JP5619427B2 - 高温高圧流体処理による麦類加工品の製造方法 - Google Patents

高温高圧流体処理による麦類加工品の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、麦類を高温高圧流体で処理する麦類加工品の製造方法、および該方法により得られる麦類加工品の利用、並びに麦類のコクおよびうま味を増加させる方法に関する。
近年消費者嗜好の多様化に伴い、様々な香味の食品および飲料の開発需要が高まっている。そのような中で、これまでにない新規な香りおよび味を食品および飲料に付与することによって商品に高付加価値を付与し、商品の優位性を高めることが求められている。
新たな香味の獲得方法としては、(1)新規原料を選択する方法、(2)添加物を使用する方法、(3)既存原料を新規処理方法で処理する方法が挙げられ、このような方法について研究が続けられてきた。
これらの方法のうち、いずれの方法を用いるかは飲料または食品の特性等を考慮して選択する必要がある。例えば、酒類の製造においては、ビールを始めとしてその製造に使用できる原料および添加物が酒税法で制限されているため、新規原料の開発には限界がある。このため、近年の趣向から、原料そのものに新たな香味を付与することが必要とされ、既存原料を新規処理方法によって処理することにより、新規な香味を付与できる技術の開発が求められていた。
既存原料を新規処理方法で処理する技術の中でも、高温高圧処理による新規香味の創生については様々な研究が進められてきた。例えば、特許文献1には、植物またはその処理物を高温高圧の液体、気体または流体で処理する食物加工品の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、麦類の穀皮もしくは該穀皮を含む画分を、低酸素濃度下で160℃〜220℃の流体で処理する麦類穀皮加工品の製造方法が開示されている。特許文献3には、発芽穀物に含まれる口腔内刺激物質の低減方法の一つとして、高温高圧の流体を用いて加水分解する技術が開示されている。特許文献4には、発芽穀物を水蒸気と接触させることにより、発芽穀物中の酵素活性を低減させる発芽穀物加工方法が開示されている。
また、ビール製造においては、ビールにコクおよびうま味を付与するためにメラノイジン麦芽、カラメル麦芽と呼ばれる加熱処理麦芽が用いられている。このような加熱処理麦芽を用いると、コクおよびうま味をビールに付与することができるが、刺激性、コゲ、エグミ、カラメル臭等特徴的な香味も共に付与されてしまう。このため、飲食物にコクおよびうま味だけを付与すことができる原料の開発が求められていた。しかしながら、かかる状況下、植物を原料とする高温高圧処理について、刺激性、コゲおよびエグミの生成を抑えて、効率よく原料そのもののうま味やコクを引き出すことができる技術は未だ開発されていない。
国際公開第2004/039936号パンフレット(WO2004/039936) 国際公開第2006/070774号パンフレット(WO2006/070774) 国際公開第2007/072747号パンフレット(WO2007/072747) 国際公開第2007/072780パンフレット(WO2007/072780)
本発明は、麦類を高温高圧流体によって処理する際に、特定の温度および時間で処理することにより、原料である麦類の青臭さを抑えると共に、刺激の強い酸味、コゲおよびエグミ等の雑味の生成を抑えて、原料のコクおよびうま味を効率よく引き出すことができる麦類加工品の製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、風味に優れた食品および飲料を製造するための、原料となる麦類加工品を提供することを目的とする。特に、発酵飲料の原料として用いたときに、得られる飲料において刺激性、コゲ、エグミ等を抑えて、効率よく原料のコクおよびうま味を引き出すことのできる麦類加工品、およびそれを原料として製造された飲食物を提供することを目的とする。本発明はさらに、麦類中のうま味成分量を効率よく増加させる方法、および麦類のコクおよびうま味を増加させる方法を提供する。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、麦類を低酸素濃度下で高温高圧流体によって処理する際に、処理温度を100℃〜150℃と従来よりも低くし、処理時間を2分〜60とすると、得られる麦類加工品において麦類の青臭さが抑えられ、かつ刺激が強い酸味、コゲ、エグミ等の雑味の生成が抑えられて、しかも原料のコクおよびうま味が効率よく引き出されることを見出した。さらに、処理時間を3分〜30分としたり、処理温度を105℃〜140℃としたりすると、麦類加工品に刺激性、コゲ、エグミ等を付与することなく、原料のコクおよびうま味をより十分に引き出すことができることを見出した。また、本発明者らは、このように製造された麦類加工品が、刺激性、コゲ、エグミ等を付与することなく、原料そのもののコクおよびうま味を飲食物に付与することができる原料として好適であることを見出した。さらに、このような製造方法では、原料である麦類を処理する際に、溶液を高温煮沸する方法より必要エネルギーおよび時間が少ないため、コクおよびうま味に富む食品および飲料を効率的に工業的に有利に製造することができることを見出した。
本発明者らは、上記した種々の知見を得た後、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、以下の(1)〜(15)のとおりである。
(1)麦類を、低酸素濃度下で100℃〜150℃の流体で2分〜60分処理する工程を含むことを特徴とする麦類加工品の製造方法。
(2)流体で2分〜30分処理することを特徴とする前記(1)に記載の麦類加工品の製造方法。
(3)流体で3分〜30分処理する前記(1)に記載の麦類加工品の製造方法。
(4)流体が、105℃〜140℃の流体である前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の麦類加工品の製造方法。
(5)低酸素濃度が、0〜1μg/mLの酸素濃度である前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の麦類加工品の製造方法。
(6)流体が、脱気した液体由来の流体である前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の麦類加工品の製造方法。
(7)流体が、飽和水蒸気である前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の麦類加工品の製造方法。
(8)麦類加工品のコハク酸含有量が17ppm以上となるまで処理を行う前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の麦類加工品の製造方法。
(9)麦類加工品のコハク酸含有量が、未処理の麦類のコハク酸含有量と比較して1.01倍以上となるまで処理を行う前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の麦類加工品の製造方法。
(10)麦類加工品のコハク酸含有量が17ppm以上である前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の麦類加工品の製造方法。
(11)麦類加工品のコハク酸含有量が、未処理の麦類のコハク酸含有量と比較して1.01倍以上である前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の麦類加工品の製造方法。
(12)前記(1)〜(11)のいずれか一項に記載の方法で製造された麦類加工品を原料として製造された飲食物。
(13)飲食物が、穀物醸造酒である前記(12)に記載の飲食物。
(14)穀物醸造酒が、麦芽発酵飲料である前記(13)に記載の飲食物。
(15)食品又は飲料原料用麦類を、低酸素濃度下で100℃〜150℃の流体で2分〜60分処理する工程を含む、食品又は飲料原料用麦類中のコハク酸、リンゴ酸、バニリンおよびピラジン類からなる群より選択される少なくとも1種の成分の含有量を増加させる方法。
本発明はまた、(16)食品又は飲料原料用麦類を、低酸素濃度下で100℃〜150℃の流体で2分〜60分処理する工程を含む、食品又は飲料原料用麦類のコクおよびうま味を増加させる方法、に関する。
本発明の麦類加工品の製造方法によれば、飲食物の原料とした場合に、刺激性、コゲ、エグミ等を付与することなく、原料そのもののコクおよびうま味を飲食物に付与することができる麦類加工品を、工業的に有利に製造することができるという効果を奏する。また、本発明の方法によれば、麦類中のコハク酸、リンゴ酸、バニリンおよびピラジン類からなる群より選択される少なくとも1種の成分の含有量を、未処理の麦類と比較して増加させることができ、しかも麦類の青臭さを抑制すると共に雑味の生成を抑制できる。このため、本発明の方法によれば、麦類において、コクおよびうま味を増加させ、香味を改善することができる。
本発明の麦類加工品の製造方法は、麦類を、低酸素濃度下で100℃〜150℃の流体で処理する(以下、このような処理を流体処理ともいう)工程を含む。以下に、本発明の方法について説明する。
(麦類)
本発明における麦類の例としては、例えば、麦芽、オオムギ、コムギ、ライムギ、カラスムギ、オートムギ、ハトムギ等の麦類が挙げられるがこれらに限定されない。本発明においては、麦類として麦芽を好適に用いることができる。このような麦芽は、上記麦類を水に浸して発芽させた後に乾燥させ、麦芽根を取り除く工程を経る等のこれまでに公知の方法により得ることができる。麦芽としては、大麦の麦芽が好ましい。
(流体)
本発明で用いられる流体としては、例えば、液体、気体、超臨界流体、亜臨界流体等が挙げられる。液体としては、例えば、蒸留水、脱塩水、水道水、アルカリイオン水、海洋深層水、イオン交換水、脱酸素水あるいは水溶性の有機溶媒(例えば、アルコール類)や、無機塩類を含む水等が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明における流体として用いられる気体としては、上述の液体の蒸気(水蒸気、アルコール蒸気等)が挙げられる。麦類の処理に用いられる流体としては、気体が好ましく、中でも、作業性および操作性の観点から、飽和水蒸気が好ましいが、これに限定されるものではない。
また流体には、上述の液体や気体の他に、超臨界流体または亜臨界流体等が含まれる。ある特定の圧力と温度(その物質固有の臨界点)を超えると、気体と液体の境界面が消失して両者が渾然一体となった流体の状態を維持する範囲が存在する。こうした流体を超臨界流体といい、気体と液体の中間の性質を持つ高密度の流体となる。亜臨界流体とは、臨界点よりも圧力および温度が低い状態の流体である。
(処理温度)
本発明の製造方法における流体処理の処理温度は、100℃〜150℃である。この温度範囲であると、麦類において青臭さを抑えると共に、刺激が強い酸味、コゲ、エグミ等の雑味の生成を抑えつつ、麦類そのもののコクおよびうま味を引き出すことができる。処理温度は、約105℃〜140℃が好ましく、約110℃〜140℃がより好ましく、約120℃〜140℃が最も好ましい。
(処理時間)
処理時間は、2分〜60分であり、好ましくは約2〜30分または約3〜60分であり、より好ましくは約3分〜30分である。このような処理時間とすることにより、麦類において青臭さを抑えると共に、刺激が強い酸味、コゲ、エグミ等の雑味の生成を抑えつつ、麦類そのもののコクおよびうま味を十分に引き出すことができる。さらに、麦類加工品を製造する際の投入エネルギーを低減することができる。また、処理時間は処理温度に応じて適宜変更することが好ましい。例えば、処理温度が約140℃〜150℃である場合には、処理時間は約2分〜15分が好ましく、約10分〜15分がより好ましく、処理温度が約120℃以上140℃未満の範囲である場合には、約2分〜30分が好ましく、約20分〜30分がより好ましい。処理温度が約100℃以上120℃未満である場合には、処理時間は約20分〜60分が好ましい。
(処理圧力)
本発明においては、流体処理が圧力下で行われることが好ましい。処理時の流体の圧力は、約0.05MPa〜1.0MPaが好ましく、約0.05MPa〜0.37MPaがより好ましく、約0.05MPa〜0.26MPaがさらに好ましい。このような範囲内であれば、原料である麦類において青臭さを抑えると共に、刺激が強い酸味、コゲ、エグミ等の雑味の生成を抑えつつ、原料のコクおよびうま味を効率よく引き出すことができ、本発明の効果を奏することができる。また本発明においては、圧力が飽和蒸気圧であることが好ましい。
なお、本明細書で「圧力」というときは「ゲージ圧力」を意味する。従って、例えば「圧力0.1MPa」は絶対圧力に換算すると、大気圧に0.1MPaを加えた圧力となる。
(低酸素濃度)
流体処理における酸素濃度は、低酸素濃度であり、好ましくは0〜1μg/mLの酸素濃度である。
酸素濃度をこのようにすることにより、流体処理に用いる装置への負荷を軽減できるため、装置の劣化を抑制することができる。また、麦類における過度な酸化反応の進行を抑制することができる。本発明においては、公知手段を用いてかかる低酸素状態にすることができる。例えば、上記流体処理に用いる流体として、脱気した(空気を除去した)液体を用いることにより前記低酸素状態にすることができるし、また、脱気した液体の代わりに、酸素を除去できる物質を予め添加した液体等を用いることもできる。好ましくは、流体が、脱気した液体由来の流体であることである。
また、上記処理前に、酸素濃度約0〜1μg/mLの気体で処理雰囲気内を置換することによっても、前記低酸素状態にすることができる。ここで、酸素濃度約0〜1μg/mLの気体としては、特に限定されないが、窒素等の不活性ガス、二酸化炭素または脱酸素した気体であることが好ましい。脱酸素した気体としては、脱気した液体を沸騰させて得られる気体等が挙げられる。上記処理中の酸素濃度は、公知の方法で測定することができ、例えば通常の溶存酸素計(DOメータ)によって測定することができる。
(流体処理後の処理)
本発明においては、前記の流体処理後に、さらに公知の処理を行ってもよい。前記公知の処理としては、例えば、粉砕、抽出(超臨界抽出も含む)、乾燥(真空乾燥等)等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。処理時間は、処理温度に応じた設定が必要であるが、それらの設定条件は特に限定されるものではない。
流体処理後、さらに、乾燥の工程を付加する場合について説明する。流体処理後そのまま放置した場合にはでんぷんが糊化し、冷えると固くなるため次の粉砕工程に労力が必要となる。より扱いやすい形態の加工品とするために、粉砕が容易になる乾燥工程を付加することが好ましい。そのための一つの方法としては、流体処理後、急激に圧力を下げ、水分を短時間で飛散させることにより急速に乾燥させる方法が挙げられる。この方法によれば、急激な圧力の低下により、組織がスポンジ状となり、通常の乾燥のように固くなるという問題を解消できる。この乾燥工程により、その後の溶解や粉砕も容易となる。この乾燥工程を積極的に付加することにより、麦類加工品を自然乾燥するよりも次の工程等で利用しやすい形態のものとして得ることが可能となる。
また、上記の乾燥工程に際し、流体処理物を押し出しまたは引き出し手段、あるいは所望によりさらに切断手段を組み合わせることにより、任意の形状に成型することもできる。形状としてはスティック状、円柱状、球状、多角柱状、多角体状等が挙げられ、この成型によって、所望に応じて形状を変形することができる。また、この際、麦類加工品の水分含有率を操作することも可能である。
(処理装置)
流体処理に使用する装置は特に限定されず、100℃〜150℃および上述した圧力に耐えられる構造のものであれば、いかなるものでも使用できる。例えば前述装置としては、耐圧の反応容器と加熱装置が組み合わされている装置が挙げられる。かかる装置では、液体または気体は、加熱装置で加熱され、高温高圧状態の液体または気体となって反応容器に送られる。加熱装置は加熱できればいかなるものでも使用できる。例えば、電気、石油、石炭もしくはガスによる加熱;太陽熱による加熱;地熱による加熱等が挙げられるがこれらに限られない。また、前記装置は単なる耐熱耐圧パイプの類でもよい。反応容器またはパイプの素材は耐圧耐熱であればよいが、金属等の成分が溶出したり、有毒物質が生成したり、好ましくない臭いが生ずるような材質でないほうが好ましい。前記素材としては、無用の反応や腐食、劣化等を防ぐためステンレス等の素材が好ましいがこれに限定されるものではない。
なお、上記したような処理装置を用いた場合には、流体処理前に酸素濃度約0〜1μg/mLの気体で処理装置の容器内を置換するのが好ましい。
本発明を効率よく行う好ましい装置としては、エクストルーダの使用が挙げられる。これによれば、上記処理後の操作が非常に容易となる。また、連続処理が可能なことから多量の加工品を供給するためにもエクストルーダの使用が適している。エクストルーダは膨化食品等の製造によく用いられている処理方法であり、エクストルーダとしては押し出し筒内に配置された二軸等の多軸または一軸のスクリューにより、原料を混合しながら加熱加圧し、高温高圧状態でダイから押し出す装置が挙げられる。本発明においては安定して処理を行える二軸型がより好ましい。エクストルーダを用いることにより、連続処理が可能となり、また、処理後に、処理雰囲気を高圧から低圧に急激に開放すれば、水分が蒸散し、また、上記したようにダイの形状を適当に選択することにより、所望の形状に成型された処理物が得られる。この場合、処理物が膨化しており、処理物を水分等の液体に溶かす場合に、処理物が液体に溶けやすいというメリットもある。これらの装置以外でも本発明の上記の条件を実現できる装置であれば、いかなる装置でもよい。
(流体処理により生成する特徴的な成分)
本発明の製造方法によれば、麦類においてうま味成分であるリンゴ酸、コハク酸等の有機酸を増加させると共に、芳ばしい成分であるバニリンを増加させることができるうえ、フルフラール、ギ酸等の雑味成分の生成が抑えられる。また、本発明の製造方法によれば、麦類において香味成分であるピラジン類の含有量を増加させることができる。すなわち、本発明の製造方法によれば、原料である麦類と比べてコクおよびうま味は増加しているが、刺激性、エグミおよびコゲ等の雑味は抑えられた麦類加工品を提供することができる。
飲食物のコクおよびうま味は、官能評価によって評価することができる。
リンゴ酸およびコハク酸が、飲食物のうま味を高める作用を有する物質であることはこれまでに公知の知見である(リンゴ酸:味とにおいの分子認識、季刊化学総説No.40、1999、94ページ、日本化学会編、コハク酸:醸造物の成分 57ページ、平成11年(1999年)12月10日発行、日本醸造協会)。ピラジン類も、飲食物のうま味を高める作用を有する物質であることが知られている(New Food Industry 41、30−35ページ(1999)、“食品の「こく」と「こく味調味料」の開発”、斉藤知明)。
(コハク酸)
本発明の製造方法によれば、コハク酸含有量が約17ppm以上の麦類加工品を製造することができ、さらに、コハク酸含有量が約18.5ppm以上の麦類加工品も製造することができる。このような麦類加工品は、飲食物の原料とした場合に、原料そのもののコクおよびうま味を十分に飲食物に付与することができるため好ましい。本発明により製造される麦類加工品のコハク酸含量は、約20.9ppm以上が好ましい。より好ましくは、麦類加工品のコハク酸含有量が約44ppm以上である。
本発明においてはまた、麦類から製造される麦類加工品のコハク酸含有量が約17ppm以上となるまで処理を行なうことが好ましい。より好ましくは、麦類加工品のコハク酸含量が約18.5ppm以上となるまで、さらに好ましくは約20.9ppm以上となるまで処理を行う。特に好ましくは、約44ppm以上となるまで、処理を行う。
本発明の製造方法によれば、コハク酸含有量が、未処理の麦類のコハク酸含有量と比較して約1.01倍以上である麦類加工品を製造することができ、さらに、コハク酸含有量が、未処理の麦類のコハク酸含有量と比較して約1.09倍である麦類加工品も製造することができる。このような麦類加工品は、飲食物の原料とした場合に、原料そのもののコクおよびうま味を十分に飲食物に付与することができるため好ましい。なお、本明細書中、「未処理の麦類」とは、上記流体処理を行なっていない麦類を意味する。好ましくは、得られる麦類加工品のコハク酸含有量が、未処理の麦類のコハク酸含有量と比較して約1.23倍以上である。より好ましくは、麦類加工品のコハク酸含有量が、未処理の麦類のコハク酸含有量と比較して約2.6倍以上である。
本発明の製造方法においてはまた、製造される麦類加工品のコハク酸含有量が、未処理の麦類のコハク酸含有量と比較して約1.01倍以上となるまで処理を行うことが好ましく、約1.09倍以上となるまで処理を行うことがより好ましく、約1.23倍以上となるまで処理を行うことがさらに好ましい。特に好ましくは、麦類加工品のコハク酸含有量が、未処理の麦類のコハク酸含有量と比較して約2.6倍以上となるまで処理を行う。
(バニリン)
バニリンは、本発明の製造方法において麦類を流体処理することで生成する成分であり、この成分を多く含有する麦類加工品を用いるとバニラ香味のよい飲食品を製造できる。また流体処理による香味によい影響を与える芳ばしい、甘い香気成分についてはその他の生成物が影響していることも考えられる。
(ピラジン類)
本発明の製造方法によれば、ピラジン類の含有量が、未処理の麦類のピラジン類含有量と比較して増加した麦類加工品を製造することができる。このような麦類加工品は、飲食物の原料とした場合に、原料そのもののコクおよびうま味を十分に飲食物に付与することができる。さらに、ピラジン類は香ばしい香りを有するため、飲食物に香ばしい香りを付与することができるため好ましい。
本発明の製造方法により得られる麦類加工品であって、ピラジン類の含有量が増加したものは、本発明の麦類加工品の好ましい一態様である。「ピラジン類の含有量が増加した」とは、麦類を流体処理して得られる麦類加工品のピラジン類含有量が、未処理の麦類と比較して多い(増加した)という意味である。
ここで、ピラジン類とは、ピラジンおよびピラジン骨格の2、3、5、6位にメチル基またはエチル基が付いたものをいい、例えば、2−メチルピラジン、2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジン、エチルピラジン、2,3−ジメチルピラジン、および2,3,5−トリメチルピラジンが挙げられる。ピラジン類は、麦茶等に含まれる香ばしい香りの代表的な成分であることが知られている。
本発明の製造方法によれば、コハク酸、リンゴ酸、バニリンおよびピラジン類からなる群より選択される少なくとも1種の成分の含有量が、未処理の麦類と比較して増加した麦類加工品を製造することができる。
(その他の成分)
フルフラールは、IUPAC命名法では、2−フランカルボキシアルデヒドであり、コゲ臭の前駆体と考えられている。
ギ酸および酢酸は刺激性の酸で、刺激性および酸味に強く影響し、刺激性が望まれない飲料および食品においては含有量ができる限り抑えられていることが好ましいと考えられる。
本発明の製造方法によれば、フルフラールおよび刺激性を呈する酸の生成が抑制された麦類加工品を製造することができる。具体的には、本発明の方法によれば、フルフラール含有量が約20ppm以下である麦類加工品を製造することできる。
(麦類加工品含有組成物の製造)
本発明の製造方法により得られる麦類加工品を飲食物の原料とする場合には、該麦類加工品を単独で用いてもよく、該麦類加工品と他の穀物等とを組み合わせて用いてもよい。例えば、上記のようにして得られた麦類加工品を、常法に従い穀物等に配合することにより麦類加工品含有組成物を製造できる。好ましい態様としては、麦芽を低酸素濃度下で100℃〜150℃の流体で2分〜60分処理して得られた麦芽加工品を、麦芽に配合することにより麦芽加工品含有組成物を得ることが挙げられる。
このようにして製造される麦芽加工品含有組成物は、流体処理を施さない画分を含むため、麦芽の糖化等に必要な酵素を失活させることなく、前記組成物中に含有させることができる。したがって、コクおよびうま味を飲料に付与できる特徴を有するのみならず、内部画分由来の酵素が失活することなく保有されていることから、コクおよびうま味に富む麦芽発酵飲料の原料として、より好適に用いることができる。
麦類加工品含有組成物中の麦類加工品の配合割合は、飲食物の種類等によっても異なり、特に限定されない。例えば、麦芽発酵飲料の原料として麦芽加工品含有組成物を得る場合、麦芽加工品の配合量は、麦芽と麦芽加工品との合計質量中に、好ましくは約1〜99質量%、より好ましくは約3〜50質量%である。この好ましい範囲であれば、各種麦芽使用比率のビールまたは発泡酒等の原料として使用した場合に、コゲ、エグミおよび刺激性が抑えられて、濃厚なうま味を呈する飲料を提供することができる。
(麦類加工品から製造される飲食物)
本発明の製造方法により製造される麦類加工品においては、コゲ、エグミおよび刺激性が抑えられ、かつ麦類自体のコクおよびうま味が引き出されている。したがって、本発明の製造方法により得られる麦類加工品は、コクおよびうま味だけを飲食物に付与するための原料として好適である。このような本発明の製造方法により製造される麦類加工品も、本発明の1つである。このような麦類加工品は、例えば、黒ビール等の濃厚なうま味を持ちながら、まったくコゲやカラメル臭のないビールの原料等として好適である。
本発明においては、前記の麦類加工品および/または麦類加工品含有組成物を原料の一部または全部として使用して、常法に従い飲食物を製造できる。本発明の製造方法で製造された麦類加工品を原料として製造された飲食物も、本発明の1つである。飲食物としては、飲料、食品等が挙げられるが、飲料が好ましい。中でも、発酵飲料が好ましい。
(発酵飲料)
本発明における発酵飲料としては、前記の麦類加工品を原料の全部または一部として使用して、酵母による発酵工程を経て製造される飲料であれば、どのような酒類であってもよい。発酵飲料としては、その原料や製法によって、穀物醸造酒および果実醸造酒等が挙げられるが、特に限定されるものではない。好ましくは、穀物醸造酒であり、より具体的には、麦芽発酵飲料や清酒等が挙げられる。中でも、麦芽発酵飲料が好ましい。すなわち、本発明の製造方法で製造された麦類加工品は、麦芽発酵飲料の原料として好適である。麦芽発酵飲料としては、例えば、発泡酒、ビール、低アルコール発酵飲料(例えば、アルコール分1%未満の発酵飲料)、雑酒、リキュール類、スピリッツ類が挙げられる。これらの中でも、炭素源、窒素源、ホップ類等を原料とし、酵母で発酵させた飲料であって、ビールのような風味を有するものを「ビールテイスト飲料」という。なお、本明細書中、「ビールテイスト飲料」にはビールも含まれる。本発明の製造方法により得られる麦類加工品は、ビールテイスト飲料の原料に適している。従って、本発明の製造方法により得られる麦類加工品を、日本の酒税法上のビール、発泡酒、リキュール類、その他雑酒などのビールテイスト飲料に好適に用いることが可能である。
本発明の発酵飲料のアルコール分は特に限定されないが、約1〜15%(v/v)であることが好ましい。特に、ビール、発泡酒等のビールテイスト飲料として消費者に好んで飲用されるアルコールと同程度の濃度、すなわち、約1〜6%(v/v)の範囲であることが好ましいが、特に限定されるものではない。
(飲食物の製造)
本発明の飲料の製造においては、糖類、大麦等をはじめとする麦芽以外の原料を併用することにより、糖質の組成を調整することができる。また、糖化酵素をはじめとする各種酵素を必要に応じて別途添加してもよい。あるいは、糖化スターチ等のように最初から糖化された原料と組合せることもできる。さらに、このように成分調整をした原料にあわせて、粉砕、糖化、麦汁濾過、煮沸、発酵の諸条件を設定することにより、更なる微調整を行うことが可能である。
(発酵原液)
本発明においては、上記方法により、糖質の糖組成を選択して発酵原液を調製するが、発酵原液の種類としては、ビールテイスト飲料用のビール用麦汁、発泡酒用麦汁または非麦芽発酵原液;果実醸造酒に用いる果実汁;穀物醸造酒に用いる穀物抽出液等が挙げられる。
さらに、発酵原液を調製する際には、例えば、ホップ添加等必要な工程を経ることができる。得られた発酵原液について、発酵工程、貯酒工程、濾過工程、容器詰め、殺菌工程等を、常法に従って行うことにより発酵飲料を得ることができる。
(ホップ)
ホップについては、本発明の発酵飲料が、ビールテイスト飲料である場合の製造に使用する。ホップとしては、ビール等の製造に使用する通常のペレットホップ、粉末ホップ、ホップエキスを香味に応じて適宜選択して使用する。さらに、イソ化ホップ、ヘキサホップ、テトラホップ等のホップ加工品を用いることもできる。
ビールテイスト飲料における水およびホップを除く原料中の麦類加工品の使用比率は、特に限定されないが、約0.1〜100質量%が好ましい。より好ましくは約1〜50質量%である。
(酵母)
発酵工程では酵母を用いる。本発明で用いる酵母の種類は、製造される発酵飲料の種類、目的とする香味や発酵条件等を考慮して自由に選択でき、特に限定されるものではない。ビールテイスト飲料を製造する場合に関しては、ビールテイスト飲料の醸造に適したビール酵母が好ましく、例えばWeihenstephan-34株等、市販のビール酵母を用いることができる。酵母は、酵母懸濁液のまま、発酵原液に添加してもよく、遠心または沈降により、酵母をより濃縮したスラリーとして発酵原液に添加してもよい。また、遠心により、完全に上澄みを取り除いてから添加してもよい。酵母の発酵原液への添加量は適宜設定できるが、例えば、5×10cells/mL〜1×10cells/mL程度である。発酵方法およびその条件は、製造される発酵飲料の種類等により適宜設定すればよく、特に限定されない。例えば、ビールテイスト飲料の場合、通常のビールや発泡酒の発酵温度である、8〜25℃で1週間〜10日間程度発酵させることができる。発酵中の昇温、降温、加圧等についても、特に制限はない。
(容器)
得られた発酵飲料の容器については、通常の発酵飲料と同様に、ビン、缶、樽、またはペットボトル等の密封容器を用いることができる。製造された発酵飲料をこのような密封容器に充填して、容器入り飲料とすることができる。
食品又は飲料原料用麦類を、低酸素濃度下で100℃〜150℃の流体で2分〜60分処理する工程を含む、食品又は飲料原料用麦類中のコハク酸、リンゴ酸、バニリンおよびピラジン類からなる群より選択される少なくとも1種の成分の含有量を増加させる方法も本発明の1つである。さらに、食品又は飲料原料用麦類を、低酸素濃度下で100℃〜150℃の流体で2分〜60分処理する工程を含む、食品又は飲料原料用麦類のコクおよびうま味を増加させる方法も、本発明の1つである。本発明の方法の好ましい態様は、上述した麦類加工品の製造方法と同様である。食品又は飲料原料用麦類としては、上述した麦類と同様のものを使用できる。本発明の方法によれば、食品又は飲料原料用麦類中のコハク酸、リンゴ酸、バニリンおよびピラジン類からなる群より選択される少なくとも1種の成分の含有量を、未処理の麦類と比較して増加させることができ、しかも、刺激性、エグミおよびコゲ等の雑味の原因となる成分の生成は抑えられるため、該麦類においてコクおよびうま味を増加させることができる。本発明の方法の好ましい態様は、上述した麦類加工品の製造方法と同じである。
本発明の方法により得られるコハク酸等の含有量が増加した食品又は飲料原料用麦類、およびコクおよびうま味が増加した食品又は飲料原料用麦類、すなわち上述した麦類加工品は、上述した飲食物の原料として好適であり、特に発酵飲料の原料として好適である。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されることはない。なお、実施例中、「%」は、特に断りのない限り「質量%」を意味する。
(官能評価の方法および評価基準)
本実施例においての評価方法は、特に断りのない限り、以下の通りに行った。
官能評価については、うま味および雑味について評価した。うま味とは、「コク、ほどよい酸味および甘味」がバランスよく感じられる評価である。雑味とは、「青臭さ、エグミ、強すぎる酸味およびコゲ感からなる群より選択される1種以上」が感じられる評価である。うま味または雑味を感知したときの強度を1、2、3、4の4段階評価することによって行った。うま味は、集計した平均値が1以上〜2未満の場合を×、2以上〜3未満の場合を△、3以上〜4以下の場合を○とした。雑味では、集計した平均値が1以上〜2未満の場合を○、2以上〜3未満の場合を△、3以上〜4以下の場合を×とした。
官能評価の結果は、訓練されたパネラー5名の評価結果を集計して示した。
(うま味または雑味成分の選択)
香味に関与する成分として多くの成分が知られている。麦類のうま味およびコクには、原料そのものの味および香り、並びに、ほどよい酸味が寄与することが知られている。その中で、麦類の加熱により生成する甘く芳ばしい香りの成分としてバニリンがよく知られている。またほどよい酸味の成分としては、有機酸の中でもリンゴ酸が知られている。さらに、うま味成分として、コハク酸が知られている。本発明品では、バニリン、リンゴ酸、コハク酸およびピラジン類をうま味に関与する成分として選択した。
また麦類の雑味としては、青臭さ、刺激の強い酸味およびコゲ臭のうちの1つ以上が影響することが知られている。本発明では、刺激性が強く、不快な酸味を呈する成分としてギ酸を、また、コゲ臭またはコゲ臭を呈する成分の熱反応の前駆体として知られているフルフラールを、雑味に関与する成分として選択した。
(成分の測定方法)
(バニリンおよびフルフラールの測定方法)
バニリンおよびフルフラールの測定については、麦類加工品の抽出液のうち10μLをHPLCに供し、280nmの吸光度を測定した。測定は、高速液体クロマトグラフィーシステムCLASS−VPシリーズ(株式会社島津製作所製)およびDeverosil−C30カラム(野村化学株式会社製4.6×150mm)を用い、水−アセトニトリル系の溶媒を用いて行った。分析条件は、A液を0.05%TFA(トリフルオロ酢酸)水溶液、B液を0.05%TFA、90%アセトニトリル水溶液とし、流速1mL/分にて、B液0%〜20%(v/v)までの100分間の直線グラジエントとした。
市販のバニリンおよびフルフラール標準物質をそれぞれ用いて、抽出液に含まれるそれぞれの濃度を定量した。
(リンゴ酸、ギ酸およびコハク酸の測定方法)
リンゴ酸、ギ酸およびコハク酸の測定については、麦類加工品の抽出液のうち10μLをHPLCに供し、電気伝導度測定検出器を用いてこれらの量を測定した。測定は、高速液体クロマトグラフィーシステムLC−solutionシリーズ(株式会社島津製作所製)およびShim−pack SCR−102H(株式会社島津製作所製)を2本直列に用い、pH緩衝溶液を溶媒として用いて行った。分析条件は、A液を5mM、p−トルエンスルホン酸とし、B液を5mM、p−トルエンスルホン酸に29mg/Lの濃度でEDTA、および4185mg/Lの濃度でBis−Trisを加えた溶液とし、上記A液およびB液をともに流速0.8mL/分の条件で流して、分析を行った。
市販のリンゴ酸、ギ酸およびコハク酸の標準物質をそれぞれ用いて、抽出液に含まれるそれぞれ成分の濃度を定量した。
(ピラジン(PZN)類の測定方法)
ピラジン(PZN)類として、2−メチルピラジン(2MePZN)、2,5−ジメチルピラジン(2,5diMePZN)、2,6−ジメチルピラジン(2,6diMePZN)、エチルピラジン(EtPZN)、2,3−ジメチルピラジン(2,3diMePZN)および2,3,5−トリメチルピラジン(triMePZN)の6種の化合物を選択した。これらの6種の化合物の合計量を、ピラジン類の含有量(μg/麦類加工品1g)とした。
ピラジン(PZN)類の測定において、サンプルを以下のように調製した。
麦類加工品約30gを、カッターミル(SKL−A250、TIGER社製)を用いて約15秒粉砕した。各粉砕麦芽2gに20mLの純水を加え、次いでホモジナイザーを用いて撹拌(17000rpm、1分)した。得られた粉砕麦芽の懸濁液にジエチルエーテル10mLおよび塩化ナトリウム約8gを加えた。これを振とう機にて15分間振とう後、遠心分離(3500rpm、10分)を行なった。ジエチルエーテル層を回収し、GC−MSDにて分析した。
GC−MSD測定条件は、以下の通りである。
カラム:DB−WAX 60m×0.32mm×0.25μm
注入口:250℃
注入方法:2μL Split 10:1
流量:Heガス 1mL/分(一定流量)
昇温条件:70℃(5分)−5℃/分−230℃(30分)
検出器:MS
SIMモード
[実施例1]
全粒の麦芽に、高温高圧飽和水蒸気処理を行った。
すなわち高温高圧飽和水蒸気の入り口配管および出口配管を有する、耐圧圧力容器に容器の体積量(5kg)の全粒麦芽を入れ、指定の圧力および温度となるようなフィードバック制御を行い指定の時間の処理を行った。その処理は、温度は100℃または130℃とし、10分間処理を行った。
[参考例1]
処理温度を150℃または180℃とする以外は、実施例1と同様に処理した。
処理した後の麦類加工品について、そのまま試食し、官能評価を行った。結果を表1に示す。
更に、麦類加工品の特徴の評価の一として、加工品より成分を液体抽出し、官能評価および成分分析を行った。すなわち、麦類加工品について、一般的な穀類の粉砕機器を用いて、穀皮、穀粒が十分に同じような粒度になる程度まで乾式粉砕を行い、次いで、粉砕物と60℃の温水とを1:4の質量比で混合した溶液を、10分間60℃に保持した。次いで、その溶液を6000rpmで10分間遠心処理した後、濾紙濾過を経て得た溶液を抽出液とした。
得られたそれぞれの抽出液について官能評価を行った。結果を表2に示す。また、得られたそれぞれの抽出液について、HPLC分析装置を用いてリンゴ酸、コハク酸、ギ酸、バニリンおよびフルフラールの生成量を調べた。結果を表3に示す。なお未処理と表記の値は、本発明による高温高圧処理を行っていない原料の麦芽を用いて、同様の抽出処理を行った抽出液の測定結果である。
Figure 0005619427
Figure 0005619427
Figure 0005619427
表1〜表3より、本発明の技術を用いれば、コクおよび芳ばしい香がバランスよく感じられるようなうま味が増加するが、刺激性が強い酸味やコゲといった雑味を抑えた麦類加工品を提供できることが官能結果から明らかとなった。また、抽出液の分析結果からも、うま味を感じるサンプル1〜4ではバニリンおよびリンゴ酸が未処理のサンプルより多く検出された。サンプル1では青臭みおよびエグミがあり、芳ばしさやうま味に欠け、雑味があった。サンプル4では芳ばしい香りや飲み応えも感じられたが、刺激のある酸味が強く感じられ、またコゲ臭も強く感じられ雑味があった。サンプル4ではギ酸およびフルフラールの分析結果も官能評価を支持する結果を得られた。
[実施例2]
処理温度および処理時間を130℃で30分間または120℃で30分間とする以外は実施例1と同様とし麦類加工品を調製した。
[参考例2]
処理温度および処理時間を140℃で10分間または150℃で3分間とする以外は実施例2と同様として麦類加工品を調製した。
温度条件および処理時間を、表4に示した。これら4種の加工品について、実施例1と同様にして麦類加工品の抽出液を得た。得られた抽出液の官能評価および成分分析を、実施例1と同様に行った。結果を表4および表5に示す。
サンプル6では、うま味に寄与すると推察される成分の増加が確認されたが、雑味に寄与する成分の増加も確認された。サンプル8では雑味の評価では酸味は抑えられたが、青臭い臭いが感じられ結果としてはややうま味に欠け、雑味が目立ったものとなった。サンプル5および7が、コクおよび甘い香がバランスよく感じられ、コゲ、酸味および青臭さも抑えられていた。
Figure 0005619427
Figure 0005619427
[実施例3]
処理温度および処理時間を100℃〜130℃で10分〜30分間とする以外は実施例1と同様とし、各種処理条件で麦類加工品を調製した。
[参考例3]
処理温度および処理時間を140℃で15分間または150℃で3分間とする以外は、実施例3と同様にした。
温度条件および処理時間を、表6に示した。これらの加工品に含まれる成分の評価を行うために、加工品の抽出液を評価した。抽出液については実施例1と同様にして麦類加工品の抽出液を得た。得られた抽出液の官能評価を、実施例1と同様に行った。また、抽出液について、うま味成分として知られているコハク酸の含有量を測定した。また、抽出液のコハク酸含量の測定値を基に、麦類加工品中のコハク酸含有量を求めた。120℃〜150℃の処理温度で3分〜30分処理した場合、うま味はあるが雑味の抑えられた加工品を得ることができた。そのコハク酸の含有量は、うま味の官能結果に一致した。
Figure 0005619427
[実施例4]
ビールの製造例
本発明の麦類加工品を使用して、ビールの試験醸造を行った。
100Lスケールの仕込み設備を用いた。使用原料は30kg程度の麦芽(全体の10%麦類加工品を含む)を用いた。麦類加工品には、麦芽を130℃−30分間処理した麦類加工品(1)、または麦芽を180℃−10分間処理した麦類加工品(2)をそれぞれ用いた。当業者に一般的な糖化工程を経た後、糖化した麦類加工品にホップを約100g投入し、これを約60分間煮沸した後、冷却し、さらに約300gのビール酵母を添加し、10℃前後で2週間発酵を行った。
以後上述のような、工程による試験的なビールの作製手順を試醸処理と呼称する。
上記の試醸処理を行った製品についての官能試験の結果を表7に示す。
Figure 0005619427
実施例1〜4より、これまでに高温高圧処理で得られた麦類加工品と比較して100℃〜150℃、特に100℃〜140℃の温度範囲で処理することにより、麦類加工品において雑味を抑えて、うま味を付与することができた。またこのような原料を用いて上述の特徴を持つ醸造酒の製造も可能であることが分かった。
[実施例5]
処理温度および処理時間を105℃〜130℃で3分〜60分間とする以外は実施例1と同様とし、各種処理条件で麦類加工品を調製した。
[参考例4]
処理温度および処理時間を150℃で2分〜15分間とする以外は、実施例5と同様にして麦類加工品を調製した。
温度条件および処理時間を、表8〜9に示した。これらの加工品に含まれる成分の評価を行うために、加工品の抽出液を評価した。抽出液については実施例1と同様にして麦類加工品の抽出液を得た。得られた抽出液の官能評価を、実施例1と同様に行った。また、抽出液について、うま味成分として知られているコハク酸の含有量を測定した。105℃〜150℃の処理温度で2分〜60分処理した場合、うま味はあるが雑味の抑えられた加工品を得ることができた。
Figure 0005619427
Figure 0005619427
参考例5
処理温度および処理時間以外は実施例1と同様とし、各種処理条件で麦類加工品を調製した。温度条件および処理時間を、表10に示した。これらの加工品について、上述した6種のピラジン化合物の麦類加工品1g当たりの含有量(μg/麦類加工品1g)を測定し、この6種の化合物の合計量を、麦類加工品1g当たりのピラジン類含有量として表10に示した。また、実施例1と同様にして麦類加工品の抽出液を得た。得られた抽出液の官能評価を、実施例1と同様に行った。
140℃〜150℃で2〜5分処理することにより、未処理の場合と比較してピラジン類の含有量が増加した。ピラジン類の含有量は、うま味の官能結果に一致した。
Figure 0005619427
参考例6
全粒の麦芽(欧州産)に、家庭用スチームオーブン(ウォーターオーブン)(ヘルシオ、シャープ社製)を用いて、過熱水蒸気処理を行った。
具体的には、ドラフト内に家庭用スチームオーブンを設置し、該スチームオーブンに100gの全粒麦芽を入れ、次いでスチームオーブン内を窒素ガスで5分間置換した。窒素置換後、すばやくスチームオーブンの扉を閉め、扉を閉めると同時に過熱水蒸気処理を開始した。過熱水蒸気処理は、スチームオーブンの設定温度および設定時間をそれぞれ140℃および15分として行なった。過熱水蒸気を発生させるための水には、脱気した水を用いた。処理後の乾燥工程は行わず、得られた麦類加工品をそのまま試食し、官能評価を行なった。結果を表11に示す。140℃で15分の過熱水蒸気処理により、うま味はあるが雑味の抑えられた加工品を得ることができた。
Figure 0005619427
本発明によれば、麦類においてコゲおよびエグミの生成並びに刺激性を抑えながら、コクおよびうま味を引き出すことができるため、飲食物に麦類そのもののコクおよびうま味を付与することができる。したがって、本発明の製造方法により製造される麦類加工品は、コクおよびうま味のみを飲食物に付与するような商品の開発に利用できる。このような麦類加工品は、例えば、黒ビールのような濃厚なうま味を持ちながら、まったくコゲやカラメル臭のないビールの製造等に有用である。
本発明によって、刺激性、コゲ、エグミ等を付与することなく、原料そのもののコクおよびうま味を飲食物に付与することができる麦類加工品を、工業的に有利に提供することができる。

Claims (13)

  1. を、0〜1μg/mLの酸素濃度下で100℃以上140℃未満の飽和水蒸気で2分〜60分処理する工程を含むことを特徴とする麦類加工品の製造方法。
  2. 前記飽和水蒸気で2分〜30分処理することを特徴とする請求項1に記載の麦類加工品の製造方法。
  3. 前記飽和水蒸気で3分〜30分処理する請求項1に記載の麦類加工品の製造方法。
  4. 麦類加工品のコハク酸含有量が17ppm以上となるまで処理を行う請求項1〜3のいずれか一項に記載の麦類加工品の製造方法。
  5. 麦類加工品のコハク酸含有量が、未処理の麦類のコハク酸含有量と比較して1.01倍以上となるまで処理を行う請求項1〜3のいずれか一項に記載の麦類加工品の製造方法。
  6. 麦類加工品のコハク酸含有量が17ppm以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の麦類加工品の製造方法。
  7. 麦類加工品のコハク酸含有量が、未処理の麦類のコハク酸含有量と比較して1.01倍以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の麦類加工品の製造方法。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法で製造された麦類加工品を原料として製造された飲食物。
  9. 飲食物が、穀物醸造酒である請求項8に記載の飲食物。
  10. 穀物醸造酒が、麦芽発酵飲料である請求項9に記載の飲食物。
  11. を、0〜1μg/mLの酸素濃度下で100℃以上140℃未満の飽和水蒸気で2分〜60分処理する工程を含む、前記麦中のコハク酸、リンゴ酸、およびピラジン類からなる群より選択される少なくとも1種の成分の含有量を増加させる方法。
  12. さらに、フルフラールおよびギ酸からなる群より選択される少なくとも1種の成分の生成を抑制する請求項11に記載の方法。
  13. を、0〜1μg/mLの酸素濃度下で100℃以上140℃未満の飽和水蒸気で2分〜60分処理する工程を含む、前記麦に刺激性、コゲ、エグミを付与することなく、コク、およびうま味を付与する方法。
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