JP5650480B2 - 細胞シートの製造方法 - Google Patents

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本発明は、細胞シートの製造方法に関する。
近年、細胞を培養する際の基質として生分解性材料が用いられている。細胞外マトリックスと同様に、生体適合性を有する足場として用いるためには、生分解性材料が細胞の接着および増殖を促すことのできる適切な表面状態を有していることが望ましい。また、一般的に、合成材料に比べて、天然材料は、被移植体の組織に対して害となる影響が少ないために、細胞の基質として好ましく用いられている。
アルギン酸塩は、生体適合性を有し、かつ生分解性を有する天然材料の一つである。アルギン酸塩は、褐藻類由来の鎖状多糖類の一種であり、種々の割合で1,4結合したβ−D−マンヌロン酸残基およびα−L−グルロン酸残基から構成されている。アルギン酸塩は、多価金属イオンで架橋することにより、ゲル化するという特性を有している。
多価金属イオンで架橋されたアルギン酸のなかでも、鉄で架橋されたアルギン酸(鉄架橋アルギン酸ゲル)は、細胞の接着および増殖に適した表面状態を有しており、細胞培養用基質として優れた材料であることが報告されている(特許文献1、非特許文献1及び2)。
一方、近年、再生医療の分野では、培養した細胞の臨床応用が検討されている。培養細胞の回収方法には種々の方法があるが、例えば、上述の特許文献1、非特許文献1及び2では、鉄架橋アルギン酸ゲルが細胞培養用基質として使用され、鉄架橋アルギン酸ゲル上で細胞が培養され、トリプシンを用いた酵素処理や、クエン酸塩、EDTAなどのキレート剤により細胞培養用基質を溶解する方法により細胞が回収されている。
組織工学において組織構造の再生を目的とする際には、培養細胞を、細胞間接着を維持したままシート状に回収することが望ましい。しかしながら、上記のトリプシンを用いた酵素処理による回収方法を用いた場合には、細胞間接着が切断されバラバラになった細胞を回収することしかできなかった。また、キレート剤を利用した回収方法を用いた場合でも、小さな細胞の塊を回収することができたのみで、組織構造の再生に適したシート状細胞(以下、細胞シートという。)は得られていなかった。
特開2009−11215号公報
Ikuko Machida-Sano et al. "In vitro adhesion of human dermal fibroblasts on iron cross-linked alginate films" Biomed. Mater. 4 (2009) 025008 (8pp) Ikuko Machida-Sano et al. "A novel harvesting method for cultured cells using iron-cross-linked alginate films as culture substrates", Biotechnol. Appl. Biochem. (2010) 55, 1-8
したがって、本発明は、細胞同士の接着が保持されている細胞シートを、効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
本発明の発明者らは、上記のクエン酸塩、EDTAなどのキレート剤を利用した回収方法において、キレート作用が細胞間接着に関与している2価カチオン(Caイオン)にも及ぶことが、細胞シートを得ることができない理由の一つであると考え、特定のキレート剤を用いることにより細胞間接着への影響を抑え、細胞をシート状に回収することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、鉄架橋アルギン酸ゲルを含む細胞培養用基質の上で細胞を培養する工程、及び、鉄架橋アルギン酸ゲルを含む細胞培養用基質を鉄に特異的に結合するキレート剤を用いて溶解し、培養した細胞を細胞シートとして得る工程、を含む細胞シートの製造方法に関する。
本発明の製造方法に用いられる鉄に特異的に結合するキレート剤の例としては、デフェロキサミンメシル酸塩、デフェラシロクス、またはデフェリプロンが挙げられる。また、本発明の製造方法においては、鉄に特異的に結合するキレート剤を、鉄架橋アルギン酸ゲルを含む細胞培養用基質1mmに対し、例えば0.5〜60mg用いることができる。
本発明の細胞シートの製造方法によれば、細胞同士の接着が保持されている細胞シートを、効率よく製造することができる。
細胞培養用基質を、鉄に特異的に結合するキレート剤を含む溶液中に浸漬させた後の経時変化を示す写真である。 正常ヒト繊維芽細胞に、鉄に特異的に結合するキレート剤を含む溶液を加え、24時間経過した後の写真である。 実施例2において得られた細胞シートの写真である。 実施例2において得られた細胞シートの位相差顕微鏡写真((a)40倍、(b)100倍)である。 比較例1において得られた細胞の位相差顕微鏡写真((a)40倍、(b)100倍)である。
本発明の細胞シートの製造方法は、鉄架橋アルギン酸ゲルを含む細胞培養用基質の上で細胞を培養する工程、及び、鉄架橋アルギン酸ゲルを含む細胞培養用基質を鉄に特異的に結合するキレート剤を用いて溶解し、培養した細胞を細胞シートとして得る工程、を含む。
本発明の製造方法に用いられる細胞培養用基質は、鉄架橋アルギン酸ゲルを含む細胞培養用基質であり、細胞との接着性が良好であり、細胞の増殖を可能とする材料である。アルギン酸に含まれるβ−D−マンヌロン酸残基およびα−L−グルロン酸残基の割合は特に限定されない。アルギン酸として、褐藻類からの抽出物や、市販品を用いることができる。細胞培養用基質は、少なくとも、イーグル最小必須培養液などの細胞培養液や水などを含浸させ、膨潤した状態、すなわちゲル化した状態の鉄架橋アルギン酸からなる。鉄架橋アルギン酸ゲルは薄膜状であることが好ましく、また、鉄架橋アルギン酸ゲル薄膜は、必要に応じ任意の担体などの上に積層されていてもよいが、後述する薄膜の利点や、細胞シートを容易に得ることができるという点を考慮すると、単層であることが好ましい。
鉄架橋アルギン酸ゲルは、主として鉄架橋アルギン酸からなるゲルであるが、細胞の増殖を妨げない範囲で任意の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、各種ビタミン、アミノ酸、塩類などの細胞用基質に用いられる公知の添加剤が挙げられる。また、鉄架橋アルギン酸ゲルは、細胞の増殖や鉄架橋アルギン酸ゲルの溶解を妨げない範囲でその一部に鉄以外の金属によって架橋された部分を有していてもよい。鉄以外の金属としては、例えば、カルシウム、バリウム、ストロンチウムなどが挙げられる。さらに、鉄架橋アルギン酸ゲルは、表面がペプチドなどにより修飾されていてもよい。
鉄架橋アルギン酸ゲルは、機械的特性にも優れていることから、その形状は特に限定されず、必要に応じいずれの形状とすることも可能であるが、細胞シートを得るためには薄膜状であることが好ましい。薄膜状であると、培養した細胞の観察が容易である、溶解させやすく、分解や吸収による副産物が少ないなどの利点もある。また、鉄架橋アルギン酸は酸性度が比較的強いために、細胞培養に用いる際には、場合によってpHを調整することが望ましい。調整が容易であるという観点からも、鉄架橋アルギン酸ゲルは薄膜状であることが好ましい。薄膜の厚さは特に限定されず、必要に応じて適宜設定することができる。好ましくは1μm〜1mmであり、より好ましくは5μm〜100μm、さらに好ましくは20μm〜30μmである。
本発明の製造方法に用いられる細胞培養用基質は、例えば、アルギン酸のアルカリ金属塩に鉄イオンを加えることにより製造することができる。アルギン酸のアルカリ金属塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムを挙げることができる。好ましくは、アルギン酸ナトリウムである。また、鉄イオンとしては、鉄(II)イオン、鉄(III)イオンのいずれでもよいが、好ましくは鉄(III)イオンである。鉄イオンは、塩化鉄水溶液などの鉄イオン水溶液としてアルギン酸のアルカリ金属塩に加えることができる。
細胞培養用基質の製造方法として、具体的には次の方法がある。まず、細胞培養プレート、細胞培養ディッシュなどの容器に、アルギン酸のアルカリ金属塩水溶液を加え、次いで、鉄イオン水溶液を加えて撹拌した後、室温で静置し、アルギン酸と鉄とを反応させる(鉄架橋アルギン酸(アルギン酸鉄)を得る)。その後、得られた鉄架橋アルギン酸を洗浄し、アルギン酸と反応していない金属イオンを除去する。これにより、ゲル化したアルギン酸、すなわち、鉄架橋アルギン酸ゲルからなる細胞培養用基質が得られる。
あるいは、他の製造方法として、次の方法がある。まず、細胞培養プレート、細胞培養ディッシュなどの容器に、アルギン酸のアルカリ金属塩水溶液を加えた後、アルギン酸のアルカリ金属塩水溶液を乾燥させる。次いで、乾燥したアルギン酸のアルカリ金属塩に、鉄イオン水溶液を加え、室温で静置し、アルギン酸と鉄とを反応させる(鉄架橋アルギン酸を得る)。その後、得られた鉄架橋アルギン酸を洗浄し、アルギン酸と反応していない金属イオンを除去する。これにより、薄膜状のゲル化したアルギン酸、すなわち、鉄架橋アルギン酸ゲル薄膜からなる細胞培養用基質が得られる。
薄膜状の細胞培養用基質を得る場合には、鉄イオンを加える前に、アルギン酸のアルカリ金属塩水溶液を乾燥させることが好ましい。乾燥させることにより、薄く、厚さの均一なアルギン酸ゲル薄膜を得ることができる。乾燥させる際の温度は、通常20〜100℃であり、好ましくは40〜90℃、より好ましくは50〜60℃であり、乾燥させる際の時間は、通常1分から48時間、好ましくは6時間から〜36時間、より好ましくは12時間〜24時間(一晩)である。
使用するアルギン酸のアルカリ金属塩水溶液の濃度は、1重量%以上2重量%未満であることが好ましい。1重量%未満であると、鉄架橋アルギン酸ゲルが十分な強度を保つことができない傾向があり、2重量%以上であると水溶液の粘度が高く、アルギン酸が溶解し難くなる傾向がある。また、鉄イオン水溶液の濃度は、好ましくは1mM〜2Mであり、より好ましくは10mM〜1M、さらに好ましくは250mM〜500mMである。
アルギン酸のアルカリ金属塩水溶液および鉄イオン水溶液は、例えば、上記の添加剤を含んでいてもよい。または、容器に直接、上記の添加剤を加えることもできる。
得られた細胞培養用基質をエタノールで滅菌した後、さらに細胞培養液などに浸して静置または振とうしながら、安定化させてもよい。鉄架橋アルギン酸は酸性を示すために、この観点からも細胞培養に用いる前に安定化させることが好ましい。静置または振とうの条件は、4〜37℃、48〜72時間であり、好ましくは37℃、72時間である。
このようにして得られた鉄架橋アルギン酸ゲルを含む細胞培養用基質は、細胞の足場として使用することができる。細胞培養用基質は、乾燥させて保存することが可能であり、乾燥させた細胞培養用基質は、細胞培養液などを用いて膨潤させた後に、細胞培養に用いることができる。乾燥は、上述のアルギン酸のアルカリ金属塩を乾燥させる際の条件と同様に行えばよく、膨潤は、上述の細胞培養用基質を安定化させる際の条件と同様に行えばよい。
本発明の製造方法に用いられる細胞培養用基質は、細胞を良好に接着させ、伸展させ、増殖させることができる。
本発明の細胞シートの製造方法においては、細胞培養用基質の上で細胞を培養する。本発明の製造方法は様々な細胞に適用することが可能であるが、ヒトを含む哺乳類の細胞に好ましく用いられる。哺乳類としては、ヒト、ラット、マウス等が挙げられる。また、細胞としては、上皮細胞、繊維芽細胞、表皮角化細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、軟骨細胞、神経細胞等が挙げられる。
細胞の培養は、細胞が互いに接触する状態(コンフルエント状態)になるまで行う。細胞を培養する方法としては、従来公知の方法を採用することができる。
本発明の製造方法においては、鉄架橋アルギン酸ゲルを含む細胞培養用基質を、鉄に特異的に結合するキレート剤を用いて溶解し、細胞シートを得る。「鉄に特異的に結合するキレート剤」とは、鉄イオンに対する結合選択性が高いキレート剤を言い、なかでも細胞間接着に関与している2価カチオンへの影響が少ないキレート剤が好ましい。
鉄に特異的に結合するキレート剤として、鉄排泄剤などの鉄を特異的にキレートする薬剤や、鉄キレート剤などの鉄を特異的にキレートする試薬など、鉄イオンに対する結合選択性が高いキレート剤として一般に知られているものを用いることができる。細胞シートを臨床応用に利用する可能性を考慮すると、安全性の観点から、鉄排泄剤などの鉄を特異的にキレートする薬剤を用いることが好ましい。本発明においては、市販されているいずれの鉄排泄剤も使用可能であり、例えば、デフェロキサミンメシル酸塩、デフェラシロクス、デフェリプロン等がある。いずれの薬剤も、輸血による鉄過剰患者の治療に用いられるが、デフェロキサミンメシル酸塩(デスフェラール(登録商標))は静注もしくは皮下注入により投与、デフェラシロクス(Exjade(登録商標)、ノバルティスファーマ株式会社)は経口投与、デフェリプロン(Ferriprox(登録商標)、Apotex Inc.)は経口投与により用いられている薬剤である。鉄親和性の観点から、デフェロキサミンメシル酸塩、デフェラシロクスが好ましい。
細胞培養用基質を、キレート剤を用いて溶解する具体的な方法としては、増殖した細胞が接着した細胞培養用基質を、キレート剤を含む溶液中に浸漬する方法や、増殖した細胞が接着した細胞培養用基質を容器に入れ、キレート剤を含む溶液を加える方法が挙げられる。用いるキレート剤の量は、細胞培養用基質1mmあたり、0.5〜60mgとなる量が好ましく、1〜15mgがより好ましく、2〜4mgがさらに好ましい。キレート剤の量が0.5mg未満であると細胞培養用基質が十分に溶解しない場合があり、60mgを超えると細胞に毒性がもたらされる可能性が増す傾向がある。
細胞培養用基質の溶解時には、キレート剤を含む溶液には、他に、アルカリ金属イオンを含ませることができる。アルカリ金属イオンは、アルギン酸の架橋に携わっている鉄イオンに換え、アルギン酸と結合させるために用いられる。キレート剤を含む溶液にアルカリ金属イオンを含有させるためには、キレート剤を含む溶液に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のアルカリ金属塩を加えればよい。加える塩は、通常、浸透圧が細胞にとって不適切とならないような濃度とする。
キレート剤を含む溶液に用いる溶媒としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などの緩衝液を用いることが好ましい。用いる溶媒の容量は、細胞培養用基質1mmあたり、0.25〜1.5mLが好ましく、0.5〜1.25mLがより好ましく、0.7〜1mLがさらに好ましい。溶媒の容量が細胞培養用基質1mmあたり0.25mL未満であると細胞培養用基質が溶解しにくい傾向があり、1.5mLを超えると溶液量が細胞培養用基質の大きさに対して過剰となり、細胞シートの扱いが難しくなる傾向がある。
浸漬時間は、5〜90分が好ましく、10〜60分がより好ましく、20〜45分がさらに好ましい。浸漬時間が1分未満であると細胞培養用基質が溶解できない傾向があり、150分を超えると細胞に毒性がもたらされる可能性が増す傾向がある。また、キレート剤を含む水溶液の温度は、4〜37℃が好ましく、より好ましくは37℃である。
細胞培養用基質の溶解は、細胞培養用基質を、キレート剤を含む溶解用溶液中で、静置または振とうしながら行う。静置または振とうの条件は、好ましくは37℃、5%CO条件下である。また、振とうの他に、細胞間接着に影響を及ぼさない程度のおだやかなピペッティング等の物理的刺激を加えることにより、細胞シートの基質からの剥離を促すことができる。
本発明においては、鉄に特異的に結合するキレート剤を用いることにより、細胞培養用基質を溶解し、コンフルエント状態に培養した細胞を、細胞間の接着を維持したままシート状に得ることができる。
本発明の製造方法により得られた細胞シートは、細胞間の接着が良好であり、生物医学分野・生体組織工学分野の研究、新薬の研究開発、臨床応用の場での移植、検査、などに用いることができる。
以下、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(細胞培養用基質の調製)
6ウェル組織培養プレートの各ウェルに、セルロース製のシート(BEMCOT(登録商標)、小津産業株式会社)を切り出すことにより作製したフレーム(直径約30mmのリング)を置いた。次いで、1%(w/v)アルギン酸ナトリウム水溶液3mL(MVG(α−L−グルロン酸高含有)、FMC Biopolymer製)を各ウェルに加え、60℃で一晩乾燥させた。乾燥後、各ウェルに500mMのFeCl3mLを加え、30分間、室温で放置し、アルギン酸を架橋した。得られたゲルフィルムを脱イオン水で洗浄し、アルギン酸と反応していないイオンを除き、さらに、ゲルフィルムを70%(v/v)エタノールで殺菌した。殺菌後、ゲルフィルムをイーグル最小必須培養液(E−MEM、日水製薬株式会社)中で、37℃、5%CO雰囲気下、72時間保存し、安定させた。E−MEMは、24時間毎に交換した。得られたゲルフィルムの厚さは、約30μmであった。
(実施例1)
(デフェロキサミンメシル酸塩による細胞培養用基質の溶解)
デフェロキサミンメシル酸塩(シグマアルドリッチ社製)2.5mgをPBS 1mLに溶解し、デフェロキサミンメシル酸塩水溶液(2.5mg/mL)を得た。上記で得た細胞培養用基質を、実際に細胞の培養に用いた後の状態と同様の状態にするために、細胞培養液である10%(v/v)ウシ胎児血清(FBS、Tissue Culture Biologicals)を含有するE−MEM中に14日間浸漬させた。その後、細胞培養用基質を5mm×5mm×30μmに切り出し、デフェロキサミンメシル酸塩水溶液1mL(細胞培養用基質1mmあたり約3mg相当)を加え、37℃、5%CO条件下にて静置した。
その結果、150分で細胞培養用基質が完全に溶解した(図1)。
(デフェロキサミンメシル酸塩による細胞への影響)
細胞は、正常ヒト皮膚繊維芽細胞(NHDF、Cambrex Bio Science Walkersville,Inc)を用いた。まず、細胞を6ウェル組織培養プレートに播種し、10%(v/v)FBSを含有するE−MEM内で、37℃、5%CO条件下にて増殖させた。
デフェロキサミンメシル酸塩(シグマアルドリッチ社製)を10%(v/v)FBSを含有するE−MEMに溶解し、25mg/mLのデフェロキサミンメシル酸塩水溶液を得た。
6ウェル細胞培養プレート中でコンフルエントになるまで培養したNHDFに、デフェロキサミンメシル酸塩水溶液を2mL/wellにて加え、上記と同様の条件で培養を続けた(添加サンプル)。また、もう1つの細胞培養プレートには、何も加えず、培養を続けた(コントロール)。なお、ウェルの底面全体に細胞培養用基質(厚さ30μm)が存在したとすると、デフェロキサミンメシル酸塩水溶液2mL/wellは、「細胞培養用基質1mmあたり約1.85mg相当」となる量である。
その結果、添加サンプルとコントロールとでは、デフェロキサミンメシル酸塩水溶液を添加してから24時間経過後においても有意な差は観察されなかった(図2)。
以上より、デフェロキサミンメシル酸塩水溶液を用いることにより細胞培養用基質を完全に溶解することができた。また、細胞をデフェロキサミンメシル酸塩水溶液に、細胞培養用基質を完全に溶解させるために要する時間浸漬しても、細胞に損傷ないことが確認できた。
(実施例2)
(細胞培養用基質の調製)
実施例1と同様の方法で、細胞培養用基質を調製した。
(細胞の培養)
滅菌し、実施例1で用いた細胞培養液と同様の細胞培養液へ浸漬させた後の細胞培養用基質を6ウェル組織培養プレートのウェル内に入れ、正常ヒト皮膚繊維芽細胞(NHDF、Cambrex Bio Science Walkersville,Inc)を4000個/cmにて播種し、37℃、5%CO条件下で培養した。培地には10%(v/v)FBSを含有するE−MEMを用い、3mL/wellにて加えた。10日前後で細胞培養用基質上の細胞がコンフルエントに達した。
(細胞シートの回収)
細胞を細胞培養用基質上でコンフルエントになるまで培養した後、細胞培養用基質をディッシュに移し、PBSにて洗浄した後、65mgのデフェロキサミンメシル酸塩を15mLのPBSに溶解させたデフェロキサミンメシル酸塩水溶液を加え(細胞培養用基質1mmあたり約3mg相当)、37℃、5%CO条件下にて静置した。約30分後におだやかにピペッティングすることにより、細胞シートが培養基質から剥離した。
(比較例1)
(細胞培養用基質の調整)
実施例1と同様の方法で、細胞培養用基質を調製した。
(細胞の培養)
実施例1と同様の方法で、細胞を培養した。
(細胞の回収)
細胞を細胞培養用基質上でコンフルエントになるまで培養した後、細胞培養用基質を別のプレートに移し、PBSにて洗浄した後、50mMクエン酸三ナトリウム二水和物を3mL加え、37℃、5%CO条件下にて数分間静置することにより細胞培養用基質を溶解させ、細胞を回収した。
実施例2において得られた細胞シートの写真を図3に、位相差顕微鏡写真((a)40倍、(b)100倍)を図4に示し、比較例1において得られた細胞の位相差顕微鏡写真((a)40倍、(b)100倍)を図5に示す。
本発明の方法によって、細胞同士の接着が保持されている細胞シートを、煩雑な工程を経ることなく、簡便に、効率よく得ることができた。得られた細胞シートは、組織構造の再生などに使用できる程度に、十分大きな面積を有していた。これに対し、比較例1では、部分的に細胞間の接着が切断され、シート状の細胞を得ることはできず、小さな細胞塊が得られたのみであった。

Claims (3)

  1. 鉄架橋アルギン酸ゲルを含む細胞培養用基質の上で細胞を培養する工程、及び
    鉄架橋アルギン酸ゲルを含む細胞培養用基質を鉄に特異的に結合するキレート剤を用いて溶解し、培養した細胞を細胞シートとして得る工程、
    を含む細胞シートの製造方法。
  2. 鉄に特異的に結合するキレート剤が、デフェロキサミンメシル酸塩、デフェラシロクス、またはデフェリプロンである請求項1記載の細胞シートの製造方法。
  3. 鉄に特異的に結合するキレート剤を、鉄架橋アルギン酸ゲルを含む細胞培養用基質1mmに対し、0.5〜60mg用いる請求項1記載の細胞シートの製造方法。
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