実施例1では、可塑化シリンダ10,18を2本有し、成形品の表皮と内皮をそれぞれのスクリュー34,19で打ち分けるサンドイッチ射出成形機を用いて、成形品を射出成形した。まず、金属錯体および助剤(フッソ化合物)をそれぞれの飽和濃度の溶解度以下で溶解させた高圧二酸化炭素を、サンドイッチ射出成形機の表皮(成形品の表皮部)を形成する可塑化シリンダ10に供給し、その溶融樹脂を金型30,33内に射出して、金型30,33内の熱可塑性樹脂の表面近傍(表皮部、または表皮部についての最表面部より内側の部分(内側部))にメッキ膜の核触媒となる金属微粒子を偏析させた。その後、高圧二酸化炭素を供給しない樹脂を可塑化シリンダ18から射出して内皮(成形品の内部)を形成し、表皮の外側近傍(表皮部、または表皮部についての最表面部より内側の部分)にのみ金属触媒などの浸透物質(溶解材料)が浸透したサンドイッチ成形品を得た。
実施例1では、さらに、この成形品の表面に、無電解メッキ法によりメッキ膜を形成した。無電解メッキは高圧二酸化炭素の雰囲気で実施した。高圧二酸化炭素の雰囲気で無電解メッキを実施することで、成形品の表層近傍の内部(内側部)からメッキが成長し、密着性の高いメッキ膜を形成できた。
なお、本実施例では、金属錯体およびフッソ化合物の助剤を溶解する高圧二酸化炭素として、温度が常温(24〜26℃)且つ圧力が15MPaの液体二酸化炭素を用いた。金属錯体には、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)金属錯体を用いた。助剤には、フッソ化合物の一種であるPerfluorotripentylamine(分子式:C18F36O6、分子量:821.1、沸点:220℃、シンクエスト・ラボラトリー製)を用いた。熱可塑性樹脂には、ガラス繊維15%入りのポリアミド6(ナイロン6、三菱エンジニアリングプラスチックス製、ノバミッドGH10)を用いた。
[射出成形装置]
実施例1で用いたプラスチック射出成形装置の概略構成を図1に示した。この例で用いたプラスチック射出成形装置は、図1に示すように、サンドイッチ射出成形部201と、高圧二酸化炭素供給部202とから構成される。射出成形機部201は、射出ユニット204と、型締めユニット205からなる。
型締めユニット205は、可動プラテン32’と、可動プラテン32’に取り付けられた可動金型30と、固定プラテン32と、固定プラテン32に取り付けられた固定金型33とから構成される。可動金型30が固定金型33に突き当たる(閉じる)ことにより、金型30,33には2個の板状のキャビティ29、29’が形成される。また、この例の射出成形機部201は、図示しない電動トグル型締め機構の動きに連動して、可動プラテン32’および可動金型30が図面の上下方向に移動し、金型30,33が開閉する。
射出ユニット204は、成形品の表皮(表皮部)となる溶融樹脂を射出する可塑化シリンダ10と、成形品の内皮(内部)となる溶融樹脂を射出する可塑化シリンダ18から構成される。金型30,33への射出時には、可塑化シリンダ10のスクリュー34の前進により外皮(表皮部)の溶融樹脂を金型30,33へ射出した後、スクリュー切り替えバルブ31が動作して可塑化シリンダ18の金型30,33への経路が開かれ、可塑化シリンダ18のスクリュー19の前進により内皮(内部)の溶融樹脂が射出される。成形品の表皮(表皮部)となる溶融樹脂を射出する可塑化シリンダ10に、高圧二酸化炭素、金属錯体およびフッソ化合物が供給される。この可塑化シリンダ10のスクリュー34は、軸方向の2箇所において軸芯が細身に形成され、ベント部11,12を形成する。
可塑化シリンダ10内で可塑化されて、スクリュー34の正転により図面の下から上へ移動する溶融樹脂は、このベント部11,12において物理的に減圧されることになる。すなわち、ホッパー28から可塑化シリンダ10へ供給された図示しない樹脂ペレットは、加熱加圧により可塑化シリンダ10内で可塑化された後、最初のベント部(以下、第一のベント部という。)11で強制的に減圧される。可塑化計量中の任意のタイミングで、高圧二酸化炭素導入機構7のピストン8が上昇(図中右)すると、高圧二酸化炭素供給部202から第一のベント部11へ、高圧二酸化炭素およびそれに溶解した材料(金属錯体およびフッソ化合物)が供給される。高圧二酸化炭素導入機構7は、金属錯体が樹脂に供給される前に熱分解しないようにするために、図示しない冷却回路を流通する冷却水により30℃に保持される。
また、高圧二酸化炭素およびそれに溶解した材料が供給された樹脂材料は、スクリュー34の正転によりさらに混錬され、第一のベント部11と第二のベント部12との間で加圧された後、第二のベント部12で再び減圧される。これにより、高圧二酸化炭素および溶解材料は、溶融樹脂内に分散した状態で減圧され、高圧二酸化炭素に溶解していた材料は過飽和状態となって析出する。エアーオペレートバルブ39が開放されると、フィルター23を通過してガス化した状態でトラップ容器および真空ポンプを介して、大気開放される。なお、第二のベント部12は、金属錯体の昇華を抑制するため、図示しない冷却回路を流通する冷却水により60℃に保持される。なお、ベント部11,12の樹脂内圧は、樹脂内圧センサー14,13により監視される。
高圧二酸化炭素供給装置部202は、図1に示すように、二酸化炭素ボンベ17と、3台の公知のシリンジポンプ1,1’,1”(以下、1〜1”と記載する。)と、2台の溶解槽6,6’と、射出成形部201と連動し自動で開閉する6台のエアーオペレートバルブ4,4’,4”(以下、4〜4”と記載する。)および5,5’,5”(以下、5〜5”と記載する。)と、3個の逆止弁22,22’,22”(以下、22〜22”と記載する。)と、これらを接続する配管3から構成される。
高圧二酸化炭素は、各シリンジポンプ1〜1”へ次のように供給される。手動バルブ26を開放し、供給側エアーオペレートバルブ5〜5”を閉鎖し、さらに吸引側エアーオペレートバルブ4〜4”を開放した状態で、ポンプ1〜1”内の図示しないピストンを後退する。これにより、液体二酸化炭素ボンベ17よりフィルター27を通過して、それぞれのシリンジポンプ1〜1”内に10℃に冷却された液体二酸化炭素が吸引される。シリンジポンプ1〜1”のヘッドの周囲はチラーで冷却されており、これにより二酸化炭素は10℃に冷却されて、シリンジポンプ内に液体として吸引される。温度が低くて密度が高い液体として計量することにより、温度が高くて密度が低い気体として計量する場合と比べて、正確に計量できる。高圧二酸化炭素の各シリンジポンプ1〜1”への補給は、成形ショット毎に実施される。また、各シリンジポンプ1〜1”の高圧二酸化炭素の圧力は、略一定に揃えられる。
射出成形部201への高圧二酸化炭素の供給は、吸引側エアーオペレートバルブ4〜4”が閉鎖され、供給側エアーオペレートバルブ5〜5”が開放された状態にて行われる。射出成形部201からの可塑化計量中における任意のトリガー信号を得て、3台のシリンジポンプ1〜1”は図示しない任意の遅延タイマーが完了した後、独立した制御により一定流量にて一定時間駆動する。それにより、第一の溶解槽6に過飽和状態にて仕込まれた材料を溶解した高圧二酸化炭素は、シリンジポンプ1の駆動により第一の溶解槽6から送りだされ、第二の溶解槽6’の材料も同様にシリンジポンプ1’の駆動により第二の溶解槽6’から送りだされ、材料を含まない高圧二酸化炭素はシリンジポンプ1”の駆動によりポンプ1”から送り出される。
送りだされた3つの二酸化炭素は、配管3を通じて移動し、逆止弁22〜22”を経た後合流し、それぞれの流量の比にしたがって配管3内で混合される。本発明においては、異なる材料の溶解した高圧二酸化炭素を合流した後、混合のために、マグネチックスタラー等で機械攪拌したり、攪拌機能を有する配管3を介して攪拌してもよい。
高圧二酸化炭素の流量制御時における圧力は、背圧弁9により一定に制御される。そのため、材料の溶解した高圧二酸化炭素が加熱シリンダ10での計量のために流動を開始する前後の任意のタイミングにて、射出成形部201の高圧二酸化炭素導入機構7のピストン8が上昇すると、第一のベント部11に存在する減圧された溶融樹脂に、一定圧力および一定時間により、一定量の二酸化炭素が供給される。背圧弁25から射出成形部201までの区間の配管3内の圧力変動は圧力計25でモニターされているので、二酸化炭素は安定に供給され、また、ピストン8の開閉前後でも圧力が変化しないように安定している。
2台の溶解槽6,6’の容量は、それぞれ10ml、100mlである。第一の溶解槽6には金属錯体を仕込み、第二の溶解槽6’には助剤を仕込んだ。両溶解槽6,6’ともに、下部にマグネチックスタラー24、24’が配設され、このマグネチックスタラー24、24’の駆動により溶解槽6,6’内で攪拌子35、35’が300rpmで常時回転する。この攪拌により、溶解槽6,6’内に仕込まれた材料の濃度は均一に維持される。また、溶解槽6,6’には、常に過飽和状態が維持されるように、周期的に十分な量の材料(過飽和となる量の材料)が仕込まれる。両溶解槽6,6’への材料の仕込み直し作業は、4個の手動弁20,20’,21,21’を閉鎖した後、図示しない手動弁で2台の溶解槽6,6’の圧力を開放することにより可能である。過飽和状態が維持されるように仕込まれた材料は、高圧二酸化炭素に飽和濃度の溶解度で溶解し、シリンジポンプ1、1’の駆動によって高圧二酸化炭素とともにフィルター36、36’を通過し、射出成形部201へ供給される。
3台のシリンジポンプ1〜1”は、それぞれの供給タイマーが所定の時間を計測し、所定の一定流量での供給を終えると、射出成形部201の高圧二酸化炭素導入機構7のピストンが閉鎖されたタイミングと前後して、停止する。その後、3台のシリンジポンプ1〜1”には、供給により減少した二酸化炭素が二酸化炭素ボンベ17から補給される。具体的には、供給側エアーオペレートバルブ5〜5”を閉鎖し、吸引側バルブ4〜4”を開放し、さらに、シリンジを後退させてシリンジポンプ1〜1”内を減圧することで、ボンベ17から高圧二酸化炭素が液体として補充される。その後、吸引側エアーオペレートバルブ4〜4”を閉鎖し、シリンジポンプ1〜1”を加圧する。これにより、シリンジポンプ1〜1”は、略一定の所定圧力に昇圧する。
本発明において高圧二酸化炭素の圧力および温度は任意であるが、本実施例では圧力を15MPaとした。各溶解槽6,6’および配管3の温度は常温とした。したがって、ポンプ1〜1”および各溶解槽6,6’から背圧弁9および高圧二酸化炭素導入機構7までの圧力は15MPaに一定に保持され、この状態においてポンプ1〜1”は射出成形部201からのトリガー信号を待つ。射出成形部201は可塑化計量の度にトリガー信号を出力する。このトリガー信号が入力される度に、高圧二酸化炭素供給装置部202は一定量の高圧二酸化炭素および溶解材料を加熱シリンダ10へ供給する。
[射出成形方法]
まず、次のようにして樹脂材料を可塑化した。2台の可塑化シリンダ10、18は図示しないバンドヒーターによって240℃に昇温される。樹脂材料となるペレット(不図示)は乾燥機(不図示)にて乾燥脱水された後、ホッパー28(シリンダ18のホッパーは不図示)から可塑化シリンダ10,18へ供給される。樹脂ペレットは、従来の射出成形装置での可塑化と同様に、スクリュー34、19の回転にしたがってスクリュー溝内部を通り、可塑化溶融されながらスクリュー34、19の前方方向(キャビティ29,29’側、図1では上方向)へ押し出される。内皮を形成するスクリュー19は、射出1回分の樹脂を計量して停止する。
また、外皮を形成するスクリュー34は、射出1回分の樹脂の計量の途中位置で、第一のベント部11に高圧二酸化炭素および溶解材料を供給した。この高圧二酸化炭素および溶解材料の供給は、高圧二酸化炭素導入機構7のピストン8を上昇させると同時に、3台のシリンジポンプ1〜1”を一定時間で所定流量に制御することで実施した。本実施例では、金属錯体が溶解した第一のシリンジポンプ1の流量と、助剤が溶解した第二のシリンジポンプ1’の流量と、これらのいずれの材料も溶解していない第三のシリンジポンプ1”の流量との流量比が1:4:5となるように流量を制御した。この場合、金属錯体が飽和する高圧二酸化炭素と、それ以外の高圧二酸化炭素との混合比は、1:9(=4+5)となる。
そして、金属錯体および助剤は、3つの高圧二酸化炭素が混合されることで希釈された濃度(未飽和濃度)で加熱シリンダ10へ供給されるため、配管3で析出したり、加熱シリンダ10へ供給した直後に析出したりすることがなく、未飽和の状態のままで安定的に溶融樹脂へ供給される。そのため、供給直前の混合流体の温度は約60度以下であり、かつ、溶融樹脂の温度は240度(金属錯体の熱変成温度は約150度)であって、混合流体は供給により加熱されるが、金属錯体および助剤が供給直後に熱変成して析出してしまうことはない。
この実施例での成形品の表皮部の重量はおよそ20gである。また、この実施例での圧力(15MPa)および温度環境下での高圧二酸化炭素の比重は約0.8g/cm3程度である。そして、1ショットあたりの高圧二酸化炭素の送り量は0.5mlとした。これにより、調整された高圧二酸化炭素は成形品の3wt%である約0.6gで供給される。上記混合比では、混合前の金属錯体の溶解した二酸化炭素は0.05mlが供給され、フッソ化合物の助剤の溶解した二酸化炭素は0.2mlが供給され、二酸化炭素のみは0.25mlが供給される。
本発明者らは、抽出法や可視化観察等により、この実施例での圧力および温度環境下での圧力および常温での高圧二酸化炭素への各材料の溶解度(飽和濃度の溶解度)を測定した。金属錯体では30g/Lであり、フッソ化合物では200g/Lであった。そのため、容積10mlの溶解槽6では、0.3g以上の金属錯体を仕込むことで、溶解槽6が過飽和状態となる。また、容積100mlの溶解槽6’では、20g以上のフッソ化合物を仕込むことで、溶解槽6’が過飽和状態となる。実際には、それらの10倍の量を各溶解槽6,6’に仕込んだ。また、1ショットあたりに、樹脂へ供給される金属錯体は1.5mgであり、助剤は40mgである。1ショット毎に、この量の溶解材料が消費される。
計量途中に、溶融樹脂への高圧二酸化炭素の供給を開始した。溶融樹脂には、高圧二酸化炭素、金属錯体および助剤が供給される。そして、第一のベント部11において高圧二酸化炭素、金属錯体および助剤が供給された溶融樹脂は、第一のベント部11と第二のベント部12との間を移動しながらスクリュー34により混練される。この混練により、高圧二酸化炭素、金属錯体および助剤は、溶融樹脂内に分散する。また、金属錯体は、金属微粒子に熱変成する。
また、本実施例では、高圧二酸化炭素が供給された溶融樹脂が第二のベント部12に移動するタイミングにあわせて、エアーオペレートバルブ39を開放した。第一のベント部11と第二のベント部12との間を移動する際に混練された溶融樹脂は、第二のベント部12において急激に減圧される。この減圧により、二酸化炭素はガス化する。ガス化した二酸化炭素は、冷却したフィルター23、エアーオペレートバルブ39およびバッファータンク16を経て、真空ポンプ15から排気される。この二酸化炭素の排気処理により、樹脂の内部に残留するガスも排気できる。その結果、成形中および成形後に成形品から排気される二酸化炭素などを減らすことができ、成形品の表面のなめらかさの悪化を抑制できる。
一方、第二のベント部12に到達する前に金属錯体は金属微粒子へ熱変成している。したがって、ガス化した二酸化炭素に金属錯体が昇華し難くなり、金属錯体は、二酸化炭素とともに排気されない。また、溶融樹脂から二酸化炭素が排気されることで、フッソ化合物は溶融樹脂内に分散した状態で二酸化炭素に不溶となり、残留する。その結果、フッソ化合物は、溶融樹脂内でその沸点を越える温度まで加熱されているにもかかわらず、その殆どが溶融樹脂内に残存できる。このように、金属錯体および助剤(フッソ化合物)は、二酸化炭素とともに排気されず、溶融樹脂内に均一に分散して残存する。
なお、樹脂へ供給した高圧二酸化炭素は、必ずしも排気する必要がない。たとえば、少量の金属錯体のみを溶融樹脂に供給させるだけであって供給する高圧二酸化炭素が少量(溶融樹脂に溶解できる量)である場合や、敢えて溶融樹脂に供給した二酸化炭素をそのまま残し、後の工程で溶融樹脂から排出する場合などでは、この供給タイミングで高圧二酸化炭素を排気する必要はない。そして、二酸化炭素を残存させたまま溶融樹脂を射出すると、成形中および成形後に、高圧二酸化炭素がガス化して抜け出る。この際、二酸化炭素に溶解していた材料は、成形品の表皮部に偏析して残留する。したがって、成形品の表皮部に、より多くの金属錯体および助剤(溶解材料)を偏析させたい場合には、この供給タイミングにおいて、二酸化炭素を排気しなくしたり、二酸化炭素の排気量を抑えたりするとよい。
また、溶融樹脂に対する高圧二酸化炭素、金属錯体および助剤の導入(供給)は、少なくとも高圧二酸化炭素の排気が開始される後まで継続させた。これにより、溶融樹脂における高圧二酸化炭素の濃度上昇を抑えつつ、金属錯体および助剤の濃度を上げることができる。また、溶融樹脂に対してそれに溶解可能な量(溶融樹脂に溶解できる量)以上の高圧二酸化炭素を供給して、その供給量に応じた量の金属錯体および助剤を樹脂へ溶解できる。
なお、金属錯体や助剤などの溶融材料を大量に供給させたる場合、計量時間より供給時間が長くなってしまうことが考えられる。この場合には、たとえばスクリュー34を可塑化計量中に正転および逆転を繰り返させてもよい。これにより、溶融樹脂と高圧二酸化炭素とを混練する動作をさせながら、供給時間を確保できる。特に、この実施例では金属錯体および助剤は高圧二酸化炭素に対して未飽和濃度で溶解して溶融樹脂に供給しているので、これらを飽和濃度で溶解して供給する場合に比べて、供給時間が長くなる。また、供給する必要がある二酸化炭素の量も増加する。スクリュー34を正転および逆転させる動作は、二酸化炭素の供給量を確保したり、供給時間を確保したりするために好適に用いることができる。
表皮部を形成する溶融樹脂についての可塑化計量が完了した後、スクリュー34を用いて、計量した溶融樹脂を金型のキャビティ29、29’へ高速で射出充填した。金属微粒子および助剤が溶解した溶融樹脂が噴水効果により成形品の表皮部として偏析するためには、さらにはこの表皮部を薄くするためには、射出速度は高速とする必要がある。具体的には、射出速度は150〜1000mm/sが望ましい。本実施例では300mm/sで射出充填した。
表皮部を形成する溶融樹脂を射出充填した後、切り替えバルブ31の位置を切り替え、成形品の内部を形成する樹脂を、スクリュー19を前進させて射出充填した。これにより、サンドイッチ成形品を得た。
[メッキ装置]
図2は、実施例1で用いた無電解メッキ装置の概略構成を示す。本実施例のメッキ装置は高圧二酸化炭素雰囲気にて無電解メッキを行う装置である。無電解メッキ装置は、主に、高圧二酸化炭素の供給装置208と、高圧メッキ容器209と、排気部210とから構成される。
高圧メッキ容器209は、主に、メッキステージ59と、容器本体60と、容器蓋63とを有する。メッキステージ59および容器本体60は、閉状態ではシール64により高圧シールされる。メッキステージは、上下へ駆動できる。メッキステージ59はステージ支持体62と連結され、ステージ支持体62はボールリティーナ67により容器本体支持体66と調芯されている。この保持構造により、メッキステージが上下に駆動しても、シール64に偏加重が作用することはなく、シール64の破損を抑制できる。
メッキステージ59の周囲には、ニッケルリンのメッキ液69が、容器本体60の内容積の半分程度満たされている。メッキステージ59上には、サンプル容器68が載置される。サンプル容器68は、メッキされにくいテフロン(登録商標)製で、側面などに多数の孔が開設されており、サンプル容器68内へメッキ液が循環しやすくなっている。このサンプル容器68内に、図示しない成形品が多数配置される。
また、メッキステージ59は、図示しない温調水で85℃に温調され、容器本体60は、図示しない冷却水で25℃に保持される。容器本体60は低温度に制御され、且つ、メッキステージ59は高温度に制御される。したがって、容器本体60の壁面付近でのメッキ液69の温度は低くなり、低温のメッキ液69に高圧二酸化炭素が混合されると、その壁面付近での高圧二酸化炭素の密度が高くなる。また、メッキステージ59の周囲でのメッキ液69の温度は高くなり、高温のメッキ液69に高圧二酸化炭素が混合されると、ステージ付近での高圧二酸化炭素の密度は低くなる。高圧二酸化炭素は、この密度差により対流する。高圧二酸化炭素の対流により、メッキ液と高圧二酸化炭素とが攪拌され、メッキ液と高圧二酸化炭素とが好適に(均一に)相溶する。
メッキ液中に成形品サンプルを入れて、高圧メッキ容器209を閉じた後、高圧メッキ容器209に二酸化炭素を供給する。二酸化炭素ボンベ73から手動バルブ74を介して供給された二酸化炭素は、図示しないバッファー容器でガス化された後、ポンプ61で昇圧され、減圧弁75の設定に応じた任意の圧力にて、高圧メッキ容器209へ供給される。高圧メッキ容器209への二酸化炭素の供給は、自動のエアーオペレートバルブ77によって行われる。本実施例においては、この圧力を15MPaとした。また、高圧二酸化炭素の供給時および無電解メッキ時には、エアーオペレートバルブ83を開放し、背圧弁79の調整により圧力計78の表示が常時15MPaになるようにした。
また、ステージ支持体62は、メッキ期間中、モーターのカム91の回転により上下に移動する。サンプル容器68は、メッキステージ59とともにメッキ液内を上下に移動し、サンプル容器68内のサンプル成形品は攪拌される。これにより、高圧二酸化炭素が溶解したメッキ液は、偏りを生じることなく均等に成形品サンプルに対して接触する。
なお、容器本体60の温度は25℃と低い。ニッケルリンのメッキ膜は、メッキ反応温度(60℃)以上でなければ成長しない。したがって、容器本体60にメッキ膜が形成されない。容器本体60のメンテナンスは容易である。
また、この実施例では、直流電源90により、メッキ液69とメッキステージ59との間に電界をかけた。具体的には、容器本体60と絶縁した状態でメッキ液中に電極72を浸漬し、この電極72とメッキステージとの間に、メッキ反応での電荷移動とは逆向きの電荷移動を生じさせる極性の電界をかけた。これにより、SUS製のメッキステージの周囲にメッキがつきまわらなくなる。無電解メッキ(化学メッキ)反応は、硫酸ニッケル等の金属イオンに還元剤の酸化反応により電子が供与され金属粒子が析出する反応である。メッキ液と接触する対象物に電子を供与すると、この対象物にメッキが成長する。したがって、メッキの対象物としたくないメッキステージ59から電子が放出される向きで電界をかけ、メッキ反応に相当する電荷移動を打ち消す微弱な電流を流すことで、メッキステージ59でのメッキ成長を抑制できる。
所定のメッキ反応が終わると、メッキステージ59を上昇させる。図3に示すように、エアーシリンダ86に内蔵されたピストン87を上昇させ、このピストン87によりメッキステージ59を押し上げる。これにより、メッキステージ59はメッキ液69の液面より上に上昇し、メッキステージ59およびサンプル容器68を、メッキ液69の浴中から出すことができる。この状態にすることで、成形品サンプルの周囲にメッキ液がなくなり、成形品サンプルでのメッキ成長を強制的に停止できる。
成形品サンプルをメッキ液から出してメッキ成長を強制停止した後、高圧二酸化炭素を排気する。排気部210のエアーオペレートバルブ83を閉じ、自動のエアーオペレートバルブ80を開放した後、流量計84の計測流量を任意の流量に制御する。これにより、高圧メッキ容器209内の減圧速度が制御され、メッキ成形品の表面部で樹脂が発泡しないようにできる。成形品が劣化しないようにできる。また、圧力計82の表示が1MPaとなるまで減圧弁81で減圧した後、自動のバルブ83を開放する。これにより、高圧メッキ容器209は、大気開放される。排気された二酸化炭素は、回収容器85のトラップ容器89にてメッキ液と分離された後、排気口88を通じて回収される。高圧二酸化炭素とともに排出された一部のメッキ液およびアルコールは、容器89により回収される。これら回収物は、再利用される。
なお、この実施例とは異なり、成形品サンプルをメッキ液に浸漬したまま高圧二酸化炭素を排気すると、高圧二酸化炭素は、メッキ液の液面に近い部位から優先的に排気される。つまり、メッキ液に深く沈んだサンプルと、液面に近いサンプルとを比較した場合、液面に近いサンプルから優先的に排気される。このような高圧二酸化炭素の排気速度差が生じると、メッキ液と樹脂成形体との界面において生じるストレスに固体差や部位差が生じ、その結果として、メッキ膜の密着性がばらついてしまう。この実施例のように、高圧二酸化炭素を排気する前にメッキ液69の液面よりメッキステージ59を上昇させ、サンプルの周囲にメッキ液が残存しない状態にしてから高圧二酸化炭素を排気することで、このストレス差が生じなくなり、メッキ膜の密着性が安定する。量産する複数の成形品において、メッキ膜の品質を均一にすることができる。
[メッキ方法]
本実施例で成形した成形品に、図2に示す無電解メッキ装置を用いて無電解メッキ膜を形成した。無電解メッキ液は、アルコール(エタノール)を40vol%含有するニッケルリンメッキ液とした。アルコールを添加することで、メッキ液と二酸化炭素の親和性が改善され、メッキ液の表面張力が低下する。そのため、アルコールは、樹脂成形品内へのメッキ液の浸透を補助する役割を果たす。
まず、多数の成形品をサンプル容器68に収容し、メッキステージ59上に配置した。メッキステージ59は85℃に温調され、成形品には予め50℃(メッキ反応温度より若干低い温度)の余熱を与えた。その後、メッキ液を入れ、クラッチ71を勘合して容器蓋63を閉め、自動バルブ77を開放し、高圧二酸化炭素を高圧メッキ容器209へ供給した。
高圧二酸化炭素を供給すると、高圧二酸化炭素に密度差が生じ、高圧二酸化炭素に激しい対流が生じる。また、カム91を回転させて、ステージ支持体62およびメッキステージ59を一定の周期で連続的に上下動させた。この高圧二酸化炭素の対流およびメッキステージ59の上下動により、高圧二酸化炭素とメッキ液とは均一に混合される。また、メッキ液は、高圧二酸化炭素とともに成形品に浸透する。メッキ液は、仕込まれた成形品に対して、均一に浸透する。
また、成形品の温度は、メッキステージ59からの熱伝達により上昇する。成形品の温度がメッキ反応温度以上になると、高圧二酸化炭素とともに成形品に浸透したメッキ液により、成形品の内部からメッキ反応が始まる。メッキ膜の成長が成形品の表面近傍の内部より開始されるため、成形品に食い込んだメッキ膜が形成でき、高密着性のメッキ膜を得ることができる。
また、成形品において金属錯体の助剤として浸透させたフッソ化合物は、メッキ時、成形品に浸透した高圧二酸化炭素に溶解して抽出される。フッソ化合物は、メッキ液に対する成形品の濡れ性を低下させたり、成形品へのメッキ膜の密着性を悪化させたりする一因となるものであるが、高圧二酸化炭素により抽出されることで、このような悪影響は生じなくなる。また、成形品には、フッソ化合物が抽出された部位に隙間が形成されるため、高圧二酸化炭素およびメッキ液は、さらに成形品に浸透し易くなる。
所望の一定の反応時間により成形品の表面にメッキを形成した後、図3に示すように、エアーシリンダ86のピストン87を上昇させる。これにより、メッキステージ支持体62、メッキステージ62、サンプル容器68およびその内部に収容された成形品は、メッキ液69の外に出される。成形品のメッキ反応は終了する。
その後、バルブ83を閉じ、自動エアーオペレートバルブ80を開放し、緩やかな減圧となるように流量制御しつつ、1MPaの圧力まで二酸化炭素を排気した。その後、バルブ83を開き、完全排気した。さらに、この無電解メッキ処理済みの成形品の表面に、常圧にて公知のCu電解メッキ処理を施し、厚さ40μmの銅メッキ膜を積層した。また、公知のニッケルメッキ処理を施し、厚さ1μmのニッケルメッキ膜を積層した。これにより、実施例のプラスチック成形品を得た。
実施例で作成した成形品について、温度を−40℃と150℃との間で所定回数切り替えるヒートサイクル試験を施したところ、メッキ膜がはがれたり、膨れたりするものは皆無であった。また、垂直引っ張り試験(JISH8630)により、成形品の平坦面でのメッキ膜の密着強度を測定したところ、8〜13N/cmであった。従来のABS/エッチングメッキでは10N/cm以上を良好とする判断指標が使用されているが、その目標値をほぼ達成できた。
このように、本発明のメッキ方法では、金属錯体などの溶解材料を未飽和濃度に相当する溶解度にて溶融樹脂に供給することで、密着性が高く、しかも、成形品間で安定したメッキ膜を形成できた。また、この実施例では、金属錯体が飽和した高圧二酸化炭素を約10倍に薄めて加熱溶融樹脂に供給しているので、金属錯体が飽和した高圧二酸化炭素をそのまま加熱溶融樹脂に供給した場合に比べて、金属錯体の1ショットの仕込み当たりで打つことができる射出回数を飛躍的に増加できる。実際に、金属錯体を飽和させたまま供給した場合には、金属錯体の1ショットの仕込み当たりで10〜20ショット程度の回数が限界であったが、この実施例では200ショットの射出ができた。しかも、溶融樹脂の温度が金属錯体の熱変性温度より高い温度とされているにもかかわらず、第一のベント部14において金属微粒子が析出しなくなった。また、メッキ膜として、上述した高い密着強度のものを量産できた。
実施例2では、高圧二酸化炭素とともに溶融樹脂に供給する溶解材料として、金属錯体およびフッソ化合物に加えて、金属アルコキシドであるテトラエトキシシラン(TEOS)を使用した。なお、この他にも、触媒として塩酸やアンモニア、反応促進のために水を加えてもよい。また、水に界面活性剤を加えることで、二酸化炭素になじみ易くなる。
本実施例においては、金属錯体およびフッソ化合物を所定の未飽和濃度で含む高圧二酸化炭素を供給した後、TEOSのみを所定の未飽和濃度で含む高圧二酸化炭素へ切り替えて供給した。これらの溶解材料は、実施例1と同様に、高圧二酸化炭素に溶解した状態で第一のベント部11から樹脂へ供給される。なお、最初から、金属錯体およびフッソ化合物とともにTEOSを未飽和濃度で含む高圧二酸化炭素を供給した後、TEOSのみを所定の未飽和濃度で含む高圧二酸化炭素へ切り替えるようにしてもよい。
また、金属錯体およびフッソ化合物が浸透した溶融樹脂が第二のベント部12を通過するまでは、第二のベント部12での二酸化炭素の排気を開始しなかった。金属錯体およびフッソ化合物が浸透した溶融樹脂が第二のベント部12を通過した後に、二酸化炭素の排気を開始した。なお、この排気開始後も、TEOSを含む高圧二酸化炭素の樹脂への供給を継続した。これにより、溶融樹脂には大量のTEOSが浸透する。なお、TEOSは、吸水性を有する樹脂中の水分により加水分解(脱水縮合反応)し、その一部は二酸化珪素に合成した。
また、実施例1と同様に、射出成形したプラスチック成形品に対して、高圧二酸化炭素中にて無電解メッキを行った。
[射出成形装置]
実施例2で用いたプラスチック射出成形装置の概略構成を図4に示す。この例で用いたプラスチック射出成形装置は、サンドイッチ射出成形部201と、高圧二酸化炭素供給部202と、高圧二酸化炭素による抽出部203とから構成される。
高圧二酸化炭素の供給部202は、実施例1と同様である。ただし、本実施例では、第一の溶解槽6には、金属錯体とともに、助剤であるフッソ化合物(Perfluorotripentylamine)を仕込んだ。フッソ化合物は、液体であるため、液体担持体であるウェットサポート(ISCO社製)に分散させて、液体の高圧二酸化炭素とともに流出しないように仕込んだ。また、第二の溶解槽6’には、TEOSをウェットサポートを用いて仕込んだ。TEOSは、二酸化珪素の前駆体であり、高圧二酸化炭素に可溶である。
溶融樹脂への高圧二酸化炭素の供給時には、実施例1と同様に同じ圧力(15MPa)に加圧された状態で、シリンジポンプ1,1,1”をそれぞれの比率に応じた一定流量で駆動した。これにより、金属錯体および助剤が飽和した二酸化炭素と、TEOSが飽和した二酸化炭素と、これらの溶解材料を含まない二酸化炭素とが配管3において混合される。金属錯体、助剤およびTEOSは、未飽和濃度となるように希釈される。また、混合流体は、背圧弁9’および圧力計25’を通じて、所定の圧力の下で、高圧二酸化炭素導入機構7’から加熱シリンダ内の溶融樹脂へ供給される。
射出成形部201の金型30,33は、バネ内蔵のポリイミド製のシール部材54を有する。このシール部材54は、キャビティ29、29’の周囲を取り囲むように、固定金型33および可動金型30の一方に配設される。固定金型33および可動金型30が若干開いた状態でも、シール部材54によりキャビティ29、29’はシール(密閉)される。
また、加熱シリンダ10は、第二のベント部12を有する。自動バルブ39の開閉を制御することで、溶融樹脂からの二酸化炭素の排気を任意に制御できる。
抽出部203は、自動エアーオペレートバルブ弁40を有する。金型30,33に樹脂を射出した状態で自動エアーオペレートバルブ弁40を開放すると、逆止弁41、フィルター41’およびバッファー容器42を経て、キャビティ29、29’と真空ポンプ15とが接続される。真空ポンプ15の吸引により、金型30,33内に充填された樹脂から高圧二酸化炭素が吸引されて排気される。この際、樹脂内に溶解している低分子の材料は、高圧二酸化炭素とともに樹脂の表面側へ移動する。そのため、成形品の表皮部への低分子の材料の偏析が助長される。
さらに、本実施例の成形装置は、成形後の樹脂に対して高圧二酸化炭素を接触させて、金型30,33内にて成形品から高圧二酸化炭素に溶解する材料を抽出する機能を有する。このために、抽出部203は、供給機構および排気機構を有する。そして、ポンプ48は二酸化炭素ボンベ49から取り出した二酸化炭素を加圧し、減圧弁47は圧力計45の表示が所定圧力となるように加圧二酸化炭素の圧力を調整する。自動エアーオペレート弁44を開放すると、この所定圧力の加圧二酸化炭素が、導入配管100からキャビティ29、29’への供給される。また、キャビティ29、29’へ供給された二酸化炭素は、キャビティ29、29’を通過し、排気機構の排気配管101から排出される。排気機構の背圧弁51は、圧力計52の表示が所定圧力に維持されるようにキャビティ側の1次圧力を制御する。自動弁50を開放すると、背圧弁51を通過した高圧二酸化炭素は、排気配管104,105を通過して回収容器46へ排出される。減圧弁47の設定圧力よりも低い圧力を背圧弁51に設定することで、キャビティ29、29’内に一定の差圧による高圧二酸化炭素の流動を生じさせることができる。この成形後の樹脂に対する高圧二酸化炭素の接触処理により、高圧二酸化炭素に溶解する材料であって、成形品の表面近傍に浸透したものは、成形処理を終える前に抽出される。この抽出処理を終えたら、二酸化炭素の供給を停止し、バルブ43、53を開放する。これにより、キャビティ29、29’および配管3内の残存二酸化炭素をすべて排気できる。
[射出成形方法]
本実施例では、図4の成形装置を用いて、サンドイッチ成形品を成形した。加熱シリンダ10での計量を開始した直後に、高圧二酸化炭素導入機構7を動作させ、第一のシリンジポンプ1および第三のシリンジポンプ1”の駆動を開始した。これにより、第一の溶解槽6において金属錯体およびフッソ化合物が飽和した高圧二酸化炭素と、これら溶解材料を含まない高圧二酸化炭素とが混合され、金属錯体およびフッソ化合物を未飽和濃度にて含む高圧二酸化炭素を、加熱シリンダへ導入した。本実施例では、第一のシリンジポンプ1の供給量は0.05mlとし、第三のシリンジポンプ1”の供給量は0.45mlとした。金属錯体とフッソ化合物の濃度は、飽和濃度の10倍に希釈された。また、高圧二酸化炭素は、樹脂材料に対して約3wt%に相当する量である。
その後、第一のシリンジポンプ1のみを停止し、第二のシリンジポンプ1’の駆動を開始して、連続駆動している第三のシリンジポンプ1”からの高圧二酸化炭素と混合した。第二のシリンジポンプ1’からの二酸化炭素の供給量を2.5mlとし、第三のシリンジポンプ1”からの二酸化炭素の供給量を、第二のシリンジポンプ1’と同量の2.5mlとした。これにより、TEOSは、飽和濃度の半分に希釈化された未飽和濃度となる。なお、本実施例での高圧二酸化炭素の温度および圧力では、TEOSの溶解度は少なくとも400g/L以上であることが判明している。つまり、1ショットあたり供給可能なTEOSの最大量は1g程度である。また、この場合、二酸化炭素の合計供給量は5mlとなる。この量は、樹脂材料の30wt%に相当し、樹脂材料に溶解させることができない過剰な量である。
そのため、本実施例では、TEOSが溶解した高圧二酸化炭素の供給を開始した後、可塑化計量が進んだ時点で、自動エアーオペレートバルブ39を開放し、溶融樹脂から高圧二酸化炭素を排気した。溶融樹脂から分離した高圧二酸化炭素は、第二のベンド部12からフィルター41”、バッファー容器42、真空ポンプ15を経て、排気される。このとき、金属錯体および助剤が拡散した樹脂は、スクリュー34の先端より前側、すなわち第二のベンド部12より先端側へ既に押し出されている。そのため、排気する高圧二酸化炭素に金属錯体や助剤が昇華して、高圧二酸化炭素とともに排気されてしまうことを回避できる。
第二のベント部12から高圧二酸化炭素を排気することで、その後に溶融樹脂への高圧二酸化炭素の供給を続けても、溶融樹脂内で高圧二酸化炭素が過剰とならない。溶融樹脂と高圧二酸化炭素とが分離してしまうことはない。溶融樹脂に供給できる高圧二酸化炭素の量(濃度)の制限を越えた量の高圧二酸化炭素を導入できる。すなわち、溶融樹脂に溶融可能な高圧二酸化炭素の量が制限され、それ故に量が制限されている溶解材料を、その制限量を超えて溶融樹脂へ導入できる。また、追加導入されるTEOSは、高圧二酸化炭素とともに溶融樹脂と混練され、溶融樹脂と混合される。なお、TEOSの一部は、樹脂内部に含まれる微量な水分と反応して加水分解し、二酸化珪素へ変成する。その際、副生成物として水やアルコールが生成されるが、これらは高圧二酸化炭素に溶解し、高圧二酸化炭素とともに第二のベント部12から排気される。水やアルコールが樹脂に残留することに起因する悪影響を回避できる。
なお、本発明の成形品の製造方法では、大量のTEOSおよび高圧二酸化炭素を溶融樹脂内に供給して混練する必要がある。そのため、可塑化溶融状態の樹脂と超臨界状態等の高圧二酸化炭素(不活性ガスの一種)とを混錬するため、可塑化計量中にスクリュー34を停止したり、スクリュー34に正転と逆転とを繰り返させたりしてもよい。可塑化計量中は、通常、スクリュー34は正転し続ける。正転するスクリュー34により、溶融樹脂はスクリュー34の前方に送りだされ、先端部の樹脂内圧が上昇する。このように通常の可塑化計量では、スクリュー34の正転時間が限られているため、高圧二酸化炭素を供給できる時間も、その時間内に限定されてしまう。金属錯体などを未飽和濃度とした場合、時間が不足する自体が発生する場合がある。
そのため、その時間制限を回避して、その時間内で供給可能な量より多い量の二酸化炭素の供給を可能とするためには、可塑化計量中にスクリュー34を停止したり、可塑化計量中にスクリュー34を正転および逆転により小刻みに回転したりするとよい。スクリュー34を停止したり反転動作させたりした場合、可塑化計量中の樹脂の内圧が変動することになるが、高圧二酸化炭素および溶解材料を溶融樹脂に好適に混錬できる。また、混練時間が長くなることにより、より多くの二酸化炭素が排気でき、さらに多くの高圧二酸化炭素の供給が可能となる。そして、本実施例では、可塑化計量が完了する前にスクリュー34を停止し、スクリュー34を正転および逆転しながら、TEOSを未飽和濃度で溶解した高圧二酸化炭素の残供給量を供給し、樹脂内で二酸化炭素が分離しないように排気した。
また、本実施例では、加熱シリンダ34から金型30,33への射出直前に、抽出部203の自動バルブ40を開放した。これにより、キャビティ29、29’内の空気などは、配管3103、逆止弁41’、フィルター41”およびバッファー容器42を経て、真空ポンプ15により吸引され、真空排気される。
その後、実施例1と同様に、2つの加熱シリンダ10,18から金型30,33へ順番に溶融樹脂を射出し、これにより成形品を得た。本実施例の成形品では、低分子である金属錯体およびフッソ化合物は、より多くのものがブリードアウトして、成形品の表面および表面近傍の内部に偏析した。メッキの触媒核(金属錯体、金属微粒子)は、成形品の表皮部に集中した。また、二酸化珪素およびその前駆体が成形品の表皮部に分散されているため、成形品の硬度が上がり、且つ、濡れ性が改善した。
実施例2の成形品に対して、実施例1と同様に、高圧二酸化炭素の雰囲気にて無電解メッキを施し、次いで電解メッキによる金属膜を形成した。実施例1と同様に耐候試験を行ったところ、メッキの密着性が十分に高いことがわかった。また、垂直引っ張り試験(JISH8630)にて平坦部のメッキ膜の密着強度を測定したところ、13〜18N/cmとなり、実施例1よりも高い密着強度が得られた。これは、実施例2の成形品では表面濡れ性が向上し、金属との密着性が向上したためであると考えられる。