以下に、本実施形態の信号処理装置について、図1乃至図14を参照して説明する。なお、以下においては、背景技術の欄で説明した構成部分に相当する部分には、背景技術の欄で使用した符号と同じ符号を用いて説明する。
図1は、第1の実施形態の信号処理装置を含む三次元情報推定システムの構成の一例を示すブロック図である。図1に例示したように、この三次元情報推定システムは、二次元角度センサ1、アクチュエータ2、センサ位置算出装置3、及び信号処理装置4aから構成される。また、信号処理装置4aは、概略距離推定部12、及び三次元情報推定部11aから構成される。二次元角度センサ1は、目標の二次元角度情報を信号処理装置4aへ出力する。アクチュエータ2は、二次元角度センサ1の位置を変更する。センサ位置算出装置3は、このアクチュエータ2によって変更された二次元角度センサ1の位置を算出し、二次元角度センサ1の位置情報として信号処理装置4aへ出力する。
信号処理装置4aは、二次元角度センサ1からの目標の角度情報とセンサ位置算出装置3からの二次元角度センサの位置情報とを入力して、目標の三次元情報の推定を行なう。ここに、信号処理装置4aは、概略距離推定部12、及び三次元情報推定部11aから構成されている。
概略距離推定部12は、二次元角度センサ1からの目標の時系列の二次元角度情報と、センサ位置算出装置3からの二次元角度センサ1の時系列の位置情報とに基づいて、目標の概略距離を推定し、目標の距離範囲を設定する。以下、この概略距離推定部12について詳述する。
目標の位置の変化量に対して、アクチュエータ2による二次元角度センサ1の位置の変化量が大きな場合、目標の概略距離の推定方法として、例えば、異なる位置で観測された2点以上の目標の時系列の二次元角度情報と時系列の位置情報とに基づいて、交会法より目標の概略距離を算出し推定することができる。交会法そのものは、二次元角度センサ1の位置の変化中における目標の位置の変化には対応していない。このため、目標の真の距離を算出することはできず、目標の位置の変化に起因する誤差を含んでいるが、これを目標の概略距離Restとして用いることはできる。そして、算出された目標の概略距離Restに基づいて、目標の距離範囲としてその最小値Rmin及び最大値Rmaxを設定する。
一方、目標の位置の変化量に対して、アクチュエータ2による二次元角度センサ1の位置の変化量が大きくない場合、2点以上の仮説距離における尤度に基づいて、概略距離を推定することができる。
仮説距離をRn、仮説距離Rnにおける尤度をLnとすると、尤度Lnは、以下の(1)式に示す関数で表される。
Ln=f({YY,XX,A}|Rn) ・・・(1)
ここで、YYは、二次元角度センサ1からの観測値の時系列データ、XXは、センサ位置算出装置3からのセンサ位置の時系列データ、Aは、基準値である。
より具体的には、仮説距離Rnを用いて、目標の角度の観測値の時系列データYYを三次元ローカル直交座標系の観測値の時系列データZZ1に変換し、センサ位置(三次元ワールド直交座標系)の時系列データXXを加算することにより、目標の三次元ワールド直交座標系の観測値の時系列データZZ2に変換する。更に、変換された目標の三次元ワールド直交座標系の観測値の時系列データZZ2と基準値Aとの間で統計的な処理を実施し、尤度Lnに変換する。
概略距離R
estは、仮説距離R
iとその仮説距離R
iにおける尤度L
iとを用いて、以下の(2)式で表される。
2点の仮説距離から概略距離を推定する場合の例を以下に示す。近距離側の仮説距離をR
1、遠距離側の仮説距離をR
2、それぞれの仮説距離における尤度をL
1及びL
2とする。このとき、概略距離R
estは、仮説距離R
1とR
2、尤度L
1とL
2から、以下の(3)式により算出する。
なお、二次元角度センサ1から信号強度が得られる場合、目標の概略距離の推定方法として、信号強度に基づいて目標までの距離を算出するように構成しても良い。更に、上記の目標の概略距離の推定方法と併用するように構成しても良い。
このようにして算出された目標の概略距離Restに基づいて目標の距離範囲を設定する。目標の距離範囲の最小値Rminと最大値Rmaxを背景技術の例に示したようにRmin:2km、Rmax:128kmとし、並列フィルタ数Nfを3、目標距離範囲として、近距離、遠距離の2種類に分類する場合、近距離範囲のRminとRmaxは、それぞれ2kmと16km、遠距離範囲のRminとRmaxは、それぞれ16kmと128kmとなる。上式で算出された概略距離Restが、16km未満の場合、目標距離範囲として、Rmin:2km、Rmax:16kmと設定され、16km以上の場合、目標距離範囲として、Rmin:16km、Rmax:128kmと設定される。
また、上記のように近距離、遠距離の二者選択であれば、概略距離を算出せず、尤度のみを用いて目標距離範囲を設定することもできる。具体的には、近距離側の尤度L1が、遠距離側の尤度L2よりも大きい場合、目標距離範囲として、Rmin:2km、Rmax:16kmと設定され、遠距離側の尤度L2が、近距離側の尤度L1よりも大きい場合、目標距離範囲として、Rmin:16km、Rmax:128kmと設定される。
三次元情報推定部11aは、概略距離推定部12からの目標の距離範囲に基づいて、二次元角度センサ1からの目標の角度情報、及びセンサ位置算出装置3からの二次元角度センサの位置情報を処理し、目標の三次元情報の推定を行なう。三次元情報推定部11aにおける目標の三次元情報の推定処理としては、例えば非特許文献1や非特許文献2に示されているレンジパラメタライズド拡張カルマンフィルタを用いることができる。レンジパラメタライズド拡張カルマンフィルタでは、二次元角度センサ1からの目標の角度情報に対し、複数の仮説距離を初期値として拡張カルマンフィルタを並列動作させ、それぞれの拡張カルマンフィルタからの三次元情報を重み付け平均することで、目標の三次元情報を推定する。
三次元情報推定部11aにレンジパラメタライズド拡張カルマンフィルタを適用した場合には、概略距離推定部12からの目標の距離範囲に基づいて複数の仮説距離を算出し、算出した仮説距離を初期値として拡張カルマンフィルタを並列動作させる。すなわち、従来の三次元情報推定部11では、予め設定された目標の距離範囲に基づいて、複数の仮説距離を算出し、算出した仮説距離を初期値として、拡張カルマンフィルタを並列動作させたのに対し、三次元情報推定部11aでは、概略距離推定部12からの目標の距離範囲に基づいて、複数の仮説距離を算出し、算出した仮説距離を初期値として、拡張カルマンフィルタを並列動作させるので、目標に応じて距離範囲が変化することが特徴である。このように、目標の概略距離を推定して目標の距離範囲を限定することにより、並列動作させるフィルタ数をより少なくすることが可能となり、推定精度を劣化させることなく計算量を低減できる。
また、三次元情報推定部11aにおける目標の三次元情報の推定処理として、例えば非特許文献3に示されているパーティクルフィルタを用いることもできる。パーティクルフィルタは、パーティクルの集合によって、推定を進めて行く手法であり、それぞれのパーティクルの処理としては、拡張カルマンフィルタよりも簡易な処理が行われるが、パーティクル数が多いことが特徴である。例えば非特許文献3のシミュレーションに用いられるパーティクル数は5000としている。三次元情報推定部11aにパーティクルフィルタを適用し、上記の概略距離推定部12と組み合わせる場合、上記したレンジパラメタライズド拡張カルマンフィルタの並列フィルタ数の代わりに、パーティクル数を低減することにより、計算量を低減することができる。
次に、前出の図1、及び図2のフローチャートを参照して、上述のように構成された第1の実施形態の三次元情報推定システムにおける信号処理装置4aの動作を説明する。なお、以下においては、三次元情報推定部11aにおける目標の三次元情報の推定処理として、レンジパラメタライズド拡張カルマンフィルタを用いた場合をとりあげて説明する。
図2は、第1の実施形態の三次元情報推定システムにおける信号処理装置4aの動作のうち、背景技術の図14のフローチャートに例示したST104に対応する三次元情報の初期化処理を説明するためのフローチャートである。
まず、三次元情報推定システムが動作を開始すると、二次元角度センサ1で取得された目標の二次元角度情報が時間経過に沿って信号処理装置4aに送られてくる(ST201)。これと同時並行して、センサ位置算出装置3で算出された二次元角度センサ1の位置情報も時間経過に沿って信号処理装置4aに送られてくる(ST202)。信号処理装置4aでは、これら送られてきた目標の二次元角度情報及び二次元角度センサ1の位置情報が、時系列のデータとして保持される(ST203)。
次いで、信号処理装置4a内の概略距離推定部12において、保持された目標の時系列の二次元角度情報と二次元角度センサ1の時系列の位置情報とに基づいて、目標の概略距離が推定される。目標の概略距離の推定にあたっては、上述したように、例えば目標の位置変化に対して二次元角度センサ1の位置変化が大きな場合は交会法により推定し、二次元角度センサ1の位置変化が大きくない場合は2点以上の仮説距離の尤度に基づき推定する手法を適用する(ST204)。そして、続くステップにおいては、この推定した概略距離に基づいて目標の距離範囲が設定され、その結果が三次元情報推定部11aに送出される(ST205)。
次いで、三次元情報推定部11aにおいて、概略距離推定部12からの目標の距離範囲に基づいて、二次元角度センサ1からの目標の角度情報、及びセンサ位置算出装置3からの二次元角度センサの位置情報が処理され、目標の三次元情報が推定される。本実施例においてはレンジパラメタライズド拡張カルマンフィルタを用い、概略距離推定部12からの目標の距離範囲に基づいて複数の仮説距離を算出し、これらの算出した仮説距離を初期値として拡張カルマンフィルタを並列動作させている(ST206)。そして、この後は動作終了が指示されるまで上述の動作ステップを繰り返す(ST207)。なお、図2に示した初期化処理により一旦三次元情報が確立すると、背景技術の図14のフローチャートに例示したように、確立した目標の三次元情報に対して相関のある二次元角度センサからの目標の角度情報を用いて、目標の三次元情報の更新が行われる(ST102とST103)。
三次元情報推定部11aにおける目標の三次元情報の推定結果の一例を図3に示す。図3は、予め設定された目標の距離範囲に基づき算出した仮説距離を初期値とし、並列フィルタ数を6、または3にした場合と、本実施例のように概略距離推定部12からの目標の距離範囲に基づき算出した仮説距離を初期値とし、並列フィルタ数を3にした場合とを比較したシミュレーション結果の一例である。この図3のシミュレーション結果においては、並列動作させるフィルタ数を6から3に半減させても、その推定精度を十分に維持できていることが読み取れる。また、フィルタ数が同数であれば、より高い推定精度が得られることも読み取れる。
以上説明したように、本実施例においては、目標の二次元角度情報、及び二次元角度センサの位置情報から目標の三次元情報の推定を開始する際に、目標の概略距離を推定し、推定の対象とする距離範囲を限定した上でレンジパラメタライズド拡張カルマンフィルタによる推定処理を実行している。これにより、図3のシミュレーション結果における概略距離推定を適用せず並列フィルタ6で処理を行った結果と、概略距離推定を適用して距離範囲を限定し並列フィルタ数3で処理を行った結果との比較からも分かるように、推定精度を劣化させることなく、並列動作させる拡張カルマンフィルタ数を少なくすることができるため、信号処理装置の計算量を低減することができる。この結果、処理の高速化、多目標化、信号処理装置の小型化や低価格化等の二次的効果を得ることが出来る。また、図3のシミュレーション結果において並列フィルタ数が同数の3の場合の比較から分かるように、本実施例の手法によれば、同じ計算量でより高い性能(推定精度)を得ることが出来る。このため、同等の計算能力を有する信号処理装置を用いた場合、性能を向上させることも出来る。更に、並列フィルタ数を制御することにより、計算量を低減すると共に、推定性能を向上することもできる。
(変形例)
図4は第1の実施形態の三次元情報推定システムの変形例の構成の一例を示すブロック図である。この変形例は図1の構成に対し、センサ姿勢算出装置5が追加され、信号処理装置4fには、角度補償部15が追加されている。
センサ姿勢算出装置5は、二次元角度センサ1の姿勢を算出し、二次元角度センサの姿勢情報として、信号処理装置4fへ出力する。角度補償部15は、二次元角度センサ1からの角度情報とセンサ姿勢算出装置5からの姿勢情報に基づいて、目標の角度情報を補償する。これら以外は、図1の構成及びその処理と同じである。この変形例においては、例えばヘディング角、ロール角やピッチ角といった二次元角度センサ1の姿勢角が変化する場合にも三次元情報を推定することができる。
なお、図1及び図4に示したアクチュエータ2は、モータ等による駆動装置の他に、自動車や航空機等の二次元角度センサ1の位置を変化させるものであれば良い。
アクチュエータ2として姿勢が変化する航空機等を用いた場合、図1に示す構成では、二次元角度センサ1の姿勢の変化を補償するため、例えばジンバル機構による大型・高価格な安定プラットフォームを必要とするのに対し、図4に示す構成では、例えば小型・低価格なストラップダウン方式を採用することが可能となり、三次元情報推定システムを小型・低価格化できる。
図5は、第2の実施形態の信号処理装置を含む三次元情報推定システムの構成の一例を示すブロック図である。図5に例示したように、この三次元情報推定システムは、二次元角度センサ1、アクチュエータ2、センサ位置算出装置3、及び信号処理装置4bから構成される。また、信号処理装置4bは、推定開始判定部13、及び三次元情報推定部11から構成される。二次元角度センサ1、アクチュエータ2、センサ位置算出装置3、及び三次元情報推定部11は既出の構成と同様であるので、詳細な説明は省略する。
推定開始判定部13は、二次元角度センサ1からの目標の時系列の角度情報とセンサ位置算出装置3からの二次元角度センサの時系列の位置情報を入力して、角度情報が真の目標のものか否かを判定し、三次元情報推定部11に通知する。三次元情報推定部11は、この判定結果の通知に基づき目標の三次元情報の推定を行う。判定に際しては、例えば非特許文献4に示されるM out of N(以下ではM/Nと表す)や、SPRT(sequential probability ratio test)の手法を適用し、算出された相関範囲Bに基づいて、真の目標であるか否かの判定を行う。
M/Nは、N回の観測で、M回以上検出があったものを真の目標と判定する処理である。すなわち、二次元角度センサ1からの目標の角度情報が、例えば熱雑音等による誤警報であった場合、誤警報が複数回検出される確率が低いのに対し、ある程度の探知確率を持った真の目標であった場合、熱雑音等よりも複数回検出される確率が高く、観測機会に対する検出回数の違いを用いて、誤警報か真の目標かの判定を行う。SPRTも、複数回の検出データを処理するという意味で、M/Nと似ているが、観測機会に対する検出回数ではなく、検出の有無によって更新される値が、真の目標と判定する閾値以上となって真の目標と判定されるか、誤警報と判定する閾値以下となって誤警報と判定されるまでは、モニタリングが継続されることが特徴である。
また、推定開始判定部13では、目標の相関範囲Bを算出する。目標の相関範囲Bについては、一般的に、三次元センサを用いた場合は目標の運動モデルに基づいて設定できるのに対し、二次元角度センサ1からの目標の角度情報には距離情報が含まれていないため、通常の方法では目標の相関範囲を設定することができない。このため、推定開始判定部13では、三次元情報推定部11で用いる目標距離範囲の最小値R
min、目標の最大速度V
max及び観測値の時間間隔t
sを用いて、相関範囲Bを以下の(4)式により算出する。
ここで、kは単位系の変換及び相関範囲の倍率設定に用いられる係数である。
さらに、三次元情報推定部11への判定結果の通知に際しては、算出された相関範囲Bに基づきM/NやSPRTにより最初の判定をした後、真の目標と判定された時系列の二次元角度情報に対しては、例えば低次関数等を用いてフィッティング処理し、フィッティングラインとの誤差に基づき2回目の判定を行った上で、その判定結果を通知する。
次に、前出の図5、及び図6のフローチャートを参照して、上述のように構成された第2の実施形態の三次元情報推定システムにおける信号処理装置4bの動作を説明する。図6は、この第2の実施形態の三次元情報推定システムにおける信号処理装置4bの動作のうち、背景技術の図14のフローチャートに例示したST104に対応する三次元情報の初期化処理の動作を説明するためのフローチャートである。
まず、三次元情報推定システムが動作を開始すると、二次元角度センサ1で取得された目標の二次元角度情報が時間経過に沿って信号処理装置4bに送られてくる(ST601)。これと同時並行して、センサ位置算出装置3で算出された二次元角度センサ1の位置情報も時間経過に沿って信号処理装置4bに送られてくる(ST602)。信号処理装置4bでは、これら送られてきた目標の二次元角度情報及び二次元角度センサ1の位置情報が、時系列のデータとして保持される(ST603)。
次いで、推定開始判定部13では、保持された目標の時系列の二次元角度情報(時間間隔ts)に基づいて、(4)式により目標の相関範囲Bが算出される(ST604)。そして、この算出された相関範囲B、及び保持された目標の時系列の二次元角度情報と二次元角度センサ1の時系列の位置情報に基づいて、上述したM/NやSPRTの手法を用いて、受けとった目標の二次元角度情報が真の目標のものか、あるいは誤警報等かが判定される(ST605)。
真の目標と判定された場合には(ST605のY)、対象の時系列の二次元角度情報に対して、例えば一次元や二次元関数といった低次関数を用いてフィッティング処理が行われる(ST606)。そしてフィッティング直線/曲線との誤差に基づき真の目標か否かの2回目の判定が行われる(ST607)。その結果、真の目標であると判定された場合には(ST607のY)、三次元情報推定部11に対して三次元情報の推定開始の指示を通知し(ST608)、この指示通知を受けて三次元情報推定部11では、目標の三次元情報の推定が開始される。三次元情報の推定には、上述のようにレンジパラメタライズド拡張カルマンフィルタを適用できる(ST609)。
なお、ST605の動作ステップ、及びST607の動作ステップにおいて真の目標ではないと判定された場合には、二次元角度センサ1からの目標の二次元角度情報、及びセンサ位置算出装置3からの二次元角度センサ1の位置情報の受けとりが継続される。そして、この後は動作終了が指示されるまで、上述の動作ステップが繰り返される。(ST610)。
以上説明したように、本実施例においては、目標の二次元角度情報、及び二次元角度センサの位置情報から目標の三次元情報の推定を開始する際に、その二次元角度情報が真の目標によるものか、あるいは誤警報等かを判定し、真の目標であると判定された場合に、目標の三次元情報の推定処理を実行している。これにより、散発的な誤警報等を目標として三次元情報の推定処理が開始され、その後誤警報と判定されてその推定処理を終了するまでの間に発生する、レンジパラメタライズド拡張カルマンフィルタによる不要な演算処理を抑えることができ、信号処理装置の計算量を低減することができる。
図7は、第3の実施形態の信号処理装置を含む三次元情報推定システムの構成の一例を示すブロック図である。図7に例示したように、この三次元情報推定システムは、二次元角度センサ1、アクチュエータ2、センサ位置算出装置3、及び信号処理装置4cから構成される。また、信号処理装置4cは、推定開始判定部13、概略距離推定部12、及び三次元情報推定部11aから構成される。これらの各構成は、上述した実施例1及び実施例2における構成と同様であり、詳細な説明は省略する。
この第3の実施形態においては、第2の実施形態にて詳述した推定開始判定部13の判定結果を、第1の実施形態にて詳述した概略距離推定部12に通知するようにし、概略距離推定部12は、この推定開始部13からの通知により対象目標の概略距離推定を行うとともに、三次元情報推定部11aは、その目標の三次元情報の推定処理を行うように構成されている。以下に、図7、及び図8のフローチャートを参照して、上述のように構成された第3の実施形態の三次元情報推定システムにおける信号処理装置4cの動作を説明する。図8は、この第3の実施形態の三次元情報推定システムにおける信号処理装置4cの動作のうち、背景技術の図14のフローチャートに例示したST104に対応する三次元情報の初期化処理の動作を説明するためのフローチャートである。
まず、三次元情報推定システムが動作を開始すると、二次元角度センサ1で取得された目標の二次元角度情報が時間経過に沿って信号処理装置4cに送られてくる(ST801)。これと同時並行して、センサ位置算出装置3で算出された二次元角度センサ1の位置情報も時間経過に沿って信号処理装置4cに送られてくる(ST802)。信号処理装置4cでは、これら送られてきた目標の二次元角度情報及び二次元角度センサ1の位置情報が、時系列のデータとして保持される(ST803)。なお、これらST801〜ST803の動作ステップは、第1の実施形態における図2のST201〜ST203、または第2の実施形態における図6のST601〜ST603の動作ステップに対応する。
次いで、推定開始判定部13では、保持された目標の時系列の二次元角度情報(時間間隔ts)に基づいて、(4)式により目標の相関範囲Bが算出される(ST804)。そして、この算出された相関範囲B、及び保持された目標の時系列の二次元角度情報と二次元角度センサ1の時系列の位置情報に基づいて、上述したM/NやSPRTの手法を用いて、受けとった目標の二次元角度情報が真の目標か、あるいは誤警報等かが判定される(ST805)。真の目標と判定された場合には(ST805のY)、対象の二次元角度情報の時系列のデータに対するフィッティング処理が行われ(ST806)、フィッティング直線/曲線との誤差に基づき真の目標か否かの2回目の判定が行われる(ST807)。その結果、真の目標であると判定された場合には(ST807のY)、概略距離推定部12に対して概略距離の推定開始の指示が通知される(ST808)。なお、これらST804〜ST808の動作ステップは、第2の実施形態における図6のST604〜ST608の動作ステップに対応する。
次いで、信号処理装置4c内の概略距離推定部12において、時系列に保持された目標の二次元角度情報と二次元角度センサ1の位置情報とに基づいて、目標の概略距離が推定される。目標の概略距離の推定にあたっては、実施例1において詳述したように、例えば目標の位置変化に対して二次元角度センサ1の位置変化が大きな場合は交会法により推定し、二次元角度センサ1の位置変化が大きくない場合は2点以上の仮説距離における尤度に基づき推定する手法を適用する(ST809)。これに続けて、この推定された概略距離に基づいて目標の距離範囲が設定され、その結果が三次元情報推定部11aに送出される(ST810)。これらST809〜ST810の動作ステップは、第1の実施形態における図2のST204〜ST205の動作ステップに対応する。
次いで、三次元情報推定部11aにおいて、概略距離推定部12からの目標の距離範囲に基づいて、ST808の動作ステップにて目標と判定された二次元角度センサ1からの目標の二次元角度情報、及びセンサ位置算出装置3からの二次元角度センサの位置情報を処理し、目標の三次元情報が推定される。三次元情報の推定には、実施例1で詳述したようにレンジパラメタライズド拡張カルマンフィルタを適用できる(ST811)。そして、この後は動作終了が指示されるまで、上述の動作ステップを繰り返す。(ST812)。
以上説明したように、本実施例においては、目標の二次元角度情報、及び二次元角度センサの位置情報から目標の三次元情報の推定を開始する際に、その二次元角度情報が真の目標によるものか、あるいは誤警報等かを判定し、真の目標であると判定された場合に、目標の三次元情報の推定処理を実行している。これにより、真の目標以外に対する、レンジパラメタライズド拡張カルマンフィルタによる不要な演算処理を抑制している。
また、目標の概略距離を推定し、推定の対象とする距離範囲を限定した上でレンジパラメタライズド拡張カルマンフィルタによる推定処理を実行している。これにより、推定精度を劣化させることなく、並列動作させる拡張カルマンフィルタ数を少なくすることができる。従って、信号処理装置の計算量を低減することができる。
図9は、第4の実施形態の信号処理装置を含む三次元情報推定システムの構成の一例を示すブロック図である。この第4の実施形態について、図7に示した第3の実施形態の各部と同一の部分は同一の符号で示し、その説明は省略する。この第4の実施形態が第3の実施形態と異なる点は、二次元角度センサから送られてくる目標の二次元角度情報を信号処理装置で処理する際に、第3の実施形態においては、時系列の二次元角度情報に対してまず真の目標か否かの判定を行い、真の目標であると判定された後に、その時系列の二次元角度情報から概略距離を推定し三次元情報を推定したのに対し、第4の実施形態においては、時系列の二次元角度情報に対してまずその概略距離を推定した後に真の目標か否かの判定を行い、その判定結果により対象目標の三次元情報を推定するようにした点である。以下、前出の図7及び図8、ならびに図9のブロック図及び図10のフローチャートを参照して、その相違点のみを説明する。
図9に例示したように、この三次元情報推定システムは、二次元角度センサ1、アクチュエータ2、センサ位置算出装置3、信号処理装置4dから構成される。また、信号処理装置4dは、概略距離推定部12、推定開始判定部13a、及び三次元情報推定部11aから構成される。推定開始判定部13aを除く各構成は、上述した第3の実施例における構成と同様に構成される。
推定開始判定部13aは、二次元角度センサ1からの目標の時系列の角度情報とセンサ位置算出装置3からの二次元角度センサの時系列の位置情報を入力して、角度情報が真の目標のものか否かを判定し、三次元情報推定部11aに通知する。この際に、目標の相関範囲Bを算出するが、その算出方法は推定開始判定部13とは異なる。すなわち、推定開始判定部13では、三次元情報推定部11で用いる目標距離範囲の最小値Rmin、目標の最大速度Vmax及び観測値の時間間隔tsを用いて、(4)式のように算出したが、推定開始判定部13aは、目標距離範囲の最小値Rminの代わりに概略距離推定部12からの概略距離Restを用いて相関範囲Bを算出する。そして、M/NやSPRTを用いて真の目標であるか否かを判定し、真の目標であると判定された場合、三次元情報推定部11aに通知し三次元情報の推定開始を指示する。
次に、上述の様に構成された第4の実施形態の三次元情報推定システムにおける信号処理装置4dの動作について説明する。図10は、この第4の実施形態の三次元情報推定システムにおける信号処理装置4dの動作のうち、背景技術の図14のフローチャートに例示したST104に対応する三次元情報の初期化処理の動作を説明するためのフローチャートである。
まず、二次元角度センサ1からの目標の二次元角度情報、及びセンサ位置算出装置3で算出された二次元角度センサ1の位置情報が信号処理装置4dに送られ、信号処理装置4d内に時系列のデータとして保持される(ST801〜ST803)。次いで、信号処理装置4d内の概略距離推定部12において、時系列のデータとして保持された目標の二次元角度情報と二次元角度センサ1の位置情報とに基づいて目標の概略距離Restが推定され、推定開始判定部13aに送出されるとともに、(ST809)、この推定された概略距離Restに基づいて目標の距離範囲が設定され、その結果が三次元情報推定部11aに送出される(ST810)。
推定開始判定部13aにおいては、上記したようにこの概略距離Restに基づき相関範囲Bが算出され(ST804a)、M/NやSPRTの手法を用いて、受けとった目標の二次元角度情報が真の目標か、あるいは誤警報等かが判定される(ST805)。真の目標であると判定された場合(ST805のY)、対象の二次元角度情報の時系列のデータのフィッティング処理が行われ(ST806)、フィッティング直線/曲線との誤差に基づき真の目標か否かの2回目の判定が行われる(ST807)。その結果、真の目標であると判定された場合には(ST807のY)、三次元情報推定部11aに通知して三次元情報の推定開始を指示し(ST808)、三次元情報推定部11aでは目標の三次元情報の推定が実行される(ST811)。そして、この後は動作終了が指示されるまで、上述の動作ステップを繰り返す。(ST812)。
以上説明したように、本実施例においても、目標の二次元角度情報、及び二次元角度センサの位置情報から目標の三次元情報を推定する際に、時系列の二次元角度情報から目標の概略距離を推定して、後段において推定の対象とする距離範囲を限定するとともに、その二次元角度情報が真の目標によるものか、あるいは誤警報等かを判定し、真の目標であると判定された場合に、推定された概略距離を用いたレンジパラメタライズド拡張カルマンフィルタによる推定処理を実行している。これにより、真の目標以外に対するレンジパラメタライズド拡張カルマンフィルタによる不要な演算処理を抑制できるとともに、推定演算において推定精度を劣化させることなく、並列動作させる拡張カルマンフィルタ数を少なくすることができる。従って、実施例3と同様に、信号処理装置の計算量を低減することができる。
更に、実施例4では、相関範囲Bを算出する際に、実施例3で用いる目標距離範囲の最小値Rminの代わりに、概略距離推定部12からの概略距離Restを用いることにより、遠方に存在する目標に対しては、実施例3よりも狭い相関範囲で判定を行うことが可能となり、誤警報を真の目標と誤判定する頻度を低減することができる。
図11は、第5の実施形態の信号処理装置を含む三次元情報推定システムの構成の一例を示すブロック図である。図11に例示したように、この三次元情報推定システムは、二次元角度センサ1、アクチュエータ2、センサ位置算出装置3、及び信号処理装置4eから構成される。また、信号処理装置4eは、総合判定部14、及び三次元情報推定部11aから構成される。これらの中で、二次元角度センサ1、アクチュエータ2、センサ位置算出装置3、三次元情報推定部11aの各部については、上述した実施例1乃至実施例4における構成と同様であり、詳細な説明は省略する。
総合判定部14は、二次元角度センサ1からの目標の時系列の角度情報とセンサ位置算出装置3からの二次元角度センサの時系列の位置情報に基づいて、目標の概略距離を推定して目標の距離範囲を設定すると共に、二次元角度センサ1からの目標の角度情報が真の目標によるものか否かにより目標の三次元情報の推定開始を判定する。すなわち、総合判定部14では、上述した実施例2の推定開始判定部13、実施例3の概略距離推定部12及び実施例4の推定開始判定部13aに対応する処理が行われる。
具体例としては、実施例2における推定開始判定部13と同様に、時系列の観測値(二次元角度センサ1からの目標の時系列の角度情報と二次元角度センサ1の時系列の位置情報)に基づいて真の目標であるか否かの判定を行い、真の目標であると判定された場合、実施例3の概略距離推定部12と同様に、真の目標であると判定された時系列の観測値に基づいて、概略距離Restを算出する。概略距離Restが算出されると、実施例4の推定開始判定部13aと同様に、目標距離範囲の最小値Rminの代わりに概略距離Restを用いて、相関範囲Bを算出し、M/NやSPRTを用いて、真の目標であるか否かの判定を行う。真の目標であると判定された場合、三次元情報推定部11aに三次元情報の推定開始を指示する。
次に、上述のように構成された第5の実施形態の三次元情報推定システムにおける信号処理装置4eの動作について説明する。図12は、この第5の実施形態の三次元情報推定システムにおける信号処理装置4eの動作のうち、背景技術の図14のフローチャートに例示したST104に対応する三次元情報の初期化処理の動作を説明するためのフローチャートである。
まず、二次元角度センサ1からの目標の二次元角度情報、及びセンサ位置算出装置3で算出された二次元角度センサ1の位置情報が信号処理装置4eに送られ、信号処理装置4e内にそれぞれ時系列のデータとして保持される(ST1201〜ST1203)。次いで、総合判定部14において、保持された目標の時系列の二次元角度情報(時間間隔ts)に基づいて、(4)式により目標の相関範囲Bが算出され(ST1204)、この相関範囲B、及び保持された目標の時系列の二次元角度情報と二次元角度センサ1の時系列の位置情報に基づいて、上述したM/NやSPRTの手法を用いて、受けとった目標の二次元角度情報が真の目標か、あるいは誤警報等の目標以外かが判定される(ST1205)。
真の目標と判定された場合には(ST1205のY)、さらに対象の二次元角度情報の時系列のデータのフィッティング処理が行われ(ST1206)、フィッティング直線/曲線との誤差に基づき真の目標か否かの2回目の判定が行われる(ST1207)。その結果、真の目標であると判定された場合には、目標の概略距離の推定が開始される(ST1207のY)。一方、ST1205の動作ステップ、及びST1207の動作ステップにおいて真の目標ではないと判定された場合には(ST1205のN、及びST1207のN)、二次元角度センサ1からの目標の二次元角度情報、及びセンサ位置算出装置3からの二次元角度センサ1の位置情報の受けとりが継続される。なお、これらST1204〜ST1207の動作ステップは、例えば実施例2における推定開始判定部13の動作に相当し、図6のST604〜ST607の動作ステップに対応する。
次いで、総合判定部14においては、時系列に保持された目標の二次元角度情報と二次元角度センサ1の位置情報とに基づいて、目標の概略距離Restが推定される。推定にあたっては、例えば交会法や2点以上の仮説距離における尤度に基づく手法を用いることができる(ST1208)。さらに、この推定された概略距離Restに基づいて目標の距離範囲が設定される(ST1209)。なお、これらST1208〜1209の動作ステップは、例えば実施例3における概略距離推定部12の動作に相当し、図8のST809〜ST810の動作ステップに対応する。
次いで、総合判定部14においては、目標の三次元情報の推定を開始するか否かの判定が再度行われる。すなわち、前出のST1208の動作ステップにて算出された概略距離Restに基づき目標の相関範囲Bが算出され(ST1210)、この相関範囲Bに基づいて受けとった二次元角度情報が真の目標か否かが判定される。なお、相関範囲に基づく同様の判定をST1205の動作ステップで行っているが、ST1205の動作ステップでの判定の際には、目標の距離範囲の最小値Rminに基づき算出された相関範囲を用いているのに対し、この動作ステップでは概略距離Restに基づき算出された相関範囲を用いている。従って、より狭い相関範囲で判定を行うので、この動作ステップにより、目標としての確からしさを向上させることができる(ST1211)。
この動作ステップで真の目標であると判定された場合(ST1211のY)、対象の二次元角度情報の時系列のデータのフィッティング処理が行われ(ST1212)、さらにフィッティング直線/曲線との誤差に基づき真の目標か否かが判定される(ST1213)。その結果、真の目標であると判定された場合には(ST1213のY)、三次元情報推定部11aに通知して三次元情報の推定開始を指示し(ST1214)、三次元情報推定部11aでは目標の三次元情報の推定が行われる(ST1215)。そして、この後は動作終了が指示されるまで、上述の動作ステップを繰り返す。(ST1216)。なお、これらST1210〜1214の動作ステップは、例えば実施例4における推定開始判定部13aの動作に相当し、図10のST804a〜ST808の動作ステップに対応する。
なお、実施例2における推定開始判定部13では、第1のステップで、M/NやSPRTにより、算出された相関範囲Bに基づいて、真の目標であるか否かの判定を行った後、第2のステップで、一次元や二次元関数といった低次関数を用いてフィッティング処理され、フィッティング直線/曲線との誤差に基づいて、真の目標であるか否かの2回目の判定を行うが、総合判定部14の推定開始判定部13に相当する処理(ST1204〜ST1207)では、上記第1のステップの処理(M/NやSPRTによる判定)のみ行い、総合判定部14の推定開始判定部13aに相当する処理(ST1210〜ST1214)においてのみ、上記第2のステップの処理(フィッティング直線/曲線による判定)を実施するように構成することができる。
以上説明したように、本実施例においても、目標の二次元角度情報、及び二次元角度センサの位置情報から目標の三次元情報を推定する際に、時系列の二次元角度情報から目標の概略距離を推定して、後段において推定の対象とする距離範囲を限定するとともに、その二次元角度情報が真の目標によるものか、あるいは誤警報等かを判定し、真の目標であると判定された場合に、推定された概略距離を用いたレンジパラメタライズド拡張カルマンフィルタによる推定処理を実行している。これにより、真の目標以外に対するレンジパラメタライズド拡張カルマンフィルタによる不要な演算処理を抑制できるとともに、推定演算において推定精度を劣化させることなく、並列動作させる拡張カルマンフィルタ数を少なくすることができる。
更に、総合判定部14では、時系列の観測値に対して総合的な判定を行うように構成したため、実施例3に対しては、真の目標か否かを判定する際に、より狭い相関範囲での判定が可能となり、誤警報を真の目標として誤判定する頻度を低減することができる。また実施例4に対しては、概略距離の算出よりも計算量の少ない目標の判定処理によって、概略距離算出の計算量を低減することができる。
なお、本発明は、上記した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。