以下に本発明の好適な実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
1.インクジェット記録装置
本発明に係るインクジェット記録装置用メンテナンス液(以下、単に「メンテナンス液」ともいう。)は、複数種のインクを使い分けて、前記複数種のインクを吐出するノズルが設けられたヘッドを備えたインクジェット記録装置に用いるメンテナンス液であって、前記複数種のインクは、いずれも、水と、水溶性有機溶媒と、樹脂成分と、を含み、前記メンテナンス液は、水と、水溶性有機溶媒と、を含み、前記メンテナンス液に含まれる水溶性有機溶媒の沸点は、前記複数種のインクにおいて、それぞれのインクに含まれる最も沸点の高い水溶性有機溶媒のうち、最も沸点の低い水溶性有機溶媒の沸点以下である。
以下、本実施形態に係るメンテナンス液を適用可能なインクジェット記録装置について詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係るメンテナンス液を適用可能なインクジェット記録装置(以下、単に「インクジェット記録装置」ともいう。)の一例を示す概略図である。図1の例では、インクジェット記録装置100は、フレーム10を有している。フレーム10には、プラテン24が配置されている。プラテン24上には、図示しない紙送り機構が設けられ、これにより印刷用紙P1が配送される構成となっている。
本実施形態に係るインクジェット記録装置は、キャリッジを有することができる。図1の例では、キャリッジ12は、ガイド部材22を介してプラテン24の長手方向(X軸方向)へ移動可能に支持され、キャリッジモーター20によりタイミングベルト18を介して往復運動される構成となっている。
キャリッジ12には、インクを収容したインクカートリッジ14が搭載されている。インクカートリッジ14は、独立した複数の容器からなることができる。また、本実施形態に係るインクジェット記録装置100は、複数種のインクを使い分けて使用するものである。複数種のインクは、記録媒体の種類に応じて使い分けることができ、記録媒体に適したインクを用いて記録媒体上に画像を印刷することができる。例えば、インク吸収性の記録媒体上に画像を印刷する場合には、ノズルの保湿性を高めるために、保湿性の高い比較的高沸点の水溶性有機溶媒を含有するインクを用いて記録を行う。また、インク非吸収性の記録媒体に記録を行う場合には、記録媒体上でのインクの乾燥性を高めるために、上記のインク吸収性の記録媒体への記録に用いるインクに含有する水溶性有機溶媒よりも低沸点の水溶性有機溶媒を含有するインクを用いて記録を行う。
なお、インクジェット記録装置100は、記録媒体選択受付手段と、記録媒体選択手段と、インク選択手段と、を有していてもよい。記録媒体選択受付手段は、ユーザーからの記録媒体選択操作を受け付ける。記録媒体選択手段は、記録媒体選択受付手段で受け付けたユーザーからの記録媒体選択操作に基づいて記録媒体を選択する。インク選択手段は、用紙選択手段によって選択された記録媒体に基づいて、インクを選択する。これにより、ユーザーの選択した記録媒体に適したインクが選択され、記録媒体上に画像を記録することができる。
記録媒体選択受付手段は、例えば、インクジェット記録装置100の本体に設けられた操作ボタン(図示省略)であってもよい。また、記録媒体選択受付手段は、例えば、インクジェット記録装置100に接続されるPC等に対して行うユーザーの記録媒体選択操作に基づく制御信号を受け付ける入力端子(図示省略)であってもよい。
なお、複数種のインクは、記録媒体に応じて切り替えて使用することに限らず、他の印刷条件や、印刷データに応じて切り替えて使用してもよい。例えば、記録媒体上に画像を記録した後に、ヒーターなどの乾燥手段で記録媒体を乾燥させる機構を備えたインクジェット記録装置の場合には、乾燥手段における乾燥条件(乾燥温度等)によって、インクを使い分けても良い。
あるいは、複数種のインクを同時に使用する場合には、印刷データに基づいてインクを使い分けてもよい。
また、キャリッジ12の下部には、図示しない吐出ヘッド(以下、単に「ヘッド」ともいう。)が搭載されている。ヘッドにはインクを吐出するノズル(図示省略)が備えられている。キャリッジ12は、プラテン24に沿って移動することで、印刷用紙P1上を往復するようにヘッドを搬送する。このとき、ヘッドに備えられたノズルからインクが吐出されて印刷処理が実行される。なお、ノズルは、複数種のインク毎に備えられることができ、ノズル毎に対応するインクを充填することができる。これにより、印刷条件や印刷データなどによって、複数種のインクを使い分けることができる。
図1の例では、フレーム10におけるヘッドからインクを吐出可能な領域(以下、「印刷領域」と呼ぶ。)PAの横は、インクが吐出されない非印刷領域となっており、この非印刷領域内にホームポジションH1が設けられている。キャリッジ12は、これら印刷領域PAとホームポジションH1との間を移動可能に構成されている。
本実施形態に係るインクジェット記録装置は、第1キャップ装置と、第1メンテナンス液供給装置と、を有することができる。図1の例では、第1キャップ装置40は、ホームポジションH1に配置されている。また、請求項における第1メンテナンス液供給装置は、図1の例では、ホームポジションH1に配置された第1メンテナンス液タンク60、チューブ62、および第1メンテナンス液昇降手段70から構成されている。
また、本実施形態に係るインクジェット記録装置は、第2キャップ装置と、吸引装置と、第3キャップ装置と、第2メンテナンス液供給装置と、を有することができる。図1の例では、第2キャップ装置300、吸引装置320、および第3キャップ装置200は、ホームポジションH1に配置されている。また、請求項における第2メンテナンス液供給装置は、図1の例では、ホームポジションH1に配置された第2メンテナンス液タンク400、チューブ402、および第2メンテナンス液昇降手段410から構成されている。
第1キャップ装置40は、電源オフの状態においてヘッドの吐出面(ノズルを備えた面)を覆うように配置されるが、これは以下の理由による。印刷処理やフラッシング処理(印刷処理とは別に、全てのノズルから所定量のインクを吐出して増粘インク等を除去する処理)や吸引回復処理(ノズル内の残留インクを吸引する処理)等の後において、ヘッドの吐出面やノズル内部にインク滴が付着したままとなる場合がある。この場合、吐出面等に付着したインクが乾燥するとノズル孔を塞いで吐出不良の原因となり得る。そこで、この吐出面等に付着したインクを乾燥させないようにするために、電源オフ時には、ヘッド(図示省略)がホームポジションに配置され、第1キャップ装置40でヘッド(図示省略)の吐出面を覆うようにしている。具体的には、第1キャップ装置40は、複数種のインク毎に設けられ各インクを吐出するノズルを一括して覆うことができる。
このように、本実施形態に係るインクジェット記録装置は、ヘッドの吐出面(ノズルを備える面)の保湿を容易に行うという観点から第1キャップ装置および第1メンテナンス液供給装置を備えていることが好ましい。なお、本実施形態に係るインクジェット記録装置は、ヘッドの吐出面(ノズルを備える面)の保湿を容易に行うという観点に基づくと、第2キャップ装置、第2メンテナンス液供給装置、および第3キャップ装置を備えていなくてもよい。
第1メンテナンス液タンク60の内部にはメンテナンス液が貯留されている。第1メンテナンス液タンク60は、第1キャップ装置40に対してヘッドの吐出面(ノズルを備える面)を保湿するためのメンテナンス液(後述)を供給する。なお、ヘッドの吐出面(ノズルを備える面)は、第1キャップ装置40によって覆われることで保湿されるが、第1キャップ装置40内にメンテナンス液(後述)等を供給すると、ヘッドの吐出面(ノズルを備える面)をより効果的に保湿できる。
一方、第2キャップ装置300は、フラッシング処理時や吸引回復処理時において、ヘッドの吐出面を覆うように配置され、ヘッドから排出されるインクを受けるものである。なお、インクジェット記録装置100は、フラッシング処理および吸引回復処理の少なくとも一方を備えていればよい。
吸引装置320は、吸引用チューブ310を介して第2キャップ装置300と接続されており、ヘッドに設けられたノズル内のインクを吸引して取り除く吸引回復処理を行ったり、第2キャップ装置300に排出されたインクを取り除くための装置である。吸引装置320は、第2キャップ装置300内部を負圧として、ノズル内の残留インクを強制的に吐出させ排出させたり、第2キャップ装置300に排出されたインクを吸引することができる。
第3キャップ装置200は、第2キャップ装置300を保湿するためのものである。第2キャップ装置300を保湿するのは、以下の理由による。第2キャップ装置300を保湿しないと、吸引回復処理やフラッシング処理時において第2キャップ装置300に吐出されたインクが乾燥して増粘する場合がある。これにより、第2キャップ300に配置されたインクを吸着する部材(スポンジ等)や吸引用チューブ310の目詰まりが発生して、インクの吸着力や吸引力の低下を招く場合がある。特に、後述するプラスチックフィルムへの印刷のために乾燥性を向上させたインクを用いると、インクジェット記録装置が稼働している数時間という短期間で、第2キャップ装置300内の残留インクが大気に開放されることによって乾燥固化する場合がある。そのため、第2キャップ装置300を保湿することが好ましい。
このように、本実施形態に係るインクジェット記録装置は、第1キャップ装置および第1メンテナンス液供給装置に加えて、ノズル内のインクの増粘を防止するという観点から第2キャップ装置を備えており、かつ、第2キャップ装置を保湿するという観点から第2メンテナンス液供給装置および第3キャップ装置を備えていることがより好ましい。
第2メンテナンス液タンク400の内部にはメンテナンス液が貯留されている。第2メンテナンス液タンク400は、第3キャップ装置200に対して第2キャップ装置300を保湿するためのメンテナンス液(後述)を供給する。第2メンテナンス液タンク400に用いるメンテナンス液(後述)は、第1メンテナンス液タンク60に用いるメンテナンス液(後述)と同様のものを用いることができる。
図2は、電源オフ状態でのホームポジションH1付近の構成を示す断面図である。プリンタ100の電源オフの状態において、キャリッジ12は、ホームポジションH1に配置される。なお、電源オンの状態においても、印刷処理やフラッシング処理を実行していない状態(待機状態)においては、キャリッジ12と第1キャップ装置40とは、図2に示す配置となっている。
図2の例では、第1メンテナンス液タンク60と第1キャップ装置40とは、チューブ62によって接続されている。チューブ62の一端は第1メンテナンス液タンク60の内部に接続されており、チューブ62内部には、第1メンテナンス液タンク60内の貯留液W1が入り込んでいる。ここで、第1メンテナンス液タンク60内の貯留液W1の水頭はフレーム底面10gから高さh1の位置となっている。第1メンテナンス液タンク60の下には、第1メンテナンス液タンク昇降手段70が配置されている。第1メンテナンス液タンク昇降手段70は、第1メンテナンス液タンク60内の貯留液W1が第1キャップ装置40に供給されて減っても、貯留液W1の水頭がほぼ高さh1を維持するように第1メンテナンス液タンク60の位置を調整する。このような第1メンテナンス液タンク昇降手段70としては、例えば、バネで構成することができる。この場合、貯留液W1が減るにしたがって第1メンテナンス液タンク60全体の重量が減るので、第1メンテナンス液タンク60全体が上昇して水頭の位置が高さh1を維持することができる。
図2の例では、第1キャップ装置40は、キャップホルダ42と、キャップホルダ42上に配置されZ軸方向に突出したキャップ部44と、キャップ部44で囲まれた空間の底部に配置されたシート状の吸収材46と、を備えている。第1キャップ装置40は、2つの支持部材48a,48bによって下方から支えられている。これら2つの支持部材48a,48bは、フレーム10(図1)に設けられたスライド用孔550を介して移動機構500に接続されており、移動機構500は、2つの支持部材48a,48bを上下左右にスライドさせることにより、第1キャップ装置40を上下左右に移動させることができる。なお、移動機構500は、スライド用孔550の奥(フレーム10の外部)に配置されている。
例えば、印刷終了後にキャリッジ12が印刷領域PAからホームポジションH1に戻ってきて待機状態に移行する際に、支持部材48a,48bを上昇させることにより、第1キャップ装置40を上昇させる。そうすると、キャリッジ12の底面S1にキャップ部44が当接し、底面S1とキャップ部44と吸収材46とで囲まれた略密閉された空間AR1が形成される。このとき、吸収材46にはメンテナンス液が保持されており、かかるメンテナンス液が蒸発して空間AR1を加湿する。したがって、ヘッド16の吐出面S2やノズル(図示省略)内に残留するインクの乾燥を防ぎ、残留インクの増粘を抑えることができる。
ここで、電源オフ状態(待機状態)では、吸収材46の上面S3の高さh0は、メンテナンス液タンク60内の貯留液W1の水頭の高さh1よりも高い。したがって、この状態においては、第1メンテナンス液タンク60から第1キャップ装置40に貯留液W1が液体として供給されることはない。但し、チューブ62内に入り込んだ貯留液W1は蒸発して、ごくわずかなメンテナンス液が吸収材46に供給される。
キャップ部44は、例えば、合成ゴムで構成することができる。チューブ62の一端は、キャップ部44を貫通して吸収材46に達している。吸収材46としては、例えば、ウレタンやPVA(ポリビニルアルコール)スポンジや不織布など水を保持可能な任意の部材を用いることができる。なお、第1キャップ装置40は、シート状の吸収材46を備えていなくてもよく、メンテナンス液を直接第1キャップ装置40内部に供給してもよい。
また、第1キャップ装置40は、第1キャップ装置40内部に供給されたメンテナンス液(後述)を加熱する加熱装置を有していてもよい。これにより、メンテナンス液をより効果的に蒸発させることができ、空間AR1を効率よく加湿することができる。加熱装置を設置する位置としては、第1キャップ装置40に供給されるメンテナンス液を十分加熱できるのであれば特に限定されるものではない。加熱装置としては、公知の加熱機構を有するものを用いることができ、例えば、電熱ヒーター等を用いることができる。この場合、第1キャップ装置40を構成する部材の少なくとも一部は、耐熱性及び熱伝導性の点から、アルミニウムまたはアルミニウム合金であることが好ましい。
また、第1キャップ装置40は、第1キャップ装置40内部に供給されたメンテナンス液(後述)の液量を検出する為に、光学センサーを有していてもよい。これにより、第1キャップ装置40におけるメンテナンス液の液量を的確にコントロールすることができる。光学センサーを設置する位置としては、第1キャップ装置40におけるメンテナンス液の液量を検出できるのであれば特に限定されるものではない。さらに、メンテナンス液に添加する着色剤の吸収波長と、光学センサーを形成する発光素子や受光素子の組み合わせを適宜選択することにより、単にメンテナンス液の液量だけではなく、メンテナンス液の水成分が蒸発して着色剤が濃縮されることによるメンテナンス液の劣化や、メンテナンス液以外の液体の添加(例えば水だけ)等を受光素子の受光強度から特定することもできる。光学センサーとしては、公知の光学センサーを用いることができ、例えば、反射型フォトセンサーや、回帰反射型フォトセンサー、又は分離型フォトセンサー等を用いることができる。
図2の例では、第3キャップ装置200は、第1キャップ装置40とほぼ同じ構成を有している。すなわち、第3キャップ装置200は、キャップホルダ202と、キャップ部204と、吸収材206とを備えている。吸収材206の中央部には、支持部材305が配置されており、支持部材305の上部には第2キャップ装置300が配置されている。なお、第3キャップ装置200は、シート状の吸収材206を備えていなくてもよく、メンテナンス液を直接第3キャップ装置200内部に供給してもよい。
第2キャップ装置300の構成は、メンテナンス液タンクと接続されていない点と吸引装置320に接続されている点とにおいて第1キャップ装置40と異なり、他の構成は同様である。
図2の例では、第3キャップ装置200は、第1キャップ装置と同様に、2つの支持部材208a,208bによって下方から支えられている。これら2つの支持部材208a,208bは、スライド用孔550を介して移動機構500に接続されている。移動機構500は、2つの支持部材208a,208bを上下にスライドさせることにより、第3キャップ装置200を上下に移動させることができる。
第2メンテナンス液タンク400内には、保湿液としてのメンテナンス液が貯留液W3として溜められている。そして、第1メンテナンス液タンク60と同様に、第2メンテナンス液タンク400は、チューブ402を介して第3キャップ装置200(吸収材206)に接続され、また、第2メンテナンス液タンク400の下には、第2メンテナンス液タンク昇降手段410が配置されている。第2メンテナンス液タンク昇降手段410は、第1メンテナンス液タンク昇降手段70と同様に、第2メンテナンス液タンク400内の貯留水W3の水頭がほぼ高さh11を維持するように第2メンテナンス液タンク400の位置を調整することができる。
電源オフ状態及び待機状態において、第3キャップ装置200は、キャップ部204によって第1キャップ装置40の底面(キャップホルダ42の底面)に当接している。したがって、キャップホルダ42の底面とキャップ部204と吸収材206とで囲まれた略密閉された空間AR3が形成されている。そして、吸収材206に吸収されていた水分が蒸発することで空間AR3は加湿され、第2キャップ装置300内に吐出されたインクの乾燥を抑制することができる。なお、電源オフ状態(待機状態)において、吸収材206の上面S4の高さh10は、第2メンテナンス液タンク400内の貯留水W3の水頭の高さh11よりも高いので、第2メンテナンス液タンク400から吸収材206に貯留水W3は供給されない。
また、第3キャップ装置200は、第3キャップ装置200内部に供給されたメンテナンス液(後述)を加熱する加熱装置を有していてもよい。これにより、メンテナンス液をより効果的に蒸発させることができ、空間AR3を効率よく加湿することができる。加熱装置を設置する位置としては、第3キャップ装置200に供給されるメンテナンス液を十分加熱できるのであれば特に限定されるものではない。なお、第3キャップ装置200に用いる加熱装置としては、第1キャップ装置40と同様のものを用いることができる。この場合、第3キャップ装置200を構成する部材の少なくとも一部は、耐熱性及び熱伝導性の点から、アルミニウムまたはアルミニウム合金であることが好ましい。
また、第3キャップ装置200は、第3キャップ装置200内部に供給されたメンテナンス液(後述)の液量を検出する為に、光学センサーを有していてもよい。これにより、第3キャップ装置200におけるメンテナンス液の液量を的確にコントロールすることができる。光学センサーを設置する位置としては、第3キャップ装置200におけるメンテナンス液の液量を検出できるのであれば特に限定されるものではない。さらに、メンテナンス液に添加する着色剤の吸収波長と、光学センサーを形成する発光素子や受光素子の組み合わせを適宜選択することにより、単にメンテナンス液の液量だけではなく、メンテナンス液の水成分が蒸発して着色剤が濃縮されることによるメンテナンス液の劣化や、メンテナンス液以外の液体の添加(例えば水だけ)等を受光素子の受光強度から特定することもできる。光学センサーとしては、公知の光学センサーを用いることができ、例えば、反射型フォトセンサーや、回帰反射型フォトセンサー、又は分離型フォトセンサー等を用いることができる。
図3は、印刷処理実行中のホームポジションH1付近の詳細構成を示す説明図である。印刷処理の開始時において、移動機構500は、第1キャップ装置40と第3キャップ装置200とを同じ速度で同時に下降させる。その結果、空間AR3は開放せず空間AR3内の湿度は保たれる。このとき、移動機構500は、第1キャップ装置40の吸収材46の上面S3の高さh2が、第1メンテナンス液タンク60内の貯留液W1の水頭の高さh1よりも低くなるように、第1キャップ装置40(及び第3キャップ装置200)を下降させる。それゆえ、吸収材46と第1メンテナンス液タンク60内の貯留液W1の水頭との間に水頭差d1(h1−h2)が生じ、第1メンテナンス液タンク60から第1キャップ装置40に貯留液W1が供給されることとなる。
なお、このとき、第3キャップ装置200では、吸収材206の上面S4の位置は、第2メンテナンス液タンク400内の貯留液W3の水頭の高さh11よりも高い高さh12となっている。したがって、第2メンテナンス液タンク400から第3キャップ装置200には貯留液W3は供給されない。
図4は、吸引回復処理実行中のホームポジションH1付近の詳細構成を示す説明図である。待機状態(図2)から吸引回復処理に移行する際に、移動機構500は、まず、第1キャップ装置40と第3キャップ装置200とを若干下降させる。その後、移動機構500は、第1キャップ装置40をホームポジションH1から左に移動させ、また、第3キャップ装置200をホームポジションH1においてさらに下降させる。このとき、移動機構500は、吸収材206の上面S4の高さh13が第2メンテナンス液タンク400内の貯留液W3の水頭の高さh11よりも低くなるように第3キャップ装置200を下降させる。そうすると、吸収材206と第2メンテナンス液タンク400内の貯留液W3との間に水頭差d2(h11−h13)が生じ、第2メンテナンス液タンク400から第3キャップ装置200(吸収材206)に貯留液W3が供給される。
図5は、吸引回復処理実行中のホームポジションH1付近の詳細構成を示す説明図である。なお、図5では、図4に示す状態に比べて時間的に後となる状態を示している。移動機構500は、第3キャップ装置200を図4に示す位置まで下降させて吸収材206に貯留液W3を供給した後、今度は、第3キャップ装置200を上昇させる。そして、移動機構500は、第3キャップ装置200のキャップ部204がキャリッジ12の底面S1に当接すると、第3キャップ装置200の上昇を停止させる。このとき、キャリッジ12の底面S1とキャップ部204と吸収材206とで囲まれた略密閉された空間AR4が形成されている。そして、吸引装置320は、第2キャップ装置300内部を負圧として、ヘッド16のノズル(図示省略)から残留インクを吸引する。このとき、吸収材206の上面S4の高さh14は、第2メンテナンス液タンク400内の貯留液W3の水頭の高さh11よりも高くなるように構成されており、吸収材206に貯留液W3は供給されない。
以上説明したように、第1メンテナンス液タンク60内の貯留液W1と吸収材46との間の水頭差d1を利用して、貯留液W1を第1キャップ装置40に供給することができる。したがって、インクジェット記録装置100では、印刷処理のためキャリッジ12が移動するのに先立ち第1キャップ装置40が下降する際に、吸収材46の上面S3が第1メンテナンス液タンク60内の貯留液W1の水頭よりも低い位置となるように構成されている。それゆえ、吸収材46と貯留液W1との間に水頭差が生じ、この水頭差を利用して貯留液W1を吸収材46に供給することができる。これにより、第1キャップ装置40に多量のメンテナンス液を供給することができ、第1キャップ装置40内部の空間AR1を十分に加湿することが可能となる。
また、第2キャップ装置300は、電源オフ状態(待機状態)の他、印刷処理実行中においても第3キャップ装置200によって覆われて保湿されている。したがって、吸引回復処理において第2キャップ装置300内に吐出されたインクの乾燥を抑制し、第2キャップ装置300におけるインクの吸着能力の低下や、ノズルの吸引力の低下を抑制することができる。また、第3キャップ装置200には、第2メンテナンス液タンク400内の貯留液W3と吸収材206との間の水頭差d2を利用して貯留液W3を供給することができるので、第3キャップ装置200内部の空間AR3,AR4を十分に加湿することが可能となる。
2.インク
本実施形態に係るメンテナンス液を適用可能なインクジェット記録装置は、インクとして、水と、水溶性有機溶媒と、樹脂成分と、を有するものを使用する。本実施形態に係るメンテナンス液を適用可能なインクジェット記録装置に用いるインクは、記録媒体の種類に応じて、適した配合になるように調製することができる。
用いる記録媒体に適した配合になるように調製されたインクは、図1に示すインクジェット記録装置100を用いる場合において、インクカートリッジ14に収容され、ヘッド16に設けられたノズルから印刷用紙P1(記録媒体)上に吐出される。また、印刷用紙P1を異なる素材のものに変更して印刷を開始する場合には、変更した印刷用紙に適したインクをノズルから吐出させる。
ヘッドに設けられたノズルから記録媒体上にインクが吐出されると、ヘッドの吐出面(ノズルが備えられた面)においてインクが残留する場合がある。そのため、印刷処理を行っていない状態においてヘッドの吐出面を適度に保湿しなければ、ヘッドの吐出面において残留インクが増粘してノズルが目詰まりして、インクの吐出を良好に行えなくなることがある。
そのため、本実施形態に係るメンテナンス液を適用可能なインクジェット記録装置100を用いることによって、上記のインクに起因する不具合を解消することができる。また、上記のインクジェット記録装置100を用いるとインクに起因した不具合を低減できるので、インクに用いる材料を選択する自由度が高まり、記録媒体に応じてインクを使い分けることが容易になる。
以下、本実施形態に係るメンテナンス液を適用可能なインクジェット記録装置に用いるインクに含まれる成分について説明する。
(1)着色剤
本実施形態に係るメンテナンス液を適用可能なインクジェット記録装置100に用いるインクは、着色剤を含有してもよい。着色剤としては、染料や顔料等を挙げることができ、光やガス等に対して退色しにくい性質を有していることから顔料を用いることが好ましい。そのため、顔料を用いてインク非吸収性の記録媒体上に形成された画像は、耐水性、耐ガス性、耐光性等に優れ、保存性が良好となる。
本実施形態において使用可能な顔料としては、特に制限されないが、無機顔料や有機顔料が挙げられる。無機顔料としては、酸化チタンおよび酸化鉄に加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。一方、有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キノフラロン顔料等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等を使用することができる。
本実施形態で使用可能な顔料の具体例のうち、カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、もしくはチャンネルブラック等(C.I.ピグメントブラック7)、また市販品としてNo.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA77、MA100、No.2200B等(以上全て商品名、三菱化学株式会社製)、カラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250等(以上全て商品名、デグサ社製)、コンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700等(以上全て商品名、コロンビアカーボン社製)、リガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12等(以上全て商品名、キャボット社製)が挙げられる。
また、本実施形態に係るインクをイエローインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、180、185、213等が挙げられる。
また、本実施形態に係るインクをマゼンタインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、209、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
また、本実施形態に係るインクをシアンインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、16、22、60等が挙げられる。
また、本実施の形態に係るインクをグリーンインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン7、8、36等が挙げられる。
また、本実施の形態に係るインクをオレンジインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ43、51、66等が挙げられる。
インクに含まれる着色剤の含有量は、インクの全質量に対して、1.5質量%以上10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上7質量%以下であることがより好ましい。
上記の顔料をインクに適用するためには、顔料が水中で安定的に分散保持できるようにする必要がある。その方法としては、水溶性樹脂および/または水分散性樹脂等の樹脂分散剤にて分散させる方法(以下、この方法により分散された顔料を「樹脂分散顔料」という。)、水溶性界面活性剤および/または水分散性界面活性剤の界面活性剤にて分散させる方法(以下、この方法により分散された顔料を「界面活性剤分散顔料」という。)、顔料粒子表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入し、上記の樹脂あるいは界面活性剤等の分散剤なしで水中に分散および/または溶解可能とする方法(以下、この方法により分散された顔料を「表面処理顔料」という。)等が挙げられる。本実施形態に係るメンテナンス液に適用可能なインクジェット記録装置に用いられるインクは、上記の樹脂分散顔料、界面活性剤分散顔料、表面処理顔料のいずれも用いることができ、必要に応じて複数種混合した形で用いることもできる。
樹脂分散顔料に用いられる樹脂分散剤としては、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α―メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α―メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体等およびこれらの塩が挙げられる。これらの中で、特に疎水性官能基を有するモノマーと親水性官能基を有するモノマーとの共重合体、疎水性官能基と親水性官能基とを併せ持つモノマーからなる重合体が好ましい。共重合体の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でも用いることができる。
上記の塩としては、アンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリ−iso−プロパノールアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリン等の塩基性化合物との塩が挙げられる。これら塩基性化合物の添加量は、上記樹脂分散剤の中和当量以上であれば特に制限はない。
上記樹脂分散剤の分子量は、重量平均分子量として1,000〜100,000の範囲であることが好ましく、3,000〜10,000の範囲であることがより好ましい。分子量が上記範囲であることにより、着色剤の水中での安定的な分散が得られ、またインクに適用した際の粘度制御等がしやすい。
以上述べた樹脂分散剤としては市販品を用いることもできる。詳しくは、ジョンクリル67(重量平均分子量:12,500、酸価:213)、ジョンクリル678(重量平均分子量:8,500、酸価:215)、ジョンクリル586(重量平均分子量:4,600、酸価:108)、ジョンクリル611(重量平均分子量:8,100、酸価:53)、ジョンクリル680(重量平均分子量:4,900、酸価:215)、ジョンクリル682(重量平均分子量:1,700、酸価:238)、ジョンクリル683(重量平均分子量:8,000、酸価:160)、ジョンクリル690(重量平均分子量:16,500、酸価:240)(以上商品名、BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
また、界面活性剤分散顔料に用いられる界面活性剤としては、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アシルメチルタウリン酸塩、ジアルキルスルホ琥珀酸塩、アルキル硫酸エステル塩、硫酸化オレフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、モノグリセライトリン酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤、アルキルピリジウム塩、アルキルアミノ酸塩、アルキルジメチルベタイン等の両性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミド、グリセリンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。
上記樹脂分散剤または上記界面活性剤の顔料に対する添加量は、顔料100質量部に対して好ましくは1質量部〜100質量部であり、より好ましくは5質量部〜50質量部である。この範囲であることにより、顔料の水中への分散安定性が確保できる。
また、表面処理顔料としては、親水性官能基として、−OM、−COOM、−CO−、−SO3M、−SO2NH2、−RSO2M、−PO3HM、−PO3M2、−SO2NHCOR、−NH3、−NR3(但し、式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表し、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいナフチル基を示す。)等が挙げられる。これらの官能基は、顔料粒子表面に直接および/または他の基を介してグラフトされることによって、物理的および/または化学的に導入される。多価の基としては、炭素数が1〜12のアルキレン基、置換基を有していてもよいフェニレン基又は置換基を有していてもよいナフチレン基等を挙げることができる。
また、前記の表面処理顔料としては、硫黄を含む処理剤によりその顔料粒子表面に−SO3Mおよび/または−RSO2M(Mは対イオンであって、水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、又は有機アンモニウムイオンを示す。)が化学結合するように表面処理されたもの、すなわち、前記顔料が、活性プロトンを持たず、スルホン酸との反応性を有せず、顔料が不溶ないしは難溶である溶剤中に、顔料を分散させ、次いでアミド硫酸、又は三酸化硫黄と第三アミンとの錯体によりその粒子表面に−SO3Mおよび/または−RSO2Mが化学結合するように表面処理され、水に分散および/または溶解が可能なものとされたものであることが好ましい。
前記官能基またはその塩を顔料粒子の表面に直接または多価の基を介してグラフトさせる表面処理手段としては、種々の公知の表面処理手段を適用することができる。例えば、市販の酸化カーボンブラックにオゾンや次亜塩素酸ソーダ溶液を作用し、カーボンブラックをさらに酸化処理してその表面をより親水化処理する手段(例えば、特開平7−258578号公報、特開平8−3498号公報、特開平10−120958号公報、特開平10−195331号公報、特開平10−237349号公報)、カーボンブラックを3−アミノ−N−アルキル置換ピリジウムブロマイドで処理する手段(例えば、特開平10−195360号公報、特開平10−330665号公報)、有機顔料が不溶又は難溶である溶剤中に有機顔料を分散させ、スルホン化剤により顔料粒子表面にスルホン基を導入する手段(例えば、特開平8−283596号公報、特開平10−110110号公報、特開平10−110111号公報)、三酸化硫黄と錯体を形成する塩基性溶剤中に有機顔料を分散させ、三酸化硫黄を添加することにより有機顔料の表面を処理し、スルホン基又はスルホンアミノ基を導入する手段(例えば、特開平10−110114号公報)等が挙げられるが、本発明で用いられる表面処理顔料のための作製手段はこれらの手段に限定されるものではない。
一つの顔料粒子にグラフトされる官能基は単一でも複数種であってもよい。グラフトされる官能基の種類及びその程度は、インク中での分散安定性、色濃度、及びヘッドにおける乾燥性等を考慮しながら適宜決定されてよい。
以上述べた樹脂分散顔料、界面活性剤分散顔料、表面処理顔料を水中に分散させる方法としては、樹脂分散顔料については顔料と水と樹脂分散剤、界面活性剤分散顔料については顔料と水と界面活性剤、表面処理顔料については表面処理顔料と水、また各々に必要に応じて水溶性有機溶剤・中和剤等を加えて、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、オングミル等の従来用いられている分散機にて行うことができる。この場合、顔料の粒径としては、平均粒径で20nm〜500nmの範囲になるまで、より好ましくは50nm〜200nmの範囲になるまで分散することが、顔料の水中での分散安定性を確保する点で好ましい。
(2)樹脂成分
本実施形態に係るメンテナンス液に適用可能なインクジェット記録装置に使用するインクは、水溶性および/または非水溶性の樹脂成分を含有する。該樹脂成分は、インクを固化させ、さらにインク固化物を記録媒体上に強固に定着させる作用を有する。樹脂成分は、インク中に溶解された状態またはインク中に分散された状態のいずれの状態であってもよい。溶解状態の樹脂成分としては、本実施形態に係るメンテナンス液に適用可能なインクジェット記録装置に使用するインクの着色剤として顔料を分散させる場合に使用する上記の樹脂分散剤を用いることができる。また、分散状態の樹脂としては、本実施形態に係るメンテナンス液に適用可能なインクジェット記録装置に使用するインクの液媒体に難溶あるいは不溶である樹脂成分を、微粒子状にして分散させて(すなわちエマルジョン状態、あるいはサスペンジョン状態にして)含ませることができる。
上記の樹脂成分としては、ポリアクリル酸エステルもしくはその共重合体、ポリメタクリル酸エステルもしくはその共重合体、ポリアクリロニトリルもしくはその共重合体、ポリシアノアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリスチレンもしくはそれらの共重合体、石油樹脂、クロマン・インデン樹脂、テルペン樹脂、ポリ酢酸ビニルもし
くはその共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルエーテル、ポリ塩化ビニルもしくはその共重合体、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、フッ素ゴム、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドンもしくはその共重合体、ポリビニルピリジン、ポリビニルイミダゾール、ポリブタジエンもしくはその共重合体、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、天然樹脂等が挙げられる。この中で、特に分子構造中に疎水性部分と親水性部分とを併せ持つものが好ましい。
上記の樹脂成分を微粒子状態で得るには、以下に示す方法で得られ、そのいずれの方法でもよく、必要に応じて複数の方法を組み合わせてもよい。その方法としては、所望の樹脂成分を構成する単量体中に重合触媒(重合開始剤)と分散剤とを混合して重合(すなわち乳化重合)する方法、親水性部分を持つ樹脂成分を水溶性有機溶剤に溶解させその溶液を水中に混合した後に水溶性有機溶剤を蒸留等で除去することで得る方法、樹脂成分を非水溶性有機溶剤に溶解させその溶液を分散剤と共に水溶液中に混合して得る方法等が挙げられる。上記の方法は、用いる樹脂成分の種類・特性に応じて適宜選択することができる。樹脂成分を分散する際に用いることのできる分散剤としては、特に制限はないが、アニオン性界面活性剤(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ラウリルリン酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートアンモニウム塩等)、ノニオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等)を挙げることができ、これらを単独あるいは二種以上を混合して用いることができる。
上記のような樹脂成分として、微粒子状態(エマルジョン形態、サスペンジョン形態)で用いる場合、公知の材料・方法で得られるものを用いることも可能である。例えば、特公昭62−1426号公報、特開平3−56573号公報、特開平3−79678号公報、特開平3−160068号公報、特開平4−18462号公報等に記載のものを用いてもよい。また、市販品を用いることもでき、例えば、マイクロジェルE−1002、マイクロジェルE−5002(以上商品名、日本ペイント株式会社製)、ボンコート4001、ボンコート5454(以上商品名、大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE1014(商品名、日本ゼオン株式会社製)、サイビノールSK−200(商品名、サイデン化学株式会社製)、ジョンクリル7100、ジョンクリル390、ジョンクリル711、ジョンクリル511、ジョンクリル7001、ジョンクリル632、ジョンクリル741、ジョンクリル450、ジョンクリル840、ジョンクリル74J、ジョンクリルHRC−1645J、ジョンクリル734、ジョンクリル852、ジョンクリル7600、ジョンクリル775、ジョンクリル537J、ジョンクリル1535、ジョンクリルPDX−7630A、ジョンクリル352J、ジョンクリル352D、ジョンクリルPDX−7145、ジョンクリル538J、ジョンクリル7640、ジョンクリル7641、ジョンクリル631、ジョンクリル790、ジョンクリル780、ジョンクリル7610(以上商品名、BASFジャパン株式会社製)等が挙げられる。
樹脂成分を微粒子状態で用いる場合、インクの保存安定性・吐出安定性を確保する点から、その平均粒径は5nm〜400nmの範囲が好ましく、より好ましくは50nm〜200nmの範囲である。
樹脂成分の含有量は、インク全量に対して、固形分換算で好ましくは0.1質量%以上15質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上10質量%以下である。この範囲内であることにより、記録媒体上においても、本実施形態に係るメンテナンス液に適用可能なインクジェット記録装置に使用するインクを固化・定着させることができる。
(3)水溶性有機溶媒
本実施形態に係るメンテナンス液に適用可能なインクジェット記録装置に使用するインクは、水溶性有機溶媒を含有する。インクには、複数種の水溶性有機溶媒が含有されていてもよい。なお、一般的に、インクに複数種の水溶性有機溶媒が含有されている場合には、複数種類の水溶性有機溶媒のうちで最も高沸点の有機溶媒の沸点によって、インクの保湿性や乾燥性が決まる場合が多い。
後述するインク吸収性の記録媒体を用いる場合において、インクに含まれる水溶性有機溶媒の少なくとも一種類以上は、沸点が250℃以上であることが好ましい。インク吸収性の記録媒体は、記録媒体内にインクを吸収するので、インク中の顔料濃度を高くしないと、記録媒体上に形成された画像の発色性が低下する場合がある。一方、インク中の顔料濃度を高くすると、顔料が乾燥固化しやすくなる。そのため、顔料が乾燥固化することを防止するために、少なくとも一種類以上の水溶性有機溶媒の沸点が250℃以上のものを用いることが好ましい。
また、後述するインク非吸収性の記録媒体を用いる場合において、インクに含まれる水溶性有機溶媒は、沸点が100℃以上250℃未満であることが好ましい。水溶性有機溶媒の沸点が100℃以上250℃未満であると、インク非吸収性の記録媒体上に吐出されたインクの乾燥性が良好であり、耐擦性に優れた画像を得ることができる。
インクに用いる水溶性有機溶媒としては、1,2−アルカンジオール類、多価アルコール類、ピロリドン誘導体等が挙げられる。
1,2−アルカンジオール類としては、例えば、1,2−プロパンジオール(沸点;188℃)、1,2−ブタンジオール(沸点;194℃)、1,2−ペンタンジオール(沸点;206℃)、1,2−ヘキサンジオール(沸点;223℃)、1,2−オクタンジオール(沸点;131℃)等が挙げられる。1,2−アルカンジオール類は、インク非吸収性の記録媒体に対するインクの濡れ性を高めて均一に濡らす作用に優れているため、記録媒体上に優れた画像を形成することができる。1,2−アルカンジオール類の含有量は、インクの全質量に対して、1質量%以上8質量%以下であることが好ましい。
多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール(沸点;197℃)、ジエチレングリコール(沸点;244℃)、プロピレングリコール(沸点;188℃)、ジプロピレングリコール(沸点;232℃)、1,3−プロパンジオール(沸点;210℃)、1,4−ブタンジオール(沸点;230℃)、1,6−ヘキサンジオール(沸点;208℃)、グリセリン(沸点;290℃)等が挙げられる。これらの中でも、蒸気圧が高く、画像の乾燥を阻害しない観点から、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールであることが好ましい。多価アルコール類は、ヘッドのノズル面でのインクの乾燥固化を抑制して目詰まりや吐出不良等を防止する作用を有するものであって、水分とともに蒸発飛散することが望ましい点から蒸気圧の高いものであることが好ましい。多価アルコール類の含有量は、インクの全質量に対して、2質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
ピロリドン誘導体として、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−ブチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。ピロリドン誘導体は、熱可塑性樹脂の良好な溶解剤として作用する。ピロリドン誘導体の含有量は、インクの全質量に対して、3質量%以上25質量%以下であることが好ましい。
(4)界面活性剤
本実施形態に係るメンテナンス液に適用可能なインクジェット記録装置に用いるインクは、界面活性剤を含有することができる。界面活性剤としては、シリコン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等が挙げられる。
シリコン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物等が好ましく用いられ、例えば、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。より詳しくは、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学株式会社製)等が挙げられる。シリコン系界面活性剤は、インク非吸収性の記録媒体上でインクの濃淡ムラや滲みを生じないように均一に広げる作用を有している点で好ましい。シリコン系界面活性剤の含有量は、インク全質量に対して、0.1質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤として、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG−50、104S、420、440、465、485、SE、SE−F、504、61、DF37、DF110D、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA(以上全て商品名、Air Products and Chemicals. Inc.社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD−001、PD−002W、PD−003、PD−004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF−103、AF−104、AK−02、SK−14、AE−3(以上全て商品名、日信化学工業株式会社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤は、他の界面活性剤と比較して、表面張力および界面張力を適正に保つ能力に優れており、かつ起泡性がほとんどないという特性を有する。これにより、アセチレングリコール系界面活性剤を含有するインクは、表面張力およびヘッドノズル面等のインクと接触するプリンター部材との界面張力を適正に保つことができるため、これをインクジェット記録装置に適用した場合、吐出安定性を高めることができる。また、アセチレングリコール系界面活性剤を含有するインクは、インク非吸収性の記録媒体に対して良好な濡れ性・浸透性を示すため、インクの濃淡ムラや滲みの少ない高精細な画像を得ることができる。アセチレン系界面活性剤の含有量は、インクの全質量に対して、0.1質量%以上1.0質量%以下であることが好ましい。
(5)水
本実施形態に係るメンテナンス液に適用可能なインクジェット記録装置に用いるインクは、水を含有する。水は、インクの主となる媒体であり、乾燥によって蒸発飛散する成分である。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものであることが好ましい。また、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、顔料分散液およびこれを用いたインクを長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を抑制できるので好適である。
(6)その他の含有成分
本実施形態に係るメンテナンス液に適用可能なインクジェット記録装置に用いるインクは、さらに、pH調整剤、ポリオレフィンワックス、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート化剤等を含有してもよい。これらの材料を添加すると、インクの有する特性をさらに向上させる点から好ましい。
pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
ポリオレフィンワックスとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィンまたはその誘導体から製造したワックスおよびそのコポリマー、具体的には、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、ポリブチレン系ワックス等が挙げられる。ポリオレフィンワックスとしては、市販されているものを利用することができ、具体的には、ノプコートPEM17(商品名、サンノプコ株式会社製)、ケミパールW4005(商品名、三井化学株式会社製)、AQUACER515、AQUACER593(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等を用いることができる。
ポリオレフィンワックスを添加すると、インク非吸収性の記録媒体上に形成された画像の物理的接触に対する滑り性を向上させることができ、画像の耐擦性を向上できる点から好ましい。ポリオレフィンワックスの含有量は、インクの全質量に対して、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以上1質量%以下である。ポリオレフィンワックスの含有量が、上記範囲にあると、上述の効果が十分に発揮される。
防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。市販品では、プロキセルXL2、プロキセルGXL(以上商品名、アビシア社製)や、デニサイドCSA、NS−500W(以上商品名、ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
キレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸およびそれらの塩類(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム塩等)等が挙げられる。
3.メンテナンス液
本実施形態に係るメンテナンス液は、水と、水溶性有機溶媒と、を含む。本実施形態に係るメンテナンス液は、上述したインクジェット記録装置100に適用する場合において、第1キャップ装置40および第3キャップ装置200に供給される。これにより、ヘッド16の吐出面S2が第1キャップ装置40によって覆われた際に、メンテナンス液が第1キャップ装置40内で蒸発することによって、ヘッド16の吐出面S2を保湿することができる。また、同様に、第2キャップ装置300が第3キャップ装置200に覆われた際に、メンテナンス液が第3キャップ装置200内で蒸発することによって、第2キャップ装置300を保湿することができる。
以下、本発明に係るインクジェット記録装置に用いるメンテナンス液について詳細に説明する。
(1)水溶性有機溶媒
本実施形態に係るメンテナンス液は、水溶性有機溶媒を含有する。本実施形態に係るメンテナンス液に含まれる水溶性有機溶媒の沸点は、上述した複数種のインクにおいて、それぞれのインクに含まれる最も沸点の高い水溶性有機溶媒のうち、最も沸点の低い水溶性有機溶媒の沸点以下である。
例えば、複数種のインクが、インク吸収性の記録媒体に用いる第1インクと、インク非吸収性の記録媒体に用いる第2インクと、からなる場合について説明する。上述したように、インク非吸収性の記録媒体に用いる第2インクに含まれる最も沸点の高い水溶性有機溶媒の沸点は、インク吸収性の記録媒体に用いる第1インクに含まれる最も沸点の高い水溶性有機溶媒の沸点よりも低くなる。
このような場合、ヘッドの吐出面(ノズルを備えた面)をキャップ装置で保湿している際に、インクに含まれる水溶性有機溶媒の沸点の違いから、第2インクの水分が第1インクの水溶性有機溶媒によって吸収される場合がある。また、キャップ装置に供給されるメンテナンス液に含まれる水溶性有機溶媒の沸点が、第2インクに含まれる最も沸点の高い水溶性有機溶媒の沸点を超えると、ヘッドの吐出面(ノズルを備えた面)をキャップ装置によって保湿しているのにもかかわらず、第2インクの水分がメンテナンス液の水溶性有機溶媒によって吸収される場合がある。
したがって、メンテナンス液に含まれる水溶性有機溶媒に、第2インクに含まれる最も沸点の高い水溶性有機溶媒の沸点以下のものを用いることにより、ヘッドの吐出面におけるインクの増粘を防止でき、ノズルの目詰まりや、キャップ装置の動作不良を低減することができる。
本実施形態に係るメンテナンス液に含まれる水溶性有機溶媒の沸点は、上述した複数種のインクにおいて、それぞれのインクに含まれる最も沸点の高い水溶性有機溶媒のうち、最も沸点の低い水溶性有機溶媒の沸点と同一であることが好ましい。これにより、メンテナンス液に含まれる水溶性有機溶媒がインクに混入しても、インクの機能を損なうことを低減することができる。また、ノズルの目詰まりや、キャップ装置の動作不良を低減しつつ、できる限り沸点の高い水溶性有機溶媒をメンテナンス液に添加することができるので、メンテナンス液の蒸発を抑えることができる。したがって、例えば水のみを使用したメンテナンス液と比較して、メンテナンス液を補充する頻度を減らすことができる。
また、メンテナンス液に含まれる水溶性有機溶媒は、上述したインクにおける水溶性有機溶媒において例示した材料と同一のものを用いることができるが、メンテンス液の防腐性を高めるという観点から、アルカンジオールおよびアルキレングリコールモノエーテル誘導体から選択される少なくとも1種であることが好ましい。このように、アルカンジオールや、アルキレングリコールモノエーテル誘導体を用いると、メンテナンス液が防腐力に優れたものになる。そのため、キャップ装置内のクリーニング等の保守作業の回数を減らすことができる。
また、水溶性有機溶媒を含有するメンテナンス液は、水のみからなるメンテナンス液と比較して表面張力が低いので、キャップ装置にメンテナンス液を供給するためのチューブへの濡れ性が高くなる。これにより、メンテナンス液の供給性を向上させることができる。
アルカンジオールとしては、例えば、1,2−プロパンジオール(沸点;188℃)、1,2−ペンタンジオール(沸点;206℃)、1,2−ヘキサンジオール(沸点;223℃)、1,6−ヘキサンジオール(沸点;250℃)、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジオール(ネオペンチルグリコール)(沸点;210℃)等が挙げられる。
アルキレングリコールモノエーテル誘導体として、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点;125℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点;193℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点;171℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点;230℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点;121℃)等が挙げられる。
これらの中でも、水への溶解性および防腐性に優れているという観点から、1,2−ヘキサンジオールを用いることがより好ましい。
メンテナンス液の全質量に対する上記水溶性有機溶媒の含有量は、好ましくは0.05質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上5質量%以下であり、特に好ましくは1質量%以上5質量%以下である。上記水溶性有機溶媒の含有量が0.05質量%未満の場合、メンテナンス液の保湿力が得られないことがある。一方、上記水溶性有機溶媒の含有量が5質量%を超えると、保湿のための水分が蒸発した後に残留した上記水溶性有機溶媒が徐々に蓄積されていき、濃縮された水溶性有機溶媒によってヘッドおよびヘッド周辺を構成する部材を腐食させるおそれがある。
また、本実施形態に係るメンテナンス液に含まれる水溶性有機溶媒は、上述した複数種のインクにおいて、それぞれのインクに含まれる最も沸点の高い水溶性有機溶媒のうち、最も沸点の低い水溶性有機溶媒の沸点以下であって、かつ、沸点が250℃未満であることが好ましい。沸点が250℃以上の水溶性有機溶媒は、インクの水分を吸収しやすく、ヘッドの吐出面付近のインクを増粘させる作用が高いためである。
なお、本実施形態に係るメンテナンス液は、複数種の水溶性有機溶媒を含有していてもよい。この場合において、メンテナンス液の保湿力は、複数種の水溶性有機溶媒のうち最も高沸点の水溶性有機溶媒の沸点によって決定される。
沸点が250℃以上の水溶性有機溶媒としては、例えばグリセリンを挙げることができる。グリセリンのような吸湿性の高い高沸点有機溶媒を添加したメンテナンス液を含むキャップ装置を長期間放置すると、キャップ装置内のメンテナンス液から水分が蒸発することにより、キャップ装置内のグリセリンが濃縮される。このような濃縮されたグリセリンがキャップ内に存在すると、ヘッドの吐出面やキャップ装置に付着したインクから水分を吸収して、ノズルの目詰まりや、キャップ装置の動作不良の原因となる。また、グリセリンは、防腐性が乏しくカビや菌類を繁殖させやすいので、メンテナンス液に含有しないことが好ましい。
(2)水
本実施形態に係るメンテナンス液は、水を含有する。水は、メンテナンス液の保湿力を発揮するための主成分である。メンテナンス液の全質量に対する水の含有量は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上である。
(3)pH調整剤
本実施形態に係るメンテナンス液は、pH調整剤を含有してもよい。詳細は後述するが、キャップ装置を構成する部材の材質に応じてメンテナンス液にpH調整剤を添加してpHを制御することにより、キャップ装置を構成する部材の腐食等を防ぐことができる。例えば、キャップ装置を構成する部材の材質がアルミニウムまたはアルミニウム合金である場合、強酸性または強アルカリ性のメンテナンス液ではキャップ装置が腐食するおそれがあるが、pH調整剤を添加してpHを5.0以上9.0以下の範囲に設定することにより、キャップ装置の腐食を防ぐことができる。
pH調整剤として、例えば、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアルコールアミン類であることが好ましい。
(4)水溶性着色剤
本実施形態に係るメンテナンス液は、水溶性着色剤を含有してもよい。水溶性着色剤は、メンテナンス液を着色する目的で添加される。メンテナンス液を着色することにより、光学センサーを利用した検知手段によりメンテナンス液がキャップ装置内に必要量充填されているか否かの検知が容易となる。また、メンテナンス液の液漏れ等のトラブルが発生したときに視認性に優れるため原因を特定しやすい。
水溶性着色剤は、メンテナンス液を着色することができればよく、色の種類も特に限定されない。水溶性着色剤は、例えば、直接染料、酸性染料、塩基性染料等の染料であることが好ましい。
メンテナンス液に水溶性着色剤を添加する場合において、水溶性着色剤の含有量は、メンテナンス液全質量に対して、好ましくは0.0001質量%以上1質量%以下であり、より好ましくは0.0005質量%以上0.1質量%以下である。水溶性着色剤の含有量が0.0001質量%未満の場合、メンテナンス液への着色が不十分となる。一方、水溶性着色剤の含有量が1質量%を超えると、保湿のための水分が蒸発した後に残留した水溶性着色剤が、キャップ装置内に堆積し、キャップ装置の機能を損ねてしまうおそれがある。
(5)pH
本実施形態に係るメンテナンス液のpHは、キャップ装置を構成する部材に応じて任意に設定することができるが、該部材がアルミニウムまたはアルミニウム合金である場合には、5.0以上9.0以下の範囲内であることが好ましい。pHを5.0以上9.0以下の範囲に設定することにより、アルミニウムまたはアルミニウム合金の部材から構成されるキャップ装置の腐食を防ぐことができる。
4.記録媒体
本実施形態に係るメンテナンス液に適用可能なインクジェット記録装置は、記録媒体上にインクを吐出する。本実施形態に係るメンテナンス液に適用可能なインクジェット記録装置に用いる記録媒体としては、例えば、インク非吸収性、インク吸収性のものが挙げられる。
インク非吸収性の記録媒体としては、記録媒体表面でインク吸収しないものであればよく、例えば、プラスチックフィルム、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているものやプラスチックフィルムが接着されているもの等が挙げられる。ここでいうプラスチックとしては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。インク吸収性の記録媒体としては、記録媒体表面でインク吸収するものであればよく、例えば、普通紙、アート紙、コート紙等が挙げられる。
5.実施例
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
5.1.顔料分散液の調製
(1)顔料分散液b1、y1、m1、c1、o1、g1の調製
カーボンブラック顔料としてMA8商品名:三菱化学社製20質量部と、30%アンモニア水溶液(中和剤)1.5質量部を溶解させたイオン交換水76質量部と、樹脂分散剤としてアクリル酸−アクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量:25,000、酸化:180)7.5質量部とをよく混合撹拌した後、さらにジルコニアビーズによるボールミルにて10時間分散処理を行った。得られた分散原液を孔径10μmのステンレス製メッシュフィルターで濾過して不純物を除去し、顔料濃度が20質量%となるように調整してブラック顔料分散液b1を得た。
以下、カーボンブラック顔料を使用する代わりに、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントグリーン36を使用して、それぞれイエロー顔料分散液y1、マゼンタ顔料分散液m1、シアン顔料分散液c1、オレンジ顔料分散液o1、グリーン顔料分散液g1を得た。
(2)顔料分散液b2の調製
カーボンブラック顔料としてカラーブラックS170商品名:デグサ・ヒュルス社製10質量部を水に混合して100質量部としたものを用いて、ジルコニアビーズによるボールミルにてカーボンブラック顔料を粉砕した。この粉砕原液に次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度12%)140質量部を滴下して、ボールミルで粉砕しながら5時間反応させ、さらに攪拌しながら4時間煮沸して湿式酸化を行った。得られた分散原液を孔径10μmのステンレス製メッシュフィルターで濾過して、さらに水で洗浄した。得られたウェットケーキを水500質量部に再分散して、逆浸透膜により電導度が2mS/cmになるまで脱塩および精製し、さらに顔料濃度が20質量%になるように調整して分散液b2を得た。
5.2.インク組成物の調製
上記顔料分散液を用いて、表1に示す配合割合で各成分を混合して、この混合液を2時間攪拌した後、孔径10μmのメンブレンフィルターにて濾過することにより調製した。これにより、インク組成物B1、B2、Y1、M1、C1、O1、G1を得た。なお、表1中に示す数値の単位は、重量%である。
5.3.メンテナンス液の調製
(1)メンテナンス液A1
1,2−プロパンジオール(沸点;188℃)を5質量%、C.I.アシッドブルー9を0.1質量%、トリエタノールアミンを0.01重量%、および純水94.89質量%をよく攪拌混合し、メンテナンス液A1を得た。
(2)メンテナンス液A2
1,2−ヘキサンジオール(沸点;223℃)を1質量%、C.I.ダイレクトレッド189を0.0005質量%、トリエタノールアミンを0.01質量%、および純水98.9895質量%をよく攪拌混合し、メンテナンス液A2を得た。
(3)メンテナンス液A3
プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点;121℃)を2.5質量%、C.I.アシッドグリーン25を0.05質量%、トリエタノールアミンを0.05質量%、および純水97.44質量%をよく攪拌混合し、メンテナンス液A3を得た。
(4)メンテナンス液A4
純水をメンテナンス液A4とした。
(5)メンテナンス液A5
グリセリン(沸点;290℃)5質量%および純水95質量%をよく攪拌混合し、メンテナンス液A5を得た。
5.4.インクジェット記録装置
評価試験に用いたインクジェット記録装置としては、インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、製品名「PX−G5300」)を図1に示したインクジェット記録装置と同様の構成となるように改造したものを用いた。具体的には、第1キャップ装置、第2キャップ装置、第3キャップ装置、第1メンテナンス液供給装置、および第2メンテンス液供給装置等を有するように、インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、製品名「PX−G5300」)を改造して、インクジェットプリンターXを得た。
インクジェットプリンターXに、上記「5.2.インク組成物の調製」で得られたインク組成物B1、B2、Y1、M1、C1、O1、およびG1を、それぞれインクカートリッジに充填した。そして、上記「5.3.メンテナンス液の調製」で得られたメンテナンス液A1〜A5のいずれかを、第1メンテナンス液供給装置および第2メンテナンス液供給装置に供給した。
5.5.評価試験
5.5.1.放置乾燥評価
本評価試験では、メンテナンス液A1〜A5のそれぞれを用いて、インクジェットプリンターXを長期間放置した場合における、第1キャップ装置と第2キャップ装置との乾燥状態を調査した。評価は以下の手順で実施した。
まず、待機状態(図2の状態)のインクジェットプリンターXを操作して、吸引回復処理を実行した(図4から図5の操作)。次いで、吸引回復処理により吐出ヘッドのクリーニング処理を実行後、ノズルチェックパターンを記録媒体(ラミーコーポレーション株式会社製、製品名「コールドラミネートフィルムPG−50L」)上に印刷して、全ノズルからインクが吐出することを確認した。全ノズルからインクが吐出することを確認したら、待機状態(図2の状態)に戻し、インクジェットプリンターXの電源をオフにして、インクジェットプリンターXを室温40℃で30日間放置した。
30日間の放置後、インクジェットプリンターXの電源を入れて、まず、吐出ヘッドのノズルチェックパターンを記録媒体(ラミーコーポレーション株式会社製、製品名「コールドラミネートフィルムPG−50L」)上に印刷した(以下、「a.電源オン直後のノズルチェック」ともいう。)。
続いて、吸引回復処理の操作を実行した後、再度ノズルチェックパターンを印刷した(以下、「b.吸引回復処理操作後のノズルチェック」ともいう。)。そして、待機状態に戻してインクジェットプリンターXの電源をオフにした。
また、インクジェットプリンターXの放置期間を、60日、90日として、それぞれ上記と同様の放置乾燥評価を行った。
評価の判定基準の分類については、以下の通りであり、「b.吸引回復処理操作後のノズルチェック評価」がAであれば実用上問題なく使用できる。
<a.電源オン直後のノズルチェック評価>
A:全ノズルからインクが吐出する。
B:インクが吐出しないノズル有り。
<b.吸引回復処理操作後のノズルチェック評価>
A:全ノズルからインクが吐出する。
B:インクが吐出しないノズル有り。
5.5.2.保存性評価
上記放置乾燥評価後の第3キャップ装置内に残ったメンテナンス液A1〜A5について、それぞれ50gを孔径5μmのメンブレンフィルターで濾過して、フィルター上に残ったカビや微生物の発生状況をデジタルマイクロスコープ(キーエンス株式会社製、製品名「VHX−200」)で確認した。評価の判定基準は以下の通りであり、Bの評価で実用上問題なく使用できる。
A:50g全量を濾過でき、フィルター上にカビや微生物が確認できない。
B:50g全量を濾過できるが、フィルター上に少量のカビや微生物が確認できた。
C:50g全量を濾過できず、かつ、フィルター上にカビや微生物が確認できた。
5.6.評価結果
以上の評価試験の結果について、表2に記載した。
表2に示すように、実施例1〜実施例3のメンテナンス液A1〜A3を用いて第1キャップ装置内および第2キャップ装置を保湿すると、インクジェット記録装置を長期放置しても、ノズルの詰まりが発生しない、もしくはノズルの詰まりが発生しても吸引回復処理により、ノズルの詰まりを解消できることが確認できた。また、実施例1〜実施例3のメンテンス液A1〜A3は、防腐性に優れていることが確認できた。
表2に示すように、比較例1および比較例2のメンテナンス液A4およびA5を用いて第1キャップ装置内および第2キャップ装置を保湿しても、インクジェット記録装置を長期放置すると、装置の特性が維持できなかった。
詳細に説明すると、比較例1のメンテナンス液A4を用いると、30日間の放置で第1キャップ装置が乾燥して、電源オン直後のノズルチェック評価ではノズル詰まりが存在したが、吸引回復処理によりノズル詰まりが解消した。しかしながら、60日間の放置後は、第1メンテナンス液タンクが空になったため、第1キャップ装置にメンテナンス液が供給されなくなり、高い保湿性を有するグリセリンを含むインク組成物B2を除いて、ノズル詰まりが発生して、吸引回復処理によってもノズル詰まりを回復することができなかった。また、同様に90日間の放置後においても、60日間の放置と同様であった。これにより、第1キャップ装置および第2キャップ装置とも、装置の特性を発揮できなくなった。
比較例2のメンテナンス液A5は、30日間の放置後において、第1キャップ装置内および第2キャップ装置ともに乾燥していなかった。また、60日間の放置後には、一部のノズルで詰まりが発生したが、吸引回復処理によりノズル詰まりが解消した。しかしながら、90日間の放置後において、第3キャップ装置内のメンテナンス液A5に含まれるグリセリンが濃縮して、第2キャップ装置の残留インクから水分を吸収して残留インクが増粘固化した為、高い保湿性を有するグリセリンを含むインク組成物B2を除いて、吸引回復処理が不可能となった。
また、比較例1および比較例2のメンテナンス液A4およびA5は、防腐性に優れないことが確認できた。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。