JP5648229B2 - 無電解めっき金属皮膜の製造方法及びめっき被覆基板 - Google Patents

無電解めっき金属皮膜の製造方法及びめっき被覆基板 Download PDF

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Description

本発明は、無電解めっき用の触媒として特定の保護剤で保護された銀微粒子を用いる、無電解めっき金属皮膜の製造方法とその製法で得られるめっき被覆基板に関する。
現在、無電解めっき用触媒金属としてはパラジウムが広く用いられている。触媒付与方法としては、被めっき物をセンシタイザー溶液(塩化パラジウムの塩酸溶液)に浸漬する方法(センシターザー−アクチベーター法)、スズ−パラジウム混合コロイド溶液に浸漬して触媒を付与した後、硫酸などの酸性溶液からなるアクセレーター溶液に浸漬して、過剰のスズイオンを溶解させて触媒活性を向上させる方法(キャタリスト−アクセレーター法)等が主として実施されている。しかし、これらの方法では、触媒金属として高価な貴金属であるパラジウムを使用しており、無電解めっき処理工程において触媒化処理工程費用の占める割合が非常に大きいものとなっている。このため、パラジウム以外の金属を触媒として使用する方法について古くから種々の検討がなされている。
例えば、銀塩を触媒として用いる方法が提供されている(例えば、特許文献1参照)。この方法は、銀塩と界面活性剤とを含有する水溶液に、銀塩に対して2〜4倍モルの還元剤を添加して銀ヒドロゾルを形成し、これを被めっき物と接触させて、銀コロイドを付与して、無電解めっきを行う方法である。しかしながら、この方法では、多量の還元剤が必要であり、生産コストが高く、しかも形成される銀ヒドロゾルの安定性が低く、凝集沈殿が発生しやすいという欠点がある。
また、銀塩0.01〜100mmol/L、陰イオン界面活性剤0.01〜0.5wt.%、及び銀塩に対して0.1〜0.8倍モルの還元剤を含む無電解めっき用触媒液が記載されており、この触媒液は、銀塩に対して0.1〜0.8倍モルの還元剤を含むことにより、安定性が良好であるとされている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、上記した特許文献1及び2に記載された触媒液では、触媒成分である銀コロイドの吸着性が低く、ABS樹脂、エポキシ樹脂、ガラス、セラミックスなどの被めっき物に触媒成分を均一に吸着させることが困難である。このため、触媒付与後の水洗工程や無電解めっき中に、被めっき物から触媒物質(銀コロイド)が脱落しやすく、めっき析出が不均一になることや、めっき液を汚染することによりめっき浴の分解を促進する等の問題がある。
又、(1)銀コロイド粒子、(2)溶液中で銀イオンを金属銀に還元し得る電位を有する金属のイオン又は(及び)該イオンが銀イオンの還元の際に酸化されたイオンの1種又は2種以上、(3)ヒドロキシカルボン酸イオン、縮合リン酸イオン及び(又は)アミンカルボン酸イオンの1種又は2種以上を必須の成分として含有し、且つ、(1)の銀コロイド粒子が(2)の銀イオンを金属銀に還元し得る電位を有する金属のイオンによって生成せしめられたものである銀コロイド溶液であって、さらに(4)原子番号が26から30の金属のイオンから選ばれるイオンの1種又は2種以上を含有する銀コロイド溶液からなる無電解めっき用触媒液が記載されている。この触媒液は、更に一層安定で触媒活性の高い銀コロイド溶液であるとされている。
しかし、上記した特許文献3に記載された触媒液では、触媒成分である銀コロイドを生成、及び安定させる目的で、主に錫塩を、錫として銀の10倍重量部以上も含有している。このため、触媒活性を持たない錫イオンが銀コロイドとともに被めっき物に吸着することから、十分な触媒活性を得るためには、より多くの銀コロイドを吸着させる必要があり、工業的に使用した場合、密着不良の原因となる。さらに、無電解めっき工程前に錫除去処理が必要となり、工程が煩雑であるという問題がある。
特開昭64−068478号公報 特開平10−030188号公報 特開2004−190042号公報
本発明は上記した従来技術に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、パラジウムを含有しない特定の無電解めっき用触媒組成物を用いた無電解めっき皮膜の製造方法と、これにより得られる均一性と導電性とに優れるめっき被覆基板とを提供することである。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定構造の保護剤で保護されてなる銀ナノ粒子の水性分散体を用いること、さらに、予め特定の表面調整液で処理することにより、各種の被めっき物に対して優れた無電解めっき用の触媒活性を付与できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(x1)中のアミノ基に数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(x2)が結合してなる化合物(X)と、透過型電子顕微鏡写真から求められる平均粒子径が2〜100nmの銀ナノ粒子(Y)とを主構成成分とする銀含有構造体を触媒とする無電解めっき金属皮膜を製造する方法であって、
(1)被めっき物表面をカチオン性処理剤(a)で処理する工程、
(2)前記工程(1)に引き続き、アニオン性処理剤(b)で処理する工程、
(3)前記工程(2)後の処理被めっき物を前記銀含有構造体の水性分散体に浸漬し、その被めっき物に銀含有構造体を吸着させる工程、及び
(4)前記工程(3)で得られた銀含有構造体吸着被めっき物を無電解めっき用の金属イオン液(c)に浸漬する工程
を有することを特徴とする無電解めっき金属皮膜の製造方法と、これにより得られるめっき被覆基板とを提供するものである。
本発明で用いる触媒組成物(銀含有構造体の水性分散液)は、触媒金属として銀を含む比較的安価な触媒液であり、安定性が良好な溶液である。しかも、本発明で用いる表面調整液である、カチオン性処理剤とアニオン性処理剤と組み合わせることにより、優れた触媒効果を発揮させることが可能であり、更に銀の低濃度化も可能である。また、本発明のめっき工程で得られる金属めっき皮膜は従来のパラジウムを触媒として得られるめっき皮膜に比べて、まったく遜色がない。したがって、本発明の無電解めっき金属皮膜の製造方法を用いることによって、各種の被めっき物に対して、低コストで良好な無電解めっき金属皮膜を形成することが可能である。
実施例1における銅めっき被覆基板の写真。a)銅で覆われた表面を有するめっき被覆基板の写真。b)銅めっき被覆基板表面のSEM写真。c)写真bの拡大イメージ。d)写真bの拡大イメージ。 実施例2における銅めっき被覆基板の写真。a)銅で覆われた表面を有するめっき被覆基板の写真。b)銅めっき被覆基板表面のSEM写真。 実施例3における銅めっき被覆基板の写真。a)銅で覆われた表面を有するめっき被覆基材の写真。b)銅めっき被覆基板表面のSEM写真。 比較例1における銅めっき被覆基板の写真。a)銅で覆われた表面を有するめっき被覆基材の写真。b)銅めっき被覆基板表面のSEM写真。c)写真bの拡大イメージ。d)写真bの拡大イメージ。
本発明の無電解めっき金属皮膜の製造方法は、数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(x1)中のアミノ基に数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(x2)が結合してなる化合物(X)と、透過型電子顕微鏡写真から求められる平均粒子径が2〜100nmの銀ナノ粒子(Y)とを主構成成分とする銀含有構造体を触媒とする無電解めっき金属皮膜を製造する方法であって、
(1)被めっき物表面をカチオン性処理剤(a)で処理する工程、
(2)前記工程(1)に引き続き、アニオン性処理剤(b)で処理する工程、
(3)前記工程(2)後の処理被めっき物を前記銀含有構造体の水性分散体に浸漬し、その被めっき物に銀含有構造体を吸着させる工程、及び
(4)前記工程(3)で得られた銀含有構造体吸着被めっき物を無電解めっき用の金属イオン液(c)に浸漬する工程
を有する。
本明細書内において、「銀含有構造体の水性分散体」を「無電解めっき用触媒組成物」ということがある。また、本明細書内において、「カチオン性処理剤」と「アニオン性処理剤」とを総称して、「表面調整液」ということがある。
以下、本発明の特徴である無電解めっき用触媒組成物、並びに本発明の製造方法の各工程について説明する。
[無電解めっき用触媒組成物:銀含有構造体の水性分散体]
本発明において、無電解めっき用触媒組成物は、特定の保護剤が銀ナノ粒子の表面をキャッピングしてなる構造体の水性分散体を用いる。即ち、数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(x1)中のアミノ基に数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(x2)が結合してなる化合物(X)と、透過型電子顕微鏡写真から求められる平均粒子径が2〜100nmの銀ナノ粒子(Y)とを主構成成分とする銀含有構造体に含まれる当該銀ナノ粒子(Y)が後のめっき工程において触媒作用を有するものである。
上記の特定の銀含有構造体は、例えば、特開2010−251703号公報、特開2010−118168号公報、特開2010−007124号公報、特開2008−045024号公報、特開2008−038180号公報、特開2008−037949号公報、特開2008−037884号公報等で示された方法により製造することができる。
例えば、市販されている数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコールの末端に官能基を導入し、これと市販の数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミンとを化学結合させることにより、前述の化合物(X)を得ることができる。本発明で用いる化合物(X)は、前述の特定構造(ポリエチレンイミンブロックとポリエチレングリコールブロック)を有するものであれば良く、その他の構造が導入されたものであっても良い。その他の構造の例としては、前述の公開公報に記載されている各種エポキシ樹脂等が挙げられる。
前述の方法で合成された化合物(X)を水性媒体に溶解又は分散させた後、ここに銀化合物、例えば酸化銀、硝酸銀等を添加し、必要に応じて錯化剤を併用して均一な分散体とした後、或いは錯化剤と同時に、還元剤を混合することによって、還元銀がナノ粒子(ナノメートルオーダーの大きさを有する微粒子)となると同時に前記化合物(X)で保護された銀含有構造体の水性分散体を得ることができる。本発明においては、この様な方法で得られた銀含有構造体の水性分散体をそのまま無電解めっき用触媒組成物として用いても良く、或いは、余剰の錯化剤、還元剤、又は原料として用いた銀化合物に含まれた対イオン等を限外ろ過法や沈殿法、遠心分離、減圧蒸留、減圧乾燥等の各種精製法を単独或いは2種以上を組み合わせて行う精製工程を経たものや、これを更に濃度(不揮発分)や水性媒体を変更して新たに分散体として調整しなおしたものなどを用いても良い。
前記銀含有構造体は、前述の特定化合物(X)と平均粒子径が2〜100nmの銀ナノ粒子(Y)とを主構成成分とするものである。ここで、主構成成分とするということは、前述の手法で銀含有構造体を製造する際に用いた原料由来の成分であって、精製工程において除去できなかったものが該構造体の表面や内部に残存することがあったとしても、それ以外の成分は意図的に混入させない限りにおいて含まれないことを言うものである。
この銀含有構造体中に含まれる銀ナノ粒子(Y)は、その大きさを透過型電子顕微鏡写真によって見積もることが可能であって、本発明では透過型電子顕微鏡写真におけるその100個の粒子の内径の最長の長さ(最大長)の平均値を「平均粒子径」という。該平均値が2〜100nmの範囲であるものは前述の公報記載の方法に従うことによって容易に得ることができる。それらのナノ粒子は1個ずつが独立して存在し、その周りは前記化合物(X)で保護され、室温下では融着せず安定に存在している。特に本発明においては、その平均粒子径が5〜50nmであるものを無電解めっき用触媒として用いることにより、より緻密で均一なめっき被覆基板が得られる観点から好ましいものである。銀ナノ粒子(Y)の粒子径は、銀化合物の種類、保護剤となる化合物(X)の分子量、構造、その使用割合、錯化剤や還元剤の種類やその使用量、還元反応時における温度等によって容易に制御可能であり、これらについては、前述の特許文献等における実施例を参照すれば良い。
又、前記銀含有構造体中には、前記銀ナノ粒子(Y)の凝集等を防止するための保護剤として化合物(X)が含まれているが、その比率としては、構造体中に2〜6質量%であることが好ましい。即ち、この銀含有構造体においてはその大部分を銀ナノ粒子(Y)が占めるものであることが、当該銀ナノ粒子(Y)の被めっき物への安定的な吸着が図れ、後のめっき工程において、均一且つ充分なめっき(金属皮膜の形成)を行なうことが容易となる。
この様な銀含有構造体は、水性媒体、即ち水やこれと相溶可能な有機溶剤との混合溶剤中において、0.01〜70質量%程度の範囲で均一に分散させることが可能である。又、その分散体は室温(〜25℃)において、数ヶ月程度は凝集することが無く安定的に保存することもできる。
上記の銀含有構造体を無電解めっき用触媒として用いる場合には、水性分散体として用いることになるが、被めっき物への吸着量を確保し、且つめっき皮膜の被めっき物との密着性が良好である点から、その濃度(不揮発分)が0.05〜5g/Lの範囲であることが好ましく、特にその濃度を0.1〜3g/L程度に調整することが好ましい。
[無電解めっき用基板(被めっき物)]
本発明での被めっき物は、前述の銀含有構造体を吸着させる基材であり、特に限定されるものではない。例えば、素材としてはガラス繊維強化エポキシ、ポリイミド、PET等のプラスチック類、ガラス、セラミック、金属酸化物、金属、紙、合成又は天然繊維などの材質を1種で又は組み合わせてなるものであり、その形状としては、板、フィルム、布状、繊維状、チューブ等のいずれであっても良い。特に、吸着させる銀含有構造体は水性分散体として用いる点から、水にぬれる傾向を示す、即ち、被めっき物表面の水接触角が75°以下であることが望ましい。また、水にぬれにくい材質からなるものであっても、それを表面処理、例えば、プラズマ照射、紫外線照射、エッチングなどを施し、表面に親水性を付与することが可能なものであれば、好適に用いることができる。特に本発明においての被めっき物は、均一な金属皮膜を容易に得ることができる点より、回路基板用樹脂基材又はセラミック基材であることが好ましい。
[無電解めっき法による金属皮膜の作製工程]
本発明では、従来のパラジウム触媒を用いて行う無電解めっき金属皮膜作製工程における当該パラジウム触媒を、前述の特定構造の銀含有構造体からなる触媒に変えることで、その触媒効果に適した無電解めっき工程を確立した。
前記銀含有構造体を触媒として用いるには、当該構造体が触媒活性を示す構造でなければならないが、まずは、被めっき物上にその構造体が安定に吸着されることが前提条件となる。従って、銀含有構造体を付着する前の、被めっき物の表面処理は本発明での重要な工程である。
本発明では、被めっき物表面の処理を以下の工程で行なうことを必須とする。
(1)被めっき物表面をカチオン性処理剤(a)で処理する工程。
(2)前記工程(1)に引き続き、アニオン性処理剤(b)で処理する工程。
尚、本発明において、被めっき物を前記工程(1)に供する前に、脱脂、エッチング等の種々の前処理を施すことを妨げるものではなく、むしろ、被めっき物に付着している物質の除去、特には金属系の材質の場合にさび防止のために塗布されている油脂成分等を除去することは、得られるめっき皮膜と基材との密着性を向上させる観点から好ましいことである。
前記カチオン性処理剤(a)は、カチオン性の化合物を含有する組成物であり、市販されているカチオン性界面活性剤、或いはカチオン性の官能基(アミノ基やアンモニウム塩)を有する化合物を水性媒体に溶解または分散させたものであることが好ましい。
前記カチオン性の化合物としては、例えば、モノアルキルアミン塩(酢酸塩)等の高級アルキルモノアミン塩、N−アルキルプロピレンジアミンジオレイン塩等のアルキルジアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩(クロライド)等の4級アンモニウム塩等(アルキル基中の炭素数は6〜32、好ましくは8〜24程度)として市販されているカチオン性界面活性剤や、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリアリルアミン塩(塩酸、硫酸)、ポリアリルアミン塩ジアリルアミン塩コポリマー、ポリアニリン等のカチオン性ポリマー(重量平均分子量として1,000〜100,000程度、好ましくは5000〜20,000)を好適に使用することができる。
これらのカチオン性の化合物は、通常、水を媒体として、0.01〜50g/Lの範囲で調整することが好ましく、0.1〜20g/Lであることがより好ましい。この範囲で均一に溶解しにくい化合物を用いる場合には、水と相溶する有機溶剤を併用しても良い。
上記したカチオン性処理剤(a)には、pH緩衝剤として、ほう酸、りん酸、塩化アンモニウム、アンモニア、炭酸、酢酸等を使用することができる。pH緩衝剤の使用量は、1〜50g/Lが好ましく、1〜20g/Lがより好ましい。
前記工程(1)では、必要により前処理を行なった被めっき物を、カチオン性処理剤(a)に浸漬する方法で処理を行なう方法がもっとも簡便である。その条件については特に限定されないが、通常、カチオン化処理剤(a)の温度を10〜80℃程度、好ましくは20〜50℃として、これに被めっき物を浸漬する。浸漬時間については、1〜20分間程度が好ましく、2〜10分の範囲であることがより好ましい。この様なカチオン化処理剤(a)での処理は、一般的に基材が酸性サイドであることによるものが多いことに由来し、且つ引き続き行なうアニオン性処理剤(b)での処理を高効率で行なうために必須の工程である。
前記工程(1)に引き続き、アニオン性処理剤(b)で被めっき物を処理する。このとき、前記工程(1)で用いたカチオン性処理剤(a)中の媒体が被めっき物上に残存している状態(乾燥していない状態)、或いはこれを水洗したものをそのまま使用することができ、或いはこれを乾燥した後に工程(2)を行なっても良い。
前記アニオン性処理剤(b)は、アニオン性の化合物を含有する組成物であり、市販されているアニオン性界面活性剤、或いはアニオン性の官能基(各種の酸基等)を有する化合物を水性媒体に溶解または分散させたものであることが好ましい。
前記アニオン性の界面活性剤としては、例えば、スルホン酸型、リン酸エステル型、アルキル硫酸塩型、アルキルエーテル硫酸塩型、スルホコハク酸型界面活性剤として市販されているものを各種使用できる。また、アニオン性の官能基を有する化合物としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩(ナトリウム、アンモニウム)、ポリアクリル酸マレイン酸コポリマー、ポリアクリル酸アルキルコポリマー(重量平均分子量として1,000〜100,000程度、好ましくは5000〜20,000)等を好適に使用することができる。
上記したアニオン性の化合物は、通常、水を媒体として、0.01〜50g/Lの範囲で調整することが好ましく、0.1〜20g/Lであることがより好ましい。この範囲で均一に溶解しにくい化合物を用いる場合には、水と相溶する有機溶剤を併用しても良い。
上記したアニオン性処理剤(a)には、pH緩衝剤として、ほう酸、りん酸、塩化アンモニウム、アンモニア、炭酸、酢酸等を使用することができる。pH緩衝剤の使用量は、1〜50g/Lが好ましく、1〜20g/Lがより好ましい。
前記工程(2)では、前記工程(1)の処理を行なった被めっき物を、アニオン性処理剤(b)に浸漬する方法で処理を行なう方法がもっとも簡便である。その条件については特に限定されないが、通常、アニオン性処理剤(b)の温度を10〜80℃程度、好ましくは20〜50℃として、これに工程(1)の処理済の被めっき物を浸漬する。浸漬時間については、1〜20分間程度が好ましく、2〜10分の範囲であることがより好ましい。
次いで、(3)前記工程(2)後の処理被めっき物(工程(1)、(2)の表面処理を行った被めっき物)を前記銀含有構造体の水性分散体に浸漬し、その被めっき物に銀含有構造体を吸着させる。
本発明で用いる銀含有構造体は、前述のように数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(x1)中のアミノ基に数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(x2)が結合してなる化合物(X)を保護剤として含有するものである。この様な特定の保護剤を用いていることにより、処理被めっき物表面がアニオン性であると、当該化合物(X)中ポリエチレングリコールと結合していないエチレンイミンユニットとの相互作用等により、触媒組成物中の銀含有構造体を効率よく吸着させることが可能となる。又、被めっき物の形状によらず、当該銀含有構造体を均一に、即ちつきまわり性が良好な吸着を可能とするものである。
従って、本発明の銀含有構造体の水性分散体を無電解めっき用触媒組成物として用いる際には、前記工程(1)、(2)を経た処理被めっき物を、そのまま、或いは水洗して、更には乾燥した後のいずれかを、当該水性分散体で処理することで、容易に処理被めっき物に触媒機能を有する銀含有構造体を吸着させることができる。
触媒を吸着させる方法としては特に限定されるものではなく、通常、被めっき物に無電解めっき用触媒を付与する際に行われている方法、例えば、触媒組成物に浸漬する方法、触媒組成物を被めっき物に塗布した後乾燥する方法等を適用できる。特に、触媒組成物に浸漬する方法が好ましく、この方法によれば、被めっき物に対して簡単な操作で触媒を均一に付与することができる。
浸漬する場合の条件についても特に限定されるものではなく、通常、触媒組成物(水性分散体)の温度を5〜60℃、好ましくは10〜50℃程度として、これに表面処理後の被めっき物を浸漬すればよい。
浸漬時間については、30分間程度までの浸漬時間では、浸漬時間の増加に伴って銀含有構造体(触媒)の吸着量が増加して無電解めっきの析出性が向上する傾向がある。このため、使用する無電解めっき液の種類や目的とする金属皮膜(めっき皮膜)の厚さ、導電性のレベル等に応じて、適宜必要な浸漬時間を設定すればよい。通常は2〜15分間程度の範囲の浸漬時間であれば良好なめっき皮膜を得ることが可能である。
上記した方法によって被めっき物に銀含有構造体(触媒)を吸着させた後、そのまま、或いは水洗し、その後、無電解めっきを行うことにより均一で良好な外観を有する無電解めっき皮膜を形成することができる。
即ち、前記工程(3)の後、(4)前記工程(3)で得られた銀含有構造体吸着被めっき物を無電解めっき用の金属イオン液(c)に浸漬する工程を行うことにより、無電解めっき金属皮膜を製造することができる。
無電解めっき液用の金属イオン液(c)としては、従来知られている種々の自己触媒型無電解めっき用の金属イオン液(無電解めっき液)をいずれも使用できる。この様な無電解めっき液としては、例えば、無電解ニッケルめっき液、無電解銅めっき液等の他、金、銀、パラジウム、ロジウム等の貴金属の無電解めっき液を挙げることができる。実用性の観点からは、銅イオンを含む無電解めっき液を用いることが好ましく、本発明の製造方法によって、銅皮膜基板を容易に得ることができる。即ち、本発明によれば、従来FR−4として知られているガラスエポキシ銅張積層板(ガラスエポキシ基板、ガラエポ)を安価で、且つ毒性の少ない原料から製造することが可能となるものである。
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断わりがない限り「%」は「質量%」を表わす。
本発明にて用いた機器類は下記の通りである。
1H−NMR:日本電子株式会社製、AL300、300Hz
TEM観察:日本電子株式会社製、JEM−2200FS
SEM観察:キーエンス社製、VE−9800
TGA測定:SIIナノテクノロジー株式会社製、TG/DTA6300
プラズモン吸収スペクトル:株式会社日立製作所製、UV−3500
動的散乱粒径測定装置:大塚電子株式会社製、FPAR−1000
表面抵抗値測定:三菱化学株式会社製、低抵抗率計ロレスタEP(4端子法)
合成例 銀含有構造体の水性分散体
本発明で用いる銀含有構造体(水性分散体)はDIC株式会社製である。当該構造体の具体的合成は、特開2010−251703号公報、特開2010−118168号公報、特開2010−007124号公報、特開2008−045024号公報、特開2008−038180号公報、特開2008−037949号公報、特開2008−037884号公報などを参考に、下記のように行なった。
<化合物(X)の合成>
1.〔ポリエチレングリコールのトシル化反応〕
窒素雰囲気下、メトキシポリエチレングリコール[Mn=2,000]20.0g(10.0mmol)、ピリジン8.0g(100.0mmol)、クロロホルム20mlの混合溶液に、p−トルエンスルホン酸クロライド9.6g(50.0mmol)を含むクロロホルム(30ml)溶液を、氷冷撹拌しながら30分間滴下した。滴下終了後、浴槽温度40℃でさらに4時間攪拌した。反応終了後、クロロホルム50mlを加えて反応液を希釈した。引き続き、5%塩酸水溶液100ml、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液100ml、そして飽和食塩水溶液100mlで順次に洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過、減圧濃縮した。得られた固形物をヘキサンで数回洗浄した後、濾過、80℃で減圧乾燥して、トシル化された生成物22.0gを得た。
得られた生成物のH−NMRの測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDCl)測定結果:
δ(ppm):7.82(d),7.28(d),3.74〜3.54(bs),3.41(s),2.40(s)
2.〔ポリエチレングリコールとポリエチレンイミンとの共重合体〕
上記で合成した末端にp−トルエンスルホニルオキシ基を有するメトキシポリエチレングリコール化合物5.39g(2.5mmol)、分岐状ポリエチレンイミン(アルドリッチ社製、分子量25,000)を20.0g(0.8mmol)、炭酸カリウム0.07g及びN,N−ジメチルアセトアミド100mlを、窒素雰囲気下、100℃で6時間攪拌した。得られた反応混合物に酢酸エチルとヘキサンの混合溶液(V/V=1/2)300mlを加え、室温で強力攪拌した後、生成物の固形物を濾過した。その固形物を酢酸エチルとヘキサンの混合溶液(V/V=1/2)100mlを用いて2回繰り返し洗浄した後、減圧乾燥して、分岐状ポリエチレンイミンにポリエチレングリコールが結合した目的の共重合体を得た(24.4g)。
得られた生成物のH−NMRの測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDCl)測定結果:
δ(ppm):3.50(s),3.05〜2.20(m)
3.〔銀含有構造体の水性分散体の合成〕
上記で得られた共重合体0.592g含む水溶液138.8gに酸化銀10.0gを加えて25℃で30分間攪拌した。引き続き、ジメチルエタノールアミン46.0gを攪拌しながら徐々に加えたところ、反応溶液は黒赤色に変わり、若干発熱したが、そのまま放置して25℃で30分間攪拌した。その後、10%アスコルビン酸水溶液15.2gを攪拌しながら徐々に加えた。その温度を保ちしながらさらに20時間攪拌を続けて、黒赤色の分散体を得た。
上記で得られた反応終了後の分散液にイソプロピルアルコール200mlとヘキサン200mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物にイソプロピルアルコール50mlとヘキサン50mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物にさらに水20gを加えて2分間攪拌して、減圧下有機溶剤を除去して銀含有構造体の水性分散体を得た。
得られた分散体をサンプリングし、10倍希釈液の可視吸収スペクトル測定により400nmにプラズモン吸収スペクトルのピークが認められ、銀ナノ粒子の生成を確認した。また、TEM観察より球形の銀ナノ粒子(平均粒子径17.5nm)が確認された。TG−DTAを用いて、固体中の銀含有率を測定した結果、97.2%を示した。このことから、銀含有構造体中の共重合体化合物の含有量は2.8%と見積もることができる。
実施例1 触媒液−1を用いる銅の無電解メッキ皮膜の作製
合成例で得た銀含有構造体の水性分散体を、2.0g/Lの濃度に調整したものを触媒液−1とした。(媒体:水)
被めっき物としてガラス繊維強化エポキシ樹脂板(5×5cm)を使用し、下記の工程で無電解めっきを行った。各処理液の液量は500mlとした。各処理の間には水洗を行った。
(無電解めっき工程)
1.脱脂:脱脂剤(ICPクリーナーSC、奥野製薬工業株式会社製)を用いて、60℃の処理液中に5分間浸漬した。
2.表面調整:
(1)カチオン化処理:ポリアリルアミン塩酸塩[Mn=分子量5,000]の5g/L水溶液をカチオン性処理剤として用いた。25℃の処理液中に5分間浸漬した。
(2)アニオン化処理:ポリアクリル酸[Mn=分子量6,000]の5g/L水溶液をアニオン性処理剤として用いた。25℃の処理液中に5分間浸漬した。
3.触媒付与:触媒液−1を用い、25℃の処理液中に10分間浸漬して被めっき物に銀含有構造体を吸着させた。
4.無電解めっき:無電解銅めっき液(MOONカッパー700、奥野製薬工業株式会社製)を用いて、pH12.5のめっき液中に45℃で15分間浸漬した。
(試験方法)
1.皮膜被覆率(%):被めっき物上にめっき皮膜が形成された面積の割合を示す。
2.めっき皮膜の表面抵抗値(Ω/□):4端子法で測定した。
3.めっき皮膜の表面状態:SEM像によりめっきの析出状態を確認した。
結果を表1及び図1に示す。実施例1における銅めっき被覆基板の写真。a)銅で覆われた表面を有するめっき被覆基板の写真。b)銅めっき被覆基板表面のSEM写真。c)写真bの拡大イメージ。d)写真bの拡大イメージ。
実施例2 触媒液−2を用いる銅の無電解メッキ皮膜の作製
合成例で得た銀含有構造体の水性分散体を、0.5g/Lの濃度に調整したものを触媒液−2とした(媒体:水)。触媒液−1に代えて、触媒液−2を用いる以外は、実施例1と同様にして、無電解めっきを行い、得られた無電解めっき皮膜について、皮膜被覆率、めっき皮膜の表面抵抗値、めっき皮膜の表面状態を評価した。結果を表1及び図2に示す。
実施例3 触媒液−1を用いる銅の無電解メッキ皮膜の作製
表面調整工程において、ポリエチレンイミン[Mn=分子量1,200]の10g/L水溶液をカチオン性処理剤として用い、これに25℃の処理液中に5分間浸漬した。アニオン化処理に、ポリアクリル酸ナトリウム[Mn=分子量2,000]の5g/L水溶液をアニオン性処理剤として用いた以外は、実施例1と同様にして、無電解めっきを行い、得られた無電解めっき皮膜について、皮膜被覆率、めっき皮膜の表面抵抗値、めっき皮膜の表面状態を評価した。結果を表1及び図3に示す。
比較例1(Pd触媒を用いた銅メッキ皮膜)
触媒液−1に代えて、市販のパラジウム−錫コロイド液を使用し、一般的な下記の工程において、無電解めっきを行った。被めっき物としてガラス繊維強化エポキシ樹脂板(5×5cm)を使用し、各処理液の液量は500mlとした。プリディップと触媒付与の間を除いて、各処理の間には水洗を行った。得られた無電解めっき皮膜について、皮膜被覆率、めっき皮膜の表面抵抗値、めっき皮膜の表面状態を評価した。結果を表1及び図4に示す。
(パラジウム−錫コロイド無電解めっき工程)
1.脱脂:市販の脱脂剤(エースクリーンA−220、奥野製薬工業株式会社製)を用いて、60℃の処理液中に3分間浸漬した。
2.表面調整:市販の表面調整剤(OPC−370コンディクリーンM、奥野製薬工業株式会社製)を用いて、65℃の処理液中に5分間浸漬した。
3.プリディップ:市販のプリディップ液(OPC−SAL M、奥野製薬工業株式会社製)を用い、25℃の処理液中に2分間浸漬した。
4.触媒付与:次いで、水洗することなく市販の触媒液(OPC−80キャタリストML、奥野製薬工業株式会社製)を用い、25℃の処理液中に5分間浸漬して被めっき物にパラジウムを吸着させた。
5.活性化:市販の活性化剤(OPC−500アクセレーターMX、奥野製薬工業株式会社製)を用いて、35℃の処理液中に7分間浸漬した。
6.無電解めっき:無電解銅めっき液(MOONカッパー700、奥野製薬工業株式会社製)を用いて、pH12.5のめっき液中に45℃で15分間浸漬した。
比較例2 表面非調整被めっき基材上での無電解めっき
表面調整の処理のうち、カチオン性処理、アニオン性処理のいずれの処理も行わないことを除いて、実施例1と同様にして、無電解めっきを行ったが、無電解めっきによる皮膜が形成できなかった。
比較例3 アニオン性調整被めっき基材表面での無電解めっき
表面調整の処理のうち、カチオン化処理を行わないことを除いて、実施例1と同様にして、無電解めっきを行ったが、無電解めっきによる皮膜が形成できなかった。
上記の結果から、本発明の製造方法によれば、パラジウムを用いることなく実施例1〜3のように良好な無電解めっき金属皮膜を得ることができることが分かった。また、本発明の製造方法によって得られた実施例1〜3の無電解めっき金属皮膜は、比較例1の無電解めっき金属皮膜に比して、めっき皮膜の表面抵抗値が小さく好ましいことが確認できた。

Claims (8)

  1. 数平均分子量が500〜50,000のポリエチレンイミン(x1)中のアミノ基に数平均分子量が500〜5,000のポリエチレングリコール(x2)が結合してなる化合物(X)と、透過型電子顕微鏡写真から求められる平均粒子径が2〜100nmの銀ナノ粒子(Y)とを主構成成分とする銀含有構造体を触媒とする無電解めっき金属皮膜を製造する方法であって、
    (1)被めっき物表面をカチオン性処理剤(a)で処理する工程、
    (2)前記工程(1)に引き続き、アニオン性処理剤(b)で処理する工程、
    (3)前記工程(2)後の処理被めっき物を前記銀含有構造体の水性分散体に浸漬し、その被めっき物に銀含有構造体を吸着させる工程、及び
    (4)前記工程(3)で得られた銀含有構造体吸着被めっき物を無電解めっき用の金属イオン液(c)に浸漬する工程
    を有することを特徴とする無電解めっき金属皮膜の製造方法。
  2. 前記銀ナノ粒子(Y)の平均粒子径が5〜50nmの範囲であり、且つ前記銀含有構造体中の化合物(X)の質量割合が2〜6質量%の範囲である請求項1記載の無電解めっき金属皮膜の製造方法。
  3. 前記工程(1)におけるカチオン性処理剤(a)が、アルキルモノアミン塩、アルキルジアミン塩、アルキル4級アンモニウム塩、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリアリルアミン塩、ポリアリルアミン塩ジアリルアミン塩コポリマー及びポリアニリンからなる群から選ばれる1種以上のカチオン性化合物を含有するものである請求項1又は2記載の無電解めっき金属皮膜の製造方法。
  4. 前記工程(2)におけるアニオン性処理剤(b)が、スルホン酸型界面活性剤、リン酸エステル型界面活性剤、アルキル硫酸塩型界面活性剤、アルキルエーテル硫酸塩型界面活性剤、スルホコハク酸型界面活性剤、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸マレイン酸コポリマー及びポリアクリル酸アルキルコポリマーからなる群から選ばれる1種以上のアニオン性化合物を含有するものである請求項1〜3の何れか1項記載の無電解めっき金属皮膜の製造方法。
  5. 前記工程(4)における金属イオン液(c)が、銅イオン液である請求項1〜4の何れか1項記載の無電解めっき金属皮膜の製造方法。
  6. 前記被めっき物が回路基板用樹脂基材又はセラミック基材である請求項1〜5の何れか1項記載の無電解めっき金属皮膜の製造方法。
  7. 請求項1〜6の何れか1項記載の製造方法で得られることを特徴とするめっき被覆基板。
  8. ガラスエポキシ基板である請求項7記載のめっき被覆基板。
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