一に高い弾性率にすることができ、上記イソシアネートのベース塗膜への移行抑制に有利になる。
上記ベース塗膜の弾性率に関し、該ベース塗膜塗装後の硬化を常温で進めることによって上記2液ウレタンクリヤ塗料塗布時の上記ベース塗膜の弾性率を1000Pa以上とすることが好ましい。すなわち、本発明は、ベース塗膜に対するクリヤ塗料の塗装をウェットオンウェットで行なうことを前提とするものであり、ベース塗膜の弾性率を高めるための硬化に加熱手段を採用することは塗装効率ないしは省エネの観点から不利になる。
ベース塗膜の常温での硬化を促進するためには、ベース塗料においては、硬化剤として、室温でも硬化反応を生ずる常温硬化型のものを採用することが好ましく、さらに、鎖延長剤を添加して反応させることによりベース塗膜の弾性率を高める(高分子量化する)ことが好ましい。また、通常のウレタン化反応において使用される錫系触媒、その他の硬化触媒を使用することにより、ベース塗膜の硬化反応を調整して、その弾性率を高めることができる。
上記被塗物としては、例えば自動車の車体があり、その他の被塗物にも本発明は適用することができる。
本発明によれば、被塗物の電着塗膜の上に、ポリオール樹脂及び硬化剤を含有する溶剤型ベース塗料を塗布し、その上にポリオール樹脂及びイソシアネートを含有する2液ウレタンクリヤ塗料をウェットオンウェットで塗布してベース塗膜及びクリヤ塗膜を形成し、該ベース塗膜及びクリヤ塗膜を同時に焼付け硬化させる複層塗膜形成方法において、上記2液ウレタンクリヤ塗料塗布時の上記ベース塗膜の弾性率を1000Pa以上としたから、溶剤使用量の増大を抑えつつ、クリヤ塗膜からベース塗膜へのイソシアネートの移行を抑制することができ、良好な塗膜仕上がり性を得ながら、省エネを図る上で有利になる。
本発明の実施形態に係る塗膜構成を示す断面図である。 クリヤ塗膜からベース塗膜へのイソシアネートの移行が抑制される状態を示す本発明例の説明図である。 クリヤ塗膜からベース塗膜へイソシアネートが移行する様子を示す従来例の説明図である。
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
図1は本発明に係る積層塗膜構成を示す。同図において、1は鋼製の被塗物であり、その上に電着塗膜2が形成され、その上にベース塗膜3が形成され、その上にクリヤ塗膜4が形成されている。ベース塗膜3は、ポリオール樹脂及び該ポリオール樹脂の水酸基と反応する硬化剤を含有する溶剤型ベース塗料の塗布によって形成されている。クリヤ塗膜4は、ポリオール樹脂及びイソシアネートを含有する2液ウレタンクリヤ塗料の塗布によって形成されている。ベース塗膜3及びクリヤ塗膜4は、ベース塗膜3の上にクリヤ塗料をウェットオンウェットで塗布し、同時に焼付け硬化させて形成されている。
<積層塗膜形成方法>
本発明の積層塗膜形成方法では、まず、リン酸亜鉛処理した自動車車体などの被塗物1に電着塗装を行ない、焼付け乾燥処理を施して電着塗膜2を形成する。この電着塗膜2の上に溶剤型ベース塗料を塗装してベース塗膜3を形成する。次いで、ベース塗膜3の上にウェットオンウェットにて2液ウレタンクリヤ塗料を塗装してクリヤ塗膜4を形成する。2液ウレタンクリヤ塗料の塗装は、ベース塗膜3の弾性率が1000Pa以上になったときに実施する。そして、ベース塗膜3及びクリヤ塗膜4を同時に焼付け硬化させる。
−電着塗装について−
被塗物1をカチオン電着塗料に浸漬し、被塗物1を陰極、電着槽内の極板を陽極として、この間に直流電流を流すことで被塗物1に電着塗膜2を析出形成することができる。カチオン電着塗料は、カチオン性エポキシ樹脂、硬化剤及び顔料や添加剤を含んでいる。
カチオン性エポキシ樹脂には、アミンで変性されたエポキシ樹脂が含まれる。エポキシ樹脂としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、及びアルキルフェノールのような樹脂で変性したもの、また、エポキシ樹脂の鎖長を延長したものを用いることができる。
硬化剤としては、ポリイソシアネートをブロック剤でブロックして得られたブロックポリイソシアネートを用いることができる。ポリイソシアネートとしては、脂肪族系、脂環式系、芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
硬化剤の量は、一般にカチオン性エポキシ樹脂の硬化剤に対する固形分重量比で表して一般に80/20〜50/50の範囲が好ましく、カチオン性エポキシ樹脂と硬化剤の量は、一般に、電着塗料組成物の全固形分の30〜80重量%の範囲が好ましい。
電着塗料は着色剤として一般に顔料を含有する。着色顔料の例としては、酸化チタン、カーボンブラック及び酸化鉄、体質顔料の例としては、カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ及びクレー、防錆顔料の例としては、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、及びモリブデン酸カルシウム等が挙げられる。顔料の量は、電着塗料組成物の全固形分の10〜30重量%の範囲とすることができる。
−ベース塗装について−
上記カチオン電着塗装・焼付け乾燥処理後、その電着塗膜2の上に、溶剤型ベース塗料をエアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装、カーテンコート塗装などにより塗装する。塗装の際、静電印加を行ってもよい。
ベース塗料は、上記ポリオール樹脂及びこれと反応する硬化剤を含有する。ポリオール樹脂としては、アクリルポリオール樹脂(メタアクリル酸エステル類を重合させた側鎖にヒドロキシ基をもつポリマー)を好ましく採用することができるが、これに限られるものではなく、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールなど他のポリオール樹脂を用いることができ、或いは種類の異なるポリオール樹脂を混合して用いることができる。また、ポリオール樹脂と他の塗膜形成樹脂とを混合して用いることができる。
硬化剤としては、上記ウェットオンウェット塗装において、クリヤ塗料塗布時のベース塗膜の弾性率が高くなる(1000Pa以上になる)ように、室温でも硬化反応を生ずる常温硬化型のイソシアネート系硬化剤を採用することが好ましい。
すなわち、本発明の課題の一つは、クリヤ塗膜4からイソシアネート(硬化剤)がベース塗膜3に移行することを抑制し、塗膜仕上がり性を良くすることにあり、その移行は、クリヤ塗膜4の有機溶剤がベース塗膜3のポリオール樹脂を溶かすことによって生ずる。上記移行を防止するために、ベース塗膜3の常温での硬化を促進し、クリヤ塗料塗布時にはベース塗膜3の弾性率が高くなっているようにするものである。
そうして、クリヤ塗料のウェットオンウェットでの塗装のために、ベース塗膜3は、ベース塗料の塗布後、数分ないし十数分(3分以上15分以内)の室温放置で、1000Pa以上の弾性率になることが好ましい。この弾性率の上限は、特に限定するわけではないが、3000Pa程度を目安にすればよい。
常温硬化型のイソシアネート系硬化剤としては、例えば、イソシアネートプレポリマーのような非ブロック化ポリイソシアネートが挙げられる。イソシアネートプレポリマーとしては、ポリイソシアネートの重合体や、ポリイソシアネートと水又は多価アルコールとの付加反応体が挙げられる。ポリイソシアネートの重合体としては、例えば、ポリイソシアネートが複数結合したヘキサメチレンジイソシアネートプレポリマーのような環状ポリイソシアネート化合物が挙げられる。また、上記イソシアネート系硬化剤とメラミン樹脂、アミノ樹脂など他の硬化剤とを併用することもできる。
また、ベース塗料に鎖延長剤を添加して反応させることによりベース塗膜の弾性率を高める(高分子量化する)ことができる。鎖延長剤としては、アミノ基を有する化合物、或いはアミノ基と水酸基を有する化合物、例えばヒドロキシエチルヒドラジン、ヒドロキシエチルジエチレントリアミン、2−[(2−アミノエチル)アミノ]エタノール、アミノプロパンジオール等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組合せて使用することができる。
また、ベース塗膜の低温架橋性を増大させるため、通常のウレタン化反応において使用される、オクチル酸錫、ジブチル錫ジ(2-エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジ(2-ヘキサノエート)、ジオクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、2-エチルヘキサン酸鉛などの有機金属触媒、トリエチルアミン(第三級アミン)などのアミン系触媒、その他の硬化触媒を必要に応じて用いることができる。
有機溶剤の例としては、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、芳香族石油系溶剤等が挙げられる。
ベース塗料には、必要に応じて、顔料類、非水分散樹脂、ポリマー微粒子、紫外線吸収剤、光安定剤、塗面調整剤、酸化防止剤、流動性調整剤、ワックス等を適宜含有することができる。
このベース塗料の塗装は1ステージで行なうことが好ましい。これにより、ベース塗膜を塗膜全体にわたって均一に高い弾性率にすることができ、クリヤ塗膜のイソシアネートがベース塗膜3へ移行することを抑制する上で有利になる。
ベース塗膜3の乾燥膜厚は、例えば10μm以上35μm以下に設定することができ、好ましくは15μm以上25μm以下である。ベース塗膜3の膜厚が厚くなると、鮮映性が低下したり、塗膜にムラまたは流れが生じることがあり、その膜厚が薄くなると、下地隠蔽性が不充分となり、膜切れ(塗膜が不連続な状態)が生じることがあるため、いずれも好ましくない。
−クリヤ塗装−
2液ウレタンクリヤ塗料を、ベース塗膜3の上に、エアレススプレー、エアスプレー、回転霧化塗装機などにより塗装する。塗装の際、静電印加を行ってもよい。
2液ウレタンクリヤ塗料は、ポリオール樹脂及び硬化剤としてのイソシアネートを含有する。例えば、水酸基含有アクリル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含有する。水酸基含有アクリル樹脂の例としては、水酸基含有重合性不飽和モノマー、或いは他の重合性不飽和モノマーが挙げられ、水酸基含有重合性不飽和モノマーの例としては、多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物、該多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物にε−カプロラクトンを開環重合した化合物等が挙げられ、その他の重合性不飽和モノマーとしては、アクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー、アミノアルキルアクリレート、アミノアルキルメタアクリレート、アクリルアミド、メタアクリルアミド又はその誘導体、第4級アンモニウム塩基含有モノマー、多ビニル化合物、紫外線吸収性もしくは紫外線安定性重合性不飽和モノマーなどが挙げられる。
ポリイソシアネート化合物の例としては、脂肪族ジイソシアネート類、環状脂肪族ジイソシアネート類、芳香族ジイソシアネート類、有機ポリイソシアネートそれ自体、有機ポリイソシアネート同士の環化重合体、イソシアネート・ビウレット体等が挙げられる。
有機溶剤の例としては、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、芳香族石油系溶剤等が挙げられる。
クリヤ塗料には、必要に応じて、顔料類、非水分散樹脂、ポリマー微粒子、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、塗面調整剤、酸化防止剤、流動性調整剤、ワックス等を適宜含有することができる。
上記ベース塗膜3及びクリヤ塗膜の同時焼付け硬化に関し、その焼付け温度は例えば60℃〜140℃、焼付け時間は例えば10分〜40分とすればよい。
<実施例及び比較例>
−ベース塗料用アクリル樹脂の調製−
キシロール85部及びn−ブタノール15部を混合した有機溶剤中で、スチレン30部、n−ブチルメタクリレート40部、2−エチルヘキシルアクリレート10部、2−ヒドロキシエチルアクリレート18部及びアクリル酸2部のモノマーを反応させて、質量平均分子量が28000、樹脂固形分は50質量%である水酸基含有アクリル樹脂溶液(水酸基1.55mol/kg樹脂)を調製した。
−ベース塗料の調製−
上記水酸基含有アクリル樹脂溶液に、表1に示す塗料Aの配合にて、ユーバン20SE(三井東圧化学社製ブチル化メラミン系硬化剤:固形分60質量%)及びアルミペースト(顔料)を加えて攪拌し、さらにスワゾール1000(コスモ石油社製石油系芳香族溶剤)を加えて、No.4フォードカップで15秒/20℃の粘度になるように希釈調整して塗料Aを得た。
上記水酸基含有アクリル樹脂溶液に、表1に示す塗料Bの配合にて、鎖延長剤としてのアミノプロパンジオール、常温硬化型イソシアネート系硬化剤としてのデュラネートTPA100(旭化成社製イソシアヌレート構造含有ポリイソシアネート硬化剤;ヘキサメチレンジイソシアネートプレポリマー,固形分60質量%)、硬化触媒としてのDBTDL(ジブチル錫ジラウレート)及びアルミペーストを加えて攪拌し、さらにスワゾール1000を加えて、No.4フォードカップで15秒/20℃の粘度になるように希釈調整した塗料Bを得た。塗料Bとしては、DBTDL添加量が異なる4種類を調整した。表1はDBTDLを除いた組成を示している。
Figure 0005672712
塗料Bの場合、塗料Aとは違って、アミノプロパンジオールとデュラネートTPA100とが常温で反応して硬化が進むことにより、ベース塗膜の弾性率が比較的速やかに高くなる。そのとき、DBTDLが硬化触媒として当該反応を促進する。このDBTDLの添加量により、室温での所定時間放置後のベース塗膜の弾性率が異なることになる。
−試験片の作製−
ダル鋼板にカチオン電着塗料PN−1020(日本ペイント社製)を乾燥膜厚20μmとなるように塗装し、その電着塗膜を160℃で30分間焼付けて硬化させた。次いで表1に示すベース塗料A,Bから選択したいずれかのベース塗料をエアスプレーによって上記電着塗膜上に、乾燥膜厚が20μmとなるように2ステージで(各ステージでの乾燥膜厚が10μmとなるように)塗装してベース塗膜を形成した。5分間の室温放置後、KINO#6800(関西ペイント社製2液ウレタンクリヤ塗料)を乾燥膜厚が30μmとなるようにエアスプレー塗装してクリヤ塗膜を形成した(ウェットオンウェット)。10分間の室温放置後、ベース塗膜及びクリヤ塗膜を140℃で30分間焼付けて硬化させた。以上により、表2に示す実施例1〜3及び比較例1,2の試験片を得た。実施例1〜3及び比較例2は、塗料BにおけるDBTDL添加量が相違し、その添加量の大小関係は、実施例3>実施例2>実施例1>比較例2である。
Figure 0005672712
−塗膜評価方法−
実施例1〜3及び比較例1,2各々のベース塗膜・クリヤ塗膜焼付け硬化後の塗膜仕上がり性を調べた。すなわち、BYK社製のWaveScan DOIを用い、試験片を垂直にして塗装したときの塗膜表面のうねりの程度を構造スペクトルWa(0.1〜0.3mm)及びWd(3.0〜10.0mm)で測定した。その結果を表2に示す。測定値Waは塗膜の艶感を表している。Wdは塗膜の平滑性を表している。測定値Wa,Wdは共に数値が小さいほど仕上がり性が良好であるということができる。
また別に、実施例1〜3及び比較例1,2各々のベース塗料塗装から5分間の室温放置時点でのベース塗膜の弾性率を振り子型粘弾性測定装置(FDOM)で測定した。
−積層塗膜評価−
表2によれば、実施例1〜3はいずれもWa値及びWd値が比較例1,2よりも小さく、仕上がり性が良好であることがわかる。図2は実施例の説明図であり、ベース塗膜3はクリヤ塗料塗布時の弾性率が高く硬いため、クリヤ塗膜4の溶剤によるアクリル樹脂の溶解があまり進まない。そのため、クリヤ塗膜4のイソシアネート11のベース塗膜3側への移行が抑制され、ベース塗膜3全体が一様に硬化していき、仕上がり性が良好になっているものと認められる。
これに対して、比較例1はクリヤ塗料塗布時のベース塗膜の弾性率が100Paであり、比較例2はその弾性率が800Paである。このように、ベース塗膜は、弾性率が低く軟らかいため、ベース塗膜のアクリル樹脂がクリヤ塗膜の溶剤によって溶解し、図3に示すように、クリヤ塗膜4からイソシアネート11がベース塗膜3に比較的多量に移行する。その結果、加熱焼付け時にベース塗膜3の硬化タイミングにバラツキを生じ、つまり、ベース塗膜3の表面側が先に硬化していき、仕上がり性が悪化していると認められる。
表2によれば、クリヤ塗料塗布時のベース塗膜の弾性率が1000Pa以上であれば、良好な塗膜仕上がり性が得られることがわかる。
なお、上記試験片の作製において、ベース塗装は2ステージで行なったが、1ステージで行なうことができる。
1 被塗物
2 電着塗膜
3 ベース塗膜
4 クリヤ塗膜
11 クリヤ塗膜のイソシアネート

Claims (4)

  1. 電着塗膜が形成された被塗物の該電着塗膜の上に、ポリオール樹脂及び該ポリオール樹脂の水酸基と反応する硬化剤を含有する溶剤型ベース塗料を塗布し、その上にポリオール樹脂及びイソシアネートを含有する2液ウレタンクリヤ塗料をウェットオンウェットで塗布することによりベース塗膜及びクリヤ塗膜を形成し、該ベース塗膜及びクリヤ塗膜を同時に焼付け硬化させる複層塗膜形成方法において、
    上記2液ウレタンクリヤ塗料塗布時の上記ベース塗膜の弾性率を1000Pa以上とすることを特徴とする積層塗膜形成方法。
  2. 請求項1において、
    上記溶剤型ベース塗料は1ステージにて上記電着塗膜の上に塗布することを特徴とする積層塗膜形成方法。
  3. 請求項1又は請求項2において、
    上記ベース塗膜の硬化を常温で進めることによって上記2液ウレタンクリヤ塗料塗布時の上記ベース塗膜の弾性率を1000Pa以上とすることを特徴とする積層塗膜形成方法。
  4. 請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
    上記被塗物は自動車の車体であることを特徴とする積層塗膜形成方法。
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