一般にホール素子は、平面的な4端子のデバイスであり、対向する2つの入力端子に電流を与えておき、平面上にある感磁部に垂直な方向の磁束密度を与えた場合に、この磁束密度に比例した出力電圧が、別の対向する2つの入力端子間に発生するデバイスで、感磁部と対向する磁石や磁性体の位置の検出に広く用いられている。しかしながら最近、地磁気や磁石の回転角度の検出など、互いに直交する方向の磁束密度を組み合わせて2次元又は3次元のベクトルとして捉え、信号処理を行って地磁気や回転角度を検出する磁気センサが提案されている。
ホール素子を含む電子部品のパッケージの多くは、いわゆる表面実装型のものであり、その場合、ホール素子の感磁部が搭載されている基板は、パッケージが実装される基板と平行となるため、実装基板に対して平行方向の磁界を検出するためには、比較的大型となるSIP(Single−In−Line Package)型のパッケージなどを使い、基板に対して部品を垂直に立てる必要があった。このため、部品の高さが高く、大型になってしまったり、部品を立てる際に角度のばらつきが発生することから、測定される磁界感度のばらつきが発生してしまったりという欠点があった。
これに対して、薄膜状のNi−Fe合金などの強磁性体からなる板(以下、磁気収束板と称する)と、その両端部に配置された一対2個のホール素子を組み合わせ、2個のホール素子の出力電圧の差を取り出すことで、基板と平行な方向の磁界を検知することができるタイプの磁気センサが知られている(例えば、特許文献1乃至4)。
このような磁気収束板の作用としては、この磁気収束板に平行な磁界が印加された場合、その端部付近で磁気収束板に磁力線が引き込まれるため、基板に垂直方向の磁束密度成分が発生することを利用している。すなわち、磁気収束板は、基板に平行な方向の磁界を垂直な方向の磁界に変換する作用をする。また、この磁界方向の変換の作用は、磁気収束版の端部付近で大きいから、ホール素子が磁気収束板の端部付近に配置されることが好ましいことは自明である。例えば、特許文献1によれば、円形の磁気収束板を使う場合には、ホール素子の感磁部の中心位置が、円形の磁気収束板の半径の0.58〜0.95倍の領域内に置くことが好ましいとされている。
このような磁気収束板の左端と右端の対称な位置において、平行な磁界から変換される垂直な磁界の方向は反対の極性であるから、2個のホール素子をこれらの位置に置き、双方のホール出力電圧の差をとることで、2倍の出力電圧を検知することができる。またこのとき、基板に垂直な方向の磁界が基板に平行な方向の磁界に重畳されていた場合には、印加される基板に垂直な方向の磁界は同じ極性であるから、これらはキャンセルされて、基板に平行な方向の磁界成分のみを検知することができる。逆に2個のホール素子の出力電圧の和をとることで、2倍の出力電圧を得ながらかつ基板に平行な方向の磁界をキャンセルし、基板に垂直な方向の磁界のみを検知することもできる。
上述した特許文献1によれば、磁性体(円盤状の磁気収束板の幾何学的な)中心から半径距離の約0.6〜約0.9倍の領域内に位置するような距離、例えば、磁気収束板の半径が115μmの場合には、115×0.6〜115×0.9=69〜103.5μmの領域内にホール素子の感磁部の中心位置が配置されるようにする。つまり、磁気収束板の端部から11.5〜46μm内側の領域内に感磁部の中心位置を配置することが記載されている。
しかしながら、実際には、感磁部は有限の大きさがあり、20μm〜100μm角の大きさのものが好んで使われている。この感磁部の大きさは、製造プロセスとコストの関係、あるいは感磁界感度とオフセット出力電圧との関係など、目的としているセンサの性能及びコストを勘案しての、設計上において決定される事項である。
例えば、上述した磁気収束板の半径を115μmとした場合、感磁部の大きさを23μmとしてしまうと、感磁部のすべてが磁気収束板に覆われることになり、磁気増幅率が低下するため、高精度な検出が難しくなる。また、磁気増幅率が低下すると同時に、感磁部の位置ずれに対して、磁気増幅率が変動することになり、特性のばらつきが大きくなってしまう。これらの問題を回避するためには、上述した特許文献1にも記載があるように、部分的にホール素子の感磁部が磁気収束板に覆われるようにする必要が出てくる。すなわち、上述した例では、感磁部を少なくとも23μm以上の大きさとしなければならない。しかし感磁部を大きくすることは、チップの面積の増大につながり、チップのコスト上昇につながる。
また、磁気センサを複数対組み合わせることで、例えば、特許文献2に示すような、ホール素子の感磁部と平行な面内方向に磁束密度を発生する磁石の回転位置を検知する磁気センサが実現されている。また、上述のように単に2個のホール素子の出力電圧の差を取り出すだけではなく、このホール素子の出力電圧の和をも取り出すことで、従来同様に、感磁部に垂直に印加される方向の磁束密度を検出することもできる。この原理を利用して、例えば、特許文献3の実施例2に示すような、地磁気など3軸の成分を有する磁束密度を検知するセンサが実現されている。
上述した例では、ホール素子の感磁部と平行な面内に、互いに直交する2軸を検知する関係上、軸に対して線対称な円形又はポリゴン形状の1つの磁気収束板に対して、2対以上のホール素子が利用されている。また、これらの磁気センサはその性格上、アナログ出力や、8ビット以上の多ビットの、擬似アナログ的なデジタル出力となっている。
一方、特許文献4のような、磁気収束板と一対2個のホール素子を、一方向にそって所定のピッチで磁極が交互に反転するように着磁されたリングやリニア・スケールに対向して配置し、磁石の発生する垂直方向・平行方向の磁束密度の極性がN極かS極かだけを判定して動作する、磁気式のパルスエンコーダに適したセンサも実現されている。リニア・スケールは、半径無限大の着磁リングであるから、着磁リングを例にとって説明すると、これは、交番着磁リングの周囲で、リングの周方向・径方向の磁界の位相差が90°になっていることに着目し、周方向磁界・径方向磁界の双方を同時に検出することで、回転パルスと回転方向の双方を検出するものである。
上述した特許文献4に記載の磁気センサは、2個の所定の間隔をおいて配置された2個のホール素子と、前記2個のそれぞれのホール素子の感磁部上に当該感磁部を覆うように配置された保護膜と、当該保護膜上に配置され、前記2個のホール素子の前記感磁部を覆うように配置された磁気収束板とを備えたものであり、磁気収束板によりホール素子の感磁部に平行な方向、すなわち、横方向の磁界をホール素子を貫通する方向、すなわち、縦方向の磁界に変換することと、2個のホール素子の出力の和をとることで、横方向の磁界成分による出力電圧をキャンセルして縦方向磁界成分による出力電圧を取り出し、また、2個のホール素子の出力の差をとることで、縦方向の磁界成分による出力電圧をキャンセルして横方向磁界成分による出力電圧を取り出し、それぞれの出力電圧を増幅した後シュミット回路で波形整形して、2相のエンコーダ出力波形を取り出すというものである。
この磁気センサは、縦方向・横方向共に、N極とS極の磁界が交互に現れる交番磁界を検知してスイッチング動作するものであり、理想的には0磁界でOn/Offが切り替わることにより、出力パルスのデューティー比が50%となり、高精度な位置検出が可能である。シュミット回路による波形整形は、ノイズによる出力のばたつきを防止するために、出力切り替わり磁界レベルにヒステリシスを付与するものである。従って、ノイズにより誤動作が発生しない範囲内で、出力切り替わりの磁界レベル、すなわち感度であるBopとBrpは、0に近く、N極側とS極側で絶対値が等しいことが好ましく、一般的な交番検知ホールIC同様、±0.5〜3mT程度に設定されることが好ましい。また、縦方向磁界・横方向磁界における出力切り替わり検知位置が90°の位相差を正確に保つためには、縦方向磁界の感度と横方向磁界の感度が揃っていることが好ましい。
上述した特許文献1乃至4に記載の磁気収束板を形成する方法は、例えば、特許文献5に例示されているように、ホール素子の形成された基板上に、別途作製した磁性薄膜を接着剤で貼り付けたり、あるいは磁性薄膜を蒸着またはスパッタリングなどの真空製膜法で形成したり、あるいは真空製膜法で形成した非常に薄い非磁性で導電性を有する下地の上に比較的厚膜の磁性体をめっきで形成したりするものである。
しかしながら、これらの方法のいずれによっても、実際の磁気収束板の製造工程においては、予めホール素子と回路が形成されたSiなどの基板の上にフォトリソグラフィーなどの手法を使って磁気収束板をパターニングする際に、所定の位置とずれて磁気収束板が形成されてしまうことがまま起こりうる。また、磁気収束板をめっきで形成する場合には、めっき成長に伴いテーパーがつく等、想定した形状からのずれが、ばらつきを持って発生するという問題がある。
磁気収束板の端部付近において、垂直方向の磁束密度が最大になることは、磁力線図の様相から容易に推測でき、例示した特許文献においても、ホール素子を磁気収束板の端部に配置することが好ましいとされている。
しかしながら、上述した特許文献において好ましいとされる、磁気収束板の端部付近の垂直方向の磁束密度の変化は急峻であり、ホール素子を配置する位置と、磁気収束板の形状との関係を決定する上で、磁束密度が最大になる、すなわち、磁気センサの感度が最高になる点が、上述した磁気収束板の位置ずれなどを考えると、磁気センサの感度のばらつきの観点からは必ずしも最適な点とは限らず、設計において試行錯誤を繰り返す必要があった。
特に、特許文献4に記載の磁気センサにおいては、縦磁場の磁気感度は、ホール素子に印加される磁束密度は、磁気収束板の厚さ方向に印加される磁束密度であり、磁気収束板のこの方向の反磁界係数が1に非常に近いため、磁気収束板の影響をほとんど受けないから、ほぼ2個のホール素子の感度の和のみに比例するのに対し、横磁場の磁気感度は、ホール素子に印加される磁束密度が、磁気収束板の形状や位置に大きく影響されるという欠点があり、縦磁場感度と横磁場感度の比が揃った使いやすいセンサを実現することは容易ではなかった。これらの理由により、想定した感度の磁気センサを安定して量産することが難しかった。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、磁気収束板の位置ずれなどの影響による磁気センサの感度特性のばらつきの問題を解決した高精度で安定的な磁気センサを提供することにある。
本発明は、このような目的を達成するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、ホール素子を備えた検知部と、該検知部からの信号を処理する信号処理部とからなる磁気センサにおいて、前記検知部が、同一の基板上に所定の間隔をおいて設けられた少なくとも一対のホール素子と、該ホール素子の感磁部を覆うように設けられた保護膜と、該保護膜上に設けられた磁気収束板とを備え、前記感磁部の中心は、磁気収束板の中心を通る直線上にあり、前記感磁部の前記直線上における長さをA、前記感磁部が前記磁気収束板の縁部からはみ出した部分の前記直線上における長さをBとするとき、0.15A<B<0.4Aの関係を有することを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記磁気収束板の縁部が、前記感磁部の中心を覆うようにして、該感磁部の中心と該感磁部の端部との中間点に位置するように配置されていることを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記磁気収束板が、円形,正方形又は多角形の薄膜状磁性体板であることを特徴とする。
また、請求項4に記載の発明は、請求項1,2又3に記載の発明において、前記信号処理部が、前記一対のホール素子の出力電圧の和電圧又は差電圧を生成する加算・減算回路と、該加算・減算回路から出力された加算値又は減算値を予め設定されている閾値と比較判定するシュミット回路と、該シュミット回路の比較判定結果に基づいて、前記加算・減算回路の加算モードと減算モードに同期して動作するラッチ回路とを備え、該ラッチ回路からの前記加算モードによる縦磁場に対する判定出力と前記減算モードによる横磁場に対する判定出力とを出力することを特徴とする。
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記ラッチ回路からの前記加算モードによる縦磁場に対する判定出力と前記減算モードによる横磁場に対する判定出力とから方向に関する出力を生成する方向出力回路と、前記縦磁場に対する判定出力と前記横磁場に対する判定出力とから排他的OR出力を生成するパルス出力回路とを備えていることを特徴とする。
また、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の発明において、前記基板がSi基板であって、前記検知部が、前記信号処理部と一体となって前記Si基板に設けられていることを特徴とする。
また、請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の発明において、前記一対のホール素子が、n対からなる(ただしn>1)ことを特徴とする。
また、請求項8に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の発明において、前記磁気収束板の中心を通る直線を跨ぐようにして、複数個一対のホール素子の前記感磁部の中心が、前記磁気収束板の中心を通る直線を前記収束板の中心において+θ回転させた別の直線である第1の直線上と、前記磁気収束板の中心を通る直線を前記磁気収束板の中心において−θ回転させた別の直線である第2の直線上に各々配置されていることを特徴とする。
本発明によれば、従来は磁気収束板の形成時の位置ずれ・形状ずれに起因して発生していた磁気センサの感度のばらつきを小さくし、かつ高感度な磁気センサを実現することができる。
以下、図面を参照して本発明の各実施例について説明する。
本発明の磁気センサは、「ホール素子を含む検知部」と「各種回路を含む信号処理部」とで構成されており、実施例1は、左右一対のホール素子と円形の磁気収束板を備えた検知部、実施例2は、左右上下二対のホール素子と円形の磁気収束板を備えた検知部、実施例3は、一対のホール素子を備えた検知部と信号処理部、実施例4は、左右一対のホール素子と正方形の磁気収束板を備えた検知部という順番で以下に説明する。
図1(a),(b)は、本発明に係る磁気センサの実施例1を説明するための構成図で、ホール素子と磁気収束板の位置関係を説明するための構成図である。図1(a)は平面図で、図1(b)は図1(a)におけるL−L線断面図である。
本発明の磁気センサは、ホール素子を含む検知部と各種回路を含む信号処理部とからなっている。本実施例1に係る磁気センサの検知部は、Si基板15の上部平面上に埋め込まれるようにして所定の間隔をおいて左右2個一対の正方形のホール素子12R,12Lが設けられている。このホール素子12R,12Lの四隅には直角三角形のコンタクト電極13R,13Lが設けられ、ホール素子12R,12Lの感磁部14R,14Lの表面と電極13R,13Lの表面とSi基板15の表面は、同一平面上に配置されている。一対のホール素子12R,12Lは、信号処理部と一体となったSi基板15上に形成されていることが好ましい。
また、保護膜16は、Si基板15上で、ホール素子12R,12Lの感磁部14R,14Lを覆うように設けられている。さらに、保護膜16上には磁気収束板11が設けられ、この磁気収束板11は、感磁部14R,14Lの所定領域を覆うようにして配置されている円形の薄膜状磁性体板である。
この所定領域は、感磁部14R,14Lの中心H0R,H0Lが、磁気収束板11の中心M0を通る直線L上にあり、感磁部14R,14Lの直線L上における長さ(幅)をA、感磁部14R,14Lが磁気収束板11の縁部からはみ出した部分の直線L上における長さをBとするとき、0.15A<B<0.4Aの関係を有している。例えば、ホール素子12R,12Lの幅を70μmとした場合、0.15×70=10.5<B<0.4×70=28の関係が成り立っている。
このことは、磁気収束板11の縁部が、感磁部14R,14Lの中心H0R,H0Lを覆うようにして、感磁部14R,14Lの中心H0R,H0Lとこの感磁部14R,14Lの端部との中間点に位置するように配置されていることを含んでいる。
本実施例1では、Si基板上15に2個の、四隅に底辺と高さdが17μmの直角三角形形状で感磁部とオーバーラップするコンタクト電極を有する70μm×70μmのホール素子を、中心間距離Mが160,180,200,220,240,260μmの6通りに離して形成し、その上部に保護膜16を設けた後に、2個のホール素子を端部でオーバーラップするように、直径250μmの円形状に湿式めっきで形成したNi−Fe合金からなる磁気収束板11が形成されている。
ここで、磁気収束板を円形にしたのは、Si基板チップが正方形であったため、回転対称な形状が好ましいことと、図示されていないボンディングパッドの位置による制約からであり、つまりは設計上発生した制約事項によるものである。ただし、実際のめっき工程でのめっきの付き方などを考慮すると、総じて円形の磁気収束板を使うことが、応力あるいは熱応力による感度やオフセットのドリフトを低減させる上で好ましい。
なお、磁気収束板11の形状は、円形だけでなく、正方形又は多角形の薄膜状磁性体板であってもかまわない。正方形の薄膜状磁性体板については、実施例4において後述する。また、本実施例1においては、左右2個一対のホール素子を用いた場合について説明したが、上下2個一対のホール素子を用いてもかまわない。また、図6に基づいて後述するように、左右(X軸)上下(Y軸)4個二対のホール素子を用いてもかまわない。さらに、2n角形の薄膜状磁性体板を用いる場合には、対向する各辺毎に一対のホール素子を配置してn対からなる(ただしn>1)ホール素子を用いてもかまわない。また、各辺に複数個のホール素子を配置し、同じ辺上の複数個の素子の出力電圧を演算してその辺の出力電圧を代表させてもかまわない。
図1においては、左側のホール素子12LをL素子,右側のホール素子12RをR素子としている。磁気収束板11の厚さは6μmであり、磁気収束板11の下面と感磁部面の距離は4μmである。この4μmの間は、めっきをつけるための下地材である、Ti,W,Cuと、主にSiからなるICの保護膜16や配線層であり、いずれも非磁性体である。
この磁気センサのそれぞれのホール素子12R,12Lに電源を接続し、回路面に垂直で回路面の表から裏の方向(以下、縦磁場と称する)、また回路面に平行でホール素子12Lからホール素子12Rの方向(以下、横磁場と称する)に電磁石で磁束密度を印加して感度を測定した。測定した個数は、それぞれの中心間距離を持つ磁気センサにつき、10個ずつである。また、それぞれのホール素子の感度の標準偏差を平均値の絶対値で除したものを計算し、ばらつきを評価した。結果は表1の通りである。
L素子の横磁場の磁気感度が負となっているのは、L素子側から磁界を印加しているため、L素子部にはホール素子の裏面方向からの磁束密度が発生するためである。この結果からは、縦磁気感度のばらつきは余り感磁部の位置に依存しないが、横磁気感度については、2個のホール素子の中心間間隔が、190〜210μmの中心距離を有する場合に、磁気感度が大きくかつばらつきが小さいということがわかる。
また、縦磁場感度のばらつきが横磁場感度のばらつきに対して小さいのは、縦磁場に対して磁気収束板の有無がほとんど影響していないためと考えられる。したがって、縦磁気感度のばらつきは、ホール素子そのものの磁気感度のばらつきが支配因子であり、横磁気感度のばらつきは、上述した縦磁気感度のばらつきというよりも、横磁気感度と縦磁気感度の比のばらつきと考えられる。
さらに、磁気シミュレーションを用いて、本実施例1の磁気センサの磁気収束板付近の磁束密度分布を計算した。
図2は、図1に示した本実施例1において、図中のX軸方向に横磁場1mTを印加した場合の、磁気収束板の下部付近の縦方向磁束密度の分布のシミュレーション結果を示した図で、横磁場1mTを印加した状況で得られた縦磁場の磁束密度分布と、中心間距離200μmのホール素子の位置を重ね合わせた図である。
図3は、本実施例1の横磁気感度と縦磁気感度の比の実測値とシミュレーション結果との比較を説明するための図で、図2のように、ホール素子の感磁部内部で磁束密度は一様ではないが、ここで計算された結果から、感磁部に相当するエリアの磁束密度の平均値を代表値として、中心間距離に対してプロットした図である。図3において、「実測」となっているプロット点は、本実施例1で作製したホール素子における磁気感度の実測値から、横磁気感度÷縦磁気感度を算出したものである。エラーバーは最大・最小値である。実測とシミュレーションがよく一致していることがわかる。なお、このとき、縦磁場1mTを印加した時の感磁部の磁束密度の平均値は、計算した中心間距離の全てにおいて1.03程度と、ほとんど変わらなかった。
実測とシミュレーションから、磁気感度が大きく得られる2個のホール素子の中心間間隔が190〜210μmの中心距離を有する場合において、中心間距離の変化量あたりの横磁気感度÷縦磁気感度の変化量が小さいが、このことは磁気収束板の位置や形状のばらつきに対しても有利であることを示唆する結果となっている。
以下、シミュレーション結果を元に説明する。本実施例1において作製したホール素子は、サイズ70μm・電極部の寸法17μmの1種類のみであったが、例えば、Si基板上に形成されたホールICでは、20〜100μmなどのサイズで、また感磁部の形状も多種多様にわたっている。そこで、サイズや感磁部の形状を変化させて、シミュレーションを行い、横磁場印加時に、ホール素子部で観測される縦磁場の値を計算した。計算に使用した感磁部のサイズは、40,70,100μmの3種類である。またコンタクト電極の一辺のサイズは、感磁部のサイズが40μmについては、電極サイズが10,12,13,16μmであり、感磁部のサイズが70μmについては、電極サイズが17,20,23,28μmであり、感磁部のサイズが100μmについては、電極サイズが25,28,33,40μmとした。磁気収束板の直径は同じく250μmである。
図4(a)は、本実施例1において、形状及び位置の異なる感磁部を有するホール素子の位置と横磁気感度と縦磁気感度の比の関係のシミュレーション結果を示した図で、図4(b)は感磁部の磁気収束板エッジからのはみ出し量を示す図である。
計算値をまとめるにあたり、感磁部の形状が大きく異なるので、感磁部の円形磁気収束板からのはみ出し量Bに対しての、横磁場1mT印加時にホール素子部で観測される縦磁場の値をプロットした。図4(a)を見ると、はみ出し量Bに対してのホール素子部で観測される縦磁場の変化は大きく分けて3つのグループに分かれており、そのグループは、感磁部のサイズごとであることがわかる。
図5は、本実施例1において、形状及び位置の異なる感磁部を有するホール素子について、感磁部サイズAで規格化されたホール素子の感磁部のエッジからのはみ出し量Bと、横磁気感度と縦磁気感度の比のシミュレーション結果を示した図である。いずれのケースでも、縦磁場感度の変化量が小さく、かつ縦磁場感度が大きく得られる、すなわち、磁気収束板の位置・サイズのばらつきに対して感度のばらつきが小さいのは、当初計算のパラメータとして採用した2素子の中心間距離、つまり感磁部の中心位置と磁気収束板の半径との関係というより、はみ出し量Bの感磁部サイズAに対する比が0.15〜0.4であり、さらに好ましくは0.25前後のものであることがわかる。これは、例えば、感磁部のサイズが40μm×40μmの場合には、はみ出し量の最適値は40×0.25=10μmであるが、一般的なマスクアライナーの精度や、めっき時のばらつきを考慮すると磁気収束板のエッジの位置は±5μmはばらついてしまうものであり、実際の生産を考慮すると、上述の範囲に設定することが妥当である。
なお、このシミュレーションは、磁気収束板の厚さを6μm,直径が250μm,磁気収束板の下面とホール素子との距離を6μmとして、ホール素子が配置される位置付近の磁束密度を計算したものであるが、磁界は寸法について相似則があり、例えば、図2において、磁気収束板の中心からの平面距離が240μmの位置での磁束密度は、磁気収束板の厚さ3μm,直径125μm,磁気収束板の下面とホール素子との距離を3μmとしたときに、磁気収束板の中心からの平面距離が120μmの位置での磁束密度と同じである。
また、磁気収束板の下面とホール素子との距離が変化すると、縦磁場磁束密度の絶対値は変化するが、図5に示したように、はみ出し量Bの感磁部サイズAに対する比が0.15〜0.4であり、さらに好ましくは0.25前後である傾向には変わりはなかった。この相似則から、一般的に利用されるサイズのホール素子や磁気収束板に対して、このようなはみ出し量の設定は、ばらつきの少なく感度の高い、すなわち高精度な磁気センサを実現する上で有効である。
図6は、本発明に係る磁気センサの実施例2を説明するための構成図である。上述した実施例1では、ホール素子12R,12Lが直線L上に2個一対として配置した場合について説明したが、図6に示すように、例えば、直線Lと直交する直線L’上に別の2個一対のホール素子12U,12Dが配置され、左右(X軸)上下(Y軸)4個二対のホール素子を用いてもかまわない。さらに、多角形の薄膜状磁性体板を用いる場合には、各辺毎に一対のホール素子を配置してn対からなる(ただしn>1)ホール素子を用いてもかまわない。いずれの場合であっても、本実施例2の直線L上において起こるのと同じ事象が起こることは言うまでもない。
なお、図6においては、感磁部14R,14Lの直線L上における長さをA、感磁部14R,14Lが磁気収束板11の縁部からはみ出した部分の直線L上における長さをBとするとき、0.15A<B<0.4Aの関係を有している。
図7は、本発明に係る磁気センサの実施例3を説明するためのブロック構成図で、磁気センサの検知部と信号処理部とを示している。上述した実施例1で作製したのと同様の形状である円形の磁気収束板72を有する2個1対のホール素子71を作製し、ホール素子を形成するのと同時に、図7のような回路を同じSi基板上に形成した。磁気収束板の直径は250μm,ホール素子のサイズは70μm×70μm,ホール素子中心間距離210μmである。これは感磁部のはみ出し量Bにして15μmであり、感磁部サイズAの約0.21倍がはみ出していることになる。この時横磁場1mTを印加したときにホール素子に発生する出力電圧は、図5によれば、縦磁場1.65mTを印加したときのものにほぼ等しいことになる。
磁気収束板72の下に形成されたホール素子対71の出力電圧は、増幅器73,74で増幅された後、クロックにより時分割で駆動される加算/減算回路75に入力される。なお、増幅器73,74には、図示されていないオフセットキャンセル回路が含まれている。加算/減算回路75の出力する、増幅された2個のホール素子の出力電圧の加算又は減算値は、シュミット回路76により予め設定されている閾値と比較・判定され、時系列的にOnもしくはOffのデジタル信号となって出力される。このときの閾値は、この磁気センサの縦磁場感度と横磁場感度の値をそろえる目的で、上述した1.65倍に設定した。なお、閾値を変化させる代わりに同じ値とし、増幅器73,74の利得を、互いに1.65倍の関係としても同じことである。判定結果は加算/減算回路75の、クロックにより駆動される加算モード/減算モード切替スイッチと同期して動作するラッチ回路77に保持され、加算による判定結果、すなわち、縦磁場に対するセンサ判定出力と、減算による判定結果、すなわち、横磁場に対するセンサ判定出力に分別される。分別された縦磁場・横磁場それぞれのセンサ判定出力は、XOR演算を行って回転パルス出力を得る論理回路(パルス出力回路)78と、方向性判定を行う論理回路(方向出力回路)79を介して出力される。
つまり、本実施例3における磁気センサは、一対のホール素子71の出力電圧の和電圧又は差電圧を生成する加算・減算回路75と、この加算・減算回路75から出力された加算値又は減算値を予め設定されている閾値と比較判定するシュミット回路76と、このシュミット回路76の比較判定結果に基づいて、加算・減算回路75の加算モードと減算モードに同期して動作するラッチ回路77と、このラッチ回路77からの加算モードによる縦磁場に対する判定出力と減算モードによる横磁場に対する判定出力とから方向に関する出力を生成する方向出力回路79と、縦磁場に対する判定出力と横磁場に対する判定出力とから排他的OR出力を生成するパルス出力回路78とを備えている。
方向判定は、次のようにして行われる。この磁気センサに印加される磁界として、着磁リングの周囲などで観測される回転磁界が想定される。閾値に対して十分な大きさの磁界の回転に伴い、(縦磁場センサ判定出力,横磁場センサ判定出力)は図7のように変化するから、この判定出力の対は、それぞれ、
順方向回転:(H,L)→(H,H)→(L,H)→(L,L)→・・・
逆方向回転:(H,L)→(L,L)→(L,H)→(H,H)→・・・
と変化することになる。従って、縦磁場センサ判定出力又は横磁場センサ判定出力の変化の瞬間に、変化後の状態と変化前の状態を参照して回転方向を判定することができる。
なお、ラッチ回路77の出力をそのまま取り出すことで、この磁気センサに印加される回転磁界に対して、縦磁場センサ判定出力をA相とし、横磁場センサ判定出力をB相として、出力することもできる。
このようにして作製した磁気センサの縦磁気感度・横磁気感度を測定した。n=10において、縦磁気感度は出力状態がH→Lとなる磁束密度BopVが平均1.6mTでσが0.11mT、L→Hとなる磁束密度BrpVが平均1.5mTでσが0.10mT、横磁気感度は出力状態がH→Lとなる磁束密度BopHが平均1.5mTでσが0.15mT,出力状態がL→Hとなる磁束密度Brpが平均1.7mTでσが0.18mTと、非常にばらつきの小さいものであった。
図8(a),(b)は、本発明に係る磁気センサの実施例4を説明するための構成図で、図8(a)は平面図で、図8(b)は図8(a)におけるL−L線断面図である。上述した実施例における磁気収束板が円形であったのに対して、本実施例4では正方形の磁気収束板を用いたものである。
Si基板105の上部平面上に埋め込まれるようにして所定の間隔をおいて左右2個一対の正方形のホール素子102R,102Lが設けられている。このホール素子102R,102Lの四隅には直角三角形のコンタクト電極103R,103Lが設けられ、ホール素子102R,102Lの感磁部104R,104Lの表面と電極103R,103Lの表面とSi基板105の表面は、同一平面上に配置されている。一対のホール素子102R,102Lは、信号処理部と一体となったSi基板105上に形成されていることが好ましい。
また、保護膜106は、Si基板105上で、ホール素子102R,102Lの感磁部104R,104Lを覆うように設けられている。さらに、保護膜106上には磁気収束板101が設けられ、この磁気収束板101は、感磁部104R,104Lの所定領域を覆うようにして配置されている正方形の薄膜状磁性体板である。
この所定領域は、感磁部104R,104Lの中心H0R,H0Lが、磁気収束板101の中心M0を通る直線L上にあり、感磁部104R,104Lの直線L上における長さをA、感磁部104R,104Lが磁気収束板101の縁部からはみ出した部分の直線L上における長さをBとするとき、0.15A<B<0.4Aの関係を有している。
なお、本実施例4における検知部の信号処理は、図7に示したブロック構成図を適用することができることは言うまでもない。
図9は、図8に示した本実施例4において、図中のX軸方向に横磁場1mTを印加した場合の、磁気収束板の下部付近の縦方向磁束密度の分布のシミュレーション結果を示した図で、紙面の左右方向成分(X方向)に1mTが印加された正方形の磁気収束板101の端部付近の、紙面に垂直方向(Z方向)の磁束密度の分布を、磁気シミュレーションにおいて求めた図である。図10は、図9のX軸上のZ方向の磁束密度の分布をプロットした図である。
Z方向の磁束密度の変化は、磁気収束板101の端部のやや内側付近で非常に大きなピークを持つことがわかる。この磁束密度が大きくかつ変化が大きな部分、すなわち、磁気収束板101の端部が、ホール素子102R,102Lの感磁部104R,104Lの上方に常に含まれていることは、(1)ホール素子に印加される磁束密度が大きく、ホール出力電圧も大きく得られるため、S/N比のよい高精度な検出ができる、(2)磁気収束板の位置ずれがあっても、磁束密度の変化の大きい場合が常にホール素子の感磁部に含まれているので、位置ずれによるホール素子部の磁束密度の変化は、磁束密度の変化の小さい部分の影響しか受けないので、位置ずれに対して感度のずれが小さくなる、すなわち、ばらつきの小さい高精度な検出ができる、という利点を有する。
つまり、磁気収束板101の端部と、ホール素子102R,102Lの感磁部104R,104Lとがオーバーラップしており、その上で、双方の平面的な位置関係であるオーバーラップ量を適切に定めることが、高精度でばらつきの少ないセンサを安定して生産する上で大変重要である。
図11は、本発明に係る磁気センサの実施例5を説明するための構成図で、ホール素子と磁気収束板の位置関係を説明するための構成図である。
本実施例5に係る磁気センサの検知部は、Si基板の上部平面上に埋め込まれるようにして所定の間隔をおいて左右4個一対の正方形のホール素子202R1,202R2,202L1,202L2が設けられている。これらのホール素子202R1,202R2,202L1,202L2の各々の四隅には直角三角形のコンタクト電極203R1,203R2,203L1,203L2が設けられ、ホール素子202R1,202R2,202L1,202L2の感磁部204R1,204R2,204L1,204L2の表面と電極203R1,203R2,203L1,203L2の表面とSi基板の表面は、同一平面上に配置されている。一対のホール素子202R1,202R2,202L1,202L2は、信号処理部と一体となったSi基板上に形成されていることが好ましい。
また、保護膜(図示せず)は、Si基板上で、ホール素子202R1,202R2,202L1,202L2の感磁部204R1,204R2,204L1,204L2を覆うように設けられている。さらに、保護膜上には磁気収束板201が設けられ、この磁気収束板201は、感磁部204R1,204R2,204L1,204L2の所定領域を覆うようにして配置されている円形の薄膜状磁性体板である。
この所定領域は、感磁部204R1,204R2,204L1,204L2の中心が、磁気収束板201の中心を通る直線L上にあり、感磁部204R1,204R2,204L1,204L2の直線L上における長さ(幅)をA1,A2、感磁部204R1,204R2,204L1,204L2が磁気収束板201の縁部からはみ出した部分の直線L上における長さをB1,B2とするとき、0.15A1<B1<0.4A1及び0.15A2<B2<0.4A2の関係を有している。
つまり、磁気収束板201の中心を通る直線Lから角度θ離れて跨ぐようにして、複数個一対のホール素子202R1,202R2,202L1,202L2の感磁部204R1,204R2,204L1,204L2の中心が、磁気収束板201の中心を通る直線L1,L2上に各々配置されている。ここで、θが大きくなる、すなわちホール素子202R1と202R2,202L1と202L2が、直線Lから離れて配置されてしまうことは、感磁界感度の低下と、ばらつきの増大につながるから、それぞれ隣接して配置されることが好ましい。
このように、磁気収束板201の左端及び右端に、複数個のホール素子を隣接させて配置し、隣接したホール素子の出力電圧を演算することであたかも1個のホール素子の出力電圧として、その後の信号処理を行うこともできる。
なお、本実施例5では、X軸上に左右4個一対のホール素子が配置されているが、Y軸上に上下4個一対のホール素子が配置されていてもかまわないし、X軸及びY軸上に上下左右8個二対のホール素子が配置されていてもかまわない。