JP5640224B2 - ハロゲン化処理用コバルト・クロム基合金基材、およびこれを用いたハロゲン化処理材ならびに表面硬化処理材 - Google Patents

ハロゲン化処理用コバルト・クロム基合金基材、およびこれを用いたハロゲン化処理材ならびに表面硬化処理材 Download PDF

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Description

本発明は、ハロゲン化処理に適した、すなわちハロゲン化処理を施してもボイドを発生させることのないコバルト・クロム基合金基材、およびこれを用いたハロゲン化処理材ならびに表面硬化処理材に関するものである。以下では人工関節摺動部材に用いるコバルト・クロム基合金を例に挙げて説明するが、これに限定する趣旨ではない。
コバルト・クロム基合金は、人工関節摺動部材の代表的な合金として世界中で広く使用されており、ASTM F1537規格(展伸材)やF75規格(鋳造材)として登録されている。本合金を用いた人工関節摺動部材の組み合わせとしては、コバルト・クロム基合金製の骨頭にUHMWPE(超高分子量ポリエチレン)のライナーを組み合わせた、いわゆるMetal−on−PE型や、コバルト・クロム基合金の骨頭にコバルト・クロム基合金のライナーを組み合わせた、いわゆるMetal−on−Metal型(以下、「MOM型」と呼ぶ。)が挙げられる。その中でも特にMOM型人工関節は、破壊や摩耗による消失のリスクが少なく、ライナーの厚みを薄く(2.5mm程度)設計できることから、大径の人工股関節や表面置換型人工関節等に多用されており、脱臼リスクの回避や骨温存の面で恩恵を受ける患者さんが多い。
MOM型人工関節に用いられるコバルト・クロム基合金は、鋳造材や展伸材に関わらず合金中に含まれる炭素量を0.15〜0.35質量%程度に高く設定することが重要である。なぜなら、炭素量を0.15質量%以上添加することで、素材中に硬質の炭化物が多数分散した組織となり、その炭化物が同種の合金同士の凝着摩耗を抑制して摩耗量を減少できると考えられているためである。
本発明者らは、上記高炭素コバルト・クロム基合金にさらに表面硬化処理を施して表面硬度を高め、耐摩耗性を向上させる試みを行ってきた。この表面硬化処理は、800〜1000℃の高温域で行う従来の浸炭/窒化処理とは異なり、300〜600℃のより低温で処理を行うものであり、このような低温とすることによって、素材中のCr濃度の低下に伴う耐食性の劣化の抑制ができる。つまり低温での表面硬化処理は、表面硬化と耐食性を両立できるという利点を有する。但し、コバルト・クロム基合金の表面は不動態被膜で覆われており、低温域での浸炭/窒化処理では炭素が固溶しないため、NF3やHClに代表されるハロゲン系ガスに曝す活性化処理や、不活性ガス(Ar等)によるスパッタ洗浄等の前処理を行うことによって不動態被膜を除去する必要があることが知られている。
例えば、特許文献1にはコバルト・クロム基合金に、プラズマ処理によって炭素、窒素、ホウ素等の拡散硬化処理を施すにあたり、酸化物スケールをアルゴン等のガス雰囲気中で溶射洗浄(スパッター洗浄)することが開示されている。また、特許文献2には、コバルト・クロム基合金材料にNF3等のフッ素系ガスを用いて活性化処理を行った後、浸炭処理する方法が開示されている。
特表2005−524772号公報 特開2007−277710号公報
しかし、本発明者らが検討した結果、従来の高炭素コバルト・クロム基合金に活性化処理等のハロゲン化処理を行った場合、ハロゲン化処理後の表層部分にボイド状の欠陥が発生することが判明した。そこで本発明は、高炭素コバルト・クロム基合金において、ハロゲン化処理を施してもボイドの発生が抑制されたハロゲン化処理用コバルト・クロム基合金基材、およびこれを用いたハロゲン化処理材ならびに表面硬化処理材を提供することを目的とする。
上記課題を達成した本発明に係るハロゲン化処理用コバルト・クロム基合金基材とは、コバルト・クロム基合金からなる基材であって、前記基材の表面から少なくとも深さ0.1mmに亘る領域において、電解液として10%アセチルアセトン系電解液を用い、電解抽出残渣をX線回折法にて分析した時、M6C型炭化物の(511)面に由来するピークの積分強度I(M6C)、M236型炭化物の(511)面に由来するピークの積分強度I(M236)、およびM23X型炭化物の(221)面に由来するピークの積分強度I(M23X)が下記(1−1)式の関係を満たすことを特徴とする。
前記ハロゲン化処理用コバルト・クロム基合金基材は、窒素量が0.10質量%以上であり、窒素以外の元素の含有量は、ASTM F75に規定の範囲内であり、鋳放し材であることが好ましい。
本発明はコバルト・クロム基合金基材をハロゲン化処理して得られるコバルト・クロム基合金ハロゲン化処理材であって、前記ハロゲン化処理材の表面から少なくとも深さ0.1mmに亘る領域(但し、表面から深さ0.01mmに亘る領域は除く)において、電解液として10%アセチルアセトン系電解液を用い、電解抽出残渣をX線回折法にて分析した時、M6C型炭化物の(511)面に由来するピークの積分強度I(M6C)、M236型炭化物の(511)面に由来するピークの積分強度I(M236)、およびM23X型炭化物の(221)面に由来するピークの積分強度I(M23X)が下記(1−2)式の関係を満たすことを特徴とするコバルト・クロム基合金ハロゲン化処理材も包含する。
また、本発明はコバルト・クロム基合金基材にハロゲン化処理を施し、さらに表面硬化処理を施して得られるコバルト・クロム基合金表面硬化処理材であって、前記表面硬化処理材の表面から少なくとも深さ0.1mmに亘る領域(但し、表面から深さ0.05mmに亘る領域は除く)において、電解液として10%アセチルアセトン系電解液を用い、電解抽出残渣をX線回折法にて分析した時、M6C型炭化物の(511)面に由来するピークの積分強度I(M6C)、M236型炭化物の(511)面に由来するピークの積分強度I(M236)、およびM23X型炭化物の(221)面に由来するピークの積分強度I(M23X)が下記(1−3)式の関係を満たすことを特徴とするコバルト・クロム基合金表面硬化処理材も包含する。
前記コバルト・クロム基合金表面硬化処理材は生体用摺動部材に用いられるものであることも好ましい態様である。
本発明によれば、コバルト・クロム基合金基材中に存在する炭化物の種類およびその量を適切に制御しているため、ハロゲン化処理を施したハロゲン化処理材の表層部分においてボイド状の欠陥が抑制できるという効果を有する。その結果、その後さらに表面硬化処理を施した表面硬化処理材の表層部分においてもボイド状の欠陥が抑制された状態を維持することができ、表面粗さを調整するための研磨を低減できるため、表面硬化層を研磨によって減少させることがなく表面硬度が十分に確保でき、耐摩耗性に優れたコバルト・クロム基合金表面硬化処理材を提供することができる。
図1は、実施例におけるサンプルA〜Fを定電位電解した電解抽出残渣(炭化物)をX線回折法で分析した結果を示すグラフである。 図2は、実施例においてハロゲン化処理を行ったサンプルA〜Fの表面を観察したレーザー顕微鏡写真である。 図3は、実施例においてハロゲン化処理を行ったサンプルCについて、表面のレーザー顕微鏡写真と、その観察視野における凹凸プロファイルを示すグラフである。 図4は、N添加量と各析出物のピーク強度の相対割合の関係を示すグラフである。 図5は、N添加量とハロゲン化処理後のボイドの発生割合の関係を示すグラフである。 図6は、実施例におけるサンプルA、C、およびEについて、鋳放し材と熱処理材を定電位電解した電解抽出残渣(炭化物)をX線回折法で分析した結果を示すグラフである。 図7は、実施例におけるサンプルA、C、およびEについて、ハロゲン化処理を行った鋳放し材と熱処理材の表面を観察したレーザー顕微鏡写真である。
本発明者らは、ハロゲン化処理後の表層部分のボイドの発生について、高炭素コバルト・クロム基合金に析出する炭化物が大きな影響を与えているのではないかと考えた。
高炭素コバルト・クロム基合金中に存在する炭化物は例えば以下の文献に記載されている。例えばA.J.T.Clemow and B.L.Daniell、 J Biomed Mater Res.,13(1979),265−279によれば、高炭素コバルト・クロム基合金を用いた鋳放し状態および溶体化熱処理後における析出物には、M236型炭化物、M6C型炭化物、およびσ相が観察された旨が開示されている。また、峯田真悟ら:日本金属学会2009年秋季(145回)大会講演概要,(2009),485によればC量が0.25質量%、0.35質量%である高炭素コバルト・クロム基合金を鋳放しした状態の素材では、M236型炭化物およびM6C型炭化物が確認され、一方、C量が0.15質量%であるコバルト・クロム基合金を鋳放しした状態の素材では、前記2種類の炭化物に加え、M23X型炭化物が確認されたことが開示されている。
本発明者らはハロゲン化処理後の表層部分におけるボイドの発生が、高炭素コバルト・クロム基合金に生成する炭化物の種類と、それらの存在割合に起因していると考え、さらに検討を進めた結果、高炭素コバルト・クロム基合金に生成する炭化物のうち、M23X型炭化物のみがハロゲン系ガスに曝したとしてもボイドに変化しないことが判明した。つまり、少なくとも表層部分において前述したM236型炭化物、M6C型炭化物の生成を抑制し、M23X型炭化物を多量に析出させるようにすれば、ハロゲン化処理しても表層部分のボイドの発生を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
本発明において、コバルト・クロム基合金基材における炭化物の存在割合は、後記する実施例で詳述する通り、電解抽出液として10%アセチルアセトン系電解液を用いて定電位電解を行い、抽出残渣の結晶相をX線回折装置で同定してそれぞれの炭化物の最強ピーク積分強度を求め、それらの比を算出することによって評価することができる。前記10%アセチルアセトン系電解液としてはアセチルアセトンを10v/v%、テトラメチルアンモニウムクロライドを1w/v%含有するメタノール溶液を用いることができる。
6C型炭化物は、Co662(ICDD(International Centre for Diffraction Data)カード番号:080−0339)および/またはCo66C(ICCDカード番号:080−0339)と同じ回折パターンを持ち、2θ=42.39〜43.09°付近に(511)面に由来する最強の回折ピークが存在する。M236型炭化物は、Cr236(ICCDカード番号:071−0552)と同じ回折パターンを持ち、2θ=44°付近に(511)面に由来する最強の回折ピークが存在する。M23X型炭化物はMn12Ni4.04Si2.84(ICCDカード番号:032−0643)および/または(Cr,Mo)12(Fe,Ni)8-x4-z(ICCDカード番号:026−0428)と同じ結晶構造であり、2θ=42〜43°付近に(221)面に由来する最強の回折ピークが存在する。
そこで、本発明における炭化物の存在割合は、M6C型炭化物の(511)面に由来するピークの積分強度I(M6C)、M236型炭化物の(511)面に由来するピークの積分強度I(M236)、およびM23X型炭化物の(221)面に由来するピークの積分強度I(M23X)の比によって評価するものとし、具体的にはこれらが下記(1)式の関係を満たすようにする。
すなわち、M6C型炭化物、M236型炭化物、およびM23X型炭化物のうち、ハロゲン化処理によってボイドに変化してしまうM6C型炭化物とM236型炭化物の存在割合を少なくすれば、ハロゲン化処理材および表面硬化処理材においてボイドの抑制された状態とすることができる。
本発明における炭化物の存在割合は、コバルト・クロム基合金基材(以下、単に「基材」と呼ぶ。)においても、前記基材をハロゲン化処理したコバルト・クロム基合金ハロゲン化処理材(以下、単に「ハロゲン化処理材」と呼ぶ)においても、更に前記ハロゲン化処理材を表面硬化処理したコバルト・クロム基合金表面硬化処理材(以下、単に「表面硬化処理材」と呼ぶ)においても同様であり、いずれの材料においても、少なくとも表層部分、すなわち表面から少なくとも深さ0.1mmに亘る領域において上記(1)式を満たすようにすれば良い。但し、ハロゲン化処理材については形成するハロゲン化被膜の厚みが通常10μm(=0.01mm)以下程度であるので、ハロゲン化処理の影響を除くため、表面から深さ0.01mmに亘る領域は除くものとする。また、表面硬化処理材については表面硬化層の厚みが通常50μm(=0.05mm)以下程度であるので、表面硬化処理の影響を除くため、表面から深さ0.05mmに亘る領域は除くものとする。
上記(1)式の左辺の値は、基材、ハロゲン化処理材、および表面硬化処理材のいずれにおいても好ましくは10以下であり、最も好ましくは0である。
本発明の基材の製造方法は特に限定されないが、例えば(i)窒素量が0.10質量%以上であり、窒素以外の元素の含有量はASTM F75に規定の範囲内であるコバルト・クロム基合金を鋳型に流し込んで鋳造したまま(鋳放し状態)、また(ii)ASTM F75に規定の成分範囲で窒素量が0.10質量%未満であるコバルト・クロム基合金を用いる場合は、前記(i)と同様に鋳造した後、再度1250〜1350℃程度の温度範囲で1〜1000秒程度保持してから、20〜500℃/秒程度の冷却速度で室温まで冷却(例えば、水冷)しても良い。
前記(i)については、N量を多くすることによって炭化物をM23X主体のものとすることができ、また前記(ii)については前記温度範囲で再加熱することにより鋳造後に析出した炭化物を一旦溶融させ、その後水冷等してM6C型炭化物、M236型炭化物の安定化領域である1200℃付近での滞在時間を極力短くすることによって、晶出あるいは析出する炭化物をM23X主体のものとすることができる。なお、再加熱時間が長くなりすぎると炭化物が基地組織(炭化物以外の部分)に固溶してしまい、炭化物が完全に消失してしまう。本発明を例えばMOM型人工関節に適用する場合、MOMの耐摩耗性向上には上記した通り炭化物が分散析出していることが有効であるので、再加熱時間が長くなりすぎることは好ましくない。
本発明の基材は、300〜600℃といった低温の表面硬化処理を行うに先立って、例えばNF3とN2の混合ガスによる活性化処理などのハロゲン化処理をする必要がある。上述した通り、ハロゲン化処理を施すことで基材の表面に形成された不動態被膜をハロゲン化被膜(通常、10μm以下程度)に変化させることができ、その結果表面硬化処理においてハロゲン化被膜が消失し、活性な基材表面となり、炭素を前記合金表面に固溶させることができる。前記ハロゲン化処理は、ガスを用いた方法であっても良いし、液体を用いた方法であっても良い。
ハロゲン化処理に用いるガスとしては、例えばNF3、BF3、CF4、HF、SF6、C26、WF6、CHF3、SiF4、ClF3等のフッ素系ガスを単独で、または2種以上組み合わせて用いてもよい。通常はこれらのフッ素系ガスをN2ガスやArガス等の不活性ガスで希釈して使用する。ガスを用いるハロゲン化処理は、加熱処理用の炉内にコバルト・クロム合金基材を入れ、前記ガス雰囲気中で、例えば200〜500℃に加熱して10〜180分間保持すれば良い。
液体を用いたハロゲン化処理としては、酸性溶液に浸漬する方法が挙げられる。酸性溶液としては、塩酸、硝酸、過酸化水素、硫酸、フッ酸のいずれか1種類または2種類以上を混合した溶液を用いることができる。特に、塩酸と硝酸、塩酸と硝酸と過酸化水素、または塩酸と過酸化水素を混合した溶液が好ましく、短時間で表面の酸化クロムの不動態被膜を溶解させることができる。
本発明のハロゲン化処理材は、本発明の基材に上述したハロゲン化処理を施すことによって得ることができる。本発明のハロゲン化処理材では、ボイドの発生割合を20%以下とすることができ、より好ましくは10%以下であり、最も好ましくは0%である。なお、ボイドの発生割合の測定方法は、後述の実施例に記載の通りであり、ハロゲン化処理前の基材における析出炭化物の合計面積と、ハロゲン化処理後の発生ボイドの合計面積を測定し、これらの比(発生ボイドの合計面積/ハロゲン化処理前の基材における析出炭化物の合計面積)を算出することによって評価するものとする。
また、表面硬化処理としては、浸炭処理、窒化処理、ホウ化処理、酸化処理等が挙げられる。例えば前記したハロゲン化処理材を処理炉内に配置し、炉内に炭素源、窒素源等を含む混合ガスを導入し、一般的に採用されている温度で処理を行うことができる。
例えば、表面硬化処理として浸炭処理を行う場合、処理条件は以下のようにすることができる。基材の温度(浸炭温度)は450〜550℃とすることができる。このような温度範囲は、炭素は基材の表面に固溶するが、炭化クロムは形成しにくい温度であるため好ましい。浸炭温度が450℃未満であると、炭素の固溶が進まず、望ましい表面硬度を有する浸炭硬化層が形成されないので好ましくない。また550℃より高い温度であると、炭化クロムの形成が促進され、耐食性が劣化するので好ましくない。
浸炭処理における炭素源には、例えばCOやCO2、CH4、C26、C38、C410の1種類または2種類以上を用いることができ、これら炭素源と例えばH2の混合ガスを不活性ガス(N2、Ar、He等)で希釈して用いても良い。浸炭処理の時間は、処理温度と浸炭硬化層の厚みとの関係によって調整することができるが、通常は1〜50時間であり、最も一般的には10〜35時間行われる。
本発明の表面硬化処理材は、本発明のハロゲン化処理材に上述した表面硬化処理を行うことによって得ることができる。表面硬化層の厚みは、特に限定されないが概ね1〜50μm程度である。
本発明の表面硬化処理材は、ハロゲン化処理の後に表面硬化処理したものであるが、本発明のハロゲン化処理材は基材の炭化物が適切に制御されているためボイドの発生が抑制されており、表面硬化処理材においてもボイドが抑制されている。ハロゲン化処理によってボイドが発生していた従来技術によれば、ボイドの深さは深いもので3μm以上にも達しており、表面粗さを低減するために浸炭処理後に再研磨をする必要があった。深さ3μm以上ものボイドを消失させるまで表面硬化層を再研磨除去すると、表面硬度が著しく低下し(例えば、再研磨前の表面硬度がHv1100程度であるのに対し、再研磨後の表面硬度はHv700程度にまで低下)、耐摩耗効果が得られにくい表面状態にならざるを得なかった。これに対して、本発明の表面硬化処理材は、ボイドの発生が抑制されているため、表面硬化処理後の再研磨を最小限に抑えることができる(再研磨量は例えば1μm程度)ため、表面硬化処理による硬度上昇効果を存分に発揮(再研磨後の表面硬度はHv1000〜1050程度)させることができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
実施例1 高炭素コバルト・クロム基合金の鋳放し材におけるボイド発生の検討
ASTM F75に規定の範囲内の組成で炭素量および窒素量を調整したA〜Fの高炭素コバルト・クロム基合金基材をインベストメント鋳造により作製し、φ15mm×90mmの鋳放し材を得た。化学組成を表1に示す。
前記鋳放し材の中央位置付近から、φ15mm×2mmの円盤状サンプルを切り出し、♯1200までの湿式研磨を施した。その後10%アセチルアセトン系電解液を用いて前記サンプルを約2000Cまで定電位電解を行った後、サンプルをメタノール中で超音波振とうしてサンプル表面に露出した析出物を剥離した。さらに剥離後のメタノール溶液を0.2μmのフィルター(ニュークリポアフィルター)を用いて吸引ろ過し、電解抽出残渣を得た。電解抽出残渣の結晶相の同定はX線回折装置を用いて以下の条件で行った。得られた回折ピークは、粉末X線回折パターン解析ソフト(JADE ver.5)を用いて解析し、結晶相を同定して各析出相の最強線の積分強度を算出した。なお、上記方法によって得られた鋳放し材における各析出相の最強線の積分強度は、前記鋳放し材のいずれの位置においても同様であり、上記方法によって算出された積分強度は、鋳放し材の表層部分(すなわち、表層から少なくとも深さ0.1mmに亘る領域)の積分強度とみなすことができる。
X線回折装置:リガク製、RINT2000
ターゲット:Cu
ターゲット出力:40kV−300mA
スリット系:発散1°、散乱1°、受光0.15mm
サンプリングステップ:0.02°
2θ:35〜60°
X線回折による析出相の同定結果を図1に示す。
サンプルA〜F中にはM6C型、M236型、およびM23X型の3種類の炭化物が確認され(図1中、四角はM6Cを、三角はM236を、菱形はM23Xを、丸印は母相を表すものとする)、窒素添加量が高くなるほど(つまりAからFに向かうに従って)M23X型炭化物のピーク強度が高くなっている。すなわち、窒素添加量が0.05質量%以下のサンプルAおよびBでは、M6C型炭化物およびM236型炭化物の2種類のみが確認され、M23X型炭化物は確認できないが、窒素添加量が0.08質量%以上のサンプルC〜FではM23X型炭化物の析出が見られ、特にサンプルFにおいてはM23X型炭化物のみとなっている。
次に、サンプルA〜Fのハロゲン化処理材のボイド発生状況を確認するため、上記鋳放し材の中央位置からφ15mm×1mmの試験片を採取し、♯2400までの湿式研磨およびコロイダルシリカによるバフ研磨を施した鏡面状態の試験片に、活性化処理(350℃、1時間、雰囲気:NF310体積%+N290体積%)を実施した。活性化処理後の各サンプルは、表面のフッ化処理膜を除去するため、再度コロイダルシリカ懸濁液を用いてバフ研磨を施した後、共焦点レーザー顕微鏡(島津製作所社製OLS1200型)によってボイドの発生状況の観察を行った。図2に観察結果を示す。
各サンプルの炭化物は活性化処理前には全て灰色に観察されていたが、活性化処理によって炭化物部が黒色に変化しているものが観察された。図2より明らかな通り、黒色となった炭化物の発生頻度はサンプルA〜Fで大きく異なっており、上記X線回折でM6C型炭化物およびM236型炭化物の2種類のみが観察されたサンプルAおよびBでは全ての炭化物が黒色へと変化していた。一方、M23X型炭化物のみ観察されたサンプルFではほぼ全部の炭化物が灰色であり黒色には変化していなかった。
また各サンプルA〜Fで同定された各炭化物の最強ピークの積分強度の相対割合(I(M6C)、I(M236)、およびI(M23X)の合計を100とした時の割合)と黒色ボイドの発生割合を表2に示す。なお、ボイドの発生割合は、活性化処理前に灰色に観察された炭化物の合計面積と、活性化処理後に黒色に変化した炭化物部の合計面積をそれぞれ測定し、灰色の炭化物の合計面積に対する黒色に変化した炭化物部の合計面積を計算することによって求めた。
表2より、ボイドの発生割合は、M6C型炭化物とM236型炭化物の合計量と相関関係があり、ボイド発生を低減させるためにはM6C型炭化物とM236型炭化物の析出を抑制し、M23X型炭化物を多く析出させることが有効であることが分かる。
図3に、サンプルCについて黒色炭化物部と灰色炭化物部で行った表面の凹凸プロファイル結果を示す。図3において黒色炭化物部(番号1〜4)では全て1〜2μm程度の凹みとなっていた。一方、灰色炭化物部(番号5、6)は基地組織とほぼ同様の平坦なプロファイルを示していた。すなわち、黒色に観察された炭化物部は全て活性化処理によりボイドに変化したことが分かる。
以上の結果より、ハロゲン系ガス(NF3)に対する耐性が炭化物の種類(結晶構造)によって異なっており、M6C型炭化物およびM236型炭化物の2種類の炭化物は、ハロゲン系ガスに曝すことでボイドへと変化する。一方、M23X型炭化物は、ハロゲン系ガスに対する耐性が高いためボイドへと変化することなくそのまま残存したものと推察される。
図4および5に、窒素添加量と炭化物の相対割合、および窒素添加量とボイド発生割合をまとめた図を示す。鋳放し状態においては窒素を添加するほどM23X型炭化物の割合が多くなり、その結果ボイドの発生割合が減少していることが分かる。
実施例2 高炭素コバルト・クロム基合金の熱処理によるボイド発生の低減
実施例1では、鋳放し状態では窒素添加量を制御することによりM23X型炭化物を多く析出させ、その結果ハロゲン化処理材においてボイド発生を低減できることが明らかとなった。
本実施例では、鋳放し材に熱処理等の後処理を実施することと、ハロゲン化処理後のボイド発生の関係について検討する。
実施例1で用いたサンプルA、C、Eの鋳放し材について、1300℃で10秒間保持しその後直ちに水冷するという熱処理を施した。熱処理後のサンプルは、それぞれφ15mm×2mmの円盤状に切断し、♯1200までの湿式研磨を施した後、実施例1と同様にしてサンプルを電解抽出し、電解抽出残渣の構成相をX線回折法によって同定した。
熱処理前後の電解抽出残渣におけるX線回折結果を表3および図6に示す。
A、C、Eのいずれのサンプルにおいても熱処理後の炭化物は全てM23X型炭化物に変化しており、鋳放し材においてM6C型炭化物およびM236型炭化物の析出が観察される場合であっても、その後の熱処理によってM23X型炭化物を析出させることができることが分かった。
またこれらのサンプルを実施例1と同様に活性化処理し、ボイドの発生状況をレーザー顕微鏡で観察した。結果を図7に示す。
図7によれば、熱処理後はいずれのサンプルもボイドの発生(すなわち黒色部)は観察されず、1300℃で10秒間といった高温で短時間の熱処理を施すことによっても、ハロゲン化処理後のボイドの発生を低減できることが分かった。

Claims (5)

  1. 炭素量が0.15〜0.35質量%であるコバルト・クロム基合金基材にハロゲン化処理を施し、さらに表面硬化処理を施して得られるコバルト・クロム基合金表面硬化処理材であって、
    前記表面硬化処理材の表面から少なくとも深さ0.1mmに亘る領域(但し、表面から深さ0.05mmに亘る領域は除く)において、電解液として10%アセチルアセトン系電解液を用い、電解抽出残渣をX線回折法にて分析した時、M6C型炭化物の(511)面に由来するピークの積分強度I(M6C)、M236型炭化物の(511)面に由来するピークの積分強度I(M236)、およびM23X型炭化物の(221)面に由来するピークの積分強度I(M23X)が下記(1−)式の関係を満たすことを特徴とするコバルト・クロム基合金表面硬化処理材。
  2. 生体用摺動部材に用いられるものである請求項に記載のコバルト・クロム基合金表面硬化処理材。
  3. 炭素量が0.15〜0.35質量%であるコバルト・クロム基合金基材をハロゲン化処理して得られ、請求項1に記載の前記表面硬化処理に用いられるコバルト・クロム基合金ハロゲン化処理材であって、
    前記ハロゲン化処理材の表面から少なくとも深さ0.1mmに亘る領域(但し、表面から深さ0.01mmに亘る領域は除く)において、電解液として10%アセチルアセトン系電解液を用い、電解抽出残渣をX線回折法にて分析した時、M6C型炭化物の(511)面に由来するピークの積分強度I(M6C)、M236型炭化物の(511)面に由来するピークの積分強度I(M236)、およびM23X型炭化物の(221)面に由来するピークの積分強度I(M23X)が下記(1−2)式の関係を満たすことを特徴とするコバルト・クロム基合金ハロゲン化処理材。
  4. 炭素量が0.15〜0.35質量%であるコバルト・クロム基合金からなり、請求項3に記載の前記ハロゲン化処理に用いられる基材であって、
    前記基材の表面から少なくとも深さ0.1mmに亘る領域において、電解液として10%アセチルアセトン系電解液を用い、電解抽出残渣をX線回折法にて分析した時、M6C型炭化物の(511)面に由来するピークの積分強度I(M6C)、M236型炭化物の(511)面に由来するピークの積分強度I(M236)、およびM23X型炭化物の(221)面に由来するピークの積分強度I(M23X)が下記(1−)式の関係を満たすことを特徴とするハロゲン化処理用コバルト・クロム基合金基材。
  5. 窒素量が0.10質量%以上であり、窒素以外の元素の含有量は、ASTM F75に規定の範囲内であり、鋳放し材である請求項に記載のコバルト・クロム基合金基材。
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