JP5609277B2 - 熱処理異常検出方法 - Google Patents

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Description

本発明は、高周波焼入れが施された鋼製部材の熱処理異常を破壊することなく検出する方法に関する
転がり軸受は、使用時には大きな荷重を支持しながら回転するので、軌道輪と転動体の接触部には大きな接触圧力が生じ、軌道輪や転動体の内部には大きな剪断応力が作用する。この大きな剪断応力に耐えるために、軌道輪,転動体等の軸受部品の材料としては高炭素クロム軸受鋼等が採用され、焼入れ及び焼戻しを施すことにより硬化される。したがって、転がり軸受にとって熱処理品質は最も重要な要素の一つであるため、焼入れ時の加熱不足や冷却不足などによりもたらされる熱処理異常がないか、硬さ測定や金属組織の検査によって軸受部品の熱処理品質を保証している。
また、軸受部品に対して高周波焼入れや浸炭処理などの表面硬化処理を施す場合には、材料内部の剪断応力に対して材料強度が上回るといった観点や、破壊靱性を確保すべく十分に心部組織層を残すといった観点から、硬化深さが決定される。したがって、転がり軸受としての機能を保証するために、所定の硬さとなる深さである有効硬化層深さを検査している。
前述した硬さ,有効硬化層深さ,金属組織の検査は、破壊検査が一般的である。しかしながら、このような破壊検査は、鋼製部材の形状が複雑であったり大型であったりした場合は、切断が容易ではないため、多大な時間とコストを要することになる。そのため、近年では、高周波焼入れされた軸受部品の有効硬化層深さを、超音波を用いて非破壊的に測定する方法が用いられることもある。
例えば、特許文献1には、MHz帯の周波数の超音波パルスを測定対象材料の表面に対し傾斜させて送受波する探触子を有するセンサ部と、測定対象材料内で反射してきた受波信号中から、測定対象材料の焼入れ硬化層と母材層(非焼入れ層)との境界からの反射波を抽出する抽出手段と、測定対象材料の表面から反射波までの距離を計測する演算部とを備える、超音波の横波を利用した層厚測定装置が開示されている。
特許文献1によれば、超音波パルスが測定対象材料の内部に伝播した際に、結晶粒径の小さい焼入れ硬化層と比較して結晶粒径の大きい母材層の方が反射レベルが大きいことを利用して、その反射レベルに差が見られる境界を検出することによって、有効硬化層深さを測定することができる。
また、特許文献2には、特許文献1の場合と同様に、焼入れ硬化層と母材層との境界付近の超音波反射波を利用して、焼入れ硬化層の深さを評価する方法が開示されている。特許文献2によれば、受信信号の焼入れ硬化層の表面反射波から該表面反射波の次に受信した境界付近の超音波反射波までの時間を複数計測し、この計測した時間情報を集計して、所定の時間帯毎の超音波反射波の発生頻度によりヒストグラムを形成し、発生頻度のピーク位置における時間帯値によって焼入れ硬化層の深さを評価することができる。
しかしながら、特許文献1,2の方法では、測定対象材料のうち硬化層深さ一点のみしか測定できないことに加えて、その硬さは不明確であった。高周波焼入れが施された転がり軸受の軸受部品においては、転がり疲労寿命等の必要な性能を確保するためには、例えば有効硬化層深さ(所定の硬さとなる深さ)を高精度に測定したり、熱処理異常(例えば、表面におけるトゥルースタイト,未変態フェライト等の不完全焼入れ組織の存在や、焼入れ層の貫通(すなわち、ずぶ焼入れ状態))を確実に検出する必要があるので、特許文献1,2の方法は転がり軸受の品質を保証するための方法としては不十分であった。
このような背景から、受信された超音波の反射波における散乱波のピーク信号を検出し、このピーク信号が現れる表面からの深さ位置であるピーク位置を、検出したピーク信号の発信から受信までの伝搬時間により算出し、算出したピーク位置のヒストグラムから所定の基準により超音波深さ位置を定め、予め求めておいた超音波深さ位置と有効硬化層深さとの相関関係に基づいて、有効硬化層深さを測定する方法が提案されている(特許文献3を参照)。
特開平8−94344号公報 特開平11−94809号公報 特開2007−198822号公報 特開2008−261765号公報 特開2007−218590号公報
しかしながら、特許文献3の方法では、例えば部材の形状や高周波焼入れ条件が変わって、高周波加熱時の温度勾配が変化した場合は、超音波深さ位置と有効硬化層深さとの相関関係も変化すると考えられるため、有効硬化層深さを正確に測定することができないおそれがあった。
さらに、焼入れ時の加熱不足や冷却不足によりもたらされる焼入れ硬化層の表面硬さ不足や、過加熱による焼入れ硬化層の貫通(すなわち、ずぶ焼入れ状態)といった熱処理異常があった場合でも、あたかも正常に熱処理されたかのような測定結果が得られるため、熱処理異常を検出することが困難であるとともに、誤った有効硬化層深さを結果として出力してしまうおそれがあった。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、形状,焼入れ条件等が種々異なる部材に適用可能であり、高周波焼入れが施された鋼製部材の熱処理異常を破壊することなく検出することができる方法を提供することを課題とする
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明の熱処理異常検出方法は、高周波焼入れにより生じた焼入れ組織と非焼入れ組織とを備える鋼製の被検材に超音波パルスを入射し、前記被検材の表面から所定深さまでの間の各深さ位置でそれぞれ反射された反射波を受信して、前記各反射波の強度を取得し、前記深さ位置と前記反射波の強度との関係を示す反射波形曲線を描き、この反射波形曲線が下記の3つの条件を全て満足する場合に、前記被検材に熱処理異常がないと判定することを特徴とする。
条件A:前記焼入れ組織に起因し且つ強度が最も低い反射波の深さ位置よりも深い深さ位置に、極大ピークを有し、該極大ピークの反射波は、前記非焼入れ組織に起因し且つ表面散乱に起因する部分を除いて強度が最も高い。
条件B:前記焼入れ組織に起因し且つ強度が最も低い反射波の強度が、所定の第一閾値以下である。
条件C:前記非焼入れ組織に起因し且つ表面散乱に起因する部分を除いて強度が最も高い反射波の強度が、所定の第二閾値以上である。
この本発明の熱処理異常検出方法においては、前記超音波パルスを複数回連続的に入射することにより、前記反射波形曲線を複数取得した後、これら複数の反射波形曲線を平均化して得た平均化曲線を平滑化し、その平滑化曲線から読み取った前記反射波の強度を用いて、前記被検材に熱処理異常があるか否かを判定することが好ましい。
また、本発明の熱処理異常検出方法においては、前記被検材は、転がり軸受の内輪,外輪,又は転動体とすることができる
本発明の熱処理異常検出方法は、形状,焼入れ条件等が種々異なる部材に適用可能であり、高周波焼入れが施された鋼製部材の熱処理異常を破壊することなく検出することができる
本発明に係る転がり軸受の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す縦断面図である。 焼入れが施された被検材について表面からの距離と硬さとの関係を模式的に示したグラフである。 被検材(試料1)の平均化曲線及び平滑化曲線である。 被検材(試料1)の硬さ分布曲線である。 被検材(試料2,3)の平滑化曲線である。 被検材の平滑化曲線である。 最低強度の度数分布図である。 極大ピーク強度の度数分布図である。 被検材(試料4〜6)の平滑化曲線である。 被検材(試料4〜6)の硬さ分布曲線である。
本発明に係る熱処理異常検出方法の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る転がり軸受の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す縦断面図である。
図1の深溝玉軸受は、外周面に軌道面1aを有する内輪1と、軌道面1aに対向する軌道面2aを内周面に有する外輪2と、両軌道面1a,2a間に転動自在に配された複数の転動体(玉)3と、内輪1及び外輪2の間に転動体3を保持する保持器4と、内輪1及び外輪2の間の隙間の開口を覆う密封装置5,5(例えば鋼製のシールドやゴムシール)と、を備えており、内輪1の外周面及び外輪2の内周面の間に形成された軸受内部空間には、図示しない潤滑剤(例えば潤滑油,グリース)が封入されている。なお、保持器4や密封装置5は備えていなくてもよい。
この深溝玉軸受においては、内輪1,外輪2,及び転動体3は、S53C,SUJ2等の鋼で構成されている。内輪1,外輪2,及び転動体3には高周波焼入れ(浸炭焼入れ,浸炭窒化焼入れ等も採用可能である)が施されていて、該焼入れにより硬化されてなる硬化層(図示せず)が軌道面1a,2a及び転動体3の転動面3aに形成されている。また、硬化層の内側には、焼入れが施されていない心部(図示せず)がある。硬化層は焼入れ組織を備え、心部は非焼入れ組織を備えている。
そして、この深溝玉軸受においては、内輪1,外輪2,及び転動体3について、熱処理異常の有無が後述の熱処理異常検出方法で検出されており、その品質が保証されている。なお、内輪1,外輪2,及び転動体3のうち少なくとも一つの品質が保証されていればよいが、全ての品質が保証されていることが最も好ましい。
前述した従来技術においては、超音波を用いて高周波焼入れ品の硬化層深さを測定する際に、硬化層と心部との2層構造が想定されており、非焼入れ組織に起因する反射波が検出された深さ位置が前記2層の境界部分であると考えられていた。しかしながら、実際には硬化層と心部との完全な2層構造となっているわけではなく、硬化層と心部との間に、焼入れ組織と非焼入れ組織とが混在する混合組織層が存在する。この混合組織層においては、表面側から心部側に向かうにしたがって(すなわち、表面からの距離が大きくなるにしたがって)、非焼入れ組織の比率が徐々に増加し、それに伴って硬さが徐々に低下する。表面からの距離と硬さとの関係を模式的に示したグラフを、図2に示す。
そして、非焼入れ組織の比率と反射波の強度との関係に着目して検討した結果、非焼入れ組織の比率が大きくなるほど、非焼入れ組織に起因する反射波の強度も大きくなることが分かった。すなわち、硬化層の表面硬さ不足があった場合には、硬化層に起因する反射波の強度が大きくなり、硬化層が貫通状態(すなわち、ずぶ焼入れ状態)になった場合には、心部の非焼入れ組織の比率が小さくなるため、心部に起因する反射波の強度が小さくなる。したがって、硬化層に起因する反射波の強度、及び、心部に起因する反射波の強度を測定し、それぞれ設定した閾値の条件をこれらの反射波の強度が満足するか否かによって、熱処理異常の有無を検出することができる。
ここで、本実施形態における熱処理異常検出方法を詳細に説明する。内輪1,外輪2,及び転動体3(以降は被検材と記す)の軌道面1a,2aや転動面3aに、所定の周波数(例えば10MHz)の超音波パルスを入射して、その反射波を受信する。被検材に入射された超音波パルスは、被検材の表面から心部までの間の各深さ位置でそれぞれ反射されるので、各反射波を受信して、各反射波の強度を取得する。
また、超音波パルスの入射から反射波の受信までの時間を、各反射波について測定する。この反射波の受信までの時間によって、その反射波がどの深さ位置で反射されたものかを算出することができる。このようにして、各反射波について強度と反射された深さ位置とが得られるので、被検材の表面からの距離と反射波の強度との関係を示す反射波形曲線を描く。なお、反射波の強度の数値は、入射した超音波パルスの強度を100%とした場合の比率(単位は%)である。
ただし、超音波パルスを1回入射しても、得られたデータから十分な反射波形曲線を描くことができない場合があるので、超音波パルスを複数回連続的に入射して反射波形曲線を取得する。また、反射波形曲線は、被検体の表面状態、金属組織のバラツキ、非金属介在物等によるノイズを含んでいるため、1つの反射波形曲線では、熱処理異常を正確に検出することができない場合がある。よって、複数回連続入射を複数回行って複数の反射波形曲線を得て、これらを平均化することにより、上記ノイズを除去することが好ましい。つまり、複数の反射波形曲線を平均化して1つの平均化曲線(図3を参照)を得て、この平均化曲線から読み取った反射波の強度を用いて、被検材に熱処理異常があるか否かを判定することが好ましい。
このような操作により、簡単且つ効果的にノイズを除去することができるので、熱処理異常を正確に検出することが容易となる。なお、この平均化曲線を平滑化して得た平滑化曲線(図3を参照)を利用し、平滑化曲線から読み取った反射波の強度を用いて、被検材に熱処理異常があるか否かを判定してもよい。平均化曲線を平滑化する際には、加重平均法や指数加重平均法を用いることが好ましい。
このようにして得られた反射波形曲線(又は平均化曲線,平滑化曲線)が下記の3つの条件を全て満足する場合には、被検材に熱処理異常がないと判定することができ、いずれか1つでも満足しない場合には、被検材に熱処理異常があると判定することができる。
条件A:硬化層(焼入れ組織)に起因し且つ強度が最も低い反射波の深さ位置よりも深い深さ位置に、極大ピークを有し、該極大ピークの反射波は、心部(非焼入れ組織)に起因し且つ表面散乱に起因する部分を除いて強度が最も高い。
条件B:硬化層(焼入れ組織)に起因し且つ強度が最も低い反射波の強度(以降は、最低強度と記すこともある)が、所定の第一閾値以下である。
条件C:心部(非焼入れ組織)に起因し且つ表面散乱に起因する部分を除いて強度が最も高い反射波の強度(以降は、極大ピーク強度と記すこともある)が、所定の第二閾値以上である。
これら条件A,B,Cについて、図面を参照しながら詳細に説明する。図3のグラフは、図4に示すような硬さ分布を有する被検材(試料1)の平均化曲線及び平滑化曲線である。図4から分かるように、この試料1は、熱処理異常のない正常品である。
図4から分かるように、正常品の平滑化曲線は、表面散乱に起因する部分においては強度が高いが、表面からの距離が大きくなるにつれて(すなわち、深さ位置が深くなるにつれて)強度が低くなり、強度が最も低い部分(最低強度)が現れる。この部分の反射波は、硬化層(焼入れ組織)に起因する反射波であり、非焼入れ組織が少ないため強度が最も低くなっている。そして、表面からの距離がさらに大きくなると、非焼入れ組織の増加に伴って強度が高くなり、極大ピークが現れる。この極大ピークの反射波は、心部(非焼入れ組織)に起因する反射波であり、非焼入れ組織が多いため、表面散乱に起因する部分を除いて強度が最も高くなっている。
平滑化曲線が上記のような形状であることに加えて、強度が最も低い部分の強度が所定の第一閾値以下であり、極大ピーク強度が所定の第二閾値以上であれば、熱処理異常のない正常品であると判定することができる。
このとき、上記所定の第一閾値及び所定の第二閾値は、製品の機能に対して求められる熱処理品質に応じて決定すればよい。例えば、被検体の性能試験を行って、性能面から必要とされる所定の第一閾値及び所定の第二閾値を求めることにより、これらの閾値を決定するとよい。
これに対して、図5は、加熱不足又は冷却不足により、十分な硬さを有する硬化層が得られなかった試料の平滑化曲線である。試料2は、高周波焼入れ時の加熱温度が変態点未満であったために、フェライト組織となったものである。そして、その平滑化曲線の形状は、表面から心部までほぼ一貫して強度が低下していく形状となっている。
また、試料3は、冷却不足によりパーライト組織となったものである。そして、その平滑化曲線は、極大ピークを有しているものの、その極大ピーク値の強度は、表面散乱に起因する部分を除いて最大値ではない。
試料2,3のような形状の平滑化曲線の場合は、十分な硬さを有する硬化層が得られていないことが分かるので、熱処理異常があると判定することができる。
なお、超音波パルスの入射、反射波の受信、及び反射波形曲線の取得を行う装置は特に限定されるものではないが、例えば神鋼検査サービス株式会社製のハード・エコーSH−65が好適である。該装置を用いれば、局部水浸法にて被検材の表面に探触子から連続的に超音波パルスを入射することができる。この際には、該装置の2次元探傷モード(Bスコープモード)を用いて、走査しながら連続的に超音波パルスを入射するとよい。そうすれば、複数の反射波形曲線を得ることができる。また、該装置を用いれば、被検材の内部の各深さ位置でそれぞれ反射された反射波を連続的に受信し、それを積算表示して、反射波形曲線を描くことができる。
次に、同一材質,同一形状の素材に同一条件の熱処理(高周波焼入れ)を施して、熱処理異常のない正常品の被検材を30個を用意し、それぞれについて、前述と同様の方法により図6のような平滑化曲線を取得した。そして、これらの平滑化曲線について、硬化層(焼入れ組織)に起因し且つ強度が最も低い反射波の強度(最低強度)と、心部(非焼入れ組織)に起因し且つ表面散乱に起因する部分を除いて強度が最も高い反射波の強度(極大ピーク強度)とを求めた。
図7,8に、それぞれの値の度数分布図を示す。これらの図から、熱処理異常のない正常品においては、両値とも正規分布となっており、ある一定の範囲内の値を取ることが分かる。
一方、図9のグラフは、図10に示すような硬さ分布を有する被検材(試料4〜6)の平滑化曲線である。これらは、いずれも熱処理異常のある被検材であるが、試料4は、加熱温度が変態点以上であったため硬化はされているものの、加熱不足により未変態フェライトとトルースタイトが生じ、表面硬さ不足となった被検材である。また、試料5,6は、過加熱によって硬化層が貫通状態となった被検材である。
試料4〜6の平滑化曲線は、表面散乱に起因する部分を除いて強度が最も高い極大ピークを有しているが、試料4については、硬化層に非焼入れ組織が含まれているため、表面硬さがHv500程度であり、正常品と比較して低い。また、硬化層(焼入れ組織)に起因し且つ強度が最も低い反射波の強度(最低強度)が高く、29%である。
試料5,6は、心部まで硬化されており、非焼入れ組織のみの心部が存在しないため、極大ピーク強度が低い。極大ピーク強度は、心部硬さが大きいほど低く、試料5は26%、試料6は19%である。
このようなことから、最低強度と極大ピーク強度とにそれぞれ閾値を設定し、それぞれ設定した閾値の条件を満足するか否かによって、熱処理異常の有無を検出することができる。すなわち、最低強度が所定の第一閾値以下であり、且つ、極大ピーク強度が所定の第二閾値以上であれば、熱処理異常がない正常品であると判定することができる。
上記試料4〜6の例であれば、所定の第一閾値を19%、所定の第二閾値を37%と設定すれば、硬化層の表面硬さ不足や硬化層の貫通といった熱処理異常が生じているか否か判定することができる。
このように、閾値の条件を満足するか否かによって、熱処理異常の有無を検出することができる。上記の閾値は、求められる製品機能を満足する熱処理品質を有する被検材(良品)の最低強度及び極大ピーク強度の度数分布(図7,8)に基づいて決定すればよい。すなわち、所定の第一閾値は、良品の最低強度の度数分布の最大値、所定の第二閾値は、良品の極大ピーク強度の度数分布の最小値とすればよい。ただし、このような閾値の決定方法は、一例であって、これに限定されるものではない。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、高周波焼入れが施された鋼製部材を例にして説明したが、本発明の熱処理異常検出方法は、高周波焼入れが施された鋼製部材に限らず、あらゆる材質で構成された部材に対して適用することが可能である。例えば、焼入れが施されていない鋼製部材にも適用可能であるし、鋼以外の材質で構成された部材にも適用可能である。また、本実施形態においては、深溝玉軸受を構成する軸受部品を例にして説明したが、本発明の熱処理異常検出方法は、転がり軸受の軸受部品に限らず、あらゆる製品に対して適用することが可能である。
また、本実施形態においては転がり軸受の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,自動調心ころ軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
1 内輪
1a 軌道面
2 外輪
2a 軌道面
3 転動体
3a 転動面

Claims (3)

  1. 高周波焼入れにより生じた焼入れ組織と非焼入れ組織とを備える鋼製の被検材に超音波パルスを入射し、前記被検材の表面から所定深さまでの間の各深さ位置でそれぞれ反射された反射波を受信して、前記各反射波の強度を取得し、前記深さ位置と前記反射波の強度との関係を示す反射波形曲線を描き、この反射波形曲線が下記の3つの条件を全て満足する場合に、前記被検材に熱処理異常がないと判定することを特徴とする熱処理異常検出方法。
    条件A:前記焼入れ組織に起因し且つ強度が最も低い反射波の深さ位置よりも深い深さ位置に、極大ピークを有し、該極大ピークの反射波は、前記非焼入れ組織に起因し且つ表面散乱に起因する部分を除いて強度が最も高い。
    条件B:前記焼入れ組織に起因し且つ強度が最も低い反射波の強度が、所定の第一閾値以下である。
    条件C:前記非焼入れ組織に起因し且つ表面散乱に起因する部分を除いて強度が最も高い反射波の強度が、所定の第二閾値以上である。
  2. 前記超音波パルスを複数回連続的に入射することにより、前記反射波形曲線を複数取得した後、これら複数の反射波形曲線を平均化して得た平均化曲線を平滑化し、その平滑化曲線から読み取った前記反射波の強度を用いて、前記被検材に熱処理異常があるか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の熱処理異常検出方法。
  3. 前記被検材が転がり軸受の内輪,外輪,又は転動体であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱処理異常検出方法。
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