JP5659965B2 - レール鋼のフラッシュバット溶接方法 - Google Patents

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Description

本発明は、レール鋼溶接部とくに高炭素過供析レール鋼の熱影響部(HAZ)の軟化を抑制し、レールの偏摩耗及び表面損傷を低減することができるレールのフラッシュバット溶接方法に関するものである。
フラッシュバット溶接は鉄鋼材料の溶接方法として広く普及している。その特徴として、自動化が可能であり、品質の安定性が高く、溶接時間が短いなどの長所を有することが知られている。
フラッシュバット溶接は、通常、初期フラッシュ工程、予熱工程、後期Iフラッシュ工程、後期IIフラッシュ工程(後期I、後期IIフラッシュ工程を併せて後期フラッシュ工程と呼ぶ場合もある)、アプセット工程から構成されている。
初期フラッシュ工程は、対向配置された鋼材(本発明の場合は、レール鋼を対象としている)を近接させ、短絡電流による抵抗加熱により鋼材端面を加熱する工程である。
予熱工程は、ある程度加熱した鋼材を強制的に加圧接触させ、一定時間大電流を流すことにより端面をさらに加熱する工程である。これを数回繰り返すことにより、鋼材端面の温度を後期フラッシュ工程に必要な程度まで加熱する。
後期Iフラッシュ工程、後期IIフラッシュ工程は、初期フラッシュ工程同様に、鋼材を近接させ、短絡電流により急速加熱させ、端面を局所的に溶融させ、溶融部の橋絡によるアークを発生させ、その輻射熱で端面を加熱する工程である。後期Iフラッシュ工程は、鋼材を接近させる速度が比較的遅く、その溶損長さ(鋼材長手方向の溶融長さ)は大きくない。後期IIフラッシュ工程は、鋼材の接近速度を大きくし、その溶損長さも加速度的に大きくする工程である。このとき、鋼材端面全面が溶融状態となっている。このフラッシュ工程において生じる溶損長さをフラッシュ長さという。
アプセット工程は、鋼材端面の全面が溶融状態となったところで、大加圧により鋼材端面同士を急速に密着させ、接合部を形成する工程である。
フラッシュバット溶接は加熱により材料端面を溶かした後、溶融面を加圧密着させてお互いの材料を接合する技術である。鋼材は室温から融点まで加熱するまでの昇温過程と、その後の冷却過程を経るため、金属組織に変化が生じる。溶接に伴う被溶接材の組織、硬さなど機械的性質の変質域は熱影響部(HAZ(Heat Affected Zone))と呼ばれる。
通常の溶接過程においては、金属組織の変化に伴い、硬度が低下し、鋼材の溶接部が軟化する。レールの溶接の場合、溶接による軟化部のレール長手方向長さが長く、またさらに硬度低下が著しいと、レールの頭部における車輪の通過により、軟化部で偏摩耗が進むことになり、さまざまな問題が生じる。
このため、レールのフラッシュバット溶接において、溶接部の軟化の問題に対して、次のような技術が提案されている。
特許文献3においては、車輪とレールとの接触範囲が、レールの断面内において少なくともレールの頭頂面を含んでおり、頭頂面における接触範囲のレール軸方向の長さが15mm以上であり、かつ頭頂面と接触する部分の厚みが10mm以上の当て金4を、当て金4のレール端面側の先端が溶接前のレール端面から20mm以上50mm以内に位置するように装着した状態で、レールをフラッシュバット溶接することにより、溶接の際にレールの頭部1を当て金4により冷却することが開示され、その結果、母材硬度よりHv50以上低下している長手方向の幅を15mm以下にすることができることが示されている。
特許文献4においては、熱間圧延用鋼片を鋼片加熱炉から抽出後、第1圧延機に供給される間に交流電源のフラッシュ溶接機により溶接するに際し、後期フラッシュ代(フラッシュ長さ)の範囲が2から6mm、後期フラッシュ速度の範囲が1から3.5mm/secの例が示されている。
ここで、フラッシュ速度は以下の関係をいう。
フラッシュ速度=フラッシュ長さ(フラッシュ工程による溶損長さ)/フラッシュ工程に要した時間。
即ち、特許文献4における後期フラッシュ速度は、(全フラッシュ長さ−前期フラッシュ長さ)/(全フラッシュ時間−前期フラッシュ時間)のことをいう。
特許文献5においては、先行する被圧延材の後端を、後行する被圧延材の先端にフラッシュバット溶接により接合し、ついで下流の圧延機列にて連続的に圧延し金属仕上げ材とする、金属材の連続圧延方法において、フラッシュ量Y(mm)と被圧延材の太さ(mm)との関係が、
0.1 D≦Y<0.30D
を満足するように設定して接合することが示されている。
ここで、フラッシュ量Yは、フラッシュバット溶接において、アークによって溶解除去される長さの合計とされている。
非特許文献2では、レールのフラッシュ溶接で、良好な品質のフラッシュ溶接継手を得る方法として、アプセット直前のフラッシング速度を急速に増し、突合せ端面を平坦で滑らかにする方法を示している。具体的には、最終フラッシング速度が1.0〜1.25mm/secであれば良いと示している。この時のフラッシュ量(フラッシュ長さ)は3mmと記されている。
特許文献6においては、後期フラッシュ速度が2.1mm/sec以上であり、溶接継手部のHAZ幅が27mm以下、かつ軟化幅が10mm以下であることを特徴とするフラッシュバット溶接方法が記されている。
特開平06−145791号公報 特開2001−152291号公報 特開2007−289970号公報 特開昭53−007559号公報 特開2002−346611号公報 特願2009−251071号公報
日刊工業新聞社 溶接冶金学 溶接学会軽構造接合加工研究会編 抵抗溶接現象とその応用(IV)
レール溶接部の軟化部が、レール長手方向に長く、また硬度低下が著しいと、車輪の通過により、軟化部で偏摩耗が進む。それは、騒音振動の原因となるだけでなく、レールの寿命低下につながる。また、偏摩耗が大きくなると、車輪通過時にレールへの衝撃が大きく、レールの疲労破壊の原因となり、大事故につながるおそれもある。しかし、軟化部の発生に対して、上記従来技術には、次のような問題がある。
特許文献3で示されているように、車輪とレールの接触領域は15mm程度と考えられることから、特許文献2のように、HAZ幅が42mm程度、軟化幅が25から30mm程度の場合、軟化部で偏摩耗が進み車輪通過時にレールへの衝撃が大きく、レールの疲労破壊の原因となりやすい。
また、特許文献3のように当て金を装着する方法は、別途用意された当て金を指定された範囲に装着する必要がある。しかし、突合せ端面に極めて近く飛散した溶融金属が固着するため当て金の脱着が容易ではなく、さらに固着したフラッシュの除去も手間を要すため、自動化され溶接能率の高いフラッシュバット溶接の利点を損なう問題点がある。
特許文献4では、後期フラッシュ速度が1から4mm/secと比較的速い速度であることが示されているが、この被溶接材は加熱炉から抽出された高温加熱鋼片であり、突合せ端面のみならずそれ以外も十分に高温であるために、フラッシュが発生しやすくフリージングが生じにくい条件であり、フラッシュ速度を速くすることが容易な条件である。そのため、レールを常温の状態から加熱するような通常のレール鋼の溶接に適用することはできない。
特許文献5は、レール長手方向に垂直な断面積が8500mm2以上の重荷重用レールで、フラッシュ量(フラッシュ長さ)が5mmから16mmの範囲の場合の溶接方法である。しかしながら、被溶接材は加熱炉から抽出されたビレット等の金属素形材や、該金属素形材を所定寸法の金属粗材に圧延した後、金属素形材や金属粗材を被圧延材であり、圧延ライン内で先行する被圧延材と後行する被圧延材とを接合して、連続圧延する金属材の連続圧延方法に関するもので、突合せ端面のみならずそれ以外も十分な高温条件であり、特許文献4同様、レールを常温の状態から加熱するような通常のレール鋼の溶接に適用することはできない。
非特許文献2では、レールのフラッシュバット溶接方法ではあるが、曲げ性能に論点を置いた記述内容であり、最終フラッシュ速度が遅く、フラッシュ量(フラッシュ長さ)が十分でないため狭い軟化幅は得られない。
特許文献6では、溶接継手部のHAZ幅が27mm以下、かつ軟化幅が10mm以下であることを特徴とするフラッシュバット溶接方法が記されている。しかしながら、更に耐摩耗性・耐損傷性を向上させるためには、HAZ幅・軟化幅を更に狭くする必要がある。
本発明は、従来技術が解決することができなかった課題、即ち、常温の状態から加熱する通常のレール鋼の溶接においてレール溶接部の軟化を抑制し、その軟化幅とHAZ幅を小さくし、その結果、レールの偏摩耗を低減することができるレールのフラッシュバット溶接方法を提供することを目的とする。
本明細書で用いるフラッシュバット溶接における呼称及びフラッシュバット溶接方法の例を、図1、3を用いて説明する。フラッシュバット溶接の工程についてはとくに限定しないが、本発明者が用いたフラッシュバット溶接は、図3に示すように初期フラッシュ工程、予熱工程、後期Iフラッシュ工程、後期IIフラッシュ工程、アプセット工程からなる。
各フラッシュ工程において溶融金属が飛散し被溶接物が溶損除去された部分の、レール鋼長手方向の長さがフラッシュ長となる。
各フラッシュ工程における、フラッシュ長さを当該フラッシュ工程で要した時間で除した値がフラッシュ速度となる。
フラッシュバット溶接方法の原理を、図1の(a)〜(d)を用いて説明する。
図1(a)に示すように、対向して設置された被溶接材料としてのレール鋼1に、電源3から電極2を介して電圧をかける。レール鋼1を矢印4方向に移動させて、レール鋼の互いの端面を徐々に接近させると、局所的に短絡電流が流れ、抵抗発熱により急速に加熱され溶融に至り、レール鋼間は溶融金属で橋絡される。この橋絡部では、図1(b)に示すように、アークが発生し、溶融金属の一部が飛散するとともに輻射熱で端面を加熱し、これらを連続的に繰り返す。これは初期フラッシュ工程と呼ばれる(図1(b))。初期フラッシュ工程は、引き続き行われる端面同士を接触させて通電し大入熱を与える予熱工程を効率的に行うために、溶接開始前に存在する端面間の垂直度不良を、フラッシュによる溶融金属の飛散により解消する役割を持つ。
また、図1(c)は予熱工程である。フラッシュ工程における部材全体への入熱を短時間で行うことを目的とし、レール鋼を強制的に接触させ停止した後に一定時間大電流を流し、抵抗発熱により端面付近を加熱し、その後、レール鋼を引き離す過程を数回繰り返す。これらは予熱工程と呼ばれる。
また、溶接は大気雰囲気で行われるため、形成される溶融金属部には多量の金属酸化物が生成する。
図1(d)は後期Iフラッシュ工程、(e)は、後期IIフラッシュ工程である。これら後期フラッシュ工程の原理は、初期フラッシュ工程と同じである。
当該工程の目的は、予熱工程で生成した上記金属酸化物を、飛散させることである。金属酸化物が溶接面に残存すると、レール溶接部の性能に要求される曲げ性能が低下する原因となるからである。実際低荷重で破断した継手の破面を観察すると、金属酸化物が存在し、当該部が破断の起点となっている。その方法として、予熱工程で生成した酸化物を、フラッシュ飛散により排出することが有効である。
また当該工程中で新たな酸化物を生じさせないようにするには、単位時間当たりの溶損長さ、すなわちフラッシュ速度を速め、単位時間当たりのフラッシュ飛散量を多くし、その金属蒸気の発生量を多くすることで、溶接面の酸素分圧を低下させることが効果的である。
しかしながら、予熱後急激にフラッシュ速度を早めると、アーク及び溶融金属の飛散が生じることなく、接触面積が大きくなり大電流が流れ、連続フラッシュが生じないフリージングという現象が生じる。このフリージングは、曲げ性能を阻害する要因となる酸化物を生成させるので注意を要する。フリージングを生じさせないようにするには、適正な入熱とフラッシュ速度のバランスが重要である。
速度の増加方法については特に限定はしないが、フリージングを防止するために予熱工程直後は比較的低いフラッシュ速度とし、その後高速なフラッシュ速度を設定することが好ましい。よって、予熱工程以降のフラッシュ工程(これを後期フラッシュ工程とよぶ)を2段階に分け、前半の比較的フラッシュ速度が遅い領域を後期Iフラッシュ工程(図1(d))、その後フラッシュ速度を早めた工程を後期IIフラッシュ工程(図1(e))と呼ぶ。後期Iフラッシュ工程、後期IIフラッシュ工程の各工程内は、フラッシュ長さの進行に関わらずフラッシュ速度が一定の場合、またフラッシュ長さ(溶損長さ)の進行に伴いフラッシュ速度が速くなる場合もあるが今回はとくに限定しない。
後期フラッシュ工程によって、最終的に溶接端面の全面が溶融した状態の後、図1(f)に示すように、大加圧力で部材の端面同士を急速に密着させ、端面の溶融金属の大部分を外部へ排除し、端面後方の高温に加熱された部分に加圧・変形を与えて接合部を形成する。これらはアプセット工程と呼ばれる。
このとき、溶接中に生成された酸化物は、排出されるとともに、微細・分散化され、曲げ性能を阻害する欠陥として接合面に残存する可能性を低くする。
アプセット工程で断面外に排出されたビード部は後工程において熱間せん断などにより除去される。
このようなフラッシュバット溶接は、溶接工程が自動化されており、溶接時間が1.5〜4分と短く、溶接能率が高いため、レール分野においても工場溶接法として多く採用されている。また、装置をコンパクト化して、軌道における現地溶接としても利用されている。
本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、レール鋼とくに高炭素過共析鋼レールのフラッシュバット溶接において、アプセット直前の後期IIフラッシュ工程における後期IIフラッシュ速度を速くし、つまり短時間で急入熱することにより、後期IIフラッシュ長さ(後期IIフラッシュによる溶損長さ)を大きくすることで、突合せ端面の熱分布がレール長手方向において急峻になるため、HAZ幅を小さいまま溶接できることを見出した。さらにそれに加え、アプセット加圧力を大きくすることで、接合面品質を向上させ、HAZ幅も狭くすることを見出した。これにより、軟化幅も狭くなり、その結果偏磨耗が低減されることとなり、本発明を成すに至った。その要旨は、以下の通りである。
(1)Cを0.85〜1.20質量%、Siを0.1〜2.0質量%、Mnを0.1〜2.0質量%含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、パーライト組織を有する高炭素過共析鋼であるレール鋼のフラッシュバット溶接方法であって、当該フラッシュバット溶接方法が初期フラッシュ工程、予熱工程、後期フラッシュ工程、アプセット工程からなり、後期フラッシュ工程が後期Iフラッシュ工程と後期IIフラッシュ工程で構成されるフラッシュバット溶接方法において、前記後期Iフラッシュ工程でのフラッシュ速度が、前記後期IIフラッシュ工程でのフラッシュ速度より遅く、前記後期IIフラッシュ工程におけるフラッシュ速度が0.8mm/sec〜3.0mm/secであって、前記後期IIフラッシュ工程における後期IIフラッシュ長さが以下の式(1)を満たすことを特徴とするフラッシュバット溶接方法。
後期IIフラッシュ長さ≧22.6−6×(1秒当たりの後期IIフラッシュ長さ)
・・・式(1)
(2)Cを0.85〜1.20質量%、Siを0.1〜2.0質量%、Mnを0.1〜2.0質量%含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、パーライト組織を有する高炭素過共析鋼であるレール鋼のフラッシュバット溶接方法であって、当該フラッシュバット溶接方法が初期フラッシュ工程、予熱工程、後期フラッシュ工程、アプセット工程からなり、後期フラッシュ工程が後期Iフラッシュ工程と後期IIフラッシュ工程で構成されるフラッシュバット溶接方法において、前記後期Iフラッシュ工程でのフラッシュ速度が、前記後期IIフラッシュ工程でのフラッシュ速度より遅く、前記後期IIフラッシュ工程におけるフラッシュ速度が0.8mm/sec〜3.0mm/secであって、前記後期IIの最大フラッシュ速度は、予熱回数をY、電圧をV、平均電流をI、及び初期フラッシュと後期Iフラッシュの合計時間をF、溶接機毎に固有の補正係数をGおよび溶接機毎の入熱相当量をKとした場合、以下の式(2)を満たすことを特徴とするフラッシュバット溶接方法。
後期IIの最大フラッシュ速度≦(Y×V×I×G/30,000+K×F)×0.023−2.06、もしくは3.0のどちらか小さい方
・・・式(2)
(3)Cを0.85〜1.20質量%、Siを0.1〜2.0質量%、Mnを0.1〜2.0質量%含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、パーライト組織を有する高炭素過共析鋼であるレール鋼のフラッシュバット溶接方法であって、当該フラッシュバット溶接方法が初期フラッシュ工程、予熱工程、後期フラッシュ工程、アプセット工程からなり、後期フラッシュ工程が後期Iフラッシュ工程と後期IIフラッシュ工程で構成されるフラッシュバット溶接方法において、前記後期Iフラッシュ工程でのフラッシュ速度が、前記後期IIフラッシュ工程でのフラッシュ速度より遅く、前記後期IIフラッシュ工程におけるフラッシュ速度が0.8mm/sec〜3.0mm/secであって、前記後期IIフラッシュ工程における後期IIフラッシュ長さが以下の式(1)を満たし、前記後期IIの最大フラッシュ速度は、予熱回数をY、電圧をV、平均電流をI、及び初期フラッシュと後期Iフラッシュの合計時間をF、溶接機毎に固有の補正係数をGおよび溶接機毎の入熱相当量をKとした場合、以下の式(2)を満たすことを特徴とすることを特徴とするフラッシュバット溶接方法。
後期IIフラッシュ長さ≧22.6−6×(1秒当たりの後期IIフラッシュ長さ)
・・・式(1)
後期IIの最大フラッシュ速度≦(Y×V×I×G/30,000+K×F)×0.023−2.06、もしくは3.0のどちらか小さい方
・・・式(2)
)前記溶接機毎に固有の補正係数Gが1、および前記溶接機毎の入熱相当量Kが1であることを特徴とする(2)又は(3)に記載のフラッシュバット溶接方法。
)前記アプセット工程における、アプセット加圧力が87N/mm以上であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1つに記載のフラッシュバット溶接方法。
)前記フラッシュバット溶接方法によって得られる溶接継手部の熱影響幅が25mm以下、かつ軟化幅が8.5mm以下であることを特徴とする(1)〜()のいずれか1に記載のフラッシュバット溶接方法。
本発明によれば、フラッシュバット溶接時の後期IIフラッシュ速度を速く、後期IIフラッシュ長さを大きくすることで、突合せ端面近傍の熱分布が急峻になるため、HAZの幅が狭くなり、軟化幅も狭くなる。その結果、頭部における車輪との接触による偏摩耗が減少するため、列車の乗り心地が向上し、騒音・振動が低減し、レール表面に生じる損傷が低減するという効果が得られる。また、偏摩耗の減少や表面の損傷の低減などの結果、レール表層のグラインダ切削の周期延長、レール交換の周期延長にも寄与することができる。
フラッシュバット溶接方法を示す模式図であり、(a):レール鋼と電極等の配置、(b):フラッシュ工程、(c):予熱工程、(d):アプセット工程をそれぞれ示す。 フラッシュバット溶接継手のマクロ断面と硬さ分布の一例を示す図である。 フラッシュバット溶接の各工程における溶損長さの変化の一例を示す図である。 後期IIフラッシュ速度とHAZ幅の関係を示す図である(予熱7回)。 後期IIフラッシュ速度とHAZ幅の関係を示す図である(予熱4回)。 後期IIフラッシュ速度とHAZ幅の関係を示す図である(予熱10回)。 予熱条件、フラッシュ条件と後期IIの最大フラッシュ速度の関係を示す図である。 HAZ幅と軟化幅の関係を示す図である。 後期IIフラッシュ速度と4点曲げ最大たわみ量の関係を示す図である。 転動疲労試験機の概要を示す図である。 転動疲労試験で得られたHAZ幅と偏摩耗深さの関係を示す図である。 アプセット荷重とHAZ幅の関係を示す図である。 アプセット荷重と4点曲げ最大たわみ量の関係を示す図である。 後期IIフラッシュ長さとHAZ幅の関係(後期IIフラッシュ速度2.1mm/sec)を示す図である。 後期IIフラッシュ速度2.1mm/secのときの後期IIフラッシュ長さと4点曲げ最大たわみ量の関係を示す図である。 後期IIフラッシュ長さとHAZ幅の関係(後期IIフラッシュ速度2.5mm/sec)を示す図である。 後期IIフラッシュ長さとHAZ幅の関係(後期IIフラッシュ速度1.2mm/sec)を示す図である。 後期IIフラッシュ速度増で得られたマクロ断面と硬さ分布を示す図である。 後期IIフラッシュ長さと、必要な後期IIフラッシュ長さの関係を示す図である。 後期IIフラッシュ長さと、後期IIフラッシュ工程の所要時間の関係を示す図である。
上記したように、フラッシュバット溶接は加熱により材料端面を溶かした後、溶融面を加圧密着させてお互いの材料を接合する技術である。鋼材は室温から融点まで加熱するまでの昇温過程と、その後の冷却過程を経るため、金属組織に変化が生じる。溶接に伴う被溶接材の組織、硬さなど機械的性質の変質域は熱影響部、HAZと呼ばれる。このHAZの範囲を求める場合、機械的性質の変質域の確認は硬さ測定などの手間を要するので、ミクロ・マクロ観察により比較的簡易に母材と識別可能な範囲をHAZと呼ぶ場合が多い(非特許文献1)。本明細書では、後述のミクロ・マクロ観察により母材と識別可能な範囲をHAZと呼ぶ。
重荷重鉄道のレールに要求される耐摩耗性を満たすレールとして、高炭素過共析鋼を用いたレール鋼はCを0.85〜1.20%、更にSiを0.1〜2.0質量%、Mnを0.1〜2.0質量%含有し、パーライト組織を呈している。パーライト組織は炭素をほとんど含まないフェライトと呼ばれる純鉄相と、セメンタイトと呼ばれる炭化鉄(FeC)の層が交互に緻密に重ねあわされた層状構造を呈している。パーライトが生成する過程では変態エネルギーがフェライトとセメンタイトの界面エネルギーに変換されるため、このような層状組織が形成される。
Siは、脱酸材として必須の成分である。また、パーライト組織中のフェライト相への固溶強化によりパーライト組織の硬度(強度)を上昇させ、パーライト組織の耐疲労損傷性を向上させる元素である。さらに、過共析鋼において、初析セメンタイト組織の生成を抑制し、疲労特性の低下を抑制する元素である。しかし、Si量が0.1%未満では、これらの効果が十分に期待できない。また、Si量が2.0%を超えると、焼入性が著しく増加し、疲労特性に有害なマルテンサイト組織が生成し易くなる。このため、Si添加量を0.1〜2.0%に限定した。
Mnは、焼き入れ性を高め、パーライトラメラ間隔を微細化することにより、パーライト組織の硬度(強度)を確保し、耐疲労損傷性を向上させる元素である。しかし、Mn量が0.1%未満では、その効果が小さく、レールに必要とされる耐疲労損傷性の確保が困難となる。また、Mn量が2.0%を超えると、焼入性が著しく増加し、疲労特性に有害なマルテンサイト組織が生成し易くなる。このため、Mn添加量を0.1〜2.0%に限定した。
また、上記の成分組成で製造されるレールは、パーライト組織の硬度(強度)の向上、すなわち、耐疲労損傷性の向上、さらには、耐摩耗性の向上、靭性の向上、溶接熱影響部の軟化の防止、レール頭部内部の断面硬度分布の制御を図る目的で、Cr、Mo、V、Nb、Co、B、Cu、Ni、Ti、Ca、Mg、Zr、Al、Nの元素を必要に応じて添加してもよい。
パーライト組織を呈するレール鋼の昇温過程における組織変化は以下のとおりである。
(1)室温から500℃まではパーライト組織は変化しない。
(2)550℃を越えると、層状組織の界面エネルギーを減らす方向の構造の変化、すなわちセメンタイトの分断、球状化が始まる。このとき温度が上がるほど、セメンタイトの球状化は進む。
(3)720℃付近からパーライト組織がオーステナイト組織へ変態を始める。その結果、金属中にフェライト、球状化したセメンタイト、オーステナイトの三相が共存する温度域が存在する。
(4)さらに温度が上昇すると、フェライトもしくはセメンタイトのいずれかの相が消失し、オーステナイトと球状化セメンタイトもしくはオーステナイトとフェライトの2相組織となる。
(5)さらに温度が上昇すると、オーステナイトの単相組織となる。
(6)さらに温度が上昇し、融点(固相線温度)を超えると、オーステナイト組織中に溶融相が生成する。
(7)さらに温度が上昇すると完全に溶融する。
溶接では突合せ端面からの距離に応じて、最高到達温度が異なる。すなわち突合せ端面では融点以上に達するが、十分に遠方の部分では室温のままである。材料には最高到達温度に従って、上記(1)〜(7)のいずれかの組織変化が生じる。具体的には、突合せ端面から十分遠方の部分から、突合せ端面に近づくにつれて、(1)パーライト域(無変化)、(2)球状化セメンタイト域、(3)オーステナイト、フェライト、球状化セメンタイトが共存する3相域、(4)オーステナイトとフェライトもしくはオーステナイトと球状化セメンタイトの2相域、(5)オーステナイト単相域、(6)溶融相とオーステナイト相が混在する領域、(7)完全溶融域、となる。
これらの組織は、溶接の加熱プロセスが終了すると、冷却により、それぞれの組織から温度低下に応じた組織変化が生じ、その組織変化に応じて硬度分布が生じる。硬度分布は組織、成分によって異なるが、本発明ではレール鋼とくに高炭素過共析鋼レールを対象とするので、重荷重鉄道用の母材硬度Hv420レベルの高強度レールの場合を例に挙げて以下説明する。
(1)パーライト域(昇温過程で組織変化を受けない部分)は冷却後も元の組織と変らない。
(2)球状化セメンタイト域において、球状化セメンタイトはそのままの状態で冷却され、室温でも球状化組織を呈する。球状化セメンタイト組織の硬度は低く、Hv300程度である。最高到達温度が上がるに従って、球状化が進むため、突合せ端面に近いほど軟化する。
(3)オーステナイト、フェライト、球状化セメンタイトが共存する3相域は温度低下に伴い、オーステナイトがパーライトに変態するが、球状化セメンタイトはそのまま室温まで冷却される。最高到達温度が上がるに従って、オーステナイト相率が増え、冷却後にパーライトとなる分率が増加するため、突合せ端面に近いほど硬度は高くなる。球状化セメンタイト組織の硬度は低く、Hv300程度である。
(4)フェライトとオーステナイト、もしくはオーステナイトとセメンタイトの2相域は、冷却時にオーステナイトがパーライト組織に変態する。最高到達温度が上がるに従って、オーステナイトの分率が増加し、冷却後にパーライトとなる分率が増加するため、突合せ端面に近いほど硬度は回復していく。
(5)オーステナイト単相域においては、オーステナイトがパーライト組織に変態する。ほぼ硬度は一定となる。
(6)溶融相とオーステナイト相が混在する領域においては、まず液相が凝固してオーステナイトになるため、オーステナイト単相になり、その後、パーライト組織に変態する。ほぼ硬度は一定となる。
(7)溶融域は、まず凝固してオーステナイト単相になり、その後、パーライト組織に変態する。ほぼ硬度は一定となる。
いずれの温度域から冷却された部位でも、最終的にはフェライトとセメンタイトの層状組織となり、母材と同じパーライト組織である。上記(2)〜(3)の領域は球状化したセメンタイト組織が含まれるため軟化しており、球状化セメンタイト組織の分率に応じて硬度変化が生じることになる。
このためレール溶接部には硬度が低下した軟化部が生じる。軟化部のレール長手方向長さが長く、またさらに硬度低下が著しいと、レールの頭部における車輪の通過により、軟化部で偏摩耗が進むことになり、さまざまな問題が生じる。
特許文献2には、フラッシュバット溶接されたパーライト鋼の継手の溶接部硬さ分布が示されており、この文献では、HAZ幅は42mm程度、軟化幅は25から30mm程度となっている。
特許文献3には、鉄道レールでは、軟化幅は車輪とレールの接触領域程度より小さければ、偏摩耗は起こりにくいこと、車輪とレールの接触領域は15mm程度と考えられることから、母材硬度からHv50以上低下した軟化幅は15mm以下となることが望ましいことが記載されている。
図2に、高炭素過共析鋼レールをフラッシュバット溶接して形成された継手の溶接部の長手方向マクロ断面と、レール表層から下方に5mm位置の硬さ分布の例を示す。
溶接には、AC電源で変圧器容量240kVA、最大アプセット荷重700kNのフラッシュ溶接機を用い、予熱回数は7回、かつ後述の図3で示す初期フラッシュ工程と後期Iフラッシュ工程の合計時間は、120sec、後期IIフラッシュ工程における後期IIフラッシュ速度は0.5mm/sec、後期IIフラッシュ長さが3mmの場合の例である。
図2からわかるように、マクロ断面から判断されるHAZ境界は、硬さ変化が生じた範囲よりも溶接中央部側に位置し、硬さが最も低下した位置の若干外側に位置している。図2の例では、HAZ幅は35mmで、軟化幅は19mmとなり、上述の偏摩耗の恐れがある結果となっている。
なお、軟化幅は、本発明においては、母材の硬さを下回る範囲とする。実際には、母材硬さにも若干のばらつきが生じるため、(母材硬さの平均値−3×標準偏差)を下回る範囲とする。
ただし、溶接中央部については、特許文献1に示すように熱処理を行えば母材同等の硬さに回復させることが可能なため、基本的には軟化部に含めない。熱処理を実施せず、または熱処理の効果が少なく、溶接中央部の硬さが母材硬さに満たない場合では、硬さ分布の溶接中央部側に補助線を引き、この線が前述の(母材硬さの平均値−3×標準偏差)と交わる範囲を軟化幅とする。図2では、この方法によって求めて、軟化幅は19mmとした。
本発明者らは、そのような重荷重鉄道のレール鋼(Cを0.85〜1.20%含有し、パーライト組織を有する高炭素過共析鋼を用いたレール鋼)をフラッシュバット溶接した場合の溶接部における上記した課題を解決するためには、突合せ端面近傍の熱分布を急峻にすることにより、溶接部の軟化幅を低減することが有効であると考えた。そして、それを実現する方法として、入熱量を少なくすること、及び溶接終了のアプセット工程直前の時間当たりの入熱量を高めることが効果的であると考えた。さらにアプセット工程における、アプセット加圧力を大きくすることにより、さらに軟化幅は狭くなると考えた。ここでアプセット加圧力N/mmは(アプセット荷重kN)/(断面積mm)で定義した。
そこで、本発明者らは、同一のアプセット荷重で比較的大きなアプセット加圧力を得るために、1m当たりの重量が65kg以上の場合が多い重荷重用レールに対し、1m当たりの重量が50kgのレール(50N:JIS E 1101)を用いてフラッシュバット溶接を行った。溶接には、AC電源で変圧器容量240kVA、最大アプセット荷重700kNのフラッシュ溶接機を用い、フラッシュ工程と予熱工程を組み合わせた方式で溶接を行った。
まず、本明細書で用いるフラッシュバット溶接における呼称及びフラッシュバット溶接方法の例を図3を用いて説明する。フラッシュバット溶接の工程についてはとくに限定しないが、本発明者が用いたフラッシュバット溶接は、初期フラッシュバット工程、予熱工程、後期Iフラッシュバット工程、後期IIフラッシュバット工程、アプセット工程からなる。
速度の増加方法については特に限定はしないが、予熱工程直後は比較的低いフラッシュ速度とし、その後高速なフラッシュ速度を設定することが好ましい。よって、予熱以降のフラッシュ工程を2段階に分け、前半の比較的フラッシュ速度が遅い領域を後期Iフラッシュ工程(図1(d))と呼ぶ。後期Iフラッシュ速度は0.4mm/secから1.mm/secの範囲が好ましい。その後フラッシュ速度を早めた工程を後期IIフラッシュ工程(図1(e))と呼ぶ。後期IIフラッシュ工程は、アプセット工程直前の工程で、フラッシュ速度が最も速い工程である。後期IIフラッシュ速度は0.8mm/secから3.0mm/secの範囲が好ましい。図3では後期IIフラッシュ工程中で加速無しの場合の例を示したが、2次元的にフラッシュ速度が加速し速くなる場合はその加速する領域を全て含む。
後期IIフラッシュ速度は、後期IIフラッシュ工程で加速を行わない場合はその一定の速度を指し、加速が行われ速度が変化する場合は、その平均速度を指す。
後期IIフラッシュ長さは、後期IIフラッシュ工程において、溶融金属が飛散し被溶接物が溶損除去された部分の、レール鋼長手方向の長さを指す。
本発明者らは、アプセット工程直前の後期IIフラッシュ速度を早くすることで、熱分布の急峻化が実現できHAZ軟化幅が低減すると考え、後期IIフラッシュ速度とHAZ幅及び軟化幅の関係を求めた。
なお、後期IIフラッシュ速度を単純に早くすると、前述の通り、溶接欠陥の原因となるフリージングが生じる。そこで、後期IIフラッシュ速度を速める以前の入熱量については、その速めた後期IIフラッシュ速度でフラッシュの発生を開始でき、またそれ以降においても、フラッシュを安定して持続させるのに最適なフラッシュ時間、予熱回数であることとする。
本発明者らは、変圧器容量240kVA、アプセット荷重1000kNのフラッシュ溶接機を用い、フラシュ電圧、予熱電圧は6Vから9Vの範囲で変化させて溶接を行った。予熱回数は0回から15回、図3で示す初期フラッシュ工程と後期Iフラッシュ工程の合計時間は、30secから180secとした。これら条件の下、アプセット加圧力は81N/mmとし、後期IIフラッシュ工程における後期IIフラッシュ長さを、非特許文献2で示された3mmとし、後期IIフラッシュ速度を変化させた。
溶接後、溶接面を中心にレール長手方向の断面をマクロ観察し、表層より5mm下方位置のHAZ幅を求めた。さらに100Nの試験力でビッカース硬さ試験を、HAZ幅観察と同じ表層より5mm下方位置で行い、母材の硬さの、平均値−3σ(標準偏差)を下回る範囲を求め、軟化幅とした。図2は、軟化幅、HAZ幅の測定要領の一例を示す。
予熱回数が4回の条件の下、初期フラッシュ時間と後期Iフラッシュ時間を変化させた時の、後期IIフラッシュ速度とHAZ幅の関係を図4Aに示す。また予熱回数が7回の条件の下、初期フラッシュ時間と後期フラッシュ時間を変化させた時の、後期IIフラッシュ速度とHAZ幅の関係を図4に示す。さらに予熱回数が10回の条件の下、初期フラッシュ時間と後期Iフラッシュ時間を変化させた時の、後期IIフラッシュ速度とHAZ幅の関係を図4Bに示す。これらにより、後期IIフラッシュ速度を早くすると、HAZ幅は狭くなった。最終的にフリージングが生じた。フラッシュ速度を速くすると電流が高くなるため、単位時間当たりに投入される入熱量が高くなり、突合せ端面から垂直方向の温度分布が急峻になった結果、HAZ幅が狭くなると考えられる。その後フラッシュ速度を速くするとHAZ幅は飽和する傾向を示し、さらにフラッシュ速度を速くするとフリージングが生じた。
今回の範囲では、フリージングの生じないフラッシュ速度の最大値は3.0mm/secであった。これらより、後期IIフラッシュ速度の上限値は3.0mm/secとする。フリージングの発生は、いろいろな条件が重なることから、安定した溶接条件を得るためには、後期IIフラッシュ速度の上限値は、好ましくは2.7mm/sec(マージンで約10%)、更に好ましくは2.1mm/sec(マージンで約30%)とするとよい。
これらの結果より、発明者らは予熱工程及び初期フラッシュ、後期Iフラッシュで得られる溶接入熱が、後期IIの最大フラッシュ速度に影響を及ぼすと考え、予熱回数と初期フラッシュ時間及び後期Iフラッシュ時間の和と、フリージングを生じることの無い後期IIの最大フラッシュ速度の上限値との関係を求めた。さらに溶接機により変圧器容量、電極からの放熱等による溶接部の入熱効率等の差はあるものの、予熱電圧、平均電流の条件より、後期IIの最大フラッシュ速度を求めることを発明者らは試みた。その結果、後期IIフラッシュ速度(mm/sec)を、下記式(2)で導けることを見出した。
最大フラッシュ速度≦(Y×V×I×G/30,000+K×F)×0.023−2.06 もしくは3.0のどちらか小さい方 ・・・式(2)
ここで、Y:予熱回数(回)、V:予熱電圧(V)、I:平均予熱電流(A)、F:初期フラッシュ時間+後期Iフラッシュ時間(sec)、G:溶接機種毎の補正係数で0.5から2.0、Kはフラッシュ工程での単位時間あたりの入熱量に相当し(以下、入熱相当量という。)、溶接機種毎に補正されるものである。
フラッシュ工程での単位時間あたりの入熱量は、溶接機の機差があるだけでなく、抵抗発熱・アーク発熱による入熱とフラッシュを外部に飛散させることによる損失熱があり、入熱量がどの程度になるかを、それぞれ個別に求めることは困難である。そこで、発明者らは、初期および後期Iフラッシュ工程は、比較的低電流のフラッシュ溶接であって、その入熱量は、フラッシュ時間にほぼ比例するものと考え、実験等からフラッシュ工程での入熱相当量Kを求めた。標準的なレール鋼のフラッシュバット溶接機であれば、K=1.0として差し支えないことを確認した。予熱工程での入熱量の方が、フラッシュ工程での入熱量に比べ大きいので、Kが多少の誤差(±30%程度以下まで)を含んでいても、最大フラッシュ速度を求める式(2)においては問題ない。Kは、溶接機種により変動するが、レール鋼溶接機であれば、概ね0.5〜2.0の値をとる。以下、K=1.0として説明する。
溶接機種毎に異なるGについては、溶接入熱量を示す(Y×V×I/30,000+F)を事前に3種類程度変化させてその時の後期IIの最大フラッシュ速度と、関係式(2)よりGを計算し、その平均値を当該溶接機固有のGとすればよい。実際は予熱工程での入熱量が初期および後期Iフラッシュ工程の入熱量より大きく、溶接機の差が生じやすいので、予熱条件にのみ補正係数Gをかけた。予熱工程は全断面が接触し大電流が流れ、そのため溶接機の定格電流が大きいとその分大電流を流すことができる。
一方、フラッシュ工程は溶接面の一部のみで電流が流れ、その一部に流れる電流はフラッシュ速度に依存するが、最大フラッシュ速度以前の比較的遅い速度であれば、流れる電流も小さく、予熱時に流れる電流に比べて充分に小さい。したがって、フラッシュ工程は、予熱工程と比較し溶接機仕様による依存性は低い。そのため溶接機の補正係数Gは予熱工程のみの係数とした。Gは、前述したように実験から予め求められ、概ね0.5〜2.0の値をとる。
溶接入熱量を変化させる場合、例えば予熱回数Yだけを変化させても良いが、予熱回数Yと初期フラッシュ時間と後期Iフラッシュ時間の合計Fも変化させる方が好ましい。後期II最大フラッシュ速度に上限を設けたのは、予熱回数及び初期フラッシュ時間と後期Iフラッシュ時間の合計が大きくなるほど入熱は多くなるものの、時間が長くなる分、溶接部から母材部への放熱も大きくなるため、最大フラッシュ速度に限界があるためである。
式(2)において、補正係数Gが1.0の場合の、予熱回数Yと初期フラッシュ時間と後期Iフラッシュ時間の合計Fを変化させた場合の関係を図4Cに示す。本発明では、後期IIの最大フラッシュ速度の上限は3.0mm/secとなった。
溶接入熱量を示す(Y×V×I×G/30,000+F)が長いほど、後期IIの最大フラッシュ速度の上限値が大きくなることを示す。この時(Y×V×I×G/30,000+F)が220以上で後期IIの最大フラッシュ速度が飽和した。前述したように、予熱回数及び初期フラッシュ時間と後期Iフラッシュ時間の合計が大きくなるほど入熱は多くなるものの、時間が長くなる分、溶接部から母材部への放熱も大きくなるため、最大フラッシュ速度に限界があるためである。
以上のことから、後期IIフラッシュ工程の最大フラッシュ速度は、以下の式で導くことができる。
最大フラッシュ速度≦(Y×V×I×G/30,000+K×F)×0.023−2.06もしくは3.0のどちらか小さい方 ・・・式(2)
図5に、初期フラッシュ工程と後期Iフラッシュ工程の合計時間が120secの場合に得られたHAZ幅と軟化幅の関係を示す。図5に示すように、HAZ幅と軟化幅には強い相関関係があることがわかった。
次に、本発明者らは、図4、図5で示した後期IIフラッシュ速度を速くすることで得られた一部のHAZ幅・軟化幅の溶接継手を供試材として、AREMA(アメリカの鉄道技術と保線協会)規格3.11.2.6に基づき、支点間距離48インチ、加圧点間距離12インチで4点曲げ試験を行った。その結果を図6に示す。AREMA規格では4点曲げの最大たわみ量の基準値は19mm以上である。
図6より、初期フラッシュ工程と後期Iフラッシュ工程の合計時間が120secの場合、後期IIフラッシュ速度を速くしてHAZ軟化幅が狭くなった継手の4点曲げ性能は、AREMA規格の4点曲げ基準値19mm以上を満足していることが明らかになった。予熱回数が7回の条件で初期フラッシュ工程と後期Iフラッシュ工程の合計時間が、60secの場合の継手の4点曲げ性能は全ての条件でAREMA規格の4点曲げ基準値19mm以上を満足しなかった。
次に、本発明者らは、同様に初期フラッシュ工程と後期Iフラッシュ工程の合計時間の変更及び後期IIフラッシュ速度を速くすることで得られた数種類のHAZ幅・軟化幅の溶接継手を供試材とし、図7で示す転動疲労試験機を用いて、表面の偏摩耗深さとHAZ幅の関係を求めた。なお、試験機は、レール移動用スライダー5、レール6、車輪7、モーター8、荷重負荷装置9より構成される。
転動疲労試験には、レールとしては長さ2mの50Nレールを用い、車輪としては鉄道車両用炭素鋼一体圧延車輪C55GW−T−A(JIS E 5402)を用いた。ラジアル荷重は196kN、スラスト荷重は9.8kNとした。またレールと車輪の間には間欠給水を行って試験を行った。
250万回繰返し回数の試験の後、レールのHAZ軟化部に生じた偏摩耗の深さをそれぞれ測定した。HAZ幅が35mmの場合の偏摩耗深さを1とした場合の指数として、偏摩耗の測定結果を図8に示す。
図8より、HAZ幅が25mmより狭い場合、摩耗深さは非常に小さくなることがわかる。また図5より、HAZ幅25mmの時の軟化幅は8.5mmであった。
そこで本発明者らは、レールの偏摩耗及び損傷を軽減するために必要な条件として、HAZ幅は25mm以下、軟化幅は8.5mm以下とした。
特許文献3にも記載されているが、通常の車輪の接触幅は15mmであるので、軟化幅がそれ以下で有れば、全ての負荷を軟化領域のみで担保するわけではないのでよい。しかしながら、軟化幅が狭い場合でも、当該軟化域が回転する車輪からの負荷を受けることにはかわりはないので、軟化幅は狭ければ狭いほど良い。
また最大摩耗量も小さいほどよいことは当然である。実験の結果、図8に示すように、HAZ幅が25mm以下となった場合、最大摩耗量の指数(HAZ幅35mmの場合の最大磨耗量との相対比)は0.3以下と大幅に低下することがわかる。そのため目標とすべきHAZ幅は25mm以下とした。
そこで、本発明者らは、アプセット加圧力を大きくすることにより、さらにHAZ軟化幅が低減すると考えた。そこで、予熱回数は7回、図3で示す初期フラッシュ工程と後期Iフラッシュ工程の合計時間は120secとし、後期IIフラッシュ速度2.1mm/sec、後期IIフラッシュ長さ3mmの条件でアプセット加圧力を100N/mmまで変化させ、アプセット加圧力とHAZ軟化幅の関係を求めた。
その結果を図9に示す。図9より、アプセット加圧力が大きくなるに従いHAZ軟化幅は狭くなり、アプセット加圧力が87N/mm以上で飽和する傾向を示し、図8で得られた最大摩耗量が低減するHAZ幅25mmを満足することができた。アプセット加圧力が大きいと、アプセット工程で生じる塑性変形量が大きくなった結果、HAZ幅が狭くなると考えられる。塑性変形が生じるのは溶接で高温部になった部位で生じると考えられ、ある限界値以上では塑性変形せず、アプセット加圧力が大きくした場合にはHAZ軟化幅は飽和するものと考えられる。
図4,図9よりアプセット加圧力が81N/mm2の条件でHAZ幅27mmが得られた場合、アプセット加圧力を87N/mm2以上にすれば、HAZ幅25mmで飽和すると考えられる。
例えば、予熱回数7回、初期フラッシュと後期Iフラッシュの合計フラッシュ時間が90secの場合、後期IIフラッシュ速度が1.0mm/secであると、アプセット加圧力を87N/mm2以上ではHAZ幅25mmが実現できると考えられる。
さらに、アプセット加圧力を変化させた場合の4点曲げ性能を図10に示す。図10よりアプセット荷重を大きくしても、基準値を充分に満足する4点曲げ性能を得ることができる。
アプセット加圧力の上限値は、HAZ軟化幅を狭くするためには、大きい方が好ましいためとくには設けない。しかしながら、アプセット加圧力を大きくするためには、油圧を高くするか、またはシリンダ径を大きくする必要があり、設備構造が巨大になり、かつ油保守も困難になる。そのため、アプセット加圧力の上限には、設備制約の観点から限界がある。アプセット加圧力を大きくしても、HAZ幅や4点曲げたわみが飽和することを考えると、100N/mmを上限とすればよい。
後期IIフラッシュ速度については、図4、4A、4B、5で示したように早くするほどHAZ幅、HAZ軟化幅は狭くなる。しかしながらフラッシュ速度が速いと、単位時間当たりに大量のフラッシュを発生させる必要がある。入熱に対して発生させるフラッシュの量が大きい場合、フラッシュを安定でかつ連続的に発生させることは困難となり、図4、4A、4B、に示すようにフリージングと呼ばれる溶接異常が生じる場合もある。そのため、後期IIフラッシュ速度の上限は、前述した通りの下記(2)式とする。
後期IIの最大フラッシュ速度=(Y×V×I×G/30,000+F)×0.023−2.06 ・・・式(2)
後期IIの最大フラッシュ速度の上限は3.0mm/secとするとよい。フリージングの発生は、いろいろな条件が重なることから、安定した溶接条件を得るためには、後期IIフラッシュ速度の上限値は、好ましくはマージンで約10%、更に好ましくはマージンで約30%として設定するとよい。例えば、後期IIフラッシュ速度の上限が3.0mm/secの場合、好ましくは2.7mm/secに、更に好ましくは2.1mm/secとするとよい。
後期IIフラッシュ速度0.8mm/secから3.0mm/secを実現し、かつそれ以降もフラッシュを持続するための条件として、本発明者らが用いた溶接変圧器容量240kVA、アプセット荷重1000kNのフラッシュバット溶接機を用い、フラシュ電圧、予熱電圧は6Vから9Vの範囲で変化させて溶接を行った。予熱回数は4回から15回、図3で示す初期フラッシュ工程と後期Iフラッシュ工程の合計時間は、30secから180sec、アプセット加圧力は87N/mmで行った。
予熱回数については、溶接機によっては予熱を行う機能を持たない場合もあるので0回以上とする。入熱を効率的に行うことができ、安定したフラッシュを発生させるためには4回以上とすることが好ましい。さらに後期IIフラッシュ速度0.8mm/secから3.0mm/secを容易に実現するためには7回以上が好ましい。しかしながら予熱回数が多すぎると、トータル入熱量が大きくなり、HAZ幅が広くなりすぎるため、15回以下とすることが好ましい。
初期フラッシュ工程と後期Iフラッシュ工程の合計時間については、初期フラッシュ工程は予熱工程を効率的に行うために端面を垂直にする目的も併せ持つため、30sec以上が望ましい。また初期フラッシュ工程と後期Iフラッシュ工程時間の合計が長すぎるとHAZ幅が広がりすぎるため、180sec以下が好ましい。
また、本発明者らは、後期IIフラッシュ速度を早くすることで得られたHAZ軟化幅を狭くする効果をさらに高めるためには、フラッシュ速度が速い条件下のフラッシュ長さを長くすると、すなわち後期IIフラッシュ長さを長くすると、さらに熱分布の急峻化が実現できHAZ軟化幅が低減すると考えた。そこで、図9で示したHAZ幅25mmを実現した予熱回数は7回で、初期フラッシュ工程と後期Iフラッシュ工程の合計時間は120sec、後期IIフラッシュ速度2.1mm/sec、アプセット加圧力は87N/mmの条件で、後期IIフラッシュ長さを変化させて溶接を行った。そのときの後期IIフラッシュ長さとHAZ幅の関係を図11に示す。
図11より、後期IIフラッシュ長さを長くすると、さらにHAZ幅が狭くなることがわかった。とくに後期IIフラッシュ長さが10mm以上の場合、HAZ幅は飽和する傾向を示すことが確認できた。
次にこの時の4点曲げ性能を図12に示す。図12より後期IIフラッシュ長さを長くしても、基準値を充分に満足する4点曲げ性能を得ることができる。後期IIフラッシュ長さの上限はとくに設けていない。しかしながら後期IIフラッシュ長さを長くすると、飛散するフラッシュ量が大きくなり、電極まわりが汚れ、被溶接材であるレールの歩留が低下し、後期IIフラッシュ長さ増大に伴う電極等の設備干渉が生じる可能性がある。そのため後期IIフラッシュ長さの上限には、環境・コスト・設備制約の観点から限界がある。40mm程度と考えられる。
また、次に、予熱回数は7回で、初期フラッシュ工程と後期Iフラッシュ工程の合計時間は120sec、アプセット加圧力は87N/mm、後期IIフラッシュ速度2.5mm/secの場合、同様に後期IIフラッシュ長さとHAZ幅の関係を求めた。それらの結果を図13に示す。後期IIフラッシュ速度2.5mm/secの場合も、後期IIフラッシュ長さを長くするとHAZ幅は狭くなった。また後期IIフラッシュ速度2.5mm/secの場合はフラッシュ長さが7.5mm以上で、HAZ幅は飽和する傾向を示した。
さらに、予熱回数は7回で、初期フラッシュ工程と後期Iフラッシュ工程の合計時間は、120sec、アプセット加圧力は87N/mm、後期IIフラッシュ速度1.2mm/secの場合、同様に後期IIフラッシュ長さとHAZ幅の関係を求めた。その結果を図14に示す。後期IIフラッシュ長さが3mmの場合のHAZ幅は28.5mmであったが後期IIフラッシュ長さを長くするとHAZ幅は狭くなり、後期IIフラッシュ長さが15mmの場合、HAZ幅25mm以下が実現できた。図は省略するが、この場合も基準値を上回る4点曲げ性能が得られた。
図11より、後期IIフラッシュ速度が2.1mm/secでは、後期IIフラッシュ長さが10mm以上でHAZ幅が25mm未満となることがわかる。
図13より、後期IIフラッシュ速度が2.5mm/secでは、後期IIフラッシュ長さが8mm以上でHAZ幅が25mm未満となることがわかる。
図14より、後期IIフラッシュ速度が1.2mm/secでは、後期IIフラッシュ長さが15mm以上でHAZ幅が25mm未満となることがわかる
これら図11、図13、図14の結果より、HAZ軟化幅25mm未満が得られる、後期IIフラッシュ速度と後期IIフラッシュ長さの関係を求めた。その結果を式1に示す。即ち、式1を満たすようにフラッシュ長さを得れば、HAZ幅が25mm以下とすることができる。ここで1秒当りの後期IIフラッシュ長さ(後期IIフラッシュ工程でのレール鋼長手方向の溶損長さ)(mm/sec)は、後期IIフラッシュ工程の全溶損長さ(mm)/後期IIフラッシュ工程に要した時間(sec))で求めることができる。
後期IIフラッシュ長さ>22.6−6×1秒当たりの後期IIフラッシュ長さ・・・(式1)
式1で求められた、後期IIフラッシュ速度とHAZ幅が25mm以下とするのに必要な後期IIフラッシュ長さの関係を図16に、後期IIフラッシュ速度と後期IIフラッシュ時間の関係を図17に示す。後期IIフラッシュ時間は、図16で示された必要な後期IIフラッシュ長さを後期IIフラッシュ速度で除することで求めた。図17で示すように、フラッシュ速度が遅いと、後期IIフラッシュ時間は長くなった。フラッシュ時間が長くなることは、レール溶接の能率悪化を示す。レール溶接工場の溶接能率を悪化させないためにも、溶接時間の増大は最小限に留めることが望ましく、できれば30秒以内に収めるとよい。
よって後期IIフラッシュ速度の下限値は、図17で後期IIフラッシュ工程の時間が30秒となる0.8mm/secとする。後期IIフラッシュ工程の時間は短いほど望ましいので、後期IIフラッシュ速度の下限値は、好ましくは、0.9mm/sec、さらに好ましくは1.0mm/secとするとよい。
図15には、予熱回数は7回で、初期フラッシュ工程と後期Iフラッシュ工程の合計時間は、120sec、アプセット加圧力は87N/mm、後期IIフラッシュ速度が2.1mm/sec、後期IIフラッシュ長さ5mmの場合の、断面マクロと表層より5mm下方位置で測定された、ビッカース硬さ分布を示す。図15より、HAZ幅は24mm、軟化幅は8mmであった。また図2で示したそれらと比較し、HAZ幅、軟化幅ともに狭くなったことがわかる。
以上、実験例に基づいて本発明を説明したが、以下に、実施例を用いて、本発明の実施可能性及び効果についてさらに説明する。なお、実施例に用いた条件はその確認のための一つの例であり、本発明は、この例に限定されるものではない。
質量%でC:0.85〜1.2%、Si:0.1〜2.0%、Mn:0.1〜2.0%を含み残部はFe及び不可避的不純物からなり、パーライト組織を呈する、50Nのレール鋼をフラッシュバット溶接に供した。
フラッシュバット溶接機としては、AC電源で変圧器容量240kVA、アプセット荷重700kNのフラッシュ溶接機を用いた。またフラシュ電圧、予熱電圧は6Vから9Vの範囲で変化させ、予熱回数は0回から15回、図3で示す初期フラッシュ工程と後期Iフラッシュ工程の合計時間は、30secから180secとし、 後期IIフラッシュ工程における後期IIフラッシュ速度と後期IIフラッシュ長さ、アプセット加圧力を変化させて溶接を行った。
溶接継手を評価するために、HAZ幅・軟化幅・4点曲げ性能を求めた。HAZ幅はレール長手方向の断面をマクロ観察し、表層より5mm下方位置で求めた。軟化幅はHAZ幅同様にレール長手方向の断面の表層より5mm下方位置で、100Nの試験力でビッカース硬さ試験を行い、母材の硬さの、平均値−3σを下回る範囲とした。4点曲げ性能は、前述のAREMA規格に基づき、支点間距離48インチ、加圧点間距離12インチで4点曲げ試験を行い、最大たわみ量を求めた。
HAZ幅の評価基準は、長さ2mの50Nレールを用い、車輪はC55GW−T−Aを用い、ラジアル荷重は196kN、スラスト荷重は9.8kNとし、レールと車輪の間には間欠給水を行って試験を行い、250万回繰返し回数の試験の後、レールのHAZ軟化部に生じた偏摩耗の深さをそれぞれ測定した転動疲労試験で、偏摩耗の摩耗深さが大幅に低減した、25mm以下とした。また軟化幅の評価基準はHAZ幅25mmに相当した8.5mm以下とした。また4点曲げたわみ量の評価基準は19mm以上である。
結果を表1に示す。
後期IIフラッシュ速度が0.8mm/secから3.0mm/secでアプセット加圧力が87N/mm以上、後期IIフラッシュ長さが22.6−6×1秒当りの後期IIフラッシュ工程の溶損量を上回る発明例A1、後期IIフラッシュ長さが22.6−6×1秒当りの後期IIフラッシュ工程の溶損量を下回るが、後期IIフラッシュ速度が0.8mm/secから3.0mm/secでアプセット加圧力が87N/mm以上の発明例A2、後期IIフラッシュ長さが22.6−6×1秒当りの後期IIフラッシュ工程の溶損量を下回り、かつアプセット加圧力が87N/mm未満ではあるが、後期IIフラッシュ速度が0.8mm/secから3.0mm/secの発明例A3,A4は25mm以下のHAZ幅、8.5mm以下の軟化幅を満足することができた。
しかしながら、後期IIフラッシュ速度が0.8mm/sec未満でアプセット加圧力が87N/mm未満で、かつ後期IIフラッシュ長さが22.6−6×1秒当りの後期IIフラッシュ工程の溶損量を下回る比較例B1は、本発明の規定を満たしていないため、HAZ幅・軟化幅を満足することができなかった。
また、Y:予熱回数、V:予熱電圧、I:平均予熱電流、F:初期フラッシュ時間+後期Iフラッシュ時間を種々変更して最大フラッシュ速度を求めた結果を表2に示す。予熱回数が0であるが、初期フラッシュ時間+後期Iフラッシュ時間が180secの発明例C1、予熱回数が12回、予熱電圧が6V、予熱電流が40000Aで初期フラッシュ時間+後期Iフラッシュ時間が30secの発明例C2、予熱回数が15回、予熱電圧が9V、予熱電流が26000Aで初期フラッシュ時間+後期Iフラッシュ時間が100secの発明例C3は後期IIフラッシュ速度が0.8mm/secから3.0mm/secの範囲でアプセット加圧力87N/mm以上で、さらに後期IIフラッシュ長さが22.6−6×1秒当りの後期IIフラッシュ工程の溶損量を満足したため、25mm以下のHAZ幅、8.5mm以下の軟化幅を満足することができた。しかしながら予熱回数が4回、予熱電圧が8V、予熱電流が30000Aで初期フラッシュ時間+後期Iフラッシュ時間が90secの比較例D1は、本発明の規定を満たず、結果としてHAZ幅・軟化幅を満足することができなかった。
本発明は、レールの溶接に利用することができる。それは、レール鋼の連続圧延製造工程における溶接だけでなく、鉄道用レールの敷設時の現場溶接にも利用することができる。
1 レール鋼
2 電極
3 電源
4 レール鋼の移動方向
5 レール移動用スライダー
6 レール
7 車輪
8 モーター
9 荷重負荷装置

Claims (6)

  1. Cを0.85〜1.20質量%、Siを0.1〜2.0質量%、Mnを0.1〜2.0質量%含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、パーライト組織を有する高炭素過共析鋼であるレール鋼のフラッシュバット溶接方法であって、当該フラッシュバット溶接方法が初期フラッシュ工程、予熱工程、後期フラッシュ工程、アプセット工程からなり、後期フラッシュ工程が後期Iフラッシュ工程と後期IIフラッシュ工程で構成されるフラッシュバット溶接方法において、前記後期Iフラッシュ工程でのフラッシュ速度が、前記後期IIフラッシュ工程でのフラッシュ速度より遅く、前記後期IIフラッシュ工程におけるフラッシュ速度が0.8mm/sec〜3.0mm/secであって、前記後期IIフラッシュ工程における後期IIフラッシュ長さが以下の式(1)を満たすことを特徴とするフラッシュバット溶接方法。
    後期IIフラッシュ長さ≧22.6−6×(1秒当たりの後期IIフラッシュ長さ)
    ・・・式(1)
  2. Cを0.85〜1.20質量%、Siを0.1〜2.0質量%、Mnを0.1〜2.0質量%含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、パーライト組織を有する高炭素過共析鋼であるレール鋼のフラッシュバット溶接方法であって、当該フラッシュバット溶接方法が初期フラッシュ工程、予熱工程、後期フラッシュ工程、アプセット工程からなり、後期フラッシュ工程が後期Iフラッシュ工程と後期IIフラッシュ工程で構成されるフラッシュバット溶接方法において、前記後期Iフラッシュ工程でのフラッシュ速度が、前記後期IIフラッシュ工程でのフラッシュ速度より遅く、前記後期IIフラッシュ工程におけるフラッシュ速度が0.8mm/sec〜3.0mm/secであって、前記後期IIの最大フラッシュ速度は、予熱回数をY、電圧をV、平均電流をI、及び初期フラッシュと後期Iフラッシュの合計時間をF、溶接機毎に固有の補正係数をGおよび溶接機毎の入熱相当量をKとした場合、以下の式(2)を満たすことを特徴とするフラッシュバット溶接方法
    後期IIの最大フラッシュ速度≦(Y×V×I×G/30,000+K×F)×0.023−2.06、もしくは3.0のどちらか小さい方
    ・・・式(2)
  3. Cを0.85〜1.20質量%、Siを0.1〜2.0質量%、Mnを0.1〜2.0質量%含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、パーライト組織を有する高炭素過共析鋼であるレール鋼のフラッシュバット溶接方法であって、当該フラッシュバット溶接方法が初期フラッシュ工程、予熱工程、後期フラッシュ工程、アプセット工程からなり、後期フラッシュ工程が後期Iフラッシュ工程と後期IIフラッシュ工程で構成されるフラッシュバット溶接方法において、前記後期Iフラッシュ工程でのフラッシュ速度が、前記後期IIフラッシュ工程でのフラッシュ速度より遅く、前記後期IIフラッシュ工程におけるフラッシュ速度が0.8mm/sec〜3.0mm/secであって、前記後期IIフラッシュ工程における後期IIフラッシュ長さが以下の式(1)を満たし、前記後期IIの最大フラッシュ速度は、予熱回数をY、電圧をV、平均電流をI、及び初期フラッシュと後期Iフラッシュの合計時間をF、溶接機毎に固有の補正係数をGおよび溶接機毎の入熱相当量をKとした場合、以下の式(2)を満たすことを特徴とすることを特徴とするフラッシュバット溶接方法。
    後期IIフラッシュ長さ≧22.6−6×(1秒当たりの後期IIフラッシュ長さ)
    ・・・式(1)
    後期IIの最大フラッシュ速度≦(Y×V×I×G/30,000+K×F)×0.023−2.06、もしくは3.0のどちらか小さい方
    ・・・式(2)
  4. 前記溶接機毎に固有の補正係数Gが1、および前記溶接機毎の入熱相当量Kが1であることを特徴とする請求項2又は3に記載のフラッシュバット溶接方法。
  5. 前記アプセット工程における、アプセット加圧力が87N/mm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のフラッシュバット溶接方法。
  6. 前記フラッシュバット溶接方法によって得られる溶接継手部の熱影響幅が25mm以下、かつ軟化幅が8.5mm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のフラッシュバット溶接方法。
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