(第1の実施の形態)
図1乃至図9に示す第1の実施の形態に係る本発明装置1は、図1に示す如く、地中杭Pの外回りを掘削して掘削空間Sを形成するための掘削装置2と、外回りが掘削された地中杭Pの外周面における切断箇所Pfを環状に切削するための切削装置3とを備えている。
前記掘削装置2は、地中Eに埋設されている地中杭Pの外回りに掘削空間Sを形成するための筒状のケーシング4と、ケーシング4の正逆回転駆動と停止を繰り返すケーシング駆動装置5を有する。
前記掘削装置2のケーシング4は、図1に示す如く、基本部分4Aと、下端側に複数の掘削刃4dを設けた先端部分4Bとからなり、基本部分4Aと先端部分4Bを分離可能に連結して、基本部分4Aの上端をケーシング駆動装置5で駆動して先端部分4Bへ回転駆動力を伝達させるようにしてある。ケーシング4は、各部分4A,4Bの外周面に泥排出用螺旋羽根4cを備え、掘削刃4dの掘削で生じた泥等を螺旋羽根4cで押し上げて地上へ排出できるように構成してある。基本部分4Bは、掘削が進むのに伴い、一定の長さ寸法のものを次々に継ぎ足して延長するようになっている。
前記掘削装置2のケーシング駆動装置5は、ケーシング4の基本部分4Aの外周面を把持するチャック装置(図示略)を回転駆動させながら下方へ押込むことができる回転押込み装置(図示略)を備えたもの(例えば、特開2008−7946号公報に記載のもの)を用い、地中杭Pの外径寸法が1〜3メールと大径のものに対処できるようになっている。
前記切削装置3は、図3に示す如く、地中杭Pの頭部Pbに載置して回転不能に固定される内側の固定部材6と、固定部材6に回転自在に支持されて固定部材6の外回りを回る外側の回転部材7と、固定部材6と回転部材7の間に配置され、固定部材6に回転自在に支持されて固定部材6の外回りを回る中間の中間回転体8と、回転部材7及び中間回転体8に跨がって設けられたワイヤーソー張架装置9と、ワイヤーソー張架装置9で走行自在なエンドレス状に張架されたワイヤーソー10と、張架状態のワイヤーソー10を地中杭Pの外周面から離す待機状態J(図5及び図8(C)参照)から地中杭Pの外周面に水平の弧状に巻掛ける切削状態K(図2乃至図4及び図6(C)参照)まで誘導する誘導装置11と、ワイヤーソー10を張架方向に沿って走行させる切削速度増加装置12とを備え、切削状態Kのワイヤーソー10を地中杭Pの外回りにワイヤーソー張架装置9と共に公転(図4に示す矢符G方向への回転)させつつ切削速度増加装置12で張架方向へ走行させることで、ワイヤーソー10の切削速度を公転のみとするときに比べて増大させるようにしてある。
前記切削装置3の内側の固定部材6は、図3に示す如く、地中杭Pを外嵌できる下半の筒状の大径部6aと、地中杭Pより小径の上半の筒状の小径部6bと、下半と上半の境界に形成された環状の段部6cと、段部6cの下面側に設けられた回転滑止め部6dとからなる。固定部材6は、ワイヤーWで吊り下げながら降下させて下半の大径部6aを地中杭Pに外嵌させると共に、回転滑止め部6dを地中杭Pの頭部Pbに当接させることで、地中杭Pの上に回転不能に載置されることになる。
前記切削装置3の外側の回転部材7は、図3に示す如く、固定部材6を外嵌する筒部7aと、筒部7aの上部に形成されて固定部材6の小径部6bを外嵌する内曲げ鍔部7bと、内曲げ鍔部7bの内側に配設された横振れ防止用コロ7c,7c…とからなり、固定部材6の小径部6bに配設された重量受載用コロ6f,6f…に内曲げ鍔部7bを回転自在に載置してある。回転部材7は、ワイヤーソー張架装置9及び切削速度増加装置12の保守点検等やワイヤーソー10の張架状態の確認作業をし易くするために、適所に作業用開口部(図示略)を開設することもある。
前記切削装置3の中間の中間回転体8は、図3に示す如く、固定部材6を大径部6a及び小径部6bに跨がって外嵌する筒部8aと、筒部8aの内側に形成された内曲げ鍔部8bと、内曲げ鍔部8bの内側に配設された横振れ防止用コロ8c,8c…とからなり、固定部材6の段部6cに配設された重量受載用コロ6g,6g…に内曲げ鍔部8bを回転自在に載置してある。中間回転体8は、横振れ防止用コロ8cや重量受載用コロ6gの保守点検等をするために、適所に作業用開口部(図示略)を開設することもある。
前記切削装置3のエンドレス状のワイヤーソー10は、スチールワイヤーに強靭な刃部となる切削用ダイヤモンドビーズを一定間隔で固定したもので、コンクリート構造物等を切断するときに用いられるものが容易に入手でき、また、その可撓性により変形が容易なため、地中杭Pの外周面から離して地中杭Pに巻掛けない待機状態J(図5及び図8(C)参照)から地中杭Pの外周面に当接させて巻掛ける切削状態K(図2乃至図4及び図6(C)参照)まで容易に移動させることが可能となり扱い易いものである。
前記切削装置3のワイヤーソー張架装置9は、図4乃至図6(B)に示す如く、外側の回転部材7側に設けられたプーリ及び中間の中間回転体8側に設けられたプーリの組合せからなり、ワイヤーソー10の切削のための走行方向(矢符F)へ向かって順番に、回転部材7側に設けられ回転軸が水平な駆動プーリ13、回転部材7側に設けられ回転軸が水平な一方の杭巻掛け用プーリ14、中間回転体8側に設けられ回転軸が水平な他方の杭巻掛け用プーリ15、中間回転体8側に設けられ回転軸が水平な案内プーリ16、中間回転体8側に設けられ回転軸が垂直な複数個の案内プーリ17,17…、回転部材7側に設けられ回転軸が水平な案内プーリ18,19、回転部材7側に昇降自在に設けられ回転軸が水平な張力付与用プーリ20、及び回転部材7側に設けられ回転軸が水平な案内プーリ21からなる。一方の杭巻掛け用プーリ14及び他方の杭巻掛け用プーリ15は、ワイヤーソー10の走行方向を、地中杭Pの外周に巻掛ける水平状態から立上げ状態へ変換するものとなる。一方の杭巻掛け用プーリ14、他方の杭巻掛け用プーリ15及び案内プーリ16,18は、ワイヤーソー10が待機状態Jと切削状態Kの間で張架状態が変化するのに伴い垂直軸を中心にして自動的に揺動させるようにして、ワイヤーソー10をプーリ14,15から脱輪させないようにしてある。
前記張力付与用プーリ20は、流体シリンダー(例えば、油圧シリンダー)22の出力軸22aの先端に回転自在に取着され、流体シリンダー22へ供給する流体(例えば、油)の圧力を調節することで、ワイヤーソー10の張力(ワイヤーソー10を地中杭Pの外周面に圧接させる力)を変更できるようにしてある。張力付与用プーリ20は、切削進行に伴い地中杭Pに対する巻掛け長さが変化すると、昇降することになる。なお、ワイヤーソー10に張力を付与する別態様としては、図示は省略したが、案内プーリ19及び/又は21を昇降自在に配置し、プーリに張力付与用重りを吊り下げて構成することもある。この場合のプーリ20は、所定位置に配置され、昇降しない単なる案内プーリとなる。
前記切削装置3の切削速度増加装置12は、図4に示す如く、固定部材6に取り付けられた太陽手段25と、回転部材7に回転自在に支持されて太陽手段25と伝動可能に連結された遊星手段26と、遊星手段26に伝動可能に連結されてワイヤーソー10を走行させる前記駆動プーリ13と、掘削装置2のケーシング4と回転部材7の間に配置されてケーシング駆動装置5の駆動力をケーシング4を介して回転部材7へ伝達する回転力伝達手段28を有する。切削速度増加装置12は、遊星手段26と駆動プーリ15の間に、ギャーボック等からなる増速装置29を必要に応じて設け、回転数について駆動プーリ15を遊星手段26よりも速くするようにしてある。
前記切削速度増加装置12は、太陽手段25及び遊星手段26をベルトプーリで形成したときには、太陽手段25及び遊星手段26にベルトからなる伝動用巻掛け部材27を巻掛けて両者25,26を伝動可能に連結させ、また、太陽手段25及び遊星手段26をチエーンスプロケットで形成したときには、太陽手段25及び遊星手段26にチエーンからなる伝動用巻掛け部材27を巻掛けて両者25,26を伝動可能に連結させる。更に、前記切削速度増加装置12は、図9に示す如く、太陽手段25の外周を円状に巻掛け固定したチエーン25aで形成したときには、遊星手段26をチエーンスプロケットで形成し、太陽手段25のチエーン25aに遊星手段26のチエーンスプロケットを噛み合わせて伝動可能に連結させ、また、太陽手段25及び遊星手段26を歯車(図示略)で形成したときには、太陽手段25と遊星手段26を歯車どうしを噛み合わせて伝動可能に連結させる。切削速度増加装置12は、いずれの場合でも、遊星手段26が回転する回転部材7と一体に公転しつつ自転するとき、遊星手段26の公転と自転の合計の回転によるワイヤーソー10の切削速度が、従来の公転のみによるワイヤーソー10の切削速度より速くなるように、太陽手段25及び遊星手段26の外径寸法が決定されることになる。なお、増速装置29を設ける場合には、増速装置29の増速割合を考慮して太陽手段25及び遊星手段26の外径寸法が決定されることになる。
前記切削速度増加装置12の回転力伝達手段28は、図4及び図5に示す如く、掘削装置2のケーシング4の基本部分4Aの内周面に上下方向に沿って突設させた係止片28aと、回転部材7の外周面に上下方向に沿って突設させた係止片28bとからなり、ケーシング4の回転に伴い両方の係止片28a,28bを回転方向に係合させることで、ケーシング駆動装置5の駆動力をケーシング4を介して回転部材7へ伝達するようにしてある。ケーシング4の係止片28aは、地中杭Pの複数ある切削高さ位置の各々へ切削装置3の回転部材7を移動させたとき、回転部材7の係止片28bと係合できるように縦長に突設されている(図1参照)。回転力伝達手段28は、図4及び図6(C)に示す如く、ケーシング駆動装置5の駆動力でケーシング4が切削方向G(正回転方向で本例では時計回転方向)へ回転すると回転部材7も切削方向Gへ回転させ、逆に、図5、図7(C)及び図8(C)に示す如く、ケーシング駆動装置5の駆動力でケーシング4が非切削方向H(逆回転方向で本例では反時計回転方向)へ回転すると回転部材7も非切削方向Hへ回転させるようになっている。
前記切削装置3の誘導装置11は、図4及び図5に示す如く、回転部材7に取着された前記一方の杭巻掛け用プーリ14と、中間回転体8に取着された前記他方の杭巻掛け用プーリ15と、回転部材7と中間回転体8の間に配置された誘導切替手段31とからなり、ケーシング駆動装置5(図1参照)の駆動に伴う回転部材7の正・逆回転方向の回転力を誘導切替手段31を介して中間回転体8へ伝達させて両方の杭巻掛け用プーリ14,15の位置関係を変更させることで、ワイヤーソー10を切削状態K(図4及び図6(C)参照)と待機状態J(図5及び図8(C)参照)の間で切り替えるようにしてある。
前記誘導装置11の誘導切替手段31は、図4乃至図8に示す如く、回転部材7の内周面に上下方向へ沿って突設させた係止片31aと、中間回転体8の外周面に上下方向へ沿って突設させた係止片31b,31cとからなり、図6(C)に示す如く係止片31a,31bを正回転方向である切削方向Gに係合させることで、一方及び他方の杭巻掛け用プーリ14,15の位置関係をワイヤーソー10が地中杭Pの外周に巻掛けられる切削状態Kにできると共に、図7(C)に示す如く係止片31a,31cを逆回転方向である非切削方向Hに係合させることで、一方及び他方の杭巻掛け用プーリ14,15の位置関係をワイヤーソー10が地中杭Pの外周面から離れる待機状態J(図8(C)参照)にできるようにしてある。
前記ワイヤーソー張架装置9で張架されているエンドレス状のワイヤーソー10は、図4に示すように誘導切替手段31の切替操作で切削状態Kのときには、一方及び他方の杭巻掛け用プーリ14,15の間の張架寸法が地中杭Pを巻掛けできる程に長くなると共に案内プーリ16,18間の張架寸法が短くなり、図5に示すように誘導切替手段31の切替操作で非切削状態Kのときには、切削状態Kのときに比べて、一方及び他方の杭巻掛け用プーリ14,15の間の張架寸法が短くなると共に案内プーリ16,18間の張架寸法が長くなり、一方及び他方の杭巻掛け用プーリ14,15の間の張架寸法の増減と案内プーリ16,18間の張架寸法の減増とをできる限り打ち消し合うようにしてある。なお、打ち消し合うことのできない寸法については、張力付与用プーリ20の昇降で対処されることになる。ワイヤーソー10は、案内プーリ16,18間の張架寸法が長くなるのに伴い、案内プーリ17,17…に案内されて、中間回転部材8の外回りに対する巻掛け領域を増大させることになる。
前記切削装置3の組み立ては、仮置台(図示略)に固定部材6を仮置き、次に、固定部材6に対して中間回転部材8を外嵌させると共に回転自在に支持せさ、続けて、固定部材6及び中間回転部材8に外側の回転部材7を外嵌させると共に中回転部材7を固定部材6に回転自在に支持せさ、最後に、ワイヤーソー10を張架すると共に切削速度増加装置12を組み上げる。中間回転部材8及び回転部材7には、外嵌させる前に、ワイヤーソー張架装置9や切削速度増加装置12の各部材が予め取り付けられる。組み上げられた切削装置3の移動は、固定部材6の上端をワイヤーWで吊り上げて行われる。
次に、本発明装置1を用いて地中杭Pを切断して除去する方法(杭抜き方法)の各工程について説明する。
(1)第1工程(準備工程):図1に示す如く、地中杭Pの頭部の外回りの土砂を除去して杭突出部Paを形成する。次に、地表にケーシング駆動装置5を設置する。続けて、先端部分4Bに基本部分4Aを連結したケーシング4を吊り下げ、先端部分4Bで杭突出部Paを外嵌すると共に、基本部分4Aをケーシング駆動装置5に連結して準備する。
(2)第2工程(掘削工程):起動したケーシング駆動装置5でケーシング4の基本部分4Aを回転させつつ地中へ向かって押込み、先端部分4Bの掘削刃4dで地中杭Pの外周りを掘削して、地中杭Pの外回りに掘削空間Sを形成する。掘削で生じた土砂は、ケーシング4の螺旋羽根4cで押し上げられて地上へ排出される。掘削は、地中杭Pを切断して除去する深さ(一般的には、地中杭Pの先端までの深さ)まで行う。
(3)第3工程(切削工程):図1に示す如く、組み立てた切削装置3のワイヤーソー10が待機状態(図5参照)となるようにして切削装置3を吊り下げ、回転の停止したケーング4の内側の掘削空間Sへ向かって切削装置3を降下させ、切削装置3の固定部材6の段部6cに設けた回転滑止め部6dを杭頭部Pbに載置させて固定部材6を回転不能に固定する。切削装置3のワイヤーソー張架装置9の流体シリンダー22が油圧シリンダーの場合には、油圧配管(図示略)を介して流体シリンダー22へ適宜圧力の油圧を供給し、ワイヤーソー10を掘削に最適な所定張力の状態にしておく。次に、ケーシング駆動装置5を起動させてケーング4の基本部分4Aを切削方向G(図4参照)(正回転方向で本例では時計回転方向)へ回転させて、図6(C)に示すように回転伝達手段28の係止片28a,28bどうし及び誘導切替手段31の係止片31a,31bどうしを各々切削方向に係合させることで、ワイヤーソー10を図5及び図8(C)に示す待機状態Jから図3、図4及び図6(C)に示す切削状態Kとする。この切削状態Kで、ケーシング駆動装置5によるケーシング4の切削方向への回転を継続させ、地中杭Pの外回りをケーシング4と共に回転する切削装置3のワイヤーソー10で連続に切削して、地中杭Pの外周面の全周囲に亘って横向きに開口する環状凹溝Pe(図7(C)参照)を形成する。切削速度増加装置12は、回転する回転部材7に取り付けられている遊星手段26が、固定状態の環状の太陽手段25の回りを公転するときに太陽装置14との伝動可能な連結で自転もすることになり、公転と自転の総和した回転速度で回転する遊星手段26に増速装置29を介し又は介さず連結して回転する駆動プーリ13でエンドレス状のワイヤーソー10を駆動させることができ、公転のみでワイヤーソー10を移動させる場合に比べて遊星手段26を自転させることでワイヤーソー10の切削速度を増速させることができる。この切削は、地中杭Pの外周寄りに配筋されている縦鉄筋Pd,Pd…を切断する深さであって、縦鉄筋Pdの存在しない切断分離が可能な内側の非切削部分Pcを残す状態まで行う。
(4)第4工程(切断分離工程):前記切削が終了したならば、ケーシング駆動装置5の駆動を止めてケーシング4を一旦停止させ、その後に、ケーシング駆動装置5を逆回転方向へ起動させてケーング4を待機方向H(図7(C)参照)(逆回転方向で本例では反時計回転方向)へ回転させて、図8(C)に示すように回転伝達手段28の係止片28a,28bどうし及び誘導切替手段31の係止片31a,31cどうしを各々待機方向に係合させることで、ワイヤーソー10を図4及び図6(C)に示す切削状態Kから図3、図5及び図8(C)に示すように地中杭Pの外周面から離反させた待機状態Jにして、エンドレス状のワイヤーソー10を地中杭Pと干渉しない状態にする。ワイヤーソー10が待機状態Jになったならば、ケーシング駆動装置5の駆動を止め、切削装置3を吊り上げてケーング4の内側の掘削空間Sから撤去させる。次に、地中杭Pの杭頭部Pb近辺とケーシング4と間に油圧シリンダー等からなる間隔拡げ装置(図示略)を挿入して、地頭部Pb近辺を一方側へ押圧して、前記縦鉄筋Pdの存在しない内側の非切削部分Pcに大きな曲げモーメントを生じさせて非切削部分Pcを切断する。最後に、地中杭Pの切断分離した地表面側部分を、クレーンや、特開2006−37657号公報に記載の杭引抜き上げ装置等を用いて引き抜いて地中から地上へ排除する。
(5)第5工程(再度の掘削工程〜杭の切断分離工程):切断分離して排除した部分より更に深い位置にある地中杭Pを切断分離する場合には、第3工程(切削工程)及び第4工程(切断分離工程)をこの順番で適宜回数を繰り返して、地中杭Pの全部を地上へ排除する。
(6)第6工程(後始末工程):地中杭Pの全部を地上へ排除したならば、切削装置3をケーシング4の内側から撤去すると共に、地中からケーシング4を引抜き、必要に応じて、地中杭撤去後の孔を埋め戻して、作業を完了する。
前記切削装置3は、図3に示す固定部材6の回転滑り止め部6dから杭巻掛け用プーリ14,15までの高さ寸法を地中杭Pの外径寸法に応じて決定し、地中杭Pの頭部Pbから切削・切断箇所までの重量を前記第4工程(切断分離工程)において引き抜き可能な重量となるようにしてある。
本発明装置1は、ワイヤーソー10の切削速度をワイヤーソー10を公転のみで移動させる従来の場合に比べて切削速度増加装置12で増速させることができるため、地中杭Pの切削のための作業時間を、従来に比べて短縮することができる。また、本発明装置1は、切削速度増加装置12の駆動源をケーシング駆動装置5以外に別途必要とせず、駆動源を別途設けない分だけ装置構造を簡単にすることができる。
本発明装置1は、ワイヤーソー10による切削の進行に伴い地中杭Pの外周面に切削形成される環状凹溝Peの溝内に切削屑である小石等が残存しようとするが、ワイヤーソー10が矢符G方向の公転に伴い溝内から小石等を押出すため、走行中のワイヤーソー10が小石等と噛み合うことなくスムーズに環状凹溝Peへ進入することができ、ワイヤーソー10が切断する事態を回避させることができる。
(第2の実施の形態)
図10乃至図12に示す第2の実施の形態に係る本発明装置41が第1の実施の形態に係る本発明装置1(図1乃至図9参照)と大きく相違する点は、前記本発明装置1の中間回転体8を省略すると共に、固定部材6の下端に誘導装置51の待機・切削切替部52を回転自在に支持させたことである。この相違点から、ワイヤーソー張架装置59及び誘導切替手段61の構造が第1の実施の形態に係る本発明装置1と異なることになる。図10乃至図12において第1の実施の形態を示す図1乃至図9と同一符号は、相当部分を示す。
本発明装置41は、掘削装置2と切削装置43からなる。掘削装置2は、ケーシング4及びケーシング駆動装置5(図1参照)からなり、前記第1の実施の形態と実質的に同一である。
前記切削装置43は、図10に示す如く、地中杭Pの頭部Pbに載置して回転不能に固定される内側の固定部材6と、固定部材6に回転自在に支持されて固定部材6の外回りを回る外側の回転部材7と、回転部材7に設けられたワイヤーソー張架装置59と、ワイヤーソー張架装置59で走行自在なエンドレス状に張架されたワイヤーソー10と、張架状態のワイヤーソー10を地中杭Pの外周面から離れる待機状態J(図12(B)参照)から地中杭Pの外周面に水平の弧状に巻掛ける切削状態K(図11(B)参照)まで誘導する誘導装置51と、ワイヤーソー10を張架方向に沿って走行させる切削速度増加装置12とを備え、切削状態Kのワイヤーソー10を地中杭Pの外回りにワイヤーソー張架装置59と共に公転させつつ切削速度増加装置12で張架方向へ走行させることで(図11(B)参照)、ワイヤーソー10の切削速度を公転(地中杭Pの回りを回転)のみとするときに比べて増大させるようにしてある。切削装置43を構成する固定部材6、回転部材7、ワイヤーソー10及び切削速度増加装置12は、前記第1の実施の形態と実質的に同一である。
前記回転部材7は、筒部7aの下方寄りに複数個の案内コロ62,62…を必要に応じて設け、固定部材6の大径部6aの外周面に各案内コロ62を当接させなから回転させるようにして、触れ防止の対策を施してある。
前記ワイヤーソー張架装置59を構成するプーリは、その総てが回転部材7側に設けられ、ワイヤーソー10の切削のための走行方向(矢符F)へ向かって順番に、回転軸が水平な駆動プーリ13、回転軸が水平な一方の杭巻掛け用プーリ14、回転軸が水平な他方の杭巻掛け用プーリ15、回転軸が水平な案内プーリ16、回転軸が垂直な複数個の案内プーリ17,17…、回転軸が水平な案内プーリ18,19、昇降自在に設けられ回転軸が水平な張力付与用プーリ20、及び回転軸が水平な案内プーリ21からなる。一方の杭巻掛け用プーリ14及び他方の杭巻掛け用プーリ15は、ワイヤーソー10の走行方向を、地中杭Pの外周に巻掛ける水平状態から立上げ状態へ変換するものとなり、ワイヤーソー10が待機状態Jと切削状態Kの間で張架状態が変化すると共に切削中に地中杭Pに対するワイヤーソー10の巻掛け状態が変化するのに伴い垂直軸を中心にして自動的に揺動させるようにして、ワイヤーソー10をプーリ14,15から脱輪させないようにしてある。
前記誘導装置51は、図10に示す如く、脱落しないように固定部材6に回転自在に支持されて内側に地中杭貫通空間Mが形成されると共にワイヤーソーPが通過する開口した通過部52bを水平方向へ設けた筒状の待機・切削切替部52と、回転部材7と待機・切削切替部52の間に配置された誘導切替手段61とを備え、ケーシング駆動装置5の駆動に伴う回転部材7の正・逆回転方向の回転力を誘導切替手段61を介して待機・切削切替部52へ伝達させて、待機・切削切替部52の外周面52aにワイヤーソー10を当接させる待機状態J(図12(B)に示すように、地中杭Pの外周面からワイヤーソー10を離す状態)と待機・切削切替部52の通過部52bにワイヤーソー10を通過させて切削状態K(図11(B)に示すように地中杭Pの外周面へワイヤーソー10を切削可能に巻掛ける状態)に切り替えるようにしてある。
前記誘導装置51の誘導切替手段61は、図10に示す如く、回転部材7の内周面に上下方向へ沿って突設させた係止片61aと、待機・切削切替部52の外周面に上下方向へ沿って突設させた係止片61b,61cとからなり、図11(B)に示す如く係止片61a,61bを正回転方向である切削方向Gに係合させることで、待機・切削切替部52を切削状態Kにできると共に、図12(B)に示す如く係止片61a,61cを逆回転方向である非切削方向Hに係合させることで、待機・切削切替部52を待機状態Jにできるようにしてある。
次に、本発明装置41を用いて地中杭Pを切断して除去する方法(杭抜き方法)の各工程について説明する。
(1)第1工程(準備工程):前記第1の実施の形態と実質的に同一である。
(2)第2工程(掘削工程):前記第1の実施の形態と実質的に同一である。
(3)第3工程(切削工程):図10に示す如く、組み立てた切削装置43のワイヤーソー10が待機状態(図12参照)となるようにして切削装置43をワイヤWで吊り下げ、回転の停止したケーング4の内側の掘削空間Sへ向かって切削装置43を降下させ、切削装置43の固定部材6の段部6cに設けた回転滑止め部6dを杭頭部Pbに載置させて固定部材6を回転不能に固定する。切削装置43のワイヤーソー張架装置59でワイヤーソー10を掘削に最適な所定張力の状態にしておく。次に、ケーシング駆動装置5(図1参照)を起動させてケーング4の基本部分4Aを切削方向G(図11参照)(正回転方向で本例では時計回転方向)へ回転させて、回転伝達手段28の係止片28a,28bどうし及び誘導切替手段61の係止片61a,61bどうしを各々切削方向に係合させることで、ワイヤーソー10を図12(B)に示す待機状態Jから図11(B)に示す切削状態Kとする。この切削状態Kで、ケーシング駆動装置5によるケーシング4の切削方向への回転を継続させ、ケーシング4と共に回転する切削装置43のワイヤーソー10で地中杭Pの外回りを連続に切削して、地中杭Pの外周面の全周囲に亘って横向きに開口する環状凹溝Pe(図7(C)及び図8(C)参照)を形成する。切削速度増加装置12は、回転する回転部材7に取り付けられている遊星手段26が、固定状態の環状の太陽手段25の回りを公転するときに太陽装置14との伝動可能な連結で自転もすることになり、公転と自転の総和した回転速度で回転する遊星手段26に増速装置29を介し又は介さず連結して回転する駆動プーリ13でエンドレス状のワイヤーソー10を駆動させることができ、公転のみでワイヤーソー10を移動させる場合に比べて遊星手段26を自転させることでワイヤーソー10の切削速度を増速させることができる。この切削は、地中杭Pの外周寄りに配筋されている縦鉄筋Pd,Pd…を切断する深さであって、縦鉄筋Pdの存在しない切断分離が可能な内側の非切削部分Pc(図7(C)参照)を残す状態まで行う。
(4)第4工程(切断分離工程):前記切削が終了したならば、ケーシング駆動装置5(図1参照)の駆動を止めてケーシング4を一旦停止させ、その後に、ケーシング駆動装置5を逆回転方向へ起動させてケーング4を待機方向H(図12(B)参照)(逆回転方向で本例では反時計回転方向)へ回転させて、回転伝達手段28の係止片28a,38bどうし及び誘導切替手段61の係止片61a,61cどうしの各々を待機方向に係合させることで、ワイヤーソー10を図11(B)に示す切削状態Kから図12(B)に示すように地中杭Pの外周面から離反させた待機状態Jにして、エンドレス状のワイヤーソー10を地中杭Pと干渉しない状態にする。ワイヤーソー10が待機状態Jになったならば、ケーシング駆動装置5の駆動を止め、切削装置43を吊り上げてケーング4の内側の掘削空間Sから撤去させる。次に、前記第1の実施の形態と同様に非切削部分Pcを切断すると共に、地中杭Pの切断分離した地表面側部分を引き抜いて地中から地上へ排除する。
(5)第5工程(再度の掘削工程〜杭の切断分離工程):切断分離して排除した部分より更に深い位置にある地中杭Pを切断分離する場合には、第3工程(切削工程)及び第4工程(切断分離工程)をこの順番で適宜回数を繰り返して、地中杭Pの全部を地上へ排除する。
(6)第6工程(後始末工程):前記第1の実施の形態と実質的に同一である。
本発明装置41は、ケーシング駆動装置5の駆動に伴う回転部材7の正・逆回転により、待機・切削切替部52の外周面52aにワイヤーソー10を当接させる待機状態Jと待機・切削切替部52の通過部52bにワイヤーソー10を通過させて切削状態Kへ円滑に切り替えることができる。また、本発明装置43は、回転部材7を正・逆回転させるための駆動源をケーシング駆動装置5以外に別途必要とせず、駆動源を別途設けない分だけ装置構造を簡単にすることができる。