以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
なお、以下では、本発明の各実施形態等について理解が容易になるように、まず、本発明の第1実施形態及び第2実施形態について、それぞれ構成、動作及び効果の順で説明する。一方、本発明の各実施形態に係る加熱制御装置は、被加熱材である金属材表面の温度分布を測定することが可能な温度測定装置を有する。この温度測定装置は、金属材表面の温度分布を測定することができるものであれば、様々なものを使用することが可能であるが、本発明の各実施形態では、特にその効果を高めるために、金属材表面の温度分布を正確に測定可能な温度測定装置及び温度測定方法を使用する。この温度測定装置及び温度測定方法を使用することにより、各実施形態による効果を著しく高めることができる。従って、上記の内容を説明した後に、この温度測定装置について詳しく説明する。
つまり、以下では、本発明の各実施形態の理解が容易になるように、次の順序で説明する。
1.第1実施形態
2.第2実施形態
3.各実施形態で使用される温度測定装置及び温度測定方法
また、以下では、説明の便宜上、加熱炉として「連続鋼片加熱炉(以下単に加熱炉という。)」を例に挙げて説明する。そして、被加熱材である金属材として「鋼片(鋼材ともいう。)」を例に挙げて説明する。しかし、本発明が制御する加熱炉は、上記連続鋼片加熱炉に限られるものではなく、鉄鋼業に限定されるものでもない。つまり、金属材は、加熱処理が必要な様々な金属材であってもよく、また、加熱炉自体もその金属材の加熱に通常使用される様々なものであってもよいことは、言うまでもない。
1.第1実施形態
図1A及び図1Bは、本発明の第1実施形態に係る加熱制御装置及び加熱炉の構成について説明するための説明図である。ここで図1Bは、図1Aにける加熱炉1をA−A線で切断した断面図を示している。なお、図1Aに示すように、加熱炉1の各構成は、必ずしも同一平面上には存在しない(例えば、バーナ2と温度測定装置100)。しかしながら、図1Bでは、説明の便宜上、主要な各構成を同一の断面図上に示した。上述の通り、以下では、本発明の各実施形態に係る加熱制御装置が連続鋼片加熱炉に適用された場合を例に挙げて説明する。そこでまず、この加熱炉について説明する。
1−1.加熱炉
加熱炉1は、図1Aに示すように、炉長方向(x軸方向、搬送方向ともいう。)に、金属材の一例である鋼片Fを搬送しつつその鋼片Fを加熱する。つまり、図1Aに示す鋼片Fは、図1Bに示すように炉幅方向(y軸方向ともいう。)が長手方向となるように、加熱炉1の一側(装入側、x軸負の方向側ともいう。)端部の炉壁に設けられた装入口INから装入される。そして、鋼片Fは、搬送装置により、加熱炉1の他側(抽出側、x軸正の方向側ともいう。)端部の炉壁に設けられた抽出口OUTから抽出される。
なお、搬送装置としては、特に限定されるものではないが、本実施形態に係る加熱炉1ではウォーキングビームを使用した例を示している。ウォーキングビーム式の搬送装置は、図1Aに示すように、炉長方向と同程度の長さを有するスキッドビーム3が、複数のスキッドポスト4に支持されており、そのスキッドビーム3上に鋼片Fが載置される。このスキッドビーム3とスキッドポスト4との組み合わせをスキッドともいう。このスキッドは、図1Bに示すように、炉幅方向に複数配置される。一方、このスキッドは、固定式スキッドと、可動式スキッドとに分類され、この固定式スキッドと、可動式スキッドとが、図1Bに示すように交互に配置される。そして、可動式スキッドが炉高方向(z軸方向ともいう。)で上下動しつつ、炉長方向(x軸方向)で前後動する。その結果、鋼片Fは、可動式スキッドのスキッドビーム3に支持された状態から、可動式スキッドが前方に移動するとともに、前方に搬送される。その後、鋼片Fは、可動式スキッドが下方に移動すると、今度は固定式スキッドに支持される。そして、可動式スキッドが前方に移動した分、後方に移動した後、上昇し、再度鋼片Fを支持する。この可動式スキッドの動作が繰り返されることにより、鋼片Fは、順次炉長方向へと搬送される。
一方、加熱炉1には、複数のバーナ2が配置されており、このバーナ2が炊かれる。従って、鋼片Fは、搬送装置に搬送されている間、つまり、在炉中、バーナ2から噴出されるフレーム(火炎)により加熱されることとなる。なお、図1A及び図1Bに示す加熱炉1では、鋼片Fの搬送位置の上下において、図1Bに示すように炉幅方向の両炉壁に対向配置されて対をなしつつ炉幅方向にフレームを形成する「サイドバーナ」が使用される。しかし、このバーナ2の配置位置は、特に限定されるものではなく、例えば、炉天井や炉床に配置され、搬送方向にフレームを形成するいわゆる「軸流バーナ」であってもよい。また、バーナ2の種類も特に限定されるものではなく、例えば、気体燃料バーナ、液体燃料バーナ、リジェネレイティブ(Regenerative)バーナなど、様々なバーナを使用することが可能である。
加熱炉1は、制御装置(図示せず)等により、主として、搬送装置による鋼片Fの搬送速度、及び、各バーナ2の燃焼量などが調整されて、鋼片Fの加熱状態が制御される。
以上、本発明の第1実施形態に係る加熱炉1について説明した。
次に、本発明の第1実施形態に係る加熱制御装置10の構成について、引き続き図1A及び図1Bを参照しつつ説明する。
1−2.加熱制御装置の構成
加熱制御装置10は、図1A及び図1Bに示すように、温度測定装置100と、記憶部142と、位置決定部11と、温度差算出部12と、温度差記憶部13と、判定部14と、を有する。
温度測定装置100は、鋼片Fの搬送方向、つまり炉長方向に沿った複数個所にそれぞれ配置される。そして、温度測定装置100は、配置された個所を通過する鋼片Fの表面の温度分布を測定する。
図1Aには、搬送方向に沿った5個所のそれぞれに、温度測定装置100が配置されている場合を例示している。ここでは、各温度測定装置100を区別するために、各個所に配置された温度測定装置100をそれぞれ温度測定装置100A〜100Eとも呼ぶ。そして、温度測定装置100と言う場合、任意の温度測定装置100A〜100Eを示すものとする。
温度測定装置100の配置個数は、特に限定されるものではないが、少なくとも2以上配置される。そして、温度測定装置100の配置位置も、搬送方向に沿って並べられれば特に限定されるものではないが、少なくとも、1の温度測定装置100Aは、装入口INの近傍に配置されることが望ましい。
また、温度測定装置100は、例えば放射測温を行う温度測定装置が使用されることが望ましい。しかしながら、上述の通り、温度測定装置100は、鋼片Fの表面の温度分布を測定することが可能であれば、特に限定されるものではない。ただし、詳細に後述する本実施形態で使用される温度測定装置100は、鋼片Fの表面の温度分布を正確に測定することが可能である。従って、ここでは、詳細に後述する温度測定装置100が使用されることが望ましい。なお、図1A及び図1Bでは、詳細に後述する温度測定装置100が使用された場合の例を示している。従って、この温度測定装置100は、主として放射測温を行う。従って、鋼片Fからの放射光が撮像可能な位置に温度測定装置100の撮像装置110及び温度既知物体120等が配置される。
温度測定装置100は、加熱制御装置10により制御され、所定のタイミングで鋼片Fの温度分布を測温する。つまり、温度測定装置100は、鋼片Fが測温領域Arに入った場合に、その鋼片Fの放射輝度を撮像して、表面温度分布を撮像する。そのために、加熱制御装置10自身は、鋼片Fがいずれの位置を搬送されているのかを常に追跡しておくことが望ましい。また、温度測定装置100A〜100Eは、少なくとも同一の鋼片Fを順次測温するように制御される。つまり、温度測定装置100Aが一の鋼片Fを撮像した場合、温度測定装置100B〜100Eは、各配置個所(測温領域Ar)をその鋼片Fが通過する際に、その鋼片Fの測温を行う。結果、一の鋼片Fは、全て又は2以上の温度測定装置100により各個所で測温される。尚、この測温対象となる鋼片Fは、搬送されて加熱される全ての鋼片Fであってもよいが、加熱制御装置10により選択された1以上の鋼片Fであってもよい。
また、この測温結果は、各温度測定装置100により記憶部142に記録される。この際、記憶部142には、一の鋼片Fに対する測温結果は、一纏めに記録されることが望ましい。つまり、温度測定装置100A〜100Eによる測温結果は、互いに関連付けられるか、測温対象である一の鋼片Fに全て対応付けられる。その結果、一の鋼片Fに対する複数の測温結果と、他の鋼片Fに対する複数の測温結果とは、互いに区別される。なお、この加熱制御装置10は、鋼片F毎にその加熱度合を制御することが可能であるため、以下では、一の鋼片Fに対する動作及び処理等について説明し、他の鋼片Fに対する同様な動作及び処理等についての説明は、適宜省略する。
位置決定部11は、測温対象となっている鋼片Fの表面において、基準となる2の位置を決定する。この2の位置を「第1位置P1」及び「第2位置P2」と呼ぶ。この両位置について図2を参照しつつ説明する。図2は、本実施形態に係る加熱制御装置の位置決定部について説明するための説明図である。
この第1実施形態において第1位置P1及び第2位置P2は、それぞれ鋼片Fの表面温度分布中、他の位置と比べて比較的高温又は低温となることが予想されるため、加熱過程中で管理されるべき位置を表す。なお、ここで言う高温又は低温となる位置は、他の全ての位置よりも高温又は低温となる必要はなく、所望の温度よりも高温又は低温となることを意味する。つまり、例えば、他の基準となる位置と同程度の温度であることが望まれる位置について、その基準となる位置よりも高温となったり低温となる位置であってもよい。更に言えば、実際に高温又は低温となる必要は必ずしも無く、あくまで予想として高温となる位置や低温となる位置であればよい。このような第1位置P1及び第2位置P2を、それぞれ「高温管理点」及び「低温管理点」とも呼ぶ。この高温管理点及び低温管理点は、圧延工程等のような加熱後の工程による処理で、不具合等が発生しないために、それらの温度差が一定温度以下となることが望まれる。例えば、鋼片Fを均一に加熱したい場合において、一部が低温でありすぎたり、高温でありすぎたりすれば、その位置における成形や材質調整等にムラが生じ、製品品質が悪化することが予想される。他にも、鋼片Fの加熱後の温度分布に、傾斜などの温度差を設けたい場合、所望の温度差が実現していないと、製品品質を維持することが難しくなる。この意味では、上記高温管理点及び低温管理点は、共に所望の温度よりも高くなったり低くなるために、他の位置に比べて比較的高温となったり低温となる位置であるとも言える。そこで、位置決定部11は、このように高温となったり低温となったりすることが予想されるため管理する必要がある2の位置を特定する。なお、この第1位置P1及び第2位置P2は、例えば、操業実績等に基づいて決定されてもよいが、温度測定装置100Aによる実測から求められてもよい。この両決定方法毎に、第1位置P1及び第2位置P2について説明する。
まず、加熱炉1における操業実績等に基づいた決定方法について説明する。
今までに加熱炉1に装入されて加熱されたことがない鋼片Fが加熱対象となることは稀である。従って、この場合、位置決定部11は、これまでの操業実績に基づいて、第1位置P1及び第2位置P2を決定する。この操業実績には、例えば、過去に加熱が行われた鋼片Fに対する、加熱前の状態、加熱中の状態、加熱後の状態、後段の処理後の状態等の製品品質実績が含まれる。例えば、加熱後や後段の圧延等の工程後に鋼片Fの品質が悪化した実績がある場合、この鋼片Fについて、加熱前・加熱中・加熱後の少なくとも何れかにおいて、他の位置と比べて高温又は低温となる位置を特定しておき、操業実績として、この高温位置と低温位置を予め記録しておく。この位置の特定は、本実施形態に係る加熱制御装置10によれば、温度測定装置100により鋼片Fの温度分布を測定することが可能であるため、その温度分布測定結果に基づいて、行うことができる。そして、位置決定部11は、この高温位置と低温位置を、品質を良好に保つために温度を管理すべき位置に設定する。このような高温位置と低温位置についてのデータは、鋼片Fの鋼種やサイズ等毎に異なるため、位置決定部11は、鋼片Fの鋼種やサイズ等毎に高温位置と低温位置を予めデータベースとして予め蓄積しておく。このデータベースは、位置決定部11自らが有してもよく、又、他の記憶装置(例えば記憶部142)に記録させておくことも可能である。そして、位置決定部11は、例えば、加熱炉1を制御する更に上位の制御装置から、加熱制御対象である鋼片Fについて、識別情報、鋼種、サイズ等のような特性情報を取得する。その後、位置決定部11は、特性情報に基づいて、データベースから一の鋼片Fを特定し、その鋼片Fに対応付けられた高温位置及び低温位置それぞれを、上記第1位置P1又は第2位置P2に決定する。
次に、温度測定装置100Aによる実測に基づいた決定方法について説明する。
温度測定装置100Aは、加熱炉1の装入側、つまり装入口INに近い個所に配置される。従って、温度測定装置100Aは、加熱炉1に装入された際の鋼片Fの表面温度分布を測定する。一方、加熱炉1による加熱性能等にも寄るが、装入された鋼片Fの表面中、最も温度が高い位置と最も温度が低い位置とは、加熱炉1による加熱中も他の位置に比べて比較的高温又は低温となることが予想されたり、所望の温度よりも高温又は低温となる結果他の基準位置よりも高温又は低温となることが予想される。そこで、位置決定部11は、装入側の温度測定装置100Aが測定した温度分布に基づいて、鋼片Fの表面中、最高温度位置(最高温度である位置)及び最低温度位置(最低温度である位置)を、それぞれ第1位置P1及び第2位置P2、つまり高温管理点及び低温管理点に決定する。なお、この最高温度位置及び最低温度位置は、加熱炉1に装入された際の鋼片Fの最高温度及び最低温度となっている位置を意味するものであり、加熱中又は加熱後において他の全ての位置よりも最高温度及び最低温度となる必要はない。上述の通り、この最高温度位置及び最低温度位置は、他の位置に比べて比較的高温又は低温となったり、所望の温度よりも高温又は低温となる結果他の基準位置よりも高温又は低温となることが予想される位置を意味する。
ただし、この実測に基づいた位置決定を行う場合、温度測定装置100Aが測定した表面温度分布中に、何らかの異常により局所的に高温又は低温となり基準点として決定するには適さない異常温度位置が発生することも考えられる。この場合、位置決定部11は、このような異常温度位置を第1位置P1又は第2位置P2に決定することを防止するために、温度測定装置100Aが測定した表面温度分布に基づいて、最も温度が高い位置又は最も温度が低い位置の面積(画素数でもよい)を抽出する。そして、位置決定部11は、その面積が所定の閾値未満である場合には、次に温度が高い位置又は次に温度が低い位置について、やはり同様に面積が閾値以上となるか否かを確認する。その結果、面積が閾値以上となった最も温度が高い位置又は最も温度が低い位置を、位置決定部11は、第1位置P1又は第2位置P2に決定することが可能である。なお、異常温度位置は、他の通常の鋼片Fの表面の領域に比べて面積が小さくなり、その面積は、加熱炉1の使用や鋼片Fの特性、加熱状態等により異なる。そこで、予め実測に基づいて異常温度位置の面積に対する閾値(例えば最大面積など)を、求めておくことが望ましい。
なお、第1位置P1及び第2位置P2を決定するにあたり、操業実績等に基づくか、実測値に基づくかは、適宜設定可能である。例えば、鋼片Fに対する操業実績がデータベース中にある場合には、その操業実績に基づいて、第1位置P1及び第2位置P2を決定し、データベース中にない場合には、実測値に基づいて決定することも可能である。あるいは、例えば、操業実績等により第1位置P1及び第2位置P2を決定した方が、製品品質の維持上好ましいという信憑性が過去の操業実績や制御実績等に基づいて得られる場合にのみ、操業実績等に基づく決定を行うことも可能である。このことは、実測値に基づく場合も、同様である。ただし、実測値、つまり、温度測定装置100Aによる測定結果に基づいて、第1位置P1及び第2位置P2を決定する場合、予めデータベースを用意する必要もなく、かつ、実際に最高温度位置及び最低温度位置に決定するため、より容易かつ確実な位置の決定が可能である。
この第1位置P1及び第2位置P2の決定例を図2に示す。
図2は、本実施形態に係る位置決定部による位置決定例について説明するための説明図である。なお、以下では、説明の便宜上、位置決定部11が、図2に示す第1位置P1及び第2位置P2を、上記操業実績等に基づく決定方法により、管理すべき点として決定した場合を例に挙げて説明する。
温度差算出部12は、複数の温度測定装置100A〜100Eそれぞれにより測定された温度分布に基づいて、位置決定部11により決定された第1位置P1と第2位置P2との間における温度差を、複数の温度測定装置100A〜100Eそれぞれが配置された個所毎に算出する。つまり、例えば、温度測定装置100Cを例に説明すると、温度差算出部12は、この温度測定装置100Cの測定結果である温度分布と、第1位置P1及び第2位置P2を表す情報を、記憶部142及び位置決定部11から取得する。そして、温度差算出部12は、その温度分布中、第1位置P1に対応する温度T1と、第2位置P2に対応する温度T2とを抽出し、それらの温度差ΔTを下記式Aにより算出する。
ΔT=T1−T2 …(式A)
このような温度差ΔTの算出を、温度差算出部12は、複数の温度測定装置100A〜100Eそれぞれについて行う。そして、温度差算出部12は、その温度差ΔTを、その算出が行われた温度測定装置100A〜100E及びその搬送方向における位置(温度測定装置100の設置個所)の少なくとも一方と鋼片Fとに対応付けて、温度差記憶部13に記録する。
図3に、この温度差算出部12による温度差ΔTの算出結果例を、その位置毎に示した。図3は、本実施形態に係る温度差算出部による温度差算出例について説明するための説明図である。なお、図3では、温度差ΔTと、その温度差ΔTに対する温度測定装置100を対応付けるため、温度測定装置100A〜100Eの位置(x軸方向の位置)に符合100A〜100Eを付した。また、この測定及び算出結果例の測定が行われた加熱炉1の炉長は約40mであり、装入側の装入口INの位置を0mとした。温度差ΔTは、図3に示すように、温度測定装置100A〜100Cの位置まで、順次増加し、その後減少に転じていることが判る。なお、図3に示す温度差ΔTの推移は、鋼片Fが適切に加熱された場合の例を示している。
判定部14は、温度差算出部12により算出された温度差ΔTを、温度差記憶部13から取得し、その温度差ΔTに基づいて、鋼片Fの加熱完了を判定する。なお、本実施形態に係る判定部14は、温度差ΔTにおける加熱完了、つまり、その温度差ΔTに対応する温度測定装置100の測温領域Arに位置した際の鋼片Fの加熱完了を判定する。ただし、判定部14は、全ての温度測定装置100A〜100Eの位置における加熱完了を判定する必要は必ずしも無く、抽出時、つまり抽出口OUTに近い位置に配置された温度測定装置100Eの測温領域Arに位置する際の鋼片Fの加熱完了を判定することが望ましい。従って、以下では、説明の便宜上、温度測定装置100Eの測温領域Arに位置する際の鋼片Fの加熱完了を判定する場合について説明する。
この際、加熱完了の判定としては、様々な方法が考えられる。
例えば、判定部14は、温度差ΔTが、予め定められた目標温度差(許容限界温度差ともいう)Tc以下である場合に、鋼片Fの加熱完了を判定してもよい。図3に示すように、本実施形態では、この目標温度差Tcとして15℃が設定されている。従って、判定部14は、この温度差ΔTが15℃以下となった場合に、鋼片Fの加熱が完了していると判定する。例えば、図3に示す測定例では、抽出時の温度差ΔT、つまり温度測定装置100Eに対応する温度差ΔTは、目標温度差Tc(15℃)以下となっているため、判定部14は、この鋼片Fについて抽出時に加熱が完了したと判定する。一方、図3と異なり、温度測定装置100Eに対応する温度差ΔTが目標温度差Tc(15℃)を超過している場合、判定部14は、加熱が完了していない(加熱不足であるか過加熱である)と判定することができる。加熱が完了したことを「熟熱した」とも言い、また、加熱完了の判定を「熟熱判定」とも言う。
なお、この加熱完了の判定方法の他の例としては、図3に示すように、判定部14は、温度差ΔTが、少なくとも1以上の個所において一旦目標温度差を超過した後に、目標温度差以下となる場合に、鋼片Fの熟熱を判定することも可能である。例えば、加熱炉1の特性や鋼片Fの性質上、加熱過程中で一旦、温度差ΔTが増加することが予想される場合もある。そのような場合は、ここで説明したように、温度差ΔTの変化状態に基づいて、熟熱判定をおこなうことが望ましい。
また、上記熟熱判定例では、目標温度差Tcとして加熱完了時の温度差ΔTの上限値が設定される場合について説明しているが、この上限値に加えてか、又は、代えて、下限値を設けることも可能である。つまり、温度差ΔTが、下限値である目標温度差以上となる場合に、鋼片Fが熟熱したと判定してもよい。このように目標温度差として下限値を使用する場合は、例えば、傾斜加熱などのように、一様でない温度差を設けた加熱を行いたい場合に特に効果的である。
更に、上記熟熱判定例では、抽出時、つまり抽出口OUTに近い位置に配置された温度測定装置100Eの測温領域Arに位置する際の鋼片Fの熟熱判定を行う場合について説明しているが、この熟熱判定が行われる位置は、他の温度測定装置100A〜100Dの位置であってもよい。
そして、判定部14による判定結果は、外部の記憶装置に記録されたり、外部の表示装置に表示されることが望ましい。
以上、本発明の第1実施形態に係る加熱制御装置10の構成について説明した。
次に、本発明の第1実施形態に係る加熱制御装置10の動作について、図4を参照しつつ説明する。なお、以下では、位置決定部11が第1位置P1及び第2位置P2を実測値等に基づいて決定する場合を例に挙げて説明する。第1位置P1及び第2位置P2を実測値ではなく、操業実績等に基づいて決定する場合の変更点については順次説明する。
1−3.加熱制御装置の動作
図4は、本実施形態に係る加熱制御装置の動作について説明するための説明図である。
図4に示すように、制御対象となる鋼片Fが装入口INから加熱炉1へと装入されると、まず、ステップS01が処理される。
ステップS01(温度測定ステップの一例)では、装入口IN近傍に配置された温度測定装置100Aが、鋼片Fの温度分布を測定する。測定された温度分布は、上述の通り、記憶部142に順次記録される。そして、ステップS03に進む。
ステップS03(位置決定ステップの一例)では、位置決定部11が、記憶部142に記録された温度測定装置100Aによる測定結果を取得し、その温度分布から、最高温度位置及び最低温度位置を抽出し、それらをそれぞれ第1位置P1及び第2位置P2に決定する。なお、第1位置P1及び第2位置P2の決定が操業実績等に基づいて行われる場合には、ステップS01は省略可能であり、温度測定装置100Aによる温度測定は、後述のステップS09に含まれることとなる。また、この場合、ステップS03では、位置決定部11が、操業実績等を表すデータベースにアクセスして、鋼片Fに対応する高温位置及び低温位置を特定し、そして、それらをそれぞれ第1位置P1及び第2位置P2に決定することになる。このステップS03の処理後は、ステップS05に進む。
ステップS05(温度差算出ステップの一例)では、温度差算出部12が、温度差ΔTを算出したい温度分布を取得し、その温度分布中の第1位置P1と第2位置P2の温度差ΔTを、上記式Aに基づいて算出する。つまり、このステップS05では、上記ステップS01又は後述するステップS09で測定された温度分布(温度測定装置100A〜100Eの何れかにより測定された温度分布)それぞれについて、温度差ΔTが算出される。算出された温度差ΔTは、上述の通り、鋼片F毎に温度差記憶部13に記録される。このステップS05の処理後は、ステップS07に進む。
ステップS07では、加熱制御装置10が、まだ温度測定が行われない温度測定装置100が存在するか否かを確認する。この確認は、温度差ΔTが算出されていない温度測定装置100A〜100Eが存在するか否かを確認するとも言える。そして、そのような温度測定装置100が存在する場合にはステップS09へと進み、存在しない場合にはステップS11へ進む。つまり、本実施形態の場合、鋼片Fは、もっとも抽出側に位置する温度測定装置100Eの測温領域Arを通過するため、この温度測定装置100Eが最後に温度測定を行う。従って、このステップS07により、温度測定装置100Eの測定が行われるまで、ステップS09へと進み、温度測定装置100Eの測定が行われ、かつ、その測定結果の温度差ΔTが算出された後に、ステップS11に進むことになる。なお、この動作例では、抽出時の温度差ΔTが目標温度差Tc以下となる場合に熟熱したと判定する場合について説明しているが、仮に、他の位置における温度差ΔTに基づく場合には、このステップS07では、その位置における温度測定が完了したか否かを確認することとなる。
ステップS09(温度測定ステップの一例)では、鋼片Fが測温領域Arに到達した温度測定装置100が、ステップS01と同様に鋼片Fの温度分布を測定し、その温度分布を記憶部142に記録することになる。そして、ステップS05以降の処理が繰り返される。
一方、ステップS11(判定ステップの一例)では、判定部14が、温度差記憶部13に記録された温度差ΔTに基づいて、鋼片Fが熟熱したか、つまり、加熱が完了しているか否かを判定する。より具体的に判定例を挙げれば、判定部14は、抽出口OUT近傍に配置された温度測定装置100Eの温度差ΔTと、予め設定されている目標温度差Tc(例えば15℃)とを比較して、温度差ΔTが目標温度差Tc以下であれば熟熱したと判定し、目標温度差Tcを超過していれば熟熱していないと判定する。そして、判定結果は、外部の記録装置に記録されたり、外部の表示装置に表示される。
1−4.本実施形態による効果等
以上、本発明の第1実施形態に係る加熱制御装置10の構成及び動作等について説明した。この加熱制御装置10によれば、各温度測定装置100A〜100Eの測温領域Arにおける鋼片Fの温度分布から、高温管理点である第1位置P1と低温管理点である第2位置P2における各温度T1,T2を検出し、その温度差ΔTを求める。そして、この温度差ΔTと目標温度差Tcとに基づいて、鋼片Fの熟熱、つまり加熱完了を判定することが可能である。
このように第1位置P1及び第2位置P2の温度差ΔTにより熟熱判定を行うことは、温度測定装置100A〜100Eによる実測値に基づいており、シミュレーションに基づく熟熱判定や加熱炉1の雰囲気温度に基づく熟熱判定に比べて、より正確に鋼片Fの熟熱を判定することができる。
また、例えば、加熱炉1の特性により一時的に局所的に高温となったり低温となるなどのように、鋼片F表面の温度分布は常に変化することが考えられる。しかしながら、鋼片Fの内部の温度は、表面の温度分布と追従して変化するとは限られず、内部まで所望の温度で加熱されているか否かを判定することは、非常に難しい。しかしながら、本実施形態に係る加熱制御装置10は、単に温度分布に基づくわけではなく、基準となる2点間の温度差ΔTを使用して熟熱判定を行うため、一時的な表面温度の変化に左右されないような、より客観的な熟熱判定を可能としている。
また、基準となる2点を決定する位置決定部11では、上述のように、操業実績等に基づく決定、又は、実測に基づく決定が行われる。従って、実測に基づく場合には、上記のような局所的に高温な個所や低温な個所が基準点に決定される可能性があり、その場合、安定した塾熱判定を行うことが難しくなる恐れがある。しかしながら、本実施形態に係る位置決定部11は、基準となる第1位置P1又は第2位置P2を決定する際に、面積が所定の閾値以上となるものうちの最高温度位置又は最低温度位置を、第1位置P1又は第2位置P2に決定することが可能である。従って、何らかの異常により局所的に高温又は低温となる個所が基準点として決定されることを防止することができ、熟熱判定の精度を更に向上させることが可能である。なお、このような局所的に高温となる原因の一例としては、加熱対象が鋼片Fの場合ブリスター状スケールが挙げられる。鋼片Fの表面は、加熱されて昇温することにより酸化され、その酸化により生成された酸化スケールで覆われる。本実施形態における鋼片Fの表面温度とは、通常このスケール表面の温度を示すこととなるが、スケール表面温度に限定されるものではもちろんない。このスケールの一部は、地鉄との熱膨張差により局所的に膨れ、地鉄から浮き上がった状態となることがある。この膨れた状態をブリスターと呼ぶ。浮き上がった状態では、このスケールが周囲から受熱した熱が地鉄に奪われ難くなり、地鉄と接触しているスケール表面に比較して高温となる。従って、単に最高温度位置を第1位置P1に決定したのでは、ブリスター状スケールが基準点として選択されることがあり、熟熱判定の精度を低下させる恐れがある。一方、このようなブリスター状スケールは、他のスケール表面に比べて面積が小さい。従って、このブリスター状スケールなどの異常温度位置を所定の面積(閾値)で除外することにより、熟熱判定の精度が低下することを防止することが可能である。
なお、このように正確な加熱完了の判定を行うためには、各温度測定装置100A〜100Eが正確な表面温度分布を測定できることが非常に重要である。従って、この温度測定装置100として、詳しく後述する放射測温の原理を利用した温度測定装置100を使用することが望ましく、この温度測定装置100を使用する場合、熟熱判定の正確性を更に向上させることが可能である。
以上、第1実施形態に係る加熱制御装置10について説明した。なお、この第1実施形態では、抽出時に鋼片Fに対する加熱が完了したか否かを判定する場合について説明した。つまり、この第1実施形態では、加熱が完了していない鋼片Fも、加熱炉1から加熱不足の状態で抽出されることとなる。そこで、本発明の第2実施形態として、このように加熱不足の鋼片Fが加熱炉1から抽出されることを防ぐことが可能な第2実施形態について説明する。
2.第2実施形態
本発明の第2実施形態に係る加熱制御装置20は、各温度測定装置100A〜100Dの測定結果から算出される温度差ΔTに基づいて、抽出時の温度差ΔT、つまり温度測定装置100Eの測定結果から算出される温度差ΔTを予め予測する。そして、加熱制御装置20は、その予測結果に基づいて、加熱炉1等による加熱状態を制御する。この加熱炉1等による加熱状態の制御方法としては、様々な方法が考えられ、少なくとも1以上の制御方法が採用されることになる。そこで以下では説明の便宜上、複数の制御方法例を実施することが可能な構成について説明する。しかしながら、制御方法としては、以下で説明する例の何れか1つ又はそれらの組み合わせを採用することが可能である。以下、この第2実施形態に係る加熱制御装置20について詳しく説明する。
ただし、以下で説明する第2実施形態に係る加熱制御装置20は、上記第1実施形態に係る加熱制御装置10と同様の構成も有する。そこで、以下では、加熱制御装置20における第1実施形態と異なる点を中心に説明することにする。
2−1.加熱炉
まず、加熱炉1について、図1A及び図1Bに示した場合と異なる点について、図5A〜図5Cを参照しつつ説明する。図5A〜図5Cは、本発明の第2実施形態に係る加熱制御装置及び加熱炉の構成について説明するための説明図である。ここで図5B及び図5Cは、それぞれ図5Aにける加熱炉1をA−A線及びB−B線で切断した断面図を示している。なお、図5Aに示すように、加熱炉1の各構成は、必ずしも同一平面上には存在しない(例えば、バーナ2と温度測定装置100)。しかしながら、図1Bでは、説明の便宜上、主要な各構成を同一の断面図上に示した。
加熱炉1は、図5Aに示すように、図1Aに示した構成に加えて、更に、仕切壁5と局部加熱装置6とを有する。
仕切壁5は、図5Aに示すように、加熱炉1の炉天井の複数個所から突出形成され、加熱炉1を複数の区間に区画する。この各区間は、装入口IN側からそれぞれ予熱帯、第1加熱帯、第2加熱帯、均熱帯に相当する。ここでは、これらの区間に区画する場合を例示しているので、3の仕切壁5が加熱炉1に配置される。
なお、この仕切壁5の個数は、特に限定されるものではなく、例えば、予熱帯、加熱帯、均熱帯の3区間に仕切る場合には2個であればよく、その他の区間数の設定状況に応じて、適宜適切な個数が配置される。また、仕切壁5は、本実施形態に係る加熱炉1の搬送装置がウォーキングビーム式であるため、炉天井から突出形成されるが、必要に応じて、炉床や炉壁から突出形成されることも可能である。更に言えば、この仕切壁5は、必ずしも必要ではなく、配置されなくともよい。ただし、本実施形態の場合、特徴の一つである抽出時の温度差ΔTの予測とその後の加熱制御とが判りやすいように、加熱炉1が複数の区間に区画されており各区間における鋼片Fの温度差ΔTが測定される場合を例示している。
つまり、本実施形態に係る加熱炉1では、加熱制御装置20の温度測定装置100が各区間(つまり各帯)において少なくとも1以上配置されることになる。加熱制御装置20についてではあるが、温度測定装置100の配置位置についてより具体的に説明すれば、以下の通りである。つまり、予熱帯には、その上流である装入口INの直後に1の温度測定装置100Aが配置され、その予熱帯の下流側である仕切壁5の直前に1の温度測定装置100Bが更に配置される。そして、第1加熱帯及び第2加熱帯のそれぞれには、各区間の中間位置近傍に温度測定装置100C,100Dが1ずつ配置される。最後に、均熱帯には、下流つまり抽出口OUTの近傍に温度測定装置100Eが配置される。このように、各区間に1以上の温度測定装置を配置することにより、各区間毎の加熱状況を的確に把握することができる。ただし、本実施形態の場合、抽出直前の温度差ΔTに基づいて実際に鋼片Fが熟熱しているかの判定を第1実施形態のように行う必要がなければ、均熱帯の温度測定装置100Eは必ずしも必要ではない。しかし、抽出直前の温度差ΔTに基づいて実際に鋼片Fが熟熱しているかの判定を第1実施形態のように行うことで品質を管理したり、後段の圧延工程等の処理における処理内容を変更することが可能となるという意味で、均熱帯に温度測定装置100Eを配置することは非常に重要である。また、上記第1実施形態と同様に、位置決定部11による位置決定が操業実績等に基づいて決定される場合には、装入口IN近傍の温度測定装置100Aも必ずしも必要ではない。しかし、実測値等に基づく決定方法との併用が可能であり、かつ、加熱炉1中における鋼片Fの温度変化を把握する上では非常に重要である。
局部加熱装置6は、均熱帯の炉天井に配置され、望ましくは、加熱炉1の主要なサイドバーナであるバーナ2の更に下流に配置される。そして、局部加熱装置6は、例えば、図5Cに示すように、炉幅方向に並んで設けられた複数のバーナ61〜67で構成され、各バーナ61〜67が独立して炊かれてフレーム(火炎)Flを鋼片Fに向けて発生させることにより、鋼片Fを長手方向(y軸方向、炉幅方向)の一部(特にスキッドビーム3に相当する部位。図5C参照。)を局部的に加熱することができる。この局部加熱装置6は、後述するように、加熱制御装置20(局部加熱制御部233)により制御される。
なお、本実施形態では、局部加熱装置6としてバーナ61〜67で構成される場合を説明しているが、局部加熱装置6としては、この例に限定されるものではなく、鋼片Fを長手方向で局部的に加熱することが可能な様々な加熱装置を使用することが可能である。また、局部加熱装置6の配置位置も、均熱帯の炉天井に限定されるものではなく、例えば、均熱帯の炉床や、他の区間の炉天井又は炉床であってもよい。しかし、この局部加熱装置6は、本実施形態の特徴の1つである予測温度差ΔTが熟熱に達しない場合に局所的に温度分布を調整する1加熱制御方法として使用されるため、温度差ΔTの予測が行われる2以上の温度測定装置100の下流に配置されることが望ましい。また、この局部加熱装置6は、本実施形態では加熱炉1に備えられるとして説明しているが、加熱制御装置20が有していてもよい。
以上、本発明の第2実施形態に係る加熱炉1について説明した。
次に、本発明の第2実施形態に係る加熱制御装置20の構成について、引き続き図5A〜図5Cを参照しつつ説明する。
2−2.加熱制御装置の構成
加熱制御装置20は、図5A〜図5Cに示すように、温度測定装置100と、記憶部142と、位置決定部11と、温度差算出部12と、温度差記憶部13と、温度差予測部21と、判定部22と、雰囲気温度測定装置200と、炉制御部23とを有する。つまり、加熱制御装置20は、第1実施形態に係る加熱制御装置10が有する構成中、判定部14に代えて、判定部22を有し、更に、温度差予測部21と、雰囲気温度測定装置200と、炉制御部23とを有する。第1実施形態で説明した構成については、同様に構成されるため、詳しい説明を省略し、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
温度差予測部21は、抽出時の鋼片Fの第1位置P1と第2位置P2との温度差ΔTを予測する。この際、温度差予測部21は、温度測定装置100A〜100Eにより測定された温度分布から温度差算出部12により算出された2以上の温度差ΔTに基づいて、抽出時の温度差ΔTを予測する。より具体的には、温度差予測部21は、抽出口OUT側からの2以上の温度測定装置100に基づく温度差ΔT、及び/又は、その抽出口OUT近傍の温度測定装置100Eを除く抽出口OUT側に位置した2以上の温度測定装置100に基づく温度差ΔTに基づいて、抽出時の温度差ΔTを予測することが望ましい。温度差予測部21は、抽出時の温度差ΔTを予測する一方、図3に示す通り、温度差ΔTは、一旦増加した後減少に転じることが予想される。従って、減少に転じた後の温度差ΔTに基づいて、抽出時の温度差ΔTを予測する方が、予測精度を向上させることが可能である場合が多い。そこで、抽出口OUT側からの2以上の温度測定装置100に基づく温度差ΔTを使用した温度差予測を行うことが望ましい。また、後述する炉制御部23により抽出時の鋼片Fが熟熱するように加熱調整を行う場合、この加熱調整は、他の鋼片Fへの影響を抑えるためにも、抽出直前の区間である均熱帯において行われることが望ましい。従って、このような加熱調整を行う場合には、この加熱調整が行われる均熱帯の上流においても抽出時の温度差ΔTを予測することが望ましい。
なお、温度差予測部21による抽出時温度差ΔTの予測方法としては、例えば、抽出時以外の2以上の温度差ΔTに基づく外挿(補外)による方法が挙げられる。なお、外挿方法としては、線形近似や非線形近似など様々な方法が使用可能であるが、特に限定されるものではないため、ここでの詳しい説明は省略する。また、その他の予測方法としては、加熱実績に基づく方法が挙げられる。例えば、同一又は類似の材質及び寸法の鋼片Fについて、同一又は類似の搬送速度及び燃焼量で以前に加熱した実績が有れば、その加熱時に測定したスキッドマーク温度ΔTと、加熱中の鋼片Fに対して測定したスキッドマーク温度ΔTとを比較することにより、抽出時のスキッドマーク温度ΔTを予測することも可能である。
判定部22は、上記第1実施形態に係る判定部14と同様の動作、つまり温度差算出部12により算出された実際の温度差ΔTに基づいて、鋼片Fの加熱完了を判定することも可能である。この判定の詳しい動作は、判定部14と同様である。しかし、判定部22は、事後的な判定だけでなく、事前の判定をも行うことができる。つまり、判定部22は、更に、温度差予測部21により予測された抽出時温度差ΔTに基づいて、鋼片Fの加熱が抽出時に完了していることが予想されるか否かを判定することが可能である。この熟熱判定における判定方法としては、その判定に使用する温度差ΔTが実測に基づくものではなく、予測温度差ΔTであること以外は、上記判定部14と同様の方法を使用することができる。なお、ここでは、予測された抽出時温度差ΔTが目標温度差Tc以下である場合に、加熱完了つまり熟熱していると判定する場合を例に挙げて説明する。
この温度差予測部21による抽出時温度差ΔTの予測と、その予測温度差ΔTによる判定部22による判定例について、図6を参照しつつ説明する。図6は、本実施形態に係る加熱制御装置による温度差予測及び熟熱判定例を説明するための説明図である。
図6では、第2加熱帯の温度測定装置100Dによる温度差ΔTと、抽出直前である均熱帯の温度測定装置100Eによる温度差ΔTとに基づいて、温度差予測部21が、抽出時(抽出口OUT到達時)の鋼片Fの温度差ΔT(図6中の白丸○)を予測した例を示している。この例の場合、予測温度差ΔT(○)は、目標温度差Tc(例えば15℃)よりも低くなると算出されている。従って、判定部22は、この場合、抽出時に鋼片Fは熟熱していると判定する。この場合、抽出直前の温度測定装置100Eの温度差ΔTにより判定がおこなわれる場合に比べて、温度測定装置100Eと抽出口OUTとの間の距離搬送される間に行われる加熱分も考慮されるため、より正確な鋼片Fの熟熱判定が可能である。
一方、図7〜図9に、予測温度差ΔTが熟熱判定条件を満たさない場合の例を示す。図7〜図9は、それぞれ本実施形態に係る加熱制御装置による加熱制御方法の第1例〜第3例を説明するための説明図である。
図7〜図9では、後述する炉制御部23による加熱調整が行われた後の温度差ΔT(●)の変化も示しているが、このような調整が行われない場合の温度差ΔTを、黒四角(■)のデータ点として示している。
図7に、抽出直前である均熱帯の温度測定装置100Eよりも上流の、第1加熱帯の温度測定装置100Cによる温度差ΔTと、第2加熱帯の温度測定装置100Dによる温度差ΔTとに基づいて、温度差予測部21が、抽出時(抽出口OUT到達時)の鋼片Fの温度差ΔT(図7中の白四角□)を予測した例を示している。この例の場合、予測温度差ΔT(□)は、目標温度差Tc(例えば15℃)よりも高くなると算出されている。従って、判定部22は、この場合、抽出時に鋼片Fは熟熱しないことが予想されると判定する。そこで、判定部22は、炉制御部23に、鋼片Fの加熱調整が必要である旨の指示を出すと共に、均熱帯直前の温度分布(温度測定装置100Dによる測定結果)を炉制御部23に出力することになる。
なお、この出力を受けた炉制御部23は、加熱炉1による加熱状態を調整し、その調整結果は、温度測定装置100Eによる測定結果にも反映される。そこで、上記温度差予測部21は、温度測定装置100Eの温度差ΔTと他の温度差ΔTとに基づいて、再び抽出時の温度差ΔTを予測し、判定部22は、その予測結果である温度差ΔTに基づいて再び同様の熟熱判定を行うことが望ましい。
炉制御部23は、温度差予測部21が予測した温度差ΔTに基づいて、判定部22による判定結果が加熱完了を示すように、均熱帯における加熱炉1の加熱状態を調整する。この際、炉制御部23は、どのように加熱状態を調整するかなどについて、均熱帯直前の温度測定装置100Dが測定した温度分布に基づいて決定してもよい。この加熱状態の制御方法としては、上述の通り、様々な方法が使用可能である。しかし、本実施形態では「バーナ2による炉温調整」、「局部加熱装置6による局部加熱」及び「搬送速度の調整」の少なくとも1以上が、制御方法として使用される場合について説明する。この3つの加熱調整のうち、いずれを行うかは、予測温度差ΔTだけでなく、均熱帯直前の温度分布や、エネルギー効率、加熱期限等に基づいて、炉制御部23が決定することが望ましい。この各加熱調整を行うために、炉制御部23は、図5Aに示すように、炉温制御部231と、搬送速度制御部232と、局部加熱制御部233とを有する。各加熱調整の方法及び特徴例等については、各構成において説明することとし、以下では、これらの構成について説明する。
炉温制御部231は、温度差予測部21により予測された温度差ΔTに基づいて、その予測に使用された温度分布を測定した温度測定装置100(例えば温度測定装置100C,100D)よりも搬送方向下流における加熱炉1(つまり均熱帯)の炉温を制御する。そして、炉温制御部231は、予測温度差ΔTの大きさと、炉内雰囲気温度とに基づいて、どの程度雰囲気温度を調整する必要があるかを決定し、決定した分だけ雰囲気温度を調整するために、均熱帯のバーナ2の燃料流量を調整する。この際、炉温制御部231は、加熱炉1の各区間に配置された雰囲気温度測定装置200が測定した炉内雰囲気温度をも参照してもよい。なお、燃焼流量の調整量は、操業実績や調整実績、実験結果等に基づいて、温度差ΔTや温度分布に対応して予め決定されることが望ましい。
図7に示す加熱制御の第1例では、予測された抽出時温度差ΔTが目標温度差Tcを上回るため、その上回る差分から、炉温制御部231は、調整後の雰囲気温度を決定し、その雰囲気温度となるように、燃料流量を減少させる調整を行っている。結果として、加熱調整が行われない場合に比べて、加熱調整が行われる場合の炉温(雰囲気温度)は、均熱帯において低下する。そして、その低下分だけ、炉温調整が行われない場合に比べて、炉温調整が行われた場合の温度差ΔT(黒丸(●))は、均熱帯において減少し、温度差予測部21により予測される温度差ΔT(白丸(○))も、目標温度差Tc以下へと減少する。なお、この図7に示した例において、炉温制御部231が雰囲気温度を下げることにより実際の鋼片Fにおける温度差ΔTが減少した理由は、雰囲気温度を下げることにより、雰囲気温度の影響を受けて昇温しやすい第1位置P1の昇温速度を下げて、その結果、雰囲気温度に対する感度が小さい第2位置P2の温度T2と第1位置P1の温度T1との差が減少したためである。
この炉温制御部231による加熱調整が行われる場合、他の加熱調整と比べて搬送速度を落とすことがないため生産性を落とさずに済むだけでなく、局部加熱装置6を配置する必要もないため加熱炉1又は加熱制御装置20を容易かつ低コストで構成することができる。なお、目標温度差Tcとして下限値が設けられ、予測温度差ΔTがその下限値を下回る場合には、炉温制御部231は、雰囲気温度が上昇するように、バーナ2を制御することとなる。
搬送速度制御部232は、温度差予測部21により予測された温度差ΔTに基づいて、搬送装置による鋼片Fの搬送速度を制御する。つまり、搬送速度制御部232は、鋼片F毎の均熱帯における在炉時間を調整することになる。この際、搬送速度制御部232は、どの程度搬送速度を調整するのかを、予測された温度差ΔTに基づいて決定してもよいが、更に、加熱炉1の各区間に配置された雰囲気温度測定装置200が測定した炉内雰囲気温度をも参照してもよい。搬送速度の調整量は、操業実績や調整実績、実験結果等に基づいて、温度差ΔTや温度分布に対応して予め決定されることが望ましい。
図8に示す加熱制御の第2例では、予測された抽出時温度差ΔTが目標温度差Tcを上回るため、その上回る差分から、搬送速度制御部232は、調整後の搬送速度を決定し、その搬送速度(例えば10%減)となるように、搬送装置(可動スキッド等)を制御している。結果として、搬送速度調整による加熱調整が行われない場合に比べて、加熱調整が行われる場合の温度差ΔT(黒丸(●))は、均熱帯において減少し、温度差予測部21により予測される温度差ΔT(白丸(○))も、目標温度差Tc以下へと減少する。なお、この図8に示した例において、搬送速度を調整することにより温度差ΔTが減少した理由は、第1位置P1の温度T1は炉温との差が小さく昇温しにくいのに対し、第2位置P2の温度T2は炉温との差が大きいために昇温速度が速いので、均熱帯の在炉時間を延長させることで、第2位置P2の温度T2と第1位置P1の温度T1との差が減少したためである。
この搬送速度制御部232による加熱調整が行われる場合、他の加熱調整と比べて、バーナの燃料流量を増やす必要がないためエネルギー消費量の増加を抑制することができ、かつ、局部加熱装置6を配置する必要もないため加熱炉1又は加熱制御装置20を容易かつ低コストで構成することができる。なお、目標温度差Tcとして下限値が設けられ、予測温度差ΔTがその下限値を下回る場合には、搬送速度制御部232は、搬送速度が増加するように、搬送装置を制御することとなる。
局部加熱制御部233は、温度差予測部21により予測された温度差ΔTに基づいて、その予測に使用された温度分布を測定した温度測定装置100(例えば温度測定装置100C,100D)よりも搬送方向下流に配置された局部加熱装置6を、鋼片Fの一部を局部加熱するように制御する。この際、局部加熱制御部233は、いずれの位置をどれだけ加熱するかを、予測された温度差ΔTに基づいて決定してもよいが、更に、加熱炉1の各区間に配置された雰囲気温度測定装置200が測定した炉内雰囲気温度をも参照してもよい。いずれの位置をどれだけ加熱するのかは、操業実績や調整実績、実験結果等に基づいて、温度差ΔTや温度分布に対応して予め決定されることが望ましい。
図9に示す加熱制御の第3例では、予測された抽出時温度差ΔTが目標温度差Tcを上回るため、その上回る差分から、局部加熱制御部233は、第2位置P2の近傍におけるスキッドビーム3に対応する位置を、局所的に加熱している。結果として、局所加熱による加熱調整が行われない場合に比べて、加熱調整が行われる場合の温度差ΔT(黒丸(●))は、均熱帯において減少し、温度差予測部21により予測される温度差ΔT(白丸(○))も、目標温度差Tc以下へと減少する。
この局部加熱制御部233による加熱調整が行われる場合、他の加熱調整と比べて、対象となる鋼片Fのみを局所的に加熱することが可能であるため他の鋼片Fに与える影響が少なく済む。なお、目標温度差Tcとして下限値が設けられ、予測温度差ΔTがその下限値を下回る場合には、局部加熱制御部233は、第1位置P1の近傍におけるスキッドビーム3に対応する位置を局所的に加熱することとなる。
以上、本発明の第2実施形態に係る加熱制御装置20の構成について説明した。
次に、本発明の第2実施形態に係る加熱制御装置20の動作について、図10を参照しつつ説明する。なお、以下では、図4に示した第1実施形態と同様の動作については詳しい説明を省略する。
2−3.加熱制御装置の動作
図10は、本実施形態に係る加熱制御装置の動作について説明するための説明図である。
図10に示すように、図4のステップS07の代りにステップS101が処理される。
ステップS101では、温度差予測部21が、抽出時の温度差ΔTの予測が可能なデータ数(つまり例えば温度測定装置100A〜100Dの温度差ΔT)が温度差記憶部13に記録されているか否かを確認する。そして、温度差予測に必要なデータ数が揃っていない場合には、ステップS09へと進み、必要なデータ数が揃っている場合には、ステップS103に進む。
ステップS103(温度差予測ステップの一例)では、温度差予測部21が、温度差記憶部13に記録された2以上の温度差ΔTに基づいて、抽出時の温度差ΔTを算出する。そして、ステップS105に進む。
ステップS105(判定ステップの一例)では、判定部22が、温度差予測部21による温度差予測結果に基づいて、鋼片Fの加熱が完了することが予測されるか否かを確認する。加熱完了、つまり鋼片Fが熟熱することが予測される場合には、ステップS109へと進む一方、熟熱することが予測されない場合には、ステップS107に進む。なお、この判定結果予測は、外部の記録装置に記録されたり、外部の表示装置に表示されてもよい。
ステップS107では、炉制御部23が、加熱炉1における均熱帯での加熱状態を調整する。この際、上記3の調整例のいずれ(組み合わせや全てでもよい。)を使用するかを、炉制御部23が、予測温度差ΔTやエネルギー効率、加熱期限等に基づいて決定する。そして、選択された調整例における調整量についても、炉制御部23の炉温制御部231,搬送速度制御部232及び局部加熱制御部233のそれぞれが、予測温度差ΔT等に基づいて決定し、加熱調整が行われる。このステップS107の処理後はステップS109に進む。
ステップS109(温度測定ステップの一例)では、抽出直前の均熱帯の温度測定装置100Eが、ステップS01やステップS09と同様に鋼片Fの温度分布を測定し、その温度分布を記憶部142に記録する。そして、ステップS111に進む。
ステップS111(温度差算出ステップの一例)では、温度差算出部12が、ステップS05と同様に、温度測定装置100Eが測定した温度分布から、第1位置P1と第2位置P2の温度差ΔTを、上記式Aに基づいて算出する。そして、ステップS113に進む。
ステップS113(温度差予測ステップの一例)では、温度差予測部21が、ステップS103と同様に、温度測定装置100Eに対するものを含む温度差記憶部13に記録された2以上の温度差ΔTに基づいて、抽出時の温度差ΔTを算出する。そして、ステップS115に進む。
ステップS115では、判定部22が、ステップS113における温度差予測部21による温度差予測結果に基づいて、鋼片Fの加熱が完了することが予測されるか否かを判定する。そして、判定結果は、外部の記録装置に記録されたり、外部の表示装置に表示される。
2−4.本実施形態による効果等
以上、本発明の第2実施形態に係る加熱制御装置20の構成及び動作等について説明した。この加熱制御装置20によれば、もちろん、上記第1実施形態に係る加熱制御装置10が奏することができる作用効果等をも奏することが可能である。それに加えて更に、この加熱制御装置20によれば、複数の温度測定装置100に対応する温度差ΔTから、抽出時の温度差ΔTを予測し、その予測結果に基づいて、鋼片Fの熟熱度合を判定することが可能である。従って、上記第1実施形態における熟熱判定と比べても、更に、その判定精度を向上させることが可能である。
また、この熟熱判定を予め均熱帯以前に事前に行い、その判定結果が、鋼片Fの加熱不足や過加熱が予測される場合には、炉制御部23による加熱調整を行うことが可能である。その結果、予想された加熱不足や過加熱を解消することが可能である。従って、加熱炉1における鋼片Fへの加熱精度を大幅に向上させることが可能である。
なお、上記第1実施形態に係る加熱制御装置10及び第2実施形態に係る加熱制御装置20は、例えば、汎用又は専用のコンピュータで構成されてもよい。そして、このコンピュータに上記各構成の機能を実現させるプログラムを実行させることにより、加熱制御装置10又は加熱制御装置20を構成することができる。なお、コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)と、HDD(Hard Disk Drive)・ROM(Read Only Memory)・RAM(Random Access Memory)等の記録装置と、LAN(Local Area Network)・インターネット等のネットワークに接続された通信装置と、マウス・キーボード等の入力装置と、フレキシブルディスク等の磁気ディスク、各種のCD(Compact Disc)・MO(Magneto Optical)ディスク・DVD(Digital Versatile Disc)等の光ディスク、半導体メモリ等のリムーバブル記憶媒体等を読み書きするドライブと、モニタなどの表示装置・スピーカやヘッドホンなどの音声出力装置などの出力装置等と、を有してもよい。そして、このコンピュータは、記録装置・リムーバブル記憶媒体に記録されたプログラム、又はネットワークを介して取得したプログラムを実行することにより、加熱制御装置10又は加熱制御装置20の各構成の機能を実現することができる。
3.各実施形態で使用される温度測定装置及び温度測定方法
次に、本発明の各実施形態で使用される温度測定装置及び温度測定方法について説明する。なお、上述の通り、本発明の各実施形態では、温度測定装置及び温度測定方法は、鋼片表面の温度分布を測定するもので有れば様々なものが、使用可能であるが、ここで説明する温度測定装置及び温度測定方法は、他の温度測定装置及び温度測定方法に比べて温度分布を非常に正確に測定することが可能である。このように正確に表面温度分布を測定することにより、本発明の各実施形態に係る加熱制御装置及び方法は、上述のような効果を更に高めて、より正確に鋼片の熟熱を判定することが可能となる。従って、以下では、この温度測定装置及び温度測定方法について図11〜図20を参照しつつ詳細に説明する。
なお、以下では、この温度測定装置及び温度測定方法が如何に関連技術に係る他の温度測定装置及び温度測定方法に比べて正確に温度分布を測定することができるのかについて理解が容易になるように、まず、関連技術について説明し、その後、本発明の各実施形態に用いられる温度測定方法について説明する。そして、この方法を実現するための温度測定装置について説明した後、各実施形態に用いられる温度測定装置及び温度測定方法による実施例について説明する。更に、この各実施形態に用いられる温度測定装置及び温度測定方法の効果の例について、上記特許文献3〜5と比較しつつ説明する。
つまり、以下では、本発明の各実施形態の理解が容易になるように、次の順序で説明する
3−1.関連技術
3−2.各実施形態で使用する温度測定方法の概要
3−3.各実施形態で使用される温度測定装置例
3−4.各実施形態で使用される温度測定装置による測定例
3−5.各実施形態で使用される温度測定装置等による効果の例
3−1.関連技術
図20及び図21を参照しつつ、関連技術について説明する。図20及び図21は、関連技術に係る温度測定装置について説明するための説明図である。
加熱炉内において鋼片の表面温度を非接触で測定する場合には一般には放射温度計等、物体表面からの熱放射エネルギーを計測する方法が用いられる。しかしながら、加熱炉内には炉の内壁や火炎等からの放射エネルギーが存在する。この放射エネルギーが鋼片の表面で反射して放射温度計等のセンサーに入射する。従って、放射温度計等は、鋼片からの熱放射エネルギーと、内壁や火炎等からの放射エネルギーが鋼片の表面で反射した反射エネルギーとの合計に相当する温度を表示するので、反射エネルギーに相当する温度の誤差が生ずる。この反射エネルギーは、迷光、反射光、外部光、背光、迷光雑音等種々の名称で呼ばれているが、いずれも同じものであり、以下「迷光」と記す。
例えば、外気条件下や室温条件下での測定では、大気や室内の壁が発する放射エネルギーは、高温の鋼片の放射エネルギーに比して小さいので迷光誤差が問題になることはない。しかしながら、高温の火炎や炉壁を有する加熱炉においては、迷光による誤差が大きく、このために、正確な温度測定が困難であった。
そこで、迷光の影響を補正して真の物体温度を得るための方法が開発されている。この関連技術に係る方法によれば、図20に示すように、まず、加熱炉911内に温度既知物体912を置き、演算手段918により、その物体912の既知温度から熱放射理論により算出される表面輝度と、その物体912の見掛け輝度の測定値との差異に基づいて、加熱炉911内迷光量を定量する。そして更に、演算手段918により、カメラを有する放射型温度計等の光表面温度測定手段914により計測される鋼片913の見掛けの輝度から、加熱炉911内迷光量を差し引いて鋼片の真の放射エネルギーを算出して温度を得る。そして、その温度が温度表示部919により表示される。このような関連技術としては、例えば、上記特許文献5が挙げられる。
この方法において、容易に考えうるのは、迷光の補正誤差を小さくするために、鋼片の近傍に温度既知物体を置いて比較する形態である。
しかし、そのような形態では、以下のような問題がある。
問題1:鋼片が移動する場合には、その近傍に温度既知物体を置くことが難しい。
問題2:温度既知物体を鋼片の近傍、即ちカメラから離れた位置に置くと、画像の中の温度既知物体の画素数が少なくなる。
上記問題1について説明する。
鋼片が移動する場合、例えばウォーキングビーム式加熱炉等では、鋼片の動きによって温度既知物体が破損する恐れがある。この対策として、鋼片の移動に応じて遮蔽板が移動する機構を設ければ測定システム自体が複雑となり、実用的でない。
上記問題2について説明する。
例えば、鋼片が離れた位置に配置されたり、比較的小さい鋼片の温度を計測するためには、鋼片を撮像可能なように、ある程度の解像度を有する撮像装置を使用する必要がある。撮像装置として例えば40万画素のカメラを用いた場合、1画素の視野角は幅0.08度、高さ0.08度程度の小さい領域となる。温度既知物体をカメラから離れた位置に置くと、画像中を占める温度既知物体の領域が非常に小さくなるため、1画素の出力は空間的、時間的変動、信号処理系の外乱等の影響を受け、いくらかのバラツキを生ずる。
図21に1画素単位の出力のバラツキの一例を示す。図21に示すように、1画素単位の出力のバラツキは大きく、このバラツキにより計測精度が低下してしまう恐れがある。従って、高い計測精度を得るためには、単一画素でなく、領域を定めてその領域内の画素の平均値をとる必要があり、少なくとも5×5画素、望ましくは10×10画素以上の平均をとるべきである。
しかし、例えばカメラから6メートル離れた鋼片の近傍に温度既知物体を配置する場合を考えると、1画素当りの視野角0.08度に相当する幅は10ミリメートル程度になる。10×10画素の平均をとるためには、100×100ミリメートルの領域の平均をとらなければならない。
一方、温度既知物体912としては、図20に示すように、保護管917付き熱電対温度計916を用いることが実用的であり、これは、通常、直径約20〜30ミリメートル程度の大きさであるので、100×100ミリメートルの大きな温度既知物体を設置するのは非現実的である。
本発明者らは、従来の温度測定装置やこの関連技術に係る温度測定装置について鋭意研究を行った結果、上記のような問題1及び問題2等の課題に想到した。この課題に対し、発明者らは、以下に示す手段などにより、温度既知物体、例えば保護管付き熱電対を、鋼片近傍でなく、撮像装置の近傍に設置することにより、迷光の影響を更に効果的に補正することが可能な温度測定方法を発明し、上記各実施形態に係る加熱制御装置及び方法等に使用する場合、その効果を著しく向上させることが可能であることをも見出し、上記発明を完成させた。
3−2.各実施形態で使用する温度測定方法の概要
以下、本発明の各実施形態に係る温度測定装置の概要について説明する。
この温度測定方法は、上述の関連技術に係る温度測定装置を前提に、大きく分けて以下の1〜3のような特徴を有する。
特徴1:迷光を補正するための温度既知物体を、撮像装置の近傍に設置し、かつ、鋼片の放射エネルギーの計測する際、炉内ガスによる吸収及び放射が起こらない波長を選択してその単色輝度分布を計測し、得られた単色輝度分布を迷光補正して温度を求める。
特徴2:温度既知物体は、その大きさが撮像装置の画素数において少なくとも25画素、望ましくは100画素以上となるような位置に配置される。
特徴3:温度既知物体は、その放射率が鋼片の放射率に対して前後0.1の範囲となる材質を用いる。
この各特徴について順次説明しつつ、各実施形態に係る温度測定装置について説明する。
3−1−1.特徴1
特徴1:迷光を補正するための温度既知物体を、撮像装置の近傍に設置し、かつ、鋼片の放射エネルギーの計測する際、炉内ガスによる吸収及び放射が起こらない波長を選択してその単色輝度分布を計測し、得られた単色輝度分布を迷光補正して温度を求める。
なお、この特徴1において、「炉内ガスによる吸収及び放射が起こらない波長」とは、完全に吸収及び放射が起こらないという意味ではなく、他の波長に比べて吸収及び放射が起こりにくい波長を意味する。また、「単色輝度」や「単波長」とは、全波長ではないという意味で、例えば波長の選択精度などにより所定の幅の波長の輝度をも含むものとする。この特徴1及び各実施形態に係る温度測定装置による温度測定過程について説明すると、以下の通りである。
例えば、温度既知物体と鋼片とが接近している場合には両者に入射する迷光量はほぼ等しいので、温度既知物体の計測結果から得られた迷光量が鋼片にも照射されるものとして、計測した鋼片の放射エネルギーを補正すればよい。しかし、各実施形態の如く両者が離れている場合には、迷光量の相等性は必ずしも保障されない。
そこで、各実施形態に係る温度測定装置では、温度既知物体と鋼片の迷光量の相等性を確保するために、大きく分けて下記の手段を用いる。
手段1:炉内ガスによる吸収・放射が起こらない波長を選択し、単波長の測定を行う。
手段2:炉内の温度分布等による誤差の理論的評価を可能にするために、放射伝熱の理論を厳密に適用して迷光補正計算式を作成する。
(手段1)
以下、各手段について具体的に述べる。
燃焼炉内には燃料の燃焼によって生じた二酸化炭素や水蒸気などが存在し、これらのガス体は、炉内の放射エネルギーを吸収し、また、自己の温度に応じたエネルギーを放射する。ガスの温度は、炉内の位置によって異なるので、炉内迷光量は、位置によって異なる。しかし、二酸化炭素や水蒸気等のガスが吸収・放射するのは、スペクトルのうちいくつかの特定の波長域に限られている。従って、二酸化炭素の吸収・放射波長域と水蒸気の吸収・放射波長域とを共に避けた波長を計測すれば、炉内ガスの影響を含まない迷光補正が可能である。
そこで、各実施形態では、上記条件を満たす波長、例えば1μmの単波長を計測することによって、温度既知物体と鋼片との位置が離れている条件下での迷光補正を可能とした。尚、各実施形態の如く、迷光補正の目的で単波長条件を必須とする例は、先例がない。
(手段2)
単波長を用いることに従って、迷光を補正するための計算は、一般的な放射伝熱計算で用いられるStefan−Bolzmannの式でなく、単波長の放射エネルギーを計算するPlankの式を用いる。具体的には下記の手順1〜7により計算する。
手順1:事前に、オフラインの黒体標準炉を用いて、撮像装置の出力と黒体輝度との関係式を作成する。
先ず、黒体標準炉の温度をT[K]に保持する。Planckの法則(下記式1)により温度Tにおける黒体輝度Eを計算する。
ここで上記式1の各定数等は、以下の通りである。
E :波長λの黒体輝度[W/m3]
λ :波長[m]
T :温度[K]
C1:定数 3.74×10−16[W/m2]
C2:定数 0.014387[μm・K]
次に、撮像装置で黒体標準炉の標準温度点を計測し、撮像装置の出力Lを得る。温度Tを変えて順次同様の計測を行い、EとLの関係式を最小2乗法等により作成する。ここでは、このEとLの関係式を下記式2とする。
この式2が表す関係式は、個々の撮像装置固有の特性式を意味するので、新たな撮像装置を導入したとき撮像装置毎に作成する必要がある。ただし撮像装置に固有の特性であるので、この手順1は1回実施すれば、それ以降再度行なう必要はない。また、各実施形態では、計測波長λとして、例えば1μmの波長を用い、その波長の選択には、光学フィルタを使用することができる。しかしながら、計測波長λは、他の波長であってもよく、波長の選択方法は、光学フィルタ以外にも例えば特定の波長のみを撮像する撮像素子を使用したり、撮像装置に含まれる特定の波長を画像解析により抽出する等、様々な方法を使用することができることはいうまでもない。
手順2:実際の炉において、温度既知物体例えば保護管付き熱電対の温度T1[K]から、下記式3のようにPlanckの法則により黒体輝度E1を算出する。
手順3:撮像装置により、温度既知物体を計測し、出力L1を得る。オフラインにて作成した上記特性式(式2)により、出力L1に該当する輝度を計算する。
この手順3で計算される輝度は、迷光の反射を含む見掛けの輝度であり、放射伝熱学の分野で射度と呼ばれる量に該当する。これをG1と表す。つまり、この輝度G1は、下記式4で表される。
手順4:上記E1とG1から下記の式5により、迷光量Jを計算する。
この式5中、ε1は温度既知物体の放射率である。
ここで、この式5の導出過程について述べる。温度Tの物体表面から放射される単色放射量Aは、Planckの法則から計算される黒体輝度Eに、物体表面の放射率εを乗じたものである。即ち、単色放射量Aは、下記式6で表される。
また、炉内迷光(外来照射)Jが物体表面で反射される量Bは、放射伝熱理論より、下記の式7で表される。
撮像装置で計測される「見掛けの輝度」Gは上記AとBの合計であるので下記式8で表される。
この式を変形すると、迷光量Jを算出する式9が得られる。よって、この式9にE1,G1及びε1を代入して、上記式5が導出される。
手順5:撮像装置により、鋼片を計測し、出力L2を得る。そして、上記特性式(式2)により、出力L2に該当する輝度を計算する。これは、迷光の反射を含む見掛けの輝度である。これをG2と表す。つまり、この輝度G2は、下記式10で表される。
なお、ここで撮像装置により計測される出力L2は、その鋼片の表面に対する分布として表される。つまり、撮像装置の撮像画像中の所定の個所に対する出力L2は、撮像画像中に撮像された鋼片の所定の個所に想到し、出力L2は、撮像画像中の位置毎に異なる値を取りうる。よって、この出力L2から算出する輝度G2も、同じく、鋼片に対する分布となる。なお、ここでは説明の便宜上、輝度G2は、輝度分布中の1点の輝度又は複数点の平均輝度であるとして説明する。しかし、この輝度G2に対する後段の計算等を、撮像画像中の鋼片に相当する位置毎に行うことにより、この温度測定方法では、温度分布を測定することが可能であることは言うまでもない。
手順6:上記G2と上記手順4項で算出した迷光量J(式5)から、下記の式11により鋼片の黒体輝度E2を計算する。
ε2は鋼片の放射率である。
ここで、この式の導出過程について述べる。
上記手順4項で導出した下記の式12(上記式8)を用い、この式を変形して黒体輝度Eを求めると、上記の式11が得られる。
手順7:このE2から、下記Planckの法則の逆関数(式13)を用いて、鋼片の温度T2[K]を求める。
ここで、Logは自然対数である。
ここに述べた迷光補正方法(手順1〜手順7)を用いることによって、温度既知物体と鋼片との距離が離れている場合においても、鋼片の温度を求めることが可能である。以下、その理由を述べる。
温度既知物体及び鋼片からの放射エネルギーは、物体自身からの放射量と炉内から受けた迷光の反射量との和であり、上述の手順4項で導出した式8の如く、温度既知物体及び鋼片のそれぞれについて下記の式14及び式15で表される。
ここで、添字1は温度既知物体、添字2は鋼片を表す。それぞれの式の右辺第1項は物体自身からの放射量、第2項は炉内からの迷光の物体表面での反射量である。
上記関連技術においては、放射エネルギーの差ΔG(=G2−G1)を加減算することによって補正を行ない、上記2つの式14及び式15において、見掛けの輝度Gと黒体輝度Eとの関係が同じであることを利用して輝度Eを求めて鋼片の温度を得ている。従って、上記関連技術の方法においては、上記2つの式のε1とε2が等しく、かつ、(1−ε1)J1と(1−ε2)J2が等しいことが要件となる。即ち、温度既知物体と鋼片の放射率が等しく、測定波長帯域に亘る迷光量Jの合計が等しいことが要件であるので、迷光が等しいことが明確であるような近傍に両者を置くことが必要である。それに対して、各実施形態の温度測定方法においては、上記補正計算手順の説明に示した如く、両式の相等性は要件ではない。即ち、炉内で迷光量に差が少ない単波長を使用するので、上式の第2項(1−ε1)J1と(1−ε2)J2とが等しい必要はなく、放射率ε及び迷光Jが位置によって異なっても、測定誤差を低減することが可能である。
一般に加熱炉で加熱する材料は、金属材料の場合は表面が酸化するために放射率が高く、非金属材料の場合は材料そのものの放射率が高い。通常、被加熱物の放射率は0.8を上回る値である。そのため、εに較べて(1−ε)が小さく、上式の第1項εEに較べて第2項(1−ε)Jが小さくなる。従って、温度既知物体位置の迷光J1と鋼片位置の迷光J2に若干の差があっても、相対的に値が小さい第2項に差が生ずるだけであるので、式の計算結果への影響は小さい。また、各実施形態では、計測波長λを、炉内ガスによる吸収・放射が少ない波長に設定する。従って、温度既知物体位置の迷光J1と鋼片位置の迷光J2との差を非常に小さくすることができる。よって、各実施形態では、温度既知物体と鋼片とを近接して配置しなくても、J1=J2として計算することが可能である。なお、J1とJ2の差異は10%程度異なっていても誤差には大きな影響はない。なぜならば、放射率0.8程度で、Jの差異が0.2程度ならば、上記の式の右辺の差異は(1−0.8)×10%=2%程度の影響に過ぎないからである。
以上の理由により、単波長の測定を行う各実施形態の温度測定方法を用いれば、迷光に若干の差異がある位置に温度既知物体を置いても、精度を大きく落とすことなく温度計測が可能である。即ち、鋼片の近傍に温度既知物体を置く必要はない。
3−1−2.特徴2
特徴2.温度既知物体は、その大きさが撮像装置の画素数において少なくとも25画素、望ましくは100画素以上となるような位置に配置される。
この特徴2について説明すると、以下の通りである。
上記問題2に示した如く、関連技術では、撮像装置の1画素が占める領域が小さいため、1画素の出力は、例えば空間的・時間的変動・信号処理系の外乱等の影響を受け、いくらかのバラツキを生ずる。温度既知物体の1画素単位の出力の実測値を図11に示す。
図11に示す実測値の標準偏差を算出するとσ=11℃であった。よって、1画素のみの測定値を用いて迷光補正を行えば、誤差が大きく、実用に耐えないことは明らかである。そこで、各実施形態の温度測定方法では、複数の画素の平均値を取り、その平均値で補正計算を行なうことにより、このような問題を解決することができる。
以下、この特徴2を導出した発明者らの考察に基づいて、具体的な条件を説明する。
上述の通り、1画素単位の標準偏差は11℃であった。統計学の法則によればn個の平均値をとった場合の標準偏差は、その個数の平方根に逆比例するので、25画素の平均をとれば、標準偏差は5分の1の約2℃となる。100画素の平均値をとれば、100の平方根10に逆比例するので、10分の1の約1℃となる。
炉内の温度計測においては、標準偏差2℃であれば概ね実用可能であり、1℃であれば、十分である。よって、少なくとも25画素(例えば5×5画素)、望ましくは100画素(例えば10×10画素)以上の画素数が得られる位置に温度既知物体を置く必要がある。
温度既知物体としては、例えば、保護管付き熱電対を用いるのが適当である。加熱炉で用いられる保護管付き熱電対の外径は20〜30mm程度であるので、計測範囲は四角形の場合は縦横10mm程度、円形の場合は直径10mm程度の範囲となる。
一方、撮像装置として、例えば、一般的に用いられる画素数40万個程度のCCDカメラでは、1画素の視角は約0.08度×0.08度程度である。よって、5×5=25画素を見る視角は、0.4度×0.4度となる。tan0.4度=0.0070であるので、0.4度×0.4度の視角に10mm×10mmの範囲を写すためには、10mm/0.0070=1400mmよりカメラに近い位置に置かなければならない。
温度既知物体の被測定部位の大きさが10mmの場合について計算したが、大きさが異なる場合についても同様の計算を行えば、温度既知物体を置くべき位置は、被測定部分の大きさYに対し撮像装置からの距離Xは、下記式16を満たすことが望ましい。
このような考察に基づいて、本発明者らは、上記特徴2を導き出した。従って、各実施形態では、温度既知物体は、その大きさが撮像装置の画素数において少なくとも25画素(例えば5×5画素)、望ましくは100画素(例えば10×10画素)以上となるような位置に配置される。換言すれば、温度既知物体は、温度既知物体の被測定部分の大きさをYとし、その撮像装置からの距離をXとした場合、Xは、上記式16を満たすように設定される。更に具体的には、このXは、撮像装置として画素数40万個程度のCCDカメラを使用し、かつ、Yを10mmとした場合、1400mmよりも小さい値に設定される。その結果、各実施形態に係る温度測定装置では、撮像装置の測定誤差を低減させて、温度測定精度を向上させることができる。
3−1−3.特徴3
特徴3.温度既知物体は、その放射率が鋼片の放射率に対して前後0.1の範囲となる材質を用いる。
この特徴3について説明すると、以下の通りである。
本発明の発明者らは、各実施形態の温度測定方法について、計測条件が種々に変わった場合の計測結果、即ち迷光補正後温度の誤差について理論的検討を行なった。
検討条件は、長さ12m、高さ2.5mの燃焼炉にて、炉内壁温度1200℃、炉床に置かれた鋼片の温度900℃、鋼片の放射率0.86として、炉内の放射伝熱計算を行ない、上記特徴1及び特徴2を満たす条件下での各面の放射伝熱量及び反射迷光量の理論値を求めた。計算の手法は、甲藤好郎著「伝熱概論」(養賢堂)p.377−p.382に示された手順を用いた。
その計算結果に、上述の特徴1で説明した迷光補正計算方法を適用し、温度既知物体の位置を炉幅方向の炉内左壁位置を原点0m点とし、その0m点から右側へ12m点まで2m毎に変化させた場合の迷光補正値を計算した。撮像装置の位置は左側0m点とし、鋼片の位置は炉幅方向の中心、つまり6m点とした。計算結果を図12に示す。図12に示した放射率εは温度既知物体の放射率であり、鋼片の放射率は0.86に固定している。
図12に示すように、この計算結果によれば、例えば温度既知物体の放射率が鋼片の放射率0.86と等しい場合、温度既知物体の位置がどこであろうとも、鋼片の補正後温度は、鋼片の真の温度900℃に対して、3℃以内の差異に収まる。
しかし、鋼片と温度既知物体との放射率εに差がある場合は、温度の差異が大きくなることが判る。鋼片の放射率ε=0.86に対して温度既知物体の放射率が0.81〜0.91即ち前後0.05の範囲では、真の温度900℃に対して、±6℃であるが、温度既知物体の放射率が0.76〜0.96即ち前後0.1の範囲では±13℃程度となる。
実用性を考慮して10℃程度までの誤差を許容すれば、温度既知物体の放射率は、温度や放射率のレベルにより若干異なるが、鋼片放射率の前後0.1程度以内となる材質を選定すべきであり、望ましくは前後0.05程度以内とすれば更に測定誤差を低減させることができる。
一方、上記関連技術では、温度既知物体の輝度によって迷光を補正する方式が採用されている。この関連技術において、鋼片と温度既知物体との位置関係は明示されていないが、実施例として例示された図1においては鋼片の近傍に温度既知物体を置いており、実施形態として両者を近傍に置くことが想定されていると考えられる。
発明者らの知見によれば、上述のように、例えば鋼片の温度が900℃、炉内壁の温度が1200℃のように、鋼片と炉内壁との温度に大きな差がある場合、炉壁近傍では炉壁からの迷光の影響を強く受ける。しかし、温度既知物体の放射率と鋼片の放射率とが同程度の場合には、その影響は小さくなる。これを図13に示す。図13には、上記図12中の温度既知物体の放射率εが、鋼片と等しい0.86の場合の計算結果と、その値から離れた0.76の場合の計算結果とを示した。つまり、図13において●のプロットは、鋼片と温度既知物体との放射率が同程度の場合の例であり、×のプロットは、温度既知物体の放射率が鋼片と異なる場合の例である。ここでも、鋼片は炉の中心即ち6m点に置いた。
図13に示すように、放射率が異なる場合は、温度の誤差が大きくなるのみでなく、炉壁近傍と中央との差が大きくなることがわかる。この理由により、上記関連技術では、放射率の規定がないために、明示されていないものの、実施態様として、鋼片の近傍に温度既知物体を置かざるを得なかったものと考えられる。
しかし、各実施形態では、温度既知物体の放射率を規制することにより、図13の●プロットに示される如く、6m点においた鋼片から離れた位置に温度既知物体を置いても誤差の小さい測定が可能である。
以上、本発明の各実施形態に係る温度測定装置が有する特徴1〜3について説明した。この各実施形態に係る温度測定装置は、上記特徴1〜3に加えて、更に、測定精度を維持向上させるために、以下のような特徴4,5をも有する。
特徴4:放射率の経時変化への対処
特徴5:炉内の迷光量分布等から規定される温度既知物体の位置
そこで次に、この特徴4,5について説明する。
3−1−4.特徴4
特徴4:放射率の経時変化への対処
この特徴4について説明すれば、以下の通りである。
温度既知物体として金属保護管付き熱電対を用いた場合は、長期間の使用などによる酸化の影響等によって、温度既知物体の放射率が、若干変化する可能性がある。また、セラミック製保護管付き熱電対を用いた場合では酸化の恐れはないが、煤や炉内ダスト等の付着による放射率変化の可能性は排除できない。そこで、各実施形態に係る温度測定装置では、このような温度既知物体の放射率の経時変化に対して、以下に示す手段により対処することができる。
手段1:放射率の経時変化の把握方法
一般に物体表面の放射率を測定するためには迷光の無い条件下でその物体の温度と輝度を測定する必要がある。よって、炉内に設置したままでは放射率の把握は困難である。しかし、炉の操業条件が一定ならば炉内の迷光量分布に変動は無く、温度既知物体からの放射輝度と炉の内壁からの放射輝度の関係は一定と考えられる。この現象を利用し、撮像装置の視野内の炉内壁輝度と温度既知物体輝度との差を長期的に記録し、同一温度条件での傾向管理を行なうことによって放射率の経時変化の有無を把握、管理することができる。例えば、炉内壁輝度と温度既知物体輝度との差の変化が、所定の閾値を超えた場合などに、温度既知物体の放射率が変化したと判断することができる。そして、放射率が変化した場合、温度測定精度を保つために、以下の手段2による対処を採ることができる。
手段2:放射率の経時変化が生じた場合の対処方法
温度既知物体を新品に交換することが最良の手段である。交換することが不可能であり、かつ、上記手段1の傾向管理データから放射率の変化値が推定できる場合には、以下の方法によって補正してもよい。即ち、上述の特徴1の手段2で導出した迷光量Jを計算する以下の式17(上記式5)において、標準の放射率εの代わりに経時変化後の放射率εxを用いた式18により、迷光量Jを計算する。
迷光量Jを計算した後は、上記特徴1の手順5項以降を、前述の計算手順に従って計算し、迷光補正後温度を算出する。この方法によって放射率の経時変化に対する補正計算を行なった例を図14に示す。図14に示すように、温度既知物体の放射率が、基準の放射率0.86に対して経時的に上昇した場合、補正後の温度は低下していく。しかしながら、各実施形態に係る温度測定装置によれば、上記の特徴4を用いて計算することにより、正しい温度900℃の出力を得ることができる。
つまり、各実施形態に係る温度測定装置は、この特徴4を有することにより、温度既知物体の放射率の経時変化等による影響を低減させて、長期間の使用に対しても、温度測定精度を維持させることができる。
経時変化後の放射率εx
なお、ここで使用した経時変化後の放射率εxは、以下のように導き出すことができる。
上述の通り、手段1では、撮像装置の視野内の炉内壁輝度と温度既知物体輝度との差を長期的に記録する。この際、炉内において放射率の経時変化が比較的安定して変化がほとんど無いとみなされる部位、例えば長期間補修改修を行っていない炉壁の輝度と、温度既知物体輝度との差もあわせて記録する。以下、この部位を「比較部位」ともいう。なお、炉内壁が比較部位である場合、手段1で記録する炉内壁輝度を比較部位の輝度とすることができる。
ここで比較部位の見掛けの輝度をGwとし、温度既知物体輝度をGtとする。つまり、比較部位輝度Gwと温度既知物体輝度Gtとの差ΔG(=Gt−Gw)の変化を長期間記録することになる。なお、撮像装置が計測する「見掛けの輝度G」は、上記式8で表されるので、初期の温度既知物体(Gt1)、初期の比較部位(内壁等)(Gw1)、長期間経過後の温度既知物体(Gt2)、長期間経過後の比較部位(Gw2)の見掛け輝度は、それぞれ下記のようになる。
この式A1中、Etは、温度既知物体の黒体輝度、Jtは、温度既知物体の迷光量、εw、比較部位の放射率、Ewは、比較部位の黒体輝度、Jwは、比較部位の迷光量である。ここで、比較部位は、放射率の経時変化が比較的安定して変化がほとんど無いとみなされる部位であるため、比較部位の放射率は、期間経過前後においてεwで一定となる。また、測定時の温度を一定とすることにより、既知物体の黒体輝度Etも、期間経過前後において変化しない。更に、炉内迷光条件が大きく代わることは少ないため、既知物体の迷光量Jt及び比較部位の迷光量Jwも、期間経過前後において変化しない。
この式A1より、初期の輝度差ΔG1と、期間経過後の輝度差ΔG2とは、以下式A2と式A3とのようになる。
よって、輝度差ΔGの経時変化量(ΔG2−ΔG1)は、下記式A4のように計算できる。
この式A4より、温度既知物体の放射率の変化量(εx−ε)は、見掛け輝度差の経時変化量(ΔG2−ΔG1)に比例することが判る。
ここで、(εx−ε)と(ΔG2−ΔG1)との比例定数をK(=Et−Jt)とすると、この比例定数Kは、以下のように求めることができる。
Etは、温度既知物体の黒体輝度であるため、既知の温度値から、上記式3により計算することができる。一方、Jtは、温度既知物体の受ける迷光量であるため、上記式4と式5により、撮像装置の出力Lから算出することができる。従って、これらの測定及び計算を予め行うことにより、比例定数K(=Et−Jt)を求めることができる。また、式A4は、下記式A5のように計算できる。
よって、この式A5に、算出した比例定数Kと、見掛け輝度差の経時変化量(ΔG2−ΔG1)とを代入することにより、経時変化後の温度既知物体の放射率εxを求めることができる。なお、長期間経過後の比較計算は、比例定数Kを算出した炉内条件で行うので、EtとJtは変わらないものとすることができ、予め算出した比例定数Kを、例えば温度既知物体を交換するまで使用することが可能である。
なお、この経時変化後の温度既知物体の放射率εxを計算は、炉内の状況(温度および迷光量)が同等の条件であるデータを用いて行われる必要がある。よって、測定して記録した長期間のデータのうちの既知温度計温度及び比較部位(炉壁内面等)の温度が初期とほぼ同等であり、かつ、炉の操業条件(炉内迷光条件)がほぼ同一である時間帯のデータを多数抽出し、その平均値を用いて、放射率εxを計算することが望ましい。また、データの分散から統計的手法によって結果の確かさの検定を行うことも可能である。
3−1−5.特徴5
特徴5:炉内の迷光量分布等から規定される温度既知物体の位置
この特徴5について説明すれば、以下の通りである。
上記の如く、各実施形態では、炉内ガス等による反射・吸収が起こらない波長を使用するなどにより、温度既知物体は鋼片の近傍に配置される必要はないが、この波長においても、炉内の迷光は位置による分布がある。そこで、各実施形態に係る温度測定装置では、測定精度を更に高めるために、温度既知物体は、鋼片位置の迷光量と同等の迷光量となる位置に置く。迷光分布等による温度既知物体の位置の制約は、次の3つの条件によって規定される。
条件1:炉内迷光分布上、鋼片の位置と迷光量がほぼ同一となる位置
条件2:鋼片の測定表面に対する角度が、鋼片の放射率が変化しない角度以上となる位置
条件3:鋼片との間に火炎を挟まない位置
以下、それぞれの条件について述べる。
条件1:炉内迷光分布上、鋼片の位置と迷光量がほぼ同一となる位置
炉の内壁に温度分布がある場合、炉内壁近傍では、近くの炉内壁の温度の影響を強く受けるため、迷光量が炉内の一般部分とは異なる場合がある。一部の炉内壁温度が異なる場合について、発明者らのデータに基づいて、迷光量を算出した結果を図15に示す。炉内壁温度1200℃に保持した炉において、一部の炉内壁を1100℃としたときの迷光分布である。図15の横軸は1100℃の炉壁からの距離である。炉内壁より0.25m未満の領域における迷光量は、他の位置の迷光量と著しく異なる。そこで、各実施形態に係る温度測定装置では、温度既知物体を炉内壁から0.25m以上離れた位置に配置することにより、炉内壁の温度分布による炉内迷光分布による影響を低減して、温度測定精度を更に向上させることができる。
条件2:鋼片の測定表面に対する角度が、鋼片の放射率が変化しない角度以上となる位置
一般的には、物質によっては、表面の放射率が、放射方向によって異なる場合がある。これは例えば化学工学便覧改訂3版の図2.81に例示されている。一方、各実施形態に係る温度測定装置では、温度既知物体と鋼片とを撮像装置の同一視野内に置いて、輝度の比較によって補正計算を行なう。従って、鋼片の放射率が温度既知物体の放射率に対して変化しないよう、鋼片の測定表面に対する角度が、放射率が変化しない範囲の角度となる位置に、温度既知物体を配置して両者を撮像装置の視野内に収めなければならない。
このような問題点に想到した発明者らは、鋼片(鋼材)を用い、種々の角度に温度既知物体を配置して、鋼片の温度測定を上述の方法で行い、誤差の大きさから、角度の限界を判定した。その結果、図16に示す如く、この角度は、13度以上にすることが必要であるとの結論が得られた。
そこで、各実施形態に係る温度測定装置では、鋼片の測定表面に対する角度が13度超過となる位置に、温度既知物体を配置することにより、鋼片の放射率の変化による温度測定への影響を低減させて、温度測定精度を更に向上させることができる。
条件3:鋼片との間に火炎を挟まない位置
各実施形態では、燃焼ガス中の熱放射ガスである二酸化炭素と水蒸気の放射スペクトルを避けた単色光例えば波長1μmの放射を計測するので、全波長放射測定型の温度計に較べて、火炎の影響は受けにくい。しかし、火炎には熱放射性のフリーラジカル等が含まれるので、鋼片との間に火炎が介在すると迷光補正誤差が生ずる可能性がある。そこで、各実施形態に係る温度測定装置では、鋼片と温度既知物体及び撮像装置との間に火炎を挟まない位置関係を保持することにより、火炎による影響を低減させる。この位置関係は、本技術を適用する炉の鋼片と火炎との位置関係により規定される。具体的には、図17に示すように、被測定点(鋼片)から火炎の端までの水平距離をX1、被測定点から火炎下端までの高さをY1、被測定点から温度既知物体までの水平距離をX0、高さをY0とするとき、温度既知物体の位置は、下記式19を満たすように設定される。
以上、条件1〜3を総合し、炉内の迷光分布等によって規定される、温度既知物体の位置は、下記の様に示される。
つまり、この位置は、
条件1:炉の内壁からの距離が0.25m以上であり、
条件2:被測定点と温度既知物体とのなす角度が、被測定点の表面に対して13度以上であり、
条件3:被測定点から火炎の端までの水平距離をX1、被測定点から火炎までの高さをY1、被測定点から温度既知物体までの水平距離をX0、高さをY0とするとき上記式19を満たすように設定される。
この温度既知物体の位置を例示すれば、図17の斜線範囲である。各実施形態に係る温度測定装置は、この範囲内に温度既知物体を配置することにより、鋼片の温度測定精度を更に向上させることができる。
以上、本発明の各実施形態で使用される温度測定方法について説明した。
次に、このような方法を実際に実行する各実施形態に係る温度測定装置例について説明する。
3−3.各実施形態で使用される温度測定装置例
図17に示すように、温度測定装置100は、加熱炉1内に配置された鋼片Fの温度を測定する。図17では、加熱炉1として、バーナ2によって加熱を行う炉を例示しているが、各実施形態に係る温度測定装置100を適用可能な加熱炉1は、この例に限定されるものではない。なお、上記本発明の各実施形態に温度測定装置100を使用する場合、撮像装置110及び温度既知物体120は、炉側壁又は炉天井から挿入等することが望ましい。つまり、この場合、図17に示す横方向が炉幅方向に相当することになる。
温度測定装置100は、図17に示すように、撮像装置110と、温度既知物体120と、演算部130と、表示部141と、記憶部142とを有する。
撮像装置110は、輝度計測部の一例であって、鋼片Fと温度既知物体120とを同一視野内に収めて撮像することが可能なように配置される。図17では、撮像装置110が加熱炉1内に挿入された場合を示しているが、この場合、撮像装置110は、耐熱構造を有する。また、撮像装置110は、加熱炉1内部を撮像可能であればよいので、例えば、加熱炉1に耐熱ガラスなどにより窓を設けて、撮像装置110を加熱炉1の外部に配置することももちろん可能である。
また、撮像装置110は、例えば、上記特徴1を満たすように、所定の波長の輝度を撮像可能なように波長選択フィルタ等(図示せず)を有する。この波長選択フィルタは、波長選択部の一例であって、所定の波長の光を透過する。この波長選択部としては、波長選択フィルタに限定されるものではない。例えば、撮像装置110が、撮像可能な全波長帯域(又は所定の波長帯域)の輝度を撮像し、画像解析部131が、所定の波長の光のみを抽出することも可能である。この場合、画像解析部131が波長選択部を兼ねることになる。また、撮像装置110の撮像素子として、所定の波長の単色輝度のみを撮像するような素子を使用することも可能である。この場合、撮像装置110が波長選択部を兼ねることになる。
このような撮像装置110としては、例えば、CCD(Charge Coupled Device)、CMOS(相補性金属酸化膜半導体)などのイメージセンサを使用したカメラを使用することができが、例えば、IP(イメージングプレート)などのように、撮像画像中の輝度値を蓄積することが可能な構成であればどのような構成であってもよい。そして、このような撮像装置110からは、撮像画像中の各画素に受光された輝度値が、電気信号として出力される。
一方、温度既知物体120は、上記特徴1、特徴2及び特徴5を満たす位置に配置され、例えば、保護管と、その保護管内部に挿入された温度計とを有する。保護管としては、例えば、上記特徴3で規定した放射率を満たす材質で構成される。金属材が鋼片Fの場合、このような材質としては、例えば、アルミナ、アルミナ・シリカ系、シリコンカーバイド、石英等のセラミックス材料や、インコネル、ハステロイ、ステンレス等の金属材料が挙げられる。また、温度計としては、例えば、熱電対温度計や抵抗温度計などの接触式温度計を使用することができる。熱電対温度計としては、例えば、白金−白金ロジウム熱電対などが挙げられ、抵抗温度計としては、例えば、白金抵抗温度計などが挙げられる。しかしながら、これらの温度計は、加熱炉1の温度や測定したい温度帯域に併せて適宜変更される。この温度既知物体120の温度は、演算部130(迷光計算部22)に出力される。
演算部130は、撮像装置110による撮像画像を解析して、鋼片Fの単色輝度から、鋼片Fの温度を算出する。その際、演算部130は、この温度を上述の通り迷光補正する。そのために、演算部130は、図17に示すように、画像解析部131と、迷光算出部132と、迷光補正部133と、温度算出部134と、放射率変更部135と、記憶部136とを有する。
画像解析部131は、撮像装置110が撮像した撮像画像(単波長の輝度値を含む画像)を解析し、温度既知物体120の輝度値に相当する出力値と、鋼片Fの輝度値に相当する出力値とを算出する。そして、画像解析部131は、それぞれ温度既知物体120に対する出力値を、迷光算出部132に出力し、鋼片Fの輝度値に対する出力値を、迷光補正部133に出力する。この際、画像解析部131は、温度既知物体120が上記特徴1及び特徴2を有する位置に配置されるため、複数の画素の平均値から温度既知物体120の輝度値に相当する出力値を算出することができ、同様に、鋼片Fに対しても平均値を使用することができる。従って、温度の算出精度誤差を低減することができる。
迷光算出部132は、温度既知物体120の輝度値に相当する出力値に基づいて、上記特徴1の手順2〜手順4を実行し、迷光量Jを算出する。なお、手順1は、既に処理されており、上記式1及び式2等は、既に迷光算出部132に記録されており、迷光算出部132は、記録している式1及び式2を使用して、手順2〜手順4を実行する。
迷光補正部133は、温度既知物体120の輝度値に相当する出力値と、迷光算出部132が算出した迷光量Jとに基づいて、上記特徴1の手順5及び手順6を実行して迷光補正し、鋼片Fの黒体輝度を算出する。
温度算出部134は、迷光補正部133が算出した鋼片Fの黒体輝度に基づいて、上記特徴1の手順7を実行して、迷光補正した鋼片Fの温度を算出する。そして、この算出結果は、表示部141に表示されたり、記憶部142に記録される。なお、表示部141は、例えば、ブラウン管(CRT:Cathode Ray Tube)・液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)・プラズマディスプレイ(PDP:Plasma Display Panel)・電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)・有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(有機EL、OELD:Organic Electroluminescence Display)・ビデオプロジェクタなどが使用可能である。
一方、画像解析部131は、更に加熱炉1の炉内壁の輝度に相当する出力値を抽出して、放射率変更部135に出力する。そして、放射率変更部135は、この出力値から、炉内壁輝度を算出し、炉内壁輝度と温度既知物体輝度との差を記憶部136に記録する。放射率変更部135及び記憶部136は、これらの情報を使用して上記特徴4を実行し、迷光算出部132が使用する温度既知物体120の放射輝度を適宜更新する。
なお、演算部130は、例えば、汎用又は専用のコンピュータで構成されてもよい。そして、このコンピュータに上記各構成の機能を実現させるプログラムを実行させることにより、演算部130を構成することができる。なお、コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)と、HDD(Hard Disk Drive)・ROM(Read Only Memory)・RAM(Random Access Memory)等の記録装置と、LAN(Local Area Network)・インターネット等のネットワークに接続された通信装置と、マウス・キーボード等の入力装置と、フレキシブルディスク等の磁気ディスク、各種のCD(Compact Disc)・MO(Magneto Optical)ディスク・DVD(Digital Versatile Disc)等の光ディスク、半導体メモリ等のリムーバブル記憶媒体等を読み書きするドライブと、モニタなどの表示装置・スピーカやヘッドホンなどの音声出力装置などの出力装置等と、を有してもよい。そして、このコンピュータは、記録装置・リムーバブル記憶媒体に記録されたプログラム、又はネットワークを介して取得したプログラムを実行することにより、演算部130の各構成の機能を実現することができる。
3−4.各実施形態で使用される温度測定装置による測定例
次に、本発明の各実施形態に係る温度測定装置及び温度測定方法により、金属材として、燃焼炉(加熱炉1の一例)内に配置された鋼片F表面温度を測定した例を示す。ここで使用した燃焼炉は、長さ8m(上記加熱炉1の場合の炉幅方向に相当)、幅2m、高さ2mであり、LNG(Liquefied Natural Gas)により鋼片Fを加熱する。鋼片Fは、およそ5m、厚み50mmである。撮像装置110は、画素38万個のCCDカメラを用いた。CCDカメラは波長フィルター機能を有しており、この波長フィルター機能により、波長1.0±0.2μmの単波長の放射光を測定した。なお、この際、波長フィルター機能は、±0.2μm程度の幅を有しているため、撮像装置110は、実際には波長0.8〜1.2μの放射光のみを計測することになるが、この程度の幅の波長は、実用上及び工業上、単波長とみなすことができる。従って、撮像装置110は、厳密な単波長光を撮像する必要はなく、工業的に単波長とみなせる程度の波長の光を撮像すればよい。
放射温度計検定業者に依頼して温度計検定用黒体炉の温度とCCDカメラの出力値との関係を検定した。検定温度範囲は900℃から1250℃である。得られた検定データを用いて、最小自乗法による当てはめ計算を行ない、上記迷光補正計算手順の中の撮像装置110の特性式20(上記式2)の具体的な形として、下記式21を得た。
ここで、GはCCDカメラのゲイン設定値、SSはシャッター速度設定値、LはCCDカメラの出力であり、また、Eは黒体炉の温度に対応する輝度であって、検定を行なった温度、900℃、1000℃、1100℃、1200℃、1250℃のそれぞれについて、上記で説明したPlanckの式で計算される値である。具体的な計算方法としては、Eを従属変数とし、G、SS、及びLを独立変数として非線形最小自乗法によって、式の中の5個の係数を決定した。この特性式は、本実施例で用いたCCDカメラに特有のものであり、CCDカメラの機種が異なる場合や、CCDカメラ以外の撮像装置110を用いる場合には、個別に作成しなければならない。
CCDカメラは、図18に示すように、炉の側壁に開口した測定口から斜め下方に向けて挿入した。鋼片Fの最も遠方の測定点(位置1)からカメラまでの水平距離は6m、鋼片Fの置かれた水平面からCCDカメラまでの高さは1.6mである。これは、CCDカメラの先端と、鋼片Fの最も遠方の測定点(位置1)を結ぶ線上に火炎が入らない位置関係になっている。CCDカメラの中心線は、鋼片Fの中央(位置2)に向けてあり、具体的には伏角21度である。この伏角は、鋼片F表面全体即ち位置1から位置3までをカメラの視野におさめるために選択したものであり、炉の形と鋼材が置かれる位置を考慮して適宜決定すればよい。このように鋼片F表面全体を視野内におさめることにより、温度測定装置100は、鋼片Fの表面全体の温度分布を測定することが可能である。
温度既知物体120は、保護管付き熱電対を用い、外径は17mmである。この保護管付き熱電対は、CCDカメラ先端から0.2m下の位置に水平に挿入し、炉壁の内面から炉内側に0.3m突き出して、先端部分がCCDカメラの視野内に入っている。CCDカメラの視野内に入る位置関係であれば、必ずしも水平に挿入する必要はなく、炉の構造によっては天井に開口して垂直に挿入する方が強度面で有利な場合もある。この熱電対は温度既知物体として働くものであるので、外側を覆う保護管は放射率が、既知のものでなければならない。本実施例では放射率0.85のアルミナ・シリカ系セラミック保護管を用いた。
この実施例では、鋼片Fの放射率は0.86であったので、上記熱電対保護管の放射率とほぼ同一であるが、上記特徴3を満たす範囲内であれば、放射率が異なっていてもよい。熱電対の種類は、JISB型熱電対を使用した。熱電対の種類は使用する温度によって適宜選択すればよい。また、熱電対でなく他の温度センサー、例えば白金抵抗温度計等を使用してもよい。
CCDカメラの視野角は左右60度上下45度と十分に大きく、鋼片F以外に炉の内壁面をも視野内に納めている。炉の内壁面の輝度と熱電対保護管表面の輝度とは熱電対に接続された記憶部136によって長期間保存され、その差の傾向管理を行なって熱電対保護管の放射率の経年変化を把握し、変化が生じた場合は、輝度の差が等しくなるよう、迷光計算に用いる温度既知物体放射率を補正する。この補正にあたっては、保存されたデータのうち、炉内温度がある一定温度(この実施例においては1190℃〜1210℃の範囲)であり、かつ、温度既知物体の温度がある一定温度(この実施例においては1170℃から1190℃)の範囲のデータのみを抽出することにより、炉内の熱放射条件が相等な条件で行った。
温度既知物体のCCDカメラでの輝度測定範囲は、表面約10mm径の円形部分であり、画素数約200個の平均値を計測した。鋼片Fの温度は、900℃から1250℃までの範囲である。図18に示された位置1、位置2、位置3の3点を計測した。位置1はCCDカメラから水平距離で約6m、位置2は約4m、位置3は約2m離れた位置である。
上記各実施形態に係る温度測定装置によって迷光補正計算を行い、鋼片Fの各位置に埋め込んだ熱電対温度計によって計測した温度と比較した結果を図19に示す。図19中、縦軸は、各実施形態に係る温度測定装置により迷光補正計算を行った計測温度であり、横軸は、埋め込み熱電対実測温度である。また、図19中の実線は、本方法による計測温度(迷光補正後)と、埋め込み熱電対実測温度が一致している線(横軸=縦軸)を表す。図19に示すように、各位置1〜3における測定点は、実線上に位置しており、埋め込み熱電対実測温度と、本方法による計測温度(迷光補正後)が良好な一致を示した。従って、各実施形態に係る温度測定装置が精度よく鋼片Fの温度を測定することが可能であることが判る。なお、各実施形態に係る温度測定装置は、更に、この位置1〜3のように、鋼片Fの撮像画像中の各個所について温度を測定することにより、鋼片Fの表面温度分布を非常に精度良く測定することが可能である。
3−5.各実施形態で使用される温度測定装置等による効果の例
最後に、本発明の各実施形態で使用される温度測定方法等による効果が判りやすいように、上記特許文献3〜5に対する有利な効果の例を説明する。ただし、ここで説明する効果は、あくまで一例であって、各実施形態に係る温度測定装置等による効果を限定するものではないことは言うまでもない。
3−5−1.特許文献3
上記特許文献3に記載の温度測定方法では、温度測定物体の表面に遮蔽板を設けて炉内迷光を遮断する。そして、遮蔽板は、水冷して遮蔽板自体からの熱放射を防いでいる。遮蔽板の発する放射による誤差は、遮蔽板の温度T2を実測し、見掛け放射エネルギーG1から下記の式22により補正後真温度T1を得る。なお、Eb(T)は温度Tにおける放射エネルギを表す。
この特許文献3では、鋼片の近くに遮蔽板を置く必要がある。しかし、鋼片が移動する場合、例えばウォーキングビーム式加熱炉等では、鋼片の動きによって遮蔽板が破損する恐れがある。鋼片の移動に応じて遮蔽板が移動する機構を設ければ測定システム自体が複雑になる。また、遮光板で迷光を完全に遮断することは困難であり、迷光の経路によっては、精度が低下してしまう可能性がある。
一方、各実施形態に記載の温度測定方法等では、鋼片の近くに構造物を置く必要性がない。従って、各実施形態に記載の温度測定方法等は、上記特許文献3に対して、遮蔽板、その水冷装置、複雑な測定システムなどを使用する必要が無く、簡単な装置構成により温度を測定することができる。また、この温度測定方法等では、迷光量を算出して、迷光補正を行うため、遮光板で遮断しきれないような迷光の影響も低減させることができ、高精度の温度測定が可能である。
3−5−2.特許文献4
特許文献4に記載の温度測定方法では、炉壁の実測温度Twと炉壁実効温度Tw’を用い、輝度Lを表す下記の式によって放射温度計の見掛け温度Sから補正した表面温度Tを得る。
この際、上記の炉壁実効温度Tw’は、炉壁に2ヶ所以上設置した温度計の実測温度Tw1,Tw2,…Twnの輝度の一次式24により算出する。
この一次式の係数a1,a2,…anは実験等によりあらかじめ炉体形状及び鋼材の寸法に適合した値に設定しておく。
この特許文献4では、炉内における迷光の光源は、主に火炎と炉壁である。しかしながら、この特許文献4では、炉壁からの迷光の影響はある程度補正できるが、火炎からの放射エネルギーが変化した場合の補正が困難である。火炎を用いない加熱炉や火炎の温度や大きさが常に一定の加熱炉ならば火炎から発する迷光は、係数a1,a2,…anに一定値として含まれるが、火炎が変動すれば、この係数a1,a2,…anは変わるものと考えられる。一般に、加熱炉では被熱物の量及び到達温度に応じて温度を適正に制御するために燃焼装置の燃焼量を適宜調節するので火炎状態は時間と共に変化する。これに対して、特許文献2では、火炎の変化に応じた補正手段は示されていない。従って、この特許文献4を火炎を用いる加熱炉に適用することは困難である。
一方、各実施形態に記載の温度測定方法等では、炉壁から発する迷光と火炎から発する迷光がいずれも温度既知物体に照射されるように、温度既知物体を炉内空間に配置する。また、火炎と鋼片及び温度既知物体との位置関係を上記特徴5に示すように規定する。従って、各実施形態に記載の温度測定方法等では、火炎の放射エネルギーの変動に対しても適正な補正を行うことが可能である。
3−5−3.特許文献5
特許文献5については、上記関連技術で説明した通りであり、上記の説明において詳しく本発明の各実施形態による効果等を説明したが、本発明の各実施形態に係る温度測定装置は、更に、温度既知物体を鋼片から離れたカメラの近傍に設置し、炉内ガスによる吸収及び放射が起こらない波長の単色輝度を撮像する等によって、上記特許文献3で説明した鋼片の移動による種々の障害を回避するとともに、通常小さな物体である温度既知物体の画角を大きくして十分な画素数を得、かつ、迷光補正精度を高めることが可能である。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
なお、上記実施形態では、本発明の各実施形態に係る温度測定装置等の特徴が判りやすいように、特徴1〜特徴5と区分して説明した。しかしながら、この特徴1〜特徴5は、本発明の各実施形態の特徴を限定するものではなく、本発明の各実施形態の特徴は、各特徴1〜特徴5で詳細に説明した中に記載された各特徴をも含むことは言うまでもない。
尚、本明細書において、フローチャートに記述されたステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的に又は個別的に実行される処理をも含む。また時系列的に処理されるステップでも、場合によっては適宜順序を変更することが可能であることは言うまでもない。