JP5600993B2 - ポリカーボネートジオールジアクリレート化合物の製造方法 - Google Patents

ポリカーボネートジオールジアクリレート化合物の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、ポリカーボネートジオールジアクリレート化合物の製造方法に関する。
ポリカーボネートジオールジアクリレート化合物は、インキ、塗料、コーティング材料、接着剤、光硬化性樹脂、架橋剤、電解質材料、その他の樹脂等の原料として有用な化合物である。例えば、特許文献1には、ポリカーボネートジオールジアクリレートを用いたフィルム状光導波路が開示されている。
ポリカーボネートジオールジアクリレート化合物を製造する方法としては、ポリカーボネートジオールとアクリル酸をp−トルエンスルホン酸等のプロトン酸触媒の存在下で反応させる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、この方法では、得られるポリカーボネートジオールジアクリレート化合物が茶色に着色するという製品の品質に係る大きな問題があった。更に、この方法では、原料のアクリル酸を過剰に用いるため、合成後、それらを中和して水洗することにより除去しても、得られる生成物中に、酸性触媒、原料に起因する硫黄分、不純物が残存し、品質の悪化(悪臭、金属腐食)が起こりやすいという課題がある。
また、ポリカーボネートジオールとアクリル酸エステル化合物を、有機金属触媒存在下、生成するアルコールを抜き出しながら反応させることによるポリカーボネートジオールジアクリレート化合物の製造方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。しかし、有機金属触媒由来の金属成分の残留は、品質の悪化を起こすため、触媒成分の分解、回収工程が必要となる。
酸触媒や金属成分を用いず、比較的低温にて、遊離水酸基をアクリレート化する手法として、リパーゼを酵素触媒に用いた手法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、ポリカーボネートジオールを基質としてリパーゼを用いてアクリレート化した例は、全く知られていない。
特開2009−157125号公報 特開2002−25335号公報 特開2001−151730号公報
Industrial Biotechnology 5巻,110項(2009年)
本発明の目的は、従来技術における上記のような課題を解決することにある。具体的には、プロトン酸や金属成分を用いず、ポリカーボネートジオールとアクリル酸エステル化合物から、ポリカーボネートジオールジアクリレート化合物を製造する方法を提供することにある。ここで、ポリカーボネートジオールジアクリレート化合物は、ポリカーボネートジオールの末端水酸基がアクリル酸エステル化合物でアクリレート化された化合物をいうこととする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、リパーゼ存在下、ポリカーボネートジオールとアクリル酸エステル化合物とのエステル交換反応によりポリカーボネートジオールジアクリレート化合物を製造することからなる、新規な工業的製造プロセスを見出し、本発明に至った。
本発明は、式(I):
(式中、
は、同一又は異なっており、直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキレン基の1つ以上で構成された2価基であり、該2価基は、置換基を有していてもよく、かつ/又は非末端の1つ以上の炭素原子が2価の芳香族基、2価のヘテロ環式基、酸素原子若しくは硫黄原子で置き換えられていてもよいか、あるいは、架橋炭素環の2価の基であり、
nは、平均重合度を表し、1〜50の数である)
で表されるポリカーボネートジオールと、式(II):
(式中、
は、水素原子又は炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、
は、炭素原子数1〜12の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基、炭素原子数7〜10のアラルキル基又は炭素原子数6〜10のアリール基である)
アクリル酸エステル化合物を、リパーゼ存在下、反応させることを特徴とするポリカーボネートジオールジアクリレート化合物の製造方法に関する。
本発明は、式(II)におけるRが、炭素原子数1〜10の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基である、上記のポリカーボネートジオールジアクリレート化合物の製造方法に関する。
本発明は、リパーゼが、バルクホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)を起源とするリパーゼ、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)を起源とするリパーゼ、カンジダ・シリンドラセア (Candida cylindracea)を起源とするリパーゼ、アルカリジェネス・エスピー(Alcaligenes sp.)を起源とするリパーゼから選択される、上記のいずれかのポリカーボネートジオールジアクリレート化合物の製造方法に関する。
本発明は、リパーゼが、バルクホルデリア・セパシア(シュードモナス・セパシア)(Burkholderia cepacia)を起源とするリパーゼである、上記のポリカーボネートジオールジアクリレート化合物の製造方法に関する。
本発明により、リパーゼを触媒とすることによって、プロトン酸や金属成分を用いず、ポリカーボネートジオールとアクリル酸エステル化合物から、ポリカーボネートジオールジアクリレート化合物を製造できる。
本発明の方法では、リパーゼの存在下、ポリカーボネートジオールとアクリル酸エステル化合物とを反応させることにより、ポリカーボネートジオールジアクリレート化合物が得られる。
(ポリカーボネートジオール)
本発明で使用されるポリカーボネートジオールは、式(I):
(式中、
は、同一又は異なっており、直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキレン基の1つ以上で構成された2価基であり、該2価基は、置換基を有していてもよく、かつ/又は非末端の1つ以上の炭素原子が2価の芳香族基、2価のヘテロ環式基、酸素原子若しくは硫黄原子で置き換えられていてもよいか、あるいは、架橋炭素環の2価の基であり、
nは、平均重合度を表し、1〜50の数である)で表される。
直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキレン基の1つ以上で構成された2価基としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基−環状のアルキレン基からなる2価基、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基−環状のアルキレン基−直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基からなる2価基、環状のアルキレン基−直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基−環状のアルキレンからなる2価基が挙げられる。
直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基の炭素原子数は、好ましくは1〜25個であり、より好ましくは、3〜12個であり、例えば、プロピレン基、ブチレン基、ペンテン基、ヘキセン基、ヘプテン基、オクテン基、デセン基等が挙げられ、好ましくはプロピレン基、ブチレン基、ペンテン基、ヘキセン基、3−メチルペンテン基である。
環状のアルキレン基の炭素原子数は、好ましくは3〜25個であり、より好ましくは3〜12個、さらに好ましくは5〜10個である。環状のアルキレン基としては、炭素原子数3〜12個のシクロアルキレンが好ましく、例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基等が挙げられ、好ましくはシクロへキシレン基である。
前記直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基−環状のアルキレン基−直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基からなる2価基としては、例えば、シクロペンタン−1,3−ジメチレン基、シクロヘキサン−1,4−ジメチレン基等が挙げられ、好ましくはシクロヘキサン−1,4−ジメチレン基である。
上記の2価基は、置換基を有していてもよく、かつ/又は非末端の1つ以上の炭素原子が2価の芳香族基(例えば、フェニレン基、ナフチレン基)、2価のヘテロ環式基(例えば、ピリダニル基)、酸素原子若しくは硫黄原子で置き換えられていてもよい(例えば、ベンゼン−1,4−ジメチレン基)。
置換基としては、炭素原子数1〜6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基)、炭素原子数3〜12のシクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基)、炭素原子数7〜10のアラルキル基(例えば、ベンジル基)、炭素原子数6〜12のアリール基(例えば、フェニル基、トリル基)、炭素原子数1〜6のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子)が挙げられる。
は、架橋炭素環の2価の基であってもよい。ここで、「架橋炭素環」とは、隣り合わない2つの炭素が架橋基又は直接結合によって架橋された炭素環を指す。架橋炭素環の2価基としては、炭素原子数6〜10の架橋炭素環の2価基が好ましく、例えば、ビシクロ−[2.1.1]−ヘキサン−ジイル、ビシクロ−[2.2.1]−ヘプタン−ジイル、ビシクロ−[2.2.2]−オクタン−ジイル、ビシクロ−[3.3.0]−オクタン−ジイル、ビシクロ−[4.3.0]−ノナン−ジイル、ビシクロ−[4.4.0]−オクタン−ジイル、アダマンタン−ジイルが挙げられる。
は、好ましくは、プロピレン基、ブチレン基、ペンテン基、ヘキセン基、3−メチルペンテン基、シクロヘキサン−1,4−ジメチレン基、ベンゼン−1,4−ジメチレン基から選ばれる1種以上である。
式(I)において、nは、平均重合度を表し、1〜50の数であり、好ましくは3〜20である。平均重合度は、NMRによる末端基定量によって測定することができる。
式(I)のポリカーボネートジオールは、どのような方法で製造されたものでもあってもよい。例えば、式(I)のRに相当する基を有する2価アルコール(HO−R−OH)と炭酸エステル(例えば、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジブチル、炭酸ジフェニル)とのエステル交換反応により製造されたポリカーボネートジオールや、上記の2価アルコールとクロロギ酸エステル又はホスゲンとの反応により製造したポリカーボネートジオールを使用することができる。2価アルコールとしては、例えば、炭素原子数4〜25(好ましくは炭素原子数4〜15)のアルキレン基を有する脂肪族2価アルコールが挙げられる。あるいは、環状炭酸エステルの開環重合等により製造されたポリカーボネートジオールを使用することができる。環状炭酸エステルとしては、例えば、炭素原子数2〜25(好ましくは炭素原子数2〜15)のアルキレン基を有する環状炭酸エステルが挙げられる。
中でも、炭素原子数4〜25(好ましくは炭素原子数4〜15)のアルキレン基を有する脂肪族2価アルコールと炭酸エステルとのエステル交換反応によって製造されたポリカーボネートジオールが好ましい。このような脂肪族2価アルコールとしては、Rが直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数4〜15のアルキレン基に相当する2価アルコールが挙げられ、具体的には、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール等のトリメチレン部分を有するものや、1,4−ブタンジオール等のテトラメチレン部分を有するものや、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール等のペンタメチレン部分を有するものや、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール等のヘキサメチレン部分を有するものや、1,7−ヘプタンジオール等のヘプタメチレン部分を有するものや、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオールのオクタメチレン部分を有するものや、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,20−エイコサンジオールが挙げられる。また、Rが炭素原子数4〜15のシクロアルキレン基に相当する2価アルコールが挙げられ、具体的には、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、シクロヘキサン−1,4−ジエタノールである。また、Rがシクロアルキレン−直鎖状又は分岐鎖状アルキレン−シクロアルキレンに相当する2価アルコールである2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等も使用することができる。
ただし、上記以外の2価アルコールも使用することができ、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のRが酸素原子で置き換えられているアルキレン基であるものや、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン等のRが酸素原子で置き換えられている、直鎖状又は分岐鎖状アルキレン−シクロアルキレン−直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基であるものや、2,5−テトラヒドロフランジメタノール等の、Rが直鎖状又は分岐鎖状アルキレン−酸素原子で置き換えられているシクロアルキレン−直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基であるものも使用することができる。加えて、架橋炭素環の2価アルコールである2,7−ノルボルナンジオール等も使用することができる。
更に、p−キシリレンジオール、p−テトラクロロキシリレンジオール、ベンゼン−1,4−ジメタノール等の、Rが非置換か又はハロゲン原子で置換されている、2価の芳香族基で置き換えられたアルキレン基であるものも使用することができる。また、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2−ビス[(4−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン等の、Rが1つ以上の酸素原子及び1つ以上の2価の芳香族基で置き換えられたアルキレン基であるものも使用することができる。Rが2価の芳香族基を有する2価アルコールは、2価アルコール全体に対して25重量%以下であることが好ましく、好ましくは20重量%以下、更に好ましくは15重量%以下である。
本発明で使用されるポリカーボネートジオールにおいて、Rは同一であっても異なっていてもよい。即ち、ポリカーボネートジオールを、2価アルコールと炭酸エステルとのエステル交換反応や、2価アルコールとクロロギ酸エステル又はホスゲンとの反応で得る場合、2価アルコールは、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。また、ポリカーボネートジオールを環状炭酸エステルの開環重合で得る場合、環状炭酸エステルは、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
式(I)のポリカーボネートジオールは、取り扱い性が良い点から、好ましくはRがプロピレン基、ブチレン基、ペンテン基、ヘキセン基、3−メチルペンテン基、シクロヘキサン−1,4−ジメチレン基、ベンゼン−1,4−ジメチレン基から選ばれる1種以上であるポリカーボネートジオールである。式(I)のポリカーボネートジオールは、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
(アクリル酸エステル化合物)
本発明で使用されるアクリル酸エステル化合物は、式(II):
(式中、
は、水素原子又は炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、
は、炭素原子数1〜12の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基、炭素原子数7〜10のアラルキル基または炭素原子数6〜10のアリール基である)
で表されるアクリル酸エステル化合物である。
に関して、炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキル基については、メチル基、エチル基が挙げられる。
に関して、炭素原子数1〜12の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基については、炭素原子数1〜10の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基が好ましい。本発明の反応により、アルコール(ROH)が副生するが、メタノール等の低級アルコールほど、リパーゼを失活させやすいが、副生するアルコールを系外に除去することにより、この問題を回避することができる。Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
に関して、炭素原子数7〜10のアラルキル基については、ベンジル基、フェネチル基が挙げられる。また、Rに関して、炭素原子数6〜10のアリール基については、フェニル基、トリル基が挙げられる。
式(II)のアクリル酸アルキルエステル化合物としては、例えば、アクリル酸メチルや、メタクリル酸n−ブチル等のアクリル酸直鎖アルキルエステルや、アクリル酸イソプロピルや、メタクリル酸シクロへキシル等のアクリル酸分岐鎖状又は環式アルキルエステル等が挙げられる。この中では、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチルが好ましい。
式(II)のアクリル酸アルキルエステル化合物の使用量は、ポリカーボネートジオール1モルに対して0.5〜60モル、更には2.2〜30モルであることが好ましい。なお、ポリカーボネートジオールのモル数は、NMR(末端水酸基価)より求めた平均分子量より計算される(例えば、高分子実験学 18巻(高分子の磁気共鳴)283頁、共立出版(1975年刊)参照)。
(リパーゼの範囲)
本発明で使用するリパーゼとしては、特に限定されないが、好ましくは、バルクホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)を起源とするリパーゼ(例えば、Amano PS(アマノエンザイム社製)等)、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)を起源とするリパーゼ(例えば、LIP-301(東洋紡製))、カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)を起源とするリパーゼ(例えば、Lipase OF(名糖産業製))、アルカリジェネス・エスピー (Alcaligenes sp.)を起源とするリパーゼ(例えば、Lipase PLG(名糖産業製))。特に好ましくはバルクホルデリア・セパシア(シュードモナス・セパシア)(Burkholderia cepacia)を起源とするリパーゼである。これらは、アルコール−カーボネート交換活性が低く、その一方で、アルコール−エステル活性を示すリパーゼであり、本発明において有利である。前記リパーゼの中でも、ポリカーボネート鎖の重合度の低下が少ない点から、バルクホルデリア・セパシア(シュードモナス・セパシア)(Burkholderia cepacia)を起源とするリパーゼ(例えば、Amano PS(天野エンザイム製)やAmano PS-CI(アマノPS/セラミック担体吸着、天野エンザイム製))がより好ましい。
カンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica)を起源とするリパーゼ(例えば、Novozyme435(Novozyme社製))、シュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)を起源とするリパーゼ(例えば、Amano AK(アマノエンザイム社製)等も、アルコールーエステル交換活性を示し、使用することができるが、アルコールーカーボネート交換活性が高いため、アルコキシ末端が生成しやすい。そのため、副生するアルコールを、適宜、系外に除去することが好ましい。
アルコール−カーボネート交換活性は、n−ブタノールとジメチルカーボネート(DMC)を、所定のリパーゼの存在下で、一定時間反応させ、転化率(n−ブタノール基準)を測定することより評価することができる。アルコール−エステル交換活性は、n−ブタノールとアクリル酸エチルを、所定のリパーゼの存在下で、一定時間反応させ、転化率(n−ブタノール基準)を測定することより評価することができる。一定時間(例えば24時間)反応させた際の、アルコール−カーボネート交換反応の転化率/アルコール−エステル交換反応の転化率が、0.1以下であることが好ましく、より好ましくは0.01以下である。
上記のリパーゼは、上記のような微生物から得られたリパーゼをコードする遺伝子を、酵母や糸状菌のような適切な宿主に導入して得られた組換え体の培養物から得たものであってもよい。
リパーゼの組換え発現のために使用される組換えDNA技術は、当該分野において公知である。リパーゼのアミノ酸配列は上記のものに限定されず、例えば、これらの配列において、1個又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ加水分解活性を有するタンパク質を本発明に好適に使用することができる。あるいは、これらの配列と、例えば90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列からなり、かつ加水分解活性を有するタンパク質を本発明に好適に使用することができる。
これらのリパーゼの形態は、特に限定されず、天然又は固定化酵素の形態であってもよい。
固定化酵素は、固定化担体にリパーゼを吸着等により担持させたものをいう。固定化担体としては、セライト、ケイソウ土、カオリナイト、シリカゲル、モレキュラーシーブス、多孔質ガラス、活性炭、炭酸カルシウム、セラミックス等の無機担体、セラミックスパウダー、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、キトサン、イオン交換樹脂、疎水吸着樹脂、キレート樹脂、合成吸着樹脂等の有機高分子等が挙げられるが、特にリパーゼの吸着力が高い点から疎水吸着樹脂が好ましい。また、疎水吸着樹脂の中でも、大きな表面積を有することにより酵素の吸着量を高くできるという点から、多孔質であることが好ましい。
リパーゼは、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
リパーゼの使用量は、式(I)のポリカーボネートジオール1gに対して、好ましくは0.001〜10g、より好ましくは、0.001〜1g、特に好ましくは0.005〜0.1gである。
本発明において、反応方式は、特に限定されず、バッチ方式又は酵素を固定化したカラムを通過させる流通連続式をはじめとする、いかなる方式でも行なうことができる。
(溶媒の範囲)
本発明の反応は、有機溶媒を使用して、又は無溶媒で行なうことができる。有機溶媒としては、基質を溶解でき、かつ、リパーゼを失活させない溶媒であれば特に限定されない。
有機溶媒としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン及びシクロヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン及び1,4−ジオキサン等のエーテル類;アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類から選ばれる少なくとも1種が挙げられるが、好ましくはn−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、トルエン、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル又はテトラヒドロフラン、より好ましくは、n−ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、及びアセトニトリル、特に好ましくはシクロヘキサン、トルエン、t−ブチルメチルエーテルである。これらの有機溶媒は、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
有機溶媒の使用量は、式(I)のポリカーボネートジオール1gに対して、好ましくは0.1〜100mL、より好ましくは、0.5〜50mL、特に好ましくは1〜10mLである。
本発明の反応は、アクリレート部位の重合を防ぐため、重合禁止剤を共存させて行うことが好ましい。重合禁止剤は通常に使用されるものであれば特に限定されず、例えば、フェノール、クレゾール、ヒドロキノン、t−ブチルヒドロキノン、p−メトキシフェノール(メトキノン)、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、フェノチアジンなどが使用できる。重合禁止剤の使用量は、ポリカーボネートジオール1モルに対して0.000001〜0.05モル、更には0.000002〜0.03モルであることが好ましい。
(反応温度、圧力範囲)
本発明の方法は、可逆反応であり、化学平衡を生成物側へ移動させることで、反応が速やかに進行する。それゆえ、副生するアルコールを除去する操作を行いながら反応を行なうことが好ましい。
例えば、式(II)のアクリル酸エステル化合物において、Rがメチル基又はエチル基の化合物は、副生するアルコールの沸点は、原料の式(II)のアクリル酸エステル化合物の沸点よりも低くなる。反応の際には、反応温度及び/又は減圧度を適宜調整することにより、副生するアルコールを選択的に反応系外に除去することが好ましい。その結果、反応の平衡が生成系へと移動することで、反応が速やかに進行することが可能となり、より短い反応時間で、より高い末端修飾率のポリカーボネートジオールジアクリレート化合物を得ることができる。このような蒸留によるアルコールの除去法以外に、ゼオライト膜のような分子ふるいを反応物と接触させ、副生するアルコールのみを選択的に除去することでも、反応が速やかに進行することが可能となる。副生するアルコール(特にメタノール)は、リパーゼを失活する原因にもなりうるため、この点からも、系外に除去することが好ましい。
(反応温度、圧力範囲)
本発明において、反応温度は、0〜100℃とすることができ、好ましくは10〜90℃であり、より好ましくは40〜80℃である。
本発明において、反応圧力は、特に限定されず、常圧下又は減圧下のいずれの条件でも行なうことができる。
また、本発明の反応は、流通連続式で行うこともできる。流通連続式にて反応を行う場合、反応溶液中のポリカーボネートジオール化合物の濃度は、反応系の全質量に対して、10〜50質量%とすることが好ましく、アクリル酸エステル化合物の濃度は反応系の全重量に対して5〜30質量%とすることが好ましい。また、反応液の通液線速度は、好ましくは0.5〜400mm/分、更に1〜200mm/分であるのが好ましい。この通液線速度(mm/分)は、1分間当りの送液量(mm3/分)(又は送液速度(10-3mL/分)ともいう)を充填層断面積(mm2)で除した商で表わされる値をいう。通液線速度を上げることによる充填塔内圧力の増大に伴い、通液が困難となり、耐圧性の高い酵素充填塔が必要となる他に、固定化酵素が塔内圧力増加により破砕される場合が生じることもあるため、通液線速度は400mm/分以下とすることが好ましい。また、生産性の点から通液線速度は1mm/分以上とすることが好ましい。固定化酵素の発現活性は、通液線速度により変化するため、最適な通液線速度を選定して反応条件を決定することで、所望の生産能力、製造コストに見合った反応を行うことができる。反応容器中の反応溶液の流通時間は、30秒〜6時間の範囲とすることができる。
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
参考例:リパーゼのアルコール−カーボネート交換活性及びアルコール−エステル交換活性の評価
種々リパーゼを用いて、アルコール−カーボネート交換活性及びアルコール−エステル交換活性を評価した。
カーボネート交換活性評価の基質として、n−ブタノールとジメチルカーボネート(DMC)、エステル交換活性評価の基質としては、n−ブタノールとアクリル酸エチルを用いた。交換活性は、一定時間後の転化率(n−ブタノール基準)にて評価した。具体的には、以下のとおりである。
n−ブタノール25mgに6当量のDMC(380mg)又はアクリル酸エチル(404mg)を加え、トルエンにて2mlに定容したものを反応液とした。試験管に反応液2mlと(固定化)リパーゼ20mgを加え、70℃で反応した。規定時間ごとに反応液を0.1ml分取し、ガスクロマトグラフィーにて、n−ブタノール量を定量し、テトラデカンを内標物質とした内部標準法にて転化率を算出した。表1に結果を示す。また、アルコール−カーボネート交換反応の転化率/アルコール−エステル交換反応の転化率(24時間)を表2に示す。
ガスクロマトグラフィーの測定条件
装置:島津GC−1700(昇温型)
カラム:DB−5(30m、0.25mmID)
カラム温度:60℃(2分間)、150℃から200℃に昇温(10℃/分)及び200℃(2分間)
Inj(注入部):200
Det.(検出部):280、FID(検出器)
スプリット比: 1:10
評価リパーゼ
名称 由来
Novozyme 435 (Candida antarctica由来リパーゼ)Novozyme社製
Lipozyme RM IM (Rhizomucor miehei由来リパーゼ)Novozyme社製
LIP-301 (Pseudomonas sp.由来リパーゼ)東洋紡製
Amano PS (Burkhoderia cepacia由来リパーゼ)天野エンザイム製
Amano PS-CI アマノPS/セラミック担体吸着、天野エンザイム製
Amano AK (Pseudomonas fluorescens由来リパーゼ)天野エンザイム製
Lipase OF (Candida cylindracea由来リパーゼ)名糖産業製
Lipase SL (Burkholderia cepacia由来リパーゼ)名糖産業製
Lipase PLG (Alcaligenes sp. 由来リパーゼ)名糖産業製
以上から、アルコール-カーボネート交換活性が非常に低く、アルコール-カーボネート交換反応を触媒できるリパーゼとして、Amano PS、Amano PS-CI、LIP-301、Lipase OF、Lipase SL、Lipase PLGが好ましいことがわかる。
実施例1〜6 ポリカーボネートジオール(UH200)のアクリレート化
ポリカーボネートジオール(UH200(ポリ(ヘキサメチレンカーボネート))ジオール:平均分子量2000:宇部興産製1.0g(0.5mmol)にアクリル酸エステル5mmolと、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール1mgを加え、そこにトルエンを加えて10mlにメスアップしたものを反応液とした。
ガラス試験管に反応液2mlと、表3に示すリパーゼ20mgを加え、攪拌下(1000rpm)、70℃にて、規定時間反応させた。
反応終了後、反応液を0.2μmフィルターでろ過し、ろ液をロータリーエバポレーターにて、溶媒を減圧留去した後、残渣を60℃デシケーター中、2時間、減圧下で乾燥させ、NMR分析に供した。結果を表3に示す。
リパーゼには、カンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica)を起源とするリパーゼを樹脂多孔体に固定化したNovozym 435(ノボザイム社製)及びバルクホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)を起源とするリパーゼを多孔性セラミック担体に吸着したAmano PS-CI(アマノエンザイム社製)を用いた。
ポリカーボネートジオール及びポリカーボネートジオールジアクリレート化合物の平均分子量は、NMR測定により算出した。更に平均分子量から重合度を算出した。また、NMR測定により、ポリカーボネートジオールの末端水酸基がアクリレート化された割合を算出した。
実施例6のいずれについてもポリカーボネートジオールジアクリレート化合物の生成が認められたが、アルコール−カーボネート交換活性の高いNovozyme435を用いた場合、重合度の低下と、副生したアルコールが主鎖カーボネートと交換したアルコキシ末端(メトキシ末端又はイソプロポキシ末端等)が認められた。
一方、アルコール−カーボネート交換活性の低いAmanoPS-CIをを用いた場合、重合度が低下せず、アルコキシ末端も認められなかった。
本発明により、プロトン酸や金属成分を用いず、リパーゼを用いて、ポリカーボネートジオールとアクリル酸エステル化合物から、ポリカーボネートジオールジアクリレート化合物を製造できる。即ち、本発明により、入手しやすい原料を使用して、高品質のポリカーボネートジオールジアクリレート化合物を容易に製造することができる。

Claims (3)

  1. 式(I):

    (式中、
    は、同一又は異なっており、直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキレン基の1つ以上で構成された2価基であり、該2価基は、置換基を有していてもよく、かつ/又は非末端の1つ以上の炭素原子が2価の芳香族基、2価のヘテロ環式基、酸素原子若しくは硫黄原子で置き換えられていてもよいか、あるいは、架橋炭素環の2価の基であり、
    nは、平均重合度を表し、1〜50の数である)
    で表されるポリカーボネートジオールと、式(II):

    (式中、
    は、水素原子又は炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、
    は、炭素原子数1〜12の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基、炭素原子数7〜10のアラルキル基又は炭素原子数6〜10のアリール基である)
    で表されるアクリル酸エステル化合物を、バルクホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)を起源とするリパーゼ、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)を起源とするリパーゼ、カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)を起源とするリパーゼ、アルカリジェネス・エスピー (Alcaligenes sp.)を起源とするリパーゼから選択されるリパーゼ存在下、反応させることを特徴とするポリカーボネートジオールジアクリレート化合物の製造方法。
  2. 式(II)におけるRが、炭素原子数1〜10の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基である、請求項1記載のポリカーボネートジオールジアクリレート化合物の製造方法。
  3. リパーゼが、バルクホルデリア・セパシア(シュードモナス・セパシア)(Burkholderia cepacia)を起源とするリパーゼである、請求項1又は2記載のポリカーボネートジオールジアクリレート化合物の製造方法。
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