JP5641295B2 - インボリュート歯車の転造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、丸ダイスを用いたインボリュート歯車の転造方法に関するものである。
歯車加工を行う方法としては、表面が単に円筒状の素材に所定の歯形を形成したダイスを押し当てて所期の歯車を得るものがある。そのためには、例えば、製造する歯車と噛み合いが可能な歯形形状を備えた転造丸ダイスを用いる。丸ダイスを用いる転造は、通常は、寄せ転造方法と称して、二つの丸ダイスを回転させつつ近接させ、ワークにダイスを押し付ける。丸ダイスを加工の終了位置まで徐々に押し込む方法である。
丸ダイスを用いて転造する場合、まず、転造ダイスの歯先がワークの表面に当接する。この当接により、ワークの表面に断続的な押付跡が形成される。丸ダイスをワークの側に序々に押し付けていくことで丸ダイスの歯がワークに食い込み、歯車の谷部分が形成される。一方、当該部位に隣接する部位ではワークの素材が盛り上がり、得られる歯車の山部分が形成される。丸ダイスがワークに対して所定の位置まで押し込みが完了したとき求める歯車が形成される。
図2は、従来のインボリュート歯車の製造において、ダイス20がワーク10に対して最初に当接した状態を示す。所謂、ダイス20の食い付き時の様子である。ダイス20は図外の駆動機構によって駆動回転され、ワーク10はダイス20に単に従動する。通常は、ワーク10を挟んで反対側にもう一つのダイス20を配置し、一対のダイス20によりワーク10を押圧加工する。図2の状態では、ダイス20の歯先21がワーク10に食い付き、小さな凹部11が形成される。ダイス20を回転させつつその軸芯X2をワーク10の軸芯X1に近付けることで、ダイス20の歯先21が順次凹部11に押し込まれ、凹部11を深く広く成長させる。ワーク10の母材のうち凹部11に位置するものはその両側で盛り上がり、歯車の歯となる。
図3は、ダイス20の歯先21がワーク10にある程度食い込んだ転造加工の途中状態を示す。ダイス20が回転しながらワーク10に接近し、押し込み加工を行なって離間するとき、ダイス20の歯先21はワーク10に対して径方向への押し込みと周方向への拡張とを同時に行い、凹部11の近傍が塑性変形を受けて歯車の形状に成形される。
図4は、ワーク10に対するダイス20の押込みが終了した状態を示す。形成された歯車Wの夫々の歯12は、ダイス20の歯22にバックラッシュがない状態で噛み合っている。得られた歯車Wの歯丈はダイス20の歯丈と一致している。ダイス20が半径rg2の基礎円C2を有するのに対して、得られた歯車Wは、半径rg1の基礎円C1を備えたものとなる。夫々の歯形はインボリュート歯形であり、ダイス20のかみ合いピッチ円Cp2と歯車Wのかみ合いピッチ円Cp1とが、ピッチ点Pで接している。このピッチ点Pは、歯車Wの中心X1とダイス20の中心X2とを結ぶ直線と、歯車Wの基礎円C1およびダイス20の基礎円C2の共通接線Lとの交点である。また、歯車Wの中心X1或いはダイス20の中心X2から前記共通接線Lに降ろした垂線と、歯車Wの中心X1及びダイス20の中心X2を結ぶ直線との角度がかみ合い圧力角αwである。
尚、この「かみ合い圧力角」は、二つのインボリュート歯車を噛合させた際に既定されるものであり、歯車どうしの軸芯間距離を変化させた場合にはかみ合い圧力角は変動する。これに対し、歯車には夫々の「圧力角」が存在する。これは、歯車が持つ基準円上にピッチ点が重なった場合に既定される角度である。以後、単に「圧力角」というときは、この基準円上で既定される圧力角のことをいうものとする。
図5は、用いるワーク10の形状変化を示す説明図である。図5中d0は加工前のワーク10の表面を示す。転造加工により領域A2の部分が押し込まれ、そこから移動した母材体積が領域A1の体積となって歯先部分となる。図中d1は歯先円を示し、d2は歯底円を示す。
従来、ダイス20の歯車形状は、製造する歯車Wの形状に基づいて設計される。例えば、ダイス20を形成する諸元としては、歯数・モジュール・圧力角・ねじれ角・転位係数等がある。ただし、通常では、ダイス20の形状を決定するのに、モジュール・圧力角・ねじれ角は歯車Wの値をそのまま用いることが多く、必要に応じて転位係数を微調整したりしている。そうすることで、設計の手間が省け、求める形状の歯車Wを加工可能なダイス20を容易に得ることが出来る。また、ダイス20の直径は歯車Wの直径と異なることが多く、通常、ダイス20の歯数は歯車Wの歯数よりも多くなる。
ところで、インボリュート歯車同士が適切に噛合するためには、双方の法線ピッチが一致する必要がある。法線ピッチは、特定の歯とそれに隣接する歯とに亘って歯面に直角に測定した歯間距離のことをいう。つまり、双方の歯車の歯の形状や歯数が異なっていても、歯間の送り距離が同じであれば、双方の歯車は適切に噛合する。この法線ピッチは、一般には、その歯車が有するモジュールmと圧力角αとを用いて、
P=π・m・cosα (1)
で表される。
このため、従来、ダイス20のモジュールmや圧力角αは、歯車Wの値と異なっていても良いのだが、歯車Wの値に対してどのように設定するかはあまり重要視されていなかった。
実公平1−37800号公報
従来の転造方法では、転造終了時のダイスと歯車との噛合状態を想定してダイスの形状が設計されていた。そのため、例えば、ワークを押し込んで谷部を形成する際に、ダイスの歯の当接位置が歯の当接ごとにワークの周方向で変動するという問題があった。
つまり、歯車が完成した状態では、歯車とダイスとは夫々のかみ合いピッチ円で接し、適切に噛合した状態となる。通常の設計で重要なのは、ダイスの基準円上でのピッチ、或いは、かみ合いピッチ円上でのピッチであって、歯先ピッチはダイスの設計に際して特に留意されない。そのため、転造初期に形成される凹部の位置が安定せず、場合によっては、ダイスの歯先が当接する度に凹部の位置が周方向にずれるという事態が生じていた。
その場合、凹部の形状が適切でなくなる上、ワークの母材が不必要に塑性変形を受けるため、歯車の精度が低下したり、機械的特性に劣る歯車が形成されることとなる。
このような不都合を解消するために、例えば、特許文献1に示すように、ダイスの外周に、食い付き部、中仕上げ部、仕上げ部、および逃げ部用の加工歯を順に備えたものを用いる方法が考案されている。このようなダイスでは、各部分の歯先形状や歯の間隔が適宜変更されている。よって、ダイスをワークに押し込むとき、ダイスの歯先をワークの所望の位置に押し付けることができ、適切に凹部を形成することができる。
また、この他に、例えば、ダイスの軸心とワークの軸心との距離が短くなるに伴ってダイスを交換しながら加工を行なう方法もある。この場合にも、ある程度正確な歯車が形成されるが、ダイスの交換が非常に面倒である。
以上のごとく、従来の技術は、丸ダイスを用いて転造を行なう際のダイスの押込位置が変動することを当初から是認し、これを補うために転造途中でダイスの歯の形状を変更するものが殆どである。そのため、歯車の製造作業が煩雑となり、製造工数および製造コストが増大するなど、従来の方法には未だ改善すべき点があった。
本発明の目的は、ワークに無理な塑性変形を生じさせず効率的にインボリュート歯車を形成する転造方法を提供することにある。
本発明のインボリュート歯車の転造方法は、所定の半径を有する円筒状の外周面を備えたワークと、前記ワークの外周長を前記インボリュート歯車の歯数で除したピッチに等しい歯先ピッチを備えたインボリュート歯形の丸ダイスとを用い、前記丸ダイスの基準半径における圧力角が、前記インボリュート歯車の基準半径における圧力角よりも大きく設定してあり、前記丸ダイスの基準半径における法線ピッチが、前記インボリュート歯車の基準半径における法線ピッチと等しく設定してあり、当該丸ダイスを回転駆動させつつ前記ワークに押し付ける点にある。
本手段では、所定の半径を有する円筒状の外周面を備えたワークと、ワークの外周長をインボリュート歯車の歯数で除したピッチに等しい歯先ピッチを備えた丸ダイスとを用い、当該丸ダイスを回転駆動させつつ両者を相互に押し付ける。こうすると、丸ダイスの歯先は、転造によるワークの加工当初から、ワークの外周の所望の歯形のピッチに適合した位置に当接し、当接した箇所に凹部が徐々に深く形成されることとなる。こうして形成された凹部は、以後、丸ダイスの歯が順次当接する際の案内溝としても機能し、仮にその後の歯先の当接位置が当初の凹部と少々異なる場合でも、凹部形状の乱れが防止できる。
このように、ダイスがワークに最初に形成する凹部の位置は非常に重要である。この点に着目した本方法を用いることで、一つの丸ダイスのみを用いながら、作業効率よく正確な形状のインボリュート歯車を転造することができる。
インボリュート歯車どうしが適切に噛合するためには、互いの歯車が上記(1)式を満たせばよい。本手段では、(1)式を満たしながら、特に、丸ダイスの圧力角を、転造されるインボリュート歯車の圧力角よりも大きく設定する。これにより、丸ダイスの歯先の形状が、従来用いられていたダイスの歯先の形状に比べてやや尖った形状となる。より具体的には、歯の先端に形成される頂部の面積が狭い歯形が形成される。
製造するインボリュート歯車の形状は予め決められているから、これに噛合する丸ダイスの歯形もある範囲に規制される。また、形成されるインボリュート歯車の歯丈と、丸ダイスの歯丈とは略等しい。よって、歯の圧力角が大きい丸ダイスの歯は、回転方向駆動側の歯面と従動側の歯面とが必然的に歯先部で近付き、歯車を回転軸芯方向に沿って見たとき歯先が尖った形状となる。
歯先部位がより尖った形状の丸ダイスを用いることで、ワークに対する接触単位面積当たりの押し込み荷重が増大する。よって、転造当初の食い付き段階で、ワーク表面の最適な位置に凹部を確実に形成することができる。この結果、当該凹部が2度目の押し込み成形を受ける際には、丸ダイスの歯が上手く当該凹部に倣うこととなり、2回目の押し込みをより正確に行なうことができる。
また、ダイスの押込荷重が全体的に小さくなれば、加工能力が小さい転造装置での加工が容易となり、製造コストを削減することもできる。
さらに、丸ダイスの圧力角を大きくすることで、歯先の歯厚に対して歯元の歯厚が大きくなる。このため、歯先に作用する外力が歯元側に拡散し易くなり、歯先あるいは歯の全域において応力集中が緩和される。よって、歯先の欠けや歯元疲労破壊の発生が抑制され、丸ダイスの使用寿命が向上する。
転造加工中のワークと丸ダイスとの詳細を示す説明図 転造過程の初期状態を示す説明図 転造過程の中期状態を示す説明図 転造過程の後期状態を示す説明図 ワークの形状変化を示す説明図
(概要)
本発明は、円筒状の外面を有するワークを用いてインボリュート歯車(以下、単に「歯車」と称する)を転造形成する際に、ワークに対する丸ダイス(以下、単にダイスと称する)の食い付きを最適化し、さらに、その後のワークに対するダイスの押し込み加工を適切に行なわせることで、精度が良く機械的特性に優れた歯車を形成する方法に関する。
以下、図面に基づいて説明する。
(ワーク)
本発明のダイス20を用いてワーク10を転造加工する様子を図1に示す。図1の下半分には、ダイス20の押し付け開始時の状態を示す。図1の上半分には、転造加工が終了した状態を示す。
ワーク10に形成する凹部11のピッチP1は、当初のワーク半径r0と、歯数Z1とから P1=2π・r0/Z1 で求めることができる。
ワーク10は、軸心X1で回転自在に転造装置に支持される。ワーク10は駆動できるように支持しても良いし、自由回転する状態で支持しても良い。本構成の場合、ダイス20によってワーク10の適切な位置に凹部11が形成され、転造途中でダイス20の歯先21がワーク10を不必要に回転させることはないため自由回転支持で十分である。
形成する歯車Wには、予め各種諸元、例えば、第1モジュールm1、第1圧力角α1、歯数Z1が設定されている。このうち第1モジュールm1は、歯車Wの基準円半径r1と、歯数Z1とから、
m1=2r1/Z1
で求められる。
また、この歯車の法線ピッチP0は、基準円上での円ピッチπ・m1と圧力角α1とから、前述の(1)式から
P0=π・m1・cosα1 (11)
で求められる。
(ダイス)
一方、ダイス20は、形成する歯車Wの諸元に基づいて形状を設定する。特に、本構成のダイス20は、その歯先ピッチP2を前記凹部11どうしのピッチP1と等しく設定する。本構成とすることで、最初の押し込み操作で最適な位置に凹部11を形成することができる。一旦、凹部11が形成されると、次の歯先21が当接する際に、歯先21を案内する効果が期待できる。
上記P2を決定した後、モジュールm2と圧力角α2とを決定する。ダイス20についても上記(11)式の関係を満たす必要がある。ダイス20の法線ピッチは当然に歯車Wのものと同じである。基準円上での円ピッチπ・m2と、圧力角α2とを有するとして、ダイス20の法線ピッチは
P0=π・m2・cosα2 (12)
となる。
つまり、 m1・cosα1=m2・cosα2
なる関係が成立すればよい。
本発明では、ダイス20の歯先21によってワーク10に確実に凹部11を形成する必要がある。よって、歯先21は尖った形状の方が望ましい。歯先21が尖っていることで、ワーク10の表面に歯先21が当接する際の単位面積当たりの押圧力が高まる。よって、ワーク10の表面に歯先21が確実に食い込み、位置ずれが防止できる。
また、歯先21がワーク10の表面に回転しつつ当接する際には、通常は歯先21の回転方向前側の角部からワーク10に当接する。つまり、歯厚方向の中心位置に対して回転方向前側にずれた位置で歯先21が当接する。歯先21の歯厚が大きい場合には、このずれ量が過大となり、歯先21が先に形成した凹部11とは異なる位置に当接する可能性が高まる。
そこで、本構成のダイス20では、歯先21の厚さを薄くするために圧力角α2を大きく設定する。ダイス20の法線ピッチは上述のごとく予め設定されている。よって、隣接する歯の間隔も大よそ決まっている。さらに、形成する歯車Wの歯丈が決まっているから、ダイス20の歯丈も所定値をもつ。この状態で、圧力角α2を大きくすることは、つまり基準円上における歯の傾きが寝ることになる。よって、歯面は、歯先21に近付くほど歯厚の中心側に近付く。つまり、先端厚さの薄い歯22が形成されることとなる。
図1には、ダイス20の圧力角α2および歯車Wの圧力角α1を示した。夫々、基準円上でラック工具と接している状態を模式的に示している。
また、図1には、ワーク10およびダイス20のかみ合いピッチ円Cp1,Cp2を示した。これらは作用線L上のピッチ点Pで接している。前述したごとく、このピッチ点Pにおける圧力角がαwである。このかみ合い圧力角αwと、上記二つの基準円上の圧力角α1、α2とは異なることを図1に示した。
尚、ダイス20の圧力角α2は大きくするにも限界がある。つまり、圧力角α2が過大となれば、必要な歯丈を確保できないまま回転方向駆動側の歯面と従動側の歯面とが交差してしまう。よって、当該交差点がちょうど歯先円上に位置する場合に圧力角α2の値が最大となる。
以上のごとく、これまでの転造技術においては、ダイスの設計に際して歯先ピッチは考慮されていなかった。これは、転造そのものがワーク素材に大きな塑性変形を与えるものであるため、最終製品としての歯車が得られるのであれば、製造過程での問題はある程度妥協するという思想があったためと思われる。本発明は、転造過程に存在する根本問題を解決する技術である。本方法を用いることで、各種形状・サイズの転造歯車を、精度良く、しかも優れた機械的特性を備えた状態で形成することが出来る。
また、ワークの支持が自由回転支持でよく、しかも、ダイスの押し込み力も低減できるから、製造装置の簡略化さらには製造コストの低減化が可能となる。
(別実施形態)
本発明に係る転造方法は、インボリュート歯車であれば、通常の平歯車の他にはすば歯車に対しても適用可能である。
インボリュート歯車がねじれ角βを有する場合は、前記モジュールmとして正面モジュールmtを用い、前記圧力角αとして正面圧力角αtを用いることで、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
その場合、法線ピッチPは、
P=π・mt・cosαt (2)
と表すことができ、
mt=m/cosβ , tanαt=tanα/cosβ
である。
このように本発明の転造方法によれば、(2)式を満足させるパラメータとしてねじれ角βを設定することで、はすば歯車の製造も可能である。
本発明のインボリュート歯車の転造方法は、あらゆる部位に用いるインボリュート歯車の製造工程に適用可能である。
10 ワーク
20 丸ダイス
P1 ワークに形成する凹部のピッチ
P2 ダイスの歯先ピッチ
α1 歯車の圧力角
α2 丸ダイスの圧力角
W 歯車

Claims (1)

  1. インボリュート歯車を転造する際に、
    所定の半径を有する円筒状の外周面を備えたワークと、
    前記ワークの外周長を前記インボリュート歯車の歯数で除したピッチに等しい歯先ピッチを備えたインボリュート歯形の丸ダイスとを用い、
    前記丸ダイスの基準半径における圧力角が、前記インボリュート歯車の基準半径における圧力角よりも大きく設定してあり、
    前記丸ダイスの基準半径における法線ピッチが、前記インボリュート歯車の基準半径における法線ピッチと等しく設定してあり、
    当該丸ダイスを回転駆動させつつ前記ワークに押し付けるインボリュート歯車の転造方法。
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