JP2007277710A - コバルト・クロム基合金材料及びその製造方法 - Google Patents

コバルト・クロム基合金材料及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、浸炭処理したコバルト・クロム基合金から形成されており、表面の硬度が向上すると共に生体安全性も確保された摺動部材に適した材料と、その製造方法とを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、コバルト・クロム基合金を基材とする耐食性及び耐摩耗性に優れた合金材料であり、その材料の表面に、2.3〜4.0重量%の炭素を固溶化した固溶化層が形成されており、固溶化層の格子定数が3.65Å以上であることを特徴とする。また、本発明は、上記のようなコバルト・クロム基合金材料を製造するのに適した方法であって、コバルト・クロム基合金の基材を形成する工程と、前記基材の表面を活性化処理する工程と、前記基材の表面を浸炭処理する工程と、を含み、前記浸炭処理が、ガス浸炭であることを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、耐摩耗性及び耐食性に優れたコバルト・クロム基合金から成る合金材料に関し、特に、表面に炭素を固溶化した固溶化層を備えた合金材料に関する。
コバルト・クロム基合金は、生体用金属材料の中でも優れた耐摩耗性及び力学的特性を有していることから、人工関節の摺動部材及び荷重支持部用の材料として広く使用されている。摺動部に用いられているコバルト・クロム基合金は、高分子材料あるいは同種のコバルト・クロム基合金と組み合わせて使用されている。しかしながら、コバルト・クロム基合金といえども、アルミナやジルコニアに代表されるセラミック材料と比較して、表面硬度が半分以下であることから、耐かじり性(スクラッチ性)に劣っており、生体内環境での摩耗が生じる部位に硬質の介在物が存在すると、それにより合金表面が損傷し、その結果、摩耗が急速に進行する等の懸念がある。従って、コバルト・クロム基合金の表面をセラミックの硬度に近い、又はそれ以上にするための表面処理法が、種々検討されている。
DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、TiN及びCrN等の硬質薄膜をCVDやPVDによって金属表面に成膜する技術は、金属基材のミクロ組織を変えずに比較的簡便な手法で達成させることができる。しかしながら、それら硬質薄膜と基材界面において剥離が生じ易いことから、生体内に埋入後の長期信頼性が問題視されている。
高い加速電圧で窒素イオンあるいは炭素イオンを注入する技術では、前記成膜技術のような剥離の問題は解消されるが、高価で大規模な装置が必要となることや、表面改質層が200nm程度と非常に薄く、注入後の再研磨加工が出来ないことから、平滑性に問題が残る。
これに対して、浸炭処理は、材料表面に数十μmの比較的厚い表面改質層を付与できることから、処理後に鏡面研磨等の再研磨加工を行うことができ、表面硬度および平滑性を共に向上させる手段として有効であると考えられる。
コバルト・クロム基合金材料の表面に浸炭処理する方法として、低温プラズマ浸炭技術がある(例えば特許文献1)。この方法は、コバルト・クロム基合金物品を、少なくとも一種類の炭素含有ガスを構成成分として有する雰囲気中で、300〜700℃の温度、100〜1500Paの圧力下に、1〜50時間プラズマ処理を行い、物品の表面領域に炭素を導入して、表面特性を改良している。浸炭処理したコバルト・クロム基合金物品は、硬度、耐磨耗性、耐腐食性および疲労強度などの表面特性が向上する。
また、オーステナイト系金属材料の表面に浸炭処理する別の方法として、ガス浸炭が知られている(例えば、特許文献2)。この方法では、浸炭処理に先立って、フッ素系ガス雰囲気下でオーステナイト系金属を加熱状態で保持し、ついで浸炭処理の際の温度を680℃以下の温度に設定して浸炭処理することを特徴とする。
特表2005−524772号公報 特許第3005952号明細書
コバルト・クロム基合金を浸炭処理した材料を生体材料として使用する場合には、下記のような問題がある。
生体材料の生体安全性が確保されるのは、コバルト・クロム基合金の表面が、空気中にある酸素と反応してクロムを主成分とする酸化物(不動態膜)を形成し、この不動態膜により合金材料が保護されて、金属イオンの溶出を抑制するためである。よって、生体安全性を確保するには、コバルト・クロム基合金材料の表面全体が不動態膜で覆われている必要がある。
コバルト・クロム基合金を浸炭処理すると、炭素は、コバルト・クロム基合金の格子に侵入して固溶化する場合と、材料表面にあるクロムと反応して炭化クロムを生成する場合とがある。いずれの場合であっても表面硬度が上昇することが知られている。そのため、表面硬度を高めるには、炭素を固溶させると同時に、表面に炭化クロムが形成させるとよい。ところが、炭化クロムが形成されてその周囲のクロムが消費されると、生体安全性を確保するのに十分な量の酸化クロムを形成することができないので、生体材料としては全く適さない材料になってしまう。
そこで、本発明は、浸炭処理したコバルト・クロム基合金から形成されており、表面の硬度が向上すると共に生体安全性も確保された摺動部材に適した材料と、その製造方法とを提供することを目的とする。
本発明は、コバルト・クロム基合金を基材とする耐食性及び耐摩耗性に優れた合金材料であり、その材料の表面に、2.3〜4.0重量%の炭素を固溶化した固溶化層が形成されており、固溶化層の格子定数が3.65Å以上であることを特徴とする。
また、本発明は、上記のようなコバルト・クロム基合金材料を製造するのに適した方法であって、コバルト・クロム基合金の基材を形成する工程と、前記基材の表面を活性化処理する工程と、前記基材の表面を浸炭処理する工程と、を含み、前記浸炭処理が、ガス浸炭であることを特徴とする。
本発明のコバルト・クロム基合金材料では、その表面に存在する炭素の量を2.3〜4.0重量%に制限したので、表面硬度と生体安全性とを両立させることができた。炭素量が2.3重量%未満であると表面硬度の改善が不十分になり、また4.0重量%より多くしようとすると、炭化クロムが形成されやすくなるので好ましくない。また、材料表面の格子定数が3.65Å以上とすることにより、適切な量の炭素を確実に固溶していることがわかる。また、固溶化層222の格子定数が3.65Å以上であると、層内の残留応力によって表面硬度が高められて、耐かじり性が向上する。
よって、本発明のコバルト・クロム基合金材料は、炭化クロムを実質的に形成せずに、材料表面に炭素を固溶しているので、生体安全性を低下させることなく表面硬度及び耐かじり性を改善することができる。
また、本発明の製造方法は、コバルト・クロム基合金の浸炭処理を、ガス浸炭で行うことにより、多様なガス雰囲気が使用でき、また精密な温度制御が可能であるので、コバルト・クロム基合金材料の材料表面に導入する炭素量の正確な調節が可能である。よって、本発明の方法は、表面硬度と生体安全性とを両立したコバルト・クロム基合金材料を製造することができる。
本実施形態にかかるコバルト・クロム基合金材料は、例えば図1(A)のような全置換型人工股関節1を構成する摺動部材に使用できる。
人工股関節1は、大腿骨91に固定する大腿骨ステム20と、寛骨の臼蓋93に固定されたカップ10とから構成されており、さらに、この大腿骨ステム20は、大腿骨91の骨髄に挿入するステム本体21と、ステム本体の一端に嵌め込んだ人工骨頭22とから構成されている。人工股関節は、人工骨頭をカップ10の凹部に嵌合して旋回可能に摺動させることにより構成されている。本発明のコバルト・クロム基合金材料は、例えば人工骨頭22を形成するのに適している。
図1(B)に示すように、本実施形態のコバルト・クロム基合金材料から形成した人工骨頭22は、コバルト・クロム基合金から成る球状の基材221の摺動面23に、炭素の固溶化層222を備えている。
この固溶化層222は、炭素量が2.3〜4.0重量%で、格子定数が3.65Å以上である。固溶化層222の炭素量が2.3重量%未満であると、人工骨頭22の表面硬度が十分に向上できないので好ましくない。また、炭素量を4.0重量%より多くすると、炭化クロムが形成される可能性が著しく大きくなるのに対して、硬度向上の効果が小さいので好ましくない。また、固溶化層222の格子定数が3.65Å未満であると、炭素の固溶化が不十分であると見積もられるので、表面硬化や耐かじり性の改善等の固溶化の効果が十分に得られないので好ましくない。
固溶化層222の厚さは、5μm以上であるのが好ましく、特に、5〜30μmの範囲にあるのが好ましい。固溶化層の厚さが5μm未満の場合には、切削加工や研磨加工により固溶化層が除去されるおそれがあり、30μmより厚い場合には性能上の問題はないものの製造時間の増加が著しく、製造コストが増加するので好ましくない。
本実施形態の人工骨頭22の生体安全性は、優れた耐食性によって保証されている。コバルト・クロム基合金製の未浸炭処理の人工骨頭は、十分に生体安全性を備え、良好な耐食性を示すことが知られている。本実施形態の人工骨頭22も、未浸炭処理のものと同様の耐食性を有しているが、より好ましくは、さらに良好な耐食性を有することである。
生体安全性を規定する方法として、アノード分極試験がある。この試験では、標準電極に対する電位を掃引しながら電流値を測定することにより、電位−電流曲線(アノード分極曲線)を得ることができる。このアノード分極曲線を解析して、自然電位、不動態化電流密度、及び不動態保持電流密度の値を評価することにより、生体安全性を評価することができる。
本実施形態の人工骨頭22は、表面硬度が、ジルコニア焼結体等のセラミック製生体材料と同程度のHv1050以上であるのが好ましい。表面硬度が高いと、耐摩耗性に優れた摺動部材を形成することができるので、負荷のかかった状態で使用される摺動部材にも適用できる。また、セラミックスと異なり、固溶化層を形成するまでは通常の金属同様に切削加工が可能であり、セラミックに比べると多様な形状に対応することができる。
本実施形態の人工骨頭22は、耐食性に優れているので生体安全性が高く、また、固溶化層222の表面が平滑で耐かじり性に優れているので、カップ10の異常摩耗の抑制に効果がある。本実施形態の人工骨頭22を使用することにより、耐食性と耐かじり性に優れ、長期間にわたって安全に使用できる人工股関節1を提供することができる。
本発明では、生体安全性に優れたコバルト・クロム基合金が使用され、例えば、ASTM F75、ASTM F799、又はASTM F1537に規定されているCo−Cr−Mo合金が好適である。これらの材料は、適切な炭素量を固溶した固溶化層を形成することができ、且つ固溶化層を形成した後も生体安全性を維持することができるので好ましい。
本実施形態にかかる人工骨頭22の製造方法を、以下に説明する。
コバルト・クロム基合金製の人工骨頭22の基材221は、ニアネットシェイプによる粉末焼結法や、ニアネット鋳造法や、金属材料を溶融して所定の形状に加工する熱間加工法など、従来知られた方法によって製造する。
次に、基材表面に形成された不動態膜を除去する活性化処理を行う。基材中のクロムは、空気中の酸素と反応して不動態膜を形成するが、この不動態膜が、浸炭処理を行う際に、基材表面への炭素の侵入を阻害することから、炭化処理に先立って、活性化処理が行われる。活性化処理方法は、ガスを用いた方法や、液体を用いた方法で行うことができる。
ガスを用いた活性化処理としては、フッ化処理が挙げられる。フッ化処理は、加熱処理用の炉内にコバルト・クロム基合金の基材を入れ、フッ素系ガス雰囲気中で200℃〜500℃に加熱して、10分〜180分の間、その温度を保持する。これにより、表面の酸化クロムが、フッ化クロムに置換される。
このフッ化処理に適したフッ素系ガスは、NF、BF、CF、HF、SF、C、WF、CHF、SiF、ClF等があり、これらのフッ素系ガスを、1種類で、又は2種以上を混合して使用する。通常は、これらのフッ素系ガスをNガス等の不活性ガスで希釈して使用される。
液体を用いた活性化処理としては、酸性溶液に浸漬する方法が挙げられる。酸性溶液としては、塩酸、硝酸、過酸化水素、硫酸、フッ酸のいずれか1種類または2種類以上を混合した溶液を使用することができ、特に、塩酸と硝酸、塩酸と硝酸と過酸化水素、又は塩酸と過酸化水素を混合した溶液が好ましく、短時間で表面の酸化クロムの不動態膜を溶解することができる。
ガスを用いた活性化処理は、これに続く浸炭処理と同じ反応炉の中で連続して処理することができるので、活性化処理した後に大気に触れることなく浸炭処理を行うことができる。
これに対して、液体を用いた活性化処理は、数秒〜数分の処理時間で十分であるので、基材を侵食する前に処理を完了することができる。そのため、活性化処理後の表面性状は、液体を用いた場合のほうが、ガスを用いたのに比べて、滑らかである。
活性化処理が終わった基材は、ガス浸炭により浸炭処理される。基材を処理炉内に配置し、炉内に炭素源を含む混合ガスを導入し、所定の温度で浸炭処理を行う。
浸炭処理に適した温度は、450〜550℃であり、この温度範囲であると、炭素は、基材の表面に固溶化するが、炭化クロムを形成しにくいので好ましい。特に、固溶化層の炭素量を、2.3〜4.0重量%とし、且つ固溶化層の格子定数を3.65Å以上に調節することができるので好ましい。浸炭温度が450℃未満であると、炭素の固溶化が進まず、望ましい表面硬度を有する固溶化層が形成されないので好ましくない。また、550℃より高い温度であると、炭化クロムの生成が促進されるので好ましくない。
本実施形態の人工骨頭22は、固溶化層222の炭素量の制御と、その固溶化の程度とを厳密に制御することを求められる。それらを厳密に制御するには、使用する合金組成に適した炭素源の選択と、所定の処理温度を正確に実現することが要求される。そこで、炭化処理に、炭素源となるガスの選択範囲が広く、且つ基材の表面の温度を正確に制御できるガス浸炭を利用することにより、適切な物性を有する固溶化層を備えた合金材料を形成することを可能にした。また、本実施形態のような人工骨頭22では、摺動特性を均一にするために、摺動面23の全体にわたって均一な固溶化層を形成することが望まれ、また、人工骨頭以外にも複雑な形状の摺動部材もあるが、ガス浸炭であれば、ガス処理に特有のつきまわり性により、シャドー効果のない表面の均一処理が可能である点でも優れている。
固溶化する炭素を供給する炭素源ガスは、通常は不活性ガスで希釈して使用される。炭素源としては、CO、CO、CH、C、C、及びC10が使用でき、不活性ガスとして、N、Ar、Heが使用できる。これらの炭素源を1種類又は2種類以上と、不活性ガスとを所定の割合で混合し、処理炉内に導入する。
浸炭処理の時間は、処理温度と固溶化層の厚みとの関係によって調節することができるが、通常は1〜30時間行われ、最も一般的には10〜20時間行われる。
浸炭処理後に、表面の状態によって後処理を行う。後処理としては、表面に付着した煤を除去するための酸処理や、鏡面研磨等の表面研磨などがある。
本実施形態では、本発明のコバルト・クロム基合金材料を用いて人工股関節用の人工骨頭を形成した例を示したが、これに限定されるものではなく、人工膝関節、人工肘関節、人工肩関節、人工足関節などの人工関節に使用する摺動部材に適用可能である。
本発明のコバルト・クロム基合金材料は、その物理的特性から摺動部材に好適であるが、耐摩耗性と生体安全性に優れているので、骨プレートや骨スクリュー等の生体内で使用する金属製品の合金材料としても適している。
浸炭処理を行ったコバルト・クロム基合金の固溶化層について、格子定数、炭素濃度、表面硬度、及び固溶化層の厚みを調べた。
<試料の作製>
測定用の試料の基材には、0.06%C、27.61%Cr、5.58%Mo、0.23%Ni、0.48%Fe、0.6%Si、0.82%Mn、0.16%N、残部Coの組成を有する低炭素のコバルト・クロム基合金の鍛造材料を使用した。この基材の合金組成は、ASTM規格のF1537の化学組成に適合している。また、基材は、平均結晶粒径が約5μmであり、Co−γ相(fcc相)約95%、ε相約5%を含むものであった。基材を直径35mm、厚さ5mmの円盤状に成形して試料片とした。試料片は、フッ化ガスによる活性化処理の後に、処理条件を変えてガス浸炭により浸炭処理した。ガス浸炭は、炭素源に23容量%CO、1容量%CO、31容量%H、及び残部Nの混合ガスを用い、浸炭処理の温度を400℃〜600℃とし、処理時間12〜44時間で行った。各試料の処理温度及び処理時間を表1に示す。なお、試料No.1は、比較用の未処理基材である。
また表2には、処理時間の異なる試料を、各種方法で測定した結果(固溶化層の格子定数、炭素濃度、表面硬度、及び固溶化層の厚み)も記載した。各種の測定方法について、以下に説明する。
<格子定数の測定>
固溶化層の格子定数は、試料の表面部分をX線回折により測定して決定した。測定にはX線回折装置(理学電機工業株式会社製RINT2000)を用い、X線にCu−Kα線を用い、ターゲット出力を40kV−300mAとし、2θ=30〜100°の範囲で測定した。得られたX線回折パターンから、Coのγ相のピーク位置(2θ値)を計測し、格子定数計算ソフトCellCalc(三浦裕行、結晶学会誌、Vol. 45(2003), pp.145-147)を用いて格子定数を算出した。得られたXRDパターンの例を図2に示す。
図2は、試料No.1、6、9及び12のX線回折パターンである。試料No.1(未処理)のXRDパターンでは、コバルトのγ相の(111)面及び(200)面に帰属するピークが観察される。試料No.6(浸炭温度470℃)のX線回折パターンになると、ピークの低角シフトとブロード化が見られて、(111)面及び(200)面の面間隔が広くなり、且つ格子が歪んで規則性が低下したことがわかる。この相は、いわゆるS相と呼ばれる相であり、fcc構造を維持したまま、格子定数が大きくなった結果であると考えられる。また、試料No.9(浸炭温度500℃)のXRDパターンでは、(111)面及び(200)面に帰属するピークの強度が減少し、試料No.12(浸炭温度600℃)では、ピークが高角シフトして格子定数が小さくなった。この高角シフトの理由は定かではないが、炭化クロムの生成による結晶格子の変化が関係するものと推察される。
<固溶化層表面の炭素濃度>
固溶化層表面の炭素濃度は、グロー放電発光分析法(GDS)により測定した。グロー放電発光分析には、Jobin Ybon社製JY5000RF−PSS型GDS装置を用い、低電圧モード(40W)で、Ar圧775Paの真空下で測定した。
<表面硬度>
表面硬度は、ビッカース硬度測定装置を用い、荷重50gfで測定した。
<固溶化層の厚み>
固溶化層の厚みは、固溶化層と基材との耐酸性が異なることを用いて行った。試料断面を酸処理すると、図3に示すように固溶化層と基材との表面性状が異なって観察できるので、顕微鏡写真を画像処理することで、固溶化層の厚みを精度よく測定することが可能である。
実際の測定では、試料を、その表面に対して垂直方向に沿って切断し、露出した切断面を鏡面研磨した後に、H+HCl溶液に10秒間浸漬して表面処理を行った。処理後の切断面を共焦点顕微鏡(オリンパス株式会社製OLS1200)により撮影(倍率×1000)し、固溶化層の厚みを測定した。
<耐食性試験>
耐食性試験は、アノード分極試験により行った。アノード分極試験は、試料の表面の1cmをだけ残して他を絶縁樹脂にて被覆した状態で行い、参照電極には飽和カロメル電極SCEを使用して、1.2%L−システイン−塩酸塩水溶液中で行った。測定にはポテンショガルバノスタット(北斗電工製HZ−3000)を用い、掃引速度20mV/minでアノード分極曲線を計測した。
表2の耐食性の評価は、試料No.1(未処理)を基準として、より優れた耐食性を示した場合には○、同等の耐食性の場合には△、そして耐食性が劣る場合には×とした。
図4に示す4つのアノード分極曲線は、試料No.1、3、10及び12を用いて測定したものである。
試料No.1(未処理)及び試料No.3(浸炭温度420℃)のアノード分極曲線は、0.5V以下の領域ではほぼ同じ曲線を示している。これらの曲線から、試料No.1及び3では、自然電位Eが−172mV、不動態化電流密度Iが1.03×10−7A/cm、+0.2V時の不動態保持電流密度I0.2が1.37×10−6A/cm、そして+0.4V時の不動態保持電流密度I0.4が2.04×10−6A/cmであった。
試料No.10(浸炭温度520℃)のアノード分極曲線は、自然電位Eが−82mVであり、未処理の試料No.1よりも高く、金属イオンが溶出しにくいことがわかった。また、不動態化電流密度Iが8.32×10−8A/cm、+0.2V時の不動態保持電流密度I0.2が2.99×10−7A/cm、そして+0.4V時の不動態保持電流密度I0.4が1.04×10−6A/cmであり、全ての値が、未処理の試料No.1より低く、不動態膜が安定しているといえる。これらの結果から、試料No.10は、未処理の試料No.1よりも耐食性に優れていることがわかった。
試料No.12(浸炭温度600℃)のアノード分極曲線は、自然電位Eが−203mVと低く、また、他のアノード分極曲線と異なり、不動態化を示さなかった。このことから、試料No.12では、表面のクロムが炭化クロムとして消費されてしまっており、不動態膜を形成していないと考えられる。
Figure 2007277710
Figure 2007277710
表2に示したデータを用いて、固溶化層の炭素濃度と、他の物性との関係を調べた。
図5は、炭素濃度と格子定数との関係をプロットしたグラフであり、格子定数3.65Å、炭素濃度2.3重量及び4.0重量%に、データの顕著な変化が見られる。この変化を境界として、炭素濃度を3つに区分した。まず、炭素濃度0〜2.3重量%を領域A、2.3〜4.0重量%を領域B、4.0重量%以上を領域Cとして区分した。
このグラフの変化の様子は、以下のように推測される。
領域Aの試料は、固溶化層への炭素の固溶量が不十分であるので、ごく狭い範囲では格子定数の増加が起こっているものの、X線回折では認識できない。領域Bの試料になると、十分な量の炭素が固溶したために、広い範囲で格子定数の増加が起こり、X線回折で捉えることができるようになった。また、領域Cの試料は、炭素の固溶量は減少しないはずであるが、本来であれば領域Bと同等の大きい格子定数を示すのが妥当である。しかしながら、この領域では格子自体を構成するクロムが炭素と反応して炭化クロムを形成したために、格子の規則性が大きく崩れて、格子定数の減少という形で確認されたものと推測される。
図6は、炭素濃度と表面硬度の関係をプロットしたグラフである。図5で規定した領域A〜Cを図中に記入すると、領域Aの試料は表面硬度が低く、領域B〜Cの試料では、表面硬度が著しく増加することがわかった。なお、図6より、領域Aと領域Bとの間における表面硬度のしきい値は、およそHv800であることがわかる。
また、図5の領域A〜Cと、耐食性評価の結果と比較してみると、領域Aの試料は、未処理の試料と同等の耐食性であり、領域Bの試料は、未処理の試料よりも耐食性に優れ、そして領域Cの試料は、耐食性が低下したといえる。
これらの結果をまとめると、炭素固溶量が2.3重量%〜4.0重量%の領域Bの試料は、耐食性と表面硬度の両方に優れていることがわかった。
(A)は、本実施形態にかかる人工股関節の概略図であり、(B)は、人工骨頭の断面図である。 本発明にかかるコバルト・クロム基合金材料の表面のX線回折パターンである。 本発明にかかるコバルト・クロム基合金材料を酸化処理した後の試料断面の共焦点顕微鏡写真である。 本発明にかかるコバルト・クロム基合金材料のアノード分極曲線である。 本発明にかかるコバルト・クロム基合金材料について、炭素固溶量に対する格子定数をプロットしたグラフである。 本発明にかかるコバルト・クロム基合金材料について、炭素固溶量に対する表面硬度をプロットしたグラフである。
符号の説明
1 人工股関節
10 カップ
20 大腿骨ステム
21 ステム本体
22 人工骨頭
23 人工骨頭の摺動面
221 基材
222 固溶化層

Claims (6)

  1. コバルト・クロム基合金を基材とする耐食性及び耐摩耗性に優れた合金材料であって、
    前記材料の表面に、2.3〜4.0重量%の炭素を固溶化した固溶化層が形成されており、
    前記固溶化層の格子定数が3.65Å以上であることを特徴とするコバルト・クロム基合金材料。
  2. 表面硬度が、荷重50gfで測定したビッカース硬度Hvが800以上であることを特徴とする請求項1に記載のコバルト・クロム基合金材料。
  3. 前記コバルト・クロム基合金がASTM F75、ASTM F799、又はASTM F1537に規定されているCo−Cr−Mo合金であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコバルト・クロム基合金材料。
  4. コバルト・クロム基合金を基材とする耐食性及び耐摩耗性に優れた合金材料の製造方法であって、該製造方法が、
    コバルト・クロム基合金の基材を形成する工程と、
    前記基材の表面を活性化処理する工程と、
    前記基材の表面を浸炭処理する工程と、を含み、
    前記浸炭処理が、ガス浸炭であることを特徴とするコバルト・クロム基合金材料の製造方法。
  5. 前記浸炭処理が、450〜550℃の温度範囲で行うガス浸炭であることを特徴とする請求項4に記載のコバルト・クロム基合金材料の製造方法。
  6. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコバルト・クロム基合金材料から成る摺動部材と、
    前記摺動部材と摺動可能に当接して関節部分を構成する対向部材と、を備えた人工関節。
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