JP5656435B2 - イヤリングの小さいプレス成形用フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents

イヤリングの小さいプレス成形用フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、深絞り成形加工する際に発生するイヤリングが小さく、かつ表面性状が良好な上に、材料歩留りの向上に効果的に寄与するプレス成形用フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼板、とくに省合金型プレス成形用フェライト・オーステナイト系ステンレス冷延鋼板およびその製造方法に関するものである。
ステンレス鋼を大きく分類するとオーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、2相(フェライト・オーステナイト)系ステンレス鋼に分けられる。オーステナイト系ステンレス鋼は、Niを7%以上含有し、成形性に優れた鋼種が多い。フェライト系ステンレス鋼はNiをほとんど含有せず、一般的に成形性はオーステナイト系ステンレス鋼に比べてかなり低い。一方、2相(フェライト・オーステナイト)系ステンレス鋼は、これまで成形性、耐食性などにおいてオーステナイト系ステンレス鋼とフェライト系ステンレス鋼の中間的な位置づけを持つ鋼種が多い。しかし近年、フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼においても塑性加工時のオーステナイト相の加工誘起マルテンサイト変態を活用してオーステナイト系ステンレス鋼に近い成形性を有する技術が開発されている。塑性加工分野では、成形加工は(1)深絞り加工、(2)張り出し加工、(3)伸びフランジ加工、(4)曲げ加工の4つに分類される。ここで、(1)深絞り加工は供試材を金型へ流し込みながら製品形状を得る加工方法であり、製品形状を歩留まり良く得るためには変形能の指標である伸びやr値の他に、フランジ残り形状の指標であるイヤリングが小さいことが重要となる。
特許文献1では主相がフェライト相であり、残留オーステナイト相を含有するステンレス鋼を用いて、TRIP現象によって引張破断伸びを高めた技術が記載されている。特許文献2ではオーステナイト相の安定性を規定し、引張伸びを高める方法が述べられている。特許文献3においてはオーステナイト相の分率ならびにオーステナイト相中のC、N量を規定し、引張試験における全伸びを高める技術が示されている。また、フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼の中には、近年の省資源化を反映しNi量を低減し比較的安価なNやMnでそのオーステナイト相のバランスをとり、延性と省資源化の両立を図った鋼が特許文献4に記載されている。
しかし、特許文献1では、実施例に示されるように引張破断伸びが34〜42%、特許文献2においては引張破断伸びが最大46%、特許文献3では実施例で最大71%までの破断伸び、特許文献4では引張破断伸び〜46%が記載されているが、これら何れの文献においても実際の深絞り成形後のイヤリングに関する記述は一切見あたらず、イヤリングやそのイヤリングを生成する深絞り成形後の加工品形状との関係は不明確である。
一方、特許文献5では冷延板の連続焼鈍温度を高温化(1150〜1250℃)することにより、その後、1回の冷間圧延だけでイヤリングの小さいオーステナイト系ステンレス鋼板を製造する方法が提案されている。この方法は、冷間加工前のオーステナイト粒径を粗粒化しイヤリングを低減する方法が提案されているが、本発明のようなフェライト・オーステナイト系ステンレス鋼では、図1に示される平衡熱力学計算結果から明らかように、高温になればなるほどオーステナイト相は減少していきオーステナイト相の粗粒化は期待できない。
特開平10−219407号公報 特開平11−71643号公報 特開2006−169622号公報 WO2002/27056 特開平9−87742号公報
従来技術では、引張試験における伸びが高くても実際の絞り成形が主であるプレス加工でイヤリグが大きく歩留まり落ちが顕著となる問題があった。一般的なプレス成形に対して、フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼を広く活用していくためには材料設計指針や材料特性を明確化することが必要である。本発明者らは、特に二相鋼のプレス成形時に求められる材料流入挙動を均一とする方法を明確化することが重要と考えた。
上記のような課題に鑑み、本発明ではイヤリングの小さいプレス成形用フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼板およびその製造方法を提供することが目的である。
本発明者らは、従来技術における上記課題を解決し、フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼板のイヤリングを低減させるため、フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼の成分組成に基づき、ミクロ組織、引張特性および表面性状の影響をラボ試験により鋭意検討を重ねた。その結果、イヤリングが小さくすることが可能なミクロ組織、引張特性、表面粗さ、成分の組み合わせがあることを見出し、本発明を完成した。
本発明の要旨は、次の通りである。
) 質量%で、
C:0.01〜0.04%、
Si:1.0%以下、
Mn:4.0〜6.0%、
P:0.050%以下、
S:0.010%以下、
Ni:1.0〜2.0%、
Cr:20.0〜22.0%、
Cu:0.1〜1.0%、
Al:0.01〜0.06%、
N:0.15〜0.25%
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、圧延方向に対して0°方向と90°方向の0.2%耐力の差が20MPa未満,圧延方向と90°方向の鋼板表面の粗さRzが0.5〜4μmであり、かつ、下記(1)式で示されるイヤリング率が2%未満であることを特徴とするイヤリングの小さいプレス成形用フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼板。
イヤリング率(%)=2×(hmax−hmin)/(hmax+hmin)×100
・・・ (1)
上記式中でhmax:深絞りカップの底から山までの高さ、hmin:深絞りカップの底から谷までの高さを意味する。
) さらに、質量%で、
Mo:0.1〜1.0%
Nb:0.03〜0.50%、
Ti:0.03〜0.50%、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)記載のイヤリングの小さいプレス成形用フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼板。
) さらに、質量%で、
Ca:0.0005〜0.0030%、
Mg:0.0005〜0.0030%、
B:0.0005〜0.0030%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載のイヤリングの小さいプレス成形用フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼板。
(4) 上記()乃至()の内のいずれか1項に記載の鋼成分を有するステンレス鋼からなる熱延板を1100〜1150℃、焼鈍時間5〜60秒で焼鈍し、次いで合計冷延率63%以上で冷間圧延し、その後、再結晶熱処理を施した後、HF/HNO 溶液を用い、HF/HNO 条件(g/L)が(30g/50L)以下の範囲でデスケールし、圧延方向に対して0°方向と90°方向の0.2%耐力の差が20MPa未満、圧延方向と90°方向の鋼板表面の粗さRzが0.5〜4μmであり、かつ、下記(1)式で示されるイヤリング率を2%未満とすることを特徴とするイヤリングの小さいプレス成形用フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
イヤリング率(%)=2×(hmax−hmin)/(hmax+hmin)×100
・・・ (1)
上記式中でhmax:深絞りカップの底から山までの高さ、hmin:深絞りカップの底から谷までの高さを意味する。
以下の説明で、上記(1)〜()の鋼板に係わる発明をそれぞれ本発明という。また、(1)〜()の発明を合わせて、本発明ということがある。
本発明によれば、高価かつ稀少な元素であるNiを多量に含有することなくイヤリングの小さいフェライト・オーステナイト系ステンレス鋼を製造できるため、資源保護ならびに環境保全に貢献しうるものと考えられる。
代表組成を用いて計算したフェライト相の比率と温度の関係を示した図である。 イヤリング率算出の基本となるhmaxとhminを説明する図である。 表面粗さRzと0.2%耐力の異方性の関係にイヤリング率を重ねた図である。なお、ここで0.2%耐力の異方性は、0°方向の0.2%耐力と90°方向の0.2%耐力との差で示す。
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明の重要な要素であるイヤリング率に及ぼす表面粗さRzと0.2%耐力の異方性の関係について説明する。
[圧延方向に対して0°方向と90°方向の0.2%耐力の差が20MPa未満、圧延方向と90°方向の鋼板表面の粗さRzが0.5〜4μm、イヤリング率が2%未満]:深絞り加工時の材料流入に着目すると、材料の変形は金型Die R部の曲げ→曲げ戻し変形から開始される。すなわち、曲げ変形が、方向を問わず均一に変形していくことが重要である。0.2%耐力は弾性変形から塑性変形へ変わる指標の1つであることから、この差が顕著となれば変形し易い部分と変形し難い部分が生じる。変形し易い部分は流入量が多く、変形し難い部分は流入量が少なくなり、絞り加工でこの差が助長されるため、イヤリングを発生する原因の1つになる。一般的にはオーステナイト系ステンレス鋼のような単相鋼のイヤリング生成要因は、結晶方位の集積度やすべり系として考えられているが、フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼では、存在する2相ですべり系は異なり、しかも、それぞれの相が分離して分布していることから、単相組織の考え方を用いてイヤリング率を低減することは不可能であることが明白である。
したがって、フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼においては、円筒深絞り成形時の材料の流入抵抗を均一とすること、すなわち、0.2%耐力の各方向における差を小さくすることがイヤリング率を低下させることにつながるため、0.2%耐力の異方性差を調査した結果、20MPa未満でイヤリング率が2%未満となることが明確になった。好ましくは、10MPa以下である。ここで、イヤリング率は低ければ低いほど良いことが明白であるが、2%未満であれば顕著なイヤリングとは認識できないことから上限を2%未満とした。
イヤリング率は下記(1)式で表すことができる。
イヤリング率(%)=2×(hmax−hmin)/(hmax+hmin)×100 ・・・ (1)
上記式中でhmax:深絞りカップの底から山までの高さ、hmin:深絞りカップの底から谷までの高さを意味する。
すなわち、図2のイヤリング率算出の基本となるhmaxとhminを説明する図に示すように、供試材を金型へ流し込みながら製品形状を得る深絞り加工をした際に、hmaxは深絞りカップ1の底2から山3までの高さ、hminは深絞りカップ1の底2から谷4までの高さである。
さらに、鋼板表面の粗さにより材料流入は大きく影響される。ステンレス鋼板をプレス成形する際には、多くの場合潤滑油を用いる。これは、鋼板が金型へ焼き付き易い特性を有しているためであり、焼き付きによる製品歩留まりの低下や金型摩耗を抑制して、生産性を確保する狙いがある。したがって、潤滑油が成型過程で鋼板と金型の境界に存在していることが重要となる。
潤滑油が鋼板もしくは金型表面に存在していても、成形時に金型に鋼板表面が強く押し付けられ、鋼板表面を擦りながら移動していくため、同時に潤滑油の存在スペースが失われてしまう。ここで、フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼では、二相が存在するため最終デスケール時に溶解量が異なるため、単相のフェライト系ステンレス鋼やオーステナイト系ステンレス鋼とは異なった各相に対応する表面の凹凸が発現する。また、この二相は硬さが異なるため、成形過程での変形量が異なる。すなわち、適度な表面粗さにより潤滑油が鋼板表面に存在し易い凹凸が形成され、成形過程でこの凹凸が維持されながら変形していくため、プレス過程で高い潤滑性能が発揮されプレス成形性が高くなることが明確になった。
図3は表面粗さRzと均一伸びの関係に限界絞り比を重ねた図である。Rzが0.5未満では、潤滑油を捕捉する凹凸が充分ではなく、4.0μmを超えると凹凸が大きすぎるため、凹部に潤滑油が存在するのみで凸部頂上には潤滑油が殆ど存在せず、鋼板と金型が接触するため著しい成形性低下を招く。したがって、Rzを0.5〜4μmとしたが、好ましくは、Rzが1.0〜3.0μmの範囲である。
以下に成分の限定理由を述べる。なお、以下に示す「%」とは質量%を表す。
C:Cはオーステナイト相の安定度に大きな影響を及ぼす元素であるとともにCr炭化物の析出を促進するために粒界腐食の発生をもたらす耐食性には有害な元素である。耐食性の点からCは低くするほうが好ましいが、低減するためには精錬時のコスト増加を招く。したがって、0.01〜0.04%の範囲とした。好ましくは、0.025〜0.04%の範囲である。
Si:Siは脱酸元素として使われたり、耐酸化性向上のために含有されたりする場合がある。しかし、材料の硬質化をもたらし、均一伸びが低下するため、1.0%を上限とした。またSiを極低減するためには精錬時のコスト増加を招く。好ましくは、0.05〜1.0%の範囲であり、さらに好ましくは、0.4〜1.0%の範囲である。
Mn:Mnはオーステナイト相に濃化し、オーステナイト相の安定度を変化させるのに重要な役割を持つ。特に、高価なNiと類似の効果を発現できることから、下限を4.0%とした。しかし多量の含有は耐食性や熱間加工性の低下をもたらすため、上限を6.0%とした。好ましくは4.5〜5.5%とすることが望ましい。
P:Pは不可避的に混入する元素であり、またCrなどの原料に含有されているため、低減することが困難であるが、多量に含有した場合には成形性を低下させるため、上限を0.050%とした。
S:Sは不可避的に混入する元素であり、Mnと結合して介在物をつくり、発銹の基点となる場合があるため、上限を0.010%とした。低いほど耐食性からは好ましいため、0.003%以下とすることが望ましい。
Cr:Crは耐食性を確保するために必要であるとともにNの固溶限を上昇させる元素であるため、20.0%以上の含有が必要である。しかし、多量の含有は熱間加工割れを原因となり、精錬工程のコスト増加につながるため、上限を22.0%とした。好ましくは、20.0〜21.0%の範囲である。
Ni:Niはオーステナイト安定化元素であり、オーステナイト相の安定度を調整するために重要な元素である。また熱間加工割れを抑制する効果を持つため、1.0%以上含有させる。2.0%を超える含有は、原料コストの増加をもたらし、またオーステナイト、フェライトの2相組織を得ることが困難になる場合があるため、これを上限とした。好ましくは、1.2〜1.7%の範囲である。
N:NはC同様にオーステナイト相の安定度に大きな影響を及ぼす元素である。また固溶して存在した場合に耐食性を向上させる効果を持つため、0.15%以上含有することとする。但し、0.25%以上含有した場合は硬度の上昇が著しくなり、均一伸びが低下する場合が認められるほか、Cr窒化物が析出しやすくなって逆に耐食性の低下をもたらすため、これを上限とした。好ましくは、0.18〜0.22%の範囲である。
Al:Alは鋼の脱酸能力が非常に大きい元素であり、フェライト相の靱性向上の観点から必ず添加する必要がある。脱酸により酸化物系介在物を減少させ高い靱性を得るためには0.01%以上の含有が必要である。一方過剰な添加は鋼の硬質化を招き、加工性を低下させる可能性があるので0.06%以下の含有量とする。好ましくは、0.02〜0.05%の範囲である。
Cu:CuもNi同様、オーステナイト安定化元素であり、オーステナイト相の安定度を調整するために重要な元素である。ただし、1.0%を超える含有は熱間加工時の割れを促進し、また強度を上昇させるため、これを上限とした。安定して効果を得るためには、0.1%以上が好ましい。
また、選択的に下記元素を含有することができる。
Mo:Moは耐食性を向上させる元素であるため、選択的に含有しても良い。0.1%以上の含有により、耐食性向上効果が発揮される。安定して効果を得るためには、0.5%以上が好ましい。ただし、1.0%を超えると均一伸びが低下し深絞り性を低下させるとともに、原料コストが大きく増加するため、これを上限とした。
Nb:Nbは溶接熱影響部の粗大化を防止する効果があるが、0.50%超の含有は均一伸びを低下させるため、これを上限とした。安定して効果を得るためには、0.03%以上が望ましい。
Ti:TiもNb同様、溶接熱影響部の粗大化を防止する効果を有する。さらには凝固組織を微細等軸晶化するため、0.03%以上の含有が好ましい。ただし、0.50%超の含有は均一伸びを低下させるため、これを上限とした。
Ca:Caは脱硫、脱酸のために若干含有されることがある。但し、0.0030%超の含有によって熱間加工割れが生じやすくなり、また耐食性が低下するため、これを上限とした。安定して効果を得るためには、0.0005%以上が望ましい。
Mg:Mgは、脱酸だけでなく、凝固組織を微細化する効果を持つ。これらの効果を安定して発揮するためには、0.0005%以上の含有が望ましい。また、0.0030%超の含有は製鋼工程でのコスト増加をもたらすため、これを上限とした。
B:Bは粒界強度を上昇させるのに有効な元素である。このような効果を安定して発揮するためには、0.0005%以上の含有が望ましい。また、0.0030%超の含有は多量のホウ化物生成を招き、耐食性を著しく低下させる。
次に、製造方法についての限定理由を述べる。
図1は本発明鋼の代表組成(0.01%C−0.1%Si−5%Mn−1.5%Ni−21%Cr−0.5%Cu−0.2%N)を用いて、サーモカルクver.Qによって算出したフェライト・オーステナイト系ステンレス鋼の900℃〜1200℃におけるフェライト相率を示す図である。1100℃でフェライト相率57%、1200℃でフェライト相率77%と温度が上昇するに従いフェライト相率は増加している。1100℃以上の温度ではフェライト相率がオーステナイトよりも多く存在すると推定される。オーステナイト相の比率が低下することで、ファイバー状に存在するオーステナイト相を分断することが可能となる。したがって、熱処理温度は1100℃以上とした。しかし、1150℃以上の温度では、オーステナイト相が部分的に消失するためフェライト相の粒成長が著しくなり、破断強度の低下による成形性の劣化を招くことが明らかとなったため、上限を1150℃とした。次いで、熱処理時間では、高N含有である効果から組織形成はNの拡散によって律速される(特に高温では組織変化が急激に起こる)ため、焼鈍時間を60秒までとした。一方、Nの拡散にともなう組織形成が安定するためには保定時間が必要であることから、5秒以上の焼鈍時間とした。ここで、冷延板焼鈍に供する素材の冷間圧延率が低い場合には、軟質なフェライト相に冷間圧延の歪が集中して導入されるため、オーステナイト相への歪導入が少なくなるため組織変化が生じ難く、冷間圧延前に存在する粗大粒が部分的に残存してしまう。したがって、63%以上の合計冷延率が必要となる。好ましくは、板厚が1.5mm以下で70%以上の合計冷延率によって、鋼板を製造することである。冷延板への再結晶熱処理は、再結晶温度が高いオーステナイト相の温度や時間に律速されるが、熱処理温度が高すぎたり、熱処理時間が長すぎるとフェライト相の粒成長が促進されるため、1000〜1100℃で30秒以内が望ましい。
表1に示す化学組成の鋼を真空高周波溶解炉により、厚さ50mm、幅160mm幅の鋳塊とし、1200℃に加熱した後に、熱間圧延により5mm厚の熱延板とした。その後、表2に示す条件で熱延板焼鈍の後、デスケール、冷間圧延の工程を経て、種々の厚さの冷延板を製造した。これら冷延板に焼鈍温度:1080〜1180℃、焼鈍時間:5〜100秒の冷延板焼鈍を実施した。得られた冷延焼鈍板のデスケールは、アルカリソルト浴(430℃30秒保定)によるスケール改質処理の後にHF/HNO溶液を用いたデスケールにより供試材とした。ここで、HF/HNOの条件は、HF=5〜50g/L、HNO=20〜100g/Lで変化させ、溶液温度を50℃、浸漬時間を20秒で固定することで、表面粗さを変化させた。溶解量が少なければ、スケール残りや各相における溶解量の差が小さくなるため表面が平坦であり、溶解量が多すぎれば、各相の溶解量の差が大きくなるため、凹凸が顕在化し、表面粗さが著しく大きくなった。表面粗さは、各相比率の影響を受けやすいが、HF:HNOの比率を1:5〜2:5とすると表面粗さが最適範囲内に入る。
供試材の表面粗さ測定は、ミツヨト製SV3000CNC3次元粗さ計(触針径:2μm)を用い、JISB0601’01に準拠した条件で高さ倍率2000倍として圧延方向に対して90°方向のRzを3回実施し平均を求めた。0.2%耐力測定のための引張試験は、圧延方向に対して0°と90°方向から採取したJIS13号B試験片により、JISに準拠した条件で2回測定し平均値を求めた。イヤリング率の測定はエリクセン社製142/40型薄板成形試験機を用い、Punch径40mm、Die径43mmの金型を用い、試験片径80mm(絞り比2.0:試験片径/Punch径)の円筒深絞りを実施し、成形加工品の山高さと谷高さを測定し算出した。深絞り試験の成形条件は、クッション圧1ton、潤滑剤は#122ワックスとした。
Figure 0005656435
熱間圧延材に施した製造条件および得られた鋼板を用いて調査した表面粗さRz、0.2%耐力およびイヤリング率を表2に示す。
Figure 0005656435
表2から明らかなように成分範囲(No.1〜15)、表面粗さRzおよび製造条件が本発明範囲を満足する場合(No.2−2、3−2、6−2、9−2、10−2、15−2を除く)に、イヤリング率は2%未満となっている。No.16〜No.25は、成分が範囲外であり、本発明の製造条件を満たしていたとしてもNo.23、No.24に示されるように、0.2%耐力の異方性もしくは表面粗さが外れているため、イヤリング率が2%超となっている。No.2−2のように成分範囲は満足しているものの熱処理温度が上限を外れているため、フェライト相の著しい粒成長に起因したミクロ組織の不均一が生じた結果、0.2%耐力の異方性差が大きくなるとともにデスケール時の各相の溶解量に差が生じ、イヤリング率は2%超となっている。同様にNo.3−2のように成分範囲は満足しているものの熱処理温度が下限を外れているため、オーステナイト相の拡散消滅に不均一が生じた結果、0.2%耐力の異方性差が大きくなりイヤリング率は2%超となっている。また、No.6−2では成分範囲、製造条件は満足しているもののデスケール時の溶解量の差が大きくなったため、表面粗さが本発明範囲から外れており、イヤリング率が3.1%と2%超となっている。No.9−2は、冷延率が50%と低く熱延板組織の分断が不十分なため、0.2%耐力の異方性が大きくなりイヤリング率が2%超となっている。No.10−2は成分範囲を満しているが、熱処理時間が短時間側で外れているため、オーステナイト相の拡散消滅が充分に達成されずミクロ組織の不均一さが生じてしまい、0.2%耐力の異方性差が大きくなるとともにデスケール時の各相の溶解量に差が生じ、イヤリング率は2%超となっている。No.15−2は熱処理時間が長時間に外れており、フェライト相の粒成長が生じたためオーステナイト相の拡散減少が進み、0.2%耐力の異方性が大きくなっている。
本発明により、イヤリングの小さいプレス成形性に優れたフェライト・オーステナイト系ステンレス鋼を得ることが可能となる。
1 深絞りカップ
2 底
3 山
4 谷

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.01〜0.04%、
    Si:1.0%以下、
    Mn:4.0〜6.0%、
    P:0.050%以下、
    S:0.010%以下、
    Ni:1.0〜2.0%、
    Cr:20.0〜22.0%、
    Cu:0.1〜1.0%、
    Al:0.01〜0.06%、
    N:0.15〜0.25%
    を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、圧延方向に対して0°方向と90°方向の0.2%耐力の差が20MPa未満,圧延方向と90°方向の鋼板表面の粗さRzが0.5〜4μmであり、かつ、下記(1)式で示されるイヤリング率が2%未満であることを特徴とするイヤリングの小さいプレス成形用フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼板。
    イヤリング率(%)=2×(hmax−hmin)/(hmax+hmin)×100
    ・・・ (1)
    上記式中でhmax:深絞りカップの底から山までの高さ、hmin:深絞りカップの底から谷までの高さを意味する。
  2. さらに、質量%で、
    Mo:0.1〜1.0%
    Nb:0.03〜0.50%、
    Ti:0.03〜0.50%、
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載のイヤリングの小さいプレス成形用フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼板。
  3. さらに、質量%で、
    Ca:0.0005〜0.0030%、
    Mg:0.0005〜0.0030%、
    B:0.0005〜0.0030%
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のイヤリングの小さいプレス成形用フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼板。
  4. 請求項乃至の内のいずれか1項に記載の鋼成分を有するステンレス鋼からなる熱延板を1100〜1150℃、焼鈍時間5〜60秒で焼鈍し、次いで合計冷延率63%以上で冷間圧延し、その後、再結晶熱処理を施した後、HF/HNO 溶液を用い、HF/HNO 条件(g/L)が(30g/50L)以下の範囲でデスケールし、圧延方向に対して0°方向と90°方向の0.2%耐力の差が20MPa未満、圧延方向と90°方向の鋼板表面の粗さRzが0.5〜4μmであり、かつ、下記(1)式で示されるイヤリング率を2%未満とすることを特徴とするイヤリングの小さいプレス成形用フェライト・オーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
    イヤリング率(%)=2×(hmax−hmin)/(hmax+hmin)×100
    ・・・ (1)
    上記式中でhmax:深絞りカップの底から山までの高さ、hmin:深絞りカップの底から谷までの高さを意味する。
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