フィラメント電極を多段に重ねた電子線バイプリズムおいて、重ねたフィラメント電極の段数の倍数だけ電子線の偏向角を大きくするためには、それぞれのフィラメント電極近傍で電子線を同じ角度だけ偏向させる必要がある。このことを確認するために、それぞれのフィラメント電極が作る電位分布について検討する。
まず、図3(A)のようにフィラメント電極を1組の平行平板接地電極の間に2段重ねた場合を考える。フィラメント電極を2段重ねたときの偏向角がフィラメント電極1本のときの偏向角の2倍になるためには、それぞれのフィラメント電極の作る電位分布が他方に影響を与えないことが必要である。
図3(B)にフィラメント電極に垂直な平面における電位分布の計算結果((数1)を利用)を示す。また、図3(C)に第1(上段)のフィラメント電極11と第2(下段)のフィラメント電極12の中心を通り図3(A)の光軸に平行な方向の電位分布、図3(D)に第2(下段)のフィラメント電極12の中心を通り図3(A)の光軸に垂直な方向の電位分布をそれぞれ示す。なお本計算では、フィラメント電極の半径を1μm、2本のフィラメント電極間の距離を1mm、それぞれのフィラメント電極と平行平板接地電極との距離を10mm、印加電圧Vfを100Vとした。図3(B)の点線は、等電位線を表している。等電位線321、322、323は、第1(上段)のフィラメント電極11と第2(下段)のフィラメント電極12をまとめて取り囲んでおり、等電位線324、325は第1(上段)のフィラメント電極11と第2(下段)のフィラメント電極12を個々に取り囲んでいる。したがって、2本のフィラメント電極を個別に扱うためには、等電位線324の内側に電子線を通過させる必要がある。
等電位線324とフィラメント電極との距離は、光軸に垂直な方向ではおよそ250μmである。したがって、光軸に垂直な方向でフィラメント電極から250μm以内の範囲の電子線は、各々のフィラメント電極で同じ角度だけ偏向すると考えてよい。なおこの範囲は、2本のフィラメント電極間の距離のおよそ4分の1になる。例えば、他の条件を一定にして2本のフィラメント電極間の距離のみを0.1mmとすると、この範囲は光軸に垂直な方向でフィラメント電極から25μm以内となる。
一般に、電子線がコヒーレントな状態を保てるのはフィラメント電極から数μm程度であるため、上記の空間の範囲内ではそれぞれのフィラメント電極でコヒーレントな状態のまま電子線を偏向させて干渉を記録することは可能である。したがって、それぞれのフィラメント電極で電子線は偏向角αだけ偏向し、電子線は印加する電圧の2倍の偏向角2αだけ偏向すると近似できる。
次に、図4(A)のようにフィラメント電極を5段重ねた電子線バイプリズムを考える。フィラメント電極を2段重ねたときと同様に、フィラメント電極に垂直な平面における電位分布の計算結果を図4(B)に示す。なおフィラメント電極2本のときの計算と比較し、本計算では、それぞれのフィラメント電極間の距離のみを0.2mmと変更し、他の条件であるフィラメント電極の半径、フィラメント電極と平行平板接地電極との距離、印加電圧Vfについてはそれぞれ1μm、10mm、100Vのままとした。図4(B)の点線は、等電位線を表している。等電位線351、352、353は5本のフィラメント電極をまとめて取り囲んでいるが、等電位線354は第1(最上段)のフィラメント電極11と第5(最下段)のフィラメント電極15とを別々に取り囲み、第2のフィラメント電極12、第3のフィラメント電極13、第4のフィラメント電極14とをまとめて取り囲んでいる。また等電位線355は、第2のフィラメント電極12、第3のフィラメント電極13、第4のフィラメント電極14とを個々に取り囲んでいる。等電位線355と第2のフィラメント電極との距離、あるいは等電位線355と第4のフィラメント電極との距離は、光軸に垂直な方向ではおよそ55μmである。
一方、等電位線354と第1(最上段)のフィラメント電極との距離、あるいは等電位線354と第5(最下段)のフィラメント電極との距離は、光軸に垂直な方向ではおよそ40μmである。したがって、光軸に垂直な方向でフィラメント電極から40μm以内の範囲の電子線は、各々のフィラメント電極で同じ角度だけ偏向すると考えてよい。
一般に、電子線がコヒーレントな状態を保てるのはフィラメント電極から数μm程度であるため、上記の空間の範囲内ではそれぞれのフィラメント電極でコヒーレントな状態のまま電子線を偏向させて干渉を記録することは可能である。したがって、それぞれのフィラメント電極で電子線は偏向角αだけ偏向し、電子線は印加する電圧の5倍の偏向角5αだけ偏向すると近似できる。
以上により、電子線の進行方向に重ねるフィラメント電極の数を増やすことでさらに大きな偏向角が得られることがわかる。この条件は、フィラメント電極を2本や5本の場合に限るものではなく、互いに電場の影響が重ならない範囲で多数本のものも想定できる。
最後に、図5(A)のように、電子線の進行方向にフィラメント電極を無限本数重ねたときに対応する板状電極を置いたときの電子線バイプリズムを考える。図5(B)は、板状電極に垂直な平面における電位分布の計算結果である。なお本計算では、板状電極の厚さ(y方向の長さ)を2μm、光軸方向の板状電極の長さ(z方向の長さ)を1mm、板状電極と平行平板接地電極との距離を10mm、印加電圧Vfを100Vとした。図5(B)の点線は、等電位線を表しており、すべての等電位線は板状電極を取り囲んでいる。本電位分布の結果からわかるように、互いに電場の影響が重なる範囲までフィラメント電極間の光軸上の距離を小さくすると、電子線の進行方向に重ねるフィラメント電極の本数を増やしても、電子線バイプリズムの偏向角が1本のフィラメント電極により偏向される角度αの整数倍になる近似は成立せず、フィラメント電極の本数の整数倍以上に電子線を偏向させることが可能である。
本発明のフィラメント電極を多段に重ねた電子線バイプリズムを実施化するにあたり、光軸上の電子線の進行方向から見たときのそれぞれのフィラメント電極が互いになす方位角の条件、及びそれぞれのフィラメント電極間の光軸上の距離の条件に注意する必要がある。
まずそれぞれのフィラメント電極が互いになす方位角の条件を考える。図6(A)は、フィラメント電極を2段重ねた電子線バイプリズムにより作製される干渉縞を、電子線の進行方向から見た投影図である。電子線の進行方向から見たときの2本のフィラメント電極がなす方位角をθ、第1(上段)及び第2(下段)のフィラメント電極の半径をそれぞれa1、a2としている。図6(B)は、2本のフィラメント電極がなす方位角θと、2本のフィラメント電極が重なっている領域の長軸方向(図6(B)の直線AC)の長さhとの関係を示すための模式図である。図6(B)において、直角三角形ABC及び直角三角形ADCの間に成立する関係を適用すると、上記のパラメーターの間には図37の(数5)が成立する。なお(数5)では、第1(上段)のフィラメント電極11と2本のフィラメント電極が重なっている領域の長軸方向(図6(B)の直線AC)とがなす角度をθ1、第2(下段)のフィラメント電極12と2本のフィラメント電極が重なっている領域の長軸方向(図6(B)の直線AC)とがなす角度をθ2とし、θ1及びθ2の値が小さいと仮定して、Sinθ1≒θ1及びSinθ2≒θ2の近似を用いている。
干渉縞をCCDカメラで記録するとき、記録される干渉領域の形状は正方形である。フィラメント電極の長さ方向の干渉領域幅WLは、電子線がコヒーレントな状態を保持できる距離(可干渉距離)に依存するが、フィラメント電極の長さ方向に垂直な方向の干渉領域幅Wは、光軸に垂直な方向でフィラメント電極端から電子線がコヒーレントな状態を保持できる距離に依存する。電子線がコヒーレントな状態を保持できるのは10μm程度である。また、直径1μm以下のフィラメント電極の作製は可能であるため、2本のフィラメント電極の直径の和はたかだか2μm程度である。電子線がコヒーレントな状態を保持できる範囲が10μm程度であること、及びフィラメント電極の直径の和が2μm程度であることより、光軸に垂直な方向でフィラメント電極端からおよそ4μmの範囲の電子線が干渉する。この範囲は2本のフィラメント電極の直径の和の2倍である。
また、記録される干渉領域が正方形であることを考慮すると、できるだけ多くの干渉縞を記録するためには、フィラメント電極の長さ方向の干渉領域幅WLが干渉領域幅Wよりも大きければよい。したがって、2本のフィラメント電極が重なっている領域の長軸方向の長さhが、2本のフィラメント電極の直径の和を2倍したものよりも大きいという条件である図37の(数6)が与えられる。(数5)を(数6)に代入すると図38の(数7)が導かれる。
(数7)より、2本のフィラメント電極がなす方位角θのとりうる範囲は、−30°<θ<30°となる。したがって、光軸に垂直で平行平板電極に平行な基準軸を定義したとき、光軸に垂直な平面内でその基準軸から−15°<θb<15°の範囲に2本のフィラメント電極は配置されることになる。フィラメント電極をn段重ねた場合は、n本のフィラメント電極からどの2本のフィラメント電極を選んでも、選んだ2本のフィラメント電極がなす方位角θが上記の範囲に含まれる必要がある。
図6(C)は、2本のフィラメント電極がなす方位角θと2本のフィラメント電極が重なる長さの関係を表している。2本のフィラメント電極が重なっている領域でフィラメント電極の軸方向の長さhは方位角θに反比例し、2本のフィラメント電極の直径の和(2a1+2a2)に比例している。なお、このことは(数5)からも自明である。つまり、方位角θを小さくすることで2本のフィラメント電極が重なる長さhを長くすることが可能である。一方、2本のフィラメント電極の直径の和(2a1+2a2)を大きくすることでも、2本のフィラメント電極が重なる長さhを長くすることが可能であるが、上記の電子線がコヒーレントな状態を保持できる距離が決まっているため、2本のフィラメント電極の直径の和(2a1+2a2)は小さい方が好まれる。2本のフィラメント電極の直径の和(2a1+2a2)が2μmのとき、2本のフィラメント電極がなす方位角θが20°でもhが6μm程度であり、電子顕微鏡観察には十分耐えうる電子線バイプリズムである。
次に、それぞれのフィラメント電極間の光軸上の距離の条件について考える。図7はフィラメント電極の長さ方向から電子線バイプリズムを見たときの模式図である。なお、各々のフィラメント電極間の距離をそれぞれd1,d2,…,dn−1とし、第1(最上段)のフィラメント電極11と電子線の通過する位置の距離(フィラメント電極11と電子軌道4との距離)をt、それぞれのフィラメント電極で電子線が偏向される角度をθとしている。
図7(A)はフィラメント電極を2段重ねたときの模式図である。図7(A)の点線のようにフィラメント電極11とフィラメント電極12との間を電子線が通過した時、想定の偏向角は得られない。したがって、フィラメント電極を2段重ねた電子線バイプリズムで2本のフィラメント電極間を通過せずに電子線が重なるためには、第2(下段)のフィラメント電極12を通過する前に電子線が重なること(図7(A)の点線矢印)を防ぐ必要がある。つまり、フィラメント電極12の下方を電子線が通過する必要がある。したがって、αd1の値はtより小さいという図38の(数8)の条件を満たす必要がある。
電子線がコヒーレントな状態を保持できるのは、フィラメント電極端から光軸に垂直な方向で4μm程度である。先述のように、(数2)からフィラメント電極への最大印加電圧が1kVのとき、偏向角αは、たかだか10−3radである。したがって(数8)より、フィラメント電極間の距離d1は4mm以下となる。
多段にフィラメント電極を重ねたときも同様にして条件式を導くことができる。図7(B)は、フィラメント電極をn段重ねたときの模式図である。フィラメント電極を2段重ねたときと同様に考えると、第n(最下段)のフィラメント電極1nの下方を電子線が通過する必要がある。したがって入射電子線がn本のフィラメント電極で偏向されることにより、電子線の進行方向と垂直な方向に移動する距離はtよりも小さいという図38の(数9)の条件を満たす必要がある。なお(数9)では、偏向角αの値が小さいと仮定し、近軸近似tanα≒αを用いている。
また、フィラメント電極間の距離についても同様に考えて、第1(最上段)のフィラメント電極と第n(最下段)のフィラメント電極との距離が4mm以下となる。
以上のことより本発明を実施するためには、電子線バイプリズムを構成するどの2本のフィラメント電極も(数7)の方位角の条件を満足することが望まれ、電子線バイプリズムを構成するすべてのフィラメント電極が(数9)のフィラメント電極間の距離の条件を満足することが必要である。
〈実施例1〉(フィラメント電極2本、θ=0°)
フィラメント電極を2段重ねた電子線バイプリズムの例として、2本のフィラメント電極の互いになす方位角がθ(θ=0°)となるようにフィラメントホルダーの表裏にフィラメント電極を取り付けたものを考える。図8(A)は、円環状フィラメントホルダーの一方にフィラメント電極11を取り付け、他方にフィラメント電極12を取り付けた電子線バイプリズムの模式図である。フィラメント電極間の距離d1は、円環状フィラメントホルダーの厚さを変えることで調節可能である。フィラメント電極を2本取り付けた本電子線バイプリズムでは、フィラメント電極を1本しか取り付けていない電子線バイプリズムの2倍の偏向角が得られ、ホログラム再生時の空間分解能が高くなる。
しかし、フィラメントホルダーの表裏にフィラメント電極を取り付ける方法では、2本のフィラメント電極が互いになす方位角がθ(θ=0°)となるように高精度でフィラメント電極を取り付けることは困難である。そこで、図9のように2つの円環状フィラメントホルダーから構成され、一方の円環状フィラメントホルダーにフィラメント電極11を取り付け、他方の円環状フィラメントホルダーにフィラメント電極12を取り付けた電子線バイプリズムを考える。フィラメント電極間の距離は、円環状フィラメントホルダーの厚さを変えることで調節可能である。2つのフィラメントホルダーの境界では、光軸に垂直な平面内で微動可能もしくは円環状フィラメントホルダーの中心を軸として回転可能である。後者の回転可能である構造より、本電子線バイプリズムでは、ホログラム再生時の空間分解能が高くなることに加え、フィラメント電極をフィラメントホルダーに取り付ける際に角度のずれが生じても、方位角θが0°の電子線バイプリズムを高精度で作製することが可能である。
この他にも、2本のフィラメント電極が互いになす方位角がθ(θ=0°)となるようにフィラメント電極を取り付けた電子線バイプリズムの例として、図10(A)のように円環状部分と板状部分から構成され、板状部分に2本のフィラメント電極を取り付ける構造が考えられる。
図10(B)は、図10(A)に示した電子線バイプリズムを光軸方向から見た投影図(円環状部分の面に垂直な方向から見た図)であり、図10(C)は図10(A)に示した電子線バイプリズムのフィラメント電極の軸方向の断面図である。図10(A)は、図10(B)、図10(C)に示すように光軸を挟んだ板状部分の同じ側面にフィラメント電極を取り付けている。なお本電子線バイプリズムの例には、図10(D)のように円環状部分の上下の板状部分に1本ずつフィラメント電極を取り付けた電子線バイプリズム(光軸方向から見た投影図は図10(E)、フィラメント電極の軸方向の断面図は図10(F))も含まれる。
フィラメント電極間の光軸上の距離は、円環状部分の厚さ及び板状部分にフィラメント電極を取り付ける位置を変えることで調節可能である。本電子線バイプリズムでは、ホログラム再生時の空間分解能が高くなることに加え、板状部分の同じ側面にフィラメント電極を取り付けることで、2本のフィラメント電極のなす方位角を0°にすることができる。
本実施例では、2本のフィラメント電極は(数8)のフィラメント電極間の距離の条件を満たすように配置されている。なお、平行平板電極は省略されている。また、図10(G)と同様の電子線バイプリズムホルダーに上記の電子線バイプリズムを取り付けると、電子線バイプリズムは、光軸に垂直な平面内で微動可能でかつ光軸に平行な軸を軸として回転可能となる。
本電子線バイプリズムホルダーは、例えば図10(H)に示す透過電子顕微鏡装置に取り付けることでホログラムの作製が可能となる。透過電子顕微鏡装置では、まず電子銃部分で電子線を発生させ、発生した電子線は収束レンズにより試料への照射条件が定められる。そして、試料を透過した電子線は、対物レンズにより試料の像を形成する。その後、対物レンズを通過した電子線は、拡大レンズ、投影レンズを通過して最終的な像を形成する。2段電子線バイプリズム干渉光学系では、対物レンズによる試料の像面の位置、及び、拡大レンズによる試料の像面の位置と拡大レンズのクロスオーバーの位置の間に電子線バイプリズムを配置し、干渉縞間隔と干渉領域幅を独立に制御する。
〈実施例2〉(フィラメント電極2本、θ=0以外)
〈実施例1〉では、2本のフィラメント電極が互いになす方位角がθ(θ=0°)となるようにフィラメントホルダーにフィラメント電極を取り付けた電子線バイプリズムを考えてきたが、前述したように2本のフィラメント電極が互いになす方位角は、(数7)の範囲に含まれていればよい。〈実施例2〉では、2本のフィラメント電極が互いになす方位角がθ(θ≠0°)となるようにフィラメントホルダーにフィラメント電極を取り付けた電子線バイプリズムを考える。
フィラメント電極を2段重ね、2本のフィラメント電極が互いになす方位角がθ(θ≠0°)である電子線バイプリズムの例として、フィラメントホルダーの表裏にフィラメント電極を取り付けたものを考える。図11(A)は、円環状フィラメントホルダーの一方にフィラメント電極11を取り付け、他方にフィラメント電極12を取り付けた電子線バイプリズムの模式図である。図11(B)は図11(A)に示した電子線バイプリズムを光軸方向から見た投影図である。〈実施例1〉と同様に、フィラメント電極間の距離は円環状フィラメントホルダーの厚さを変えることで調節可能である。2本のフィラメント電極が互いになす方位角θを指定せずにフィラメント電極が1本のときの2倍の偏向角を得る場合には、(数7)を満たすだけなので、本電子線バイプリズムの作製は容易で、ホログラム再生時の空間分解能を高くすることができる。
しかし、2本のフィラメント電極が互いになす方位角が特定のθ(θ≠0°)になるようにフィラメント電極をフィラメントホルダーに取り付ける場合には、上記の図11の電子線バイプリズムでは高精度での作製が困難である。そこで、図12(A)のように2つの円環状フィラメントホルダーから構成され、一方の円環状フィラメントホルダーにフィラメント電極11を取り付け、他方の円環状フィラメントホルダーにフィラメント電極12を取り付けた電子線バイプリズムを考える。図12(B)は図12(A)に示した電子線バイプリズムを光軸方向から見た投影図(円環状部分の面に垂直な方向から見た図)である。フィラメント電極間の距離は、円環状フィラメントホルダーの厚さを変えることで調節可能である。〈実施例1〉と同様に、2つのフィラメントホルダーの境界では、光軸に垂直な平面内で微動可能もしくは円環状フィラメントホルダーの中心を軸として回転可能である。後者の回転可能である構造より、本電子線バイプリズムでは、ホログラム再生時の空間分解能が高くなることに加え、高精度で所定の方位角θをもった電子線バイプリズムの作製が可能である。
この他にも、2本のフィラメント電極がなす方位角がθ(θ≠0°)となるようにフィラメント電極を取り付けた電子線バイプリズムの例として、図13(A)のように円環状部分と板状部分から構成され、板状部分に2本のフィラメント電極を取り付けたものを考える。図13(B)は、図13(A)に示した電子線バイプリズムの光軸方向から見た投影図(円環状部分の面に垂直な方向から見た図)であり、図13(C)は図13(A)に示した電子線バイプリズムのフィラメント電極の軸方向の断面図である。図13(A)では、図13(B)、図13(C)に示すように光軸を挟んだ板状部分の異なる側面にフィラメント電極を取り付けている。なお本電子線バイプリズムの例には、図13(D)のように円環状部分の上下の板状部分にフィラメント電極を取り付けた電子線バイプリズム(光軸方向から見た投影図は図13(E)、フィラメント電極の軸方向の断面図は図13(F))も含まれる。本電子線バイプリズムでは、ホログラム再生時の空間分解能が高くなることに加え、板状部分の厚さを調節することで、高精度で所定の方位角θをもった電子線バイプリズムの作製が可能である。
この他にも、2本のフィラメント電極がなす方位角がθ(θ≠0°)となるようにフィラメント電極を取り付けた電子線バイプリズムの例として、円環状フィラメントホルダーの一方の面を階段状もしくは傾斜の構造にし、その面にフィラメント電極を取り付けたものを考える。図14は2段の階段状の面にフィラメント電極を取り付けたフィラメントホルダーを示している。階段状の面の位置を変えることで2本のフィラメント電極間の方位角θの調節が可能であり、階段の段の高さを変えることでフィラメント電極間の光軸上の距離の調節が可能である。したがって本電子線バイプリズムでは、ホログラム再生時の空間分解能が高くなることに加え、階段状の面の位置を変えることで所定の方位角θをもった電子線バイプリズムの作製が可能である。
本実施例では、2本のフィラメント電極は、(数7)の互いになす方位角の条件、及び(数8)のフィラメント電極間の距離の条件を満たすように配置されている。なお平行平板電極は、図では省略している。また、図10(G)と同様の電子線バイプリズムホルダーに上記の電子線バイプリズムを取り付けると、電子線バイプリズムは、光軸に垂直な平面内で微動可能でかつ光軸に平行な軸を軸として回転可能となる。また、〈実施例1〉と同様に、本電子線バイプリズムホルダーは、例えば図10(H)に示す透過電子顕微鏡装置に取り付けることでホログラムの作製が可能となる。
〈実施例3〉(フィラメント電極3本以上、θ=0°)
〈実施例1〉および〈実施例2〉では、フィラメント電極を2段重ねた電子線バイプリズムを考えてきたが、〈実施例3〉ではフィラメント電極を3段以上重ねた電子線バイプリズムを考える。
まず、2つの円環状フィラメントホルダーから構成され、3本以上のフィラメント電極が互いになす方位角がθ(θ=0°)となるようにフィラメント電極を取り付けたものを考える。フィラメント電極を3段重ねる場合は、図15(A)のように、一方の円環状フィラメントホルダーにフィラメント電極を1本取り付け、もう一方の円環状フィラメントホルダーには〈実施例1〉のようにフィラメント電極を2本取り付ける。フィラメント電極を4段重ねる場合は、図15(B)のように、2つの円環状フィラメントホルダーに〈実施例1〉のようにフィラメント電極を2本ずつ取り付ける。本電子線バイプリズムでは、フィラメント電極を3本以上にしたことでフィラメント電極が1本のときに比べてフィラメント電極の本数倍の偏向角が得られ、空間分解能を高くすることができる。また、2つのフィラメントホルダーの境界では、光軸に垂直な平面内で微動可能もしくは円環状フィラメントホルダーの中心を軸として回転可能である。後者の回転可能である構造より、本電子線バイプリズムでは、ホログラム再生時の空間分解能が高くなることに加え、フィラメント電極をフィラメントホルダーに取り付ける際に角度のずれが生じても、方位角θが0°の電子線バイプリズムの作製が可能である。
この他にもフィラメント電極を3段以上重ねた電子線バイプリズムの例として、3つ以上の円環状フィラメントホルダーから構成され、3本以上のフィラメント電極が互いになす方位角がθ(θ=0°)となるようにフィラメント電極を取り付けたものがある。フィラメント電極を3段重ねる場合は、図16(A)のように、3つの円環状フィラメントホルダーにフィラメント電極を1本ずつ取り付ける。フィラメント電極を4段重ねる場合は、図16(B)のように、4つの円環状フィラメントホルダーにフィラメント電極を1本ずつ取り付ける、もしくは図16(C)のように2つの円環状フィラメントホルダーにフィラメント電極を1本ずつ取り付け、1つの円環状フィラメントホルダーを〈実施例1〉のようにフィラメント電極を2本取り付けたものにする。さらにフィラメント電極を重ねるときは、1本のフィラメント電極を取り付けたフィラメントホルダーもしくは〈実施例1〉のようなフィラメント電極を2本取り付けたフィラメントホルダーを重ねる。それぞれのフィラメントホルダーの境界では、光軸に垂直な平面内で微動可能もしくは円環状フィラメントホルダーの中心を軸として回転可能である。後者の回転可能である構造より、本電子線バイプリズムでは、ホログラム再生時の空間分解能が高くなることに加え、フィラメント電極をフィラメントホルダーに取り付ける際に角度のずれが生じても、方位角θが0°の電子線バイプリズムの作製が可能である。
この他にも、フィラメント電極を3段以上重ねた電子線バイプリズムの例として、図17(A)のように円環状部分と板状部分から構成されるフィラメントホルダーで、板状部分に3本のフィラメント電極を取り付け、3本以上のフィラメント電極が互いになす方位角がθ(θ=0°)となるようにフィラメント電極を取り付けたものがある。図17(B)は、図17(A)に示した電子線バイプリズムを光軸方向から見た投影図(円環状部分の面に垂直な方向から見た図)であり、図17(C)は図17(A)に示した電子線バイプリズムのフィラメント電極の軸方向の断面図である。図17(A)では、図17(B)、図17(C)に示すように光軸を挟んだ板状部分の同じ側面にフィラメント電極を取り付けている。なお本電子線バイプリズムの例には、図17(D)のように円環状部分の上下の板状部分にフィラメント電極を取り付けた電子線バイプリズム(光軸方向から見た投影図は図17(E)、フィラメント電極の軸方向の断面図は図17(F))も含まれる。さらに多数のフィラメント電極を取り付けた電子線バイプリズムを作製する際は、図17(G)のように板状部分に複数のフィラメント電極を取り付ければよい。本電子線バイプリズムでは、ホログラム再生時の空間分解能が高くなることに加え、板状部分の同じ側面にフィラメント電極を取り付けることで、取り付けたフィラメント電極のなす方位角を0°にすることができる。
本実施例では、それぞれのフィラメント電極は(数9)のフィラメント電極間の距離の条件を満たすように配置されている。なお、平行平板電極は省略されている。また、図10(G)と同様の電子線バイプリズムホルダーに上記の電子線バイプリズムを取り付けると、電子線バイプリズムは、光軸に垂直な平面内で微動可能でかつ光軸に平行な軸を軸として回転可能となる。また、〈実施例1〉と同様に、本電子線バイプリズムホルダーは、例えば図10(H)に示す透過電子顕微鏡装置に取り付けることでホログラムの作製が可能となる。
〈実施例4〉(フィラメント電極3本以上、θ=0°以外)
〈実施例3〉では、複数本のフィラメント電極が互いになす方位角がθ(θ=0°)となるようにフィラメントホルダーにフィラメント電極を取り付けた電子線バイプリズムを考えてきたが、前述したように、複数本のフィラメント電極のうち、どの2本のフィラメント電極を選んでも選んだ2本のフィラメント電極がなす方位角θが(数7)の範囲に含まれていればよい。〈実施例4〉では、複数本のフィラメント電極が互いになす方位角がθ(θ≠0°)となるようにフィラメントホルダーにフィラメント電極を取り付けた電子線バイプリズムを考える。
フィラメント電極を3段以上重ね、3本以上のフィラメント電極が互いになす方位角がθ(θ≠0°)となるようにフィラメント電極を取り付けた電子線バイプリズムの例として、2つの円環状フィラメントホルダーから構成された電子線バイプリズムを考える。図18(A)は、一方の円環状フィラメントホルダーにフィラメント電極を1本取り付け、もう一方の円環状フィラメントホルダーには〈実施例1〉もしくは〈実施例2〉のようにフィラメント電極を2本取り付ける。フィラメント電極を4段重ねる場合は、図18(B)のように、2つの円環状フィラメントホルダーに〈実施例1〉もしくは〈実施例2〉のようにフィラメント電極を2本取り付ける。本電子線バイプリズムでは、フィラメント電極を3本以上にしたことでフィラメント電極が1本のときに比べて3倍以上の偏向角が得られ、空間分解能を高くすることができる。また、2つのフィラメントホルダーの境界では、光軸に垂直な平面内で微動可能もしくは円環状フィラメントホルダーの中心を軸として回転可能である。後者の回転可能である性質より、本電子線バイプリズムでは、ホログラム再生時の空間分解能が高くなることに加え、フィラメント電極をフィラメントホルダーに取り付ける際に角度のずれが生じても、高精度で所定の方位角θをもった電子線バイプリズムの作製が可能である。
さらに多くのフィラメント電極をもった電子線バイプリズムを作製するための例として、3つ以上の円環状フィラメントホルダーから構成され、3本以上のフィラメント電極が互いになす方位角がθ(θ≠0°)となるようにフィラメント電極を取り付けたものがある。フィラメント電極を3段重ねる場合は、図19(A)のように、3つの円環状フィラメントホルダーにフィラメント電極を1本ずつ取り付ける。フィラメント電極を4段重ねる場合は、図19(B)のように、4つの円環状フィラメントホルダーにフィラメント電極を1本ずつ取り付ける、もしくは図19(C)のように2つの円環状フィラメントホルダーにフィラメント電極を1本ずつ取り付け、1つの円環状フィラメントホルダーを〈実施例1〉もしくは〈実施例2〉のようにフィラメント電極を2本取り付けたものにする。さらにフィラメント電極を重ねるときは、1本のフィラメント電極を取り付けたフィラメントホルダー、もしくは〈実施例1〉か〈実施例2〉のようなフィラメント電極を2本取り付けたフィラメントホルダーを重ねる。それぞれのフィラメントホルダーの境界では、光軸に垂直な平面内で微動可能もしくは円環状フィラメントホルダーの中心を軸として回転可能である。後者の回転可能である構造より、本電子線バイプリズムでは、ホログラム再生時の空間分解能が高くなることに加え、フィラメント電極をフィラメントホルダーに取り付ける際に角度のずれが生じても、高精度で所定の方位角θをもった電子線バイプリズムの作製が可能である。
この他にも、フィラメント電極を3段以上重ねた電子線バイプリズムの例として、図20(A)のように円環状部分と板状部分から構成されるフィラメントホルダーで、板状部分に3本のフィラメント電極を取り付け、3本以上のフィラメント電極が互いになす方位角がθ(θ≠0°)となるようにフィラメント電極を取り付けたものがある。図20(B)は、図20(A)に示した電子線バイプリズムを光軸方向から見た投影図(円環状部分の面に垂直な方向から見た図)であり、図20(C)は図20(A)に示した電子線バイプリズムのフィラメント電極の軸方向の断面図である。
図20(A)では、図20(B)、図20(C)に示すように光軸を挟んだ板状部分の異なる側面にフィラメント電極を取り付けている。なお本実施例には、図20(D)のように円環状部分の上下の板状部分にフィラメント電極を取り付けたフィラメントホルダー(光軸方向から見た投影図は図20(E)、フィラメント電極の軸方向の断面図は図20(F))も含まれる。さらに多数のフィラメント電極を取り付けた電子線バイプリズムを作製する際は、図20(G)のように板状部分に複数のフィラメント電極を取り付ければよい。本電子線バイプリズムでは、ホログラム再生時の空間分解能が高くなることに加え、板状部分の厚さを調節することで、高精度で所定の方位角θをもった電子線バイプリズムの作製が可能である。
この他にも、フィラメント電極を3段以上重ねた電子線バイプリズムの例として、円環状フィラメントホルダーの一方の面を階段状もしくは傾斜の構造にし、3本以上のフィラメント電極が互いになす方位角がθ(θ≠0°)となるように、階段状もしくは傾斜の構造の面にフィラメント電極を取り付けたものが考えられる。
図21は3段の階段状の面にフィラメント電極を取り付けた電子線バイプリズムの模式図である。それぞれのフィラメント電極間の方位角θは、階段状の面の位置を変えることで調節可能である。さらに多数のフィラメント電極を取り付けた電子線バイプリズムを作製する際は、階段状の面を増やせばよい。階段状の面の位置を変えることでそれぞれのフィラメント電極間の方位角θの調節が可能であり、階段の段の高さを変えることでフィラメント電極間の光軸上の距離の調節が可能である。したがって本電子線バイプリズムでは、ホログラム再生時の空間分解能が高くなることに加え、階段状の面の位置を変えることで所定の方位角θをもった電子線バイプリズムの作製が可能である。
さらに多くのフィラメント電極をもった電子線バイプリズムを作製するための例として、円環状フィラメントホルダーの表裏を階段状もしくは傾斜の構造にし、3本以上のフィラメント電極が互いになす方位角がθ(θ≠0°)となるように、階段状もしくは傾斜の構造の面にフィラメント電極を取り付けたものを考える。図22は表裏を3段の階段状の面にし、それぞれの階段面にフィラメント電極を取り付けた電子線バイプリズムの模式図である。さらに多数のフィラメント電極を取り付けた電子線バイプリズムを作製する際は、階段状の面を増やせばよい。階段状の面の位置を変えることでそれぞれのフィラメント電極間の方位角θの調節が可能であり、階段の段の高さを変えることでフィラメント電極間の光軸上の距離の調節が可能である。したがって本電子線バイプリズムでは、ホログラム再生時の空間分解能が高くなることに加え、階段状の面の位置を変えることで所定の方位角θをもった電子線バイプリズムの作製が可能である。
本実施例では、フィラメントホルダーに取り付けられたフィラメント電極は、どの2本のフィラメント電極を選んでも、選んだ2本のフィラメント電極がなす方位角θが(数7)の範囲に配置され、(数9)のフィラメント電極間の距離の条件を満たすように配置してある。なお平行平板電極は、図では省略している。また、図10(G)同様の電子線バイプリズムホルダーに上記の電子線バイプリズムを取り付けると、電子線バイプリズムは、光軸に垂直な平面内で微動可能でかつ光軸に平行な軸を軸として回転可能となる。また、〈実施例1〉と同様に、本電子線バイプリズムホルダーは、例えば図10(H)に示す透過電子顕微鏡装置に取り付けることでホログラムの作製が可能となる。
〈実施例5〉(板状フィラメント電極)
〈実施例1〉から〈実施例4〉では、フィラメント電極を複数段重ねた電子線バイプリズムを考えてきたが、〈実施例5〉ではフィラメント電極を無限に重ねたときに対応する板状電極をフィラメントホルダーに取り付けたときの電子線バイプリズムを考える。
図23は、フィラメントホルダーに板状フィラメント電極を取り付けた電子線バイプリズムの模式図である。本電子線バイプリズムでは、光軸と平行な方向の板の長さと同じ距離にフィラメント電極を重ねるよりも電子線を曲げることができる。なお、平行平板電極は図では省略している。また、図10(G)と同様の電子線バイプリズムホルダーに上記の電子線バイプリズムを取り付けると、電子線バイプリズムは、光軸に垂直な平面内で微動可能でかつ光軸に平行な軸を軸として回転可能となる。また、〈実施例1〉と同様に、本電子線バイプリズムホルダーは、例えば図10(H)に示す透過電子顕微鏡装置に取り付けることでホログラムの作製が可能となる。
〈実施例6〉
〈実施例1〉から〈実施例5〉では、電子線バイプリズムの形状に関する実施例を考えてきたが、〈実施例6〉以降は、電子線バイプリズムの光学系への配置方法の実施例を考える。
図24から図27は、フィラメント電極を2段重ねた電子線バイプリズムのフィラメント電極に正及び負の電圧を印加し、電子線が偏向する様子を示した光学系の図である。なお図24から図27は、第1のフィラメント電極11と第2のフィラメント電極12とがなす方位角θが非常に小さいと仮定し、フィラメント電極の長さ方向から見た図である。平行平板電極は、図では省略している。また、得られる像の干渉縞間隔及び干渉領域幅を独立にコントロールするために、拡大レンズの上下にそれぞれ電子線バイプリズムを設置した2段電子線バイプリズム干渉光学系で描いている。
図24(A)は、対物レンズ52による試料の像面を第1(上段)のフィラメント電極11に合わせ、拡大レンズ53の上方に配置された第1のフィラメント電極11と第2のフィラメント電極12、および、拡大レンズ53の下方に配置されたフィラメント電極1Lに正の電圧を印加したときの光学系である。対物レンズ52を通過した電子線は、第1のフィラメント電極11により偏向角αU1、第2のフィラメント電極12により偏向角αU2だけそれぞれ曲げられて光軸に近づき、拡大レンズ53を通過する。その後電子線はクロスオーバーを作り、下方のフィラメント電極1Lにより偏向角αLだけ曲げられて光軸に近づいた後、拡大レンズによる試料の像面に試料の像63を形成する。なお、偏向角αU1、αU2、αLは、電子線が光軸に近づく方向に曲がるときを正とし、電子線が光軸から遠ざかる方向に曲がるときを負とする。
拡大レンズ53のクロスオーバーの面での光軸と虚光源22vの距離L22vは、拡大レンズ53のクロスオーバーの面での実光源22rと虚光源22vとの距離L22rvと、光軸と実光源22rとの距離L22rの和から求めることができる。ここでL22rは、拡大レンズ53の光源に対する結像の関係から、対物レンズ52のクロスオーバーの面での光軸(実光源21r)と虚光源21vとの距離L21v(L21rv)にb0L/a0Lをかけたものとなる。なお、a0Lは対物レンズ52のクロスオーバーの面と拡大レンズ53との距離、b0Lは拡大レンズ53とそのクロスオーバーの面との距離である。したがってこのとき形成される像の干渉縞間隔SA0は、図38の(数10)のように表すことができる。なお(数10)において、λは電子線の波長、aUは試料と対物レンズ52との距離、aLは対物レンズ52による試料の像面と拡大レンズ53との距離、bUは対物レンズ52と対物レンズ52による試料の像面との距離、b0Uは対物レンズ52とそのクロスオーバーの面との距離、bLは拡大レンズ53と拡大レンズ53による試料の像面との距離、d1は第1のフィラメント電極11と第2のフィラメント電極12との距離、pはフィラメント電極1Lと拡大レンズ53による試料の像面との距離である。
(数10)より干渉縞間隔SA0は、電子線バイプリズムの偏向角αU1、及び偏向角αU2の大きさに反比例しているので、偏向角αU1、及び偏向角αU2を大きくすることで間隔の狭い干渉縞を得ることができる。
また、2本のフィラメント電極間の距離d1は、aU、aL、a0L、bU、bL、b0U、b0Lに比べて十分小さいので、無視できると仮定すると、干渉縞間隔SA0は、図38の(数11)のように干渉縞間隔SA1と近似できる。
干渉縞間隔SA1は、拡大レンズ上方に配置するフィラメント電極を1本として求めた干渉縞間隔である(数3)と比較すると、拡大レンズ上方に配置されたフィラメント電極の偏向角αUの部分をαU1+αU2としたときと等しい。これにより、拡大レンズ上方の第1の電子線バイプリズムの偏向角が、第1のフィラメント電極11による偏向角αU1と第2のフィラメント電極12による偏向角αU2の和になっていることがわかる。
第1のフィラメント電極11と第2のフィラメント電極12の偏向係数kが等しいとすると、(数2)より第1のフィラメント電極11の偏向角αU1と第2のフィラメント電極12の偏向角αU2はほとんど等しいと近似できる(αU1≒αU2)。したがって、(数11)で表された干渉縞間隔SA1は図39の(数12)のように干渉縞間隔SA2と近似できる。
干渉縞間隔SA2は、拡大レンズ上方に配置するフィラメント電極を1本として求めた干渉縞間隔である(数3)と比較すると、拡大レンズ上方に配置されたフィラメント電極の偏向角αUを2αU1としたときと等しい。したがって、同電圧を印加したときに2倍の偏向角を持つ電子線バイプリズムが構成される。
p=bL−b0L(拡大レンズ53のクロスオーバーの面にフィラメント電極1Lを配置)のとき、干渉縞間隔SA2は(数3)の干渉縞間隔Sの半分になる。またこのとき、SA2は拡大レンズ下方の電子線バイプリズムの偏向角αLにも依存しないので、拡大レンズ上方の電子線バイプリズムの偏向角、つまり拡大レンズ上方の電子線バイプリズムに取り付けたフィラメント電極の印加電圧のみに依存する。
干渉領域幅WAは、図24の光学系から図39の(数13)のように表すことができる。なお(数13)において、a1は拡大レンズ53の上方の電子線バイプリズムの第1のフィラメント電極11の半径である。
(数13)には、偏向角αU1、及び偏向角αU2は含まれていないので、干渉領域幅WAは偏向角αU1やαU2を変えても変化しない。つまり、拡大レンズ上方の電子線バイプリズムに印加する電圧には依存しない。なお、(数10)と(数13)を導いた仮定は現実の電子光学系では十分に成立している条件である。
上記では、拡大レンズ上方の電子線バイプリズムのフィラメント電極を2本として、光学系を考えてきた。〈実施例3〉や〈実施例4〉のように拡大レンズ上方の電子線バイプリズムのフィラメント電極が3本以上のときも同様にして、対物レンズによる試料の像面の位置を第1(最上段)のフィラメント電極11に合わせ、拡大レンズの上方に配置された電子線バイプリズムのすべてのフィラメント電極、および、拡大レンズの下方に配置された電子線バイプリズムのフィラメント電極1Lに正の電圧を印加した光学系を本実施例では考える(図24(B))。なお、図24(B)では、拡大レンズ上方の電子線バイプリズムのフィラメント電極を3本として描いてある。また〈実施例5〉のように、板状フィラメント電極のときも同様にして、対物レンズによる試料の像面の位置を板状フィラメント電極の上端部分に合わせた光学系を本実施例では考える(図24(C))。
フィラメント電極が2本の電子線バイプリズムを透過電子顕微鏡に実機搭載し、上記の干渉光学系で低倍率観察した電子顕微鏡像(図6(A)に該当)を図25に示す。黒い帯状のコントラスト3本がフィラメント電極で、交差している2本が上段電子線バイプリズムのフィラメント電極であり、独立した1本が下段電子線バイプリズムのフィラメント電極である。本実験では、上段電子線バイプリズムの2本のフィラメント電極がなす方位角を4.5°とした。下段電子線バイプリズムのフィラメント電極(フィラメント電極1L)の両側に見られる白い線はフレネル縞であり、このフィラメント電極が拡大レンズによる試料の像面に位置していないことがわかる。また、上段電子線バイプリズムの2本のフィラメント電極のうち、光源に近い側のフィラメント電極(フィラメント電極11)に対物レンズによる試料の像面を一致させ、光源に遠い側のフィラメント電極(フィラメント電極12)は像面と異なる位置に配置されているが、図25が低倍率のためにフレネル縞の発生は明確ではない。
上段電子線バイプリズムの2本のフィラメント電極のうち、第1のフィラメント電極(フィラメント電極11)に対物レンズによる試料の像面を一致させた光学系(図24(A))において、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧を変化させたときの干渉縞間隔の変化を図26(A)に示す。図では、(数10)の関係が成立することをわかりやすくするために、縦軸を干渉縞間隔の逆数1/SA、横軸を上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧で示している。なお、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧は50V、100V、150Vの3通りを示している。上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧を大きくするに従い、干渉縞間隔が狭くなっている。また、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧を大きくするに従い、干渉縞間隔が狭くなっている。(数10)からわかるように、1/SA0はαU1≒αU2のとき、上段電子線バイプリズムによる電子線の偏向角と下段電子線バイプリズムによる電子線の偏向角に比例する。したがって、上段電子線バイプリズムおよび下段電子線バイプリズムへの印加電圧を大きくするに従い、干渉縞間隔が狭くなることは(数10)で説明できる。図26(B)は、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧を40V、80V、120V、160Vとしたときの干渉領域幅WAの変化を示したものである。干渉領域幅WAは、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧にほとんど依存していないことが分かる。この結果は、(数13)のWAがαUを変数として含まないことと一致している。
〈実施例7〉
図27(A)は、対物レンズ52による試料の像面を第2(下段)のフィラメント電極12に合わせ、拡大レンズ53の上方に配置されたフィラメント電極11とフィラメント電極12、および、拡大レンズ53の下方に配置されたフィラメント電極1Lに正の電圧を印加したときの光学系である。図24(A)のときと同様に、電子線はそれぞれのフィラメント電極で光軸に近づく方向に偏向され、拡大レンズによる試料の像面に試料の像63が形成される。図24(A)の光学系から干渉縞間隔を求めたときと同様の方法で干渉縞間隔SB0を求めると、図39の(数14)のようになる。
〈実施例6〉と同様に、2本のフィラメント電極間の距離d1は、aU、aL、a0L、bU、bL、b0U、b0Lに比べて十分小さく無視することができると仮定すると、干渉縞間隔SB0は、(数11)のSA1と同式の干渉縞間隔SB1と近似できる。フィラメント電極間の距離d1が無視できるほど小さいとしたとき、対物レンズ52による試料の像面の位置をフィラメント電極11に合わせたときとフィラメント電極12に合わせたときの区別ができなくなる。このことは、図24(A)及び図27(A)の光学系の図から導いた干渉縞間隔SA1及びSB1が等しくなっていることからも明らかである。
〈実施例6〉と同様にして、第1のフィラメント電極11と第2のフィラメント電極12の偏向係数kが等しいとすると、(数2)より第1のフィラメント電極11の偏向角αU1と第2のフィラメント電極12の偏向角αU2はほとんど等しいと近似できる(αU1≒αU2)。したがって、干渉縞間隔SB1は、(数12)のSA2と同式の干渉縞間隔SB2と近似できる。
干渉領域幅WBは、拡大レンズ53による試料の像面が上方の電子線バイプリズムのフィラメント電極位置であることを考慮すると、(数13)の干渉領域幅WAの第2項の第1のフィラメント電極の半径a1を第2のフィラメント電極の半径a2に置き換えたものとなる。
上記では、拡大レンズ上方の電子線バイプリズムのフィラメント電極を2本として、光学系を考えてきた。〈実施例3〉や〈実施例4〉のように拡大レンズ上方の電子線バイプリズムのフィラメント電極が3本以上のときも同様にして、対物レンズによる試料の像面の位置を第3(最下段)のフィラメント電極13に合わせ、拡大レンズの上方に配置された電子線バイプリズムのすべてのフィラメント電極、および、拡大レンズの下方に配置された電子線バイプリズムのフィラメント電極1Lに正の電圧を印加した光学系を本実施例では考える(図27(B))。なお、図27(B)では、拡大レンズ上方の電子線バイプリズムのフィラメント電極を3本として描いてある。また〈実施例5〉のように、板状フィラメント電極のときも同様にして、対物レンズによる試料の像面の位置を板状フィラメント電極の上端部分に合わせた光学系を本実施例では考える(図27(C))。
図24(A)の光学系と図27(A)の光学系で得られる試料の像を比較すると、像に重畳するフレネル縞の領域に違いが生じると予測できる。電子線がフィラメント電極端を通過する際に、フレネル回折波が発生する。フィラメント電極がレンズによる試料の像面と異なる位置に配置されていると、フレネル回折波によりフレネル縞がホログラムに現れる。図24(A)の光学系では、第2のフィラメント電極12がレンズによる試料の像面と異なる位置に配置されているため、フィラメント電極12で発生したフレネル回折波によりフレネル縞がホログラムに現れる。一方、図27(A)の光学系では、第1のフィラメント電極11がレンズによる試料の像面から異なる位置に配置されているため、フィラメント電極11で発生したフレネル回折波によりフレネル縞がホログラムに現れる。しかし、第1のフィラメント電極11のフレネル回折波の中には、第2のフィラメント電極12により遮断されるものがある。したがって、図27(A)の光学系で得られるホログラムの方が、図24(A)の光学系で得られるホログラムよりもフレネル縞の影響が小さいと推測できる。
図27(A)の干渉光学系(上段電子線バイプリズムの第2のフィラメント電極(フィラメント電極12)に対物レンズによる試料の像面が一致)で、2本のフィラメント電極がなす方位角を4.5°としたときの試行結果を図28及び図29に示す。図28(A)、図28(B)、図28(C)は、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧をそれぞれ50V、90V、130V、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧を50Vに固定したとき、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極への印加電圧に対する干渉縞の変化を示したものである。上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧を大きくするに従い、干渉縞間隔SBが狭くなっている様子がわかる。また、干渉領域幅WBは、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧を変化させても変化しないことがわかる。
上記の干渉光学系(図27(A))で、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧を変化させたときの干渉縞間隔の変化を図29(A)に示す。図では、(数14)の関係が成立することをわかりやすくするために、縦軸を干渉縞間隔の逆数1/SB、横軸を上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧で示している。なお、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧は50V、100V、150Vの3通りである。上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧を大きくするに従い、干渉縞間隔が狭くなっている。また、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧を大きくするに従い、干渉縞間隔が狭くなっている。(数14)からわかるように、1/SB0はαU1≒αU2のとき上段電子線バイプリズムによる電子線の偏向角と下段電子線バイプリズムによる電子線の偏向角に比例する。したがって、上段電子線バイプリズムおよび下段電子線バイプリズムへの印加電圧を大きくするに従い、干渉縞間隔が狭くなることは(数14)で説明できる。図29(B)は、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧を40V、80V、120V、160Vとしたときの干渉領域幅WBの変化を示したものである。干渉領域幅WBは、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧にほとんど依存していない。この結果は、WBがαUを変数として含まないことと一致している。
〈実施例8〉
図30(A)は、対物レンズ52による試料の像面を第1(上段)のフィラメント電極11に合わせ、拡大レンズ53の上方に配置されたフィラメント電極11とフィラメント電極12、および、拡大レンズ53の下方に配置されたフィラメント電極1Lに負の電圧を印加したときの光学系である。対物レンズ52を通過した電子線は、第1のフィラメント電極11により偏向角αU1、第2のフィラメント電極12により偏向角αU2だけそれぞれ曲げられて光軸から遠ざかり、拡大レンズ53を通過する。その後電子線はクロスオーバーを作り、下方のフィラメント電極1Lにより偏向角αLだけ曲げられて光軸から遠ざかった後、拡大レンズ53による試料の像面に試料の像63を形成する。なお、電子線は光軸から遠ざかるので、上記の定義より偏向角αU1、αU2、αLは負である。
拡大レンズ53のクロスオーバーの面での光軸と虚光源22vの距離L22vは、拡大レンズ53のクロスオーバーの面での光軸と実光源22rとの距離L22rから実光源22rと虚光源22vとの距離L22rvを差し引いたものである。ここでL22rは、拡大レンズ53の光源に対する結像の関係から、対物レンズ52のクロスオーバーの面での光軸(実光源21r)と虚光源21vとの距離L21v(L21rv)にb0L/a0Lをかけたものとなる。したがってこのとき形成される像の干渉縞間隔SC0は、図39の(数15)のように表すことができる。
〈実施例6〉と同様に、2本のフィラメント電極間の距離d1は、aU、aL、a0L、bUbL、b0U、b0Lに比べて十分小さいので、無視することができると仮定すると、干渉縞間隔SC0は、図39の(数16)のように干渉縞間隔SC1と近似できる。
干渉縞間隔SC1は、拡大レンズの上に配置するフィラメント電極を1本として求めた干渉縞間隔である式(3)と比較すると、拡大レンズの上に配置されたフィラメント電極の偏向角αUをαU1+αU2としたときと等しい。これにより、拡大レンズ上方の第1の電子線バイプリズムの偏向角が、第1のフィラメント電極11による偏向角αU1と第2のフィラメント電極12による偏向角αU2の和になっていることがわかる。
〈実施例6〉と同様にして、第1のフィラメント電極11と第2のフィラメント電極12の偏向係数kが等しいとすると、(数2)より第1のフィラメント電極11の偏向角αU1と第2のフィラメント電極12の偏向角αU2はほとんど等しいと近似できる(αU1≒αU2)。したがって、(数16)で表された干渉縞間隔SC1は図40の(数17)のように干渉縞間隔SC2と近似できる。
また、干渉領域幅は拡大レンズ53の下方に配置された電子線バイプリズムの偏向角に依存するので、図30(A)の干渉領域幅WCは図24(A)の干渉領域幅WAと等しく、偏向角の符号に注意して図40の(数18)のように表すことができる。
上記では、拡大レンズ上方の電子線バイプリズムのフィラメント電極を2本として、光学系を考えてきた。〈実施例3〉や〈実施例4〉のように拡大レンズ上方の電子線バイプリズムのフィラメント電極が3本以上のときも同様にして、対物レンズによる試料の像面の位置を第1(最上段)のフィラメント電極11に合わせ、拡大レンズの上方に配置された電子線バイプリズムのすべてのフィラメント電極、および、拡大レンズの下方に配置された電子線バイプリズムのフィラメント電極1Lに負の電圧を印加した光学系を本実施例では考える(図30(B))。なお、図30(B)では、拡大レンズ上方の電子線バイプリズムのフィラメント電極を3本として描いてある。また〈実施例5〉のように、板状フィラメント電極のときも同様にして、対物レンズによる試料の像面の位置を板状フィラメント電極の上端部分に合わせた光学系を本実施例では考える(図30(C))。
図30の光学系を図24の光学系と比較すると、拡大レンズ53による試料の像面63で参照波と物体波の位置関係が左右反対になっていることがわかる。
図30(A)の干渉光学系(上段電子線バイプリズムの第1のフィラメント電極(フィラメント電極11)に対物レンズ52による試料の像面が一致)で、2本のフィラメント電極がなす方位角を4.5°としたときの試行結果を図31に示す。図31(A)は、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧を変化させたときの干渉縞間隔の変化を示している。図では、(数15)の関係が成立することをわかりやすくするために、縦軸を干渉縞間隔の逆数1/SC0、横軸を上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧で示している。なお、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧は−50V、−100V、−150Vの3通りである。上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧の絶対値を大きくするに従い、干渉縞間隔が狭くなっている。また、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧の絶対値を大きくするに従い、干渉縞間隔が狭くなっている。(数15)からわかるように、1/SC0は、αU1≒αU2のとき、上段電子線バイプリズムによる電子線の偏向角と下段電子線バイプリズムによる電子線の偏向角に比例する。したがって、上段電子線バイプリズムへの印加電圧の絶対値を大きくするに従い干渉縞間隔が狭くなることおよび、下段電子線バイプリズムへの印加電圧の絶対値を大きくするに従い干渉縞間隔が広くなることは、(数15)で説明できる。図31(B)は、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧を−200V、−240V、−280V、−320Vとしたときの干渉領域幅WCの変化を示したものである。干渉領域幅WCは、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧にほとんど依存していないことが分かる。この結果は、(数18)のWCがαUを変数として含まないことと一致している。
〈実施例9〉
図32(A)は、対物レンズによる試料の像面を第2(下段)のフィラメント電極12に合わせ、拡大レンズの上に配置されたフィラメント電極11とフィラメント電極12、および、拡大レンズの下に配置されたフィラメント電極1Lに負の電圧を印加したときの光学系である。図30(A)のときと同様に、電子線はそれぞれのフィラメント電極で光軸から離れる方向に偏向され、拡大レンズによる試料の像面に試料の像63が形成される。図30(A)の光学系から干渉縞間隔を求めたときと同様の方法で干渉縞間隔SD0を求めると、図40の(数19)のようになる。
〈実施例6〉と同様にして、2本のフィラメント電極間の距離d1は、aU、aL、a0L、bU、bL、b0U、b0Lに比べて十分小さく無視することができると仮定すると、干渉縞間隔SD0は、(数16)のSC1と同式の干渉縞間隔SD1と近似できる。フィラメント電極間の距離d1が無視できるほど小さいとしたとき、対物レンズ52による試料の像面の位置をフィラメント電極11に合わせたときとフィラメント電極12に合わせたときの区別ができなくなる。このことは、図30(A)及び図32(A)の光学系の図から導いた干渉縞間隔SC1及びSD1が等しくなっていることからも明らかである。
〈実施例6〉と同様にして、第1のフィラメント電極11と第2のフィラメント電極12の偏向係数kが等しいとすると、(数2)より第1のフィラメント電極11の偏向角αU1と第2のフィラメント電極12の偏向角αU2はほとんど等しいと近似できる(αU1≒αU2)。したがって、干渉縞間隔SD1は、(数17)のSC2と同式の干渉縞間隔SD2と近似できる。また干渉領域幅WDは、拡大レンズ53による試料の像面の位置が上方の電子線バイプリズムのフィラメント電極の位置であることを考慮すると、(数18)の干渉領域幅WCの第2項の第1のフィラメント電極の半径a1を第2のフィラメント電極の半径a2に置き換えたものとなる。
上記では、拡大レンズ上方の電子線バイプリズムのフィラメント電極を2本として、光学系を考えてきた。〈実施例3〉や〈実施例4〉のように拡大レンズ上方の電子線バイプリズムのフィラメント電極が3本以上のときも同様にして、対物レンズによる試料の像面の位置を第3(最下段)のフィラメント電極13に合わせ、拡大レンズの上方に配置された電子線バイプリズムのすべてのフィラメント電極、および、拡大レンズの下方に配置された電子線バイプリズムのフィラメント電極1Lに負の電圧を印加した光学系を本実施例では考える(図32(B))。なお、図32(B)では、拡大レンズ上方の電子線バイプリズムのフィラメント電極を3本として描いてある。また〈実施例5〉のように、板状フィラメント電極のときも同様にして、対物レンズによる試料の像面の位置を板状フィラメント電極の上端部分に合わせた光学系を本実施例では考える(図32(C))。
図30(A)の光学系と図32(A)の光学系で得られる試料の像を比較すると、像に重畳するフレネル縞の領域に違いが生じると予測できる。図30(A)の光学系では、第2のフィラメント電極12がレンズによる試料の像面と異なる位置に配置されているため、フィラメント電極12で発生したフレネル回折波によりフレネル縞がホログラムに現れる。しかし、第1のフィラメント電極11のフレネル回折波は、影の領域に入るため、ホログラムには現れない。一方、図32(A)の光学系では、第1のフィラメント電極11がレンズによる試料の像面と異なる位置に配置されているため、フィラメント電極11で発生したフレネル回折波によりフレネル縞が像に現れる。したがって、図30(A)の光学系の方が、図32(A)の光学系よりもフレネル縞の影響が小さいと推測できる。
フレネル縞の影響について図27(A)の光学系と図30(A)の光学系で比較する。図27(A)の光学系では、第1のフィラメント電極11のフレネル回折波の一部が第2のフィラメント電極12により遮断されるのに対し、図30(A)の光学系では第2のフィラメント電極12のフレネル回折波は影の領域に入る。したがって、フレネル縞の影響は図30(A)の光学系が一番小さいと推測できる。
図32(A)の干渉光学系(上段電子線バイプリズムの第1のフィラメント電極(フィラメント電極11)に対物レンズによる試料の像面が一致)で、2本のフィラメント電極がなす方位角を4.5°としたときの試行結果を図33に示す。図33(A)は、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧を変化させたときの干渉縞間隔の変化を示している。図では、(数19)の関係が成立することをわかりやすくするために、縦軸を干渉縞間隔の逆数1/SD0、横軸を上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧で示している。なお、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧は−50V、−100V、−150Vの3通りである。上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧の絶対値を大きくするに従い、干渉縞間隔が狭くなっている。また、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧の絶対値を大きくするに従い、干渉縞間隔が狭くなっている。(数19)からわかるように、1/SD0はαU1≒αU2のとき、上段電子線バイプリズムによる電子線の偏向角と下段電子線バイプリズムによる電子線の偏向角に比例する。したがって、上段電子線バイプリズムへの印加電圧の絶対値を大きくするに従い干渉縞間隔が狭くなることおよび、下段電子線バイプリズムへの印加電圧の絶対値を大きくするに従い干渉縞間隔が広くなることは、(数19)で説明できる。図33(B)は、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧を−200V、−240V、−280V、−320Vとしたときの干渉領域幅WDの変化を示したものである。干渉領域幅WDは、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧にほとんど依存していないことが分かる。この結果は、WDがαUを変数として含まないことと一致している。
〈実施例10〉
〈実施例1〉から〈実施例9〉では、平行平板電極を接地し、フィラメント電極に電圧を印加してきた。ここでは、平行平板電極を取り付けていない、つまり平行平板電極が電子顕微鏡の鏡体の一部分と共用されること、もしくは電子線バイプリズムホルダーの一部分と共用される場合を例とする。図34は、平行平板電極がなく、電子線バイプリズムホルダーの一部分と共用される様子を示している。なお、図34はフィラメント電極を2段重ねたときの模式図である。また、本実施例は、〈実施例1〉から〈実施例9〉のすべてに当てはめることが可能である。そして〈実施例1〉と同様に、例えば図10(H)に示す透過電子顕微鏡装置に取り付けることでホログラムの作製が可能となる。本実施例では、平行平板電極を取り付ける必要がないので、電子線バイプリズムの作製が容易となる。
〈実施例11〉
〈実施例1〉から〈実施例9〉では、平行平板電極を接地し、フィラメント電極に電圧を印加してきた。ここでは、図35のように平行平板電極に電圧を印加し、フィラメント電極を接地する。なお、図35はフィラメント電極を2段重ねたときの模式図である。また本実施例は、〈実施例1〉から〈実施例9〉のすべてに当てはめることが可能である。そして〈実施例1〉と同様に、例えば図10(H)に示す透過電子顕微鏡装置に取り付けることでホログラムの作製が可能となる。本実施例では、フィラメント電極に電圧を印加する必要がないので、装置の構造が容易となる。
〈実施例12〉
〈実施例1〉から〈実施例9〉では、平行平板電極を接地し、フィラメント電極に電圧を印加してきた。ここでは、図36のように平行平板電極とフィラメント電極の両方に電圧を印加する。なお、図36はフィラメント電極を2段重ねたときの模式図である。また本実施例は、〈実施例1〉から〈実施例9〉のすべてに当てはめることが可能である。そして〈実施例1〉と同様に、例えば図10(H)に示す透過電子顕微鏡装置に取り付けることでホログラムの作製が可能となる。本実施例では、フィラメント電極と平行平板電極とに異なる電圧を印加することで、フィラメント電極と平行平板電極との間の電位差を大きくできる。その結果、電子線の偏向角を大きくでき、ホログラム再生時の空間分解能が高くなる。