以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
なお、以下では、本発明の各実施形態等について理解が容易になるように、まず、本発明の第1実施形態及び第2実施形態について説明する。一方、本発明の各実施形態に係る加熱炉は、被加熱材である金属材表面の温度分布を測定することが可能な温度測定装置を有する。この温度測定装置は、金属材表面の温度分布を測定することができるものであれば、様々なものを使用することが可能であるが、本発明の各実施形態では、特にその効果を高めるために、金属材表面の温度分布を正確に測定可能な温度測定装置及び温度測定方法を使用する。この温度測定装置及び温度測定方法を使用することにより、各実施形態による効果を著しく高めることができる。従って、上記の内容を説明した後に、この温度測定装置について詳しく説明する。
つまり、以下では、本発明の各実施形態の理解が容易になるように、次の順序で説明する。
1.第1実施形態
2.第2実施形態
3.本発明の各実施形態で使用される温度測定装置及び温度測定方法
また、以下では、説明の便宜上、加熱炉として「連続鋼片加熱炉」を例に挙げて説明する。そして、被加熱材である金属材として「鋼片(鋼材ともいう。)」を例に挙げて説明する。しかし、本発明の各実施形態に係る加熱炉は、上記連続鋼片加熱炉に限られるものではなく、鉄鋼業に限定されるものでもない。つまり、金属材は、加熱処理が必要な様々な金属材であってもよく、また、加熱炉自体もその金属材の加熱に通常使用される様々なものであってもよいことは、言うまでもない。
1.第1実施形態
図1A〜図1Dは、本発明の第1実施形態に係る加熱炉の構成について説明するための説明図である。ここで図1Bは、図1Aにおける加熱炉1のA−A線で切断した断面図を示し、図1Cは、図1Aにおける加熱炉1のB−B線で切断した断面図を示し、図1Dは、図1Aにおける加熱炉1のC−C線で切断した断面図を示す。
1−1.本実施形態に係る加熱炉の構成
加熱炉1は、図1Aに示すように、炉長方向(x軸方向、搬送方向ともいう。)に、金属材の一例である鋼片Fを搬送しつつその鋼片Fを加熱する。つまり、図1Aに示す鋼片Fは、図1Bに示すように炉幅方向(y軸方向ともいう。)が長手方向となるように、加熱炉1の一側(装入側、x軸負の方向側ともいう。)端部の炉壁に設けられた装入口INから装入される。そして、鋼片Fは、加熱炉1の他側(抽出側、x軸正の方向側ともいう。)へと搬送されつつ加熱されて昇温し、加熱炉1の抽出側の端部の炉壁に設けられた抽出口OUTから抽出される。そのために、加熱炉1は、搬送装置、仕切壁、加熱装置及び制御装置等を有する。以下、この搬送装置、仕切壁、加熱装置及び制御装置の各構成について説明する。
1−1−1.搬送装置
搬送装置としては、特に限定されるものではないが、本実施形態に係る加熱炉1ではウォーキングビームを使用した例を示している。ウォーキングビーム式の搬送装置は、図1Aに示すように、炉長方向と同程度の長さを有するスキッドビーム3が、複数のスキッドポスト4に指示されており、そのスキッドビーム3上に鋼片Fが載置される。このスキッドビーム3とスキッドポスト4との組み合わせをスキッドともいう。このスキッドは、図1Bに示すように、炉幅方向に複数配置される。また、スキッドは、固定式スキッドと、可動式スキッドとに分類され、この固定式スキッドと、可動式スキッドとが、図1Bに示すように交互に配置される。そして、可動式スキッドが炉高方向(z軸方向ともいう。)で上下動しつつ、炉長方向(x軸方向)で前後動する。その結果、鋼片Fは、可動式スキッドのスキッドビーム3に支持された状態から、可動式スキッドが前方に移動するとともに、前方に搬送される。その後、鋼片Fは、可動式スキッドが下方に移動すると、今度は固定式スキッドに支持される。そして、可動式スキッドが前方に移動した分、後方に移動した後、上昇し、再度鋼片Fを支持する。この可動式スキッドの動作が繰り返されることにより、鋼片Fは、順次炉長方向へと搬送される。
1−1−2.仕切壁
仕切壁5は、図1Aに示すように、加熱炉1の炉天井及び炉床の複数個所から突出形成され、加熱炉1を複数の区間に区画する。この各区間は、装入口IN側からそれぞれ予熱帯、加熱帯、均熱帯に相当する。ここでは、これらの区間に区画する場合を例示しているので、2×2の仕切壁5が加熱炉1に配置される。
なお、この仕切壁5の個数は、特に限定されるものではなく、例えば、予熱帯、第1加熱帯、第2加熱帯、均熱帯の4区間に仕切る場合には3×2個であればよく、その他の区間数の設定状況に応じて、適宜適切な個数が配置される。また、仕切壁5は、本実施形態に係る加熱炉1の搬送装置がウォーキングビーム式であるため、炉天井から突出形成されるが、必要に応じて、炉床や炉壁から突出形成されることも可能である。更に言えば、この仕切壁5は、必ずしも必要ではなく、配置されなくともよい。ただし、本実施形態の場合、特徴の一つであるショートフレームバーナ10の配置位置等が判りやすいように、加熱炉1が複数の区間に区画されている場合を例示している。
なお、本実施形態の加熱炉1における均熱帯の長さは、図1Aに示すように、炉長の1/3以下に設定される。例えば、本実施形態の加熱炉1は、炉長が40mであり、均熱帯の長さは9m(<40/3)である。ただし、本実施形態に係る加熱炉1の寸法等は、この例に限定されるものではなく、様々な寸法であっても良いことは言うまでもない。
1−1−3.加熱装置
加熱炉1は、図1Aに示すように、加熱装置として、リジェネバーナ2と、ショートフレームバーナ10とを有する。各バーナについて説明する。
1−1−3−1.リジェネバーナ2
リジェネバーナ2は、図1Bに示すように、炉幅方向で相互に対向するように、炉幅方向両側の炉側壁のそれぞれに配置される。このように対向した2のリジェネバーナ2のセットは、図1Aに示すように、予熱帯、加熱帯及び均熱帯のそれぞれにおいて炉長方向に沿って複数セット配置される。また、リジェネバーナ2は、図1A等に示すように、鋼片Fの搬送位置を挟む上下帯にそれぞれ配置される。
このリジェネバーナ2は、リジェネレイティブ(Regenerative)バーナとも言われ、蓄熱式バーナの一例である。炉幅方向で対向した2のリジェネバーナ2、炉長方向で相隣接した2のリジェネバーナ2、2以上の任意のリジェネバーナ2は、交番燃焼のペア(2以上で構成された組をも含む。)を組んで交番で燃焼フレーム(火炎)を形成し、鋼片Fを加熱する。2のリジェネバーナ2が交番燃焼ペアを組む場合、そのペアの一方のリジェネバーナ2が炊かれている間、他方のリジェネバーナ2は、一方のリジェネバーナ2の高温の排ガスを吸気し、内部に有する蓄熱体(図示せず)に排ガスの熱を蓄熱する。2以上の任意のリジェネバーナ2が交番燃焼ペアを組む場合には、そのうちいくつかのリジェネバーナ2が炊かれている間、残りのリジェネバーナ2が高温の排ガスを吸気して同様に熱を蓄える。そして、この蓄熱体に蓄えられた熱を利用して、他方又は残りのリジェネバーナ2が燃焼される。このような交番燃焼を行うリジェネバーナ2は、排ガスを低減すると共に、燃費をも向上させることが可能である。
1−1−3−2.ショートフレームバーナ10
ショートフレームバーナ10は、非蓄熱式バーナの一例であって、図1Aに示すように、炉長方向で相隣接するリジェネバーナ2の間に配置される。そして、ショートフレームバーナ10は、加熱炉1における抽出側から炉長の1/3の位置から、加熱炉1の抽出口OUTまでの間に配置される。本実施形態の場合、均熱帯は、炉長の1/3以下の長さを有して抽出側に設定され、かつ、鋼片Fの温度を均一化させる区間であるため、ショートフレームバーナ10は、更に、この均熱帯に配置されることが望ましい。なお、図1Aに示すように3区間に区画された場合以外の区画が設けられたとしても、通常、加熱炉1には少なくとも予熱帯、加熱帯、均熱帯が設けられ、均熱帯は、加熱炉1の抽出口OUT側に設けられる。従って、均熱帯は、少なくとも抽出口OUTから炉長1/3の長さの区間に含まれることになる。よって、ショートフレーム10は、いずれにしろ均熱帯に配置されることが望ましい。このショートフレームバーナ10は、上記リジェネバーナ2と異なり、燃焼フレームをそれぞれ独立して形成して、鋼片Fを局所的に加熱する。その結果、加熱炉1は、鋼片Fの長手方向の温度分布をより精度良く制御することが可能となる。このショートフレームバーナ10についてより詳細に説明する。
本実施形態に係るショートフレームバーナ10は全て、図1Aに示すように、サイドバーナとして形成される。つまり、ショートフレームバーナ10は、図1Cに示すように、炉幅方向両側の炉側壁それぞれにおける相隣接するリジェネバーナ2の間に配置され、炉幅方向で相互に対向する。そして、このように炉幅方向で対向したショートフレームバーナ10は、リジェネバーナ2と同様に、鋼片Fの搬送位置を挟む上下帯にそれぞれ配置される。しかしながら、上述のように、ショートフレームバーナ10は、リジェネバーナ2と異なり非蓄熱式バーナが使用されるため、交番燃焼ペアを組まず、相互に独立して炊かれる。
ショートフレームバーナ10は、その名の通り、上記リジェネバーナ2よりも燃焼流量が低くフレーム長が短いバーナで形成される。より具体的には、ショートフレームバーナ10は、炉幅の1/4〜1/6のフレーム長の燃焼フレームを形成する。なお、上記リジェネバーナ2は、炉幅の約1/2のフレーム長の燃焼フレームを形成することが望ましい。ただし、ここで説明したショートフレームバーナ10及びリジェネバーナ2のそれぞれのフレーム長は、各バーナが定格流量で炊かれた時のフレーム長である必要はない。つまり、ショートフレームバーナ10及びリジェネバーナ2の少なくとも一方として、上記フレーム長の範囲よりも定格流量でのフレーム長が長いバーナを使用することも可能であるが、本実施形態では、実際に炊かれる際にはフレーム長が上記範囲内になるように燃焼流量などが調整される。なお、定格流量の大きさはバーナの価格やサイズをも増加させ、また、バーナは定格流量で使用される場合に燃焼効率等が良くなるように設計されることが多いため、製造コストを低減し、装置構成を小さくし、かつ、燃焼効率を高めるためには、定格流量で炊かれた際のフレーム長が上記範囲内となるショートフレームバーナ10及びリジェネバーナ2を使用することが望ましい。なお、ここで説明した内容は、以下で説明するフレーム長の範囲等(第2実施形態におけるルーフタイプのショートフレームバーナ11等のフレーム長の範囲等を含む。)においても同様のことが言えるため、やはり定格流量時のフレーム長に限定されるものではないが、同様の理由により、定格流量時のフレーム長が以下で説明する範囲を満たすバーナを使用することが望ましい。
1−1−4.制御装置
加熱炉1は、制御装置として、少なくとも加熱制御部20と、温度測定装置100とを有し、この加熱制御部20は、上位の他の制御装置や作業者の入力等に基づいて、鋼片Fの加熱スケジュールを実現すべく、上記搬送装置及び加熱装置を制御する。なお、ここでは、本実施形態の特徴の1つであるショートフレームバーナ10の制御を行う構成を中心に説明する。
1−1−4−1.温度測定装置100
温度測定装置100は、鋼片Fの搬送方向、つまり炉長方向における少なくとも1以上のショートフレームバーナ10よりも前方(上流側、装入側)に配置される。そして、温度測定装置100は、配置された個所を通過する鋼片F表面の温度分布を測定する。より具体的には、温度測定装置100は、図1Aに示すように、均熱帯における前方において、ショートフレームバーナ10の直前に配置されることが望ましい。
温度測定装置100の配置個数は、特に限定されるものではないが、後述するように、この温度測定装置100の測定結果により、それよりも後方(下流側、抽出側)に配置されたショートフレームバーナ10の燃焼量が調整されるため、温度測定装置100の少なくとも1以上は、少なくとも1以上のショートフレームバーナ10の上流側に配置される。
この温度測定装置100としては、例えば放射測温を行う温度測定装置が使用されることが望ましい。しかしながら、上述の通り、温度測定装置100は、鋼片Fの表面の温度分布を測定することが可能であれば、特に限定されるものではない。ただし、詳細に後述する本実施形態で使用される温度測定装置100は、鋼片Fの表面の温度分布を正確に測定することが可能である。従って、ここでは、詳細に後述する温度測定装置100が使用されることが望ましい。なお、図1A及び図1Dでは、詳細に後述する温度測定装置100が使用された場合の例を示している。従って、この温度測定装置100は、主として放射測温を行う。従って、鋼片Fからの放射光が撮像可能な位置に温度測定装置100の撮像装置110及び温度既知物体120等が配置される。
温度測定装置100は、加熱制御部20により制御され、所定のタイミングで鋼片Fの温度分布を測温する。つまり、温度測定装置100は、鋼片Fが測温領域Arに入った場合に、その鋼片Fの放射輝度を撮像して、表面温度分布を撮像する。そのために、加熱制御部20自身は、鋼片Fがいずれの位置を搬送されているのかを常に追跡しておくことが望ましい。尚、この測温対象となる鋼片Fは、搬送されて加熱される全ての鋼片Fであってもよいが、加熱制御部20により選択された1以上の鋼片Fであってもよい。
また、この測温結果は、各温度測定装置100により、加熱制御部20の記憶部142に記録される。なお、加熱制御部20は、鋼片F毎にその加熱度合を制御することが可能であるため、以下では、一の鋼片Fに対する動作及び処理等について説明し、他の鋼片Fに対する同様な動作及び処理等についての説明は、適宜省略する。
1−1−4−2.加熱制御部20
加熱制御部20は、上述の通り、加熱炉1の搬送装置及び加熱装置を制御する。この加熱制御部20は、特に、ショートフレームバーナ10を制御するが、この際、温度測定装置100が測定した温度分布に基づいて、その温度測定装置100よりも後方に配置されたショートフレームバーナ10の燃焼流量を制御する。そのために、加熱制御部20は、上記記憶部142と、温度分布解析部21と、ショートフレームバーナ制御部22とを有する。
記憶部142には、上述の通り、温度測定装置100による温度測定結果が記録され、温度解析部21は、この記憶部142に記録された鋼片Fの表面温度分布に基づいて、鋼片Fの長手方向の温度偏差を抽出する。
鋼片Fは、予熱帯及び加熱帯においてはリジェネバーナ2により加熱昇温されるので、炉幅中央部、つまり鋼片Fの長手中央部の温度が高くなり、図1C及び図1Dに示すように、長手方向の端部FL,FRの昇温速度は、この中央部FCに比べて遅れ、温度が低くなる。このような温度分布は、いわゆる「中高傾向」とも言う。例えば、一般のバーナの燃焼空気温度が常温〜約600℃程度であるのに対して、リジェネバーナ2による燃焼空気温度は炉温にも寄るが約900〜1100℃と非常に高い。よって、リジェネバーナ2は、一般のバーナに比較してフレーム温度が高くなるので、このリジェネバーナ2ではNOx濃度が高くなる。そこで、リジェネバーナ2では、NOx低減対策として燃料と空気の混合速度を遅くして、フレーム温度を下げる方策が講じられる。この結果、炉幅方向の中央部FCあるいは中央よりは対向壁に近い場所で、フレーム温度のピーク点が生じ、交番燃焼をした場合の平均的なフレーム温度分布が炉幅中央部FCで最も高くなり、加熱される鋼片Fの長手方向の温度分布は、中高傾向となる。
温度分布解析部21は、そこで、温度測定装置100が測定した温度分布を解析し、このような中高傾向がどの程度生じているか、つまり、例えば鋼片Fの長手方向中央部FCと端部FL,FRとの温度差を算出する。この際、温度分布解析部21は、鋼片Fの長手方向中央部FC及び端部FL,FRにおける定位位置の温度差を算出してもよいが、中央部FCにおける最高温度と、端部FL,FRにおける最低温度との温度差を算出してもよい。また、この中高傾向の度合を表す量としては、温度差だけでなく、温度差の長手方向における分布が特定されてもよい。
ショートフレームバーナ制御部22は、温度分布解析部21による解析結果に基づいて、鋼片Fの長手方向で局部的な加熱が必要となる個所を特定し、その特定した個所(例えば、鋼片Fの端部FL,FR)を、どの程度加熱するかを特定する。そして、ショートフレームバーナ制御部22は、特定した個所に対応するショートフレームバーナ10の燃焼流量や空気流量を調整して、特定した分だけ鋼片Fを加熱するように燃焼フレームを形成させる。
なお、本実施形態に係る加熱炉1は、例えば、抽出時の鋼片Fの温度が長手方向で均一となるような「均一加熱」を行うことが可能である。これに加えて、本実施形態に係る加熱炉1は、例えば、後続の熱間圧延等における処理を考慮して鋼片Fの長手方向の一端部(テール部)の温度が他の部位に比べて高くなるようないわゆる「傾斜加熱」を行うことも可能である。そこで、ショートフレームバーナ制御部22は、温度分布解析部21が解析した温度偏差量だけでなく、その測温対象の鋼片Fを均一加熱すべきか傾斜加熱すべきかを判断して、ショートフレームバーナ10の燃焼流量を制御する。
その結果、本実施形態に係る加熱炉1では、抽出側から炉長の1/3の位置、特に均熱帯においてショートフレームバーナ10により鋼片Fの両端部FL,FR付近を選択的に加熱することが可能である。従って、均熱帯出側、すなわち加熱炉1の抽出時において、鋼片Fの長手方向の温度分布を、ほぼ均一分布としたり、テール部が高い傾斜分布とすることが可能である。
1−2.本実施形態に係るショートフレームバーナ
以上、本発明の第1実施形態に係る加熱炉1の構成等について説明した。本実施形態の作用・効果等の理解が容易になるように、更に、特徴の1つであるショートフレームバーナ10についてより実施例を交えつつ説明する。
1−2−1.ショートフレームバーナの作用等の例
まず、図2A及び図2Bを参照しつつ、ショートフレームバーナ10の作用・効果等の例について説明する。図2A及び図2Bは、本実施形態に係る加熱炉のショートフレームバーナについて説明するための説明図である。なお、ここでは燃料としてLNG(液化天然ガス、Liquied Natural Gas)を使用し、その発熱量は約3.9×107J/Nm3(=約9300kcal/Nm3)とした。
仮に、本実施形態に係る加熱炉1においてショートフレームバーナ10が配置されていないと仮定する。つまり、加熱炉1の予熱帯、加熱帯及び均熱帯の全ての範囲において、リジェネバーナ2のみにより鋼片Fは加熱されることになる。この場合、抽出口OUTから抽出される鋼片Fの長手方向の温度分布を、図2Aに示した。
なお、上述の通り、炉幅が12mで炉長が40mの加熱炉1を使用し、対向したもの同士が交番燃焼ペアを組むバーナ一本当たり270Nm3/hrのリジェネバーナ2を使用した。そして、表1に示すように、厚みが250mmで幅が1250mmで長手方向の長さが10000mの鋼片Fを加熱した。なお、加熱炉1の各区間の長さは、表2に示すように、予熱帯が19m、加熱帯が12m、均熱帯が9mとした。また、以下で説明する各実施例や比較例の測定条件は、ここで説明した条件と同様か、一部を変更した条件を使用している。
図2Aに示すように、予熱帯〜均熱帯までの加熱炉1の全域を、リジェネバーナ2により加熱した場合、鋼片Fの長手方向中央部FCに比較して両端部FL,FRの温度は、約30℃程度低くなった。つまり、リジェネバーナ2のみで加熱する場合、リジェネバーナ2に近い鋼片Fの両端部FL,FRが昇温不足となる。この昇温不足を補うために、ショートフレームバーナ10を有さない加熱炉では、炉温全体を20数℃程度高めに設定して鋼片Fを加熱する必要があるが、この場合、燃料原単位が悪化してしまう。また、このように炉温を高めに設定して鋼片Fを加熱する対策を講じたとしても、鋼片Fの長手方向の温度分布においける中高傾向は解消されないので、長手方向に鋼片Fの変形抵抗が生じて、後段の圧延等の処理において寸法精度の悪化を招き製品価格を下げたり、ユーザが要求する精度を確保できずに受注制約を招くなどの問題が生じる場合もある。
これに対して、本実施形態に係る加熱炉1は、上述の通り、ショートフレームバーナ10を有する。この場合における抽出口OUTから抽出される鋼片Fの長手方向の温度分布を、図2Bに示した。
なお、測定時の条件は、均熱帯にバーナ一本当たり75Nm3/hrのショートフレームバーナ10等を有する以外、上記図2Aの測定条件と同一に設定し、加熱制御部20により抽出時の鋼片Fの長手方向の温度分布が均一となるように均一加熱を行った。
図2Bに示すように、この場合、抽出時の鋼片Fの温度分布は、鋼片Fの長手方向中央部に比べて両端部FL,FRで約5℃低い程度に留まり、約1230℃でほぼ均一となった。つまり、鋼片Fの両端部FL,FRにおける昇温不足が解消されている。これは、この加熱炉1が、鋼片Fを、予熱帯及び加熱帯ではリジェネバーナ2のみで加熱し、均熱帯ではリジェネバーナ2に加えてショートフレームバーナ10で加熱することにより、鋼片Fの長手方向で均一に加熱することが可能であることを示す。結果、上記ショートフレームバーナ10を有さないリジェネバーナ2による加熱炉に対して、抽出温度低減による燃料原単位の削減や圧延時寸法精度の向上等の効果を得ることも可能である。
なお、このショートフレームバーナ10の配置位置(配置位置条件)は、上述の通り、(1)相隣接するリジェネバーナ2の間であり、(2)抽出側から炉長の1/3以内、つまり均熱帯及び/又は加熱帯の前方である。この両特徴について説明する。
1−2−2.隣接するリジェネバーナの間に配置されることについて
まず、ショートフレームバーナ10が、図1Aに示すように、炉長方向で相隣接するリジェネバーナ2の間に配置されることにより、鋼片Fの均一な加熱が可能となるメカニズムについて説明する。ただし、ここで説明するメカニズムは、本発明の発明者らが導き出したメカニズムの一例であり、上記ショートフレームバーナ10による作用・効果等を限定するものではない。
リジェネバーナ2は、上述のように、交番燃焼を行い、一方が吸気して蓄熱しつつ他方が燃焼する。従って、燃焼側のリジェネバーナ2から、吸気側のリジェネバーナ2に向かって炉幅方向に燃焼ガスの流れが生じる。この燃焼ガスの流動は、相隣接するリジェネバーナ2間に配置されたショートフレームバーナ10のフレームとは直接衝突しないが、リジェネバーナ2の配置位置から、吸気するリジェネバーナ2に向かう流動となる。従って、燃焼側のリジェネバーナ2の近傍に配置されたショートフレームバーナ2によるフレームは、吸気側のリジェネバーナ2へと炉長方向で延びたフレームとなる。逆に、吸気側のリジェネバーナ2の近傍に配置されたショートフレームバーナ2によるフレームは、燃焼側のリジェネバーナ2から流れてきた燃焼ガスにより押し戻されて、比較的短いフレームとなる。このように交番燃焼するリジェネバーナ2が切り替わると、これまで延びていたショートフレームバーナ10のフレームは短くなり、他方反対側のショートフレームバーナ10のフレームは長くなる。このように交番燃焼によりショートフレームバーナ10によるフレームが伸長を繰り返す。よって、リジェネバーナ2間に配置したショートフレームバーナ10のフレーム温度分布の時間平均値は、一般のサイドバーナ間に配置した場合や、リジェネバーナ2間ではない位置に配置した場合と比較して、緩やかな分布となる。このショートフレームバーナ10による緩やかな温度分布と、リジェネバーナ2による中高傾向にある温度分布とが加算されて、図2Bに示したように、長手方向で均一な温度分布で、鋼片Fを加熱することが容易になると考えられる。なお、炉長方向で相隣接した2のリジェネバーナ2が交番燃焼のペアを組んだり、2以上の任意のリジェネバーナ2が交番燃焼ペアを組む場合、燃焼側のリジェネバーナ2から、吸気側のリジェネバーナ2に向かって炉幅方向に燃焼ガスの流れは、炉長方向、又は、炉長方向と炉幅方向の任意の組み合わせの方向に生じることとなるが、この場合も、相隣接するリジェネバーナ2間に配置されたショートフレームバーナ10のフレームは、同様に、リジェネバーナ2による燃焼ガスの流動と直接衝突せずに、その燃焼ガスの流動により均一化され、長手方向で均一な温度分布で、鋼片Fを加熱することが容易になる。
なお、仮に、ショートフレームバーナ10を、リジェネバーナ2間ではない位置に配置した場合、そのショートフレームバーナ10による長手方向温度分布は、緩やかな温度分布とならずに、鋼片Fの端部FL,FRと、鋼片Fの長手方向中央部FCとが、それらの間よりも高温となり、均一な加熱が難しくなる。この例を、図3Aに示す。
図3Aは、本実施形態に係る加熱炉のショートフレームバーナの配置位置について説明するための説明図である。図3Aには、予熱帯、加熱帯及び均熱帯では、リジェネバーナ2のみで加熱を行い、均熱帯出側に端部加熱のみを専用に行うゾーンを設置して、このゾーンにショートフレームバーナ10のみを連続して配置して加熱を行った場合の抽出時鋼片温度分布を示す。
この場合、図3Aに示すように、鋼片Fの両端部FL,FRの温度は、リジェネバーナ2のみを使用した温度分布よりも高くなるものの、鋼片Fの長手方向中央部FCと端部FL,FRとの間に、15℃程度温度が低い部分が発生してしまう。この低温部分の温度低下度合や温度低下部の発生位置は、リジェネバーナ2やショートフレームバーナ10の燃焼状態により異なる。しかしながら、ショートフレームバーナ10が端部を選択的に加熱するためのバーナであり、炉幅方向に急峻なフレーム温度分布となっているために、このショートフレームバーナ10を、相隣接するリジェネバーナ2間に配置する場合に比べて、鋼片Fの均一な加熱が困難となることが判る。なお、図3Aでは、均熱帯の出側に局部加熱ゾーンを設けたが、加熱炉1の他の区間にこのようなゾーンを設けてショートフレームバーナ10による加熱をリジェネバーナ2による加熱を別々に行った場合も、同様に低温部が発生するため、ショートフレームバーナ10をリジェネバーナ2間に配置することが重要となる。
1−2−3.ショートフレームバーナの加熱炉における位置について
次に、ショートフレームバーナ10が、抽出側から炉長の1/3以内(均熱帯を含む)に配置されることによる作用・効果等について、図3Bを参照しつつ説明する。図3Bは、本実施形態に係る加熱炉のショートフレームバーナの配置位置について説明するための説明図である。図3Bでは、ショートフレームバーナ10の配置位置を変更しつつ加熱を行い、抽出時の鋼片Fの長手方向温度分布を測定した結果を示している。
なお、図3B中のショートフレームバーナ10の配置位置を表す炉長は、抽出口OUTからの長さを意味し、加熱炉1の全炉長は、上述の通り40mである。
つまり、図3Bでは、炉長3mに対応するデータ点は、抽出口OUTから3m手前の位置から、抽出口OUTまでの間にショートフレームバーナ10を配置した場合における抽出時の鋼片Fの長手方向温度分布を表す。同様に、炉長6,9,12,15mに対応するデータ点は、それぞれ抽出口OUTから6,9,12,15m手前の位置から、抽出口OUTまでの間にショートフレームバーナ10を配置した場合における抽出時の鋼片Fの長手方向温度分布を表す。
図3Bに示すように、ショートフレームバーナ10が配置された区間の長さが長くなるほど、鋼片Fの端部FL,FRにおける昇温不足が解消し、鋼片Fの長手方向端部FL,FRの温度を上昇させられることが判る。しかしながら、このショートフレームバーナ10が配置された区間の長さは、大きくなる程、端部FL,FRの温度上昇は次第に小さくなり、12m(炉長の約1/3倍)を超過すると、殆ど上昇しなくなる。これは、リジェネバーナ2に加えてショートフレームバーナ10を設置した際の炉温分布が、炉幅方向でほぼ均一にフラットとなり、ショートフレームバーナ10の設置区間の長さが炉長の1/3を越えると、鋼片Fの温度が炉温に漸近するために鋼片Fの温度が飽和することに起因する。従って、抽出側から炉長の1/3を越えてショートフレームバーナ10を配置してもその効果は殆ど変化しない。よって、加熱炉1の製造コスト及び燃費等を考慮して、ショートフレームバーナ10は、抽出側から炉長の1/3から、抽出口OUTまでの間に配置される。換言すれば、このような区間にショートフレームバーナ10を配置することにより、加熱炉1は、製造コストやエネルギー効率等を最適化しつつ、均一加熱を行うことが可能である。
なお、この際、ショートフレームバーナ10の配置位置は、抽出側から炉長の1/3以内に設定され、この範囲には均熱帯が含まれる。このように予熱帯や、抽出側から炉長の1/3よりも前方の加熱帯にショートフレーム10を配置しない理由としては、ショートフレームバーナ10による加熱の昇温量を制御することが難しくなるか、かえって正確な温度制御を妨げる恐れが生じることが挙げられる。つまり、予熱帯又は抽出側から炉長の1/3よりも前方では、鋼片Fの温度は、昇温途中であり、炉幅方向、すなわち鋼片Fの長手方向の温度分布が変化しやすいばかりか、その温度分布の変化度合は、鋼片Fの搬送速度やリジェネバーナ2の燃料量等により大きく変動する。従って、仮に、このような位置にショートフレームバーナ10を配置して、鋼片Fの長手方向の端部FL,FRの加熱を行ったとしても、ショートフレームバーナ10による必要な温度上昇量を定めることが難しく、その結果、必要以上に加熱を行ってしまったり、あるいは、加熱不足となってしまう可能性が高く、かえって温度制御を難しくする恐れがある。これに対して、抽出側から炉長の1/3以内、特に均熱帯では、鋼片Fの温度は、比較的安定しており、鋼片Fの長手方向中央部の温度上昇はほとんど無い。従って、抽出側から炉長の1/3以内、特に均熱帯にショートフレームバーナ10を配置する場合、そのショートフレームバーナ10により、鋼片Fの長手方向の端部FL,FRの低温部のみを昇温させれば済むため、必要な昇温量の見極め精度が高くなり、ひいては、鋼片Fの長手方向の温度分布をより精度良く制御することが可能となる。
1−2−4.ショートフレームバーナのフレーム長
なお、上述の通り、ショートフレームバーナ10は、炉幅の1/4〜1/6のフレーム長の燃焼フレームを形成する(フレーム長条件)。このようなフレーム長を形成することによる作用・効果等について、図4A及び図4Bを参照しつつ説明する。図4A及び図4Bは、本実施形態に係る加熱炉のショートフレームバーナのフレーム長について説明するための説明図である。
上記の条件を満たす配置位置として、均熱帯にショートフレームバーナ10を配置し、そのフレーム長を2.2mに設定した場合と、3mに設定した場合における抽出時の鋼片Fの長手方向温度分布を図4Aに示す。一方、フレーム長を1.5mに設定した場合と、4mに設定した場合における抽出時の鋼片Fの長手方向温度分布を図4Bに示す。
図4Aに示すように、フレーム長が2.2m(炉幅(12m)の約6分の1)及び3m(炉幅の4分の1)の場合には、鋼片Fの長手方向で均一な温度分布を確保することができることが判る。
一方、図4Bに示すように、フレーム長が1.5m(炉幅の8分の1)の場合には、ショートフレームバーナ10のフレーム長が短くなり過ぎて、鋼片Fの長手方向の端部FL,FR付近のみが昇温して、この端部FL,FRからやや鋼片Fの長手方向中央FCよりに、昇温不足の部分が生じる。また、図4Bに示すように、フレーム長が4m(炉幅の3分の1)の場合には、ショートフレームバーナ10のフレーム長が延びすぎて、鋼片Fの長手方向の端部FL,FRがやや昇温不足となる上に、この端部FL,FRと鋼片Fの長手方向中央部FCとの間に、昇温し過ぎる部分が生じる。
従って、上記の配置条件を満たすようにショートフレームバーナ10を均熱帯においてリジェネバーナ2の間に配置して、鋼片Fの端部FL,FRを加熱する場合、リジェネバーナ2のフレーム温度分布により発生する端部FL,FRの温度低下部の温度補償を行うためには、ショートフレームバーナ10が上記のような炉幅の1/4〜1/6の範囲内のフレームを形成することが望ましい。換言すれば、ショートフレームバーナ10がこのようなフレーム長範囲を満足するフレームを形成することにより、加熱炉1は、更に鋼片Fの長手方向で均一な温度分布を確保することが可能となる。
1−3.本実施形態に係る加熱炉の動作
以上、本発明の第1実施形態に係る加熱炉1の構成等について説明した。
次に、本発明の第1実施形態に係る加熱炉1の動作等について、図5及び図6を参照しつつ説明する。図5及び図6は、本実施形態に係る加熱炉による加熱方法について説明するための説明図である。
なお、上述の通り、本実施形態に係る加熱炉1は、抽出時の鋼片Fの長手方向温度分布を均一にする均一加熱だけでなく、その長手方向の一側を他の部位に比べて高くする傾斜加熱をも行うことが可能である。そこで、以下では、本実施形態に係る加熱炉1の動作として、傾斜加熱を行う場合について説明する。
なお、この場合の作用・効果等の理解が容易になるように、まず、傾斜加熱を行うことの必要性について説明する。
加熱炉1から抽出された鋼片Fは、例えば、粗圧延が行われた後に、タンデム式の仕上圧延機にて圧延されるなど、後段の処理が施されることになる。このような処理では、鋼片Fは、一気に処理されることは少なく、長手方向に搬送されつつその端部FL又は端部FRから処理されることになる。例えば、仕上圧延の場合、鋼片Fの先頭側(例えば端部FL側)に対する圧延機による圧下が開始された後、鋼片Fは長手方向に順次圧延機に装入されていく。よって、鋼片Fの後端側(例えば端部FR側、テール部ともいう。)は、圧延を待たされて温度が低下してしまう。
これに対して、上記のようなショートフレームバーナ10を有さない加熱炉では、更に鋼片Fの温度分布が中高傾向となる。よって、中高傾向となり昇温が遅れたテール部(例えば端部FR側)が、更に圧延待ちにより温度低下して、そのテール部が圧延に供される際の温度は鋼片長手で最も低温となる。例えば、図2Aに示したショートフレームバーナ10を有さない加熱炉による加熱のように、長手方向中央部FCに比べて両端部FL,FRの温度が30℃程度低くなる場合、テール部の温度は、圧延速度やデスケーリング条件等にも寄るが、温度低下が大きいと、長手方向中央部FCに比べて処理開始時の温度が50℃程度低下する場合もある。このような低温部分は、他の部位に比較して変形抵抗が増大し、伸びが悪くなって、サイズ外れの原因となる。また、このような低温部は、更に、圧延ロール表面における荷重増大により、ロール表面と鋼片Fとが焼き付き、ロール表面が荒れて鋼片F表面に押し込み疵をつくる原因ともなる。
圧延待ちが短く済む鋼片Fは、上記ショートフレームバーナ10を有する本実施形態に係る加熱炉1により、均一加熱を行うことにより上記のような不具合を防止して、製品品質を確保することが可能である。しかし、圧延待ち時間が長くなる鋼片Fの場合には、テール部側の温度を高くするように傾斜加熱することが品質上極めて重要である。
そこで、本実施形態に係る加熱炉1は、以下で説明する動作を通じて、長手方向における正確な傾斜加熱を実現し、鋼片Fの品質を維持・向上させることを可能としている。この本実施形態に係る加熱炉1による動作について説明する。
まず、本実施形態に係る加熱炉1は、図5に示すように、ステップS01を処理し、ショートフレームバーナ10よりも上流に配置された温度測定装置100により、温度分布を測定する。この測定結果は、記憶部142に記録される。ステップS01の処理後は、ステップS03に進む。
ステップS03では、温度分布解析部21が、記憶部142に記録された温度分布を解析して、鋼片Fの長手中央部FCと端部FL,FRとの温度差を算出する。そして、ステップS05に進む。
ステップS05では、ショートフレームバーナ制御部22が、ステップS03で算出された温度差と、鋼片Fの製造工程や圧延待ち時間等に基づいて、ショートフレームバーナ10の燃焼流量を調整する。より具体的には、ショートフレームバーナ制御部22は、ステップS03で算出された温度差と、鋼片Fの端部FL,FRに対する所望の昇温量とに基づいて、ショートフレームバーナ10の燃焼負荷、つまり燃焼流量や空気流量を決定する。そして、ショートフレームバーナ制御部22は、この燃焼負荷となるように各ショートフレームバーナ10の燃焼状態を調整する。例えば、鋼片Fの長手方向端部FRがテール部となるため、この端部FRの温度を他の部位よりも高くする場合、ショートフレームバーナ制御部22は、図1Cに示す端部FR側のショートフレームバーナ10の燃焼負荷を、対向する他のショートフレームバーナ10よりも大きくするように、各燃焼負荷を調整する。
その結果、鋼片Fの長手方向端部FL側のショートフレームバーナ10により、低温傾向となる端部FLの温度を中央部FCの温度と均一化させることができ、かつ、テール部となる端部FRの温度を他の部位に比較して局部的に高温にした傾斜加熱を行うことができる。図6では、ショートフレームバーナ制御部22が、圧延待ち時間におけるテール部の温度降下量等を考慮して、テール部側(端部FR側)のショートフレームバーナ10の燃焼流量を、他側(端部FL側)のショートフレームバーナ10の2倍に設定した場合を示している。図6に示すように、例えば、テール部の温度を、長手方向中央部FCよりも20℃程度高くすることができ、テール部と反対側の端部FLの長手方向中央部FCに対する温度差を、約5℃程度と低く抑えることにより、鋼片Fの長手方向の温度分布を確保することが可能である。このように本実施形態に係る加熱炉1は、傾斜加熱を高精度で行うことが可能であり、このような傾斜加熱をする場合、後段の圧延機等における処理において、均一な温度での処理が可能となるため、寸法精度に優れた製品の製造が可能となる。なお、端部FRとは反対の端部FLの温度を他の部位よりも高くする場合は、ショートフレームバーナ10の燃焼流量を、炉幅方向で反転させることになる。
1−4.本実施形態に係る加熱炉による効果の例
以上、本発明の第1実施形態に係る加熱炉1の構成及び動作等について説明した。
この加熱炉1によれば、加熱装置として、リジェネバーナ2と共にショートフレームバーナ10を有する。このショートフレームバーナ10は、上述のように、抽出側から炉長の1/3以内に配置され、鋼片Fの端部FR,FLを局所的に加熱することができる。従って、加熱炉1は、鋼片Fを長手方向で均一に加熱したり傾斜加熱するなど、鋼片Fの長手方向の温度分布をより精度良く制御することが可能である。
この際、ショートフレームバーナ10は、単に加熱炉1中に設ければ良いというものではなく、リジェネバーナ2と併用されるため、上記のような配置条件及びフレーム長条件を満たすように配置される。その結果、本実施形態に係る加熱炉1は、このような高精度な温度分布の制御を可能としている。なお、この加熱炉1によれば、ショートフレームバーナ10を使用して、中高傾向による低温部分(例えば端部FL,FR)や、圧延時に温度低下する部分(例えばテール部となる端部FR)を局部的に加熱するのみで、このように長手方向で高精度な温度分布を実現することができる。従って、例えば炉温自体を調整する場合に比べて少ないエネルギーで圧延に必要な温度分布を確保することが可能である。また、ショートフレームバーナ10により鋼片Fを局部的に加熱するので、加熱対象となっていない鋼片Fへの影響を最小限に抑えて、鋼片Fの生産効率を向上させることが可能である。
なお、このように正確な加熱制御を行うためには、温度測定装置100が正確な表面温度分布を測定できることが非常に重要である。従って、この温度測定装置100として、詳しく後述する放射測温の原理を利用した温度測定装置100を使用することが望ましく、この温度測定装置100を使用する場合、加熱制御部20によるショートフレームバーナ10による温度分布制御の正確性を更に向上させることが可能である。
以上、本発明の第1実施形態に係る加熱炉1について説明した。なお、上記実施形態では、非蓄熱式バーナの一例として、ショートフレームバーナ10を使用し、そのショートフレームバーナ10がサイドバーナとして炉側壁に配置される場合について説明した。しかしながら、このショートフレームバーナは、炉側壁だけでなく、炉天井に配置されたルーフバーナであってもよい。そこで、本発明の第2実施形態として、ルーフバーナとして使用されるショートフレームバーナを有する場合について説明する。ただし、ここでは、ルーフバーナとして使用されるショートフレームバーナを「ショートフレームバーナ11」と言い、サイドバーナとして使用されるショートフレームバーナ10と区別する。しかし、このショートフレームバーナ11は、炉側壁ではなく炉天井に配置されるという点を除けば、サイドバーナとして使用されるショートフレームバーナ10と同様に構成される。そこで、以下では、本発明の第1実施形態に係る加熱炉1と同様の構成については説明を省略し、異なる点を中心に説明する。
2.第2実施形態
2−1.本実施形態に係る加熱炉の構成
図7A及び図7Bは、本発明の第2実施形態に係る加熱炉の構成について説明するための説明図である。図7Aに示すように、本実施形態に係る加熱炉1は、図1Aに示す第1実施形態に係る加熱炉1に対して、鋼片Fの搬送位置よりも上方に配置された一部のショートフレームバーナ10の代りに、ショートフレームバーナ11を有する。そして、このショートフレームバーナ11は、上記ショートフレームバーナ10と同様に、その燃焼流量等を加熱制御部20により制御される。
ショートフレームバーナ11は、非蓄熱式バーナの一例であって、図7Aに示すように、サイドバーナタイプのショートフレームバーナ10と同様に、炉長方向で相隣接するリジェネバーナ2の間に配置される。
ショートフレームバーナ11は、ルーフバーナタイプとして形成される。つまり、ショートフレームバーナ11は、炉天井における炉長方向で相隣接するリジェネバーナ2の間に配置され、炉高方向(z軸方向)にフレームを形成する。また、ショートフレームバーナ11は、図7Bに示すように、炉幅方向に少なくとも2以上が並べて配置される。この際、ショートフレームバーナ11は、炉幅方向の全域に並べて配置されることも可能であるが、図7Bに示すように、少なくとも鋼片Fの端部FL,FRに対応する位置の炉天井に配置されることが望ましい。つまり、ショートフレームバーナ11は、鋼片Fにおいて加熱が必要となる部位に応じた位置に配置されることが望ましい。特に、鋼片Fにおいてスキッドビーム3に接触する部位の昇温が遅くなる傾向にあるので、ショートフレームバーナ11は、鋼片Fの端部FL,FRにおけるスキッドビーム3と対応する位置に配置されることが更に望ましい。このルーフバーナタイプのショートフレームバーナ11の配置位置条件及びフレーム長条件と、その効果等は、上記サイドバーナタイプのショートフレームバーナ10と同様であるため、ここでの詳しい説明は省略する。
なお、本実施形態に係る加熱炉1では、鋼片Fの搬送位置よりも上方に配置されたショートフレームバーナ10の代りに、ルーフバーナタイプのショートフレームバーナ11が配置される。一方、この加熱炉1においても、鋼片Fの搬送位置よりも下方には、サイドバーナタイプのショートフレームバーナ10が配置される。このように、本実施形態に係る加熱炉1では、鋼片Fの搬送位置を挟んで一側のショートフレームバーナをルーフバーナタイプとしているが、本発明はこの例に限定されるものではない。鋼片Fの搬送位置よりも下方のショートフレームバーナ10の代りに、炉床において、図7A及び図7Bに示すショートフレームバーナ11と同様に配置されて、炉高方向上方に向けてフレームを形成するフロアバーナタイプを使用することも可能である。更にまた、図7A及び図7Bに示すルーフバーナタイプのショートフレームバーナ11と、フロアバーナタイプのショートフレームバーナとを組み合わせたり、ルーフバーナタイプ、フロアバーナタイプ及びサイドバーナタイプの組み合わせを使用することも可能である。
このようなルーフバーナタイプのショートフレームバーナ11は、サイドバーナタイプのショートフレームバーナ10と同様の効果を奏することができる。つまり、このショートフレームバーナ11は、鋼片Fの端部FL,FRを局所的に加熱しつつ、鋼片Fの長手方向の温度分布を均一化することが可能である。より具体的に同様の効果等を奏する理由について説明する。ショートフレームバーナ11から発せられるフレームは、リジェネバーナ2の燃焼側から吸気側への燃焼ガスの流れによって、吸気側へ傾き、この傾きは、リジェネバーナ2の交番燃焼により順次反転される。従って、このショートフレームバーナ11による炉幅方向のフレーム温度分布の時間平均は、リジェネバーナ2と空間的に隔てられた部位で局部加熱を行った場合と比較して緩やかな分布となり、上記サイドバーナタイプのショートフレームバーナ10と同様の作用効果を奏することが可能となる。なお、炉長方向で相隣接した2のリジェネバーナ2が交番燃焼のペアを組んだり、2以上の任意のリジェネバーナ2が交番燃焼ペアを組む場合、燃焼側のリジェネバーナ2から、吸気側のリジェネバーナ2に向かって炉幅方向に燃焼ガスの流れは、炉長方向、又は、炉長方向と炉幅方向の任意の組み合わせの方向に生じることとなるが、この場合も、相隣接するリジェネバーナ2間に配置されたショートフレームバーナ11のフレームは、同様に、リジェネバーナ2による燃焼ガスの流動と直接衝突せずに、その燃焼ガスの流動により均一化され、長手方向で均一な温度分布で、鋼片Fを加熱することが容易になる。
なお、ルーフバーナタイプのショートフレームバーナ11の場合、フレームが長すぎると、鋼片F表面が高温のフレームに直接曝され、鋼片Fの成分によっては鋼片Fの融点以上となり溶融したり、表面が著しく酸化されて表面品質の低下を招くことがある。よって、フレーム長の変動等を考慮すると、ルーフバーナタイプのショートフレームバーナ11のフレーム長は、ショートフレームバーナ11が設置される炉天井(天井壁)から鋼片Fの表面までの距離の3/4以下となるように設計することが望ましい。また、他の配置条件及びフレーム長条件は、記サイドバーナタイプのショートフレームバーナ10と同様であり、それらによる作用・効果等も同様であるため、ここでの詳しい説明は省略する。更に、ここで説明したショートフレームバーナ11のフレーム長の範囲も、上記第1実施形態におけるフレーム長の説明と同様に、定格流量で炊かれた際のフレーム長の範囲である必要はない。しかし、上記第1実施形態と同様に、製造コスト削減・装置構成の小型化・燃焼効率の向上等のためには、ショートフレームバーナ11として、定格流量で炊かれた際のフレーム長が上記範囲を満たすバーナを使用することが望ましい。
2−2.本実施形態に係る加熱炉による効果の例
以上、本発明の第2実施形態に係る加熱炉1について説明した。この第2実施形態に係る加熱炉1は、上記第1実施形態に係る加熱炉1と同様の作用効果を奏することができる。この第2実施形態に係る加熱炉1は、更に、炉幅方向に並べられたルーフバーナタイプのショートフレームバーナ11を有するため、上記第1実施形態に比べても更に鋼片Fの長手方向における温度分布の制御精度を向上させることが可能である。
この第2実施形態に係る加熱炉1により均一加熱を行った場合の加熱結果を、図8に示す。なお、図8に示した抽出時の鋼片Fの表面温度分布は、上記第1実施形態で説明した加熱炉1の例において、ショートフレームバーナ11を使用した加熱を行った結果を示している。
図8に示すように、ルーフバーナタイプ及びサイドバーナタイプのショートフレームバーナ10,11を使用した場合にも、上記第1実施形態に係るサイドバーナタイプのショートフレームバーナ10のみを使用した場合と同様に、鋼片Fの長手方向温度分布を均一にすることが可能である。つまり、鋼片Fの長手中央部FCに対する両端部FL,FRの温度差は、5℃低い程度に留まり、この第2実施形態に係る加熱炉1でも、ほぼ均一に加熱できることが判る。従って、本実施形態に係る加熱炉1のように、ルーフバーナタイプのショートフレームバーナを使用しても、上記第1実施形態に係る加熱炉1のように、均一加熱の効果により、抽出温度低減による燃料原単位の削減や、圧延時寸法精度の向上効果を得ることが可能である。なお、図8では、均一加熱を行った場合について示しているが、傾斜加熱を行うことも、もちろん可能である。
なお、上記第1実施形態及び第2実施形態に係る加熱制御装置20は、例えば、汎用又は専用のコンピュータで構成されてもよい。そして、このコンピュータに上記各構成の機能を実現させるプログラムを実行させることにより、加熱制御装置10又は加熱制御装置20を構成することができる。なお、コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)と、HDD(Hard Disk Drive)・ROM(Read Only Memory)・RAM(Random Access Memory)等の記録装置と、LAN(Local Area Network)・インターネット等のネットワークに接続された通信装置と、マウス・キーボード等の入力装置と、フレキシブルディスク等の磁気ディスク、各種のCD(Compact Disc)・MO(Magneto Optical)ディスク・DVD(Digital Versatile Disc)等の光ディスク、半導体メモリ等のリムーバブル記憶媒体等を読み書きするドライブと、モニタなどの表示装置・スピーカやヘッドホンなどの音声出力装置などの出力装置等と、を有してもよい。そして、このコンピュータは、記録装置・リムーバブル記憶媒体に記録されたプログラム、又はネットワークを介して取得したプログラムを実行することにより、加熱制御装置20の各構成の機能を実現することができる。
3.本発明の各実施形態で使用される温度測定装置及び温度測定方法
次に、本発明の各実施形態で使用される温度測定装置及び温度測定方法について説明する。なお、上述の通り、本発明の各実施形態では、温度測定装置及び温度測定方法は、鋼片表面の温度分布を測定するもので有れば様々なものが、使用可能であるが、ここで説明する温度測定装置及び温度測定方法は、他の温度測定装置及び温度測定方法に比べて温度分布を非常に正確に測定することが可能である。このように正確に表面温度分布を測定することにより、本発明の各実施形態に係る加熱制御方法及び装置は、上述のような効果を更に高めて、より正確に鋼片Fの長手方向温度分布を制御することが可能となる。従って、以下では、この温度測定装置及び温度測定方法について図9〜図18を参照しつつ詳細に説明する。
なお、以下では、この温度測定装置及び温度測定方法が如何に関連技術に係る他の温度測定装置及び温度測定方法に比べて正確に温度分布を測定することができるのかについて、理解が容易になるように、まず、関連技術について説明し、その後、本発明の各実施形態に用いられる温度測定方法について説明する。そして、この方法を実現するための温度測定装置について説明した後、各実施形態に用いられる温度測定装置及び温度測定方法による実施例について説明する。更に、この各実施形態に用いられる温度測定装置及び温度測定方法の効果の例について、上記特許文献4〜6と比較しつつ説明する。
つまり、以下では、本発明の各実施形態の理解が容易になるように、次の順序で説明する
3−1.関連技術
3−2.各実施形態で使用する温度測定方法の概要
3−3.各実施形態で使用される温度測定装置例
3−4.各実施形態で使用される温度測定装置による測定例
3−5.各実施形態で使用される温度測定装置等による効果の例
3−1.関連技術
図18及び図19を参照しつつ、関連技術について説明する。図18及び図19は、関連技術に係る温度測定方法について説明するための説明図である。
加熱炉内において鋼片の表面温度を非接触で測定する場合には一般には放射温度計等、物体表面からの熱放射エネルギーを計測する方法が用いられる。しかしながら、加熱炉内には炉の内壁や火炎等からの放射エネルギーが存在する。この放射エネルギーが鋼片の表面で反射して放射温度計等のセンサーに入射する。従って、放射温度計等は、鋼片からの熱放射エネルギーと、内壁や火炎等からの放射エネルギーが鋼片の表面で反射した反射エネルギーとの合計に相当する温度を表示するので、反射エネルギーに相当する温度の誤差が生ずる。この反射エネルギーは、迷光、反射光、外部光、背光、迷光雑音等種々の名称で呼ばれているが、いずれも同じものであり、以下「迷光」と記す。
例えば、外気条件下や室温条件下での測定では、大気や室内の壁が発する放射エネルギーは、高温の鋼片の放射エネルギーに比して小さいので迷光誤差が問題になることはない。しかしながら、高温の火炎や炉壁を有する加熱炉においては、迷光による誤差が大きく、このために、正確な温度測定が困難であった。
そこで、迷光の影響を補正して真の物体温度を得るための方法が開発されている。この関連技術に係る方法によれば、図18に示すように、まず、加熱炉911内に温度既知物体912を置き、演算手段918により、その物体912の既知温度から熱放射理論により算出される表面輝度と、その物体912の見掛け輝度の測定値との差異に基づいて、加熱炉911内迷光量を定量する。そして更に、演算手段918により、カメラを有する放射型温度計等の光表面温度測定手段914により計測される鋼片913の見掛けの輝度から、加熱炉911内迷光量を差し引いて鋼片の真の放射エネルギーを算出して温度を得る。そして、その温度が温度表示部919により表示される。このような関連技術としては、例えば、上記特許文献6が挙げられる。
この方法において、容易に考えうるのは、迷光の補正誤差を小さくするために、鋼片の近傍に温度既知物体を置いて比較する形態である。
しかし、そのような形態では、以下のような問題がある。
問題1:鋼片が移動する場合には、その近傍に温度既知物体を置くことが難しい。
問題2:温度既知物体を鋼片の近傍、即ちカメラから離れた位置に置くと、画像の中の温度既知物体の画素数が少なくなる。
上記問題1について説明する。
鋼片が移動する場合、例えばウォーキングビーム式加熱炉等では、鋼片の動きによって温度既知物体が破損する恐れがある。この対策として、鋼片の移動に応じて遮蔽板が移動する機構を設ければ測定システム自体が複雑となり、実用的でない。
上記問題2について説明する。
例えば、鋼片が離れた位置に配置されたり、比較的小さい鋼片の温度を計測するためには、鋼片を撮像可能なように、ある程度の解像度を有する撮像装置を使用する必要がある。撮像装置として例えば40万画素のカメラを用いた場合、1画素の視野角は幅0.08度、高さ0.08度程度の小さい領域となる。温度既知物体をカメラから離れた位置に置くと、画像中を占める温度既知物体の領域が非常に小さくなるため、1画素の出力は空間的、時間的変動、信号処理系の外乱等の影響を受け、いくらかのバラツキを生ずる。
図19に1画素単位の出力のバラツキの一例を示す。図19に示すように、1画素単位の出力のバラツキは大きく、このバラツキにより計測精度が低下してしまう恐れがある。従って、高い計測精度を得るためには、単一画素でなく、領域を定めてその領域内の画素の平均値をとる必要があり、少なくとも5×5画素、望ましくは10×10画素以上の平均をとるべきである。
しかし、例えばカメラから6メートル離れた鋼片の近傍に温度既知物体を配置する場合を考えると、1画素当りの視野角0.08度に相当する幅は10ミリメートル程度になる。10×10画素の平均をとるためには、100×100ミリメートルの領域の平均をとらなければならない。
一方、温度既知物体912としては、図18に示すように、保護管917付き熱電対温度計916を用いることが実用的であり、これは、通常、直径約20〜30ミリメートル程度の大きさであるので、100×100ミリメートルの大きな温度既知物体を設置するのは非現実的である。
本発明者らは、従来の温度測定装置やこの関連技術に係る温度測定装置について鋭意研究を行った結果、上記のような問題1及び問題2等の課題に想到した。この課題に対し、発明者らは、以下に示す手段などにより、温度既知物体、例えば保護管付き熱電対を、鋼片近傍でなく、撮像装置の近傍に設置することにより、迷光の影響を更に効果的に補正することが可能な温度測定方法を発明し、上記各実施形態に係る加熱炉及び方法等に使用する場合、その効果を著しく向上させることが可能であることをも見出し、上記発明を完成させた。
3−2.各実施形態で使用する温度測定方法の概要
以下、本発明の各実施形態に係る温度測定方法の概要について説明する。
この温度測定方法は、上述の関連技術に係る温度測定方法を前提に、大きく分けて以下の1〜3のような特徴を有する。
特徴1:迷光を補正するための温度既知物体を、撮像装置の近傍に設置し、かつ、鋼片の放射エネルギーの計測する際、炉内ガスによる吸収及び放射が起こらない波長を選択してその単色輝度分布を計測し、得られた単色輝度分布を迷光補正して温度を求める。
特徴2:温度既知物体は、その大きさが撮像装置の画素数において少なくとも25画素、望ましくは100画素以上となるような位置に配置される。
特徴3:温度既知物体は、その放射率が鋼片の放射率に対して前後0.1の範囲となる材質を用いる。
この各特徴について順次説明しつつ、本実施形態に係る温度測定方法について説明する。
3−1−1.特徴1
特徴1:迷光を補正するための温度既知物体を、撮像装置の近傍に設置し、かつ、鋼片の放射エネルギーの計測する際、炉内ガスによる吸収及び放射が起こらない波長を選択してその単色輝度分布を計測し、得られた単色輝度分布を迷光補正して温度を求める。
なお、この特徴1において、「炉内ガスによる吸収及び放射が起こらない波長」とは、完全に吸収及び放射が起こらないという意味ではなく、他の波長に比べて吸収及び放射が起こりにくい波長を意味する。また、「単色輝度」や「単波長」とは、全波長ではないという意味で、例えば波長の選択精度などにより所定の幅の波長の輝度をも含むものとする。この特徴1及び本実施形態に係る温度測定方法による温度測定過程について説明すると、以下の通りである。
例えば、温度既知物体と鋼片とが接近している場合には両者に入射する迷光量はほぼ等しいので、温度既知物体の計測結果から得られた迷光量が鋼片にも照射されるものとして、計測した鋼片の放射エネルギーを補正すればよい。しかし、本実施形態の如く両者が離れている場合には、迷光量の相等性は必ずしも保障されない。
そこで、本実施形態の方法では、温度既知物体と鋼片の迷光量の相等性を確保するために、大きく分けて下記の手段を用いる。
手段1:炉内ガスによる吸収・放射が起こらない波長を選択し、単波長の測定を行う。
手段2:炉内の温度分布等による誤差の理論的評価を可能にするために、放射伝熱の理論を厳密に適用して迷光補正計算式を作成する。
(手段1)
以下、各手段について具体的に述べる。
燃焼炉内には燃料の燃焼によって生じた二酸化炭素や水蒸気などが存在し、これらのガス体は、炉内の放射エネルギーを吸収し、また、自己の温度に応じたエネルギーを放射する。ガスの温度は、炉内の位置によって異なるので、炉内迷光量は、位置によって異なる。しかし、二酸化炭素や水蒸気等のガスが吸収・放射するのは、スペクトルのうちいくつかの特定の波長域に限られている。従って、二酸化炭素の吸収・放射波長域と水蒸気の吸収・放射波長域とを共に避けた波長を計測すれば、炉内ガスの影響を含まない迷光補正が可能である。
そこで、本実施形態では、上記条件を満たす波長、例えば1μmの単波長を計測することによって、温度既知物体と鋼片との位置が離れている条件下での迷光補正を可能とした。尚、本実施形態の如く、迷光補正の目的で単波長条件を必須とする例は、先例がない。
(手段2)
単波長を用いることに従って、迷光を補正するための計算は、一般的な放射伝熱計算で用いられるStefan−Bolzmannの式でなく、単波長の放射エネルギーを計算するPlankの式を用いる。具体的には下記の手順1〜7により計算する。
手順1:事前に、オフラインの黒体標準炉を用いて、撮像装置の出力と黒体輝度との関係式を作成する。
先ず、黒体標準炉の温度をT[K]に保持する。Planckの法則(下記式1)により温度Tにおける黒体輝度Eを計算する。
ここで上記式1の各定数等は、以下の通りである。
E :波長λの黒体輝度[W/m3]
λ :波長[m]
T :温度[K]
C1:定数 3.74×10−16[W/m2]
C2:定数 0.014387[μm・K]
次に、撮像装置で黒体標準炉の標準温度点を計測し、撮像装置の出力Lを得る。温度Tを変えて順次同様の計測を行い、EとLの関係式を最小2乗法等により作成する。ここでは、このEとLの関係式を下記式2とする。
この式2が表す関係式は、個々の撮像装置固有の特性式を意味するので、新たな撮像装置を導入したとき撮像装置毎に作成する必要がある。ただし撮像装置に固有の特性であるので、この手順1は1回実施すれば、それ以降再度行なう必要はない。また、本実施形態では、計測波長λとして、例えば1μmの波長を用い、その波長の選択には、光学フィルタを使用することができる。しかしながら、計測波長λは、他の波長であってもよく、波長の選択方法は、光学フィルタ以外にも例えば特定の波長のみを撮像する撮像素子を使用したり、撮像装置に含まれる特定の波長を画像解析により抽出する等、様々な方法を使用することができることはいうまでもない。
手順2:実際の炉において、温度既知物体例えば保護管付き熱電対の温度T1[K]から、下記式3のようにPlanckの法則により黒体輝度E1を算出する。
手順3:撮像装置により、温度既知物体を計測し、出力L1を得る。オフラインにて作成した上記特性式(式2)により、出力L1に該当する輝度を計算する。
この手順3で計算される輝度は、迷光の反射を含む見掛けの輝度であり、放射伝熱学の分野で射度と呼ばれる量に該当する。これをG1と表す。つまり、この輝度G1は、下記式4で表される。
手順4:上記E1とG1から下記の式5により、迷光量Jを計算する。
この式5中、ε1は温度既知物体の放射率である。
ここで、この式5の導出過程について述べる。温度Tの物体表面から放射される単色放射量Aは、Planckの法則から計算される黒体輝度Eに、物体表面の放射率εを乗じたものである。即ち、単色放射量Aは、下記式6で表される。
また、炉内迷光(外来照射)Jが物体表面で反射される量Bは、放射伝熱理論より、下記の式7で表される。
撮像装置で計測される「見掛けの輝度」Gは上記AとBの合計であるので下記式8で表される。
この式を変形すると、迷光量Jを算出する式9が得られる。よって、この式9にE1,G1及びε1を代入して、上記式5が導出される。
手順5:撮像装置により、鋼片を計測し、出力L2を得る。そして、上記特性式(式2)により、出力L2に該当する輝度を計算する。これは、迷光の反射を含む見掛けの輝度である。これをG2と表す。つまり、この輝度G2は、下記式10で表される。
なお、ここで撮像装置により計測される出力L2は、その鋼片の表面に対する分布として表される。つまり、撮像装置の撮像画像中の所定の個所に対する出力L2は、撮像画像中に撮像された鋼片の所定の個所に想到し、出力L2は、撮像画像中の位置毎に異なる値を取りうる。よって、この出力L2から算出する輝度G2も、同じく、鋼片に対する分布となる。なお、ここでは説明の便宜上、輝度G2は、輝度分布中の1点の輝度又は複数点の平均輝度であるとして説明する。しかし、この輝度G2に対する後段の計算等を、撮像画像中の鋼片に相当する位置毎に行うことにより、この温度測定方法では、温度分布を測定することが可能であることは言うまでもない。
手順6:上記G2と上記手順4項で算出した迷光量J(式5)から、下記の式11により鋼片の黒体輝度E2を計算する。
ε2は鋼片の放射率である。
ここで、この式の導出過程について述べる。
上記手順4項で導出した下記の式12(上記式8)を用い、この式を変形して黒体輝度Eを求めると、上記の式11が得られる。
手順7:このE2から、下記Planckの法則の逆関数(式13)を用いて、鋼片の温度T2[K]を求める。
ここで、Logは自然対数である。
ここに述べた迷光補正方法(手順1〜手順7)を用いることによって、温度既知物体と鋼片との距離が離れている場合においても、鋼片の温度を求めることが可能である。以下、その理由を述べる。
温度既知物体及び鋼片からの放射エネルギーは、物体自身からの放射量と炉内から受けた迷光の反射量との和であり、上述の手順4項で導出した式8の如く、温度既知物体及び鋼片のそれぞれについて下記の式14及び式15で表される。
ここで、添字1は温度既知物体、添字2は鋼片を表す。それぞれの式の右辺第1項は物体自身からの放射量、第2項は炉内からの迷光の物体表面での反射量である。
上記関連技術においては、放射エネルギーの差ΔG(=G2−G1)を加減算することによって補正を行ない、上記2つの式14及び式15において、見掛けの輝度Gと黒体輝度Eとの関係が同じであることを利用して輝度Eを求めて鋼片の温度を得ている。従って、上記関連技術の方法においては、上記2つの式のε1とε2が等しく、かつ、(1−ε1)J1と(1−ε2)J2が等しいことが要件となる。即ち、温度既知物体と鋼片の放射率が等しく、測定波長帯域に亘る迷光量Jの合計が等しいことが要件であるので、迷光が等しいことが明確であるような近傍に両者を置くことが必要である。それに対して、本実施形態の温度測定方法においては、上記補正計算手順の説明に示した如く、両式の相等性は要件ではない。即ち、炉内で迷光量に差が少ない単波長を使用するので、上式の第2項(1−ε1)J1と(1−ε2)J2とが等しい必要はなく、放射率ε及び迷光Jが位置によって異なっても、測定誤差を低減することが可能である。
一般に加熱炉で加熱する材料は、金属材料の場合は表面が酸化するために放射率が高く、非金属材料の場合は材料そのものの放射率が高い。通常、被加熱物の放射率は0.8を上回る値である。そのため、εに較べて(1−ε)が小さく、上式の第1項εEに較べて第2項(1−ε)Jが小さくなる。従って、温度既知物体位置の迷光J1と鋼片位置の迷光J2に若干の差があっても、相対的に値が小さい第2項に差が生ずるだけであるので、式の計算結果への影響は小さい。また、本実施形態では、計測波長λを、炉内ガスによる吸収・放射が少ない波長に設定する。従って、温度既知物体位置の迷光J1と鋼片位置の迷光J2との差を非常に小さくすることができる。よって、本実施形態では、温度既知物体と鋼片とを近接して配置しなくても、J1=J2として計算することが可能である。なお、J1とJ2の差異は10%程度異なっていても誤差には大きな影響はない。なぜならば、放射率0.8程度で、Jの差異が0.2程度ならば、上記の式の右辺の差異は(1−0.8)×10%=2%程度の影響に過ぎないからである。
以上の理由により、単波長の測定を行う本実施形態の温度測定方法を用いれば、迷光に若干の差異がある位置に温度既知物体を置いても、精度を大きく落とすことなく温度計測が可能である。即ち、鋼片の近傍に温度既知物体を置く必要はない。
3−1−2.特徴2
特徴2.温度既知物体は、その大きさが撮像装置の画素数において少なくとも25画素、望ましくは100画素以上となるような位置に配置される。
この特徴2について説明すると、以下の通りである。
上記問題2に示した如く、関連技術では、撮像装置の1画素が占める領域が小さいため、1画素の出力は、例えば空間的・時間的変動・信号処理系の外乱等の影響を受け、いくらかのバラツキを生ずる。温度既知物体の1画素単位の出力の実測値を図9に示す。
図9に示す実測値の標準偏差を算出するとσ=11℃であった。よって、1画素のみの測定値を用いて迷光補正を行えば、誤差が大きく、実用に耐えないことは明らかである。そこで、本実施形態の温度測定方法では、複数の画素の平均値を取り、その平均値で補正計算を行なうことにより、このような問題を解決することができる。
以下、この特徴2を導出した発明者らの考察に基づいて、具体的な条件を説明する。
上述の通り、1画素単位の標準偏差は11℃であった。統計学の法則によればn個の平均値をとった場合の標準偏差は、その個数の平方根に逆比例するので、25画素の平均をとれば、標準偏差は5分の1の約2℃となる。100画素の平均値をとれば、100の平方根10に逆比例するので、10分の1の約1℃となる。
炉内の温度計測においては、標準偏差2℃であれば概ね実用可能であり、1℃であれば、十分である。よって、少なくとも25画素(例えば5×5画素)、望ましくは100画素(例えば10×10画素)以上の画素数が得られる位置に温度既知物体を置く必要がある。
温度既知物体としては、例えば、保護管付き熱電対を用いるのが適当である。加熱炉で用いられる保護管付き熱電対の外径は20〜30mm程度であるので、計測範囲は四角形の場合は縦横10mm程度、円形の場合は直径10mm程度の範囲となる。
一方、撮像装置として、例えば、一般的に用いられる画素数40万個程度のCCDカメラでは、1画素の視角は約0.08度×0.08度程度である。よって、5×5=25画素を見る視角は、0.4度×0.4度となる。tan0.4度=0.0070であるので、0.4度×0.4度の視角に10mm×10mmの範囲を写すためには、10mm/0.0070=1400mmよりカメラに近い位置に置かなければならない。
温度既知物体の被測定部位の大きさが10mmの場合について計算したが、大きさが異なる場合についても同様の計算を行えば、温度既知物体を置くべき位置は、被測定部分の大きさYに対し撮像装置からの距離Xは、下記式16を満たすことが望ましい。
このような考察に基づいて、本発明者らは、上記特徴2を導き出した。従って、本実施形態では、温度既知物体は、その大きさが撮像装置の画素数において少なくとも25画素(例えば5×5画素)、望ましくは100画素(例えば10×10画素)以上となるような位置に配置される。換言すれば、温度既知物体は、温度既知物体の被測定部分の大きさをYとし、その撮像装置からの距離をXとした場合、Xは、上記式16を満たすように設定される。更に具体的には、このXは、撮像装置として画素数40万個程度のCCDカメラを使用し、かつ、Yを10mmとした場合、1400mmよりも小さい値に設定される。その結果、本実施形態に係る温度測定方法では、撮像装置の測定誤差を低減させて、温度測定精度を向上させることができる。
3−1−3.特徴3
特徴3.温度既知物体は、その放射率が鋼片の放射率に対して前後0.1の範囲となる材質を用いる。
この特徴3について説明すると、以下の通りである。
本発明の発明者らは、本実施形態の温度測定方法について、計測条件が種々に変わった場合の計測結果、即ち迷光補正後温度の誤差について理論的検討を行なった。
検討条件は、長さ12m、高さ2.5mの燃焼炉にて、炉内壁温度1200℃、炉床に置かれた鋼片の温度900℃、鋼片の放射率0.86として、炉内の放射伝熱計算を行ない、上記特徴1及び特徴2を満たす条件下での各面の放射伝熱量及び反射迷光量の理論値を求めた。計算の手法は、甲藤好郎著「伝熱概論」(養賢堂)p.377−p.382に示された手順を用いた。
その計算結果に、上述の特徴1で説明した迷光補正計算方法を適用し、温度既知物体の位置を炉幅方向の炉内左壁位置を原点0m点とし、その0m点から右側へ12m点まで2m毎に変化させた場合の迷光補正値を計算した。撮像装置の位置は左側0m点とし、鋼片の位置は炉幅方向の中心、つまり6m点とした。計算結果を図10に示す。図10に示した放射率εは温度既知物体の放射率であり、鋼片の放射率は0.86に固定している。
図10に示すように、この計算結果によれば、例えば温度既知物体の放射率が鋼片の放射率0.86と等しい場合、温度既知物体の位置がどこであろうとも、鋼片の補正後温度は、鋼片の真の温度900℃に対して、3℃以内の差異に収まる。
しかし、鋼片と温度既知物体との放射率εに差がある場合は、温度の差異が大きくなることが判る。鋼片の放射率ε=0.86に対して温度既知物体の放射率が0.81〜0.91即ち前後0.05の範囲では、真の温度900℃に対して、±6℃であるが、温度既知物体の放射率が0.76〜0.96即ち前後0.1の範囲では±13℃程度となる。
実用性を考慮して10℃程度までの誤差を許容すれば、温度既知物体の放射率は、温度や放射率のレベルにより若干異なるが、鋼片放射率の前後0.1程度以内となる材質を選定すべきであり、望ましくは前後0.05程度以内とすれば更に測定誤差を低減させることができる。
一方、上記関連技術では、温度既知物体の輝度によって迷光を補正する方式が採用されている。この関連技術において、鋼片と温度既知物体との位置関係は明示されていないが、実施例として例示された図においては鋼片の近傍に温度既知物体を置いており、実施形態として両者を近傍に置くことが想定されていると考えられる。
発明者らの知見によれば、上述のように、例えば鋼片の温度が900℃、炉内壁の温度が1200℃のように、鋼片と炉内壁との温度に大きな差がある場合、炉壁近傍では炉壁からの迷光の影響を強く受ける。しかし、温度既知物体の放射率と鋼片の放射率とが同程度の場合には、その影響は小さくなる。これを図11に示す。図11には、上記図10中の温度既知物体の放射率εが、鋼片と等しい0.86の場合の計算結果と、その値から離れた0.76の場合の計算結果とを示した。つまり、図11において●のプロットは、鋼片と温度既知物体との放射率が同程度の場合の例であり、×のプロットは、温度既知物体の放射率が鋼片と異なる場合の例である。ここでも、鋼片は炉の中心即ち6m点に置いた。
図11に示すように、放射率が異なる場合は、温度の誤差が大きくなるのみでなく、炉壁近傍と中央との差が大きくなることがわかる。この理由により、上記関連技術では、放射率の規定がないために、明示されていないものの、実施態様として、鋼片の近傍に温度既知物体を置かざるを得なかったものと考えられる。
しかし、本実施形態では、温度既知物体の放射率を規制することにより、図11の●プロットに示される如く、6m点においた鋼片から離れた位置に温度既知物体を置いても誤差の小さい測定が可能である。
以上、本発明の各実施形態に係る温度測定方法が有する特徴1〜3について説明した。この本実施形態に係る温度測定方法は、上記特徴1〜3に加えて、更に、測定精度を維持向上させるために、以下のような特徴4,5をも有する。
特徴4:放射率の経時変化への対処
特徴5:炉内の迷光量分布等から規定される温度既知物体の位置
そこで次に、この特徴4,5について説明する。
3−1−4.特徴4
特徴4:放射率の経時変化への対処
この特徴4について説明すれば、以下の通りである。
温度既知物体として金属保護管付き熱電対を用いた場合は、長期間の使用などによる酸化の影響等によって、温度既知物体の放射率が、若干変化する可能性がある。また、セラミック製保護管付き熱電対を用いた場合では酸化の恐れはないが、煤や炉内ダスト等の付着による放射率変化の可能性は排除できない。そこで、本実施形態に係る温度測定方法では、このような温度既知物体の放射率の経時変化に対して、以下に示す手段により対処することができる。
手段1:放射率の経時変化の把握方法
一般に物体表面の放射率を測定するためには迷光の無い条件下でその物体の温度と輝度を測定する必要がある。よって、炉内に設置したままでは放射率の把握は困難である。しかし、炉の操業条件が一定ならば炉内の迷光量分布に変動は無く、温度既知物体からの放射輝度と炉の内壁からの放射輝度の関係は一定と考えられる。この現象を利用し、撮像装置の視野内の炉内壁輝度と温度既知物体輝度との差を長期的に記録し、同一温度条件での傾向管理を行なうことによって放射率の経時変化の有無を把握、管理することができる。例えば、炉内壁輝度と温度既知物体輝度との差の変化が、所定の閾値を超えた場合などに、温度既知物体の放射率が変化したと判断することができる。そして、放射率が変化した場合、温度測定精度を保つために、以下の手段2による対処を採ることができる。
手段2:放射率の経時変化が生じた場合の対処方法
温度既知物体を新品に交換することが最良の手段である。交換することが不可能であり、かつ、上記手段1の傾向管理データから放射率の変化値が推定できる場合には、以下の方法によって補正してもよい。即ち、上述の特徴1の手段2で導出した迷光量Jを計算する以下の式17(上記式5)において、標準の放射率εの代わりに経時変化後の放射率εxを用いた式18により、迷光量Jを計算する。
迷光量Jを計算した後は、上記特徴1の手順5項以降を、前述の計算手順に従って計算し、迷光補正後温度を算出する。この方法によって放射率の経時変化に対する補正計算を行なった例を図12に示す。図12に示すように、温度既知物体の放射率が、基準の放射率0.86に対して経時的に上昇した場合、補正後の温度は低下していく。しかしながら、本実施形態に係る温度測定方法によれば、上記の特徴4を用いて計算することにより、正しい温度900℃の出力を得ることができる。
つまり、本実施形態に係る温度測定方法は、この特徴4を有することにより、温度既知物体の放射率の経時変化等による影響を低減させて、長期間の使用に対しても、温度測定精度を維持させることができる。
経時変化後の放射率εx
なお、ここで使用した経時変化後の放射率εxは、以下のように導き出すことができる。
上述の通り、手段1では、撮像装置の視野内の炉内壁輝度と温度既知物体輝度との差を長期的に記録する。この際、炉内において放射率の経時変化が比較的安定して変化がほとんど無いとみなされる部位、例えば長期間補修改修を行っていない炉壁の輝度と、温度既知物体輝度との差もあわせて記録する。以下、この部位を「比較部位」ともいう。なお、炉内壁が比較部位である場合、手段1で記録する炉内壁輝度を比較部位の輝度とすることができる。
ここで比較部位の見掛けの輝度をGwとし、温度既知物体輝度をGtとする。つまり、比較部位輝度Gwと温度既知物体輝度Gtとの差ΔG(=Gt−Gw)の変化を長期間記録することになる。なお、撮像装置が計測する「見掛けの輝度G」は、上記式8で表されるので、初期の温度既知物体(Gt1)、初期の比較部位(内壁等)(Gw1)、長期間経過後の温度既知物体(Gt2)、長期間経過後の比較部位(Gw2)の見掛け輝度は、それぞれ下記のようになる。
この式A1中、Etは、温度既知物体の黒体輝度、Jtは、温度既知物体の迷光量、εw、比較部位の放射率、Ewは、比較部位の黒体輝度、Jwは、比較部位の迷光量である。ここで、比較部位は、放射率の経時変化が比較的安定して変化がほとんど無いとみなされる部位であるため、比較部位の放射率は、期間経過前後においてεwで一定となる。また、測定時の温度を一定とすることにより、既知物体の黒体輝度Etも、期間経過前後において変化しない。更に、炉内迷光条件が大きく代わることは少ないため、既知物体の迷光量Jt及び比較部位の迷光量Jwも、期間経過前後において変化しない。
この式A1より、初期の輝度差ΔG1と、期間経過後の輝度差ΔG2とは、以下式A2と式A3とのようになる。
よって、輝度差ΔGの経時変化量(ΔG2−ΔG1)は、下記式A4のように計算できる。
この式A4より、温度既知物体の放射率の変化量(εx−ε)は、見掛け輝度差の経時変化量(ΔG2−ΔG1)に比例することが判る。
ここで、(εx−ε)と(ΔG2−ΔG1)との比例定数をK(=Et−Jt)とすると、この比例定数Kは、以下のように求めることができる。
Etは、温度既知物体の黒体輝度であるため、既知の温度値から、上記式3により計算することができる。一方、Jtは、温度既知物体の受ける迷光量であるため、上記式4と式5により、撮像装置の出力Lから算出することができる。従って、これらの測定及び計算を予め行うことにより、比例定数K(=Et−Jt)を求めることができる。また、式A4は、下記式A5のように計算できる。
よって、この式A5に、算出した比例定数Kと、見掛け輝度差の経時変化量(ΔG2−ΔG1)とを代入することにより、経時変化後の温度既知物体の放射率εxを求めることができる。なお、長期間経過後の比較計算は、比例定数Kを算出した炉内条件で行うので、EtとJtは変わらないものとすることができ、予め算出した比例定数Kを、例えば温度既知物体を交換するまで使用することが可能である。
なお、この経時変化後の温度既知物体の放射率εxを計算は、炉内の状況(温度および迷光量)が同等の条件であるデータを用いて行われる必要がある。よって、測定して記録した長期間のデータのうちの既知温度計温度及び比較部位(炉壁内面等)の温度が初期とほぼ同等であり、かつ、炉の操業条件(炉内迷光条件)がほぼ同一である時間帯のデータを多数抽出し、その平均値を用いて、放射率εxを計算することが望ましい。また、データの分散から統計的手法によって結果の確かさの検定を行うことも可能である。
3−1−5.特徴5
特徴5:炉内の迷光量分布等から規定される温度既知物体の位置
この特徴5について説明すれば、以下の通りである。
上記の如く、本実施形態では、炉内ガス等による反射・吸収が起こらない波長を使用するなどにより、温度既知物体は鋼片の近傍に配置される必要はないが、この波長においても、炉内の迷光は位置による分布がある。そこで、本実施形態に係る温度測定方法では、測定精度を更に高めるために、温度既知物体は、鋼片位置の迷光量と同等の迷光量となる位置に置く。迷光分布等による温度既知物体の位置の制約は、次の3つの条件によって規定される。
条件1:炉内迷光分布上、鋼片の位置と迷光量がほぼ同一となる位置
条件2:鋼片の測定表面に対する角度が、鋼片の放射率が変化しない角度以上となる位置
条件3:鋼片との間に火炎を挟まない位置
以下、それぞれの条件について述べる。
条件1:炉内迷光分布上、鋼片の位置と迷光量がほぼ同一となる位置
炉の内壁に温度分布がある場合、炉内壁近傍では、近くの炉内壁の温度の影響を強く受けるため、迷光量が炉内の一般部分とは異なる場合がある。一部の炉内壁温度が異なる場合について、発明者らのデータに基づいて、迷光量を算出した結果を図13に示す。炉内壁温度1200℃に保持した炉において、一部の炉内壁を1100℃としたときの迷光分布である。図13の横軸は1100℃の炉壁からの距離である。炉内壁より0.25m未満の領域における迷光量は、他の位置の迷光量と著しく異なる。そこで、本実施形態に係る温度測定方法では、温度既知物体を炉内壁から0.25m以上離れた位置に配置することにより、炉内壁の温度分布による炉内迷光分布による影響を低減して、温度測定精度を更に向上させることができる。
条件2:鋼片の測定表面に対する角度が、鋼片の放射率が変化しない角度以上となる位置
一般的には、物質によっては、表面の放射率が、放射方向によって異なる場合がある。これは例えば化学工学便覧改訂3版の図2.81に例示されている。一方、本実施形態に係る温度測定方法では、温度既知物体と鋼片とを撮像装置の同一視野内に置いて、輝度の比較によって補正計算を行なう。従って、鋼片の放射率が温度既知物体の放射率に対して変化しないよう、鋼片の測定表面に対する角度が、放射率が変化しない範囲の角度となる位置に、温度既知物体を配置して両者を撮像装置の視野内に収めなければならない。
このような問題点に想到した発明者らは、鋼片(鋼材)を用い、種々の角度に温度既知物体を配置して、鋼片の温度測定を上述の方法で行い、誤差の大きさから、角度の限界を判定した。その結果、図14に示す如く、この角度は、13度以上にすることが必要であるとの結論が得られた。
そこで、本実施形態に係る温度測定方法では、鋼片の測定表面に対する角度が13度超過となる位置に、温度既知物体を配置することにより、鋼片の放射率の変化による温度測定への影響を低減させて、温度測定精度を更に向上させることができる。
条件3:鋼片との間に火炎を挟まない位置
本実施形態では、燃焼ガス中の熱放射ガスである二酸化炭素と水蒸気の放射スペクトルを避けた単色光例えば波長1μmの放射を計測するので、全波長放射測定型の温度計に較べて、火炎の影響は受けにくい。しかし、火炎には熱放射性のフリーラジカル等が含まれるので、鋼片との間に火炎が介在すると迷光補正誤差が生ずる可能性がある。そこで、本実施形態に係る温度測定方法では、鋼片と温度既知物体及び撮像装置との間に火炎を挟まない位置関係を保持することにより、火炎による影響を低減させる。この位置関係は、本技術を適用する炉の鋼片と火炎との位置関係により規定される。具体的には、図15に示すように、被測定点(鋼片)から火炎の端までの水平距離をX1、被測定点から火炎下端までの高さをY1、被測定点から温度既知物体までの水平距離をX0、高さをY0とするとき、温度既知物体の位置は、下記式19を満たすように設定される。
以上、条件1〜3を総合し、炉内の迷光分布等によって規定される、温度既知物体の位置は、下記の様に示される。
つまり、この位置は、
条件1:炉の内壁からの距離が0.25m以上であり、
条件2:被測定点と温度既知物体とのなす角度が、被測定点の表面に対して13度以上であり、
条件3:被測定点から火炎の端までの水平距離をX1、被測定点から火炎までの高さをY1、被測定点から温度既知物体までの水平距離をX0、高さをY0とするとき上記式19を満たすように設定される。
この温度既知物体の位置を例示すれば、図15の斜線範囲である。本実施形態に係る温度測定方法は、この範囲内に温度既知物体を配置することにより、鋼片の温度測定精度を更に向上させることができる。
以上、本発明の各実施形態で使用される温度測定方法について説明した。
次に、このような方法を実際に実行する本実施形態に係る温度測定装置例について説明する。
3−3.各実施形態で使用される温度測定装置例
図15に示すように、温度測定装置100は、加熱炉1内に配置された鋼片Fの温度を測定する。図15では、加熱炉1として、バーナ2(リジェネバーナ、ショートフレームバーナ、サイドバーナ、ルーフバーナ、軸流バーナ等の様々なバーナの例。)によって加熱を行う炉を例示しているが、本実施形態に係る温度測定装置100を適用可能な加熱炉1は、この例に限定されるものではない。なお、上記本発明の各実施形態に温度測定装置100を使用する場合、撮像装置110及び温度既知物体120は、炉側壁又は炉天井から挿入等することが望ましい。つまり、この場合、図15に示す横方向が炉幅方向に相当することになる。
温度測定装置100は、図15に示すように、撮像装置110と、温度既知物体120と、演算部130と、表示部141と、記憶部142とを有する。
撮像装置110は、輝度計測部の一例であって、鋼片Fと温度既知物体120とを同一視野内に収めて撮像することが可能なように配置される。図15では、撮像装置110が加熱炉1内に挿入された場合を示しているが、この場合、撮像装置110は、耐熱構造を有する。また、撮像装置110は、加熱炉1内部を撮像可能であればよいので、例えば、加熱炉1に耐熱ガラスなどにより窓を設けて、撮像装置110を加熱炉1の外部に配置することももちろん可能である。
また、撮像装置110は、例えば、上記特徴1を満たすように、所定の波長の輝度を撮像可能なように波長選択フィルタ等(図示せず)を有する。この波長選択フィルタは、波長選択部の一例であって、所定の波長の光を透過する。この波長選択部としては、波長選択フィルタに限定されるものではない。例えば、撮像装置110が、撮像可能な全波長帯域(又は所定の波長帯域)の輝度を撮像し、画像解析部131が、所定の波長の光のみを抽出することも可能である。この場合、画像解析部131が波長選択部を兼ねることになる。また、撮像装置110の撮像素子として、所定の波長の単色輝度のみを撮像するような素子を使用することも可能である。この場合、撮像装置110が波長選択部を兼ねることになる。
このような撮像装置110としては、例えば、CCD(Charge Coupled Device)、CMOS(相補性金属酸化膜半導体)などのイメージセンサを使用したカメラを使用することができが、例えば、IP(イメージングプレート)などのように、撮像画像中の輝度値を蓄積することが可能な構成であればどのような構成であってもよい。そして、このような撮像装置110からは、撮像画像中の各画素に受光された輝度値が、電気信号として出力される。
一方、温度既知物体120は、上記特徴1、特徴2及び特徴5を満たす位置に配置され、例えば、保護管と、その保護管内部に挿入された温度計とを有する。保護管としては、例えば、上記特徴3で規定した放射率を満たす材質で構成される。金属材が鋼片Fの場合、このような材質としては、例えば、アルミナ、アルミナ・シリカ系、シリコンカーバイド、石英等のセラミックス材料や、インコネル、ハステロイ、ステンレス等の金属材料が挙げられる。また、温度計としては、例えば、熱電対温度計や抵抗温度計などの接触式温度計を使用することができる。熱電対温度計としては、例えば、白金−白金ロジウム熱電対などが挙げられ、抵抗温度計としては、例えば、白金抵抗温度計などが挙げられる。しかしながら、これらの温度計は、加熱炉1の温度や測定したい温度帯域に併せて適宜変更される。この温度既知物体120の温度は、演算部130(迷光計算部22)に出力される。
演算部130は、撮像装置110による撮像画像を解析して、鋼片Fの単色輝度から、鋼片Fの温度を算出する。その際、演算部130は、この温度を上述の通り迷光補正する。そのために、演算部130は、図15に示すように、画像解析部131と、迷光算出部132と、迷光補正部133と、温度算出部134と、放射率変更部135と、記憶部136とを有する。
画像解析部131は、撮像装置110が撮像した撮像画像(単波長の輝度値を含む画像)を解析し、温度既知物体120の輝度値に相当する出力値と、鋼片Fの輝度値に相当する出力値とを算出する。そして、画像解析部131は、それぞれ温度既知物体120に対する出力値を、迷光算出部132に出力し、鋼片Fの輝度値に対する出力値を、迷光補正部133に出力する。この際、画像解析部131は、温度既知物体120が上記特徴1及び特徴2を有する位置に配置されるため、複数の画素の平均値から温度既知物体120の輝度値に相当する出力値を算出することができ、同様に、鋼片Fに対しても平均値を使用することができる。従って、温度の算出精度誤差を低減することができる。
迷光算出部132は、温度既知物体120の輝度値に相当する出力値に基づいて、上記特徴1の手順2〜手順4を実行し、迷光量Jを算出する。なお、手順1は、既に処理されており、上記式1及び式2等は、既に迷光算出部132に記録されており、迷光算出部132は、記録している式1及び式2を使用して、手順2〜手順4を実行する。
迷光補正部133は、温度既知物体120の輝度値に相当する出力値と、迷光算出部132が算出した迷光量Jとに基づいて、上記特徴1の手順5及び手順6を実行して迷光補正し、鋼片Fの黒体輝度を算出する。
温度算出部134は、迷光補正部133が算出した鋼片Fの黒体輝度に基づいて、上記特徴1の手順7を実行して、迷光補正した鋼片Fの温度を算出する。そして、この算出結果は、表示部141に表示されたり、記憶部142に記録される。なお、表示部141は、例えば、ブラウン管(CRT:Cathode Ray Tube)・液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)・プラズマディスプレイ(PDP:Plasma Display Panel)・電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)・有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(有機EL、OELD:Organic Electroluminescence Display)・ビデオプロジェクタなどが使用可能である。
一方、画像解析部131は、更に加熱炉1の炉内壁の輝度に相当する出力値を抽出して、放射率変更部135に出力する。そして、放射率変更部135は、この出力値から、炉内壁輝度を算出し、炉内壁輝度と温度既知物体輝度との差を記憶部136に記録する。放射率変更部135及び記憶部136は、これらの情報を使用して上記特徴4を実行し、迷光算出部132が使用する温度既知物体120の放射輝度を適宜更新する。
なお、演算部130は、例えば、汎用又は専用のコンピュータで構成されてもよい。そして、このコンピュータに上記各構成の機能を実現させるプログラムを実行させることにより、演算部130を構成することができる。なお、コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)と、HDD(Hard Disk Drive)・ROM(Read Only Memory)・RAM(Random Access Memory)等の記録装置と、LAN(Local Area Network)・インターネット等のネットワークに接続された通信装置と、マウス・キーボード等の入力装置と、フレキシブルディスク等の磁気ディスク、各種のCD(Compact Disc)・MO(Magneto Optical)ディスク・DVD(Digital Versatile Disc)等の光ディスク、半導体メモリ等のリムーバブル記憶媒体等を読み書きするドライブと、モニタなどの表示装置・スピーカやヘッドホンなどの音声出力装置などの出力装置等と、を有してもよい。そして、このコンピュータは、記録装置・リムーバブル記憶媒体に記録されたプログラム、又はネットワークを介して取得したプログラムを実行することにより、演算部130の各構成の機能を実現することができる。
3−4.各実施形態で使用される温度測定装置による測定例
次に、本発明の各実施形態に係る温度測定装置及び温度測定方法により、金属材として、燃焼炉(加熱炉1の一例)内に配置された鋼片F表面温度を測定した例を示す。ここで使用した燃焼炉は、長さ8m(上記加熱炉1の場合の炉幅方向に相当)、幅2m、高さ2mであり、LNG(Liquefied Natural Gas)により鋼片Fを加熱する。鋼片Fは、およそ5m、厚み50mmである。撮像装置110は、画素38万個のCCDカメラを用いた。CCDカメラは波長フィルター機能を有しており、この波長フィルター機能により、波長1.0±0.2μmの単波長の放射光を測定した。なお、この際、波長フィルター機能は、±0.2μm程度の幅を有しているため、撮像装置110は、実際には波長0.8〜1.2μの放射光のみを計測することになるが、この程度の幅の波長は、実用上及び工業上、単波長とみなすことができる。従って、撮像装置110は、厳密な単波長光を撮像する必要はなく、工業的に単波長とみなせる程度の波長の光を撮像すればよい。
放射温度計検定業者に依頼して温度計検定用黒体炉の温度とCCDカメラの出力値との関係を検定した。検定温度範囲は900℃から1250℃である。得られた検定データを用いて、最小自乗法による当てはめ計算を行ない、上記迷光補正計算手順の中の撮像装置110の特性式20(上記式2)の具体的な形として、下記式21を得た。
ここで、GはCCDカメラのゲイン設定値、SSはシャッター速度設定値、LはCCDカメラの出力であり、また、Eは黒体炉の温度に対応する輝度であって、検定を行なった温度、900℃、1000℃、1100℃、1200℃、1250℃のそれぞれについて、上記で説明したPlanckの式で計算される値である。具体的な計算方法としては、Eを従属変数とし、G、SS、及びLを独立変数として非線形最小自乗法によって、式の中の5個の係数を決定した。この特性式は、本実施例で用いたCCDカメラに特有のものであり、CCDカメラの機種が異なる場合や、CCDカメラ以外の撮像装置110を用いる場合には、個別に作成しなければならない。
CCDカメラは、図16に示すように、炉の側壁に開口した測定口から斜め下方に向けて挿入した。鋼片Fの最も遠方の測定点(位置1)からカメラまでの水平距離は6m、鋼片Fの置かれた水平面からCCDカメラまでの高さは1.6mである。これは、CCDカメラの先端と、鋼片Fの最も遠方の測定点(位置1)を結ぶ線上に火炎が入らない位置関係になっている。CCDカメラの中心線は、鋼片Fの中央(位置2)に向けてあり、具体的には伏角21度である。この伏角は、鋼片F表面全体即ち位置1から位置3までをカメラの視野におさめるために選択したものであり、炉の形と鋼材が置かれる位置を考慮して適宜決定すればよい。このように鋼片F表面全体を視野内におさめることにより、温度測定装置100は、鋼片Fの表面全体の温度分布を測定することが可能である。
温度既知物体120は、保護管付き熱電対を用い、外径は17mmである。この保護管付き熱電対は、CCDカメラ先端から0.2m下の位置に水平に挿入し、炉壁の内面から炉内側に0.3m突き出して、先端部分がCCDカメラの視野内に入っている。CCDカメラの視野内に入る位置関係であれば、必ずしも水平に挿入する必要はなく、炉の構造によっては天井に開口して垂直に挿入する方が強度面で有利な場合もある。この熱電対は温度既知物体として働くものであるので、外側を覆う保護管は放射率が、既知のものでなければならない。本実施例では放射率0.85のアルミナ・シリカ系セラミック保護管を用いた。
この実施例では、鋼片Fの放射率は0.86であったので、上記熱電対保護管の放射率とほぼ同一であるが、上記特徴3を満たす範囲内であれば、放射率が異なっていてもよい。熱電対の種類は、JISB型熱電対を使用した。熱電対の種類は使用する温度によって適宜選択すればよい。また、熱電対でなく他の温度センサー、例えば白金抵抗温度計等を使用してもよい。
CCDカメラの視野角は左右60度上下45度と十分に大きく、鋼片F以外に炉の内壁面をも視野内に納めている。炉の内壁面の輝度と熱電対保護管表面の輝度とは熱電対に接続された記憶部136によって長期間保存され、その差の傾向管理を行なって熱電対保護管の放射率の経年変化を把握し、変化が生じた場合は、輝度の差が等しくなるよう、迷光計算に用いる温度既知物体放射率を補正する。この補正にあたっては、保存されたデータのうち、炉内温度がある一定温度(この実施例においては1190℃〜1210℃の範囲)であり、かつ、温度既知物体の温度がある一定温度(この実施例においては1170℃から1190℃)の範囲のデータのみを抽出することにより、炉内の熱放射条件が相等な条件で行った。
温度既知物体のCCDカメラでの輝度測定範囲は、表面約10mm径の円形部分であり、画素数約200個の平均値を計測した。鋼片Fの温度は、900℃から1250℃までの範囲である。図16に示された位置1、位置2、位置3の3点を計測した。位置1はCCDカメラから水平距離で約6m、位置2は約4m、位置3は約2m離れた位置である。
上記本実施形態に係る温度測定方法によって迷光補正計算を行い、鋼片Fの各位置に埋め込んだ熱電対温度計によって計測した温度と比較した結果を図17に示す。図17中、縦軸は、本実施形態に係る温度測定方法により迷光補正計算を行った計測温度であり、横軸は、埋め込み熱電対実測温度である。また、図17中の実線は、本方法による計測温度(迷光補正後)と、埋め込み熱電対実測温度が一致している線(横軸=縦軸)を表す。図17に示すように、各位置1〜3における測定点は、実線上に位置しており、埋め込み熱電対実測温度と、本方法による計測温度(迷光補正後)が良好な一致を示した。従って、本実施形態に係る温度測定方法が精度よく鋼片Fの温度を測定することが可能であることが判る。なお、本実施形態に係る温度測定方法は、更に、この位置1〜3のように、鋼片Fの撮像画像中の各個所について温度を測定することにより、鋼片Fの表面温度分布を非常に精度良く測定することが可能である。
3−5.各実施形態で使用される温度測定装置等による効果の例
最後に、本発明の各実施形態で使用される温度測定方法等による効果が判りやすいように、上記特許文献4〜5に対する有利な効果の例を説明する。ただし、ここで説明する効果は、あくまで一例であって、本実施形態に係る温度測定方法等による効果を限定するものではないことは言うまでもない。
3−5−1.特許文献4
上記特許文献4に記載の温度測定方法では、温度測定物体の表面に遮蔽板を設けて炉内迷光を遮断する。そして、遮蔽板は、水冷して遮蔽板自体からの熱放射を防いでいる。遮蔽板の発する放射による誤差は、遮蔽板の温度T2を実測し、見掛け放射エネルギーG1から下記の式22により補正後真温度T1を得る。なお、Eb(T)は温度Tにおける放射エネルギを表す。
この特許文献4では、鋼片の近くに遮蔽板を置く必要がある。しかし、鋼片が移動する場合、例えばウォーキングビーム式加熱炉等では、鋼片の動きによって遮蔽板が破損する恐れがある。鋼片の移動に応じて遮蔽板が移動する機構を設ければ測定システム自体が複雑になる。また、遮光板で迷光を完全に遮断することは困難であり、迷光の経路によっては、精度が低下してしまう可能性がある。
一方、本実施形態に記載の温度測定方法等では、鋼片の近くに構造物を置く必要性がない。従って、本実施形態に記載の温度測定方法等は、上記特許文献4に対して、遮蔽板、その水冷装置、複雑な測定システムなどを使用する必要が無く、簡単な装置構成により温度を測定することができる。また、この温度測定方法等では、迷光量を算出して、迷光補正を行うため、遮光板で遮断しきれないような迷光の影響も低減させることができ、高精度の温度測定が可能である。
3−5−2.特許文献5
特許文献5に記載の温度測定方法では、炉壁の実測温度Twと炉壁実効温度Tw’を用い、輝度Lを表す下記の式によって放射温度計の見掛け温度Sから補正した表面温度Tを得る。
この際、上記の炉壁実効温度Tw’は、炉壁に2ヶ所以上設置した温度計の実測温度Tw1,Tw2,…Twnの輝度の一次式24により算出する。
この一次式の係数a1,a2,…anは実験等によりあらかじめ炉体形状及び鋼材の寸法に適合した値に設定しておく。
この特許文献5では、炉内における迷光の光源は、主に火炎と炉壁である。しかしながら、この特許文献5では、炉壁からの迷光の影響はある程度補正できるが、火炎からの放射エネルギーが変化した場合の補正が困難である。火炎を用いない加熱炉や火炎の温度や大きさが常に一定の加熱炉ならば火炎から発する迷光は、係数a1,a2,…anに一定値として含まれるが、火炎が変動すれば、この係数a1,a2,…anは変わるものと考えられる。一般に、加熱炉では被熱物の量及び到達温度に応じて温度を適正に制御するために燃焼装置の燃焼量を適宜調節するので火炎状態は時間と共に変化する。これに対して、特許文献2では、火炎の変化に応じた補正手段は示されていない。従って、この特許文献5を火炎を用いる加熱炉に適用することは困難である。
一方、本実施形態に記載の温度測定方法等では、炉壁から発する迷光と火炎から発する迷光がいずれも温度既知物体に照射されるように、温度既知物体を炉内空間に配置する。また、火炎と鋼片及び温度既知物体との位置関係を上記特徴5に示すように規定する。従って、本実施形態に記載の温度測定方法等では、火炎の放射エネルギーの変動に対しても適正な補正を行うことが可能である。
3−5−3.特許文献6
特許文献6については、上記関連技術で説明した通りであり、上記の説明において詳しく本発明の各実施形態による効果等を説明したが、本発明の各実施形態に係る温度測定装置は、更に、温度既知物体を鋼片から離れたカメラの近傍に設置し、炉内ガスによる吸収及び放射が起こらない波長の単色輝度を撮像する等によって、上記特許文献4で説明した鋼片の移動による種々の障害を回避するとともに、通常小さな物体である温度既知物体の画角を大きくして十分な画素数を得、かつ、迷光補正精度を高めることが可能である。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
なお、上記実施形態では、本発明の各実施形態に係る温度測定方法等の特徴が判りやすいように、特徴1〜特徴5と区分して説明した。しかしながら、この特徴1〜特徴5は、本発明の各実施形態の特徴を限定するものではなく、本発明の各実施形態の特徴は、各特徴1〜特徴5で詳細に説明した中に記載された各特徴をも含むことは言うまでもない。
また、上記第1実施形態では、サイドバーナタイプのショートフレームバーナを使用する場合について説明し、上記第2実施形態では、サイドバーナタイプとルーフバーナタイプのショートフレームバーナを使用する場合について説明した。しかしながら、上述の通り、上記配置条件及びフレーム長条件を満たすショートフレームバーナとしては、サイドバーナタイプ、ルーフバーナタイプ及びフロアバーナタイプのいずれか、又は、いずれかの組み合わせを使用することが可能である。更に、上記実施形態では、鋼片Fの搬送位置の上下両側にショートフレームバーナを配置する場合について説明したが、上方のみ、又は、下方のみにショートフレームバーナを配置することも可能である。更に加えて、上記実施形態では、にショートフレームバーナが、鋼片Fの長手方向両端部FL,FCに対応する位置に配置される場合について説明したが、どちらか一方の端部FL,FCに対応する位置に配置されることももちろん可能である。また、このショートフレームバーナの配置範囲は、上記抽出口OUTから炉長の1/3の範囲内で調整可能であり、かつ、ショートフレームバーナの個数も適宜調整可能である。例えば圧延等の後続処理の形態や条件により必要となる局部加熱部位やその部位の加熱量が異なるので、このショートフレームバーナのタイプ、個数、及び、配置位置等は、鋼片Fにおける低温部に対して必要な局部加熱量、加熱時間、鋼片Fの昇温特性等を考慮して決定されることが望ましい。
尚、本明細書において、フローチャートに記述されたステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的に又は個別的に実行される処理をも含む。また時系列的に処理されるステップでも、場合によっては適宜順序を変更することが可能であることは言うまでもない。